(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180278
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】情報処理装置、及び、情報処理方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20231214BHJP
G08G 1/01 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G08G1/00 J
G08G1/01 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093416
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤井 愛子
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181BB04
5H181BB05
5H181BB11
5H181BB13
5H181CC04
5H181EE11
5H181EE12
5H181FF04
5H181FF05
5H181MC04
5H181MC16
5H181MC27
(57)【要約】
【課題】道路の異常の検出精度を向上する。
【解決手段】道路に異常がある可能性についての第一の情報を取得したことに応答して、第一の情報に対応する位置を含む所定の範囲における複数の車両の挙動に基づいて、道路の異常を判定する制御部を備える。
【選択図】
図32
【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路に異常がある可能性についての第一の情報を取得したことに応答して、前記第一の情報に対応する位置を含む所定の範囲における複数の車両の挙動に基づいて、前記道路の異常を判定する制御部を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第一の情報を、前記複数の車両に夫々設けられ前記道路の状態に関連する信号を出力するセンサの出力値に基づいて取得し、
さらに、
前記制御部は、前記所定の範囲において、前記道路の異常を回避するときの挙動である第一の挙動に関する情報を出力した車両の数に基づいて、前記道路に異常があるか否か判定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記所定の範囲において、前記第一の情報を出力した車両のうち前記第一の挙動に関する情報を出力した車両の割合と、前記第一の情報を出力しなかった車両のうち前記第一の挙動に関する情報を出力した車両の割合と、に基づいて、前記道路に異常があるか否か判定する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記所定の範囲において、前記第一の情報を出力した車両のうち前記第一の挙動に関する情報を出力した車両の割合よりも、前記第一の情報を出力しなかった車両のうち前記第一の挙動に関する情報を出力した車両の割合のほうが高いことに応答して、前記道路に異常があると判定する、
請求項2または3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記第一の挙動には、前記車両が、右側及び左側に夫々所定距離以上移動したことを含む、
請求項2または3に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記所定の範囲において、過去の第一の期間における前記複数の車両の走行位置と、前記第一の期間よりも後の第二の期間における前記複数の車両の走行位置と、に基づいて、前記道路に異常があるか否か判定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記所定の範囲において、前記第一の期間における前記複数の車両の走行位置と、前記第二の期間における前記複数の車両の走行位置と、に所定の差があることに応答して、前記道路に異常があると判定する、
請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記制御部は、
同一の車両が前記所定の範囲を、過去の第一の時期と、前記第一の時期よりも後の第二の時期とに走行した場合の、前記同一の車両の挙動の変化に基づいて、前記道路に異常があるか否か判定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記第一の情報を、前記複数の車両に夫々設けられ前記道路の状態に関連する信号を出力するセンサの出力値に基づいて取得し、
さらに、前記制御部は、
同一の車両が前記所定の範囲を、前記第一の時期と、前記第二の時期とに走行した場合であって、前記第一の時期には、前記第一の情報を出力し且つ前記道路の異常を回避するときの挙動である第一の挙動に関する情報を出力せず、前記第二の時期には、前記第一の情報を出力せず且つ前記第一の挙動に関する情報を出力したことに応答して、前記道路に異常があると判定する、
請求項8に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記複数の車両の夫々に設けられた進行方向に関連するセンサの検出値を取得することにより、前記所定の範囲における前記複数の車両の挙動を取得する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記道路に異常があると判定した場合に、前記異常がある位置を外部の端末に通知する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項12】
前記所定の範囲を走行した前記複数の車両の挙動に関するデータを記憶する記憶部を備える、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項13】
ユーザによる点検が行われてから所定の時間が経過した後に、前記制御部は、前記道路に異常があるか否か判定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項14】
コンピュータが、
道路に異常がある可能性についての第一の情報を取得したことに応答して、前記第一の情報に対応する位置を含む所定の範囲における複数の車両の挙動に基づいて、前記道路の異常を判定する、
情報処理方法。
【請求項15】
前記コンピュータが、
前記第一の情報を、前記複数の車両に夫々設けられ前記道路の状態に関連する信号を出力するセンサの出力値に基づいて取得し、
さらに、
前記コンピュータが、
前記所定の範囲において、前記道路の異常を回避するときの挙動である第一の挙動に関する情報を出力した車両の数に基づいて、前記道路に異常があるか否か判定する、
請求項14に記載の情報処理方法。
【請求項16】
前記コンピュータが、
前記所定の範囲において、前記第一の情報を出力した車両のうち前記第一の挙動に関する情報を出力した車両の割合と、前記第一の情報を出力しなかった車両のうち前記第一の挙動に関する情報を出力した車両の割合と、に基づいて、前記道路に異常があるか否か判定する、
請求項15に記載の情報処理方法。
【請求項17】
前記コンピュータが、
前記所定の範囲において、前記第一の情報を出力した車両のうち前記第一の挙動に関す
る情報を出力した車両の割合よりも、前記第一の情報を出力しなかった車両のうち前記第一の挙動に関する情報を出力した車両の割合のほうが高いことに応答して、前記道路に異常があると判定する、
請求項15または16に記載の情報処理方法。
【請求項18】
前記コンピュータが、
前記所定の範囲において、過去の第一の期間における前記複数の車両の走行位置と、前記第一の期間よりも後の第二の期間における前記複数の車両の走行位置と、に基づいて、前記道路に異常があるか否か判定する、
請求項14に記載の情報処理方法。
【請求項19】
前記コンピュータが、
前記所定の範囲において、前記第一の期間における前記複数の車両の走行位置と、前記第二の期間における前記複数の車両の走行位置と、に所定の差があることに応答して、前記道路に異常があると判定する、
請求項18に記載の情報処理方法。
【請求項20】
前記コンピュータが、
同一の車両が前記所定の範囲を、過去の第一の時期と、前記第一の時期よりも後の第二の時期とに走行した場合の、前記同一の車両の挙動の変化に基づいて、前記道路に異常があるか否か判定する、
請求項14に記載の情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理装置、及び、情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
路面異常に車両が遭遇した場合に、車両がとるであろうと想定される特定挙動に基づいて定まる異常条件が満たされているか否かを車両の挙動に基づいて判定し、判定結果に応じて路面の状態を推定する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、道路の異常の検出精度を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の態様の一つは、
道路に異常がある可能性についての第一の情報を取得したことに応答して、前記第一の情報に対応する位置を含む所定の範囲における複数の車両の挙動に基づいて、前記道路の異常を判定する制御部を備える情報処理装置である。
【0006】
本開示の態様の一つは、
コンピュータが、
道路に異常がある可能性についての第一の情報を取得したことに応答して、前記第一の情報に対応する位置を含む所定の範囲における複数の車両の挙動に基づいて、前記道路の異常を判定する情報処理方法である。
【0007】
また、本開示の他の態様は、上記の情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラム、または、このプログラムを非一時的に記憶した記憶媒体である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、道路の異常の検出精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るシステムの概略構成を示す図である。
【
図2】実施形態に係るシステムを構成する車両、ユーザ端末、及び、サーバのそれぞれの構成の一例を概略的に示すブロック図である。
【
図5】横ずれの算出方法を説明するための図である。
【
図6】分析範囲における各種データの推移を示した図である。
【
図7】分析範囲における各種データの推移を示した図である。
【
図8】分析範囲における各種データの推移を示した図である。
【
図9】分析範囲における各種データの推移を示した図である。
【
図10】分析範囲における各種データの推移を示した図である。
【
図11】分析範囲における各種データの推移を示した図である。
【
図12】同一の車両が複数回通ったときの走行軌跡を示した図である。
【
図13】同一の車両が複数回通ったときの走行軌跡を示した他の図である。
【
図14】PH修繕前であってPHを踏んだ車両のデータを示した図である。
【
図15】PH修繕前であってPHを踏まなかった車両のデータを示した図である。
【
図16】PH修繕後であってPHを踏んだ車両のデータを示した図である。
【
図17】PH修繕後であってPHを踏まなかった車両のデータを示した図である。
【
図20】道路に存在するPHの一例を示した図である。
【
図22】
図20及び
図21で示した例において、PH修繕前であってPHを踏んだ車両のデータを示している。
【
図23】
図20及び
図21で示した例において、PH修繕前であってPHを踏まなかった車両のデータを示している。
【
図25】
図3に示した道路の分析範囲における雨の日と晴れの日との車両のデータを示している。
【
図26】
図3に示した道路の分析範囲における雨の日と晴れの日との車両の挙動を示した図である。
【
図28】車両情報のテーブル構成を例示した図である。
【
図30】第1実施形態に係るPHが存在する可能性を判定するためのフローチャートである。
【
図31】PH候補位置に対応するデータを収集する処理のフローチャートである。
【
図32】PH候補位置にPHが存在するか否か判定する処理のフローチャートである。
【
図33】PH候補位置にPHが存在するか否か判定する処理のフローチャートである。
【
図34】サーバによる道路の監視を行うか否か判定するための処理のフローチャートである。
【
図35】第5実施形態に係るPHが存在するか否か判定する処理のフローチャートである。
【
図36】第5実施形態に係るPHが存在するか否かを走行レーンに基づいて判定する処理のフローチャートである。
【
図37】複数の車両のデータに基づいてPHの存在を通知する処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の態様の一つである情報処理装置は、制御部を有する。制御部は、道路に異常がある可能性についての第一の情報を取得したことに応答して、第一の情報に対応する位置を含む所定の範囲における複数の車両の挙動に基づいて、前記道路の異常を判定する。
【0011】
道路の異常には、道路の破損、路面のアスファルト若しくはコンクリートの剥がれ、路面の陥没、路面の凹凸、または、路面のひび割れなどを例示できる。道路に異常がある可能性についての第一の情報には、車両から送信される道路の異常に対応した情報、または、道路を通過した車両の乗員若しくは道路を通行した歩行者などから道路に異常がある旨の通報を受けたことに対応した情報であってもよい。例えば、道路に異常がある箇所を車両が通過すると、道路の異常に応じて例えば車両に振動が発生したり、車輪の回転速度が変化したりする場合がある。このような情報を車両から取得した場合には、道路に異常が
発生している可能性が高い。制御部は、道路に異常がある可能性についての情報を取得した場合に、本当に異常があるか否かを判定する。
【0012】
第一の情報に対応する位置は、例えば、異常が発生している位置、道路に異常があると通報があった位置、または、道路の異常に対応する情報が車両から発信された位置である。所定の範囲は、例えば、道路の異常が車両の挙動に影響を与える範囲である。例えば、車両の運転者が道路の異常を見つけて回避したときに、その車両の挙動の少なくとも一部が現れる範囲を所定の範囲としている。例えば、車両の進行方向が左右に変化するような範囲、または、車両の通過位置が道路の異常に対応した位置になるような範囲を所定の範囲としてもよい。
【0013】
道路に異常があると、車両の運転者は回避行動をとる場合がある。一方、車両の運転者が道路の異常に気が付かないと、道路に異常がある箇所を車両が通過して、道路の異常に応じて例えば車両に振動が発生したり、車輪の回転速度が変化したりする場合がある。道路に異常がある位置を避けて通った車両には、振動の発生および車輪の回転速度の変化などは表れないため、振動の発生および車輪の回転速度の変化などに基づいて道路の異常を判定すると、誤判定の虞がある。
【0014】
このように道路に異常がある場合には、回避行動をとる車両、及び、回避行動をとらずに異常がある位置を通過してしまう車両などが存在するが、夫々の車両に挙動の差がある。したがって、この挙動の差に基づいて道路に異常があるか否か判定することができる。
【0015】
ここで、全ての道路の全ての箇所について、複数の車両の挙動に基づいて道路の異常を判定しようとすると、計算が膨大になるため時間を要する。一方、道路に異常がある可能性についての第一の情報を取得したことに応答して、道路に異常があるか否か判定することにより、計算負荷を低減することができる。
【0016】
以下、図面に基づいて、本開示の実施の形態を説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本開示は実施形態の構成に限定されない。また、以下の実施形態は可能な限り組み合わせることができる。
【0017】
<第1実施形態>
図1は、本実施形態に係るシステム1の概略構成を示す図である。
図1の例では、システム1は、車両10、ユーザ端末20、及び、サーバ30を含む。システム1は、複数の車両10から道路の異常に関する情報をサーバ30が取得し、その情報に基づいてサーバ30が道路の異常を判定するシステムである。なお、
図1に示すシステム1には、例示的に1台の車両10を含んでいるが、車両10は複数存在する。
【0018】
車両10、ユーザ端末20、及び、サーバ30は、ネットワークN1によって相互に接続されている。ネットワークN1は、例えば、インターネット等の世界規模の公衆通信網でありWAN(Wide Area Network)やその他の通信網が採用されてもよい。また、ネットワークN1は、携帯電話等の電話通信網、または、Wi-Fi(登録商標)等の無線通信網を含んでもよい。
【0019】
ユーザ端末20はサーバ30から道路の異常に関する情報を取得する。ユーザ端末20は、例えば、道路を管理しているユーザが利用する端末である。サーバ30は、例えば、異常があると判定した位置をユーザ端末20に送信する。ユーザ端末20から情報を取得したユーザは、道路の修繕等を行う。
【0020】
車両10は、コネクテッドカーであり、ネットワークN1を介して走行時の各種データ
をサーバ30へ送信する。車両10は、例えば、舵角、車輪の回転速度、上下方向の加速度(振動としてもよい)、及び、現在位置などを検出し、サーバ30に送信する。
【0021】
図2に基づいて、車両10、ユーザ端末20、及び、サーバ30のハードウェア構成及び機能構成について説明する。
図2は、本実施形態に係るシステム1を構成する車両10、ユーザ端末20、及び、サーバ30のそれぞれの構成の一例を概略的に示すブロック図である。
【0022】
サーバ30は、コンピュータの構成を有している。サーバ30は、プロセッサ301、主記憶部302、補助記憶部303、及び、通信部304を有する。これらは、バスにより相互に接続される。
【0023】
プロセッサ301は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等である。プロセッサ301は、サーバ30を制御し、様々な情報処理の演
算を行う。主記憶部302は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等である。補助記憶部303は、EPROM(Erasable Programmable ROM)、ハ
ードディスクドライブ(HDD、Hard Disk Drive)、リムーバブルメディア等である。
補助記憶部303には、オペレーティングシステム(Operating System :OS)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。補助記憶部303に格納されたプログラムをプロセッサ301が主記憶部302の作業領域にロードして実行し、このプログラムの実行を通じて各構成部等が制御される。これにより、所定の目的に合致した機能をサーバ30が実現する。主記憶部302および補助記憶部303は、コンピュータで読み取り可能な記録媒体である。なお、サーバ30は、単一のコンピュータであってもよいし、複数台のコンピュータが連携したものであってもよい。また、補助記憶部303に格納される情報は、主記憶部302に格納されてもよい。また、主記憶部302に格納される情報は、補助記憶部303に格納されてもよい。なお、プロセッサ301は、制御部の一例である。
【0024】
通信部304は、ネットワークN1経由で車両10、及び、ユーザ端末20と通信を行う手段である。通信部304は、例えば、LAN(Local Area Network)インターフェースボード、無線通信のための無線通信回路である。LANインターフェースボードや無線通信回路は、ネットワークN1に接続される。
【0025】
なお、サーバ30で実行される一連の処理は、ハードウェアにより実行させることもできるが、ソフトウェアにより実行させることもできる。
【0026】
次に、ユーザ端末20について説明する。ユーザ端末20は、例えば、パーソナルコンピュータ(Personal Computer、PC)、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、個人情報端末、ウェアラブルコンピュータ(スマートウォッチ等)といった小型のコンピュータである。ユーザ端末20は、プロセッサ201、主記憶部202、補助記憶部203、入力部204、ディスプレイ205、及び、通信部206を有する。これらは、バスにより相互に接続される。プロセッサ201、主記憶部202、補助記憶部203については、サーバ30のプロセッサ301、主記憶部302、補助記憶部303と同様であるため、説明を省略する。
【0027】
入力部204は、ユーザが行った入力操作を受け付ける手段であり、例えば、タッチパネル、マウス、キーボード、または、押しボタン等である。ディスプレイ205は、ユーザに対して情報を提示する手段であり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、または、EL(Electroluminescence)パネル等である。入力部204及びディスプレイ2
05は、1つのタッチパネルディスプレイとして構成してもよい。
【0028】
通信部206は、ユーザ端末20をネットワークN1に接続するための通信手段である。通信部206は、例えば、移動体通信サービス(例えば、5G(5th Generation)、4G(4th Generation)、3G(3rd Generation)、LTE(Long Term Evolution)等の
電話通信網)、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)等の無線通信網を利用して、ネットワークN1経由で他の装置(例えばサーバ30等)と通信を行うための回路である。
【0029】
次に、車両10について説明する。車両10は、プロセッサ101、主記憶部102、補助記憶部103、通信部104、位置情報センサ105、舵角センサ106、車輪速度センサ107、及び、外部カメラ108を有する。これらは、バスにより相互に接続される。プロセッサ101、主記憶部102、補助記憶部103、及び、通信部104については、ユーザ端末20のプロセッサ201、主記憶部202、補助記憶部203、及び、通信部206と同様であるため、説明を省略する。
【0030】
位置情報センサ105は、所定の周期で、車両10の位置情報(例えば緯度、経度)を取得する。位置情報センサ105は、例えば、GPS(Global Positioning System)受
信部、無線通信部等である。位置情報センサ105で取得された情報は、例えば、補助記憶部103等に記録され、サーバ30に送信される。
【0031】
舵角センサ106、は、ステアリング操作によって得られた舵角を検出するセンサである。舵角センサ106は、例えば、ステアリングホイールの角度を検出する。なお、本実施形態は、舵角として、ステアリングホイールの角度を検出しているが、タイヤの切れ角を直接的に又は間接的に表す値を用いてもよい。車輪速度センサ107は、車輪の回転速度を検出するセンサである。
【0032】
外部カメラ108は、車両10の外部に向かって設置されるカメラであり、車両10から前方を撮像するカメラである。外部カメラ108は、例えばCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサまたはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサなどの撮像素子を用いて撮像を行うカメラである。外部カメラ108が撮像する画像は、静止画または動画の何れであってもよい。
【0033】
ここで、車両10が道路にできた凹み(ポットホール:以下、「PH」という。)を踏んだ場合、車輪速度センサ107によって検出される。例えば、車輪速度センサ107によって取得される車輪速度の時間変化に基づいて車輪加速度を算出することができる。そして、車輪加速度は、PHを踏んだときに増加するため、車輪加速度が所定値以上増加した場合に、PHを踏んだと考えることができる。しかし、車両10の運転者は、複数回同じ場所を通行していると、PHの位置を覚えていることがある。運転者がPHの位置を覚えていると、PHを踏まないように車両10を運転することがある。そうすると、車輪速度センサ107では、PHを検出することが困難となる。このように、PHを回避する車両10が多くなると、PHが本当に存在しているのか判断することが困難になり得る。そこで、運転者がPHの位置を知っていたり、PHを踏む前にPHを回避したりしたときの車両10の挙動を調べ、この車両10の挙動に基づいてPHの有無を判定できないか検討したところ、車両10の挙動に基づいてPHの有無を判定可能であることを見出した。
【0034】
まず、PHが発生している場所において、PHの位置の前後における車両10の挙動を分析した。また、PHの有無による車両10の挙動の変化を観察するために、同一箇所におけるPHの修繕後のデータと比較した。
【0035】
分析において、車両10がPHの付近を走行した時刻を特定し、PHを通過する前後の夫々2秒間のデータを抽出した。車両10が例えば時速30-50kmで走行している場
合には、PHを認識可能な距離を30m前後と仮定した。例えば、時速50km前後で走行しているときには、PHよりも約30m手前から、約30m後までとなる。このPHの前後30mの範囲を、以下では分析範囲ともいう。
【0036】
車両10ごとに、位置情報センサ105により取得された位置情報に基づいて走行した位置を算出し、この位置の時系列順に並べて車両10の走行軌跡を得た。この走行軌跡に基づいて、走行パターン及び横ずれの分析を行った。このときに、道路を複数のレーンに分けて、車両10の走行軌跡を分析した。
図3は、車両10の走行軌跡の一例を示した図である。道路の幅を7等分して、第1レーン(#1)から第7レーン(#7)の7つのレーンが存在するものとして分析を行った。また、
図4は、道路を上側から見た図である。ここで、道路の両端の第1レーン(#1)及び第7レーン(#7)は、通常では車両10がほとんど走行しないため、第1レーン(#1)及び第7レーン(#7)以外のレーンを、分析範囲として分析を行った。
図3及び
図4において、一点鎖線は車両10の走行軌跡を表している。PHは、第3レーン(#3)及び第4レーン(#4)にまたがって存在している。
【0037】
また、横ずれは、車両10の横方向の移動距離であり、以下のようにして算出した。
図5は、横ずれの算出方法を説明するための図である。
図5において、符号10Aは、第一の位置にある車両10を示しており、符号10Bは、第二の位置にある車両10を示している。θ1は、第一の位置にある車両10Aの舵角を示しており、θ2は、第二の位置にある車両10Aの舵角であって、θ1から変化した分の舵角を示している。第一の位置から、第二の位置にまでに車両10が横方向に移動する距離(すなわち、横ずれ量)は、以下の式1で表すことができる。
横ずれ量=V1×ΔT×sin(θ1)・・・(式1)
ただし、V1は、第一の位置にある車両10Aの進行方向(車輪が向いている方向)の速度、ΔTは、第一の位置から第二の位置に車両10が移動するのに要する時間である。
また、第二の位置からさらにΔT秒後の位置である第三の位置までの横ずれ量は、以下の式2で表すことができる。
横ずれ量=V1×ΔT×sin(θ1)+V2×ΔT×sin(θ1+θ2)・・・(式2)
ただし、V2は、第二の位置にある車両10Bの進行方向の速度、ΔTは、(式1)のΔTと同じ値である。
車両10の比較的大きな走行軌跡は、位置情報から得られる走行パターンに基づいて分析を行い、車両10の比較的小さな挙動については、舵角により得られる横ずれに基づいて分析を行った。
【0038】
図6から
図11は、分析範囲における各種データの推移を示した図である。これらは、PHが存在する位置を車両10が通過する2秒前から、PHが存在する位置を車両10が通過してから2秒後までの間に車両10のセンサで検出されたデータである。車両10は、「進行方向」の矢印で示される方向に移動しており、各時点に対応するデータをプロットしてある。「車速」は車両10の速度、「横ずれ」は
図5において説明した横ずれ量を夫々示している。「舵角」はステアリングホイールの角度を示しており、0を境として右側または左側にステアリングが回転されているときの回転方向と回転角度を示している。「FR車輪加速度」「FL車輪加速度」「RR車輪加速度」「RL車輪加速度」は、夫々、右前、左前、右後、左後の車輪の回転加速度を示している。この回転加速度は、PHを踏むと大きくなる。
【0039】
また、
図6において、「#2」から「#6」は、
図4において説明したレーンに対応している。「右車輪軌跡」は右前または右後の車輪の軌跡に対応しており、「左車輪軌跡」は左前または左後の車輪の軌跡に対応している。車輪の軌跡は、車両10の位置情報に基
づいて推定している。
【0040】
図6に示した例では、車両10が右前及び右後の車輪でPHを踏んでいる。車両10が分析範囲に進入すると、ステアリングが左に切られた後に右に切られている。そして、PH付近においてステアリングが再度左に切られ、その後に右に切られている。車両10は分析範囲において速度を落としながら走行している。右後の車輪の加速度(RR車輪加速度)がPH付近で大きくなっており、PHを踏んでいることが分かる。
【0041】
図7に示した例では、車両10が右前及び右後の車輪でPHを踏んでいる。車両10は分析範囲において加速しつつ右側にずれながら移動している。右前の車輪の加速度(FR車輪加速度)及び右後の車輪の加速度(RR車輪加速度)がPH付近で大きくなっており、PHを踏んでいることが分かる。
【0042】
図8に示した例では、車両10が左後の車輪でPHを踏んでいる。車両10が分析範囲に進入して直進した後、PHの手前で、ステアリングが左に切られ、PHを超えた後に、ステアリングが右に切られている。また、車両10は速度を上げながら走行している。左後の車輪の加速度(RL車輪加速度)がPH付近で大きくなっており、PHを踏んでいることが分かる。
【0043】
図9に示した例では、車両10が左側に避けることでPHを回避している。車両10は分析範囲において減速しながらステアリングが左に切られている。これにより、車両10はPHを踏まずに通過している。
【0044】
図10に示した例では、車両10が右側に避けることでPHを回避している。車両10は分析範囲において比較的高い速度で走行しつつ、ステアリングが右に切られ、PHを回避した後にステアリングが左に切られている。これにより、車両10はPHを踏まずに通過している。
【0045】
図11に示した例では、PHよりも右側に右側の車輪が位置し、PHよりも左側に左側の車輪が位置するように走行することで、PHを回避している。車速はほぼ変化していない。このときには、PHの上を車両10が通過するが、車輪ではPHを踏んでいない。運転者は、PHを狙ってPHをまたぐように車両10を運転したと考えられる。
【0046】
図6から11に示されるように、PHを回避するのには以下の3つのパターンがある。
(1)最初から左側を走行し、更にステアリングを左に操作
(2)最初から右側を走行し、更にステアリングを右に操作
(3)道路の中央を走行しつつ、S字走行をするようにステアリングを操作
なお、S字走行には、ステアリングを左、右、左の順に操作する場合と、右、左、右の順に操作する場合とが含まれる。
【0047】
一方、PHを踏んでいる車両10は、上記のようなPHを回避する挙動が少なく、直進する傾向がみられる。また、同じ場所を複数回走行している車両10は、初回はPHを踏んでも、その後に同じ場所を通る際にPHを踏まないような挙動を示す傾向がある。
図12は、同一の車両10が複数回通ったときの走行軌跡を示した図である。車両10は、同じ分析範囲を1211から1215まで5回通っている。1211は、車両10が分析範囲を初回に通過したときの走行軌跡である。初回の1211では、車両10はPHを回避できずに右側の車輪でPHを踏んでいる。1212は、車両10が分析範囲を2回目に通過したときの走行軌跡である。2回目の1212でも、車両10はPHを回避できずに右側の車輪でPHを踏んでいる。
【0048】
一方、3回目以降の1213から1215では、何れも、分析範囲において車両10は右側にずれることによりPHを回避している。このように、同じ箇所を複数回通過する場合には、運転者がPHの位置を覚えているため、PHを回避するルートを走行する。このときに、分析範囲よりもさらに手前から回避ルートを走行していると、分析範囲において舵角がほとんど変化しないこともあり得る。そうすると、PHがあることを運転者が分かってそのルートを通っているのか、または、PHがあることを知らずにそのルートを通っているのか判断しにくい。
【0049】
図13は、同一の車両10が複数回通ったときの走行軌跡を示した他の図である。車両10は、同じ分析範囲を1311及び1312の2回通っている。1311は、車両10が分析範囲を初回に通過したときの走行軌跡である。1312は、同一の車両10がその後に同じ分析範囲を通過したときの走行軌跡である。初回の1311では、車両10はPHを回避するために左右の車輪の間にPHを通過させようと比較的急にステアリングを切っている。一方、2回目の1312では、分析範囲に入る前から道路の右側を走行してPHを回避している。このように、1312のデータだけを見ると、進行方向を急に変えることもなく、PHも踏んでいないので、車輪速度センサ107の検出値でもPHに対応した出力はない。
【0050】
ここで、以下のような仮説を立てた。
(1)PHを踏んだ車両10よりもPHを踏まない車両10のほうが、S字走行する傾向が高い。すなわち、PHを回避するためにS字に走行するため、PHがない道路よりもステアリングの操作量が多い。
(2)PH修繕前とPH修繕後とでは走行レーンに差があり、PH修繕後には道路の左側を走行する車両10が比較的多い。
これらの仮設について以下で検証する。
【0051】
図14から
図17は、サンプルデータを示した図である。
図14は、PH修繕前であってPHを踏んだ車両10のデータを示している。
図14において、「PH」はPHを踏んだか否かを示しており、PHを踏んだ場合には「1」と表示し、踏まなかった場合には「0」と表示している。「レーン」は、車両10が分析範囲に進入したときの走行レーンを示している。「走行挙動」は、分析範囲で車両10に見られた挙動を示している。「走行挙動」における「L」は車両10が左側にずれて走行したことを示しており、「S」は車両10が直進したことを示しており、「S字」は車両10がS字走行をしたことを示しており、「R」は車両10が右側にずれて走行したことを示している。「分類」は、走行レーン、走行挙動、及び、PHを踏んだか否かを表している。「分類」における最初の数字は「レーン」に対応している。「分類」における二番目の文字は、「走行挙動」に対応している。「分類」における三番目の数字は、「PH」に対応している。例えば、分類に「2-L-1」と記載されている行は、分析範囲に第2レーンから進入し、左側にずれて走行して、PHを踏んだ車両10について記載された行である。また、
図14において「数量」は、車両10の数量を示しており、「レーン別数量」は、各レーンに対応する車両10の数量を示している。
【0052】
また、
図15は、PH修繕前であってPHを踏まなかった車両10のデータを示している。この場合、「分類」における三番目の数字(PH)は、「0」で示される。
図16は、PH修繕後であってPHを踏んだ車両10のデータを示している。この場合、「分類」における三番目の数字(PH)は、「1」で示される。
図17は、PH修繕後であってPHを踏まなかった車両10のデータを示している。この場合、「分類」における三番目の数字(PH)は、「0」で示される。PH修繕後はPHが存在しないため、全ての車両10がPHを踏まなかった車両10に分類される。
【0053】
図18は、
図14から
図17に示したサンプルデータをまとめた図である。
図18において「左側へ移動」は、
図14から
図17の「走行挙動」が「L」の車両10を示している。「直進」は、
図14から
図17の「走行挙動」が「S」の車両10を示している。「S字」は、
図14から
図17の「走行挙動」が「S字」の車両10を示している。「右側へ移動」は、
図14から
図17の「走行挙動」が「R」の車両10を示している。「ステアリング操作量」は、ステアリングホイールを操作したときの最大角度に関する情報を示している。
【0054】
また、「修繕前」は、PH修繕前のサンプルデータに対応し、「修繕後」は、PH修繕後のサンプルデータに対応している。「通過」は、PHを踏んだ車両10を示しており、「非通過」は、PHを踏まなかった車両10を示している。
図18は、分析範囲に進入したときのレーンが第2レーンから第4レーンまでの車両10に絞ってまとめている。
【0055】
「修繕前」には、「通過」及び「非通過」の両方で「S字」の車両10が多く存在している。すなわち、PHを踏んだ車両10と、PHを踏まなかった車両10の両方で、S字走行を行ってPHの回避をはかった車両10が多く存在したことが分かる。また、「PH修繕前」と「PH修繕後」との「ステアリング操作量」を比較すると「修繕前」のほうが「ステアリング操作量」の標準偏差及び最大値が大きく、ステアリングホイールの操作量が多いことが分かる。また、「S字」の車両10について、「修繕前」の「通過」と「非通過」とを比較すると、「非通過」の割合が高いことが分かる。したがって、上記の「(1)PHを踏んだ車両10よりもPHを踏まない車両10のほうが、S字走行する傾向が高い」ことは正しいことが分かる。
【0056】
また、
図19は、走行レーンの分布を示した図である。実線は、PH修繕前を示しており、一点鎖線は、PH修繕後を示している。なお、t検定を実施し、PH修繕前とPH修繕後との2つの母集団には差異があり、集団として異なることを確認してある。夫々の走行レーンを見てみると、PH修繕前は、平均が3.8レーンで標準偏差が1.33であるのに対し、PH修繕後は、平均が3.3レーンで標準偏差が1.03である。PH修繕前に対してPH修繕後には、走行レーンが左側に寄ることが分かる。したがって、PH修繕前は、PHの回避行動として右側にずれて走行していると考えられる。したがって、上記の「(2)PH修繕前とPH修繕後とでは走行レーンに差があり、PH修繕後には道路の左側を走行する車両10が比較的多い」ことは正しいとが分かる。
【0057】
図20は、道路に存在するPHの一例を示した図である。
図3に示した例と同様に、道路の幅を7等分して、第1レーン(#1)から第7レーン(#7)の7つのレーンが存在するものとして考える。
図20で示した例では、2つのPHが存在している。また、
図21は、
図20に示した道路を上側から見た図である。
図4と同様に、第1レーン(#1)及び第7レーン(#7)以外のレーンを、分析範囲として分析を行った。
図21において、一点鎖線は車両10の走行軌跡を表している。PHは、第2レーン(#2)及び第3レーン(#3)にまたがっているものと、第5レーン(#5)及び第6レーン(#6)にまたがっているものとが存在している。
【0058】
図22は、
図20及び
図21で示した例において、PH修繕前であってPHを踏んだ車両10のデータを示している。また、
図23は、
図20及び
図21で示した例において、PH修繕前であってPHを踏まなかった車両10のデータを示している。データの構成については、
図14及び
図15と同じである。
図24は、
図22及び
図23に示したサンプルデータをまとめた図である。
図24において「第1例修繕前」は、
図18に示した修繕前のデータを示しており、「第2例修繕前」は、
図22及び
図23に対応したデータを示している。
図24の「第2例修繕前」においても、S字走行を行った車両10の傾向は「第1例修繕前」と同じである。すなわち、「第2例修繕前」の「通過」と「非通過」とを
比較すると、「非通過」のほうがS字走行を行う傾向が高いことが分かる。
【0059】
また、天気により車両10の挙動が変わることも考えられるため、異なる天気の日に取得したデータに基づいた分析を行った。
図25は、
図3に示した道路の分析範囲における雨の日と晴れの日との車両10のデータを示している。「雨」は雨の日に収集したデータを示しており、「晴れ」は晴れの日に収集したデータを示している。PHを踏んだ車両10(「通過」に分類されている車両10)は、雨の日および晴れの日のいずれであっても、道路の中央付近、すなわち、第3レーン及び第4レーンを走行する傾向が高い。一方、PHを踏まなかった車両10(「非通過」に分類されている車両10)は、雨の日および晴れの日の何れであっても、道路の左右、すなわち、第2レーンや第5レーンから第7レーンを走行する傾向が高い。
【0060】
図26は、
図3に示した道路の分析範囲における雨の日と晴れの日との車両10の挙動を示した図である。PHを踏んだ車両10は、雨の日および晴れの日で直進する傾向にある。
図25に示されるデータと合わせると、PHを踏んだ車両10は、道路の中央付近を直進する傾向が高い。雨の日および晴れの日においても、S字走行を行う車両10も存在する。そして、雨の日および晴れの日にかかわらず、「非通過」の車両10は、「通過」の車両10よりもS字走行を行う割合が高い。
【0061】
以上のように、PHが存在する場所において、PHを回避する挙動を示す車両10が多くなり、PHを回避するために走行ルートを変更する車両10が多くなることが分かる。したがって、PHが発生していると考えられる場所において、PHが存在すると考えられる位置から前後2秒間のステアリングホイールの操作量、または、車両10の横ずれ量とに基づいて、その場所にPHが存在するか否か判定することができる。また、車両10の分析範囲への進入ルートに基づいて、その場所にPHが存在するか否か判定することもできる。なお、ここでいう「PHが発生していると考えられる場所」とは、例えば、複数の車両10の車輪速度センサ107の検出値が、PHの存在を示している場所である。このような場所であっても、PHを回避した車両10の車輪速度センサ107からはPHを検出することができないため、本当にPHが存在するのか直ぐには判定せずに、車両10の挙動に基づいてPHが存在しているのか否か判定する。
【0062】
そこで、サーバ30は、車両10から取得したデータに基づいて、PHが発生していると考えられる場所を抽出する。そして、抽出した場所について、分析範囲を設定し、その分析範囲におけるS字走行の有無などに基づいてPHが本当に発生しているのか否か判定する。なお、S字走行は、第一の挙動の一例である。
【0063】
図27は、サーバ30の機能構成を例示した図である。サーバ30は、機能構成要素として、制御部31、車両情報DB321、及び、地図情報DB322を備える。サーバ30のプロセッサ301は、主記憶部302上のコンピュータプログラムにより、制御部31の処理を実行する。ただし、各機能構成素のいずれか、またはその処理の一部がハードウェア回路により実行されてもよい。制御部31には、異常抽出部311、異常判定部312、及び、通知部313が含まれる。
【0064】
車両情報DB321、及び、地図情報DB322は、プロセッサ301によって実行されるデータベース管理システム(Database Management System、DBMS)のプログラムが、補助記憶部303に記憶されるデータを管理することで構築される、例えば、リレーショナルデータベースである。なお、サーバ30の各機能構成要素のいずれか、またはその処理の一部は、ネットワークN1に接続される他のコンピュータにより実行されてもよい。
【0065】
車両情報DB321は、補助記憶部303に日時、位置、車輪速度、車両速度、及び、舵角に関する情報が格納されて形成されている。ここで、車両情報DB321に格納される車両情報の構成について、
図28に基づいて説明する。
図28は、車両情報のテーブル構成を例示した図である。車両情報テーブルは、車両10毎に形成されている。車両情報テーブルは、日時、位置、車輪速度、車両速度、及び、舵角の各フィールドを有する。日時フィールドには、車両10においてデータが取得された日時に関する情報が入力される。位置フィールドには、位置情報センサ105によって検出された位置に関する情報が入力される。位置は、例えば座標で表される。車輪速度フィールドには、車輪速度センサ107によって検出された車輪速度に関する情報が入力される。車両速度フィールドには、車両10の速度に関する情報が入力される。車両10の速度は、車輪速度センサ107の検出値と、予め登録されている車両の10のタイヤの外径とに基づいて算出してもよいし、車両10に取り付けられた速度センサからの検出値を取得してもよい。舵角フィールドには、舵角センサ106によって検出された舵角に関する情報が入力される。これらのデータは、各車両10から所定の時間毎に送信される。
【0066】
地図情報DB322には、地図データ、当該地図データ上の各地点の特性を示す文字や写真等のPOI(Point of Interest)情報を含む地図情報が格納される。なお、地図情
報DB322は、ネットワークN1に接続される他のシステム、例えば、GIS(Geographic Information System)から提供されてもよい。
【0067】
異常抽出部311は、車両情報DB321に格納されているデータに基づいて、PHが存在していそうな位置を抽出する。ここで、車両情報DB321には、例えば、各車両10について、位置情報と、車輪速度センサ107の検出値と、日時とが関連付けて格納されている。これらの情報に基づいて、異常抽出部311は、PHが存在する可能性のある位置を抽出する。異常抽出部311は、車輪速度センサ107の検出値に基づいて、車輪の回転加速度を算出する。そして、車輪の回転加速度が所定加速度以上であった位置を抽出する。そして、例えば、所定数以上の車両10において、車輪の回転加速度が所定加速度以上であった位置を、PHが存在している可能性のある位置として抽出する。
【0068】
なお、本実施形態では、異常抽出部311が、車輪速度センサ107の検出値に基づいてPHが存在している可能性のある位置を抽出しているが、これに限らず、PHに対応した信号を出力する他のセンサの検出値に基づいて、PHが存在している可能性のある位置を抽出してもよい。また、例えば、車両10の運転者または道路の歩行者からPHがある旨の通報があった位置を、PHが存在している可能性のある位置として抽出してもよい。この場合、ユーザ端末20からサーバ30へ、通報があった位置に関する情報が送信される。また、外部カメラ108により撮像された画像を解析することにより、PHが存在している可能性のある位置を抽出してもよい。
【0069】
異常判定部312は、異常抽出部311により抽出された、PHが存在している可能性のある位置(以下、PH候補位置ともいう。)について、PHが本当に存在しているのか否か判定する。異常判定部312は、PH候補位置について分析範囲を設定する。分析範囲は、例えば、車両10の速度に基づいて、PH候補位置から前後2秒間に車両10が走行する範囲に設定する。また、異常判定部312は、分析範囲を例えば7つのレーンに分割する。なお、本実施形態では道路を7つのレーンに分割して分析を行うが、分割数はこれに限らない。例えば、道路の広さに応じて分割数を多くしてもよい。また、車両10の平均速度に応じて分割数を決定してもよい。
【0070】
異常判定部312は、分析範囲を通過した車両10の進入レーンを車両情報DB321から取得する。さらに、異常判定部312は、分析範囲を通過した車両10がS字走行を行ったか否か判定する。異常判定部312は、例えば、車両10の横ずれが左右に所定量
(例えば、30cm)あった場合に、S字走行を行ったと判定してもよい。なお、横ずれ量に代えて、ステアリングホイールの操作量の標準偏差が所定値以上である場合、ステアリングホイールの操作量の最大値が所定値以上である場合、または、ステアリングホイールの操作量の分散が所定値以上である場合に、S字走行が行われたと判定してもよい。
図18で説明したように、PHが存在する場合には、ステアリングホイールの操作量の標準偏差、及び、ステアリングホイールの操作量の最大値が増加するため、これらの値に基づいた判定を行うこともできる。
【0071】
そして、異常判定部312は、PH候補位置において、車輪速度センサ107の検出値に基づいて、PHを踏んだときに対応する検出値が取得された車両10と、PHを踏んだときに対応する検出値が取得されなかった車両10とを比較することでPHが本当に存在するのか否か判定する。具体的には、異常判定部312は、PHを踏んでいない車両10のうちS字走行した車両10の割合が、PHを踏んだ車両10のうちS字走行した車両10の割合よりも大きい場合に、PHが存在すると判定する。すなわち、
図18の点線で囲んだ数値の傾向があった場合に、PHが存在すると判定する。
【0072】
そして、PHが存在すると異常判定部312が判定した場合に、通知部313は、PHが発生していることを示す情報をユーザ端末20に出力する。この情報には、PHが発生している位置についての情報(例えば、緯度及び経度)が含まれる。なお、PHが発生している位置については、地図情報DB322に格納されているデータに基づいて特定してもよい。
【0073】
次に、車両10の機能について説明する。
図29は、車両10の機能構成を示した図である。車両10は、機能構成要素として、データ送信部11を有する。車両10のプロセッサ101は、主記憶部102上のコンピュータプログラムにより、データ送信部11の処理を実行する。ただし、各機能構成素のいずれか、またはその処理の一部がハードウェア回路により実行されてもよい。
【0074】
データ送信部11は、位置情報センサ105、舵角センサ106、車輪速度センサ107、及び、外部カメラ108により得られたデータを所定時間毎に取得してサーバ30へ送信する。
【0075】
次に、サーバ30におけるPH判定処理について説明する。サーバ30は、車両10からデータを受信すると、PHが存在する可能性についての判定を行う。
図30は、本実施形態に係るPHが存在する可能性を判定するためのフローチャートである。
図30に示した処理は、サーバ30において、所定の時間毎に実行される。
【0076】
ステップS101において異常抽出部311は、車両10から車両情報を受信したか否か判定する。車両情報は、車両情報DB321に格納される情報である。ステップS101で肯定判定された場合にはステップS102へ進み、否定判定された場合には本ルーチンを終了させる。ステップS102において異常抽出部311は、車両情報を車両情報DB321に格納する。次いで、ステップS103において異常抽出部311は、車輪加速度を算出する。例えば、前回ルーチンの車輪速度と、今回ルーチンの車輪速度と、ルーチンの実行間隔とに基づいて、車輪の加速度を算出する。このときには、4輪夫々についての車輪加速度が算出される。
【0077】
ステップS104において異常抽出部311は、車輪加速度が所定加速度以上であるか否か判定する。ここでいう所定加速度は、PHを踏んだ場合の車輪加速度の下限値である。このステップS104では、4輪のうち1輪だけでも車輪加速度が所定加速度以上であれば肯定判定される。ステップS104で肯定判定された場合にはステップS106へ進
み、否定判定された場合には本ルーチンを終了させる。
【0078】
ステップS105において異常抽出部311は、車両10の位置を記憶する。ステップS106において異常抽出部311は、同じ位置が記憶されている場合に、その記憶されている数が所定数以上であるか否か判定する。ここでいう所定数は、PHが存在する可能性のある値として設定される。すなわち、同じ位置において車輪加速度が所定加速度以上となった車両10が所定数以上あった場合には、その位置にPHが存在している可能性が高いと考えられる。ステップS106において肯定判定された場合にはステップS107へ進み、否定判定された場合には本ルーチンを終了させる。ステップS107において異常抽出部311は、ステップS105において記憶した位置を、PH候補位置として登録する。このようにして、異常抽出部311は、PH候補位置を抽出する。
【0079】
次に、PH候補位置として登録された位置におけるデータを収集する処理について説明する。
図31は、PH候補位置に対応するデータを収集する処理のフローチャートである。
図31に示した処理は、サーバ30において、
図30に示したルーチンの後に実行される。
【0080】
ステップS201において異常判定部312は、車両10の位置がPH候補位置であるか否か判定する。登録されているPH候補位置と、車両10から送信される位置とが、異常判定部312によって比較される。ステップS201で肯定判定された場合にはステップS202へ進み、否定判定された場合には本ルーチンを終了させる。ステップS202において異常判定部312は、車輪加速度が所定加速度以上であるか否か判定する。ステップS104と同様の処理が実行される。ステップS202で肯定判定された場合にはステップS203へ進み、否定判定された場合にはステップS204へ進む。
【0081】
ステップS203において異常判定部312は、補助記憶部303に、車両10がPHを通過した(PHを踏んだ)旨の情報を記憶させる。一方、ステップS204において異常判定部312は、補助記憶部303に、車両10がPHを通過しなかった(PHを踏まなかった)旨の情報を記憶させる。
【0082】
ステップS205において異常判定部312は、車両10の左右のずれ量が所定量以上であるか否か判定する。本ステップS205では、車両10がS字走行を行ったか否か判定している。左右の横ずれ量は、右側及び左側に夫々ずれた距離である。ここでいう所定量は、PHを回避するためのS字走行を行った場合のずれ量であり、例えば、30cmである。すなわち、右、左、右の順に進行方向が変化したときに、右側に例えば30cmずれて、その後に左側に例えば30cmずれた場合に、左右の横ずれ量が所定量以上であると判定される。左、右、左の順に進行方向が変化する場合も同様に、左側に例えば30cmずれて、その後に左側に例えば30cmずれた場合に、左右の横ずれ量が所定量以上であると判定される。ステップS205で肯定判定された場合にはステップS206へ進み、否定判定された場合にはステップS207へ進む。
【0083】
ステップS206において異常判定部312は、補助記憶部303に、車両10がS字走行を行った旨の情報を記憶させる。一方、ステップS207において異常判定部312は、補助記憶部303に、車両10がS字走行を行わなかった旨の情報を記憶させる。このようにして、PH候補位置付近を通る車両10について、車輪加速度及び横ずれ量に関する情報を蓄積する。
【0084】
次に、PH候補位置にPHが存在するか否か判定する処理について説明する。
図32は、PH候補位置にPHが存在するか否か判定する処理のフローチャートである。
図32に示した処理は、サーバ30において、所定時間毎に実行される。
【0085】
ステップS301において異常判定部312は、PH候補位置に対応するデータの取得数が所定数以上であるか否か判定する。すなわち、PH候補位置を通過した車両10の数が、PHの存在を判定するのに十分な数に達したか否か判定している。ここでいう所定数は、PHの存在を判定するときの数であり、予め補助記憶部303に記憶されている。所定数が多いほど判定精度を高めることができるが、データを収集するのに時間がかかってしまうため、判定精度とデータを収集するのに要する時間とのどちらをどれだけ優先するのかに基づいて所定数を決定しておく。ステップS301で肯定判定された場合にはステップS302へ進み、否定判定された場合には本ルーチンを終了させる。
【0086】
ステップS302において異常判定部312は、PHが存在するか否か判定する。すなわち、ステップS203でPH通過と記憶され且つステップS206でS字走行を行ったと記憶された車両10(以下、「S字-1」車両という。)の割合と、ステップS204でPH非通過と記憶され且つステップS206でS字走行を行ったと記憶された車両10(以下、「S字-0」車両という。)の割合と、を比較する。
【0087】
「S字-1」車両は、運転者がPHに気が付いて回避行動をとったもののPHを踏んでしまった車両10と考えられる。一方、「S字-0」車両は、運転者がPHに気が付いて回避行動をとり、PHを踏まなかった車両10と考えられる。
図18の点線で囲んだ箇所を見れば分かるように、PHを通過した車両10のうち「S字-1」車両の割合よりも、PHを通過しなかった車両10のうち「S字-0」車両の割合のほうが高くなる。このように、S字走行を行った車両10の中でも、PHを踏んだ車両10とPHを踏まなかった車両10とには、はっきりとした差がある。
【0088】
したがって、PH候補位置において、このような傾向がみられた場合には、PHが存在すると判定する。ステップS302において異常判定部312は、PHを通過した車両10のうち「S字-1」車両の割合よりも、PHを通過しなかった車両10のうち「S字-0」車両の割合のほうが高いか否か判定する。ステップS302で肯定判定された場合にはステップS303へ進み、否定判定された場合にはステップS306へ進む。
【0089】
ステップS303において異常判定部312は、PH候補位置にPHが存在すると判定する。異常判定部312がPH候補位置にPHが存在すると判定したことを受けて、ステップS304において通知部313は、PHが発生していることをユーザ端末20に通知するための情報である通知情報を生成する。この通知情報には、PHが発生している位置に関する情報が含まれる。そして、ステップS305において通知部313は、通知情報をユーザ端末20に送信する。通知情報を受信したユーザ端末20では、例えば、ディスプレイ205にPHの位置が表示させる。このときに、例えば、ディスプレイ205に表示させる地図上にPHの位置を表示させてもよい。
【0090】
一方、ステップS306において異常判定部312は、PH候補位置にPHが存在しないと判定する。この場合、PHが存在しないと判定したことをユーザ端末20に通知してもよい。ステップS307において異常判定部312は、対応するPH候補位置に関するデータをリセットする。
【0091】
以上説明したように、第1実施形態によれば、車両10から取得される車輪速度センサ107の検出値に基づいて、PH候補位置を特定している。しかし、車輪速度センサ107の検出値だけでは、例えばマンホールの蓋を踏んだ場合もPHを踏んだ場合と同様の検出値が取得され得るため、誤判定の虞がある。これに対して異常判定部312は、PH候補位置においてさらにS字走行をしたか否かに基づいてPHが存在するか否か判定している。S字走行を行った車両10の中でも、PHを踏んだ車両10とPHを踏まなかった車
両10とには割合に明らかな差があり、例えばマンホールの蓋を踏んだ場合とは異なる傾向を示す。この傾向に基づいてPHが存在するか否か判定するため、単にS字走行を行ったか否かに基づいて判定する場合や、単に車輪速度センサ107の検出値に基づいて判定する場合と比較して、より高精度にPHが存在しているか否か判定することが可能となる。
【0092】
<第2実施形態>
第2実施形態では、車両10が走行したレーンに基づいてPHの有無を判定する。その他の構成については、第1実施形態と同じため説明を省略する。サーバ30の異常判定部312は、過去のデータと現在のデータとを比較し、車両10の走行レーンに変化がある場所にPHが存在すると判定する。そのため、異常抽出部311は、車両10から取得したデータを補助記憶部303に記憶させている。そして、例えば、PH候補位置が抽出された場合に、そのPH候補位置における過去のデータと現在のデータとを比較する。例えば、
図19に示したように、PHの有無によって車両10の走行レーンが変化する。したがって、例えば、過去の所定期間(第一の期間)における走行レーンの平均値と、現時点から将来の所定期間(第二の期間)における走行レーンの平均値とを夫々算出し、その差または比が所定値以上であればPHが存在すると判定する。
【0093】
なお、走行レーンは、位置情報センサ105の検出値を用いて取得してもよいし、外部カメラ108により取得される画像を解析することにより取得してもよい。また、
図19に示した道路では、7つのレーンに分割しているが、道路の広さなどに応じて分割数を変更することもできる。
【0094】
異常抽出部311は、
図30に示した処理によってPH候補位置を抽出する。
図33は、PH候補位置にPHが存在するか否か判定する処理のフローチャートである。
図33に示した処理は、サーバ30において、所定時間毎に実行される。なお、
図32に示したルーチンと同じ処理が実行されるステップについては、同じ符号を付して説明を省略する。
【0095】
ステップS401において異常判定部312は、PH候補位置に対応するデータの取得数が所定数以上であるか否か判定する。この取得数は、PH候補位置が抽出されてから新たに取得された同じ位置におけるデータの数である。ここでいう所定数は、車両10が走行したレーンの平均値を精度よく算出することのできるデータの数であり、予め補助記憶部303に記憶されている。所定数が多いいほど判定精度を高めることができるが、データを収集するのに時間がかかってしまうため、判定精度とデータを収集するのに要する時間とのどちらをどれだけ優先するのかに基づいて所定数が決定される。ステップS401で肯定判定された場合にはステップS402へ進み、否定判定された場合には本ルーチンを終了させる。
【0096】
ステップS402において異常判定部312は、PH候補位置における現時点での車両10の走行レーンの平均値を算出する。異常判定部312は、PH候補位置に基づいて分析範囲を設定し、分析範囲に進入したときの走行レーンを車両10毎に抽出し、その平均値を算出する。この平均値は、例えば、直近に分析範囲を通過した所定数の車両10について算出される。
【0097】
ステップS403において異常判定部312は、PH候補位置における過去の車両10の走行レーンの平均値を算出する。ここでいう過去とは、PH候補位置が抽出されるよりも前の時期を示す。異常判定部312は、車両情報DB321に格納されている車両情報から、日時が過去の所定期間に含まれ、且つ、位置が分析範囲に含まれるレコードを抽出し、夫々の位置情報に基づいて走行レーンを取得する。例えば道路を7分割し、夫々のレーンの位置の範囲を異常判定部312が求めて補助記憶部303に記憶させておく。そし
て、車両情報DB321に格納されている位置情報が、補助記憶部303に記憶されている各レーンの範囲の何れに含まれるのか判定する。異常判定部312は、例えば、ステップS401に係る所定数と同数の車両10のデータを抽出して平均レーンを算出する。
【0098】
ステップS404において異常判定部312は、ステップS402で算出した現在の走行レーンの平均値と、ステップS403で算出した過去の走行レーンの平均値との差が、所定値以上であるか否か判定する。所定値は、PHが存在する場合と存在しない場合との走行レーンの差として補助記憶部303に記憶されている。ステップS404で肯定判定された場合にはステップS303へ進み、否定判定された場合にはステップS306へ進む。
【0099】
以上説明したように、第2実施形態によれば、車両10から取得される現在と過去との走行レーンを比較することにより、PHが存在するか否か判定することができる。
【0100】
なお、第2実施形態では、現在と過去とで同じ場所における平均レーンを比較しているが、比較に用いる過去の平均レーンは、異なる場所における平均レーンであってもよい。例えば、全国の道路において車両10が走行するときの平均レーンを予め求めておいて、比較対象としてもよい。
【0101】
<第3実施形態>
第1実施形態では、現在の車両情報を利用してS字走行が行われたか否か判定し、その結果に基づいてPHが存在するか否か判定しているが、これに代えて、過去のデータとの比較に基づいてS字走行を行う車両10が増加している場合に、PHが存在すると判定してもよい。例えば、PHが発生していなと分かっている時期における車両データを補助記憶部303に記憶させておく。そして、PH候補位置において過去にS字走行を行った車両10の割合と、現在でS字走行を行う車両10の割合との差または比が、所定差または所定比以上である場合に、PHが存在すると判定してもよい。
【0102】
サーバ30の異常判定部312は、過去の所定期間において分析範囲を通過した全車両10のうち、S字走行を行った車両10の割合を算出する。また、異常判定部312は、現時点から所定期間において分析範囲を通過する全車両10のうち、S字走行を行った車両10の割合を算出する。そして、過去と現在とでS字走行をした車両10の割合を比較して、その差が所定差以上の場合にPHが存在すると判定する。ここでいう所定差は、PHが発生したことにより増加するS字走行を行う車両10の割合であり、補助記憶部303に記憶されている。
【0103】
このように、現在と過去とのS字走行を行った車両10の割合を比較することによっても、PHが存在するか否か判定することができる。
【0104】
<第4実施形態>
第4実施形態では、人による道路の点検と組み合わせてPHの存在の有無を判定する。ここで、人が目視によって道路を点検することもある。例えば、サーバ30による監視では道路の異常を見落とすことも考えられる。また、PH候補位置において車両10の通過量が少ないと、PHの存在を判定するために時間を要するため、人が現地に行って目視で確認することも考えられる。一方、全ての道路を目視だけで点検するには、多くの人と時間が必要となる。そこで、第4実施形態では、人による目視と、サーバ30による監視とを組み合わせて道路を監視する。
【0105】
サーバ30は、人の目視による道路の点検のスケジュールを取得し、目視が行われてから所定期間は、同じ場所においてサーバ30がPHの存在を判定しないこととする。すな
わち、目視での点検が行われた場合には、PHがないか、PHがあったとしても修繕されるため、目視での点検後の所定期間はPHの存在を判定しない。そして、目視での点検後に、所定期間が経過してから、PHの存在の有無を判定する。例えば、目視による点検が行われてから所定期間は、第1実施形態から第3実施形態において
図30における処理を実行しないようにしてもよい。これにより、サーバ30の負荷を低減することができる。また、目視による点検から所定期間が経過すると、新たにPHが発生する虞もあるため、サーバ30による監視を行う。すなわち、
図30における処理を所定時間ごとに実行する。これにより、PHが発生した場合、次の目視による点検を待たずして、PHが存在していると判定することができるため、PHを早期に修繕することができる。
【0106】
図34は、サーバ30による道路の監視を行うか否か判定するための処理のフローチャートである。本ルーチンは、サーバ30において所定の時間毎に実行される。また、本ルーチンは、例えば、道路毎、地域毎、または、予め定めた範囲毎に実行される。ステップS501において異常抽出部311は、目視による道路の点検のスケジュールを取得する。目視による道路の点検スケジュールは、例えばユーザ端末20において入力され、サーバ30の補助記憶部303に記憶されている。このスケジュールには、目視による点検を行う日時、及び、位置に関する情報が含まれる。
【0107】
ステップS502において異常抽出部311は、目視による点検からの経過日数が所定日数以上であるか否か判定する。所定日数は、PHが発生し得る日数として補助記憶部303に記憶させておく。ステップS502で肯定判定された場合にはステップS503へ進み、否定判定された場合にはステップS504へ進む。
【0108】
ステップS503において異常抽出部311は、PHが存在する可能性を判定する処理を開始する。この処理は、
図30に示した処理である。一方、ステップS504において異常判定部312は、PHが存在する可能性を判定する処理を停止する。
【0109】
以上説明したように第4実施形態によれば、人の目視による点検とサーバ30による道路の監視とを組み合わせてPHの存在を判定するため、サーバ30の計算負荷を低減することができる。また、目視による点検だけだと突発的に発生したPHを発見するまでに時間がかかる虞があるが、サーバ30による監視を組み合わせることにより、PHの早期発見が可能となる。
【0110】
<第5実施形態>
第5実施形態では、同一の車両10の過去の挙動と現在の挙動とを比較してPHが存在するか否か判定する。
図12で説明したように、PHが存在する場所を同一の車両10が複数回通過すると、最初のほうはPHを踏んでいても、運転者がPHの位置を覚えることによりPHを踏まなくなる。したがって、例えば、車輪速度センサ107の検出値に基づいてPHを踏んだ可能性があると判定されたとしても、その後に車輪速度センサ107の検出値に基づいてPHを踏んだ可能性があると判定されないようになった場合には、そこにPHが存在すると考えられる。例えば、車輪速度センサ107によってPHが検出されなくなった場合で、且つ、車両10がS字走行を行った場合に、PHが存在すると判定してもよい。また、車輪速度センサ107によってPHが検出されなくなった場合で、且つ、車両10の走行レーンが変化した場合に、PHが存在すると判定してもよい。
【0111】
図35は、第5実施形態に係るPHが存在するか否か判定する処理のフローチャートである。
図35に示すルーチンは、サーバ30において各車両10について所定の時間毎に実行される。上記のフローチャートと同じ処理が実行されるステップについては、同じ符号を付して説明を省略する。
図35に示したルーチンでは、ステップS104で肯定判定されると、ステップS601へ進む。ステップS601において異常抽出部311は、車
両10の位置を、PH候補位置として登録する。ここでは、車輪加速度が所定速度以上であれば、すぐにその位置をPH候補位置として登録する。このPH候補位置は、当該車両10にのみ対応する位置であり、他の車両10がこの位置を通過してもPH候補位置とは扱われない。
【0112】
一方、ステップS104において否定判定された場合にはステップS602へ進む。ステップS602において異常判定部312は、車両10の位置が、PH候補位置として登録されている位置であるか否か判定する。すなわち、車両10からPHを踏んだときに対応する情報が出力された後であるか否か判定している。ステップS602で肯定判定された場合にはステップS603へ進み否定判定された場合には本ルーチンを終了させる。
【0113】
ステップS603において異常判定部312は、車両10の左右のずれ量が所定量以上であるか否か判定する。本ステップS603では、車両10がS字走行を行ったか否か判定している。PH候補位置として登録された後に、車輪加速度が所定加速度以上ではなくなり、且つ、横ずれ量が所定量以上の場合には、車両10がS字走行を行ってPHを回避していると考えられる。ステップS603で肯定判定された場合にはステップS604へ進み、否定判定された場合にはステップS605へ進む。
【0114】
ステップS604において異常判定部312は、PH候補位置にPHが存在すると判定する。すなわち、過去(第一の時期)と現在(第二の時期)とで車両10の挙動が変化しており、車両10にPHを回避する挙動が現れているため、PHが存在すると判定する。一方、ステップS605において異常判定部312は、PH候補位置にPHが存在しないと判定する。すなわち、車輪加速度が所定加速度以上となった後に、その道路を再度通るときに車両10がS字走行を行わない場合には、ユーザは、PHを認識していない可能性が高い。この場合、PHが存在しないものと考えられる。したがって、異常判定部312は、この場所にPHが存在しないと判定する。そして、ステップS606において異常判定部312は、この場所についてPH候補位置として記憶されている情報を削除することでPH候補位置をリセットする。
【0115】
また、
図36は、第5実施形態に係るPHが存在するか否かを走行レーンに基づいて判定する処理のフローチャートである。
図36に示すルーチンは、サーバ30において各車両10について所定の時間毎に実行される。上記のフローチャートと同じ処理が実行されるステップについては、同じ符号を付して説明を省略する。
図36に示したルーチンでは、ステップS104で肯定判定されると、ステップS601において異常抽出部311が、車両10の位置を、PH候補位置として登録し、ステップS701において異常抽出部311が、PH候補位置を含む分析範囲に車両10が進入したときの走行レーンを補助記憶部303に記憶させる。この走行レーンは、PHが存在する可能性のあるレーンである。
【0116】
一方、ステップS602で肯定判定された場合には、ステップS702において異常判定部312は、ステップS702において記憶された走行レーンと、今回の走行レーンとを比較して変化しているか否か判定する。すなわち、運転者がPHの位置を覚えていて予め走行レーンを変えているか否か判定される。今回の走行レーンは、ステップS102において更新された車両情報DB321から読み込む。ステップS702で肯定判定されて場合にはステップS703へ進み、否定判定された場合にはステップS704へ進む。
【0117】
ステップS703において異常判定部312は、PH候補位置にPHが存在すると判定する。一方、ステップS704において異常判定部312は、PH候補位置にPHが存在しないと判定する。すなわち、車輪加速度が所定加速度以上となった後に、その道路を再度通るときに車両10の走行レーンが変化していないにも関わらず車輪加速度が所定加速
度未満になっているため、PH候補位置として記憶されたときにはPH以外の要因によって車輪加速度が所定加速度以上になったものと考えられる。したがって、異常判定部312は、この場所にPHが存在しないと判定する。
【0118】
なお、一台の車両10の結果だけでPHが存在しているか否か判定すると、PH以外の要因の影響によって誤判定する虞もある。そのため、例えば、複数の車両10においてPHが存在していると判定された場合に、通知部313が通知情報を生成してもよい。この場合、
図34及び
図35のステップS304及びステップS305の処理は行わない。そして、以下の処理が実行される。
【0119】
図37は、複数の車両10のデータに基づいてPHの存在を通知する処理のフローチャートである。
図37に示すルーチンは、サーバ30において所定の時間毎に実行される。ステップS801において通知部313は、PHが存在すると判定された車両10の数が所定数以上であるか否か判定する。所定数は、PHを精度よく検出するために必要となる車両10の数として補助記憶部303に記憶されている。本ステップS801では、ステップS604またはステップS703でPHが存在すると判定された車両10の数が十分に多いか否か判定している。ステップS801で肯定判定された場合にはステップS802へ進み、否定判定された場合には本ルーチンを終了する。否定判定された場合には、ユーザ端末20への通知は行われない。
【0120】
ステップS802において通知部313は、PHが存在すると確定する。すなわち、複数の車両10においてPHが存在すると判定されているため、その位置にPHが存在していると確定し、ステップS304以降の処理によってユーザ端末20に通知情報を送信する。
【0121】
以上説明したように第5実施形態によれば、同一の車両10が同じ道路を通ったときの挙動の変化に基づいてPHが存在するか否か判定することができる。
【0122】
<その他の実施形態>
上記の実施形態はあくまでも一例であって、本開示はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。
【0123】
本開示において説明した処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
【0124】
また、1つの装置が行うものとして説明した処理が、複数の装置によって分担して実行されてもよい。あるいは、異なる装置が行うものとして説明した処理が、1つの装置によって実行されても構わない。コンピュータシステムにおいて、各機能をどのようなハードウェア構成(サーバ構成)によって実現するかは柔軟に変更可能である。例えば、サーバ30の機能の一部または全部を、車両10またはユーザ端末20が有していてもよい。
【0125】
本開示は、上記の実施形態で説明した機能を実装したコンピュータプログラムをコンピュータに供給し、当該コンピュータが有する1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。このようなコンピュータプログラムは、コンピュータのシステムバスに接続可能な非一時的なコンピュータ可読記憶媒体によってコンピュータに提供されてもよいし、ネットワークを介してコンピュータに提供されてもよい。非一時的なコンピュータ可読記憶媒体は、例えば、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクドライブ(HDD)等)、光ディスク(CD-ROM、DVDディスク、ブルーレイディスク等)など任意のタイプのディスク、読み込み専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、EPROM、EEPROM、磁気
カード、フラッシュメモリ、光学式カード、電子的命令を格納するために適した任意のタイプの媒体を含む。
【符号の説明】
【0126】
1 システム
10 車両
20 ユーザ端末
30 サーバ
31 制御部
301 プロセッサ
302 主記憶部
303 補助記憶部
304 通信部