(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180231
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】正極活物質および二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20231213BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231213BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231213BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20231213BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20231213BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20231213BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M10/0566
H01M10/0568
H01M4/131
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092852
(22)【出願日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2022092766
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022098104
(32)【優先日】2022-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022139989
(32)【優先日】2022-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 舜平
(72)【発明者】
【氏名】村椿 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 隆之
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM02
5H029AM07
5H029AM09
5H029DJ08
5H029EJ04
5H050AA16
5H050BA16
5H050BA17
5H050BA18
5H050CA08
5H050CB08
5H050DA10
5H050EA10
5H050FA18
(57)【要約】
【課題】本発明の一態様は、リチウムイオン二次電池からの安定な電力供給のために、リチウムイオン二次電池の熱的安全性をさらに向上させる。
【解決手段】フッ素を正極活物質の表層部に含有させる、またはフッ素を正極活物質の表面に吸着させることで、リチウムイオン二次電池の発火または過熱を抑制し、熱的安全性を向上させる。フッ素が正極活物質の表面に吸着していることで、吸着されているフッ素近傍の電解液などと反応することができ、電解液の熱分解等を抑制することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質は、ニッケルと、マンガンと、コバルトと酸素を有し、
前記正極活物質は表層部と、内部と、を有し、
前記表層部は前記内部よりもマグネシウムの濃度が高い正極活物質。
【請求項2】
請求項1において、前記表層部の表面は吸着させたフッ素を有する、正極活物質。
【請求項3】
遷移金属Mと、酸素と、フッ素と、を有する正極活物質であり、
前記遷移金属Mは、ニッケルと、マンガンと、コバルトであり、
前記正極活物質は表層部と、内部と、を有し、
前記表層部の表面は吸着させたフッ素を有し、
前記表層部は前記内部よりもマグネシウムの濃度が高い、正極活物質。
【請求項4】
正極と、負極と、
前記正極と前記負極との間にセパレータと、
前記正極と前記負極との間にイオン液体または有機溶媒と、を有する二次電池であり、
前記正極は、正極活物質と、導電材とを有し、
前記正極活物質は、遷移金属Mと、酸素と、フッ素と、を有し、
前記遷移金属Mは、ニッケルと、マンガンと、コバルトであり、
前記正極活物質は表層部と、内部と、を有し、
前記表層部は前記内部よりもマグネシウムの濃度が高く、
前記表層部の表面は吸着させたフッ素を有する、二次電池。
【請求項5】
請求項4において、前記導電材の表面にフッ素が吸着している、二次電池。
【請求項6】
請求項4において、前記導電材は、カーボンナノチューブである、二次電池。
【請求項7】
請求項4において、前記導電材は、アセチレンブラックである、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一様態は、物、方法、又は、製造方法に関する。または、本発明は、プロセス、マシン、マニュファクチャ、又は、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。本発明の一態様は、二次電池を含む蓄電装置、半導体装置、表示装置、発光装置、照明装置、電子機器またはそれらの製造方法に関する。
【0002】
なお、本明細書中において電子機器とは、蓄電装置を有する装置全般を指し、蓄電装置を有する電気光学装置、蓄電装置を有する情報端末装置などは全て電子機器である。
【背景技術】
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池、全固体電池等、種々の蓄電装置の開発が盛んに行われている。特に高出力、高容量であるリチウムイオン二次電池は半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し、充電可能なエネルギーの供給源として現代の情報化社会に不可欠なものとなっている。
【0004】
なかでもモバイル電子機器向け二次電池等では、重量あたりの放電容量が大きく、サイクル特性に優れた二次電池の需要が高い。これらの需要に応えるため、二次電池の正極が有する正極活物質の改良が盛んに行われている(たとえば特許文献1)。
【0005】
リチウムイオン二次電池は、温度が上昇するといくつかの状態を経て熱暴走に至ることが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】江田信夫 2-4 発熱のメカニズム データに学ぶ Liイオン電池の充放電技術 CQ出版 2020年4月4日発行 P.68-72
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リチウムイオン二次電池はハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHV)で代表される次世代クリーンエネルギー自動車に用いることができる。また、次世代クリーンエネルギー自動車に限らず、農業機械、電動アシスト自転車を含む原動機付自転車、自動二輪車、電動車椅子、電動カート、小型又は大型船舶、潜水艦、固定翼機および回転翼機で代表される航空機、ロケット、人工衛星、宇宙探査機、惑星探査機、宇宙船などの輸送用車両に二次電池を搭載することもできる。
【0009】
上記様々な用途に用いるリチウムイオン二次電池は、様々な状況を想定し、安全性検証が実施されている。例えば、二次電池の内部短絡を想定し、釘刺し試験などが行われている。二次電池の内部短絡が生じると、発熱し、発火する恐れもある。
【0010】
リチウムイオン二次電池からの安定な電力供給のために、リチウムイオン二次電池の熱的安全性をさらに向上させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、フッ素を正極活物質の表層部に含有させる、またはフッ素を正極活物質の表面に吸着させることで、リチウムイオン二次電池の発火または過熱を抑制し、熱的安全性を向上させる。
【0012】
正極活物質は、遷移金属Mと、酸素と、を有する。遷移金属Mは、ニッケルと、マンガンと、コバルトであり、そのような正極活物質をNCMと呼ぶ。NCMは層状岩塩型の結晶構造を有する。NCMはニッケルの含有率を高めることでエネルギー密度を向上させることができる。
【0013】
正極活物質にはフッ素が固溶していてもよく、例えばNCMを構成する結晶構造の酸素の一部にフッ素が置換していてもよい。フッ素は電気陰性度が高く、多くの元素と安定な化合物を生成しやすいことが知られている。
【0014】
本明細書で開示する発明の一態様は、フッ素を表面に吸着させた正極活物質とする。具体的には、フルオロ基が正極活物質の表面に吸着していることで、吸着させたフルオロ基近傍の電解液などと反応することができ、電解液の熱分解等を抑制することができる。表面に吸着しているフッ素も、正極活物質が有するフッ素とみなし、正極活物質に含まれる元素濃度を測定する測定機器、例えばX線光電子分光法(XPS)においてフッ素を検出できれば、正極活物質はフッ素を有すると言える。また、X線光電子分光法(XPS)に代えて飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いれば、粒子表面または粒子内部のフッ素を検出できる。また、フッ素の有無は、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)分析、ガスクロマトグラフィ質量分析法(GC/MS)、熱分解ガスクロマトグラフィ質量分析法(Py-GC/MS)、液体クロマトグラフィ質量分析法(LC/MS)等の分析結果を判断の材料にしてもよい。
【0015】
また、本明細書で開示する発明の一態様は、遷移金属Mと、酸素と、フッ素と、を有する正極活物質であり、遷移金属Mは、ニッケルと、マンガンと、コバルトを有し、正極活物質は表層部と、内部と、を有し、表層部の表面にはフッ素を有し、表層部は内部よりもマグネシウムの濃度が高い、正極活物質である。
【0016】
また、上記正極活物質を用いた二次電池も本発明の一態様であり、その構成は、正極と、負極と、正極と負極との間にセパレータと、正極と負極との間にイオン液体または有機溶媒と、を有する二次電池であり、正極は、正極活物質と、導電材とを有し、正極活物質は、遷移金属Mと、酸素と、フッ素と、を有し、遷移金属Mは、ニッケルと、マンガンと、コバルトを有し、正極活物質は表層部と、内部と、を有し、表層部は内部よりもマグネシウムの濃度が高く、表層部の表面にはフッ素を有する、二次電池である。
【0017】
上記構成において、さらに導電材の表面にフッ素が吸着している構成としてもよい。
【0018】
また、上記構成において、導電材は、炭素材料であればよく、具体的には、カーボンナノチューブまたはアセチレンブラックである。
【0019】
また、正極活物質の作製方法も本発明の一態様であり、その構成は、ニッケルと、マンガンと、コバルトを有する正極活物質を形成した後、正極活物質とフッ化物とを混合した混合物を容器に入れ、蓋をした状態で加熱を行い、正極活物質の表面にフッ素を吸着させる。蓋をした状態での加熱の際に加圧状態とすることが好ましい。
【0020】
また、正極活物質の表面にフッ素を吸着させるために複数回、正極活物質と、フッ化物と、を混合した混合物を容器に入れ、蓋をした状態で加熱を行ってもよい。繰り返してフッ素を添加することで正極活物質の表面のフッ素の濃度を高めることができる。正極活物質の表面のフッ素の濃度を高くすることでさらに効果的に、電解液の熱分解等を抑制することができる。
【0021】
上記構成において、正極活物質の表層部はマグネシウムを含み、表層部は内部よりもマグネシウムの濃度が高い。マグネシウムは表層部のリチウムサイトに適切な濃度で存在することで、内部の層状岩塩型の結晶構造を保持しやすくできる。これはリチウムサイトに存在するマグネシウムが、MO2層同士を支える柱として機能するためと推測される。従って、表層部にマグネシウムを含ませることで正極活物質の構造安定性を向上させることができる。
【0022】
マグネシウムは、適切な濃度であれば充放電に伴うリチウムの挿入および脱離に悪影響を及ぼさず上記のメリットを享受できる。しかしマグネシウムが過剰であるとリチウムの挿入および脱離に悪影響が出る恐れがある。さらに結晶構造の安定化への効果が小さくなってしまう場合がある。加えて、リチウムサイトにも遷移金属Mサイトにも置換しない、不要なマグネシウム化合物(酸化物およびフッ化物等)が正極活物質の表面等に偏析し、二次電池の抵抗成分となる恐れがある。また正極活物質のマグネシウム濃度が高くなるのに伴って正極活物質の放電容量が減少することがある。これはリチウムサイトにマグネシウムが入りすぎ、充放電に寄与するリチウム量が減少するためと考えられる。
【0023】
また、表層部にフッ素及びマグネシウムを含ませることで、リチウムイオン二次電池の発火または過熱を抑制し、熱的安全性をさらに、向上させることができる。
【0024】
ただし表層部が添加元素(マグネシウムまたはアルミニウム)と酸素の化合物のみで占められると、リチウムの挿入脱離が難しくなってしまうため好ましくない。たとえば表層部が、酸化マグネシウム、および酸化マグネシウムと2価の遷移金属Mの酸化物が固溶した構造のみで占められるのは好ましくない。そのため表層部は少なくとも遷移金属Mを有し、放電状態においてはコバルトまたはリチウムも有し、リチウムの挿入脱離の経路を有している必要がある。
【0025】
また、マグネシウムまたはフッ素を含む領域は、島状となっていてもよい。被覆が不十分であり、一部が露出していても正極活物質として機能し、島状の表層部は、内部よりも高エネルギー密度とすることができる。
【0026】
また、十分にリチウムの挿入脱離の経路を確保するために、表層部は添加元素の原子数の和よりも、遷移金属Mの原子数の和が大きい、即ち遷移金属Mが占める濃度が高いことが好ましい。
【0027】
また、正極活物質に添加元素を加えてもよく、添加元素はアルミニウム、カルシウム、チタン、クロム、ジルコニウムから選ばれる一または二以上とする。
【0028】
また添加元素の一つであるチタンの酸化物は超親水性を有することが知られている。そのため、表層部にチタン酸化物を有する正極活物質とすることで、極性の高い溶媒に対して濡れ性がよくなる可能性がある。二次電池としたときに正極活物質と、極性の高い電解液との界面の接触が良好となり、内部抵抗の上昇を抑制できる可能性がある。
【0029】
また、正極活物質を覆うようにバリア膜を設け、バリア膜も正極活物質の一部として機能させる構成としてもよい。
【0030】
正極活物質は、遷移金属Mと、酸素と、を有する。遷移金属Mは、ニッケルと、マンガンと、コバルトであり、そのような正極活物質をNCMと呼ぶ。NCMは層状岩塩型結晶構造を有する。NCMはニッケルの含有率を高めることでエネルギー密度を向上させることができる。
【0031】
バリア膜は、マグネシウム及びコバルトを少なくとも有する。バリア膜は層状岩塩型結晶構造を有し、正極活物質の一部として機能するため、表層部とも呼ぶことができる。
【0032】
さらに、フッ素をバリア膜の表面に吸着させることで、リチウムイオン二次電池の発火または過熱を抑制し、熱的安全性を向上させる。
【0033】
正極活物質の一部であるバリア膜にはフッ素が固溶していてもよく、例えばNCMを構成する結晶構造の酸素の一部がフッ素と置換していてもよい。フッ素は電気陰性度が高く、多くの元素と安定な化合物を生成しやすいことが知られている。
【0034】
また、作製方法も本発明の一態様であり、その構成は、ニッケルと、マンガンと、コバルトを有する正極活物質を形成した後、正極活物質と、コバルト化合物とフッ化物(フッ化マグネシウム)とを混合した混合物を容器に入れ、蓋をした状態で加熱を行い、正極活物質の表面にフッ素を吸着させる。蓋をした状態での加熱の際に加圧状態とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明の一態様は、劣化しにくい正極活物質を提供することができる。または、新規な正極活物質を提供することができる。または、安全性または信頼性の高い二次電池を提供することができる。または、長寿命のリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0036】
また、本発明の一態様により、リチウムイオン二次電池の発火または過熱を抑制し、熱的安全性を向上させることができる。
【0037】
なお、これらの効果の記載は、他の効果の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、必ずしも、これらの効果の全てを有する必要はない。なお、これら以外の効果は、明細書、図面、請求項などの記載から、自ずと明らかとなるものであり、明細書、図面、請求項などの記載から、これら以外の効果を抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1(A)は正極活物質の断面模式図であり、その一部拡大図が
図1(B)であり、他の例である正極活物質の断面模式図が
図1(C)である。
【
図2】
図2(A)及び
図2(B)は正極活物質の作製方法を説明する図である。
【
図3】
図3は本発明の一態様を示す工程断面図の一例である。
【
図4】
図4は正極活物質の作製方法を説明する図である。
【
図5】
図5は正極活物質の作製方法を説明する図である。
【
図7】
図7(A)はコイン型二次電池の分解斜視図であり、
図7(B)はコイン型二次電池の斜視図であり、
図7(C)はその断面斜視図である。
【
図8】
図8(A)は、円筒型の二次電池の例を示す。
図8(B)は、円筒型の二次電池の例を示す。
図8(C)は、複数の円筒型の二次電池の例を示す。
図8(D)は、複数の円筒型の二次電池を有する蓄電システムの例を示す。
【
図9】
図9(A)及び
図9(B)は、二次電池の例を説明する図であり、
図9(C)は、二次電池の内部の様子を示す図である。
【
図13】
図13(A)は、本発明の一態様を示す電池パックの斜視図であり、
図13(B)は、電池パックのブロック図であり、
図13(C)は、電池パックを有する車両のブロック図である。
【
図14】
図14(A)乃至
図14(D)は、輸送用車両の一例を説明する図である。
図14(E)は、人工衛星の一例を説明する図である。
【
図15】
図15(A)は、電動自転車を示す図であり、
図15(B)は、電動自転車の二次電池を示す図であり、
図15(C)は、スクータを説明する図である。
【
図18】
図18(A)は釘刺し試験を説明する図であり、
図18(B)は正極活物質の拡大図である。
【
図19】
図19は内部短絡が生じたときの、二次電池の温度上昇を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0040】
なお本明細書等において、粒子とは球形(断面形状が円)のみを指すことに限定されず、個々の粒子の断面形状が楕円形、長方形、台形、錐形、角が丸まった四角形、非対称の形状などが挙げられ、さらに個々の粒子は不定形であってもよい。
【0041】
また均質とは、複数の元素(例えばA,B,C)からなる固体において、ある元素(例えばA)が特定の領域に同様の特徴を有して分布する状態をいう。なお特定の領域同士の元素の濃度が実質的に同一であればよい。たとえば特定領域同士のある元素の検出量(たとえばSTEM-EDXにおけるカウント数)の差が10%以内であればよい。特定の領域としてはたとえば表層部、表面、凸部、凹部、内部などが挙げられる。
【0042】
また添加元素が添加された正極活物質を複合酸化物、正極材、正極材料、二次電池用正極材、等と表現する場合がある。また本明細書等において、本発明の一態様の正極活物質は、化合物を有することが好ましい。また本明細書等において、本発明の一態様の正極活物質は、組成物を有することが好ましい。また本明細書等において、本発明の一態様の正極活物質は、複合体を有することが好ましい。
【0043】
また、以下の実施の形態等で正極活物質の個別の粒子の特徴について述べる場合、必ずしも全ての粒子がその特徴を有していなくてもよい。たとえばランダムに3個以上選択した正極活物質の粒子のうち50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上がその特徴を有していれば、十分に正極活物質およびそれを有する二次電池の特性を向上させる効果があるということができる。
【0044】
また、二次電池のショートは二次電池の充電動作および/または放電動作における不具合を引き起こすのみでなく、発熱および発火を招く恐れがある。安全な二次電池を実現するためには、高い充電電圧においてもショート電流が抑制されることが好ましい。本発明の一態様の正極活物質は、高い充電電圧においてもショート電流が抑制される。そのため高い放電容量と安全性と、を両立した二次電池とすることができる。
【0045】
また特に言及しない限り、二次電池が有する材料(正極活物質、負極活物質、電解質、セパレータ等)は、劣化前の状態について説明するものとする。なお二次電池製造段階におけるエージング処理(バーンイン処理といってもよい)によって放電容量が減少することは劣化とは呼ばないとする。たとえば、リチウムイオン二次単電池およびリチウム二次組電池(以下、リチウムイオン二次電池という)の定格容量の97%以上の放電容量を有する場合は、劣化前の状態と言うことができる。定格容量は、ポータブル機器用リチウムイオン二次電池の場合JIS C 8711:2019に準拠する。これ以外のリチウムイオン二次電池の場合、上記JIS規格に限らず電動車両推進用、産業用などの各JIS、IEC規格等に準拠する。
【0046】
また二次電池が有する材料の劣化前の状態を、初期品、または初期状態と呼称し、劣化後の状態(二次電池の定格容量の97%未満の放電容量を有する場合の状態)を、使用中品または使用中の状態、あるいは使用済み品または使用済み状態と呼称する場合がある。
【0047】
(実施の形態1)
本実施の形態では、
図1を用いて本発明の一態様の正極活物質100について説明する。
【0048】
正極活物質100は、リチウムと、遷移金属Mと、酸素と、フッ素を有する。遷移金属Mは、ニッケルと、マンガンと、コバルトから選ばれる一または二以上である。正極活物質100は、遷移金属Mに加えて添加元素を有することが好ましい。または正極活物質100はニッケル-マンガン-コバルト酸リチウムに添加元素が加えられたものを有することができる。
【0049】
リチウムイオン二次電池の正極活物質は、リチウムイオンが挿入または脱離しても電荷中性を保つために、酸化還元が可能な遷移金属を有する必要がある。本発明の一態様の正極活物質100は酸化還元反応を担う遷移金属Mとしてニッケルと、マンガンと、コバルトと、を有する。
【0050】
正極活物質100が有する遷移金属Mのうち、ニッケルの占める割合が大きいと、コバルトが過半を占める場合と比較して、充電電圧が低くても充放電容量を大きくしやすく好ましい。そのため、たとえば正極活物質100が有する遷移金属Mのうち、ニッケルが50%以上を占めると好ましく、60%以上を占めるとより好ましく、75%以上を占めるとさらに好ましい。正極活物質100はフッ素を含んでいるが、フッ素を除く正極活物質の組成はLiNixCoyMnzO2(x>0、y>0、z>0)で表されるNiCoMn系(NCMともいう)を用いる。一例として、x、yおよびzは、x:y:z=5:2:3またはその近傍の値、x:y:z=6:2:2またはその近傍の値を満たすことが好ましい。または一例として、x、yおよびzは、x:y:z=8:1:1またはその近傍の値を満たすことが好ましい。または一例として、x、yおよびzは、x:y:z=9:0.5:0.5またはその近傍の値を満たすことが好ましい。
【0051】
また、正極活物質100に添加元素を加えてもよく、例えば、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、ジルコニウム、フッ素、バナジウム、鉄、マンガン、クロム、ニオブ、ヒ素、亜鉛、ケイ素、硫黄、リン、ホウ素、臭素、及びベリリウムから選ばれる一または二以上を用いる。また遷移金属Mの原子数の和と添加元素の原子数の比は、添加元素が25原子%未満であることが好ましく、10原子%未満がより好ましく、5原子%未満がより好ましい。添加元素として遷移金属(例えばチタン)を加える場合には、その添加元素は遷移金属Mに含まないものとする。
【0052】
これらの添加元素が、後述するように正極活物質100が有する結晶構造をより安定化させる。なお本明細書等において添加元素は混合物、原料の一部と同義である。
【0053】
また表層部100bはフッ素の濃度が、内部100cよりも高いことが好ましい。内部100cは、表層部よりもニッケルの濃度が高いことが好ましい。また、フッ素は表面に向かって高くなる濃度勾配を有することが好ましい。また、表層部100bをバリア層として機能させるため、添加元素を添加してもよく、例えばマグネシウムを用いる。マグネシウムを用いる場合には、フッ化マグネシウムとNCMを混合して加熱することで表層部100bのマグネシウム濃度及びフッ素濃度を内部100cより高濃度にすることができる。
【0054】
表層部100bにフッ素及びマグネシウムを含ませることで、リチウムイオン二次電池の発火または過熱を抑制し、熱的安全性をさらに、向上させることができる。
【0055】
<表面及び表層部>
図1(A)は単粒子である正極活物質100の断面図である。正極活物質100は、表層部と、内部100cと、を有することが好ましい。
【0056】
本発明の一態様の正極活物質100は、抵抗を高めることが可能な領域を有するとよい。当該領域を他の領域と区分けするため、第1の領域と呼ぶことがある。上記領域は、断面視で2nm以上20nm以下、好ましくは2nm以上10nm以下、さらに好ましくは2nm以上5nm以下といった幅狭に存在すると好ましく、当該幅狭な領域を、本明細書等では「シェル」と呼ぶことがある。
図1(A)はシェル100dが粒子の端部に分布している例を示している。このようなシェル100dを有する正極活物質100は、二次電池に釘刺し試験を行った場合であっても正極活物質へ流れ込む電流の速度を緩やかにすることができ、発火、又は発煙等を抑制でき好ましい。正極活物質へ流れ込む電流の速度を緩やかにするために、シェル100dは、正極活物質100の表層部の外側に位置することがより好ましい。
【0057】
シェル100dはコバルトも有するとよく、シェル100dによりリチウムイオン(Li+)の挿入脱離を可能にしつつ、内部短絡による電流の流れ込み速度を緩やかにすることが可能となる。正極活物質100は第1の領域と、第1の領域よりも深い第2の領域とを有し、少なくとも第1の領域にマグネシウムを有するとよく、第2の領域にはマグネシウムがなくてもよい。また第1の領域及び第2の領域にコバルトを有することで、リチウムイオン(Li+)の挿入脱離が可能になると考えられる。
【0058】
また
図1(B)に、
図1(A)の四角を付した領域Bを拡大した概念図を示す。
図1(B)に示すように添加元素の一であるフッ素が正極活物質の表面100aに吸着しているとよい。フッ素は電気陰性度が高く、多くの元素と安定な化合物を生成しやすい。
【0059】
また、
図1(B)では、少なくともフッ素が正極活物質100のシェル100dに吸着している様子を示す。なお、表面100aは、表層部100bの一部の輪郭と一致する場合も、シェル100dの一部と一致する場合もある。また、吸着させたフッ素がリチウムイオン二次電池の発火または過熱を抑制し、熱的安全性をさらに、向上させることに十分に寄与するのであれば、フッ素は、シェル100dの内部に存在していなくともよく、フッ素は表層部100bの内部にも存在していなくともよい。
【0060】
シェル100dの存在または吸着させたフッ素により、正極活物質100の酸素が脱離しづらく、熱分解反応を抑制することができる。シェル100dを有する正極活物質100を正極に用いることでリチウムイオン二次電池の発火または過熱を抑制し、熱的安全性を向上させることができる。
【0061】
なお、吸着には化学吸着又は物理吸着が含まれる。化学吸着は添加元素の少なくとも一と正極活物質の表面100aとの間の化学反応により化学結合が形成されることであり、物理吸着は添加元素の少なくとも一と正極活物質100の表面との間に働く分子間力(ファンデルワールス力)により吸着していることである。後述するがフッ素は、正極活物質100の酸素の一部に置換していてもよい。正極活物質100に対して十分なフッ素があれば、表面に吸着するフッ素及び酸素の一部に置換したフッ素が存在する。
【0062】
リチウムイオン二次電池に用いられるフッ化物の例として、後述するがリチウム塩としてはLiPF6、LiBF4などがあり、バインダとしてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)などがある。このようなフッ化物からのフッ素が正極活物質の表面100aに吸着してもよい。
【0063】
図1(A)において、正極活物質100の表層部100bとは、例えば、表層部が露出している表面から内部に向かって50nm以内、より好ましくは表層部が露出している表面から内部に向かって35nm以内、さらに好ましくは表層部が露出している表面から内部に向かって20nm以内、最も好ましくは表層部が露出している表面から内部に向かって、表層部が露出している表面から垂直または略垂直に10nm以内の領域をいう。なお略垂直とは、80°以上100°以下とする。ひびおよび/またはクラックにより生じた面も表面といってよい。表面は断面観察した場合にその輪郭を確認することができる。
【0064】
図1(A)においてシェル100dは、特定の領域が厚くなるように設ける例を示している。当該特定の領域としては、例えば、正極活物質100にNCMを用いた場合であれば、NCMの(001)面以外の面などが挙げられる。別言すると釘刺し試験で発火しない限りにおいて、シェル100dは正極活物質100に対してどのように位置してもよく、リチウムイオン(Li
+)の挿入脱離を可能にしつつ内部短絡による電流の流れ込み速度を緩やかにすることができれば、マグネシウムが表層部の全体に存在することを否定しない。
【0065】
シェル100dは幅狭(ショートレンジ)に存在するとよい。さらにシェル100dの幅はリチウムの挿入脱離が可能な面、つまり(001)面以外の方が、(001)面よりも厚いとより好ましい。また、リチウムの挿入脱離が可能な面、つまり(001)面以外の面にて、Mgを有する領域と、Niを有する領域と、が、重畳、連結、または連接している構成が好ましい。当該構成とすることで、正極活物質からの酸素の脱離を抑制する、または正極活物質の構造変化を抑制することができる。別言すると、(001)面以外の面にて、シェル100dを設けることで、(001)面以外の面からの酸素の脱離を抑制することができる場合がある。また、(001)面、及び(003)面などを、まとめて(00l)面として呼称する場合がある。なお、(00l)面は、C面、ベーサル面などと呼称する場合がある。また、NCMにおいてリチウムは、二次元の拡散経路を有する。すなわちリチウムの拡散経路は面に沿って存在しているといえる。本明細書等において、リチウムの拡散経路が露出した面、つまりリチウムが挿入脱離する面、すなわち(001)面以外の面をエッジ面と呼ぶことがある。
図1(A)においてはエッジ面にシェル100dを選択的に設け、ベーサル面にはシェル100dを設けていない構成を示している。
【0066】
表層部100bは、空間群R-3mのLiMeO
2の結晶構造を有しており、
図20はLiMeO
2の結晶構造における面として、(003)面、(104)面、(012)面、(1-12)面、(101)面、(110)面、(2-10)面、(01-1)面、(10-2)面、及び(01-4)面を示す。ここで(001)配向以外の表面の一例として、(104)面、(012)面、(1-12)面、(101)面、(110)面、(2-10)面、(01-1)面、(10-2)面、及び(01-4)面、及びこれらの面に平行な面が挙げられる。(001)配向以外の表面とその表層部では、(001)配向した表面と比較して添加元素の検出量が低い場合がある。
【0067】
LiMeO2の結晶構造を有する表層部100bにおいてリチウムは、二次元の拡散経路を有する。すなわちリチウムの拡散経路は面に沿って存在しているといえる。本明細書等において、リチウムの拡散経路が露出した面、つまりリチウムが挿入脱離する面、すなわち(001)面以外の面をエッジ面と呼ぶことがある。
【0068】
正極活物質100は、少なくともニッケルと、マンガンと、コバルトを有しており、ニッケルを有するため、リチウムの挿入脱離が可能な面、つまり(001)配向以外の表面にて、マグネシウムを有する領域と、ニッケルを有する領域と、が、重畳、連結、または連接している構成が好ましい。当該構成とすることで、正極活物質からの酸素の脱離を抑制する、または正極活物質の構造変化を抑制することができる。
図1(B)に示すようにマグネシウム(Mg)はシェル100dにて酸素と結合しているとよい。さらにシェル100dはCoを有するとよく、Coは酸素と結合しているとよい。シェル100dは、リチウムイオン(Li
+)の挿入脱離を可能にしつつ内部短絡による電流の流れ込み速度を緩やかにすることができると考えられる。
【0069】
また正極活物質の表層部100bより深い領域を、内部100cと呼ぶ。内部100cは、内部領域またはコアと同義である。
【0070】
正極活物質の表面100aとは、上記表層部100bおよび内部100cを含む複合酸化物の表面をいうこととする。そのため正極活物質100は、酸化アルミニウム(Al2O3)をはじめとする充放電に寄与しうるリチウムサイトを有さない金属酸化物が付着したもの、正極活物質の作製後に化学吸着した炭酸塩、及びヒドロキシ基等は含まないとする。なお、付着した金属酸化物とは、たとえば内部100c及び表層部100bと結晶構造が一致しない金属酸化物をいう。
【0071】
正極活物質100はリチウムの挿入脱離が可能な遷移金属と酸素を有する化合物であるため、リチウムの挿入脱離に伴い酸化還元する遷移金属M(たとえばCo、Ni、Mn、Fe等)および酸素が存在する領域と、存在しない領域の界面を、正極活物質の表面100aとする。正極活物質を分析に供する際、表面に保護膜を付ける場合があるが、保護膜は正極活物質には含まれない。保護膜としては、炭素、金属、酸化物、樹脂などの単層膜または多層膜が用いられる場合がある。
【0072】
そのため、STEM-EDX線分析等における正極活物質の表面の位置は、上記遷移金属Mの特性X線の検出量が、内部の上記遷移金属Mの特性X線の検出量の平均値MAVEと、バックグラウンドの上記遷移金属Mの特性X線の検出量の平均値MBGとの和の50%になる点、又は酸素の特性X線の検出量が、内部の酸素の特性X線の検出量の平均値OAVEと、バックグラウンドの酸素の特性X線の検出量の平均値OBGとの和の50%になる点とする。なお、上記遷移金属Mの特性X線の検出量が内部の上記遷移金属Mの特性X線の検出量の平均値とバックグラウンドの上記遷移金属Mの特性X線の検出量の平均値の和の50%になる点と、酸素の特性X線の検出量が内部の酸素の特性X線の検出量の平均値とバックグラウンドの酸素の特性X線の検出量の平均値の和の50%になる点とが、異なる場合は、表面に付着する酸素を含む金属酸化物、炭酸塩等の影響と考えられるため、上記遷移金属Mの特性X線の検出量が内部の上記遷移金属Mの特性X線の検出量の平均値MAVEと、バックグラウンドの上記遷移金属Mの特性X線の検出量の平均値MBGとの和の50%になる点を正極活物質の表面の位置として採用することができる。また遷移金属Mを複数有する正極活物質の場合、内部における特性X線の検出量が最も多い元素のMAVE及びMBGを用いて表面の位置を求めることができる。
【0073】
バックグラウンドの上記遷移金属Mの特性X線の検出量の平均値MBGは、例えば遷移金属Mの特性X線の検出量が増加を始める近辺を避けて外側の2nm以上、好ましくは3nm以上の範囲を平均して求めることができる。また内部の遷移金属Mの特性X線の検出量の平均値MAVEは、遷移金属M及び酸素の特性X線の検出量が飽和し安定した領域、例えば遷移金属Mの特性X線の検出量が増加を始める領域から深さ30nm以上、好ましくは50nmを超える部分で、2nm以上、好ましくは3nm以上の範囲を平均して求めることができる。バックグラウンドの酸素の特性X線の検出量の平均値OBG及び内部の酸素の特性X線の検出量の平均値OAVEも同様に求めることができる。
【0074】
また断面STEM(走査型透過電子顕微鏡)像等における正極活物質の表面100aとは、正極活物質の結晶構造に由来する像が観察される領域と、観察されない領域の境界であって、正極活物質を構成する金属元素の中でリチウムより原子番号の大きな金属元素の原子核に由来する原子カラムが確認される領域の最も外側とする。またはSTEM像の、表面からバルクに向かった輝度のプロファイルに引いた接線と、深さ方向の軸の交点とする。STEM像等における表面は、より空間分解能の高い分析と併せて判断してもよい。
【0075】
また、STEM-EDXの空間分解能は1nm程度である。そのため添加元素プロファイルの最大値は1nm程度ずれることがあり得る。たとえば上記で求めた表面より外側にマグネシウム等の添加元素プロファイルの最大値があっても、最大値と表面の差が1nm未満であれば、誤差とみなすことができる。
【0076】
またSTEM-EDX線分析におけるピークとは、各元素プロファイルにおける検出強度、または元素毎の特性X線の最大値をいうこととする。なおSTEM-EDX線分析におけるノイズとしては、空間分解能(R)以下、たとえばR/2以下の半値幅の測定値などが考えられる。
【0077】
同一箇所を同一条件で複数回スキャンすることでノイズの影響を軽減できる。たとえば6スキャン測定した積算値を各元素のプロファイルとすることができる。スキャン回数は6に限られず、それ以上行って、その平均を各元素のプロファイルとすることもできる。
【0078】
STEM-EDX線分析は、たとえば以下のように行うことができる。まず正極活物質の表面に保護膜を蒸着する。たとえばイオンスパッタ装置(日立ハイテク製MC1000)にて、炭素を蒸着することができる。
【0079】
次に正極活物質を薄片化しSTEM断面試料を作製する。たとえばFIB-SEM装置(日立ハイテク製XVision200TBS)にて薄片化加工を行うことができる。その際ピックアップはMPS(マイクロプロービングシステム)で行い、仕上げ加工の条件はたとえば加速電圧10kVとすることができる。
【0080】
STEM-EDX線分析は、たとえばSTEM装置(日立ハイテク製HD-2700)を用いて、EDX検出器は、EDAXのOctane T Ultra W(2本差し)を使用することができる。EDX線分析時は、STEM装置のエミッション電流が6μA以上10μA以下になるよう設定し、薄片化した試料のうち奥行きおよび凹凸の少ない箇所を測定する。倍率はたとえば15万倍程度とする。EDX線分析の条件は、ドリフト補正有り、線幅42nm、ピッチ0.2nm、フレーム数6回以上とすることができる。
【0081】
<濃度勾配>
また正極活物質の表層部100bは遷移金属Mのうち、コバルトおよびマンガンの少なくとも一の濃度が、内部100cよりも高いことが好ましい。同様に内部100cは、表層部よりもニッケルの濃度が高いことが好ましい。またコバルトおよびマンガンの少なくとも一は、正極活物質100の表面に向かって高くなる濃度勾配を有することが好ましい。同様にニッケルは、正極活物質100の内部に向かって高くなる濃度勾配を有することが好ましい。
【0082】
また正極活物質100は添加元素によって分布が異なっていることがより好ましい。たとえば添加元素によって濃度ピークの表面からの深さが異なっていることがより好ましい。ここでいう濃度ピークとは、表層部100bまたは表面100aから200nm以下における濃度の極大値をいうこととする。
【0083】
また上述のような添加元素の濃度勾配に起因して、内部から、表面に向かって結晶構造が連続的に変化することが好ましい。または表層部と内部100cの結晶の配向が概略一致していることが好ましい。
【0084】
たとえば層状岩塩型の内部100cから、岩塩型、または岩塩型と層状岩塩型の両方の特徴を有する表面および表層部に向かって結晶構造が連続的に変化することが好ましい。または岩塩型、または岩塩型と層状岩塩型の両方の特徴を有する表層部と、層状岩塩型の内部100cの配向が概略一致していることが好ましい。
【0085】
なお本明細書等において、リチウムと遷移金属Mを含む複合酸化物が有する、空間群R-3mに帰属する層状岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列する岩塩型のイオン配列を有し、遷移金属とリチウムが規則配列して二次元平面を形成するため、リチウムの二次元的拡散が可能である結晶構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損等の欠陥があってもよい。また、層状岩塩型結晶構造は、厳密に言えば、岩塩型結晶の格子が歪んだ構造となっている場合がある。
【0086】
また岩塩型の結晶構造とは、空間群Fm-3mをはじめとする立方晶系の結晶構造を有し、陽イオンと陰イオンが交互に配列している構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損があってもよい。
【0087】
また層状岩塩型と岩塩型の結晶構造の特徴の両方を有することは、電子線回折、TEM像、断面STEM像等によって判断することができる。
【0088】
岩塩型は陽イオンのサイトに区別がないが、層状岩塩型は結晶構造の陽イオンのサイトが2種あり、1つはリチウムが大半を占有し、もう1つは遷移金属が占有する。陽イオンの二次元平面と陰イオンの二次元平面とが交互に配列する積層構造は、岩塩型も層状岩塩型も同じである。この二次平面を形成する結晶面に対応する電子線回折像の輝点の中で、中心のスポット(透過斑点)を原点000とした際、中心のスポットに最も近い輝点は、理想的な状態の岩塩型ではたとえば(111)面、層状岩塩型ではたとえば(003)面になる。たとえば岩塩型MgOと層状岩塩型LiMO2の電子線回折像を比較する場合、LiMO2の(003)面の輝点は、MgOの(111)面の輝点の距離のおよそ半分程度の距離に観察される。そのため分析領域に、たとえば岩塩型MgOと層状岩塩型LiMO2の2相を有する場合、電子線回折像では、強い輝度の輝点と、弱い輝度の輝点とが交互に配列する面方位が存在する。岩塩型と層状岩塩型で共通する輝点は強い輝度となり、層状岩塩型のみで生じる輝点は弱い輝度となる。
【0089】
また断面STEM像等では、層状岩塩型の結晶構造をc軸に垂直な方向から観察したとき、強い輝度で観察される層と、弱い輝度で観察される層が交互に観察される。岩塩型は陽イオンのサイトに区別がないためこのような特徴はみられない。岩塩型と層状岩塩型の両方の特徴を有する結晶構造の場合、特定の結晶方位から観察すると、断面STEM像等では強い輝度で観察される層と、弱い輝度で観察される層が交互に観察され、さらに弱い輝度の層、すなわちリチウム層の一部にリチウムより原子番号の大きい金属が存在する。
【0090】
層状岩塩型結晶、および岩塩型結晶の陰イオンは立方最密充填構造(面心立方格子構造)をとる。そのため層状岩塩型結晶と岩塩型結晶が接するとき、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃う結晶面が存在する。
【0091】
または、以下のように説明することもできる。立方晶の結晶構造の{111}面における陰イオンは三角格子を有する。層状岩塩型は空間群R-3mであって、菱面体構造であるが、構造の理解を容易にするため一般に複合六方格子で表現され、層状岩塩型の(0001)面は六角格子を有する。立方晶{111}面の三角格子は、層状岩塩型の(0001)面の六角格子と同様の原子配列を有する。両者の格子が整合性を持つことを、立方最密充填構造の向きが揃うということができる。
【0092】
ただし、層状岩塩型結晶の空間群はR-3mであり、岩塩型結晶の空間群Fm-3m(一般的な岩塩型結晶の空間群)とは異なるため、上記の条件を満たす結晶面のミラー指数は層状岩塩型結晶と、岩塩型結晶では異なる。本明細書では、層状岩塩型結晶および岩塩型結晶において、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃うとき、結晶の配向が概略一致する、と言う場合がある。また、結晶の配向が概略一致するような三次元的な構造上の類似性を有すること、または結晶学的に同じ配向であることをトポタキシ(topotaxy)という。
【0093】
二つの領域の結晶の配向が概略一致することは、TEM(Transmission Electron Microscope、透過電子顕微鏡)像、STEM(Scanning Transmission Electron Microscope、走査透過電子顕微鏡)像、HAADF-STEM(High-angle Annular Dark Field Scanning TEM、高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡)像、ABF-STEM(Annular Bright-Field Scanning Transmission Electron Microscope、環状明視野走査透過電子顕微鏡)像、電子線回折パターン、TEM像およびSTEM像等のFFTパターン等から判断することができる。XRD(X-ray Diffraction、X線回折)、電子線回折、中性子線回折等も判断の材料にすることができる。
【0094】
また、本発明の一態様の正極活物質100は放電状態、つまりLixMO2(MはNi,Co,Mnの少なくとも一)中のx=1の場合に、空間群R-3mに帰属する層状岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。層状岩塩型の複合酸化物は、放電容量が高く、二次元的なリチウムイオンの拡散経路を有しリチウムイオンの挿入および脱離反応に適しており、二次電池の正極活物質として優れる。そのため特に、正極活物質100の体積の大半を占める内部100cが層状岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。
【0095】
一方、本発明の一態様の正極活物質の表層部100bは、充電により正極活物質100からリチウムが多く抜けても、内部100cの遷移金属Mと酸素の8面体からなる層状構造が壊れないよう補強する機能を有することが好ましい。または表層部100bが正極活物質100のバリア層として機能することが好ましい。または正極活物質100の外周部である表層部が正極活物質100を補強することが好ましい。ここでいう補強とは、酸素の脱離をはじめとする正極活物質の表層部100bおよび内部100cの構造変化を抑制すること、および/または電解質が正極活物質の表面100aで酸化分解されることを抑制することをいう。すなわちバリア層として機能するとは、たとえば表層部が正極活物質100の構造変化を抑制すること、および電解質の酸化分解を抑制することを言う。
【0096】
また、正極活物質100の粒子は単結晶または多結晶であることが好ましい。正極活物質100が有する単結晶粒子を、単粒子という場合がある。または正極活物質100は結晶子サイズが大きい方が好ましい。
【0097】
一次粒子が大きいと、一次粒子の凝集および焼結による二次粒子の形成が抑制される。また一次粒子サイズが大きいと、XRDの回折パターンの半値幅から算出される結晶子サイズも当然大きくなる。そのため、正極活物質100が単粒子であると、またはXRDの回折パターンから算出される結晶子サイズが大きいと、多数の一次粒子が焼結して形成された正極活物質と比較して、一次粒子間で生じうるクラックがない、または少ない。そのため充放電によって正極活物質100の体積が変化してもクラックが抑制されることが期待できる。
【0098】
たとえばXRDの回折パターンの半値幅から算出される結晶子サイズが、150nm以上であることが好ましく、180nm以上であることがより好ましく、200nm以上であることがさらに好ましい。
【0099】
ただし単結晶を大きくする、または結晶子サイズを大きくしようとする際には、長時間あるいは高温での加熱、複数回の加熱工程、またはリチウムを過剰に添加した後の加熱工程が必要になる場合がある。しかし、長時間の加熱工程は生産性を低下させる。また高温での加熱はニッケルイオンとリチウムイオンのカチオンミキシングを起こす恐れがある。また過剰なリチウムはバインダのゲル化を起こす恐れがある。これらのデメリットを避け、単結晶の大きさ、および結晶子サイズは適度な大きさとすることが好ましい。たとえばXRDの回折パターンから算出される結晶子サイズは1000nm以下であることが好ましく、800nm以下であることがより好ましい。
【0100】
XRDの回折パターンから算出される結晶子サイズが上記の範囲である正極活物質は、十分に結晶子サイズが大きく、単粒子に近い特徴を有する正極活物質ということができる。
【0101】
結晶子サイズを算出する際のXRDの回折パターンは、正極活物質のみの状態で取得することが好ましいが、正極活物質に加えて集電体、バインダ及び導電材等を含む正極の状態で取得してもよい。ただし正極の状態では、作製工程における加圧等の影響で、正極活物質の粒子が、当該正極活物質の粒子の結晶面が一方向に揃うように配向している可能性がある。配向が強いと結晶子サイズが正確に算出できない恐れがあるため、正極から正極活物質層を取出し、溶媒等を用いて正極活物質層中のバインダ等をある程度取り除いてから試料ホルダに充填する等の方法でXRDの回折パターンを取得することがより好ましい。またシリコン無反射板上にグリースを塗布し、正極活物質等の粉体サンプルを当該シリコン無反射板に付着させるといった方法もある。
【0102】
≪XRD≫
結晶子サイズの算出には、たとえばBruker D8 ADVANCEを用い、X線源としてCuKα、2θは15°以上90°以下、increment 0.005、検出器をLYNXEYE XE-Tとして取得した回折パターンと、コバルト酸リチウムの文献値としてICSD coll.code.172909を用いることができる。結晶構造解析ソフトウェアとしてDIFFRAC.TOPAS ver.6を用いて解析を行うことができ、たとえば以下のように設定することができる。
【0103】
Emission Profile:CuKa5.lam
Background:Chebychev polynomial、5次
Instrument
Primary radius:280mm
Secondary radius:280mm
Linear PSD
2Th angular range:2.9
FDS angle:0.3
Full Axial Convolution
Filament length:12mm
Sample length:15mm
Receiving Slit length:12mm
Primary Sollers:2.5
Secondary Sollers:2.5
Corrections
Specimen displacement:Refine
LP Factor:0
【0104】
上記の手法で算出された結晶子サイズであるLVol-IBの値を結晶子サイズとして採用することが好ましい。なお算出されたPreferred Orientationが0.8未満の場合、サンプルの配向が強すぎるため当該サンプルは結晶子サイズを求めるには適さない場合がある。
【0105】
≪EDX≫
正極活物質100が有するフッ素、および遷移金属Mの濃度勾配はたとえば、FIB(Focused Ion Beam)等により正極活物質100の断面を露出させ、その断面をエネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)、EPMA(電子プローブ微小分析)等を用いて分析することで評価できる。
【0106】
EDX測定のうち、領域内を走査しながら測定し、領域内を2次元に評価することをEDX面分析と呼ぶ。また線状に走査しながら測定し、原子濃度について正極活物質内の分布を評価することを線分析と呼ぶ。さらにEDXの面分析から、線状の領域のデータを抽出したものを線分析と呼ぶ場合もある。またある領域について走査せずに測定することを点分析と呼ぶ。
【0107】
EDX面分析(例えば元素マッピング)により、正極活物質100の表層部、内部100cにおける、添加元素および遷移金属Mの濃度を定量的に分析することができる。また、EDX線分析により、添加元素の濃度分布および最大値を分析することができる。またSTEM-EDXのようにサンプルを薄片化する分析は、奥行き方向の分布の影響を受けずに、特定の領域における正極活物質の表面から中心に向かった深さ方向の濃度分布を分析でき、より好適である。
【0108】
そのため本発明の一態様の正極活物質100についてEDX面分析またはEDX点分析したとき、表層部100bのフッ素の濃度が、内部100cのそれよりも高いことが好ましい。正極活物質の表面のフッ素の濃度を高くすることで効果的に、電解液の熱分解等を抑制することができる。
【0109】
また、
図1(A)では、不規則な形状を有する正極活物質100に対して、島状にシェル100dを有する例を示し、正極活物質の表面100aの全てを覆うように吸着させたフッ素を点線部分で図示したが、特に限定されず、表面100aの全てをフッ素で覆っていなくてもよい。
【0110】
また、島状に表層部を有する正極活物質100に限定されず、表面100aにフッ素を吸着させる構成であればよく、例えば
図1(C)に示す構成としてもよい。
図1(C)は内部100cを覆うように表層部100bを有する例を示す。
図1(C)は粒子の形状が球形状に近い例を示している。また、
図1(C)に示す構成は、正極活物質の表層部100b全体を均一に覆うようにシェル100dを有する一例である。また、
図1(A)の示す正極活物質と、
図1(C)に示す正極活物質とを混在させ、複数種類の正極活物質を用いて正極を作製してもよい。
【0111】
図1(C)においても、正極活物質の表面100aの全てを覆うように吸着させたフッ素を点線部分で図示したが、特に限定されず、フッ素が表面100aの一部を覆っていればよい。
【0112】
本実施の形態は、他の実施の形態と組み合わせ用いることができる。
【0113】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1に示す正極活物質100の作製方法の一例を
図2(A)に示す。
【0114】
まずステップS11として、リチウム源と、正極活物質100の内部100c用の遷移金属M191源と、を用意する。遷移金属M191源は、ニッケルと、マンガンと、コバルトを有するNCMである。
【0115】
次にステップS12として、リチウム源と、正極活物質100の内部100c用の遷移金属M191源と、を合成する。合成方法としてはたとえば、固相法でリチウム源と正極活物質100の内部100c用の遷移金属源とを混合した後、加熱する方法がある。リチウム源を加えて加熱することで、二次粒子であったNCMが単粒子化する。
【0116】
このようにして、正極活物質100の内部100cが有する複合酸化物C191を作製する(ステップS13)。また、本実施の形態では合成する例を示したが、複合酸化物C191と同等の市販品を用いてもよい。複合酸化物C191は、単粒子のNCMと呼ばれる。
【0117】
次にステップS21として、正極活物質100の表層部100b用のX192源と、正極活物質100の表層部100b用のフッ素源と、を用意する。フッ素源としては、フッ素化合物、代表的にはフッ化リチウム(LiF)を用いることができる。LiFは融点が848℃と比較的低く、後述するアニール工程で溶融しやすいため好ましい。X192源としてフッ化マグネシウム(MgF2)を用いる。また、フッ化マグネシウムは、フッ素源でもあるため、フッ素源、X192源の一方のみとしてもよい。フッ化マグネシウムを用いるとマグネシウムを高濃度に正極活物質の表面近傍に配することができ、表層部100bを形成する。
【0118】
フッ化リチウム及びフッ化マグネシウムを用いる場合、共融点は742℃付近となり、正極活物質100を作製する上で有用である。共融点が低いと、後に行われるステップS31での反応が進みやすく好ましい。反応が進みやすいと、アニール時間が短く済み、生産性を高くすることができる。
【0119】
次にステップS31として、正極活物質100の内部100cが有する複合酸化物C191と、正極活物質100の表層部100b用のX192源と、正極活物質100の表層部100b用のハロゲン源と、を合成する。合成方法としては、固相法でこれらを混合した後、加熱する方法がある。また、合成方法としてゾルゲル法を用いてもよい。
【0120】
ここでステップS31におけるアニール方法の一例を
図3に示す。
【0121】
図3に示す加熱炉220は加熱炉内空間202、熱板204、圧力計221、ヒーター部206及び断熱材208を有する。容器216に蓋218を配してアニールするとより好ましい。該構成とすることによって、容器216及び蓋218で構成される空間219内をフッ化物を含む雰囲気にすることができる。アニール中は、空間219内のガス化されたフッ化物の濃度が一定となるように、または低減しないように蓋をすることで状態を維持すると、粒子表面近傍にフッ素およびマグネシウムを含ませることができる。空間219は加熱炉内空間202よりも容積が小さいため、少量のフッ化物が揮発することで、フッ化物を含む雰囲気とすることができる。すなわち、混合物903に含まれるフッ化物の量を大きく損なうことなく反応系をフッ化物を含む雰囲気にすることができる。そのため、効率よくLiMO
2を生成させることができる。また、蓋218を用いることによって簡便かつ安価にフッ化物を含む雰囲気で混合物903をアニールすることができる。
【0122】
また、加熱炉内空間202での加熱を行う前に、加熱炉内空間202を、酸素を含む雰囲気にする工程及び混合物903を入れた容器216を加熱炉内空間202に設置する工程を行う。該工程の順序とすることで、混合物903を酸素及びフッ化物を含む雰囲気でアニールすることができる。例えば、アニール中はガスをフローしながら行う。また、アニール中は加熱炉内空間202を密閉し、ガスが外部に運ばれないように閉空間とすることもできる。
【0123】
加熱炉内空間202を、酸素を含む雰囲気にする方法は特に制限はないが、一例として加熱炉内空間202を排気した後、酸素ガスまたは乾燥空気等酸素を含む気体を導入する方法、酸素ガスまたは乾燥空気等の酸素を含む気体を一定時間流入する方法が挙げられる。中でも、加熱炉内空間202を排気した後、酸素ガスを導入する(酸素置換)方法を行うと好ましい。なお、加熱炉内空間202の大気を、酸素を含む雰囲気とみなしても構わない。
【0124】
また、容器216および蓋218の内壁に付着したフッ化物等が、加熱により再飛翔して混合物903に付着させることもできる。
【0125】
加熱炉220を加熱する工程として特に制限はない。加熱炉220に備えられている加熱機構を用いて加熱すればよい。
【0126】
また、容器216へ入れた際の混合物903の配し方に特に制限はないが、
図3に示すように、容器216の底面に対して、混合物903の上面が平らになるように、言い換えると混合物903の上面の高さが均一になるように混合物903を配すると好ましい。
【0127】
上記ステップS31のアニールは、圧力計221で炉内の圧力を制御しながら行うことが好ましい。炉内は、大気圧状態または加圧状態とすることが好ましい。加熱の際、加圧状態とすると正極活物質100の表面がなめらかな表面となり、そうでない正極活物質よりも加圧等による物理的な破壊に強い可能性がある。たとえば、釘刺し試験のような加圧を伴う試験において正極活物質100が破壊されにくく、結果として安全性が高まる可能性がある。
【0128】
上記ステップS31のアニールは、適切な温度および時間で行うことが好ましい。また、アニール後の降温時間は、例えば10時間以上50時間以下とすることが好ましい。そして、アニールした材料を回収し、正極活物質100を得る。
【0129】
このようにして、
図1(A)に示す正極活物質100を作製する(ステップS32)。また、ステップS31の後に、フッ素を表面100aに吸着させる処理として、フッ素を含む溶液と接触させる処理を行ってもよい。その場合、フッ素またはフッ化物を表面100aに吸着させることができる。
【0130】
また、高濃度にフッ素を添加する場合には、フッ素を含む溶液と接触させる処理を繰り返し行ってもよい。
【0131】
また、
図1(C)に示した正極活物質101は、たとえば
図2(B)に示すフローに従って作製することができる。
【0132】
まずステップS11として、リチウム源と、内部100c用の遷移金属M191源と、を用意する。
【0133】
次にステップS12として、リチウム源と、正極活物質101の内部100c用の遷移金属M191源と、を合成する。合成方法としては、たとえば、固相法でリチウム源と正極活物質101の内部100c用の遷移金属源とを混合した後、加熱する方法がある。
【0134】
このようにして、正極活物質101の内部100cが有する複合酸化物C191を作製する(ステップS13)。また、本実施の形態では複合酸化物C191を合成する例を示したが、複合酸化物C191と同等の市販品を購入して用いてもよい。
【0135】
次にステップS41として、リチウム源と、表層部100b用の遷移金属M193源と、を用意する。遷移金属M193源は、コバルトを有する。
【0136】
次に、ステップS51として、正極活物質101の内部100cが有する複合酸化物C191と、リチウム源と、遷移金属M193源と、を合成する。合成方法としては、固相法でこれらを混合した後、加熱する方法がある。
【0137】
このようにして、表層部100bに覆われた内部100cを有する複合酸化物C191+193を作製する(ステップS52)。複合酸化物C191+193は、NCMの外側にLCOの領域を有する。
【0138】
次に、ステップS61として、シェル100d用のX194源と、複合酸化物C191+193の表面にフッ素を吸着させるためのフッ素源と、を用意する。フッ素源はフッ化リチウムを用い、X194源としてフッ化マグネシウム(MgF2)を用いる。
【0139】
次に、ステップS71として、フッ素源(フッ素化合物)と、複合酸化物C191+193と、シェル100d用のX194源と、を合成する。合成方法としてはたとえば、固相法でこれらを混合した後、加熱する方法がある。また、合成方法としてゾルゲル法を用いてもよい。
【0140】
このようにして、
図1(C)に示した正極活物質101を作製する(ステップS72)。また、ステップS71の後に、フッ素を表面100aに吸着させる処理としてフッ素を含む溶液と接触させる処理を行ってもよい。その場合、フッ素またはフッ化物を表面100aに吸着させることができる。
【0141】
本実施の形態は、他の実施の形態と組み合わせて用いることができる。
【0142】
(実施の形態3)
実施の形態2では固相法を用いて正極活物質100の内部100c及び表層部100bを作製する例を示したが、正極活物質100の内部100cを共沈法で作製することもできる。
【0143】
本実施の形態では、
図4及び
図5を用いて、本発明の一態様の正極活物質100の作製方法の例について説明する。
【0144】
<ステップS111>
図4のステップS111として、まずニッケル源(Ni源)、コバルト源(Co源)およびマンガン源(Mn源)を含む遷移金属M源を用意する。これらは層状岩塩型の結晶構造をとりうる範囲のニッケル、コバルト、マンガンの混合比とすることが好ましい。
【0145】
特に正極活物質100が有する遷移金属Mとしてニッケルを多く含むと、コバルトが多い場合と比較して原料が安価になる場合があり、また重量あたりの充放電容量が増加する場合があり好ましい。たとえば遷移金属Mのうちニッケルは、ニッケルとマンガンとコバルトとの合計に対して25原子%を超えることが好ましく、60原子%以上がより好ましく、80原子%以上がさらに好ましい。しかしニッケルの占める割合が高すぎると、化学安定性および耐熱性が下がるおそれがある。そのため遷移金属Mのうちニッケルは、ニッケルとマンガンとコバルトとの合計に対して95原子%以下であることが好ましい。
【0146】
遷移金属Mとしてコバルトを有すると、平均放電電圧が高く、またコバルトが層状岩塩型の構造の安定化に寄与するため信頼性の高い二次電池とすることができ好ましい。
【0147】
遷移金属Mとしてマンガンを有すると、耐熱性および化学安定性が向上するため好ましい。しかしマンガンの占める割合が高すぎると、放電電圧および放電容量が低下する傾向がある。そのためたとえば遷移金属Mのうちマンガンは、ニッケルとマンガンとコバルトとの合計に対して2.5原子%以上34原子%以下であることが好ましい。
【0148】
遷移金属M源は遷移金属Mを含む水溶液として用意する。ニッケル源としては、ニッケル塩の水溶液を用いることができる。ニッケル塩としては、たとえば硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、またはこれらの水和物を用いることができる。また酢酸ニッケルをはじめとするニッケルの有機酸塩、またはこれらの水和物を用いることもできる。またニッケル源としてニッケルアルコキシドまたは有機ニッケル錯体の水溶液を用いることができる。なお本明細書等において、有機酸塩とは、酢酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、酪酸等の有機酸と金属の化合物をいうこととする。
【0149】
同様にコバルト源としては、コバルト塩の水溶液を用いることができる。コバルト塩としては、たとえば硫酸コバルト、塩化コバルト、硝酸コバルト、またはこれらの水和物を用いることができる。また酢酸コバルトをはじめとするコバルトの有機酸塩、またはこれらの水和物を用いることもできる。またコバルト源としてコバルトアルコキシド、有機コバルト錯体の水溶液を用いることができる。
【0150】
同様にマンガン源としては、マンガン塩の水溶液を用いることができる。マンガン塩としては、たとえば硫酸マンガン、塩化マンガン、硝酸マンガン、またはこれらの水和物を用いることができる。またマンガン塩として酢酸マンガンをはじめとするマンガンの有機酸塩、またはこれらの水和物を用いることもできる。またマンガン源としてマンガンアルコキシド、または有機マンガン錯体の水溶液を用いることができる。
【0151】
本実施の形態では、遷移金属M源として、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを純水に溶解させた水溶液を用意することとする。このときニッケル、コバルトおよびマンガンの原子数比は、Ni:Co:Mn=8:1:1またはこの近傍とする。該水溶液は酸性を示す。
【0152】
<ステップS113>
また
図4のステップS113に示すように、キレート剤を用意してもよい。キレート剤として、たとえばグリシン、オキシン、1-ニトロソ-2-ナフトール、2-メルカプトベンゾチアゾール、またはEDTA(エチレンジアミン四酢酸)が挙げられる。なお、グリシン、オキシン、1-ニトロソ-2-ナフトールまたは2-メルカプトベンゾチアゾールから選ばれた複数種を用いてもよい。これらのうち少なくとも一つを純水に溶解させキレート水溶液として用いる。キレート剤は、キレート化合物を作る錯化剤であり、一般的な錯化剤より好ましい。勿論キレート剤でなく錯化剤を用いてもよく、錯化剤としてアンモニア水を用いることができる。キレート水溶液を用いることで結晶の核の不要な発生を抑え、結晶の成長を促すことができ好ましい。不要な核の発生が抑制されると微粒子の生成が抑制されるため、粒度分布が良好な複合水酸化物98を得ることができる。またキレート水溶液を用いることで、酸塩基反応を遅らせることができ、徐々に反応が進むことで球状に近い二次粒子を得ることができる。グリシンは9.0以上10.0以下及びその付近のpHにて、当該pH値を一定に保つ作用があり、キレート水溶液としてグリシン水溶液を用いることで、上記複合水酸化物98を得る際の反応槽のpHが制御しやすくなり好ましい。
【0153】
<ステップS114>
次に
図4のステップS114として、遷移金属M源とキレート剤を混合し、酸溶液を作製する。
【0154】
<ステップS121>
次に
図4のステップS121として、アルカリ溶液を用意する。アルカリ溶液としては、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、またはアンモニアを有する水溶液を用いることができる。純水を用いてこれらを溶解させた水溶液を用いることができる。また水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、またはアンモニアから選ばれた複数種を純水に溶解させた水溶液でもよい。
【0155】
上記遷移金属M源およびアルカリ溶液に用いると好ましい純水とは、比抵抗が1MΩ・cm以上の水、より好ましくは比抵抗が10MΩ・cm以上の水、さらに好ましくは比抵抗が15MΩ・cm以上の水である。当該比抵抗を満たす水は純度が高く、含有される不純物が非常に少ない。
【0156】
<ステップS122>
また
図4のステップS122に示すように、水を反応槽に用意することが好ましい。この水は、キレート剤の水溶液であってもよいが、純水であることがより好ましい。純水を用いることで核形成が促進され、小粒径の複合水酸化物を作製することができる。この複合水酸化物の小粒径のサイズは2μm未満の平均粒子径を指す。この反応槽に用意した水は、反応槽の張り込み液または調整液ということができる。キレート水溶液とする場合、ステップS113の記載を参酌することができる。
【0157】
<ステップS131>
次に
図4のステップS131として、酸溶液とアルカリ溶液を混合し、反応させる。該反応は、共沈反応、中和反応または酸塩基反応ということができる。
【0158】
ステップS131の共沈反応中は、反応系のpHを9.0以上11.5以下となるようにすることが好ましい。
【0159】
たとえばアルカリ溶液を反応槽に入れ酸溶液を反応槽へ滴下する場合、反応槽の水溶液のpHを上記条件の範囲に維持するとよい。また酸溶液を反応槽に入れておき、アルカリ溶液を滴下する場合も、同様である。酸溶液またはアルカリ溶液の滴下速度は、反応槽の溶液が200mL以上350mL以下の場合、0.01mL/分以下とするとpH条件を制御しやすく好ましい。反応槽は反応容器等を有する。
【0160】
反応槽では攪拌手段を用いて水溶液を攪拌しておくとよい。攪拌手段はスターラーまたは攪拌翼等を有する。攪拌翼は2枚以上6枚以下設けることができ、たとえば4枚の攪拌翼とする場合、上方からみて十字状に配置するとよい。攪拌手段の回転数は、800rpm以上1200rpm以下とするとよい。また反応槽にバッフル板を設け、攪拌の方向および流速を変化させてもよい。バッフル板を設けることで混合効率が向上し、より均一な複合水酸化物の粒子を合成することができる。
【0161】
反応槽の温度は50℃以上90℃以下となるように調整することが好ましい。アルカリ溶液または酸溶液の滴下は反応槽が当該温度になったのちに開始するとよい。
【0162】
また反応槽内は不活性雰囲気とするとよい。この場合の不活性雰囲気には窒素またはアルゴンを用いることができる。窒素雰囲気とする場合、窒素ガスを0.5L/分以上2L/分以下の流量で導入するとよい。
【0163】
また反応槽には還流冷却器を配置するとよい。還流冷却器により、窒素ガスを反応槽から放出させることができ、水蒸気は反応槽に戻すことができる。
【0164】
上記の共沈反応により、遷移金属Mを有する複合水酸化物98が沈殿する。
【0165】
<ステップS132>
複合水酸化物98を回収するために、
図4のステップS132に示すように濾過を行うことが好ましい。濾過は吸引濾過が好ましい。濾過の際、反応槽に沈殿した反応生成物を純水で洗浄した後に、有機溶媒(例えばアセトン等)を用いてもよい。
【0166】
<ステップS133>
図4のステップS133に示すように、濾過後の複合水酸化物98は乾燥させるとよい。たとえば60℃以上200℃以下の真空下にて、0.5時間以上20時間以下で乾燥させる。たとえば12時間乾燥させることができる。
【0167】
このようにして、遷移金属Mを有する複合水酸化物98を得ることができる。本明細書等において複合水酸化物98とは、複数種の金属の水酸化物をいうこととする。複合水酸化物98は、正極活物質100の内部100cの前駆体ということができる。
【0168】
<ステップS141>
次に
図5のステップS141として、リチウム源を用意する。このとき、リチウム源を加えて加熱する工程を複数回行うため、ステップS141では最終的なリチウム量よりも少ない量を用意する。たとえばニッケル、コバルトおよびマンガンの原子の和を1としたとき、リチウムを0.5以上0.9以下(原子数比)とすることができ、0.7(原子数比)とすることがより好ましい。
【0169】
リチウム源としてはたとえば水酸化リチウム、炭酸リチウム、または硝酸リチウムを用いることができる。特に水酸化リチウム(融点462°C)などリチウム化合物のなかでは融点の低い材料を用いると好ましい。ニッケルの割合が高い正極活物質は、コバルト酸リチウム等と比較してカチオンミキシングが生じやすいため、ステップS143などの加熱を低温で行う必要がある。そのため融点の低い材料を用いることが好ましい。
【0170】
またリチウム源の粒径が小さい方が、反応が良好に進みやすく好ましい。たとえば流動層式ジェットミルを用いて微粒子化したリチウム源を用いることができる。ここでいう粒径とは、レーザ回折・散乱法から測定された粒度分布における積算値50%の粒径(平均粒子径とも呼ぶ)である。平均粒子径は粒度分布が左右対称である場合として、D50を指すものとする。D50はレーザ回折・散乱法を用いた粒度分布計(島津製作所製SALD-2200)から算出された粒子の累積分布50%時の粒子径を指している。粒子の大きさの測定は、レーザ回折式粒度分布測定に限定されず、SEMまたはTEM(Transmission Electron Microscope、透過電子顕微鏡)などの分析によって、粒子断面の長径を測定してもよい。なお、SEMまたはTEMなどの分析からD50を測定する方法として例えば、20個以上の粒子を測定し、積算粒子量曲線を作成し、その積算量が50%を占めるときの粒子径をD50とすることができる。
【0171】
<ステップS142>
次に
図5のステップS142として、複合水酸化物とリチウム源とを混合する。混合は乾式または湿式で行うことができる。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、例えばメディアとしてジルコニアボールを用いることが好ましい。また、ボールミル、またはビーズミル等を用いる場合、メディアまたは材料からのコンタミネーションを抑制するために、周速を100mm/秒以上2000mm/秒以下とすることが好ましい。混合と同時にリチウム化合物は粉砕されることがある。
【0172】
<ステップS143>
次に複合水酸化物98とリチウム源の混合物に加熱を行う(ステップS143)。他の加熱工程との区別のために、
図5ではステップS143を第1の加熱、ステップS153を第2の加熱、ステップS155を第3の加熱という場合がある。
【0173】
これらの加熱を行う焼成装置としては、電気炉、またはロータリーキルン炉を用いることができる。加熱の際に用いる、るつぼ、サヤ、セッター、容器は不純物を放出しにくい材質であると好ましい。たとえば純度が99.9%の酸化アルミニウムのるつぼを用いるとよい。量産する場合には例えばムライト・コーディライト(Al2O3・SiO2・MgO)のサヤを用いるとよい。また、これらの容器に蓋をした状態で加熱することが好ましい。
【0174】
ステップS143の加熱は、温度は400℃以上750℃以下が好ましく、650℃以上750℃以下がより好ましい。また、ステップS143の加熱の時間は、1時間以上30時間以下が好ましく、2時間以上20時間以下がより好ましい。
【0175】
加熱雰囲気は、酸素を有する雰囲気、又はいわゆる乾燥空気であって水が少ない酸素含有雰囲気(例えば露点が-50℃以下、より好ましくは露点が-80℃以下)であることが好ましい。
【0176】
またステップS144として、加熱の後に解砕工程を有することが好ましい。解砕はたとえば乳鉢で行うことができる。さらに、ふるいを用いて分級してもよい。以上の工程により、ステップS145として、複合酸化物99を得る。複合酸化物99はNCMと呼ぶことができる材料である。
【0177】
<ステップS151>
次にステップS151として、フッ素源(フッ素化合物)を用意する。フッ素化合物として、フッ化水素、フッ化ハロゲン(ClF3、IF5等)、ガス状フッ化物(BF3、NF3、PF5、SiF4、SF6等)、金属フッ化物(LiF、NiF2、AlF3、MgF2等)等が挙げられる。本実施の形態において、フッ素源としてはフッ化マグネシウム、またはフッ化リチウムを用いる。正極活物質100を単粒子とする場合には、フッ化リチウムを用い、加熱して結晶成長させることが好ましい。フッ化リチウムを用いる場合は、ステップS141と合わせて最終的なリチウム量となるようにステップS151のリチウム量を調節する。最終的なリチウム量は、たとえばニッケル、コバルトおよびマンガンの原子の和を1としたとき、リチウムを0.95以上1.25以下が好ましく、1.00以上1.05以下(原子数比)であるとより好ましい。なお、リチウムをステップS141とステップS151の2回に分けて加え、それぞれ加熱する方法について説明するが、本発明の一態様はこれに限らない。リチウムを3回以上に分けて添加し、添加する毎に加熱してもよい。
【0178】
<ステップS152>
次にステップS145で得た複合酸化物99と、上記のフッ素源(フッ素化合物)とを混合する。
【0179】
<ステップS153>
次に複合酸化物99とフッ素源の混合物に加熱を行う。ステップS153の加熱は正極活物質100の結晶子サイズを大きくするため、十分に高い温度であることが好ましいが、その範囲は遷移金属Mの組成により異なる場合がある。
【0180】
遷移金属Mのうちニッケルの占める割合が高い、たとえば70%以上である場合は、たとえば750℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましく、850℃以上であるとさらに好ましい。一方で高すぎるとニッケル等の遷移金属Mが2価に還元される等の恐れがある。そのため、たとえば950℃以下が好ましく、920℃以下がより好ましく、900℃以下がさらに好ましい。
【0181】
遷移金属Mのうちニッケルの占める割合が40%以上60%以下の場合は、たとえば900℃以上が好ましく、950℃以上がより好ましく、970℃程度がより好ましい。一方で高すぎると上記と同様のデメリットが生じる恐れがあり、1020℃以下が好ましく、990℃以下がより好ましい。加熱のその他の条件は、ステップS143の記載を参酌することができる。
【0182】
またステップS154として、加熱の後に解砕工程を有することが好ましい。解砕はステップS144の記載を参酌することができる。
【0183】
<ステップS155>
さらに、ステップS155の加熱を行うことがより好ましい。該加熱を行うことで、リチウム源などの残渣を減少させることができる。ステップS155の加熱は、温度は400℃以上900℃以下が好ましく、750℃以上850℃以下がより好ましい。また、ステップS155の加熱の時間は、1時間以上30時間以下が好ましく、2時間以上20時間以下がより好ましい。ただしステップS155の加熱は行わなくてもよい。
【0184】
またステップS156として、加熱の後に解砕工程を有することが好ましい。解砕はステップS144の記載を参酌することができる。
【0185】
また
図5ではステップS152でフッ素源を混合した後、ステップS153とステップS155の2回加熱をする方法について説明するが、本発明の一態様はこれに限らない。3回以上の加熱を行ってもよい。
【0186】
以上の工程により、正極活物質100を作製することができる(ステップS175)。正極活物質100のそれぞれの粒子の大きさは、レーザ回折・散乱法から測定される平均粒子径が2μm以上20μm以下の範囲であることが好ましい。
【0187】
本実施の形態は他の実施の形態と自由に組み合わせることができる。
【0188】
(実施の形態4)
実施の形態1乃至3のいずれか一で説明した正極活物質を用いて二次電池を作製するため、作製する正極の例を以下に示す。二次電池は、外装体、集電体、活物質(正極活物質、或いは負極活物質)、導電材、及びバインダを少なくとも有している。また、リチウム塩などを溶解させた電解液を有している。電解液を用いる二次電池の場合、正極と、負極と、正極と負極の間にセパレータとを設ける。また、電解液にフッ素を含ませることが好ましい。電解液にフッ素を含ませることで正極活物質の表面にフッ素を吸着させることもできる。また、電解液にフルオロ基を含ませることで正極活物質の表面に吸着させているフッ素を安定に維持することができる。
【0189】
まず、正極について説明する。
図6(A)は正極の断面の模式図の一例を示している。
【0190】
集電体400は金属箔であり、金属箔上にスラリーを塗布して乾燥させることによって正極を形成する。乾燥後、さらにプレス処理をする場合もある。正極は、集電体400上に活物質層を形成したものである。
【0191】
スラリーとは、集電体400上に活物質層を形成するために用いる材料液であり、少なくとも活物質とバインダと溶媒を含有し、好ましくはさらに導電材を混合させたものを指している。スラリーは電極用スラリーまたは活物質スラリーと呼ばれることもあり、正極活物質層を形成する場合には正極用スラリーと呼び、負極活物質層を形成する場合には負極用スラリーと呼ばれることもある。
【0192】
導電材は、導電付与剤、導電助剤とも呼ばれ、炭素材料が用いられる。複数の活物質の間に導電材を付着させることで複数の活物質同士が電気的に接続され、導電性が高まる。なお、「付着」とは、活物質と導電材が物理的に密着していることのみを指しているのではなく、共有結合が生じる場合、ファンデルワールス力により結合する場合、活物質の表面の一部を導電材が覆う場合、活物質の表面凹凸に導電材がはまりこむ場合、互いに接していなくとも電気的に接続される場合などを含む概念とする。
【0193】
導電材として用いられる炭素材料として代表的なものにカーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラックをはじめとする粒子状炭素、黒鉛など)がある。
【0194】
図6(A)では、導電材としてアセチレンブラック403を図示している。また、
図6(A)では、実施の形態1乃至3で説明した正極活物質100よりも粒径の小さい第2の活物質402を混合している例を示している。大きさの異なる粒子を混合することで高密度の正極を得ることができる。
【0195】
二次電池の正極として、金属箔などの集電体400と、活物質と、を固着させるために、バインダー(樹脂)を混合している。バインダは結着材とも呼ばれる。バインダは高分子材料であり、バインダを多く含ませると正極における活物質の割合が低下して、二次電池の放電容量が小さくなる。そこでバインダの量は最小限に混合させている。
図6(A)において、活物質401、第2の活物質402、アセチレンブラック403で埋まっていない領域は、空隙またはバインダを指している。
【0196】
また、
図6(A)では活物質401の内部とシェルの境界を点線で示している。また、
図6(A)の活物質401は形状が球状の例を示しており、
図1(C)の正極活物質101に相当する。シェルは内部よりも高濃度にマグネシウムを含んでおり、リチウムイオン二次電池の発火または過熱を抑制し、熱的安全性を向上させることができる。
【0197】
なお、
図6(A)では活物質401を球形として図示した例を示しているが、特に限定されず、色々な形状であってもよい。活物質401の断面形状は楕円形、長方形、台形、錐形、角が丸まった四角形、非対称の形状であってもよい。
【0198】
図6(B)は、
図6(A)と異なる例を示している。また、
図6(B)の活物質401は形状が不規則な形状の例を示しており、
図1(A)の正極活物質100に相当する。また、
図6(B)では活物質401の内部とシェルの境界を点線で示している。シェルは内部よりも高濃度にマグネシウムを含んでおり、リチウムイオン二次電池の発火または過熱を抑制し、熱的安全性を向上させることができる。
【0199】
また、
図6(B)の正極では、導電材として用いられる炭素材料として、グラフェン404を用いている。
【0200】
グラフェンは電気的、機械的または化学的に驚異的な特性を有することから、グラフェンを利用した電界効果トランジスタまたは太陽電池等様々な分野の応用が期待される炭素材料である。
【0201】
本明細書等においてグラフェンは多層グラフェン、マルチグラフェンを含む。別言すると、グラフェンとは、炭素を有し、平板状、シート状等の形状を有し、炭素6員環で形成された二次元的構造を有するものをいう。該炭素6員環で形成された二次元的構造は炭素シートと呼ぶ場合がある。正極に用いる導電材として用いられる炭素材料としてグラフェンに限定されず、グラフェン化合物を用いることもできる。またグラフェン化合物とは、酸化グラフェン、多層酸化グラフェン、マルチ酸化グラフェン、還元された酸化グラフェン、還元された多層酸化グラフェン、還元されたマルチ酸化グラフェン、グラフェン量子ドット等を含む。別言すると、グラフェン化合物は官能基を有してもよい。またグラフェン又はグラフェン化合物は屈曲した形状を有することが好ましい。またグラフェン又はグラフェン化合物は丸まっていてもよく、丸まったグラフェンをカーボンナノファイバーと呼ぶことがある。
【0202】
本明細書等において酸化グラフェンとは、炭素と、酸素を有し、シート状の形状を有し、官能基、特にエポキシ基、カルボキシ基またはヒドロキシ基を有するものをいう。
【0203】
本明細書等において還元された酸化グラフェンとは、炭素と、酸素を有し、シート状の形状を有し、炭素6員環で形成された二次元的構造を有するものをいう。還元された酸化グラフェンは1枚でも機能するが、複数枚が積層されていてもよい。還元された酸化グラフェンは、炭素の濃度が80atomic%より大きく、酸素の濃度が2atomic%以上15atomic%以下である部分を有することが好ましい。このような炭素濃度および酸素濃度とすることで、少量でも導電性の高い導電材として機能することができる。また還元された酸化グラフェンは、ラマンスペクトルにおけるGバンドとDバンドの強度比G/Dが1以上であることが好ましい。このような強度比である還元された酸化グラフェンは、少量でも導電性の高い導電材として機能することができる。
【0204】
グラフェン化合物として、フッ素含有グラフェンを用いてもよい。またフッ素含有グラフェンは、グラフェンとフッ素化合物が接触すること(フッ化処理と呼ぶ)により作製することができる。フッ化処理にはフッ素(F2)又はフッ素化合物を用いるとよい。フッ素化合物として、フッ化水素、フッ化ハロゲン(ClF3、IF5等)、ガス状フッ化物(BF3、NF3、PF5、SiF4、SF6等)、金属フッ化物(LiF、NiF2、AlF3、MgF2等)等が好ましい。フッ化処理には、ガス状フッ化物を用いると好ましく、ガス状フッ化物を不活性ガスで希釈してもよい。フッ化処理の温度は室温がよいが、当該室温が含まれる0℃以上250℃以下がよい。0℃以上でフッ化処理を行うと、グラフェンの表面にフッ素を吸着させることができる。
【0205】
グラフェン化合物は、高い導電性を有するという優れた電気特性と、高い柔軟性および高い機械的強度を有するという優れた物理特性と、を有する場合がある。また、グラフェン化合物はシート状の形状を有する。グラフェン化合物は、湾曲面を有する場合があり、接触抵抗の低い面接触を可能とする。また、薄くても導電性が非常に高い場合があり、少ない量で効率よく活物質層内で導電パスを形成することができる。そのため、グラフェン化合物を導電材として用いることにより、活物質と導電材との接触面積を増大させることができる。グラフェン化合物は活物質の80%以上の面積を覆っているとよい。なお、グラフェン化合物が活物質粒子の少なくとも一部にまとわりついていると好ましい。また、グラフェン化合物が活物質粒子の少なくとも一部の上に重なっていると好ましい。また、グラフェン化合物の形状が活物質粒子の形状の少なくとも一部に一致していると好ましい。該活物質粒子の形状とは、たとえば、単一の活物質粒子が有する凹凸、または複数の活物質粒子によって形成される凹凸をいう。また、グラフェン化合物が活物質粒子の少なくとも一部を囲んでいることが好ましい。また、グラフェン化合物は穴が空いていてもよい。
【0206】
図6(B)は集電体400上に活物質401、グラフェン404、アセチレンブラック403を有する正極活物質層を形成している。グラフェン404は、複数の粒状の活物質401を一部覆うように、あるいは複数の粒状の活物質401の表面上に張り付くように形成されているため、互いに面接触している。なお、グラフェン404が活物質401の少なくとも一部にまとわりついていると好ましい。また、グラフェン404が活物質401の少なくとも一部の上に重なっていると好ましい。また、グラフェン404の形状が活物質401の形状の少なくとも一部に一致していると好ましい。該活物質の形状とは、たとえば、単一の活物質粒子が有する凹凸、または複数の活物質粒子によって形成される凹凸をいう。また、グラフェン404が活物質401の少なくとも一部を囲んでいることが好ましい。また、グラフェン404は穴が空いていてもよい。
【0207】
なお、グラフェン404、アセチレンブラック403を混合し、電極スラリーを得る工程において、混合するアセチレンブラックの重量はグラフェンの1.5倍以上20倍以下、好ましくは2倍以上9.5倍以下の重量とすることが好ましい。
【0208】
また、グラフェン404とアセチレンブラック403の混合を上記範囲とすると、スラリー調製時に、アセチレンブラック403の分散安定性に優れ、凝集部が生じにくい。また、グラフェン404とアセチレンブラック403の混合を上記範囲とすると、アセチレンブラック403のみを導電材に用いる正極よりも高い電極密度とすることができる。電極密度を高くすることで、単位体積当たりの容量を大きくすることができる。具体的には、重量測定による正極活物質層の密度は、3.5g/ccより高くすることができる。また、実施の形態1乃至3で説明した正極活物質を正極に用い、且つ、グラフェン404とアセチレンブラック403の混合を上記範囲とすると、二次電池がより高容量となることについて相乗効果が期待でき好ましい。
【0209】
また、グラフェンのみを導電材に用いる正極に比べると電極密度は低いが、第1の炭素材料(グラフェン)と第2の炭素材料(アセチレンブラック)の混合を上記範囲とすることで、急速充電に対応することができる。また、実施の形態1乃至3で説明した正極活物質を正極に用い、且つ、グラフェン404とアセチレンブラック403の混合を上記範囲とすると、二次電池がより安定性を増し、さらなる急速充電に対応できることについて相乗効果が期待でき好ましい。
【0210】
これらのことは、車載用の二次電池として有効である。
【0211】
二次電池の数を増やして車両の重量が増加すると、移動させるエネルギーが増加するため、航続距離も短くなる。高密度の二次電池を用いることで同じ重量の二次電池を搭載する車両の総重量をほとんど変えることなく航続距離を維持できる。
【0212】
また、車両の二次電池が高容量になると充電する電力が必要とされるため、短時間で充電を終了させることが望ましい。また、車両のブレーキをかけた時に一時的に発電させて、それを充電する、いわゆる回生充電において高レート充電条件での充電が行われるため、良好なレート特性が車両用二次電池に求められている。
【0213】
実施の形態1乃至3で説明した正極活物質を正極に用い、且つ、アセチレンブラックとグラフェンの混合比を最適範囲とすることで、電極の高密度化とイオン電導に必要な適切な隙間を作り出すことの両立が可能となり、高エネルギー密度かつ良好な出力特性をもつ車載用の二次電池を得ることができる。
【0214】
また、携帯情報端末においても本構成は有効であり、実施の形態1乃至3で説明した正極活物質を正極に用い、且つ、アセチレンブラックとグラフェンの混合比を最適範囲とすることで二次電池を小型化し、高容量とすることもできる。また、アセチレンブラックとグラフェンの混合比を最適範囲とすることで携帯情報端末の急速充電も可能である。
【0215】
また、
図6(B)中、活物質401の内部と表層部の境界を活物質401の内部に点線で示している。なお、
図6(B)において、活物質401、グラフェン404、アセチレンブラック403で埋まっていない領域は、空隙またはバインダを指している。空隙は電解液の浸み込みに必要であるが、多すぎると電極密度が低下し、少なすぎると電解液が浸み込まず、二次電池とした後も空隙として残ってしまうと効率が低下してしまう。
【0216】
実施の形態1乃至3で説明した正極活物質を正極に用い、且つ、アセチレンブラックとグラフェンの混合比を最適範囲とすることで電極の高密度化とイオン電導に必要な適切な隙間を作り出すことの両立が可能となり、高エネルギー密度かつ良好な出力特性をもつ二次電池を得ることができる。
【0217】
図6(C)では、グラフェンに代えて繊維状炭素の例としてカーボンナノチューブ405を用いる正極の例を図示している。
図6(C)は、
図6(B)と異なる例を示している。カーボンナノチューブ405を用いるとアセチレンブラック403などのカーボンブラックの凝集を防ぎ、分散性を高めることができる。カーボンナノチューブ405は、繊維長1μm以上20μm以下であり、繊維径10nm以上100nm以下を用いる。
【0218】
さらにフッ素含有カーボンナノチューブを用いてもよい。またフッ素含有カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブとフッ素化合物が接触すること(フッ化処理と呼ぶ)により作製することができる。フッ化処理についてはグラフェンで説明した内容を、カーボンナノチューブに適用できる。
【0219】
なお、
図6(C)において、活物質401、カーボンナノチューブ405、アセチレンブラック403で埋まっていない領域は、空隙またはバインダを指している。
【0220】
また、他の正極の例として、
図6(D)を図示している。
図6(C)では、グラフェン404に加えてカーボンナノチューブ405を用いる例を示している。グラフェン404及びカーボンナノチューブ405の両方を用いると、アセチレンブラック403などのカーボンブラックの凝集を防ぎ、分散性をより高めることができる。
【0221】
さらにフッ素含有アセチレンブラックを用いてもよい。またフッ素含有アセチレンブラックは、アセチレンブラックとフッ素化合物が接触すること(フッ化処理と呼ぶ)により作製することができる。フッ化処理についてはグラフェンで説明した内容を、アセチレンブラックに適用できる。
【0222】
なお、
図6(D)において、活物質401、カーボンナノチューブ405、グラフェン404、アセチレンブラック403で埋まっていない領域は、空隙またはバインダを指している。
【0223】
図6(A)、
図6(B)、
図6(C)及び
図6(D)のいずれか一の正極を用い、正極上にセパレータを重ね、セパレータ上に負極を重ねた積層体を収容する容器(外装体、金属缶など)などに入れ、容器に電解液を充填させることで二次電池を作製することができる。
【0224】
なおバインダとしては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-スチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などのゴム材料を用いることが好ましい。またバインダとして、フッ素ゴムを用いることができる。
【0225】
また、バインダとしては、例えば水溶性の高分子を用いることが好ましい。水溶性の高分子としては、例えば多糖類などを用いることができる。多糖類としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体、または澱粉などを用いることができる。また、これらの水溶性の高分子を、前述のゴム材料と併用して用いると、さらに好ましい。
【0226】
または、バインダとしては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル(ポリメチルメタクリレート、PMMA)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、エチレンプロピレンジエンポリマー、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース等の材料を用いることが好ましい。
【0227】
バインダは上記のうち複数を組み合わせて使用してもよい。
【0228】
例えば粘度調整効果の特に優れた材料と、他の材料とを組み合わせて使用してもよい。例えばゴム材料等は接着力または弾性力に優れる反面、溶媒に混合した場合に粘度調整が難しい場合がある。このような場合には例えば、粘度調整効果の特に優れた材料と混合することが好ましい。粘度調整効果の特に優れた材料としては、例えば水溶性高分子を用いるとよい。また、粘度調整効果に特に優れた水溶性高分子としては、前述の多糖類、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体または、澱粉を用いることができる。
【0229】
なお、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、例えばカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩またはアンモニウム塩などの塩とすることにより溶解度が上がり、粘度調整剤としての効果を発揮しやすくなる。溶解度が高くなることにより電極のスラリーを作製する際に活物質または他の構成要素との分散性を高めることもできる。本明細書においては、電極のバインダとして使用するセルロースおよびセルロース誘導体としては、それらの塩も含むものとする。
【0230】
水溶性高分子は水に溶解することにより粘度を安定化させ、また活物質、またはバインダとして組み合わせる他の材料、例えばスチレンブタジエンゴムなどを、水溶液中に安定して分散させることができる。また、官能基を有するために活物質表面に安定に吸着しやすいことが期待される。また、例えばカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、例えば水酸基またはカルボキシル基などの官能基を有する材料が多く、官能基を有するために高分子同士が相互作用し、活物質表面を広く覆って存在することが期待される。
【0231】
活物質表面を覆う、または表面に接するバインダが膜を形成する場合には、不動態膜としての役割を果たして電解質の分解を抑える効果も期待される。ここで、不動態膜とは、電気の伝導性のない膜、または電気伝導性の極めて低い膜であり、例えば活物質の表面に不動態膜が形成された場合には、電池反応電位において、電解質の分解を抑制することができる。また、不動態膜は、電気の伝導性を抑えるとともに、リチウムイオンは伝導できるとさらに望ましい。
【0232】
また、上記構成は、電解液を用いる二次電池の例を示したが特に限定されない。
【0233】
例えば、実施の形態1乃至3で説明した正極活物質100を用いて半固体電池を作製することもできる。
【0234】
本明細書等において半固体電池とは、電解質層、正極、負極の少なくとも一に、半固体材料を有する電池をいう。ここでいう半固体とは、固体材料の比が50%であることは意味しない。半固体とは、体積変化が小さいといった固体の性質を有しつつも、柔軟性を有する等の液体に近い性質も一部持ち合わせることを意味する。これらの性質を満たせば、単一の材料でも、複数の材料であってもよい。たとえば液体の材料を、多孔質の固体材料に浸潤させた物であってもよい。
【0235】
また本明細書等において、ポリマー電解質二次電池とは、正極と負極の間の電解質層にポリマーを有する二次電池をいう。ポリマー電解質二次電池は、ドライ(または真性)ポリマー電解質電池、およびポリマーゲル電解質電池を含む。またポリマー電解質二次電池を半固体電池と呼んでもよい。
【0236】
実施の形態1乃至3で説明した正極活物質100を用いて半固体電池を作製した場合、半固体電池は、充放電容量の大きい二次電池となる。また、充放電電圧の高い半固体電池とすることができる。または、安全性または信頼性の高い半固体電池を実現することができる。
【0237】
本実施の形態は他の実施の形態と自由に組み合わせることができる。
【0238】
(実施の形態5)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した作製方法によって作製された正極を有する二次電池に関し、形状の例を説明する。
【0239】
[コイン型二次電池]
コイン型の二次電池の一例について説明する。
図7(A)はコイン型(単層偏平型)の二次電池の分解斜視図であり、
図7(B)は、外観図であり、
図7(C)は、その断面図である。コイン型の二次電池は主に小型の電子機器に用いられる。
【0240】
なお、
図7(A)では、わかりやすくするために部材の重なり(上下関係、及び位置関係)がわかるように模式図としている。従って
図7(A)と
図7(B)は完全に一致する対応図とはしていない。
【0241】
図7(A)では、正極304、セパレータ310、負極307、スペーサ322、ワッシャー312を重ねている。これらを負極缶302と正極缶301とガスケットで封止している。なお、
図7(A)において、封止のためのガスケットは図示していない。スペーサ322、ワッシャー312は、正極缶301と負極缶302を圧着する際に、内部を保護または缶内の位置を固定するために用いられている。スペーサ322、ワッシャー312はステンレスまたは絶縁材料を用いる。
【0242】
正極集電体305上に正極活物質層306が形成された積層構造を正極304としている。
【0243】
図7(B)は、完成したコイン型の二次電池の斜視図である。
【0244】
コイン型の二次電池300は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極缶302とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされている。正極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層306により形成される。また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設けられた負極活物質層309により形成される。また、負極307は、積層構造に限定されず、リチウム金属箔またはリチウムとアルミニウムの合金箔を用いてもよい。
【0245】
なお、コイン型の二次電池300に用いる正極304及び負極307は、それぞれ活物質層は片面のみに形成すればよい。
【0246】
正極缶301、負極缶302には、電解液に対して耐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、若しくはこれらの合金又はこれらと他の金属との合金(例えばステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液などによる腐食を防ぐため、ニッケルまたはアルミニウム等を被覆することが好ましい。正極缶301は正極304と、負極缶302は負極307とそれぞれ電気的に接続する。
【0247】
これら負極307、正極304及びセパレータ310を電解液に浸し、
図7(C)に示すように、正極缶301を下にして正極304、セパレータ310、負極307、負極缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を介して圧着してコイン形の二次電池300を製造する。
【0248】
上記の構成を有することで、安全性に優れたコイン型の二次電池300とすることができる。
【0249】
[円筒型二次電池]
円筒型の二次電池の例について
図8(A)を参照して説明する。円筒型の二次電池616は、
図8(A)に示すように、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面及び底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップ601と電池缶(外装缶)602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0250】
図8(B)は、円筒型の二次電池の断面を模式的に示した図である。
図8(B)に示す円筒型の二次電池は、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面及び底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップと電池缶(外装缶)602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0251】
中空円柱状の電池缶602の内側には、帯状の正極604と負極606とがセパレータ605を間に挟んで捲回された捲回体が設けられている。図示しないが、捲回体は中心軸を中心に捲回されている。電池缶602は、一端が閉じられ、他端が開いている。電池缶602には、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金、これらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケル及びアルミニウム等を電池缶602に被覆することが好ましい。電池缶602の内側において、正極、負極及びセパレータが捲回された捲回体は、対向する一対の絶縁板608、609により挟まれている。また、捲回体が設けられた電池缶602の内部は、非水電解液(図示せず)が注入されている。非水電解液は、コイン型の二次電池と同様のものを用いることができる。
【0252】
円筒型の蓄電池に用いる正極及び負極は捲回するため、集電体の両面に活物質を形成することが好ましい。
【0253】
実施の形態1乃至3で得られる正極活物質100を正極604に用いることで、安全性に優れた円筒型の二次電池616とすることができる。
【0254】
正極604には正極端子(正極集電リード)603が接続され、負極606には負極端子(負極集電リード)607が接続される。正極端子603及び負極端子607は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正極端子603は安全弁機構613に、負極端子607は電池缶602の底にそれぞれ抵抗溶接される。安全弁機構613は、PTC(Positive Temperature Coefficient)素子611を介して正極キャップ601と電気的に接続されている。安全弁機構613は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ601と正極604との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子611は温度が上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTiO3)系半導体セラミックス等を用いることができる。
【0255】
図8(C)は蓄電システム615の一例を示す。蓄電システム615は複数の二次電池616を有する。それぞれの二次電池の正極は、絶縁体625で分離された導電体624に接触し、電気的に接続されている。導電体624は配線623を介して、制御回路620に電気的に接続されている。また、それぞれの二次電池の負極は、配線626を介して制御回路620に電気的に接続されている。制御回路620として、充放電などを行う充放電制御回路、または過充電もしくは/及び過放電を防止する保護回路を適用することができる。
【0256】
図8(D)は、蓄電システム615の一例を示す。蓄電システム615は複数の二次電池616を有し、複数の二次電池616は、導電板628及び導電板614の間に挟まれている。複数の二次電池616は、配線627により導電板628及び導電板614と電気的に接続される。複数の二次電池616は、並列接続されていてもよいし、直列接続されていてもよい。複数の二次電池616を有する蓄電システム615を構成することで、大きな電力を取り出すことができる。
【0257】
複数の二次電池616が、並列に接続された後、さらに直列に接続されてもよい。
【0258】
また、複数の二次電池616の間に温度制御装置を有していてもよい。二次電池616が過熱されたときは、温度制御装置により冷却し、二次電池616が冷えすぎているときは温度制御装置により加熱することができる。そのため蓄電システム615の性能が外気温に影響されにくくなる。
【0259】
また、
図8(D)において、蓄電システム615は制御回路620に配線621及び配線622を介して電気的に接続されている。配線621は導電板628を介して複数の二次電池616の正極に、配線622は導電板614を介して複数の二次電池616の負極に、それぞれ電気的に接続される。
【0260】
[二次電池の他の構造例]
二次電池の構造例について
図9及び
図10を用いて説明する。
【0261】
図9(A)に示す二次電池913は、筐体930の内部に端子951と端子952が設けられた捲回体950を有する。捲回体950は、筐体930の内部で電解液中に浸される。端子952は、筐体930に接し、端子951は、絶縁材などを用いることにより筐体930に接していない。なお、
図9(A)では、便宜のため、筐体930を分離して図示しているが、実際は、捲回体950が筐体930に覆われ、端子951及び端子952が筐体930の外に延在している。筐体930としては、金属材料(例えばアルミニウムなど)又は樹脂材料を用いることができる。
【0262】
なお、
図9(B)に示すように、
図9(A)に示す筐体930を複数の材料によって形成してもよい。例えば、
図9(B)に示す二次電池913は、筐体930aと筐体930bが貼り合わされており、筐体930a及び筐体930bで囲まれた領域に捲回体950が設けられている。
【0263】
筐体930aとしては、有機樹脂など、絶縁材料を用いることができる。特に、アンテナが形成される面に有機樹脂などの材料を用いることにより、二次電池913による電界の遮蔽を抑制できる。なお、筐体930aによる電界の遮蔽が小さければ、筐体930aの内部にアンテナを設けてもよい。筐体930bとしては、例えば金属材料を用いることができる。
【0264】
さらに、捲回体950の構造について
図9(C)に示す。捲回体950は、負極931と、正極932と、セパレータ933と、を有する。捲回体950は、セパレータ933を挟んで負極931と、正極932が重なり合って積層され、該積層シートを捲回させた捲回体である。なお、負極931と、正極932と、セパレータ933と、の積層を、さらに複数重ねてもよい。
【0265】
また、
図10に示すような捲回体950aを有する二次電池913としてもよい。
図10(A)に示す捲回体950aは、負極931と、正極932と、セパレータ933と、を有する。負極931は負極活物質層931aを有する。正極932は正極活物質層932aを有する。
【0266】
実施の形態1乃至3で得られる正極活物質100を正極932に用いることで、安全性に優れた二次電池913とすることができる。
【0267】
セパレータ933は、負極活物質層931a及び正極活物質層932aよりも広い幅を有し、負極活物質層931a及び正極活物質層932aと重畳するように捲回されている。また正極活物質層932aよりも負極活物質層931aの幅が広いことが安全性の点で好ましい。またこのような形状の捲回体950aは安全性及び生産性がよく好ましい。
【0268】
図10(B)に示すように、負極931は、超音波接合、溶接、または圧着により端子951と電気的に接続される。端子951は端子911aと電気的に接続される。また正極932は、超音波接合、溶接、または圧着により端子952と電気的に接続される。端子952は端子911bと電気的に接続される。
【0269】
図10(C)に示すように、筐体930により捲回体950a及び電解液が覆われ、二次電池913となる。筐体930には安全弁、過電流保護素子等を設けることが好ましい。安全弁は、電池破裂を防止するため、筐体930の内部が所定の内圧で開放する弁である。
【0270】
図10(B)に示すように二次電池913は複数の捲回体950aを有していてもよい。複数の捲回体950aを用いることで、より放電容量の大きい二次電池913とすることができる。
図10(A)及び(B)に示す二次電池913の他の要素は、
図9(A)乃至(C)に示す二次電池913の記載を参酌することができる。
【0271】
<ラミネート型二次電池>
次に、ラミネート型の二次電池の例について、外観図の一例を
図11(A)及び
図11(B)に示す。
図11(A)及び
図11(B)は、正極503、負極506、セパレータ507、外装体509、正極リード電極510、及び負極リード電極511を有する。
【0272】
図12(A)は正極503及び負極506の外観図を示す。正極503は正極集電体501を有し、正極活物質層502は正極集電体501の表面に形成されている。また、正極503は正極集電体501が一部露出する領域(以下、タブ領域という)を有する。負極506は負極集電体504を有し、負極活物質層505は負極集電体504の表面に形成されている。また、負極506は負極集電体504が一部露出する領域、すなわちタブ領域を有する。なお、正極及び負極が有するタブ領域の面積または形状は、
図12(A)に示す例に限られない。
【0273】
<ラミネート型二次電池の作製方法>
図11(A)に外観図を示すラミネート型二次電池の作製方法の一例について、
図12(B)及び
図12(C)を用いて説明する。
【0274】
まず、負極506、セパレータ507及び正極503を積層する。
図12(B)に積層された負極506、セパレータ507及び正極503を示す。ここでは負極を5組、正極を4組使用する例を示す。負極とセパレータと正極からなる積層体とも呼べる。次に、正極503のタブ領域同士の接合と、最表面の正極のタブ領域への正極リード電極510の接合を行う。接合には、例えば超音波溶接等を用いればよい。同様に、負極506のタブ領域同士の接合と、最表面の負極のタブ領域への負極リード電極511の接合を行う。
【0275】
次に、外装体509上に、負極506、セパレータ507及び正極503を配置する。
【0276】
次に、
図12(C)に示すように、外装体509を破線で示した部分で折り曲げる。その後、外装体509の外周部を接合する。接合には例えば熱圧着等を用いればよい。この時、後に電解液を入れることができるように、外装体509の一部(または一辺)に接合されない領域(以下、導入口という)を設ける。
【0277】
次に、外装体509に設けられた導入口から、電解液を外装体509の内側へ導入する。電解液の導入は、減圧雰囲気下、或いは不活性雰囲気下で行うことが好ましい。そして最後に、導入口を接合する。このようにして、ラミネート型の二次電池500を作製することができる。
【0278】
実施の形態1乃至3で得られる正極活物質100を正極503に用いることで、安全性に優れた二次電池500とすることができる。
【0279】
(実施の形態6)
本実施の形態では、本発明の一態様の二次電池を有する車両の例を示す。
【0280】
車両として、代表的には自動車に二次電池を適用することができる。自動車としては、ハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHEVまたはPHVともいう)等の次世代クリーンエネルギー自動車を挙げることができ、自動車に搭載する電源の一つとして二次電池を適用することができる。車両は自動車に限定されない。例えば、車両としては、電車、モノレール、船、潜水艇(深海探査艇、無人潜水艇)、飛行体(ヘリコプター、無人航空機(ドローン)、飛行機、ロケット、人工衛星)、電動自転車、電動バイクなども挙げることができ、これらの車両に本発明の一態様の二次電池を適用することができる。
【0281】
電気自動車には、メインの駆動用の二次電池として第1のバッテリ1301a、1301bと、モータ1304を始動させるインバータ1312に電力を供給する第2のバッテリ1311が設置されている。第2のバッテリ1311はクランキングバッテリー(スターターバッテリーとも呼ばれる)とも呼ばれる。第2のバッテリ1311は高出力できればよく、大容量はそれほど必要とされず、第2のバッテリ1311の容量は第1のバッテリ1301a、1301bと比較して小さい。
【0282】
第1のバッテリ1301aの内部構造は、
図9(C)または
図10(A)に示した捲回型であってもよいし、
図11(A)または
図11(B)に示した積層型であってもよい。
【0283】
本実施の形態では、第1のバッテリ1301a、1301bを2つ並列に接続させている例を示しているが3つ以上並列に接続させてもよい。また、第1のバッテリ1301aで十分な電力を貯蔵できるのであれば、第1のバッテリ1301bはなくてもよい。複数の二次電池を有する電池パックを構成することで、大きな電力を取り出すことができる。複数の二次電池は、並列接続されていてもよいし、直列接続されていてもよいし、並列に接続された後、さらに直列に接続されていてもよい。複数の二次電池を組電池とも呼ぶ。
【0284】
また、車載用の二次電池において、複数の二次電池からの電力を遮断するため、工具を使わずに高電圧を遮断できるサービスプラグまたはサーキットブレーカを有しており、第1のバッテリ1301aに設けられる。
【0285】
また、第1のバッテリ1301a、1301bの電力は、主にモータ1304を回転させることに使用されるが、DCDC回路1306を介して42V系の車載部品(電動パワステ1307、ヒーター1308、デフォッガ1309など)に電力を供給する。後輪にリアモータ1317を有している場合にも、第1のバッテリ1301aがリアモータ1317を回転させることに使用される。
【0286】
また、第2のバッテリ1311は、DCDC回路1310を介して14V系の車載部品(オーディオ1313、パワーウィンドウ1314、ランプ類1315など)に電力を供給する。
【0287】
次に、第1のバッテリ1301aについて、
図13(A)を用いて説明する。
【0288】
図13(A)では9個の角型二次電池1300を一つの電池パック1415としている例を示している。また、9個の角型二次電池1300を直列接続し、一方の電極を絶縁体からなる固定部1413で固定し、もう一方の電極を絶縁体からなる固定部1414で固定している。本実施の形態では固定部1413、1414で固定する例を示しているが電池収容ボックス(筐体とも呼ぶ)に収納させる構成としてもよい。車両は外部(路面など)から振動または揺れが加えられることを想定されているため、固定部1413、1414や、電池収容ボックスなどで複数の二次電池を固定することが好ましい。また、一方の電極は配線1421によって制御回路部1320に電気的に接続されている。またもう一方の電極は配線1422によって制御回路部1320に電気的に接続されている。
【0289】
次に、
図13(A)に示す電池パック1415のブロック図の一例を
図13(B)に示す。
【0290】
制御回路部1320は、少なくとも過充電を防止するスイッチと、過放電を防止するスイッチを含むスイッチ部1324と、スイッチ部1324を制御する制御回路1322と、第1のバッテリ1301aの電圧測定部と、を有する。制御回路部1320は、使用する二次電池の上限電圧と下限電圧が設定されており、外部からの電流上限、または外部への出力電流の上限などを制限している。二次電池の下限電圧以上上限電圧以下の範囲内は、使用が推奨されている電圧範囲内であり、その範囲外となるとスイッチ部1324が作動し、保護回路として機能する。また、制御回路部1320は、スイッチ部1324を制御して過放電および/または過充電を防止するため、保護回路とも呼べる。例えば、過充電となりそうな電圧を制御回路1322で検知した場合にスイッチ部1324のスイッチをオフ状態とすることで電流を遮断する。さらに充放電経路中にPTC素子を設けて温度の上昇に応じて電流を遮断する機能を設けてもよい。また、制御回路部1320は、外部端子1325(+IN)と、外部端子1326(-IN)とを有している。
【0291】
スイッチ部1324は、nチャネル型のトランジスタまたはpチャネル型のトランジスタを組み合わせて構成することができる。スイッチ部1324は、単結晶シリコンを用いるSiトランジスタを有するスイッチに限定されず、例えば、Ge(ゲルマニウム)、SiGe(シリコンゲルマニウム)、GaAs(ガリウムヒ素)、GaAlAs(ガリウムアルミニウムヒ素)、InP(リン化インジウム)、SiC(シリコンカーバイド)、ZnSe(セレン化亜鉛)、GaN(窒化ガリウム)、GaOx(酸化ガリウム;xは0より大きい実数)などを有するパワートランジスタでスイッチ部1324を形成してもよい。
【0292】
第1のバッテリ1301a、1301bは、主に42V系(高電圧系)の車載機器に電力を供給し、第2のバッテリ1311は14V系(低電圧系)の車載機器に電力を供給する。第2のバッテリ1311は鉛蓄電池がコスト上有利のため採用されることが多い。
【0293】
本実施の形態では、第1のバッテリ1301aと第2のバッテリ1311の両方にリチウムイオン電池を用いる一例を示す。第2のバッテリ1311は、鉛蓄電池、全固体電池、または電気二重層キャパシタを用いてもよい。
【0294】
また、タイヤ1316の回転による回生エネルギーは、ギア1305を介してモータ1304に送られ、モータコントローラ1303、またはバッテリーコントローラ1302から制御回路部1321を介して第2のバッテリ1311に充電される。またはバッテリーコントローラ1302から制御回路部1320を介して第1のバッテリ1301aに充電される。またはバッテリーコントローラ1302から制御回路部1320を介して第1のバッテリ1301bに充電される。回生エネルギーを効率よく充電するためには、第1のバッテリ1301a、1301bが急速充電可能であることが望ましい。
【0295】
バッテリーコントローラ1302は第1のバッテリ1301a、1301bの充電電圧及び充電電流などを設定することができる。バッテリーコントローラ1302は、用いる二次電池の充電特性に合わせて充電条件を設定し、急速充電することができる。
【0296】
また、図示していないが、外部の充電器と接続させる場合、充電器のコンセントまたは充電器の接続ケーブルは、バッテリーコントローラ1302に電気的に接続される。外部の充電器から供給された電力はバッテリーコントローラ1302を介して第1のバッテリ1301a、1301bに充電する。また、充電器によっては、制御回路が設けられており、バッテリーコントローラ1302の機能を用いない場合もあるが、過充電を防ぐため制御回路部1320を介して第1のバッテリ1301a、1301bを充電することが好ましい。また、充電器のコンセントまたは充電器の接続ケーブルに制御回路を備えている場合もある。制御回路部1320は、ECU(Electronic Control Unit)と呼ばれることもある。ECUは、電動車両に設けられたCAN(Controller Area Network)に接続される。CANは、車内LANとして用いられるシリアル通信規格の一つである。また、ECUは、マイクロコンピュータを含む。また、ECUは、CPUまたはGPUを用いる。
【0297】
充電スタンドなどに設置されている外部の充電器は、100Vコンセント-200Vコンセント、または3相200V且つ50kWなどがある。また、非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することもできる。
【0298】
急速充電を行う場合、短時間での充電を行うためには、高電圧での充電に耐えうる二次電池が望まれている。
【0299】
また、導電材としてグラフェンを用い、電極層を厚くして担持量を高くしても容量低下を抑え、高容量を維持することが相乗効果として大幅に電気特性が向上された二次電池を実現できる。特に車両に用いる二次電池に有効であり、車両全重量に対する二次電池の重量の割合を増加させることなく、航続距離が長い、具体的には一充電走行距離が500km以上の車両を提供することができる。
【0300】
特に上述した本実施の形態の二次電池は、実施の形態1乃至3で説明した正極活物質100を用いることで二次電池の動作電圧を高くすることができ、充電電圧の増加に伴い、使用できる容量を増加させることができる。また、実施の形態1乃至3で説明した正極活物質100を正極に用いることで安全性に優れた車両用の二次電池を提供することができる。
【0301】
次に、本発明の一態様である二次電池を車両、代表的には輸送用車両に実装する例について説明する。
【0302】
図8(D)、
図10(C)、
図13(A)のいずれか一に示した二次電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる。また、農業機械、電動アシスト自転車を含む原動機付自転車、自動二輪車、電動車椅子、電動カート、船舶、潜水艦、航空機、ロケット、人工衛星、宇宙探査機、惑星探査機、または宇宙船に二次電池を搭載することもできる。本発明の一態様の二次電池は高容量の二次電池とすることができる。そのため本発明の一態様の二次電池は、小型化、軽量化に適しており、輸送用車両に好適に用いることができる。
【0303】
図14(A)乃至(D)において、本発明の一態様を用いた輸送用車両を例示する。
図14(A)に示す自動車2001は、走行のための動力源として電気モータを用いる電気自動車である。または、走行のための動力源として電気モータとエンジンを適宜選択して用いることが可能なハイブリッド自動車である。二次電池を車両に搭載する場合、実施の形態5で示した二次電池の一例を一箇所または複数個所に設置する。
図14(A)に示す自動車2001は、電池パック2200を有し、電池パックは、複数の二次電池を接続させた二次電池モジュールを有する。さらに二次電池モジュールに電気的に接続する充電制御装置を有すると好ましい。
【0304】
また、自動車2001は、自動車2001が有する二次電池にプラグイン方式または非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができる。充電に際しては、充電方法またはコネクタの規格等はCHAdeMO(登録商標)またはコンボ等の所定の方式で適宜行えばよい。充電設備は、商用施設に設けられた充電ステーションでもよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの電力供給により自動車2001に搭載された蓄電装置を充電することができる。充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行うことができる。
【0305】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路または外壁に送電装置を組み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電の方式を利用して、2台の車両どうしで電力の送受電を行ってもよい。さらに、車両の外装部に太陽電池を設け、停車時または走行時に二次電池の充電を行ってもよい。このような非接触での電力の供給には、電磁誘導方式または磁界共鳴方式を用いることができる。
【0306】
図14(B)は、輸送用車両の一例として電気により制御するモータを有した大型の輸送車2002を示している。輸送車2002の二次電池モジュールは、例えば公称電圧3.0V以上5.0V以下の二次電池を4個セルユニットとし、48セルを直列に接続した170Vを最大電圧とする。電池パック2201の二次電池モジュールを構成する二次電池の数などが違う以外は、
図14(A)と同様な機能を備えているので説明は省略する。
【0307】
図14(C)は、一例として電気により制御するモータを有した大型の輸送車両2003を示している。輸送車両2003の二次電池モジュールは、例えば公称電圧3.0V以上5.0V以下の二次電池を百個以上直列に接続した600Vの最大電圧とする。従って、特性バラツキの小さい二次電池が求められる。実施の形態1乃至3で説明した正極活物質100を正極に用いた二次電池を用いることで、安定した電池特性を有する二次電池を製造することができ、歩留まりの観点から低コストで大量生産が可能である。また、電池パック2202の二次電池モジュールを構成する二次電池の数などが違う以外は、
図14(A)と同様な機能を備えているので説明は省略する。
【0308】
図14(D)は、一例として燃料を燃焼するエンジンを有した航空機2004を示している。
図14(D)に示す航空機2004は、離着陸用の車輪を有しているため、輸送車両の一種とも言え、複数の二次電池を接続させて二次電池モジュールを構成し、二次電池モジュールと充電制御装置とを含む電池パック2203を有している。
【0309】
航空機2004の二次電池モジュールは、例えば4Vの二次電池を8個直列に接続した32Vを最大電圧とする。電池パック2203の二次電池モジュールを構成する二次電池の数などが異なる以外は、
図14(A)と同様な機能を備えているので説明は省略する。
【0310】
図14(E)は、一例として二次電池2204を備えた人工衛星2005を示している。人工衛星2005は宇宙空間で使用されるため、発火による故障のないことが望まれ、安全性に優れた本発明の一態様である二次電池2204を備えることが好ましい。また、人工衛星2005の内部において、保温部材に覆われた状態で二次電池2204が搭載されることがさらに好ましい。
【0311】
(実施の形態7)
本実施の形態では、二次電池を車両に搭載する一例として、二輪車、自転車に本発明の一態様であるリチウムイオン電池を搭載する例を示す。
【0312】
図15(A)は、本発明の一態様の蓄電装置を用いた電動自転車の一例である。
図15(A)に示す電動自転車8700に、本発明の一態様の蓄電装置を適用することができる。本発明の一態様の蓄電装置は例えば、複数の蓄電池と、保護回路と、を有する。
【0313】
電動自転車8700は、蓄電装置8702を備える。蓄電装置8702は、運転者をアシストするモータに電気を供給することができる。また、蓄電装置8702は、持ち運びができ、
図15(B)に自転車から取り外した状態を示している。また、蓄電装置8702は、本発明の一態様の蓄電装置が有する蓄電池8701が複数内蔵されており、そのバッテリ残量などを表示部8703で表示できるようにしている。また蓄電装置8702は、二次電池の充電制御または異常検知が可能な制御回路8704を有する。制御回路8704は、蓄電池8701の正極及び負極と電気的に接続されている。また、実施の形態1乃至3で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池と組み合わせることで、安全性についての相乗効果が得られる。実施の形態1乃至3で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池及び制御回路8704は、安全性が高く二次電池による火災等の事故撲滅に大きく寄与することができる。
【0314】
図15(C)は、本発明の一態様の蓄電装置を用いた二輪車の一例である。
図15(C)に示すスクータ8600は、蓄電装置8602、サイドミラー8601、方向指示灯8603を備える。蓄電装置8602は、方向指示灯8603に電気を供給することができる。また、実施の形態1乃至3で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池を複数収納された蓄電装置8602は高容量とすることができ、小型化に寄与することができる。
【0315】
また、
図15(C)に示すスクータ8600は、座席下収納8604に、蓄電装置8602を収納することができる。蓄電装置8602は、座席下収納8604が小型であっても、座席下収納8604に収納することができる。
【0316】
(実施の形態8)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を電子機器に実装する例について説明する。二次電池を実装する電子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。携帯情報端末としてはノート型パーソナルコンピュータ、タブレット型端末、電子書籍端末、携帯電話機などがある。
【0317】
図16(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機2100は、筐体2101に組み込まれた表示部2102の他、操作ボタン2103、外部接続ポート2104、スピーカ2105、マイク2106などを備えている。なお、携帯電話機2100は、二次電池2107を有している。実施の形態1乃至3で説明した正極活物質100を正極に用いた二次電池2107を備えることで高容量とすることができ、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0318】
携帯電話機2100は、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、インターネット通信、コンピュータゲームなどの種々のアプリケーションを実行することができる。
【0319】
操作ボタン2103は、時刻設定のほか、電源のオン、オフ動作、無線通信のオン、オフ動作、マナーモードの実行及び解除、省電力モードの実行及び解除など、様々な機能を持たせることができる。例えば、携帯電話機2100に組み込まれたオペレーティングシステムにより、操作ボタン2103の機能を自由に設定することもできる。
【0320】
また、携帯電話機2100は、通信規格された近距離無線通信を実行することが可能である。例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリーで通話することもできる。
【0321】
また、携帯電話機2100は、外部接続ポート2104を備え、他の情報端末とコネクタを介して直接データのやりとりを行うことができる。また外部接続ポート2104を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は外部接続ポート2104を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0322】
また、携帯電話機2100は、センサを有することが好ましい。センサとしては、例えば、指紋センサ、脈拍センサ、体温センサ等の人体センサ、タッチセンサ、加圧センサ、または加速度センサ等が搭載されることが好ましい。
【0323】
図16(B)は、複数のローター2302を有する無人航空機2300である。無人航空機2300はドローンと呼ばれることもある。無人航空機2300は、本発明の一態様である二次電池2301と、カメラ2303と、アンテナ(図示しない)を有する。無人航空機2300はアンテナを介して遠隔操作することができる。実施の形態1乃至3で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池は高エネルギー密度であり、安全性が高いため、長期間に渡って長時間の安全な使用ができ、無人航空機2300に搭載する二次電池として好適である。
【0324】
図16(C)は、ロボットの一例を示している。
図16(C)に示すロボット6400は、二次電池6409、照度センサ6401、マイクロフォン6402、上部カメラ6403、スピーカ6404、表示部6405、下部カメラ6406及び障害物センサ6407、移動機構6408、演算装置等を備える。
【0325】
マイクロフォン6402は、使用者の話し声及び環境音等を検知する機能を有する。また、スピーカ6404は、音声を発する機能を有する。ロボット6400は、マイクロフォン6402及びスピーカ6404を用いて、使用者とコミュニケーションをとることが可能である。
【0326】
表示部6405は、種々の情報の表示を行う機能を有する。ロボット6400は、使用者の望みの情報を表示部6405に表示することが可能である。表示部6405は、タッチパネルを搭載していてもよい。また、表示部6405は取り外しのできる情報端末であっても良く、ロボット6400の定位置に設置することで、充電及びデータの受け渡しを可能とする。
【0327】
上部カメラ6403及び下部カメラ6406は、ロボット6400の周囲を撮像する機能を有する。また、障害物センサ6407は、移動機構6408を用いてロボット6400が前進する際の進行方向における障害物の有無を察知することができる。ロボット6400は、上部カメラ6403、下部カメラ6406及び障害物センサ6407を用いて、周囲の環境を認識し、安全に移動することが可能である。
【0328】
ロボット6400は、その内部領域に本発明の一態様に係る二次電池6409と、半導体装置または電子部品を備える。実施の形態1乃至3で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池は高エネルギー密度であり、安全性が高いため、長期間に渡って長時間の安全な使用ができ、ロボット6400に搭載する二次電池6409として好適である。
【0329】
図16(D)は、掃除ロボットの一例を示している。掃除ロボット6300は、筐体6301上面に配置された表示部6302、側面に配置された複数のカメラ6303、ブラシ6304、操作ボタン6305、二次電池6306、各種センサなどを有する。図示されていないが、掃除ロボット6300には、タイヤ、吸い込み口等が備えられている。掃除ロボット6300は自走し、ゴミ6310を検知し、下面に設けられた吸い込み口からゴミを吸引することができる。
【0330】
掃除ロボット6300は、カメラ6303が撮影した画像を解析し、壁、家具または段差などの障害物の有無を判断することができる。また、画像解析により、配線などブラシ6304に絡まりそうな物体を検知した場合は、ブラシ6304の回転を止めることができる。掃除ロボット6300は、その内部領域に本発明の一態様に係る二次電池6306と、半導体装置または電子部品を備える。実施の形態1乃至3で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池は高エネルギー密度であり、安全性が高いため、長期間に渡って長時間の安全な使用ができ、掃除ロボット6300に搭載する二次電池6306として好適である。
【0331】
(実施の形態9)
本実施の形態では、二次電池の熱暴走、及び釘刺し試験等について説明し、本発明の一形態である正極活物質100、101のいずれか一または複数を用いた二次電池に対して釘刺し試験を実施すると発火に至りにくい原理等を説明する。
【0332】
<二次電池の熱暴走>
非特許文献1の第69頁[
図2-11]に示したグラフを引用し、一部を修正して
図17に示す。
図17は時間に対する二次電池の内部温度(以下、単に温度と記す)のグラフであり、温度が上昇すると、いくつかの状態を経て熱暴走に至ることを示している。
【0333】
一般的に、二次電池の温度が100℃及びその近傍になると、(1)負極のSEI(Solid Electrolyte Interphase)の崩壊と発熱が生じる。また二次電池の温度が100℃を超えると(2)負極(黒鉛を用いた場合、負極はC6Liとなる)による電解液の還元と発熱が生じ、(3)正極による電解液の酸化と発熱が生じる。そして、二次電池の温度が180℃及びその近傍になると(4)電解液の熱分解が生じ、(5)正極からの酸素放出と熱分解(当該熱分解には正極活物質の構造変化が含まれる)が生じる。その後、二次電池の温度が200℃を超えると(6)負極の分解が生じ、最後に(7)正極と負極の直接接触となる。上述した(5)の状態、(6)の状態、又は(7)の状態等を経て、二次電池は熱暴走に至る。すなわち熱暴走に至らないようにするためには、二次電池の温度上昇を抑制すること、負極、正極及び/又は電解液が100℃を超えるような高温時に安定な状態が保たれるとよい。
【0334】
上記実施の形態1乃至3で述べた本発明の一形態である正極活物質100、101は、安定な結晶構造を有しており、さらに酸素脱離が抑制されるといった効果を奏する。そのため正極活物質100、または正極活物質101を用いた二次電池は、少なくとも上記(5)以降の状態に至らず二次電池の温度上昇が抑制されると考えられ、熱暴走に至りにくいという顕著な効果を奏する。
【0335】
<釘刺し試験>
次に、釘刺し試験について、
図18(A)及び
図18(B)等を用いて説明する。釘刺し試験とは、二次電池1500を満充電(States Of Charge:SOC100%に等しい状態)として、2mm以上10mm以下から選ばれた所定の直径を満たす釘1603を、1mm/s以上20mm/s以下等から選ばれた所定の速度で刺しこむ試験である。
図18(A)は二次電池1500に釘1603を刺した状態の断面図を示す。二次電池1500は、正極1503、セパレータ1508、負極1506、及び電解液1530が外装体1531に収容された構造を有する。正極1503は正極集電体1501と、その両面に形成された正極活物質層1502を有し、負極1506は負極集電体1511と、その両面に形成された負極活物質層1512を有する。また
図18(B)は釘1603及び正極集電体1501の拡大図を示しており、正極活物質層1502が有する実施形態1の正極活物質101、及び導電材1553を明示する。
【0336】
一般的に、
図18(A)及び
図18(B)に示すように、釘1603が正極1503、及び負極1506を貫通すると、内部短絡が生じる。すると釘1603の電位が負極の電位と等しくなり、釘1603等を介して、矢印で示したように電子(e
-)が正極1503へ流れ、内部短絡箇所及びその近傍にはジュール熱が発生する。また内部短絡により、負極1506から脱離したキャリアイオン、代表的にはリチウムイオン(Li
+)は白抜き矢印のように電解液へ放出される。このとき電解液1530のアニオンが不足していると、負極1506から脱離したリチウムイオンを電解液1530が受けきれないため、電解液1530が分解し始める。これは電気化学反応の一つであり、負極による電解液の還元反応と呼ぶ。そして、正極1503に流れてきた電子(e
-)により、充電状態のコバルト酸リチウム(LCOとも呼ぶ)において4価であったコバルトは還元されて3価又は2価となり、この還元反応によりコバルト酸リチウムから酸素が脱離し、さらに電解液1530は脱離した酸素等によって分解される。これは電気化学反応の一つであり、正極による電解液の酸化反応と呼ぶ。また、NCMにおいても上記反応は同様に生じる。
【0337】
また一般に、二次電池の内部短絡が生じると、温度が
図19に示すグラフのように変化する。
図19は、非特許文献1の第70頁[
図2-12]に示したグラフを引用し、一部修正した図であり、時間に対する二次電池の温度のグラフであり、(P0)で内部短絡が生じると、時間とともに二次電池の温度が上昇することを示している。具体的には(P1)に示すようにジュール熱による発熱が続き、二次電池の温度が100℃及びその近傍になると、二次電池の基準温度(Ts)を超えてしまう。すると(P2)では負極(黒鉛を用いた場合、負極はC
6Liとなる)による電解液の還元と発熱が生じ、(P3)では正極による電解液の酸化と発熱が生じ、(P4)では電解液の熱分解による発熱が生じる。そして二次電池は熱暴走し、発火等に至る。
【0338】
上記実施の形態1乃至3で述べた本発明の一形態である正極活物質100、101のいずれか一または複数を用いた二次電池に釘刺し試験を実施すると、正極活物質100、101が上述したシェルを有するため、内部短絡時に正極へ流れ込む電流の速度が緩やかになると考えられる。さすれば熱暴走しづらく、発火等に至りにくいという顕著な効果が期待される。
【0339】
(実施の形態10)
本実施の形態では、
図21を用いて本発明の一態様の正極活物質1201について説明する。
【0340】
正極活物質1201は、リチウムと、遷移金属Mと、酸素とを有する。遷移金属Mは、ニッケルと、マンガンと、コバルトから選ばれる一または二以上である。これに加えて添加元素を有することが好ましい。または正極活物質1201はニッケル-マンガン-コバルト酸リチウムに添加元素が加えられたものを有することができる。
【0341】
リチウムイオン二次電池の正極活物質は、リチウムイオンが挿入または脱離しても電荷中性を保つために、酸化還元が可能な遷移金属を有する必要がある。本発明の一態様の正極活物質1201は酸化還元反応を担う遷移金属Mとしてニッケルと、マンガンと、コバルトと、を有する。
【0342】
正極活物質1201が有する遷移金属Mのうち、ニッケルの占める割合が大きいと、コバルトが過半を占める場合と比較して、充電電圧が低くても充放電容量を大きくしやすく好ましい。そのためたとえば遷移金属Mのうち、ニッケルが50%以上を占めると好ましく、60%以上を占めるとより好ましく、75%以上を占めるとさらに好ましい。正極活物質1201はフッ素を含んでいるが、フッ素を除く正極活物質はLiNixCoyMnzO2(x>0、y>0、z>0)で表されるNiCoMn系(NCMともいう)を用いる。一例として、x、yおよびzは、x:y:z=5:2:3またはその近傍の値を満たすことが好ましい。または一例として、x、yおよびzは、x:y:z=8:1:1またはその近傍の値を満たすことが好ましい。または一例として、x、yおよびzは、x:y:z=9:0.5:0.5またはその近傍の値を満たすことが好ましい。
【0343】
また、正極活物質1201に添加元素を加えてもよく、例えば、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、ジルコニウム、フッ素、バナジウム、鉄、マンガン、クロム、ニオブ、ヒ素、亜鉛、ケイ素、硫黄、リン、ホウ素、臭素、及びベリリウムから選ばれる一または二以上を用いる。また遷移金属M(Mはニッケルとコバルトとマンガン)の原子数の和と添加元素の原子数の比は、添加元素が25原子%未満であることが好ましく、10原子%未満がより好ましく、5原子%未満がより好ましい。
【0344】
これらの添加元素が、後述するように正極活物質1201が有する結晶構造をより安定化させる。
【0345】
また表層部1204はフッ素の濃度が、内部1200cよりも高いことが好ましい。内部1200cは、表層部よりもニッケルの濃度が高いことが好ましい。また、表層部1204をバリア膜として機能させるため、添加元素を添加したLCOを用いてもよく、例えばマグネシウムを用いる。マグネシウムを用いる場合には、コバルト化合物とフッ化マグネシウムとNCMを混合して加熱することで内部1200cがNCMであり、且つ、表層部1204のマグネシウム濃度及びフッ素濃度を内部1200cより高濃度にすることができる。
【0346】
LCOである表層部1204にマグネシウムを含ませることで、安定性を向上させる。さらに表層部1204にフッ素を含ませることで、リチウムイオン二次電池の発火または過熱を抑制し、熱的安全性をさらに、向上させることができる。
【0347】
<表面及び表層部>
図21(A)は単粒子である正極活物質1201の断面図である。正極活物質1201は、シェル1200dと、表層部1204と、内部1200cと、を有することが好ましい。
【0348】
本発明の一態様の正極活物質1201は、抵抗を高めることが可能な領域を有するとよい。当該領域を他の領域と区分けするため、第1の領域と呼ぶことがある。上記領域は、断面視で2nm以上20nm以下、好ましくは2nm以上10nm以下、さらに好ましくは2nm以上5nm以下といった幅狭(ショートレンジ)に存在すると好ましく、当該幅狭な領域を、本明細書等では「シェル」と呼ぶことがある。
図21(A)はシェル1200dが粒子の表層部1204を覆っている例を示している。このようなシェル1200dを有する正極活物質1201は、二次電池に釘刺し試験を行った場合であっても正極活物質へ流れ込む電流の速度を緩やかにすることができ、発火、又は発煙等を抑制でき好ましい。
【0349】
シェル1200dはコバルトも有するとよく、シェル1200dによりリチウムイオン(Li+)の挿入脱離を可能にしつつ、内部短絡による電流の流れ込み速度を緩やかにすることが可能となる。正極活物質1201は第1の領域と、第1の領域よりも深い第2の領域とを有し、少なくとも第1の領域にマグネシウムを有するとよく、第2の領域にはマグネシウムがなくてもよい。また第1の領域及び第2の領域がコバルトを有する場合、リチウムイオン(Li+)の挿入脱離が可能になると考えられる。
【0350】
正極活物質1201はEDX線分析をしたとき、表層部1204のマグネシウム濃度のピークは、正極活物質1201のシェルと表層部の境界から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。またマグネシウムの濃度はピークトップから深さ1nmの点でピークの60%以下に減衰することが好ましい。またピークトップから深さ2nmの点でピークの30%以下に減衰することが好ましい。なおここでいう濃度のピークとは、濃度の極大値をいうこととする。
【0351】
またEDX線分析をしたとき、正極活物質1201の表層部1204のフッ素の分布は、マグネシウムの分布と重畳することが好ましい。たとえばフッ素濃度のピークと、マグネシウム濃度のピークの深さ方向の差が10nm以内であると好ましく、3nm以内であるとより好ましく、1nm以内であるとさらに好ましい。
【0352】
またEDX線分析をしたとき、表層部1204のニッケル濃度のピークは、シェルと表層部の境界から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。またマグネシウムおよびニッケルを有する表層部1204では、ニッケルの分布は、マグネシウムの分布と重畳することが好ましい。たとえばニッケル濃度のピークと、マグネシウム濃度のピークの深さ方向の差が10nm以内であると好ましく、3nm以内であるとより好ましく、1nm以内であるとさらに好ましい。
【0353】
また正極活物質1201についてEDX線分析、面分析または点分析をしたとき、マグネシウム濃度のピークにおけるマグネシウムMgとコバルトCoの原子数の比(Mg/Co)は0.05以上0.6以下が好ましく、0.1以上0.4以下がより好ましい。ニッケル濃度のピークにおけるニッケルNiとコバルトCoの原子数の比(Ni/Co)は0以上0.2以下が好ましく、0.01以上0.1以下がより好ましい。フッ素濃度のピークにおけるフッ素FとコバルトCoの原子数の比(F/Co)は0以上1.6以下が好ましく、0.1以上1.4以下がより好ましい。
【0354】
また
図21(B)に正極活物質1211の断面模式図を示し、
図21(C)に
図21(B)の四角を付した領域Bを拡大した概念図を示す。
図21(C)に示すように添加元素の一であるフッ素が正極活物質の表面1200aに吸着しているとよい。フッ素は電気陰性度が高く、多くの元素と安定な化合物を生成しやすい。吸着させたフッ素が表面の元素と化学反応して結合するとフルオロ基を有する表面ということもできる。
【0355】
また、
図21(C)では、少なくともフッ素が正極活物質1201のシェル1200dに吸着している様子を示す。また、吸着させたフッ素がリチウムイオン二次電池の発火または過熱を抑制し、熱的安全性をさらに、向上させることに十分に寄与するのであれば、フッ素は、シェル1200dの内部に存在していなくともよく、フッ素は表層部1204の内部にも存在していなくともよい。
【0356】
シェル1200dの存在または吸着させたフッ素により、正極活物質1201の酸素が脱離しづらく、熱分解反応を抑制することができる。シェル1200dを有する正極活物質1201を正極に用いることでリチウムイオン二次電池の発火または過熱を抑制し、熱的安全性を向上させることができる。
【0357】
なお、吸着には化学吸着又は物理吸着が含まれる。化学吸着は添加元素の少なくとも一と正極活物質の表面1200aとの間の化学反応により化学結合が形成されることであり、物理吸着は添加元素の少なくとも一と正極活物質1201の表面との間に働く分子間力(ファンデルワールス力)により吸着していることである。後述するがフッ素は、正極活物質1201の酸素の一部に置換していてもよい。正極活物質1201に対して十分なフッ素があれば、表面に吸着するフッ素及び酸素の一部に置換したフッ素が存在する。
【0358】
リチウムイオン二次電池に用いられるフッ化物の例として、リチウム塩としてはLiPF6、LiBF4などがあり、バインダとしてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)などがある。このようなフッ化物からのフッ素が正極活物質の表面1200aに吸着してもよい。
【0359】
図21(A)において、正極活物質1201の表層部1204とは、例えば、シェル1200dと表層部の界面から内部に向かって50nm以内、より好ましくはシェル1200dと表層部の界面から内部に向かって35nm以内、さらに好ましくはシェル1200dと表層部の界面から内部に向かって20nm以内、最も好ましくはシェル1200dと表層部の界面から内部に向かって、表面から垂直または略垂直に10nm以内の領域をいう。なお略垂直とは、80°以上100°以下とする。ひびおよび/またはクラックにより生じた面も表面1200aといってよい。正極活物質1201の表面1200aは断面観察した場合にその輪郭を確認することができる。表層部1204は、バリア膜とも呼ぶことができ、表面近傍、または表面近傍領域と同義である。
【0360】
図21(A)においてシェル1200dは、厚さが均一となるように設ける例を示しているが特に限定されない。
【0361】
また正極活物質の表層部1204より深い領域を、内部1200cと呼ぶ。内部1200cは、内部領域またはコアと同義である。また、表層部1204は第1のシェルとも呼べ、シェル1200dは第2のシェルとも呼べる。また、内部1200cは、LCOである表層部1204とは組成が異なり、NCMである。従って、内部1200cと表層部1204は、境界を有するが、加熱条件によっては境界が明確にならない場合もある。
【0362】
正極活物質の表面1200aとは、上記シェル1200dの表面をいうこととする。そのため正極活物質1201は、酸化アルミニウムをはじめとする充放電に寄与しうるリチウムサイトを有さない金属酸化物が表面1200aに付着したもの、正極活物質の作製後に化学吸着した炭酸塩、及びヒドロキシ基等は含まないとする。なお付着した金属酸化物とは、たとえば内部1200c及び表層部1204と結晶構造が一致しない金属酸化物をいう。
【0363】
正極活物質1201は、リチウムイオンの挿入脱離が可能な遷移金属と酸素を有する化合物であるため、リチウムイオンの挿入脱離に伴い酸化還元する遷移金属M(たとえばCo、Ni、Mn、Fe等)および酸素が存在する領域と、存在しない領域の界面を、正極活物質の表面1200aとする。正極活物質を分析に供する際、表面に保護膜を付ける場合があるが、保護膜は正極活物質には含まれない。保護膜としては、炭素、金属、酸化物、樹脂などの単層膜または多層膜が用いられる場合がある。
【0364】
本実施の形態は、他の実施の形態と組み合わせ用いることができる。
【0365】
(実施の形態11)
本実施の形態では、実施の形態10に示す正極活物質1201の作製方法の一例を
図22(A)に示す。
【0366】
まずステップS11として、リチウム源と、正極活物質1201の内部1200c用の遷移金属M191源と、を用意する。遷移金属M191源としては、コバルト、ニッケル、及びマンガンを含む。
【0367】
次にステップS12として、リチウム源と、正極活物質1201の内部1200c用の遷移金属M191源と、を合成する。合成方法としてはたとえば、固相法でリチウム源と正極活物質1201の内部1200c用の遷移金属源とを混合した後、加熱する方法がある。
【0368】
このようにして、正極活物質1201の内部1200cが有する複合酸化物C191を作成する(ステップS13)。また、本実施の形態では合成する例を示したが、複合酸化物C191と同等の市販品を用いてもよい。
【0369】
次にステップS121として、正極活物質1201の表層部1204用のコバルト源と、リチウム源と、フッ素源と、を用意する。コバルト源としては、フッ化コバルト、リチウム源としてはフッ化リチウム(LiF)、フッ素源としてはフッ化マグネシウムを用いることができる。LiFは融点が848℃と比較的低く、後述するアニール工程で溶融しやすいため好ましい。フッ化マグネシウムを用いるとマグネシウムを高濃度に正極活物質の表面近傍に配することができる。
【0370】
次にステップS131として、フッ素源と、正極活物質1201の内部1200cが有する複合酸化物C191と、正極活物質1201の表層部1204用のコバルト源と、リチウム源と、を合成する。この合成によって、正極活物質1201の内部1200cをNCMとし、内部1200cを表層部1204で覆う。表層部1204は、少なくともコバルト、マグネシウム、及びリチウムを含むバリア膜であり、層状岩塩型結晶構造を有する。合成方法としては、固相法でこれらを混合した後、加熱する方法がある。また、合成方法としてゾルゲル法を用いてもよい。
【0371】
ここでステップS131におけるアニール方法は、実施の形態1のステップS31と同一であるため、ここでは省略する。
【0372】
上記ステップS131のアニールは、適切な温度および時間で行うことが好ましい。ここでのアニールの温度が高すぎると、材料が溶融し、互いに混合してしまい、バリア層を有する正極活物質1201が得られない。また、アニール後の降温時間は、例えば10時間以上50時間以下とすることが好ましい。そして、アニールした材料を回収し、正極活物質1201を得る。
【0373】
このようにして、
図21(A)に示す正極活物質1201を作製する(ステップS132)。また、ステップS131の後に、フッ素を表面1200aに吸着させる処理として、フッ素を含む溶液と接触させる処理を行ってもよい。その場合、フッ素またはフッ化物を表面1200aに吸着させることができる。
【0374】
また、高濃度にフッ素を添加する場合には、フッ素を含む溶液と接触させる処理を繰り返し行ってもよい。
【0375】
また、
図21(B)に示した正極活物質1211は、たとえば
図22(B)に示すフローに従って作製することができる。
【0376】
まずステップS11として、リチウム源と、内部1200c用の遷移金属M191源と、を用意する。
【0377】
次にステップS12として、リチウム源と、正極活物質1211の内部1200c用の遷移金属M191源と、を合成する。合成方法としては、たとえば、固相法でリチウム源と正極活物質1211の内部1200c用の遷移金属源とを混合した後、加熱する方法がある。
【0378】
このようにして、正極活物質1211の内部1200cが有する複合酸化物C191を作製する(ステップS13)。また、本実施の形態では合成する例を示したが、複合酸化物C191と同等の市販品を用いてもよい。
【0379】
次にステップS42として、リチウム源と、表層部1204用のコバルト源と、を用意する。
【0380】
次に、ステップS53として、正極活物質1211の内部1200cが有する複合酸化物C191と、リチウム源と、コバルト源と、を合成する。合成方法としては、固相法でこれらを混合した後、加熱する方法がある。
【0381】
このようにして、表層部1204に覆われた内部1200cを有する複合酸化物C194を作製する。この段階で正極活物質1211の内部1200c、即ちNCMの表面がLCO(コバルト酸リチウム)で被覆された状態の粒子を得ることができる(ステップS54)。
【0382】
次に、ステップS62として、表層部1204用のマグネシウム源と、表面にフッ素を吸着させるフッ素源と、を用意する。
【0383】
次に、ステップS73として、複合酸化物C194と、表層部1204用のマグネシウム源と、フッ素源と、を合成する。ここでの合成により、LCO(コバルト酸リチウム)である表層部1204にマグネシウムまたはフッ素がドーピングされる。合成方法としては、たとえば、固相法でこれらを混合した後、加熱する方法がある。また、合成方法としてゾルゲル法を用いてもよい。
【0384】
このようにして、
図21(C)に示した正極活物質1211を作製する(ステップS74)。また、ステップS73の後にフッ素を表面1200aに吸着させる処理として、フッ素を含む溶液と接触させる処理を行ってもよい。その場合、フッ素またはフッ化物を表面1200aに吸着させることができる。
【0385】
本実施の形態は、他の実施の形態と組み合わせて用いることができる。
【0386】
(実施の形態12)
実施の形態11では固相法を用いて正極活物質1201の内部1200c及び表層部1204を作製する例を示したが、正極活物質1201の内部1200cを共沈法で作製することもできる。
【0387】
本実施の形態では、
図4、
図5及び
図23を用いて、本発明の一態様の正極活物質1200fの作製方法の例について説明する。実施の形態3の正極活物質100とは途中までの工程、即ち、複合酸化物99を得るまでの工程は同一であるため、詳細な説明はここでは省略することとする。
【0388】
実施の形態3に従って、
図4のステップS111として、まずニッケル源(Ni源)、コバルト源(Co源)およびマンガン源(Mn源)を含む遷移金属M源を用意する。
【0389】
次に
図4のステップS113に示すように、キレート剤を用意する。
【0390】
次に
図4のステップS114として、遷移金属M源とキレート剤を混合し、酸溶液を作製する。
【0391】
次に
図4のステップS121として、アルカリ溶液を用意する。
【0392】
次に
図4のステップS122に示すように、水を反応槽に用意する。
【0393】
次に
図4のステップS131として、酸溶液とアルカリ溶液を混合し、反応させる。該反応は、共沈反応、中和反応または酸塩基反応ということができる。
【0394】
ステップS131の共沈反応中は、反応系のpHを9.0以上11.5以下となるようにすることが好ましい。
【0395】
上記の共沈反応により、遷移金属Mを有する複合水酸化物98が沈殿する。
【0396】
次に複合水酸化物98を回収するために、
図4のステップS132に示すように濾過を行うことが好ましい。
【0397】
次に
図4のステップS133に示すように、濾過後の複合水酸化物98は乾燥させるとよい。
【0398】
このようにして、遷移金属Mを有する複合水酸化物98を得ることができる。
【0399】
次に実施の形態3と同様に、
図23のステップS141として、リチウム源を用意する。なお、
図23のステップS141は
図5のステップS141と同一である。このとき、リチウム源を加えて加熱する工程を複数回行うため、ステップS141では最終的なリチウム量よりも少ない量を用意する。たとえばニッケル、コバルトおよびマンガンの原子の和を1としたとき、リチウムを0.5以上0.9以下(原子数比)とすることができ、0.7(原子数比)とすることがより好ましい。
【0400】
次に
図23のステップS142として、複合水酸化物98とリチウム源とを混合する。なお、
図23のステップS142は
図5のステップS142と同一である。
【0401】
次に複合水酸化物98とリチウム源の混合物に加熱を行う(ステップS143)。他の加熱工程との区別のために、
図23ではステップS143を第1の加熱、ステップS253を第2の加熱、ステップS255を第3の加熱という場合がある。
【0402】
これらの加熱を行う焼成装置としては、電気炉、またはロータリーキルン炉を用いることができる。加熱の際に用いる、るつぼ、サヤ、セッター、容器は不純物を放出しにくい材質であると好ましい。たとえば純度が99.9%の酸化アルミニウムのるつぼを用いるとよい。量産する場合には例えばムライト・コーディライト(Al2O3・SiO2・MgO)のサヤを用いるとよい。また、これらの容器に蓋をした状態で加熱することが好ましい。
【0403】
ステップS143の加熱は、温度は400℃以上750℃以下が好ましく、650℃以上750℃以下がより好ましい。また、ステップS143の加熱の時間は、1時間以上30時間以下が好ましく、2時間以上20時間以下がより好ましい。
【0404】
加熱雰囲気は、酸素を有する雰囲気、又はいわゆる乾燥空気であって水が少ない酸素含有雰囲気(例えば露点が-50℃以下、より好ましくは露点が-80℃以下)で行うことが好ましい。
【0405】
次にステップS144として、加熱の後に解砕工程を有することが好ましい。以上の工程により、ステップS145として、複合酸化物99を得る。複合酸化物99はNCMと呼ぶことができる材料である。
【0406】
<ステップS181>
次にステップS181として、リチウム源を用意する。リチウム源としてはフッ化リチウムを用いる。フッ化リチウムを用いる場合は、ステップS141と合わせて最終的なリチウム量となるようにステップS181のリチウム量を調節する。
【0407】
<ステップS252>
次にステップS145で得た複合酸化物99と、上記のリチウム源(フッ化リチウム)とを混合する。
【0408】
<ステップS253>
次に複合酸化物99とフッ素源の混合物に加熱を行う。ステップS253の加熱は正極活物質1200fの結晶子サイズを大きくするため、十分に高い温度であることが好ましいが、その範囲は遷移金属Mの組成により異なる場合がある。
【0409】
遷移金属Mのうちニッケルの占める割合が高い、たとえば70%以上である場合は、たとえば750℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましく、850℃以上であるとさらに好ましい。一方で高すぎるとニッケル等の遷移金属Mが2価に還元される等の恐れがある。そのため、たとえば950℃以下が好ましく、920℃以下がより好ましく、900℃以下がさらに好ましい。
【0410】
遷移金属Mのうちニッケルの占める割合が40%以上60%以下の場合は、たとえば900℃以上が好ましく、950℃以上がより好ましく、970℃程度がより好ましい。一方で高すぎると上記と同様のデメリットが生じる恐れがあり、1020℃以下が好ましく、990℃以下がより好ましい。加熱のその他の条件は、ステップS143の記載を参酌することができる。
【0411】
またステップS254として、加熱の後に解砕工程を有することが好ましい。解砕はステップS144の記載を参酌することができる。
【0412】
<ステップS255>
さらに、ステップS255の加熱を行うことがより好ましい。該加熱を行うことで、リチウム源などの残渣を減少させることができる。ステップS255の加熱は、温度は400℃以上900℃以下が好ましく、750℃以上850℃以下がより好ましい。また、ステップS255の加熱の時間は、1時間以上30時間以下が好ましく、2時間以上20時間以下がより好ましい。ただしステップS255の加熱は行わなくてもよい。
【0413】
またステップS256として、加熱の後に解砕工程を有することが好ましい。解砕はステップS144の記載を参酌することができる。解砕後、回収する。
【0414】
以上の工程により、ステップS257として、複合酸化物199を得る。複合酸化物199はNCMと呼ぶことができる材料である。
【0415】
<ステップS258>
次いで、リチウム源と、コバルト源を用意する。
【0416】
次に、ステップS260として、複合酸化物199と、リチウム源と、コバルト源と、を合成する。ステップS260の合成としては、固相法でこれらを混合した後、加熱する方法がある。
【0417】
このようにして、表層部に覆われた内部(複合酸化物199)を有する複合酸化物299を作製する(ステップS262)。この段階で正極活物質1200fの内部、即ちNCMがLCO(コバルト酸リチウム)で被覆された状態の粒子を得ることができる。
【0418】
次に、ステップS263として、マグネシウム源と、複合酸化物299の表面に吸着させるフッ素源と、を用意する。
【0419】
次に、ステップS271として、複合酸化物299と、マグネシウム源と、フッ素源と、を合成する。ここでの合成により、LCO(コバルト酸リチウム)である表層部にマグネシウムまたはフッ素がドーピングされる。合成方法としてはたとえば、固相法でこれらを混合した後、加熱する方法がある。また、合成方法としてゾルゲル法を用いてもよい。
【0420】
以上の工程により、正極活物質1200fを作製することができる(ステップS275)。なお、ステップS257以降の工程は、実施の形態2に示したステップS12以降の工程と同一であるため、ここでは簡略に示している。また、工程を短縮するために、ステップS257以降の工程の工程を
図22(A)に示したステップS121以降の工程としてもよい。
【0421】
本実施の形態は他の実施の形態と自由に組み合わせることができる。
【0422】
(実施の形態13)
実施の形態10乃至12のいずれか一で説明した正極活物質1201、1211、1200fを用いて二次電池を作製するため、作製する正極の例を以下に示す。二次電池は、外装体、集電体、活物質(正極活物質、或いは負極活物質)、導電材、及びバインダを少なくとも有している。また、リチウム塩などを溶解させた電解液を有している。電解液を用いる二次電池の場合、正極と、負極と、正極と負極の間にセパレータとを設ける。また、電解液にフルオロ基を有する材料を用いることが好ましい。電解液にフルオロ基を有する材料を用いることで正極活物質1201、1211、1200fの表面にフッ素を吸着させることもできる。また、電解液にフルオロ基を有する材料を用いることで正極活物質1201、1211、1200fの表面に吸着させているフッ素を安定に維持することができる。
【0423】
まず、正極について説明する。
図24(A)は正極の断面の模式図の一例を示している。
図24(A)は
図6(A)と、活物質以外は同一であるため、同一の部分には同じ符号を用い、同じ部分の詳細な説明は省略することとする。
【0424】
集電体400は金属箔であり、金属箔上にスラリーを塗布して乾燥させることによって正極を形成する。乾燥後、さらにプレス処理をする場合もある。正極は、集電体400上に活物質層を形成したものである。
【0425】
図24(A)では、導電材としてアセチレンブラック403を図示している。また、
図24(A)では、実施の形態10乃至12のいずれか一で説明した正極活物質1201、1211、1200fよりも粒径の小さい第2の活物質402を混合している例を示している。大きさの異なる粒子を混合することで高密度の正極を得ることができる。
【0426】
二次電池の正極として、金属箔などの集電体400と、活物質と、を固着させるために、バインダー(樹脂)を混合している。バインダは結着材とも呼ばれる。バインダは高分子材料であり、バインダを多く含ませると正極における活物質の割合が低下して、二次電池の放電容量が小さくなる。そこでバインダの量は最小限に混合させている。
図24(A)において、活物質701、第2の活物質402、アセチレンブラック403で埋まっていない領域は、空隙またはバインダを指している。
【0427】
また、
図24(A)では活物質701の内部と表層部の境界を実線で示している。なお、活物質701の表層部の外殻に相当するシェルは薄く、
図24(A)では図示していない。また、
図24(A)の活物質701は断面形状がほぼ円状の例を示しており、
図21(A)の正極活物質1201に相当する例である。表層部は内部よりも高濃度にマグネシウムを含んでおり、リチウムイオン二次電池の発火または過熱を抑制し、熱的安全性を向上させることができる。
【0428】
なお、
図24(A)では活物質701を球形として図示した例を示しているが、特に限定されず、色々な形状であってもよい。活物質701の断面形状は楕円形、長方形、台形、錐形、角が丸まった四角形、非対称の形状であってもよい。
【0429】
図24(B)は、
図24(A)と異なる例を示している。また、
図24(B)の活物質701は形状が不規則な形状の例を示している。また、
図24(B)では活物質701の内部と表層部の境界を実線で示している。なお、活物質701の表層部の外殻に相当するシェルは薄く、
図24(B)では図示していない。活物質701の表層部は内部よりも高濃度にマグネシウムを含んでおり、リチウムイオン二次電池の発火または過熱を抑制し、熱的安全性を向上させることができる。
【0430】
また、
図24(B)の正極では、導電材として用いられる炭素材料として、グラフェン404を用いている。
【0431】
図24(B)は集電体400上に活物質701、グラフェン404、アセチレンブラック403を有する正極活物質層を形成している。グラフェン404は、複数の粒状の活物質701を一部覆うように、あるいは複数の粒状の活物質701の表面上に張り付くように形成されているため、互いに面接触している。なお、グラフェン404が活物質701の少なくとも一部にまとわりついていると好ましい。また、グラフェン404が活物質701の少なくとも一部の上に重なっていると好ましい。また、グラフェン404の形状が活物質701の形状の少なくとも一部に一致していると好ましい。該活物質の形状とは、たとえば、単一の活物質粒子が有する凹凸、または複数の活物質粒子によって形成される凹凸をいう。また、グラフェン404が活物質701の少なくとも一部を囲んでいることが好ましい。また、グラフェン404は穴が空いていてもよい。
【0432】
なお、グラフェン404、アセチレンブラック403を混合し、電極スラリーを得る工程において、混合するアセチレンブラックの重量はグラフェンの1.5倍以上20倍以下、好ましくは2倍以上9.5倍以下の重量とすることが好ましい。
【0433】
また、グラフェン404とアセチレンブラック403の混合を上記範囲とすると、スラリー調製時に、アセチレンブラック403の分散安定性に優れ、凝集部が生じにくい。また、グラフェン404とアセチレンブラック403の混合を上記範囲とすると、アセチレンブラック403のみを導電材に用いる正極よりも高い電極密度とすることができる。電極密度を高くすることで、単位体積当たりの容量を大きくすることができる。具体的には、重量測定による正極活物質層の密度は、3.5g/ccより高くすることができる。また、実施の形態10乃至12で説明した1201、1211、1200fのいずれか一または複数を正極の活物質701に用い、且つ、グラフェン404とアセチレンブラック403の混合を上記範囲とすると、二次電池がより高容量となることについて相乗効果が期待でき好ましい。
【0434】
また、グラフェンのみを導電材に用いる正極に比べると電極密度は低いが、第1の炭素材料(グラフェン)と第2の炭素材料(アセチレンブラック)の混合を上記範囲とすることで、急速充電に対応することができる。また、実施の形態10乃至12で説明した正極活物質1201、1211、1200fのいずれか一または複数を正極の活物質701に用い、且つ、グラフェン404とアセチレンブラック403の混合を上記範囲とすると、二次電池がより安定性を増し、さらなる急速充電に対応できることについて相乗効果が期待でき好ましい。
【0435】
これらのことは、車載用の二次電池として有効である。
【0436】
二次電池の数を増やして車両の重量が増加すると、移動させるエネルギーが増加するため、航続距離も短くなる。高密度の二次電池を用いることで同じ重量の二次電池を搭載する車両の総重量をほとんど変えることなく航続距離を維持できる。
【0437】
また、車両の二次電池が高容量になると充電する電力が必要とされるため、短時間で充電を終了させることが望ましい。また、車両のブレーキをかけた時に一時的に発電させて、それを充電する、いわゆる回生充電において高レート充電条件での充電が行われるため、良好なレート特性が車両用二次電池に求められている。
【0438】
実施の形態10乃至12で説明した正極活物質1201、1211、1200fのいずれか一または複数を正極の活物質701に用い、且つ、アセチレンブラックとグラフェンの混合比を最適範囲とすることで、電極の高密度化とイオン電導に必要な適切な隙間を作り出すことの両立が可能となり、高エネルギー密度かつ良好な出力特性をもつ車載用の二次電池を得ることができる。
【0439】
また、携帯情報端末においても本構成は有効であり、実施の形態10乃至12で説明した正極活物質1201、1211、1200fのいずれか一または複数を正極の活物質701に用い、且つ、アセチレンブラックとグラフェンの混合比を最適範囲とすることで二次電池を小型化し、高容量とすることもできる。また、アセチレンブラックとグラフェンの混合比を最適範囲とすることで携帯情報端末の急速充電も可能である。
【0440】
また、
図24(B)中、活物質701の内部と表層部の境界を活物質701の内部に実線で示している。なお、
図24(B)において、活物質701、グラフェン404、アセチレンブラック403で埋まっていない領域は、空隙またはバインダを指している。空隙は電解液の浸み込みに必要であるが、多すぎると電極密度が低下し、少なすぎると電解液が浸み込まず、二次電池とした後も空隙として残ってしまうと効率が低下してしまう。
【0441】
実施の形態10乃至12で説明した正極活物質1201、1211、1200fのいずれか一または複数を正極の活物質701に用い、且つ、アセチレンブラックとグラフェンの混合比を最適範囲とすることで電極の高密度化とイオン電導に必要な適切な隙間を作り出すことの両立が可能となり、高エネルギー密度かつ良好な出力特性をもつ二次電池を得ることができる。
【0442】
図24(C)では、グラフェンに代えて繊維状炭素の例としてカーボンナノチューブ405を用いる正極の例を図示している。
図24(C)は、
図24(B)と異なる例を示している。カーボンナノチューブ405を用いるとアセチレンブラック403などのカーボンブラックの凝集を防ぎ、分散性を高めることができる。
【0443】
さらにフッ素含有カーボンナノチューブを用いてもよい。またフッ素含有カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブとフッ素化合物が接触すること(フッ化処理と呼ぶ)により作製することができる。フッ化処理についてはグラフェンで説明した内容を、カーボンナノチューブに適用できる。
【0444】
なお、
図24(C)において、活物質701、カーボンナノチューブ405、アセチレンブラック403で埋まっていない領域は、空隙またはバインダを指している。
【0445】
また、他の正極の例として、
図24(D)を図示している。
図24(C)では、グラフェン404に加えてカーボンナノチューブ405を用いる例を示している。グラフェン404及びカーボンナノチューブ405の両方を用いると、アセチレンブラック403などのカーボンブラックの凝集を防ぎ、分散性をより高めることができる。
【0446】
さらにフッ素含有アセチレンブラックを用いてもよい。またフッ素含有アセチレンブラックは、アセチレンブラックとフッ素化合物が接触すること(フッ化処理と呼ぶ)により作製することができる。フッ化処理についてはグラフェンで説明した内容を、アセチレンブラックに適用できる。
【0447】
なお、
図24(D)において、活物質701、カーボンナノチューブ405、グラフェン404、アセチレンブラック403で埋まっていない領域は、空隙またはバインダを指している。
【0448】
図24(A)、
図24(B)、
図24(C)及び
図24(D)のいずれか一の正極を用い、正極上にセパレータを重ね、セパレータ上に負極を重ねた積層体を収容する容器(外装体、金属缶など)などに入れ、容器に電解液を充填させることで二次電池を作製することができる。
【0449】
また、上記構成は、電解液を用いる二次電池の例を示したが特に限定されない。
【0450】
例えば、実施の形態10乃至12で説明した正極活物質1201、1211、1200fのいずれか一または複数を正極の活物質に用いて半固体電池を作製することもできる。
【0451】
実施の形態10乃至12で説明した正極活物質1201、1211、1200fのいずれか一または複数を用いて半固体電池を作製した場合、半固体電池は、充放電容量の大きい二次電池となる。また、充放電電圧の高い半固体電池とすることができる。または、安全性または信頼性の高い半固体電池を実現することができる。
【0452】
本実施の形態は他の実施の形態と自由に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0453】
98 複合水酸化物
99 複合酸化物
100a 表面
100b 表層部
100c 内部
100d シェル
100f 正極活物質
100 正極活物質
101 正極活物質
104 表層部
111 正極活物質
199 複合酸化物
202 加熱炉内空間
204 熱板
206 ヒーター部
208 断熱材
216 容器
218 蓋
219 空間
220 加熱炉
299 複合酸化物
300 二次電池
301 正極缶
302 負極缶
303 ガスケット
304 正極
305 正極集電体
306 正極活物質層
307 負極
308 負極集電体
309 負極活物質層
310 セパレータ
312 ワッシャー
322 スペーサ
400 集電体
401 活物質
402 第2の活物質
403 アセチレンブラック
404 グラフェン
405 カーボンナノチューブ
500 二次電池
501 正極集電体
502 正極活物質層
503 正極
504 負極集電体
505 負極活物質層
506 負極
507 セパレータ
509 外装体
510 正極リード電極
511 負極リード電極
601 正極キャップ
602 電池缶
603 正極端子
604 正極
605 セパレータ
606 負極
607 負極端子
608 絶縁板
609 絶縁板
611 PTC素子
613 安全弁機構
614 導電板
615 蓄電システム
616 二次電池
620 制御回路
621 配線
622 配線
623 配線
624 導電体
625 絶縁体
626 配線
627 配線
628 導電板
701 活物質
903 混合物
911a 端子
911b 端子
913 二次電池
930a 筐体
930b 筐体
930 筐体
931a 負極活物質層
931 負極
932a 正極活物質層
932 正極
933 セパレータ
950a 捲回体
950 捲回体
951 端子
952 端子
1200a 表面
1200c 内部
1200d シェル
1200f 正極活物質
1201c 内部
1201 正極活物質
1204 表層部
1211 正極活物質
1300 角型二次電池
1301a 第1のバッテリ
1301b 第1のバッテリ
1302 バッテリーコントローラ
1303 モータコントローラ
1304 モータ
1305 ギア
1306 DCDC回路
1307 電動パワステ
1308 ヒーター
1309 デフォッガ
1310 DCDC回路
1311 第2のバッテリ
1312 インバータ
1313 オーディオ
1314 パワーウィンドウ
1315 ランプ類
1316 タイヤ
1317 リアモータ
1320 制御回路部
1321 制御回路部
1322 制御回路
1324 スイッチ部
1413 固定部
1414 固定部
1415 電池パック
1421 配線
1422 配線
1500 二次電池
1501 正極集電体
1502 正極活物質層
1503 正極
1506 負極
1508 セパレータ
1511 負極集電体
1512 負極活物質層
1530 電解液
1531 外装体
1553 導電材
1603 釘
2001 自動車
2002 輸送車
2003 輸送車両
2004 航空機
2005 人工衛星
2100 携帯電話機
2101 筐体
2102 表示部
2103 操作ボタン
2104 外部接続ポート
2105 スピーカ
2106 マイク
2107 二次電池
2200 電池パック
2201 電池パック
2202 電池パック
2203 電池パック
2204 二次電池
2300 無人航空機
2301 二次電池
2302 ローター
2303 カメラ
6300 掃除ロボット
6301 筐体
6302 表示部
6303 カメラ
6304 ブラシ
6305 操作ボタン
6306 二次電池
6310 ゴミ
6400 ロボット
6401 照度センサ
6402 マイクロフォン
6403 上部カメラ
6404 スピーカ
6405 表示部
6406 下部カメラ
6407 障害物センサ
6408 移動機構
6409 二次電池
8600 スクータ
8601 サイドミラー
8602 蓄電装置
8603 方向指示灯
8604 座席下収納
8700 電動自転車
8701 蓄電池
8702 蓄電装置
8703 表示部
8704 制御回路