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特開2023-180424摩擦クラッチおよびそれを備えた鞍乗型車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180424
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】摩擦クラッチおよびそれを備えた鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/50 20060101AFI20231214BHJP
   F16D 13/71 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
F16D13/50
F16D13/71 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093729
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100218084
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊光
(72)【発明者】
【氏名】西田 憲司
【テーマコード(参考)】
3J056
【Fターム(参考)】
3J056AA33
3J056AA37
3J056AA43
3J056AA62
3J056BA05
3J056BB16
3J056BE27
3J056CA07
3J056CC07
3J056CC14
3J056GA13
(57)【要約】
【課題】軸線方向の寸法を小さくできると共にアブソーバを大きくすることができる摩擦クラッチを提供すること。
【解決手段】摩擦クラッチ15は、クラッチ軸10と、クラッチハウジング20と、クラッチボス30と、クラッチスリーブ40と、クラッチハウジング20の第1スリーブ部22に支持された複数の第1プレート51と、クラッチスリーブ40の第2スリーブ部42に支持された複数の第2プレート52と、プレッシャプレート50と、プレッシャプレート50を第1プレート51および第2プレート52に向けて付勢するばね60と、クラッチスリーブ40とクラッチボス30との間に介在するアブソーバ70とを備える。アブソーバ70は、クラッチボス30の第2円板部31の右側、かつ、クラッチスリーブ40の第3円板部41の左側に配置されている。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に延びるクラッチ軸と、
前記クラッチ軸が貫通した第1円板部と、前記第1円板部から前記第1方向に延びる第1スリーブ部と、を有し、前記クラッチ軸に対して回転可能に支持されたクラッチハウジングと、
前記第1円板部に対して前記第1方向側に配置された第2円板部と、前記第2円板部から前記第1方向に延び、前記クラッチ軸が回転不能に係合した第1ボス部と、を有するクラッチボスと、
前記第2円板部に対して前記第1方向側に配置された第3円板部と、前記第3円板部から前記第1方向と逆方向である第2方向に延びる第2スリーブ部と、を有するクラッチスリーブと、
前記第1スリーブ部に支持され、前記第1方向に並んだ複数の第1プレートと、
前記第2スリーブ部に支持され、前記第1プレートに互い違いに配置された複数の第2プレートと、
前記第3円板部に対して前記第1方向側に配置され、前記第1プレートと前記第2プレートとを圧着させるプレッシャプレートと、
前記クラッチスリーブと前記プレッシャプレートとに取り付けられ、前記プレッシャプレートを前記第1プレートおよび前記第2プレートに向けて付勢するばねと、
前記第2円板部の前記第1方向側かつ前記第3円板部の前記第2方向側に配置され、前記クラッチスリーブと前記クラッチボスとの間に介在するアブソーバと、
を備えた摩擦クラッチ。
【請求項2】
前記クラッチスリーブは、前記第3円板部から前記第1方向に延びる第2ボス部を有し、
前記ばねは、前記第2ボス部にボルトにより取り付けられている、請求項1に記載の摩擦クラッチ。
【請求項3】
前記クラッチボスは、前記第2円板部から前記第1方向に延びかつ前記クラッチ軸の径方向の外方に延びる第1壁を有し、
前記クラッチスリーブは、前記第3円板部から前記第2方向に延びかつ前記クラッチ軸の径方向の内方に延びる第2壁を有し、
前記アブソーバの少なくとも一部は、前記クラッチ軸の軸線方向から見て前記第1壁と前記第2壁との間に配置されている、請求項1に記載の摩擦クラッチ。
【請求項4】
前記アブソーバは、前記第3円板部に対向する対向面を有し、
前記第3円板部は、前記クラッチ軸の径方向の外方かつ前記第1方向に延びており、
前記アブソーバの前記対向面は、前記クラッチ軸の径方向の外方かつ前記第1方向に延びている、請求項1に記載の摩擦クラッチ。
【請求項5】
前記アブソーバはゴムからなっている、請求項1に記載の摩擦クラッチ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一つに記載の摩擦クラッチを備えた鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃を吸収するアブソーバを有する摩擦クラッチおよびそれを備えた鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動二輪車等の鞍乗型車両において、多板式の摩擦クラッチが用いられている(例えば、特許文献1および2参照)。多板式の摩擦クラッチ100は、例えば図9に示すように、複数のプレート(以下、第1プレートという)101を支持するクラッチハウジング103と、複数のプレート(以下、第2プレートという)102を支持するクラッチスリーブ104と、クラッチ軸105に固定されたクラッチボス106と、第1プレート101と第2プレート102とを圧着させるプレッシャプレート107とを備える。この摩擦クラッチ100では、クラッチスリーブ104とクラッチボス106とは一体的に形成されている。
【0003】
鞍乗型車両において、摩擦クラッチは、内燃機関等の駆動源と駆動輪とを接続する動力伝達機構の途中に設けられる。摩擦クラッチが接続されると、駆動源から駆動輪へ駆動力が伝達される。摩擦クラッチが遮断されると、駆動源から駆動輪への動力伝達は遮断される。
【0004】
駆動源が内燃機関の場合、燃焼行程の度に駆動源から摩擦クラッチに衝撃的な力が伝達される。駆動源が内燃機関以外の場合であっても、駆動源の出力トルクが急上昇した場合などに、摩擦クラッチに衝撃的な力が伝達される。摩擦クラッチには、駆動源から衝撃的な力が伝達されたときにその衝撃を緩和するアブソーバが設けられている。図9に示す摩擦クラッチ100では、クラッチハウジング103の裏側(すなわち図9の左側)にアブソーバ108が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-3011号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0195307号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図9に示す摩擦クラッチ100では、クラッチハウジング103は、円板部103Aと、円板部103Aから表側に延びるスリーブ部103Bとを有している。アブソーバ108がクラッチハウジング103の裏側に配置されている場合、摩擦クラッチ100のクラッチ軸105の軸線方向(以下、単に軸線方向という)の寸法が大きくなる。
【0007】
図10に示すような摩擦クラッチ200が知られている。この摩擦クラッチ200は、第1プレート201を支持するクラッチハウジング203と、第2プレート202を支持するクラッチスリーブ204と、クラッチ軸205に固定されたクラッチボス206と、第1プレート201と第2プレート202とを圧着させるプレッシャプレート207とを備える。クラッチスリーブ204とクラッチボス206とは別体に形成されている。この摩擦クラッチ200では、クラッチスリーブ204とクラッチボス206との間にアブソーバ208が配置されている。アブソーバ208はクラッチハウジング203の表側に配置されているので、摩擦クラッチ200の軸線方向の寸法を小さくすることができる。
【0008】
プレッシャプレート207とクラッチスリーブ204との間には、プレッシャプレート207を付勢するばね211が介在している。クラッチスリーブ204には、表側に延びるボス部209が形成されている。ばね211は、ボルト210によりボス部209に固定されている。
【0009】
上記摩擦クラッチ200では、アブソーバ208はボス部209を避けるように配置しなければならない。そのため、アブソーバ208を大きくすることは難しい。しかし、アブソーバ208を大きくできれば、アブソーバ208の吸収可能なエネルギー量を高めることができるので好ましい。
【0010】
本発明の目的は、軸線方向の寸法を小さくできると共に、アブソーバを大きくすることができる摩擦クラッチおよびそれを備えた鞍乗型車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ここに開示される摩擦クラッチは、第1方向に延びるクラッチ軸と、クラッチハウジングと、クラッチボスと、クラッチスリーブと、複数の第1プレートと、複数の第2プレートと、プレッシャプレートと、ばねと、アブソーバと、を備える。前記クラッチハウジングは、前記クラッチ軸が貫通した第1円板部と、前記第1円板部から前記第1方向に延びる第1スリーブ部とを有し、前記クラッチ軸に対して回転可能に支持されている。前記クラッチボスは、前記第1円板部に対して前記第1方向側に配置された第2円板部と、前記第2円板部から前記第1方向に延び、前記クラッチ軸が回転不能に係合した第1ボス部とを有する。前記クラッチスリーブは、前記第2円板部に対して前記第1方向側に配置された第3円板部と、前記第3円板部から前記第1方向と逆方向である第2方向に延びる第2スリーブ部とを有する。前記複数の第1プレートは、前記第1スリーブ部に支持され、前記第1方向に並んでいる。前記複数の第2プレートは、前記第2スリーブ部に支持され、前記第1プレートに互い違いに配置されている。前記プレッシャプレートは、前記第3円板部に対して前記第1方向側に配置され、前記第1プレートと前記第2プレートとを圧着させる。前記ばねは、前記クラッチスリーブと前記プレッシャプレートとに取り付けられ、前記プレッシャプレートを前記第1プレートおよび前記第2プレートに向けて付勢する。前記アブソーバは、前記第2円板部の前記第1方向側かつ前記第3円板部の前記第2方向側に配置され、前記クラッチスリーブと前記クラッチボスとの間に介在する。
【0012】
上記摩擦クラッチにおいて、第1方向側は表側に対応し、第2方向側は裏側に対応する。上記摩擦クラッチによれば、アブソーバがクラッチハウジングの表側に配置されているので、摩擦クラッチの軸線方向の寸法を小さくすることができる。また、クラッチスリーブがクラッチボスの表側に配置されているので、クラッチボスとクラッチスリーブとの間に十分な大きさのスペースを確保することができる。アブソーバの収容スペースを大きくすることができるので、アブソーバを大きくすることができる。
【0013】
前記クラッチスリーブは、前記第3円板部から前記第1方向に延びる第2ボス部を有していてもよい。前記ばねは、前記第2ボス部にボルトにより取り付けられていてもよい。
【0014】
上記の構成によれば、ばねが取り付けられた第2ボス部は、第3円板部から表側に延びている。クラッチボスとクラッチスリーブとの間に第2ボス部は存在しない。そのため、クラッチボスとクラッチスリーブとの間に十分な大きさのスペースを確保することができる。第2ボス部が邪魔にならないので、アブソーバを大きくすることができる。
【0015】
前記クラッチボスは、前記第2円板部から前記第1方向に延びかつ前記クラッチ軸の径方向の外方に延びる第1壁を有していてもよい。前記クラッチスリーブは、前記第3円板部から前記第2方向に延びかつ前記クラッチ軸の径方向の内方に延びる第2壁を有していてもよい。前記アブソーバの少なくとも一部は、前記クラッチ軸の軸線方向から見て前記第1壁と前記第2壁との間に配置されていてもよい。
【0016】
前記アブソーバは、前記第3円板部に対向する対向面を有していてもよい。前記第3円板部は、前記クラッチ軸の径方向の外方かつ前記第1方向に延びていてもよい。前記アブソーバの前記対向面は、前記クラッチ軸の径方向の外方かつ前記第1方向に延びていてもよい。
【0017】
上記の構成によれば、クラッチスリーブの第3円板部が表側に凹んでいるので、アブソーバをより大きくすることができる。
【0018】
前記アブソーバはゴムからなっていてもよい。
【0019】
ここに開示される鞍乗型車両は、前記摩擦クラッチを備えたものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、軸線方向の寸法を小さくできると共に、アブソーバを大きくすることができる摩擦クラッチおよびそれを備えた鞍乗型車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態に係る自動二輪車の右側面図である。
図2】パワーユニットの断面図である。
図3】一実施形態に係る摩擦クラッチの断面図である。
図4】クラッチボスを右方から見た図である。
図5】クラッチスリーブを左方から見た図である。
図6】アブソーバについての図3のVI-VI線断面図である。
図7】クラッチボス、クラッチスリーブ、およびアブソーバについての図3のVI-VI線の端面図である。
図8】他の実施形態に係る摩擦クラッチの断面図である。
図9】従来の摩擦クラッチの一例に関する断面図である。
図10】従来の摩擦クラッチの他の一例に関する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係る摩擦クラッチおよび鞍乗型車両について説明する。図1は、鞍乗型車両の一例である自動二輪車1の右側面図である。
【0023】
以下の説明では特に断らない限り、前、後、左、右、上、下とは、乗員が乗車せずかつ荷物が載せられていない自動二輪車1が水平面上に直立した状態で停止している場合に、シート2に着座した仮想的な乗員から見た前、後、左、右、上、下をそれぞれ意味するものとする。図中のF、Re、L、R、U、Dは、それぞれ前、後、左、右、上、下を表す。
【0024】
自動二輪車1は、ヘッドパイプ3Aを有する車体フレーム3と、乗員が座るシート2と、パワーユニット5と、前輪6と、後輪8とを備えている。ヘッドパイプ3Aには、図示しないステアリング軸が左右に回転可能に支持されている。ステアリング軸の上部にはハンドルバー4が固定されている。ステアリング軸の下部にはフロントフォーク7が固定されている。前輪6はフロントフォーク7に支持されている。
【0025】
図2は、パワーユニット5の断面図である。パワーユニット5は、走行用の駆動源としての内燃機関90と、摩擦クラッチ(以下、クラッチという)15と、変速機95とを備えている。内燃機関90は、ピストン91と、ピストン91に接続されたコンロッド91Aと、コンロッド91Aに接続されたクランク軸92とを有している。パワーユニット5は、メイン軸93と、出力軸94とを備えている。クランク軸92、メイン軸93、および出力軸94は、互いに平行であり、左右方向に延びている。変速機95は、メイン軸93に設けられた複数のドライブギア95Aと、出力軸94に設けられた複数のドリブンギア95Bとを有している。出力軸94にはスプロケット96が固定されている。スプロケット96と後輪8とは、動力伝達部材としてのチェーン97によって連結されている。クランク軸92の駆動力は、クラッチ15、メイン軸93、ドライブギア95A、ドリブンギア95B、出力軸94、スプロケット96、およびチェーン97を通じて、後輪8に伝達される。クラッチ15は、クランク軸92の駆動力を後輪8に伝達する動力伝達機構の途中に設けられている。
【0026】
図3は、クラッチ15の断面図である。クラッチ15は、クラッチ軸10と、クラッチハウジング20と、クラッチボス30と、クラッチスリーブ40と、プレッシャプレート50と、ばね60と、アブソーバ70とを備えている。
【0027】
クラッチ軸10は右方に延びている。なお、右方は「第1方向」の一例であり、左方は「第2方向」の一例である。以下のクラッチ15に関する説明では、右側、左側をそれぞれ表側、裏側とも言う。本実施形態では、クラッチ軸10はメイン軸93と一体化されている(図2参照)。クラッチ軸10とメイン軸93とは単一の部品である。ただし、クラッチ軸10とメイン軸93とは別体であってもよい。クラッチ軸10とメイン軸93とは、同一軸線10L上に配置されていなくてもよく、例えば、互いに平行に配置されていてもよい。図中の符号10Lは、クラッチ軸10の軸線を表している。
【0028】
クラッチハウジング20は、クラッチ軸10が貫通した第1円板部21と、第1円板部21から右方に延びる第1スリーブ部22と、第1円板部21から左方に延びるボス部23を有している。第1円板部21は、クラッチ軸10の軸線10Lを中心とする円板状に形成されている。第1スリーブ部22は、クラッチ軸10の軸線10Lを中心とする円筒状に形成されている。ボス部23とクラッチ軸10との間には軸受24が設けられている。クラッチハウジング20は、クラッチ軸10に対して回転可能に支持されている。クラッチハウジング20は、クラッチ軸10に対して回転可能である。クラッチハウジング20にはギア25が設けられている。ギア25は、クランク軸92に固定されたギア98(図2参照)と噛み合っている。これらのギア98およびギア25を介して、クランク軸92からクラッチハウジング20に駆動力が伝達される。
【0029】
図4は、クラッチボス30を右方から見た図である。クラッチボス30は、第2円板部31と、第1ボス部32と、複数の第1壁34とを有している。第2円板部31は、クラッチ軸10の軸線10Lを中心とする円板状に形成されている。図3に示すように、第2円板部31は第1円板部21の右方に配置されている。第1ボス部32は第2円板部31から右方に延びている。第1ボス部32は、クラッチ軸10に回転不能に係合している。図4に示すように、第1ボス部32の孔には、スプライン溝32aが形成されている。第1ボス部32とクラッチ軸10とはスプライン嵌合されている。クラッチボス30は、クラッチ軸10と共に回転する。第1壁34は、第2円板部31から右方に延びると共に、クラッチ軸10の径方向の外方に延びている。第1壁34は放射状に配置されている。第1壁34の数は特に限定されないが、ここでは6つである。第1壁34は、クラッチ軸10の軸線10L周りに60°毎に配置されている。
【0030】
図5は、クラッチスリーブ40を左方から見た図である。クラッチスリーブ40は、第3円板部41と、第2スリーブ部42と、第2壁44とを有している。第3円板部41は、クラッチ軸10の軸線10Lを中心とする円板状に形成されている。第2スリーブ部42は、クラッチ軸10の軸線10Lを中心とする円筒状に形成されている。図3に示すように、第3円板部41は第2円板部31の右方に配置されている。第2スリーブ部42は、第3円板部41から左方に延びている。第2スリーブ部42は、第1ボス部32よりもクラッチ軸10の径方向の外方に配置されている。第2スリーブ部42は、第1スリーブ部22よりもクラッチ軸10の径方向の内方に配置されている。図5に示すように、第2壁44は、第3円板部41から左方に延びると共に、クラッチ軸10の径方向の内方に延びている。第2壁44は放射状に配置されている。第2壁44の数は特に限定されないが、ここでは第1壁34と同数であり、6つである。第2壁44は、クラッチ軸10の軸線10L周りに60°毎に配置されている。
【0031】
図3に示すように、第1スリーブ部22には、右方に並んだ複数の第1プレート51が支持されている。第2スリーブ部42には、右方に並んだ複数の第2プレート52が支持されている。第1プレート51と第2プレート52とは、互い違いに配置されている。
【0032】
プレッシャプレート50は、第1プレート51と第2プレート52とを圧着させる部品である。プレッシャプレート50は、クラッチスリーブ40の右方に配置されている。プレッシャプレート50は、円板部53と、第1プレート51または第2プレート52と接触する接触部54とを有している。ここでは、接触部54は第1プレート51に接触している。
【0033】
ばね60は、プレッシャプレート50を第1プレート51および第2プレート52に向けて付勢する。ここでは、ばね60は、プレッシャプレート50を左方に付勢する。ばね60の種類は特に限定されないが、本実施形態では、ばね60は板ばねによって構成されている。クラッチスリーブ40は、第3円板部41から右方に延びる第2ボス部43を有している。プレッシャプレート50には、第2ボス部43が貫通した孔55が形成されている。ばね60は、ボルト45により第2ボス部43に取り付けられている。ばね60は、プレッシャプレート50をクラッチスリーブ40に対して左方に付勢している。
【0034】
アブソーバ70は、クラッチハウジング20からクラッチボス30に伝わる衝撃を緩和する部材である。本実施形態では、アブソーバ70は、クラッチスリーブ40とクラッチボス30との間に配置され、クラッチスリーブ40からクラッチボス30に伝わる衝撃を緩和する。アブソーバ70の材料は衝撃を緩和できるものであれば足り、特に限定されない。本実施形態では、アブソーバ70はゴムからなっている。アブソーバ70の材料として、例えば、水素化ニトリルゴム(HNBR)を好適に用いることができる。アブソーバ70は、クラッチボス30の第2円板部31の右側、かつ、クラッチスリーブ40の第3円板部41の左側に配置されている。アブソーバ70は、クラッチスリーブ40とクラッチボス30との間に介在している。
【0035】
図6は、アブソーバ70についての図3のVI-VI線断面図である。図7は、クラッチボス30、クラッチスリーブ40、およびアブソーバ70についての図3のVI-VI線の端面図である。図7に示すように、アブソーバ70の少なくとも一部は、クラッチボス30の第1壁34とクラッチスリーブ40の第2壁44との間に配置されている。アブソーバ70の数は特に限定されないが、図6に示すように、本実施形態では6つである。アブソーバ70の数は、第1壁34および第2壁44と同数となっている。本実施形態では、アブソーバ70は、第2壁44が嵌め込まれる溝72と、溝72に対してクラッチ軸10の周方向の一方に位置する第1部分73と、周方向の他方に位置する第2部分74とを有している。アブソーバ70には、クラッチ軸10の軸線方向に延びる貫通孔は形成されていない。溝72は、クラッチ軸10の径方向に延び、左方に凹んでいる。溝72に第2壁44を嵌め込むことにより、第1部分73および第2部分74はそれぞれ第1壁34と第2壁44との間に配置される。第1部分73の容積と第2部分74の容積とは等しくてもよいが、ここでは第1部分73の容積は第2部分74の容積よりも大きい。
【0036】
前述したように、クランク軸92の駆動力は、クラッチスリーブ40からクラッチボス30に伝達される。上記駆動力は、クラッチスリーブ40の第2壁44から、アブソーバ70を介してクラッチボス30の第1壁34に伝達される。本実施形態では、クラッチスリーブ40は、図7の反時計回りの方向(以下、回転方向という)B1に回転する。アブソーバ70のうち比較的容積の大きな第1部分73は、第2壁44に対して回転方向B1の側に配置されている。アブソーバ70のうち比較的容積の小さな第2部分74は、第2壁44に対して、回転方向B1と逆方向B2の側に配置されている。第2壁44の回転方向B1側に比較的大きな部分(すなわち、第1部分73)が配置されることにより、第2壁44から第1壁34への衝撃をより効果的に緩和することができる。
【0037】
以上がクラッチ15の構成である。次に、本実施形態に係るクラッチ15によってもたらされる効果について説明する。
【0038】
本実施形態に係るクラッチ15によれば、図3に示すように、アブソーバ70がクラッチハウジング20の表側(すなわち右側)に配置されているので、クラッチ15の軸線方向の寸法を小さくすることができる。また、クラッチスリーブ40がクラッチボス30の表側に配置されているので、クラッチボス30とクラッチスリーブ40との間に十分な大きさのスペースを確保することができる。アブソーバ70の収容スペースを大きくすることができるので、アブソーバ70を大きくすることができる。したがって、クラッチ15を大型化することなく、アブソーバ70の吸収可能なエネルギー量を高めることができる。
【0039】
本実施形態によれば、ばね60が取り付けられた第2ボス部43は、クラッチスリーブ40の第3円板部41から表側に延びている。クラッチボス30とクラッチスリーブ40との間に、ばね60を取り付けるための第2ボス部43は存在しない。そのため、第2ボス部43に邪魔されることなく、クラッチボス30とクラッチスリーブ40との間に十分な大きさのスペースを確保することができる。第2ボス部43が邪魔にならないので、アブソーバ70を大きくすることができる。
【0040】
以上、一実施形態について説明したが、前記実施形態は例示に過ぎず、他にも様々な実施形態が可能である。次に、他の実施形態の例について説明する。
【0041】
図8は、他の実施形態に係るクラッチ15の断面図である。本実施形態では、クラッチスリーブ40の第2スリーブ部42は、第3円板部41から左方に延びる内側部分42aと、内側部分42aの左端部から右方に延びる外側部分42bとを有している。外側部分42bは、内側部分42aよりも径方向の外側に位置している。第2プレート52は、外側部分42bに支持されている。
【0042】
前記実施形態では、クラッチスリーブ40の第3円板部41は、クラッチ軸10の軸線10Lと垂直な方向に延びている(図3参照)。一方、本実施形態では、クラッチスリーブ40の第3円板部41は、クラッチ軸10の径方向の外方かつ右方に延びている。第3円板部41の径方向の外側部分は、右方に凹んでいる。アブソーバ70の右側の面は、第3円板部41に対向する対向面71である。対向面71は、クラッチ軸10の径方向の外方かつ右方に延びている。アブソーバ70のクラッチ軸10の径方向の外側部分は、第3円板部41の凹みに合わせて右方に出っ張っている。アブソーバ70は、クラッチボス30およびクラッチスリーブ40の形状に適合した形状に形成されている。アブソーバ70は、クラッチボス30とクラッチスリーブ40との間のスペースに合う形状に形成されている。本実施形態によれば、クラッチスリーブ40の第3円板部41が凹んでいるので、アブソーバ70のクラッチ軸10の軸線方向の寸法を大きくすることができる。アブソーバ70をより大きくすることができる。
【0043】
なお、前述の各実施形態では、クラッチ軸10は右方に延びているが、クラッチ軸10が延びる方向は特に限定されない。例えば、クラッチ軸10は左方に延びていてもよく、前方に延びていてもよく、後方に延びていてもよい。
【0044】
パワーユニット5が備える駆動源は内燃機関90に限らず、電動モータであってもよい。駆動源は特に限定される訳ではない。
【0045】
鞍乗型車両とは、乗員が跨がって乗車する車両のことである。鞍乗型車両は自動二輪車1に限定されない。鞍乗型車両は、例えば、自動三輪車、ATV(All Terrain vehicle)、スノーモービルであってもよい。
【0046】
ここに用いられた用語及び表現は、説明のために用いられたものであって限定的に解釈するために用いられたものではない。ここに示されかつ述べられた特徴事項の如何なる均等物をも排除するものではなく、本発明のクレームされた範囲内における各種変形をも許容するものであると認識されなければならない。本発明は、多くの異なった形態で具現化され得るものである。この開示は本発明の原理の実施形態を提供するものと見なされるべきである。それらの実施形態は、本発明をここに記載しかつ/又は図示した好ましい実施形態に限定することを意図するものではないという了解のもとで、実施形態がここに記載されている。ここに記載した実施形態に限定されるものではない。本発明は、この開示に基づいて当業者によって認識され得る、均等な要素、修正、削除、組み合わせ、改良及び/又は変更を含むあらゆる実施形態をも包含する。クレームの限定事項はそのクレームで用いられた用語に基づいて広く解釈されるべきであり、本明細書あるいは本願のプロセキューション中に記載された実施形態に限定されるべきではない。
【符号の説明】
【0047】
1…自動二輪車(鞍乗型車両)、10…クラッチ軸、20…クラッチハウジング、21…第1円板部、22…第1スリーブ部、30…クラッチボス、31…第2円板部、32…第1ボス部、34…第1壁、40…クラッチスリーブ、41…第3円板部、42…第2スリーブ部、43…第2ボス部、44…第2壁、45…ボルト、50…プレッシャプレート、51…第1プレート、52…第2プレート、60…ばね、70…アブソーバ、71…対向面、R…右方(第1方向)、L…左方(第2方向)
図1
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図10