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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180419
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】着用エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/018 20060101AFI20231214BHJP
   A62B 17/00 20060101ALI20231214BHJP
   A62B 99/00 20090101ALI20231214BHJP
   A41D 13/05 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
A41D13/018
A62B17/00
A62B99/00 E
A41D13/05 125
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093721
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 利仁
(72)【発明者】
【氏名】前田 凌
【テーマコード(参考)】
2E184
2E185
3B011
3B211
【Fターム(参考)】
2E184LB05
2E185AA02
2E185CC51
3B011AA01
3B011AB01
3B011AC03
3B011AC04
3B011AC05
3B011AC21
3B211AA01
3B211AB01
3B211AC03
3B211AC04
3B211AC05
3B211AC21
(57)【要約】
【課題】ガス切替機構が、保護対象者の転倒時に、所定の膨張部位に膨張用ガスを流し可能に、円滑にスライド部を摺動可能な着用エアバッグ装置の提供。
【解決手段】保護対象者に装着されて、保護対象者の転倒時に保護対象部位を保護可能に、ガス発生器20からの膨張用ガスGを、ガス切替機構23により切り替えて、転倒方向側の膨張部位だけに、流す着用エアバッグ装置10。ガス切替機構は、各膨張部位へ流し可能なガス流出口49a,49bを並設させた流出側部49と、転倒方向側に重力によりずれ移動可能として、対応するガス流出口と連通可能な連通口41、を有するスライド部38と、連通口を対応するガス流出口に連通させるようにスライド部を位置規制するストッパ部29と、ガス発生器からの膨張用ガスを連通口側に供給可能なガス入口部25と、を備える。スライド部のずれ移動時の摺動部位には、摩擦抵抗を抑制する抑制部44が配設される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護対象者に装着されるとともに、保護対象者の転倒時に作動されて、保護対象者の保護対象部位を保護可能に、ガス発生器からの膨張用ガスにより膨張する複数の膨張部位、を配設させて構成されるエアバッグ、を備えるとともに、
前記エアバッグの複数の前記膨張部位が、相互に、区画されて、配設され、
前記ガス発生器から前記膨張部位までの膨張用ガスの流路に、転倒方向側の前記膨張部位だけに、前記ガス発生器からの膨張用ガスを流すように、ガス切替機構が、配設され、
前記ガス切替機構が、
前記各膨張部位へ流し可能なガス流出口を並設させるように開口させた流出側部と、
前記流出側部の表面側で、転倒方向側に重力によりずれ移動可能として、前記各膨張部位側へ連通する前記ガス流出口と連通可能な連通口、を有するスライド部と、
転倒方向へのずれ移動時の前記スライド部の前記連通口を、転倒方向側の前記膨張部位側の前記ガス流出口に連通させ、他の前記膨張部位の前記ガス流出口側を前記連通口の周縁により閉口させるように、前記スライド部を位置規制するストッパ部と、
前記ガス発生器の膨張用ガスのガス吐出部側と連通されて、前記スライド部の前記連通口における前記流出側部から離れた側を覆って、前記連通口側に膨張用ガスを供給可能なガス入口部と、
を備えて構成されている着用エアバッグ装置であって、
前記スライド部のずれ移動時の摺動部位に、摩擦抵抗を抑制する抑制部が配設されていることを特徴とする着用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記抑制部が、前記スライド部に配設されて、前記抑制部の接触する摺動面に対する接触面積を小さくする先細り状の複数の突起から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の着用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記ストッパ部が、前記スライド部を位置規制する規制面に、位置規制時の衝突音を低減させる消音部、を配設させていることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の着用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記エアバッグの複数の前記膨張部位が、保護対象部位としての保護対象者の腰部の左右の大腿骨周り、を覆い可能な左右の腰保護部として、構成されていることを特徴とする請求項1に記載の着用エアバッグ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護対象者に着用させて、保護対象者の転倒時等に、膨張させたエアバッグの膨張部位により、保護対象者の保護対象部位を保護する着用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の着用エアバッグ装置としては、保護対象者に装着されるとともに、保護対象者の転倒時に作動されて、保護対象者の保護対象部位を保護可能に、ガス発生器からの膨張用ガスにより膨張する複数の膨張部位、を配設させて構成されるエアバッグ、を備えていた(例えば、特許文献1参照)。エアバッグの複数の膨張部位は、相互に、区画されて、配設されていた。また、ガス発生器から膨張部位までの膨張用ガスの流路には、転倒方向側の膨張部位だけに、ガス発生器からの膨張用ガスを流すように、ガス切替機構が、配設されていた。このガス切替機構は、各膨張部位へ流し可能なガス流出口を並設させるように開口させた流出側部と、流出側部の表面側で、転倒方向側に重力によりずれ移動可能として、各膨張部位側へ連通するガス流出口と連通可能な連通口、を有するスライド部と、転倒方向へのずれ移動時のスライド部の連通口を、転倒方向側の膨張部位側のガス流出口に連通させ、他の膨張部位のガス流出口側を連通口の周縁により閉口させるように、スライド部を位置規制するストッパ部と、ガス発生器の膨張用ガスのガス吐出部側と連通されて、スライド部の連通口における流出側部から離れた側を覆って、連通口側に膨張用ガスを供給可能なガス入口部と、を備えて構成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-57418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の着用エアバッグ装置としては、着用した保護対象者の転倒時、より応答性を良好にするように、スライド部が円滑にずれ移動して、ガス切替機構が、ガス発生器からの膨張用ガスを、対応する膨張部位側に、より迅速に流すことが望まれる。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、ガス切替機構が、保護対象者の転倒時に、所定の膨張部位に膨張用ガスを流し可能に、円滑にスライド部を摺動可能な着用エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る着用エアバッグ装置では、保護対象者に装着されるとともに、保護対象者の転倒時に作動されて、保護対象者の保護対象部位を保護可能に、ガス発生器からの膨張用ガスにより膨張する複数の膨張部位、を配設させて構成されるエアバッグ、を備えるとともに、
前記エアバッグの複数の前記膨張部位が、相互に、区画されて、配設され、
前記ガス発生器から前記膨張部位までの膨張用ガスの流路に、転倒方向側の前記膨張部位だけに、前記ガス発生器からの膨張用ガスを流すように、ガス切替機構が、配設され、
前記ガス切替機構が、
前記各膨張部位へ流し可能なガス流出口を並設させるように開口させた流出側部と、
前記流出側部の表面側で、転倒方向側に重力によりずれ移動可能として、前記各膨張部位側へ連通する前記ガス流出口と連通可能な連通口、を有するスライド部と、
転倒方向へのずれ移動時の前記スライド部の前記連通口を、転倒方向側の前記膨張部位側の前記ガス流出口に連通させ、他の前記膨張部位の前記ガス流出口側を前記連通口の周縁により閉口させるように、前記スライド部を位置規制するストッパ部と、
前記ガス発生器の膨張用ガスのガス吐出部側と連通されて、前記スライド部の前記連通口における前記流出側部から離れた側を覆って、前記連通口側に膨張用ガスを供給可能なガス入口部と、
を備えて構成されている着用エアバッグ装置であって、
前記スライド部のずれ移動時の摺動部位に、摩擦抵抗を抑制する抑制部が配設されていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る着用エアバッグ装置では、着用エアバッグ装置を装着した保護対象者が転倒すると、ガス発生器がガス吐出部から膨張用ガスを吐出するとともに、ガス切替機構のスライド部が、流出側部の表面側で転倒方向側にずれ、ストッパ部に位置規制されて、転倒方向側の膨張部位へ膨張用ガスを流し可能なガス流出口を開口させるように、連通口を連通させ、かつ、他の膨張部位へ膨張用ガスを流すガス流出口を連通孔周縁によって閉口させる。そのため、ガス吐出部側からの膨張用ガスが、ガス入口部からガス切替機構内に流入し、そして、スライド部の連通口から、転倒方向側の膨張部位へ連なるガス流出口を経て、転倒方向側の膨張部位だけに膨張用ガスを流し、転倒方向側の膨張部位を膨張させて、保護対象者の保護対象部位を、転倒先の接地面等から保護できる。その際、スライド部の摺動部位には、摩擦抵抗を抑制する抑制部が配設されていることから、スライド部は、摩擦抵抗少なく、円滑に摺動して、転倒方向側の膨張部位に連なるガス流出口側に、連通口を配置させることから、迅速に、転倒方向側の膨張部位を膨張させることができる。
【0008】
したがって、本発明に係る着用エアバッグ装置では、ガス切替機構が、保護対象者の転倒時に、応答性良く、円滑にスライド部を摺動させて、迅速に、転倒方向側の膨張部位に膨張用ガスを流すことができる。
【0009】
そして、本発明に係る着用エアバッグ装置では、前記抑制部が、前記スライド部に配設されて、前記抑制部の接触する摺動面に対する接触面積を小さくする先細り状の複数の突起から構成することができる。
【0010】
このような構成では、スライド部の抑制部用の突起が、抑制部の接触する摺動面に対する接触面を小さくしていることから、摩擦抵抗を低減できて、円滑に、スライド部を摺動させることができる。
【0011】
さらに、本発明に係る着用エアバッグ装置では、前記ストッパ部が、前記スライド部を位置規制する規制面に、位置規制時の衝突音を低減させる消音部、を配設させていることが望ましい。
【0012】
このような構成では、スライド部が摺動してストッパ部の規制面に位置規制される際、スライド部が、消音部と当接して、当接時に発生する衝突音が消音されて抑制されることから、異音が発生し難い。そのため、着用エアバッグ装置を着用中に、ガス発生器の作動しない状態の歩行等の通常動作を行って、ガス切替機構のスライド部が摺動して規制面に当接する状態となっても、異音が発生し難く、保護対象者は、違和感無く、歩行等の動作を行える。
【0013】
また、本発明に係る着用エアバッグ装置では、前記エアバッグの複数の前記膨張部位が、保護対象部位としての保護対象者の腰部の左右の大腿骨周り、を覆い可能な左右の腰保護部として構成されていれば、作動時、保護対象者の左右の大腿骨回りを保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る一実施形態の着用エアバッグ装置の概略正面図と概略背面図である。
図2】実施形態の着用エアバッグ装置のガス切替機構を示す概略背面図である。
図3】実施形態のガス切替機構を示す概略断面図であり、図2のIII-III部位に対応する。
図4】実施形態のガス切替機構の作動時を示す概略断面図であり、図2のIV-IV部位に対応する。
図5】実施形態のガス切替機構の作動時におけるストッパ部とスライド部とを示す説明図である。
図6】実施形態のスライド部の概略斜視図である。
図7】実施形態の着用エアバッグ装置のエアバッグの膨張状態を説明する概略背面図である。
図8】実施形態の着用エアバッグ装置の作動時における保護対象者の転倒時を説明する図である。
図9】実施形態の変形例におけるガス切替機構の作動時を示す概略断面図である。
図10図9に示すガス切替機構の作動時におけるストッパ部とスライド部とを示す説明図である。
図11図9に示すガス切替機構のスライド部を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明すると、実施形態の着用エアバッグ装置10は、図1~8に示すように、ガス発生器20と、ガス発生器20からの膨張用ガスGにより膨張するエアバッグ60と、保護対象者1の転倒を検知するセンサ部18を備えてガス発生器20を作動させる作動制御装置17と、ガス発生器20、エアバッグ60、及び、作動制御装置17を保持するベスト型の保持体11と、さらに、エアバッグ60におけるガス発生器20との連結部位に配設されるガス切替機構23と、を備えて構成されている。
【0016】
保持体11は、保護対象者1の上半身1aに装着可能なベストとして構成され、保護対象者1の上半身1aの正面を覆う左前部12及び右前部13を備えるとともに、保護対象者1の上半身1aの背面を覆う背面部14を備えて構成され、さらに、左前部12と右前部13との内側縁12a,13a相互を結合させるファスナー等の締結具16を備えて構成されている。換言すれば、保持体11は、背面部14の左部14bの前方側に、左前部12を連ならせるように配設させ、背面部14の右部14cの前方側に、右前部13を連ならせるように配設させて、構成されている。
【0017】
作動制御装置17は、上下前後左右の3軸周りの角速度を検知可能な角速度センサと、上下前後左右の3軸方向の加速度を検知可能な加速度センサと、を有してなるセンサ部18を備えるとともに、センサ部18からの信号により、保護対象者1が通常動作と異なった転倒動作を行っていると検知されると、ガス発生器20を作動させるように構成されている。なお、具体的には、作動制御装置17は、センサ部18からの信号により、保護対象者1が通常動作と異なった転倒動作を開始していると、種々の閾値から判定可能な判定手段を備えて、判定手段の判定に基づいて、保護対象者1が転倒したと検出し、そして、ガス発生器20を作動させる。また、作動制御装置17には、センサ部18の作動用やガス発生器20の作動用信号の出力用に、図示しない電池等からなる電源も内蔵されている。
【0018】
作動制御装置17は、保持体11における背面部14の右部14cにおける内側面の下部14d側に、保護対象者1の衣服等と接触しないように、図示しないカバー布等に覆われて、取り付けられている。
【0019】
ガス発生器20は、内部に圧縮された二酸化炭素等からなる膨張用ガスGを貯留した略円柱状の本体部20aと、本体部20aの先端の小径の略円柱状のガス吐出部20bと、を備えて構成され、ガス吐出部20bには、膨張用ガスGを吐出する吐出口20cが配設されている。ガス発生器20は、保護対象者1の転倒を検知した作動制御装置17の作動信号を入力して、本体部20aとガス吐出部20bとの境界部位付近に配設された図示しないイニシエータを作動させて、図示しないバーストディスクを破断することにより、本体部20a内に貯留した膨張用ガスGをガス吐出部20bの吐出口20cから吐出する構成としている。
【0020】
エアバッグ60は、ポリエステルやポリアミド等の糸からなる織布の縫製や袋織り等により、膨張用ガスGの漏れを防止された状態の袋状に、形成されており、膨張完了時の外周壁61として、外形形状を略同等として保護対象者1から離れた外側壁62と、保護対象者1に接近した内側の内側壁63と、を備えて、左右両側に、膨張部位69,74を配設させて構成されている。膨張部位69,74は、保持体11の背面部14側の左右方向の中央において、連通部67により連結されている。但し、連通部67には、エアバッグ60の膨張部位69,74を左右両側に二分するように、外側壁62と内側壁63とに連結される区画壁65が配設されて、膨張部位69,74は、区画壁65により、膨張用ガスGの相互の流出入が無いように、区画されている。
【0021】
なお、実施形態の区画壁65は、内側壁63の一部から形成されているが、外側壁62から形成してもよく、さらに、別体の布材を、外側壁62と内側壁63とに結合させて、区画壁を形成してもよい。
【0022】
膨張部位69,74は、区画壁65の近傍の外側壁62に、実施形態の場合、外周壁61の後面側に、左右方向に並設させるように、膨張用ガスGを流入させる流入口70,75を、開口させている。また、膨張部位69,74は、エアバッグ60の膨張完了時、先端の略長方形板状に膨張する部位を、保護対象者1の保護対象部位としての腰部2の左右の大腿骨転子部3(L,R)を覆い可能な腰保護部72,77、としている。腰保護部72,77は、エアバッグ60の膨張完了時に、保護対象者1の腰部2の左右の側面2aを中心として、前後に延びて、大腿骨転子部3(L,R)の周囲を覆えるように、配設されている。そして、膨張部位69,74は、流入口70,75付近から腰保護部72,77までの領域を上下方向の幅寸法を狭めたガス導入部71,76としている。ガス導入部71,76は腰保護部72,77の下縁69b,74b側を上昇させたように、腰保護部72,77より上下方向の幅寸法を狭めた帯状としている(図7参照)。
【0023】
なお、エアバッグ60は、膨張部位69,74の上縁69a,74aに、複数の取付タブ40aが配設されており、これらの取付タブ40aを、縫製等により、保持体11の内側面側に取り付けて、保持体11に保持される。また、エアバッグ60は、着用エアバッグ装置10の作動前の状態では、腰保護部72,77の部位の下縁69b,74b側を、上縁69a,74a側に接近させつつ、腰保護部72,77内に入れ込むように、折り畳まれて、保持体11に保持される。
【0024】
エアバッグ60の流入口70,75の周縁には、すなわち、エアバッグ60の外周壁61の後面の表面側には、ガス発生器20における膨張用ガスGを吐出するガス吐出部20b側を接続させるガス切替機構23が配設されている。ガス切替機構23は、ガス発生器20からの膨張用ガスGを転倒方向側の膨張部位69,74に流すものであり、図2~5に示すように、ガス吐出部20b側と接続されるガス入口部25と、流入口70,75側に膨張用ガスGを流出させる流出側部49と、スライド部38と、スライド部38を位置規制するストッパ部29と、ガス導入室27と、を備えて構成されて、保持体11の背面部14の中央部14aの下部14dに、配設されている。
【0025】
ガス入口部25は、保護対象者1から離れたガス切替機構23の後端側に配設されて、ガス導入室27の後面側に配設されている。ガス入口部25は、ガス吐出部20bを挿入させて、ガス発生器20を保持可能な組付筒部25aを備えて構成されている。また、ガス入口部25は、ガス導入室27内に膨張用ガスGを流入させるガス導入口25bを、開口させている。
【0026】
ガス導入室27は、ガス入口部25からの膨張用ガスGをスライド部38やストッパ部29の配設部位に導くように貯留する部位であり、ガス入口部25を配設させた天井壁27aと、天井壁27aの外周縁から流出側部49側となる前方側に延びる略四角筒形状の周壁27bと、を備えて、天井壁27aと周壁27bとで囲まれた空間をガス貯留室27cとしている。
【0027】
周壁27bの天井壁27aから離れた端面側には、スライド部38の左右方向のずれ移動を停止させるストッパ部29が固着されている。ストッパ部29は、周壁27bの外縁側の外形形状と同様な四角枠状の左右の縦枠部29aと上下の横枠部29bとを備えて構成されている。ストッパ部29は、流出側部49とガス導入室27における周壁27bの底面27dとの間における中央の空間部位を、スライド部38を収納する収納部31としている。ストッパ部29の収納部31側の面、すなわち、内周面29c、では、左右の面が、スライド部38のスライド移動を停止させて位置規制する規制面(ストッパ面)32(L,R)としている。内周面29cの上下の面は、スライド部38の左右方向のスライド時(ずれ移動時)の案内面33(U,D)としている。
【0028】
ストッパ部29の規制面32L,32Rには、スライド部38の受止時における衝突音を低減させるための消音部35として、EPDM等からなるシート状のゴム材36が貼着されている。
【0029】
なお、スライド部38の左右のずれ移動は、着用エアバッグ装置10を着用した保護対象者1の左右方向への転倒時に発生し、その際、スライド部38は、転倒時の重力(慣性力)によって、転倒方向側にずれることとなる。
【0030】
また、ストッパ部29の前面側には、板状の流出側部49が配設されている。流出側部49は、エアバッグ60の外側壁62の流入口70,75の周縁を、当板51とで挟持するように、当板51と連結される。流出側部49には、流入口70,75と連通する2つのガス流出口49a,49bが開口されている。左右のガス流出口49a,49bは、対応する流入口70,75と同じ開口形状とし、後述するスライド部38の連通口41より、小さな開口としている。
【0031】
さらに、流出側部49のガス流出口49a,49bの収納部31側の周縁には、後述するスライド部38の連通口41に接近するように、隆起部49cが配設されている。
【0032】
なお、ストッパ部29、流出側部49、ガス導入室27、及び、スライド部38は、滑り性能の良好なポリアセタール(POM)等の合成樹脂から形成されている。
【0033】
スライド部38は、流出側部49の表面側(後面側)に配設され、詳しくは、ストッパ部29における収納部31内で、ガス導入室27における周壁27bの底面27dと流出側部49との間に配設されて、略長方形の板状の基板39から構成されている。スライド部38(基板39)の左右方向の中央には、上下方向に沿って延びた略長方形の連通口41が開口している。連通口41は、ガス流出口49a,49bより大きな開口としている。そして、着用エアバッグ装置10を着用した保護対象者1が左右の一方側に転倒して、スライド部38がずれ移動し、ずれ移動したスライド部38が規制面32L,32Rにより位置規制された際には、連通口41は、ガス流出口49a,49bの一方と前後方向で重なることとなる。また、スライド部38は、ずれ移動して、規制面32L,32Rの一方に位置規制されてガス流出口49a,49bの一方と、連通口41が連通すると、連通口41の周縁の左右方向の他方が、蓋部42(L,R)として、ガス流出口49a,49bの他方を塞ぐように、構成されている。その際、ガス流出口49a,49bの周縁に隆起部49cが配設されて、連通口41の周縁に隆起部49cが接近していることから、ガス流出口49a,49bの他方が、蓋部42(L,R)により、閉塞された状態となって、連通口41と連通された一方のガス流出口49a,49bに連通するエアバッグ60の流入口70,75の一方側にしか、膨張用ガスGが流れず、他方の流入口75,70には、膨張用ガスGが流れない閉口状態となるように構成されている。
【0034】
さらに、スライド部38のずれ移動時の摺動部位には、摩擦抵抗を抑制する抑制部44が配設されている。実施形態の場合、抑制部44は、スライド部38に配設されて、先細り状、実施形態では、略半球状(球冠状)、の複数の突起45から構成されている。突起45は、基板39の前面39a側における連通口4の周囲の四隅付近に、計4個、配設されている。各突起45は、流出側部49の後面(表面)側を、スライド部38の抑制部44の接触する摺動面53として、配設されている。また、各突起45は、スライド部38の左右へのずれ移動の際、流出側部49のガス流出口49a,49b周縁の隆起部49cと干渉しない位置に、配設されている。
【0035】
また、実施形態では、ガス切替機構23のガス導入口25bには、ガス導入口25bを塞ぐように、メッシュ状の残渣補足材21が、固着されている。残渣補足材21は、ガス発生器20の作動時に、残渣を補足して、膨張用ガスGを通過させるもので、エアバッグ60内への残渣の流入を防止する。残渣補足材21は、布製若しくは金属製のメッシュとしている。
【0036】
そして、着用エアバッグ装置10の製造は、ガス切替機構23をエアバッグ60に組み付け、さらに、ガス切替機構23にガス発生器20を組み付け、エアバッグ60の下縁69b,74bを上縁69a,74a側に接近させるように折り畳んで、取付タブ40aを利用して、保持体11に取り付けるとともに、予め、保持体11に取り付けておいた作動制御装置17からの作動信号入力用の図示しないリード線をガス発生器20に接続させれば、保持体11にエアバッグ60やガス発生器20等を保持させた着用エアバッグ装置10を製造することができる。
【0037】
実施形態の着用エアバッグ装置10では、締結具16を利用して、保持体11を保護対象者1の上半身1aに装着し、その後、保護対象者1が転倒等すると、センサ部18からの信号を入力していた作動制御装置17が、ガス発生器20を作動させる。すると、ガス切替機構23のスライド部38が、流出側部49の後面側の摺動面53を摺動して、転倒方向側にずれ、例えば、左方側にずれ、ストッパ部29の規制面32Lに位置規制されて、スライド部38の連通口41をガス流出口49aと連通させることから(図4のB、図5のB参照)、ガス発生器20におけるガス吐出部20bの吐出口20cから吐出された膨張用ガスGは、ガス導入口25b、ガス貯留室27c、連通口41、ガス流出口49aを経て、膨張部位69側へ流れ、かつ、スライド部38の蓋部42Rが、他の膨張部位74へ膨張用ガスGを流すガス流出口49b側を閉口させる。そのため、膨張用ガスGが、転倒方向側の膨張部位69側だけに流れて、図7のA,Bや図8のA,Bに示すように、所定の内圧を確保して、転倒先の接地面8との間に、膨張した膨張部位69が配設されて、保護対象部位3Lを保護できる。そして、膨張する膨張部位69は、他の膨張部位74と区画壁65により区画されて、他の膨張部位74に膨張用ガスGが流れないことから、安定して、所定の内圧を確保できて、ガス発生器20は、各膨張部位69,74を全て膨張させるような出力で無くともよいことから、小型で軽量なものが使用可能となる。
【0038】
なお、保護対象者1が、右方側に転倒すれば、上記と逆となって、転倒方向の右側に、スライド部38がずれ移動し、そして、スライド部38がストッパ部29の規制面32Rに位置規制されて、スライド部38の連通口41をガス流出口49bと連通させることから(図4のA、図5のA参照)、ガス発生器20におけるガス吐出部20bの吐出口20cから吐出された膨張用ガスGは、ガス導入口25b、ガス貯留室27c、連通口41、ガス流出口49bを経て、膨張部位74側へ流れ、かつ、スライド部38の蓋部42Lが、他の膨張部位69へ膨張用ガスGを流すガス流出口49a側を閉口させる。そのため、膨張用ガスGが、転倒方向側の膨張部位74側だけに流れて、転倒先の接地面8との間に、膨張した膨張部位74が配設されて、保護対象部位3Rを保護できる。そして、膨張する膨張部位74は、他の膨張部位69と区画壁65により区画されて、他の膨張部位69に膨張用ガスGが流れないことから、安定して、所定の内圧を確保して、保護対象部位3Rを保護できる。
【0039】
そして、実施形態では、スライド部38のずれ移動時、スライド部38の摺動部位には、摩擦抵抗を抑制する抑制部44が配設されており、スライド部38は、摩擦抵抗少なく、円滑に摺動して、転倒方向側の膨張部位69,74に連なるガス流出口49a,49b側に、連通口41を配置させることから、迅速に、転倒方向側の膨張部位69,74を膨張させることができる。
【0040】
したがって、実施形態の着用エアバッグ装置10では、ガス切替機構23が、保護対象者1の転倒時に、応答性良く、円滑にスライド部38を摺動させて、迅速に、転倒方向側の膨張部位69,74に膨張用ガスGを流すことができる。
【0041】
そして、実施形態の着用エアバッグ装置10では、抑制部44が、スライド部38に配設されて、抑制部44の接触する流出側部49の摺動面53に対する接触面積を小さくする先細り状(実施形態では、略半球状(球冠状))の複数の突起45から構成されている。
【0042】
そのため、実施形態では、スライド部38の抑制部44用の突起45が、抑制部44の接触する摺動面53に対する接触面を小さくしていることから、摩擦抵抗を低減できて、円滑に、スライド部38を摺動させることができる。
【0043】
さらに、実施形態では、ストッパ部29が、スライド部38を位置規制する規制面32(L,R)に、位置規制時の衝突音を低減させるゴム材36からなる消音部35、を配設させている。
【0044】
そのため、実施形態では、スライド部38が摺動してストッパ部29の規制面32(L,R)に位置規制される際、スライド部38が、消音部35と当接して、当接時に発生する衝突音が消音されて抑制されることから、異音が発生し難い。そのため、着用エアバッグ装置10を着用中に、ガス発生器20の作動しない状態の歩行等の通常動作を行って、ガス切替機構23のスライド部38が摺動して規制面32(L,R)に当接する状態となっても、異音が発生し難く、保護対象者1は、違和感無く、歩行等の動作を行える。
【0045】
また、実施形態の着用エアバッグ装置10では、エアバッグ60の複数の膨張部位69,74が、保護対象部位としての保護対象者1の腰部2の左右の大腿骨周りの大腿骨転子部3(L,R)、を覆い可能な左右の腰保護部72,77として構成されており、作動時、保護対象者1の左右の大腿骨回りの大腿骨転子部3(L,R)を保護することができる。
【0046】
なお、実施形態では、スライド部38の摺動部位に設ける抑制部44として、スライド部38における流出側部49側に面した部位だけに、すなわち、基板39の前面39a側だけに、複数の突起45を設けた場合を示したが、図9~11に示す着用エアバッグ装置10Aにおけるガス切替機構23Aのスライド部38Aに示すように、流出側部49側だけでなく、ガス導入室27における周壁27bの底面27d側となる基板39の後面39b側に、底面27dからなる摺動面55に対して摺動する先細り状の複数(図例では4個)の突起46を設け、さらに、基板39の上下の端面39c,39d側に、収納部31の案内面33(U,D)からなる摺動面56に対して摺動する先細り状の複数(図例では2個)の突起47を設けて、スライド部38Aの外周面における規制面32(L,R)と当接する部位を除く全域に、抑制部44としての先細り状の突起45,46,47を設けてもよい。
【0047】
上記の突起46,47は、いずれか一方だけに配設してもよい。
【0048】
また、抑制部44としては、スライド部38が摺動する摺動面側に、すなわち、流出側部49の摺動面53側に、先細り状の突起を設けてもよい。さらに、突起の他、滑り性能の良好なフッ素樹脂からなるテープ材等の滑材を、スライド部38側やスライド部38が摺動する摺動面側に、貼着させて、抑制部を構成してもよい。
【0049】
さらに、実施形態では、エアバッグ60等を保持する保持体11として、ベスト型を例示したが、袖部を有したジャケット型としてもよく、さらに、腰部2に巻き付けるベルト型としてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…保護対象者、2…腰部、3(L,R)…(保護対象部位)大腿骨転子部、10,10A…着用エアバッグ装置、20…ガス発生器、20b…ガス吐出部、23,23A…ガス切替機構、25…ガス入口部、29…ストッパ部、32(L,R)…(ストッパ面)規制面、35…消音部、38…スライド部、41…連通口、44…抑制部、45…(前面側)突起、49…流出側部、49a…(左)ガス流出口、49b…(右)ガス流出口、53…(流出側部・後面)摺動面、60…エアバッグ、61…外周壁、65…区画壁、69…(左)膨張部位、70…流入口、72…腰保護部、74…(右)膨張部位、75…流入口、77…腰保護部、
G…膨張用ガス。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11