(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180220
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】粒子線ビーム制御システムおよび粒子線ビーム制御方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20231213BHJP
G21K 1/087 20060101ALI20231213BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20231213BHJP
G21K 1/00 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
A61N5/10 H
G21K1/087 S
G21K5/04 A
G21K5/04 S
G21K1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082839
(22)【出願日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2022092732
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮内 敦吏
(72)【発明者】
【氏名】角谷 暢一
(72)【発明者】
【氏名】塙 勝詞
(72)【発明者】
【氏名】福島 伸哉
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC04
4C082AE01
4C082AG01
4C082AG12
4C082AG21
(57)【要約】
【課題】粒子線ビームの照射位置のずれを調整する作業の簡素化が図れる粒子線ビーム制御技術を提供する。
【解決手段】粒子線ビーム制御システム1は、スキャニング電磁石5,6を制御する制御コンピュータ11と、を備え、制御コンピュータ11は、位置モニタ部8で検出された粒子線ビームPの位置に基づいて、粒子線ビームPの実際の照射位置である重心位置を算出し、スキャニング電磁石5,6の設計上の照射位置であるスポット位置と重心位置とのずれ量を算出し、ずれ量に基づいて、重心位置をスポット位置に補正するための補正値を算出し、補正値を記憶部18に記憶し、記憶部18に記憶された補正値に基づいて、電源12,13からスキャニング電磁石5,6に電力を供給するときの設計上の基準となっている電流値を補正する、ように構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線ビームを2次元方向に走査し、かつ前記粒子線ビームを偏向させる方向がそれぞれ異なる2つのスキャニング電磁石と、
それぞれの前記スキャニング電磁石に電力を供給する電源と、
前記粒子線ビームの位置を検出する位置モニタ部と、
前記スキャニング電磁石を制御する制御コンピュータと、
を備え、
前記制御コンピュータは、
前記位置モニタ部で検出された前記粒子線ビームの位置に基づいて、前記粒子線ビームの実際の照射位置である重心位置を算出し、
前記スキャニング電磁石の設計上の前記照射位置であるスポット位置と前記重心位置とのずれ量を算出し、
前記ずれ量に基づいて、前記重心位置を前記スポット位置に補正するための補正値を算出し、
前記補正値を記憶部に記憶し、
前記記憶部に記憶された前記補正値に基づいて、前記電源から前記スキャニング電磁石に電力を供給するときの設計上の基準となっている電流値を補正する、
ように構成されている、
粒子線ビーム制御システム。
【請求項2】
前記記憶部には、前記粒子線ビームを用いた粒子線治療を開始する前に、予め前記補正値が記憶されている、
請求項1に記載の粒子線ビーム制御システム。
【請求項3】
2つの前記スキャニング電磁石は、前記粒子線ビームをX方向に偏向させるX用電磁石と、前記粒子線ビームをY方向に偏向させるY用電磁石と、を含み、
前記X用電磁石と前記Y用電磁石が、前記粒子線ビームの進行方向であるZ方向において同一位置に設けられている、
請求項1または請求項2に記載の粒子線ビーム制御システム。
【請求項4】
前記X用電磁石と前記Y用電磁石が、同心円状に配置され、周方向において互いの一部が重なっている、
請求項3に記載の粒子線ビーム制御システム。
【請求項5】
前記X用電磁石と前記Y用電磁石で少なくとも1つの電磁石ユニットが構成され、
少なくとも1つの前記電磁石ユニットは、前記進行方向に従って内径が大きくなる形状となっている、
請求項3に記載の粒子線ビーム制御システム。
【請求項6】
前記記憶部には、前記粒子線ビームに用いられる複数のイオン種のそれぞれ対応する複数の前記補正値と、前記粒子線ビームに用いられる複数のビームエネルギー値のそれぞれに対応する複数の前記補正値との少なくとも一方が記憶されており、
前記制御コンピュータは、粒子線治療を行うときに用いられる前記イオン種と前記ビームエネルギー値との少なくとも一方に基づいて、これに対応する前記補正値を選択する、
請求項1または請求項2に記載の粒子線ビーム制御システム。
【請求項7】
前記粒子線ビームを用いた粒子線治療を開始する前に、2つの前記スキャニング電磁石の位置合わせが行われ、この位置合わせに基づいて、前記補正値が算出される、
請求項1または請求項2に記載の粒子線ビーム制御システム。
【請求項8】
前記制御コンピュータは、補正前または補正後の前記重心位置、前記スポット位置、前記ずれ量、前記補正値のうちの少なくともいずれかを示す情報を表示する、
請求項1または請求項2に記載の粒子線ビーム制御システム。
【請求項9】
粒子線ビームを2次元方向に走査し、かつ前記粒子線ビームを偏向させる方向がそれぞれ異なる2つのスキャニング電磁石と、
それぞれの前記スキャニング電磁石に電力を供給する電源と、
前記粒子線ビームの位置を検出する位置モニタ部と、
前記スキャニング電磁石を制御する制御コンピュータと、
を用いて行う方法であり、
前記制御コンピュータが、前記位置モニタ部で検出された前記粒子線ビームの位置に基づいて、前記粒子線ビームの実際の照射位置である重心位置を算出し、
前記制御コンピュータが、前記スキャニング電磁石の設計上の前記照射位置であるスポット位置と前記重心位置とのずれ量を算出し、
前記制御コンピュータが、前記ずれ量に基づいて、前記重心位置を前記スポット位置に補正するための補正値を算出し、
前記制御コンピュータが、前記補正値を記憶部に記憶し、
前記制御コンピュータが、前記記憶部に記憶された前記補正値に基づいて、前記電源から前記スキャニング電磁石に電力を供給するときの設計上の基準となっている電流値を補正する、
粒子線ビーム制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、粒子線ビーム制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療装置において、粒子線ビームの軸に対する垂直断面内の照射野を粒子線ビームで塗り潰すスキャニング照射法が知られている。この方法では、コリメータとボーラスを用いずに、立体的かつ精確に、患部に粒子線ビームを照射することができる。例えば、磁場の向きが互いに異なる2つのスキャニング電磁石で2方向に粒子線ビームを偏向することで、2次元的に粒子線ビームを照射させることができる。この磁場の向きが異なるスキャニング電磁石を一体化した場合、磁場を効率良く発生させ、スキャニング電磁石から照射位置の距離を短くすることができる利点がある。しかし、水平方向と垂直方向の磁場が正確に直交されるように、スキャニング電磁石を正確に配置することが難しい。
【0003】
水平方向と垂直方向の磁場が正確に直交しているときには、照射面に対して、正確に粒子線ビームを照射することができる。例えば、照射野が正確な正方形を成すように、粒子線ビームを照射することも可能である。しかし、水平方向と垂直方向の磁場が正確に直交していないと、粒子線ビームが斜めに偏向されてしまい、粒子線ビームが照射面に対して回転したり歪んだりしてしまう。また、スキャニング電磁石は、磁極近傍で磁場が歪むため、そこを通る粒子線ビームも正確な位置に照射することができない。
【0004】
粒子線ビームの位置合わせ後に、水平方向と垂直方向の磁場が直交していないことが発覚した場合、スキャニング電磁石を分解して修正と再組立を行うのは困難である。例えば、スキャニング電磁石の位置合わせをする際、周辺機器を取り外す必要があるため、非常に手間がかかる。また、粒子線ビームの照射面の回転は、スキャニング電磁石全体を軸回りに回転させることで補正できるが、粒子線ビームの照射面の歪みは、スキャニング電磁石を再製作するしかなく、この歪みを極力無くすのに、かなりの労力と時間が必要となる。そこで、スキャニング電磁石を分解せずに、設計上の要求通りに粒子線ビームが照射されるように補正する必要がある。特に、製作精度と据付精度の観点から生じてしまう、粒子線ビームの照射位置のずれを調整する作業を極力少なくしたいという要望がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6602732号公報
【特許文献2】特開2014-103974号公報
【特許文献3】特許第6613466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、粒子線ビームの照射位置のずれを調整する作業の簡素化が図れる粒子線ビーム制御技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る粒子線ビーム制御システムは、粒子線ビームを2次元方向に走査し、かつ前記粒子線ビームを偏向させる方向がそれぞれ異なる2つのスキャニング電磁石と、それぞれの前記スキャニング電磁石に電力を供給する電源と、前記粒子線ビームの位置を検出する位置モニタ部と、前記スキャニング電磁石を制御する制御コンピュータと、を備え、前記制御コンピュータは、前記位置モニタ部で検出された前記粒子線ビームの位置に基づいて、前記粒子線ビームの実際の照射位置である重心位置を算出し、前記スキャニング電磁石の設計上の前記照射位置であるスポット位置と前記重心位置とのずれ量を算出し、前記ずれ量に基づいて、前記重心位置を前記スポット位置に補正するための補正値を算出し、前記補正値を記憶部に記憶し、前記記憶部に記憶された前記補正値に基づいて、前記電源から前記スキャニング電磁石に電力を供給するときの設計上の基準となっている電流値を補正する、ように構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態により、粒子線ビームの照射位置のずれを調整する作業の簡素化が図れる粒子線ビーム制御技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】粒子線ビームの補正処理を示すフローチャート。
【
図4】粒子線ビームの照射開始処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、粒子線ビーム制御システムおよび粒子線ビーム制御方法の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
図1の符号1は、本実施形態の粒子線ビーム制御システムである。この粒子線ビーム制御システム1は、炭素または陽子などの荷電粒子を高加速し、制御された粒子線ビームPを患者の病巣組織(がん)に照射して治療を行う所謂粒子線治療装置である。
【0012】
このような粒子線ビームPを用いた放射線治療は、重粒子線がん治療などとも称される。この治療方法は、がん病巣を炭素イオンがピンポイントで狙い撃ちし、がん病巣にダメージを与えながら、正常細胞へのダメージを最小限に抑えることが可能とされる。なお、粒子線とは、放射線のなかでも電子より重いものと定義され、陽子線、重粒子線などが含まれる。このうち重粒子線は、ヘリウム原子より重いものと定義される。
【0013】
重粒子線を用いるがん治療では、従来のX線、ガンマ線、陽子線を用いたがん治療と比較してがん病巣を殺傷する能力が高く、患者の体の表面では放射線量が弱く、がん病巣において放射線量がピークになる特性を有している。そのため、照射回数と副作用を少なくすることができ、治療期間をより短くすることができる。
【0014】
例えば、粒子線ビームPは、患者の体内を通過する際に運動エネルギーを失って速度が低下するとともに、速度の二乗にほぼ反比例する抵抗を受け、或る一定の速度まで低下すると急激に停止する。この粒子線ビームPの停止点はブラッグピークと呼ばれ、高エネルギーが放出される。このブラッグピークが患者の病巣組織の位置に合わせられることにより、正常組織のダメージを抑えつつ、病巣組織のみを死滅させることができる。
【0015】
特に、照射対象である患部Tを3次元格子状(格子点)に仮想的に切り分けて、X方向(横方向)とY方向(縦方向)とZ方向(深さ方向)に、3次元的な走査を行うスキャニング照射法を用いる実施形態を例示する。
【0016】
なお、以下の説明において、患部Tにおける粒子線ビームPの実際の照射位置を「重心位置」と称し、粒子線ビーム制御システム1の設計上の粒子線ビームPの照射位置を「スポット位置」と称する。粒子線ビーム制御システム1の構築時または定期的なメンテナンス時に、重心位置がスポット位置と一致するように調整される。
【0017】
図1に示すように、粒子線ビーム制御システム1は、ビーム発生装置2とビーム加速装置3とビーム走査部4とスキャニング電磁石5,6と線量モニタ部7と位置モニタ部8とリッジフィルタ9とレンジシフタ10と制御コンピュータ11とを備える。
【0018】
ビーム発生装置2は、炭素イオンまたは陽子などの荷電粒子を発生させるものである。
【0019】
ビーム加速装置3は、ビーム発生装置2で発生させた荷電粒子を所定の加速器によって加速するものである。ここで、荷電粒子は、ビーム加速装置3により患部Tの奥深くまで到達するエネルギーを有するまで加速され、粒子線ビームPとなって進行する。なお、ビーム加速装置3は、制御コンピュータ11から出力される制御信号に基づいて、粒子線ビームPの出射のオンまたはオフの制御を行っている。
【0020】
ビーム走査部4は、スキャニング電磁石5,6に電力を供給し、これらスキャニング電磁石5,6を制御する。スキャニング電磁石5,6は、粒子線ビームPが進行する方向をZ方向とした場合に、この粒子線ビームPをX方向およびY方向に偏向させることができる。つまり、スキャニング電磁石5,6は、粒子線ビームPを患部Tのスライス面上で2次元的に走査するものである。
【0021】
本実施形態では、粒子線ビームPを2次元方向に走査し、かつ粒子線ビームPを偏向させる方向がそれぞれ異なる2つのスキャニング電磁石5,6が設けられている。ここで、1つのスキャニング電磁石5,6は、2つの電磁石(偏向コイル)で一対を成すものであり、これらの電磁石の間を粒子線ビームPが通過する。
【0022】
例えば、2つのスキャニング電磁石5,6は、粒子線ビームPをX方向に偏向させる一対のX用電磁石5A,5Bと、粒子線ビームPをY方向に偏向させる一対のY用電磁石6A,6Bとから成る。ここで、X用電磁石5A,5BとY用電磁石6A,6Bが、粒子線ビームPの進行方向であるZ方向において同一位置に設けられている。このようにすれば、スキャニング電磁石5,6の小型化を図ることができる。例えば、従来のように、X用電磁石5A,5BとY用電磁石6A,6BをZ方向に並べた場合と比較して、本実施形態のスキャニング電磁石5,6では、Z方向の寸法を短くすることができる。ただし、X用電磁石5A,5BとY用電磁石6A,6Bが一体化されるため、スキャニング電磁石5,6を分解するメンテナンスが容易に行えなくなる。また、X用電磁石5A,5BとY用電磁石6A,6Bの互いの位置の微調整も行い難くなる。
【0023】
ビーム走査部4は、X用電磁石5A,5BとY用電磁石6A,6Bに供給される電力のそれぞれの励磁電流を制御している(
図2)。
【0024】
線量モニタ部7は、照射対象である患者の患部Tに照射する線量をモニタするためのものである。なお、線量モニタ部7が検出した粒子線ビームPの線量を示す情報は、制御コンピュータ11に入力される。
【0025】
位置モニタ部8は、粒子線ビームPのX方向とY方向の位置を検出する。例えば、位置モニタ部8は、粒子線治療中に走査された粒子線ビームPの位置を検出し、予め設定された位置からずれがあったか否かを検出するためのものである。なお、位置モニタ部8が検出した粒子線ビームPの位置を示す情報は、制御コンピュータ11に入力される。
【0026】
リッジフィルタ9は、患者の体内の深さ方向における線量のブラッグピークを拡げるために設けられている。
【0027】
レンジシフタ10は、患部TのZ方向の照射位置を制御する。このレンジシフタ10は、例えば、厚さがそれぞれ異なる複数のアクリル板から構成されている。これらアクリル板を組み合わせることによって、レンジシフタ10を通過する粒子線ビームPのエネルギー、即ち体内飛程を段階的に変化させることができる。レンジシフタ10によって、患部TのZ方向の設定された位置にブラッグピークを生じさせることができる。なお、レンジシフタ10は、制御コンピュータ11により制御される。
【0028】
なお、レンジシフタ10の替わりに、ビーム加速装置3からの出射されるときの粒子線ビームPのエネルギーを変えることで、体内飛程を変更することも可能である。
【0029】
制御コンピュータ11は、粒子線ビーム制御システム1全体の制御を行うためのものである。例えば、制御コンピュータ11は、患部Tの格子点ごとの照射線量の測定、スポットごとの照射位置の健全性確認、ビーム加速装置3に対する出射のオンまたはオフの制御などを行っている。さらに、制御コンピュータ11は、ビーム走査部4に対する走査に関する指示、レンジシフタ10に対するアクリル板の組み合わせの制御などを行っている。
【0030】
次に、制御コンピュータ11によるビーム走査部4およびスキャニング電磁石5,6の制御の態様について、
図2を参照して説明する。なお、この
図2では、ビーム走査部4、スキャニング電磁石5,6、位置モニタ部8、制御コンピュータ11以外の機器の図示が省略されている。
【0031】
ビーム走査部4は、それぞれのスキャニング電磁石5,6に電力を供給する。例えば、ビーム走査部4は、一対のX用電磁石5A,5Bに電力を供給するX用電源12と、一対のY用電磁石6A,6Bに電力を供給するY用電源13と、を備える。
【0032】
X用電磁石5A,5Bは、形成された磁場に入射した荷電粒子の軌道に対して、X方向(水平方向)にその軌道を調整する。Y用電磁石6A,6Bは、形成された磁場に入射した荷電粒子の軌道に対して、Y方向(垂直方向)にその軌道を調整する。
【0033】
制御コンピュータ11は、入力部14と出力部15と通信部16と制御部17と記憶部18とを備える。
【0034】
制御コンピュータ11は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の粒子線ビーム制御方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0035】
なお、制御コンピュータ11の各構成は、必ずしも1つのコンピュータに設ける必要はない。例えば、1つの制御コンピュータ11が、ネットワークで互いに接続された複数のコンピュータで実現されても良い。
【0036】
入力部14には、制御コンピュータ11を使用するユーザーの操作に応じて所定の情報が入力される。この入力部14には、マウス、キーボード、タッチパネルなどの入力装置が含まれる。つまり、これら入力装置の操作に応じて所定の情報が入力部14に入力される。
【0037】
出力部15は、所定の情報の出力を行う。制御コンピュータ11には、所定の情報の出力を行うディスプレイなどの画像の表示を行う装置が含まれる。つまり、出力部15は、ディスプレイに表示される画像の制御を行う。なお、ディスプレイはコンピュータ本体と別体でも良いし、一体でも良い。
【0038】
追加的または代替的に、制御コンピュータ11は、ネットワークを介して接続される他のコンピュータが備えるディスプレイに表示される画像の制御を行っても良い。その場合には、他のコンピュータが備える出力部15が、所定の情報の出力の制御を行っても良い。
【0039】
通信部16は、所定の通信回線を介して他のコンピュータと通信を行う。例えば、制御コンピュータ11と他のコンピュータがLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、携帯通信網、またはインターネットを介して互いに接続されても良い。
【0040】
制御部17は、スキャニング電磁石5,6の制御を行う。また、この制御部17は、重心位置算出部19と補正値算出部20とを備える。これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0041】
記憶部18は、制御部17がスキャニング電磁石5,6の制御を行うときに必要な各種情報を記憶する。また、記憶部18は、磁石情報記憶部21と補正値記憶部22とを備える。
【0042】
例えば、記憶部18は、粒子線ビームPの線量プロファイルが累積的に記憶される。この線量プロファイルは、スライス単位で出力部15に送られる。そして、ディスプレイの画面によりユーザーが視認可能な態様で、スライス単位の線量プロファイルが表示される。
【0043】
制御部17は、それぞれのスキャニング電磁石5,6に流す電流値を設定する。例えば、制御部17は、設定された照射パターンに従って、X用電源12とY用電源13とのそれぞれが出力する電力の電流値を設定する。X用電源12とY用電源13は、X用電磁石5A,5BとY用電磁石6A,6Bに対し、照射パターンに沿った励磁電流を出力する。
【0044】
制御部17は、設計理論上のスポット位置の照射情報(X,Y,Ix,Iy,En)を設定する。ここで、X,Yは、理論的な粒子軌道の場合のスポット位置(座標)である。Ix,Iyは、X用電源12とY用電源13のそれぞれの電流設定値である。Enは、ビームエネルギー値である。
【0045】
制御部17は、照射情報の電流設定値に基づいて、X用電源12とY用電源13のそれぞれが出力する電力の電流値を制御する。これらの電流値の制御により、粒子線ビームPがX方向とY方向に偏向され、2次元的に患部Tを走査する。
【0046】
位置モニタ部8は、2次元的に偏向されたときの粒子線ビームPの位置を検出する。この位置は、互いに直交するX方向とY方向の座標で表される。
【0047】
重心位置算出部19は、位置モニタ部8で検出(実測)された粒子線ビームPの位置に基づいて、粒子線ビームPの実際の照射位置である重心位置を算出する。この算出された重心位置は、補正値算出部20に入力される。
【0048】
補正値算出部20は、スキャニング電磁石5,6の設計上の照射位置であるスポット位置と重心位置とのずれ量を算出する。さらに、補正値算出部20は、スポット位置と重心位置とのずれ量に基づいて、重心位置をスポット位置に補正するための補正値を算出する。例えば、補正値算出部20は、照射情報の電流設定値(Ix,Iy)に対して補正値を算出する。この補正値に基づいて、重心位置がスポット位置と一致するように補正(調整)される。
【0049】
なお、算出される補正値は、粒子線ビームPに用いられるイオン種とビームエネルギー値(En)によって、それぞれ異なる。例えば、粒子線ビームPのイオン種が切り替わったとき、このイオン種のビームエネルギー値に依存する形で補正値が算出される。
【0050】
例えば、電流設定値(Ix,Iy)に対応する理論的な粒子軌道でのスポット位置(X,Y)が設定されているとする。ここで、重心位置算出部19により算出された実際のスポット位置(重心位置)が、理想的なスポット位置からずれて(X’,Y’)となったとする。この場合に、(I’x(X,Y,X’,Y’,Ix,Iy,En),I’y(X,Y,X’,Y’,Ix,Iy,En))となる電流値の関数が求められる。この関数に基づいて、理論的なスポット位置と実際のスポット位置(重心位置)のずれ量の差から、理論的なスポット位置(X,Y)になるよう、電流値を補正する補正値が算出される。この補正値は、補正値記憶部22に記憶される。
【0051】
つまり、補正値記憶部22には、粒子線ビームPを用いた粒子線治療を開始する前に、予め補正値が記憶されている。このようにすれば、予め粒子線ビームPの実際の照射位置を調整しておくことができ、粒子線治療の開始時点から粒子線ビームPを正確に照射することができる。
【0052】
また、補正値記憶部22は、補正値算出部20で算出された補正値を示す補正情報を、イオン種とビームエネルギー値に紐づけて記憶している。
【0053】
例えば、補正値記憶部22には、粒子線ビームPに用いられる複数のイオン種のそれぞれ対応する複数の補正値と、粒子線ビームPに用いられる複数のビームエネルギー値のそれぞれに対応する複数の補正値との少なくとも一方が記憶されている。そして、制御部17は、粒子線治療を行うときに用いられるイオン種とビームエネルギー値との少なくとも一方に基づいて、これに対応する補正値を選択する。このようにすれば、イオン種またはビームエネルギー値などの粒子線ビームPの状態に応じて補正値を切り替えることができ、粒子線ビームPの適切な調整を行うことができる。
【0054】
磁石情報記憶部21は、スキャニング電磁石5,6の実際の配置の態様を示す磁石情報を記憶する。例えば、磁石情報記憶部21は、X用電磁石5A,5BとY用電磁石6A,6Bの設計理論上の粒子軌道におけるスポット位置を記憶する。このときのスポット位置は、任意の照射形状に対応することができる。例えば、照射形状が正方形の照射パターンがあるときに、磁石情報記憶部21は、照射形状が正方形となるような基準となるスポット位置を記憶している。この基準となるスポット位置に対応して、基準となっている電流値も記憶されている。また、磁石情報記憶部21は、X用電磁石5A,5BとY用電磁石6A,6Bの配置形態に特有のスポット位置を記憶する。
【0055】
また、照射パターンは、補正値算出部20で算出した重心位置の照射情報(電流設定値)に補正値を加えたものとなる。
【0056】
さらに、粒子線ビーム制御システム1の構築時または定期的なメンテナンス時に、試射した粒子線ビームPのスポット位置がずれている場合がある。その場合には、補正値算出部20で新たに算出された補正値(補正情報)で、補正値記憶部22に記憶されている補正情報が更新されても良い。
【0057】
例えば、粒子線ビームPを用いた粒子線治療を開始する前に、2つのスキャニング電磁石5,6の位置合わせが行われ、この位置合わせのときにスポット位置がずれている場合に、補正値が算出される。このようにすれば、スキャニング電磁石5,6の位置合わせのときに、既に補正値記憶部22に記憶された補正値を更新することができる。
【0058】
粒子線治療時には、治療計画に設定された照射情報が、補正値記憶部22に記憶されている補正情報で補正される。例えば、制御部17は、補正された照射情報に基づいて、スキャニング電磁石5,6に供給される電力の電流値を制御する。このようにすれば、スキャニング電磁石5,6の据付位置がずれている場合でも、電流値を自動で補正することができる。そして、想定した照射位置に粒子線ビームPが照射されるようになる。このことから、粒子線ビームPの照射位置を常に補正すること、または、スキャニング電磁石5,6の位置合わせにかかる時間を抑えることができる。
【0059】
このようにすれば、スキャニング電磁石5,6を分解し難い場合でも、粒子線ビームPの照射位置の調整を行うことができる。
【0060】
また、制御コンピュータ11は、磁場補正に係るスポット位置を表示することができる。本実施形態では、制御コンピュータ11のディスプレイ(出力部15)がスポット位置表示部となっている。
【0061】
例えば、磁石情報記憶部21に記憶されている理論上のスポット位置と重心位置とのずれを示す照射情報をディスプレイに表示させることができる。ユーザーは、理論上のスポット位置と、補正された後の重心位置をチェックすることができる。その他にも補正した際のずれ量、イオン種、ビームエネルギー値についてもディスプレイに表示させることができる。
【0062】
なお、本実施形態の「ずれ量」には、スキャニング電磁石5,6が発生させる磁場の回転または歪みなどの情報が含まれる。また、ずれ量の補正は、治療計画時に設定されたスキャニング電磁石5,6の電流値を、実際の粒子線治療時に補正することである。
【0063】
ユーザーは、基準となる設計理論上のスポット位置を確認する。さらに、ユーザーは、設計理論上の照射情報からスポット位置と、補正後の実際のスポット位置である重心位置とを同様に確認する。このようにすれば、ユーザーは、患者に照射する前に、スキャニング電磁石5,6がずれているかを否か確認することができる。また、補正された照射情報を予め確認することで、想定した照射位置に粒子線ビームPを照射することができる。そして、粒子線ビームPの位置を常に補正することができる。さらに、スキャニング電磁石5,6の位置合わせにかかる時間を抑えることができる。
【0064】
制御コンピュータ11は、補正前または補正後の重心位置、スポット位置、ずれ量、補正値のうちの少なくともいずれかを示す情報をディスプレイ(出力部15)の画面に表示する。このようにすれば、重心位置のずれ量などをユーザーが確認することができる。なお、イオン種、ビームエネルギーなどが表示されても良い。
【0065】
次に、粒子線ビームPの補正処理について
図3のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を参照する場合がある。以下のステップは、補正処理に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが補正処理に含まれていても良い。
【0066】
まず、ステップS1において、粒子線ビームPを用いた粒子線治療を開始する前、例えば、粒子線ビーム制御システム1の構築時または定期的なメンテナンス時に、2つのスキャニング電磁石5,6の位置合わせが行われる。ここで、ユーザー(作業者)が、2つのスキャニング電磁石5,6の位置合わせを行う。
【0067】
次のステップS2において、制御部17は、ユーザーが入力部14に入力した情報または通信部16で受信した情報に基づいて、スキャニング電磁石5,6の実際の配置の態様を示す磁石情報を取得する。この磁石情報は、磁石情報記憶部21に記憶される。なお、磁石情報には、スキャニング電磁石5,6の設計上の情報が含まれる。
【0068】
次のステップS3において、制御部17は、ユーザーが入力部14に入力した情報または通信部16で受信した情報に基づいて、粒子線ビームPに用いられるイオン種とビームエネルギー値の設定を行う。
【0069】
次のステップS4において、制御部17は、ユーザーが入力部14に入力した情報または通信部16で受信した情報に基づいて、ビーム走査部4からスキャニング電磁石5,6に電力を供給するときの設計上の基準となっている基準電流値の設定を行う。例えば、X用電源12からX用電磁石5A,5Bに電力を供給するときのX用基準電流値と、Y用電源13からY用電磁石6A,6Bに電力を供給するときのY用基準電流値との設定が行われる。
【0070】
次のステップS5において、制御部17は、ビーム発生装置2とビーム加速装置3とビーム走査部4とスキャニング電磁石5,6を制御し、粒子線ビームPの試射を行う。ここで、位置モニタ部8は、粒子線ビームPのX方向とY方向の照射位置を検出する。この粒子線ビームPの照射位置を示す情報は、制御部17に入力される。
【0071】
次のステップS6において、重心位置算出部19は、位置モニタ部8で検出された粒子線ビームPの位置に基づいて、粒子線ビームPの実際の照射位置である重心位置を算出する。
【0072】
次のステップS7において、補正値算出部20は、スキャニング電磁石5,6の設計上の照射位置であるスポット位置と重心位置とのずれ量を算出する。
【0073】
次のステップS8において、補正値算出部20は、スポット位置と重心位置とのずれ量に基づいて、重心位置をスポット位置に補正するための補正値を算出する。なお、補正値は、X用基準電流値を補正するX用補正値と、Y用基準電流値を補正するY用補正値と、を含む。
【0074】
次のステップS9において、制御部17は、補正前または補正後の重心位置、スポット位置、ずれ量、補正値のうちの少なくともいずれかを示す情報をディスプレイ(出力部15)の画面に表示する。
【0075】
次のステップS10において、制御部17は、算出した補正値を補正値記憶部22に記憶する。そして、補正処理が終了する。
【0076】
なお、複数のイオン種と複数のビームエネルギー値がある場合には、イオン種とビームエネルギー値をそれぞれ切り替えながら、ステップS3からステップS10の処理を繰り返す。つまり、イオン種とビームエネルギー値とのそれぞれに対応する複数の補正値が補正値記憶部22に記憶される。
【0077】
また、ユーザーは、スポット位置と重心位置のずれ量が大きい場合に、スキャニング電磁石5,6の位置合わせを再度行うようにしても良い。この場合は、ステップS1からの処理をやり直す。
【0078】
次に、粒子線ビームPの照射開始処理について
図4のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を参照する場合がある。以下のステップは、照射開始処理に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが照射開始処理に含まれていても良い。
【0079】
まず、ステップS11において、粒子線ビームPを用いた粒子線治療を開始するときに、制御部17は、ユーザーが入力部14に入力した情報または通信部16で受信した情報に基づいて、粒子線ビームPに用いられるイオン種とビームエネルギー値の設定を行う。
【0080】
次のステップS12において、制御部17は、補正値記憶部22に記憶された補正値を読み出す。例えば、制御部17は、補正値記憶部22に記憶されている複数の補正値のうち、設定されたイオン種とビームエネルギー値に対応する補正値を選択する。
【0081】
次のステップS13において、制御部17は、補正値記憶部22に記憶された補正値に基づいて、基準電流値の補正を行う。例えば、制御部17は、X用補正値でX用基準電流値を補正するとともに、Y用補正値でY用基準電流値を補正する。
【0082】
次のステップS14において、制御部17は、ビーム発生装置2とビーム加速装置3とビーム走査部4とスキャニング電磁石5,6を制御し、粒子線ビームPの照射を開始する。そして、照射開始処理が終了する。
【0083】
なお、粒子線治療中であっても、スポット位置と重心位置とのずれ量の算出が行われても良い。そして、新たな補正値が算出され、既存の補正値が更新されても良い。
【0084】
なお、前述のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0085】
次に、変形例1について
図5から
図7を用いて説明する。なお、前述した構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0086】
図5に示すように、変形例1の粒子線ビーム制御システム1(
図1)は、電磁石構造体30を備える。この電磁石構造体30は、スキャニング電磁石5,6と第1円筒部材31と第2円筒部材32と第3円筒部材33とを備える。電磁石構造体30は、粒子線ビーム制御システム1の粒子線ビームP(
図1)の輸送経路の一部を構成する。
【0087】
第1円筒部材31と第2円筒部材32と第3円筒部材33は、それぞれが円筒形状(中空形状)を成し、内径(口径)が円筒の軸Cに沿って一定となっている部材である。なお、第1円筒部材31と第2円筒部材32と第3円筒部材33が直線状に延びる場合には、円筒の軸CとZ方向が同一である。第1円筒部材31と第2円筒部材32と第3円筒部材33とは、粒子線ビームPが通過する通過領域Rを中心として同心円状(同軸)に設けられている。
【0088】
第1円筒部材31は、内部が真空にされた真空ダクトである。この第1円筒部材31の外周面にY用電磁石6A,6Bが配置されている。
【0089】
第2円筒部材32は、第1円筒部材31の外側を覆うように設けられている。この第2円筒部材32の外周面にX用電磁石5A,5Bが配置されている。
【0090】
第3円筒部材33は、第2円筒部材32の外側を覆うように設けられている。この第3円筒部材33は、電磁石構造体30の外周を構成するカバーとなっている。
【0091】
図6から
図7に示すように、一対のX用電磁石5A,5Bは、それぞれが複数のコイル50で構成されている。同様に、一対のY用電磁石6A,6Bも、それぞれが複数のコイル60で構成されている。なお、これらの図面では、理解を助けるために、第3円筒部材33の図示が省略されている。
【0092】
変形例1では、X用電磁石5A,5BとY用電磁石6A,6Bが、同心円状(同軸)に配置され、周方向(X方向およびY方向)において互いの一部が重なっている。このようにすれば、X用電磁石5A,5BとY用電磁石6A,6Bをコンパクトにまとめて配置することができる。
【0093】
次に、変形例2について
図8を用いて説明する。なお、前述した構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0094】
変形例2の電磁石構造体40は、粒子線ビームPの進行方向(軸C)に従って内径(直径)が連続的に大きくなる形状となっている。言い換えれば、この電磁石構造体40は、粒子線ビームPの入射側(上流側)から出射側(下流側)に向かうに連れて直径が広がる形状となっている。
【0095】
図8の例では、電磁石構造体40の内径の広がる形状は、粒子線ビームPの偏向に対応する形状であって、楽器のラッパの先端と同じ形状となっている。なお、電磁石構造体40の内径は、粒子線ビームPの入射側から出射側に向かうに連れて線形的に増加する形状でも良い。
【0096】
なお、第1円筒部材31と第2円筒部材32と第3円筒部材33(
図5から
図7参照)のそれぞれの内径(口径)についても、粒子線ビームPの進行方向に従って内径が連続的に大きくなる形状となっている。
【0097】
第2円筒部材32の外周面に設けられているX用電磁石5A,5Bは、第2円筒部材32の直径が大きくなるに連れて拡大される形状となっている。なお、第1円筒部材31の外周面に設けられているY用電磁石6A,6Bも、第1円筒部材31の直径が大きくなるに連れて拡大される形状となっている。
【0098】
変形例2では、粒子線ビームPが走査される前である電磁石構造体40の入射側において、電磁石構造体40の内径は小さくなっている。粒子線ビームPが走査されて広がった状態となる出射側では、ビーム軌道に沿って電磁石構造体40の内径が大きくなっている。このようにすれば、電磁石構造体40の内周面に粒子線ビームPに衝突させることなく、粒子線ビームPにコイル50,60(
図5から
図7参照)を近接させることが可能となり、粒子線ビームPの照射野を広く確保することができる。つまり、粒子線ビームPの偏向の揺れ幅を大きくしても、粒子線ビームPが電磁石構造体40に干渉しないようにできる。
【0099】
なお、X用電磁石5A,5BとY用電磁石6A,6Bで少なくとも1つの電磁石ユニット(図示略)が構成され、これら複数の電磁石ユニットがZ方向に並んで配置されるものでも良い。さらに、それぞれの電磁石ユニットの内径が進行方向に従って大きくなるものでも良い。このようにすれば、複数の電磁石ユニットで構成される装置全体の大型化(全長に亘る口径の拡大)を抑制しつつ、粒子線ビームPの照射野を広くすることができる。
【0100】
前述の制御コンピュータ11は、制御デバイスと記憶デバイスと出力デバイスと入力デバイスと通信インターフェースとを備える。ここで、制御デバイスは、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、専用のチップなどの高集積化させたプロセッサを含む。記憶デバイスは、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などを含む。出力デバイスは、ディスプレイパネル、ヘッドマウントディスプレイ、プロジェクタ、プリンタなどを含む。入力デバイスは、マウス、キーボード、タッチパネルなどを含む。この制御コンピュータ11は、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0101】
なお、前述の制御コンピュータ11で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。追加的または代替的に、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルとして、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記憶媒体に記憶されて提供される。この記憶媒体は、CD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などを含む。
【0102】
また、この制御コンピュータ11で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータに格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、この制御コンピュータ11は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用回線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0103】
以上説明した実施形態によれば、X用電源12およびY用電源13からスキャニング電磁石5,6に電力を供給するときの設計上の基準となっている電流値を補正することにより、粒子線ビームPの照射位置のずれを調整する作業の簡素化が図れる。
【0104】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0105】
1…粒子線ビーム制御システム、2…ビーム発生装置、3…ビーム加速装置、4…ビーム走査部、5,6…スキャニング電磁石、5A,5B…X用電磁石、6A,6B…Y用電磁石、7…線量モニタ部、8…位置モニタ部、9…リッジフィルタ、10…レンジシフタ、11…制御コンピュータ、12…X用電源、13…Y用電源、14…入力部、15…出力部、16…通信部、17…制御部、18…記憶部、19…重心位置算出部、20…補正値算出部、21…磁石情報記憶部、22…補正値記憶部、30…電磁石構造体、31…第1円筒部材、32…第2円筒部材、33…第3円筒部材、40…電磁石構造体、50,60…コイル、P…粒子線ビーム、R…通過領域、T…患部。