(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180272
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材料、それを用いたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池、並びにリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20231214BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
C01B33/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093405
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慶介
(72)【発明者】
【氏名】岩本 和樹
【テーマコード(参考)】
4G072
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA02
4G072BB05
4G072BB15
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH01
4G072JJ13
4G072JJ18
4G072JJ30
4G072JJ50
4G072LL07
4G072LL11
4G072LL15
4G072MM01
4G072MM24
4G072RR01
4G072RR07
4G072RR12
4G072UU30
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CB11
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA13
5H050GA14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】充電容量が大きく、サイクル特性の良好なシリコン系のリチウムイオン二次電池用負極を提供すること。
【解決手段】表面孔を複数備えたシリコン微粒子からなり、このシリコン微粒子が、第13属又は第15属元素をドーパントとして含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料を用いればよい。これは、フッ化水素酸及び遷移金属イオンを含む溶液にシリコン微粒子を浸漬する第一エッチング工程と、この第一エッチング工程を経た混合液に酸化剤を添加してこれらを混合しながら反応させる第二エッチング工程と、この第二エッチング工程を経たシリコン微粒子を酸処理することで、このシリコン微粒子から上記遷移金属粒子を除去する酸処理工程と、この酸処理工程を経たシリコン微粒子を、ドーパントとなる元素からなる単体又はその元素を含む化合物を接触させた状態で熱処理を行うドーピング工程により調製される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面孔を複数備えたシリコン微粒子からなり、前記シリコン微粒子が、第13属又は第15属元素をドーパントとして含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項2】
前記ドーパントが第15属元素であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項3】
前記ドーパントがリンである請求項2記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
請求項4記載のリチウムイオン二次電池用負極を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
フッ化水素酸及び遷移金属イオンを含む溶液にシリコン微粒子を浸漬することで、前記シリコン微粒子の表面に遷移金属粒子を析出させるとともに、当該析出に伴って、前記遷移金属粒子との接触部が酸化された前記シリコン微粒子の表面をフッ化水素酸でエッチングする第一エッチング工程と、
前記第一エッチング工程を経た混合液に酸化剤を添加してこれらを混合しながら反応させる第二エッチング工程と、
前記第二エッチング工程を経たシリコン微粒子を酸処理することで、このシリコン微粒子から前記遷移金属粒子を除去する酸処理工程と、
前記酸処理工程を経たシリコン微粒子を、ドーパントとなる元素からなる単体又はその元素を含む化合物を接触させた状態で熱処理を行うドーピング工程と、を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電極用負極材料の製造方法。
【請求項7】
前記第一エッチング工程で用いるシリコン微粒子が、炭素系有機物を含有するシリコンスラッジを由来とするものであり、このシリコンスラッジを熱処理することで前記シリコンスラッジに含まれていた炭素系有機物をグラファイト化した上で、前記第一エッチング工程に供されることを特徴とする請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記ドーパントとなる元素が第15属元素であることを特徴とする請求項6記載の製造方法。
【請求項9】
前記元素がリンであることを特徴とする請求項8記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材料、それを用いたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池、並びにリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モバイル電子機器等の民生用バッテリー、電気自動車、電気バス、無人航空機(ドローン)等の輸送機関用バッテリー、大規模エネルギー貯蔵システム等の大型バッテリーといった広範囲にわたるエネルギー需要への対応という観点から、リチウムイオン二次電池が注目されて久しい。リチウムイオン二次電池の開発においては、さらなる大容量化や高エネルギー密度化を実現すべく、それを構成する電極材料や電解液についての検討が活発に行われている。このような検討の一つとして、シリコン粒子を用いた負極材料の探索が挙げられる。シリコン系の材料で構成された負極材料は、4200mAhg-1の理論容量密度を備えるとされ、これは現在最も使用されている黒鉛負極の理論容量密度(372mAhg-1)の11倍以上となる。このようなことから、シリコンは、リチウムイオン二次電池の大容量化を実現することのできる負極材料の一つとして有望視されてきた。
【0003】
しかしながら、シリコン系の材料で構成された負極材料には技術的な課題も存在する。リチウムイオン二次電池の負極に含まれるシリコンは、充電時にはリチウムイオンを取り込んでLi4Siで表すリチウムシリコン合金となり、放電時にはリチウムイオンを放出してシリコンに戻る。この過程でシリコンは、300%以上もの体積変化を生じるとされ、この大きな体積変化を生じる際にシリコンを含む負極には亀裂や破壊を生じることになり、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が大きく損なわれることになる。
【0004】
このような問題を解決するために、多孔性のシリコン粒子を負極材料として用いることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。負極に含まれるシリコン粒子が多孔性であることにより、シリコン粒子へのリチウムイオンの取り込みに伴う体積の増加は、シリコン粒子に設けられた孔が埋まる形で吸収される一方で、リチウムイオンの放出に伴う体積の減少は、埋まった孔の再生という形で補填される。その結果、負極全体としての体積変化が抑制されて、負極における亀裂や破壊が抑制されるので、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が大きく損なわれるのを抑制できることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、リチウムイオン二次電池の負極表面には、通常、電解液の還元分解生成物である保護皮膜層(SEI;solid electorolyte interface)が形成されている。これは、リチウムイオン二次電池の初期充電時に形成されるものであり、電気絶縁性を示すSEIが負極表面に存在することにより、電解液のさらなる分解が抑制される。一方で、上記のように、負極が体積変化により亀裂を生じると、SEIに覆われていない新たなシリコン粒子が電解液に曝されることになるため、充電された際にその表面にSEI層が形成される。この亀裂形成とSEI層形成が繰り返されることにより、シリコン粒子とシリコン粒子の間に電気絶縁性のSEI層が入り込むことになり、これら粒子間の電気伝導性が低下する。すると、負極におけるリチウムイオンの取り込みや放出の程度が低下し、二次電池の容量低下や電流低下といった性能低下につながることになる。
【0007】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、充電容量が大きく、サイクル特性の良好なシリコン系のリチウムイオン二次電池用負極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、不純物のドープされた多孔質のシリコン微粒子を負極活物質として用いることにより、上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1)本発明は、表面孔を複数備えたシリコン微粒子からなり、このシリコン微粒子が、第13属又は第15属元素をドーパントとして含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料である。
【0010】
(2)また本発明は、上記ドーパントが第15属元素であることを特徴とする(1)項記載のリチウムイオン二次電池用負極材料である。
【0011】
(3)また本発明は、上記ドーパントがリンである(2)項記載のリチウムイオン二次電池用負極材料である。
【0012】
(4)本発明は、(1)項~(3)項のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極でもある。
【0013】
(5)本発明は、(4)項記載のリチウムイオン二次電池用負極を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池でもある。
【0014】
(6)本発明は、フッ化水素酸及び遷移金属イオンを含む溶液にシリコン微粒子を浸漬することで、このシリコン微粒子の表面に遷移金属粒子を析出させるとともに、当該析出に伴って、上記遷移金属粒子との接触部が酸化された上記シリコン微粒子の表面をフッ化水素酸でエッチングする第一エッチング工程と、この第一エッチング工程を経た混合液に酸化剤を添加してこれらを混合しながら反応させる第二エッチング工程と、この第二エッチング工程を経たシリコン微粒子を酸処理することで、このシリコン微粒子から上記遷移金属粒子を除去する酸処理工程と、この酸処理工程を経たシリコン微粒子を、ドーパントとなる元素からなる単体又はその元素を含む化合物を接触させた状態で熱処理を行うドーピング工程と、を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電極用負極材料の製造方法でもある。
【0015】
(7)本発明は、上記第一エッチング工程で用いるシリコン微粒子が、炭素系有機物を含有するシリコンスラッジを由来とするものであり、このシリコンスラッジを熱処理することで上記シリコンスラッジに含まれていた炭素系有機物をグラファイト化した上で、上記第一エッチング工程に供されることを特徴とする(6)項記載の製造方法である。
【0016】
(8)本発明は、上記ドーパントとなる元素が第15属元素であることを特徴とする(6)項又は(7)項記載の製造方法である。
【0017】
(9)本発明は、上記元素がリンであることを特徴とする(8)項記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、充電容量が大きく、サイクル特性の良好なシリコン系のリチウムイオン二次電池用負極が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、熱処理シリコン粒子、多孔化シリコン粒子及びリンドープ多孔化シリコン粒子の走査電子顕微鏡画像であり、(a)が熱処理シリコン粒子であり、(b)が多孔化シリコン粒子であり、(c)がリンドープ多孔化シリコン粒子である。
【
図2】
図2は、熱処理シリコン粒子(SiSPs)、多孔化シリコン粒子(SiNPPs)及びリンドープ多孔化シリコン粒子(P-SiNPPs)の負極特性をそれぞれ示すプロットであり、(a)が各負極における容量のプロットであり、(b)が熱処理シリコン粒子を負極としたときのサイクル特性を示すプロットであり、(c)が多孔化シリコン粒子を負極としたときのサイクル特性を示すプロットであり、(d)がリンドープ多孔化シリコン粒子を負極としたときのサイクル特性を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料の一実施形態、リチウムイオン二次電池負極の一実施形態、リチウムイオン二次電池の一実施形態、及びリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法の一実施態様について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態や実施態様に限定されるものでなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0021】
<リチウムイオン二次電池用負極材料>
まずは、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料の一実施形態について説明する。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料(以下、単に負極材料とも呼ぶ。)は、表面孔を複数備えたシリコン微粒子からなり、このシリコン微粒子が、第13属又は第15属元素をドーパントとして含むことを特徴とする。本発明の負極材料が、このような表面孔を複数備えることにより、充放電の際の負極における体積変化がこれら表面孔の存在により吸収され、これを二次電池用負極材料として用いたときの負極におけるクラックの発生が抑制される。また、本発明の負極材料が、上記のようなドーパントを含むことにより、負極内部にSEI層が侵入した場合であっても二次電池の容量低下や電流低下といった性能低下を抑制することができる。
【0022】
本発明の負極材料を構成するシリコン微粒子は、およそ50~2000nmの径を備えたものであり、いわゆるナノ粒子からミクロ粒子の領域に属する。この径としては、50~1000nmが好ましく挙げられる。
【0023】
また、このシリコン微粒子は表面孔を複数備える。この表面孔の径としては、10~100nmが好ましく挙げられ、10~80nmがより好ましく挙げられ、10~70nmがさらに好ましく挙げられる。また、このシリコンナノ粒子における多孔度としては、30~60%程度を好ましく挙げられ、30~50%程度をより好ましく挙げられる。なお、多孔度とは、例えばBET窒素吸着と密度分析とから求めることができるパラメータであり、多孔質物質の空洞部分が総体積に対して占める割合を示すものである。負極材料であるシリコン微粒子がこのような表面孔を備えることにより、これを含む負極において、充放電に伴う体積変化によるクラックの発生が抑制され、二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0024】
本発明の負極材料を構成するシリコン微粒子は、第13属又は第15属元素をドーパントとして含む。これにより、シリコン微粒子の導電性が向上し、シリコン系負極材料を用いた際にしばしば問題となっていたサイクル特性が改善される。第13属元素としては、ホウ素等が挙げられる。また、第15属元素としてはリン、ヒ素等が挙げられる。これらの中でもリンが好ましく挙げられる。
【0025】
シリコン微粒子中におけるドーパント濃度としては、0.01atom%~3atom%が好ましく挙げられ、0.05atom%~1atom%がより好ましく挙げられ、0.05atom%~0.3atom%がさらに好ましく挙げられる。
【0026】
<リチウムイオン二次電池用負極>
次に、本発明のリチウムイオン二次電池用負極の一実施形態について説明する。本発明のリチウムイオン二次電池用負極(以下、本発明の負極とも呼ぶ。)は、上記本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料を負極活物質として含む。このため、本発明の負極によれば、クラックの発生や負極内へのSEI侵入による容量低下が抑制される。以下、負極において負極活物質を含む層のことを負極活物質層と呼ぶ。
【0027】
負極活物質層は、上記本発明の負極材料に加え、バインダー(結着剤)、導電補助剤等を含んでもよい。また、負極活物質層は、これまで負極活物質層を構成する成分として用いられてきた各種の成分を任意に含んでもよい。
【0028】
バインダーとしては、公知のものを特に制限無く挙げることができる。このようなバインダーとしては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0029】
負極活物質層におけるバインダーの含有量は、5質量%~30質量%程度が好ましく挙げられ、5質量%~20質量%程度がより好ましく挙げられる。バインダーの含有量を上記の範囲とすることで、微粒子である上記負極材料を安定して保持することができる。
【0030】
導電補助剤としては、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛化炭素、非黒鉛化炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛化炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電補助剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電補助剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。負極活物質層において導電剤を使用する場合、負極活物質層に占める導電剤の割合は、15質量%以下が好ましく挙げられ、10質量%以下がより好ましく挙げられる。
【0031】
<リチウムイオン二次電池>
次に、本発明のリチウムイオン二次電池の一実施形態について説明する。本発明のリチウムイオン二次電池は、上記本発明のリチウムイオン二次電池用負極を負極として備えることを特徴とする。
【0032】
既に述べたように、本発明のリチウムイオン二次電池用負極によれば、クラックの発生や負極内へのSEI侵入による容量低下が抑制される。したがって、本発明のリチウムイオン二次電池は、良好なサイクル特性を示すものとなる。
【0033】
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を負極として用いることを除いて、公知の一般的な構成であってよい。そのため、これらの事項についてのここでの説明を省略する。
【0034】
<リチウムイオン二次電極用負極材料の製造方法>
上記本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法もまた、本発明の一つである。次に、本発明の製造方法の一実施態様について説明する。本発明の製造方法は、フッ化水素酸及び遷移金属イオンを含む溶液にシリコン微粒子を浸漬することで、このシリコン微粒子の表面に遷移金属粒子を析出させるとともに、当該析出に伴って、上記遷移金属粒子との接触部が酸化された上記シリコン微粒子の表面をフッ化水素酸でエッチングする第一エッチング工程と、この第一エッチング工程を経た混合液に酸化剤を添加してこれらを混合しながら反応させる第二エッチング工程と、この第二エッチング工程を経たシリコン微粒子を酸処理することで、このシリコン微粒子から上記遷移金属粒子を除去する酸処理工程と、この酸処理工程を経たシリコン微粒子を、ドーパントとなる元素からなる単体又はその元素を含む化合物を接触させた状態で熱処理を行うドーピング工程と、を含むことを特徴とする。
【0035】
本発明の製造方法では、金属支援化学エッチング法を用いることにより、まず、シリコン微粒子に対して表面多孔化処理を行う。金属支援化学エッチング法では、エッチング液中に遷移金属イオンとフッ化水素酸とを共存させてシリコン微粒子をエッチングすることで、次のような過程を経て表面孔をシリコン微粒子表面に形成させる。
【0036】
まず、遷移金属イオン及びフッ化水素酸を含む溶液中にシリコン微粒子を浸漬させると、フッ化水素酸がシリコン微粒子の表面を覆う酸化膜(SiO2)を溶解し、これを除去する。それにより、シリコン微粒子の表面にはシリコン(Si)が露出し、このシリコンが溶液中の遷移金属イオンと接触する。すると、シリコンに含まれる電子が遷移金属イオンへ受け渡され、遷移金属イオンはその場で遷移金属の粒子核となってシリコン表面に付着する一方で、遷移金属の粒子核とシリコンとの接触部では、シリコンが電子を失って局所酸化されることになる。局所酸化されたシリコンは、溶液中に含まれるフッ化水素酸により除去され、その後、その箇所にてさらに遷移金属イオンによる酸化を受けて、遷移金属の粒子核が成長する。この反応が繰り返されることにより、シリコン表面にて遷移金属粒子がシリコン表面を掘り進むかのようにシリコン微粒子の内部へ挿入されて行き、その箇所に孔が形成される。こうした反応がシリコン微粒子表面の各所で生じることにより、シリコン微粒子表面には複数の表面孔が形成される。こうして表面孔の形成されたシリコン微粒子は、ドーピング工程によりドーパントとなる元素がドープされることで、本発明の負極材料となる。
【0037】
本発明の製造方法では、原料となるシリコン微粒子としてシリコンスラッジを用いることもできる。このシリコンスラッジには絶縁性の炭素系有機物が含まれるので、これを熱処理によりグラファイト化するアニール工程を行った上で、処理後のシリコンスラッジを本発明の製造方法に供することが望ましい。また、本発明の製造方法を実行するにあたり、原料となるシリコン微粒子を解砕する解砕工程を上記の第一エッチング工程の前に行うことが好ましい。この解砕工程は任意工程となる。以下、各工程について説明する。
【0038】
[アニール工程]
アニール工程は、シリコン微粒子に含まれる炭素系有機物を熱処理によりグラファイト化する工程である。上記の通り、本製造方法における原料シリコン微粒子としてシリコンスラッジを用いる場合、シリコンスラッジに含まれる絶縁性の炭素系有機物が存在したままでは、負極材料としての性能低下を来すおそれがある。そこで、上記の微細化や表面多孔化処理を行う前に、シリコンスラッジに含まれる絶縁性の炭素材料をグラファイト化して導電性を付与する必要がある。本工程は、このような処理を行う工程である。なお、本発明の製造方法における原料として絶縁性の炭素系有機物を含まないものを用いる場合には、本工程を実行する必要はない。
【0039】
原料となるシリコンスラッジとしては、例えば、シリコンインゴットからシリコンウェーハを切り出す際に大量に生じるものを好ましく挙げることができる。このシリコンスラッジに含まれるシリコン微粒子は、フォーナインと呼ばれる、99.99%以上の純度を有するものでありながら、産業廃棄物として扱われる。本発明によれば、このような産業廃棄物であるシリコンスラッジを有効活用することができる。
【0040】
シリコンスラッジの熱処理条件としては、不活性ガス雰囲気下で、シリコンスラッジを500~1000℃の温度で30~180分間程度加熱することを挙げられる。不活性ガスとしては、アルゴンガスを好ましく例示できるが、シリコンとの反応活性のないものであれば特に限定されない。
【0041】
熱処理を経たシリコンスラッジは、スラッジを構成するシリコン微粒子の表面に存在する不純物を除去するために洗浄処理される。洗浄処理は、アセトンやエタノールのような水溶性の有機溶媒で十分に洗浄を行った後、110℃に温めたピラニア溶液(濃硫酸:過酸化水素の体積比3:1の混合液)中で60分程度洗浄し、さらに、脱イオン水で十分に洗浄を行うことを例示できる。
【0042】
アニール工程を経たシリコンスラッジ、すなわちシリコン微粒子は、必要に応じて解砕工程に付されるか、そのまま第一エッチング工程に付される。
【0043】
[解砕工程]
解砕工程は、原料となるシリコン微粒子を水中へ分散させ、この混合液に適切な外力を作用させて混合液中のシリコン微粒子を解砕させる工程である。特に、凝集したシリコン微粒子を多量に含む市販のシリコン粉末を原料として用いる場合には、本工程を行うことが望ましい。このような外力を供給する装置としては、一般的な撹拌装置の他、市販の超音波ホモジナイザーを好ましく挙げることができる。
【0044】
超音波ホモジナイザーによる処理を行う場合、シリコン微粒子を水に分散させて適当な容器に収容し、市販の超音波ホモジナイザー装置の破砕ホーンを分散液に接触させて解砕を行えばよい。超音波ホモジナイザーによる解砕条件としては、発振周波数20kHz、出力400W、最大振幅30%、発振時間(ON/OFF)10秒/5秒、処理時間5分程度を挙げることができるが、これらの条件は適宜設定すればよい。
【0045】
なお、上記分散液においては、水に代えて又は水とともに、アルコール等の親水溶媒を用いてもよい。また、シリコン粉末としては、既に説明したように、市販のものを用いることができる。
【0046】
こうした解砕工程を経ることにより、凝集したシリコン微粒子が解砕される。シリコン微粒子を含む混合液は、第一エッチング工程に付される。
【0047】
[第一エッチング工程]
第一エッチング工程は、フッ化水素酸及び遷移金属イオンを含む溶液にシリコン微粒子を浸漬することで、上記シリコン微粒子の表面に遷移金属粒子を析出させるとともに、当該析出に伴って、上記遷移金属粒子との接触部が酸化された上記シリコン微粒子の表面をフッ化水素酸でエッチングする工程である。
【0048】
本実施態様では、上記解砕工程を経た混合液にフッ化水素酸及び遷移金属イオンを添加することで、上記「フッ化水素酸及び遷移金属イオンを含む溶液にシリコン微粒子を浸漬」した状態となる。上記解砕工程を行わない場合には、適切な量の水にシリコン微粒子を加えて混合液とし、この混合液へフッ化水素酸及び遷移金属イオンを添加すればよい。この場合の混合液の量としては、シリコン微粒子1gあたり150mL程度を挙げることができる。なお、フッ化水素酸及び遷移金属イオンの添加順序は、いずれが先でもよく、特に限定されない。
【0049】
上記遷移金属としては、銅、銀、金、鉄等が挙げられ、これらの中でも銀が好ましく挙げられる。これらの遷移金属は、遷移金属塩の状態で混合液中へ添加され、遷移金属イオンとなる。このような遷移金属塩としては、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等が挙げられ、これらの中でも硝酸塩が好ましく挙げられる。
【0050】
混合中における遷移金属イオンの濃度としては、0.7mmol/L~30mmol/Lが好ましく挙げられ、5mmol/L~25mmol/Lがより好ましく挙げられ、20mmol/L程度を最も好ましく挙げられる。
【0051】
混合中におけるフッ化水素酸の濃度としては、2mol/L~4mol/L程度が好ましく挙げられ、3mol/L程度がより好ましく挙げられる。
【0052】
遷移金属イオン及びフッ化水素酸が添加された混合液は、室温(15℃~30℃程度)にて適宜撹拌されることによりエッチング反応が進行する。撹拌時間としては概ね1分間程度を例示できるが、特に限定されない。得られた混合液は、第二エッチング工程に付される。
【0053】
[第二エッチング工程]
第二エッチング工程は、上記第一エッチング工程を経た混合液に酸化剤を添加してこれらを混合しながら反応させる工程である。第一エッチング工程にて、遷移金属イオンとシリコン微粒子との間での電子のやり取りによりシリコン微粒子が局所的に酸化され、次いで酸化されたシリコンがフッ化水素酸で溶解されることで局所的なエッチングが生じることは既に述べた通りである。しかしながら、遷移金属粒子がシリコン微粒子の表面で生成されるに連れて電子の供給が徐々に飽和するため、シリコン微粒子の局所エッチングが生じにくくなり、多孔化や微細突起化に必要な細孔深度を大きくすることができなくなる。そこで、第二エッチング工程では、酸化剤を混合液へ追加で添加する。これにより、遷移金属粒子内の電子が過酸化水素により奪われ、シリコン微粒子内部の深さ方向への局所エッチングが促進される。
【0054】
酸化剤としては、特に限定されないが、過酸化水素が好ましく挙げられる。酸化剤として過酸化水素を用いる場合、混合液中における過酸化水素の濃度としては、0.03mol/L~0.09mol/L程度が好ましく挙げられ、0.06mol/L程度がより好ましく挙げられる。
【0055】
過酸化水素水の添加された混合液は、約50℃程度に加温された状態にて撹拌される。この間、シリコン微粒子の表面ではエッチングにより、表面孔が形成されることになる。このときの反応時間としては、10~90分間程度が好ましく挙げられ、30~60分間程度がより好ましく挙げられる。
【0056】
上記の反応後、混合液へ水を適量添加することでフッ化水素酸や過酸化水素の濃度を低下させ、エッチング反応を停止させる。その後、混合液に含まれるシリコン微粒子は、酸処理工程に付される。
【0057】
[酸処理工程]
酸処理工程は、上記第二エッチング工程を経たシリコン微粒子を酸処理することで、このシリコン微粒子から遷移金属粒子を除去する工程である。
【0058】
本工程において、上記第二エッチング工程を経たシリコン微粒子は、酸処理を受け、遷移金属粒子が除去される。具体的には、混合液中に含まれるシリコン微粒子は、混合液のまま又は混合液から濾別された状態で酸水溶液中に投入されて浸漬される。これにより、遷移金属粒子がシリコン微粒子から酸水溶液へと移行する。このときに用いられる酸水溶液としては濃硝酸が好ましく挙げられ、また、そのときの処理方法としては濾取したシリコン微粒子を20分間程度酸水溶液に浸漬させることが挙げられる。
【0059】
本工程において酸処理を受けたシリコン微粒子の表面には、複数の表面孔が形成されている。このシリコン微粒子は、ドーピング工程に付される。
【0060】
[ドーピング工程]
ドーピング工程は、酸処理工程を経たシリコン微粒子を、ドーパントとなる元素からなる単体又はその元素を含む化合物を接触させた状態で熱処理を行う工程である。
【0061】
ドーパントとなる元素としては、第13属又は第15属元素を挙げることができる。これらの元素としては、リン、ホウ素、ヒ素等が挙げられ、これらの中でもリンが好ましく挙げられる。
【0062】
これらの元素は、その元素の単体又はその元素を含む化合物として用いられる。これらの元素を含む化合物としては、半導体産業用のドーピング材料として各種のものが市販されているので、そうしたものを用いることができる。例えば、ドーパントとしてリンを選択する場合、赤リン、ホスフィン(PH3)等の他、市販品である東京応化工業株式会社製のP-59210等を好ましく用いることができる。
【0063】
シリコン微粒子は、これらドーパントとなる元素からなる単体又はその元素を含む化合物と接触した状態で熱処理される。その際、これらを均一に混合させた状態で熱処理することが好ましい。ドーパントとなる元素からなる単体又はその元素を含む化合物の使用量としては、最終的に得られるシリコン微粒子中におけるドーパント濃度が、0.01atom%~3atom%となる量にするのが好ましく、0.05atom%~1atom%となる量にするのがより好ましく、0.05atom%~0.3atom%になる量にするのがさらに好ましく挙げられる。
【0064】
熱処理条件としては、不活性ガス雰囲気下で、これら混合物を1100℃程度の温度で30~120分間程度加熱することを挙げることができる。不活性ガスとしては、アルゴンガスを好ましく例示できるが、シリコンとの反応活性のないものであれば特に限定されない。
【0065】
熱処理を行った後、シリコン微粒子の表面に付着したドーピング源の残留物を除去するために、フッ化水素酸水溶液で洗浄し、さらに脱イオン水で洗浄する。これらの工程を経ることで得たシリコン微粒子が、本発明の負極材料となる。
【実施例0066】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0067】
約530nmの平均直径を有する、産業廃棄物のシリコンスラッジ(日本NER株式会社より入手)を原料として、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料の調製を行った。まず、シリコンスラッジをアルゴン雰囲気中にて600℃で30分間熱処理し、シリコンスラッジに含まれる絶縁性の炭素系有機物をグラファイト化させることで、熱処理シリコン粒子を得た。
【0068】
1gの熱処理シリコン粒子を、アセトン中、次いでエタノール中で10分間ずつ超音波ホモジナイザー処理を行うことで洗浄した。さらに、このシリコン粒子を110℃に加温した濃硫酸と過酸化水素の3:1(v/v)混合液であるピラニア溶液で60分間洗浄し、次いで脱イオン水で洗浄した。
【0069】
次いで、金属支援化学エッチング法により、次の手順でシリコン粒子の多孔化を行った。まず、上記の洗浄を終えたシリコン粒子1gを脱イオン水に加え、これらを超音波ホモジナイザーで5分間処理することで、シリコン粒子を脱イオン水内に一様に分散させた。その後、この分散液に3.0Mフッ化水素酸と0.02M硝酸銀からなるエッチング液を加え、スターラーを用いて50rpmで1分間撹拌することで、シリコン粒子の表面に銀ナノ粒子を析出させた。このときの反応溶液の量は150mLとした。フッ化水素酸を含むこの分散液に、0.06M過酸化水素を加えて50℃に加温しながら50rpmの撹拌速度で60分間反応させることで、シリコン粒子の多孔化を行った。その後、シリコン粒子を脱イオン水で洗浄し、濃硝酸溶液で20分間洗浄して細孔内部に存在する銀ナノ粒子の残留物を完全に除去し、最後に脱イオン水で洗浄することで、多孔化シリコン粒子を得た。
【0070】
次いで、多孔化シリコン粒子へリン原子のドーピングを行った。まず、多孔化シリコン粒子2gをエタノール中に加え、超音波ホモジナイザーにより5分間処理を行うことで、多孔化シリコン粒子をエタノール中に分散させた。この分散液に1.5mLのリン化合物溶液(東京応化工業株式会社製、P-59210)を加えて、800rpmの撹拌速度で30分間撹拌処理することで均一に混合させた。この混合液をアルミナ容器に加え、アルゴン雰囲気中にて1100℃で60分間熱処理することで多孔化シリコン粒子へのリン原子のドーピングを行った。最後に、3mLのフッ化水素酸と28mLの脱イオン水を含む混合溶液にドーピング処理後の多孔化シリコン粒子を加え、これを30秒間撹拌処理することで粒子表面のリン残留物を完全に除去し、次いで脱イオン水で洗浄することで、リンドープ多孔化シリコン粒子を得た。
【0071】
上記の手順で得た、熱処理シリコン粒子、多孔化シリコン粒子及びリンドープ多孔化シリコン粒子のそれぞれについて走査電子顕微鏡により表面状態の観察を行った。その結果を
図1に示す。
図1は、熱処理シリコン粒子、多孔化シリコン粒子及びリンドープ多孔化シリコン粒子の走査電子顕微鏡画像であり、(a)が熱処理シリコン粒子であり、(b)が多孔化シリコン粒子であり、(c)がリンドープ多孔化シリコン粒子である。
図1に示すように、金属支援化学エッチング法により多孔化を行った多孔化シリコン粒子では表面孔が無数に形成されており、リン原子のドーピングを行った後もこの表面孔が維持されていることがわかる。
図1(b)における表面孔の平均細孔径は約14.3nmであり、(c)における平均細孔径は約20nmに拡張されていた。この平均細孔径の拡張は、多孔化シリコン粒子へのリン原子のドーピングを行った後に実施した、リン残留物の除去工程にて生じたものと思われる。
【0072】
電子線マイクロアナライザーを用いて、リンドープ多孔化シリコン粒子におけるリンの元素含有量を見積もった。その結果、個々のリンドープ多孔化シリコン粒子のそれぞれについて、全体にわたってリン原子が一様に分布しており、リン原子が均質にドーピングされていることが示唆された。なお、リンドープ多孔化シリコン粒子における、珪素とリンの元素含有比は、それぞれ99.9atom%と0.1atom%だった。
【0073】
上記の手順で得た、多孔化シリコン粒子及びリンドープ多孔化シリコン粒子のそれぞれについてBET窒素吸着と密度分析を行うことにより、多孔質形状の平均細孔径、比表面積、全細孔容積、真密度及び多孔度を測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、リンドープを行っても多孔構造は維持されており、むしろリンドープを行うことで多孔化がより進んでいることがわかった。このことは、走査電子顕微鏡観察における結果と一致するものと言える。
【0074】
【0075】
次いで、熱処理シリコン粒子、多孔化シリコン粒子及びリンドープ多孔化シリコン粒子のそれぞれについて、負極活物質としての性能を調べた。これらの活物質を含む負極は、次の手順で作製した。まず、バインダーとなるポリアクリル酸(PAA)と脱イオン水を22000rpmの撹拌速度で20℃にて10分間撹拌することでこれらを均一に混合させた。次いで、ここへSuper P conductive carbon black(導電補助剤;MTI Japan社)及び負極活物質(上記の熱処理シリコン粒子、多孔化シリコン粒子又はリンドープ多孔化シリコン粒子)をこの順番で加え、さらに22000rpmの撹拌速度で10分間撹拌することで均一なスラリーとした。負極活物質/導電補助剤/PAAバインダーの質量比は、70質量%/10質量%/20質量%とした。その後、10μmの膜厚を有する銅集電体上にこのスラリーを塗工し、80℃で6時間乾燥させ、これを直径15mmの円盤状に切り出した後で、真空下、120℃で12時間熱処理することで十分に乾燥させて負極を作製した。この負極と、対極として直径16mmの円盤状リチウム金属箔を用いた2032コイン型ハーフセルを作製した。なお、このハーフセルにおいて、電解液は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合溶媒(体積比1:2)に1.0MのLiPF6を溶解させ、さらに添加剤としてフルオロエチレンカーボネート(2.0質量%)を加えたものとし、ポリエチレンメンブランを直径18mmの円盤状に切り出したものをセパレーターとした。
【0076】
作製した2032コイン型ハーフセルに対して、電池充放電装置(北斗電工株式会社製、HJ1001SD8)を用いて、室温でC/20(初回サイクル)又はC/5(2サイクル以降)のレートで充放電特性を調べた。なお、測定電圧は、0.01~2.0V vs Li/Li
+の範囲とし、試験中の1Cは、全ての負極に対して4.2A・g
-1とした。得られた充放電特性のプロットを
図2に示す。
図2は、熱処理シリコン粒子(SiSPs)、多孔化シリコン粒子(SiNPPs)及びリンドープ多孔化シリコン粒子(P-SiNPPs)の負極特性をそれぞれ示すプロットであり、(a)が各負極における容量のプロットであり、(b)が熱処理シリコン粒子を負極としたときのサイクル特性を示すプロットであり、(c)が多孔化シリコン粒子を負極としたときのサイクル特性を示すプロットであり、(d)がリンドープ多孔化シリコン粒子を負極としたときのサイクル特性を示すプロットである。
【0077】
図2(a)に示す通り、リンドープ多孔化シリコン粒子を負極としたときの容量は、ドープしていないものに比べて高いものとなり、本発明の負極が優れた特性を備えることがわかる。また、サイクル特性についても、リンドープ多孔化シリコン粒子を負極としたものでは50サイクル目の容量低下が他のものよりも小さく、この点でも本発明の負極が優れた特性を備えることがわかる。