(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180200
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】プレス成形方法及びプレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20231213BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D22/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165325
(22)【出願日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2022092660
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】飛田 隼佑
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA06
4E137AA11
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CA24
4E137DA15
4E137EA03
4E137GA03
4E137GA08
4E137GB03
(57)【要約】
【課題】プレス成形後のトリミング工程を必須とすることなく、縮みフランジ変形によって生じるしわを十分に抑制し、曲げ成形にも適用可能なプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法は、外周縁又はその一部が外方に向かって凸状に湾曲した凸状外周縁部3aを有する天板部3と、天板部3に連続する縦壁部5とを有するプレス成形品1を成形するプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法であって、金属板を中間成形品15に成形する第1成形工程と、第1成形工程で成形した中間成形品15を目標形状のプレス成形品1に成形する第2成形工程とを備え、中間成形品15は、少なくとも天板部3の凸状外周縁部3aに対応する部分の天板部3と縦壁部25とが成す角度が、目標形状のプレス成形品1の天板部3と縦壁部5とが成す角度よりも大きいことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周縁又はその一部が外方に向かって凸状に湾曲した凸状外周縁部を有する天板部と、該天板部に連続する縦壁部とを有するプレス成形品を成形するプレス成形方法であって、
金属板を中間成形品に成形する第1成形工程と、
該第1成形工程で成形した前記中間成形品を目標形状の前記プレス成形品に成形する第2成形工程とを備え、
前記中間成形品は、少なくとも前記天板部の凸状外周縁部に対応する部分の天板部と縦壁部とが成す角度が、前記目標形状のプレス成形品の天板部と縦壁部とが成す角度よりも大きいことを特徴とするプレス成形方法。
【請求項2】
前記第1成形工程は、絞り成形又は曲げ成形を適用し、
前記第2成形工程は、曲げ成形を適用することを特徴とする請求項1記載のプレス成形方法。
【請求項3】
前記金属板を、引張強度が590MPa級以上の鋼板とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス成形方法。
【請求項4】
外周縁又はその一部が外方に向かって凸状に湾曲した凸状外周縁部を有する天板部と、該天板部に連続する縦壁部とを有するプレス成形品の製造方法であって、
金属板を中間成形品に成形する第1成形工程と、
該第1成形工程で成形した前記中間成形品を目標形状の前記プレス成形品に成形する第2成形工程とを備え、
前記中間成形品は、少なくとも前記天板部の凸状外周縁部に対応する部分の天板部と縦壁部とが成す角度が、前記目標形状のプレス成形品の天板部と縦壁部とが成す角度よりも大きいことを特徴とするプレス成形品の製造方法。
【請求項5】
前記第1成形工程は、絞り成形又は曲げ成形を適用し、
前記第2成形工程は、曲げ成形を適用することを特徴とする請求項4記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項6】
前記金属板を、引張強度が590MPa級以上の鋼板とすることを特徴とする請求項4又は5に記載のプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天板部と、縦壁部とを有するプレス成形品を成形するプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法に関し、特に、前記プレス成形品を成形する際の縮みフランジ変形に伴うしわの発生を抑制するプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突安全性基準の厳格化により、車体の衝突安全性の向上が進む中で、二酸化炭素排出規制を受けて、燃費向上やEV化のために車体の軽量化も必要とされている。これら車体の衝突安全性向上と軽量化を両立させるために、車体構造部品への590MPa級以上の高強度鋼板(ハイテン材とも称する)の適用が進んでいる。ハイテン材を車体構造部品にプレス成形する際には、縮みフランジ変形により生じるしわの抑制が課題となっている。
【0003】
例えば、自動車部品には、AピラーアッパーやAピラーロア、バンパー部品等のように、天板部と、縦壁部と、フランジ部を有する部品がある。このような部品において天板部の外周縁又はその一部が外方に向かって凸状に湾曲した形状となっている場合、プレス成形の際に当該部位のフランジ部は縮みフランジ変形し、フランジ部の端部にしわが発生する場合がある。特にハイテン材の場合、高強度化によって座屈しやすくなり、しわが発生しやすい。また、フランジ部を有さず、天板部と縦壁部から構成される部品も同様に、縮みフランジ変形によって縦壁部の端部にしわが発生しやすい。
【0004】
そこで、特許文献1には、天板部と、該天板部の少なくとも片側に連続して先端にフランジのない斜壁部を有し、斜壁部の全体もしくは一部が平面視でプレス成形品の長手方向において斜壁部側に凸状に湾曲したプレス成形品を、凹状のダイと凸状のパンチにより成形するに際し、成形途中においてブランク材における斜壁部に相当する部位よりも端部側の部位をダイとパンチとで挟持し、端部側の部位を挟持した状態で斜壁部を成形することにより、ブランク材の板厚方向への座屈を防止して、斜壁部で発生するしわを抑制する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、天板部とフランジ部とが側壁部を介して幅方向で連続しているハット形断面を有すると共に天板部及びフランジ部が長手方向に沿って天板部側に凸に湾曲した湾曲部分を有する製品形状に、金属板をプレス成形してプレス成形品を製造するに際し、フランジ部位置よりも外周部分に対しシワ押さえで上記金属板を押さえるシワ押さえ領域を設定し段絞りで成形を行う段絞り工程を有し、段絞りで成形を行う際に、フランジ部位置の一部にも、シワ押さえで押さえる付加領域を設定することにより、フランジ部で発生するしわを抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-221558号公報
【特許文献2】特開2018-034176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のプレス成形方法では、ブランク材における斜壁部に相当する部位よりも端部側の部位をダイとパンチで挟持した状態で斜壁部を成形するため、ダイとパンチで挟持した部位を次工程でトリミングする必要がある。
【0008】
また、特許文献2に記載のプレス成形品の製造方法は、フランジしわの発生を抑制できるものの、しわ押さえを使用するため、曲げ(フォーム)成形によるプレス成形には適用できないという課題がある。
【0009】
本発明は、係る課題を解決するためになされたものであり、プレス成形後のトリミング工程を必須とすることなく、縮みフランジ変形によって生じるしわを十分に抑制し、曲げ成形にも適用可能なプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係るプレス成形方法は、外周縁又はその一部が外方に向かって凸状に湾曲した凸状外周縁部を有する天板部と、該天板部に連続する縦壁部とを有するプレス成形品を成形するプレス成形方法であって、金属板を中間成形品に成形する第1成形工程と、該第1成形工程で成形した前記中間成形品を目標形状の前記プレス成形品に成形する第2成形工程とを備え、前記中間成形品は、少なくとも前記天板部の凸状外周縁部に対応する部分の天板部と縦壁部とが成す角度が、前記目標形状のプレス成形品の天板部と縦壁部とが成す角度よりも大きいことを特徴とするものである。
【0011】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記第1成形工程は、絞り成形又は曲げ成形を適用し、前記第2成形工程は、曲げ成形を適用することを特徴とするものである。
【0012】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記金属板を、引張強度が590MPa級以上の鋼板とすることを特徴とするものである。
【0013】
(4)本発明に係るプレス成形品の製造方法は、外周縁又はその一部が外方に向かって凸状に湾曲した凸状外周縁部を有する天板部と、該天板部に連続する縦壁部とを有するプレス成形品の製造方法であって、金属板を中間成形品に成形する第1成形工程と、該第1成形工程で成形した前記中間成形品を目標形状の前記プレス成形品に成形する第2成形工程とを備え、前記中間成形品は、少なくとも前記天板部の凸状外周縁部に対応する部分の天板部と縦壁部とが成す角度が、前記目標形状のプレス成形品の天板部と縦壁部とが成す角度よりも大きいことを特徴とするものである。
【0014】
(5)また、上記(4)に記載のものにおいて、前記第1成形工程は、絞り成形又は曲げ成形を適用し、前記第2成形工程は、曲げ成形を適用することを特徴とするものである。
【0015】
(6)また、上記(4)又は(5)に記載のものにおいて、前記金属板を、引張強度が590MPa級以上の鋼板とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、金属板を中間成形品に成形する第1成形工程と、中間成形品を目標形状のプレス成形品に成形する第2成形工程とを備えており、中間成形品は、少なくとも前記天板部の凸状外周縁部に対応する部分の天板部と縦壁部とが成す角度が、前記目標形状のプレス成形品の天板部と縦壁部とが成す角度よりも大きくなっている。これにより、第1成形工程では縮みフランジ変形量を低減して中間成形品を成形できると共に、平板状のブランクよりも剛性が高い中間成形品を第2成形工程で目標形状に成形するため、第2成形工程の成形過程で縮みフランジ変形による材料移動が生じにくく、かつ、第2成形工程の成形時には縮み方向の材料流れに伸び方向の材料流れが加わり、目標成形品の板厚増加を抑制できる。
これにより、しわのない良好な形状のプレス成形品が得られ、プレス成形における歩留まり向上に繋がる。
また、パンチとダイでブランクの端部を挟持する必要がないので、従来のトリミング工程を必須としない。
さらに、しわ押さえも必要としないので、曲げ成形にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るプレス成形方法の説明図である。
【
図2】実施の形態で対象とした部品(目標形状)の説明図であり、
図2(a)は斜視図、
図2(b)は平面図である。
【
図3】実施の形態の第2成形工程における成形過程を示す図である。
【
図4】第1成形工程及び第2成形工程における材料流入量の説明図である。
【
図5】中間成形品の天板部と縦壁部とが成す角度と、各工程における材料流入量との関係を示すグラフである。
【
図6】実施例の本発明例における中間成形品の板厚増加率分布及び最大板厚増加率を示す図である。
【
図7】実施例の本発明例における目標成形品(プレス成形品)の板厚増加率分布及び最大板厚増加率を示す図である。
【
図8】従来のプレス成形方法で成形したプレス成形品の板厚増加率分布及び最大板厚増加率を示す図である。
【
図9】従来のプレス成形方法における成形過程を示す図である。
【
図10】本発明を適用できる部品(目標形状)の他の例を示す図であり、
図10(a)は斜視図、
図10(b)は平面図である。
【
図11】
図10の部品を従来のプレス成形方法で成形した場合に生じるしわを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施の形態に係るプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法が対象とするプレス成形品について、
図2に基づいて説明する。なお、
図2は、プレス成形品の一部を示したものである。
図2に示すプレス成形品1は、天板部3と、縦壁部5と、フランジ部7を有するものであって、天板部3の外周縁の一部が外方に向かって凸状に湾曲した部位(以下、「凸状外周縁部3a」という)を有するものである。なお、凸状外周縁部3aと他の部位との境界は、例えば天板部3を平面視したときの凸状外周縁部3aのR止まりまでとする。
また、本例のプレス成形品1の天板部3と縦壁部5とが成す角度、縦壁部5とフランジ部7とが成す角度はそれぞれ90°である。
【0019】
プレス成形品1における天板部3と縦壁部5の境界部は、プレス成形に用いたパンチの肩部の形状に対応したR形状となっているので、当該部位を「パンチ肩R部9」と称する。また、縦壁部5とフランジ部7の境界部はダイの肩部の形状に対応したR形状となっているので「ダイ肩R部11」と称する。以降、本明細書において単に「パンチ肩R部9」、「ダイ肩R部11」と表記したときには金型側ではなくプレス成形品1側の上記部位を指す。
【0020】
まず、本実施の形態に係るプレス成形方法を説明するに先立って、従来の方法で
図2のようなプレス成形品1をプレス成形する場合の問題点について説明する。
図8は、従来の方法でプレス成形品1をプレス成形した場合についてFEM解析した結果であり、板厚増加率の分布を色の濃淡で示している。板厚増加率は、プレス成形後のプレス成形品1の板厚とプレス成形前のブランクの板厚との差(板厚増分)を求め、ブランクの板厚との比(割合)で表したものであり、値が大きいほど板厚が増加していることを表している。
【0021】
図2のようなプレス成形品1を従来の方法で成形する場合、例えば、目標形状に対応した形状のパンチとダイを用い、平板状のブランクを1工程で目標形状に成形する。この場合、天板部3の凸状外周縁部3aに対応する縦壁部5とフランジ部7は、縮みフランジ変形して材料が集中し、しわが発生しやすい。
図2のプレス成形品1の場合、最も板厚が増加したのは
図8の矢印で示すフランジ部7の端部であり、最大板厚増加率は+12.5%であった。このように、局所的に板厚が増加することで当該部分にしわが生じ、問題となっていた。
図8のようにフランジ部7の板厚が局所的に増加する理由を
図9を用いて説明する。
【0022】
図9は、上述した従来のプレス成形方法でプレス成形品1を成形する場合の成形過程を示したものである。
図9では、天板部3が凸状に湾曲した部位に対応するブランク13が変形する過程を上面図、正面図及び側面図でそれぞれ示している。各図においてはブランク13の形状を分かりやすくするため、ダイの図示を省略した。
なお、図中の「15mmup」等の数値は、パンチ21とダイの距離(板厚分を除く)を示している。したがって、「15mmup」の場合、パンチ21におけるプレス成形品1のフランジ部7を成形する部分とダイにおけるフランジ部7を成形する部分とのプレス成形方向の隙間がブランク13の板厚に+15mmを加えた図であることを示している。
【0023】
図8に示す天板部3の凸状外周縁部3aに対応する縦壁部5が、
図9に示すように成形され始めると、「10mmup」の正面図に示すように、縮みフランジ変形によってブランク13の端部に例えば二つの山状のしわが生じる。この二つの山状のしわは、成形が進んで縮みフランジ変形が大きくなるのにしたがって明瞭になる(「5mmup」の正面図参照)。
【0024】
上記のように成形の進行に伴って、ダイが下降してダイの下面がしわの山の頂部に到達すると、ダイがしわを押し潰すように成形が進行し(「3mmup」、「1mmup」参照)、成形下死点に至る。
【0025】
上記のように、従来の成形過程では、パンチ21とダイの間の隙間でしわが明瞭になり、この大きくなったしわを潰してフランジ部7を成形しようとするため、しわ部分の板厚が局所的に増加するとともにプレス成形品1にしわが残存する原因となっていた。
【0026】
成形過程でしわが生じないようにする手段としては、フランジ部7に相当する部位にしわ押さえを用いることが考えられるが、しわ押えを使用するのは絞り成形であるため、曲げ成形では適用できない。
【0027】
また、上述した縮みフランジ変形によるしわは、
図10に示すようなプレス成形品14の場合も同様に生じる。
図10のプレス成形品14は、フランジ部を有さず、天板部3と、縦壁部5によって構成されるものであって、
図2のプレス成形品1と同様に天板部3の外周縁の一部が外方に向かって凸状に湾曲した部位(凸状外周縁部3a)を有するものである。
【0028】
図10のようなプレス成形品14を従来の方法、即ち、目標形状に対応した形状のパンチとダイを用い、平板状のブランクを1工程で目標形状に成形すると、
図11に示すように、天板部3の凸状外周縁部3aに対応する縦壁部5の端部(図中破線円で囲んだ部分)にしわが発生する。
【0029】
1工程で成形した場合に、
図2のプレス成形品1のフランジ部7や
図10のプレス成形品14の縦壁部5にしわが生じる原因は、縮みフランジ変形により、材料が凸状湾曲部位に集中して移動するからである。
そこで、発明者は、中間成形品を介して目標形状を成形する2工程でのプレス成形方法を用いて、各工程における縮みフランジ変形量を低減する方法について検討した。そして、縮みフランジ変形量を抑えて成形することができ、かつ、目標成形時に伸びの材料流れを生じさせて縮み方向の材料移動を低減することができるような中間成形品の形状を発案した。
本実施の形態に係るプレス成形方法は上記発案に基づくものである。以下、
図2のプレス成形品を成形する場合を例に挙げて、具体的に説明する。
【0030】
本実施の形態に係るプレス成形方法は、
図2のように外周縁の一部が外方に向かって凸状に湾曲した凸状外周縁部3aを有する天板部3と、天板部3にパンチ肩R部9を介して連続する縦壁部5と、縦壁部5にダイ肩R部11を介して連続するフランジ部7とを有するプレス成形品1を成形する方法であって、
図1に示すように、金属板であるブランク13を中間成形品15に成形する第1成形工程と、中間成形品15を目標形状であるプレス成形品1に成形する第2成形工程を備えている。
なお、プレス成形方法を実行することによって、プレス成形品1が製造されるので、プレス成形方法の発明は、プレス成形品の製造方法の発明として構成することができる。したがって、以下に説明するプレス成形方法の各工程及び作用効果はプレス成形品の製造方法の各工程及び作用効果と共通するものである。
【0031】
図1(a)は第1成形工程の成形前の状態のパンチ17、ダイ19及びブランク13の斜視図であり、
図1(b)は
図1(a)のA断面図である。
また、
図1(c)は第2成形工程の成形前の状態のパンチ21、ダイ23及び中間成形品15の斜視図であり、
図1(d)は
図1(c)のB断面図である。
なお、
図1(a)~
図1(d)の各金型は成形面部の形状のみを図示している。
また、
図1(d)に示す中間成形品15において、プレス成形品1に対応する部位には同一の符号を付している。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0032】
<第1成形工程>
第1成形工程は、
図1(a)、
図1(b)に示すように金属板であるブランク13を中間成形品15にプレス成形する工程である。
パンチ17及びダイ19は、中間成形品15の天板部3に対応する成形面部と縦壁部25に対応する成形面部とが成す角度θ
1が、第2成形工程で用いるパンチ21及びダイ23におけるプレス成形品1の天板部3に対応する成形面部と縦壁部5に対応する成形面部とが成す角度θ
2よりも大きい形状となっている(θ
1>θ
2)。
【0033】
第1成形工程では、
図1(b)に示すように、パンチ17の天板成形面部上面とパッド27でブランク13の一部を挟持した状態でダイ19を相対的に移動させ、天板部3と縦壁部25とが成す角度が、目標形状のプレス成形品1の天板部3と縦壁部5とが成す角度よりも大きい中間成形品15を成形する。
中間成形品15は上記のような形状であることから、平板状のブランク13を目標形状に成形する場合と比べて、小さい縮みフランジ変形量で成形することができる。
したがって、第1成形工程において中間成形品15の縦壁部25の端部は板厚が増加しにくく、しわが生じにくい。
【0034】
<第2成形工程>
第2成形工程は、第1成形工程で成形した中間成形品15を目標形状のプレス成形品1に成形する工程である。第2成形工程のパンチ21及びダイ23は目標形状に対応した形状であり、
図9の従来例の金型と同様であるので同一の符号を付している。
【0035】
第2成形工程では、
図1(d)に示すように、中間成形品15の天板部3をパンチ21の上面に合わせてセットし、パンチ21とパッド27で中間成形品15の天板部3を挟持した状態でダイ23を相対的に移動させ、中間成形品15を目標形状に成形する。
中間成形品15をパンチ21の上面にセットした状態では、中間成形品15の縦壁部25は、周方向に湾曲して下方に傾斜し、かつパンチ21の縦壁成形面部から離間した状態になっており、傘を広げたような状態になっている。
この状態から、成形を開始することになるが、その成形過程の様子を
図3に示す。
図3では、
図9と同様にブランク13の変形過程を、上面図、正面図及び側面図でそれぞれ示している。ダイ23の図示を省略した点や「15mmup」等の数値の意味も
図9と同様である。
【0036】
「15mmup」の状態では、未だダイ23が中間成形品15の縦壁部25に接触しておらず、縦壁部25は、
図1(d)に示した傘を広げたような形状となっている。
「15mmup」の状態からダイ23を下降させると、「10mmup」の時点でダイ23が中間成形品15の縦壁部25に接触し、「10mmup」の側面図に示すように、縦壁部25に屈曲部が生じてパンチ肩R部9側から目標形状の縦壁部5に成形され始める。
この成形は縮みフランジ変形を伴うものであるが、中間成形品15は加工硬化しているため平板状のブランク13よりも剛性が高く、材料移動が生じにくい。
また、ダイ23が湾曲した縦壁部25を押圧することで、縦壁部25の先端部を周方向に引っ張る伸びフランジ方向の力、すなわち傘を広げるような力が作用し、縮みフランジ変形に対抗して縮み方向の材料流れを緩和させる。
このように、中間成形品15の剛性が高いことから成形過程で材料移動が生じにくくなっており、さらに、縮みフランジ変形を緩和する材料流れが生じるため、第2成形工程においてもプレス成形品1のフランジ部7は板厚が増加しにくい。
【0037】
上記のように、本実施の形態の第1成形工程では、天板部3と縦壁部25とが成す角度が目標形状よりも大きい中間成形品15を成形し、第2成形工程で中間成形品15を目標形状に成形することにより、縮みフランジ変形による板厚増加の問題を解消し、プレス成形品1のフランジ部7に生じるしわを抑制できる。
さらに、パンチとダイでブランクの端部を挟持する必要がないので、特許文献1の従来例のようにトリミング工程を必要としない。
【0038】
また、本実施の形態のプレス成形方法は、しわ押さえを用いることなくフランジ部7のしわを抑制することができるので、曲げ(フォーム)成形によるプレス成形にも適用できる。即ち、中間成形品15を成形する第1成形工程で絞り成形又は曲げ成形を適用し、目標形状を成形する第2成形工程で曲げ成形を適用する場合に特に効果的である。
【0039】
さらに、本実施の形態のプレス成形方法は、縮みフランジ変形によってしわが生じやすい高強度鋼板を用いる場合に特に効果的である。例えば、金属板(ブランク)を引張強度が590MPa級以上の鋼板としてもよく、その場合も十分なしわの低減効果を奏することができる。
【0040】
上記は、
図2のようなフランジ部7を有するプレス成形品1を成形する場合を例に挙げて説明したものであるが、
図10、
図11に示したようなフランジ部を有さないプレス成形品14を成形する場合にも同様の作用によりしわを低減することができる。
なお、上述のプレス成形方法の第1成形工程及び第2成形工程を実行することで、目標とするプレス成形品が製造でき、製造されたプレス成形品は上述の通り、しわが抑制されたものとなる。
【0041】
また、本実施の形態のプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法は、天板部3と縦壁部25とが成す角度が目標形状より大きい中間成形品15を成形することで、目標成形品に生じるしわを従来よりも低減できるようにしたものであるが、中間成形品15の当該角度を大きくしすぎると目標成形品におけるしわの低減効果が低下する場合があるので、この点について説明する。
【0042】
図4(a)は、第1成形工程における成形前のブランク13の断面形状を破線、成形後の成形下死点における中間成形品15の断面形状を実線で示したものである。ここで、
図4(a)におけるブランク13の端部から中間成形品15の縦壁部25の端部までの距離を第1成形工程での材料流入量と定義する。
この第1成形工程で、中間成形品15の天板部3と縦壁部25とが成す角度が大きいほど材料流入量は小さくなる。材料流入量が小さいと第1成形工程における縮みフランジ変形量が小さくなるので、中間成形品15の当該角度を大きくすることで第1成形工程による板厚増加(ブランク13からの板厚増加)を低減できる。
【0043】
図4(b)は、第1成形工程の成形下死点における中間成形品15の断面形状を破線、第2成形工程の成形下死点におけるプレス成形品1の断面形状を実線で示したものである。ここで、
図4(b)における中間成形品15の縦壁部25の端部からプレス成形品1のフランジ部7の端部までの距離を第2成形工程での材料流入量と定義する。
この第2成形工程での材料流入量は、中間成形品15の天板部3と縦壁部25とが成す角度が大きいほど大きくなる。材料流入量が大きいと第2成形工程における縮みフランジ変形量が大きくなるので、中間成形品15の当該角度を大きくすることで第2成形工程による板厚増加(中間成形品15からの板厚増加)は大きくなる。
【0044】
なお、
図4の例は中間成形品15にフランジ部が形成されていない例であるが、中間成形品15の天板部3と縦壁部25とが成す角度が目標形状に近い場合には中間成形品15にフランジ部が形成されていてもよい。その場合は、ブランク13の端部から中間成形品15のフランジ部の端部までの距離が第1成形工程での材料流入量となり、中間成形品15のフランジ部の端部からプレス成形品1のフランジ部7の端部までの距離が第2成形工程での材料流入量となる。
【0045】
上述したように、中間成形品15の天板部3と縦壁部25とが成す角度が大きいほど、第1成形工程での材料流入量が小さく、第2成形工程での材料流入量が大きくなる。上記関係の一例として、目標形状の天板部3と縦壁部5とが成す角度が90°の場合の中間成形品15の当該角度と各工程の材料流入量との関係を
図5に示す。
【0046】
中間成形品15の当該角度を大きくしすぎた場合、第1成形工程での板厚増加は小さくなるが、第2成形工程での板厚増加が大きくなって、最終的な板厚増加を十分に低減できない場合がある。したがって、第1成形工程、第2成形工程の双方でバランスよく板厚増加を低減するように中間成形品15の当該角度を設定することで、本発明はより効果的になる。例えば、中間成形品15の天板部3と縦壁部25とが成す角度を目標形状の1.1倍~1.8倍程度とするのが好ましい。
この点については、下記の実施例で具体的に説明する。
【実施例0047】
本発明のプレス成形方法及びプレス成形品の製造方法における縮みフランジ変形によるしわの抑制効果について、FEM解析を用いて具体的な検討を行ったので、その結果について以下に説明する。
本実施例では、板厚1.0mm、引張強度が980MPa級の鋼板をブランクとして用い、
図2のプレス成形品1を目標形状としてプレス成形する場合について確認した。
鋼板を1工程で目標形状に成形する従来例と、鋼板を2工程で目標形状に成形する本発明例についてFEM解析を実施し、縮みフランジ変形部位における最大板厚増加率を求めた。なお、従来例の解析結果は
図8で説明したとおりであるので、以下では本発明例の解析結果について説明する。
【0048】
本発明例では、天板部3と縦壁部5とが成す角度が90°である目標形状に対し、中間成形品15の当該角度を100°、110°、120°、130°とした4例についてFEM解析を行った。
図6に第1成形工程における中間成形品15の板厚増加率分布、
図7に第2成形工程における目標成形品(プレス成形品1)の板厚増加率分布を示す。
図6、
図7において、「100°」等の数値は中間成形品15の天板部3と縦壁部25とが成す角度を示しており、「12.1%」等の数値は最大板厚増加率を示している。また、
図6、
図7の最大板厚増加率はいずれもブランクの板厚を基準とする増加率を示したものである。
図6~
図8の結果をまとめたものを表1に示す。
【0049】
【0050】
図6~
図8、及び、表1に示すように、従来例では目標成形品(プレス成形品1)の最大板厚増加率が12.5%であったのに対し、本発明例(No.2~No.5)では最終成形品の最大板厚増加率がすべて従来例より低減した。上記のように、本実施例では、本発明によって縮みフランジ変形によるフランジしわを従来よりも抑制できることが示された。
なお、前述したように、本発明においては、第1成形工程、第2成形工程の双方でバランスよく板厚増加を低減できるように中間成形品15の天板部3と縦壁部25とが成す角度を設定することで、より効果的にしわを抑制することができる。この点について、以下に具体的に説明する。
【0051】
No.2~No.5の中間成形品15の最大板厚増加率を比較すると分かるように、中間成形品15の天板部3と縦壁部25とが成す角度が大きいほど、第1成形工程における中間成形品15の最大板厚増加率が減少している。これは、当該角度を大きくするほど第1成形工程での材料流入量(
図4(a)参照)が小さくなって縮み変形量が低減するからである。
【0052】
また、No.2~No.5の目標成形品の最大板厚増加率を比較すると分かるように、中間成形品15の天板部3と縦壁部25とが成す角度が大きいほど、第2成形工程における目標成形品の最大板厚増加率も減少している。ここで、最大板厚増加率が最も小さいのは、当該角度を最も大きくしたNo.5である。
【0053】
本実施例では、中間成形品15の天板部3と縦壁部25とが成す角度が最も大きい例が最も板厚増加率を低減した。このように、第2成形工程後の目標成形品の板厚増がなるべく小さくなるように中間成形品15の当該角度を設定すればよく、これにより、しわ抑制効果を最大限に奏することができて効果的である。