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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180388
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】開閉体装置の異常診断装置
(51)【国際特許分類】
   E05F 15/659 20150101AFI20231214BHJP
   B60J 5/06 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
E05F15/659
B60J5/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093660
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】菅 隆浩
【テーマコード(参考)】
2E052
【Fターム(参考)】
2E052AA09
2E052CA06
2E052DA02
2E052DB02
2E052EA12
2E052EA13
2E052EB01
2E052GA08
2E052GB12
2E052KA14
(57)【要約】
【課題】開閉体装置の劣化に起因して開閉体の開閉動作に異常が生じるのに先立って、近い将来に異常が生じることを知らせることができるようにした開閉体装置の異常診断装置を提供する。
【解決手段】PU82は、スライドドア20が駆動される都度、モータ72を流れる電流を積算する。PU82は、積算した電流に基づき、アッパレール30、センターレール40およびロアレール50の劣化の度合いを判定する。PU82は、劣化の度合いが、近い将来、スライドドア20の開閉に感知しうるほどの異常をきたすほど大きいと判定する場合に、表示装置94を操作してその旨を通知する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉体装置の異常診断装置であって、
前記開閉体装置は、開閉体、レール部、相対変位部材、およびアクチュエータを備え、
前記開閉体は、前記レール部と前記相対変位部材との相対位置が変化することによって開閉動作する部材であり、
前記アクチュエータは、前記レール部に対して前記相対変位部材を相対変位させる部材であり、
負荷変数取得処理、履歴算出処理、予測処理、および通知処理を実行するように構成され、
前記負荷変数取得処理は、前記アクチュエータによって前記開閉体を変位させるときにおける前記アクチュエータの負荷を示す変数である負荷変数の値を取得する処理であり、
前記履歴算出処理は、前記負荷変数の値の履歴を定量化する処理であり、
前記予測処理は、前記履歴算出処理によって定量化された履歴に基づき、前記開閉体装置の劣化に起因して前記開閉体の開閉動作に異常が生じるか否かを予測する処理であり、
前記通知処理は、前記異常が生じると予測される場合にその旨を通知する処理である開閉体装置の異常診断装置。
【請求項2】
前記履歴算出処理は、前記負荷変数の値の積算処理によって前記負荷変数の値の履歴を定量化する処理であり、
前記予測処理は、前記積算処理による積算結果が所定以上となる場合に、前記開閉体の開閉動作に異常が生じると予測する処理を含む請求項1記載の開閉体装置の異常診断装置。
【請求項3】
前記履歴算出処理は、領域別積算処理を含み、
前記領域別積算処理は、複数の部分領域のそれぞれについて、前記負荷変数の値を各別に積算する処理を含み、
前記複数の部分領域は、前記相対変位部材が前記レール部に沿って変位する領域が複数に分割された領域であり、
前記予測処理は、前記複数の部分領域の少なくとも1つにおいて、前記領域別積算処理による積算結果が所定以上となる場合に、前記開閉体の開閉動作に異常が生じると予測する処理を含む請求項1記載の開閉体装置の異常診断装置。
【請求項4】
前記レール部は、前記開閉体の変位方向に沿って、屈曲部および直線部を備え、
前記複数の部分領域は、前記屈曲部を含む第1領域と、前記直線部に包含される第2領域とを含む請求項3記載の開閉体装置の異常診断装置。
【請求項5】
前記履歴算出処理は、合成処理を含み、
前記積算処理は、前記相対変位部材が前記レール部の第1位置および第2位置の一方から他方に変位する毎に、前記一方から前記他方に変位する間の前記負荷変数の値の大きさに応じて、複数の負荷領域のうちのいずれか1つの領域の値を積算する処理を含み、
前記合成処理は、前記複数の負荷領域のそれぞれの値に重み付けをした後、重み付けられた値同士を加算した値を算出する処理であり、
前記予測処理は、前記合成処理の出力値が所定以上となる場合に、前記開閉体の開閉動作に異常が生じると予測する処理を含む請求項2記載の開閉体装置の異常診断装置。
【請求項6】
前記履歴算出処理は、前記相対変位部材が前記レール部の第1位置および第2位置の一方から他方に変位する毎に、前記一方から前記他方に変位する間の前記負荷変数の値の最大値を抽出して前記積算処理の対象とする処理を含む請求項2記載の開閉体装置の異常診断装置。
【請求項7】
前記履歴算出処理は、前記最大値が所定値以下の場合、前記積算処理を行わない請求項6記載の開閉体装置の異常診断装置。
【請求項8】
前記開閉体は、車両のスライドドアである請求項1記載の開閉体装置の異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開閉体装置の異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、スライドドアを備えた車両が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-147950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、スライドドアが突然故障する場合、予期せぬタイミングで部品交換をする必要が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.開閉体装置の異常診断装置であって、前記開閉体装置は、開閉体、レール部、相対変位部材、およびアクチュエータを備え、前記開閉体は、前記レール部と前記相対変位部材との相対位置が変化することによって開閉動作する部材であり、前記アクチュエータは、前記レール部に対して前記相対変位部材を相対変位させる部材であり、負荷変数取得処理、履歴算出処理、予測処理、および通知処理を実行するように構成され、前記負荷変数取得処理は、前記アクチュエータによって前記開閉体を変位させるときにおける前記アクチュエータの負荷を示す変数である負荷変数の値を取得する処理であり、前記履歴算出処理は、前記負荷変数の値の履歴を定量化する処理であり、前記予測処理は、前記履歴算出処理によって定量化された履歴に基づき、前記開閉体装置の劣化に起因して前記開閉体の開閉動作に異常が生じるか否かを予測する処理であり、前記通知処理は、前記異常が生じると予測される場合にその旨を通知する処理である開閉体装置の異常診断装置である。
【0006】
レール部を相対変位部材が変位することによって、レール部および相対変位部材には力が加わる。そして、これがレール部等の劣化の要因となる。ここでレール部に加わる力が大きいほど、レール部の劣化が促進される傾向がある。また、レール部に加わる力は、アクチュエータの負荷と正の相関を有する。そこで上記構成では、負荷変数の値の履歴に基づき、開閉体装置の劣化に起因して開閉体の開閉動作に異常が生じるか否かを予測する。そして、異常が生じると予測される場合、その旨を通知する。これにより、開閉体装置の劣化に起因して開閉体の開閉動作に異常が生じるのに先立って、近い将来に異常が生じることを知らせることができる。
【0007】
2.前記履歴算出処理は、前記負荷変数の値の積算処理によって前記負荷変数の値の履歴を定量化する処理であり、前記予測処理は、前記積算処理による積算結果が所定以上となる場合に、前記開閉体の開閉動作に異常が生じると予測する処理を含む上記1記載の開閉体装置の異常診断装置である。
【0008】
負荷変数の値の積算値は、開閉体装置の劣化の度合いと正の相関を有する。したがって、上記積算処理によれば、負荷変数の値の履歴を、開閉体装置の劣化と正の相関を有するように定量化できる。
【0009】
3.前記履歴算出処理は、領域別積算処理を含み、前記領域別積算処理は、複数の部分領域のそれぞれについて、前記負荷変数の値を各別に積算する処理を含み、前記複数の部分領域は、前記相対変位部材が前記レール部に沿って変位する領域が複数に分割された領域であり、前記予測処理は、前記複数の部分領域の少なくとも1つにおいて、前記領域別積算処理による積算結果が所定以上となる場合に、前記開閉体の開閉動作に異常が生じると予測する処理を含む上記1記載の開閉体装置の異常診断装置である。
【0010】
開閉体がレール部に沿って変位する際、レール部に加わる力は複数の領域のそれぞれで均一となるとは限らない。また複数の領域に同じ力を繰り返し加えたときに各領域の劣化の度合いが均一となるとは限らない。そのため、レール部全体で負荷変数の値を積算する場合には、積算処理の結果が、開閉体の開閉動作の異常が生じるほど開閉体装置に劣化が進んでいるか否かを高精度に示すことが困難となりやすい。
【0011】
そこで上記構成では、レール部を複数の領域に分割したそれぞれについて積算処理を実行する。これにより、複数の領域のそれぞれについて個別に負荷変数の値の履歴を定量化できる。そのため、複数の領域のそれぞれについて、劣化の度合いを定量化できることから、積算処理の結果に、開閉体の開閉動作の異常が生じるほど開閉体装置に劣化が進んでいるか否かを高精度に反映させることができる。
【0012】
4.前記レール部は、前記開閉体の変位方向に沿って、屈曲部および直線部を備え、前記複数の部分領域は、前記屈曲部を含む第1領域と、前記直線部に包含される第2領域とを含む上記3記載の開閉体装置の異常診断装置である。
【0013】
レール部に沿って相対変位部材が変位する場合、レール部のうち直線部と比較して屈曲部においてより大きな力が加わりやすい。そのため、屈曲部はレール部のなかで特に劣化が促進されやすい。そのため、上記構成では、屈曲部を含む第1領域と、直線部に包含される第2領域とを各別の領域とする。これにより、特に劣化が促進されやすい領域を適切に評価できる。
【0014】
5.前記履歴算出処理は、合成処理を含み、前記積算処理は、前記相対変位部材が前記レール部の第1位置および第2位置の一方から他方に変位する毎に、前記一方から前記他方に変位する間の前記負荷変数の値の大きさに応じて、複数の負荷領域のうちのいずれか1つの領域の値を積算する処理を含み、前記合成処理は、前記複数の負荷領域のそれぞれの値に重み付けをした後、重み付けられた値同士を加算した値を算出する処理であり、前記予測処理は、前記合成処理の出力値が所定以上となる場合に、前記開閉体の開閉動作に異常が生じると予測する処理を含む上記2~4のいずれか1つに記載の開閉体装置の異常診断装置である。
【0015】
負荷変数の値の大きさと劣化の促進されやすさとの間には、非線形な関係がある傾向にある。そこで上記構成では、負荷変数の値の大きさによって分類された複数の負荷領域毎に積算処理を実行する。そしてそれらを合成する際には、負荷領域の値に重み付けした後に加算する。そのため、合成処理の出力値に、負荷変数の値の大きさと劣化の促進されやすさとの間の非線形性に関する表現力を持たせることができる。
【0016】
なお、上記3,4の事項を有する場合、第1位置および第2位置は、部分領域の2つの端部の位置とすればよい。また、上記3,4の事項を有しない場合、第1位置および第2位置は、レール部の2つの端部の位置とすればよい。
【0017】
6.前記履歴算出処理は、前記相対変位部材が前記レール部の第1位置および第2位置の一方から他方に変位する毎に、前記一方から前記他方に変位する間の前記負荷変数の値の最大値を抽出して前記積算処理の対象とする処理を含む上記2記載の開閉体装置の異常診断装置である。
【0018】
負荷変数の値が大きいほど劣化が促進されやすい。しかも、負荷変数の値と劣化の促進のされやすさとは、非線形な関係となる傾向がある。そこで、上記構成では、負荷変数の値の最大値を積算処理の対象とすることにより、劣化の促進に顕著に寄与する値を抽出して積算することができる。
【0019】
なお、上記3,4の事項を有する場合、第1位置および第2位置は、部分領域の2つの端部の位置とすればよい。また、上記3,4の事項を有しない場合、第1位置および第2位置は、レール部の2つの端部の位置とすればよい。
【0020】
7.前記履歴算出処理は、前記最大値が所定値以下の場合、前記積算処理を行わない上記6記載の開閉体装置の異常診断装置である。
負荷変数の値が小さい場合、劣化にほぼ寄与しない傾向がある。そこで上記構成では、最大値が所定値以下の場合、積算処理を行わないこととした。
【0021】
8.前記開閉体は、車両のスライドドアである上記1~7のいずれか1つに記載の開閉体装置の異常診断装置である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態にかかるスライドドアおよびその制御装置を示すブロック図である。
図2】(a)は、同実施形態にかかる開状態におけるスライドドアを示し、(b)は閉状態におけるスライドドアを示す図である。
図3】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図4】同実施形態にかかるインバータのスイッチング手法を示すタイムチャートである。
図5】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図6】同実施形態にかかるレールの領域分割を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
「前提構成」
図1に示すように、車両10は、車体12およびスライドドア20を備えている。車体12の側部には、開口部14が設けられている。車体12は、開口部14の前端において、上下方向における中央部にストライカ18を有する。ストライカ18は、略U字状をなし、後方に向かって突出する。スライドドア20は、開口部14を全閉する全閉位置および開口部14を全開する全開位置の間で開閉作動する。本実施形態では、スライドドア20が後方に移動することで開作動し、スライドドア20が前方に移動することで閉作動する。また、スライドドア20は、ドアロック装置22を備えている。ドアロック装置22は、スライドドア20が全閉位置に位置する場合にストライカ18と係合することで、スライドドア20を全閉位置に拘束する。
【0024】
車体12には、アッパレール30、センターレール40、およびロアレール50が設けられている。アッパレール30は、開口部14の上方に配置されている。センターレール40は、開口部14の後方に配置されている。ロアレール50は、開口部14の下部に配置されている。スライドドア20は、相対変位部材32,60,52のそれぞれを介して、アッパレール30、センターレール40、およびロアレール50のそれぞれに連結されている。
【0025】
図2に、相対変位部材60によるスライドドア20およびセンターレール40の機械的な連結状態を示す。
相対変位部材60は、固定部62、ガイドローラ支持部66、およびガイドローラ64を備える。固定部62は、スライドドア20に固定されている。ガイドローラ支持部66は、固定部62に回動可能に連結されている。ガイドローラ64は、ガイドローラ支持部66に回転可能に支持されている。
【0026】
相対変位部材60において、固定部62は、スライドドア20の上下方向における中央部の後端寄りの位置に固定されている。ガイドローラ支持部66は、固定部62に対して、上下方向に延びる回転軸67を回転中心として相対変位できるように連結される。ガイドローラ64は、上下方向と直交する方向に並ぶように配置される。
【0027】
相対変位部材60がセンターレール40に連結される状態では、ガイドローラ64がセンターレール40の側壁の間に配置される。そして、相対変位部材60が、センターレール40に対してセンターレール40の長手方向に移動する場合には、ガイドローラ64がセンターレール40の側壁に接した状態で上下方向に延びる回転軸68を回転中心として回転する。
【0028】
図2(a)は、スライドドア20が全開位置にある状態を示している。また、図2(b)は、スライドドア20が全閉位置にある状態を示している。
図1に戻り、車両10は、ドアアクチュエータ70を備えている。ドアアクチュエータ70は、モータ72、インバータIVおよびコントローラ74を備えている。モータ72は、たとえばワイヤまたはベルトなどを介して動力をスライドドア20に伝達する。モータ72の回転方向によって、スライドドア20を閉作動させるか、スライドドア20を開作動させるか、が定まる。
【0029】
モータ72は、3相ブラシレスモータである。インバータIVは、スイッチング素子SW1,SW2の直列接続体、スイッチング素子SW3,SW4の直列接続体、およびスイッチング素子SW5,SW6の直列接続体が並列接続されたものである。そして、それら直列接続体には、直流電圧源であるバッテリの電圧が印加されている。コントローラ74は、スイッチング素子SW1~SW6をオン・オフ操作する。
【0030】
制御装置80は、制御対象としてのスライドドア20の開閉状態を制御すべく、ドアロック装置22およびドアアクチュエータ70を操作する。制御装置80は、上記制御のために、モータ72の回転角を感知する回転角センサ76の出力信号Smを参照する。出力信号Smは、モータ72が所定の回転角となる都度、パルス状の波形となるものである。また、制御装置80は、電流センサ90によって検出されるモータ72に流れる電流iu,iv,iwを参照する。
【0031】
制御装置80において、PU82、記憶装置84および周辺回路86は、通信線88を介して通信可能とされている。PU82は、CPU、GPU、およびTPU等のソフトウェア処理装置である。周辺回路86は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路、電源回路、およびリセット回路等を含む。制御装置80は、記憶装置84に記憶されたプログラムをPU82が実行することにより、スライドドア20を開閉制御する。
【0032】
「スライドドア20の開閉制御」
車両10のユーザが入力部92を操作することによって、スライドドア20を全開位置に向けて変位させる指示がなされると、PU82は、スライドドア20を開駆動制御する。また、車両10のユーザが入力部92を操作することによって、スライドドア20を全閉位置に向けて変位させる指示がなされると、PU82は、スライドドア20を閉駆動制御する。
【0033】
図3に、スライドドア20の開閉駆動制御の処理手順を示す。図3に示す処理は、記憶装置84に記憶されたプログラムをPU82がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって各処理のステップ番号を表現する。
【0034】
図3に示す一連の処理において、PU82は、まず、入力部92の操作によってスライドドア20を変位させる指令がなされたか否かを判定する(S10)。PU82は、変位指令がなされたと判定する場合、出力信号Smに基づくスライドドア20の位置xを取得する(S12)。位置xは、PU82によって出力信号Smに基づき算出される。次にPU82は、位置xを入力としてスライドドア20の目標速度v*を算出する(S14)。目標速度v*は、たとえば全開位置から所定距離内の領域および全閉位置から所定距離内の領域と比較して、それ以外において大きい値を取るように設定されてもよい。S14の処理は、記憶装置84にマップデータが記憶された状態でPU82によって目標速度v*をマップ演算することによって実現してもよい。ここで、マップデータは、位置xを入力変数として且つ目標速度v*を出力変数とするデータである。
【0035】
なお、マップデータとは、入力変数の離散的な値と、入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値と、の組データである。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理とすればよい。また、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値を演算結果とする処理とすればよい。また、これに代えて、マップ演算は、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれにも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値のうちの最も近い値に対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とする処理としてもよい。
【0036】
また、PU82は、位置xの時系列データに基づきスライドドア20の速度vを算出する(S16)。ここで、PU82は、たとえば図3に示す一連の処理の前回の実行タイミングにおけるS12の処理と今回の実行タイミングにおけるS12の処理とのそれぞれで取得した位置xの差分を速度vとしてもよい。
【0037】
次にPU82は、速度vを制御量として且つ目標速度v*を制御量の目標値とするフィードバック制御の操作量によってインバータIVを操作する(S18)。詳しくは、PU82がコントローラ74に操作量を出力することによって、コントローラ74がインバータIVを操作する。ここでの操作量は、時比率Dおよび位相である。
【0038】
図4に示すように、時比率Dが100%の場合、インバータIVのスイッチング素子SW1~SW6は、120°通電方式に従ってオン操作される。すなわち、スイッチング素子SW1~SW6は、360°の間に、互いに異なる位相で、120°ずつオン状態とされる。
【0039】
これに対し、時比率Dが100%よりも小さい場合、スイッチング素子SW2,SW4,SW6を、時比率Dが100%の場合にそれらがオン操作される期間において、周期的にオン・オフ操作される。ここでの周期は、PWM周期であり、PWM周期に対するオン時間の比率が、時比率Dとされる。この処理によれば、時比率Dが大きいほど、モータ72に印加される電圧の実効値を大きくすることができる。
【0040】
また、PU82は、スイッチング素子SW1~SW6がオフ状態からオン状態へと切り替わる位相を操作する。
PU82は、たとえば、速度vが目標速度v*よりも小さい場合に、位相を進角させればよい。また、PU82は、たとえば、速度vが目標速度v*よりも小さい場合に、時比率Dを上昇させてもよい。
【0041】
図3に戻り、PU82は、S18の処理を完了する場合と、S10の処理において否定判定する場合と、には、図3に示す一連の処理を一旦終了する。
「異常予測」
スライドドア20を多数回変位制御すると、アッパレール30、センターレール40、およびロアレール50が、それぞれ相対変位部材32,60,52と接触する面の劣化が生じうる。具体的には、同面の一部がうろこ状に剥離する現象が生じうる。このような劣化が進むと、相対変位部材32,60,52が、アッパレール30、センターレール40、およびロアレール50に沿って円滑に変位できなくなる。そして最終的はスライドドア20の開閉が困難となる。
【0042】
PU82は、スライドドア20の円滑な変位に支障をきたす異常が近い将来生じると予測される場合、その旨を予めユーザに通知する処理を実行する。
図5に、開閉動作の異常に関する処理の手順を示す。図5に示す処理は、記憶装置84に記憶されたプログラムをPU82がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0043】
図5に示す一連の処理において、PU82は、まず、スライドドア20の変位制御がなされているか否かを判定する(S20)。PU82は、変位制御がなされていると判定する場合(S20:YES)、モータを流れる電流iu,iv,iwの電流振幅値Iを取得する(S22)。次に、PU82は、図6に示す部分領域の切り替わり時であるか否かを判定する(S24)。
【0044】
図6には、センターレール40によって部分領域A1~A7を示す。図6に示すように、センターレール40は、相対変位部材60が変位する方向に沿って、7個の部分領域A1~A7に分割されている。部分領域A1は、スライドドア20の全閉状態において相対変位部材60が位置する領域付近の領域である。部分領域A7は、スライドドア20の全開状態において相対変位部材60が位置する領域付近の領域である。
【0045】
図6に示すように、センターレール40は、スライドドア20の全閉状態において相対変位部材60が位置する領域付近に屈曲部Pbを有する。屈曲部Pbは、相対変位部材60の変位方向が曲がる部分である。また、センターレール40は、直線部Psを有する。直線部Psは、相対変位部材60の変位方向が一定となる部分である。
【0046】
屈曲部Pbは、部分領域A2を包含する。部分領域A2は、直線部Psにおける部分領域A4~A7と比較して、その長さが短い。ここでの長さは、相対変位部材60の変位方向の長さである。
【0047】
図5に戻り、たとえばスライドドア20が開動作している場合、PU82は、部分領域A1から部分領域A2への切り替わり時等において、S24の処理において肯定判定する。また、たとえばスライドドア20が閉動作している場合、PU82は、部分領域A7から部分領域A6への切り替わり時等において、S24の処理において肯定判定する。
【0048】
PU82は、S24の処理において否定判定する場合、部分領域A1~A7のうちの現在の部分領域における電流振幅値Iの最大値Imaxを更新する(S26)。ここで、PU82は、最大値Imaxよりも今回のS22の処理によって取得した電流振幅値Iの方が大きい場合、最大値Imaxに同電流振幅値Iを代入する。一方、最大値Imaxの方が今回のS22の処理によって取得した電流振幅値Iよりも大きい場合、最大値Imaxを保持する。
【0049】
一方、PU82は、S24の処理において肯定判定する場合、最大値Imaxが所定値Ith以上であるか否かを判定する(S28)。所定値Ithは、アッパレール30、センターレール40、およびロアレール50の劣化に寄与する電流振幅値Iの最小値に設定されている。所定値Ithは、たとえば弾性限度に対応する電流振幅値I以下の値に設定すればよい。弾性限度は、加えた応力がゼロとなると、応力を印加された対象物が元に戻る最大応力である。
【0050】
PU82は、所定値Ith以上であると判定する場合(S28:YES)、最大値Imaxの大きさによって分類された領域である負荷領域のいずれかの値を「1」だけ増加補正する(S30)。ここで、負荷領域のうち最大値Imaxの値が最も小さい領域は、最大値Imaxが所定値Ith以上第1境界値I1以下の領域である。負荷領域のうちの最大値Imaxの大きさが2番目に小さい領域は、最大値Imaxが第1境界値I1よりも大きくて且つ、第2境界値I2以下の領域である。たとえば、PU82は、最大値Imaxが第3境界値I3に等しい場合、最大値Imaxの大きさが3番目に小さい領域の値N3を「1」だけ増加補正する。
【0051】
次にPU82は、劣化変数VLの値を算出する(S32)。詳しくは、PU82は、「i=1,2,3,…」として、負荷領域のそれぞれの値Niに、重み係数Kiを乗算した値の和を、劣化変数VLに代入する。重み係数Kiは、「i」が大きいほど大きい値となる。これは、応力に対する実際の劣化の促進度合いの関係は、同関係に線形性を仮定したものよりも顕著となることに鑑みたものである。劣化変数VLの上記定量化によれば、最大値Imaxの大きさが2倍の場合、劣化変数VLの値を2倍よりも大きい値とすることができる。
【0052】
次にPU82は、劣化変数VLの値が閾値VLth以上であるか否かを判定する(S34)。閾値VLthは、劣化がこれ以上進むとスライドドア20の開閉動作に異常が生じる下限値に設定されている。PU82は、S28,S34の処理において否定判定する場合、最大値Imaxを初期化する(S36)。この処理は、負荷領域毎に各別の最大値Imaxを算出するための設定である。
【0053】
一方、PU82は、閾値VLth以上であると判定する場合(S34:YES)、寿命である旨判定する(S38)。換言すれば、PU82は、スライドドア20を変位させる装置の構造上の劣化が進んだ状態であると判定する。
【0054】
PU82は、図1に示す表示装置94を操作することによって、その旨を通知する(S40)。
なお、PU82は、S26,S36,S40の処理を完了する場合と、S20の処理において否定判定する場合と、には、図5に示す一連の処理を一旦終了する。
【0055】
「本実施形態の作用および効果」
PU82は、スライドドア20が変位制御される場合、部分領域A1~A7のそれぞれについて、それら各領域を相対変位部材60が通過する際のモータ72の電流振幅値Iの最大値Imaxを算出する。PU82は、最大値Imaxに応じて複数の負荷領域のそれぞれの値Niのうちの対応する1つの値を「1」だけ増加補正する。これにより、相対変位部材60が部分領域Aj(j=1~7)を通過する都度、部分領域Ajの負荷領域のいずれか1つにおいて、最大値Imaxの積算処理がなされる。次に、PU82は、負荷領域の値Niの重み付け加算処理によって、劣化変数VLの値を算出する。PU82は、劣化変数VLの値が閾値VLth以上の場合、近い将来、スライドドア20の変位に感知しうる異常が生じるほど劣化が進んでいる旨、通知する。
【0056】
これにより、ユーザは、スライドドア20の変位に実際に感知しうる異常が生じるのに先立って、劣化を把握できる。そのため、事前にスライドドア20を修理する等、劣化に対処することが可能となる。
【0057】
また、ユーザに事前に通知する機能を付与することにより、アッパレール30、センターレール40、ロアレール50、および相対変位部材32,60,52の耐久性能に予め持たせるべき冗長性を軽減できる。すなわち、通知する機能を有しない場合、不意にスライドドア20の開閉が困難となる事態が生じることを抑制すべく、スライドドア20の開閉頻度が最も大きいと想定されるユーザを基準として、上記耐久性能を定めることが望まれる。
【0058】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1,8]レール部は、アッパレール30、センターレール40およびロアレール50に対応する。相対変位部材は、相対変位部材32,60,52に対応する。アクチュエータは、ドアアクチュエータ70に対応する。負荷変数取得処理は、S22の処理に対応する。履歴算出処理は、S28~S32の処理に対応する。予測処理は、S34,S38の処理に対応する。通知処理は、S40の処理に対応する。[2]積算処理は、S30の処理に対応する。[3]領域別積算処理は、S30の処理に対応する。複数の部分領域は、部分領域A1~A7に対応する。[4]屈曲部を含む部分領域は、部分領域A2に対応する。直線部における領域は、部分領域A4~A7に対応する。[5]合成処理は、S32の処理に対応する。[6]第1の位置は、「i=1~7」として、部分領域Aiの全閉側の端部および全開側の端部のいずれかに対応する。第2の位置は、「i=1~7」として、部分領域Aiの全閉側の端部および全開側の端部のいずれかであって第1の位置とは異なる位置に対応する。[7]PU82が、S28の処理において否定判定する場合にS30の処理を実行しないことに対応する。
【0059】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0060】
「負荷変数について」
・負荷変数としては、モータ72の電流振幅値Iに限らない。たとえば、トルクとしてもよい。このトルクは、電流から算出してもよい。たとえば、モータ72が表面磁石同期モータの場合、q軸電流に比例係数を乗算した値によってトルクを算出できる。
【0061】
・ドアアクチュエータ70が、エアシリンダを備える場合、エアシリンダ内の気圧の検出結果を用いて負荷変数を構成してもよい。
「部分領域について」
・部分領域の数としては、7個に限らない。また、屈曲部Pbを含む部分領域A2の長さを、直線部Psにおける部分領域A4~A7の長さよりも短くすることも必須ではない。屈曲部Pbを含む部分領域を複数個設けてもよい。これは部分領域A2を細分化することによって実現できる。
【0062】
・直線部Psとしては、相対変位部材60の進行方向の曲率がゼロの部分に限らない。たとえば、曲率が所定値未満の部分としてもよい。その場合、屈曲部Pbは、曲率が所定値以上の部分とすればよい。
【0063】
「積算処理について」
・積算処理としては、負荷変数の値の最大値を積算する処理に限らない。たとえば、所定の区間にわたって位置xで負荷変数の値を積分する処理としてもよい。その場合、S30の処理において用いるテーブルデータにおいて、最大値Imaxを積分値に読み替え、回数を積分値の累積値に読み替える。ここで、積分値の累積値は、スライドドア20が該当する部分領域に入った後同部分領域からでるまでの期間を単位として、同期間が訪れるたびに積分値だけ増加補正される値である。その場合、S32の処理は、積分値の累積値の重み付け加算処理とすればよい。
【0064】
・積算処理が、複数の部分領域のそれぞれについて各別に積算処理を実行することは必須ではない。換言すれば、PU82が、領域別積算処理を実行することは必須ではない。その場合、たとえばスライドドア20が開操作または閉操作されている一度の期間における負荷変数の値の最大値に応じてS30の処理を実行してもよい。またたとえば、開操作または閉操作の開始位置から終了位置までの負荷変数の値の積分値を累積する処理を積算処理としてもよい。
【0065】
・積算処理としては、大きさによって分割された複数の負荷領域毎に負荷変数の値を積算する処理に限らない。
「レール部について」
・レール部が車体12に設けられることは必須ではない。たとえばスライドドア20に設けられていてもよい。その場合、スライドドア20自体は、レール部に対して相対変位しない。レール部における相対変位部材の位置が変化すると、スライドドア20と開口部14との相対的な位置関係が変化する。
【0066】
「変位制御について」
・上記実施形態では、速度vを目標速度v*に追従させるためのフィードバック制御による操作量を、時比率Dutyおよび位相としたが、これに限らない。たとえば、時比率Dutyおよび位相のいずれか一方のみとしてもよい。
【0067】
・インバータIVの操作を、120°通電方式によって実行することは必須ではない。たとえば電流ベクトル制御を実行してもよい。電流ベクトル制御には、電流センサ90によって検出される電流iu,iv,iwが利用される。したがって、変位制御のためのハードウェアである電流センサ90を流用して劣化変数VLの値を算出できる。そのため、劣化変数VLの値を算出するために、新たなハードウェアを追加する必要がない。もっとも、新たなハードウェアを追加する必要がないケースとしては、電流ベクトル制御を実行する場合に限らない。たとえば上述の120°通電方式を用いる場合であっても、たとえば過電流を検出するために電流センサ90を備えるのであれば、劣化変数VLの値を算出するために新たなハードウェアを追加する必要がない。
【0068】
・目標速度v*を位置xの関数とすることは必須ではない。たとえば目標速度v*を一定速度としてもよい。
・相対変位部材の変位制御に速度vのフィードバック制御を採用することは必須ではない。たとえば、モータ72に印加する電圧を一定値とする開ループ制御を実行してもよい。
【0069】
「開閉体装置について」
・開閉体装置としては、スライドドア20を備える装置に限らない。たとえば、サンルーフを備える車両において、サンルーフを開閉体として備える装置であってもよい。
【0070】
「制御装置について」
・制御装置としては、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態において実行される処理の少なくとも一部を実行するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成を備える処理回路を含んでいればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶する記憶装置等のプログラム格納装置とを備える処理回路。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える処理回路。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える処理回路。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置は、複数であってもよい。また、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0071】
「そのほか」
・モータ72の駆動回路がインバータIVであることは必須ではない。たとえば、モータを直流モータとして且つ、駆動回路をHブリッジ回路としてもよい。
【符号の説明】
【0072】
10…車両
12…車体
14…開口部
18…ストライカ
20…スライドドア
22…ドアロック装置
30…アッパレール
32…相対変位部材
40…センターレール
50…ロアレール
52…相対変位部材
60…相対変位部材
64…ガイドローラ
66…ガイドローラ支持部
67…回転軸
68…回転軸
70…ドアアクチュエータ
72…モータ
74…コントローラ
76…回転角センサ
80…制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6