(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180213
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】泌尿器科慢性骨盤痛症候群の予防又は治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 33/244 20190101AFI20231213BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20231213BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20231213BHJP
A61P 13/00 20060101ALI20231213BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20231213BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20231213BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20231213BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231213BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
A61K33/244 ZNA
A61K9/16
A61K9/51
A61P13/00
A61P13/10
A61P13/08
A61P19/00
A61P43/00 111
A61P29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067289
(22)【出願日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】17/835,634
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】507196642
【氏名又は名称】財團法人國家衛生研究院
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL HEALTH RESEARCH INSTITUTES
【住所又は居所原語表記】No.35,Keyan Road,Zhunan Town,Miaoli County,Taiwan,35053(TW)
(71)【出願人】
【識別番号】506292158
【氏名又は名称】国立台湾大学
【氏名又は名称原語表記】National Taiwan University
【住所又は居所原語表記】No. 1, Roosevelt Rd. Sec.4, Da‘an District, Taipei,Taiwan
(71)【出願人】
【識別番号】510075893
【氏名又は名称】ナショナル チュン シン ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】502250743
【氏名又は名称】國立成功大學
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL CHENG KUNG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(72)【発明者】
【氏名】連 偉志
(72)【発明者】
【氏名】林 峯輝
(72)【発明者】
【氏名】王 恵民
(72)【発明者】
【氏名】程 徳勝
(72)【発明者】
【氏名】周 欣然
(72)【発明者】
【氏名】梁 雅鈞
(72)【発明者】
【氏名】王 家義
(72)【発明者】
【氏名】盧 福翊
(72)【発明者】
【氏名】張 恵慈
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076AA65
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB21
4C076BB31
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA21
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA38
4C086MA41
4C086MA52
4C086MA56
4C086MA63
4C086MA65
4C086MA66
4C086ZA81
4C086ZA96
4C086ZB11
4C086ZC41
(57)【要約】 (修正有)
【課題】対象における泌尿器科慢性骨盤痛症候群(UCPPS)を予防又は治療するための方法を提供する。
【解決手段】有効量の酸化セリウムナノ粒子(CeNPs)を対象に投与することを含む、対象における泌尿器科慢性骨盤痛症候群(UCPPS)を予防又は治療するための方法とする。また、有効量のCeNPs及びその薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を対象に投与することを含む、対象におけるUCPPSを予防又は治療するための方法とする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の酸化セリウムナノ粒子(CeNPs)をそれを必要とする対象に投与することを含む、泌尿器科慢性骨盤痛症候群(UCPPS)を予防又は治療する方法。
【請求項2】
前記泌尿器科慢性骨盤痛症候群が、疼痛性膀胱症候群、間質性膀胱炎、慢性前立腺炎、慢性骨盤痛症候群、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化セリウムナノ粒子が、前記対象の酸化ストレスを軽減するために前記対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化セリウムナノ粒子が、酸化還元反応により酸化ストレスを低減するための酸化状態Ce3+とCe4+の共存を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化セリウムナノ粒子が、前記対象の膀胱におけるヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)の発現を減少させるために前記対象に投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化セリウムナノ粒子が、前記対象における炎症を軽減するために前記対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化セリウムナノ粒子が、前記対象の膀胱の浮腫及び出血を改善するために前記対象に投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化セリウムナノ粒子が、前記対象の疼痛を緩和するために前記対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記酸化セリウムナノ粒子が、前記対象の頻尿を減少させるために前記対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記酸化セリウムナノ粒子が、約10nm~約35nmの粒子径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記酸化セリウムナノ粒子が、約22nm~約25nmの平均粒子径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記酸化セリウムナノ粒子の治療有効量が約3mg/kg~約100mg/kgである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記酸化セリウムナノ粒子が、週に1~4回、月に1~4回、又は年に1~4回で、前記対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記酸化セリウムナノ粒子が、2~4週間ごとに1回で、対象に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記CeNPsが、対象に経口、腹腔内、静脈内、皮内、筋肉内、皮下、又は経皮的に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記対象が哺乳動物である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
有効量の酸化セリウムナノ粒子(CeNPs)及びその薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、泌尿器科慢性骨盤痛症候群(UCPPS)を予防又は治療する方法。
【請求項19】
泌尿器科慢性骨盤痛症候群(UCPPS)を予防又は治療するための医薬品の製造における医薬組成物の使用であって、医薬組成物が有効量の酸化セリウムナノ粒子(CeNPs)及びその薬学的に許容される担体を含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、慢性骨盤痛症候群を予防又は治療する方法に関連し、特に泌尿器科慢性骨盤痛症候群を予防又は治療する方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
泌尿器科慢性骨盤痛症候群(UCPPS)は、慢性下腹部及び骨盤痛、ならびに頻尿と緊急尿を特徴とする衰弱性の慢性内臓疾患である。UCPPSの有病率は、一般人口で約10%(男性人口で8~11.5%[1])である。UCPPSの病因に関する複数の仮説が提案されている。本疾患の発症モードに関しては合意に達していないが、慢性炎症と連続誘導がその進行に不可欠な役割を果たす可能性がある[2]。UCPPSは年間700億ドルを超える重大な社会経済的影響を及ぼし、UCPPSの治療コストは約5%の複合年間成長率で加速する。UCPPSは、それに関連するヘルスケアコストに加えて、心理社会的健康に悪影響を及ぼし、睡眠障害、不安、うつ病を引き起こす[3]。
【0003】
内臓痛は、虚血、炎症、及び中空器官の壁の過剰活動によって引き起こされる。これは、膀胱疼痛症候群や慢性膵炎などの治療抵抗性疼痛を含む多くの状態の特徴であり、生活の質の大幅な低下に与える。これまで、UCPPSを含む内臓痛のメカニズムは、体性痛のメカニズムと比較してまだ十分に解明されておらず、慢性内臓の痛みの状態は、通常効率的に緩和することは困難である。
【0004】
理学療法、薬理学的管理および神経遮断を含む非侵襲的又は低侵襲的な療法は、UCPPSの治療に使用される。ただし、それらの有効性は治療期間に限定されている。たとえば、エルミロン(登録商標)(Elmiron)としても知られるペントサンポリ硫酸ナトリウム(PPS)は、UCPPSに対してFDAが承認した経口薬であすが、それは抗凝血剤であるため、打撲や出血のリスクを高める可能性がある。さらに、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)は、UCPPSの治療に短期的な効果しかないので、頻繁に(例えば、1日3回以上)投与する必要があり、腎臓損傷やアレルギーなどの副作用につながる可能性がある。そのため、このタイプの治療法は、米国泌尿器科学会によって、長期間の経口投与を必要とし、有効性が低いため、第二選択療法(second-line treatment)としてリストされている。ヒアルロン酸(HA)は、その優れた生体適合性により、膀胱内注入によるUCPPSの治療に使用されている。しかし、排尿はHAの損失を加速するため、患者は毎月の灌流を必要とし、治療コストが増加し、生活の質に悪影響を及ぼす。
【0005】
したがって、前述の欠点を克服できるUCPPSの代替治療方法及び予防方法に対する医学的なニーズはまだ満たされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Clemens, J.Q., et al., Urologic chronic pelvic pain syndrome: insights from the MAPP Research Network. Nature reviews. Urology, 2019. 16(3): p. 187-200.
【非特許文献2】Nunez-Badinez, P., et al., Preclinical models of endometriosis and interstitial cystitis/bladder pain syndrome: an Innovative Medicines Initiative-PainCare initiative to improve their value for translational research in pelvic pain. PAIN, 2021. 162(9): p. 2349-2365.
【非特許文献3】Lai, H.H., et al., Characterization of Whole Body Pain in Urological Chronic Pelvic Pain Syndrome at Baseline: A MAPP Research Network Study. Journal of Urology, 2017. 198(3): p. 622-631.
【非特許文献4】Zhang, F., Q. Jin, and S.-W. Chan, Ceria nanoparticles: Size, size distribution, and shape. Journal of Applied Physics, 2004. 95(8): p. 4319-4326.
【非特許文献5】Walczak, M.S., et al., Determining the chemical composition of corrosion inhibitor/metal interfaces with XPS: minimizing post immersion oxidation. JoVE (Journal of Visualized Experiments), 2017(121): p. e55163.
【非特許文献6】Teng, Y.-N., et al., Etoposide Triggers Cellular Senescence by Inducing Multiple Centrosomes and Primary Cilia in Adrenocortical Tumor Cells. Cells, 2021. 10(6): p. 1466.
【非特許文献7】Dixon, W.J., Efficient analysis of experimental observations. Annu Rev Pharmacol Toxicol, 1980. 20: p. 441-62.
【非特許文献8】de Oliveira, M.G., et al., Deletion or pharmacological blockade of TLR4 confers protection against cyclophosphamide-induced mouse cystitis. Am J Physiol Renal Physiol, 2018. 315(3): p. F460-f468.
【非特許文献9】Wegner, K.A., et al., Void spot assay procedural optimization and software for rapid and objective quantification of rodent voiding function, including overlapping urine spots. Am J Physiol Renal Physiol, 2018. 315(4): p. F1067-f1080.
【非特許文献10】Cayan, S., et al., The bladder acellular matrix graft in a rat chemical cystitis model: functional and histologic evaluation. J Urol, 2002. 168(2): p. 798-804.
【発明の概要】
【0007】
当技術分野における上記の問題に鑑み、本開示は、有効量の酸化セリウムナノ粒子(CeNPs)をそれを必要とする対象に投与することを含む、泌尿器科慢性骨盤痛症候群(UCPPS)を予防又は治療する方法を提供する。本開示の少なくとも1つの実施形態において、前記対象は哺乳類、例えばヒトである。いくつかの実施形態において、CeNPsの投与は、UCPPSに罹患している対象の痛みを和らげ及び/又は尿中頻度を減らすことができる。
【0008】
酸化セリウム(CeO2)ナノ粒子(CeNPs)は、長期的な効果、低コスト、有害な副作用の少なさ、独特の根本的な作用メカニズムなどのUCPPSの治療に関していくつかの有望な利点がある。具体的には、CeNPsには、酸化状態のCE3+とCE4+の共存と、これらの状態間の可逆的な酸化還元スイッチにより、独特の抗酸化特性及び/又は触媒特性を持っている。より具体的には、CeO2のバルク結晶は主にCE4+で構成されているが、CeO2のサイズがナノ寸法に縮小されると、CE3+の相対量は大幅に増加し、より高い触媒効果が得られる。したがって、本開示の少なくとも1つの実施形態において、CeNPsは活性酸素種(ROS)及び/又は活性窒素種(RNS)を分解し、自由ラジカルを除去し、自発的な酸化還元反応によって組織内に長期間にわたって活性を維持することにより、並外れた抗酸化特性を示し得る。いくつかの実施形態において、CeNPsは、その顕著な抗酸化特性により、酸化ストレスに関連するUCPPSを予防または治療することができる。いくつかの実施形態において、対象の膀胱におけるヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)の発現の減少は、UCPPSが対象の膀胱における酸化ストレスを減少させる可能性があることを示す。
【0009】
本開示の少なくとも1つの実施形態において、CeNPsは対象の炎症を軽減するために対象に投与される。いくつかの実施形態において、CeNPsの投与は、対象の膀胱におけるIRF7、IRF9、セルピン(Serpin)B2、CXCL10、IL-6、及び/又はTNFαを含むがこれらに限定されない、炎症誘発性因子又は炎症因子を減少させる可能性がある。たとえば、IL-6、TNFα、セルピンB2、CXCL10、ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)の少なくとも1つである。いくつかの実施形態において、CeNPsは、対象の膀胱の浮腫と出血を改善するために対象に投与される。
【0010】
本開示の少なくとも1つの実施形態において、CeNPsの粒子径は、約10nm~約35nmである。いくつかの実施形態において、CeNPsの粒子径は、約10nm~約30nm、例えば、約15nm~約25nm、約20nm~約25nm、又は約22nm~約25nmであるが、本開示はこれらに限定されない。
【0011】
本開示の少なくとも1つの実施形態において、CeNPsの平均粒子径は、約22nm~約25nmである。いくつかの実施形態において、CeNPsの平均粒子径は、約22nm~約24nm、例えば、約22.5nm~約23.5nm、及び約22.5nm~約23nmである。本開示の1つの実施形態において、CeNPsの平均粒子径は、約22.5nm、約22.51nm、約22.52nm、約22.53nm、約22.54nm、約22.55nm、約22.56nm、約22.6nm、約22.7nm、約22.8nm、約22.9nm、および約23.0nmであるが、本開示はこれらに限定されない。
【0012】
本開示の少なくとも1つの実施形態において、CeNPsの有効量は、約3mg/kg~約100mg/kgである。いくつかの実施形態において、CeNPsの有効量は、約10mg/kg~約100mg/kg、例えば、約10mg/kg~約90mg/kg、約10mg/kg~約80mg/kg、約15mg/kg~約70mg/kg、約20mg/kg~約70mg/kg、約20mg/kg~約50mg/kg、約25mg/kg~約40mg/kg、および約25mg/kg~約35mg/kgであるが、本開示はこれらに限定されない。
【0013】
本開示の少なくとも1つの実施形態において、CeNPsは、週に1~4回、月に1~4回、又は年に1~4回で、対象に投与される。いくつかの好ましい実施形態において、CeNPsは、2~4週間ごとに1回、例えば3週間ごとに1回で、対象に投与される。
【0014】
本開示の少なくとも1つの実施形態において、CeNPsは対象に経口、腹腔内、静脈内、皮内、筋肉内、皮下、又は経皮的に投与される。いくつかの好ましい実施形態において、CeNPsは対象に腹腔内又は静脈内に投与される。
【0015】
本開示は、有効量な前記のCeNPsおよびその薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、UCPPSを予防又は治療する方法も提供する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は経口、腹腔内、静脈内、皮内、筋肉内、皮下、又は経皮的に投与される。
【0016】
本開示は、UCPPSを予防又は治療するための医薬品の製造における医薬組成物の使用をさらに提供し、当該医薬組成物は、有効量の前記のCeNPs及びその薬学的に許容される担体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
特許又は特許出願のファイルには、少なくとも1つのカラー図面が含まれる。カラー図面を含むこの特許又は特許出願のコピーは、要求および必要な手数料の支払いに応じて、特許庁によって提供される。
本開示は、添付の図面と併せて以下の実施形態の説明を参照することにより、より完全に理解することができる。
【
図1】
図1A~
図1Dは、CeNPsの特性評価を示す。
図1Aは、酸化セリウムナノ粒子(CeNPs)の走査型電子顕微鏡(SEM)イメージングである。CeNPsは200,000×倍率で観察された(スケールバー:200nm)。
図1Bは、CeNPsの流体力学的サイズ分布を示す。
図1Cは、800,000×倍率でのCeNPsの透過型電子顕微鏡(TEM)イメージングである(スケールバー:2nm)。
図1Dは、CENPのXPSスペクトルがセリウムの結合エネルギー領域を明らかにしたことを示す。矢印で示される2番目、3番目、8番目のピークはCe
3+であり、矢印で示される1番目、4番目から7番目のピークはCe
4+である。
【
図2】
図2A~
図2Dは、インビトロでヒト尿路上皮T24細胞を使用したCeNPsテストを示す。
図2aは、T24細胞を濃度が0、12.5、25、37.5、50、75及び100μMである4-HCで4時間(hour)処理したことを示す。細胞生存率は、WST-1アッセイ(MK400、タカラ、マウンテンビュー、カリフォルニア州、米国)を利用して調べた。濃度が37.5μMである4-HCで、T24細胞の細胞生存率は約50%に減少した(n=3)。
図2Bは、4-HCによるT24生存率の損失が酸化セリウムナノ粒子(CeNPs)処理によって救われたことを示す(n=3)。
図2Cは、T24細胞のジクロロジヒドロフルオレセインジアセテート(DCFDA)アッセイを示す。各群の蛍光顕微鏡画像:(1)対照群;(2)4-HCのみ群:37.5μMの4-HCを4時間添加して、細胞酸化ストレスを誘導した;(3)CeNPs処理群:37.5μMの4-HCで4時間誘導する前に、5μg/mLのCeNPsが24時間適用された;(4)CeNPsのみ群:5μg/mLのCeNPsのみが24時間適用された。
図2Dは、IL-6及びTNFαが4-HCによって有意に向上されたことを示す。(1)対照群;(2)4-HC群:37.5μMの4-HCを4時間添加して、細胞酸化ストレスを誘導した;(3)CeNPs+4-HC群:37.5μMの4-HCで4時間誘導する前に、5μg/mLのCeNPsが24時間適用された;(4)CeNPs群:5μg/mLのCeNPsのみが24時間適用された。数値は平均±SDで表される。データは、Tukeyの多重比較テストと一元配置分散分析によって分析された。*P<0.05、**P<0.01。n.s.:統計的差異なし(n=3)。
【
図3】
図3A~
図3Cは、それぞれ機械的感受性試験及び排尿スポットアッセイの結果を示す。対照群、CYP群、及びCeNPs前処理群の痛み閾値を
図3Aに示す。対照群、CYP群、及びCeNPs前処理群における個々の排尿スポットの数の定量化を
図3Bに示す。数値は、平均±標準誤差で表される。データは、Tukeyのポストホックテストと一元配置分散分析によって比較された。*P<0.05、**P<0.01。P>0.05:有意差なし(n.s.)、n=3。
図3Cは、対照群、CYP群、及びCeNPs前処理群における代表的な排尿パターンを示す。排尿スポットは*で識別される。
【
図4】
図4A~
図4Cは、CYP誘発性膀胱炎のマウス膀胱の組織学的変化とCeNPs前処理の保護効果を示す。
図4Aは、グロス及びヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色を示す。矢印は尿路上皮下領域を示す。
図4Bは、浮腫スコアのチャートである。シクロホスファミド(CYP)誘発性膀胱炎の動物からの尿袋(Urinary bladder)は、対照群(CTL)及び酸化セリウムナノ粒子(CeNPs)前処理群と比較して、血管肥大と尿路上皮下の厚さの増加を示す。
図4Cは、高出力場と走査型電子顕微鏡(SEM)の画像である。CYP群の膀胱だけが、白い矢印で示される不完全な粘膜と裸の尿路上皮細胞を示す。CYP群では、露出した尿路上細胞(矢印)が観察された。対照群及びCeNPs前処理群では、完全な細胞膜構造(矢印)が特定された。数値は平均±SEで表される。データは、Tukeyの多重比較テストと一元配置分散分析を使用して分析された。*P<0.05、**P<0.01。P>0.05:統計的差異なし(n.s.)(n=3)。
【
図5】
図5は、対照群(CTL)、シクロホスファミド群(CYP)、及び酸化セリウムナノ粒子(CeNPs)前処理群の膀胱におけるセルピンB2、CXCL10、及びヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)の相対量を示す。数値は平均±SEで表される。データは、Tukeyの多重比較テストと一元配置分散分析を使用して分析された。*P<0.05、**P<0.01。P>0.05:統計的差異なし(n.s.)(n=3)。
【
図6】
図6は、対照群(CTL)、シクロホスファミド群(CYP)、酸化セリウムナノ粒子(CeNPs)前処理群、及びCeNPs後処理群の膀胱におけるヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)の相対量を示す。
【
図7】
図7は、対照群(CTL)、シクロホスファミド群(CYP)、酸化セリウムナノ粒子(CeNPs)前処理群の膀胱におけるセルピンB2、CXCL10、IRF7、IRF9IL-6、及びTNFαの相対量を示す。数値は平均±SDで表される。データは、Tukeyの多重比較テストと一元配置分散分析によって分析された。***P<0.001、(n=3)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の実施例は、本開示を説明するために使用される。当業者は、本明細書の発明に基づき、本発明の他の利点と効果を容易に想到できる。また、本発明は、異なる実施例で説明されているように、実施又は適用することもできる。本発明を実行するための次の実施例を、その範囲を逸脱することなく、異なる態様や応用に応じて調整又は変更することができる。
【0019】
本明細書で使用される場合、単数形式「一(a)」、「一(an)」、及び「当該(the)」は、明示的かつ明白に1つの参照語に限定されない限り、複数の指示対象が含まれる。「又は」という用語は、文脈が明確に特に示されない限り、「及び/又は」と互換的に使用される。
【0020】
本明細書で使用される場合、語句「少なくとも1つ」とはは、1つ以上の要素のリストに関して、要素のリスト内の任意の1つ以上の要素から選択される少なくとも1つの要素を意味すると理解するべきであるが、要素のリスト内にリストされている各要素を少なくとも1つ含むということは必ずしもそうではなく、要素のリストにある要素の組み合わせも除外しない。また、この定義により、「少なくとも1つ」という語句が指す要素のリスト内で特定される要素以外の要素が、特定された要素に関連するかどうかにもかかわらず、任意に存在することも可能である。したがって、非制限的な例として、「AとBの少なくとも1つ」(又は同等に「A又はBの少なくとも1つ」、又は同等に「A及び/又はBの少なくとも1つ」)とは、一実施形態において、少なくとも1つのAを必要に応じて含み、Bは存在なし(また、必要に応じてB以外の要素を含む)ことを示し、別の実施形態において、少なくとも1つのBを必要に応じて含み、Aは存在なし(また、必要に応じてA以外の要素を含む)ことを示し、さらに別の実施形態において、少なくとも1つのAを必要に応じて含み、かつ少なくとも1つのBを必要に応じて含み、(また、必要に応じては他の要素を含む)ことを示す。
【0021】
本明細書で使用される場合、用語「含有する(comprising)」(及び「含有する(comprise)」や「含有する(comprises)」などの含有の任意の形式)、「有する(having)」(及び「有する(have)」や「有する(has)」などの有しの任意の形式)、「含む(including)」(及び「含む(includes)」や「含む(include)」などの含みの任意の形式)、「備える(containing)」(及び「備える(contains)」や「備える(contain)」などの備えの任意の形式)は包括的又はオープンエンドであり、追加の列挙されていない要素または方法のステップを除外しない。たとえば、物体を「含有」すると記述する場合、特に指定されていない限り、他の要素、構造、領域、部品、装置、システム、ステップ、又は連結などが含まれる場合があり、他の制限を除外すべきではない。
【0022】
用語「約」又は「およそ」とは、当業者によって決定された特定の値に対する許容誤差範囲内であることを意味し、これは、値がどのように測定または決定されるか、つまり測定システムの制限に部分的に依存する。例えば、「約」は、当技術分野の慣例により、1又は1を超える標準偏差内を意味してもよい。あるいは、「約」は、所与の値の最大20%、最大10%、最大5%、又は最大1%の範囲を意味してもよい。あるいは、特に生物学的システム又はプロセスに関して、この用語は、値の5倍以内又は2倍以内などの桁内を意味することができる。出願及び特許請求の範囲に特定の値が記載されている場合、特に明記しない限り、「約」という用語は、特定の値の許容誤差範囲内を意味すると想定されるべきである。
【0023】
本明細書で使用される数値範囲は包括的かつ組み合わせ可能であり、本明細書の数値範囲内に入る任意の数値は、その次範囲を導き出すための最大値又は最小値と見なすことができる。たとえば、数値範囲「10nm~35nm」は、最小値10nmから最大値35nmの間の任意の次範囲、例えば、10nm~20nm、25nm~35nm、22nm~23nmの次範囲を含むことを理解すべきである。さらに、ここで使用される複数の数値は最大値と最小値として任意に選択して数値範囲を導き出すことができる。たとえば、10nm~25nm、10nm~35nm、及び25nm~35nmの数値範囲は、10nm、25nm、及び35nmの数値から導き出すことができる。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される担体」とは、薬学的に許容される材料、組成物、又はビークルを指し、例えば、希釈剤、崩壊剤、懸濁剤、湿潤剤、香料、増粘剤、充填剤、防腐剤、結合剤、潤滑剤、流動促進剤、および界面活性剤があり、有効成分(例えば、本明細書で使用されるCeNPs)の生物活性又は特性を損なわず、かつ比較的無毒である。すなわち、ビークルは、対象に投与される場合望ましくない生物学的効果を引き起こすことがなく、又はそれが含まれている医療組成の構成要素と有害な方法で相互作用することがない。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「治療する(treat)」、「治療している(treating)」、及び「治療(treatment)」とは、望ましい薬理学的及び/又は生理学的効果の獲得、例えば、障害、疾患、または状態、あるいは障害、疾患、または状態に関連する1つ以上の症状を軽減又は除去し、あるいは障害、疾患、または状態自体の(複数の)原因を軽減又は除去することを指す。その効果は、疾患やその症状を完全に又は部分的に予防するという点で予防的であってもよく、疾患あるいは当該疾患又はその症状に起因する副作用を完全に又は部分的に治癒、軽減、緩和、改良、又は改善するという点で治療的であってもよい。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語「予防する(prevent)」、「予防している(preventing)」、及び「予防(prevention)」とは、障害、疾患、又は状態、及び/又はそれに関連する症状の発症を遅らせる及び/又は排除する方法、対象が障害、疾患、又は状態を罹患することを防止する方法、又は、対象が障害、疾患、又は状態を罹患するリスクを軽減する方法を指す。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「対象」とは、ヒトなどの哺乳類を指すが、家畜(例えば、イヌ、ネコなど)、農場動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)又は実験動物(例えば、サル、齧歯動物、ネズミ、ウサギ、モルモットなど)などの他の動物を指してもよい。用語「患者」とは、疾患や状態に疑われ、又は疾患や状態に罹患している「対象」を指す。ここで、「それを必要とする対象」又は「それを必要とする患者」とは、疾患または障害と診断された、そのリスクがある、又は有する、有することが予め決定されている、又はその疑いがある対象又は患者として言及される。
【0028】
本明細書で使用される場合、語句「有効量」とは、それを必要とする対象に所望の予防又は治療効果(例えば、UCPPSに罹患している対象における酸化ストレスまたは炎症の軽減)を付与するために必要な活性薬剤の量を指す。本開示の少なくとも1つの実施形態において、CeNPsの有効量は、約3mg/kg~約100mg/kg、例えば約10mg/kg~約100mg/kg、約10mg/kg~約90mg/kg、約10mg/kg~約80mg/kg、約10mg/kg~約70mg/kg、約15mg/kg~約60mg/kg、約15mg/kg~約50mg/kg、約20mg/kg~約40mg/kg、および約25mg/kg~約35mg/kgである。いくつかの実施形態において、CeNPsの有効量は、3mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、21mg/kg、22mg/kg、23mg/kg、24mg/kg、25mg/kg、26mg/kg、27mg/kg、28mg/kg、29mg/kg及び30mg/kgから選択された下限を有し、100mg/kg、90mg/kg、80mg/kg、70mg/kg、60mg/kg、50mg/kg、40mg/kg、35mg/kg、34mg/kg、33mg/kg、32mg/kg、31mg/kg及び30mg/kgから選択された上限を有する。
【0029】
本開示の少なくとも1つの実施形態において、CeNPsの粒子径は約10nm~約35nmである。本開示のいくつかの実施形態において、CeNPsの粒子径は、約10nm~約30nm、例えば約15nm~約25nm、約20nm~約25nm、および約22nm~約25nmである。別の実施形態において、CeNPsの粒子径は、10nm、15nm、20nm、22nm、22.4nm、22.47nm、22.48nm、22.49nm、22.50nm、22.51nm、22.52nm、及び22.53nmから選択された下限を有し、及び35nm、30nm、25nm、22.70nm、22.60nm、22.59nm、22.58nm、22.57nm、22.56nm、22.55nm、22.54nm及び22.53nmから選択された上限を有する。
【0030】
本開示の少なくとも1つの実施形態において、CeNPsの平均粒子径は約22nm~約25nmである。本開示の1つの実施形態において、CeNPsの平均粒子径は、約22nm~約24nm、例えば約22.5nm~約23.5nm、および約22.5nm~約23nmである。本開示の1つの実施形態において、CeNPsの平均粒子径は、約22.5nm、約22.51nm、約22.52nm、約22.53nm、約22.54nm、約22.55nm、約22.56nm、約22.6nm、約22.7nm、約22.8nm、約22.9nm、および約23.0nmである。
【0031】
本開示の1つの実施形態において、ICRマウスにCeNPsを週に1~2回で治療することで、ヒトの治療期間を模擬し(ICRマウスにおける1週間の用量は、ヒトにおける3か月ごとの用量に相当し得る)、実験データは、CeNPsの投与がUCPPSの予防又は治療に対して長期的な治療効果があることを示している。いくつかの好ましい実施形態において、CeNPsは2~4週間ごとに1回、3週間ごとに1回で、対象に投与される。
【0032】
以下の実施例は、当業者に完全な発明と、本発明のアッセイ、スクリーニング、および治療方法をどのように作成および使用するかについての説明を提供するために提示されており、本発明の範囲を発明者が自分たちの発明と見なすものに限定する意図がない。
【0033】
実施例
【0034】
CeNPsの合成と特性評価
【0035】
CeNPsは、以前に説明されているように、次の条件で合成された[4]:0.0375mol/LのCe(NO3)3・6H2O(99.5%、Alfa Aesar、ウォード・ヒル、マサチューセッツ州、米国)及び0.5mol/Lのヘキサメチレンテトラミン(HMTA)(99.9%、Alfa Aesar)の等量溶液を混合し、室温(22±1℃)で24時間攪拌した。次に、溶液を9,000rpmで30分間遠心分離して、CeNPs沈積物を取得した。沈積物を脱イオン水とエタノール(95%、Alfa Aesar)で2回洗浄した。
【0036】
CeNPsの形態と粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)(日立S-4800電界放射型走査電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光計QUANTAX Annular XFlash(登録商標)QUAD FQ5060、日立、東京、日本)を使用し、10kVの動作電圧で測定した。CeNPsのSEM画像(n=10)をNano Measure 1.2.5ソフトウェア(国立成功大学、台南、台湾)で分析し、CeNPsの平均粒子径を算出した。SEMによる形態分析には、付属のアクセサリーEDX(QUANTAX annularXflash(登録商標)、QUAD FQ5060)を使用して、サンプルの元素組成を分析した。CeNPsのSEM画像は、200,000×倍率で観察された(スケールバー200nm)。
【0037】
CeNPsの結晶粒子径と平面間間隔は、透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して分析された。CeNPsを95%エタノールに分散させ、超音波で10分間分散させた後、銅グリッド上に2~10μL滴下させ、空気乾燥させた。ナノ粒子の結晶粒子径分布は、TEMを使用して研究された(Jeol 2010F、Jeol、東京、日本)。結晶の平面間間隔、結晶粒子径(n=10)、及び選択された領域電子回折パターンは、DigitalMicrograph 3ソフトウェア(Gatan Inc.、プレザントン、カリフォルニア州、米国)を使用して測定かつ分析した。
【0038】
CeNPsの流体力学的サイズは、Zetasizer Nanozs(Malvern Instruments、ウスターシャー、英国)及び動的光散乱法(DLS)を使用して特性評価した。散乱光の強度は、入射ビームに対して90°で検出された。合成されたCeNPsの異なる溶媒への分散性を確認するために、CeNPsを二重蒸留水に分散させ、10分間超音波分散させ、25℃で測定した(n=3)。取得したデータは、メーカー提供のフリーソフトウェア(Malvern Instruments、Zetasizerソフトウェア)を使用して分析された。
【0039】
CeNPsの表面は、AlKα線源を使用するX線光電子分光法(XPS)(シータプローブ、Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ州、米国)で特性評価して、セリウムの酸化状態を特定し、CE3+/CE4+比を定量化した。取得したデータは、XPSPEAK41ソフトウェア[5]に入力して、ピークフィッティングを処理した。
【0040】
CeNPsの特性評価
【0041】
Nano Measurerソフトウェアを使用することで、平均粒子径は22.53nm(n=10)であることがわかった(
図1A)。二重蒸留水中のCeNPsの流体力学的サイズ分布は93.2nmであり、PdIは0.25であった(
図1B)。CeNPsの高解像度TEM画像は、(111)及び(200)結晶面に関連する格子フリンジとd間隔を示し、それはCeNPsの形態と同等であった(
図1C)。XPSでは、それぞれの結合エネルギーで、Ce
3+(
図1Dの矢印で示される2、3、8番目のピーク)とCe
4+(
図1Dの矢印で示される1、4~7番目のピーク)に対応する化学結合ピークを示した。875eVと895eVの間のピークはCe3d
5/2に対応し、895eVと910eVの間のピークはCe3d
3/2の縮退準位(degenerate level)に対応する。875.100、900.650、及び909.000eVに位置するデコンボリューションピークは、Ce
3+の酸化状態に対応する。881.240、890.900、893.400、897.300、及び915.550eで観測されたデコンボリューションピークは、セリウムイオンのCe
4+状態に起因する可能性がある。
【0042】
CYP誘発性膀胱炎マウスにおけるCeNPs治療の評価のタイムライン
【0043】
表1は、生体内でのCeNPsの効果をテストするためのタイムラインである。ICRマウスは、4つの群(対照群、CYP群、CeNPs前処理群、及びCeNPs後処理群)に分けた。各群に8匹のマウスがあった。対照群を除き、ICRマウスに80mg/kgの用量でCYPを腹腔内投与し、7、9、11、13日目に膀胱炎を誘導させた。CeNP前処理群では、0日目と4日目に30mg/kgのCeNPをマウスに腹腔内注射した。代わりに、対照群とCYP群のマウスに0日目と4日目にPBSを注射した。CeNPs後処理群では、8日目と13日目に腹腔内注射でマウスに30mg/kgのCeNPsを投与した。14日目に、すべてのマウスを犠牲にする前に、機械的感受性試験と排尿スポットアッセイを実施した。CO2安楽死の後、マウスの膀胱を採取し、液体窒素で凍結して、さらなる組織学的及び生化学的分析を行った。
【0044】
【0045】
実施例1:ヒト尿路上皮T24細胞の生存率、CeNPs治療、及び細胞内ROS測定に対する4-HCの影響
【0046】
ヒト尿路上皮T24細胞(#60062、BCRC、台湾)は、1.5mMのL-グルタミン、10%(v/v)のウシ胎児血清、及び1%(v/v)PSを有する90%マッコイ5a培地(Sigma、セントルイス、ミズーリ州、米国)で培養した。細胞は5%CO
2を含む加湿インキュベーターで37℃に維持され[6]、また、細胞の酸化ストレスを誘導するために4-HCを使用した。T24細胞を10
4細胞/ウェルの密度で96ウェルプレートに播種し、完全に接着するまで24時間インキュベートした。処理されたT24細胞のウェルでは、さまざまな濃度のCeNPsを培地に添加し、さらに24時間インキュベートした。次に、さまざまな濃度の4-HC(0、12.5、25、37.5、50、75、及び100μM)を培地に添加し、4時間インキュベートした。T24細胞の生存率は、4-ヒドロペルオキシシクロホスファミド(4-HC)処理により低下し、細胞内活性酸素種(ROS)の生成が誘導された。37.5μMの濃度で、4-HCは細胞生存率を50%(IC50)に低下させ、その後の実験の誘導濃度として選択された(
図2A)。4-HC誘導の前に、異なる濃度のCeNPsが適用された。一連の実験の後、5μg/mLのCeNPsの濃度は、4-HCによって低下した細胞生存率を効果的に変えることができた(
図2B)。
【0047】
4-HC誘導の細胞酸化ストレス応答に対するCeNPsの阻害効果を確認するために、ジクロロジドリフルオレセインジアセテート(DCFDA)アッセイを使用し、T24細胞を4つの条件下で培養した。(1)対照群;(2)37.5μMの4-HCに4時間存在して、細胞酸化ストレスを誘導する;(3)37.5μMの4-HCでの4時間誘導する前に、5μg/mLのCeNPsに24時間存在する;(4)5μg/mLのCeNPsのみに24時間存在する。緑色蛍光(DCF)の量は、細胞内ROS含有量と正の相関がある。CeNPsは、4-HC誘導の細胞酸化ストレス応答に対する阻害効果があった(
図2C)。
【0048】
総RNAはTRIzol試薬(Invitrogen、カールバッド、カリフォルニア州、米国)を使用して、細胞から抽出した。GAPDHは内因性対照として利用された。cDNAは、ランダムヘキサマーとポリ(DT)プライマーを使用し、SensiFAST cDNA合成キット(Bioline、ロンドン、英国)により合成された。PCRは、qPCRシステム(Stepone(登録商標)ソフトウェアv2.2)を使用して実行された。各サンプルは、標的遺伝子と内因性対照の両方について3連で分析された。3連の平均CT値がさらなる分析に使用された。各サンプルからの標的遺伝子のCt値は、その内因性対照に対して正規化され、2
-ΔΔCt法を使用して相対的な遺伝子発現値に変換された。qPCRプライマー(5’-3’)を表2に示す。qPCRの結果を
図2Dに示す。IL-6及びTNFαは4-HCによって有意にアップレギュレートされたが、それらはCeNPs+4-HC群でダウンレギュレートされた。CeNPs群では、細胞は過剰な炎症関連遺伝子の発現を示さず、5μg/mLのCeNPsを24時間適用しても細胞に炎症が引き起こさないことを確認した。
【0049】
【0050】
実施例2:機械的感受性試験
【0051】
機械的感受性は、Semmes-Weinsteinモノフィラメント(UgoBasile、コメリオ、イタリア)を使用して評価された。マウスは、ステンレス鋼ワイヤーグリッドの床を備えた個々のケージでテストされた。刺激は、膀胱の共通領域である下腹部に限定され、脱感作を防ぐためにこの領域内側で別々の領域で実行された。モノフィラメント刺激に対する陽性反応として、3種類の行動を認めた。1)ジャンプする、2)モノフィラメント刺激領域を直ちに舐めあるいは引っ掻く、又は3)腹部を急激に収縮する。各モノフィラメントは、5秒の刺激間間隔で1~2秒間適用された。「アップアンドダウン(up and down)」方法を使用して、50%の閾値(T50)を決定した。最も信頼できる閾値の計算に基づいて、異なるフィラメントを使用した6回の連続した試みが必要であった[7]。式:T50=Xf+kd(Xfは最後に使用したモノフィラメントを表し、kはディクソンのテーブル係数を表し、dはフィラメント間隔の平均を表す)を適用して、T50を決定した。CYP誘発性膀胱炎の動物は、痛み閾値の減少を示し(群ごとにn=3、*P<0.05)、これはCeNPs前処理群で緩和された。(群ごとにn=3、*P<0.05)(
図3A)。
【0052】
実施例3:ボイドスポットアッセイ
【0053】
犠牲の日に、マウスはろ紙(Whatman No.1、AW1001-00917、Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州、米国)上の個々の金網底ケージに入れられ、静かな部屋で3時間静置し、食物と水は制限されてった[8]。ろ紙を回収して乾燥させ、365nmの紫外線下で、FluorChemデジタルイメージングシステム(Alpha Innotech Corporation、San Leardro、カリフォルニア州、米国)を使用して、画像化した。体積は、スポットの面積をキャリブレーション曲線と比較することによって計算された。ボイドスポットの面積と数はVoid WhizzardとImageJを使用して画像を分析することにより算出した[9]。CYP誘発性膀胱炎の動物では、排尿頻度の増加を示し(群ごとにn=3、*P<0.05)。3c)、これはCeNPs前処理群で緩和された(群ごとにn=3、*P<0.05)(
図3Bおよび3C)。
【0054】
実施例4:CYP誘発性膀胱炎後のマウス膀胱の組織学的変化とCeNPs前処理による保護効果
【0055】
CO2安楽死の後、マウスの膀胱を取り出し、液体窒素で凍結した標識チューブに入れ、さらなる組織化学的及び生化学的分析のために-80℃で保存した。グロスの形態学的変化を評価するために、膀胱断面(厚さ16μm)を標準的なヘマトキシリン・エオシン(H&E)プロトコルを使用して染色した。それらは、改良されたハリスヘマトキシリン(Harris Hematoxylin)溶液に4分間置き、エオシン(Eosin)Y溶液(アルコール)(Sigma-Aldrich)に1分間置いた。
【0056】
各膀胱は、膀胱のドームを切除し、内側の空洞がはっきりと見えるように切片化した。各スライドに8つの切片を持つ8枚のスライド(すべてH&E用)が収集された。この切片は、膀胱の最も厚い中央部分を表している。以前の研究では、巨視的なレベルでは、CYPで処理された動物からの尿袋(Urinary bladder)は、浮腫スコアに基づいて対照群と比較して、尿路上皮下の厚さが増加することが示された[10]。SEMでは、サンプルを2.5%リン酸緩衝グルタルアルデヒド(0.1m pH7.4)で24時間固定し、1%のOsO4で1時間後固定し、段階的アルコールシリーズで脱水し、酢酸アミルに入れ、臨界点乾燥機で液体CO2で加圧乾燥し、金粒子で覆った。
【0057】
巨視的なレベルでは、CYPで処理された動物の尿袋は、対照群と比較してより多くの浮腫と出血を示した。さらに、CYPで処理された動物では、対照群と比較して、尿路上皮下の厚さの増加が観察された[10](
図4A及び4B)。これらのサンプルはSEMを使用して観察された。H&E染色により、CYP誘発性膀胱炎を起こした動物の尿袋は、対照群(CTL)及びCeNPs前処理群と比較して、尿路上皮膜の完全性が失われ、尿路上皮がほぼ完全に剥離していたことが明らかになった(
図4C)。CYP群の膀胱のみが、白っぽい矢印で示される不完全な粘膜と裸の尿路上皮細胞を示している。CYP群では、露出した尿路上細胞(矢印)が観察された。対照群及びCeNPs前処理群では、完全な細胞膜構造(矢印)が特定された。
【0058】
実施例5:ウエスタンブロッティングを使用したセルピンB2、CXCL10、及びヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)の発現レベルの分析
【0059】
セルピンB2、CXCL10、及びHO-1の発現は、ウェスタンブロッティングを使用して分析された。一次抗体、抗セルピンB2(#ab269275、アブカム(Abcam)、ケンブリッジ、マサチューセッツ州、米国)、抗CXCL10(#ab9938、アブカム)、抗HO-1(#ab13248、アブカム)、及び抗β-アクチン(#26276、GeneTex、アーバイン、カリフォルニア州、米国)を1:7,000希釈で、4℃で一晩インキュベートした。次に、メンブレンを洗浄バッファーで30分間3回洗浄した後、二次抗ウサギ(#213110-01、GeneTex)又は抗マウス(#213110-01、GeneTex)IgG抗体の1:6,000希釈液とともに37℃で1時間インキュベートした。最後に、膜をイモビロンウエスタンケミルミネッセンスHRP基質(WBKLS0500、ミリポア(Millipore)、ビレリカ、マサチューセッツ州、米国)で洗浄し、ルミネセンスイメージングシステム(モデル:M3-8068;Hansor、台中、台湾)を使用してタンパク質バンドを分析した。
【0060】
ウエスタンブロットでは、対照群及びCeNPs前処理群で観察された動物と比較して、CYPで処理された動物の尿袋におけるセルピンb2、Cxcl10、及びHO-1のレベルの増加を示し(
図5)、qPCRの結果は、対照群およびCeNPs前処理群で観察された動物と比較して、CYPで処理された動物の膀胱におけるセルピンB2、CXCL10、IRF7、IRF9、IL-6、およびTNFαのmRNAレベルの増加を示す(
図7)。同様の結果は、CeNPs後処理群でも確認できた。CeNPs後処理群におけるHO-1のレベルは、CYP群のレベルよりも有意に低かった(
図6)。
【0061】
まとめると、本開示は、それを必要とする対象にCeNPsを投与することによって、UCPPSを予防又は治療する方法を提供する。CeNPsの投与は、対象の膀胱における酸化ストレス及び炎症を克服するだけでなく、対象において鎮痛効果及び排尿頻度を減少させる効果ももたらした。さらに、UCPPSの既存の治療法と比較して、本開示の方法は、長期的な効果、低コスト、より少ない有害な副作用、及び最小限の侵襲性を有する。
【配列表】