(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180401
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】フェライト組成物、フェライト焼結体および電子部品
(51)【国際特許分類】
C04B 35/30 20060101AFI20231214BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20231214BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20231214BHJP
H01F 1/34 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C04B35/30
C01G49/00 A
C01G49/00 E
C01G53/00 A
H01F1/34 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093689
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】角田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】大島 由也
(72)【発明者】
【氏名】小森田 健二
(72)【発明者】
【氏名】大澤 滋
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】田之上 寛之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 香
(72)【発明者】
【氏名】新堀 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】梅田 秀信
【テーマコード(参考)】
4G002
4G048
5E041
【Fターム(参考)】
4G002AA06
4G002AA10
4G002AE05
4G048AA01
4G048AA03
4G048AB01
4G048AC08
4G048AE05
5E041AB01
5E041BD01
5E041NN02
(57)【要約】
【課題】高周波帯域において好適に用いられることが可能であり、しかも機械的強度にも優れたフェライト焼結体と、その組成物と、その組成物を有する電子部品を提供すること。
【解決手段】主成分と副成分とを有するフェライト組成物である。主成分が、鉄酸化物をFe2 O3 換算で40.5~50.0モル%、銅酸化物をCuO換算で6.0~14.0モル%、亜鉛酸化物をZnO換算で7.0~25.0モル%、残部にニッケル酸化物を含有する。主成分100重量部に対して、副成分が、コバルト酸化物をCo3 O4 換算で3.1~10.0重量部、スズ酸化物をSnO2 換算で0.5~4.0重量部、ビスマス酸化物をBi2 O3 換算で0.50重量部以下(0を含む)で、含有する。主成分中の亜鉛酸化物のZnO換算でのモル%で表される含有量をα、主成分100重量部に対するコバルト酸化物のCo3 O4 換算での重量部含有量をβとし、A=(α―18)/βとする場合に、Aは-3.5以上1.0以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分と副成分とを有するフェライト組成物であって、
前記主成分が、鉄酸化物をFe2 O3 換算で40.5~50.0モル%、銅酸化物をCuO換算で6.0~14.0モル%、亜鉛酸化物をZnO換算で7.0~25.0モル%、残部にニッケル酸化物を含有し、
前記主成分100重量部に対して、前記副成分が、コバルト酸化物をCo3 O4 換算で3.1~10.0重量部、スズ酸化物をSnO2 換算で0.5~4.0重量部、ビスマス酸化物をBi2 O3 換算で0.50重量部以下(0を含む)で、含有し、
前記主成分中の前記亜鉛酸化物のZnO換算でのモル%で表される含有量をα、前記主成分100重量部に対する前記コバルト酸化物のCo3 O4 換算での重量部含有量をβとし、A=(α―18)/βとする場合に、
Aは-3.5以上1.0以下であるフェライト組成物。
【請求項2】
前記主成分100重量部に対する前記スズ酸化物のSnO2 換算での含有量をγとする場合に、β/γが1.6以上である請求項1に記載のフェライト組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフェライト組成物を有するフェライト焼結体。
【請求項4】
請求項1または2に記載のフェライト組成物を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト組成物、フェライト焼結体および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記に示す特許文献1には、Fe2O3、NiO、CuO、ZnO、およびCoOを所定の割合に含むフェライト組成物が開示してあり、高周波数帯域において良好にノイズを除去することができることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、高周波帯域において好適に用いられることが可能であり、しかも機械的強度にも優れたフェライト焼結体と、その組成物と、その組成物を有する電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、高周波帯域において好適な電子部品に用いられるフェライト組成物について鋭意検討した結果、Co酸化物を多く含むフェライト組成物の場合、このフェライト組成物を用いて製造された電子部品において、素体(焼結体)の強度が不十分に成りやすく、クラック等の不具合が起こりやすくなる傾向にあり、電子部品の信頼性が低下してしまうという課題があることを発見した。
【0006】
フェライト組成物が適用される電子部品を得る場合に、フェライト組成物から成る焼結体の強度が不足すると、曲げや引っ張り等の機械的応力に対する耐久性が不足し易く、欠けや割れといった不具合が生ずることがある。したがって、より高い強度を発現しうるフェライト組成物の開発が望まれている。
【0007】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、Co酸化物とSn酸化物が所定の数値範囲内にあるフェライト組成物を有するフェライト焼結体が、高い曲げ強度を有しながら、高周波(たとえば900MHz前後、すなわち700MHz~1.7GHz)において大きい複素透磁率の実部μ’を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係るフェライト組成物は、
主成分と副成分とを有するフェライト組成物であって、
前記主成分が、鉄酸化物をFe2 O3 換算で40.5~50.0モル%、銅酸化物をCuO換算で6.0~14.0モル%、亜鉛酸化物をZnO換算で7.0~25.0モル%、残部にニッケル酸化物を含有し、
前記主成分100重量部に対して、前記副成分が、コバルト酸化物をCo3 O4 換算で3.1~10.0重量部、スズ酸化物をSnO2 換算で0.5~4.0重量部、ビスマス酸化物をBi2 O3 換算で0.50重量部以下(0を含む)で、含有し、
前記主成分中の前記亜鉛酸化物のZnO換算でのモル%で表される含有量をα、前記主成分100重量部に対する前記コバルト酸化物のCo3O4換算での重量部含有量をβとし、A=(α―18)/βとする場合に、
Aは-3.5以上1.0以下である。
【0009】
好ましくは、前記主成分100重量部に対する前記スズ酸化物のSnO2 換算での重量部含有量をγとする場合に、β/γが1.6以上であってもよい。
【0010】
好ましくは、フェライト焼結体は、上記のフェライト組成物を有する。
【0011】
好ましくは、電子部品は、上記のフェライト組成物を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態に係る電子部品としてのチップコイルの内部透視斜視図である。
【
図2】
図2は本発明の他の実施形態に係る電子部品としてのチップコイルの内部透視斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電子部品としてのチップコイル1は、セラミック層2と内部電極層3とがY軸方向に交互に積層してあるチップ本体4を有する。
【0014】
各内部電極層3は、四角状環またはC字形状を有し、隣接するセラミック層2を貫通する内部電極接続用スルーホール電極(図示略)または段差状電極によりスパイラル状に接続され、コイル導体30を構成している。
【0015】
チップ本体4のY軸方向の両端部には、それぞれ端子電極5,5が形成してある。各端子電極5には、積層されたセラミック層2を貫通する端子接続用スルーホール電極6の端部が接続してあり、各端子電極5,5は、閉磁路コイル(巻線パターン)を構成するコイル導体30の両端に接続される。
【0016】
本実施形態では、セラミック層2および内部電極層3の積層方向がY軸に一致し、端子電極5,5の端面がX軸およびZ軸に平行になる。X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直である。
図1に示すチップコイル1では、コイル導体30の巻回軸が、Y軸に略一致する。
【0017】
チップ本体4の外形や寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、通常、外形はほぼ直方体形状とし、たとえばX軸寸法は0.15~0.8mm、Y軸寸法は0.3~1.6mm、Z軸寸法は0.1~1.0mmである。
【0018】
また、セラミック層2の電極間厚みおよびベース厚みには特に制限はなく、電極間厚み(内部電極層3および3の間隔)は3~50μm、ベース厚み(端子接続用スルーホール電極6のY軸方向長さ)は5~300μm程度で設定することができる。
【0019】
本実施形態では、端子電極5としては、特に限定されず、本体4の外表面にAgやPdなどを主成分とする導電性ペーストを付着させた後に焼付け、さらに電気めっきを施すことにより形成される。電気めっきには、Cu、Ni、Snなどを用いることができる。
【0020】
コイル導体30は、Ag(Agの合金含む)を含み、たとえばAg単体、Ag-Pd合金などで構成される。コイル導体の副成分として、Zr、Fe、Mn、Ti、およびそれらの酸化物を含むことができる。
【0021】
セラミック層2は、本発明の一実施形態に係るフェライト組成物で構成してある。以下、フェライト組成物について詳細に説明する。
【0022】
本実施形態に係るフェライト組成物は、主成分として鉄酸化物、銅酸化物、亜鉛酸化物およびニッケル酸化物を含有する。
【0023】
主成分100モル%中、鉄酸化物の含有量は、Fe2 O3 換算で、40.5モル%以上、好ましくは42.0モル%以上、さらに好ましくは43.0モル%以上であり、50.0モル%以下、好ましくは48.0モル%以下、さらに好ましくは47.0モル%以下である。鉄酸化物の含有量が少なすぎる場合には、900MHz前後の高周波数での複素透磁率の実部μ’が低下する傾向にあると共に、比抵抗が低下する傾向にある。鉄酸化物の含有量が多すぎる場合には、機械的強度が低下する傾向にあり、また、初透磁率μi の温度特性が悪化する傾向にある。
【0024】
主成分100モル%中、銅酸化物の含有量は、CuO換算で、6.0モル%以上、好ましくは8.0モル%以上、14.0モル%以下、好ましくは12.5モル%以下である。銅酸化物の含有量が少なすぎると、曲げ強度が低下する傾向にあると共に、比抵抗が低下する傾向にある。銅酸化物の含有量が多すぎると、複素透磁率の実部μ’が低下する傾向にあると共に、比抵抗が低下する傾向にある。
【0025】
主成分100モル%中、亜鉛酸化物の含有量(α)は、ZnO換算で、7.0モル%以上、好ましくは9.0モル%以上、さらに好ましくは11.0モル%以上、25.0モル%以下、好ましくは23.0モル%以下である。亜鉛酸化物の含有量が少なすぎると、比抵抗が低下する傾向にある。亜鉛酸化物の含有量が多すぎると、キュリー温度が低下しすぎる傾向がある。また、900MHz前後の高周波数での複素透磁率の実部μ’が低下する傾向にあると共に、比抵抗が低下する傾向にある。
【0026】
主成分の残部は、ニッケル酸化物から構成されている。主成分におけるニッケル酸化物の含有量は特に制限されないが、NiO換算で、たとえば15.0~40.0モル%である。ニッケル酸化物の含有量が少なすぎると、キュリー温度が低下しすぎる傾向にある。また、鉄酸化物に比べてニッケル酸化物の含有量が多すぎると、900MHz前後の高周波数での複素透磁率の実部μ’が低下する傾向にある。
【0027】
本実施形態に係るフェライト組成物は、上記の主成分に加え、副成分として、少なくともコバルト酸化物およびスズ酸化物を含有している。
【0028】
コバルト酸化物の含有量(β)は、主成分100重量部に対して、Co3 O4 換算で、3.1重量部以上、好ましくは3.5重量部以上、10.0重量部以下、好ましくは8.0重量部以下である。コバルト酸化物の含有量が少なすぎると、900MHz前後の高周波数での複素透磁率の実部μ’が低下する傾向にある。コバルト酸化物の含有量が多すぎると、複素透磁率の実部μ’が低下する傾向にあると共に、比抵抗が悪化する傾向にある。
【0029】
スズ酸化物の含有量(γ)は、主成分100重量部に対して、SnO2換算で、0.5重量部以上、好ましくは0.8重量部以上、4.0重量部以下、好ましくは3.0重量部以下である。スズ酸化物の含有量が少なすぎると、曲げ強度の改善効果と、初透磁率μi の温度変化率の改善効果が十分には得られない傾向にある。スズ酸化物の含有量が多すぎると、900MHz前後の高周波数での複素透磁率の実部μ’が低くなると共に、比抵抗が低下し、曲げ強度が低くなる傾向がある。
【0030】
本実施形態では、亜鉛酸化物の含有量と、コバルト酸化物の含有量との間には、下記の関係式を満足する関係があることが好ましい。すなわち、主成分中の亜鉛酸化物のZnO換算でのモル%で表される含有量をα、主成分100重量部に対するコバルト酸化物のCo3O4換算での重量部含有量をβとし、A=(α―18)/βとする場合に、Aは-3.5以上1.0以下、好ましくは-3.5以上0.9以下の関係にある。Aが低すぎても高すぎても、900MHz前後の高周波数での複素透磁率の実部μ’が低くなる傾向にある。
【0031】
また本実施形態では、主成分100重量部に対するスズ酸化物のSnO2 換算での含有量(重量部)をγとする場合に、好ましくはβ/γが1.6以上、さらに好ましくは1.6以上で10.0以下である。このような範囲とすることで、900MHz前後の高周波数での複素透磁率の実部μ’を、さらに高くすることが可能になると共に、曲げ強度も向上する。
【0032】
また、本実施形態に係るフェライト組成物は、上記副成分とは別に、さらにビスマス酸化物を含んでもよい。ビスマス酸化物の含有量は、主成分100重量部に対して、Bi2 O3 換算で、好ましくは0.5重量部以下(0を含む)、さらに好ましくは0.3重量部未満(0を含む)、特に好ましくは0.2重量部未満(0を含む)である。ビスマス酸化物の含有量が多すぎると、曲げ強度が低下する傾向にある。その理由としては、粒成長が進行しすぎるためではないかと考えられる。
【0033】
さらに、本実施形態に係るフェライト組成物は、上記成分とは別に、ケイ素酸化物を含んでもよい。ケイ素酸化物の含有量は、特に限定されないが、主成分100重量部に対して、SiO2 換算で、好ましくは0.3重量部(0を含む)以下で含まれていてもよく、0.2重量部未満(0を含む)でもよく、0.15重量部以下未満(0を含む)でもよく、0.1重量部未満(0を含む)でもよい。
【0034】
さらにまた、本実施形態に係るフェライト組成物は、上記成分とは別に、Mn3O4などのマンガン酸化物、ジルコニウム酸化物、マグネシウム酸化物、ガラス化合物などの付加的成分を、本実施形態の効果を阻害しない範囲で含有してもよい。これらの付加的成分の含有量は、特に限定されないが、たとえば1重量部以下(0を含む)である。
【0035】
さらに、本実施形態に係るフェライト組成物には、不可避的不純物元素の酸化物が含まれ得る。
【0036】
具体的には、不可避的不純物元素としては、C、S、Cl、As、Se、Br、Te、Iや、Li、Na、Mg、Al、Ca、Ga、Ge、Sr、Cd、In、Sb、Ba、Pb等の典型金属元素や、Sc、Ti、V、Cr、Y、Nb、Mo、Pd、Ag、Hf、Ta等の遷移金属元素が挙げられる。また、不可避的不純物元素の酸化物は、フェライト組成物中に0.05重量部以下程度で含まれていることが好ましい。
【0037】
本実施形態に係るフェライト組成物における結晶粒子の平均結晶粒子径は、特に限定されないが、たとえば0.2~2.0μmである。なお、各主成分および各副成分の含有量は、フェライト組成物の製造時において、原料粉末の段階から焼成後までの各工程でほとんど変化しない。
【0038】
本実施形態に係るフェライト組成物においては、主成分の組成範囲が上記の範囲に制御されていることに加え、副成分として、スズ酸化物およびコバルト酸化物が上記の範囲内で含有されており、また、Aが所定の範囲に制御されている。そのため、本実施形態に係るフェライト組成物では、複素透磁率の実部μ’、特に900MHz前後の高周波数での複素透磁率の実部μ’が大きく、曲げ強度などの機械的強度が高く信頼性に優れたフェライト焼結体を得ることが可能になる。さらに、本実施形態に係るフェライト組成物では、比抵抗が高く、初透磁率μi の温度特性が良好なフェライト焼結体を得ることが可能になる。
【0039】
フェライト焼結体の複素透磁率の実部μ’が大きいことにより、フェライト焼結体を用いたチップコイル(チップビーズ)のインピーダンスが大きくなる。さらに、特に900MHz前後の高周波数での複素透磁率の実部μ’が大きいため、特に高周波数でのインピーダンスが大きくなる。
【0040】
一般的には、スネークの限界に基づき、高周波数では複素透磁率の実部μ’が低下するため、高周波数で高いインピーダンスを取得することが困難である。本実施形態では、高周波数での複素透磁率の実部μ’を向上させることができるため、高周波数で用いられるチップコイル(チップビーズ)などに好ましく用いられ、ノイズ除去効果、特に高周波数でのノイズ除去効果が大きい。なお、本実施形態に係るフェライト組成物から成るフェライト焼結体は、チップコイルとしての用途のみで無く、たとえばインダクタ、LC複合部品などのコイルと他のコンデンサ等の要素とを組み合わせた複合電子部品などとしても用いられることができる。
【0041】
次に、本実施形態に係るフェライト組成物の製造方法の一例を説明する。まず、出発原料(主成分の原料および副成分の原料)を、所定の組成比となるように秤量して混合し、原料混合物を得る。混合する方法としては、たとえば、ボールミルを用いて行う湿式混合や、乾式ミキサーを用いて行う乾式混合が挙げられる。なお、平均粒径が0.05~3.0μmの出発原料を用いることが好ましい。
【0042】
主成分の原料としては、鉄酸化物(α-Fe2 O3 )、銅酸化物(CuO)、ニッケル酸化物(NiO)、亜鉛酸化物(ZnO)あるいは複合酸化物などを用いることができる。さらに、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。
【0043】
副成分の原料としては、スズ酸化物およびコバルト酸化物と、必要に応じてビスマス酸化物、あるいはその他の酸化物などを用いることができる。副成分の原料となる酸化物については特に限定はなく、複合酸化物などを用いることができる。さらに、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。
【0044】
次に、原料混合物の仮焼を行い、仮焼材料を得る。仮焼は、原料の熱分解、成分の均質化、フェライトの生成、焼結による超微粉の消失と適度の粒子サイズへの粒成長を起こさせ、原料混合物を後工程に適した形態に変換するために行われる。仮焼時間および仮焼温度には特に制限はない。仮焼は、通常、大気(空気)中で行うが、大気中よりも酸素分圧が低い雰囲気で行っても良い。
【0045】
次に、仮焼材料の粉砕を行い、粉砕材料を得る。粉砕は、仮焼材料の凝集をくずして適度の焼結性を有する粉体とするために行われる。仮焼材料が大きい塊を形成しているときには、粗粉砕を行ってからボールミルやアトライターなどを用いて湿式粉砕を行う。湿式粉砕は、粉砕材料の平均粒径が、好ましくは0.1~1.0μm程度となるまで行う。
【0046】
なお、上記した粉砕材料の製造方法においては、主成分の粉末および副成分の粉末を全て混合した後に仮焼している。しかし、粉砕材料の製造方法は上記の方法に限定されない。たとえば、仮焼前に混合した原料粉末のうち一部の原料粉末については、仮焼前に他の原料粉末と混合させる代わりに、仮焼後、仮焼材料の粉砕の際に混合させることも可能である。
【0047】
次に、得られた粉砕材料を用いて、本実施形態に係る
図1に示すチップコイル1を製造する。
【0048】
まず、得られた粉砕材料を、溶媒やバインダ等の添加剤とともにスラリー化し、フェライトペーストを作製する。そして、得られたフェライトペーストと、Agなどを含む内部電極ペーストとを、交互に印刷して積層した後に、その積層体を焼成することで、チップ本体4を形成することができる(印刷法)。あるいはフェライトペーストを用いてグリーンシートを作製し、グリーンシートの表面に内部電極ペーストを印刷し、それらを積層した積層体を焼成することでチップ本体4を形成してもよい(シート法)。いずれにしても、チップ本体を形成した後に、端子電極5を焼き付けあるいはメッキなどで形成すればよい。
【0049】
フェライトペースト中のバインダおよび溶剤の含有量には制限はない。たとえば、バインダの含有量は1~10重量%、溶剤の含有量は10~50重量%程度の範囲で設定することができる。また、ペースト中には、必要に応じて分散剤、可塑剤等を10重量%以下の範囲で含有させることができる。Agなどを含む内部電極ペーストも同様にして作製することができる。また、焼成条件などは、特に限定されないが、内部電極層にAgなどが含まれる場合には、焼成温度は、好ましくは930℃以下、さらに好ましくは900℃以下である。
【0050】
本実施形態に係るフェライト組成物は、焼結性にも優れており、低温焼結が可能である。たとえば内部電極として用いられることが可能なAgの融点以下の900℃程度(950℃以下)で焼結することが可能となり、
図1に示すようなチップコイル1を容易に製造することができる。
【0051】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0052】
たとえば、
図2に示すチップコイル1aのセラミック層2を上述した実施形態のフェライト組成物を用いて構成してもよい。
図2に示すチップコイル1aでは、セラミック層2と内部電極層3aとがZ軸方向に交互に積層してあるチップ本体4aを有する。
【0053】
各内部電極層3aは、四角状環またはC字形状を有し、隣接するセラミック層2を貫通する内部電極接続用スルーホール電極(図示略)または段差状電極によりスパイラル状に接続され、コイル導体30aを構成している。
【0054】
チップ本体4aのY軸方向の両端部には、それぞれ端子電極5,5が形成してある。各端子電極5には、Z軸方向の上下に位置する引き出し電極6aの端部が接続してあり、各端子電極5,5は、閉磁路コイルを構成するコイル導体30aの両端に接続される。
【0055】
本実施形態では、セラミック層2および内部電極層3の積層方向がZ軸に一致し、端子電極5,5の端面がX軸およびZ軸に平行になる。X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直である。
図2に示すチップコイル1aでは、コイル導体30aの巻回軸が、Z軸に略一致する。
【0056】
図1に示すチップコイル1では、チップ本体4の長手方向であるY軸方向にコイル導体30の巻軸があるため、
図2に示すチップコイル1aに比較して、巻数を多くすることが可能であり、高い周波数帯までの高インピーダンス化が図りやすいという利点を有する。
図2に示すチップコイル1aにおいて、その他の構成および作用効果は、
図1に示すチップコイル1と同様である。
【0057】
さらにまた、本実施形態のフェライト組成物は、
図1または
図2に示すチップコイル以外の電子部品に用いることができる。たとえば、コイル導体とともに積層されるセラミック層として本実施形態のフェライト組成物を用いることができる。また、チップコイルは必ずしも積層型のチップコイルでなくともよく、巻線型のチップコイルに本実施形態のフェライト組成物を用いることもできる。他にも、たとえば、LC複合部品などのコイルと他のコンデンサ等の要素とを組み合わせた複合電子部品に本実施形態のフェライト組成物を用いることもできる。また、その他一般的にフェライトが用いられる電子部品、たとえばコンデンサ等に本実施形態のフェライト組成物を用いることもできる。
【実施例0058】
以下、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0059】
実施例1
まず、フェライト組成物の主成分の原料として、Fe2 O3 、NiO、CuO、ZnOを準備した。副成分の原料として、SnO2 およびCo3 O4 を準備した。なお、出発原料の平均粒径は0.1~3.0μmの範囲内であった。
【0060】
次に、準備した主成分原料の粉末および副成分原料の粉末を、焼結体として表1A~表2に記載の組成になるように秤量した。
【0061】
なお、表において、主成分中の亜鉛酸化物のZnO換算でのモル%で表される含有量をα、主成分100重量部に対するコバルト酸化物のCo3 O4 換算での重量部含有量をβとし、A=(α―18)/βが表の数値となるように秤量した。また、主成分100重量部に対する前記スズ酸化物のSnO2 換算での重量部含有量をγとし、β/γが表の数値となるように秤量した。
【0062】
秤量後に、準備した主成分原料をボールミルで24時間湿式混合して原料混合物を得た。次に、得られた原料混合物を乾燥した後に、空気中で仮焼して仮焼物を得た。仮焼温度は原料混合物の組成に応じて500~900℃の範囲で適宜選択した。その後、仮焼物に前記副成分の原料を添加しながらボールミルで粉砕して粉砕粉を得た。
【0063】
次に、この粉砕粉を乾燥した後、粉砕粉100重量部に、バインダとしての6wt%濃度のポリビニルアルコール水溶液を10.0重量部添加して造粒して顆粒とした。この顆粒を、加圧成形して、各試料番号1~80に対応して、それぞれトロイダル形状の成形体、ディスク形状の成形体、および四角柱形状の成形体を得た。
【0064】
トロイダル形状の成形体としては、トロイダルA:寸法=外径8mm×内径4mm×高さ2.5mmの成形体と、トロイダルB:寸法=外径13mm×内径6mm×高さ3mmの成形体の二種類の成形体を、各試料番号1~80に対応して、それぞれ準備した。また、ディスク形状の成形体としては、寸法=直径12mm×高さ2mmの成形体を、各試料番号1~80に対応して、それぞれ準備した。また、四角柱形状の成形体としては、寸法=幅5mm×長さ25mm×厚さ3mmの成形体を、各試料番号1~80に対応して、それぞれ準備した。
【0065】
次に、これら各成形体を、空気中において、Agの融点(962℃)以下である860~900℃で2時間焼成して、焼結体としてのトロイダルAサンプル、トロイダルBサンプル、ディスクサンプルおよび四角柱形状サンプルを得た。さらに得られた各サンプルに対し以下の特性評価を行った。なお、秤量した原料粉末と焼成後の成形体とで組成がほとんど変化していないことを蛍光X線分析装置
により確認した。
【0066】
(複素透磁率の実部μ')
トロイダルAのサンプルについて、RFインピーダンス・アナライザ(Keysight Technologies社製E4991A)およびテストフィクスチャ(Keysight Technologies社製16454A)を使用して、透磁率μ’を測定した。測定条件としては、測定周波数10MHzおよび900MHz、測定温度25℃とした。本実施例では、10MHzでのμ’が4.7以上、および、900MHzでのμ’が5.2以上である場合を良好とした。900MHzでのμ’は、より好ましくは5.5以上である。
【0067】
(温度変化率)
トロイダルBのサンプルに銅線ワイヤを20ターン巻きつけ、LFインピーダンス・アナライザ(Keysight Technologies社製E4192A)を使用して室温(25℃)での初透磁率μi および85℃での初透磁率μi を測定した。そして、室温での初透磁率μi を基準とし、85℃における初透磁率μi の変化率を求めた。
【0068】
(比抵抗ρ)
ディスクサンプルの両面にIn-Ga電極を塗り、直流抵抗値を測定し、比抵抗ρを求めた(単位:Ω・m)。測定はIRメーター(エーディーシー社製R8340)を用いて行った。比抵抗ρは1.0×106Ω・m以上(1.0E+06Ω・m以上)を良好とした。
【0069】
(曲げ強度)
四角柱形状サンプルに対して、三点曲げ試験を行い破断させ、破断した際の曲げ強度を測定した。なお、三点曲げ試験には万能材料試験機(インストロンジャパン社製5543)を用いた。曲げ強度は140MPa以上を良好とした。
【0070】
以上の試験結果(評価結果)を表1A~表2に示す。
【0071】
(評価1)
表1Aの試料番号1~17に示すように、Fe2 O3 以外の成分が所定の条件を満足することを条件に、以下に示すことが確認できた。すなわち、Fe2 O3 の含有量が40.5モル%よりも少ない比較例(試料番号1)に比べて、Fe2 O3 の含有量が40.5~50.0モル%の実施例では、900MHzでのμ’が向上し、比抵抗および曲げ強度も向上していることが確認できた。また、Fe2 O3 の含有量が50.0モル%よりも多い比較例(試料番号17)に比べて、Fe2 O3 の含有量が40.5~50.0モル%の実施例では、900MHzでのμ’が向上し、曲げ強度も向上していることが確認できた。
【0072】
また、Fe2 O3 の含有量が40.5~50.0モル%の範囲内であっても、SnO2 の含有量(γ)が0.5重量部より少ない比較例(試料番号3~5,7および9)では、実施例に比較して、曲げ強度が低下すると共に、初透磁率μi の温度特性が悪化する傾向にあることが確認できた。さらに、Fe2 O3 の含有量が40.5~50.0モル%の範囲内であっても、ZnOの含有量(α)が25.0モル%よりも高い比較例(試料番号16)では、900MHzでのμ’が低下することが確認できた。
【0073】
表1Aの試料番号18~22に示すように、SnO2 の含有量(γ)が0.5重量部より少ない比較例(試料番号18~22)では、実施例に比較して、曲げ強度が低下すると共に、初透磁率μi の温度特性が悪化したり、あるいは900MHzでのμ’が悪化したりすることが確認できた。
【0074】
表1Bの試料番号23~41に示すように、ZnO以外の成分が所定の条件を満足することを条件に、以下に示すことが確認できた。すなわち、ZnOの含有量(α)が7.0~25.0モル%の実施例では、ZnOの含有量(α)が5.0モル%の比較例(試料番号23)に比べて、比抵抗が向上していることが確認できた。また、ZnOの含有量(α)が27.0モル%の比較例(試料番号41)に比べて、ZnOの含有量(α)が7.0~25.0モル%の実施例では、900MHzでのμ’が向上し、比抵抗も向上していることが確認できた。
【0075】
また、ZnOが7.0~25.0モル%の範囲内であっても、Co3 O4 の含有量(β)が3.1重量部未満の比較例(試料番号25および26)では、900MHzでのμ’が低下することが確認できた。さらに、ZnOが7.0~25.0モル%の範囲内であっても、A=(α―18)/βで表されるAの値が、-3.5未満の比較例(試料番号25)、および1.0より大きい比較例(試料番号38)では、実施例に比較して、900MHzでのμ’が低下することが確認できた。
【0076】
また、β/γが1.6未満の実施例(試料番号30)とβ/γが1.6以上の実施例(試料番号24、27~29、31~37、39~40)とを比較することで、β/γを1.6以上とすることで、少なくとも900MHzでのμ’が向上することが確認できた。
【0077】
表1Cの試料番号42~63に示すように、CuO以外の成分が所定の条件を満足することを条件に、以下に示すことが確認できた。すなわち、CuOの含有量が6.0~14.0モル%の実施例では、CuOの含有量が5.5モル%の比較例(試料番号42)に比べて、900MHzでのμ’、比抵抗および曲げ強度が向上していることが確認できた。また、CuOの含有量が15.5モル%の比較例(試料番号51)に比べて、CuOの含有量が6.0~14.0モル%の実施例では、10MHzおよび900MHzでのμ’が向上し、比抵抗および曲げ強度も向上していることが確認できた。
【0078】
また、CuOが6.0~14.0モル%の範囲内であっても、Fe2 O3 の含有量が40.5モル%未満の比較例(試料番号57)では、900MHzでのμ’が低下すると共に、比抵抗および曲げ強度が低下することが確認できた。なお、表1Cの試料番号57に係る比較例では、表1Aの試料番号1に係る比較例に比較して、曲げ強度が高かったのは、Co3 O4 の含有量(β)が5.0重量部以下と低かったためであると考えられる。
【0079】
表2の試料番号64~80に示すように、SnO2 以外の成分が所定の条件を満足することを条件に、以下に示すことが確認できた。すなわち、SnO2 の含有量が0.5~4.0重量部の実施例では、SnO2 の含有量が0.5重量部未満の比較例(試料番号64)に比べて、初透磁率μi の温度変化率および曲げ強度が向上していることが確認できた。また、SnO2 の含有量が4.5重量部の比較例(試料番号72)に比べて、SnO2 の含有量が0.5~4.0重量部の実施例では、900MHzでのμ’が向上し、比抵抗および曲げ強度も向上していることが確認できた。
【0080】
また、β/γが1.6未満の実施例(試料番号71および76)に比較して、β/γが1.6以上の実施例(試料番号65~70、73~74、77~78および80)では、少なくとも900MHzでのμ’が向上することが確認できた。
【0081】
実施例2
副成分の原料として、さらにBi2 O3 を、焼結体として表3に記載の組成になるように秤量して追加した以外は、実施例1と同様にして焼結体のサンプルを作製し、実施例1と同様な評価を行った。結果を表3に示す。
【0082】
表3に示すように、Bi2 O3 の含有量の増加と共に、曲げ強度は低下するが、900MHzでのμ’が向上すると共に比抵抗が向上することが確認できた。
【0083】
実施例3
副成分の原料として、さらにSiO2 を、焼結体として表4に記載の組成になるように秤量して追加した以外は、実施例1と同様にして焼結体のサンプルを作製し、実施例1と同様な評価を行った。結果を表4に示す。
【0084】
表4に示すように、比較的に少ない量でSiO2 を含有させても、900MHzでのμ’、初透磁率μi の温度変化率、比抵抗および曲げ強度は、十分に満足できるレベルであることが確認できた。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】