(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180366
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】車両用乗員保護システム
(51)【国際特許分類】
G08B 21/02 20060101AFI20231214BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G08B21/02
G08G1/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093605
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳山 雄生
(72)【発明者】
【氏名】野倉 邦裕
(72)【発明者】
【氏名】田岡 巧
(72)【発明者】
【氏名】橋本 龍司
(72)【発明者】
【氏名】三上 優樹
(72)【発明者】
【氏名】河村 知史
【テーマコード(参考)】
5C086
5H181
【Fターム(参考)】
5C086AA22
5C086BA22
5C086CA21
5C086CA25
5C086CA28
5C086CB36
5H181AA06
5H181AA24
5H181AA27
5H181BB04
5H181BB05
5H181BB13
5H181BB20
5H181CC02
5H181CC04
5H181CC11
5H181CC12
5H181CC14
5H181CC27
5H181EE10
5H181FF10
5H181FF13
5H181FF27
5H181FF32
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL09
5H181MA33
5H181MC03
(57)【要約】
【課題】乗員に危険があることを早期に検出し適宜適切なタイミングで予防処理を行い得る技術を提供すること。
【解決手段】
車両室内の乗員情報のうち乗員の危険につながる注意情報と、車両室内および/または車両室外における環境情報と、を互いに関連付けた判定基準を記憶し、
車両90の運行時に、リアルタイムで収集している前記環境情報が前記判定基準に含まれるか否かを判定する注意行動予測工程をおこない、
前記注意行動予測工程において前記環境情報が前記判定基準に含まれる場合に第1危険予防処理をおこなう、乗員保護システム1。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両室内の乗員情報のうち乗員の危険につながる注意情報と、車両室内および/または車両室外における環境情報と、を互いに関連付けた判定基準を記憶し、
車両の運行時に、
リアルタイムで収集している前記環境情報が前記判定基準に含まれるか否かを判定する注意行動予測工程をおこない、
前記注意行動予測工程において前記環境情報が前記判定基準に含まれる場合に第1危険予防処理をおこなう、乗員保護システム。
【請求項2】
前記判定基準に含まれる前記環境情報は、前記注意情報が生じた時の前記環境情報およびそれに類似する範囲を含む、請求項1に記載の乗員保護システム。
【請求項3】
車両の運行時に、リアルタイムで収集している前記環境情報および前記乗員情報を基に、前記判定基準を追加および/または更新する、請求項1または請求項2に記載の乗員保護システム。
【請求項4】
前記乗員情報のうち乗員の危険に直接つながる危険情報を含む危険判定基準を記憶し、
車両の運行時に、
リアルタイムで収集している前記乗員情報が前記危険判断基準に含まれるか否かを判定する危険行動検出工程をおこない、
前記危険行動検出工程において前記乗員情報が前記危険判断基準に含まれる場合に第2危険予防処理をおこなう、請求項1または請求項2に記載の乗員保護システム。
【請求項5】
前記危険行動検出工程は前記注意行動予測工程の後におこなう、請求項4に記載の乗員保護システム。
【請求項6】
前記注意行動予測工程と前記危険行動検出工程とを並行しておこない、
前記第2危険予防処理は、前記第1危険予防処理に優先しておこなう、請求項4に記載の乗員保護システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用乗員保護システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭乗している乗員を保護するための車両用乗員保護システムとして、従来から種々のものが知られている。
【0003】
当該車両用乗員保護システムの一種として、例えば特許文献1には、乗員の状態と車両の走行状態を基に、乗員が転倒する危険度を判定し、記憶するとともにその危険度に基づいて運転者や乗員に警告を発する技術が紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで特許文献1では、車両の走行状態をリアルタイムで収集し、危険度の判定に用いている。このような方法では、車両および乗員に危険が生じ得ることをその直前に予測することは可能であるかも知れないが、例えば数十秒または数分先に生じる危険までを予測することはできない。乗員に危険が及ぶことをその直前に予測し警告を発しても、警告から危険発生までの間隔が短ければ、その警告が遅きに失する虞がある。
【0006】
このため、乗員保護の信頼性を高めるために、乗員に危険が生じ得ることを早期に予測する技術が望まれている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、乗員に危険が生じ得ることを早期に予測する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の車両用乗員保護システムは、
車両室内の乗員情報のうち乗員の危険につながる注意情報と、車両室内および/または車両室外における環境情報と、を互いに関連付けた判定基準を記憶し、
車両の運行時に、
リアルタイムで収集している前記環境情報が前記判定基準に含まれるか否かを判定する注意行動予測工程をおこない、
前記注意行動予測工程において前記環境情報が前記判定基準に含まれる場合に第1危険予防処理をおこなう、乗員保護システムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用乗員保護システムによると、乗員に危険が生じ得ることを早期に予測することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1の車両用乗員保護システムを模式的に説明する説明図である。
【
図2】実施例1の車両用乗員保護システムの動作を説明する説明図である。
【
図3】実施例2の車両用乗員保護システムを模式的に説明する説明図である。
【
図4】実施例2の車両用乗員保護システムの動作を説明する説明図である。
【
図5】実施例3の車両用乗員保護システムの動作を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の乗員保護システムでは、予め、過去に乗員に生じた危険等に基づいて、当該危険につながる乗員情報、すなわち乗員に関する情報を、注意情報と位置づける。そして、当該注意情報に関連する環境情報と当該注意情報とを互いに関連付け、判定基準、換言すると危険判定を行うための基準として記憶しておく。
そして車両の運行時には、リアルタイムで収集している環境情報が、上記した判定基準に含まれるか否かを判断する注意行動予測工程を行う。当該環境情報が判定基準に含まれる場合には、乗員が注意情報に対応する危険な行動をとる可能性があり、乗員に転倒等の危険が生じる可能性がある。このためこの場合には、第1危険予防処理をおこなうことで、乗員の安全を確保する。
このように、本発明の乗員保護システムによると、乗員に危険が生じ得ることを早期に予測することが可能である。
【0012】
以下、本発明の車両用乗員保護システムをその構成要素ごとに説明する。
なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限x及び上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、並びに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで新たな数値範囲を構成し得る。更に、上記の何れかの数値範囲内から任意に選択した数値を新たな数値範囲の上限、下限の数値とすることができる。
【0013】
本発明の車両用乗員保護システムは、複数の乗員を乗せる所謂乗合型の交通機関において乗員を保護するものを意味する。すなわち本発明でいう車両は、バスや電車に代表される乗合型車両を意味する。
【0014】
また、本発明でいう車両の運行時とは、車両の走行時だけでなく車両の停車時の一部を含む概念である。より具体的には、車両の運行時とは、「車両が走行可能な状態にあり乗客を乗せている時」であって、「速度ゼロすなわち停止しかつドアが全開である時」を除く。例えば当該車両が路線バスであれば、停留所で停車しドアを全開にしている状態にある時や、回送状態にある時等は、車両の運行時に該当しない。
【0015】
本発明の乗員保護システムは、〔1〕環境情報を収集する機構、〔2〕判定基準を記憶する機構、および、〔3〕リアルタイムで収集している環境情報が判定基準に含まれるか否かの判断を行い、必要に応じて第1危険予防処理を行う機構、を有する。以下、〔1〕の機構を環境情報取得部、〔2〕の機構を記憶部、〔3〕の機構を制御部とし、本発明の乗員保護システムを説明する。
【0016】
環境情報取得部は、車両室内および/または車両室外における環境情報をリアルタイムで収集するものである。環境情報取得部が収集した環境情報は、一時的に記憶しても良いし、長期的に記憶しても良い。さらには記憶しなくても良い。環境情報は後述する記憶部に記憶しても良い。
【0017】
本明細書でいう環境情報とは、時刻、温度、湿度、車両の走行状態、道路情報すなわち該当する車両が走行する道路における交通規制や混み具合等、停留所までの距離、付近の施設の営業時間等を例示できるが、これに限定されない。
【0018】
上記の環境情報は、該当する車両に乗車している乗員または乗降車中の乗員の行動、該当する車両の周囲を走行している車両の数や挙動、および、該当する車両の周囲にいる歩行者の数や挙動に関連し、ひいては、注意情報、すなわち乗員の危険につながる乗員情報にも密接に関連する。
【0019】
上記の環境情報を取得するための環境情報取得部としては、画像または動画を取得するビデオカメラ等の撮像装置や、各種データベース等にアクセスして各種の情報を取得する通信機能付のコンピュータ、温度計、湿度計、画像センサ、加速度センサ等に代表される各種センサを例示できるが、これに限定されない。
【0020】
本発明の乗員保護システムは、上記した環境情報取得部に加えて、さらに、車両室内の乗員情報をリアルタイムで収集する乗員情報取得部を有しても良い。以下、必要に応じて、環境情報取得部と乗員情報取得部とを総称して収集部と称する場合がある。
【0021】
乗員情報取得部としては、乗員情報として、乗員の動作や乗員の荷物の動き等を捉えることのできるものを使用すれば良い。このような乗員情報取得部としては、例えば、上記した撮像装置や、荷重センサ、赤外線センサ、画像センサ、静電センサ、超音波センサ、ミリ波センサ等に代表される各種のセンサを例示することができるが、これに限定されない。
【0022】
乗員情報取得部で収集する乗員情報は、後述する判定基準の一部を構成する乗員情報と同種の情報であるのが良い。
【0023】
制御部は、要するに、本発明の乗員保護システムのうち、リアルタイムで収集された環境情報と予め記憶された判定基準とを基に、乗員の安全状態をモニタし、必要に応じて第1危険予防処理を行うことで、乗員の身の安全を図る機能を有する部分である。
【0024】
判定基準とは、車両室内の乗員情報のうち乗員の危険につながる注意情報と、これに関連する環境情報と、を互いに関連付けたものである。
車両室内の乗員情報としては、乗員の動作、例えば、乗員の目の位置すなわち乗員の視線の移動、乗員の頭の位置の変化、乗員の姿勢の変化、乗員の手足の位置の変化、乗員の手荷物の位置の変化等を例示できるがこの限りではない。なお、乗員の手荷物の移動とは、例えば、乗員に使用されていた携帯端末が仕舞われたり、鞄が乗員の手に取られたりすることを意味する。
【0025】
上記した各種の乗員情報は、その大きさや頻度が所定の大きさを超える場合に、乗員の危険に直接つながる行動の前触れである可能性が高い。
したがって、本発明の乗員保護システムでは、上記した類いの乗員情報の少なくとも一種につき、その大きさや頻度が所定の大きさを超えたものを、注意情報として扱えば良い。そして、1つの注意情報について、当該注意情報に関連する環境情報と紐付けた判定基準を設ければ良い。
【0026】
乗員の危険に直接つながる行動とは、例えば、座席に着座した乗員が立ち上がる、立ち乗り客が姿勢を変える、立っていた乗員が歩き出す、等を例示できる。車両が運行している時にこれらの行動を行った乗員には、転倒等の危険が生じる虞がある。したがって、これらの行動は乗員の危険につながる行動ということができる。本明細書では、必要に応じて、当該乗員の危険につながる行動を危険行動と称し、乗員情報のうち当該危険行動に相当するものを危険情報と称する場合がある。
【0027】
また、乗員は、例えば着座した状態から立ち上がる場合に、自身の進行方向の先側を視認したり、停留所等の表示を確認したり、手荷物の整理をしたりする場合が多い。さらに乗員は、立ち上がる直前に姿勢を変化させる場合が多い。このような各種の乗員情報は、その大きさや頻度が小さい場合には、乗員が僅かに姿勢を変えたまたは単に身動きしたことを検出したに過ぎない可能性もある。しかし、当該乗員情報が、その大きさや頻度が所定の大きさを超える注意情報である場合には、乗員の危険につながる行動の前触れである可能性が高いといい得る。
【0028】
如何なる乗員情報を注意情報とするかについては、車両の種類やその運行区間、利用が多いと想定される乗員の種別(例えば、幼児、高齢者等)等に応じて、適宜適切に設定すれば良い。
【0029】
例えば、車両が主として通勤や通学に利用されると想定される場合には、乗員のうち壮健な者の占める割合が多いと考えられるため、乗員情報のなかから注意情報を区別する閾値を高く設定するのが好適である。つまり、この場合、上記した所定の大きさを大きく設定するのが好適である。
換言すると、当該場合には、注意情報であるか否かをより緩和な条件で判定するのが好適である。
【0030】
一方、車両の運行区間に総合病院や病床数の多い病院等が含まれる場合や、小学校や幼稚園等が含まれる場合等には、車両が怪我や病気をしている乗員の通院や、低年齢の乗員の通園、通学等に利用される可能性が高く、車両室内で乗員に危険が生じ得る可能性が高いと想定される。この場合には、上記の閾値を低く設定するのが好適である。
【0031】
なお、本発明の乗員保護システムにおいて、乗員に危険が生じ得ることを早期に予測する予測精度を高めるためには、判定基準は複数設けるのが好ましく、その数は多い程良い。
【0032】
本発明の乗員保護システムでは、1つの危険行動に対する注意情報を1種のみとしても良い。換言すると、1つの危険行動に対する判定基準を1つのみとしても良い。しかし、上記の予測精度を高めるためには、1つの危険行動に対する判定基準を複数設けるのが好適である。
【0033】
1つの危険行動に対する判定基準を複数設ける場合、運行時にリアルタイムで収集している環境情報として、各々別の判定基準に含まれる複数の環境情報が検出された場合に、第1危険予防処理を行うのが好適である。以下、必要に応じて、運行時にリアルタイムで収集している環境情報を、運行時環境情報と称する場合がある。
【0034】
1つの危険行動に対する判定基準を複数設ける場合には、当該複数の判定基準の各々に軽重をつけるもの好適である。この場合、例えば、各判定基準につき軽いものには小さな点数を、重いものには大きな点数を振り分ける。そして、各々別の判定基準に含まれる複数の運行時環境情報が検出された場合に、該当する判定基準の点数を加算し、その和が所定の値以上になった場合に第1危険予防処理を行えば良い。
【0035】
さらに、本発明の乗員保護システムでは、各判定基準において、1つの注意情報につき1つの環境情報のみを関連付けても良いが、1つの注意情報につき複数の環境情報を関連付けるのも好適である。
【0036】
判定基準は、環境情報として、例えば注意情報が生じた時の環境情報のみを含んでも良いし、当該環境情報に加えて、当該環境情報に類似する環境情報(必要に応じて類似環境情報と称する)を含んでも良い。例えば、注意情報が生じた時の環境情報が特定の時刻である場合には、当該時刻の前後数分~数十分程度の範囲を類似環境情報としても良い。判定基準が環境情報に加えて類似環境情報を含む場合には、予測精度が多少低下する虞はあるものの、乗員に危険が生じ得ることを見落し難くなる利点がある。
なお、判定基準に含まれる環境情報は、特定の時刻や特定の温度等、特定の点であっても良いし、特定の時間帯や特定の温度範囲等、特定の範囲であっても良い。
【0037】
本発明の乗員保護システムでは、上記の判定基準として、運行前に予め設定したもののみを用いても良いし、運行中に収集した環境情報や乗員情報を基に運行中に設定したものを用いても良い。運行前に判定基準を予め設定する場合、実車で予備走行して環境情報や乗員情報を収集し、これに基づいて判定基準を定めても良い。または、AI等でシミュレーションした結果に基づいて判定基準を定めても良い。
【0038】
本発明の乗員保護システムでは、予め設定した判定基準に加えて、運行中に収集した環境情報や乗員情報を基に設定した判定基準を追加しても良い。さらには、予め設定した判定基準を、運行中に収集した環境情報や乗員情報を基に更新しても良いし、新たな判定基準を追加しても良い。
【0039】
何れの場合にも、制御部は、車両の運行時に、収集部がリアルタイムで収集している環境情報、すなわち運行時環境情報と、判定基準とを照らし合わせれば良い。
【0040】
参照される対象となる判定基準は、参照される時点で既に存在している必要がある。したがって、運行中に収集した環境情報や乗員情報を基に運行中に設定したもののみを用いる場合、運行初期には充分な予測精度を得られない可能性がある。このため、判定基準の少なくとも一部は、運行前に予め準備しておくことが好ましい。
【0041】
なお、運行時環境情報は、車両の運行時に連続的に収集されている環境情報のうち、判定基準と参照するその時点での情報だけでなく、当該時点の直前に収集され記憶されている情報を含んでも良い。ここでいう直前の範囲は、車両の種類や車両が運行する路線等に応じて適宜適切に設定すれば良く、具体的には、上記時点から60秒以内、30秒以内、10秒以内、5秒以内、等を例示できる。
【0042】
制御部は、上記したように、運行時環境情報と判定基準とを照らし合わせる。そして、運行時環境情報が判定基準に含まれる場合に、第1危険予防処理をおこなう。これは、運行時環境情報が判定基準に含まれる場合には、乗員が注意情報として検出され得る行動を行う可能性があり、ひいては危険行動を行う可能性があるためである。本明細書では、必要に応じて、注意情報として検出されうる乗員の行動を乗員の注意行動と称する場合がある。さらに、運行時環境情報に判定基準を参照し、運行時環境情報が判定基準に含まれるか否かを判定することを、注意行動予測工程と称する場合がある。
【0043】
例えば、車両の停留所までの距離が所定の範囲内にあるときには、降車する乗員が停車前に立ち上がろうとする場合がある。この場合、立ち上がろうとする乗員が転倒する虞がある。
この場合において、「車両の停留所までの距離が所定の範囲である」という情報が環境情報であり、「立ち上がる」という乗員の動作が危険行動である。
【0044】
乗員は立ち上がる前、すなわち危険行動の前に、窓の外や頭の位置を動かす場合がある。頭の位置が僅かに変化しただけでは、乗員が単に姿勢を変えただけなのか、乗員が立ち上がろうとしているのかの判断は困難であるが、例えば、乗員の頭が前後に10cm以上動いた場合には、乗員が立ち上がろうとしている可能性が高い。この場合、「乗員が頭を動かした」という情報が乗員情報であり、「乗員が頭を前後に10cm以上動かした」という情報が注意情報である。
【0045】
なお、この場合に上記の注意情報を収集するためには、乗員の頭の位置が安定して保たれた状態にある時、つまり、乗員の頭の位置が安定状態にある時の乗員の頭の位置を基準点とし、当該基準点からの頭の位置の位置変化量や位置変化の方向を検知する方法が有効である。
さらには上記した頭の位置の変化は、一定の時間内における上記の基準点からの変化量として検知するのがより好適である。当該一定の時間とは、例えば、10秒間、30秒間、1分間等を例示できる。
【0046】
上記の注意情報に基づく判定基準は、「乗員が頭を前後に10cm以上動かした」という注意情報と「車両の停留所までの距離が所定の範囲である」という環境情報とが互いに関連付けて保存されたものである。
この場合、運行時環境情報として、「車両の停留所までの距離が所定の範囲である」という環境情報が取得された場合には、当該運行時環境情報が判定基準に含まれることから、乗員が「頭を前後に10cm以上動かす」という、注意行動を行う可能性が高く、ひいては、「立ち上がる」という危険行動を行う可能性が高い。したがって、この場合には、乗員が危険行動を行う可能性が高いと判断して、第1危険予防処理をおこなえば良い。
【0047】
第1危険予防処理は、運転者や乗員に警告を発することや車両の運転制御を行うことを含む。また、本発明の乗員保護システムが、2段階以上の危険予防処理を行う場合、例えば既述した注意行動予測工程後に1段階目の第1危険予防処理を行う。そして、これに続けて、またはこれに並行して、乗員の注意行動自体を検出することで乗員の危険行動を予測して(すなわち後述する危険行動予測工程を行い)2段階目の危険予防処理を行う場合には、1段階目の危険予防処理として、当該危険行動予測工程を開始しても良い。さらには、後述するように、第1危険予防処理および/または第2危険予防処理に続けて、もしくは、第1危険予防処理および/または第2危険予防処理と並行して、乗員の危険行動自体を検出する危険行動検出工程をおこない、その他の危険予防処理(後述する第2危険予防処理)をおこなっても良い。この場合には、1段階目の危険予防処理として、危険行動検出工程を開始しても良い。危険行動検出工程については追って詳説する。
【0048】
第1危険予防処理または第2危険予防処理として運転者に警告を発する場合、運転席付近に設けられた警告装置を用いるのが良い。具体的には、警告灯を点灯しても良いし、スピーカやイヤホン等により警告音や注意を喚起する音声を発しても良いし、車両室内の映像を表示するモニタ等に注意喚起のためのテキストや図形等の表示を行っても良い。
【0049】
第1危険予防処理または第2危険予防処理として乗員に警告を発する場合にも、乗員の座席の付近に設けられた警告装置を用いるのが良い。この場合にも、警告灯やスピーカ、モニタ等を用い、光や音、文字や図形等により注意喚起を行うのが良い。無線通信により乗員の携帯端末に注意喚起情報を送信するのも好適である。
【0050】
第1危険予防処理または第2危険予防処理として車両の運転制御を行う場合、例えば車両のECU(Electronic Control Unit)に信号を伝送し、車両を減速または停車すれば良い。
これらに限らず、第1危険予防処理および第2危険予防処理は、危険行動をやめることを乗員に促すか、または、乗員が危険行動を行った場合にも乗員に危険が及ばないように車両の走行状態を変更するものであれば良い。
【0051】
第1危険予防処理は、段階的に行っても良い。
例えば、注意情報に軽重をつけて、危険行動に繋がる可能性の低い注意情報や、注意情報の検出から危険行動開始までに要する時間が長いと想定される注意情報については、軽度の判定基準とし、運行時環境情報が当該軽度の判定基準に含まれる場合には、軽度の第1危険予防処理を行うのが良い。また、危険行動に繋がる可能性の高い注意情報や、注意情報の検出から危険行動開始までに要する時間が短いと想定される注意情報については、重度の判定基準とし、運行時環境情報が当該重度の判定基準に含まれる場合には、重度の第1危険予防処理を行うのが良い。第2危険予防処理についても同様に、段階的におこなうことが可能である。
【0052】
例えば、軽度の第1危険予防処理として黄色のランプを点灯する場合、重度の第1危険予防処理として当該ランプを点滅させたり赤いランプを点灯したりすれば良い。
また、軽度の第1危険予防処理として車両を減速する場合、重度の第1危険予防処理として車両を停車すれば良い。
さらに、重度の第1危険予防処理として、軽度の第1危険予防処理を複数行うのも好適である。この場合、複数種の軽度の第1危険予防処理を一つずつ順に行っても良いし、複数種の軽度の第1危険予防処理を同意に行っても良い。
【0053】
本発明の乗員保護システムでは、第1危険予防処理を行った後にも継続して、上記の注意行動予測工程を行っても良い。そして、軽度の判定基準に含まれる運行時環境情報が複数検出された場合に、重度の第1危険予防処理を行っても良い。
さらに、本発明の乗員保護システムでは、危険予防処理を行った後に、または、注意情報予測工程に並行して、収集部で収集した乗員情報から注意情報や危険情報自体を検出しても良い。この場合、運行時にリアルタイムで収集している乗員情報に判定基準を参照し、当該乗員情報が判定基準に含まれる場合に、注意情報や危険情報が検出されたと判定できる。以下、必要に応じて、運行時にリアルタイムで収集している乗員情報を運行時乗員情報と称する。
【0054】
注意情報の検出方法としては、例えば、本願出願人が出願した特願2020-189005号に記載した方法を好適に用いることができる。
【0055】
特願2020-189005号は、
車両に搭乗している乗員と、車両室内と、を撮像して画像情報を経時的に取得する撮像部と、
前記車両の運行時において、前記画像情報に基づき前記乗員の動作を時系列に沿って解析し、前記乗員の動作のうち場所の移動につながる前記乗員の移動予備動作が単独でまたは累積して所定の危険水準に達したと判断した場合に予防処理を行う制御部と、を具備する、車両用乗員保護システムに関する発明である。
このうち「場所を移動するという乗員の動作」は本発明における危険行動であり、「場所の移動につながる乗員の移動予備動作」は、本発明における注意情報として検出される乗員の動作、すなわち、注意行動である。
【0056】
特願2020-189005号に記載されている車両用乗員保護システムは、要するに、乗員情報を連続的に収集して、移動予備動作が単独でまたは累積して危険水準に達した状態を、注意情報として検出するものである。本発明では、運行時環境情報から注意情報が生じる可能性があると予測する。したがって、特願2020-189005号に記載されている車両用乗員保護システムは、本発明の乗員保護システムにおける上記の注意行動予測工程の一段階後、すなわち、注意情報自体を検出する工程といい得る。なお、注意情報自体を検出する方法は、上記の方法に限定されず、既知の種々の方法を用い得る。
【0057】
本明細書では、上記したように注意行動予測工程および危険予防処理後に継続して、または、当該注意行動予測工程および第1危険予防処理と並行して注意情報を検出し、実際に検出した注意情報を基に乗員の危険行動を予測する工程を、必要に応じて、危険行動予測工程と称する。
危険行動予測工程で用いる注意情報は、注意行動予測工程で用いる判定基準に含まれる注意情報と同じものであっても良いし、当該注意情報よりも、より厳しい条件で判定されたものであっても良い。
【0058】
ただし、危険行動予測工程を注意行動予測工程および危険予防処理後におこなう場合には、危険行動予測工程で用いる注意情報は、注意行動予測工程で用いる判定基準に含まれる注意情報よりも、より厳しい条件で判定されたものであるのが好適である。
これは、危険行動予測工程を注意行動予測工程および危険予防処理後に行う場合には、既に乗員が注意行動を行うと予測されており、その後乗員が実際に注意行動を行う可能性が高い状況下にあるためである。
【0059】
危険行動予測工程で用いる注意情報と、判定基準に含まれる注意情報と、が同じ「乗員が頭部を動かす」という情報である場合を例示し、より詳しく説明する。
【0060】
注意行動予測工程が危険行動予測工程に先立って行われる場合、注意行動予測工程を行っている時の乗員の危険度は、危険行動予測工程を行っている時の乗員の危険度に比べて低い場合が多い。このため、この場合に注意行動予測工程で用いる判定基準は、危険度の非常に高い乗員がいることを検出するための厳しい条件の注意情報よりも、比較的危険度の高い乗員をもれなく検出し得る比較的緩和な条件の注意情報を含む方が好適である。換言すると危険行動予測工程では注意行動予測工程よりも予測感度を高くするのが好適である。
【0061】
より具体的には、上記した危険行動予測工程で用いる注意情報と、判定基準に含まれる注意情報と、が同じ「乗員が頭部を動かす」という情報である場合、例えば、判定基準に含まれる注意情報は、「乗員が頭部を前後に5cm以上動かす」情報とし、危険行動予測工程で用いる注意情報は、「乗員が頭部を前後に10cm以上動かす」情報とするのが好適である。乗員が頭部を10cm動かした場合には、乗員が頭部を5cm動かした場合に比べて、乗員が立ち上がる可能性は高い。したがって、この場合、危険行動予測工程では、判定基準を用いる注意行動予測工程に比べて、乗員が立ち上がるという乗員の危険行動に対する予測感度が高くなるといい得る。
【0062】
さらに、注意行動予測工程および危険予防処理後に継続して、または、当該注意行動予測工程および第1危険予防処理と並行して乗員の危険情報自体を検出しても良い。実際に危険情報を検知する工程を必要に応じて、危険行動検出工程と称する。
危険行動検出工程で用いる危険情報は、既述した乗員の危険に直接つながる行動、すなわち危険行動を含む乗員情報である。
危険情報が検出された場合には、乗員の危険が差し迫った状態にある可能性が高い、この場合には、すぐさま危険予防処理をおこなうのが好適である。この場合の危険予防処理を第2危険予防処理と称する場合がある。
【0063】
本発明の乗員保護システムでは、制御部として、CPUやメモリ等を具備する演算装置を用いるのが好適である。制御部は、本発明の車両用乗員保護システム専用のものであっても良いし、車両のECU(Electronic Control Unit)と兼用しても良い。さらに、制御部は必ずしも車両に搭載される必要はなく、例えば、車両外部のコントロールセンターに配置した制御部と、単数または複数の車両とを無線通信で接続してもよい。そして、当該制御部によって、該当する車両の環境情報や乗員情報を収集するとともに、該当する車両を遠隔制御しても良い。
【0064】
記憶部は、本発明の乗員保護システムのうち、既述した判定基準を記憶している部分であり、制御部と同様に、車両に搭載されていても良いし、車両外部のコントロールセンター等に別途設けたサーバーに搭載されても良い。当該記憶部は、判定基準に加えて、運行時に収集部が収集した運行時環境情報や運行時乗員情報を、所定期間記憶しても良い。
【0065】
制御部および記憶部の全体が車両に搭載される場合には、システム全体の処理速度が高まる利点がある。一方、制御部の一部が車両外部すなわち上記のコントロールセンター等に配置される場合には、例えば制御部での解析結果を複数の車両間で共有することができ、ひいては近接する車両間で連携した車両制御、例えば減速制御等を行うことも可能である。制御部による当該制御機構を、例えば、路線バス等の公共交通機関、ある特定区間で運行されるシャトルバス、または複数車両が前後に連なって運行する観光バス等に適用すると、本発明の車両用乗員保護システムは、より効果的な集中管理・中央制御的運用が可能になり、複数の車両をより安全に運行することが可能になる。
【0066】
以下、具体例を挙げて本発明の車両用乗員保護システムを説明する。
【0067】
(実施例1)
実施例1の乗員保護システムは、乗合型の交通機関の一種であるバスの車両に搭載され、当該車両に乗車している乗員の安全を図るものである。
実施例1の乗員保護システムを模式的に説明する説明図を
図1に示し、実施例1の乗員保護システムの動作を説明する説明図を
図2に示す。
【0068】
図1に示すように、実施例1の乗員保護システム1は、収集部2、制御部3、記憶部4および警告部5を具備する。
実施例1の乗員保護システム1では、収集部2、制御部3、記憶部4および警告部5が車両90に搭載されている。
【0069】
実施例1の乗員保護システム1における収集部2は、環境情報を連続的に収集する環境情報取得部20と、乗員情報を連続的に収集する乗員情報取得部21と、を有する。
【0070】
このうち環境情報取得部20は、図略の路線料金装置、温湿度センサ、時計、CAN、通信装置、室内カメラ、および、室外カメラを有する。
【0071】
路線料金装置は、車両室内に搭載され、車両90の運行区間と当該運行区間に応じた料金すなわち運賃とを関連付けて記憶し、車両90の現在地から運賃を算出するとともに、料金の精算を行う装置である。路線料金装置は、環境情報として、車両90の区間情報を収集する。
例えば、車両90の路線に病院が含まれる場合、病院前の停留所から乗車した乗員は運動能力の低下した乗員である可能性がある。この場合、立っている乗員が転倒する可能性が高まる。また、運賃が小銭である場合には、両替を希望する乗員がいる可能性がある。この場合には、乗員が立ち上がり転倒する可能性が高くなる。なお、前者の場合の乗員の危険行動は立ち乗りすることであり、後者の場合の乗員の危険行動は着座している状態から立ち上がることである。実施例1の乗員保護システム1では、路線料金装置は、車両90と当該停留所との位置関係や、次の停留所で降車する乗員が支払う運賃を環境情報として収集する。
【0072】
温湿度センサは、車両室内に搭載され、環境情報として車両室内の温度および湿度を収集する。車両室内が高温多湿である場合や低温である場合には、エアーコンディショナーから吹き出す空調空気の風量や風向を調整するために、座席に着座している乗員が立ち上がったり、立っている乗員が姿勢を変えたりする可能性がある。また、立っている乗員がエアーコンディショナーの吹出口等に向けて歩き出す可能性もある。この場合にも乗員が転倒する可能性が高くなる。なお、この場合の乗員の危険行動は、着座している状態から立ち上がることや、立っている状態から姿勢を変えること、立っている状態から歩き出すことである。
【0073】
時計は、車両90に搭載され、環境情報として現在の時間を収集する。昼間は、通勤や通学時間の混雑を避けた高齢者の乗車率が高くなる。この場合の乗員の危険行動は、着座している状態から立ち上がることや、立ち乗りしていることである。
【0074】
CAN(Controller Area Network)は、車両90のECUに接続され複数のECU間で情報伝達を行う通信システムである。CANは環境情報として、車両90の走行情報、具体的には、アクセルやブレーキの操作情報、車両90の速度、加速度等を収集する。
アクセルおよびブレーキの操作なしに車両90の速度が徐々に低下したり、加速したりする場合には、車両90が坂道を走行している可能性がある。この場合、乗員の姿勢が不安定になり、転倒する可能性が高まる。この場合の乗員の危険行動は、着座している状態から立ち上がることや、立ち乗りしていることである。
【0075】
通信装置は、データベースと通信し、気象情報を収集する。雨天時や降雪時には車両90のフロアが濡れて、乗員が滑りやすくなる。この場合の乗員の危険行動は、着座している状態から立ち上がることや、立ち乗りしていることである。
【0076】
室内カメラは、車両室内の動画を撮像し画像データを収集する。制御手段は、当該画像データを基に、車室内の明るさ、車室内の揺れ、乗員の荷物を判定する。
例えば、強い西日のさす夕方や夜間は、車両90のフロアやステップの段差を視認し難く、乗員が脚を踏み外す可能性がある。この場合の乗員の危険行動は、着座している状態から立ち上がることや、立ち乗りしている状態から姿勢を変えることである。
また例えば、車両室内の揺れが大きいと、立ち乗りしている乗員がバランスを崩し易い。この場合の乗員の危険行動は、立ち乗りしていることである。
例えば乗員が傘を持っている場合には、雨天である可能性があり、車両90のフロアが濡れて乗員が滑りやすい可能性がある。この場合の乗員の危険行動は、着座している状態から立ち上がることや、立ち乗りしていることである。
例えば乗員の両手が荷物で塞がっている場合、当該乗員は転倒し易い。この場合の乗員の危険行動は、立ち乗りしていることである。
【0077】
室外カメラは、路面状況(工事等で路面に大きな凹凸がある、車線規制がある等)や信号と車両90との位置関係、車両90の進行方向先側を撮像し、画像データを収集する。
路面状況が悪い場合には、車両室内が大きく揺れて、立ち乗りしている乗員がバランスを崩し易い。この場合の乗員の危険行動は、立ち乗りしていることである。
進行方向の先側かつ近距離にある信号が赤であれば車両90が減速し、当該信号が赤から青に変われば停車していた車両90が発進したり、減速していた車両90が加速したりする。これらの場合にも車両室内が大きく揺れて、立ち乗りしている乗員がバランスを崩し易い。この場合の乗員の危険行動は、立ち乗りしていることである。
進行方向先側にカーブがあったり三叉路等の交差点があったりする場合には、立ち乗りしている乗員がバランスを崩し易い。この場合の乗員の危険行動は、立ち乗りしていることである。
【0078】
実施例1の乗員保護システム1では、上記した各環境情報取得部20が収集する環境情報は、各々、該当する乗員の注意情報と関連付けた判定基準として、予め記憶部4に記憶している。
【0079】
乗員情報取得部21は、車両室内の動画を撮像する室内カメラである。
【0080】
制御部3は、車両90に搭載されているコンピュータであり、CPUおよびRAMを有する。制御部3は、上記した収集部2ならびに後述する記憶部4および警告部5に接続されている。
【0081】
記憶部4は、所謂ストレージの一種であるハードディスクであり、予め判定基準を記憶している。
ここで、実施例1の乗員保護システム1においては、乗員情報取得部21が収集した画像を基に、乗員の頭の位置、目の動き、および、骨格診断を基にした姿勢の変化を解析し、以下の7種の乗員情報を判別する。なお、以下の乗員情報は昇順に進行すると考えられる。
[1]完全に着座している、
[2]周囲を見る、
[3]背もたれから離れる、
[4]体が座面から離れる、
[5]その場で立ち上がる、
[6]通路に出る、
[7]通路で歩き始める。
【0082】
上記した7種の乗員情報のうち[2]~[4]が注意行動である。このうち[3]は[2]よりも引き続き危険行動が生じる可能性の高い行動、すなわち重度の注意行動である。また[4]は[3]よりも重度の注意行動である。
【0083】
上記した7種の乗員情報のうち[5]以降は危険行動である。
【0084】
実施例1の乗員保護システム1では、[2]~[7]の各乗員情報と、そのときの環境情報とを、同じ路線で車両90を複数回試験走行することで予め取得し、互いに紐付けて、判定基準として記憶部4に記憶した。
後述する注意行動予測工程では、注意行動である[2]~[4]を含む判定基準を用いる。後述する危険行動検出工程では、危険行動である[5]~[7]を含む判定基準を用いる。
【0085】
実施例1の乗員保護システム1では、上記した試験走行時に、上記した各種の環境情報取得部20により環境情報を収集した。環境情報は所定の取得頻度(フレームレート)で取得され、このうち上記[2]~[7]の乗員情報の何れかが生じた時のフレームに含まれる環境情報を、各々対応する注意行動または危険行動とともに、判定基準とした。
【0086】
警告部5は、図略の警告灯、スピーカおよびモニタであり、運転者および乗員に警告を発する。
【0087】
以下、
図2を用いて実施例の乗員保護システム1の動作を説明する。
【0088】
先ず、車両90が運行を開始すると、実施例1の乗員保護システム1もまた開始し(S1)、制御部3は、先ず、注意行動予測工程を開始する(S2)。
【0089】
注意行動予測工程では、収集部2の環境情報取得部20によって環境情報を連続的に収集するとともに、乗員情報取得部21によって乗員情報を連続的に収集する。なお、乗員情報取得部21は、車両90に乗車している乗員毎に個別の乗員情報を収集する。従って、以下の工程は乗員毎に並行して行われる。
制御部3は、ここで収集した環境情報および乗員情報を、所定期間、記憶部4に記憶させる。
【0090】
制御部3は、環境情報取得部20がリアルタイムで収集している運転時環境情報を解析する(S4)。そして、当該運転時環境情報を、記憶部4に予め記憶されている判定基準に照らし合わせて、当該運転時環境情報が判定基準に含まれるか否かを判断する(S5)。
【0091】
制御部3は、運転時環境情報が判定基準に含まれない場合(S5のNO)には、S4に戻り、運転時環境情報が判定基準に含まれる場合(S5のYES)には、乗員の注意行動が生じる可能性が高いとして、第1危険予防処理を開始する(S6)。
当該第1危険予防処理では、運転席近傍にある警告部5によって、乗員が注意行動を行う可能性がある旨を運転者に警告する。また、乗員当人にも、座席近傍にあるに警告部5によって、注意行動を行わないよう警告する。
【0092】
制御部3は、上記した第1危険予防処理を行った後に、危険行動検出工程を開始する(S7)。危険行動検出工程では乗員情報取得部21によりリアルタイムで収集している運行時乗員情報を解析する(S8)。そして、当該運転時乗員情報を、記憶部4に予め記憶されている判定基準に照らし合わせて、当該運転時乗員情報が判定基準に含まれるか否かを判断する。換言すると、乗員が危険行動を行ったか否かを検出する(S9)。
【0093】
制御部3は、運転時乗員情報が判定基準に含まれない場合(S9のNO)には、S8に戻り、運転時乗員情報が判定基準に含まれる場合(S9のYES)には、乗員の危険行動が生じたとして、第2危険予防処理を開始する(S10)。
当該第2危険予防処理では、運転席近傍にある警告部5によって、乗員が危険行動を行った旨を運転者に警告する。また、乗員当人にも、座席近傍にあるに警告部5によって、危険行動を中止するよう警告する。例えば、このとき警告部5は、乗員に走行中は着席するかまたは吊革につかまるよう促す。
【0094】
制御部3は、上記した第2危険予防処理を行った後に、乗員の危険行動と、当該危険行動が生じた時の環境情報とを関連付けて、新たな判定基準として記憶部4に記憶する(S11)。例えば、このときの危険行動は、座席に着座している乗員が立ち上がることであり、環境情報は、走行中の車両90が次の停留所に近い位置にあることである。
【0095】
制御部3は、新たな判定基準を追加した後、運転時環境情報および運転時乗員情報を基に、上記の危険行動を行った乗員が降車したか否かを解析する。該当する乗員が降車していない場合(S12のNO)には、S8に戻る。該当する乗員が降車した場合(S12のYES)には、該当する乗員についての危険行動検出工程を終了する(S13)。なお、この場合にも、車両90が運行を続けている場合には、他の乗員についての注意行動予測工程および/または危険行動検出工程は継続される。
【0096】
実施例1の乗員保護システム1では、車両90の運行時に、リアルタイムで収集している運行時環境情報を判定基準に照らし合わせて、当該運行時環境情報が判定基準に含まれるか否かの判断を行い、その結果に基づいて、乗員が危険行動の先触れである注意行動を行うか否かを予測する。これにより、実施例1の乗員保護システム1によると、乗員に危険が生じ得ることを早期に予測し、適宜適切な危険予防を行うことが可能である。
【0097】
(実施例2)
実施例2の乗員保護システム1は、制御部3および記憶部4が車外のコントロールセンターに配置され、当該コントロールセンターと車両90との通信を行う通信部を有する点において実施例1の乗員保護システム1とは異なり、その余においては実施例1の乗員保護システム1と概略同じである。
実施例2の乗員保護システム1を模式的に説明する説明図を
図3に示し、実施例2の乗員保護システム1の動作を説明する説明図を
図4に示す。
【0098】
図3に示すように、実施例2の乗員保護システム1は、収集部2、制御部3、記憶部4および警告部5に加えて、通信部60および通信部61を具備する。
収集部2、警告部5および通信部60は車両90に搭載され、通信部61、制御部3および記憶部4はコントロールセンター91に配置されている。車両90に搭載されている通信部60とコントロールセンターの通信部61とは無線通信可能であり、通信部60には収集部2および警告部5が接続されている。
【0099】
コントロールセンター91の制御部3には、通信部61および記憶部4が接続されている。制御部3は、通信部61および通信部60を介して、車両90に設けた収集部2から環境情報および乗員情報を取得し、また、通信部61および通信部60を介して、警告部5を運転制御する。なお、通信部61は他の車両90に搭載された他の通信部(図略)とも無線通信可能である。したがって制御部3は、通信部61を介し、複数の車両90で並行して乗員保護を行い、また、複数の車両90からリアルタイムで環境情報を取得し収集する。
【0100】
図4に示すように、実施例2の乗員保護システム1では、乗員保護システム1が開始(IS1)すると、コントロールセンター91にある制御部3は、対象となる車両90からの環境情報および乗員情報を受信したか否かを解析する(IS2)。環境情報および乗員情報を受信していない場合(IS2のNO)には、IS2を繰り返す。環境情報および乗員情報を受信した場合(IS2のYES)には、注意行動予測工程(
図2のS2)に進み、以降、実施例1の乗員保護システム1と同様のS2~S13を行う。
【0101】
実施例2の乗員保護システム1では、実施例1の乗員保護システム1と同様に、車両90の運行時に、リアルタイムで収集している運行時環境情報を判定基準に照らし合わせて、当該運行時環境情報が判定基準に含まれるか否かの判断を行い、その結果に基づいて、乗員が危険行動の先触れである注意行動を行うか否かを予測する。これにより、実施例2の乗員保護システム1によっても、乗員に危険が生じ得ることを早期に予測し、適宜適切な危険予防を行うことが可能である。
【0102】
また、実施例2の乗員保護システム1では、制御部3が車両90外部のコントロールセンターに配置されることで、制御部3での解析結果や環境情報、判定基準を複数の車両90間で共有し、フィードバックすることができる利点がある。
【0103】
また、制御部3や記憶部4として大型のものや大容量のものを使用でき、制御部3による処理速度が向上したり、多種多様の判定基準を利用できたりする利点もある。
【0104】
(実施例3)
実施例3の乗員保護システム1は、第2危険予防処理のタイミングが実施例1の乗員保護システム1とは異なり、その余においては実施例1の乗員保護システム1と概略同じである。
実施例3の乗員保護システム1の動作を説明する説明図を
図5に示す。
【0105】
実施例3の乗員保護システム1では、第1危険予防処理を行う条件が成立しない場合に、乗員が危険行動をおこなった場合に、先ず第2危険予防処理をおこなう。
例えば、予め判定基準が準備されていない場合であって、まだ充分な判定基準が収集されていない場合には、注意行動予測工程において乗員が注意行動をおこなう可能性があることを精度高く検出できない。このような場合には、注意行動予測工程において、環境情報が判定基準に含まれなくても、乗員が危険行動をおこなう可能性がある。実施例3では、注意行動予測工程と危険行動検出工程とを並行しておこない、第2危険予防処理を第1危険予防処理に優先しておこなう。
【0106】
より具体的には、実施例3の乗員保護システム1では、
図5に示すように、制御部3は、運転時環境情報が判定基準に含まれない場合(S5のNO)には、第1危険予防処理をせず危険行動検出工程を開始(S7)し、運転時環境情報が判定基準に含まれる場合(S5のYES)には、乗員の注意行動が生じる可能性が高いとして、第1危険予防処理を開始する(S6)。当該第1危険予防処理では、運転席近傍にある警告部5によって、乗員が注意行動を行う可能性がある旨を運転者に警告する。また、乗員当人にも、座席近傍にあるに警告部5によって、注意行動を行わないよう警告する。
【0107】
制御部3は、注意行動予測工程(S2)を終了後、危険行動検出工程を開始する(S7)。危険行動検出工程では乗員情報取得部21によりリアルタイムで収集している運行時乗員情報を解析する(S8)。そして、当該運転時乗員情報を、記憶部4に予め記憶されている判定基準に照らし合わせて、当該運転時乗員情報が判定基準に含まれるか否かを判断する。換言すると、乗員が危険行動を行ったか否かを検出する(S9)。
【0108】
制御部3は、運転時乗員情報が判定基準に含まれない場合(S9のNO)には、第2危険予防処理(S10)をせずに乗員の降車判定(S12)へ進み、運転時乗員情報が判定基準に含まれる場合(S9のYES)には、乗員の危険行動が生じたとして、第2危険予防処理を開始する(S10)。当該第2危険予防処理では、運転席近傍にある警告部5によって、乗員が危険行動を行った旨を運転者に警告する。また、乗員当人にも、座席近傍にあるに警告部5によって、危険行動を中止するよう警告する。例えば、このとき警告部5は、乗員に走行中は着席するかまたは吊革につかまるよう促す。
【0109】
制御部3は、上記した第2危険予防処理を行った後に、乗員の危険行動と、当該危険行動が生じた時の環境情報とを関連付けて、新たな判定基準として記憶部4に記憶する(S11)。
【0110】
制御部3は、新たな判定基準を追加した後、運転時環境情報および運転時乗員情報を基に、上記の危険行動を行った乗員が降車したか否かを解析する。該当する乗員が降車していない場合(S12のNO)には、S2に戻る。該当する乗員が降車した場合(S12のYES)には、該当する乗員についての危険行動予測工程を終了する(S13)。なお、この場合にも、車両90が運行を続けている場合には、他の乗員についての注意行動予測工程および/または危険行動予測工程は継続される。
【0111】
実施例3の乗員保護システム1では、実施例1の乗員保護システム1と同様に、車両90の運行時に、リアルタイムで収集している運行時環境情報を判定基準に照らし合わせて、当該運行時環境情報が判定基準に含まれるか否かの判断を行い、その結果に基づいて、乗員が危険行動の先触れである注意行動を行うか否かを予測する。これにより、実施例3の乗員保護システム1によっても、乗員に危険が生じ得ることを早期に予測し、適宜適切な危険予防を行うことが可能である。
【0112】
また、実施例3の乗員保護システム1では、乗員が注意行動をおこなわず危険行動をおこなった場合に、第2危険予防処理をおこなうことで、乗員の安全をより信頼性高く確保することが可能である。
【0113】
以上本発明を説明してきたが、本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではなく、当該実施形態等に記載した要素を適宜抽出し組み合わせて実施することや、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
また、本発明の明細書は、出願当初における各請求項の引用関係に止まらず各請求項に記載された事項を適宜組み合わせた技術思想を開示するものである。
【符号の説明】
【0114】
1:乗員保護システム、90:車両