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  • 特開-ドアサービスホールカバー 図1
  • 特開-ドアサービスホールカバー 図2
  • 特開-ドアサービスホールカバー 図3
  • 特開-ドアサービスホールカバー 図4
  • 特開-ドアサービスホールカバー 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180275
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】ドアサービスホールカバー
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/00 20060101AFI20231214BHJP
   G10K 11/172 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B60J5/00 501E
G10K11/172
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093409
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡野 昌之
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061CC02
(57)【要約】
【課題】既存部品の改善によって、ドアパネル内部の空間へ侵入した空気がドアガラスとゴムシール部品の接合部の隙間から抜けることによって生じるリーク音を低減させる。
【解決手段】車両用ドア1のドアインナパネル3に設けられたサービスホール部3aに取り付けられるドアサービスホールカバー10であって、ドアアウタパネル4へ向けて突出した先端に四角形の平薄板10aが形成された突起10bが格子状に連続して設けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用ドアのドアインナパネルに設けられたサービスホール部に取り付けられるドアサービスホールカバーであって、
ドアアウタパネルへ向けて突出した先端に四角形の平薄板が形成された突起が格子状に連続して設けられていることを特徴とするドアサービスホールカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドアのドアインナパネルに設けられたサービスホール部に取り付けられるドアサービスホールカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両用ドアのドアインナパネルに形成されたサービスホールを塞ぐように取り付けられるドアサービスホールカバーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-079044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気自動車は電気モータを走行用動力源としているため、内燃機関を搭載した車両と比較して、低周波から中周波付近の静粛性が向上している。その結果、電気自動車では、中周波付近より高周波を中心とする風切り音やロードノイズ等の車内騒音比率が高まっており、高周波の騒音の低減が課題となっている。
【0005】
また、コネクテッドカーでは、車両走行中クラウドに常時接続しながら、車室内での会話機能により情報サービスの提供を得るため、音声認識性能を向上する必要がある。音声認識性能を向上するためには、乗員が発する音声をより明瞭にセンサーマイクが検知できるように、検知の障害となる車室内の騒音レベルを低減することが必要となる。したがって、コネクテッドカーの音声認識性能を向上するためにも、車室内の高周波の騒音を低減することが求められる。
【0006】
このように低減すべき高周波の騒音の一例として、車両が高速走行する際にサイドドアのドアガラスのベルトライン端部から発生するリーク音を挙げることができる。このリーク音は、高速走行時に、サイドドアの下端に設けられた水抜き孔から、ドアインナパネルとドアアウタパネルで挟まれたドアパネル内部の空間へ空気が侵入し、ドアガラスとゴムシール部品の接合部の隙間から抜けることによって生じるものと考えられる。このリーク音は、ドアガラスのベルトライン端部に隙埋め用のシール部品を追加することによって改善が可能であるが、組付けバラツキによって隙間が発生することがあるため、シール部品を追加するだけではリーク音の発生を完全に防ぐことができない。
【0007】
このリーク音の発生要因を調査するため、車両を高速走行させた状態で、車室内、ドアパネル内部及び車外にマイクを1個ずつ設置して音圧を測定した。これらの3個のマイクのうち車室内のマイクと車外のマイクは、いずれもドアガラスのベルトライン後端部の付近に設置した。そして、ドアパネル内部のマイクは、サイドドアの前後方向の中央部付近のドアインナパネルとドアアウタパネルの間に設置した。音圧の測定結果を図5に示す。図5に示すように、車室内の音とドアパネル内部の音は、いずれも1200Hzから1500Hzまでの範囲内に3箇所のピーク周波数が存在する。そして、これら3箇所のピーク周波数は、車室内の音とドアパネル内部の音で概ね一致する。そのため、ドアパネル内部の共鳴が、車室内でリーク音が大きく聞こえる要因であると考えられる。
【0008】
そこで、ドアパネル内部の共鳴が、車室内でリーク音が大きく聞こえる要因であるという考えが誤っていないか検証するため、ドアパネル内部の共鳴音について、ドアインナパネルとドアアウタパネルで構成された両端閉管のモデルで共鳴周波数を計算した。音速をc、管長をLとすると、両端閉管におけるn次の共鳴周波数fは、以下の式1で計算できる。
【0009】
【数1】
【0010】
管長Lを128mmとして式1で計算すると、1次の共鳴周波数は1328Hzとなり、2次の共鳴周波数は2656Hzとなる。このように両端閉管のモデルで計算した1次の共鳴周波数が、上記の実測したピーク周波数と概ね一致するため、計算結果からも、ドアパネル内部の共鳴が、車室内でリーク音が大きく聞こえる要因であることが裏付けられる。
【0011】
ドアパネル内部の共鳴を抑制してリーク音を低減させる手段として、ドアパネル内部の空間に拡散板を設置してドアパネル内の音波を拡散させる方法や、フェルトなどの吸音材をドアパネル内部の空間に設置する方法が考えられる。しかし、ドアパネル内部に拡散板を設置できるスペースが不足しているため拡散板の設置は困難であり、フェルトのように保水する材質をドアパネル内部に設置することは防錆上の観点から適切ではない。また、コスト上昇や重量増加を防止する観点から、部品を追加せず、既存部品の改善によってリーク音を低減させる方が望ましい。
【0012】
そこで、本発明は、既存部品の改善によって、ドアパネル内部の空間へ侵入した空気がドアガラスとゴムシール部品の接合部の隙間から抜けることによって生じるリーク音を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るドアサービスホールカバーは、車両用ドアのドアインナパネルに設けられたサービスホール部に取り付けられるドアサービスホールカバーであって、ドアアウタパネルへ向けて突出した先端に四角形の平薄板が形成された突起が格子状に連続して設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、既存の部品であるドアサービスホールカバーに設けた突起の四角形の平薄板の共振により吸音するため、既存部品の改善によって、ドアパネル内部の空間へ侵入した空気がドアガラスとゴムシール部品の接合部の隙間から抜けることによって生じるリーク音を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の実施形態のドアサービスホールカバーを取り付けるサイドドアを車両内側から見た状態を示す図である。
図2】本実施形態のドアサービスホールカバーのドア外側から見た形状を示す図である。
図3図2におけるA-A線断面図である。
図4】本実施形態のドアサービスホールカバーの吸音率と周波数の関係を示す図である。
図5】車室内、ドアパネル内部及び車外の音圧を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1~4を参照しながら、本実施形態のドアサービスホールカバー10について説明する。図1は、ドアサービスホールカバー10を取り付ける車両用のサイドドア1を車両内側から見た状態を示す図である。図1に示すサイドドア1は、車両の左側に取り付けられるヒンジドアである。図1に示すように、サイドドア1は、ドア本体部1a、窓枠部1b及びドアガラス2を備える。サイドドア1は、ドアインナパネル3及びドアアウタパネル4を備え、ドアインナパネル3の周縁部とドアアウタパネル4の周縁部がヘミング加工等により接合されている。そして、サイドドア1のドア本体部1aには、ドアインナパネル3とドアアウタパネル4との間に空間Sが形成されている。サイドドア1の下端には不図示の水抜き孔が設けられており、空間Sに入った水は水抜き孔から車外に排出される。
【0017】
ドアインナパネル3には、サービスホール31及びサービスホール32を含むサービスホール部3aが設けられている。サービスホール31はドアインナパネル3の上部に形成された穴であり、サービスホール32はドアインナパネル3の下部に形成された穴である。サービスホール31及びサービスホール32は、サイドドア1を組み立てる際に手や工具を入れる用途などに用いられる。サイドドア1を組み立てる際は、サービスホール31及びサービスホール32を用いて空間S内に必要な部品を取り付けた後に、サービスホール31及びサービスホール32を塞ぐようにサービスホール部3aに、図2に示すドアサービスホールカバー10を取り付ける。そして、ドアインナパネル3のサービスホール部3aにドアサービスホールカバー10を取り付けた後、ドアインナパネル3へトリムを取り付けることによって、ドアサービスホールカバー10はトリムに覆われて見えなくなる。
【0018】
図2は、樹脂製のドアサービスホールカバー10のドア外側から見た形状を示す図である。図2に示すように、ドアサービスホールカバー10には、ドアアウタパネル4へ向けて突出した先端に四角形の平薄板10aが形成された突起10bが格子状に連続して設けられている。ドアサービスホールカバー10をドアインナパネル3へ取り付けると、上側に設けられた8個の突起10bがサービスホール31の中に配置され、下側に設けられた13個の突起10bはサービスホール32の中に配置される。
【0019】
図3は、図2におけるA-A線断面図である。図3に示すように、突起10bは、ドアアウタパネル4側の先端に向かうほど幅が狭くなる台形の断面を有しており、隣り合う突起10bの間には、奥へ入り込むほど幅が狭くなる楔形状の凹み部10cが形成されている。
【0020】
サイドドア1を搭載した車両が高速走行する際、サイドドア1の下端に設けられた水抜き孔から空間S内へ空気が侵入し、ベルトライン端部でドアガラス2とゴムシール部品の接合部の隙間から抜けることによって、リーク音が発生することがある。ドアサービスホールカバー10は、突起10bの平薄板10aが図3に破線で示すように共振して吸音することにより、ドアインナパネル3とドアアウタパネル4で挟まれたドアパネル内部の共鳴を抑制し、このリーク音を低減させることができる。
【0021】
図4は、ドアサービスホールカバー10の吸音率と周波数の関係を示す図である。四角形の平薄板10aの共振周波数は、平薄板10aの幅と厚さと材質で定まる。そのため、平薄板10aの吸音率は、図4の破線で示すように特定の周波数でピークとなる。突起10bの平薄板10aの幅と厚さを適切に選択することにより、ドアサービスホールカバー10は、狙った周波数で吸音率をピークとすることができる。
【0022】
また、ドアサービスホールカバー10は、図3に破線の矢印で示すように、楔形状の凹み部10c内で音波の反射を繰り返して吸音させることによって、ドアインナパネル3とドアアウタパネル4で挟まれたドアパネル内部の共鳴を抑制し、リーク音を低減させることができる。凹み部10cの吸音率は、図4の一点鎖線で示すように、周波数が高くなるほど上昇する。そのため、凹み部10cの吸音率が低い周波数で、突起10bの平薄板10aの吸音率がピークとなるように設定することによって、ドアサービスホールカバー10は、図4の実線で示すように幅広い周波数で吸音して、リーク音を低減することができる。
【0023】
更に、ドアサービスホールカバー10は、ドアパネル内部の空間Sに水が入ったとしても、凹み部10cの壁面が傾斜しているため、凹み部10c内に水が滞留しなくなるという効果を奏する。凹み部10c内に水が滞留すると、ドアパネル内部の空間Sに入った水を速やかに水抜き孔から排出することができなくなり、防錆上の観点から好ましくない。
【0024】
また、ドアサービスホールカバー10の突起10bは、ドアアウタパネル4側の先端に向かうほど幅が狭くなる台形の断面を有するため、断面が長方形の突起と比較して座屈変形し難くなっている。
【0025】
<実施形態の補足>
本開示のドアサービスホールカバーは、上述した形態に限定されず、本開示の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。例えば、スライドドアのドアインナパネルのサービスホール部に取り付けられるドアサービスホールカバーであってもよい。また、車両の後ろ側に取り付けられたバックドアのドアインナパネルのサービスホール部に取り付けられるドアサービスホールカバーであってもよい。また、ドアサービスホールカバーに設けられる突起の数は、上述した形態とは異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 サイドドア、1a ドア本体部、1b 窓枠部、2 ドアガラス、3 ドアインナパネル、3a サービスホール部、4 ドアアウタパネル、10 ドアサービスホールカバー、10a 平薄板、10b 突起、10c 凹み部、31,32 サービスホール。
図1
図2
図3
図4
図5