(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180149
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】光学フィルム、光学フィルムの製造方法、及び位相差フィルム用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 65/00 20060101AFI20231213BHJP
C08L 45/00 20060101ALI20231213BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20231213BHJP
C08K 5/156 20060101ALI20231213BHJP
C08K 5/3477 20060101ALI20231213BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231213BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C08L65/00
C08L45/00
C08K5/13
C08K5/156
C08K5/3477
C08J5/18 CER
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093293
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】島田 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】津村 学
(72)【発明者】
【氏名】関口 泰広
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 暁彦
【テーマコード(参考)】
2H149
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
2H149AA02
2H149AA18
2H149AA19
2H149AB13
2H149AB15
2H149AB18
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2H149FA05Y
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4F071AA39
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4J002BK00W
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4J002CE00X
4J002EJ038
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4J002FD066
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4J002FD068
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4J002FD170
4J002FD206
4J002FD207
4J002FD208
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】好適な温度で加工できるようにガラス転移温度が所望の範囲に調整され、耐ブリードアウト性、ソルベントクラック耐性、及び熱安定性のバランスに優れる光学フィルム、該光学フィルムの製造方法、及び位相差フィルム用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】シクロオレフィン樹脂(A)及び添加剤(B)を含有する光学フィルムであって、
前記シクロオレフィン樹脂(A)が、重量平均分子量が100,000以上であるシクロオレフィン樹脂(A1)を含有し、
温度25℃において、ヘキサン10mlに対する前記添加剤(B)の溶解度が、100mg/10ml以下であり、
前記添加剤(B)が、2個以上のフェノール構造を含む化合物(B-a)を含有し、
前記添加剤(B)の含有量が、前記シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して14重量部以下であり、
ガラス転移温度が154℃未満である、光学フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィン樹脂(A)及び添加剤(B)を含有する光学フィルムであって、
前記シクロオレフィン樹脂(A)が、重量平均分子量が100,000以上であるシクロオレフィン樹脂(A1)を含有し、
温度25℃において、ヘキサン10mlに対する前記添加剤(B)の溶解度が、100mg/10ml以下であり、
前記添加剤(B)が、2個以上のフェノール構造を含む化合物(B-a)を含有し、
前記添加剤(B)の含有量が、前記シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して14重量部以下であり、
ガラス転移温度が154℃未満である、光学フィルム。
【請求項2】
前記シクロオレフィン樹脂(A)が、重量平均分子量が80,000以下であるシクロオレフィン樹脂(A2)を含有する、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記化合物(B-a)の分子量が550以上である、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記化合物(B-a)が、下記スピロ化合物誘導体(B-a-1)、下記イソシアヌル酸誘導体(B-a-2)、及び下記ベンゼン誘導体(B-a-3)からなる群より選択される化合物である、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
スピロ化合物誘導体(B-a-1):2個の環状アセタール骨格が連結することにより形成されたスピロ環骨格を有するスピロ化合物誘導体、
イソシアヌル酸誘導体(B-a-2):イソシアヌル酸の3個の水素原子が、ベンゼン環上に置換基を有するベンジル基で置換された構造を有し、前記ベンゼン環上に1個のヒドロキシ基を有するフェノール構造を2個又は3個有するイソシアヌル酸誘導体、
ベンゼン誘導体(B-a-3):ベンゼンの3個の水素原子が、ベンゼン環上に置換基を有するベンジル基で置換された構造を有し、前記ベンジル基が有する前記ベンゼン環上に1個のヒドロキシ基を有するフェノール構造を2個又は3個有するベンゼン誘導体。
【請求項5】
前記スピロ化合物誘導体(B-a-1)が、下記一般式(B-I)で表される化合物である、請求項4に記載の光学フィルム。
【化1】
(式(B-I)中、R
1及びR
2は、-C(CH
3)
2-CH
2―O-C(=O)―CH
2―CH
2―Yで表される基であり、Yは、ヒドロキシ基を有し、かつヒドロキシ基以外の他の置換基を任意で有するフェニル基である。)
【請求項6】
前記スピロ化合物誘導体(B-a-1)が、2,2’-ジメチル-2,2’-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン-3,9-ジイル)ジプロパン-1,1-ジイル=ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロパノアート]である、請求項5に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記添加剤(B)の含有量が、前記シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して0.5重量部以上である、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項8】
前記シクロオレフィン樹脂(A1)と前記シクロオレフィン樹脂(A2)の含有量が、重量比で、シクロオレフィン樹脂(A1)/シクロオレフィン樹脂(A2)=80/20~60/40である、請求項2に記載の光学フィルム。
【請求項9】
ガラス転移温度が120℃以上である、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項10】
前記光学フィルムの1%重量減少温度が300℃以上である、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の光学フィルムにより形成される、位相差フィルム。
【請求項12】
請求項1に記載の光学フィルムの製造方法であって、シクロオレフィン樹脂(A)、添加剤(B)、及び溶媒(S)を含む樹脂組成物を支持体上に流延する工程、溶媒(S)を蒸発させる工程、及び形成された未延伸フィルムを剥離する工程を含み、
前記シクロオレフィン樹脂(A)が、重量平均分子量が100,000以上であるシクロオレフィン樹脂(A1)を含有し、
温度25℃において、ヘキサン10mlに対する前記添加剤(B)の溶解度が、100mg/10ml以下であり、
前記添加剤(B)の含有量が、前記シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して14重量部以下である、光学フィルムの製造方法。
【請求項13】
シクロオレフィン樹脂(A)及び添加剤(B)を含有する位相差フィルム用樹脂組成物であって、
前記シクロオレフィン樹脂(A)が、重量平均分子量が100,000以上であるシクロオレフィン樹脂(A1)を含有し、
温度25℃において、ヘキサン10mlに対する前記添加剤(B)の溶解度が、100mg/10ml以下であり、
前記添加剤(B)が、2個以上のフェノール構造を含む化合物(B-a)を含有し、
前記添加剤(B)の含有量が、前記シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して14重量部以下であり、
ガラス転移温度が154℃未満である位相差フィルムを与える、位相差フィルム用樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、光学フィルムの製造方法、及び位相差フィルム用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロオレフィン樹脂は、透明性、光学特性、機械的特性等に優れている。そのため、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル、有機EL表示装置のような画像表示装置に組み込まれる光学フィルムへのシクロオレフィン樹脂の応用が進められている(例えば、特許文献1~3を参照。)。
【0003】
近年、画像表示装置の高性能化が進み、それに伴って、画像表示装置を構成する光学フィルムにおいても、各種の物性を向上させる要求が強くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/181756号
【特許文献2】国際公開第2016/163213号
【特許文献3】特開2016-074776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者らの検討によれば、シクロオレフィン樹脂を含有する光学フィルムには、ソルベントクラック耐性が十分でないものがあり、この問題を解決するには高分子量のシクロオレフィン樹脂を用いることが有効であるとの知見を得た。しかしながら、高分子量のシクロオレフィン樹脂を用いた場合、強靭であるが故に成形性に乏しく、また、加工温度が高くなる傾向にあり、酸化劣化による着色や黄変しやすくなるという問題が新たに生じた。そこで、添加剤を配合することにより、ソルベントクラック耐性を維持しつつ、加工温度を下げ得ることが分かったが、添加剤の配合量が多くなると、ブリードアウトが生じやすくなり、加工温度が下がりすぎたり、また、重量減少温度が低下して、熱安定性が低下することも明らかとなった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、好適な温度で加工できるようにガラス転移温度が所望の範囲に調整され、耐ブリードアウト性、ソルベントクラック耐性、及び熱安定性のバランスに優れる光学フィルム、該光学フィルムの製造方法、及び位相差フィルム用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、高分子量のシクロオレフィン樹脂を含有する光学フィルムにおいて、ヘキサンに対する溶解度が低い特定の添加剤を配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の態様は、高分子量のシクロオレフィン樹脂(A)と、特定の添加剤(B)を含有する以下の光学フィルム、光学フィルムの製造方法、及び位相差フィルム用樹脂組成物に関する。
【0009】
[1] シクロオレフィン樹脂(A)及び添加剤(B)を含有する光学フィルムであって、
前記シクロオレフィン樹脂(A)が、重量平均分子量が100,000以上であるシクロオレフィン樹脂(A1)を含有し、
温度25℃において、ヘキサン10mlに対する前記添加剤(B)の溶解度が、100mg/10ml以下であり、
前記添加剤(B)が、2個以上のフェノール構造を含む化合物(B-a)を含有し、
前記添加剤(B)の含有量が、前記シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して14重量部以下であり、
ガラス転移温度が154℃未満である、光学フィルム。
【0010】
[2] 前記シクロオレフィン樹脂(A)が、重量平均分子量が80,000以下であるシクロオレフィン樹脂(A2)を含有する、[1]に記載の光学フィルム。
[3] 前記化合物(B-a)の分子量が550以上である、[1]又は[2]に記載の光学フィルム。
[4] 前記化合物(B-a)が、下記スピロ化合物誘導体(B-a-1)、下記イソシアヌル酸誘導体(B-a-2)、及び下記ベンゼン誘導体(B-a-3)からなる群より選択される化合物である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の光学フィルム。
スピロ化合物誘導体(B-a-1):2個の環状アセタール骨格が連結することにより形成されたスピロ環骨格を有するスピロ化合物誘導体、
イソシアヌル酸誘導体(B-a-2):イソシアヌル酸の3個の水素原子が、ベンゼン環上に置換基を有するベンジル基で置換された構造を有し、前記ベンゼン環上に1個のヒドロキシ基を有するフェノール構造を2個又は3個有するイソシアヌル酸誘導体、
ベンゼン誘導体(B-a-3):ベンゼンの3個の水素原子が、ベンゼン環上に置換基を有するベンジル基で置換された構造を有し、前記ベンジル基が有する前記ベンゼン環上に1個のヒドロキシ基を有するフェノール構造を2個又は3個有するベンゼン誘導体。
【0011】
[5] 前記スピロ化合物誘導体(B-a-1)が、下記一般式(B-I)で表される化合物である、[4]に記載の光学フィルム。
【化1】
(式(B-I)中、R
1及びR
2は、-C(CH
3)
2-CH
2―O-C(=O)―CH
2―CH
2―Yで表される基であり、Yは、ヒドロキシ基を有し、かつヒドロキシ基以外の他の置換基を任意で有するフェニル基である。)
【0012】
[6] 前記スピロ化合物誘導体(B-a-1)が、2,2’-ジメチル-2,2’-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン-3,9-ジイル)ジプロパン-1,1-ジイル=ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロパノアート]である、[4]又は[5]に記載の光学フィルム。
[7] 前記添加剤(B)の含有量が、前記シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して0.5重量部以上である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の光学フィルム。
[8] 前記シクロオレフィン樹脂(A1)と前記シクロオレフィン樹脂(A2)の含有量が、重量比で、シクロオレフィン樹脂(A1)/シクロオレフィン樹脂(A2)=80/20~60/40である、[2]~[7]のいずれか1つに記載の光学フィルム。
[9] ガラス転移温度が120℃以上である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の光学フィルム。
[10] 前記光学フィルムの1%重量減少温度が300℃以上である、[1]~[9]のいずれか1つに記載の光学フィルム。
【0013】
[11] [1]~[10]のいずれか1つに記載の光学フィルムにより形成される、位相差フィルム。
【0014】
[12] [1]~[11]のいずれか1つに記載の光学フィルムの製造方法であって、シクロオレフィン樹脂(A)、添加剤(B)、及び溶媒(S)を含む樹脂組成物を支持体上に流延する工程、溶媒(S)を蒸発させる工程、及び形成された未延伸フィルムを剥離する工程を含み、
前記シクロオレフィン樹脂(A)が、重量平均分子量が100,000以上であるシクロオレフィン樹脂(A1)を含有し、
温度25℃において、ヘキサン10mlに対する前記添加剤(B)の溶解度が、100mg/10ml以下であり、
前記添加剤(B)の含有量が、前記シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して14重量部以下である、光学フィルムの製造方法。
【0015】
[13] シクロオレフィン樹脂(A)及び添加剤(B)を含有する位相差フィルム用樹脂組成物であって、
前記シクロオレフィン樹脂(A)が、重量平均分子量が100,000以上であるシクロオレフィン樹脂(A1)を含有し、
温度25℃において、ヘキサン10mlに対する前記添加剤(B)の溶解度が、100mg/10ml以下であり、
前記添加剤(B)が、2個以上のフェノール構造を含む化合物(B-a)を含有し、
前記添加剤(B)の含有量が、前記シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して14重量部以下であり、
ガラス転移温度が154℃未満である位相差フィルムを与える、位相差フィルム用樹脂組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ガラス転移温度が所望の範囲に調整され、耐ブリードアウト性、ソルベントクラック耐性、及び熱安定性のバランスに優れる光学フィルム、該光学フィルムの製造方法、及び位相差フィルム用樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一態様に係る光学フィルムについて、ソルベントクラック耐性の評価実験を模式的に示す外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
≪光学フィルム≫
光学フィルムは、シクロオレフィン樹脂(A)及び添加剤(B)を含有する。
光学フィルムは、シクロオレフィン樹脂(A)が、重量平均分子量が100,000以上であるシクロオレフィン樹脂(A1)を含有し、
温度25℃において、ヘキサン10mlに対する前記添加剤(B)の溶解度が、100mg/10ml以下である。
添加剤(B)は、2個以上のフェノール構造を含む化合物(B-a)を含有する。
添加剤(B)の含有量は、シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して14重量部以下である。
光学フィルムのガラス転移温度は154℃未満である。
光学フィルムは、高分子量のシクロオレフィン樹脂(A)と添加剤(B)を含有することにより、好適な温度で加工できるようにガラス転移温度が所望の範囲に調整され、耐ブリードアウト性、ソルベントクラック耐性、及び熱安定性のバランスに優れる。
【0019】
以下、光学フィルムに含まれる、必須、又は任意の成分について説明する。
【0020】
(シクロオレフィン樹脂(A))
シクロオレフィン樹脂(A)は、シクロオレフィン単量体の重合体、又はシクロオレフィン単量体とそれ以外の共重合性単量体との共重合体であることが好ましい。
【0021】
シクロオレフィン単量体としては、ノルボルネン骨格を有するシクロオレフィン単量体であることが好ましく、下記一般式(A-1)又は(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体であることがより好ましい。
【0022】
【0023】
一般式(A-1)中、Ra1~Ra4は、各々独立に、水素原子、炭素原子数1~30の炭化水素基、又は極性基を表す。pは、0~2の整数を表す。ただし、Ra1~Ra4の全てが同時に水素原子を表すことはなく、Ra1とRa2が同時に水素原子を表すことはなく、Ra3とRa4が同時に水素原子を表すことはない。
【0024】
一般式(A-1)においてRa1~Ra4で表される炭素原子数1~30の炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1~10の炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数1~5の炭化水素基であることがより好ましい。炭素原子数1~30の炭化水素基は、例えば、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子又はケイ素原子を含む連結基を更に有していてもよい。そのような連結基の例には、カルボニル基、イミノ基、エーテル結合、シリルエーテル結合、チオエーテル結合等の2価の極性基が含まれる。炭素原子数1~30の炭化水素基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基等が含まれる。
【0025】
一般式(A-1)においてRa1~Ra4で表される極性基としては、例えば、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アミド基及びシアノ基が含まれる。中でも、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基及びアリールオキシカルボニル基が好ましい。
【0026】
一般式(A-1)におけるpは、光学フィルムの耐熱性を高める観点から、1又は2であることが好ましい。pが1又は2である場合には、得られる重合体が嵩高くなり、ガラス転移温度が向上しやすいためである。
【0027】
【0028】
一般式(A-2)中、Ra5は、水素原子、炭素原子数1~5の炭化水素基、又は炭素原子数1~5のアルキル基を有するアルキルシリル基を表す。Ra6は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、又はハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子若しくはヨウ素原子)を表す。mは、0~2の整数を表す。
【0029】
一般式(A-2)におけるRa5は、炭素原子数1~5の炭化水素基を表すことが好ましく、炭素原子数1~3の炭化水素基を表すことがより好ましい。
【0030】
一般式(A-2)におけるRa6は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基及びアリールオキシカルボニル基を表すことが好ましい。
【0031】
一般式(A-2)におけるmは、光学フィルムの耐熱性を高める観点から、1又は2であることが好ましい。mが1又は2である場合には、得られる重合体が嵩高くなり、ガラス転移温度が向上しやすいためである。
【0032】
一般式(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体は、有機溶媒への溶解性を向上させる点から好ましい。一般的に有機化合物は対称性を崩すことによって結晶性が低下するため、有機溶媒への溶解性が向上する。一般式(A-2)におけるRa5及びRa6は、分子の対称軸に対して片側の環構成炭素原子のみに置換されているので、分子の対称性が低く、これにより、一般式(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体は溶解性が高く、光学フィルムを溶液流延法によって製造する場合に適している。
【0033】
シクロオレフィン単量体の重合体における一般式(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体の含有割合は、シクロオレフィン樹脂を構成する全シクロオレフィン単量体の合計に対して例えば70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは100モル%とし得る。一般式(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体を一定以上含むと、樹脂の配向性が高まるため、位相差値が上昇しやすい。
【0034】
以下、一般式(A-1)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体の具体例を例示化合物1~14に示し、一般式(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体の具体例を例示化合物15~34に示す。
【0035】
【0036】
シクロオレフィン単量体と共重合可能な共重合性単量体としては、例えば、シクロオレフィン単量体と開環共重合可能な共重合性単量体、及びシクロオレフィン単量体と付加共重合可能な共重合性単量体等が挙げられる。
【0037】
開環共重合可能な共重合性単量体としては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン及びジシクロペンタジエン等のシクロオレフィンが挙げられる。
【0038】
付加共重合可能な共重合性単量体としては、例えば、不飽和二重結合含有化合物、ビニル系環状炭化水素単量体及び(メタ)アクリレート等が挙げられる。不飽和二重結合含有化合物としては、炭素原子数2~12のオレフィン系化合物が挙げられ、その例には、エチレン、プロピレン及びブテン等が含まれる。ビニル系環状炭化水素単量体としては、例えば、4-ビニルシクロペンテン及び2-メチル-4-イソプロペニルシクロペンテン等のビニルシクロペンテン系単量体が挙げられる。(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート及びシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素原子数1~20のアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0039】
シクロオレフィン単量体と共重合性単量体との共重合体におけるシクロオレフィン単量体の含有割合は、共重合体を構成する全単量体の合計に対して例えば20~80モル%、好ましくは30~70モル%とし得る。
【0040】
シクロオレフィン樹脂(A)は、前述のとおり、ノルボルネン骨格を有するシクロオレフィン単量体、好ましくは一般式(A-1)又は(A-2)で表される構造を有するシクロオレフィン単量体を重合又は共重合して得られる重合体であり、その例には、以下のものが含まれる。
【0041】
(1)シクロオレフィン単量体の開環重合体
(2)シクロオレフィン単量体と、それと開環共重合可能な共重合性単量体との開環共重合体
(3)上記(1)又は(2)の開環(共)重合体の水素添加物
(4)上記(1)又は(2)の開環(共)重合体をフリーデルクラフツ反応により環化した後、水素添加した(共)重合体
(5)シクロオレフィン単量体と、不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体
(6)シクロオレフィン単量体のビニル系環状炭化水素単量体との付加共重合体及びその水素添加物
(7)シクロオレフィン単量体と、(メタ)アクリレートとの交互共重合体
【0042】
上記(1)~(7)の重合体は、いずれも公知の方法、例えば特開2008-107534号公報や特開2005-227606号公報に記載の方法で得ることができる。例えば、上記(2)の開環共重合に用いられる触媒や溶媒は、例えば特開2008-107534号公報の段落0019~0024に記載のものを使用できる。上記(3)及び(6)の水素添加に用いられる触媒は、例えば特開2008-107534号公報の段落0025~0028に記載のものを使用できる。上記(4)のフリーデルクラフツ反応に用いられる酸性化合物は、例えば特開2008-107534号公報の段落0029に記載のものを使用できる。上記(5)~(7)の付加重合に用いられる触媒は、例えば特開2005-227606号公報の段落0058~0063に記載のものを使用できる。上記(7)の交互共重合反応は、例えば特開2005-227606号公報の段落0071及び0072に記載の方法で行うことができる。
【0043】
中でも、上記(1)~(3)及び(5)の重合体が好ましく、上記(3)及び(5)の重合体がより好ましい。すなわち、シクロオレフィン樹脂(A)は、得られるシクロオレフィン樹脂のガラス転移温度を高くし、かつ光透過率を高くすることができる点で、下記一般式(B-1)で表される構造単位及び下記一般式(B-2)で表される構造単位の少なくとも一方を含むことが好ましく、一般式(B-2)で表される構造単位のみを含むか、又は一般式(B-1)で表される構造単位と一般式(B-2)で表される構造単位の両方を含むことがより好ましい。一般式(B-1)で表される構造単位は、前述の一般式(A-1)で表されるシクロオレフィン単量体由来の構造単位であり、一般式(B-2)で表される構造単位は、前述の一般式(A-2)で表されるシクロオレフィン単量体由来の構造単位である。
【0044】
【0045】
一般式(B-1)中、Xは、-CH=CH-又は-CH2CH2-を表す。Ra1~Ra4及びpは、それぞれ一般式(A-1)のRa1~Ra4及びpと同義である。
【0046】
【0047】
一般式(B-2)中、Xは、-CH=CH-又は-CH2CH2-を表す。Ra5、Ra6及びmは、それぞれ一般式(A-2)のRa5、Ra6及びmと同義である。
【0048】
(高分子量シクロオレフィン樹脂)
シクロオレフィン樹脂(A)としては、高分子量のものが好ましい。高分子量シクロオレフィン樹脂(A)の分子量としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が30,000以上100,000以下であることが好ましく、33,000以上80,000以下であることがより好ましく、33,000以上65,000以下であることがさらに好ましい。重量平均分子量(Mw)としては、100,000以上であり、100,000以上300,000以下であることが好ましく、110,000以上250,000以下であることがより好ましく、110,000以上200,000以下であることがさらに好ましい。かかる高分子量のシクロオレフィン樹脂(A)を用いることにより、光学フィルムのソルベントクラック耐性が向上する。以下では、高分子量のシクロオレフィン樹脂(A)を「シクロオレフィン樹脂(A1)」と呼ぶ場合がある。
【0049】
シクロオレフィン樹脂(A1)は、市販品であってもよい。シクロオレフィン樹脂(A1)の市販品の例には、JSR社製のアートン(Arton)G(例えばG7810等)等が挙げられる。
【0050】
(低分子量シクロオレフィン樹脂)
シクロオレフィン樹脂(A)としては、高分子量シクロオレフィン樹脂(A)とともに、低分子量シクロオレフィン樹脂(A)も併用し得る。低分子量シクロオレフィン樹脂(A)の分子量としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が3,000以上25,000以下であることが好ましく、65,000以上20,000以下であることがより好ましい。重量平均分子量(Mw)としては、80,000以下であることが好ましく、10,000以上70,000以下であることがより好ましく、20,000以上65,000以下であることがさらに好ましい。かかる低分子量シクロオレフィン樹脂(A)を併用することにより、高分子量シクロオレフィン樹脂(A)の含有量が相対的に低減する結果、シクロオレフィン樹脂(A)全体のガラス転移温度が高くなりすぎないため、後述する添加剤(B)の含有量を少なくすることができる。以下では、低分子量のシクロオレフィン樹脂(A)を「シクロオレフィン樹脂(A2)」と呼ぶ場合がある。
【0051】
シクロオレフィン樹脂(A2)は、市販品であってもよい。シクロオレフィン樹脂の市販品の例には、JSR社製のアートンR(例えばR4500、R4900及びR5000等)等が挙げられる。
【0052】
シクロオレフィン樹脂(A1)とシクロオレフィン樹脂(A2)を併用する場合、シクロオレフィン樹脂(A1)とシクロオレフィン樹脂(A2)の含有量は、樹脂同士の相溶性の低下を抑制し、当該樹脂を用いたフィルムの延伸時の白化を抑制する観点から、重量比で、シクロオレフィン樹脂(A1)/シクロオレフィン樹脂(A2)=90/10~40/60であることが好ましく、80/20~50/50であることがより好ましく、80/20~60/40であることが更に好ましく、75/25~60/40が特に好ましい。かかる含有量で両者を使用にすることにより、シクロオレフィン樹脂(A1)の単独で使用した場合と比較して、ガラス転移温度を下げることができる。このため、後述する添加剤(B)の含有量を少なくし得るため、添加剤(B)のブリードアウトを抑制することもでき、また、重量減少温度の低下も抑制され、その結果熱安定性の低下を抑制することができる。
【0053】
シクロオレフィン樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)としては、120℃以上250℃以下であることがより好ましく、120℃以上220℃以下であることがさらに好ましい。Tgが120℃以上の場合は、高温条件下での使用、又はコーティング、印刷などの二次加工により変形することを抑制できる。一方、Tgが350℃を超えると、成形加工が困難になり、また成形加工時の熱によって樹脂が劣化する可能性が高くなる。
【0054】
シクロオレフィン樹脂(A)には、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば特開平9-221577号公報、特開平10-287732号公報に記載されている特定の炭化水素系樹脂、又は、公知の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴム質重合体、ゴム粒子等の添加剤を含んでもよい。
【0055】
(添加剤(B))
添加剤(B)は、得られる光学フィルムが、好適な温度で加工できるようにガラス転移温度が所望の範囲に調整され、耐ブリードアウト性、ソルベントクラック耐性、及び熱安定性のバランスに優れることを目的として用いられる。添加剤(B)は、ヘキサンに対して不溶である化合物である。本明細書において、「ヘキサンに対して不溶である」とは、温度25℃において、ヘキサン10mlに対する添加剤(B)の溶解度が、100mg/10ml以下であることを意味する。添加剤(B)のヘキサンに対する不溶性は、光学フィルムのソルベントクラック耐性と相関がある。光学フィルムのソルベントクラック耐性が向上する観点から、ヘキサン10mlに対する添加剤(B)の溶解度は、50mg/10ml以下であることが好ましく、10mg/10ml以下であることがより好ましい。
ヘキサン10mlに対する添加剤(B)の溶解度の下限は、特に限定されず、0mg/10mlであることが好ましい。
【0056】
添加剤(B)の重量減少温度は、特に限定されないが、ブリードアウトを抑制する観点から、5%重量減少温度が300℃以上であることが好ましく、320℃以上であることがより好ましい。添加剤(B)の5%重量減少温度の上限は、特に限定されず、500℃以下であることが好ましい。
また、添加剤(B)の1%重量減少温度は、ブリードアウトを抑制する観点から、250℃以上であることが好ましく、280℃以上であることがより好ましい。添加剤(B)の1%重量減少温度の上限は、特に限定されず、500℃以下であることが好ましい。
【0057】
前述の物性を満たす添加剤(B)としては、2個以上のフェノール構造を含む化合物(B-a)が用いられる。化合物(B-a)としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤として用いられる化合物が好ましい。
【0058】
(化合物B-a)
化合物(B-a)としては、下記スピロ化合物誘導体(B-a-1)、下記イソシアヌル酸誘導体(B-a-2)、及び下記ベンゼン誘導体(B-a-3)からなる群より選択される化合物が挙げられる。
以下、これらの化合物について順次説明する。
【0059】
(スピロ化合物誘導体(B-a-1))
スピロ化合物誘導体(B-a-1)は、2個の環状アセタール骨格が連結することにより形成されたスピロ環骨格を有するスピロ化合物誘導体である。スピロ化合物誘導体(B-a-1)は、シクロオレフィン樹脂(A)のガラス転移温度を低減させる機能を有する。
【0060】
スピロ化合物誘導体(B-a-1)としては、下記式(B-I)で表される化合物が好ましい。
【化7】
【0061】
式(B-I)中、R1及びR2は、-C(CH3)2-CH2―O-C(=O)―CH2―CH2―Yで表される基であり、Yは、ヒドロキシ基を有し、かつヒドロキシ基以外の他の置換基を任意で有するフェニル基である。
Yとしてのフェニル基が有する他の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0062】
式(B-I)で表されるスピロ化合物誘導体(B-a-1)としては、2,2’-ジメチル-2,2’-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン-3,9-ジイル)ジプロパン-1,1-ジイル=ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロパノアート]が好ましい。該化合物は、市販品を好ましく用いることができ、例えば、ADEKA社製のアデカスタブAO-80を用いることができる。
【0063】
(イソシアヌル酸誘導体(B-a-2))
イソシアヌル酸誘導体(B-a-2)は、イソシアヌル酸の3個の水素原子が、ベンゼン環上に置換基を有するベンジル基で置換された構造を有し、上記ベンゼン環上に1個のヒドロキシ基を有するフェノール構造を2個又は3個有するイソシアヌル酸誘導体である。イソシアヌル酸誘導体(B-a-2)は、シクロオレフィン樹脂(A)のガラス転移温度を低減させる機能を有する。
【0064】
イソシアヌル酸誘導体(B-a-2)としては、下記式(B-II)で表される化合物が好ましい。
【化8】
【0065】
式(B-II)中、Rb1~Rb15は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1~20のアルキル基、又は炭素原子数1~20のアルコキシ基であり、ただし、Rb1~Rb5、Rb6~Rb10、及びRb11~Rb15からなる3つの群のいずれについても、各群が有するいずれか1つの置換基のみがヒドロキシ基である。
【0066】
Rb1~Rb15としての炭素原子数1~20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ドデシル基、及びn-トリデシル基、並びにこれらのアルキル基と構造異性の関係にあるアルキル基が挙げられる。
【0067】
Rb1~Rb15としての炭素原子数1~20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロパノキシ基、イソプロパノキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-へプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、並びにこれらのアルコキシ基と構造異性の関係にあるアルコキシ基が挙げられる。
【0068】
式(B-II)で表されるイソシアヌル酸誘導体(B-a-2)としては、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオンが好ましい。該化合物は、市販品を好ましく用いることができ、例えば、ADEKA社製のアデカスタブAO-20を用いることができる。
【0069】
(ベンゼン誘導体(B-a-3))
ベンゼン誘導体(B-a-3)は、ベンゼンの3個の水素原子が、ベンゼン環上に置換基を有するベンジル基で置換された構造を有し、上記ベンジル基が有する上記ベンゼン環上に1個のヒドロキシ基を有するフェノール構造を2個又は3個有するベンゼン誘導体である。ベンゼン誘導体(B-a-3)は、シクロオレフィン樹脂(A)のガラス転移温度を低減させる機能を有する。
【0070】
ベンゼン誘導体(B-a-3)としては、下記式(B-III)で表される化合物が好ましい。
【化9】
【0071】
式(B-III)中、Rc1~Rc18は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1~20のアルキル基、又は炭素原子数1~20のアルコキシ基であり、ただし、Rc4~Rc8、Rc9~Rc13、及びRc14~Rc18からなる3つの群のいずれについても、各群が有するいずれか1つの置換基のみがヒドロキシ基である。
【0072】
Rc1~Rc18としての炭素原子数1~20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ドデシル基、及びn-トリデシル基、並びにこれらのアルキル基と構造異性の関係にあるアルキル基が挙げられる。
【0073】
Rc1~Rc18としての炭素原子数1~20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロパノキシ基、イソプロパノキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-へプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、並びにこれらのアルコキシ基と構造異性の関係にあるアルコキシ基が挙げられる。
【0074】
式(B-III)で表されるベンゼン誘導体(B-a-3)としては、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルメチル)-2,4,6-トリメチルベンゼン)が好ましい。該化合物は、市販品を好ましく用いることができ、例えば、ADEKA社製のアデカスタブAO-330を用いることができる。
【0075】
添加剤(B)の分子量としては、例えば、550以上であることが好ましく、600以上であることがより好ましく、650以上であることがさらに好ましい。
【0076】
添加剤(B)の含有量は、光学フィルムのガラス転移温度を低減させる観点から、シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して0.2重量部以上であることが好ましく、0.5重量部以上であることがより好ましい。
添加剤(B)の含有量の上限は、ブリードアウトを抑制する観点から、シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して14重量部以下であり、10重量部以下であることが好ましく、7重量部以下であることがより好ましく、5重量部以下であることがさらに好ましい。
添加剤(B)の含有量は、シクロオレフィン樹脂(A)として、シクロオレフィン樹脂(A1)とシクロオレフィン樹脂(A2)のブレンド系を用いる場合、ブリードアウトをより抑制する観点から、3重量部以下であることが好ましく、2重量部以下であることがより好ましく、1.5重量部以下であることが極めて好ましい。添加剤(B)の含有量を少なくするには、前述した低分子量シクロオレフィン樹脂(A)を配合することが有効である。
添加剤(B)の含有量を調整することにより、光学フィルムのガラス転移温度を所望の範囲に調整することができる。
【0077】
添加剤(B)中に含まれる化合物(B-a)の含有量は、添加剤(B)100重量部に対して、50重量部より多い(すなわち主成分とする)ことが好ましく、80重量部以上であることがより好ましく、90重量部以上であることがさらに好ましく、95重量部以上であることがさらにより好ましく、100重量部であることが特に好ましい。
【0078】
(他の成分)
光学フィルムは、本発明の効果を損なわない限り、シクロオレフィン樹脂(A)及びスピロ化合物誘導体(B)以外の成分(以下、「他の成分」ともいう。)を含有してもよい。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、特定波長吸収剤、位相差調整剤、滑剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤等が挙げられる。
【0079】
≪光学フィルムの製造方法≫
光学フィルムの製造方法としては、例えば、溶融押出法、溶液キャスト法(溶液流延法)、カレンダー法、圧縮成形法等が挙げられる。これらの中では、溶液流延法が好ましい。
【0080】
溶液流延法では、例えば、シクロオレフィン樹脂(A)、スピロ化合物誘導体(B)、他の成分、及び溶媒(S)を混合して樹脂組成物を作製する工程、樹脂組成物を流延する工程、溶媒を蒸発させる工程、未延伸フィルムの剥離工程、乾燥工程、及び延伸工程等を有する。
【0081】
溶液流延法に用いられる溶媒としては、例えば、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤;トルエン、キシレン、ベンゼン、及びこれらの混合溶剤などの芳香族系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール等のアルコール系溶剤;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、ジエチルエーテル;等が挙げられる。溶剤は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0082】
前述した光学フィルムの製造方法において、溶液流延法の好ましい態様としては、シクロオレフィン樹脂(A)、添加剤(B)、及び溶媒(S)を含む樹脂組成物を支持体上に流延する工程、溶媒(S)を蒸発させる工程、及び形成された未延伸フィルムを剥離する工程を含み、
シクロオレフィン樹脂(A)が、重量平均分子量が100000以上であるシクロオレフィン樹脂(A1)を含有し、
温度25℃において、ヘキサン10mlに対する添加剤(B)の溶解度が、100mg/10ml以下であり、
添加剤(B)の含有量が、上記シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して0.5重量部以上14重量部以下である、光学フィルムの製造方法が挙げられる。
上記支持体としては、例えば、ポリエステルフィルムが挙げられる。
なお、上記シクロオレフィン樹脂(A)、及び添加剤(B)は、前述した≪光学フィルム≫の項目で説明したシクロオレフィン樹脂(A)、及び添加剤(B)と同じである。
【0083】
≪光学フィルムの物性≫
(ガラス転移温度)
光学フィルムにおいて、ガラス転移温度(Tg)の上限は、154℃未満であり、153℃以下であることが好ましく、152℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。Tgが154℃未満であることにより、成形温度を高くすることに対して制約がある場合でも、光学フィルムを安定して製造することができる。
光学フィルムにおいて、ガラス転移温度(Tg)の下限は、120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましく、135℃以上がさらに好ましく、140℃以上であることが特に好ましい。ガラス転移温度が120℃以上の場合、車載用途など耐熱性が要求される用途など制約がある場合でも好適に使用できる。
【0084】
(ソルベントクラック耐性)
光学フィルムは、ソルベントクラック耐性に優れることが好ましい。具体的には、光学フィルムの表面にヘキサン500μlを滴下し30秒間保持した後、光学フィルムを反転させ、光学フィルムの裏面に対して、ヘキサン500μlを滴下し30秒間保持する操作を繰り返した場合において、(1)フィルムセット、(2)1回目のヘキサン暴露、(3)1回目の反転、(4)2回目のヘキサン暴露、(5)2回目の反転、(6)3回目のヘキサン暴露、・・・(以降続く)としたとき、1回目の反転後、2回目のヘキサンの暴露(ヘキサンの両面暴露)前まで破断しない(破断が(3)以降)ことが好ましく、1回目の反転後、2回目のヘキサン暴露完了後まで破断しない(破断が(4)以降)ことがより好ましく、2回目の反転後、3回目のヘキサン暴露前まで破断しない(破断が(5)以降)ことがさらに好ましく、2回目の反転後、3回目のヘキサン暴露完了後まで破断しない(破断が(6)以降)ことが特に好ましい。
【0085】
(位相差発現性)
光学フィルムは、位相差発現性に優れることが好ましい。具体的には、光学フィルムのTgに対して、Tg+5℃にて、100%/分の延伸速度で100%延伸した場合に、正面位相差[nm]/厚み[μm]の値が4×10-3以上であることが好ましい。
【0086】
(重量減少温度)
光学フィルムは熱安定性に優れることが好ましい。熱安定性は、重量減少温度をもとにして評価し得る。
光学フィルムの1%重量減少温度の下限は、特に限定されず、300℃以上であることが好ましく、320℃以上であることがより好ましい。光学フィルムの1%重量減少温度の上限は、特に限定されず、500℃以下であることが好ましい。
光学フィルムの5%重量減少温度の下限は、特に限定されず、380℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましい。光学フィルムの5%重量減少温度の上限は、特に限定されず、500℃以下であることが好ましい。
熱安定性は、トリアジン誘導体(B)の含有量を低減することにより、向上させることができる。
【0087】
(耐ブリードアウト性)
光学フィルムは耐ブリードアウト性に優れることが好ましい。耐ブリードアウト性は、トリアジン誘導体(B)の含有量を低減することにより、向上させることができる。
具体的には、光学フィルムを、温度85℃、湿度85%の条件で336時間放置した後、各フィルムのヘイズ測定を行った場合、トータルヘイズ値の上昇幅が1.0%未満であることが好ましく、0.5%未満であることがより好ましい。
【0088】
(用途)
本実施形態の光学フィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の各種表示装置やタッチパネルに用いられる機能フィルムであることが好ましい。具体的には、本実施形態の光学フィルムは、液晶表示装置用の偏光板保護フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、輝度向上フィルム、ハードコートフィルム、防眩フィルム、帯電防止フィルム、視野角拡大等の光学補償フィルム等でありうる。典型的には、本実施形態の光学フィルムは、位相差フィルムである。
【0089】
≪位相差フィルム用樹脂組成物≫
位相差フィルム用樹脂組成物は、シクロオレフィン樹脂(A)及び添加剤(B)を含有する。
位相差フィルム用樹脂組成物は、シクロオレフィン樹脂(A)が、重量平均分子量が100,000以上であるシクロオレフィン樹脂(A1)を含有し、
温度25℃において、ヘキサン10mlに対する添加剤(B)の溶解度が、100mg/10ml以下であり、
添加剤(B)は、2個以上のフェノール構造を含む化合物(B-a)を含有し、
添加剤(B)の含有量が、シクロオレフィン樹脂(A)100重量部に対して14重量部以下であり、
ガラス転移温度が154℃未満である位相差フィルムを与える。
位相差フィルム用樹脂組成物は、高分子量のシクロオレフィン樹脂(A)と添加剤(B)を含有することにより、得られる位相差フィルムが、好適な温度で加工できるようにガラス転移温度が所望の範囲に調整され、耐ブリードアウト性、ソルベントクラック耐性、及び熱安定性のバランスに優れる。
【0090】
位相差フィルム用樹脂組成物は、前述した光学フィルムの製造用原料である。
上記シクロオレフィン樹脂(A)、及び添加剤(B)は、前述した≪光学フィルム≫の項目で説明したシクロオレフィン樹脂(A)、及び添加剤(B)と同じである。上記位相差フィルムの物性は、前述した≪光学フィルムの物性≫の項目で説明した光学フィルムの物性と同じである。
【実施例0091】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0092】
[実施例1~13及び比較例1~7]
(使用材料)
実施例及び比較例において、シクロオレフィン樹脂(A)として、下記A1~A2を用いた。なお、以下において、シクロオレフィン樹脂(A)を「COP樹脂(A)」と略記する。
A1:ARTON G7810(JSR社製、重量平均分子量=140,000)
A2:ARTON R5000(JSR社製、重量平均分子量=50,000)
【0093】
実施例及び比較例において、添加剤(B)として下記B1~B5を用いた。B1~B3が、本願発明の態様において、特定の添加剤(B)に該当する化合物であり、B4~B5が比較化合物である。
B1:アデカスタブAO-80(ADEKA社製)
B2:アデカスタブAO-20(ADEKA社製)
B3:アデカスタブAO-330(ADEKA社製)
B4:スミライザーGM(住友化学社製)
B5:Chimassorb81(BASFジャパン社製)
【0094】
【0095】
実施例及び比較例において、溶媒(S)として下記S1を用いた。
S1:塩化メチレン
【0096】
(光学フィルムの作製)
COP樹脂(A)と添加剤(B)と溶媒(S)を、下記表2に記載の含有量になるように混合して各樹脂組成物を得た。支持体フィルムとして、長さ1000m、膜厚100μm、幅1600mmの東レ株式会社製PETフィルム(商品名:ルミラー)の片側表面に、膜厚1.2μmのアクリル系樹脂組成物のコーティングを施したコーティングPETフィルムを用いた。本支持体フィルムのコーティング面の粗度Ryは210nm、鉛筆硬度はBであった。この支持体フィルムを用いて、コーティング面の反対面に温度20℃の上記樹脂組成物からなる樹脂溶液を塗布し、乾燥を行い、得られた一次乾燥フィルムを支持体フィルムと共に巻き取った。引き続いて、得られた一次乾燥フィルムと支持体フィルムを剥離し、ロール懸垂型乾燥装置により、残留溶媒量が0.25重量%になるまで乾燥し、平均膜厚60μm、長さ900mの実施例1~13及び比較例1~7の光学フィルムを作製した。
【0097】
<評価>
使用した添加剤(B)について、以下の方法に従って、塩化メチレン溶解性、ヘキサン溶解性、及び重量減少温度を評価した。結果を表1に示す。また、得られた光学フィルムについて、以下の方法に従って、ガラス転移温度、ソルベントクラック耐性、位相差発現性、重量減少温度、及び耐ブリードアウト性を評価した。結果を表2に示す。
【0098】
[添加剤(B)の物性]
(塩化メチレン溶解性)
温度25℃において、塩化メチレン10mlに対する添加剤(B)の溶解度が、100mg/10ml以上溶解し完全に透明な溶液になった場合を溶解した(または「〇」)と評価し、それ以外の場合を不溶(または「×」)と評価した。
【0099】
(ヘキサン溶解性)
温度25℃において、ヘキサン10mlに対する添加剤(B)の溶解度が、100mg/10ml以上溶解し完全に透明な溶液になった場合を溶解したと評価し、それ以外の場合を不溶と評価した。
【0100】
(1%重量減少温度)
昇温速度20℃/分にて測定した1%の重量減少が観測された温度を1%重量減少温度とした。
【0101】
(5%重量減少温度)
昇温速度20℃/分にて測定した5%の重量減少が観測された温度を5%重量減少温度とした。
【0102】
[光学フィルムの物性]
(ガラス転移温度(Tg))
示差走査熱量計(DSC、SII社製、DSC7020)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定した。
【0103】
(ソルベントクラック耐性)
平均厚み60μmの各光学フィルムを、縦9cm、横2cmに切り出し、
図1に示すように、クリップで光学フィルムの長手方向の一端部に対して2.45MPaになるように調整した錘を吊るし、Φ(直径)1cmの金属製のバーに
図1に示すように吊るし、上記光学フィルムの長手方向の他端部を、図示しない固定手段で固定した後、上部の滴下ロートからヘキサン500μlを滴下し30秒間保持した。30秒後も破断しなければ光学フィルムの表面と裏目を反転させ、1回目滴下時に上記バーと接していた面をair面として上記と同様にヘキサンを500μl滴下し30秒間保持した。これを繰り返し、何回目の反転後に破断したかでソルベントクラック耐性を評価した。評価基準を下記に記載した。
なお、(1)フィルムセット、(2)1回目のヘキサン暴露、(3)1回目の反転、(4)2回目のヘキサン暴露、(5)2回目の反転、(6)3回目のヘキサン暴露、・・・(以降続く)とした。
〇:2回目の反転以降で破断((5)2回目の反転以降で破断)
△:1回目の反転~2回目のヘキサン滴下(両面曝露)~2回目反転前までで破断((3)1回目の反転または(4)2回目のヘキサン暴露で破断)
×:反転させる前の最初のヘキサン滴下で破断(1回目のヘキサン曝露、すなわち(1)フィルムセットまたは(2)1回目のヘキサン暴露で破断)
【0104】
(位相差発現性)
各光学フィルムを、縦7cm、横4cmに切り出し、チャック間距離を5cm、光学フィルムのTgに対して、Tg+5℃にて、100%/分の延伸速度で100%延伸し、正面位相差[nm]/厚み[μm]の値を位相差発現性として評価した。
【0105】
(1%重量減少温度)
昇温速度20℃/分にて測定した1%の重量減少が観測された温度を1%重量減少温度とした。
【0106】
(5%重量減少温度)
昇温速度20℃/分にて測定した5%の重量減少が観測された温度を5%重量減少温度とした。
【0107】
(耐ブリードアウト性)
各光学フィルムを、温度85℃、湿度85%の条件で336時間放置した後、各フィルムのヘイズ測定を行い、以下の基準により耐ブリードアウト性を評価した。
〇:トータルヘイズ値の上昇幅が0.5%未満
△:トータルヘイズ値の上昇幅が1.0%未満
×:トータルヘイズ値の上昇幅が1.0%以上
【0108】
【0109】
【0110】
表2から、COP樹脂(A)を含有する光学フィルムにおいて、添加剤(B)としてB4~B5のいずれかを含有する比較例4~5では、添加剤(B)を含まない比較例1と比較して、Tgがいずれも154℃未満にまで低減されるが、重量減少温度が大きく低下し、耐ブリードアウト性にも劣っていた。一方、添加剤(B)としてB1~B3のいずれかを配合すると、実施例1~3、12~13に示すように、Tgが154℃未満にまで低減され、耐ブリードアウト性、ソルベントクラック耐性、及び熱安定性のバランスに優れる光学フィルムが得られることが分かる。