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特開2023-180244水系シーラー組成物およびシーラー塗膜付き無機質基材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180244
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】水系シーラー組成物およびシーラー塗膜付き無機質基材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20231213BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20231213BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20231213BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231213BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C09K3/10 D
C09D5/02
C09D175/04
C09D7/61
B32B27/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094010
(22)【出願日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2022093327
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】下野 大悟
(72)【発明者】
【氏名】牧 和夫
(72)【発明者】
【氏名】今吉 幸希
【テーマコード(参考)】
4F100
4H017
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AA01B
4F100AA08A
4F100AA20A
4F100AA21A
4F100AA37A
4F100AC03A
4F100AC05A
4F100AK25A
4F100AK25C
4F100AK51A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100CA13A
4F100CA23A
4F100CC01A
4F100EH46A
4F100GB07
4F100JA13
4F100JB13C
4F100JK06
4F100JL10A
4F100JM01A
4F100YY00A
4H017AA04
4H017AB05
4H017AD01
4H017AE03
4J038DG191
4J038DG261
4J038HA026
4J038HA216
4J038HA286
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA12
4J038PB05
4J038PC04
(57)【要約】
【課題】耐凍結融解性および密着性に優れるシーラー塗膜を形成可能な水系シーラー組成物の提供。
【解決手段】本発明による水系シーラー組成物は、(A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーと、(B)エマルジョン樹脂液と、(C)顔料とを含むものであって、
前記(A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーの塗膜形成成分質量(a)と、前記(B)エマルジョン樹脂液の塗膜形成成分質量(b)との質量比(a/b)が6以上200以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーと、
(B)エマルジョン樹脂液と、
(C)顔料と
を含む、水系シーラー組成物であって、
前記(A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーの塗膜形成成分質量(a)と、前記(B)エマルジョン樹脂液の塗膜形成成分質量(b)との質量比(a/b)が6以上200以下である、水系シーラー組成物。
【請求項2】
前記顔料が、体質顔料および着色顔料の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の水系シーラー組成物。
【請求項3】
前記体質顔料が、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、タルク、およびマイカからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項2に記載の水系シーラー組成物。
【請求項4】
前記着色顔料が、白色顔料および黒色顔料の少なくとも1種を含む、を含む、請求項2に記載の水系シーラー組成物。
【請求項5】
前記(C)顔料の質量(c)と、前記(A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーおよび前記(B)エマルジョン樹脂液の合計塗膜形成成分質量(d)との質量比(c/d)が0.01以上0.60以下である、請求項1に記載の水系シーラー組成物。
【請求項6】
無機質建材の塗装に用いられる、請求項1に記載の水系シーラー組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水系シーラー組成物から形成されるシーラー塗膜。
【請求項8】
無機質基材の少なくとも片面に請求項1~6のいずれか一項に記載の水系シーラー組成物から形成されたシーラー塗膜を備える、シーラー塗膜付き無機質基材。
【請求項9】
請求項8に記載のシーラー塗膜付き無機質基材のシーラー塗膜面上に硬化塗膜をさらに備える、硬化塗膜付き無機質基材。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水系シーラー組成物を無機質基材上の少なくとも一部に塗装する工程と、
前記塗装工程で形成された塗膜を乾燥、硬化させて、シーラー塗膜を形成する工程と
を有する、シーラー塗膜付き無機質基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系シーラー組成物、特に無機質基材用の水系シーラー組成物に関する。また、本発明は、無機基材の少なくとも片面に該水系シーラー組成物から形成されたシーラー塗膜を備えるシーラー塗膜付き無機質基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石綿セメント板や珪酸カルシウム板等の無機質系基材は不燃性でかつ耐久性に優れているため、無機質系基材に塗装を施して、無機質系建材として使用されてきた。無機質系建材は、例えば、住宅等の外壁として利用されてきた。しかしながら、無機質基材は、その材質がアルカリ性であるため、基材表面にアルカリ分の染み出し(白華:エフロレッセンス)を発生する恐れがあり、これを防止する必要があった。さらに、該基材表面の粉化を防止し、脆部を固化・強化等する必要もあった。したがって、無機質基材表面を塗装する場合、一般的に、まず表面にシーラー塗装を施し、さらに美観等を目的として上塗り塗装を施すことにより塗装作業を行ってきた。例えば、水分散可能なイソシアナートオリゴマーの水分散液を含む無機壁材用プライマーが提案されている(特許文献1参照)。また、水分散型樹脂およびイソシアネ-ト基を含有する化合物を含む架橋剤を混合してなる2液型水性上塗り塗料が提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
近年では、住宅等の外壁の保証期間も伸びており、長期間にわたる性能の維持が必要になっている。外壁基材は、外側は雨や積雪などの影響を受け、内側は家の結露水などにより水分を多く含む場合がある。その際に外気温が氷点下になり凍結すると、基材内部で水分の体積膨張が起こるため、基材の破損に繋がる。さらに、長期間の使用の結果、基材と表面の硬化塗膜との密着性が低下し、硬化塗膜が剥離するという課題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-011167号公報
【特許文献2】特開2001-262013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の特許文献1および特許文献2に記載の塗料からなるシーラー塗膜は、耐凍結融解性に劣るため、長期間にわたる屋外での使用には耐えられなかった。
【0006】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐凍結融解性に優れ、基材と硬化塗膜との密着性に優れるシーラー塗膜を形成可能な水系シーラー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、水系シーラー組成物において、乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーと、エマルジョン樹脂液と、顔料とを含有させ、前記乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーの塗膜形成成分質量(a)と、前記エマルジョン樹脂液の塗膜形成成分質量(b)との質量比(a/b)を調節することにより、上記課題を解決できることを知見した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] (A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーと、
(B)エマルジョン樹脂液と、
(C)顔料と
を含む、水系シーラー組成物であって、
前記(A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーの塗膜形成成分質量(a)と、前記(B)エマルジョン樹脂液の塗膜形成成分質量(b)との質量比(a/b)が6以上200以下である、水系シーラー組成物。
[2] 前記顔料が、体質顔料および着色顔料の少なくとも1種を含む、[1]に記載の水系シーラー組成物。
[3] 前記体質顔料が、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、タルク、およびマイカからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[2]に記載の水系シーラー組成物。
[4] 前記着色顔料が、白色顔料および黒色顔料の少なくとも1種を含む、[2]または[3]に記載の水系シーラー組成物。
[5] 前記(C)顔料の質量(c)と、前記(A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーおよび前記(B)エマルジョン樹脂液の合計塗膜形成成分質量(d)との質量比(c/d)が0.01以上0.60以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の水系シーラー組成物。
[6] 無機質建材の塗装に用いられる、[1]~[5]のいずれかに記載の水系シーラー組成物。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の水系シーラー組成物から形成されるシーラー塗膜。
[8] 無機質基材の少なくとも片面に[1]~[7]のいずれかに記載の水系シーラー組成物から形成されたシーラー塗膜を備える、シーラー塗膜付き無機質基材。
[9] [8]に記載のシーラー塗膜付き無機質基材のシーラー塗膜面上に硬化塗膜をさらに備える、硬化塗膜付き無機質基材。
[10] [1]~[6]のいずれかに記載の水系シーラー組成物を無機質基材上の少なくとも一部に塗装する工程と、
前記塗装工程で形成された塗膜を乾燥、硬化させて、シーラー塗膜を形成する工程と
を有する、シーラー塗膜付き無機質基材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐凍結融解性に優れ、基材と硬化塗膜との密着性(単に「密着性」ということがある)に優れるシーラー塗膜を形成可能な水系シーラー組成物を提供することができる。また、本発明によれば、耐凍結融解性および密着性に優れるシーラー塗膜およびそれを備える無機質基材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを表す。
「塗膜形成成分」とは、水系シーラー組成物から水等の揮発成分を除いたものであり、硬化させたときにシーラー塗膜を構成する成分を示す。
【0011】
<水系シーラー組成物>
本発明による水系シーラー組成物は、少なくとも、(A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーと、(B)エマルジョン樹脂液と、(C)顔料とを含むものである。本発明による水系シーラー組成物は、水および他の成分をさらに含んでもよい。本発明による水系シーラー組成物から形成されたシーラー塗膜は、耐凍結融解性および密着性に優れるものである。このようなシーラー塗膜を形成可能な水系シーラー組成物は、これらの性能が求められる無機質基材の塗装に好適に使用できる。
【0012】
本発明による水系シーラー組成物の水分含有量は、特に限定されず、塗装に好適な粘度になるように適宜調節することができる。水系シーラー組成物の水分含有量は、好ましくは5質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは7質量%以上70質量%以下であり、さらに好ましくは9質量%以上60質量%以下である。水系シーラー組成物の水分含有量が上記数値範囲内であれば、塗装作業性および無機質基材への浸透性の向上等を向上させることができる。
【0013】
以下、本発明による水系シーラー組成物の各成分について詳細に説明する。
【0014】
((A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマー)
乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマー(A)は、イソシアネート化合物と、非イオン系界面活性剤とが結合した乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーそのもの、あるいはこれをイソシアネート化合物に溶解させて用いられる。このようなプレポリマー100質量%には、イソシアネート基が好ましくは5~30重量%、より好ましくは10~25重量%の量で残存していることが望ましい。残存するイソシアネート基が、上記範囲にあると、シーラー塗膜と無機質基材との接着性が優れ、さらにシーラー塗膜の強度が向上するため好ましい。
【0015】
上記イソシアネート化合物としては、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)(HMDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、およびイソホロンジイソシアネート(IPDI)等が挙げられる。これらの中でも、HMDI、HDI、MDI、およびTDIが好ましく、水との反応性の緩やかな無黄変型のHMDI、HDIがさらに好ましい。そのような水系シーラー組成物から得られるシーラー塗膜は、無機質基材と強固に付着し、強度がより高くなり好ましい。これらのイソシアネート化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0016】
上記非イオン系界面活性剤としては、高級アルコールにエチレンオキシドを付加して得られる非イオン界面活性剤が用いられる。その非イオン系界面活性剤としては、下記一般式:
RO(CHCHO)
(上記一般式中、Rは、炭素数1~18のアルキル基であり、n=2~18の整数である。)
で示されるポリエチレングリコールエーテル等が使用される。このようなポリエチレングリコールエーテルには自己乳化性があるため、該ポリエチレングリコールエーテルとイソシアネート化合物との重合反応物は、水による乳化希釈が可能となる。
【0017】
(A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーは、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、WIC105(大竹明新化学(株)製)、ハイビゾールL含浸シーラー(中国塗料(株)製)等が挙げられる。
【0018】
(A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーの含有量は、水系シーラー組成物の固形分全量に対して、好ましくは10質量%以上95重量%以下であり、より好ましくは20質量%以上92重量%以下である。(A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーの含有量が上記数値範囲内であれば、耐凍結融解性および密着性に優れるシーラー塗膜を形成し易い。
【0019】
((B)エマルジョン樹脂液)
エマルジョン樹脂液(B)としては、アクリル樹脂エマルジョン等が挙げられる。当該アクリル樹脂エマルジョンに含有されるアクリル樹脂は、(メタ)アクリレートの単独重合体、または(メタ)アクリレートと(メタ)アクリレートに共重合可能な単量体との共重合体であることが好ましい。
【0020】
アクリル樹脂が、(メタ)アクリレートと(メタ)アクリレートに共重合可能な単量体との共重合体である場合、(メタ)アクリレートから誘導される成分単位が好ましくは20~99.9重量%、より好ましくは40~99.5重量%、該成分単位に共重合可能な単量体から誘導される成分単位が好ましくは0.1~80重量%、より好ましくは0.5~60重量%の量で構成される。但し、アクリル樹脂中の全成分単位量を100重量%とする。
【0021】
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5,000~30万、より好ましくは5万~20万である。アクリル樹脂が、上記組成または分子量であることにより、耐凍結融解性および密着性に優れるシーラー塗膜を形成し易い。
【0022】
アクリル樹脂のガラス転移点Tgは、好ましくは20~70℃であり、より好ましくは30~50℃である。
【0023】
アクリル樹脂は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、メルカプト基等の活性水素を有する官能基を側鎖に有しないアクリル樹脂であることが好ましい。アクリル樹脂がこのような官能基を側鎖に有しないことにより、該アクリル樹脂と前記の乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーとが反応しないため、水系シーラー組成物を調製した後、約8時間まで使用することができる。
【0024】
アクリル樹脂は、上記成分組成、上記重量平均分子量、およびガラス転移点等となるようにモノマーを適宜選択し、公知の方法、たとえば溶液ラジカル重合法などにより製造される。
【0025】
上記重合または共重合可能なモノマーとしては、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレートに共重合可能な単量体が用いられる。
【0026】
(メタ)アクリレートとして、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸(n-,i-,t-)ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸の炭素数1~18のアルキルエステルまたはシクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸エトキシブチル等の(メタ)アクリル酸の炭素数2~18のアルコキシエステル;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のジアルキルアミノエステル;グリシジルメタクリレートなどを挙げることができる。これらの中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸ラウリル、ジメチルアミノエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレートを用いることが好ましい。これらのモノマーは、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0027】
(メタ)アクリレートに共重合可能なモノマーとしては、スチレン、酢酸ビニル、マレイン酸、イタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸、アクリル酸アミド、ビニルトルエン、アクリロニトリル、脂肪族カルボン酸金属(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
これらの中でも、スチレン、酢酸ビニル、メタクリル酸、アクリル酸を用いることが好ましい。これらのモノマーは、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0028】
アクリル樹脂エマルジョンは、上記アクリル樹脂を、乳化剤を用いてエマルジョンとすることにより調製することができる。また乳化重合により直接アクリルエマルジョンを調製することもできる。乳化剤としては、特に限定されず、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤から適宜選択して使用される。
【0029】
アクリル樹脂エマルジョンの固形分は、該エマルジョン100質量%に対して、好ましくは40~60質量%程度である。
【0030】
(B)エマルジョン樹脂液は、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、ウルトラゾールN-80(アイカ工業(株)製)等が挙げられる。
【0031】
(A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーの塗膜形成成分質量(a)と、(B)エマルジョン樹脂液の塗膜形成成分質量(b)との質量比(a/b)は、6以上200以下であり、好ましくは6.5以上150以下であり、より好ましくは7以上100以下である。当該質量比(a/b)が上記数値範囲内であれば、耐凍結融解性および密着性により優れたシーラー塗膜を形成することができる。
【0032】
(C)顔料
(C)顔料としては、体質顔料および着色顔料の少なくとも1種を用いることができる。水系シーラー組成物に顔料を配合することで、耐凍結融解性および密着性に優れたシーラー塗膜を形成することができる。
【0033】
体質顔料としては、特に限定されず、従来公知の体質顔料を用いることができる。体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、マイカ、タルク、硫酸バリウム、長石、カオリン、アルミナホワイト、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、ドロマイトおよびシリカ等が挙げられる。これらの中でも、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、タルクおよびマイカが好ましい。これらの体質顔料は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0034】
着色顔料としては、特に限定されず、従来公知の着色顔料を用いることができる。着色顔料としては、例えば、着色顔料としては、例えば、従来公知の、酸化チタン等の白色顔料、カーボンブラック等の黒色顔料、酸化鉄(弁柄)等の赤色顔料、黄色酸化鉄等の黄色顔料、群青等の青色顔料等が挙げられる。これらの中でも、白色顔料および黒色顔料が好ましい。これらの着色顔料は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0035】
シーラー組成物中の(C)顔料の質量(c)と、(A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーおよび(B)エマルジョン樹脂液の合計塗膜形成成分質量(d)との質量比(c/d)は、好ましくは0.01以上0.60以下であり、より好ましくは0.02以上0.50以下であり、さらに好ましくは0.03以上0.40以下である。当該質量比(c/d)が上記数値範囲内であれば、耐凍結融解性および密着性により優れたシーラー塗膜を形成することができる。
【0036】
(その他の成分)
本発明による水系シーラー組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、上記成分の他にもその他の成分を含んでもよい。その他の成分として、水、増粘剤、分散剤、造膜助剤、消泡剤、pH調整剤、防汚剤、非反応性希釈剤、つや消し剤、沈降防止剤、レベリング剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、密着性向上剤、防腐剤、抗菌剤、防カビ剤、抗ウイルス剤、シランカップリング剤、可塑剤等を必要に応じて配合することができる。
【0037】
(水)
水としては、特に制限されず、水道水、イオン交換水等を用いてもよい。水は、例えば、(B)エマルジョン樹脂液に由来する水であってもよいが、水系シーラー組成物の調製をより容易にし、本組成物の粘度を調整し、塗装作業性および無機質基材への浸透性の向上等の観点から、シーラー組成物にはさらに水を配合することが好ましい。
【0038】
(造膜助剤)
造膜助剤としては、従来公知のアルコール類、グリコールエーテル類およびエステル類等が挙げられ、例えば、イソプロピルアルコール等の炭素数1~3のアルコール、2,2,4-トリメチルペンタンジオール、2,2,4-トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート(テキサノール)等のアルコール類;エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)等のグリコールエーテル類;2,2,4-トリメチルペンタンジオールジイソブチレート等のエステル類が挙げられる。造膜助剤は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0039】
水系シーラー組成物中の造膜助剤の含有量は、特に制限されないが、好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは0.3~5質量%である。
【0040】
<水系シーラー組成物の調製方法>
本発明による水系シーラー組成物は、上記の各成分を、従来公知の混合機、分散機、撹拌機等の装置を用いて、混合・撹拌することにより得られる。このような装置としては、たとえば混合・分散ミル、ホモディスパー、モルタルミキサー、ロール、ペイントシェーカー、ホモジナイザー等が挙げられる。本発明による水系シーラー組成物は、硬化剤である(A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマー以外の成分を十分に混合攪拌した後、最後に硬化剤である(A)乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマーを混合させ、水系シーラー組成物を調製することが好ましい。
【0041】
水系シーラー組成物は、塗装方法によっては、水希釈により粘度を調整することが好ましい。粘度は特に限定されるものではないが、例えば、岩田カップで6~30秒、好ましくは、7~20秒であることが望ましい。この範囲の粘度とすることにより、所望の塗布量に容易に調整することができる。
【0042】
<シーラー塗膜付き無機質基材>
本発明によるシーラー塗膜付き無機質基材は、無機質基材の少なくとも一部に上記の水系シーラー組成物から形成されたシーラー塗膜を備えるものである。本発明においては、シーラー塗膜付き無機質基材は、例えば、建築物の表面側(外壁側)または裏面側(住宅側)に用いることができる。シーラー塗膜付き無機質基材を用いることで、耐凍結融解性および密着性に優れた建材を提供することができる。
【0043】
建材としては、建築物の構造や仕上げに使用される部材をいう。例えば、窓、壁、天井、床、屋根、建具、壁紙等が挙げられる。特に、壁材(トップコート、バックシート)や床材等が好ましい。
【0044】
無機質基材は、通常用いられる無機質系の基材であれば特に限定されない。例えば、無機質系の基材としては、石綿セメント板、石綿パーライト板、珪酸カルシウム板、石綿セメント珪酸カルシウム板、石膏ボード、モルタルボード、パルプセメント板、木片セメント板、GRC(ガラス繊維強化セメント)ボード、CFRC(カーボン繊維強化セメント)ボード、SFRC(スチール繊維強化セメント)ボード、ロックウール無機質成形体等が挙げられる。
【0045】
無機質基材の密度(比重)は、特に限定されるものではないが、例えば、0.9~1.25g/cmが好ましく、0.95~1.2g/cmがより好ましい。無機質基材の密度は、アルキメデス法により測定することができる。
【0046】
無機質基材の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば、0.1~30mmが好ましく、1~20mmがより好ましい。
【0047】
<シーラー塗膜付き無機質基材の製造方法>
本発明によるシーラー塗膜付き無機質基材は、上記の水系シーラー組成物を無機質基材の少なくとも一部に塗装する工程(塗装工程)と、塗装工程で形成された塗膜を乾燥して、硬化させて、シーラー塗膜を形成する工程(硬化工程)とを含むものである。
【0048】
(塗装工程)
塗装工程は、無機質基材の少なくとも片面に、従来公知の方法により、上記の水系シーラー組成物を塗装する工程である。塗装には、例えば、スポンジロールコーター、ナチュラルロールコーター、リバースロールコーター、カーテンフローコーター、ナイフコーター、ダイコーター、エアースプレー、エアレススプレー、ローラー、刷毛塗り、浸漬などが挙げられ、適宜選択することができる。中でも、スプレーやフローコーター、スポンジロールコーターを用いると、基材への塗布量を多くすることができ、耐凍結融解性および密着性等の塗膜性能が向上するため好ましい。
【0049】
上記の水系シーラー組成物の塗布量は、好ましくは10~300g/mであり、より好ましくは、20~200g/mである。塗布量が上記下限値以上であれば、上記シーラー塗膜と基材(建材)との密着性が向上し、上記上限値以下であれば、上記シーラー塗膜の乾燥性に優れ、作業性が向上する。また、水系シーラー組成物を複数回塗り重ねてもよい。
【0050】
塗装膜厚は、硬化乾燥後の膜厚として、0.5~150μmであることが好ましい。乾燥性、硬化性の観点からより好ましい上限は100μmであり、耐凍結融解性および密着性の観点からより好ましい下限は5μmである。
【0051】
(硬化工程)
硬化工程は、建材の塗装面を乾燥して、塗装された水系シーラー組成物を硬化させて、シーラー塗膜を形成する工程である。乾燥方法としては、例えば熱風乾燥(ドライヤー等)が挙げられる。乾燥温度は、好ましくは10~200℃、塗膜の平滑性および外観の観点から更に好ましい上限は150℃、乾燥速度の観点からより好ましい下限は30℃である。
【0052】
<硬化塗膜付き無機質基材>
本発明による硬化塗膜付き無機質基材は、上記のシーラー塗膜付き無機質基材のシーラー塗膜面上に、硬化塗膜をさらに備えるものである。硬化塗膜は、従来公知の下塗り塗料および/または上塗り塗料等を用いて形成することができる。
【0053】
<硬化塗膜付き無機質基材の製造方法>
本発明による硬化塗膜付き基材の製造方法は、上記のシーラー塗膜付き無機質基材のシーラー塗膜面上に下塗り塗料および/または上塗り塗料等を塗装し、硬化させて、硬化塗膜を形成する工程を含むものである。
【実施例0054】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1~3、比較例1]
<水系シーラー組成物の調製>
まず、水系シーラー組成物の調製のために、以下の原材料を準備した。
・乳化性親水基含有イソシアネートプレポリマー(HDIイソシアヌレート、大竹明新化学株式会社製、商品名:WIC105)
・エマルジョン樹脂液(アクリル樹脂エマルジョン、アイカ工業株式会社製、商品名:ウルトラゾールN-80)
・顔料1(体質顔料、炭酸カルシウム、丸尾カルシウム株式会社製、商品名:タンカルスーパーSS)
・顔料2(着色顔料、二酸化チタン、堺化学工業株式会社製、商品名:チタン白R―5N)
・顔料3(着色顔料、カーボンブラック分散液、大日精化工業株式会社製、商品名:MF5630)
・pH調整剤(Wacker Chemicals Co.,Ltd.社製、商品名:BS198)
・増粘剤(ヒドロキシエチルセルロース、ダイセル化学工業株式会社製、商品名:HECダイセル)
・防腐剤(イソチアゾリン系化合物、ソー・ジャパン株式会社製、商品名:アクチサイドMB)
・分散剤(疎水性ポリカルボン酸共重合物、サンノプコ株式会社製、商品名:SN5040)
・造膜助剤1(テキサノール、(JNC株式会社)株式会社製、商品名:CS-12)
・造膜助剤2(エチレングリコールモノブチルエーテル、(三協化学)株式会社製、商品名:ブチルセロソルブ)
・造膜助剤3(日本乳化剤株式会社製、商品名:BFDG)
・消泡剤(鉱物油, ポリエーテル系化合物、サンノプコ株式会社製、商品名:SN154)
【0056】
次に、表1に記載の配合に従って、(A)成分以外の各成分を、ホモディスパーを用いて十分に混合・撹拌した。その後、(A)成分をさらに加え、ホモディスパーを用いて混合・撹拌して、水系シーラー組成物を得た。主剤成分100部に対し、12.5倍の重量で水希釈して、水系シーラー組成物の水溶液を得た。
【0057】
【表1】
【0058】
<シーラー塗膜付き無機質基材の製造例1>
無機質基材として無機質建材板(基材密度(アルキメデス法):1.0g/cm)を用意し、熱風乾燥機によって板面温度を35℃にプレヒートした。該基材の表面に、実施例1の水系シーラー組成物の水溶液を、エアスプレーによって80g/mの量で塗布し、熱風乾燥機によって、100℃で10分間乾燥させて、シーラー塗膜付き無機質基材1-1を得た。
【0059】
続いて、シーラー塗膜付き無機質基材1-1のシーラー塗膜上に、上塗塗料(アクリル樹脂エマルジョン塗料、製品名:CMP上塗エナメル、中国塗料(株)製)を、100質量部に対して水20質量部で希釈したものを、エアスプレーによって100g/mの量で塗布し、熱風乾燥機によって100℃で10分間乾燥させて、硬化塗膜付き無機質基材1-2を得た。
【0060】
次に、硬化塗膜付き無機質基材1-2の塗膜上に、上塗塗料(アクリル樹脂エマルジョン塗料、製品名:CMP上塗エナメル、中国塗料(株)製)を、100質量部に対して水20質量部で希釈したものを、エアスプレーによって100g/mの量で塗布し、熱風乾燥機によって100℃で10分間乾燥させて、硬化塗膜付き無機質基材1-3を得た。
【0061】
<シーラー塗膜付き無機質基材の製造例2>
実施例1の水系シーラー組成物の水溶液を実施例2の水系シーラー組成物の水溶液に変更した以外は、製造例1と同様にして、硬化塗膜付き無機質基材2-3を得た。
【0062】
<シーラー塗膜付き無機質基材の製造例3>
無機質基材として無機質建材板(基材密度(アルキメデス法):1.1g/cm)を用意し、熱風乾燥機によって板面温度を35℃にプレヒートした。該基材の表面に、実施例1の水系シーラー組成物の水溶液を、エアスプレーによって70g/mの量で塗布し、熱風乾燥機によって、100℃で10分間乾燥させて、シーラー塗膜付き無機質基材3-1を得た。
【0063】
続いて、シーラー塗膜付き無機質基材3-1のシーラー塗膜上に、下塗塗料(アクリル樹脂エマルジョン塗料、製品名:CMP下塗エナメル、中国塗料(株)製)を、100質量部に対して水100質量部で希釈したものを、エアスプレーによって65g/mの量で塗布し、熱風乾燥機によって100℃で10分間乾燥させて、硬化塗膜付き無機質基材3-2を得た。
【0064】
次に、硬化塗膜付き無機質基材3-2の塗膜上に、上塗塗料(アクリル樹脂エマルジョン塗料、製品名:CMP上塗エナメル、中国塗料(株)製)を、100質量部に対して水20質量部で希釈したものを、エアスプレーによって100g/mの量で塗布し、熱風乾燥機によって100℃で10分間乾燥させて、硬化塗膜付き無機質基材3-3を得た。
【0065】
<シーラー塗膜付き無機質基材の製造例4>
実施例1の水系シーラー組成物の水溶液を実施例2の水系シーラー組成物の水溶液に変更した以外は、製造例3と同様にして、硬化塗膜付き無機質基材4-3を得た。
【0066】
<シーラー塗膜付き無機質基材の製造例5>
実施例1の水系シーラー組成物の水溶液を実施例3の水系シーラー組成物の水溶液に変更した以外は、製造例3と同様にして、硬化塗膜付き無機質基材5-3を得た。
【0067】
<シーラー塗膜付き無機質基材の製造例6>
実施例1の水系シーラー組成物の水溶液を比較例1の水系シーラー組成物の水溶液に変更した以外は、製造例3と同様にして、硬化塗膜付き無機質基材6-3を得た。
【0068】
<塗膜付き無機質基材の評価>
上記の製造例1~6で製造した各硬化塗膜付き無機質基材について、下記の評価試験を行った。評価結果を表2に示した。
【0069】
[塗膜の密着性評価]
硬化塗膜の無機建材への密着性を評価するため、JIS A5422:2008を参考に、密着性試験を行った。具体的には、試験片の硬化塗膜上に50mm幅の布粘着テープLS(ニチバン(株)製、以下、「テープ」という)を、接着部分の長さが約50mmになるように貼りつけた後、JIS A 6050に規定されたプラスチック字消しでこすり、効果塗膜にテープを充分に付着させた。その後、1~2分経過後にテープを剥離させ、剥離した硬化塗膜の面積を求め、以下の評価基準により密着性の評価を行った。評価結果がAまたはBであるものを合格とした。
<評価基準(初期密着性)>
・A:剥離面積が0.5%未満であった。
・B:剥離面積が0.5%以上1.0%未満であった。
・C:剥離面積が1.0%以上であった。
【0070】
[耐凍結融解性評価]
硬化塗膜の耐凍結融解性を評価するため、JIS A1435を参考にして、耐凍結融解試験を行った。具体的には、試験片を-20℃の空気中で2時間冷却した後、20℃の水中で2時間浸漬する操作を1サイクルとし、100サイクル後、200サイクル後および300サイクル後の時点において、以下の評価基準により硬化塗膜外観の目視評価を行った。また、100サイクル後、200サイクル後および300サイクル後の試験片に対して上記と同様の密着性試験を行って、以下の評価基準により耐凍結融解性試験後の密着性を評価した。評価結果がAまたはBであるものを合格とした。
<評価基準(外観/目視)>
・A:剥離、ワレ、フクレが無く、良好であった。
・B:剥離、ワレ、フクレが僅かにあったが、概ね良好であった。
・C:剥離、ワレ、フクレが多く、不良であった。
<評価基準(耐凍結融解試験後の密着性)>
・A:剥離面積が3%未満であった。
・B:剥離面積が3%以上5%未満であった。
・C:剥離面積が5%以上であった。
【0071】
【表2】