IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧

特開2023-180283二重パラペット護岸および二重パラペット護岸の諸元決定方法
<>
  • 特開-二重パラペット護岸および二重パラペット護岸の諸元決定方法 図1
  • 特開-二重パラペット護岸および二重パラペット護岸の諸元決定方法 図2
  • 特開-二重パラペット護岸および二重パラペット護岸の諸元決定方法 図3
  • 特開-二重パラペット護岸および二重パラペット護岸の諸元決定方法 図4
  • 特開-二重パラペット護岸および二重パラペット護岸の諸元決定方法 図5
  • 特開-二重パラペット護岸および二重パラペット護岸の諸元決定方法 図6
  • 特開-二重パラペット護岸および二重パラペット護岸の諸元決定方法 図7
  • 特開-二重パラペット護岸および二重パラペット護岸の諸元決定方法 図8
  • 特開-二重パラペット護岸および二重パラペット護岸の諸元決定方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180283
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】二重パラペット護岸および二重パラペット護岸の諸元決定方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
E02B3/06 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093422
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】千綿 蒔
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA11
2D118AA12
2D118AA20
2D118FA01
2D118FA06
2D118JA11
2D118JA17
(57)【要約】
【課題】高潮リスクの増大等に適応し得る構造を有し、かつ、比較的簡易に構築することが可能な二重パラペット護岸およびパラペットの諸元を客観的に決定できる二重パラペット護岸の諸元決定方法を提案する。
【解決手段】既存の堤体2と、堤体2の上面に立設された既存パラペット3と、既存パラペット3の後方に間隔をあけて設けられた新設パラペット4とを備える二重パラペット護岸1と、既存パラペット3と新設パラペット4との間隔lおよび新設パラペット4の水面からの高さhを決定する二重パラペット護岸1の諸元決定方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の堤体と、前記堤体の上面に立設された既存パラペットと、前記既存パラペットの後方に間隔をあけて設けられた新設パラペットとを備える二重パラペット護岸であって、
前記既存パラペットと前記新設パラペットとの間隔lおよび前記新設パラペットの水面からの高さhが、式1を満足するように設定されていることを特徴とする、二重パラペット護岸。
【数1】
【請求項2】
前記新設パラペットの水面からの高さが、前記既存パラペットの水面からの高さよりも大きいことを特徴とする、請求項1に記載の二重パラペット護岸。
【請求項3】
堤体の海側に設けられる海側パラペットと、当該海側パラペットの後方に設けられる陸側パラペットとを備える二重パラペット護岸の諸元を決定する二重パラペット護岸の諸元決定方法であって、
前記堤体に前記海側パラペットが単独で設けられている場合の当該海側パラペットに対する無次元化された越波流量である第一越波流量を算定する工程と、
前記陸側パラペットに対する無次元化された越波流量である第二越波流量を設定する工程と、
前記第一越波流量と前記第二越波流量を用いて式1を満足する前記海側パラペットと前記陸側パラペットとの間隔lと、前記陸側パラペットの水面からの高さhとの組み合わせを決定する工程と、を備えていることを特徴とする二重パラペット護岸の諸元決定方法。
【数2】
【請求項4】
既存の堤体に設けられた既存パラペットの後方に間隔lを確保して新設パラペットを新設する際の当該新設パラペットの水面からの高さhを決定する二重パラペット護岸の諸元決定方法であって、
前記堤体に前記既存パラペットが単独で設けられている場合の当該既存パラペットに対する無次元化された越波流量である第一越波流量を算定する工程と、
前記新設パラペットに対する無次元化された越波流量である第二越波流量を設定する工程と、
前記第一越波流量と前記第二越波流量を用いて式1を満足する前記新設パラペットの水面からの高さhを決定する工程と、を備えていることを特徴とする二重パラペット護岸の諸元決定方法。
【数3】
【請求項5】
既存の堤体に設けられた既存パラペットの後方に、水面からの高さhの新設パラペットを新設する際の前記既存パラペットと前記新設パラペットとの間隔lを決定する二重パラペット護岸の諸元決定方法であって、
前記堤体に前記既存パラペットが単独で設けられている場合の当該既存パラペットに対する無次元化された越波流量である第一越波流量を算定する工程と、
前記新設パラペットに対する無次元化された越波流量である第二越波流量を設定する工程と、
前記第一越波流量と前記第二越波流量を用いて式1を満足する前記間隔lを決定する工程と、を備えていることを特徴とする二重パラペット護岸の諸元決定方法。
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重パラペット護岸および二重パラペット護岸の諸元決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海岸や河岸では、水流や波浪による浸食被害の抑制を目的として、護岸が設けられている。このような護岸として、高潮発生時等における越波や越流による浸水被害を抑制するために、天端部にパラペットが形成されたパラペット護岸が採用される場合がある。
近年では、地球温暖化に起因する海面水位の上昇や熱帯低気圧の増強などによる高潮が懸念されている。既存の護岸を越流する高潮が発生すれば、浸水により多大な被害が生じるおそれがある。
そのため、高潮等に起因する護岸の越波流量を低減できる護岸として、堤体上面の港外側(海側)と港内側(陸側)にそれぞれパラペットを設けた二重パラペット護岸が採用されている(例えば、特許文献1,2参照)。
二重パラペット護岸のパラペットの諸元を決定するための具体的な手法は確立されておらず、過去のデータや経験値等に基づき設定された諸元に対して水理実験等を実施することで決定するのが一般的である。ところが、気候変動による高潮リスクの増大に適応した二重パラペット護岸を設計しようとすると、過去のデータや経験値を使用できないことから、パラペットの諸元を客観的に決定できる方法の確立が求められている。
また、既存の護岸を新たに二重パラペット護岸に改修するためには、大規模な護岸改良が必要であり、多大なコストと手間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-204529号公報
【特許文献2】特開2001-073338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高潮リスクの増大等に適応し得る構造を有し、かつ、比較的簡易に構築することが可能な二重パラペット護岸およびパラペットの諸元を客観的に決定できる二重パラペット護岸の諸元決定方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決する本発明の二重パラペット護岸は、既存の堤体と、前記堤体の上面に立設された既存パラペットと、前記既存パラペットの後方に間隔をあけて設けられた新設パラペットとを備えるものである。前記既存パラペットと前記新設パラペットとの間隔lおよび前記新設パラペットの水面からの高さhは、式1を満足するように設定する。なお、前記新設パラペットの水面からの高さは、前記既存パラペットの水面からの高さよりも大きくするのが望ましい。
また、本発明の二重パラペット護岸の諸元決定方法は、堤体の海側に設けられた海側パラペットと当該海側パラペットの後方に設けられた陸側パラペットとを備える二重パラペット護岸の諸元を決定するものであって、前記堤体に前記海側パラペットが単独で設けられている場合の当該海側パラペットに対する無次元化された越波流量である第一越波流量を算定する工程と、前記陸側パラペットに対する無次元化された越波流量である第二越波流量を設定する工程と、前記第一越波流量と前記第二越波流量を用いて式1を満足する前記海側パラペットと前記陸側パラペットとの間隔lと、前記陸側パラペットの水面からの高さhとの組み合わせを決定する工程とを備えている。間隔lおよび高さhの一方が与えられている場合には、式1を用いて他方の値を決定する。
かかる二重パラペット護岸および二重パラペット護岸の諸元決定方法によれば、既存の護岸を二重パラペット護岸に改修する際に、気候変動による高潮リスクの増大に適応した構造を構築できる。また、既存護岸を利用しつつ、越波流量の低減効果を獲得できる。また、陸上部分の工事のみで、適応できるため、水上工事を伴う改修工事に比べて、施工費用が安価である。
【0006】
【数1】
【発明の効果】
【0007】
本発明の二重パラペット護岸によれば、高潮リスクの増大等に適応し得る構造を、比較的簡易に構築することが可能となる。
本発明の二重パラペット護岸の諸元決定方法によれば、二重パラペットの諸元を客観的に決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る二重パラペット護岸の概要を示す断面図である。
図2】既存のパラペット護岸の例を示す断面図である。
図3】本発明に実施形態に係る二重パラペット護岸の諸元決定方法の手順を示すフローチャートである。
図4】既存パラペットの諸元の説明図である。
図5】新設パラペットの諸元の説明図である。
図6】水理実験に用いた護岸模型を示す概略図である。
図7】水理実験結果を示す図であって、後側パラペットの高さと波高Hの比と無次元越波流量の関係を示すグラフである。
図8】水理実験結果を示す図であって、越波低減率と各諸元の無次元量の関係を示すグラフである。
図9】数値実験結果を示す図であって、越波低減率と各諸元の無次元量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、高潮等に起因する護岸の越波流量を低減するための二重パラペット護岸1について説明する。図1に二重パラペット護岸1の概要を示す。二重パラペット護岸1は、図1に示すように、既存の堤体2と、堤体2の上面に立設された既存パラペット(海側パラペット)3と、既存パラペット3の後方(陸側)に間隔をあけて設けられた新設パラペット(陸側パラペット)4とを備えている。
ここで、図2に示すように、既存のパラペット護岸10は、既往の最高潮位TLに対して、越波・越流を抑制できるパラペット(既存パラペット3)が形成されている。一方、地球温暖化等の影響により将来の最高潮位TLが上昇することが予想される場合には、越波・越流により陸地に浸水するおそれがある。そのため、本実施形態では、図1に示すように、既存パラペット3の陸側に新設パラペット4を設けることで、越波・越流のリスクを低減させて、浸水被害の抑制を図る。なお、図2は、既存のパラペット護岸10の一例を示す説明図である。
【0010】
新設パラペット4の水面からの高さは、既存パラペット3の水面からの高さよりも大きくする。新設パラペット4の水面からの高さhおよび既存パラペット3との間隔l(二重パラペット護岸1の諸元)は、以下の手順により決定する。本実施形態では、各パラペットの高さの基準を、想定される高潮の潮位とする。
図3に二重パラペット護岸(新設パラペット)の諸元決定方法の手順を示す。二重パラペット護岸の諸元決定方法は、図2に示すように、第一越波流量算定工程S1と、第二越波流量設定工程S2と、越波流量低減率算定工程S3と、諸元決定工程S4とを備えている。
第一越波流量算定工程S1は、堤体2に既存パラペット3が単独で設けられている場合の既存パラペット3に対する無次元化された越波流量である第一越波流量q を算定する工程である(図4参照)。図4は、既存パラペット3の諸元の説明図である。第一越波流量q は、式2により算出する。
【0011】
【数2】
【0012】
第二越波流量設定工程S2は、新設パラペット3に対する無次元化された越波流量である第二越波流量q を設定する工程である(図5参照)。なお、図5は、新設パラペットの諸元の説明図である。第二越波流量q は、波浪条件等による許容越波流量(目標となる越波流量の許容量)であって、施設等の利用目的に応じて設定する。
越波流量低減率算定工程S3は、第一越波流量q と第二越波流量q から目標となる越波流量低減率(第一越波流量q に対する第二越波流量q の比)を算定する工程である。越波流量低減率を式3に示す。
【0013】
【数3】
【0014】
諸元決定工程S4は、越波流量低減率を用いて式1を満足する既存パラペット3と新設パラペット4との間隔lと、新設パラペット4の水面からの高さhとの組み合わせを決定する工程である。なお、式1中の「H’」は、換算沖波波高であって、「沖波が浅水変形(水深による波高や波長の変化)によって変化して護岸に到達する」時の浅水変形する前の沖波の波高である。
【0015】
【数4】
【0016】
本実施形態の二重パラペット護岸1によれば、既存の護岸を、二重パラペット護岸1に改修する際に、気候変動による高潮リスクの増大に適応した構造を構築できる。
また、既存の護岸を利用しつつ、越波流量の低減効果を獲得できる。既往の最高潮位TLに対して、地球温暖化等の影響により将来の最高潮位TLが上昇することが予想される場合には、図2に示すように、越波・越流により陸地に浸水するおそれがあるが、本実施形態の二重パラペット護岸1によれば、図1に示すように、既存の堤体2に対して、新設パラペット4を設けることで、越波・越流のリスクを低減できる。
さらに、堤体2の陸上部分の工事のみで、適応できるため、水上工事を伴う従来の改修工事に比べて、簡易に構築することができ、施工費用が安価である。
【0017】
次に、越波流量と二重パラペット護岸の各諸元の定量的評価を目的として実施した水理実験及び数値実験について説明する。
図6に水理実験に用いた護岸模型を示す。本実験では、想定模型縮尺1/20で、幅80cm、水深50cmの二次元長水槽を用いて、二重パラペット護岸(直立護岸)に対する越波流量の測定を行った。越波流量は、二重パラペットの背後に集水した水量を測定した。実験ケースは、前側パラペット(海側パラペット)の天端高(水面からの高さ)hを0~50mm、後側パラペット(陸側パラペット)の天端高(水面からの高さ)hを100~300mmとし、前側パラペットと後側パラペットの間の排水はないものとした(図6参照)。また、比較例として、前側パラペットのみのケースについても越波流量の測定を行った。入射波の波高Hは、規則波・不規則波ともに10cmで一定とし、護岸を取り除いた水平水路を用いた入射検定により、目標波を確認した。
表1に実験の条件を示す。
【0018】
【表1】
【0019】
図7に周期1.3秒の規則波、前側パラペットの高さが50mmの場合について、後側パラペットの高さhと波高Hの比(h/H)と無次元越波流量qの関係を示す。なお、実験は、パラペット間隔lと後側パラペットの高さhの比(l/h)が1の場合と3の場合についてそれぞれ実施した。また、比較例(Single)として、後側パラペットと同じ高さの単独パラペットの場合についても実験を行った。図7に示すように、二重パラペットによって、単独パラペットよりも越波流量が低減することが確認できた。また、パラペット間隔が大きい方(l/h=3)が、越波流量が小さくなる傾向であった。
【0020】
図8に、水理実験結果に基づいて、縦軸を越波低減率の対数軸とし、横軸を前後のパラペットの高さの差(h-h)、間隔l、入射波高Hおよび波長Lを含む無次元数で示したグラフを示す。図8に示すように、越波低減率と各諸元の無次元量は、おおむね比例関係にあり、二重パラペットによる越波流量は、入射波とパラペット諸元により定量的に評価可能であることが確認できた。なお、水理実験結果から求めた式1中の定数(比例定数)α、β(図8中の点線の傾きと切片)は、α=-7.41,β=0.13であった。
【0021】
また、3次元流体解析ソフトを利用して、水理実験の条件に準じた解析条件により、鉛直二次元の数値実験を実施し、より多くのケースを検討した。図9に越波低減率と各諸元の無次元量の関係を示す。図9に示すように、数値実験においても、水理実験結果と同様に、越波低減率と各諸元の無次元量は、おおむね比例関係を示し、二重パラペットの有効性が確認できた。また、回帰曲線の傾きも、水理実験と同等であった。
以上の結果から、式1を利用すれば、波高や波長に応じたパラペットの諸元を決定することが確認できた。
【0022】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
前記実施形態では、海側パラペットと陸側パラペットとの間隔lと、陸側パラペットの水面からの高さhとの組み合わせを決定する場合について説明したが、堤体の形状や敷地の条件等により、海側パラペットと陸側パラペットとの間隔lが決定する場合には、式1を利用して間隔lに対応する陸側パラペットの高さhを決定すればよい。同様に、陸側パラペットの高さhが予め決定している場合には、高さhに応じた間隔lを式1により決定すればよい。
前記実施形態では、既存の堤体2に対して、既存パラペット3の陸側に新設パラペット4を構築する場合について説明したが、本実施形態の二重パラペット護岸の諸元決定方法は、二重パラペット護岸(海側パラペットおよび陸側パラペット)を新設する場合の諸元を決定する際に使用してもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 二重パラペット護岸
2 堤体
3 既存パラペット(海側パラペット)
4 新設パラペット(陸側パラペット)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9