(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180170
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】車両シート用安全装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/427 20060101AFI20231213BHJP
B60N 2/22 20060101ALI20231213BHJP
B60N 2/23 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
B60N2/427
B60N2/22
B60N2/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093330
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(74)【代理人】
【識別番号】100098143
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 雄二
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】牧岡 孝行
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087AA02
3B087BD03
3B087CD03
3B087CD04
3B087DE06
(57)【要約】
【課題】車両の衝突発生時に乗員の脊椎への圧縮圧力を軽減可能な車両シート用の安全装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、シートバックの角度を調整可能なリクライニング機構を備えた車両シートに装備され、当該シートに着座した乗員を保護する車両シート用安全装置であって、一端が前記シートバックの回転軸部に連結され、変位角に対する第1のトルク特性T1(N・m)を有する第1のトーションバーと;一端が前記第1のトーションバーの他端に連結され、前記第1のトルク特性T1(N・m)よりも低いトルク特性T2(N・m)を有する第2のトーションバーと;車両の衝突発生後の所定のタイミングで、前記第1及び第2のトーションバーのうち有効となるトーションバーを選択的に切替え可能に構成されたスイッチング機構と;前記スイッチング機構を制御する制御手段と;を備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックの角度を調整可能なリクライニング機構を備えた車両シートに装備され、当該シートに着座した乗員を保護する車両シート用安全装置であって、
一端が前記シートバックの回転軸部に連結され、変位角に対する第1のトルク特性T1(N・m)を有する第1のトーションバーと;
一端が前記第1のトーションバーの他端に連結され、前記第1のトルク特性T1(N・m)よりも低いトルク特性T2(N・m)を有する第2のトーションバーと;
車両の衝突発生後の所定のタイミングで、前記第1及び第2のトーションバーのうち有効となるトーションバーを選択的に切替え可能に構成されたスイッチング機構と;
前記スイッチング機構を制御する制御手段と;を備えたことを特徴とする車両シート用安全装置。
【請求項2】
前記シートバックのリクライニング角度を検出する角度センサと、衝突の規模を検出する衝突検知センサと、前記乗員の体格を検出する体格センサの少なくとも1つのセンサを更に備え、
前記制御手段は、前記角度センサと、前記衝突検知センサと、前記体格センサの少なくとも1つのセンサの出力に基づいて、前記スイッチング機構を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両シート用安全装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記角度センサの出力に基づき、衝突発生直後は前記第2のトーションバーを有効にし、その後、前記リクライニング角度が所定の角度θsに達した時点で、前記第1のトーションバーを有効にするように前記スイッチング機構を制御することを特徴とする請求項2に記載の車両シート用安全装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記強衝突検知センサの出力に基づき、前記角度θsを変更可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の車両シート用安全装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記体格センサの出力に基づき、乗員の体格が所定の基準より大きい場合には、衝突直後から前記第1のトーションバーが有効になるように前記スイッチング機構を制御し、
乗員の体格が所定の基準より小さい場合には、前記第2のトーションバーが有効になるように前記スイッチング機構を制御することを特徴とする請求項2に記載の車両シート用安全装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記衝突検知センサの出力に基づき、衝突速度が所定の基準より高い場合には、前記リクライニング角度が前記角度θsに達した時点で前記第1のトーションバーが有効になるように前記スイッチング機構を制御し、
衝突速度が所定の基準より低い場合には、前記第1のトーションバーを無効にし、前記第2のトーションバーのみが機能するように前記スイッチング機構を制御することを特徴とする請求項2に記載の車両シート用安全装置。
【請求項7】
前記スイッチング機構は、前記第1のトーションバーの外周に設けられた第1のギアと、前記第2のトーションバーの外周に設けられ、前記第1のギアと噛み合う第2のギアと、前記第1のギアと前記第2のギアを相対的に駆動することで、両ギアの噛合い及び解除が可能な駆動手段とを備えることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両シート用安全装置。
【請求項8】
前記第1のギアは、前記第1のトーションバーの外周に固定され、
前記スイッチング機構は、前記第2のトーションバーの外周に配置され、前記第2のギアを軸方向に沿ってスライド可能に支持するガイド筒を更に備えることを特徴とする請求項7に記載の車両シート用安全装置。
【請求項9】
前記駆動手段は、前記第2のギアを前記ガイド筒に沿って移動させるマイクロガスジェネレータを含むことを特徴とする請求項8に記載の車両シート用安全装置。
【請求項10】
前記車両シートが、シートベルトリトラクタを備えることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両シート用安全装置。
【請求項11】
前記シートベルトリトラクタが、前記シートバックの一方の側の上端近傍に配置されたことを特徴とする請求項10に記載の車両シート用安全装置。
【請求項12】
前記リクライニング機構は、前記第2のトーションバーの前記第1のトーションバーと反対側の端部に連結されたウォームホイールと、当該ウォームホイールと噛み合うウォームとからなるウォームギア機構を備えたことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両シート用安全装置。
【請求項13】
前記リクライニング機構は、前記第2のトーションバーの前記第1のトーションバーと反対側の端部に連結されたギア部材と、当該ギア部材の回転を制限するロック部材と、前記ギア部材と前記ロック部材との噛み合いを解放し、前記シートバックの角度を変更可能にするレバーとを備えたことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両シート用安全装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートの安全装置に関するものである。特に、シートベルトリトラクタを装備したリトラクタ一体型の自動車用シートに有効な安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、乗員をシートに拘束するためにシートベルトが備えられている。シートベルトは、乗員の一方の肩付近から斜め下方向に延びるとともに、腰骨付近で水平方向に延びる構造の三点式シートベルトが主流となっている。また、近年の自動車には、衝突が発生する直前及び/又は直後にシートベルトを自動的に巻き取るリトラクタが備えられるようになっている。
【0003】
特許文献1には、シートベルトリトラクタをシートバックに備えたリトラクタ一体型の自動車用シートが示されている。リトラクタ一体型のシートでは、例えば、
図1(A)に示すように、シートバック10の上端にシートベルトリトラクタ12を配置し、シートベルト14の上端14aが乗員Pの肩の上部から延びるような構造となっている。このため、乗員Pの肩とシートベルト14の間に隙間が少なく、乗員をシートバック10に対して確実に拘束できるというメリットがある。
【0004】
図1(A)に示すように、シートバック10が垂直に近い状態の時に、正面方向の衝突が発生すると、
図1(B)に示すように、乗員Pが慣性によって前方に倒れ込むことになる。シートベルトリトラクタ12に備えられたプリテンション機能により、乗員Pの前方への過剰な倒れ込みを防ぐことができる。
【0005】
ところで、自動車用シートには、リクライニング機構が備えられ、シートバックを後方に倒したり、前方に起こしたりすることが可能となっている。
図2(A)に示すように、シートバック10を後方に大きく倒した(寝かせた)状態で車両の前方衝突が発生した場合、
図2(B)に示すように、乗員Pの頭部から腰部にかけて、脊椎に対して圧縮方向の力が加わり、大きな障害が発生する恐れがある。このような問題は、リトラクタ一体型のシートにおいて顕著となる。なお、リトラクタをBピラーに対して固定するタイプのシートにおいては、シートバックをリクライニングしている状態では、シートベルトの上部と乗員の肩部との間に隙間が形成されるため、リトラクタ一体型のシートと同列では語ることはできないが、脊椎の圧迫は依然として懸念材料となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、車両の衝突発生時に乗員の脊椎への圧縮圧力を軽減可能な車両シート用の安全装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、シートバックの角度を調整可能なリクライニング機構を備えた車両シートに装備され、当該シートに着座した乗員を保護する車両シート用安全装置であって、一端が前記シートバックの回転軸部に連結され、変位角に対する第1のトルク特性T1(N・m)を有する第1のトーションバーと;一端が前記第1のトーションバーの他端に連結され、前記第1のトルク特性T1(N・m)よりも低いトルク特性T2(N・m)を有する第2のトーションバーと;車両の衝突発生後の所定のタイミングで、前記第1及び第2のトーションバーのうち有効となるトーションバーを選択的に切替え可能に構成されたスイッチング機構と;前記スイッチング機構を制御する制御手段と;を備えている。
【0009】
ここで、「変位角に対するトルク特性」とは、トーションバーのねじれ難さ(ねじれ易さ)を表すものであり、トルク特性が高いとトーションバーがねじれ難く、トルク特性が低いとねじれ易くなる。「変位角」は、「ねじれ角」と言うこともできる。トーションバーのトルク特性は、バーの太さや長さを変えたり、バーの素材を変えたりすることによって調整することができる。
【0010】
なお、「変位角に対するトルク特性」は、丸棒のトーションバーの場合には、「ねじり剛性」と概ね同義であり、ねじり剛性が大きい場合はねじれ難く、ねじり剛性が小さい場合にはねじれ易くなる。
【0011】
また、シートバックの「回転軸部」は、シートバックの下端部においてリクライニング機構に連結される部分であり、円形の穴として特定することができる。あるいは、その穴を貫通して左右のシートバックフレームに連結されたシャフト状の軸とすることもできる。更に、本実施例においては、シートバックフレームに形成された穴を貫通して設けられたトーションバーの端部として特定することもできる。
【0012】
シートバックが後方に倒れた状態で車両衝突が発生した場合、
図2(B)に示すように、乗員の脊椎に対して大きな圧縮圧力が加わってしまう。しかし、本発明によれば、シートバックに対して第1及び第2のトーションバーが連結されているため、シートバックが後方に寝ている状態でも、トーションバーがねじれる(塑性変形によりエネルギーを吸収する)ことで、シートバックが前方に向かって倒れようとする(起立しようとする)動作を阻害することがない。このため、車両衝突時に生じる乗員への負荷が分散され、脊椎への圧縮圧力を大幅に軽減することが可能となる。
【0013】
本発明においては、第1のトーションバーの変位角に対するトルク特性T1(N・m)を、第2のトーションバーの変位角に対するトルク特性T2(N・m)よりも大きく設定しているため、前方衝突が発生した時に、第2のトーションバーがねじれ始め、その後、スイッチング機構によって、第1のトーションバーが有効になるように切替えることができる。このため、衝突発生の初期段階ではトルク特性の低い第2のトーションバーによって速やかにシートバックを起こすことができる。その後は、トルク特性の高い第1のトーションバーが有効となって、シートバックが必要以上に前方に倒れることなく、乗員を適切且つ確実に拘束することができる。
【0014】
本発明は、特に、シート中心の乗員拘束装置において、アダプティブで安定的な拘束性能を与えることが可能となる。
【0015】
前記シートバックのリクライニング角度を検出する角度センサと、衝突の規模を検出する衝突検知センサと、前記乗員の体格を検出する体格センサの少なくとも1つのセンサを更に備えることができる。このとき、前記制御手段は、前記角度センサと、前記衝突検知センサと、前記体格センサの少なくとも1つのセンサの出力に基づいて、前記スイッチング機構を制御することができる。
【0016】
ここで、「角度センサ」としては、ポテンショメーターやロータリーエンコーダー等を使用することができる。
【0017】
前記制御手段は、前記角度センサの出力に基づき、衝突発生直後は前記第2のトーションバーを有効にし、その後、前記リクライニング角度が所定の角度θsに達した時点で、前記第1のトーションバーを有効にするように前記スイッチング機構を制御することができる。
【0018】
例えば、シートバックが垂直な状態の角度を0°とし、前方回転方向を正、後方リクライニング方向を負とした場合、衝突時におけるシートリクライニング角度が-30°よりも前方側であれば、制御手段はスイッチング手段によるスイッチングを行わないという制御をすることができる。一方、衝突時におけるシートリクライニング角度が-30°よりも後方であれば、途中でスイッチングを行うという制御をすることができる。例えば、スイッチングするタイミングは+5°~-30°とすることができる。
【0019】
前記制御手段は、前記体格センサの出力に基づき、乗員の体格が所定の基準より大きい場合には、衝突直後から前記第1のトーションバーが有効になるように前記スイッチング機構を制御し、乗員の体格が所定の基準より小さい場合には、前記第2のトーションバーが有効になるように前記スイッチング機構を制御することができる。
【0020】
ここで、「体格センサ」としては、シートの前後スライド量を検出して乗員体格を判定するものがあり、 スライド位置が最前付近であれば小柄な乗員と判定し、スライド位置が最後方付近であれば大柄な乗員と判定することができる。また、シートに着座している乗員の重さを検出して乗員体格を判定することもできる。この場合、検出するセンサは、シート座面下に取り付けたり、シートの下部フレームに取り付けたりすることができる。あるいは、車内カメラ+機械学習によって乗員の状態をモニターすることで、乗員の体格を判別することもでき、その場合には、乗員の体格や姿勢などをリアルタイムでモニターすることが可能となる。
【0021】
大型の体格の乗員の場合,そもそもその体重の重さから衝突中に吸収すべき乗員のエネルギー自体が大きくなるので、トルク特性の低い第2のトーションバーでは、衝突下で大型乗員のもつエネルギーを吸収しきれないため、第2のトーションバーから第1のトーションバーへのスイッチングを衝突初期の段階で実行することが好ましい。すなわち、第1のトーションバーへの切換を速やかに行うことで、実質的に第1のトーションバーのみを有効にするような制御することで、乗員のエネルギー吸収量を最大化することが可能となる。
【0022】
一方,小型乗員の場合は、衝突下の小型乗員のエネルギーは比較的小さいため、乗員への荷重入力を最小化するために、あえて第1のトーションバーに切替えること無く、第2のトーションバーのみでマイルドに乗員の拘束を達成する事ができる。その場合は、衝突現象の間は常に第2のトーションバーが有効となるように、スイッチングを行わないようにスイッチング機構を制御する。
【0023】
乗員の体格については、例えば、成人男性における90%ile 以上の体格相当の乗員であれば(同等の体格の女性も含む)、早期スイッチングによって実質的に第1のトーションバーのみを有効とする制御を行うことができる。一方、成人女性における10%ile以下の体格相当の乗員であれば(同等の体格の男性も含む)、スイッチングを行わないことによって第2のトーションバーのみを有効とする制御が可能となる。
【0024】
前記制御手段は、前記強衝突検知センサの出力に基づき、前記角度θsを変更可能に構成することができる。
【0025】
前記制御手段は、前記衝突検知センサの出力に基づき、衝突速度が所定の基準より高い場合には、前記リクライニング角度が前記角度θsに達した時点で前記第1のトーションバーが有効になるように前記スイッチング機構を制御し、衝突速度が所定の基準より低い場合には、前記第1のトーションバーを無効にし、前記第2のトーションバーのみが機能するように前記スイッチング機構を制御することができる。
【0026】
ここで、「衝突検知センサ」としては加速度センサを使用することができ、加速度センサの応答を演算器で処理し、その結果推定される衝突速度(デルタV)が、例えば、25km/h以下のような低速衝突である場合には、衝突によるエネルギーが比較的小さいため、スイッチングをせずに第2のトーションバーのみで対応することができる。一方、衝突速度が,例えば、25km/hより高い高速衝突であり、且つ、シートリクライニング位置が-30°よりも深い(寝ている)状態にある場合は、所定の角度θsに到達した時点で第1のトーションバーにスイッチするといった制御をすることができる。
【0027】
前記スイッチング機構は、前記第1のトーションバーの外周に設けられた第1のギアと、前記第2のトーションバーの外周に設けられ、前記第1のギアと噛み合う第2のギアと、前記第1のギアと前記第2のギアを相対的に駆動することで、両ギアの噛合い及び解除が可能な駆動手段とを備えることができる。
【0028】
前記第1のギアは、前記第1のトーションバーの外周に固定され、前記スイッチング機構は、前記第2のトーションバーの外周に配置され、前記第2のギアを軸方向に沿ってスライド可能に支持するガイド筒を更に備えることができる。
【0029】
前記駆動手段は、前記第2のギアを前記ガイド筒に沿って移動させるマイクロガスジェネレータを含むことができる。
【0030】
本発明は、シートベルトリトラクタを備えたシートに適用することができる。 前記シートベルトリトラクタは、前記シートバックの一方の側の上端近傍に配置することができる。
【0031】
ここで、「シートベルトリトラクタを備えた」とは、車両のピラー等の車体構造部に固定される場合を除くものであり、リトラクタがシートの何れかの個所に配置・固定されているという意味である。シートバックの上部や下部など、シートベルトの引き出し及び巻き取りに影響のない箇所となる。なお、シートベルトリトラクタはシートバックの背面下部付近に設置した場合には、シートバックの上端にシートベルトをガイドする部材を設けることができる。
【0032】
前記リクライニング機構は、前記第2のトーションバーの前記第1のトーションバーと反対側の端部に連結されたウォームホイールと、当該ウォームホイールと噛み合うウォームとからなるウォームギア機構を備えることができる。
【0033】
ウォームホイールとウォームとからなるウォームギア機構を採用した場合、外周にウォームが形成されたウォームシャフトの回転が、ウォームを介してウォームホイールを回転させることで、シートバックのリクライニングが可能となる。車両衝突発生時には、ウォームシャフトは回転しないため、シートバックのリクライニング動作はできず、シートバックが前方へ倒れ込むトルクは、トーションバーによって吸収されることになる。
【0034】
前記リクライニング機構は、前記第2のトーションバーの前記第1のトーションバーと反対側の端部に連結されたギア部材と、当該ギア部材の回転を制限するロック部材と、前記ギア部材と前記ロック部材との噛み合いを解放し、前記シートバックの角度を変更可能にするレバーとを備えることができる。
【0035】
ギア部材とロック部材との噛み合いをレバーによって解放することで、シートバックが自由に動くことができ、リクライニングが可能となる。車両衝突発生時には、ギア部材とロック部材とが噛み合っているため、シートバックのリクライニング動作はできず、シートバックが前方へ倒れ込むトルクは、トーションバーによって吸収されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は本発明の背景を説明するための側面図であり、(A)が車両衝突前の状態を示し、(B)が車両衝突直後の状態を示す。
【
図2】
図2は本発明の背景を説明するための側面図であり、(A)が車両衝突前の状態を示し、(B)が車両衝突直後の状態を示す。
【
図3】
図3は、本発明の第1実施例に係る車両シートのフレーム構造及び安全装置を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1実施例に係る安全装置の構造を示す斜視図であり、
図3の一部を拡大して示す。
【
図5】
図5は、本発明の第1実施例に係る安全装置の構造を示す上面図である。
【
図6】
図6は、本発明の第1実施例に係る安全装置の構造を示す分解斜視図であり、
図4の一部に対応する。
【
図7】
図7は、本発明の第1実施例に係る安全装置の要部(角度センサ)の構造を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明の第1実施例に係る安全装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【
図9】
図9(A),(B),(C)は、本発明の第1実施例に係る安全装置に使用されるトーションバーのトルク-ねじれ角特性を説明するためのグラフである。
【
図10】
図10(A),(B)は、本発明の第1実施例に係る車両用シートのリクライニング動作を説明するための斜視図である。
【
図11】
図11(A),(B)は、本発明の第1実施例に係る安全装置の動作を説明するための側面図である。
【
図12】
図12は、本発明の第1実施例に係る安全装置の動作を説明するための斜視図(A)及び上面図(B)であり、車両衝突前の状態を示す。
【
図13】
図13は、本発明の第1実施例に係る安全装置の動作を説明するための斜視図(A)及び上面図(B)であり、車両衝突直後の状態を示す。
【
図14】
図14は、本発明の第1実施例に係る安全装置の動作を説明するための斜視図(A)及び上面図(B)であり、スイッチング時の状態を示す。
【
図15】
図15は、本発明の第2実施例に係る安全装置の構造を示す斜視図であり、シートバックのリクライニング操作を手動で行う形式のシートに適用されるものである。
【
図18】
図18は、本発明の第2実施例に係る車両用シートのリクライニング機構のロック解除動作を示す側面図であり、(A)がロックされた状態、(B)がロックを解除した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しつつ、詳細に説明する。最初に、本発明が創作された背景について、
図1及び
図2を参照して簡単に説明する。
【0038】
図1(A)は、シートベルト14を巻き取るシートベルトリトラクタ12がシートバック10に設けられた車両シートについて、シートバック10をあまり倒さずに乗員Pが着座している状態を示す。この状態から、正面衝突等の事象が発生すると、
図1(B)に示すように、乗員Pは慣性によって前方に倒れる方向に移動する。
【0039】
図2(A)は、シートバック10を大きく後方にリクライニングした状態を示す。この状態から、正面衝突等の事象が発生したとき、
図1(B)の場合とは異なり、
図2(B)に示すように、乗員Pは前方に倒れる方向にはあまり移動しない。これは、シートベルト14の上端部14aによって乗員Pがシートバック10に密着する方向に拘束されているためである。その結果、乗員Pの脊椎への圧縮圧力が加わり、重大な障害発生の懸念がある。
【0040】
そこで、本発明においては、シートのリクライニング機構にトーションバーを連結する構造を提案する。すなわち、シートバックの少なくとも一方の側にトーションバーを連結する。なお、トーションバーは、シートバックの左右両側に連結することもできる。
【0041】
本発明は、乗員Pが着座するシートクッション11と、乗員Pの背面に位置するシートバック10と、シートバック10の角度を調整可能なリクライニング機構とを備えた車両シートに装備される車両シート用安全装置である。
【0042】
(第1実施例)
以下、本発明の第1実施例について、
図3~
図12を参照して説明する。第1実施例は、モーターによる動力を利用してシートバックのリクライニング操作を行うタイプの車両シートに適用されるものである。
【0043】
図3は、本発明の第1実施例に係る車両シートのフレーム構造及び安全装置を示す斜視図である。
図4は、本発明の第1実施例に係る安全装置の構造を示す斜視図であり、
図3の一部を拡大して示す。
図5は、本発明の第1実施例に係る安全装置の構造を示す上面図である。
図6は、本発明の第1実施例に係る安全装置の構造を示す分解斜視図であり、
図4の一部に対応する。
図7は、本発明の第1実施例に適用可能な角度センサ122の構造を示す斜視図である。
図8は、本発明の第1実施例に係る安全装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【0044】
図3に示すように、リクライニング機構は、モーター110と、モーター110動力を伝えるセンターシャフト112とを備える。センターシャフト112の一端は、シャフト支持ブラケット113によって支持される。モーター110の動力は、センターシャフト112に設けられた歯車111及びセンターシャフト112を介して、一対のベベルギア114からなるベベルギア機構に伝達される。ベベルギア114には、ウォームシャフト115が連結されており、センターシャフト112の回転方向をベベルギア機構114によって90°変換した状態で伝達される。ウォームシャフト115の回転は、その上(外周面)に形成されたウォーム116、ウォームホイール118、トーションバーユニット120を介して、シートバックフレーム104Lの回転軸部106に伝達される。
【0045】
図4~
図6に示すように、本実施例に係る安全装置は、シートバック10の幅方向の一方の側(左側)において、一端が当該シートバックフレーム104Lの回転軸部106に連結された第1のトーションバー120aと;第1のトーションバー120aの他端に同軸に連結された第2のトーションバー120bと、車両の衝突発生後の所定のタイミングで、第1及び第2のトーションバー120a,120bのうち有効となるトーションバーを選択的に切替え可能なスイッチング機構(180,182,182a,184,186)と、スイッチング機構を制御する制御手段190(
図8)と、を備えている。
【0046】
第1のトーションバー120aの端部は、シートバック10の回転軸部106に連結される。シートバック10の「回転軸部」は、シートバックフレーム104Lの下端部においてリクライニング機構に連結される部分であり、円形の穴として特定することができる。あるいは、その穴を貫通して左右のシートバックフレーム104L,104Rに連結されたシャフト状の軸とすることもできる。更に、本実施例においては、シートバックフレーム104Lに形成された穴を貫通して設けられたトーションバー120aの端部として特定することもできる。
【0047】
本発明においては、第1のトーションバー120aの変位角に対するトルク特性T1(N・m)を、第2のトーションバー120bの変位角に対するトルク特性T2(N・m)よりも大きく設定する。これにより、前方衝突が発生した時に、第2のトーションバー120bがねじれ始め、その後、スイッチング機構(180,182,182a,184,186)によって、第1のトーションバー120aが有効になるように切替えることができる。これにより、衝突発生の初期段階ではトルク特性の低い第2のトーションバー120bによって速やかにシートバック10を起こすことができる。その後は、トルク特性の高い第1のトーションバー120aが有効となって、シートバック10が必要以上に前方に倒れることなく、乗員を適切且つ確実に拘束することができる。
【0048】
スイッチング機構(180,182,182a,184,186)は、第1のトーションバー120aの外周に設けられた第1のギア180と、第2のトーションバー120bの外周に設けられ、第1のギア180と噛み合う第2のギア182と、第2のギア182を第1のギア181に対して駆動することで、両ギア180,182の噛合い及び解除を可能とする駆動機構(182a,184,186)とを備える。
【0049】
第1のギア180は、第1のトーションバー120aの外周に固定され、スイッチング機構(182a,184,186)は、第2のトーションバー120bの外周に配置され、第2のギア182を軸方向に沿ってスライド可能に支持するガイド筒184と、第2のギア182をガイド筒184に沿って移動させるマイクロガスジェネレータ186を備えている。なお、第2のトーションバー120aは、ガイド筒184及び第2のギアの内部を通って、第1のトーションバー120aと結合されている。
【0050】
図5及び
図6に示すように、マイクロガスジェネレータ186のピストン部分186aが第2のギア182の一部に形成された突出部182aに当接し、第2のギア182を第1のギア180の方向に押すようになっている。
図5に示すように、ガイド筒184はウォームホイール118に固定され、マイクロガスジェネレータ186はガイド筒184のフランジ部分に固定されている。
【0051】
マイクロガスジェネレータ186が作動すると、第2のギア182がガイド筒184に沿ってスライドし、第1のギア180と噛み合うことで、有効となるトーションバーが第2のトーションバー120bから第1のトーションバー120aに切り替えられる。すなわち、切り替え前には第2のトーションバー120bが有効であり、切替え後は第1のトーションバー120aが有効となる。なお、ウォームギアの特性から,衝突時のみに第1及び第2のトーションバー(120a,120b)が変形する(機能する)ような設計になっている。
【0052】
ガイド筒184と第2のギア182のねじり剛性は、第1のトーションバー120aよりも十分に高くなっている。すなわち、第1のトーションバー120aと比較して、ガイド筒184と第2のギア182のねじり変形が無視できる程度の剛性(例えば、3倍以上)を有することになる。
【0053】
図4~
図7において、符号126は、第1のトーションバー120aをシートバックフレーム104Lに対して固定するためのコネクティングプレートである。また、
図5及び
図6において、符号124は、第1のトーションバー120aがシートサイドフレーム102Lから抜けるのを防ぐストッパーである。また、符号128は、シートバックフレーム104Lとシートサイドフレーム102Lとの間に配置されるスペーサである。
【0054】
図7に示すように、角度センサ(ポテンショメーター)122は、サイドフレーム102Lに形成されたスリット122aと、スリット122aに沿って移動可能なスライド部材122bと、抵抗領域122eの両端に電気的に接続された電源端子122cとグラウンド端子122dとを含む。角度センサ122としては、ポテンショメーターの他に、ロータリーエンコーダー等を使用することができる。
【0055】
図8に示すように、本実施例に係る安全装置は、シートバック10のリクライニング角度を検出するポテンショメーター122と、衝突の規模を検出する衝突検知センサ191と、乗員の体格を検出する体格センサ192とを備える。そして、制御装置194は、ポテンショメーター122と、衝突検知センサ191と、体格センサ192の少なくとも1つのセンサの出力に基づいて、スイッチング機構(マイクロガスジェネレータ186)を制御する。
【0056】
図9(A),(B),(C)は、トーションバー120a,120bのトルク-ねじれ角特性を説明するためのグラフである。
【0057】
制御装置194は、基本的には、
図9(A)に示すように、角度センサ122の出力に基づき、衝突発生直後は第2のトーションバー120bを有効にし、その後、リクライニング角度が所定の角度θsに達した時点で、第1のトーションバー120aを有効にするようにスイッチング機構(180,182,182a,184,186)を制御することができる。
【0058】
シートバック10が垂直な時の角度を0°とし、前方回転方向を正、後方リクライニング方向を負とした場合、衝突時におけるシートリクライニング角度が-30°よりも前方側であれば、制御装置194はスイッチング機構によるスイッチングを行わない、すなわち、マイクロガスジェネレータ186を作動させないという制御をすることができる(
図9(B))。一方、衝突時におけるシートリクライニング角度が-30°よりも後方であれば、途中でスイッチングを行うという制御をすることができる(
図9(A))。例えば、スイッチングするタイミング(θs)は、+5°~-30°とすることができる。
【0059】
制御装置194は、また、体格センサ192の出力に基づき、乗員の体格が所定の基準より大きい場合には、衝突直後から第1のトーションバー120aが有効になるようにスイッチング機構(186)を制御し(
図9(C))、乗員の体格が所定の基準より小さい場合には、第2のトーションバー120bが有効になるようにスイッチング機構(186)を制御(
図9(B))することができる。
【0060】
大型の体格の乗員の場合、そもそもその体重の重さから衝突中に吸収すべき乗員のエネルギー自体が大きくなるので、トルク特性の低い第2のトーションバー120bでは、衝突下で大型乗員のもつエネルギーを吸収しきれないため、第2のトーションバー120bから第1のトーションバー120aへのスイッチングを衝突初期の段階で実行することが好ましい。すなわち、第1のトーションバー120aへの切換を速やかに行うことで、実質的に第1のトーションバー120aのみを有効にするような制御することで、乗員のエネルギー吸収量を最大化することが可能となる。
【0061】
一方、小型乗員の場合は、衝突下の小型乗員のエネルギーは比較的小さいため、乗員への荷重入力を最小化するために、あえて第1のトーションバー120aに切替えること無く、第2のトーションバー120bのみでマイルドに乗員の拘束を達成する事ができる。その場合は、衝突現象の間は常に第2のトーションバー120bが有効となるように、スイッチングを行わないようにスイッチング機構(186)を制御する。すなわち、マイクロガスジェネレータ186を作動させない。
【0062】
乗員の体格については、例えば、成人男性における90%ile 以上の体格相当の乗員であれば(同等の体格の女性も含む)、早期スイッチングによって実質的に第1のトーションバー120aのみを有効とする制御を行うことができる。一方、成人女性における10%ile以下の体格相当の乗員であれば(同等の体格の男性も含む)、スイッチングを行わないことによって第2のトーションバー120bのみを有効とする制御が可能となる。
【0063】
制御装置194は、また、衝突検知センサ191の出力に基づき、衝突速度が所定の基準より高い場合には、リクライニング角度がθsに達した時点で第1のトーションバー120aが有効になるようにスイッチング機構(186)を制御し、衝突速度が所定の基準より低い場合には、第1のトーションバー120aを無効にし、第2のトーションバー120bのみが機能するようにスイッチング機構(186)を制御(
図9(B))することができる。
【0064】
衝突検知センサ191として加速度センサを使用した場合、検出された加速度を演算器で処理し、その結果推定される衝突速度(デルタV)が、例えば、25km/h以下のような低速衝突である場合には、衝突によるエネルギーが比較的小さいため、スイッチングをせずに第2のトーションバー120bのみで対応する(
図9(B))ことができる。一方、衝突速度が,例えば、25km/hより高い高速衝突であり、且つ、シートリクライニング位置が-60°よりも深い(寝ている)状態にある場合は、所定の角度θsに到達した時点で第1のトーションバー120aにスイッチするといった制御(
図9(A))をすることができる。
【0065】
(リクライニング機構の動作)
図10(A),(B)は、本発明の第1実施例に係る車両用シートのリクライニング動作を説明するための斜視図である。乗員は、シート側面等に取り付けられたモータースイッチ(
図8)を操作する事で,シートバック10の角度を調整することができる。シートサイドフレーム102Lに取り付けられたポテンショメーター122によって現在の角度をシステムが把握することができ、シートバック10の許容回転角度を規定することができる。また、ポテンショメーター122に加えて、リミットスイッチをさらに設けることもできる。
【0066】
シートバック10を後方に倒す方向にリクライニングスイッチを操作すると、その信号が制御装置194に送られる。制御装置194は、モーター110を駆動し、その動力をセンターシャフト112、ベベルギア114、ウォームシャフト115、ウォームギア機構(116、118)を介して、シートバックフレーム104Lの回転軸部106に伝える。これにより、
図10(A)に示すように、シートバックフレーム104L(104R)が後方に回動(スイング)する。
【0067】
一方、シートバック10を前方に起こすときには、制御装置194は、モーター110を後方に倒す場合とは逆方向に回転させ、その動力をセンターシャフト112、ベベルギア114、ウォームシャフト115、ウォームギア機構(116,118)を介して、シートバックフレーム104Lの回転軸部106に伝える。これにより、
図10(B)に示すように、シートバックフレーム104L(104R)が前方に回動(スイング)する。
【0068】
(安全装置の動作)
図11(A),(B)は、本発明の第1実施例に係る安全装置の動作を説明するための側面図である。
図12~14は、本発明の第1実施例に係る安全装置の動作を説明するための斜視図(A)及び上面図(B)である。
【0069】
図11(A)に示すように、シートのシートバック10が後方に大きく倒れた状態で車両衝突が発生した場合、シートバック10が慣性によって前方に起き上がるように動こうとする。本実施例においては、ウォーム116とウォームホイール118との噛み合いによって、リクライニング機構は機能せず、トーションバー120a,120bによってエネルギーを吸収する。
【0070】
本発明の基本的な態様を示す
図9(A)において、時間t0で衝突が発生したものとすると、シートバックトルク特性は第2のトーションバー120bで決まる。スイッチング機構の動作タイミングをt1からは、シートバックトルク特性は第1のトーションバー120aで決まる。
【0071】
本発明の基本的な態様においては、車両衝突が発生する前の段階では、
図12に示すように、第1のギア180と第2のギア182は噛合っていない状態となる。車両衝突が発生すると、
図13に示すように、シートバックフレーム104L,104Rが前方に倒れる方向に付勢され、シートバック10のリクライニング角度がθsに達するまでは、第2のトーションバー120bがエネルギーを吸収してねじれることになる。
【0072】
その後、
図14に示すように、シートバック10のリクライニング角度がθsに達すると、制御装置194によりマイクロガスジェネレータ186が起動され、第2のギア182を第1のギア180の方向にスライドさせ、両ギアを噛合わせる。第1のギア180と第2のギア182が噛合うと、シートバックフレーム104Lのトルクは第1のトーションバー120aによって吸収させることになる。
【0073】
本実施例においては、第1のトーションバー120aの変位角に対するトルク特性T1(N・m)を、第2のトーションバー120bの変位角に対するトルク特性T2(N・m)よりも大きく設定しているため、前方衝突が発生した時に、第2のトーションバー120bがねじれ始め、その後、スイッチング機構によって、第1のトーションバー120aが有効になるように切替えることができる。このため、衝突発生の初期段階ではトルク特性の低い第2のトーションバー120bによって速やかにシートバックを起こすことができる。その後は、トルク特性の高い第1のトーションバー120aが有効となって、シートバック10が必要以上に前方に倒れることなく、乗員を適切且つ確実に拘束することができる。
【0074】
なお、以上のような動作は基本的な一態様であり、上述したように、本発明においては、シートバック10の回転角度、衝突の度合い(強さ)、乗員の体格等に応じて、第1及び第2のトーションバー120a、120bの切替えるタイミングを制御可能なものである。
【0075】
繰り返しになるが、例えば、乗員の体格が所定の基準よりも小さい場合や、衝突の度合いが弱い場合には、
図9(B)に示すように、第2のトーションバー120aから第1のトーションバー120aへの切換を行わないようにすることができる。
【0076】
また、乗員の体格が所定の基準よりも大きい場合や、衝突の度合いが強い場合には、
図9(C)に示すように、衝突の瞬間に第2のトーションバー120aから第1のトーションバー120aへの切換を行い、実質的に第1のトーションバー120aのみを有効にして、エネルギー吸収を行うことができる。
【0077】
なお、第1のトーションバー120aの変位角に対するトルク特性T1(N・m)と、第2のトーションバー120bの変位角に対するトルク特性T2(N・m)が、変位角に対して徐々に大きくなるような(プログレッシブ)設定とすることもできる。
【0078】
衝突事故が発生した後は、トーションバー120a,120b及びスイッチング機構(186)を交換するだけで、安全装置の機能が復帰することになる。
【0079】
(第2実施例)
以下、本発明の第2実施例について、
図15~
図18を参照して説明する。第2実施例は、モーターによる動力を用いず、シートバックのリクライニング操作を手動で行うタイプの車両シートに適用されるものである。本実施例の説明(図面)において、上述した第1実施例と同一又は対応する構成要素については、下二桁が同じ数字の参照符号を付すものとする。例えば、第1のトーションバーは、第1の実施例においては「120a」であるのに対して、本実施例では「220a」となる。
【0080】
図15は、本発明の第2実施例に係る安全装置の構造を示す斜視図であり、シートバック10のリクライニング操作を手動で行う形式のシートに適用されるものである。
図16は、
図15の構造の分解斜視図である。
図17は、
図15及び
図16に示す構造を組み立てた(完成させた)状態の斜視図である。
【0081】
本実施例に係るリクライニング機構は、トーションバー220a,220bを介してシートバックフレーム204L(一方は図示せず)の回転軸部206に連結されたギア部材226と、ロックプレートシャフト230の端部に連結されたロックプレート228と、ギア部材226とロックプレート228との噛み合いを解放するレバー224とを備えている。
【0082】
レバー224にはレバーガイドシャフト232が結合され、レバーガイド溝234に沿って動くようになっている。ロックプレート228には、ロックプレートシャフト230が結合されている。そして、レバー224を上方に持ち上げた時に、ロックプレート228とギア部材226の噛み合いが解除される。その結果、シートバック10がフリーな状態となり、リクライニング角度を調整可能となっている。
【0083】
図15及び
図16に示すように、本実施例に係る安全装置は、第1実施例と同様に、シートバックフレーム104Lに連結された第1及び第2のトーションバー220a,220bを備えている。第1のトーションバー220aの一端(内側端部)は、シートバックフレーム204Lの回転軸部260に対して固定されている。第2のトーションバー220bの他端(外側端部)は、ギア部材226に連結されている。
【0084】
図15及び
図17に示すように、レバー224の一部、リクライニング機構、安全装置を覆うカバー238が設けられている。カバー238には、第2のトーションバー220bの端部を固定するストッパー260と、ロックプレートシャフト230の端部を固定するストッパー262が設けられている。レバー224にはスプリング236の一端が連結され、スプリング236の他端は、カバー238に連結される。
【0085】
なお、図中の符号244は、第1のトーションバー220aをシートバックフレーム204Lに対して固定するためのコネクティングプレートである。また、符号252は、レバーガイドシャフト206とレバー224との間に連結されるレバーガードピンである。符号254は、ロックプレートシャフトエクステンションであり、一端がロックプレートシャフト230の端部に連結される。
【0086】
シートサイドフレーム202Lには、レバーガイドシャフト230の動きを規定するレバーガイド溝234が形成されている。また、シートバックフレーム204Lの回転角度を規定するガイド溝242が形成されている。
【0087】
レバー224には、ロックプレートピンガイド溝249が形成され、ここにロックプレートピン248が挿入され、ロックプレート228の動きがガイドされる。
【0088】
図18は、本発明の第2実施例に係る車両用シートのリクライニング機構のロック解除動作を示す側面図であり、(A)がロックされた状態、(B)がロックを解除した状態を示す。
【0089】
図18(A)に示すように、本実施例に係るシートにおいて、レバー224が規定の位置(例えば、水平状態)にあるときには、ギア部材226はロックプレート228と噛み合っているため、リクライニングを行うことはできない。
【0090】
一方、
図18(B)に示すように、レバー224を上方に引き上げると、ロックプレートピン248がロックプレートピンガイド262に沿って移動し、ロックプレート228が反時計方向に回転する。これによって、ギア部材226とロックプレート228との噛み合いが解除され、シートバック10がリクライニング可能となる。
【0091】
(安全装置の動作)
本実施例に使用される安全装置(220a,220b,221,223)の特性、機能、作用については、上述した第1実施例と同様であるため、重複した説明は省略する。
【0092】
図10(A)に示すように、シートのシートバック10が後方に倒れた状態で車両衝突が発生した場合、シートバック10が慣性によって前方に起き上がるように動こうとする。本実施例においては、ギア部材226とロックプレート228との噛み合いによって、リクライニング機構は機能せず、トーションバー220a,220bによってエネルギーを吸収する。
【0093】
車両衝突初期の段階では、シートバックフレーム204Lが前方に倒れる方向に付勢されると、シートバック10のリクライニング角度がθsに達するまでは、第2のトーションバー220bがエネルギーを吸収してねじれることになる。
【0094】
本実施例の基本的な態様においては、上述した第1実施例と同様に、車両衝突が発生する前の段階では、第1のギア280と第2のギア282は噛合っていない状態となる。車両衝突が発生すると、シートバックフレーム104L,104Rが前方に倒れる方向に付勢され、シートバック10のリクライニング角度がθsに達するまでは、第2のトーションバー220bがエネルギーを吸収してねじれることになる。
【0095】
その後、シートバック10のリクライニング角度がθsに達すると、制御装置(194)によりマイクロガスジェネレータ286が起動され、第2のギア282を第1のギア280の方向にスライドさせ、両ギアを噛合わせる。第1のギア280と第2のギア282が噛合うと、シートバックフレーム204Lのトルクは第1のトーションバー220aによって吸収させることになる。
【0096】
なお、以上のような動作は基本的な一態様であり、第1実施例と同様に、シートバック10の回転角度、衝突の度合い(強さ)、乗員の体格等に応じて、第1及び第2のトーションバー220a、220bの切替えるタイミングを制御可能なものである。
【0097】
本発明を上記の例示的な実施形態と関連させて説明してきたが、当業者には本開示により多くの等価の変更および変形が自明であろう。したがって、本発明の上記の例示的な実施形態は、例示的であるが限定的なものではないと考えられる。本発明の精神と範囲を逸脱することなく、記載した実施形態に様々な変化が加えられ得る。