(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180387
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】麦汁のビール酵母発酵液、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12C 12/00 20060101AFI20231214BHJP
C12H 3/02 20190101ALI20231214BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20231214BHJP
C12C 12/04 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C12C12/00
C12H3/02
A23L2/00 B
A23L2/00 H
C12C12/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093659
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000055
【氏名又は名称】アサヒグループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】中山 航
(72)【発明者】
【氏名】松島 健将
【テーマコード(参考)】
4B117
4B128
【Fターム(参考)】
4B117LC03
4B117LG16
4B117LK07
4B117LK21
4B117LK24
4B117LK25
4B117LP05
4B117LP10
4B128CP21
4B128CP39
(57)【要約】
【課題】甘味が抑制され、コク感を有しながらキレ感も有し、飲用後の爽快感に優れた、低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料を提供すること。
【解決手段】麦汁のビール酵母発酵液であって、該麦汁は、10~20(°P)の麦汁エキス濃度を有し、該麦汁のビール酵母発酵液は、5~10(°P)の外観エキス濃度及び20~100ppbのリナロール濃度を有する、麦汁のビール酵母発酵液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦汁のビール酵母発酵液であって、
該麦汁は、10~20(°P)の麦汁エキス濃度を有し、
該麦汁のビール酵母発酵液は、5~10(°P)の外観エキス濃度及び20~100ppbのリナロール濃度を有する、麦汁のビール酵母発酵液。
【請求項2】
前記麦汁は、トランスグルコシダーゼ処理麦汁を含む、請求項1に記載の麦汁のビール酵母発酵液。
【請求項3】
ホップに由来する成分を含む、請求項1に記載の麦汁のビール酵母発酵液。
【請求項4】
30~70%の外観最終発酵度を有する、請求項1に記載の麦汁のビール酵母発酵液。
【請求項5】
50~100%の麦芽使用比率を有する、請求項1に記載の麦汁のビール酵母発酵液。
【請求項6】
1%(v/v)未満のアルコール濃度を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の麦汁のビール酵母発酵液の脱アルコール液。
【請求項7】
請求項6に記載の麦汁のビール酵母発酵液の脱アルコール液を含むビールテイスト発酵麦芽飲料。
【請求項8】
10~20(°P)の麦汁エキス濃度を有する麦汁を、ビール酵母を用いて発酵させる工程;及び
5~10(°P)の外観エキス濃度及び40~100ppbのリナロール濃度を有する発酵液を得る工程;
を包含する、麦汁のビール酵母発酵液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麦汁のビール酵母発酵液に関し、特に、アルコール濃度が1%(v/v)未満になるようにアルコールが除去される、麦汁のビール酵母発酵液に関する。本明細書において、「アルコール濃度が1%(v/v)未満」という文言は、1%(v/v)未満の量でアルコールを含むこと、及びアルコールを含まないことの両方を意味する。また、「アルコール」という文言はエタノールを意味する。
【背景技術】
【0002】
発酵麦芽飲料であるビールからアルコール分を除去して製造された、低アルコールビールテイスト飲料が知られている。ビールからアルコール分を抜く場合、アルコール発酵過程で生成する香味成分を残すことで、アルコール分を除去した後もビールらしい香味が維持されたビールテイスト飲料が提供される。
【0003】
特許文献1には、アルコール分が除去された麦汁発酵液を含み、真正エキスが3.5%(w/w)以上であり、かつアルコール濃度が1%(v/v)未満であるビールテイスト発酵麦芽飲料が記載されている。特許文献1の低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料は、飲み応えに優れ、酸味と調和した甘味に優れ、ビールらしい香味を有するものである。
【0004】
「発酵麦芽飲料」とは、原料として麦芽を使用し、これを発酵させる過程を経て得られる飲料をいう。「ビールテイスト」とは、ビールを想起させる味及び香気をいう。「ビール」とは麦芽、ホップ及び水などを原料として、これらを酵母で発酵させて得られる飲料をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2021/070930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料は、甘味又はコク感が後味として残りやすく、飲用後の爽快感については、未だ不十分という問題がある。その原因の一つとして、麦汁発酵液からアルコール分を除去する際に、甘味を抑制する複雑味に寄与する成分、及びキレ感を増強する爽やかな香気に寄与する成分の濃度が低下することが考えられる。
【0007】
本発明の一つの課題は、増強された複雑味を有し、爽やかさに優れた香気を有する、麦汁のビール酵母発酵液を提供することである。また、本発明の別の課題は、甘味が抑制され、コク感を有しながらキレ感も有し、飲用後の爽快感に優れた、低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、例えば、以下の実施形態を含むものである。
[形態1]
麦汁のビール酵母発酵液であって、
該麦汁は、10~20(°P)の麦汁エキス濃度を有し、
該麦汁のビール酵母発酵液は、5~10(°P)の外観エキス濃度及び20~100ppbのリナロール濃度を有する、麦汁のビール酵母発酵液。
【0009】
[形態2]
前記麦汁は、トランスグルコシダーゼ処理麦汁を含む、形態1の麦汁のビール酵母発酵液。
【0010】
[形態3]
ホップに由来する成分を含む、形態1又は2の麦汁のビール酵母発酵液。
【0011】
[形態4]
30~70%の外観最終発酵度を有する、形態1~3のいずれかの麦汁のビール酵母発酵液。
【0012】
[形態5]
50~100%の麦芽使用比率を有する、形態1~4のいずれかの麦汁のビール酵母発酵液。
【0013】
[形態6]
1%(v/v)未満のアルコール濃度を有する、形態1~5のいずれかの麦汁のビール酵母発酵液の脱アルコール液。
【0014】
[形態7]
形態6の麦汁のビール酵母発酵液の脱アルコール液を含むビールテイスト発酵麦芽飲料。
【0015】
[形態8]
10~20(°P)の麦汁エキス濃度を有する麦汁を、ビール酵母を用いて発酵させる工程;及び
5~10(°P)の外観エキス濃度及び40~100ppbのリナロール濃度を有する発酵液を得る工程;
を包含する、麦汁のビール酵母発酵液の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の麦汁のビール酵母発酵液は、増強された複雑味を有し、爽やかさに優れた香気を有する。そのために、麦汁のビール酵母発酵液からアルコール分を除去した後に残される、麦汁のビール酵母発酵液の脱アルコール液に、複雑味及び爽やかな香気が維持される。その結果、麦汁のビール酵母発酵液の脱アルコール液を含む低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料は、甘味が抑制され、コク感を有しながらキレ感も有し、飲用後の爽快感に優れたものになる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<麦汁>
麦汁は麦芽が糖化された成分及び水を含む液体をいい、ここでは特に、発酵麦芽飲料を製造する過程において、ビール酵母を接種する対象になる前記液体をいう。麦汁は、例えば、次のようにして製造する。
【0018】
まず、主原料として麦芽の破砕物、大麦等の副原料、及び温水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製する。マイシェの調製は、常法により行うことができ、例えば、はじめに35~60℃で20~90分間保持することにより原料に由来するタンパク質をアミノ酸などへ分解し、糖化工程へ移行する。その際、必要に応じて、主原料と副原料以外に、糖化酵素、並びにスパイス、ハーブ類及び香料等の香味成分等が添加される。
【0019】
その後、該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素やマイシェに添加した酵素を利用して、澱粉質を糖化させる。糖化処理時の温度や時間は、用いる酵素の種類やマイシェの量、目的とする麦汁のビール酵母発酵液(以下、単に「麦汁発酵液」ということがある。)の品質等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、60~72℃にて30~90分間保持することにより行うことができる。糖化処理後、76~78℃で10分間程度保持した後、マイシェを濾過することにより、透明な糖液を得る。
【0020】
糖化に供される原料は麦芽を含む。糖化に供される原料中の麦芽の含有量は、特に限定されないが、25%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは67%以上である。糖化に供される原料は麦芽使用比率100%であってもよい。尚、水を除く全原料に対する麦芽の割合(%(w/w))を麦芽使用比率という。一般に、麦芽使用比率が高いほど、得られる麦汁発酵液の麦芽由来の旨味、コク及び飲みごたえが強くなる。
【0021】
副原料とは、麦芽とホップ以外の原料を意味する。該副原料として、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等の澱粉原料や、液糖や砂糖等の糖質原料がある。ここで、液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれている。その他、香味を付与又は改善することを目的として用いられるスパイス類、ハーブ類、及び果物等も、副原料に含まれる。
【0022】
糖化酵素とは、澱粉質を分解して糖を生成させる酵素を意味する。該糖化酵素として、好ましくは、トランスグルコシダーゼを使用する。トランスグルコシダーゼを使用した場合、麦汁に含まれる非資化性糖の量を変化させることができ、麦汁発酵液の最終発酵度及び麦汁発酵液のエキス濃度を調節することが容易になる。糖化酵素として、例えば、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナラーゼ等を、トランスグルコシダーゼと組み合わせて使用してもよい。
【0023】
トランスグルコシダーゼとしては、糖転移反応に対する触媒活性を有する酵素であれば、特に限定されるものではなく、各種生物由来のトランスグルコシダーゼを使用することができる。例えば、市販されているトランスグルコシダーゼのうち、いずれの酵素を用いても良く、またこれらを組み合わせて用いることもできる。
【0024】
マイシェへのトランスグルコシダーゼの添加は、仕込工程終了時点までに添加したトランスグルコシダーゼによる酵素反応が充分に行われる時点であれば特に限定されるものではない。例えばトランスグルコシダーゼは、マイシェの調製時点において、麦芽等の発酵原料とともに添加されてもよく、糖化反応の途中に添加してもよい。本発明においては、トランスグルコシダーゼによる酵素反応を充分に進行させられるため、マイシェの調製時点又は仕込工程の早い段階でトランスグルコシダーゼを添加することが好ましく、マイシェの調製時点に添加することがより好ましい。
【0025】
麦汁煮沸の操作は、ビールを製造する際に通常行われる方法及び条件に従って行えばよい。例えば、pHを調整した糖液を煮沸釜に移し、煮沸する。糖液の煮沸開始時から、ワールプール静置の間に、ホップを添加する。ホップとして、ホップエキス又はホップから抽出した成分を使用してもよい。
【0026】
添加するホップの量は、好ましくは、得られる麦汁発酵液が18B.U~30B.Uの苦味価を有するように調節する。添加するホップの量が不足する場合は、麦汁発酵液の爽やかな香気が不十分になり、得られる低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料の甘味又はコク感が後味として残り、キレ感及び飲用後の爽快感が不十分になる。添加するホップの量が過剰である場合は、麦汁発酵液及び得られる低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料の苦味及び香気が強すぎて、ビールらしい香味が損なわれることがある。添加するホップの量は、より好ましくは、麦汁発酵液の苦味価が20B.U~28B.U、更に好ましくは20B.U~25B.Uになる量である。
【0027】
糖液は次いでワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固したタンパク質等を除去した後、プレートクーラーにより適切な温度まで冷却する。上記麦汁煮沸までの操作により、本願発明でいう麦汁が得られる。糖化酵素としてトランスグルコシダーゼを使用した場合、得られた麦汁をトランスグルコシダーゼ処理麦汁という。
【0028】
非資化性糖質とは、ビール酵母が、アルコール発酵等を行うための栄養源として利用しない糖質をいう。本発明で使用するビール酵母は、グルコース、フルクトース、マルトース、マルトトリオースを資化する。それゆえ、これら以外の糖質を総称して非資化性糖質という。トランスグルコシダーゼ処理麦汁に含まれる非資化性糖質の具体例には、イソマルトース、イソマルトトリオース、パノース、4糖以上のオリゴ糖及び非資化性多糖が含まれる。非資化性糖質は、後述する発酵工程及びアルコール除去工程を経た後も、残存している。
【0029】
マイシェを作製する際のトランスグルコシダーゼの使用量は、その種類及び反応条件を考慮して、麦汁発酵液の最終発酵度、又は麦汁発酵液のエキス濃度が上記範囲になるように、適宜調節される。一般には、トランスグルコシダーゼの使用量は、マイシェの固形分を基準にして0.05~20g/kg、好ましくは0.1~7g/kg、より好ましくは0.25~5g/kgである。
【0030】
麦汁は、10~20(°P)の麦汁エキス濃度を有するように水分量を調節する。麦汁エキス濃度が10(°P)未満である場合、得られる麦汁発酵液の複雑味及び爽やかな香気が不十分になることがあり、20(°P)を超える場合、得られる麦汁発酵液の複雑味及び香気が強すぎて、ビールらしい香味が損なわれることがある。
【0031】
<麦汁発酵液>
得られた麦汁は、ビール酵母により発酵させる。麦汁の発酵は常法に従って行えばよい。例えば、冷却した麦汁にビール酵母を接種して、発酵タンクに移し、アルコール発酵を行う。
【0032】
麦汁発酵液の外観最終発酵度は、好ましくは、30~70%である。麦汁発酵液の外観最終発酵度が30%未満である場合、複雑味が弱く、甘味が十分に抑制されなくなることがあり、得られる低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料の甘味又はコク感が後味として残り、キレ感及び飲用後の爽快感が不十分になる。麦汁発酵液の外観最終発酵度が70%を超える場合、麦汁発酵液及び得られる低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料の飲みごたえ又はコク感が不十分、また、酸味が強すぎて、ビールらしい香味が損なわれることがある。麦汁発酵液の外観最終発酵度は、好ましくは、30~70%、より好ましくは、40~60%である。
【0033】
発酵度とは、発酵後のビールにおいて、どれだけ発酵が進んだか、発酵の進み方を示す指標である。最終発酵度とは、原麦汁エキスに対して、ビール酵母が資化可能なエキスの割合を意味する。ここで、ビール酵母が資化可能なエキスとは、原麦汁エキスから、製品ビールに含まれるエキス(即ち、ビール酵母が利用可能なエキスをすべて発酵させた後に残存するエキス(最終エキスという))を差し引いたものである。外観最終発酵度とは、最終エキスの値に、外観エキス、即ち、アルコールを含んだままのビールの比重から求めたエキス濃度(°P))、を使用して計算した最終発酵度をいう。
【0034】
尚、エキスとは不揮発性固形分をいう。エキスという文言は、文脈に応じて、不揮発性固形分そのもの、不揮発性固形分の量、又は不揮発性固形分の濃度を意味する。
【0035】
麦汁発酵液の外観最終発酵度Vendは、例えば下記式(1)により、求めることができる。
【0036】
Vend(%)={(P-Eend)/P}×100 (1)
[式中、Pは原麦汁エキスであり、Eendは、外観最終エキスである。]
【0037】
原麦汁エキスPは、製品ビールのアルコール濃度とエキスの値から、Ballingの式に従い、理論上アルコール発酵前の麦汁エキスの値を逆算するものである。具体的には、Analytica-EBC(9.4)(2007)に示される方法により、求めることができる。また、外観最終エキスEendはビールをフラスコに採取し、新鮮な圧搾酵母を多量に添加し、25℃で攪拌しながら、エキスの値がこれ以上低下しなくなるまで発酵させて(24時間)、残存ビール中の外観エキスの値を測定することにより、求めることができる。
【0038】
外観最終エキスEendは、最終エキスのアルコールを含んだ比重から計算されるため、マイナスの値を示すことがある。その結果、外観最終発酵度は100%を超える場合がある。
【0039】
外観最終発酵度は、例えば、糖化条件、原料を糖化させる際の酵素の使用有無、及び、原材料の種類や配合量などを調整することにより、制御することができる。例えば、マイシェに含まれる資化性糖質の量を低下させることで、外観最終発酵度を低下させることができる。
【0040】
発酵終了後、さらに、熟成工程として、得られた麦汁発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させる。次いで濾過工程として、熟成後の麦汁発酵液を濾過することにより酵母及びタンパク質等を除去する。
【0041】
麦汁発酵液は、5~10(°P)の外観エキス濃度を有する。麦汁発酵液の外観エキス濃度が不足する場合は、麦汁発酵液及び得られる低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料の飲みごたえ又はコク感が不十分になることがある。麦汁発酵液の外観エキス濃度が過剰である場合は、複雑味が弱く、甘味が十分に抑制されなくなることがあり、得られる低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料の甘味又はコク感が後味として残り、キレ感及び飲用後の爽快感が不十分になる。麦汁発酵液の外観エキス濃度は、好ましくは、7~10(°P)、より好ましくは、7~9(°P)である。
【0042】
外観エキス濃度とは、アルコール(エタノール)を含んだ状態の液の不揮発性固形物の濃度(°P)をいう。麦汁発酵液の比重及びアルコール濃度は、BCOJビール分析法、8.4.3及び8.3.6(いずれもアルコライザー法)により、それぞれ測定することができる。外観エキス濃度は、これらの測定値を使用して、BCOJビール分析法、8.5エキス関係計算法により、計算することができる。
【0043】
麦汁発酵液は、一般に3~10%(v/v)、好ましくは3~8%(v/v)、より好ましくは3~5%(v/v)のアルコール濃度を有する。
【0044】
<麦汁発酵液のリナロール濃度>
リナロールは、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン-3-オールとも称される化合物であり、モノテルペンアルコールの一種である。リナロールは、スズラン様のさわやかな甘い香りを有する成分である。本発明で用いられるリナロールは天然物から単離又は抽出されたもの、食品化学的に許容される手法によって化学合成されたもの、リナロールを含有する原料に由来するもの、製造工程において、リナロールに変換される前駆体を含有する原料に由来するもの、のいずれであってもよい。リナロールを含有する原料としては、ホップ、ホップエキス、ホップ香料などが挙げられる。本発明の発酵ビールテイスト飲料に含まれるリナロールは、香料として市販されているリナロールを添加したものであってもよい。
【0045】
リナロールは、得られる麦汁発酵液が10~150ppbのリナロール濃度を有する量で含有させる。麦汁発酵液のリナロール濃度が不足する場合は、麦汁発酵液の爽やかな香気が不十分になり、得られる低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料の甘味又はコク感が後味として残り、キレ感及び飲用後の爽快感が不十分になる。麦汁発酵液のリナロール濃度が過剰である場合は、麦汁発酵液及び得られる低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料の香気が強すぎて、ビールらしい香味が損なわれることがある。麦汁発酵液のリナロール濃度は、好ましくは20~100ppb、より好ましくは30~60ppbである。
【0046】
麦汁発酵液中におけるリナロール濃度は、例えば、GC/MSを用いて測定することができる。
【0047】
麦汁発酵液のリナロール濃度は、例えば、リナロール含有量の多い原材料(例えばホップ等)の品種やその使用量、及び当該原材料の添加のタイミング等を調整すること、又はリナロールを含む香料を添加することによって調節することができる。
【0048】
<低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料>
酵母及びタンパク質等が除去された麦汁発酵液は、必要に応じて、含まれている炭酸ガスが除去される。また、麦汁発酵液は、脱アルコール工程に供されて、含まれているアルコールが除去される。脱アルコール工程は、麦汁発酵液のアルコール濃度が、例えば1%(v/v)未満、好ましくは0.5%(v/v)未満、より好ましくは0.1%(v/vV)未満になるまで行われる。脱アルコール工程は、従来から知られている方法を使用して行う。例えば、減圧蒸留法を使用することができる。この場合、アルコール発酵過程で生成する香気成分又は香味成分については、残留液に残存させるか、残留液に戻すことが好ましい。
【0049】
脱アルコール麦汁発酵液は、必要に応じて、pH調整剤を添加してpHを下げる。pHを十分に下げることで、飲料を市販する際に必要な静菌性が付与されて、本発明のビールテイスト発酵麦芽飲料が得られる。本発明のビールテイスト発酵麦芽飲料は、腐敗防止の効果が得られる程度に低いpHを有すればよい。具体的なpHの上限値は4.2未満、好ましくはpH4.1未満、より好ましくは、4.0未満である。一方、具体的なpHの下限値は3.0以上、好ましくは3.3以上、より好ましくは3.6以上である。
【0050】
pH調整剤の種類は限定されない。食品添加物に限らず、例えば飲料及び食品やそれらの製造工程に使用することができる酸、それらの塩及びpH低下能を有するビール原料であれば、pH調整剤として使用することができる。pH低下能を有するビール原料として、例えば、サワーモルト、濃色麦芽等がある。好ましいpH調整剤はフィチン酸、クエン酸、乳酸、乳酸菌、リン酸、リンゴ酸、無水亜硫酸、酒石酸、グルコン酸、酢酸、コハク酸、アジピン酸、イタコン酸、フマル酸及びこれらの組み合わせである。より好ましいpH調整剤はフィチン酸、乳酸、乳酸菌、リン酸、リンゴ酸、無水亜硫酸、酒石酸及びこれらの組み合わせである。ビールテイスト飲料の香味に与える影響を考慮すると、これらの中でも酸味が少ないフィチン酸が最も好ましい。
【0051】
脱アルコール麦汁発酵液には、必要に応じて苦味物質を添加して、苦味価の調整を行う。苦味物質としては、単離したイソα酸を用いることができる。また、イソα酸はホップに含有されており、ホップ又はホップエキスとして用いることもできる。ホップ又はホップエキスとは、ホップの葉、その磨砕物、これらを水や熱湯で抽出した抽出液、抽出液の濃縮物及び乾燥物を指す。
【0052】
脱アルコール麦汁発酵液には、カーボネーション工程によって炭酸ガスを添加する。そのことで、本発明のビールテイスト発酵麦芽飲料が得られる。炭酸ガスの添加量はビールと同様の発泡性になるように調整する。炭酸ガスの添加量は、具体的には、1.2~5.0ガスボリューム、好ましくは2.4~3.5ガスボリューム、より好ましくは2.6~3.2ガスボリュームとなるように調整する。
【0053】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。実施例において、濃度、含有量の単位は特に断らない限り重量基準である。
【実施例0054】
<実施例>
[麦汁発酵液の製造]
仕込槽に粉砕麦芽400kg、コーンスターチ160kg、温水1500リットル及びトランスグルコシダーゼ(天野エンザイム株式会社製「トランスグルコシダーゼL」(商品名))3.0kgを導入し、60℃から76℃の範囲の温度で糖化を行った。この糖化液を濾過槽であるロイターにて濾過し、その後煮沸釜に移して、60分間煮沸し、ホップ8kgを添加した。煮沸後、蒸発分の温水を追加し、2500Lとした。ワールプール槽にて熱トルーブを除去した後、プレートクーラーを用いて8℃まで冷却し、トランスグルコシダーゼ処理麦汁を得た。得られた麦汁の麦汁エキス濃度は16(°P)である。
【0055】
このトランスグルコシダーゼ処理麦汁にビール酵母を加え、7日間10℃前後で発酵させた後、ビール酵母を除去した。タンクを移し替えて7日間熟成させた後、-1℃付近まで冷却し14日間安定化させて、麦汁発酵液を得た。得られた麦汁発酵液の外観エキス濃度は8(°P)である。
【0056】
常法に従って、得られた麦汁発酵液の外観最終発酵度(1-〔全糖質における非発酵性糖質の割合〕)を測定したところ、50%であった。また、GC/MSを用いて得られた麦汁発酵液のリナロール濃度を測定したところ、10ppbであった。これを、試験区1の麦汁発酵液とする。
【0057】
麦汁煮沸過程で添加するホップの量を変更すること以外は上述の工程を繰り返すことで、リナロール濃度が異なる麦汁発酵液を製造した。
【0058】
[低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料の製造]
次に、各試験区の麦汁発酵液を90mbar付近の減圧下で、脱ガスタンク内にスプレーし炭酸ガスを除去した後、プレートクーラーを用いて50℃付近まで加熱した。その後、90mbar付近の減圧カラム内で50℃付近に加熱した水蒸気と接触させ、揮発成分を水蒸気に吸着させ、アルコール及び揮発成分を除去し、アルコール濃度0.02%(v/v)の脱アルコール麦汁発酵液を得た。
【0059】
得られた脱アルコール麦汁発酵液に、2.9ガスボリュームとなるように炭酸ガスを溶解させて、各試験区の低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料を得た。
【0060】
[官能評価]
麦汁発酵液、及び低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料について官能評価を行った。訓練されたビール専門のパネリスト6名が、後述の評価項目及び基準に従って採点した。パネリスト全員の採点の平均値を各評価項目の評点とした。なお、評価に供されるサンプルは、液温を約4℃に調節した。
【0061】
評価基準として、市販されているビール様飲料を使用した。使用したビール様飲料の商品属性、及び香味の特徴を表1に示す。香味の特徴は、日本国内で製造されているビールの標準的な強さを仮定し、これと比較した強さを評価したものである。評価結果を表2に示す。
【0062】
【0063】
[評価項目及び評価基準]
(麦汁発酵液)
複雑味の強さ: 5 アサヒスーパードライよりかなり複雑味が強い
4 アサヒスーパードライよりやや複雑味が強い
3 アサヒスーパードライ程度の複雑味の強さ
2 アサヒスタイルフリー並みの複雑味の強さ
1 味が単調である、炭酸水の味わい
【0064】
香気の爽やかさ:5 アサヒスタイルフリー以上に爽やかな香気
4 アサヒスタイルフリー様の爽やかな香気
3 アサヒスーパードライ様の平均的な香気
2 アサヒスーパードライに比べると物足りない香気
1 香気が少ない(炭酸水様)
【0065】
(低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料)
甘味の強さ: 5 甘味が強い、麦汁様
4 やや甘味がある
3 麦汁と炭酸水を1:1で混合した程度の甘さ
2 アサヒスーパードライ製品程度の甘味
1 甘味をほとんど感じない(炭酸水)
【0066】
コク感: 5 アサヒスーパードライより大変コクがある
4 アサヒスーパードライよりややコクがある
3 アサヒスーパードライ程度のコク
2 アサヒスーパードライよりコクが足りない
1 水っぽい(炭酸水)
【0067】
キレ感: 5 アサヒスーパードライより大変キレがある
4 アサヒスーパードライよりややキレがある
3 アサヒスーパードライ程度のキレがある
2 アサヒスーパードライよりややキレが劣る
1 麦汁並みにキレがない
【0068】
飲用後の爽快感:5 アサヒスーパードライより大変爽快である
4 アサヒスーパードライよりやや爽快
3 アサヒスーパードライ程度の爽快さ
2 アサヒスーパードライよりやや爽快感が足りない
1 麦汁並みに爽快さがない
【0069】
【0070】
<比較例>
[麦汁発酵液の製造]
まず、400kgの大麦麦芽の粉砕物、及び1500Lの原料水を添加して混合し、マイシェを調製した。当該マイシェに、トランスグルコシダーゼ(天野エンザイム株式会社製「トランスグルコシダーゼL」(商品名))2.0kgを添加した後、60℃で60分間加温することにより、糖化処理を行って希釈後、麦汁を得た。得られた麦汁に8kgのホップを添加して、100℃で60分間煮沸した。煮沸完了後(加熱終了後)濾過を行い、透明なトランスグルコシダーゼ処理麦汁を得て、湯を足し、2800Lとした。得られた麦汁の麦汁エキス濃度は9.5(°P)である。
【0071】
このトランスグルコシダーゼ処理麦汁にビール酵母を加え、7日間10℃前後で発酵させた後、ビール酵母を除去した。タンクを移し替えて7日間熟成させた後、-1℃付近まで冷却し14日間安定化させて、麦汁発酵液を得た。得られた麦汁発酵液の外観エキス濃度は4.75(°P)、アルコール濃度は2.5%(v/v)である。
【0072】
常法に従って、得られた麦汁発酵液の外観最終発酵度を測定したところ、約50%であった。また、GC/MSを用いて得られた麦汁発酵液のリナロール濃度を測定したところ、10ppbであった。
【0073】
麦汁煮沸過程で添加するホップの量を変更すること以外は上述の工程を繰り返すことで、リナロール濃度が異なる麦汁発酵液を製造した。これを、対照区1の麦汁発酵液とする。
【0074】
[低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料の製造及び官能評価]
各対照区の麦汁発酵液を使用すること以外は実施例と同様にして低アルコールビールテイスト発酵麦芽飲料を製造し、官能評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0075】