(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180411
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】ブローチ盤
(51)【国際特許分類】
B23D 41/08 20060101AFI20231214BHJP
B23D 37/00 20060101ALI20231214BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B23D41/08
B23D37/00
B23Q17/09 C
B23Q17/09 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093708
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】中川 雅人
(72)【発明者】
【氏名】小島 健太郎
【テーマコード(参考)】
3C029
【Fターム(参考)】
3C029CC03
3C029DD11
(57)【要約】
【課題】ブローチ加工における更なる省エネルギー化を図り、且つブローチのチッピングを早期に発見することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかるブローチ盤100の構成は、外周に多数の刃112を備えたブローチ110とワーク102とを相対的に移動させてワーク102を切削するブローチ盤100において、ブローチ110またはワーク102を移動させるサーボモータ120と、サーボモータ120の動作の制御および負荷トルクの検出を行う数値制御部210と、数値制御部210で動作させるブローチ加工のプログラムである加工プログラム240の設定値を補正する演算部230とを備え、演算部230は、数値制御部が検出した負荷トルクからブローチの刃がワークに最初に接触する接触位置を取得し、接触位置におけるブローチとワークとの相対速度が設定速度となるように加工プログラム240の設定値を補正する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に多数の刃を備えたブローチとワークとを相対的に移動させて前記ワークを切削するブローチ盤において、
前記ブローチまたは前記ワークを移動させるサーボモータと、
前記サーボモータの動作の制御および負荷トルクの検出を行う数値制御部と、
前記数値制御部で動作させるブローチ加工のプログラムである加工プログラムの設定値を補正する演算部とを備え、
前記演算部は、
前記数値制御部が検出した前記負荷トルクから前記ブローチの刃が前記ワークに最初に接触する接触位置を取得し、
前記接触位置における前記ブローチと前記ワークとの相対速度が設定速度となるように前記加工プログラムの前記設定値を補正することを特徴とするブローチ盤。
【請求項2】
前記演算部は、前記多数の刃のうち前記ワークに最初に接触する刃である第1刃が接触すべき位置を過ぎても該第1刃の前記接触位置が取得できなかった場合に、前記第1刃の刃欠異常と判断することを特徴とする請求項1に記載のブローチ盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周に多数の刃を備えたブローチとワークとを相対的に移動させて前記ワークを切削するブローチ盤に関する。
【背景技術】
【0002】
ブローチ盤は、ブローチと呼ばれる工具を使って工作物の表面や穴の内面などを削る工作機械である。ブローチは、長手の棒状の工具で、外周に多数の刃が並んだ構造になっている。特にブローチは、直線運動するときにすべての刃が工作物に触れるよう、先端側の刃(荒刃)から末端側の刃(仕上刃)に向かって次第に寸法が大きくなっている。ブローチ盤は、ブローチを直線方向に一度駆動させるだけで工作物の荒削りから仕上げ削りまでを完了させることができる。
【0003】
上述したブローチを用いたブローチ加工方法としては例えば特許文献1は、「本体の外周に軸方向に多数の刃が配置され、前記刃が前記本体の外周面に形成されたねじれ溝に沿って配設された内面加工用ねじれ刃溝ブローチカッタであって、前記ブローチカッタのねじれ溝が複数条のねじれ溝とされている内面加工用ねじれ刃溝ブローチカッタを用いた高速ブローチ加工方法」が開示されている。
【0004】
特許文献1の高速ブローチ加工方法は、「前記複数条のねじれ溝の条数と同数以上のノズルを設け、ブローチ静止時においてぞれぞれの前記ノズルが相対する前記ねじれ溝にクーラントが供給されるように配置し、かつ、前記ノズルより供給量2cc~12cc/hour/1ノズルの微量ミストを供給しながら切削速度を20~60m/minで加工すること」を特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の高速ブローチ加工方法によれば、実切削荷重を減らすことができる他、加工効率を向上させることができるためブローチ加工時の省エネに寄与することできる。しかしながら、近年では更なる省エネルギー化の推進が求められており、特許文献1にはその観点において改善が検討されている。また他の課題としてブローチ盤では、高速ブローチ加工を行う際にブローチにおいて最初にワークに接触する刃が欠ける、いわゆるチッピングが発生することがある。最初の刃が欠けると、その次の刃における負荷が大きくなり、チッピングの連鎖が生じてしまう。このためブローチ盤では、ブローチのチッピングを早期に発見することが重要である。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、ブローチ加工における更なる省エネルギー化を図り、且つブローチのチッピングを早期に発見することが可能なブローチ盤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかるブローチ盤の代表的な構成は、外周に多数の刃を備えたブローチとワークとを相対的に移動させてワークを切削するブローチ盤において、ブローチまたはワークを移動させるサーボモータと、サーボモータの動作の制御および負荷トルクの検出を行う数値制御部と、数値制御部で動作させるブローチ加工のプログラムである加工プログラムの設定値を補正する演算部とを備え、演算部は、数値制御部が検出した負荷トルクからブローチの刃がワークに最初に接触する接触位置を取得し、接触位置におけるブローチとワークとの相対速度が設定速度となるように加工プログラムの設定値を補正する。
【0009】
上記演算部は、多数の刃のうちワークに最初に接触する刃である第1刃が接触すべき位置を過ぎても第1刃の前記接触位置が取得できなかった場合に、第1刃の刃欠異常と判断するとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ブローチ加工における更なる省エネルギー化を図り、且つブローチのチッピングを早期に発見することが可能なブローチ盤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態にかかるブローチ盤を説明する図である。
【
図2】加工時の経過時間における
図1のブローチの速度および負荷トルクの波形を示す図である。
【
図3】
図1に示す制御装置によるブローチ盤の動作制御について説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、本実施形態にかかるブローチ盤100を説明する図である。本実施形態のブローチ盤100は、外周に多数の刃112を備えたブローチ110とワーク102とを相対的に移動させてワーク102を切削する工作機械である。本出願において、ブローチ110の多数の刃112のうち、ワーク102に最初に接触する予定の刃を第1刃112aとする。すなわち、第1刃112aは最も小径の刃とは限らない。
【0014】
図1に示すように本実施形態のブローチ盤100は、ブローチ110、サーボモータ120、およびそれらを制御する制御装置200を含んで構成される。サーボモータ120は、ブローチ110またはワーク102を移動させる駆動源である。なお
図1では、サーボモータ120がブローチ110をワーク102に対して移動させる構成を例示するが、これに限定するものではなく、サーボモータ120がワーク102を移動させる構成とすることも可能である。
【0015】
制御装置200は、数値制御部210、サーボ制御部220、演算部230、加工プログラム240、および記憶装置250を含んで構成される。
【0016】
数値制御部210は、サーボモータ120の動作の制御および負荷トルクの検出を行う。詳細には数値制御部210は、サーボモータ120の負荷トルクを常時監視し、サーボモータ120の制御量をサーボ制御部220に出力する。サーボモータ120の位置は、サーボモータ120に取り付けられたエンコーダ(不図示)または外部スケールによって取得され、数値制御部210にフィードバックされる。
【0017】
また数値制御部210はサーボモータ120の負荷トルク(負荷電流値)を常時取得して、数値制御部210内のメモリにそれぞれの位置、速度、負荷トルクを格納する。サーボ制御部220は、数値制御部210から出力された制御量を駆動信号としてサーボモータ120に出力する。
【0018】
演算部230は、数値制御部210で動作させる加工プログラム240の設定値(下記では時定数を例示)を補正するためのプログラムである。後述するように演算部230は、数値制御部210が検出した負荷トルクからブローチ110の刃112がワーク102に最初に接触する、すなわち第1刃112aがワーク102に接触する接触位置を取得する。また演算部230は、接触位置におけるブローチ110とワーク102の相対速度が設定速度となるように加工プログラムの設定値(時定数)を補正する。
【0019】
加工プログラム240は、ブローチ加工のプログラムであり、例えばNCプログラムを例示することができる。記憶装置250は、ハードディスクなどの記憶装置であり、ワーク102の諸元の形状や設定トルクを記憶している。また記憶装置250には、ブローチ110の刃112(第1刃112a)のワーク102への接触を判別する閾値のテーブルである設定トルクテーブル252が格納されている。また設定トルクテーブル252には、第1刃112aの接触位置および接触時速度が記憶されている。
【0020】
図2は、加工時の経過時間における
図1のブローチ110の速度および負荷トルクの波形を示す図である。
図2の上段は、ブローチ110の速度および負荷トルクの波形の全体図である。
図2の下段は、
図2の上段の部分拡大図である。
【0021】
図2に例示するように、サーボモータ120を駆動開始すると(タイミングt0)、ブローチ110の速度が急速に上昇し、加速の負荷により負荷トルク(負荷電流)が大幅に上昇する。ブローチ110の速度がある程度上昇すると(タイミングt1)、負荷トルクは下降し始める。そしてブローチ110の速度(すなわちブローチ110とワーク102との相対速度)が設定速度V(
図2では60m/minを例示)に到達する(タイミングt2)。駆動開始のタイミングt0から設定速度Vに到達するタイミングt2までの時間は、時定数aとして入力する設定値である。
【0022】
その後、ブローチの刃112(第1刃112a)がワーク102に接触すると(タイミングt3)、ブローチ110に対してワーク102から負荷がかかるため、下降していた負荷トルクが上昇する。このことから、ブローチ110とワーク102との相対速度が設定速度Vに到達した後に負荷トルクの上昇が検出されたら、そのタイミングがブローチ110の刃112(第1刃112a)がワーク102に最初に接触した接触位置(厳密にはブローチ110の位置。以下、接触位置Lと称する)であるということがわかる。
【0023】
図3は、
図1に示す制御装置200によるブローチ盤100の動作制御について説明するフローチャートである。まず数値制御部210は、加工プログラム240および記憶装置250を参照してブローチ加工における加工条件を設定し、その加工条件に基づいて、第1刃112aの接触位置L、接触位置Lにおける負荷トルクの閾値W(
図2参照)、設定速度V、時定数aを設定する(ステップS302)。
【0024】
負荷トルクの閾値Wは下限値であり、この閾値Wを超えることによってブローチ110の第1刃112aがワーク102に接触したことを検出することができる。なお、ステップS302における加工条件としては、ワーク102およびその材質、そのブローチ加工に用いられるブローチ110の種類、切削条件等を例示することができる。
【0025】
加工条件の設定が完了したら、サーボ制御部220は、サーボモータ120を駆動してブローチ加工を開始する(ステップS304)。それと並行して数値制御部210は、ブローチ110の現在位置Lnおよびブローチ110の実トルクWn(現在の負荷トルク)を継続的に取得する(ステップS306)。
【0026】
続いて演算部230は、ステップS306において210が検出した実トルクWnが負荷トルクの閾値W以上であるかを判断する(ステップS308)。すなわちステップS308では、演算部230は、数値制御部210が検出した実トルクWnからブローチ110の刃112(第1刃112aとは限らない)がワーク102に接触したか否かを監視している。
【0027】
実トルクWnが閾値W未満であった場合(ステップS308のNO)、まだ刃112がワーク102に接触していないことを意味する。そこで演算部230は、ブローチ110の現在位置Lnが接触位置L(第1刃112aが接触する予定の位置)を超えているかを判断する(ステップS314)。ブローチ110の現在位置Lnが接触位置Lを超えていなかった場合(ステップS314のNO)、第1刃112aがワーク102に未到達であるので、制御装置200はステップS306、S308、S314の処理をループする。
【0028】
ステップS314においてブローチ110の現在位置Lnが第1刃112aの接触位置Lを超えていた場合(ステップS314のYES)、演算部230は、第1刃112aが接触すべき位置を過ぎても第1刃112aの接触位置が取得できなかったとして刃欠異常(第1刃112aが欠けている)と判断する(ステップS316)。
【0029】
ステップS308において実トルクWnが閾値W以上であった場合(ステップS308のYES)、演算部230は、第1刃112aがワーク102に接触したと判断する。ステップS308では現在位置Lnが接触位置Lを超えていないので、ステップS308で検出する接触は第1刃112aである。そして数値制御部210は、ブローチ110の現在位置Ln(検出された第1刃112aとワーク102との接触位置)における現在速度Vn(ブローチ110とワーク102の相対速度)を取得する(ステップS310)。
【0030】
演算部230は、現在速度Vnが設定速度Vとなっているかを判断する(ステップS312)。現在速度Vnが設定速度Vとなっていたら(ステップS312のYES)、200処理終了する。現在速度Vnが設定速度Vとなっていなかったら(ステップS312のNO)、演算部は、ワーク102と第1刃112aとの接触が検知された際の現在速度Vn(上述した相対速度)が設定速度Vとなるように加工プログラム240の設定値を補正する(ステップS318)。
【0031】
ステップS318において補正する設定値としては、例えば時定数aが挙げられる。時定数aの補正値は、「設定されている時定数a×(現在速度Vn/設定速度V)」の式から算出することができる。なお、補正する設定値としては、時定数aに限らず、ブローチ加工時のブローチ110の加速度等の他の条件や項目であってもよい。
【0032】
上記説明したように本実施形態のブローチ盤100によれば、ブローチ110の第1刃112aがワーク102に接触した際の現在速度Vnに基づいて加工プログラム240の設定値を補正する。これにより、闇雲に速度を上げるのではなく(時定数aを小さくするのではなく)、設定速度を満たすように必要最小限に補正することができる。したがってブローチ盤100における消費電力を最適化し、ブローチ加工における更なる省エネルギー化を図ることができる。
【0033】
また同時に、実トルクWnが閾値W以上でなかった際にブローチ110の現在位置Lnが接触位置Lを超えているかを判断することにより、第1刃112aのチッピングを早期に発見することができ、ブローチ盤100の信頼性の向上を図ることが可能となる。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、外周に多数の刃を備えたブローチとワークとを相対的に移動させて前記ワークを切削するブローチ盤として利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
100…ブローチ盤、102…ワーク、110…ブローチ、112…刃、112a…第1刃、120…サーボモータ、200…制御装置、210…数値制御部、220…サーボ制御部、230…演算部、240…加工プログラム、250…記憶装置、252…設定トルクテーブル