(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180397
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】部分放電検出方法及び部分放電検出装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20231214BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G05B23/02 302Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093681
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 朋輝
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇介
(72)【発明者】
【氏名】長 広明
(72)【発明者】
【氏名】石田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】白石 創
【テーマコード(参考)】
2G015
3C223
【Fターム(参考)】
2G015AA06
2G015BA04
2G015BA10
2G015CA01
3C223AA23
3C223BA01
3C223CC01
3C223EB03
3C223FF08
3C223FF22
3C223FF24
3C223FF26
3C223FF35
(57)【要約】
【課題】部分放電の発生の検出精度を向上させることが可能な部分放電検出方法及び部分放電検出装置を提供することにある。
【解決手段】実施形態に係る部分放電検出装置が実行する部分放電検出方法は、電力機器に取り付けられたセンサによって計測された電気信号を取得するステップと、当該取得された電気信号を解析することによって、当該電気信号の特徴を表す特徴量を取得するステップと、当該取得された特徴量を画像に変換するステップと、予め学習処理が実行されることによって生成されている統計モデルに対して特徴量から変換された画像を入力することによって当該統計モデルから出力される部分放電の発生に関する部分放電情報に基づいて、電力機器からの部分放電の発生を検出するステップとを具備する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分放電検出装置が実行する部分放電検出方法であって、
電力機器に取り付けられたセンサによって計測された電気信号を取得するステップと、
前記取得された電気信号を解析することによって、当該電気信号の特徴を表す特徴量を取得するステップと、
前記取得された特徴量を画像に変換するステップと、
予め学習処理が実行されることによって生成されている統計モデルに対して前記特徴量から変換された画像を入力することによって当該統計モデルから出力される部分放電の発生に関する部分放電情報に基づいて、前記電力機器からの部分放電の発生を検出するステップと
を具備する部分放電検出方法。
【請求項2】
前記特徴量を取得するステップは、前記取得された電気信号に対してウェーブレット変換を適用することによって、経過時間に応じた前記電気信号に含まれるパルス信号の周波数特性を前記特徴量として取得するステップを含む請求項1記載の部分放電検出方法。
【請求項3】
前記統計モデルは、畳み込みニューラルネットワークである請求項1記載の部分放電検出方法。
【請求項4】
前記電力機器は、インバータ装置である請求項1~3のいずれか一項に記載の部分放電検出方法。
【請求項5】
前記電気信号は、前記電力機器の盤面の電位を表す信号である請求項1~3のいずれか一項に記載の部分放電検出方法。
【請求項6】
前記電気信号は、前記電力機器に接続される接地線を流れる電流を表す信号である請求項1~3のいずれか一項に記載の部分放電検出方法。
【請求項7】
前記電気信号は、前記電力機器の動作に応じて生じる電磁波を表す信号である請求項1~3のいずれか一項に記載の部分放電検出方法。
【請求項8】
前記電気信号は、前記電力機器の動作に応じて生じる音波を表す信号である請求項1~3のいずれか一項に記載の部分放電検出方法。
【請求項9】
電力機器に取り付けられたセンサによって計測された電気信号を取得する取得手段と、
前記取得された電気信号を解析することによって、当該電気信号の特徴を表す特徴量を取得する解析手段と、
前記取得された特徴量を画像に変換する変換手段と、
予め学習処理が実行されることによって構築されている統計モデルに対して前記特徴量から変換された画像を入力することによって当該統計モデルから出力される部分放電の発生に関する部分放電情報に基づいて、前記電力機器における部分放電の発生を検出する検出手段と
を具備する部分検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、部分放電検出方法及び部分放電検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力設備は、社会インフラを支える設備であり、例えばインバータ装置及びスイッチギヤ等の電力機器を備える。
【0003】
電力機器は例えば表面に絶縁部を有し、当該絶縁部(の絶縁性)は経年劣化する。絶縁部の劣化は、絶縁破壊(電力機器の故障)の要因となる。
【0004】
ところで、絶縁部が劣化すると当該劣化に応じて電力機器から部分放電が発生することが知られており、当該部分放電の発生を絶縁破壊の予兆として検出することは、電力機器の絶縁診断(絶縁部の劣化診断)に有用である。
【0005】
しかしながら、一般的な絶縁診断技術は正弦波交流電圧を出力するような機器を対象としている場合が多く、このような機器に該当しない例えばインバータ装置(インバータ盤)の場合には部分放電の発生を適切に検出することができない可能性がある。
【0006】
すなわち、インバータ装置のような電力機器からの部分放電の発生を高い精度で検出することが可能な絶縁診断技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、電力機器からの部分放電の発生の検出精度を向上させることが可能な部分放電検出方法及び部分放電検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る部分放電検出装置が実行する部分放電検出方法は、電力機器に取り付けられたセンサによって計測された電気信号を取得するステップと、前記取得された電気信号を解析することによって、当該電気信号の特徴を表す特徴量を取得するステップと、前記取得された特徴量を画像に変換するステップと、予め学習処理が実行されることによって生成されている統計モデルに対して前記特徴量から変換された画像を入力することによって当該統計モデルから出力される部分放電の発生に関する部分放電情報に基づいて、前記電力機器からの部分放電の発生を検出するステップとを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る部分放電検出装置の機能構成の一例を示すブロック図。
【
図2】畳み込みニューラルネットワークのネットワーク構成を概略的に示す図。
【
図3】部分放電検出装置のハードウェア構成の一例を示す図。
【
図4】部分放電検出処理の処理手順の一例を示すフローチャート。
【
図8】部分放電検出処理の第1具体例について説明するための図。
【
図9】部分放電検出処理の第1具体例について説明するための図。
【
図10】部分放電検出処理の第1具体例について説明するための図。
【
図11】部分放電検出処理の第2具体例について説明するための図。
【
図12】部分放電検出処理の第2具体例について説明するための図。
【
図13】部分放電検出処理の第2具体例について説明するための図。
【
図14】本実施形態の比較例について説明するための図。
【
図15】学習処理部の処理手順の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る部分放電検出装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図1に示す部分放電検出装置10は、例えば電力機器20が有する絶縁部の劣化に応じた当該電力機器20からの部分放電の発生を検出する機能を有する。
【0012】
ここで、本実施形態における電力機器20には、例えば後段に配置されるモータ等に供給される電圧を制御するように構成されたインバータ盤(インバータ装置)が含まれる。以下においては電力機器20がインバータ盤である場合を想定して説明するが、当該電力機器20は、例えば遮断器、断路器、整流器または変圧器等によって構成される機器(スイッチギヤ等の受配電機器)であってもよい。また、電力機器20は、電力用変圧器、ガス絶縁開閉器、発電機またはリアクトル等のように絶縁部の劣化に応じて部分放電を発生する可能性がある機器であればよい。
【0013】
なお、電力機器20(例えば、インバータ盤)は表面が絶縁部で覆われた構造を有し、当該電力機器20にはセンサ21が取り付けられている。
【0014】
図1に示すように、部分放電検出装置10は、電気信号取得部11、パルス信号抽出部12、解析部13、変換部14、部分放電検出部15及び学習処理部16を含む。なお、部分放電検出装置10は、電力機器20に取り付けられているセンサ21と接続されているものとする。
【0015】
ここで、センサ21は、当該センサ21が取り付けられている電力機器20の動作に応じて生じる電気信号を計測するように構成されている。電気信号取得部11は、このようなセンサ21によって計測された電気信号を取得する。電気信号取得部11によって取得される電気信号は、複数のパルス信号を含む。なお、電力機器20が部分放電を発生している場合、複数のパルス信号には、当該部分放電に基づいて生じるパルス信号(以下、部分放電信号と表記)及び当該部分放電信号とは異なるノイズに起因するパルス信号(以下、ノイズ信号と表記)が含まれる。一方、電力機器20が部分放電を発生していない場合、複数のパルス信号には、ノイズ信号のみが含まれる。
【0016】
パルス信号抽出部12は、電気信号取得部11によって取得された電気信号からパルス信号を抽出する。
【0017】
解析部13は、パルス信号抽出部12によって抽出されたパルス信号を解析することによって、当該パルス信号の特徴を表す特徴量を取得する(すなわち、当該パルス信号から当該特徴量を抽出する)。
【0018】
変換部14は、解析部13によって取得された特徴量を画像化することにより、当該特徴量を画像に変換する。
【0019】
ここで、本実施形態において部分放電検出部15(部分放電検出装置10)の内部には予め生成されている統計モデルが保持されており、当該部分放電検出部15は、変換部14によって特徴量から変換された画像を当該統計モデルに適用することにより、部分放電の発生を検出する。
【0020】
なお、本実施形態における統計モデルは、機械学習または人工知能(AI:Artificial Intelligence)と称される技術に基づいて生成される例えばニューラルネットワークである。
【0021】
具体的には、本実施形態においては上記したように画像を用いて部分放電の発生を検出する構成を採用するため、本実施形態における統計モデルは、一般に画像認識に適していると考えられている畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)であるものとする。
【0022】
ここで、
図2は、畳み込みニューラルネットワークのネットワーク構成を概略的に示す。
図2に示すように、畳み込みニューラルネットワークは、畳み込みフィルタ層及びプーリング層の積み重ねにより入力層に与えられた画像から特徴量を取り出し、当該特徴量に基づく分類を全結合層及び出力層において行うネットワーク構成を有する。
【0023】
本実施形態においてセンサ21によって計測される電気信号(電気信号取得部11によって取得される電気信号)には部分放電信号に相当するパルス信号の他にノイズ信号に相当するパルス信号が含まれており、本実施形態における畳み込みニューラルネットワークは、例えば変換部14によって特徴量から変換された画像を入力することによって部分放電の発生に関する情報(以下、部分放電情報と表記)を出力するように構築されているものとする。
【0024】
なお、このように畳み込みニューラルネットワークから出力される部分放電情報は、例えば出力層においてソフトマックス関数を用いて計算される確率(画像に変換された特徴量を有するパルス信号が部分放電信号である確率及び当該パルス信号がノイズ信号である確率)を含む。
【0025】
本実施形態においては、上記したように統計モデルから出力される部分放電情報に基づいて部分放電の発生が検出される。
【0026】
なお、ここでは畳み込みニューラルネットワークについて説明したが、統計モデルは、例えば全結合ニューラルネットワーク及び再帰型ニューラルネットワーク等であっても構わない。更に、統計モデルは、ランダムフォレストであってもよいし、他の機械学習アルゴリズムによって生成されたものであってもよい。
【0027】
また、
図1においては省略されているが、部分放電検出装置10は、統計モデルを格納する格納部を有していてもよい。
【0028】
学習処理部16は、本実施形態において部分放電の発生の検出に用いられる統計モデルを生成するための学習処理を実行するための機能部である。
【0029】
図3は、
図1に示す部分放電検出装置10のハードウェア構成の一例を示す。部分放電検出装置10は、CPU101、不揮発性メモリ102、RAM103及び通信デバイス104等を備える。また、部分放電検出装置10は、CPU101、不揮発性メモリ102、RAM103及び通信デバイス104を相互に接続するバス105を有する。
【0030】
CPU101は、部分放電検出装置10内の各コンポーネントの動作を制御するためのプロセッサである。CPU101は、単一のプロセッサであってもよいし、複数のプロセッサで構成されていてもよい。CPU101は、不揮発性メモリ102からRAM103にロードされる様々なプログラムを実行する。本実施形態においてCPU101によって実行されるプログラムには、部分放電検出プログラム103aが含まれる。
【0031】
なお、上記した
図1に示す電気信号取得部11、パルス信号抽出部12、解析部13、変換部14、部分放電検出部15及び学習処理部16の一部または全ては、例えばCPU101(つまり、部分放電検出装置10のコンピュータ)が部分放電検出プログラム103aを実行すること、すなわち、ソフトウェアによって実現されるものとする。この部分放電検出プログラム103aは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納して頒布されてもよいし、ネットワークを通じて部分放電検出装置10にダウンロードされてもよい。
【0032】
ここでは各部11~16の一部または全てがソフトウェアによって実現されるものとして説明したが、当該各部11~16の一部または全ては、IC(Integrated Circuit)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェア及びハードウェアの組み合わせ構成によって実現されてもよい。
【0033】
不揮発性メモリ102は、補助記憶装置として用いられる記憶媒体である。RAM103は、主記憶装置として用いられる記憶媒体である。
図3においては、不揮発性メモリ102及びRAM103のみが示されているが、部分放電検出装置10は、例えばHDD(Hard Disk Drive)及びSSD(Solid State Drive)等の他の記憶装置を備えていてもよい。
【0034】
通信デバイス104は、外部機器との有線通信または無線通信を実行するように構成されたデバイスである。なお、本実施形態における外部機器には例えば電力機器20に取り付けられているセンサ21が含まれるが、部分放電検出装置10は、通信デバイス104を介して、サーバ装置等の外部装置と通信可能に構成されていてもよい。
【0035】
図3においては省略されているが、部分放電検出装置10は、例えばマウスまたはキーボードのような入力装置及びディスプレイのような表示装置を更に備えていてもよい。
【0036】
次に、
図4のフローチャートを参照して、電力機器20からの部分放電の発生を検出する処理(以下、部分放電検出処理と表記)の処理手順の一例について説明する。
【0037】
なお、部分放電検出処理は、例えば電力機器20(または部分放電検出装置10)の管理者等によって指示されたタイミングで実行されてもよいし、予め定められたタイミング(時刻)等に自動的に実行されてもよい。
【0038】
部分放電検出処理が実行される場合、センサ21は、電力機器20の動作に応じて生じる電気信号を計測する。なお、例えばセンサ21が過渡接地電位センサ(TEVセンサ)である場合、当該センサ21は、例えば電力機器20(インバータ盤)の盤面に取り付けられており、当該電力機器20の盤面の電位を表す電気信号を計測する。センサ21によって計測された電気信号は、例えばケーブルを介して、当該センサ21から部分放電検出装置10に出力(送信)される。
【0039】
電気信号取得部11は、上記したようにセンサ21から部分放電検出装置10に出力された電気信号を取得する(ステップS1)。なお、ステップS1において取得される電気信号には、複数のパルス信号が含まれている。
【0040】
次に、パルス信号抽出部12は、ステップS1において取得された電気信号から1つのパルス信号を抽出する(ステップS2)。
【0041】
この場合、パルス信号抽出部12は、例えばステップS1において取得された電気信号(生波形)に対して所定のローパスフィルタを適用し、当該ローパスフィルタを通過した信号値(例えば、電圧値)の平均値を閾値とする。パルス信号抽出部12は、このような閾値を超える信号値のうちの最大値をパルス信号のピーク値として検出し、当該検出されたピーク値を含む所定の時間範囲の信号をパルス信号として抽出することができる。
【0042】
具体的には、例えばステップS1において
図5に示す電気信号(測定波形)が取得された場合、13ms近傍の電圧値がピーク値として検出され、当該ピーク値を含むパルス信号が抽出される。なお、
図6は、
図5に示す電気信号から抽出されたパルス信号を拡大して示す図である。
【0043】
なお、ここで説明したパルス信号を抽出する処理は一例であり、ステップS2においては、他の処理が実行されることによってパルス信号が抽出されてもよい。
【0044】
以下、ステップS2において電気信号から抽出されたパルス信号を、便宜的に、対象パルス信号と称する。
【0045】
ステップS2の処理が実行されると、解析部13は、対象パルス信号を解析し、当該対象パルス信号の特徴を表す特徴量を取得する。この場合、解析部13は、例えば対象パルス信号に対してウェーブレット変換を適用する(ステップS3)。ウェーブレット変換は、時間軸に沿った波形の周波数特性を得ることが可能な周波数解析手法の1つである。すなわち、ステップS3の処理が実行されることによって、解析部13は、経過時間に応じた対象パルス信号(波形)の周波数特性を特徴量として取得することができる。なお、以下の説明においては、ステップS3の処理が実行されることによって取得された特徴量(を示す情報)を、便宜的に、ウェーブレット変換情報と称する。
【0046】
次に、変換部14は、ウェーブレット変換情報を画像化する(ステップS4)。変換部14は、ステップS4の処理を実行することにより、ウェーブレット変換情報から変換された2次元画像(以下、ウェーブレット変換画像と表記)を取得する。上記したようにウェーブレット変換によれば経過時間に応じた対象パルス信号の周波数特性(を示すウェーブレット変換情報)を取得することができるところ、ステップS4の処理が実行された場合には、例えば
図7に示すようなウェーブレット変換画像を取得することができる。
図7に示すウェーブレット変換画像は、例えば対象パルス信号における経過時間及び周波数(成分)に対応する信号強度を色彩によって表すグラフ形式のウェーブレット変換情報を画像化した結果に相当する。なお、
図7においては、経過時間が1.5μs~2.5μsである場合における概ね3MHzの周波数成分の信号強度が高いことが表されている。
【0047】
ここで、上記した対象パルス信号は、部分放電に基づいて生じた部分放電信号である場合もあるし、当該部分放電信号とは異なるノイズ信号である場合もある。この場合、電力機器20からの部分放電の発生を検出するためには、対象パルス信号が部分放電信号であるかノイズ信号であるかを区別する必要がある。このため、本実施形態において、部分放電検出部15は、予め用意されている(予め学習処理が実行されることによって生成されている)統計モデルを用いて、ステップS4の処理が実行されることによって取得されたウェーブレット変換画像を識別する(ステップS5)。
【0048】
なお、本実施形態における統計モデルが畳み込みニューラルネットワークである場合、当該統計モデルは、ウェーブレット変換画像が入力されることによって、当該ウェーブレット変換画像に変換されたウェーブレット変換情報(つまり、対象パルス信号の特徴を表す特徴量)が部分放電信号に相当するかノイズ信号に相当するかを示す情報(つまり、部分放電の発生に関する部分放電情報)を出力するように構築されている。
【0049】
換言すれば、部分放電検出部15は、ステップS5の処理が実行されることによって、統計モデル(畳み込みニューラルネットワーク)から出力される部分放電情報を取得することができる。
【0050】
ステップS5の処理が実行されると、部分放電検出部15は、当該ステップS5の処理が実行されることによって取得された部分放電情報に基づいて部分放電の発生を検出し、当該検出結果を出力する(ステップS6)。なお、ステップS6において出力された検出結果は、例えば部分放電検出装置10の外部装置(例えば、サーバ装置等)に送信されてもよいし、当該部分放電検出装置10が備える表示装置(ディスプレイ)に表示されてもよい。また、ステップS6において出力された検出結果は、例えば部分放電検出装置10の内部に保持(蓄積)されてもよい。
【0051】
上記した部分放電検出処理によれば、電力機器20の動作に応じて生じる電気信号に含まれる1つのパルス信号に着目し、当該パルス信号に対してウェーブレット変換及び畳み込みニューラルネットワークを組み合わせた手法を適用することにより、部分放電の発生を検出することができる。
【0052】
ここで、
図4に示す部分放電検出処理の具体例について説明する。まず、
図8~
図10を参照して、第1具体例について説明する。なお、第1具体例においては、
図4に示すステップS2において検出されたパルス信号(以下、第1対象パルス信号と表記)が部分放電信号である(つまり、電力機器20から部分放電が発生している)場合を想定している。
【0053】
この場合、例えば
図8に示す第1対象パルス信号(部分放電信号)が検出され、当該第1対象パルス信号に対してウェーブレット変換が適用される。また、このように第1対象パルス信号に対してウェーブレット変換が適用されることによって取得されたウェーブレット変換情報が画像化された場合には、
図9に示すウェーブレット変換画像(以下、第1ウェーブレット変換画像と表記)が取得され、当該第1ウェーブレット変換画像が統計モデル(畳み込みニューラルネットワーク)に入力される。
【0054】
図10は、第1ウェーブレット変換画像が統計モデルに入力されることによって当該統計モデルから出力される部分放電情報の一例を示す。
図10に示すように、部分放電情報は、第1対象パルス信号が部分放電信号である確率及び当該第1対象パルス信号がノイズ信号である確率を含む。ここでは第1対象パルス信号が部分放電信号であるため、
図10においては、第1対象パルス信号が部分放電信号である確率が100%、第1対象パルス信号がノイズ信号である確率が0%である部分放電情報が棒グラフの形式で示されている。
【0055】
次に、
図11~
図13を参照して第2具体例について説明する。なお、第2具体例においては、
図4に示すステップS2において検出されたパルス信号(以下、第2対象パルス信号と表記)がノイズ信号である(つまり、電力機器20から部分放電が発生していない)場合を想定している。
【0056】
この場合、例えば
図11に示す第2対象パルス信号(ノイズ信号)が検出され、当該第2対象パルス信号に対してウェーブレット変換が適用される。また、このように第2対象パルス信号に対してウェーブレット変換が適用されることによって取得されたウェーブレット変換情報が画像化された場合には、
図12に示すウェーブレット変換画像(以下、第2ウェーブレット変換画像と表記)が取得され、当該第2ウェーブレット変換画像が統計モデル(畳み込みニューラルネットワーク)に入力される。
【0057】
図13は、第2ウェーブレット変換画像が統計モデルに入力されることによって当該統計モデルから出力される部分放電情報の一例を示す。上記したように部分放電情報は第2対象パルス信号が部分放電信号である確率及び当該パルス信号がノイズ信号である確率を含むが、ここでは第2対象パルス信号がノイズ信号であるため、
図13においては、第2対象パルス信号が部分放電信号である確率が0%、第2対象パルス信号がノイズ信号である確率が100%である部分放電情報が棒グラフの形式で示されている。
【0058】
本実施形態においては、上記した部分放電情報に基づいて部分放電の発生が検出される。具体的には、
図10に示す部分放電情報が取得された場合、部分放電検出部15は、当該部分放電情報に基づいて第1対象パルス信号が部分放電信号であると判定し、部分放電の発生を検出する。一方、
図13に示す部分放電情報が取得された場合、部分放電検出部15は、当該部分放電情報に基づいて第2対象パルス信号がノイズ信号であると判定し、部分放電の発生を検出しない。
【0059】
なお、
図10及び
図13に示す例では対象パルス信号が部分放電信号である確率(以下、第1確率と表記)及び対象パルス信号がノイズ信号である確率(以下、第2確率と表記)の一方が100%となる場合について説明したが、統計モデルは、第1及び第2確率の合計が100%となる部分放電情報を出力するように構築されているものとする。
【0060】
この場合、統計モデルの精度及び当該統計モデルに入力されるウェーブレット変換画像によっては、例えば第1確率が60%であり、第2確率が40%であるような部分放電情報が当該統計モデルから出力される可能性がある。このような部分放電情報であっても、部分放電検出部15は、第2確率よりも第1確率の方が高いため、部分放電の発生を検出することができる。ただし、この場合には確実に部分放電が発生しているということはできないため、部分放電検出部15は、統計モデルから出力された部分放電情報(つまり、第1確率が60%であり、第2確率が40%であることを示す情報)を検出結果として出力するようにしてもよい。
【0061】
なお、ここでは統計モデルが第1及び第2確率を含む部分放電情報を出力するように構築されているものとして説明したが、当該統計モデルは、部分放電が発生していることまたは部分放電が発生していないこと(つまり、部分放電の発生の有無の判定結果)を示す部分放電情報を出力するように構築されていてもよい。
【0062】
上記したように本実施形態においては、電力機器20に取り付けられたセンサ21によって計測された電気信号を取得し、当該取得された電気信号(パルス信号)を解析することによって、当該電気信号の特徴を表す特徴量(当該パルス信号の波形の特徴量)を取得し、当該取得された特徴量を画像に変換し、予め学習処理が実行されることによって生成されている統計モデルに対して当該特徴量から変換された画像を入力することによって当該統計モデルから出力される部分放電の発生に関する部分放電情報に基づいて、電力機器20からの部分放電の発生を検出する。なお、本実施形態における特徴量には、電気信号に対してウェーブレット変換を適用することによって取得される経過時間に応じた当該電気信号に含まれるパルス信号の周波数特性が含まれる。
【0063】
本実施形態においては、このように電気信号を解析する(電気信号に対してウェーブレット変換を適用する)ことによって取得される特徴量(解析結果)を画像として取り扱い、当該画像を統計モデルに入力して部分放電情報を得る構成により、部分放電の発生の検出精度を向上させることが可能である。
【0064】
具体的には、例えば電力機器20から部分放電が発生している場合には電気信号から
図8に示すパルス信号が抽出され、電力機器20から部分放電が発生していない場合には電気信号から
図11に示すパルス信号が抽出されるが、当該
図8に示すパルス信号(波形)と当該
図11に示すパルス信号(波形)とを比較したとしても、両者の明確な差異を把握することは容易ではなく、適切に部分放電の発生を判断することは困難である。
【0065】
これに対して、本実施形態においては、ウェーブレット変換と統計モデル(畳み込みニューラルネットワーク)とを組み合わせた手法を採用することにより、電気信号(から抽出されたパルス信号)が部分放電信号であるかノイズ信号であるかを区別し、部分放電の発生を高い精度で検出することを実現する。
【0066】
なお、本実施形態においてはウェーブレット変換として連続ウェーブレット変換を適用することを想定しているが、例えば離散ウェーブレット変換が適用されても構わない。更に、本実施形態においては電気信号(から抽出されたパルス信号)の特徴を表す特徴量を取得することができるのであれば、ウェーブレット変換以外の解析手法が適用されても構わない。
【0067】
また、本実施形態においては、統計モデルが畳み込みニューラルネットワークであるものとして主に説明したが、畳み込みニューラルネットワーク以外の統計モデルを利用してもよい。
【0068】
ここで、本実施形態の比較例として、電気信号において所定の閾値を超える複数のパルス信号から作成されるφqnパターンに基づいて部分放電の発生を検出する構成について簡単に説明する。
【0069】
図14はφqnパターンの一例を示しており、
図14の横軸は電源電圧の位相φを表しており、縦軸は電荷量qを表している。なお、電荷量qは、例えば電力機器20の盤面の電位を規格化することによって得られる値に相当する。また、φqnパターンにおいて電源電圧の位相φ及び電荷量qの組み合わせに対応する位置に表記されている数値は、当該電源電圧の位相φ及び電荷量qが共通するパルス信号の数に相当する頻度nを表している。
【0070】
このようなφqnパターンは、電気信号に含まれる複数のパルス信号の各々に基づいて電源電圧の位相φ、電荷量q及び頻度nをマッピングすることによって作成される。
【0071】
本実施形態の比較例においては、部分放電信号(を含む電気信号)から作成されるφqnパターン(以下、部分放電パターンと表記)とノイズ信号(を含む電気信号)から作成されるφqnパターン(以下、ノイズパターンと表記)とが異なる点に着目し、電力機器20の盤面の電位を表す電気信号(に含まれる複数のパルス信号)から作成されたφqnパターン(以下、対象φqnパターンと表記)が当該部分放電パターンに相当するかノイズパターンに相当するかを区別することによって部分放電の発生を検出することができる。換言すれば、本実施形態の比較例によれば、対象φqnパターンが部分放電パターンと類似していれば部分放電の発生が検出され、当該対象φqnパターンがノイズパターンと類似していれば部分放電の発生は検出されない。
【0072】
ところで、本実施形態における電力機器20がインバータ盤である場合、当該インバータ盤は、コンバータ回路、コンデンサ及びインバータ回路等を含み、正弦波交流電圧(電源電圧)を入力し、電圧及び周波数が制御された交流電圧を出力するように動作する。
【0073】
しかしながら、インバータ盤から出力される交流電圧は、パルス幅変調が適用された複数のパルス信号によって表現されるものであり、電源電圧の位相に依存していない。
【0074】
このため、上記したφqnパターンに基づいて部分放電の発生を検出する本実施形態の比較例は、電源電圧の位相の情報(位相情報)がないインバータ盤のような機器に対して適用することが困難である。
【0075】
これに対して、本実施形態においては、上記した本実施形態の比較例のように複数周期のパルス信号(部分放電信号またはノイズ信号)に着目するのではなく、1つのパルス信号に着目し、当該パルス信号に対してウェーブレット変換を適用することによって取得される特徴量(ウェーブレット変換情報)を用いる構成であるため、上記したインバータ盤のような位相情報がない機器であっても容易に適用することが可能となる。
【0076】
なお、上記したように本実施形態は位相情報がないインバータ盤のような電力機器20に適用することが有用であるが、インバータ盤以外の電力機器20(例えば、スイッチギヤ等)に適用することも可能である。
【0077】
ここで、本実施形態においては上記したように統計モデルを用いて部分放電の発生を検出することができるが、当該統計モデルは、部分放電検出装置10に含まれる学習処理部16が学習処理を実行することによって生成される。
【0078】
以下、
図15のフローチャートを参照して、統計モデルを生成する処理(以下、モデル生成処理と表記)の処理手順の一例について説明する。なお、モデル生成処理は、例えば電力機器20(または部分放電検出装置10)の管理者等によって指示されたタイミングで実行されればよいが、他のタイミングで実行されてもよい。
【0079】
まず、学習処理部16は、部分放電信号(部分放電に基づいて生じるパルス信号)を学習データとして取得する(ステップS11)。なお、学習データとして用いられる部分放電信号は、例えば実験室等において電力機器20を模擬するサンプル(単体)から意図的に部分放電を発生させることによって取得することができるものとする。また、部分放電検出装置10の外部装置において部分放電信号が予め用意されている場合には、学習処理部16は、当該部分放電信号を当該外部装置から取得してもよい。
【0080】
ステップS11の処理が実行されると、学習処理部16は、当該ステップS11において取得された学習データ(部分放電信号)に対してウェーブレット変換を適用する(ステップS12)。なお、ステップS12の処理は上記した
図4に示すステップS3の処理と同様であるため、ここではその詳しい説明を省略するが、当該ステップS12の処理が実行された場合には、ウェーブレット変換情報が取得される。
【0081】
次に、学習処理部16は、上記したウェーブレット変換情報を画像化する(ステップS13)。なお、ステップS13の処理は上記した
図4に示すステップS4の処理と同様であるため、ここではその詳しい説明を省略するが、当該ステップS13の処理が実行された場合には、ウェーブレット変換画像が取得される。
【0082】
学習処理部16は、上記したウェーブレット変換画像を用いて、統計モデルの学習処理を実行する(ステップS14)。
【0083】
なお、上記したように本実施形態における統計モデル(畳み込みニューラルネットワーク)はウェーブレット変換画像が入力されることによって部分放電情報を出力するように構築される必要があるところ、当該部分放電情報は、上記した
図10及び
図13において説明したように例えば部分放電信号である確率及びノイズ信号である確率を含むものとする。この場合、ステップS11においては部分放電信号が学習データとして取得されているため、ステップS14においては、ステップS13の処理が実行されることによって取得されたウェーブレット変換画像が入力された場合に部分放電信号である確率が高い部分放電情報が出力されるように、統計モデルのパラメータ(例えば、重み係数等)を更新する処理が実行される。
【0084】
ここでは1つの学習データ(部分放電信号)に対する学習処理について説明したが、このような学習処理は、多数の学習データに対して実行されることが好ましい。すなわち、本実施形態においては、多数の学習データを用いてモデル生成処理が繰り返し実行されることによって、高い精度の統計モデルを生成することができる。
【0085】
更に、ここでは学習データが部分放電信号である場合について説明したが、ステップS11において取得される学習データはノイズ信号であってもよい。この場合にはステップS11において取得されたノイズ信号(学習データ)に対してステップS12~S14の処理が実行されるが、当該ステップS14においては、ステップS13の処理が実行されることによって取得されたウェーブレット変換画像が入力された場合にノイズ信号である確率が高い部分放電情報が出力されるように、統計モデルのパラメータを更新する処理が実行される。
【0086】
このように部分放電信号(部分放電のパルス波形)とは別に、ノイズ信号(ノイズのパルス波形)を同様に学習させることにより、部分放電とノイズとを識別(区別)するように構築された統計モデル(システム)を生成することができる。
【0087】
更に、上記した学習データ(部分放電信号及びノイズ信号)は様々な状況で計測された信号であることが好ましい。このような様々な状況で計測された十分な量の学習データを事前に統計モデルに学習させておくことにより、電気信号(パルス信号)の計測環境の変化や電力機器20の運転状態の変化に柔軟に対応することができると考えられる。具体的には、電気信号(の波形)はセンサ21の取り付け位置や当該センサ21と部分放電検出装置10とを接続するケーブルの長さ等の計測環境によって異なることが考えられるが、様々なセンサ21の取り付け位置やケーブルに応じた学習データを用意して学習処理を実行しておくことにより、センサ21の取り付け位置やケーブルが変化した場合であっても統計モデルを用いて適切に部分放電の発生を検出することが可能となる。また、電力機器20(例えば、インバータ盤)は複数の動作モードで動作する場合があり、電気信号(の波形)は当該動作モードによって異なることが考えられるが、複数の動作モードの各々に応じた学習データを用意して学習処理を実行しておくことにより、当該動作モードが変化した場合であっても統計モデルを用いて適切に部分放電の発生を検出することが可能となる。
【0088】
なお、本実施形態においては部分放電検出装置10(学習処理部16)が統計モデルの学習処理を実行するものとして説明したが、本実施形態に係る部分放電検出装置10は少なくとも部分放電の発生を検出する機能を有していればよく、当該学習処理は部分放電検出装置10とは異なるサーバ装置のような外部装置において実行されてもよい。この場合、部分放電検出装置10は、学習処理部16が省略される構成であっても構わない。
【0089】
また、本実施形態においてはセンサ21がTEVセンサであり、当該センサ21によって電力機器20(インバータ盤)の盤面の電位を表す電気信号が計測されるものとして説明したが、当該電気信号は、電力機器20の動作に応じて生じる物理量を表す信号であればよい。具体的には、電気信号は電力機器20に接続される接地線を流れる電流を表す信号であってもよく、この場合にはセンサ21としてカレントトランスフォーマー等を使用することができる。更に、電気信号は電力機器20の動作に応じて生じる電磁波を表す信号であってもよく、この場合にはセンサ21としてTEVセンサ等を使用することができる。また、電気信号は電力機器20の動作に応じて生じる音波を表す信号であってもよく、この場合にはセンサ21としてAE(Acoustic Emission)センサ等を使用することができる。
【0090】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0091】
10…部分放電検出装置、11…電気信号取得部、12…パルス信号抽出部、13…解析部、14…変換部、15…部分放電検出部、16…学習処理部、20…電力機器、21…センサ、101…CPU、102…不揮発性メモリ、103…RAM、103a…部分放電検出プログラム、104…通信デバイス。