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特開2023-180380光硬化性導電性インク組成物、配線部材及び配線部材の製造方法
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  • 特開-光硬化性導電性インク組成物、配線部材及び配線部材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180380
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】光硬化性導電性インク組成物、配線部材及び配線部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20231214BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20231214BHJP
【FI】
H01B1/22 A
C09D11/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093638
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】古正 力亜
【テーマコード(参考)】
4J039
5G301
【Fターム(参考)】
4J039AC01
4J039AD10
4J039AE04
4J039AE05
4J039BA06
4J039BE12
4J039BE22
4J039BE27
4J039EA05
4J039EA24
4J039FA02
4J039GA16
5G301DA03
5G301DA05
5G301DA06
5G301DA10
5G301DA11
5G301DA12
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DD03
5G301DE01
(57)【要約】
【課題】三次元形状を有する樹脂成形品の表面に対しても、良好な追従性を有する微細配線を形成可能な光硬化性導電性インク組成物を提供する。
【解決手段】光硬化性導電性インク組成物は、メディアン径が500nm以下の導電性ナノ粒子(A1)を含む導電性粒子(A)と、前記導電性ナノ粒子(A1)の表面を被覆する分散剤(P1)と、光重合性化合物(B)と、光重合開始剤(C)とを含む。光重合性化合物(B)は、ウレタン(メタ)アクリレート又はエポキシ(メタ)アクリレート(B1)と、酸性基又は水酸基を有する(メタ)アクリレート(B2)とを含む。光重合性化合物(B)の含有量は、導電性粒子(A)100質量部に対して10質量部未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メディアン径が500nm以下の導電性ナノ粒子(A1)を含む導電性粒子(A)と、
前記導電性ナノ粒子(A1)の表面を被覆する分散剤(P1)と、
光重合性化合物(B)と、
光重合開始剤(C)と、
を含み、
前記光重合性化合物(B)は、
ウレタン(メタ)アクリレート又はエポキシ(メタ)アクリレート(B1)と、
酸性基又は水酸基を有する(メタ)アクリレート(B2)と、
を含み、
前記光重合性化合物(B)の含有量は、導電性粒子(A)100質量部に対して10質量部未満である、
光硬化性導電性インク組成物。
【請求項2】
メディアン径が500nm超1200nm以下の導電性サブミクロン粒子(A2)と、
前記導電性サブミクロン粒子(A2)の表面を被覆する分散剤(P2)と、
をさらに含む、
請求項1に記載の光硬化性導電性インク組成物。
【請求項3】
前記導電性ナノ粒子(A1)と前記導電性サブミクロン粒子(A2)の含有比率A1/A2は、100/0~20/80(質量比)である、
請求項2に記載の光硬化性導電性インク組成物。
【請求項4】
前記光重合性化合物(B)は、
多官能の(メタ)アクリレート(B3)(但し、前記ウレタン(メタ)アクリレート又はエポキシ(メタ)アクリレート(B1)及び前記水酸基又は酸性基を有する(メタ)アクリレート(B2)とは異なる)をさらに含む、
請求項1に記載の光硬化性導電性インク組成物。
【請求項5】
前記導電性ナノ粒子(A1)は、銀ナノ粒子である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の光硬化性導電性インク組成物。
【請求項6】
前記導電性サブミクロン粒子(A2)は、銀サブミクロン粒子である、
請求項2又は3に記載の光硬化性導電性インク組成物。
【請求項7】
基材と、
請求項1に記載の光硬化性導電性インク組成物から得られる導体と、
を含む、
配線部材。
【請求項8】
基材に、請求項1に記載の光硬化性導電性インク組成物を付与する工程と、
前記付与した光硬化性導電性インク組成物に光を照射して、前記光硬化性導電性インク組成物を硬化させる工程と、
前記光硬化性導電性インク組成物の硬化物を熱処理する工程と、
を含む、
配線部材の製造方法。
【請求項9】
前記基材は、三次元形状を有する樹脂成形体である、
請求項8に記載の配線部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性導電性インク組成物、配線部材及び配線部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部品点数を削減して製品を軽量化・薄型化したり、電化製品の形状の自由度を高めたりすることで、これまで実現できなかった設計を実現できる技術の1つとして、三次元形状の樹脂成形品の表面に、電極や回路等の金属配線を形成する技術が注目されている。
【0003】
三次元形状の樹脂成形品の表面に金属配線を形成する技術として、めっきによる配線形成や、インモールドエレクトロニクス(IME)によるフィルム状回路のインサート成形が検討されている。両工法とも工程数が多いという問題があり、必要な部分のみに金属配線をダイレクトに形成する工法、即ち、アディティブ工法で簡便に金属配線を形成できることが望まれている。
【0004】
これに対し、特許文献1では、メディアン径が30~400nmである金属ナノ粒子と、メディアン径が1~5μmである金属粒子と、有機溶剤と、樹脂成分とを含む導電性ペーストが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/55848号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示される導電性ペーストは、硬化性成分を含まないため、三次元形状を有する樹脂成形品の表面に塗布した際、すぐには固まりにくく、液だれしやすい。そのため、微細配線を形成することが難しかった。また、導電性ペーストに含まれる樹脂成分は十分な可とう性を有するものではないため、三次元形状の表面に対する追従性も十分ではなかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、三次元形状を有する樹脂成形品の表面に対しても、良好な追従性を有する微細配線を形成可能な光硬化性導電性インク組成物、配線部材及び配線部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光硬化性導電性インク組成物は、メディアン径が500nm以下の導電性ナノ粒子(A1)を含む導電性粒子(A)と、前記導電性ナノ粒子(A1)の表面を被覆する分散剤(P1)と、光重合性化合物(B)と、光重合開始剤(C)と、を含み、前記光重合性化合物(B)は、ウレタン(メタ)アクリレート又はエポキシ(メタ)アクリレート(B1)と、酸性基又は水酸基を有する(メタ)アクリレート(B2)と、を含み、前記光重合性化合物(B)の含有量は、導電性粒子(A)100質量部に対して10質量部未満である。
【0009】
本発明の配線部材は、基材と、本発明の光硬化性導電性インク組成物から得られる導体と、を含む。
【0010】
本発明の配線部材の製造方法は、基材に、本発明の光硬化性導電性インク組成物を付与する工程と、前記付与した光硬化性導電性インク組成物に光を照射して、前記光硬化性導電性インク組成物を硬化させる工程と、前記光硬化性導電性インク組成物の硬化物を熱処理する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、三次元形状を有する樹脂成形品の表面に対しても、良好な追従性を有する微細配線を形成可能な光硬化性導電性インク組成物、配線部材及び配線部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1A~Cは、実施例における評価用サンプルの作製手順を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、実施形態に基づき、詳細に説明する。但し、本発明は、これらの実施形態に限定されない。
【0014】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、メディアン径が500nm以下の導電性ナノ粒子(A1)と、光重合性化合物(B)とを含有するインク組成物は、ディスペンサ法やインクジェット法による塗布が可能であるだけでなく、光硬化により塗布後、瞬時に硬化しうるため、液だれしにくく、微細な配線を形成できることを見出した。
【0015】
一方で、導電性ナノ粒子(A1)は、粒径が非常に小さいため凝集しやすく;凝集を抑制するために、導電性ナノ粒子(A1)の表面は、通常、有機物である分散剤(P1)で被覆されている。導電性ナノ粒子(A1)は粒径が非常に小さく、緻密な焼結体が形成されるため、可とう性が劣りやすく;焼成時の硬化収縮も大きいため、基材との密着性も得られにくい。それにより、種々の三次元形状の表面に対する追従性が得られにくかった。
【0016】
これに対して本発明では、光重合性化合物(B)として、ウレタン(メタ)アクリレート又はエポキシ(メタ)アクリレート(B1)と、酸性基又は水酸基を有する(メタ)アクリレート(B2)とを含有させる。
ウレタン(メタ)アクリレート又はエポキシ(メタ)アクリレート(B1)は、鎖長が比較的大きいため、少量の添加でも得られる導体に可とう性を付与しうる。それにより、導体の抵抗値を維持したまま導体の追従性を高めることができる。
水酸基又は酸性基を有する(メタ)アクリレート(B2)は、得られる導体の抵抗値を低減しうる。即ち、焼成時に、導電性ナノ粒子(A1)の表面に付着している分散剤(P1)の官能基(例えばアミノ基等)に、水酸基又は酸性基を有する(メタ)アクリレート(B2)の水酸基又は酸性基が作用し、置き換わることで、分散剤(P1)を導電性ナノ粒子(A1)の表面から取り除くことができる。その結果、導電性ナノ粒子(A1)同士が接触しやすくなり、抵抗値が低減すると考えられる。
【0017】
即ち、本発明の一実施形態に係る光硬化性導電性インク組成物は、メディアン径が500nm以下の導電性ナノ粒子(A1)と、その表面を被覆する分散剤(P1)と、光重合性化合物(B)と、光重合開始剤(C)とを含み;光重合性化合物(B)が、ウレタン(メタ)アクリレート又はエポキシ(メタ)アクリレート(B1)と、酸性基又は水酸基を有する(メタ)アクリレート(B2)とを含む。
【0018】
また、上記組成物は、導電性サブミクロン粒子(A2)をさらに含むことが好ましい。導電性サブミクロン粒子(A2)は、導電性ナノ粒子(A1)よりも粒径が大きいため、焼成時の硬化収縮を低減しやすい。それにより、導体の基材との密着性をより高め、追従性をより高めることができる。
【0019】
以下、本発明の光硬化性導電性インク組成物の構成について、詳細に説明する。
【0020】
1.光硬化性導電性インク組成物
光硬化性導電性インク組成物(以下、単に「組成物」ともいう)は、導電性粒子(A)と、光重合性化合物(B)と、光重合開始剤(C)とを含む。
【0021】
1-1.導電性粒子(A)
導電性粒子(A)は、導電性ナノ粒子(A1)を少なくとも含み、導電性サブミクロン粒子(A2)をさらに含むことが好ましい。
【0022】
1-1-1.導電性ナノ粒子(A1)
導電性ナノ粒子(A1)は、メディアン径D50が500nm以下、好ましくは50nm~400nmの導電性粒子である。このような導電性ナノ粒子(A1)は、粒径が非常に小さいため微細な配線を形成しやすいだけでなく、緻密な焼結体を形成しうるため、得られる導体の導電性を高めうる。本願明細書において、メディアン径D50は、レーザー回折法により求められる体積基準の累積50%粒子径をいう。なお、導電性ナノ粒子(A1)のメディアン径は、後述するように、導電性ナノ粒子(A1)の表面が分散剤(P1)で被覆された状態で測定した場合であっても、分散剤(P1)を含まない導電性ナノ粒子(A1)のメディアン径として測定される。
【0023】
導電性ナノ粒子(A1)を構成する材料は、金属であることが好ましい。導電性ナノ粒子(A1)を構成する金属は、特に限定されないが、得られる導体の抵抗値を低減できる観点では、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、金、銀、銅、白金からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。これらの中でも、導体の抵抗値を十分に低減できる観点では、銀を用いること、即ち、銀ナノ粒子を用いることがより好ましい。
【0024】
導電性ナノ粒子(A1)は粒径が小さいため、凝集や沈殿を生じやすい。従って、導電性ナノ粒子(A1)同士の凝集や沈殿を抑制する観点から、導電性ナノ粒子(A1)の表面は、分散剤(P1)で被覆されている。導電性ナノ粒子(A1)の表面が分散剤(P1)で被覆されているとは、導電性ナノ粒子(A1)の表面の少なくとも一部に分散剤(P1)が付着していることを意味する。導電性ナノ粒子(A1)が分散剤(P1)で被覆されているか否かは、例えば熱重量分析により確認することができる。
【0025】
分散剤(P1)は、導電性ナノ粒子(A1)の表面に付着する官能基を有する有機化合物であればよく、特に制限されない。そのような官能基の例には、カルボキシル基、リン酸基及びアミノ基が含まれ、好ましくはカルボキシル基及びアミノ基である。
【0026】
そのような有機化合物の例には、1つ又は2つのアミノ基と炭素数4~16のアルキル基を有する脂肪族炭化水素基とを有する脂肪族炭化水素アミン、及び高級脂肪酸が含まれる。脂肪族炭化水素アミンの例には、オクチルアミン、ドデシルアミン等が含まれる。高級脂肪酸は、好ましくは炭素数12~24の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸であり、より好ましくはミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びリノール酸、並びにこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1つである。
【0027】
導電性ナノ粒子(A1)の凝集を抑制する観点から、上記組成物における分散剤(P1)の含有量は、導電性ナノ粒子(A1)に対して0.1~3質量%であることが好ましい。
【0028】
1-1-2.導電性サブミクロン粒子(A2)
導電性サブミクロン粒子(A2)は、メディアン径D50が500nm超1200nm以下、好ましくは600nm~1000nmの導電性粒子である。このような導電性サブミクロン粒子(A2)は、導電性ナノ粒子(A1)よりも粒径が適度に大きいため、焼成時の硬化収縮を低減しうる。それにより、得られる導体の基材に対する密着性を一層高めうる。
【0029】
導電性サブミクロン粒子(A2)を構成する材料も、導電性ナノ粒子(A1)を構成する材料と同様のものを使用することができる。中でも、銀サブミクロン粒子を用いることが好ましい。導電性サブミクロン粒子(A2)も、導電性ナノ粒子(A1)と同様に、凝集や沈殿を抑制する観点から、表面が分散剤(P2)で被覆されていることが好ましい。
【0030】
分散剤(P2)は、分散剤(P1)と同様のものを使用することができる。分散剤(P2)は、分散剤(P1)と同じであってもよいし、異なってもよい。分散剤(P2)は、好ましくは高級脂肪酸である。
【0031】
上記組成物における分散剤(P2)の含有量も、分散剤(P1)と同様に、導電性サブミクロン粒子(A2)に対して0.1~3質量%であることが好ましい。
【0032】
1-1-3.共通事項
導電性粒子(A)の含有量は、特に制限されないが、上記組成物の不揮発成分の総量に対して90~99.9質量%であることが好ましく、95~99質量%であることがより好ましい。導電性粒子(A)の含有量が90質量%以上であると、得られる導体の抵抗値を一層低減しやすい。導電性粒子(A)の含有量が99.9質量%以下であると、光硬化性や追従性が一層損なわれにくい。なお、導電性粒子(A)の含有量には、分散剤(P1)や分散剤(P2)の量は含まれないものとする。
【0033】
導電性ナノ粒子(A1)と導電性サブミクロン粒子(A2)の合計含有量は、導電性粒子(A)の総量に対して90~100質量%であることが好ましく、95~100質量%であることがより好ましい。即ち、導電性粒子(A)は、例えばディスペンサ法やインクジェット法による塗布性を一層高め、微細配線を形成しやすくする観点では、メディアン径D50が1200nm以上の導電性ミクロン粒子(A3)を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、上記組成物における導電性ミクロン粒子(A3)の含有量が5質量%以下、好ましくは0質量%であることをいう。
【0034】
導電性ナノ粒子(A1)と導電性サブミクロン粒子(A2)の含有比率A1/A2は、特に制限されないが、得られる導体の抵抗値と基材への密着性とのバランスを一層高める観点では、100/0~20/80(質量比)であることが好ましく、80/20~20/80(質量比)であることがより好ましい。上記含有比率A1/A2が高いと、得られる導体の抵抗値は一層低減されやすい。上記含有比率A1/A2が低いと、得られる導体の基材への密着性が一層高まりやすく、追従性が一層高まりやすい。
【0035】
1-2.光重合性化合物(B)
光重合性化合物(B)は、1分子中に少なくとも1つのラジカル重合性基を有し、光照射によって重合可能な化合物であればよい。
【0036】
光重合性化合物(B)に含まれるラジカル重合性基は、不飽和二重結合を含む基であり、好ましくはビニル基又は(メタ)アクリロイル基であり、より好ましくは(メタ)アクリロイル基である。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル、メタクリロイル、又はこれらの両方を表す。(メタ)アクリレートとは、アクリレート、メタクリレート、又はこれらの両方を表す。(メタ)アクリルとは、アクリル、メタクリル、又はこれらの両方を表す。
【0037】
光重合性化合物(B)は、上記の通り、ウレタン(メタ)アクリレート又はエポキシ(メタ)アクリレート(B1)と、酸性基又は水酸基を有する(メタ)アクリレート(B2)とを含む。
【0038】
1-3-1.ウレタン(メタ)アクリレート又はエポキシ(メタ)アクリレート(B1)
ウレタン(メタ)アクリレート又はエポキシ(メタ)アクリレート(B1)は、適度な鎖長を有するため、得られる導体に可とう性を付与しうる。ウレタン(メタ)アクリレート又はエポキシ(メタ)アクリレートは、得られる導体に十分な可とう性を付与する観点から、オリゴマーであることが好ましい。オリゴマーとは、モノマー単位が例えば2~数十程度繰り返された重合体をいい、GPC法により測定されるポリスチレン換算値での重量平均分子量(Mw)が、好ましくは400以上1万未満、より好ましくは450~7500、更に好ましくは500~5000の重合体をいう。
【0039】
(ウレタン(メタ)アクリレート)
ウレタン(メタ)アクリレートは、ウレタン結合と、(メタ)アクリロイル基とを有する化合物であり、例えばイソシアネート化合物と、水酸基含有(メタ)アクリレートと、任意の多価アルコールとによる付加反応生成物である。
【0040】
イソシアネート化合物の例には、ブタンジイソシアネート、ペンタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;シクロヘキシルイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式イソシアネート;トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネートが含まれる。
【0041】
水酸基含有(メタ)アクリレートの例には、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2,3-ヒドロキシプロピル、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0042】
多価アルコールの例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコール類;当該グリコール類に、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドを付加重合させたポリエーテルポリオール類;当該グリコール類に、アジピン酸やフタル酸等のカルボン酸と反応させたポリエステルポリオール類;ポリカーボネートポリオール類が含まれる。
【0043】
ウレタン(メタ)アクリレートの例には、東亞合成(株)製のアロニックスM-1100、M-1200、M-1210、M-1310、M-1600、M-1960、第一工業製薬(株)製のR1204、R1211、R1213、R1217、R1218、R1301、R1302、R1303、R1304、R1306、R1308、R1901、R1150等、ダイセル・サイテック(株)製のEBECRYL230、270、4858、8402、8804、8807、8803、9260、1290、1290K、5129、4842、8210、210、4827、6700、4450、220、新中村化学工業(株)製のNKオリゴU-4HA、U-6HA、U-15HA、U-108A、U200AX等が含まれる。
【0044】
ウレタン(メタ)アクリレートの1分子中に含まれる(メタ)アクリロイル基(官能基)の数は、1つであってもよいし、2以上であってもよい。
【0045】
(エポキシ(メタ)アクリレート)
エポキシ(メタ)アクリレートは、オキシラン環含有化合物と、(メタ)アクリル酸又はカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステルとの付加反応生成物でありうる。付加反応生成物は、分子中にエポキシ基が残っていない完全付加反応生成物であることが好ましい。
【0046】
オキシラン環含有化合物の例には、ビスフェノール型エポキシ等の芳香族エポキシ化合物、炭素数2~20のジオールのジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物、及び脂環式エポキシ化合物が含まれる。
【0047】
(メタ)アクリル酸及びカルボキシル基含有(メタ)アクリル酸エステルの例には、(メタ)アクリル酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、コハク酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、コハク酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)、(メタ)アクリル酸ダイマー、(メタ)アクリル酸カプロラクタム変性が含まれる。
【0048】
エポキシ(メタ)アクリレートは、上記付加反応により生成する水酸基が脂肪酸等で変性されていてもよい。
【0049】
エポキシ(メタ)アクリレートの例には、ビスフェノール型エポキシアクリレート、ノボラック型エポキシアクリレート、脂肪族型エポキシアクリレート、グリシジルエステル型アクリレート、及びこれらの変性物が含まれる。市販品としては、例えば、EBECRYL 3700、3701、3708(ダイセル・オルネクス社製)等が挙げられる。
【0050】
エポキシ(メタ)アクリレートの1分子中に含まれる(メタ)アクリロイル基(官能基)の数は、1つであってもよいし、2以上であってもよい。中でも、可とう性を高める観点では、1~3であることが好ましく、2つであることがより好ましい。
【0051】
ウレタン(メタ)アクリレート及びエポキシ(メタ)アクリレートは、それぞれ一種類で含まれてもよいし、二種類以上で含まれてもよい。また、ウレタン(メタ)アクリレートとエポキシ(メタ)アクリレートとを併用してもよい。
【0052】
ウレタン(メタ)アクリレート又はエポキシ(メタ)アクリレート(B1)の含有量は、特に制限されないが、光重合性化合物(B)の総量に対して5~60質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましい。上記含有量が5質量%以上であると、得られる導体に可とう性を一層付与しやすく、60質量%以下であると、抵抗値の低減効果が一層損なわれにくい。
【0053】
1-3-2.水酸基又は酸性基を有する(メタ)アクリレート(B2)
水酸基又は酸性基を有する(メタ)アクリレートは、上記組成物の光硬化又は熱処理時に、導電性ナノ粒子(A1)の表面から分散剤(P1)を取り除きやすくし、導電性ナノ粒子(A1)同士を接触させやすくする。
【0054】
水酸基又は酸性基を有する(メタ)アクリレートは、水酸基又は酸性基と、(メタ)アクリロイル基とを有する化合物である。酸性基の例には、カルボキシル基、リン酸基が含まれる。上記(メタ)アクリレートの水酸基又は酸性基は、分散剤(P1)のアミノ基やカルボキシル基との親和性が高いため、これらの基と置換される。それにより、分散剤(P1)が取り除かれる。
【0055】
水酸基又は酸性基を有する(メタ)アクリレートの1分子中に含まれる(メタ)アクリロイル基(官能基)の数は、1つであってもよいし、2以上であってもよい。中でも、低粘度化の観点から、1つであることがより好ましい。
【0056】
水酸基含有(メタ)アクリレートの例には、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2,3-ヒドロキシプロピル等が含まれる。
【0057】
酸性基を有する(メタ)アクリレートの例には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、コハク酸モノ(2-アクリロイルオキシエチル)、コハク酸モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)、(メタ)アクリル酸ダイマー、(メタ)アクリル酸カプロラクタム変性が含まれる。
【0058】
水酸基又は酸性基を有する(メタ)アクリレート(B2)は、一種類で含まれてもよいし、二種類以上が含まれてもよい。
【0059】
水酸基又は酸性基を有する(メタ)アクリレート(B2)の含有量は、特に制限されないが、得られる導体の抵抗値を一層低減する観点では、光重合性化合物(B)の総量に対して5~60質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましい。上記含有量が5質量%以上であると、得られる導体の抵抗値を一層低減しやすい。上記含有量が60質量%以下であると、得られる導体の可とう性が一層損なわれにくい。
【0060】
ウレタン(メタ)アクリレート又はエポキシ(メタ)アクリレート(B1)と、水酸基又は酸性基を有する(メタ)アクリレート(B2)の含有比率B1/B2は、特に制限されないが、導体の可とう性と抵抗値とのバランスの観点では、5/60~60/5(質量比)であることが好ましく、10/50~50/10(質量比)であることがよ好ましい。
【0061】
1-3-3.他の光重合性化合物(B3)
光重合性化合物(B)は、上記以外の他の光重合性化合物(B3)をさらに含んでもよい。他の光重合性化合物(B3)は、モノマーであっても、オリゴマーであっても、ポリマーであってもよく、上記組成物の粘度を低減する観点では、モノマーが好ましい。
【0062】
他の光重合性化合物(B3)の1分子中に含まれる(メタ)アクリロイル基(官能基)の数は、1つであってもよいし、2以上であってもよい。中でも、上記組成物の光硬化速度を一層高めて、液だれしにくくする観点では、2~6であることが好ましく、2~3であることがより好ましい。
【0063】
多官能の他の光重合性化合物の例には、
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート;テトラメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ソルビトールトリ(メタ)アクリレート等の3官能(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールペンタ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート等の4官能以上の(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリアリルエーテル;トリアリルイソシアヌレート等が含まれる。中でも、2官能以上の(メタ)アクリレートである。
【0064】
他の光重合性化合物(B3)は、一種のみが含まれてもよいし、二種以上が含まれてもよい。例えば、光重合性化合物(B)は、上記組成物の粘度調整等の観点から、単官能の他の光重合性化合物をさらに含んでもよい。
【0065】
単官能の他の光重合性化合物の例には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の脂肪族アルキル(メタ)アクリレート類;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等のN置換型(メタ)アクリルアミド類;N-メチレンアリルアミン、N-(2,2-ジメチルプロピリデン)アリルアミン、N-(2-フリルメチレン)アリルアミン等のN-アルキレンアリルアミン;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類;スチレン、α-メチルスチレン、p-ヒドロキシスチレン、クロロメチルスチレン、ビニルトルエン、インデン等のスチレン類;エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニル類等が含まれる。
【0066】
他の光重合性化合物(B3)の含有量は、特に制限されないが、光硬化速度を一層高め、液だれを一層防止する観点では、光重合性化合物(B)の総量に対して0~60質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。上記含有量が10質量%以上であると、上記組成物の光硬化速度を一層高めやすい。上記含有量が40質量%以下であると、得られる導体の可とう性が損なわれにくく、抵抗値の増大も一層抑制しうる。
【0067】
1-3-4.共通事項
光重合性化合物(B)の含有量は、導電性粒子(A)100質量部に対して10質量部未満であることが好ましい。光重合性化合物(B)の含有量が10質量部未満であると、得られる導体の抵抗値が十分に低減されやすい。一方、光重合性化合物(B)の含有量が0質量部超であると、上記組成物に光硬化性を付与しうる。それにより、例えば曲面等の三次元形状を有する表面に上記組成物を塗布した直後に光硬化させることで、液だれを抑制でき、微細な配線を形成しうる。同様の観点から、光重合性化合物(B)の含有量は、導電性粒子(A)100質量部に対して0.1質量部以上10質量部未満であることが好ましい。
【0068】
1-4.光重合開始剤(C)
光重合開始剤(C)は、光の照射によって光重合性化合物(B)の重合を開始させる活性種を発生する化合物であり、好ましくは光ラジカル重合開始剤である。
【0069】
光ラジカル重合開始剤の例には、ジエトキシアセトフェノン、α-アミノアルキルフェノン等のアセトフェノン系光ラジカル重合開始剤;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル等のベンゾイン系光ラジカル重合開始剤;ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル等のベンゾフェノン系光ラジカル重合開始剤;2-イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系光ラジカル重合開始剤;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド系光ラジカル重合開始剤等が含まれる。
【0070】
光重合開始剤(C)の含有量は、光重合性化合物(B)の総量に対して3~20質量%であることが好ましく、6~15質量%であることがより好ましい。
【0071】
1-5.他の成分
上記組成物は、必要に応じて高分子分散剤や有機溶剤等の上記以外の成分をさらに含んでもよい。
【0072】
1-5-1.高分子分散剤(D)
上記組成物は、導電性粒子(A)自体の接触を抑制し、粒子同士の凝集を抑制することにより導電性粒子(A)の分散安定性を一層高める観点等から、高分子分散剤(D)をさらに含んでもよい。なお、高分子分散剤(D)は、分散剤(P1)や(P2)とは異なるものである。
【0073】
高分子分散剤(D)は、主鎖骨格(樹脂相溶性部分)と吸着基とを有する。高分子分散剤(D)の主鎖骨格は、特に制限はないが、ポリエーテル骨格、ポリウレタン骨格、ポリアクリレート骨格、ポリエステル骨格、ポリアミド骨格、ポリイミド骨格、ポリウレア骨格等が挙げられ、上記組成物の保存安定性の観点では、ポリウレタン骨格、ポリアクリル骨格、ポリエステル骨格が好ましい。また、高分子分散剤(D)の構造も、特に制限はなく、直鎖構造、ランダム構造、ブロック構造、くし型構造等が挙げられ、保存安定性の点では、ブロック構造又はくし型構造が好ましい。高分子分散剤(D)の吸着基は、上記分散剤(P1)や(P2)の吸着基と同様のものが挙げられ、分散性の観点から、カルボキシル基、リン酸基等の酸性基が好ましい。
【0074】
高分子分散剤(D)の例には、BYK社より上市されている湿潤分散剤DISPER BYKシリーズの101、102、103、106、108、109、110、111、112、116、130、140、142、145、161、162、163、164、166、167、168、170、171、174、180、182、183、184、185、190、191、194、2000、2001、2010、2015、2020、2050、2070、2096、2150等が挙げられる。
【0075】
高分子分散剤(D)は、通常、分散剤(P1)や(P2)よりも高い分子量を有する。
【0076】
高分子分散剤(D)の含有量は、特に限定されないが、上記組成物の不揮発成分の総質量に対して0.005~0.50質量%であることが好ましい。上記範囲であると、印刷性、保存安定性に優れるインク組成物が得られる。
【0077】
1-5-2.有機溶剤(E)
導電性ナノ粒子(A1)や導電性サブミクロン粒子(A2)を高分散させたり、組成物の粘度を調整したりする観点から、上記組成物は、有機溶剤(E)をさらに含んでもよい。
【0078】
有機溶剤(E)は、導電性ナノ粒子(A1)や導電性サブミクロン粒子(A2)を分散させ、光重合性化合物(B)を溶解又は分散可能なものであれば特に限定されない。そのような有機溶剤としては、炭素数が8~16であり、ヒドロキシル基を有し、さらに沸点が280℃以下であるものを使用することが好ましい。そのような有機溶剤の例には、ターピネオール(C10、沸点219℃)、ジヒドロターピネオール(C10、沸点220℃)、テキサノール(C12、沸点260℃)、2,4-ジエチル-1,5-ペンタジオール(C9、沸点150℃)、ブチルカルビトール(C8、沸点230℃)、イソホロン(沸点215℃)、エチレングリコール(沸点197℃)、ブチルカルビトールアセテート(沸点247℃)、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート(C16、沸点280℃)等が含まれる。
【0079】
1-6.調製方法
上記組成物は、任意の方法で製造することができる。例えば、上記組成物は、導電性ナノ粒子(A1)と、その表面を被覆する分散剤(P1)とを含む複合体、及び任意の導電性サブミクロン粒子(A2)と、その表面を被覆する分散剤(P2)とを含む複合体を準備した後;当該複合体と、光重合性化合物(B)、光重合開始剤(C)及び任意の他の成分を、例えばホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー、ニーダー、3本ロール等の混合機を用いて混合して得ることができる。
【0080】
導電性ナノ粒子(A1)の複合体は、特に限定されず、導電性ナノ粒子(A1)を得た後、分散剤(P1)と混合する方法で得てもよいし、導電性ナノ粒子(A1)を製造しつつ、それと同時にその表面を分散剤(P1)で被覆する方法で得てもよい。後者の場合、例えば市販品を用いることもできる。導電性サブミクロン粒子(A2)の複合体の製造方法も上記と同様としうる。
【0081】
上記組成物から得られる導体は、低い抵抗値と、基材への良好な追従性を有する。従って、上記組成物は、例えば曲面等の種々の三次元形状を有する樹脂成形体の表面上に微細配線を形成する方法に好適に用いることができる。
【0082】
2.配線部材及びその製造方法
本発明の一実施形態に係る配線部材は、基材と、上記組成物から得られる導体と、を含む。
【0083】
基材は、特に制限されず、電気絶縁性のフィルムや板材、三次元形状を有する樹脂成形体でありうる。フィルムや板材は、屈曲性を有するものであってもよい。基材を構成する材料の例には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン;ポリカーボネート(PC)が含まれる。三次元形状を有する樹脂成形体は、曲面や直角面等の種々の三次元形状を有する樹脂成形体でありうる。これらの中でも、基材は、三次元形状を有する樹脂成形体であることが好ましい。上記組成物は、そのような三次元形状を有する表面に塗布しても、短時間で光硬化でき、液だれしにくいため、精度よく所定のパターン状に塗布しやすいからである。
【0084】
導体は、上記組成物から得られる、回路や電極等の配線でありうる。配線の線幅は、用途にもよるが、例えば500μm以下であることが好ましい。導体の厚みは、例えば1~20μm程度でありうる。
【0085】
上記配線部材は、1)基材に、上記光硬化性導電性インク組成物を付与する工程(付与工程)と、2)付与した光硬化性導電性インク組成物に光を照射して、光硬化性導電性インク組成物を硬化させる工程(光硬化工程)と、3)光硬化性導電性インク組成物の硬化物を熱処理する工程(熱処理工程)と、を経て製造することができる。
【0086】
1)付与工程
本工程では、基材上に、上記組成物を付与する。
【0087】
上記組成物の付与方法は、特に制限はないが、所定のパターン状に上記組成物を付与しやすい観点から、インクジェット法、ディスペンサ法、スクリーン印刷法、グラビア印刷、テンシル印刷、スタンプ印刷等でありうる。中でも、微細配線を形成しやすい観点では、インクジェット法又はディスペンサ法が好ましい。
【0088】
2)光硬化工程
本工程では、上記組成物の塗膜に活性光線を照射し、塗膜を硬化させる。それにより、例えば曲面等の三次元形状を有する樹脂成形体の表面に塗布しても、瞬時に硬化しうるため、液だれしにくい。それにより、線幅が均一な微細配線を形成できる。
【0089】
光硬化は、塗布工程終了から60秒以内に行うことが好ましく、10秒以内に行うことがより好ましい。照射する活性光線の種類は特に制限されず、上述の光重合開始剤の種類に応じて適宜選択されるが、通常、紫外光が用いられる。また、照射に用いる光源も特に制限されず、その例には、キセノンランプ、カーボンアークランプ、UV-LED光源、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等の公知の光源が含まれる。
【0090】
活性光線の照射量は、活性光線照射後の組成物の形状が変化しない程度に硬化可能であれば特に制限されない。例えば300~400nmの波長の光を用いる場合、積算光量を300~3000mJ/cmとすることで、上述の組成物の塗膜を硬化させることができる。
【0091】
3)熱処理工程
本工程では、硬化させた塗膜を熱処理して、導電性粒子(A)を焼成することにより、配線等の導体を得る。
【0092】
熱処理温度や熱処理時間は、上記導電性粒子(A)を焼結させる温度及び時間であれば特に制限されない。熱処理温度は、例えば80℃以上であり、好ましくは100~200℃である。特に、上記組成物は、水酸基又は酸性基を有する(メタ)アクリレート2)を含むことにより、焼成時に分散剤(P1)や(P2)が、導電性ナノ粒子(A1)や導電性サブミクロン粒子(A2)の表面から取り除かれやすい。そのため、低い熱処理温度でも、導電性ナノ粒子(A1)や導電性サブミクロン粒子(A2)を互いに接触させやすくなるため、得られる焼結体の抵抗値を低減することができる。
【0093】
熱処理方法は、特に制限されず、熱風による熱処理、プラズマ焼成等であってよい。
【実施例0094】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
1.材料
1-1.導電性粒子(A)
<導電性ナノ粒子(A1)>
表面がオクチルアミン(分散剤P1)で被覆された銀粉(メディアン径(D50):130nm)
【0096】
<導電性サブミクロン粒子(A2)>
表面がオレイン酸(分散剤P2)で被覆された被覆された銀粉(メディアン径(D50):800nm)
【0097】
<導電性ミクロン粒子(A3)>
銀粉(徳力本店社製、シルベストTC-505、メディアン径(D50):3μm)
【0098】
なお、メディアン径D50は、マイクロトラックを用いてレーザー回折法により測定した体積基準の累積50%粒子径である。
【0099】
1-2.光重合性化合物(B)
<ウレタン(メタ)アクリレート又はエポキシ(メタ)アクリレート(B1)>
B1-1:ウレタンアクリレートオリゴマー(東亜合成社製、アロニックスM-1960、単官能)
B1-2:ビスフェノールAタイプエポキシアクリレート(ダイセル・オルネクス社製EB3700、2官能、Mw:500)
B1-3:変性エポキシアクリレート(ダイセル・オルネクス社製EB3701、2官能、Mw:850)
B1-4:変性エポキシアクリレート(ダイセル・オルネクス社製EB3708、2官能、Mw:1500)
【0100】
なお、Mwは、GPCによりポリスチレン換算にて測定される重量平均分子量である。
【0101】
<水酸基又は酸性基を有する(メタ)アクリレート(B2)>
B2-1:4-ヒドロキシブチルアクリレート(日本化成社製、4HBA、単官能)
B2-2:2-ヒドロキシプロピルアクリレート(共栄社化学社製、ライトエステルHOP-A(N)、単官能)
【0102】
<他の(メタ)アクリレート(B3)>
B3-1:トリメチロールプロパントリアクリレート(共栄社化学社製、ライトアクリレートTMP-A、3官能)
B3-2:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(共栄社化学社製、ライトアクリレート1.6HX-A、2官能)
【0103】
1-3.光重合開始剤(C)
C-1:Ominirad819(IGM社製、光ラジカル開始剤)
C-2:Ominirad907(IGM社製、光ラジカル開始剤)
【0104】
1-4.高分子分散剤(D)
BYK-111(BYK社製、高分子分散剤)
【0105】
2.インク組成物の調製
[実施例1~14、比較例1~6及び参考例1]
表1又は2に示される組成比(質量部)で、導電性粒子(A)、光重合性化合物(B)、光重合開始剤(C)及び高分子分散剤(D)を混合して、インク組成物を得た。
【0106】
[評価]
そして、得られたインク組成物の塗布性(線幅の均一性)、得られる配線の体積抵抗率及び追従性を、以下の方法で評価した。
【0107】
(1)塗布性(線幅の均一性)
図1A~Cは、評価用サンプルの作製手順を示す模式図である。このうち、図1Aの(a)は、PETフィルム10上にインク組成物20を塗布した状態の平面図であり、(b)は、A-A線断面図である。
図1に示されるように、PETフィルム10(厚み180μm)上に、上記調製したインク組成物20を、ディスペンサにより線幅50μmの直線状に塗布した後(図1A参照)、UV光を高圧水銀ランプにて100mW、3000mJの条件で照射して(図1B参照)、当該組成物を光硬化させた。次いで、このPETフィルム10を直線状の塗膜に沿って90度に折り曲げた状態でオーブンに入れ、120℃で30分間熱処理して、配線を形成した(図1C参照)。形成した配線を光学顕微鏡により観察し、線幅の変化量を測定した。そして、線幅の均一性を、以下の基準に基づいて評価した。
◎:線幅の変化量が5μm未満
〇:線幅の変化量が5μm以上10μm未満
×:線幅の変化量が10μm以上
【0108】
(2)導電性
スライドガラス上に、上記調製したインク組成物20を線幅5mm、長さ6cmに塗布し、UV光を高圧水銀ランプにて100mW、3000mJの条件で照射して光硬化させて、配線を形成した。得られた配線の体積抵抗率(Ω・cm)を、ロレスタGX(日東精工アナリテック製)により測定した。そして、導電性を以下の基準で評価した。
◎:体積抵抗率が1.0×10―4Ω・cm未満
〇:体積抵抗率が1.0×10―4Ω・cm以上1.0×10―3Ω・cm未満
×:体積抵抗率が1.0×10―3Ω・cm以上
【0109】
(3)追従性
PETフィルム(厚み180μm)上に、上記調製したインク組成物を、ディスペンサにより線幅50μmの直線状に塗布した後、365nm波長のUV光を3000mJの条件で照射して、当該組成物を光硬化させた。次いで、このPETフィルムをオーブンに入れ、120℃で30分間熱処理して、配線を形成した。配線が形成されたPETフィルムを180°の条件で繰り返し折り曲げたときの、配線の割れの有無を光学顕微鏡により観察した。そして、配線の追従性を、以下の基準に基づいて評価した。
◎:5回以上折り曲げても割れなし
〇:1~4回折り曲げても割れなし
×:折り曲げると割れが発生
【0110】
実施例1~14の評価結果を表1に示し;比較例1~6及び参考例1の評価結果を表2に示す。なお、表2の塗布性の「-」は未測定を示す。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
表1に示されるように、(A1)成分、(B1)成分、(B2)成分及び(C)成分を含み、且つ(B)成分の含有量が(A)100質量部に対して10質量部未満である実施例1~14のインク組成物は、塗布性、導電性及び追従性がいずれも良好であった。
【0114】
また、(A2)成分をさらに含むことで、基材への密着性が一層良好となり、折り曲げ性が高まることがわかる(実施例7と8の対比)。
【0115】
これに対し、(A1)成分を含まない比較例1、4のインク組成物や(B)成分の含有量が10質量部である比較例2のインク組成物は、いずれも体積抵抗率が測定不可能であり、導電性を示さなかった。一方、(B)成分を含まない比較例3のインク組成物は、繰り返しの折り曲げにより配線が割れ、追従性を有さないことがわかる。また、(B1)成分を含まない比較例5のインク組成物は、折り曲げ性が悪く、追従性が低いことがわかる。また、(B2)成分を含まない比較例6のインク組成物は、体積抵抗率が高く、導電性が低いことがわかる。
【0116】
なお、光硬化を行わなかった場合、液だれして、線幅の均一性が低下することがわかる(参考例1)。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明によれば、三次元形状を有する樹脂成形品の表面に対しても、良好な追従性を有する微細配線を形成可能な光硬化性導電性インク組成物、配線基材及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0118】
10 PETフィルム(基材)
20 インク組成物
図1