(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180399
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】熱中症の判定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/33 20210101AFI20231214BHJP
A61B 5/352 20210101ALI20231214BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20231214BHJP
A61B 5/22 20060101ALI20231214BHJP
A61B 5/01 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
A61B5/33 200
A61B5/352 100
A61B5/00 102A
A61B5/22 100
A61B5/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093685
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(71)【出願人】
【識別番号】520320446
【氏名又は名称】中部電力パワーグリッド株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】池浦 良淳
(72)【発明者】
【氏名】早川 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】大深 元輝
(72)【発明者】
【氏名】杉本 敏文
(72)【発明者】
【氏名】八尾 健一朗
【テーマコード(参考)】
4C117
4C127
【Fターム(参考)】
4C117XB02
4C117XC15
4C117XC19
4C117XD22
4C117XE17
4C117XE23
4C117XE56
4C117XH14
4C117XH15
4C117XJ13
4C127AA02
4C127BB03
4C127GG05
4C127GG16
(57)【要約】
【課題】警告が過多になることなく熱中症の予兆があるときには適切に警告を行うことができる熱中症の判定方法を提供する。
【解決手段】この判定方法では、対象者の心電図波形及び深部体温を用いて対象者に熱中症の予兆があるか否かを判定する。詳しくは、心電図波形におけるR波間隔の時系列データから高周波成分を抽出する。そして、上記高周波成分の振幅の移動平均を時系列のグラフとしたときの同グラフにおける上記移動平均のピークPを検出する。上記移動平均のピークPを検出した後、そのピークP前後の定められた期間中(予兆判定期間t1)における対象者の深部体温の上昇量ΔBTが閾値以上であることに基づき、熱中症の予兆があると判定する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の心電図波形及び深部体温を用いて対象者に熱中症の予兆があるか否かを判定する熱中症の判定方法において、
前記心電図波形におけるR波間隔の時系列データから高周波成分を抽出し、
前記高周波成分の振幅の移動平均を時系列のグラフとしたときの同グラフにおける前記移動平均のピークを検出し、
前記移動平均のピークを検出した後、そのピーク前後の定められた期間中における深部体温の上昇量が閾値以上であることに基づき、熱中症の予兆があると判定する熱中症の判定方法。
【請求項2】
前記高周波成分の振幅の移動平均のピークの検出は、前記移動平均が直前の値に対し規定量以上大きくなり、且つ、その規定量以上に大きくなっている時間がピーク判定時間以上継続されたことに基づいて行われる請求項1に記載の熱中症の判定方法。
【請求項3】
前記ピーク前後の定められた期間とは、前記ピークが検出されてから定められた時間が経過するまでの予兆判定期間であり、
前記移動平均のピークを検出した後、前記予兆判定期間中における深部体温の上昇量が閾値以上であることに基づき、熱中症の予兆があると判定する請求項1又は2に記載の熱中症の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱中症の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、対象者の心電図波形及び深部体温を取得し、それらを用いて対象者における熱中症の危険度を判定している。詳しくは、心電図波形を解析して得られる心拍数の時系列データから心拍数の積算値を求め、その積算値と深部体温の上昇量とに基づき、ユーザーにおける熱中症の危険度を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、熱中症の上記危険度に応じて警告を行うようにすると、その警告が過多になって煩わしく感じるおそれがある。また、警告の過多を抑制するため、熱中症の上記危険度が高いときのみ警告を行うようにすると、熱中症の予兆があっても警告を行うことができないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決する熱中症の判定方法の各態様を記載する。
(態様1)
対象者の心電図波形及び深部体温を用いて対象者に熱中症の予兆があるか否かを判定する熱中症の判定方法において、前記心電図波形におけるR波間隔の時系列データから高周波成分を抽出し、前記高周波成分の振幅の移動平均を時系列のグラフとしたときの同グラフにおける前記移動平均のピークを検出し、前記移動平均のピークを検出した後、そのピーク前後の定められた期間中における深部体温の上昇量が閾値以上であることに基づき、熱中症の予兆があると判定する熱中症の判定方法。
【0006】
上記方法によれば、対象者に熱中症の予兆があるか否かの判定に心電図波形及び深部体温が用いられる。心電図波形におけるR波間隔は、対象者の心拍間隔に対応している。このR波間隔の時系列データの高周波成分は、副交感神経の活動を反映する値である。このため、上記高周波成分の振幅の移動平均を時系列のグラフとしたときの同グラフにおける上記移動平均にピークが発生することは、対象者に熱中症の予兆が生じている可能性があることを意味する。更に、上記ピーク前後における対象者の深部体温の上昇量が大きいときには、対象者に熱中症の予兆が生じている可能性が高くなる。こうしたことから、上記移動平均のピークを検出した後、そのピーク前後の定められた期間中における深部体温の上昇量が閾値以上であることに基づき、対象者に熱中症の予兆があると判定する。そして、このように判定されたことに基づき熱中症の警告を行うことにより、その警告が過多になることなく熱中症の予兆があるときには適切に警告を行うことができる。
【0007】
(態様2)
前記高周波成分の振幅の移動平均のピークの検出は、前記移動平均が直前の値に対し規定量以上大きくなり、且つ、その規定量以上に大きくなっている時間がピーク判定時間以上継続されたことに基づいて行われる(態様1)に記載の熱中症の判定方法。
【0008】
上記方法によれば、上記高周波成分の振幅の移動平均のピークを的確に検出することができる。
(態様3)
前記ピーク前後の定められた期間とは、前記ピークが検出されてから定められた時間が経過するまでの予兆判定期間であり、前記移動平均のピークを検出した後、前記予兆判定期間中における深部体温の上昇量が閾値以上であることに基づき、熱中症の予兆があると判定する(態様1)又は(態様2)に記載の熱中症の判定方法。
【0009】
上記高周波成分の振幅の移動平均のピークが生じた後の上記予兆判定期間中に、対象者の深部体温が上昇する場合、対象者が熱中症になる可能性が高い。上記方法によれば、移動平均のピークを検出した後、予兆判定期間中における深部体温の上昇量が閾値以上であることに基づき、対象者に熱中症の予兆があると判定される。このため、対象者に熱中症の予兆があるとの判定を的確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】熱中症の予兆があるか否かを判定する手順を示すフローチャートである。
【
図2】熱中症の予兆があるか否かを判定する対象者の心電図波形を示すグラフである。
【
図3】(a)は
図2の心電図波形におけるR波間隔の時系列データを示すグラフであり、(b)は上記R波間隔の時系列データから抽出した高周波成分の時系列データを示すグラフである。
【
図4】(a)は上記対象者の心拍数の時系列データを示すグラフであり、(b)は上記対象者の深部体温の時系列データを示すグラフであり、(c)は
図3(b)に示す高周波成分の振幅における移動平均の時系列データを示すグラフである。
【
図5】(a)は上記対象者の深部体温を示す時系列データのグラフであり、(b)は
図3(b)に示す高周波成分の振幅における移動平均の時系列データを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、熱中症の判定方法の一実施形態について、
図1~
図5を参照して説明する。
図1は、この実施形態における熱中症の判定方法により、対象者に熱中症の予兆があるか否かを判定する手順を示している。対象者に熱中症の予兆があるか否かを判定する際には、
図1におけるステップ101~104が順に行われる。以下、ステップ101~104について個別に詳しく述べる。
【0012】
<ステップ101>
このステップでは、対象者の心電図波形及び深部体温を取得する。取得した心電図波形は、例えば
図2に示すようなものとなる。心電図波形の取得には、対象者の心臓の筋肉に流れる電流を検出する心電計が用いられる。また、深部体温の取得には、対象者の深部体温を検出する温度センサが用いられる。心電計及び温度センサは、コンピュータに対する有線または無線による通信が可能となっている。上記コンピュータとしては、据え置き型のものや携帯型のものを採用することが考えられる。
【0013】
<ステップ102>
このステップでは、取得した上記心電図波形におけるR波間隔の時系列データから高周波成分を抽出する。上記R波間隔の時系列データは、例えば
図3(a)に示すようなものとなる。上記R波間隔の時系列データからの高周波成分の抽出は、例えば上記R波間隔の時系列データにおける0.15~0.4Hzの周波数帯のパワースペクトルによって実現されるものであり、上記コンピュータによって行うことが可能である。そして、抽出した上記高周波成分は、例えば
図3(b)に示すようなものとなる。
【0014】
<ステップ103>
このステップでは、抽出した上記高周波成分の振幅の移動平均を時系列のグラフとしたときの同グラフにおける上記移動平均のピークを検出する。上記高周波成分の振幅の移動平均とは、例えば1分間という所定期間中における上記高周波成分の振幅の平均値のことである。上記高周波成分の振幅の移動平均を時系列のグラフとすると、例えば
図4(c)に示すようなものとなる。なお、
図4(a)は対象者の心拍数を時系列のグラフとしたものであり、
図4(b)は対象者の深部体温を時系列のグラフとしたものである。対象者の心拍数は、心電計を用いて把握することができる。
【0015】
図4(c)に示されるグラフのピークP、すなわち上記高周波成分の振幅における移動平均のピークPは、次のようにして検出される。上記移動平均が直前の値に対し規定量以上、例えば直前の値の3倍以上に大きくなり、且つ、その規定量以上に大きくなっている時間がピーク判定時間以上継続されたことに基づき、上記移動平均のピークPが検出される。上記ピーク判定時間としては、例えば30~60秒に設定することが考えられる。上記移動平均のピークPの検出は、上記コンピュータによって行うことが可能である。
【0016】
<ステップ104>
このステップでは、上記移動平均のピークPを検出した後、そのピークP前後の定められた期間中における対象者の深部体温の上昇量が閾値以上であることに基づき、熱中症の予兆があると判定する。こうした熱中症の予兆があるか否かの判定は、上記コンピュータによって行うことが可能である。
【0017】
上記ピークP前後の定められた期間としては、上記ピークPが検出されてから定められた時間、例えば30分という時間が経過するまでの期間(以下、予兆判定期間t1という)とすることが考えられる。そして、上記移動平均のピークPを検出した後、予兆判定期間t1中における深部体温の上昇量が閾値以上であることに基づき、熱中症の予兆があると判定する。なお、上記閾値としては、例えば0.5℃という値を採用することが考えられる。
【0018】
図5(a)は対象者の深部体温を示す時系列のグラフであり、
図5(b)は上記高周波成分の振幅の移動平均を示す時系列のグラフである。
図5の例では、上記高周波成分の振幅の移動平均における二つ目のピークPが検出された後の予兆判定期間t1中に、対象者の深部体温が上昇している。そして、予兆判定期間t1中におけるタイミングT1で対象者の深部体温の上昇量ΔBTが閾値以上になったとすると、そのタイミングT1で対象者に熱中症の予兆があると判定される。このように判定されたことに基づき、熱中症の警告が行われる。
【0019】
次に、本実施形態における熱中症の判定方法の作用効果について説明する。
(1)対象者に熱中症の予兆があるか否かの判定に心電図波形及び深部体温が用いられる。心電図波形におけるR波間隔は、対象者の心拍間隔に対応している。このR波間隔の時系列データの高周波成分は、副交感神経の活動を反映する値である。このため、上記高周波成分の振幅の移動平均を時系列のグラフとしたときの同グラフにおける上記移動平均にピークPが発生することは、対象者に熱中症の予兆が生じている可能性があることを意味する。更に、上記ピークP前後における対象者の深部体温の上昇量ΔBTが大きいときには、対象者に熱中症の予兆が生じている可能性が高くなる。こうしたことから、上記移動平均のピークPを検出した後、そのピークP前後の定められた期間中における深部体温の上昇量ΔBTが閾値以上であることに基づき、対象者に熱中症の予兆があると判定する。そして、このように判定されたことに基づき熱中症の警告を行うことにより、その警告が過多になることなく、熱中症の予兆があるときには適切に警告を行うことができる。
【0020】
(2)上記高周波成分の振幅の移動平均のピークPの検出は、上記移動平均が直前の値に対し規定量以上大きくなり、且つ、その規定量以上に大きくなっている時間がピーク判定時間以上継続されたことに基づいて行われる。これにより、上記高周波成分の振幅の移動平均のピークPを的確に検出することができる。
【0021】
(3)ピークP前後における上記定められた期間は、ピークPが検出されてから定められた時間が経過するまでの期間である予兆判定期間t1とされる。この予兆判定期間t1中に、対象者の深部体温が上昇する場合、対象者が熱中症になる可能性が高い。そして、上記ピークPを検出した後の予兆判定期間t1中における深部体温の上昇量ΔBTが閾値以上であることに基づき、対象者に熱中症の予兆があると判定される。このため、対象者に熱中症の予兆があるとの判定を的確に行うことができる。
【0022】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・
図4から分かるように、R波間隔の時系列データから抽出された高周波成分の振幅における移動平均のピークPが検出された後には、対象者の心拍数が上昇しやすいという傾向が見られる。こうしたことを考慮して、次のように対象者に熱中症の予兆があると判定するようにしてもよい。すなわち、予兆判定期間t1中、深部体温の上昇量ΔBTが閾値以上であり、且つ、心拍数が所定値(例えば20bpm)以上であることに基づき、対象者に熱中症の予兆があると判定するようにしてもよい。
【0023】
・深部体温の上昇量ΔBTが閾値以上であるか否かを判定する期間として、上記予兆判定期間t1を例示したが、これに変えて上記ピークP前後の定められた期間であって上記予兆判定期間t1とは別の期間に上記判定を行うようにしてもよい。この場合、上記別の期間中であって深部体温の上昇量ΔBTが閾値以上であるとき、対象者に熱中症の予兆があると判定される。
【0024】
・上記移動平均のピークPの検出は、必ずしも上記移動平均が直前の値に対し規定量以上大きくなり、且つ、その規定量以上に大きくなっている時間がピーク判定時間以上継続されたことに基づいて行われる必要はなく、その他の検出手法を用いることも可能である。例えば、上記移動平均が直前の値に対し規定量以上大きくなった時点で、上記移動平均のピークPの検出がなされるようにしてもよい。