(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180287
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】送給制御アーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20231214BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B23K9/095 515Z
B23K9/12 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093436
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
(72)【発明者】
【氏名】中俣 利昭
(57)【要約】
【課題】グロビュール移行又はスプレー移行での消耗電極アーク溶接において、アーク長を短く設定しても、長期短絡の発生を抑制して良好な溶接品質を得ること。
【解決手段】溶接ワイヤを送給し、グロビュール移行又はスプレー移行で溶滴移行させて溶接する送給制御アーク溶接方法において、溶接電圧Vwを周期的に変動させて溶滴移行を行わせ、溶接電圧Vwの変動に同期して正逆送給Fwを行う。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給し、グロビュール移行又はスプレー移行で溶滴移行させて溶接する送給制御アーク溶接方法において、
前記溶滴移行に同期して前記溶接ワイヤの正逆送給を行う、
ことを特徴とする送給制御アーク溶接方法。
【請求項2】
前記同期は、前記溶滴移行の周期を検出し、前記正逆送給の周期を前記溶滴移行の周期の検出した値に設定することによって行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の送給制御アーク溶接方法。
【請求項3】
溶接電圧を周期的に変動させて前記溶滴移行を行わせ、
前記同期は、前記溶接電圧の変動に基づいて前記正逆送給を行うことによって行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の送給制御アーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤを送給し、グロビュール移行又はスプレー移行で溶滴移行させて溶接する送給制御アーク溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消耗電極アーク溶接において、溶接電流値が150~200A以上の中・大電流域では、溶滴移行はグロビュール移行又はスプレー移行となる。グロビュール移行又はスプレー移行の消耗電極アーク溶接では、溶滴は母材に短絡することなく移行することになる。しかし、溶滴移行時に全く短絡が発生しないような長いアーク長で溶接を行うと、アンダーカット、シールド不良等が発生し溶接不良となることが多い。このために、グロビュール移行又はスプレー移行での消耗電極アーク溶接においては、溶接不良を回避するために、溶滴移行に伴って微小短絡が発生する短いアーク長に設定するのが一般的である。この溶滴移行に伴う短絡が、1ms以下の微小短絡であるときは溶接品質にはさほど悪影響はない。しかし、1msを超える長期短絡が多数回発生するようになると溶接品質が悪くなる。
【0003】
特許文献1の発明では、グロビュール移行又はスプレー移行での消耗電極アーク溶接において、溶接電圧を100Hz以上600Hz以下の周波数で周期的に変動させている。このようにすると、溶接電圧の変動に同期して溶滴移行が行われるようになり、長期短絡の発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶接速度が1m/min以上となる高速溶接、突き出し長さが20mm以上となる狭開先溶接等では、溶接品質を良好にするために、アーク長を一段と短く設定する必要がある。、このような場合において、溶接電圧を変動させる従来技術を適用しても、長期短絡の発生を十分に抑制することができないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明では、グロビュール移行又はスプレー移行での消耗電極アーク溶接において、アーク長を短く設定しても、長期短絡の発生を抑制して良好な溶接品質を得ることができる送給制御アーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤを送給し、グロビュール移行又はスプレー移行で溶滴移行させて溶接する送給制御アーク溶接方法において、
前記溶滴移行に同期して前記溶接ワイヤの正逆送給を行う、
ことを特徴とする送給制御アーク溶接方法である。
【0008】
請求項2の発明は、
前記同期は、前記溶滴移行の周期を検出し、前記正逆送給の周期を前記溶滴移行の周期の検出した値に設定することによって行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の送給制御アーク溶接方法である。
【0009】
請求項3の発明は、
溶接電圧を周期的に変動させて前記溶滴移行を行わせ、
前記同期は、前記溶接電圧の変動に基づいて前記正逆送給を行うことによって行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の送給制御アーク溶接方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、グロビュール移行又はスプレー移行での消耗電極アーク溶接において、アーク長を短く設定しても、長期短絡の発生を抑制して良好な溶接品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る送給制御アーク溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る送給制御アーク溶接方法を示す
図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【
図3】本発明の実施の形態2に係る送給制御アーク溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。
【
図4】本発明の実施の形態2に係る送給制御アーク溶接方法を示す
図3の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る送給制御アーク溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。以下、同図を参照して各構成物について説明する。
【0014】
溶接電源PSは、3相200V等の交流商用電源(図示は省略)を入力として、後述する溶接電圧設定信号Vrに基づいてインバータ制御等の出力制御を行い、アーク3を発生させるための溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。溶接電源PSは、消耗電極アーク溶接を行うために、溶接電圧Vwが溶接電圧設定信号Vrと等しくなるように定電圧制御される。
【0015】
溶接電圧設定回路VRは、予め定めた溶接電圧設定信号Vrを出力する。
【0016】
溶接電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、溶接電圧検出信号Vdを出力する。
【0017】
溶滴移行周期検出回路TMDは、上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、溶接電圧検出信号Vdが急減することによって溶滴移行を判別し、この判別に基づいて単位時間当たりの溶滴移行の周期を検出して、溶滴移行周期検出信号Tmdを出力する。単位時間は、例えば1秒である。
【0018】
正逆送給周期設定回路TFRは、上記の溶滴移行周期検出信号Tmdを入力として、この値を正逆送給周期設定信号Tfrとして出力する。
【0019】
逆送比率設定回路DRは、正逆送給の周期に占める逆送期間の比率を設定するための逆送比率設定信号Drを出力する。逆送比率設定信号Drは、例えば10%に設定される。
【0020】
送給速度設定回路FRは、上記の正逆送給周期設定信号Tfr及び上記の逆送比率設定信号Drを入力として、両入力信号から正送期間と逆送期間とを算出し、正送期間中は予め定めた正の値の正送送給速度となり、逆送期間中は予め定めた負の値の逆送送給速度となる、送給速度設定信号Frを出力する。正送期間=Tfr×((100-Dr)/100)であり、逆送期間=Tfr×(Dr/100)である。例えば、Tfr=10ms、Dr=10%のときは、正送期間=9msとなり、逆送期間=1msとなる。
【0021】
送給機WFは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、この値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を正逆送給する。
【0022】
溶接トーチWTは、装着された給電チップ(図示は省略)を介して溶接ワイヤ1に給電し、溶接ワイヤ1を母材2の被溶接部に送出する。溶接ワイヤ1と母材2との間にアーク3が発生する。給電チップと母材2との間に溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0023】
ロボットRMは、上記の溶接トーチWTを搭載しており、後述する動作制御信号Mcに従って移動する。
【0024】
ロボット制御装置RCは、予め定めた作業プログラムに従って、上記のロボットRMを溶接線にそって移動させるための動作制御信号Mcを出力する。
【0025】
図2は、本発明の実施の形態1に係る送給制御アーク溶接方法を示す
図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電圧設定信号Vrの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)は送給速度Fwの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0026】
同図は、中・大電流域において、溶滴移行がグロビュール移行又はスプレー移行となる場合である。同図(A)に示すように、溶接電圧設定信号Vrは溶接電源PSの定電圧制御の目標値を設定する信号であり、一定値の波形となっている。同図は、高速溶接、狭開先溶接等の場合であり、アーク長が通常よりも短くなるように、溶接電圧設定信号Vrを設定している。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t1、時刻t2及び時刻t3において、短時間の間電圧値が急減している。これは、グロビュール移行又はスプレー移行によって溶滴が移行するときに、ワイヤ先端部が溶融して柔らかくなり、伸びた状態になり、瞬時的にアーク長が非常に短くなるためである。したがって、溶接電圧Vwの急減によって溶滴移行を判別することができる。
図1の溶滴移行周期検出回路TMDは、溶接電圧Vwが急減することによって溶滴移行を判別し、この判別に基づいて単位時間当たりの溶滴移行の周期を検出している。溶滴移行の周期は、溶接ワイヤの材質、溶接電流値等の溶接条件によって変化するが、5~20ms程度となる。
【0027】
図1の正逆送給周期設定回路TFRによって、正逆送給の周期が、上記の溶滴移行の周期と同じ値に設定される。さらに、
図1の送給速度設定回路FRによって、正逆送給周期の設定値及び逆送比率の設定値から、正送期間及び逆送期間が算出され、正送期間中は予め定めた正送送給速度となり、逆送期間中は予め定めた逆送送給速度となるように送給速度Fwが設定される。この結果、同図(C)に示すように、送給速度Fwは、時刻t1、時刻t2及び時刻t3の短い逆送期間中は負の値の予め定めた逆送送給速度となり、溶接ワイヤは母材から後退する方向に逆送される。それ以外の正送期間中は予め定めた正送送給速度となり、溶接ワイヤは前進方向に正送される。このように、溶滴移行のタイミングと正逆送給のタイミングとが同期するのは、正逆送給の周期を溶滴移行の周期と同じ値に設定しているためである。そして、溶滴移行時に溶接ワイヤが短時間逆送されるので、溶接ワイヤと母材との長期短絡の発生を抑制することができる。例えば、正送期間は9msであり、逆送期間は1msであり、正送送給速度は10m/minであり、逆送送給速度は-15m/minである。
【0028】
以下、実施の形態1に係る送給制御アーク溶接方法の作用効果について説明する。
本実施の形態1によれば、溶接ワイヤを送給し、グロビュール移行又はスプレー移行で溶滴移行させて溶接する送給制御アーク溶接方法において、溶滴移行に同期して溶接ワイヤの正逆送給を行う。同期は、溶滴移行の周期を検出し、正逆送給の周期を溶滴移行の周期の検出した値に設定することによって行う。このようにすると、溶滴移行時に溶接ワイヤを短時間逆送するので、溶接ワイヤと母材との長期短絡の発生を抑制することができる。この結果、本実施の形態1では、グロビュール移行又はスプレー移行での消耗電極アーク溶接において、アーク長を短く設定しても、長期短絡の発生を抑制して良好な溶接品質を得ることができる。
【0029】
[実施の形態2]
実施の形態2では、溶接電圧を周期的に変動させる点が実施の形態1とは異なっている。
【0030】
図3は、本発明の実施の形態2に係る送給制御アーク溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。同図において、
図1と同一の構成物については説明を繰り返さない。同図は、
図1の溶滴移行周期検出回路TMDを削除し、
図1に電圧変動周期設定回路TVRを追加し、
図1の溶接電圧設定回路VRを第2溶接電圧設定回路VR2に置換し、
図1の正逆送給周期設定回路TFRを第2正逆送給周期設定回路TFR2に置換したものである。以下、同図を参照して、これらの異なる構成物について説明する。
【0031】
電圧変動周期設定回路TVRは、予め定めた電圧変動周期設定信号Tvrを出力する。電圧変動周期設定信号Tvrは、溶接ワイヤの材質、溶接電流値等の溶接条件に応じて5~20ms程度の範囲で設定される。
【0032】
第2溶接電圧設定回路VR2は、上記の電圧変動周期設定信号Tvrを入力として、電圧変動周期設定信号Tvrの値及び予め定めた電圧振幅で周期的に変動する溶接電圧設定信号Vrを出力する。電圧振幅は3~6V程度に設定される。
【0033】
第2正逆送給周期設定回路TFR2は、上記の電圧変動周期設定信号Tvrを入力として、この値を正逆送給周期設定信号Tfrとして出力する。
【0034】
図4は、本発明の実施の形態2に係る送給制御アーク溶接方法を示す
図3の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電圧設定信号Vrの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)は送給速度Fwの時間変化を示す。同図において、
図2と同一の事項についての説明は繰り返さない。以下、同図を参照して、
図2とは異なる点について説明する。
【0035】
同図(A)に示すように、溶接電圧設定信号Vrは、時刻t1~t2の期間中は高電圧設定値となり、時刻t2~t3の期間中は低電圧設定値となっている。時刻t1~t3が電圧変動周期となり、
図3の電圧変動周期設定信号Tvrによって設定される。上記の高電圧設定値と低電圧設定値との差分値が電圧振幅となる。同図は、高速溶接、狭開先溶接等の場合であり、アーク長が通常よりも短くなるように、溶接電圧設定信号Vrの平均値を設定している。
【0036】
同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t1~t2の期間中は高電圧値となり、時刻t2~t3の期間中は低電圧値となる。さらに、溶接電圧Vwは、高電圧値から低電圧値へと変化する時刻t2の近傍において、短時間の間電圧値が急減している。これは、グロビュール移行又はスプレー移行によって溶滴が移行するときに、ワイヤ先端部が溶融して柔らかくなり、伸びた状態になり、瞬時にアーク長が非常に短くなるためである。このように、溶接電圧を周期的に変動させると、溶滴移行が電圧変動に同期して発生するようになる。
【0037】
図3の第2正逆送給周期設定回路TFR2によって、正逆送給の周期が、上記の電圧変動の周期と同じ値に設定される。さらに、
図3の送給速度設定回路FRによって、正逆送給周期の設定値及び逆送比率の設定値から、正送期間及び逆送期間が算出され、正送期間中は予め定めた正送送給速度となり、逆送期間中は予め定めた逆送送給速度となるように送給速度Fwが設定される。この結果、同図(C)に示すように、送給速度Fwは、時刻t2から短い逆送期間中は負の値の予め定めた逆送送給速度となり、溶接ワイヤは母材から後退する方向に逆送される。それ以外の正送期間中は予め定めた正送送給速度となり、溶接ワイヤは前進方向に正送される。このように、溶滴移行のタイミングと正逆送給のタイミングとが同期するのは、正逆送給の周期を電圧変動の周期と同じ値に設定しているためである。そして、溶滴移行時に溶接ワイヤが短時間逆送されるので、溶接ワイヤと母材との長期短絡の発生を抑制することができる
実施の形態2に係る送給制御アーク溶接方法によれば、溶接電圧を周期的に変動させて溶滴移行を行わせ、同期は、溶接電圧の変動に基づいて正逆送給を行うことによって行う。溶接電圧を周期的に変動させることによって溶滴移行の周期のばらつきを少なくすることができる。このために、溶滴移行のタイミングと溶接ワイヤを逆送するタイミングをより確実に一致させることができる。この結果、長期短絡の発生をより確実に抑制して、良好な溶接品質を得ることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
DR 逆送比率設定回路
Dr 逆送比率設定信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
Iw 溶接電流
PS 溶接電源
RC ロボット制御装置
RM ロボット
TFR 正逆送給周期設定回路
Tfr 正逆送給周期設定信号
TFR2 第2正逆送給周期設定回路
TMD 溶滴移行周期検出回路
Tmd 溶滴移行周期検出信号
TVR 電圧変動周期設定回路
Tvr 電圧変動周期設定信号
VD 溶接電圧検出回路
Vd 溶接電圧検出信号
VR 溶接電圧設定回路
Vr 溶接電圧設定信号
VR2 第2溶接電圧設定回路
Vw 溶接電圧
WF 送給機
WT 溶接トーチ