(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180302
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】特異抗体の高効率作製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/16 20060101AFI20231214BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20231214BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20231214BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C12N5/16
C12P21/08
C07K16/00
G01N33/531 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093474
(22)【出願日】2022-06-09
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂下 建人
(72)【発明者】
【氏名】冨田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】湊元 幹太
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA20
4B064CC24
4B065AA92X
4B065AB05
4B065AC14
4B065BA08
4B065CA25
4H045AA11
4H045AA20
4H045CA40
4H045DA76
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】迅速診断を可能とする特異抗体を産生するハイブリドーマを高効率で作製する方法の提供。
【解決手段】以下の1)~4)の工程を含むハイブリドーマ作製方法:
1)B細胞表面に発現された抗原特異的レセプターとビオチン化抗原とを結合させて、B細胞-ビオチン化抗原複合体とした後、ストレプトアビジンを結合してB細胞-ビオチン化抗原-ストレプトアビジン複合体を作製するB細胞修飾工程、
2)ミエローマ細胞とビオチンとを結合してビオチン化ミエローマ細胞を作製するミエローマ細胞修飾工程、
3)前記B細胞-ビオチン化抗原-ストレプトアビジン複合体とビオチン化ミエローマ細胞とをビオチン-アビジン反応により架橋させてB細胞-ミエローマ細胞を得る細胞架橋工程、
4)B細胞-ミエローマ細胞からハイブリドーマを得るハイブリドーマ作製工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の1)~4)の工程を含むハイブリドーマ作製方法:
1)B細胞表面に発現された抗原特異的レセプターとビオチン化抗原とを結合させて、B細胞-ビオチン化抗原複合体とした後、ストレプトアビジンを結合してB細胞-ビオチン化抗原-ストレプトアビジン複合体を作製するB細胞修飾工程、
2)ミエローマ細胞とビオチンとを結合してビオチン化ミエローマ細胞を作製するミエローマ細胞修飾工程、
3)前記B細胞-ビオチン化抗原-ストレプトアビジン複合体とビオチン化ミエローマ細胞とをビオチン-アビジン反応により架橋させてB細胞-ミエローマ細胞を得る細胞架橋工程、
4)B細胞-ミエローマ細胞からハイブリドーマを得るハイブリドーマ作製工程。
【請求項2】
前記B細胞修飾工程におけるビオチン化抗原は、抗原に対しビオチンを0.9~7.5倍モル当量添加した条件下で結合させて作製することを特徴とする請求項1に記載のハイブリドーマ作製方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のハイブリドーマを作製する方法で得られたハイブリドーマを用いて高効率でモノクローナル抗体を作製する方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のハイブリドーマを作製する方法によって得られたハイブリドーマ。
【請求項5】
請求項4記載のハイブリドーマによって作製されたモノクローナル抗体。
【請求項6】
請求項5記載のモノクローナル抗体を用いた免疫測定試薬。
【請求項7】
請求項5記載のモノクローナル抗体を用いた免疫測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特異抗体の高効率作製法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の抗原決定基だけと結合する抗体の集合体をモノクローナル抗体といい、B細胞とミエローマ細胞を融合して得られるハイブリドーマから獲得できる。従来、B細胞とミエローマ細胞を融合させてハイブリドーマを得る方法として、PEG法、HVJ法、パールチェイン法、レーザー法、立体構造特異的ターゲティング(SST)法、B細胞ターゲティング(BCT)法などが知られている(特許文献1~3を参照)。このうち特許文献1には、2種類の細胞をPEG法、HVJ法等によって融合させることによって株化細胞を得る技術が、特許文献2には、交流と直流を組み合わせたパールチェイン法によってハイブリドーマを得る装置に関する技術が、特許文献3には、膜タンパク質の立体構造を認識する抗体を発現するハイブリドーマの作製方法に関する技術が、それぞれ開示されている。
【0003】
しかしながらこれらの手法(特許文献1および2)は、目的抗体を発現するB細胞とミエローマ細胞との融合だけでなく、目的抗体を発現しないB細胞とミエローマ細胞との融合、B細胞同士の融合、ミエローマ細胞同士の融合等も起こるため、得られるハイブリドーマ中における目的ハイブリドーマの割合は数%程度であり、効率が悪かった。
【0004】
この問題を解決する技術として、予め目的のB細胞とミエローマ細胞をビオチン/アビジンにより架橋させておき、電気パルスを施し目的のハイブリドーマを得る方法(次世代ハイブリドーマテクノロジー)が開発されている。当該手法は、抗原のB細胞ターゲティングに基づいて、目的の高親和性・高特異性抗体産生B細胞を選択できる特徴があり、電気パルスを処す際にB細胞とミエローマ細胞を1:1の比率で選択融合を行なうことができる。このため、高効率で目的の高性能モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを得ることができる(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-319535号公報
【特許文献2】特開2008-259493号公報
【特許文献3】特許第4599527号公報
【特許文献4】特許第6311959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は迅速診断を可能とする特異抗体を産生するハイブリドーマを高効率で作製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、高効率でモノクローナル抗体を作製し、かつ通常のPEGを用いたハイブリドーマ法よりも高い陽性率でモノクローナル抗体を作製する方法について鋭意検討を行った。その結果、目的のB細胞をビオチン化抗原及びストレプトアビジンを用いてストレプトアビジン化し、ミエローマ細胞をビオチン化してB細胞とミエローマ細胞をビオチン/アビジンにより架橋させておき、電気パルスを施し目的のハイブリドーマを得る方法により、特にB細胞に結合させるビオチン化抗原を作製するときに用いる抗原とビオチンのモル比を特定の範囲に調整することにより、上記目的を達成し得ることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 以下の1)~4)の工程を含むハイブリドーマ作製方法:
1)B細胞表面に発現された抗原特異的レセプターとビオチン化抗原とを結合させて、B細胞-ビオチン化抗原複合体とした後、ストレプトアビジンを結合してB細胞-ビオチン化抗原-ストレプトアビジン複合体を作製するB細胞修飾工程、
2)ミエローマ細胞とビオチンとを結合してビオチン化ミエローマ細胞を作製するミエローマ細胞修飾工程、
3)前記B細胞-ビオチン化抗原-ストレプトアビジン複合体とビオチン化ミエローマ細胞とをビオチン-アビジン反応により架橋させてB細胞-ミエローマ細胞を得る細胞架橋工程、
4)B細胞-ミエローマ細胞からハイブリドーマを得るハイブリドーマ作製工程。
[2] 前記B細胞修飾工程におけるビオチン化抗原は、抗原に対しビオチンを0.9~7.5倍モル当量添加した条件下で結合させて作製することを特徴とする[1]のハイブリドーマ作製方法。
[3] [1]または[2]のハイブリドーマを作製する方法で得られたハイブリドーマを用いて高効率でモノクローナル抗体を作製する方法。
[4] [1]または[2]のハイブリドーマを作製する方法によって得られたハイブリドーマ。
[5] [4]のハイブリドーマによって作製されたモノクローナル抗体。
[6] [5]のモノクローナル抗体を含む免疫測定試薬。
[7] [5]のモノクローナル抗体を用いた免疫測定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、細胞融合の際のB細胞-ミエローマ細胞複合体の形成割合を高くすることができることから、高効率でモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製することができる。また、これらハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体を用いることにより、検出試薬または検出方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について説明する。本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。
【0011】
本発明のモノクローナル抗体作製方法は、免疫により特異的な抗体を産生し得る感作B細胞を得る免疫工程、得られたB細胞をビオチン化抗原及びストレプトアビジンで修飾するB細胞修飾工程、B細胞と融合させるミエローマ細胞をビオチンで修飾するミエローマ細胞修飾工程、上記B細胞とミエローマ細胞を架橋させる細胞架橋工程、B細胞とミエローマ細胞を融合しハイブリドーマを産生するハイブリドーマ作製工程、及びモノクローナル抗体を作製するモノクローナル抗体化工程を含む。
【0012】
本発明のモノクローナル抗体作製法を最適化BCT(B細胞ターゲティング)法と呼ぶことができる。
【0013】
1.モノクローナル抗体の作製
<免疫工程>
目的とする抗原に対して特異的な抗体を産生するB細胞を得るために必要となる動物の免疫方法については特に限定されず、いずれの免疫工程を採用することもできる。例えば、抗原の免疫量、免疫回数、抗原の作製方法、免疫方法、免疫動物、免疫場所、アジュバントの種類、リンパ球の摘出場所などについては、一般的に実施されている方法を使用できる。生物としては、非ヒト哺乳類(例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、ウマ、ラクダなど)、鳥類(例えば、ニワトリなど)などが例示されるが、これらのうちマウスを用いることが好ましい。動物1匹当たりの抗原投与量としては、一般的には、アジュバントを用いないときは0.1mg~10mg、アジュバントを用いるときは10μg~1mgであるが、これらに限定されない。アジュバントとしては、フロイントコンプリートアジュバント(CFA)、フロイントインコンプリートアジュバント(IFA)、水酸化アルミニウムアジュバント等が挙げられる。抗原の投与方法としては、主として皮下、腹腔内、静脈内、筋肉内、フットパッド等に注入することにより行われる。免疫の間隔・回数は特に限定されず、数日から数週間間隔(好ましくは2~5週間間隔)で、1~10回、好ましくは2~8回の投与を行う。なお、タンパク質をコードする遺伝子(DNA、RNAを含む)を免疫する方法も利用できる。また、生物のリンパ球集団を採取した後に、イン・ビトロ(in vitro)で免疫する生体外免疫法なども適用できる。
【0014】
抗原はタンパク質や多糖等の抗原や、単糖、オリゴ糖、アミノ酸、ペプチド、ステロイド骨格を有する物質等の低分子生理活性物質を含むハプテンに加え、これらで構成される細菌、ウイルス、真正細菌、古細菌、藻類、原生生物、菌類、粘菌、真菌、ウイルス、寄生虫等の病原菌等、抗体が結合する物質であれば何ら限定されない。例えば、被測定物質が抗原の場合、例えばCRP(C-反応性蛋白質)、前立腺特異抗原、フェリチン、β-2マイクログロブリン、ミオグロビン、ヘモグロビン、アルブミン、クレアチニン等のタンパク質マーカー、IgG、IgA、IgM等の免疫グロブリン、各種腫瘍マーカー、LDL、HDL、TG等のリポ蛋白、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、RSウイルス(RSV)、ライノウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、アストロウイルス、HAV、HBs、HCV、HIV、EBV等のウイルス抗原、クラミジア・トラコマティス、溶連菌、百日咳菌、ヘリコバクター・ピロリ、レプトスピラ、トレポネーマ・パリダム、トキソプラズマ・ゴンディ、ボレリア、レジオネラ属菌、炭疽菌、MRSA等の細菌抗原、細菌等が産生する毒素、マイコプラズマ脂質抗原、ヒト絨毛製ゴナドトロピン等のペプチドホルモン、ステロイドホルモン等のステロイド、エピネフリンやモルヒネ等の生理活性アミン類、ビタミン類、プロスタグランジン類、テトラサイクリン等の抗生物質、農薬、環境ホルモン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。好ましい例として、CRP、前立腺特異抗原、フェリチン、β-2マイクログロブリン及びヘモグロビン等の抗原が挙げられる。
【0015】
多くの場合に、微生物由来の抗原は、タンパク質、或いは糖鎖を備えたタンパク質などである。微生物由来の抗原には、微生物から精製されたものを用いても良いし、微生物そのものを用いても良い。微生物そのものを用いる場合には、微生物を単離・精製したものを用いても良いし、他の抗原を含む微生物試料を混合物として使用することもできる。
【0016】
<B細胞修飾工程>
B細胞修飾工程においては、B細胞を含む試料(例えば、脾細胞懸濁液、リンパ節懸濁液)に対して、(1)抗原(抗原そのもの、ビオチン化抗原、またはストレプトアビジン化抗原を含む)とB細胞を含む試料とを混合する方法、(2)目的としない特異抗原を含む微生物単体(他の共通抗原を含む)とB細胞を含む試料とを混合して、目的以外のB細胞抗原結合レセプターをブロックする不要B細胞ブロック工程を実施した後、抗原とB細胞を含む試料とを混合する方法などがある。以下、B細胞修飾工程について詳述する。
【0017】
B細胞修飾工程においては、B細胞を含む試料(例えば、脾細胞懸濁液、リンパ節懸濁液)を採取し、B細胞をストレプトアビジンで修飾する。ここで、B細胞をストレプトアビジンで修飾するとは、B細胞にストレプトアビジンを結合させることをいい、B細胞-ビオチン化抗原-ストレプトアビジン複合体を形成させればよい(ここで、「-」は結合を示す)。ストレプトアビジンを結合させることをストレプトアビジン化するという。
【0018】
B細胞は目的とする標的抗原(抗原そのもの、ビオチン化抗原、またはストレプトアビジン化抗原を含む)とB細胞を含む試料とを混合する方法で修飾することができる。
【0019】
ここで、抗原は混合するB細胞が認識する抗原を用いる。前記B細胞は前記抗原に特異的なレセプターを有しており、該抗原特異的レセプターに抗原が結合する。抗原そのものを用いる場合は、B細胞の抗原特異的レセプターに抗原を結合させ、該抗原にビオチンを結合させてビオチン化し、さらにビオチンにストレプトアビジンを結合させてストレプトアビジン化する。この結果、B細胞-抗原-ビオチン-ストレプトアビジン複合体が形成される。抗原としてビオチンを結合させたビオチン化抗原を用いてもよく、この場合は、ビオチン化抗原にストレプトアビジンを結合させて、抗原をストレプトアビジン化することにより、B細胞-ビオチン化抗原-ストレプトアビジン複合体が形成される。なお、ビオチン化抗原を用いて作製した複合体もB細胞-抗原-ビオチン-ストレプトアビジン複合体と表すことができる。さらに、抗原として、抗原-ビオチン-ストレプトアビジンの複合体を形成しているストレプトアビジン化抗原を用いてもよい。この場合は、抗原をB細胞に結合させることにより、B細胞-ビオチン化抗原-ストレプトアビジン複合体が形成される。
【0020】
抗原のビオチン化は、例えば、抗原が有するアミノ基とビオチンをアミド結合により結合させればよい。このためには例えばN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルを有するビオチンであるNHS-ビオチンと抗原を混合すればよい。抗原をビオチン化するとき、抗原に対しビオチンを0.9~7.5倍モル当量、好ましくは3.75~7.5倍モル当量添加した条件で行えばよい。NHS-ビオチンを用いるときは、抗原に対しNHS-ビオチンを0.9~7.5倍モル当量、好ましくは3.75~7.5倍モル当量添加して行えばよい。抗原のビオチン化は、pH6.5~9.0、好ましくはpH6.8~7.5で行えばよく、例えば、PBS中で行えばよい。ビオチン化反応は、室温で10~100分間、好ましくは10~60分間、さらに好ましくは20~40分間回転させて行えばよく、最後にグリシンを最終濃度数十mM、例えば20mMになるように添加してビオチン化反応を停止すればよい。
【0021】
抗原に対しビオチンを0.9~7.5倍モル当量、好ましくは3.75~7.5倍モル当量添加した条件でビオチン化した場合、ビオチンを抗原に対し約30倍モル当量添加した条件でビオチン化する従来のBCT法に比べ、抗原性の低下が低く抑えられる。従来のBCT法では、低分子量抗原を用いた場合、ビオチン化により抗原性が20~30%程度(ELISAで測定した吸光度の割合)まで低下するのに対し、本発明の最適化BCT法では、ビオチン化しても60~90%程度までの低下に抑えられる。この抗原性の低下が低く抑えられることも、最適化BCT法で高効率でモノクローナル抗体を得ることができる理由の1つである。
【0022】
B細胞は、脾臓細胞に多く含まれるので、B細胞を含む脾臓細胞をストレプトアビジン化すればよい。本発明において、脾臓細胞をストレプトアビジン化することを、B細胞をストレプトアビジン化するという。また、脾臓細胞からB細胞を単離して用いてもよい。
【0023】
また、目的とする標的抗原以外の抗原を認識するB細胞をあらかじめ除去することができる。例えば、目的とする抗原以外の抗原を含む微生物単体(他の共通抗原を含む)とB細胞を含む試料とを混合すればよい。このように、目的とする抗原を含まない共通抗原を添加することにより、目的とする抗原以外のB細胞の抗原特異的レセプターを、該レセプターに抗原を結合させることによりブロックすることができる。このように、不要なB細胞の抗原特異的レセプターをブロックし、目的以外のB細胞を取り除く工程、すなわち不要B細胞ブロック工程を実施した後、目的とする標的抗原(抗原そのもの、ビオチン化抗原、またはストレプトアビジン化抗原を含む)とB細胞を含む試料とを混合すればよい。不要なB細胞の抗原特異的レセプターをブロックする工程によれば、目的外のB細胞が除去されるので、特異性がより高い抗体を発現するB細胞が得られやすくなる。
【0024】
なお、上記工程において、抗原は、予めビオチン化させておくことが好ましい。このようにすれば、B細胞-ビオチン化抗原が得られるので、これにストレプトアビジンを結合させることにより、後の細胞架橋工程において使用されるB細胞-ビオチン化抗原-ストレプトアビジン複合体を得るための工程を円滑に進められる。また、上記工程において、微生物由来抗原を予めストレプトアビジン化させておいてもよい。ストレプトアビジン化により、B細胞-ストレプトアビジン化抗原が得られるので、後の細胞架橋工程を円滑に進められる。
B細胞の修飾は、DMEM等の公知の細胞培養液中で行えばよい。
【0025】
<ミエローマ細胞修飾工程>
B細胞側に付加されたストレプトアビジンを利用して、細胞架橋を行うために、ミエローマ細胞にビオチンを結合しビオチン化する。こうして、ビオチン化ミエローマ細胞を作製することで、B細胞-ビオチン化抗原-ストレプトアビジン複合体、またはB細胞-ストレプトアビジン化抗原との細胞架橋工程に資する。ミエローマ細胞のビオチン化は、例えば、ミエローマ細胞が有するアミノ基とビオチンをアミド結合により結合させればよい。このためには例えばN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルを有するビオチンであるNHS-ビオチンとミエローマ細胞を混合すればよい。ミエローマ細胞のビオチン化は、pH6.5~9.0、好ましくはpH6.8~7.5で行えばよい。
【0026】
ミエローマ細胞は、生物から単離したB細胞と融合させることで、B細胞を不死化させると共に、B細胞が持っている抗体産生能を維持できる細胞であれば、いずれのものも使用できる。一般的には、マウス由来のミエローマ細胞がよく使用される。例えば、SP2/0, PAI, P3x63Ag8.653 等が例示されるが、特に限定されない。なお、免疫工程において使用した生物に応じて、細胞架橋工程において使用するミエローマ細胞も、その生物に適した細胞種に馴化したものを使用できる。
ミエローマ細胞の修飾は、PBS等の公知の緩衝液中で行えばよい。
【0027】
<細胞架橋工程>
細胞架橋工程では、上記方法で作製したストレプトアビジン化B細胞とビオチン化ミエローマ細胞を混合し、B細胞側に付加されたストレプトアビジンと、ミエローマ細胞側に付加されたビオチンとを用いることにより、両細胞を効率的に架橋させる。この際、ストレプトアビジン化B細胞とビオチン化ミエローマ細胞の混合比(細胞数)は、ビオチン化ミエローマ細胞1に対して、ストレプトアビジン化B細胞を1~10、好ましくは2~6、さらに好ましくは3~5、特に好ましくは4の割合で混合すればよい。
細胞の架橋は、DMEM等の公知の細胞培養液中で行えばよい。
【0028】
両細胞を架橋させたものをB細胞-ミエローマ細胞複合体と呼ぶ。本発明の最適化BCT法によって両細胞を架橋させた場合のB細胞-ミエローマ細胞複合体形成割合は、0.5%以上、好ましくは0.6%以上、さらに好ましくは1%以上である。これに対して、ビオチンを抗原に対し約30倍モル当量添加した条件でビオチン化する従来のBCT法では、0.27%程度である。すなわち、本発明の最適化BCT法でモノクローナル抗体を作製した場合の、B細胞-ミエローマ細胞複合体形成割合はビオチンを抗原に対し約30倍モル当量添加した条件でビオチン化する従来のBCT法に対して、2倍以上、好ましくは3倍以上である。B細胞-ミエローマ細胞複合体形成効率は、B細胞-ミエローマ細胞複合体形成割合で表され、形成割合は、ミエローマ細胞とB細胞の数に対するB細胞-ミエローマ細胞複合体形成数の割合として算出される。
【0029】
<ハイブリドーマ作製工程>
B細胞とミエローマ細胞を融合させてハイブリドーマを得る方法として、化学的方法、物理学的方法、生物学的方法のいずれかにより2つの異なる細胞を細胞融合法で1つの細胞に結合させる方法が挙げられる。具体的にはPEG法、HVJ法、パールチェイン法、レーザー法、立体構造特異的ターゲティング(SST)法、B細胞ターゲティング(BCT)法が挙げられ、いずれの方法で細胞を融合させてもよい。
【0030】
PEG法は、ポリエチレングリコール(PEG)を用いて細胞融合を行う方法であり、例えば、DMEMに懸濁した感作Bリンパ球を含む脾臓細胞(5.0x107から1.0x108)とマウスミエローマ細胞を10:1の割合(脾臓細胞:ミエローマ細胞)で混ぜ、1000 rpm(200 g)で10分間遠心分離をした。上清を除去した後、細胞ペレットに1 mL 50 %(wt/vol)ポリエチレングリコール4000を1分かけて滴下し、細胞を融合させることにより行う。
【0031】
SST法、BCT法によりハイブリドーマを得るときの条件は、一般的には、グルコース、シュークロース、マンニトールなどの糖で浸透圧を調整した低塩濃度の緩衝液で細胞融合を行う。たとえば、0.25 M シュークロース、2 mM リン酸緩衝液(pH 7.2)、0.1 mM塩化カルシウム、0.1 mM塩化マグネシウムの緩衝液を例示できるが、浸透圧を調整するための糖の種類と濃度、緩衝能を持たせるための緩衝液の種類と濃度、pH、塩化カルシウムと塩化マグネシウムの濃度は、細胞融合される細胞の性質に応じて適当に最適化される。細胞および緩衝液の状態に応じて変化できるが、通常の電気パルスを用いた細胞融合で使用される程度のパルス強度を用いることができる。例えば、1 kV/cm~4 kV/cmの範囲内、好ましくは2 kV/cm~3 kV/cm、より好ましくは2 kV/cm~2.5 kV/cmの強度で行う。パルスの回数は、1~10回程度で実施する。パルス幅(パルス時間)は、通常、10μsを使用する。電気パルスは、たとえばelectro square porator ECM2001(BTX社製)を用いて行うことができる。ハイブリドーマを得るときの条件は、一般的に実施されている方法を使用できる。
【0032】
細胞融合後の細胞の取り扱いについては、通常のハイブリドーマを作製した後の取り扱いと同様に、すなわち細胞融合後の細胞をHAT培地での選別後にHT培地で培養し、ハイブリドーマを樹立する。培養上清中に存在する抗体の性能は通常行われている方法(例えば、ELISA法、免疫蛍光抗体法など)でスクリーニングできる。
【0033】
<モノクローナル抗体化工程>
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する工程をモノクローナル抗体化といい、樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を使用できる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを、通常用いられる培地、たとえば10%ウシ胎児血清(FBS)含有RPMI-1640培地、MEM培地、又は無血清培地中で、通常の培養条件(例えば37℃、5% CO2濃度)で7~14日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物の腹腔内に、ハイブリドーマをたとえば約1×107個の投与量で投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させた後、1~2週間後に腹水を採取する。抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの方法を選択し、又はこれらを組み合わせることにより精製できる。
【0034】
本発明の最適化BCT法でモノクローナル抗体を作製した場合の、ELISAで測定したときの陽性率は15%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは35%以上、さらに好ましくは40%以上である。これに対して、ビオチンを抗原に対し約30倍モル当量添加した条件でビオチン化する従来のBCT法では2.4%程度、PEG法では7.5%程度である。すなわち、本発明の最適化BCT法でモノクローナル抗体を作製した場合の、ELISAで測定したときの陽性率はビオチンを抗原に対し約30倍モル当量添加した条件でビオチン化する従来のBCT法に対して、10倍以上、好ましくは15倍以上、さらに好ましくは17倍以上であり、PEG法に対して、3倍以上、好ましくは5倍以上である。陽性率は、目的の抗原に対する抗体の産生率をいい、ELISA陽性well数/ハイブリドーマ陽性well数(%)で算出される。
【0035】
本発明の最適化BCT法によれば、従来のPEG法よりも、B細胞とミエローマ細胞との細胞融合体の形成割合を高くすることができる。その結果、高効率でモノクローナル抗体を作製することができる。
【0036】
2.免疫測定試薬及び免疫測定方法
本発明においては、上記モノクローナル抗体またはその抗原結合性断片を用いることにより、免疫測定試薬及び免疫測定方法を提供することができる。以下、文脈からそうでないことが明らかな場合を除き、「モノクローナル抗体」は、「モノクローナル抗体またはその抗原結合性断片」を意味する。抗原結合性断片は、標的抗原に結合する断片であり、Fab、F(ab’)2、scFv、Fab’、一本鎖免疫グロブリン等を含む。
【0037】
試薬は、抗体を安定的に保持するためのバッファー等を含んでもよい。その他の成分は使用する免疫学的測定法に応じて当業者が適宜決定することができる。
【0038】
免疫学的測定法としては、例えば免疫染色法(蛍光抗体法、酵素抗体法、重金属標識抗体法、放射性同位元素標識抗体法を含む)、電気泳動法による分離と蛍光、酵素、放射性同位元素等による検出方法とを組み合わせた方法(ウエスタンブロット法、蛍光二次元電気泳動法を含む)、酵素免疫測定吸着法(ELISA)、ドット・ブロッティング法、ラテックス凝集法(LA:LatexAgglutination-TurbidimetricImmunoassay)、イムノクロマト法等が挙げられる。
【0039】
試薬は、被測定物質の有無等を確認することが必要な被験者由来の検体に添加される。検体は、被測定物質を含むものであれば特に限定されないが、血液、血清、血漿、尿、便、唾液、組織液、髄液、ぬぐい液等の体液等又はその希釈物が挙げられ、血液、血清、血漿、尿、便、髄液又はこれらの希釈物が好ましい。
【0040】
第二の実施形態において、本発明は、上記の試薬を含むキット、を提供する。キットは診断、研究等のために使用されうる。キットは、その使用目的に応じて、試薬としての上記モノクローナル抗体のみならず、上記モノクローナル抗体を固定化するための担体や、二次抗体を含んでもよい。このような担体としては不溶性担体が好ましく、例えば、ポリエチレンやポリスチレン等のラテックス粒子、アルミナ粒子、シリカ粒子、金コロイド、磁性粒子等の粒子がその例として挙げられる。より具体的には、ELISA法(直接法、間接法、サンドイッチ法等)であればマイクロプレート、ラテックス凝集法であればラテックス等が不溶性担体として使用され得る。抗体と抗原の非特異反応を防ぐ観点から、ブロッキング剤をキットに含めるのが好ましい。
【0041】
例えば、間接法に使用するキットには、例えば、試薬としての、抗原に結合する一次抗体、一次抗体に結合する二次抗体、酵素反応のための基質、検量線作成またはコントロール実験に使用するための標準抗原等が含まれる。二次抗体は検出のために標識されていてもよい。
【0042】
本発明において、上記モノクローナル抗体を用いて抗原を定量又は半定量する場合でも、定量や半定量は必然的に「測定」を伴うので、本発明における「測定」に包含される。すなわち、本発明において、免疫測定の「測定」には、定量、半定量、検出のいずれもが包含される。
【0043】
本発明の上記モノクローナル抗体を含む検出用試薬は免疫測定器具を含む。また、本発明の上記モノクローナル抗体を含む検出用キットは前記免疫測定器具を含む。該キットは、他にブロッシャー、検体採取器具等を含んでいてもよい。
【実施例0044】
<材料>
ヒトミオグロビン(hMyo)はOriental Yeastから購入した。N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)-ビオチンおよびポリエチレングリコール(PEG)4000はシグマアルドリッチより購入した。ストレプトアビジン(StAv)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、完全フロイントアジュバント(CFA)及び不完全フロイントアジュバント(IFA)は富士フィルム和光純薬株式会社から購入した。HRPを結合した抗マウスIgG(H+L)抗体は、BioSource Internationalから購入した。Alexa Fluor 488で標識したヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体は、Thermo Fisher Scientificより購入した。BALB/cAJclマウスはクレアジャパンより購入した。
【0045】
<方法>
[1]ミエローマ細胞の培養
PAI、P3X63 Ag8.653 (X63)およびSP2/0のマウスミエローマ細胞は、10% FBS、2 mM Lグルタミン(日水製薬株式会社)、100 μg/mL硫酸カナマイシン(明治製菓株式会社)を添加した完全RPMI1640培地で、37 ℃、5 %炭酸ガスインキュベーター内で培養した。
【0046】
[2]免疫方法
免疫には5~7週齢のBALB/cマウスを使用した。hMyo抗原とCFAを1:1(v/v)の割合で混合し油中水型(w/o)エマルションを作製した。50 μgの抗原を含む油中水型(w/o)エマルションを腹腔内に注射した。2週間後、hMyo抗原とIFAを1:1(v/v)の比率で混合しIFA中の抗原を2回目の免疫に使用した。最終免疫は、融合の3~5日前に行った。
【0047】
[3]脾臓細胞の準備
最終免疫を行ったマウスをイソフルランで充満させたガラスビンの中に入れ、吸入麻酔した。マウスが麻酔にかかったことを確認した後、注射針で解剖台に固定した。マウスの腹部を、70 %エタノールを含ませた脱脂綿で消毒した後、ピンセットで腹部中央付近の外皮をつまみ上げ、解剖用ハサミで外皮に切り込みを入れ、切り口を心臓近くまで広げた。次に、肋骨近くの内皮をピンセットでつまみ、心臓が見えるまで開胸し5 ml用注射器を用いて心臓から採血した。その後、心臓採血したマウスを70 %エタノールが入ったビーカー内に浸して無菌化し、クリーンベンチ内に敷いたアルミホイルの上に置いた。脾臓を摘出するために、マウスの左脇腹に解剖用ハサミで外皮に切れ目を入れ、脾臓が見えるところまで外皮を押し広げた。そして、脾臓が露出するように内皮を切った。次にピンセットで脾臓付近の脂肪をつかみ、脾臓と一緒に持ち上げ、ハサミで脾臓の周りの脂肪を切り取りマウスより摘出した。脾臓摘出のための一連の操作は、すべて無菌的に行った。摘出した脾臓は、DMEM+ [Dulbecco’s Modified Eagle’s medium(DMEM、日水製薬社)+100 μg/ml硫酸カナマイシン(明治製菓社)]を10 ml入れた15 mlコニカルチューブに入れ、クリーンベンチに運んだ。摘出した脾臓は、すぐに10 mlのDMEM+とともに空のシャーレに移し、少し洗浄した後、すぐにDMEM+を10 ml入れた別のシャーレに移し、洗浄しながら周りの脂肪をハサミとピンセットを用いて取り除いた。この洗浄をあと3回繰り返し行った。また、最後のシャーレにステンレスメッシュをセットし、そこに脾臓を置いてラバーポリスマンで穏やかに砕いた。次に、脾細胞懸濁液を50 mlコニカルチューブに移した。さらに、ステンレスメッシュをセットしているシャーレを10 mlのDMEM+で洗浄し、その液を回収し、先ほどの50 mlコニカルチューブに加えた。この操作をチューブ内の液量が40 mlになるまで繰り返し、その懸濁液を2,000 rpm(800 g)で5分間遠心分離した後、細胞沈殿を5 mlのred blood cell lysing buffer(SIGMA社)で懸濁し、氷中で5分間静置することで赤血球を溶血させた。その後、素早くDMEM+を45 ml加え、合計50 mlにして混和し、2,000 rpm(800 g)で5分間遠心分離した後、得られた細胞沈殿を2.5 mlのDMEM+で懸濁することで脾臓細胞を調製した。
【0048】
[4]ビオチン化抗原の作製
ヒトミオグロビン(hMyo)をPBS pH 7.2に溶解し、最終濃度が1 mg/mLとなるようにした。NHS-ビオチン(1 mg/1 mL DMSO)を0.9、1.8、3.75、4、7.5、15、30倍モル当量でhMyo溶液に加え、室温で30分間穏やかに回転させてビオチン化した。ビオチン化後、グリシンを最終濃度20 mMになるように添加し、反応を停止させた。
【0049】
[5]BCT法
(1)最適化BCT法
感作Bリンパ球を保有する脾臓細胞(5.0×107から1.0×108)を2.5 mL DMEM+に懸濁させた。別の2.5 mLのDMEM+に溶解した最適化ビオチン化抗原50 μg(3.75~7.5倍モル当量)を、上記脾臓細胞懸濁液2.5 mLと混合し、4℃で2時間穏やかに回転させた。その後、細胞懸濁液を2,000 rpm(800g)で5分間遠心し、10 mL DMEM+で洗浄した。脾臓細胞ペレットを2.5 mL DMEM+に再懸濁した。200 μgのストレプトアビジンを含む別の2.5 mL DMEM+を脾臓細胞懸濁液に加え、4℃で1時間穏やかに回転させた。最後に、細胞懸濁液を2,000 rpm(800 g)で5分間遠心し、10 mL DMEM+で洗浄した。脾臓細胞ペレットを5 mL DMEM+に再懸濁した。ここで、B細胞-抗原-ビオチン-ストレプトアビジン複合体が形成された。ミエローマ細胞(2.0×107から4.0×107)を800 rpm(130 g)で5分間遠心分離して集め、10 mL滅菌PBS(PBS+)で洗浄した。ミエローマ細胞ペレットを5 mL PBS+に懸濁し、10 μL NHSビオチン(30 μL DMFあたり1 mg)を含む5 mL PBSと混合し、37 ℃で30分間緩やかに回転させた。ビオチン化したミエローマ細胞を800 rpm(130 g)で5分間遠心分離してペレット化し、10 mL DMEM+で洗浄した。B細胞-抗原-ビオチン-ストレプトアビジン複合体を含む脾臓細胞懸濁液を、ビオチン化ミエローマ細胞と4:1(脾臓細胞ミエローマ細胞)の割合で混合し、1000 rpm(200×g)で10分間遠心分離して5 mL DMEM+に再懸濁した。この細胞混合物を室温で0.5~1時間穏やかに回転させた。ビオチンとストレプトアビジンの強い特異的な相互作用により、Bリンパ球はビオチン化ミエローマ細胞に結合した。B細胞-ミエローマ細胞複合体は、0.25 Mスクロース、2 mM NaH2PO4/Na2HPO4(pH = 7.2)、0.1 mM MgCl2および0.1 mM CaCl2からなる等張スクロースバッファーの1~2 mLに再懸濁された。B細胞-ミエローマ細胞複合体は、電気パルス(10 μsec、2.0 kV/cmから3.0 kV/cm、1秒間隔で4サイクル)により選択的に融合された。融合したハイブリドーマ細胞は、HAT選択培地で2週間、HT培地でさらに2週間培養した。
(2)従来のBCT法
従来のBCT法は、30倍モル当量のビオチン化抗原を使用した以外は、基本的に最適化BCT技術と同じプロトコルで実施した。
【0050】
[6]PEG法
DMEM+に懸濁した感作Bリンパ球を含む脾臓細胞(5.0x107から1.0x108)とマウスミエローマ細胞を10:1の割合(脾臓細胞:ミエローマ細胞)で混ぜ、1,000 rpm(200g)で10分間遠心分離をした。上清を除去した後、細胞ペレットに1 mL 50%(wt/vol)ポリエチレングリコール4000を1分かけて滴下し、細胞を融合させた。10 mL DMEM+を添加した後、1,000 rpm(200 g)で10分間遠心し、上清を完全に除去した。その後、HAT選択培地で2週間、HT培地でさらに2週間培養した。
【0051】
[7]ハイブリドーマ細胞のクローニング
限界希釈法を用いて、ハイブリドーマ細胞を9、3、1、0.5細胞/wellに希釈し、96 wellプレートに播種し、37 ℃、5%炭酸ガスインキュベーター内で培養した。
【0052】
[8]ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)法
抗原を0.1M NaHCO3で1~10 μg/mlに希釈し、96 wellプレートに50 μl/wellずつ加え、4 ℃で一晩静置することにより、抗原をプレートに吸着させた。次に、プレートをPBSで3回洗浄し、1%ゼラチン(1g/100ml PBS)を350 μl/well加えて37℃で2時間インキュベートしブロッキングを行った。その後、PBST(PBS+0.05% Triton X-100)で3回洗浄し、一次抗体としてハイブリドーマ細胞の培養上清を50 μl/well加えて37℃で1時間インキュベートした。続いてPBSTで3回洗浄後、PBSTで10,000倍に希釈した二次抗体(HRPを結合した抗マウスIgG(H+L)抗体)を50 μl/well加え、37 ℃で1時間インキュベートした。最後に、PBSTで5回洗浄後、発色剤[0.1M sodium citrate buffer(pH5.2)+o-phenylene diamine(1mg/ml)+0.02% H2O2]を100 μl/well加えて37℃で10分間インキュベートし、1M H2SO4を50 μl/well加えて反応を停止した。プレートリーターを用いてOD490nmの測定を行った。
【0053】
<結果>
評価結果1:
最適化BCT法のビオチン化抗原の抗原性改善
従来のBCT法のビオチン化hMyo抗原(30倍モル当量)と最適化BCT法のビオチン化hMyo抗原(3.75~7.5倍モル当量)の抗原性を確認した。そのために、各ビオチン化抗原を固相し、抗hMyo抗血清を一次抗体として用いて、各ビオチン化抗原に対する反応性をELISA法により測定した。ビオチン化していない抗原の抗原性を100 %とし、それぞれのビオチン化抗原の抗原性を吸光度の割合から算出した。結果を表1に示した。従来法では抗原性が26 %まで低下していたが、最適化法では抗原性が68 %~88 %まで改善した。
【0054】
評価結果2:
最適化BCT法のB細胞-ミエローマ細胞複合体形成効率の改善
0.9、3.75、7.5、30倍モル当量で作製したビオチン化hMyo抗原を用いて、BCT法を行い、B細胞-ミエローマ細胞複合体の形成を顕微鏡で観察し、細胞数をカウントすることで形成効率を算出した。形成効率は、形成割合で表され、形成割合は、ミエローマ細胞とB細胞の数に対するB細胞-ミエローマ細胞複合体形成数の割合として算出される。結果を表1に示した。最適化BCT法のビオチン化hMyo抗原(3.75~7.5倍モル当量)においてB細胞-ミエローマ細胞複合体の形成割合が高くなっていることを確認した。
【0055】
評価結果3:
最適化BCT法の陽性率の改善
従来のBCT法(30倍モル当量)と最適化BCT法(3.75~7.5倍モル当量)において、抗hMyoモノクローナル抗体を作製した。また、比較対象としてPEG法も行った。その結果を表2に示した。従来のBCT法では、ELISA陽性率はわずか2.4 %であった。最適化BCT法では、ELISA陽性率は41.2 %に増加した。従来法と比較して、17倍以上となった。また、PEG法と比較しても5倍以上となった。最適化BCT法によって格段に高い効率で目的のモノクローナル抗体が作製可能になったことが判る。
【0056】
【0057】