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2023-1804自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測方法及び予測システム、塗装条件の予測方法及び予測システム、自動車ボディ及び/又は自動車部品の複層塗膜形成方法
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  • -自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測方法及び予測システム、塗装条件の予測方法及び予測システム、自動車ボディ及び/又は自動車部品の複層塗膜形成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001804
(43)【公開日】2023-01-06
(54)【発明の名称】自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測方法及び予測システム、塗装条件の予測方法及び予測システム、自動車ボディ及び/又は自動車部品の複層塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/00 20060101AFI20221226BHJP
   B05B 12/00 20180101ALI20221226BHJP
【FI】
B05D3/00 D
B05B12/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021102754
(22)【出願日】2021-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000230054
【氏名又は名称】日本ペイントホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】坂本 和哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕之
(72)【発明者】
【氏名】神野 陽平
【テーマコード(参考)】
4D075
4F035
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AA76
4D075AA81
4D075AA83
4D075AA85
4D075AA86
4D075AE03
4D075BB56Y
4D075BB89X
4D075BB91Y
4D075BB93Y
4D075BB95Y
4D075CA47
4D075CA48
4D075DC11
4D075DC12
4D075DC13
4D075EA41
4D075EA43
4F035AA03
4F035BA00
4F035BA01
4F035BA22
4F035BB13
4F035BB15
4F035BB16
4F035BB22
4F035BB23
4F035BB32
4F035BB35
(57)【要約】
【課題】本発明は、自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の評価結果を迅速に予測することができる、自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測方法及び予測システム、最適な塗装条件を迅速に得ることのできる、塗装条件の予測方法及び予測システム、並びに、所望の塗膜品質を有する塗膜を形成可能な、を提供することを目的とする。
【解決手段】コンピュータによる機械学習によって、塗装工程における塗装条件のデータを入力とし、前記塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の前記塗膜の塗膜品質を出力とする、所定の人工知能モデルを作成する。前記コンピュータにより、前記人工知能モデルにおいて、前記塗装工程における前記塗装条件を入力することによって、前記塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を算出して予測する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車ボディ及び/又は自動車部品へ塗装することにより得られる塗膜の塗膜品質の予測方法であって、
コンピュータによる機械学習によって、塗装工程における塗装条件のデータを入力とし、前記塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の前記塗膜の塗膜品質を出力とする、所定の人工知能モデルを作成する、人工知能モデル作成工程と、
前記コンピュータにより、前記人工知能モデルにおいて、前記塗装工程における前記塗装条件を入力することによって、前記塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を算出して予測する、塗膜品質予測工程と、を含むことを特徴とする、自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測方法。
【請求項2】
塗装工程を経て、自動車ボディ及び/又は自動車部品を塗装する場合に、目標を達成するために最適な前記塗装工程の塗装条件を予測する方法であって、
コンピュータによる機械学習によって、前記塗装工程における塗装条件のデータを入力とし、前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を出力とする、所定の人工知能モデルを作成する、人工知能モデル作成工程と、
前記コンピュータにより、前記人工知能モデルにおいて、前記塗装工程における前記塗装条件を入力することによって、前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を算出して予測する、塗膜品質予測工程と、を含み、
前記塗膜品質予測工程では、複数の前記塗装工程における前記塗装条件を入力し、各々の前記塗装条件に対応する複数の前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を予測し、
予測した前記複数の前記塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質に基づいて、最適な前記塗装条件を、前記目標を達成するために最適な前記塗装条件として決定する、塗装条件予測工程をさらに含むことを特徴とする、塗装条件の予測方法。
【請求項3】
前記塗装工程における前記塗装条件と、前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質との関係を示す関係データをコンピュータに入力する、関係データ入力工程をさらに含み、
前記人工知能モデル作成工程は、前記コンピュータにより、前記関係データ入力工程において入力された前記関係データを教師データとして機械学習することにより行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記塗膜品質は、前記塗膜の色彩、光沢、膜厚、鮮鋭性、及び平滑性のいずれか1つ以上を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記鮮鋭性及び/又は平滑性は、ウェーブスキャン値を指標として用い、
前記ウェーブスキャン値は、du、Wa、Wb、Wc、Wd、We、Lw、及びSwのいずれか1つ以上である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記機械学習は、複数の決定木から構成されるアンサンブルツリーによる予測アルゴリズムを用いている、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記機械学習は、ディープラーニング、部分最小二乗回帰、ランダムフォレスト、又は勾配ブースティング法を用いている、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記関係データ入力工程後に、前記関係データに対してデータクレンジングを行う工程をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記塗装条件予測工程において、予測した前記複数の前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の中から前記目標となる塗膜品質との差が最も小さくなる前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質に対応する前記塗装条件を、前記目標を達成するために最適な前記塗装条件として決定する、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記塗装条件予測工程において、ベイズ最適化を用いる、請求項2又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記塗装条件は、前記塗装工程を行う塗装ブースの温度、前記塗装ブースの乾湿計の乾球温度、前記乾湿計の湿球温度、前記塗装ブースの相対湿度、前記塗装ブースの絶対湿度、塗料粘度、塗料温度、塗料種、塗料固形分量、前記塗装工程での塗料の吐出量、塗装機の線速、及び前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の被塗物温度のいずれか1つ以上を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記塗装工程は、チッピングプライマー塗装工程、中塗り塗装工程、ベース塗装工程、及びクリア塗装工程のいずれか1つ以上を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項2に記載の方法により予測した前記塗装条件に調整する、塗装条件調整工程と、
前記塗装条件調整工程において調整した前記塗装条件で塗装を行う、調整後塗装工程と、を含む、自動車ボディ及び/又は自動車部品の複層塗膜形成方法。
【請求項14】
前記調整後塗装工程後に、前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を測定する、測定工程と、
前記塗装条件調整工程において調整された前記塗装条件と前記測定工程において測定された前記塗膜品質との関係を示す関係データを、前記コンピュータに入力して、前記関係データをアップデートする、関係データアップデート工程をさらに含む、請求項13に記載の自動車ボディ及び/又は自動車部品の複層塗膜形成方法。
【請求項15】
塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測システムであって、
機械学習する機能を有し、前記塗装工程における塗装条件のデータを入力とし、前記塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を出力とする、所定の人工知能モデルを作成する、人工知能モデル作成部と、
前記人工知能モデルにおいて、前記塗装工程における前記塗装条件を入力することによって、前記塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を算出して予測する、塗膜品質予測部と、を備えたコンピュータを備えていることを特徴とする、自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測システム。
【請求項16】
塗装工程を経て、自動車ボディ及び/又は自動車部品を塗装する場合に、目標を達成するために最適な前記塗装工程の塗装条件を予測するシステムであって、
機械学習する機能を有し、前記塗装工程における塗装条件のデータを入力とし、前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を出力とする、所定の人工知能モデルを作成する、人工知能モデル作成部と、
前記人工知能モデルにおいて、前記塗装工程における前記塗装条件を入力することによって、前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を算出して予測する、塗膜品質予測部と、を備え、
前記塗膜品質予測部は、複数の前記塗装工程における前記塗装条件を入力し、各々の前記塗装条件に対応する複数の前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を予測し、
予測した前記複数の前記塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質に基づいて、最適な前記塗装条件を、前記目標を達成するために最適な前記塗装条件として決定する、塗装条件予測部をさらに備えることを特徴とする、塗装条件の予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測方法及び予測システム、塗装条件の予測方法及び予測システム、自動車ボディ及び/又は自動車部品の複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車ボディや自動車部品に塗装を行う様々な手法が提案されている(例えば、特許文献1)。塗装工程は、例えば、チッピングプライマー塗装工程、中塗り塗装工程、ベース塗装工程、及びクリア塗装工程のいずれか1つ以上を含み、複数の工程からなる場合も多い。
【0003】
このような塗装における、自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の評価は、塗装工程内及び/又は塗装工程後(塗膜の焼付乾燥後)の検査工程で、塗膜の硬化後に塗膜に対して測定器等を用いて、色彩、光沢、膜厚、鮮鋭性、及び平滑性等の品質を評価していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-041376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような品質の評価を行う生産方法では、塗料を塗布するための塗装工程を経てから、さらに塗布されたウェット塗膜に対して測定器等を用いることができるように硬化させる必要があり、塗膜品質の評価結果を得るのに時間がかかってしまい、且つ品質不良が判明した場合は、補修や再塗装、廃棄などにより生産性が低下してしまう問題があった。また、塗装前に塗装条件の調整が必要である場合も、それを瞬時に判断したり、判断結果を塗装条件に反映して塗装をしたりすることができず、生産性の低下が生じる場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の評価結果を迅速に予測することができる、自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測方法及び予測システム、最適な塗装条件を迅速に得ることのできる、塗装条件の予測方法及び予測システム、並びに、所望の塗膜品質を有する塗膜を形成可能な、自動車ボディ及び/又は自動車部品の複層塗膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
(1)自動車ボディ及び/又は自動車部品へ塗装することにより得られる塗膜の塗膜品質の予測方法であって、
コンピュータによる機械学習によって、塗装工程における塗装条件のデータを入力とし、前記塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の前記塗膜の塗膜品質を出力とする、所定の人工知能モデルを作成する、人工知能モデル作成工程と、
前記コンピュータにより、前記人工知能モデルにおいて、前記塗装工程における前記塗装条件を入力することによって、前記塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を算出して予測する、塗膜品質予測工程と、を含むことを特徴とする、自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測方法。
【0008】
(2)塗装工程を経て、自動車ボディ及び/又は自動車部品を塗装する場合に、目標を達成するために最適な前記塗装工程の塗装条件を予測する方法であって、
コンピュータによる機械学習によって、前記塗装工程における塗装条件のデータを入力とし、前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を出力とする、所定の人工知能モデルを作成する、人工知能モデル作成工程と、
前記コンピュータにより、前記人工知能モデルにおいて、前記塗装工程における前記塗装条件を入力することによって、前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を算出して予測する、塗膜品質予測工程と、を含み、
前記塗膜品質予測工程では、複数の前記塗装工程における前記塗装条件を入力し、各々の前記塗装条件に対応する複数の前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を予測し、
予測した前記複数の前記塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質に基づいて、最適な前記塗装条件を、前記目標を達成するために最適な前記塗装条件として決定する、塗装条件予測工程をさらに含むことを特徴とする、塗装条件の予測方法。
【0009】
(3)前記塗装工程における前記塗装条件と、前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質との関係を示す関係データをコンピュータに入力する、関係データ入力工程をさらに含み、
前記人工知能モデル作成工程は、前記コンピュータにより、前記関係データ入力工程において入力された前記関係データを教師データとして機械学習することにより行われる、上記(1)又は(2)に記載の方法。
【0010】
(4)前記塗膜品質は、前記塗膜の色彩、光沢、膜厚、鮮鋭性、及び平滑性のいずれか1つ以上を含む、上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の方法。
【0011】
(5)前記鮮鋭性及び/又は平滑性は、ウェーブスキャン値を指標として用い、
前記ウェーブスキャン値は、du、Wa、Wb、Wc、Wd、We、Lw、及びSwのいずれか1つ以上である、上記(4)に記載の方法。
【0012】
(6)前記機械学習は、複数の決定木から構成されるアンサンブルツリーによる予測アルゴリズムを用いている、上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の方法。
【0013】
(7)前記機械学習は、ディープラーニング、部分最小二乗回帰、ランダムフォレスト、又は勾配ブースティング法を用いている、上記(1)~(6)のいずれか1つに記載の方法。
【0014】
(8)前記関係データ入力工程後に、前記関係データに対してデータクレンジングを行う工程をさらに含む、上記(3)に記載の方法。
【0015】
(9)前記塗装条件予測工程において、予測した前記複数の前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の中から前記目標となる塗膜品質との差が最も小さくなる前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質に対応する前記塗装条件を、前記目標を達成するために最適な前記塗装条件として決定する、上記(2)に記載の方法。
【0016】
(10)前記塗装条件予測工程において、ベイズ最適化を用いる、上記(2)又は(9)に記載の方法。
【0017】
(11)前記塗装条件は、前記塗装工程を行う塗装ブースの温度、前記塗装ブースの乾湿計の乾球温度、前記乾湿計の湿球温度、前記塗装ブースの相対湿度、前記塗装ブースの絶対湿度、塗料粘度、塗料温度、塗料種、塗料固形分量、前記塗装工程での塗料の吐出量、塗装機の線速、及び前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の被塗物温度のいずれか1つ以上を含む、上記(1)~(10)のいずれか1つに記載の方法。
【0018】
(12)前記塗装工程は、チッピングプライマー塗装工程、中塗り塗装工程、ベース塗装工程、及びクリア塗装工程のいずれか1つ以上を含む、上記(1)~(11)のいずれか1つに記載の方法。
【0019】
(13)上記(2)に記載の方法により予測した前記塗装条件に調整する、塗装条件調整工程と、
前記塗装条件調整工程において調整した前記塗装条件で塗装を行う、調整後塗装工程と、を含む、自動車ボディ及び/又は自動車部品の複層塗膜形成方法。
【0020】
(14)前記調整後塗装工程後に、前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を測定する、測定工程と、
前記塗装条件調整工程において調整された前記塗装条件と前記測定工程において測定された前記塗膜品質との関係を示す関係データを、前記コンピュータに入力して、前記関係データをアップデートする、関係データアップデート工程をさらに含む、上記(13)に記載の自動車ボディ及び/又は自動車部品の複層塗膜形成方法。
【0021】
(15)塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測システムであって、
機械学習する機能を有し、前記塗装工程における塗装条件のデータを入力とし、前記塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を出力とする、所定の人工知能モデルを作成する、人工知能モデル作成部と、
前記人工知能モデルにおいて、前記塗装工程における前記塗装条件を入力することによって、前記塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を算出して予測する、塗膜品質予測部と、を備えたコンピュータを備えていることを特徴とする、自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測システム。
【0022】
(16)塗装工程を経て、自動車ボディ及び/又は自動車部品を塗装する場合に、目標を達成するために最適な前記塗装工程の塗装条件を予測するシステムであって、
機械学習する機能を有し、前記塗装工程における塗装条件のデータを入力とし、前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を出力とする、所定の人工知能モデルを作成する、人工知能モデル作成部と、
前記人工知能モデルにおいて、前記塗装工程における前記塗装条件を入力することによって、前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を算出して予測する、塗膜品質予測部と、を備え、
前記塗膜品質予測部は、複数の前記塗装工程における前記塗装条件を入力し、各々の前記塗装条件に対応する複数の前記塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を予測し、
予測した前記複数の前記塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質に基づいて、最適な前記塗装条件を、前記目標を達成するために最適な前記塗装条件として決定する、塗装条件予測部をさらに備えることを特徴とする、塗装条件の予測システム。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の評価結果を迅速に予測することができる、自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測方法及び予測システム、最適な塗装条件を迅速に得ることのできる、塗装条件の予測方法及び予測システム、並びに、所望の塗膜品質を有する塗膜を形成可能な、自動車ボディ及び/又は自動車部品の複層塗膜形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態にかかる自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測方法のフローチャートである。
図2】本実施形態の方法が対象とする塗装工程の一例の概略図である。
図3】本発明の一実施形態にかかる塗装工程の塗装条件の予測方法のフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態にかかる自動車ボディ及び/又は自動車部品の複層塗膜形成方法のフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態にかかる自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測システムのブロック図である。
図6】本発明の一実施形態にかかる塗装条件の予測システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に例示説明する。
【0026】
<自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測方法>
図1は、本発明の一実施形態にかかる自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測方法のフローチャートである。ここで、本明細書において、「自動車ボディ」は、自動車の車体であって、「自動車部品」には含まれない。また、「自動車部品」は、例えば自動車のバンパー等である。以下、図1を参照して、自動車ボディ及び/又は自動車部品へ塗装することにより得られる塗膜の塗膜品質を予測する方法の一実施形態を例示説明する。なお、本実施形態の方法は、一例としては、後述の本発明の一実施形態にかかる自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測システムを用いて実行することができる。ここで、予測する塗膜品質は、塗膜の色彩、光沢、膜厚、鮮鋭性、及び平滑性のいずれか1つ以上を含むことが好ましい。色彩は、例えばL色空間におけるL値、a値、b値(JIS Z8781-4(2013年))を用いることができる。色彩は、既知の色彩測定方法を用いて測定することができ、一例として、コニカミノルタ株式会社から市販のCM-512m3を用いて、塗膜に垂直にある受光部を0°とした場合に、25°、45°、75°となる角度から光源を照射して測定されるL値、a値、b値を測定することができる。あるいは、X-Rite MA68II(エックスライト社製)を用いて測定することができる。測定角度は、目的又は使用する機器に応じて適宜調整することができる。他の色空間等の指標としては、例えば、L色空間(JIS Z8781-4(2013年))、ハンターLab(J“Photoelectric Color-Difference Meter”. Journal of the Optical Society of America 38 (7): 661 (Proceedings of the Winter Meeting of the Optical Society of America))、XYZ表色系(CIE 1931 XYZ色空間)、その他任意の指標を用いることができる。さらに例えば、反射スペクトルデータであり、380nm~780nmの5nm毎の反射スペクトル強度を色彩とした指標等、任意の指標を用いることもできる。光沢は、特には限定されないが、光沢値を指標として用いることができる。光沢値は、既知の光沢測定方法を用いて測定することができ、一例として、試験片の光沢度を、鏡面光沢度計(BYK-Gardner社製、商品名 マイクロトリグロス)を用い、JIS K-5600-4-7に準拠して測定した値を光沢値とすることができる。測定角度は20°、45°、60°、75°、85°など目的や使用する機器に応じて適宜調整することができる。膜厚は、既知の膜厚測定方法を用いて測定することができ、一例として、電磁式膜厚計(株式会社ケツト科学研究所製、商品名 LE-200J)を用いて測定することができる。サンプルの膜厚に応じて、電磁式、渦電流式、渦電流位相式、磁気式、又は電気抵抗式膜厚計を、測定精度などに応じて適切に選択して使用し、膜厚を測定することができる。上記鮮鋭性及び/又は平滑性は、ウェーブスキャン値を指標として用いることが好ましい。ウェーブスキャン値は、du(波長0.1mm以下)、Wa(波長0.1~0.3mm)、Wb(波長0.3~1.0mm)、Wc(波長1.0~3.0mm)、Wd(波長3.0~10.0mm)、We(波長10.0~30.0mm)、Lw(波長1.2~12mm)、及びSw(波長0.3~1.2mm)のいずれか1つ以上であることが好ましい。なお、ウェーブスキャン値は、値が小さいほど表面における当該波長の凹凸が少なく、塗膜の外観品質が良いことを意味する。ウェーブスキャン値は、例えば、ウェーブスキャン(BYK-Gardner 社製「Wave - Scan Dual」)によって測定することができる。
【0027】
塗装に用いる塗料は、その塗装に通常用いられるものを用意することができるが、例えば塗料を調製して用意する場合には、例えば、顔料、樹脂、及び溶剤をSGミル等で分散させて、多数の種類の顔料等を調製して用意した原色塗料に、樹脂、溶剤、及び添加剤を加えて、これらを分散させ、その後調整を繰り返すことにより用意することができる。後述するように、塗装工程は、チッピングプライマー塗装工程、中塗り塗装工程、ベース塗装工程、及びクリア塗装工程のいずれか1つ以上を含むが、各種工程において必要な塗料(例えば、チッピングプライマー塗料、中塗り塗料、ベース塗料、及びクリア塗料)を用いることができ、その硬化系や水系、溶剤系は、特に限定されない。
【0028】
図1に示すように、本実施形態では、まず、塗装工程における塗装条件と、塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質との関係を示す関係データを準備し、コンピュータに入力する(ステップS101:関係データ入力工程)。
【0029】
塗装工程は、チッピングプライマー塗装工程、中塗り塗装工程、ベース塗装工程、及びクリア塗装工程のいずれか1つ以上を含む。図2は、本実施形態の方法が対象とする塗装工程の一例の概略図である。図2に示すように、本例では、電着塗装工程と、上塗り塗装工程とを含み、該上塗り塗装工程は、順に、中塗り塗装工程、ベース塗装工程、及びクリア塗装工程を含む。これらは同一の塗装ブース内で行うこともでき、あるいは、別ブースで行っても良い。図2の工程は、一例に過ぎず、他にも例えば、(順に)チッピングプライマー工程、中塗り塗装工程、ベース塗装工程、及びクリア塗装工程からなる4wet塗装や、(順に)ベース塗装工程、クリア塗装工程のみの2wet塗装や、(順に)第1のベース塗装工程、第2のベース塗装工程、及びクリア塗装工程からなる3wet塗装等も例示することができ、他にも様々なバリエーションがあり得る。また、各塗装工程の前には、プレヒート工程が行われる場合がある。
【0030】
塗装条件は、(上記塗装工程のバリエーションに応じて、)塗装工程を行う塗装ブースの温度、塗装ブースの乾湿計の乾球温度、乾湿計の湿球温度、塗装ブースの相対湿度、塗装ブースの絶対湿度、塗料粘度、塗料温度、塗料種、塗料固形分量、塗装工程での塗料の吐出量、塗装機の線速、及び自動車ボディ及び/又は自動車部品の被塗物温度のいずれか1つ以上を含むことが好ましい。
なお、塗装条件には、(塗装工程が複数の工程を有する場合の)前工程まで(のいずれかの工程)で得られた塗膜の性状を含むことが好ましい。具体的には、電着塗装を前工程までに含む場合は、電着塗装塗膜の表面粗度であり、また、焼付タイプの中塗り塗装を前工程までに含む場合は、焼付中塗り塗膜表面のウェーブスキャン値及び/又は表面粗度である。これにより、予測の精度を向上させ得る。ただし、前工程までで得られた塗膜の性状は、上記に例示した他の塗装条件とは異なり、その後の調整の対象とはならない。ここで、表面粗度は、任意の既知の測定方法により測定することができ、一例として、表面粗さ測定器(株式会社ミツトヨ製、商品名 サーフテストSJ-210)を用いて測定することができる。測定器は、接触型、非接触型など、測定場所や試料の状態に応じて適切に選択することができる。
【0031】
なお、上記関係データは、より正確な予測を可能にするために、常に又は適時に又は定期的にアップデートされることが好ましい。
また、関係データ入力工程(ステップS101)後に、関係データに対してデータクレンジングを行う工程をさらに含むことが好ましい。ここでは、準備した上記関係データに対して例えば、データの正規化/標準化や新たなデータの生成といった加工処理や、不適切なデータを取り除くデータフィルタリング処理などの処理を行う。例えば、塗膜品質の実測値と予測値との差異について、標準偏差をσとしたときの平均値±2σを超えたデータに対して精査をし、入力ミスや記載ミスなどが疑われるデータを削除することができる。このようなデータクレンジングや正規化により、後述の機械学習における過学習を防止して、より精度の高い塗料性状の予測を可能にする。ただし、本開示において、データクレンジングを行うことは必須ではなく、この工程を省略することもできる。データクレンジングは、複数ないし全てのアルゴリズムに共通に適用できるものとすることができ(例えばいずれの機械学習アルゴリズムでも不適切と判断されると考えられる異常値のようなデータを取り除く)、あるいは、実際に用いる機械学習アルゴリズムにもっぱら適用できるものとすることもできる(例えば特定のアルゴリズムにおいてエラーを生じさせやすいデータを取り除く)。後述の人工知能モデル作成工程は、このデータクレンジング後のデータを再学習させて作成することもできる。
【0032】
次いで、図1に示すように、コンピュータによる機械学習によって、塗装工程における塗装条件のデータを入力とし、塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を出力とする、所定の人工知能モデルを作成する(ステップS102:人工知能モデル作成工程)。本例では、この人工知能モデル作成工程は、コンピュータにより、関係データ入力工程(ステップS101)において入力された関係データを教師データとして機械学習することにより行われる。関係データは、塗装条件に関しては、測定値や設定値を用いることができ、塗膜品質に関しては、当該塗装条件で塗装を行った後の塗膜の塗膜本質の測定値を用いることができ、これらを対応付けたデータとすることができる。
【0033】
機械学習は、ランダムフォレスト、勾配ブースティング法、ディープラーニング、又は部分最小二乗回帰などを用いたものとすることができる。機械学習は、ランダムフォレスト又は勾配ブースティング法など複数の決定木から構成されるアンサンブルツリーによる予測アルゴリズムを用いたものであることがより好ましい。
【0034】
次いで、本実施形態では、コンピュータにより、上記の人工知能モデルにおいて、塗装工程における塗装条件を入力することによって、塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を算出して予測する(ステップS103:塗膜品質予測工程)。
【0035】
塗膜品質予測工程(ステップS103)において、入力する塗装条件は、過去のデータを参照する等して、予め範囲を絞っておくことが好ましい。
【0036】
このようにして、上記の人工知能モデルにおいて、塗装工程における塗装条件を入力することによって、コンピュータにより、塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を算出することができる。なお、算出される塗膜品質の予測値は、単一の値でも良く、あるいは、複数の候補群からなっていても良い。算出される塗膜品質の予測値が複数の候補群からなる場合には、所定の基準を用いて適宜その中から単一の値を選択する工程をさらに含むことが好ましい。上記所定の基準は、様々なものとすることができ、例えば色彩の場合、E値(ΔE=(ΔL+Δa+Δb0.5)が最小となるように選択することができる。
【0037】
本実施形態の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測方法によれば、塗装工程の塗装条件から塗膜を予測することができるため、塗装工程(全工程)の終了や塗料の焼付乾燥を待つ必要がなく、既に得られている塗装条件の設定値(例えば、吐出量等)や、迅速に測定が可能な塗装条件(例えば各種温度や湿度等)が得られ次第、コンピュータにより塗膜の塗膜品質が予測されるため、塗膜の塗膜品質の評価結果を迅速に予測することができる。これにより、例えば当該予測値が品質基準範囲外であった場合には、塗装条件を速やかに調整することができる。
また、本実施形態では、上塗り塗装工程が、順に、中塗り塗装工程、ベース塗装工程、及びクリア塗装工程を含む場合を示したが、このような手法は、機械学習のための教師データとなる関係データを準備することができれば、様々な塗装工程のバリエーションに対応することができる。
特に近年は、二酸化炭素排出量を低減する観点から、中塗り塗装後に一旦焼付工程と検査工程を経る生産工法ではなく、中塗り塗装から上塗り塗装までを焼付工程を経ずに連続して実施することが多い。このような場合には、中塗り塗装工程後の塗膜の品質確認が上塗り塗装工程の一連の工程すべてが終了するまで品質を確認することができないという問題が生じていたが、本実施形態の手法によれば、上塗り塗装工程の終了やその後の塗料の焼付乾燥を待つ必要なく、迅速に塗膜品質の予測値を得ることができる。
【0038】
<塗装工程の塗装条件の予測方法>
図3は、本発明の一実施形態にかかる塗装工程の塗装条件の予測方法のフローチャートである。以下、図3を参照して、塗装工程を経て、自動車ボディ及び/又は自動車部品を塗装する場合に、目標を達成するために最適な塗装工程の塗装条件を予測する方法の一実施形態を例示説明する。なお、本実施形態の塗装工程の塗装条件の予測方法は、一例としては、後述の本発明の一実施形態にかかる塗装条件の塗装条件の予測システムを用いて実行することができる。ここで、図1の実施形態と同様に、塗膜品質は、塗膜の色彩、光沢、膜厚、鮮鋭性、及び平滑性のいずれか1つ以上を含むことが好ましい。上記鮮鋭性及び/又は平滑性は、ウェーブスキャン値を指標として用いることが好ましい。ウェーブスキャン値は、du(波長0.1mm以下)、Wa(波長0.1~0.3mm)、Wb(波長0.3~1.0mm)、Wc(波長1.0~3.0mm)、Wd(波長3.0~10.0mm)、We(波長10.0~30.0mm)、Lw(波長1.2~12mm)、及びSw(波長0.3~1.2mm)のいずれか1つ以上であることが好ましい。また、塗装工程についても、図1の実施形態と同様に、様々なバリエーション(一例としては図2に示した工程)があり得る。また、塗装条件についても、図1の実施形態と同様に、(上記塗装工程のバリエーションに応じて、)塗装工程を行う塗装ブースの温度、塗装ブースの乾湿計の乾球温度、乾湿計の湿球温度、塗装ブースの相対湿度、塗装ブースの絶対湿度、塗料粘度、塗料温度、塗料種、塗料固形分量、塗装工程での塗料の吐出量、塗装機の線速、及び自動車ボディ及び/又は自動車部品の被塗物温度のいずれか1つ以上を含むことが好ましい。
以上の事項のさらなる詳細については、図1の実施形態と同様であるため、再度の説明を省略する。
【0039】
図3に示すように、本実施形態では、まず、塗装工程における塗装条件と、塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質との関係を示す関係データを準備し、コンピュータに入力する(ステップS201:関係データ入力工程)。次いで、コンピュータによる機械学習によって、塗装工程における塗装条件のデータを入力とし、塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を出力とする、所定の人工知能モデルを作成する(ステップS202:人工知能モデル作成工程)。これらのステップS201~S202については、図1の実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0040】
図3に示すように、本実施形態では、次いで、コンピュータにより、上記の人工知能モデルにおいて、塗装工程における塗装条件を入力することによって、塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を算出して予測する(ステップS203:塗膜品質予測工程)。ここで、図3の実施形態における塗膜品質予測工程(ステップS203)では、予め候補として選定した複数の塗装条件を入力し、各々の塗装条件に対応する複数の塗膜性状を予測する。予め複数の塗装条件を選定するに当たっては、例えば過去のデータ等を参照することができる。
また、予め多数の候補データを作成することに代えて、ベイズ最適化のような逐次探索アルゴリズムを用いて複数の候補データおよび塗膜品質の予測値を得ることもできる。
【0041】
本実施形態では、次いで、予測した複数の塗膜品質に基づいて、最適な塗装条件を、目標を達成するために最適な塗装条件として決定する(ステップS204:塗装条件予測工程)。
具体的には、一例としては、塗装条件予測工程(ステップS204)において、予測した複数の塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の中から目標となる塗膜品質との(例えばE値の)差が最も小さくなる塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質に対応する塗装条件を、目標を達成するために最適な塗装条件として決定する。
【0042】
本実施形態の塗装条件の予測方法によれば、現在の塗装条件から最適な塗装条件を予測することができるため、塗装工程(全工程)の終了や塗料の焼付乾燥を待つ必要がなく、既に得られている塗装条件の設定値(例えば、吐出量等)や、迅速に測定が可能な塗装条件(例えば各種温度や湿度等)が得られ次第、コンピュータにより最適な塗装条件が予測されるため、最適な塗装条件を迅速に得ることができる。そして、現在の塗装条件が当該予測値からずれている場合には、塗装条件を速やかに調整することができる。また、その調整幅も当該予測値に基づいて(現在の値と予測値との差を取るだけで)容易に算出することができる。
図1の実施形態の場合と同様に、図3の実施形態の場合も、機械学習のための教師データとなる関係データを準備することができれば、様々な塗装工程のバリエーションに対応することができる。
【0043】
<自動車ボディ及び/又は自動車部品の複層塗膜形成方法>
図4は、本発明の一実施形態にかかる自動車ボディ及び/又は自動車部品の複層塗膜形成方法のフローチャートである。以下、図4を参照して、自動車ボディ及び/又は自動車部品の複層塗膜形成方法の一実施形態を例示説明する。ここで、図1図3の実施形態と同様に、塗膜品質は、塗膜の色彩、光沢、膜厚、鮮鋭性、及び平滑性のいずれか1つ以上を含むことが好ましい。上記鮮鋭性及び/又は平滑性は、ウェーブスキャン値を指標として用いることが好ましい。ウェーブスキャン値は、du(波長0.1mm以下)、Wa(波長0.1~0.3mm)、Wb(波長0.3~1.0mm)、Wc(波長1.0~3.0mm)、Wd(波長3.0~10.0mm)、We(波長10.0~30.0mm)、Lw(波長1.2~12mm)、及びSw(波長0.3~1.2mm)のいずれか1つ以上であることが好ましい。また、塗装工程についても、図1図3の実施形態と同様に、様々なバリエーション(一例としては図2に示した工程)があり得る。また、塗装条件についても、図1図3の実施形態と同様に、(上記塗装工程のバリエーションに応じて、)塗装工程を行う塗装ブースの温度、塗装ブースの乾湿計の乾球温度、乾湿計の湿球温度、塗装ブースの相対湿度、塗装ブースの絶対湿度、塗料粘度、塗料温度、塗料種、塗料固形分量、塗装工程での塗料の吐出量、塗装機の線速、及び自動車ボディ及び/又は自動車部品の被塗物温度のいずれか1つ以上を含むことが好ましい。
以上の事項のさらなる詳細については、図1図3の実施形態と同様であるため、再度の説明を省略する。
【0044】
図4に示すように、本実施形態では、まず、塗装工程における塗装条件と、塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質との関係を示す関係データを準備し、コンピュータに入力する(ステップS301:関係データ入力工程)。次いで、コンピュータによる機械学習によって、塗装工程における塗装条件のデータを入力とし、塗装工程後の前記自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を出力とする、所定の人工知能モデルを作成する(ステップS302:人工知能モデル作成工程)。次いで、コンピュータにより、上記の人工知能モデルにおいて、塗装工程における塗装条件を入力することによって、塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を算出して予測する(ステップS303:塗膜品質予測工程)。次いで、予測した複数の塗膜品質に基づいて、最適な塗装条件を、目標を達成するために最適な塗装条件として決定する(ステップS304:塗装条件予測工程)。これらのステップS301~S304については、図3の実施形態と同様(ステップS301、S302については、図1の実施形態とも同様)であるため、詳細な説明は省略する。
【0045】
図4に示すように、本実施形態では、次いで、ステップS304において予測した塗装条件に調整する(ステップS305:塗装条件調整工程)。上述したように、塗装条件の調整幅は、予測値と現在の値との差に基づいて決定することができる。次いで、塗装条件調整工程において調整した塗装条件で塗装を行う(ステップS306:調整後塗装工程)。
【0046】
なお、図4には示していないが、調整後塗装工程(ステップS306)後に、自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を測定する、測定工程(ステップS307)と、塗装条件調整工程(ステップS305)において調整された塗装条件と測定工程(ステップS307)において測定された塗膜品質との関係を示す関係データを、コンピュータに入力して、関係データをアップデートする、関係データアップデート工程(ステップS308)をさらに含むことが好ましい。これにより、関係データをアップデートして、次回以降の予測において、より一層正確な塗膜品質や塗装条件の予測が可能となる。
【0047】
本実施形態の自動車ボディ及び/又は自動車部品の複層塗膜形成方法によれば、現在の塗装条件から最適な塗装条件を予測することができるため、塗装工程(全工程)の終了や塗料の焼付乾燥を待つ必要がなく、既に得られている塗装条件の設定値(例えば、吐出量等)や、迅速に測定が可能な塗装条件(例えば各種温度や湿度等)が得られ次第、コンピュータにより最適な塗装条件が予測されるため、最適な塗装条件を迅速に得ることができる。そして、現在の塗装条件が当該予測値からずれている場合に、塗装条件を速やかに調整することができる。また、その調整幅も当該予測値に基づいて(現在の値と予測値との差を取るだけで)容易に算出することができる。そのように調整された塗装条件で塗装を行うことにより、所望の塗膜品質を有する塗膜を形成可能である。
図1図3の実施形態の場合と同様に、図4の実施形態の場合も、機械学習のための教師データとなる関係データを準備することができれば、様々な塗装工程のバリエーションに対応することができる。
【0048】
<自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測システム>
図5は、本発明の一実施形態にかかる自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測システムのブロック図である。本システムは、塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を予測するシステムである。図5に示すように、本実施形態の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質の予測システム10は、コンピュータ11を備えている。コンピュータ11は、機械学習する機能を有する。また、コンピュータ11は、人工知能モデル作成部12及び塗膜品質予測部13を備える。人工知能モデル作成部12は、塗装工程における塗装条件のデータを入力とし、塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を出力とする、所定の人工知能モデルを作成するものである。塗膜品質予測部13は、人工知能モデルにおいて、塗装工程における塗装条件を入力することによって、塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を算出して予測するものである。人工知能モデル作成部12及び塗膜品質予測部13は、プロセッサとすることができる。
【0049】
コンピュータ11には、上述の関係データが入力される。本実施形態では、コンピュータ11は、関係データを記憶するための記憶部14(メモリ)及び関係データを送受信するための通信部15を有する。通信部15は、関係データのみならず、他のデータを送受信することもできる。人工知能モデル作成部12は、入力された関係データを教師データとして機械学習する機能を有することが好ましい。また、コンピュータ11は、関係データに対してデータクレンジングを行う機能部をさらに有することが好ましい。また、本予測システム10は、予測結果を表示する表示部(ディスプレイ)を備えることが好ましい。
塗膜品質、塗装工程、及び塗装条件等についての詳細は、図1に示した方法の実施形態と同様であるので、再度の説明を省略する。
【0050】
本予測システム10によれば、塗装工程の塗装条件から塗膜を予測することができるため、塗装工程(全工程)の終了や塗料の焼付乾燥を待つ必要がなく、既に得られている塗装条件の設定値(例えば、吐出量等)や、迅速に測定が可能な塗装条件(例えば各種温度や湿度等)が得られ次第、コンピュータにより塗膜の塗膜品質が予測されるため、塗膜の塗膜品質の評価結果を迅速に予測することができる。これにより、例えば当該予測値が品質基準範囲外であった場合には、塗装条件を速やかに調整することができる。
また、図1の場合と同様に、機械学習のための教師データとなる関係データを準備することができれば、様々な塗装工程のバリエーションに対応することができる。
【0051】
<塗装条件の予測システム>
図6は、本発明の一実施形態にかかる塗装条件の予測システムのブロック図である。本システムは、塗装工程を経て、自動車ボディ及び/又は自動車部品を塗装する場合に、目標を達成するために最適な塗装工程の塗装条件を予測するシステムである。図6に示すように、本実施形態の塗装条件の予測システム20は、コンピュータ21で構成されている。コンピュータ21は、機械学習する機能を有する。また、コンピュータ21は、人工知能モデル作成部22、塗膜品質予測部23、記憶部24、及び通信部25を有する。これらについては、図5に示した実施形態での人工知能モデル作成部12、塗膜品質予測部13、記憶部14、及び通信部15で説明したのと同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0052】
塗膜品質予測部23は、複数の塗装工程における塗装条件を入力し、各々の塗装条件に対応する複数の塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質を予測するように構成されている。コンピュータ21は、予測した複数の塗装工程後の自動車ボディ及び/又は自動車部品の塗膜の塗膜品質に基づいて、最適な塗装条件を、目標を達成するために最適な塗装条件として決定する、塗装条件予測部26をさらに備える。塗装条件予測部26は、プロセッサとすることができる。なお、塗装条件予測部26は、予測した複数の塗膜品質の中から目標となる塗膜品質との差が最も小さくなる塗膜品質に対応する塗装条件を、目標を達成するために最適な塗装条件として決定することができるように構成されている。また、コンピュータ21は、関係データに対してデータクレンジングを行う機能部をさらに有することが好ましい。また、本予測システム20は、予測結果を表示する表示部(ディスプレイ)を備えることが好ましい。
塗膜品質、塗装工程、及び塗装条件等についての詳細は、図3に示した方法の実施形態と同様であるので、再度の説明を省略する。
【0053】
本実施形態の塗装条件の予測システムによれば、現在の塗装条件から最適な塗装条件を予測することができるため、塗装工程(全工程)の終了や塗料の焼付乾燥を待つ必要がなく、既に得られている塗装条件の設定値(例えば、吐出量等)や、迅速に測定が可能な塗装条件(例えば各種温度や湿度等)が得られ次第、コンピュータにより最適な塗装条件が予測されるため、最適な塗装条件を迅速に得ることができる。そして、現在の塗装条件が当該予測値からずれている場合には、塗装条件を速やかに調整することができる。また、その調整幅も当該予測値に基づいて(現在の値と予測値との差を取るだけで)容易に算出することができる。
図3の実施形態の場合と同様に、図6の実施形態の場合も、機械学習のための教師データとなる関係データを準備することができれば、様々な塗装工程のバリエーションに対応することができる。
【0054】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【実施例0055】
(実施例1)
本発明の効果を確かめるため、自動車ボディへの塗装工程後の塗膜の塗膜品質を予測して、実測値と比較して評価する試験を行ったので、以下に説明する。
塗装工程は、図2に示したように、電着塗装工程後に、上塗り塗装工程を行うものとし、上塗り塗装工程は、順に、中塗り塗装工程、ベース塗装工程、及びクリア塗装工程からなるものとした。
【0056】
図1に示したフローに従って、以下の工程を行った。
まず、塗装工程における塗装条件と、塗装工程後の自動車ボディの塗膜の塗膜品質との関係を示す関係データを準備し、コンピュータに入力した。ここでは、塗装条件は、塗装ブースの乾湿計の乾球温度、上記乾湿計の湿球温度、塗装ブースの相対湿度、塗料粘度、塗料種、中塗り塗装工程での塗料の吐出量、ベース塗装工程での塗料の吐出量、及びベース塗装工程での塗装機の線速とした。また、塗膜品質は、一般的な指標である、ウェーブスキャン値のLw値を指標とした。これらを対応付ける関係データは、過去の作業データからデータを抽出することにより準備した。
そして、コンピュータによる機械学習によって、塗装工程における塗装条件のデータを入力とし、塗装工程後の自動車ボディの塗膜の塗膜品質を出力とする、所定の人工知能モデルを作成した。人工知能モデルのアルゴリズムは、部分最小二乗回帰(PLS)とランダムフォレストとの2通りを作成した。
そして、コンピュータにより、各人工知能モデルにおいて、塗装工程における塗装条件を入力することによって、塗装工程後の自動車ボディの塗膜の塗膜品質を算出して予測し、予測値と実測値との比較を評価した。実測値は、ウェーブスキャン(BYK-Gardner 社製「Wave - Scan Dual」)によって測定した。なお、入力する塗装条件は、過去のデータを参照して、予め範囲を絞った。
未知データに対する予測結果のLwの数値について、実測との平均絶対誤差であるMAE(Mean Absolute Error)を算出し、MAEが1.0以下であれば精度良く予測できているとする判定基準を採用した。実施例1のMAEは、PLSで0.8であり、ランダムフォレストで0.1であったため、いずれの場合も精度良く予測できたことがわかった。特にランダムフォレストを用いた予測では、予測の精度がより高いことがわかる。
なお、Lw値の実測値と予測値との決定係数Rを求めたところ、PLSで0.84であり、ランダムフォレストで0.99であった。
従って、自動車ボディの塗膜の塗膜品質の評価結果を迅速に予測することができたことがわかる。
【0057】
(実施例2)
塗膜品質を、別の一般的な指標である、ウェーブスキャン値のSw値を指標としたことと、人工知能モデルのアルゴリズムにランダムフォレストのみを用いたことを除いては、実施例1と同様の条件で、塗膜品質の予測値と実測値との比較の評価を行った。判定基準についても実施例1と同様とした。
実施例2のMAEは、0.2であったため、精度良く予測できたことがわかった。
なお、Sw値の実測値と予測値との決定係数Rを求めたところ、0.99であった。
従って、自動車ボディの塗膜の塗膜品質の評価結果を迅速に予測することができたことがわかる。
【符号の説明】
【0058】
10:予測システム、
11:コンピュータ、
12:人工知能モデル作成部、
13:塗膜品質予測部、
14:記憶部、
15:通信部、
20:予測システム、
21:コンピュータ、
22:人工知能モデル作成部、
23:塗膜品質予測部、
24:記憶部、
25:通信部、
26:塗装条件予測部
図1
図2
図3
図4
図5
図6