(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180222
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】気体分離用複合膜およびそれを用いた気体製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/12 20060101AFI20231213BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20231213BHJP
B01D 63/10 20060101ALI20231213BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
B01D69/12
B01D53/22
B01D63/10
B01D69/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086640
(22)【出願日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2022092698
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】広沢 洋帆
(72)【発明者】
【氏名】水野 耀介
(72)【発明者】
【氏名】新名 清輝
(72)【発明者】
【氏名】武内 紀浩
(72)【発明者】
【氏名】小川 久美子
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA62
4D006HA65
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA10
4D006MA25
4D006MA31
4D006MB04
4D006MC07X
4D006MC11
4D006MC21
4D006MC22
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4D006MC54
4D006MC56X
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4D006MC65X
4D006NA41
4D006NA46
4D006NA64
4D006PA01
4D006PB18
4D006PB62
4D006PB63
4D006PB64
4D006PB66
(57)【要約】
【課題】水素およびヘリウム等の軽ガスと二酸化炭素、酸素、窒素、メタン等の他種ガスとの分離選択性を向上させる。
【解決手段】
少なくとも多孔性支持層、及び前記多孔性支持層上に配置された分離機能層を有する気体分離用複合膜であって、前記多孔性支持層及び/又は分離機能層中には、気体の透過を阻害する阻害剤を含み、前記阻害剤が、界面活性剤及び有機ケイ素化合物からなる群より選択される、気体分離用複合膜。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも多孔性支持層、及び前記多孔性支持層上に配置された分離機能層を有する気体分離用複合膜であって、前記多孔性支持層及び/又は分離機能層中には、気体の透過を阻害する阻害剤を含み、前記阻害剤が、界面活性剤及び有機ケイ素化合物からなる群より選択される、気体分離用複合膜。
【請求項2】
前記多孔性支持層100重量%中に、前記阻害剤を0.1重量%以上2.0重量%以下含む、請求項1に記載の気体分離用複合膜。
【請求項3】
前記界面活性剤が、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、及び両性イオン界面活性剤からなる群より選択される、請求項1または2に記載の気体分離用複合膜。
【請求項4】
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により検出される、前記分離機能層表面から深さ0~50nmの分離機能層領域における界面活性剤または有機ケイ素化合物のピーク強度の合計をX1、前記分離機能層表面から深さ1000~1050nmの多孔性支持層領域における界面活性剤または有機ケイ素化合物のピーク強度の合計をX2としたときに、X1/X2が0.01以上0.5以下である、請求項1または2に記載の気体分離用複合膜。
【請求項5】
以下の工程1及び工程2を含む、気体製造方法。
工程1:請求項1に記載の気体分離用複合膜の一方の面に、水素またはヘリウムの少なくとも一方である軽ガスAと、軽ガスA以外の気体Bとを含む混合気体を供給する工程。
工程2:前記気体分離用複合膜の他方の面から、前記混合気体よりも気体A/気体Bのモル比が大きい気体を得る工程。
【請求項6】
中心管と、
請求項1に記載の気体分離用複合膜と、
前記気体分離用複合膜の間に配置された流路材と、
を備え、
前記気体分離用複合膜と前記流路材は、前記中心管の周囲に巻囲されている、気体分離用複合膜モジュール。
【請求項7】
2種以上の成分を含む混合気体から少なくとも1種の成分を富化する気体分離システムであって、
前記気体分離システムは請求項6に記載の気体分離用複合膜モジュールを備える気体分離用複合膜ユニットを備え、
前記特定気体分離用複合膜ユニットは、供給気体の入口、透過気体の排出口、及び濃縮気体の排出口を備え、
前記供給気体の入口には、供給気体管が接続され、
前記透過気体の排出口には、透過気体排出管が接続され、
前記濃縮気体の排出口には、濃縮気体排出管が接続されている、気体分離システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の気体分離用複合膜を用いて、ヘリウム、水素に代表される軽ガスと二酸化炭素、酸素、窒素等を分離する気体分離用複合膜およびそれを用いたガス製造方法、気体分離用複合膜モジュール、気体分離システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年クリーンなエネルギー源として、水素が注目されている。水素は、天然ガス及び石炭等の化石燃料を改質・ガス化し、主成分として水素と二酸化炭素などを含む混合ガスから不要ガスを除去することによって得られている。また、水を電気や光触媒によって分解し、水素と酸素、水蒸気を含む混合ガスから水素のみを取り出すことで得られている。また、水素はアンモニアを合成するハーバー・ボッシュ法にも用いられている。これは、水素と窒素を高温、高圧で反応させることでアンモニアを合成する方法であるが、生産プラントにおいて未反応の水素と窒素を分離回収するプロセスが必要である。
【0003】
低コストで混合ガスから特定のガスを濃縮させる方法として、素材の持つ気体透過性の違いを利用して、目的ガスを選択的に透過させる膜分離法が注目されている。
【0004】
特許文献1には、単層の中空糸膜に界面活性剤を付着させ、気体の分離選択性を向上させる手法が提案されている。また特許文献2には、気体分離膜の機能層中にフッ素を導入することで、腐食性ガスに対する耐久性を向上させる手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-186327号公報
【特許文献2】特開2019-162565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術では、二酸化炭素、酸素、窒素、メタン等の他種ガスの透過抵抗が小さく、水素およびヘリウム等の軽ガスと二酸化炭素、酸素、窒素、メタン等の他種ガスとの分離選択性が低いので、分離効率が低いという問題点がある。
【0007】
そこで本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、水素およびヘリウム等の軽ガスと二酸化炭素、酸素、窒素、メタン等の他種ガスとの分離選択性を向上させる気体分離用複合膜およびその製造方法、気体分離用複合膜モジュール、気体分離システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、気体分離用複合膜の性能、特に分離選択性を大幅に改善した。本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
(1) 少なくとも多孔性支持層、及び前記多孔性支持層上に配置された分離機能層を有する気体分離用複合膜であって、前記多孔性支持層及び/又は分離機能層中には、気体の透過を阻害する阻害剤を含み、前記阻害剤が、界面活性剤及び有機ケイ素化合物からなる群より選択される、気体分離用複合膜。
(2)前記多孔性支持層100重量%中に、前記阻害剤を0.1重量%以上2.0重量%以下含む、上記(1)に記載の気体分離用複合膜。
(3)前記界面活性剤が、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、及び両性イオン界面活性剤からなる群より選択される、上記(1)または(2)に記載の気体分離用複合膜。
(4)飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により検出される、前記分離機能層表面から深さ0~50nmの分離機能層領域における界面活性剤または有機ケイ素化合物のピーク強度の合計をX1、前記分離機能層表面から深さ1000~1050nmの多孔性支持層領域における界面活性剤または有機ケイ素化合物のピーク強度の合計をX2としたときに、X1/X2が0.01以上0.5以下である、上記(1)または(2)に記載の気体分離用複合膜。
(5)以下の工程1及び工程2を含む、気体製造方法。
【0009】
工程1:請求項1に記載の気体分離用複合膜の一方の面に、水素またはヘリウムの少なくとも一方である軽ガスAと、軽ガスA以外の気体Bとを含む混合気体を供給する工程。
【0010】
工程2:前記気体分離用複合膜の他方の面から、前記混合気体よりも気体A/気体Bのモル比が大きい気体を得る工程。
(6)中心管と、
上記(1)に記載の気体分離用複合膜と、
前記気体分離用複合膜の間に配置された流路材と、
を備え、
前記気体分離用複合膜と前記流路材は、前記中心管の周囲に巻囲されている、気体分離用複合膜モジュール。
(7)2種以上の成分を含む混合気体から少なくとも1種の成分を富化する気体分離システムであって、
前記気体分離システムは上記(6)に記載の気体分離用複合膜モジュールを備える気体分離用複合膜ユニットを備え、
前記特定気体分離用複合膜ユニットは、供給気体の入口、透過気体の排出口、及び濃縮気体の排出口を備え、
前記供給気体の入口には、供給気体管が接続され、
前記透過気体の排出口には、透過気体排出管が接続され、
前記濃縮気体の排出口には、濃縮気体排出管が接続されている、気体分離システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、水素およびヘリウム等の軽ガスに対して高い分離選択性を有する気体分離用複合膜、気体製造方法、気体分離用複合膜モジュールおよび気体分離システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は気体分離用複合膜の断面図の一例である。
【
図2】
図2は気体分離用複合膜モジュールの形態を示す一部展開斜視図である。
【
図3】
図3は気体分離用複合膜ユニットの構成を示す一例である。
【
図4】
図4は気体分離システムのフロー一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.気体分離用複合膜
本発明の気体分離用複合膜は、少なくとも多孔性支持層、及び前記多孔性支持層上に配置された分離機能層を有する気体分離用複合膜であって、前記多孔性支持層及び/又は分離機能膜中に、気体の透過を阻害する阻害剤を含む気体分離用複合膜である。以下、本発明の気体分離用複合膜について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態の気体分離用複合膜(51)は、
図1に示すように、少なくとも、多孔性支持層(52)、多孔性支持層上の分離機能層(53)を備える。また、基材(54)を有していてもよい。さらに、この気体分離用複合膜は、多孔性支持層及び/又は分離機能層に気体の透過を阻害する阻害剤を含んでいる。
【0015】
(基材)
本発明の気体分離用複合膜は基材を有していてもよい。基材は、水素およびヘリウムを透過できるものであればよい。基材はガスの分離選択透過能を持つ必要はなく、分離機能層を支持することで、気体分離用複合膜全体に強度を与えることができればよい。
【0016】
基材を構成する樹脂としては特に限定されないが、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体、ポリスルフィド系重合体、あるいはこれらの混合物や共重合体などがあげられる。なかでも機械的強度および熱的安定性の高いポリエステル系重合体やポリスルフィド系重合体が、基材を構成する樹脂として特に好ましい。
【0017】
基材の形態としては特に限定されないが、長繊維不織布、短繊維不織布といった不織布または織編物が好ましい。
【0018】
(多孔性支持層)
本発明の気体分離用複合膜は、多孔性支持層を有する。多孔性支持層は、水素またはヘリウムを透過できるものであればよい。多孔性支持層は、ガスの分離選択透過能を持っていても、持たなくともよく、分離機能層を支持することで、気体分離用複合膜全体に強度を与えることができればよい。
【0019】
多孔性支持層の孔のサイズおよび分布は特に限定されないが、例えば、孔径は、多孔性支持層全体で均一であるか、あるいは多孔性支持層において分離機能層と接する側の表面からもう一方の面にかけて徐々に大きくなっていてもよい。
【0020】
多孔性支持層の素材は特に限定されないが、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルフィド等のホモポリマー、あるいはコポリマーを単独あるいはブレンドして使用することができる。なかでも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアラミドなどのホモポリマーあるいはコポリマーは、化学的、機械的、熱的安定性が高いので、多孔性支持層の素材として特に好ましい。
【0021】
(分離機能層)
本発明の気体分離用複合膜における分離機能層の素材は特に限定されず、セルロースやポリイミド、ポリアミドなどを用いることができる。分離機能層がポリアミドを主成分とする場合では、多孔性支持層上で、多官能性アミンと多官能性酸ハロゲン化物との界面重縮合を行うことにより形成することができる。
【0022】
ポリアミドを主成分とするとは、本発明の気体分離用複合膜を1時間以上水洗し、阻害剤を除去した後の分離機能層100重量%において、ポリアミドが50重量%以上を占めることを意味し、分離機能層100重量%中のポリアミドの量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上100重量%以下である。
【0023】
分離機能層中のポリアミドは、全芳香族ポリアミドでも、全脂肪族ポリアミドでも、芳香族部分と脂肪族部分を併せ持っていてもよいが、より高い性能を発現するためには、全芳香族であることが好ましい。
【0024】
多官能性アミンとは、具体的には多官能性芳香族アミンまたは多官能性脂肪族アミンである。多官能性芳香族アミンとは、一分子中に第一級アミノ基及び第二級アミノ基のうち少なくとも一方のアミノ基を2個以上有し、かつ、アミノ基のうち少なくとも1つは第一級アミノ基である芳香族アミンを意味する。また多官能性脂肪族アミンとは、一分子中に第一級アミノ基及び第二級アミノ基のうち少なくとも一方のアミノ基を2個以上有する脂肪族アミンを意味する。
【0025】
例えば、多官能性芳香族アミンは、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、o-ジアミノピリジン、m-ジアミノピリジン、p-ジアミノピリジン等の2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係で芳香環に結合した多官能性芳香族アミン等が挙げられる。
【0026】
また、多官能性脂肪族アミンは、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、ピペラジン、2-メチルピペラジン、2,4-ジメチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、2,6-ジメチルピペラジン等が挙げられる。これらの多官能性アミンは、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0027】
また、多官能性酸ハロゲン化物とは、具体的には多官能性芳香族酸ハロゲン化物または多官能性脂肪族酸ハロゲン化物である。
【0028】
多官能性酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。例えば、3官能酸ハロゲン化物では、トリメシン酸クロリド等を挙げることができ、2官能酸ハロゲン化物では、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド等を挙げることができる。
【0029】
多官能性アミンとの反応性を考慮すると、多官能性酸ハロゲン化物は多官能性酸塩化物であることが好ましく、また、気体分離用複合膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2~4個の塩化カルボニル基を有する多官能性酸塩化物であることが好ましい。
【0030】
中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさの観点から、トリメシン酸クロリドがより好ましい。これらの多官能性酸ハロゲン化物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0031】
また、重縮合反応とは、具体的には界面重縮合である。
【0032】
(阻害剤)
本発明の気体分離用複合膜は、多孔性支持層及び/又は分離機能層中に阻害剤を含有することが肝要である。「分離機能層中」に阻害剤が存在するとは、分離機能層の内部および/または表面に阻害剤が存在することを意味する。分離機能層には、粗大孔や欠点等の気体透過度が著しく大きい領域がわずかながら存在する。このような領域においては分子ふるいによる分離の寄与が小さく、水素およびヘリウム等の軽ガスに対する分離選択性が低い。粗大孔や欠点等の分離選択性が低い領域の寄与を少なくすることが、膜全体の選択分離性の向上に重要である。
【0033】
多孔性支持層が阻害剤を含有する場合、多孔性支持層の空隙部に阻害剤が存在することで、多孔性支持層の気体透過抵抗が増加する。多孔性支持層の気体透過抵抗が大きいことで、分離機能層の粗大孔・欠点領域からの気体透過を抑えることができる。二酸化炭素、酸素、窒素、メタン等の透過を大きく抑制するが、水素およびヘリウム等の軽ガスの透過への影響は小さいため、選択分離性を大きく向上させることができる。
【0034】
分離機能層に阻害剤を含有する場合、分離機能層の上部に阻害剤のコート層を形成、あるいは粗大孔・欠点を阻害剤が埋めることで、粗大孔・欠点からの気体透過を抑制することができる。二酸化炭素、酸素、窒素、メタン等の透過を大きく抑制するが、水素およびヘリウム等の軽ガスの透過への影響は小さいため、選択分離性を大きく向上させることができる。
【0035】
阻害剤は、界面活性剤及び有機ケイ素化合物からなる群より選択される。
【0036】
界面活性剤とは、一つの分子中に、水との親和性が高い親水基と、油との親和性が高い疎水基の両方を有する分子のことであり、標準化学用語辞典第2版(丸善出版)において、親水基とは、「水との相互作用の強い極性原子団」のことを指し、「イオン性の親水基には硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、アンモニウム基などがあり、非イオン性の親水基には、ヒドロキシ基、オキシエチレン基、アミド基などがある。」と記されているとおりである。
【0037】
また、標準化学用語辞典第2版(丸善出版)において、疎水基については、「水とはなじまない水との親和性が低い官能基」と記されており、親水基とは逆に無極性の原子団のことを意味する。疎水基の例としては、直鎖式あるいは分岐式の脂肪族基、またはこれらの水素の一部、あるいは全部がフッ素によって置き換えられたフルオロ脂肪族が挙げられる。
【0038】
界面活性剤の具体的な物質名としては、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ラウリル硫酸ナトリウム、ヘキサデシル硫酸ナトリウム、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロリド、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、ノナフルオロ-1-ブタン硫酸、ヘプタフルオロ-1-オクタン硫酸リチウム、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウロイルグルタミン酸カリウム、ステアリルアルコール、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエートなどが挙げられる。
【0039】
界面活性剤は、物理的だけでなく電気的にも分離膜へ保持させる観点から、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、及び両性イオン界面活性剤から選択すると良い。
また、分子量が100以上500以下の化合物であることが好ましく、200以上400以下がより好ましい。具体的には、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、ヘプタフルオロ-1-オクタン硫酸リチウム、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウロイルグルタミン酸カリウム等が挙げられる。
有機ケイ素化合物は、有機化合物の炭素原子1個以上をケイ素原子で置換した化合物のことを指す。例えば、飽和炭化水素の炭素をケイ素で置換したケイ素化合物であるシラン、シロキサン結合(Si-O-Si)を有するシロキサン、シロキサン結合が連なり高分子となったポリシロキサンが挙げられる。
溶出成分中の有機ケイ素化合物は、ISO 3819:2015記載の洗浄方法により得られた洗浄液を1H-NMRで分析することにより、同定・定量が可能である。
【0040】
(気体分離用複合膜中の阻害剤の割合)
本発明の気体分離用複合膜は、気体分離用複合膜100重量%中に、阻害剤を0.1重量%以上含有することが好ましく、0.5重量%以上含有することがより好ましく、1.0重量%以上含有することがさらに好ましい。気体分離用複合膜100重量%中に、阻害剤を0.1重量%以上含有することで、選択分離性を向上するために十分なガス透過抵抗を気体分離用複合膜へ付与することができる。気体の透過性を大きく低減させないために、気体分離用複合膜100重量%中の阻害剤の含有量は、2.0重量%以下であることが好ましい。
【0041】
本発明において阻害剤を0.1重量%以上含有する、とは、以下に記載の洗浄方法を用いて気体分離用複合膜の洗浄を行った際、洗浄後の洗浄液が、洗浄前の気体分離用複合膜100重量部に対し、0.1重量部以上の溶出成分を含有することとをいう。
【0042】
洗浄、溶出性分の定量方法としては、ISO 3819に記載の洗浄方法、具体的には500mLビーカーに、一辺1cmの正方形にカットした気体分離用複合膜を3g投入し、温度25℃の水またはヘキサン300gを洗浄液として使用し、径8mm、全長40mmのポリテトラフルオロエチレン製撹拌子を用いて、200回転/分で1時間攪拌して得られた洗浄液をLC-MS/MS(液体クロマトグラフィータンデム質量分析法)で分析することにより、同定・定量する。
【0043】
本発明の気体分離用複合膜は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により検出される、分離機能層表面から深さ0~50nmの領域における界面活性剤または有機ケイ素化合物のピーク強度の合計をX1、分離機能層表面から深さ1000~1050nmの領域における界面活性剤または有機ケイ素化合物のピーク強度の合計をX2としたときに、X1/X2が0.01以上0.5以下であることが好ましく、0.03以上0.3以下がより好ましく、0.05以上0.2以下がさらに好ましい。X1/X2が0.5以下であることで、界面活性剤または有機ケイ素化合物が多孔性支持層に偏在し、効果的に透過抵抗を高め、粗大孔からの透過の寄与を低減することができる。X1/X2が0.01以上であることで、粗大孔への界面活性剤または有機ケイ素化合物の入り込みによる粗大孔からの透過抑制が可能となる。
【0044】
X1/X2を好適な範囲とするための手段としては、つまり、界面活性剤または有機ケイ素化合物を、孔径が小さい分離機能層に比べて、孔径が分離機能層よりも大きい多孔性支持層側に偏在させるために、多孔性支持層側または基材側から、界面活性剤または有機ケイ素化合物を含有した溶液を塗布する方法や接触させる方法が挙げられる。また、X1/X2の好適な範囲を達成するためには、分離機能層よりも多孔性支持層を厚くしておくことが好ましい。したがって、好ましい厚みは、分離機能層は5nm以上900nm以下が好ましく、5nm以上300nm以下であることが好ましい。一方、多孔性支持層は、10μm以上500μm以下が好ましく、10μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0045】
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)は、超高真空中においた試料表面に対し、パルス化された一次イオンを照射し、試料表面からスパッタリングされて放出された二次イオンの飛行時間の分布から二次イオンの質量分布を得る分析方法である。スパッタリングを進行させつつ、二次イオン強度を検出することで、試料の深さ方向の検出元素の濃度分布を知ることができる。
【0046】
なお、本発明において、ピーク強度X1、X2は、ともに同一成分の界面活性剤または有機ケイ素化合物に着目した場合のピーク強度である。X1が界面活性剤、X2が有機ケイ素化合物といった組み合わせや、X1とX2が異なる界面活性剤または有機ケイ素化合物といった組み合わせは考慮せず、X1として界面活性剤に着目した場合には、X2としても同一の界面活性剤に着目し、X1として有機ケイ素化合物に着目した場合には、X2としても同一の有機ケイ素化合物に着目する。具体的には、X1とX2がともにヘキサデシル硫酸ナトリウム、X1とX2がともにポリジメチルシロキサン、といった組み合わせは認められるが、X1がヘキサデシル硫酸ナトリウムでX2がポリジメチルシロキサンという組み合わせや、X1がヘキサデシル硫酸ナトリウムでX2がラウリル硫酸ナトリウムといった組み合わせは認められない。また、界面活性剤と有機ケイ素化合物の両方を含有する場合、界面活性剤、有機ケイ素化合物のいずれかにおけるX1/X2が0.01以上0.5以下であればよい。
【0047】
2.気体分離用複合膜の製造方法
次に、上記気体分離用複合膜の製造方法について説明する。
【0048】
本発明の気体分離用複合膜中に、阻害剤を導入するためには、気体分離用複合膜に対し、溶出成分を含有する溶液、又はエマルジョンを接触させることが好ましい。接触の方法は特に限定されず、分離機能層側および/又は多孔性支持層側への塗布、浸漬等の方法が用いられる。
【0049】
溶出成分を気体分離用複合膜に導入する際に用いる溶媒としては、水、エタノール、ベンゼン、ヘキサンが挙げられ、浸漬処理における気体分離用複合膜の劣化が少ないという点で、水が好ましい。溶媒として水を用いる場合、水溶液のpHは気体分離用複合膜の劣化を可能な限り少なくする目的で、3~11の範囲であることが好ましい。
【0050】
阻害剤は、上述したように界面活性剤または有機ケイ素化合物を含有することが好ましい。
【0051】
阻害剤を含む溶液に気体分離用複合膜を浸漬させる場合には、浸漬時間は1分~3時間が好ましく、溶出成分の吸着量を考慮すると5分~2時間が好ましい。
【0052】
阻害剤を含む溶液との接触後は、溶出成分の結晶析出を防止するため、過剰な溶液を液切りすることが好ましい。
【0053】
溶液の液切り後、気体分離用複合膜を十分に乾燥させるため、25℃、湿度70%以下で12時間以上風乾することが好ましい。
【0054】
3.気体製造方法
上述の気体分離用複合膜は、水素、ヘリウムなどの軽ガスを選択的に透過すること可能であり、気体製造方法に適用される。
【0055】
本実施形態にかかる気体製造方法は、以下の工程を含む。
【0056】
(1)気体分離用複合膜の一方の面に、水素またはヘリウムの少なくとも一方である軽ガスAと、軽ガスA以外のガスBとを含む混合ガスを供給する工程。
【0057】
(2)気体分離用複合膜の他方の面から、前記混合ガスよりもガスA/ガスBのモル比が大きいガスを得る工程。
【0058】
つまり、本製造方法によると、軽ガスAに対する気体分離用複合膜の透過性と不要成分であるガスBとに対する透過性とが違うことを利用して、軽ガスAとガスBとの混合ガスから、ガスBの濃度が低減された透過ガスを得ることができる。
【0059】
ガスBは具体的な種類に限定されないが、混合ガスは、ガスBとして、例えば、二酸化炭素、酸素、窒素、およびメタンの少なくとも一種のガスを含有することが好ましい。気体分離用複合膜は、水素及びヘリウムの透過度と二酸化炭素、酸素、窒素、およびメタンの透過度の差が大きいことにより、水素およびヘリウムを効率よく分離することができるためである。
【0060】
また、前記混合ガスが水蒸気を含有してもよい。水蒸気は膜に付着し、軽ガスの分離選択性を低下させる原因となるが、上記気体分離用複合膜は、供給ガスに水蒸気が含有している場合においても、優れた軽ガス分離選択性を示す。
【0061】
4.気体分離用複合膜モジュール 本発明の気体分離用複合膜モジュールの一態様を
図2に示す。気体分離用複合膜モジュール(100)においては、中心管(4)の周囲に、気体分離用複合膜(1)が巻囲される。
図2に示すx軸の方向が中心管(4)の長手方向である。またy軸の方向が中心管の長手方向と垂直な方向である。
【0062】
中心管(4)は、後述の透過気体が排出されるように少なくとも下流側の端部が開口している中空状の(円筒形の)部材である。複数の気体分離用複合膜モジュール(100)が連結される場合は、両端が開口している中心管が採用される。中心管(4)の側面(円筒形状における側面)には複数の孔が設けられている。
【0063】
複数の気体分離用複合膜(1)が、気体の透過側の面どうし、供給側の面どうしが互いに向かい合うように配置される。なお、例えば1枚の気体分離用複合膜が、透過側または供給側の面を内側にして折りたたまれ、それが中心管の周囲に巻囲されている場合も、「複数の複合分離膜」が設けられている場合に含められる。
【0064】
複数の気体分離用複合膜(1)の気体の透過側の面の間には透過側流路材(3)が配置され、気体の供給側の面の間には供給側流路材(2)が配置され、複数の気体分離用複合膜(1)と共に中心管(4)の周りに巻囲されることで気体分離用複合膜モジュール(100)が形成される。
【0065】
気体分離用複合膜モジュール(100)の一方の端面からは、供給気体(201)が供給される。供給気体(201)は、気体分離用複合膜モジュール(100)の中心管(4)の長手方向を移動しながら分離され、分離膜を透過した透過気体(202)は中心管(4)側面の孔から中心管(4)内部を通り、その端部から排出される。また、ろ過されなかった供給気体は、濃縮気体(203)として、気体分離用複合膜モジュール(100)の端面から排出される。
【0066】
5.気体分離システム
気体分離システムは、2つ以上の気体分離用複合膜ユニットを備える。ここで、気体分離用複合膜ユニットとは、
図3に示すように、1つ以上の気体分離用複合膜モジュールを圧力容器(14)に備えたもので、2種以上の成分を含む混合気体から少なくとも1種の成分を富化する性能を有する部分をいう。気体分離用複合膜モジュール100は並列や直列、またはそれらを組み合わせて配置することができる。
【0067】
気体分離用複合膜ユニット(9、10)において、供給気体の入口(6)は、気体分離用複合膜ユニット(9、10)に供給される気体の入口である。供給される気体は、入口に接続された供給気体管(11)を通じて供給される。なお、供給気体管(11)は、入口と、別の気体分離用複合膜ユニットの透過出口または濃縮出口とを接続する管となってもよい。
【0068】
透過気体の排出口(7)は、気体分離用複合膜ユニット(9、10)中の分離膜を透過した気体(透過気体)が排出される出口である。透過気体は、透過出口に接続された透過気体排出管(12)を通じて気体分離用複合膜ユニット(9、10)から排出される。一方、濃縮気体排出口(8)は、気体分離用複合膜ユニット中(9、10)の分離膜を透過せずに残った気体(濃縮気体)が排出される出口である。濃縮気体は、濃縮気体排出口(8)に接続された濃縮気体排出管(13)を通じて気体分離用複合膜ユニット(9、10)から排出される。濃縮気体排出管(13)及び透過気体排出管(12)はそれぞれ、別の気体分離用複合膜ユニットの入口に接続される管となってもよい。
【0069】
気体分離用複合膜ユニットを複数組み合わせた気体分離システムとしては、1段目の気体分離用複合膜ユニット(9)の濃縮気体を2段目の気体分離用複合膜ユニット(10)に供給する濃縮2段システム、1段目の気体分離用複合膜ユニット(9)の透過気体を2段目の気体分離用複合膜ユニット(10)に供給する透過2段システムとすることができる。
図4は透過2段システムの模式図を示している。
【0070】
本発明の気体分離システムを運転する際、ガスの供給圧力は特に限定されないが、0.1MPa~10MPaが好ましい。0.1MPa以上とすることでガスの透過速度が大きくなり、10MPa以下とすることで気体分離用複合膜やそのモジュール部材が圧力変形することを防ぐことができる。「供給側の圧力/透過側の圧力」の値も特に限定されないが、2~20が好ましい。「供給側の圧力/透過側の圧力」の値を2以上にすることでガスの透過速度を大きくすることができ、20以下とすることで、供給側のコンプレッサー、または透過側のポンプの動力費を抑制することができる。
【0071】
ガスの供給温度は特に限定されないが、0℃~200℃が好ましく、15℃~180℃がより好ましい。温度を15℃以上とすることで良好な気体透過性が得られ、180℃以下とすることで、気体分離用複合膜モジュールを構成する部材の熱変形を防ぐことができる。上記気体分離用複合膜をもちいれば、80℃以上、90℃以上、または100℃以上の温度でガスを供給することが可能である。
【0072】
6.用途
本発明の気体分離用複合膜モジュールは優れた分離性能を有しており、例えば水素と窒素などを含む混合ガスからの水素気体分離、水素と酸素や窒素、二酸化炭素、アンモニアなどを含む混合ガスからの水素気体分離に好適である。
【実施例0073】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
A.多孔性支持膜の作製
特に言及しない場合は、温度条件は室温(25℃)である。
【0074】
基材であるポリエステル不織布(通気量2.0cc/cm2/sec)上に、ポリスルホン(PSf)の16重量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を25℃の条件下で200μmの厚みでキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって多孔性支持層を形成した。こうして、基材と多孔性支持層とを有する多孔性支持膜を作製した。
B.分離機能層の作製
A.で得られた多孔性支持膜を6.0重量%のm-フェニレンジアミン(m-PDA)水溶液に2分間浸漬した。多孔性支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け多孔性支持層表面から余分な水溶液を取り除いた。
【0075】
続いて、0.16重量%のトリメシン酸クロリド(TMC)を含むn-デカン溶液を、多孔性支持層の表面が完全に濡れるよう塗布して、25℃で30秒静置したのち、60℃で100秒静置した。その後、分離機能層から余分な溶液を除去するために、分離機能層を垂直にして溶液を流化させ、さらに送付機を使い、25℃の空気を吹き付けて乾燥させることで液切りを行った。
C.気体分離用複合膜の作製
B.で得られた基材、多孔性支持層、分離機能層の積層体から、膜面積25cm2の円状に切り出し、界面活性剤として、0.5重量%のポリオキシエチレンソルビタントリオレエート(富士フィルム和光純薬株式会社)を分離機能層側の面に塗布し1時間静置した。その後、積層体から余分な溶液を除去するために、液切りとして積層体を垂直にして溶液を流化させた。最後に25℃で12時間以上風乾させることで気体分離用複合膜を得た。
得られた気体分離用複合膜を評価したところ、結果は表1のとおりであった。
【0076】
表中、気体透過度、選択性、阻害剤の割合、TOF-SIMSピーク強度比については、以下の方法により測定した。
【0077】
(1)気体透過度測定(ヘリウム透過度、窒素透過度および選択性)
供給側セルと透過側セルとを有する試験用セルの、供給側セルと透過側のセルとの間に分離膜を保持した。測定ガスとして、ヘリウムおよび窒素を用い、JIS K7126-1(2006)の圧力センサ法に準拠して測定温度25℃でヘリウムおよび窒素の単位時間当たりの透過側の圧力変化を測定した。ここで、供給側を100kPa、透過側を0kPaに設定し、供給側と透過側の圧力差を100kPaとした。続いて、透過したガスの透過速度Qを下記式により算出し、各成分のガスの透過速度の比としてヘリウム/窒素選択性を算出した。なお、STPは標準条件を意味する。
Q = [気体透過流量(m3・STP)]/[膜面積(m2)×時間(s)×圧力差(Pa)
(2)気体分離用複合膜中の阻害剤の割合
500mLビーカーに、一辺1cmの正方形にカットした上記で得られた気体分離用複合膜を3g投入し、温度25℃の水またはヘキサン300gを洗浄液として使用し、径8mm、全長40mmのポリテトラフルオロエチレン製撹拌子を用いて、200回転/分で1時間攪拌した。その後、JIS規格に記載の一般ろ紙1種を用いて洗浄液をろ過し、ろ過後の洗浄液100gをナスフラスコに採取して、凍結乾燥により、洗浄液から揮発成分を除去した。
【0078】
ナスフラスコの重量をW1(g)、凍結乾燥後のナスフラスコと残渣を合わせた重量をW2(g)として、溶出成分の重量をW2-W1とした。{(W2-W1)/3}×100により気体分離用複合膜中の阻害剤の割合とした。
【0079】
(3)TOF-SIMSピーク強度比
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて、分離膜における界面活性剤または有機ケイ素化合物のピーク強度を測定し、分離機能層表面から深さ0~50nmの領域におけるピーク強度の合計X1と、深さ1000~1050nmの領域におけるピーク強度の合計X2から、X1をX2で除して、TOF-SIMSピーク強度比とした。
【0080】
得られた気体分離用複合膜を評価したところ、結果は表1のとおりであった。
【0081】
なお、表1および2中、阻害剤の膜への塗布面は、分離機能層側から塗布した場合を「表面」、基材側から塗布した場合を「裏面」とした。
【0082】
(実施例2~9)
阻害剤の条件を表1および2のとおりに変更した以外は全て実施例1と同様にして、気体分離用複合膜を作製した。得られた気体分離用複合膜を評価したところ、結果は表1および2のとおりであった。
【0083】
なお阻害剤について、界面活性剤は富士フィルム和光純薬株式会社製を用いた。また、ポリジメチルシロキサンについては、エマルジョン型シリコーン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製)を用いた。
【0084】
(実施例10)
実施例1で得られた分離膜を幅300mm、長さ2mに裁断して2つに折り畳み、折り畳まれた分離膜に挟まれるように、供給側流路材(ネット、メッシュサイズ2mm×2mm、厚み0.5mm)を配置する構成とした。さらに、供給側流路材が配置されたのとは逆側の分離膜の面に、透過側流路材としてトリコット(畔幅0.2mm、溝幅0.2mm、厚み0.2mm)を配置し、透過側流路材の端部3辺に接着剤を塗布し、これらの積層物を、ABS樹脂製中心管(長さ:300mm、径:17mm、側面に直線状80個の孔×2列)にスパイラル状に巻囲して気体分離膜モジュールを作製した。
【0085】
供給ガスをヘリウムと窒素の混合気体(ヘリウム:窒素 = 80vol%:20vol%)とし、5L/分で気体分離膜モジュールに供給した。供給側圧力は0.1MPaとし、透過側は―0.09MPaとして運転した。得られた透過気体のヘリウム純度は98%であった。
【0086】
【0087】
【0088】
(比較例1)
阻害剤を表2のとおりに変更した以外は全て実施例1と同様にして、気体分離用複合膜を作製した。得られた気体分離用複合膜を評価したところ、結果は表2のとおりであった。すなわち、阻害剤が多孔性支持層や分離機能層に保持されなかったため、気体の透過が阻害されず、選択性は十分に向上しなかった。
【0089】
(比較例2)
気体分離用複合膜を、阻害剤を含む溶液に浸漬させなかった以外は全て実施例1と同様にして、気体分離用複合膜を作製した。得られた気体分離用複合膜を評価したところ、結果は表3のとおりであった。すなわち、気体の透過が阻害されなかったため、選択性は十分に向上しなかった。