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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180426
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】ロータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/22 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
H02K1/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093735
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】城崎 健
(72)【発明者】
【氏名】大河内 利典
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA22
5H601AA29
5H601GA02
5H601GA24
5H601GC02
5H601GC12
5H601GC20
5H601GC22
(57)【要約】
【課題】電磁鋼板を積層して形成されたロータコアを有するロータにおいてトルクリプルを低減することを課題とする。
【解決手段】ロータは、圧延方向に沿う第1の方向と、当該第1の方向に対して90°回転した第2の方向に沿う方向とで磁気特性が異なる異方性を有する電磁鋼板を積層して形成され、周方向に沿って4n(nは自然数)個の磁極部が形成されたロータコアと、前記磁極部毎に前記ロータコアに装着された磁石と、を有し、前記4n個の磁極部には、前記第1の方向を含む領域に形成された第1の磁極部と、前記第2の方向を含む領域に形成された第2の磁極部とが含まれ、前記第2の磁極部の一極当たりの前記磁石の総磁束量は、前記第1の磁極部の一極当たりの前記磁石の総磁束量よりも多い。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延方向に沿う第1の方向と、当該第1の方向に対して90°回転した第2の方向に沿う方向とで磁気特性が異なる異方性を有する電磁鋼板を積層して形成され、周方向に沿って4n(nは自然数)個の磁極部が形成されたロータコアと、
前記磁極部毎に前記ロータコアに装着された磁石と、を有し、
前記4n個の磁極部には、前記第1の方向を含む領域に形成された第1の磁極部と、前記第2の方向を含む領域に形成された第2の磁極部とが含まれ、
前記第2の磁極部の一極当たりの前記磁石の総磁束量は、前記第1の磁極部の一極当たりの前記磁石の総磁束量よりも多い、
ロータ。
【請求項2】
前記電磁鋼板の積層方向に直交する断面において、前記第2の磁極部の一極当たりの前記磁石の総断面積は、前記第1の磁極部の一極当たりの前記磁石の総断面積よりも大きい、
請求項1に記載のロータ。
【請求項3】
前記第1の磁極部の一極当たりの前記磁石の数と、前記第2の磁極部の一極当たりの前記磁石の数は同数であり、
前記磁石は、いずれも直方体であって、
前記磁石は、前記電磁鋼板の積層方向に直交する断面において、それぞれ磁極面に沿う方向に延びる第1辺と磁化容易方向に沿う方向に延びる第2辺とを有し、
前記第2の磁極部における前記第1辺は、前記第1の磁極部における前記第1辺よりも長い、
請求項1又は2に記載のロータ。
【請求項4】
前記第1の磁極部は径方向に沿って延びるd軸を挟んで隣り合う磁石装填孔間に形成された第1のセンターブリッジを有し、
前記第2の磁極部は径方向に沿って延びるd軸を挟んで隣り合う磁石装填孔間に形成された第2のセンターブリッジを有し、
前記第1のセンターブリッジの周方向の幅は、前記第2のセンターブリッジの周方向の幅よりも広い、
請求項1に記載のロータ。
【請求項5】
前記第2の磁極部に装着された前記磁石の磁束密度は、前記第1の磁極部に装着された磁石の磁束密度よりも高い、
請求項1に記載のロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数枚の電磁鋼板を積層して形成されたロータコアを有する回転電機用のロータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-033167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ロータコアに用いられる電磁鋼板は、その製造過程において圧延されており、圧延方向に対する方向によって磁気特性が異なる異方性を有していることがある。このような異方性の影響は、電磁鋼板を積層して形成されたロータコアにも現れる。ロータコアには、周方向に沿って複数の磁極部が形成されるが、各磁極部は、電磁鋼板が有する異方性の影響を受けて異なる磁気特性を有する。つまり、電磁鋼板を用いたロータコアでは、異なる磁気特性を有する磁極部が回転方向に沿って並ぶ。このため、ロータコアが回転するときのトルク変動量を示すトルクリプルが増大することがある。
【0005】
そこで、本明細書開示の発明は、電磁鋼板を積層して形成されたロータコアを有するロータにおいてトルクリプルを低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、圧延方向に沿う第1の方向と、当該第1の方向に対して90°回転した第2の方向に沿う方向とで磁気特性が異なる異方性を有する電磁鋼板を積層して形成され、周方向に沿って4n(nは自然数)個の磁極部が形成されたロータコアと、前記磁極部毎に前記ロータコアに装着された磁石と、を有し、前記4n個の磁極部には、前記第1の方向を含む領域に形成された第1の磁極部と、前記第2の方向を含む領域に形成された第2の磁極部とが含まれ、前記第2の磁極部の一極当たりの前記磁石の総磁束量は、前記第1の磁極部の一極当たりの前記磁石の総磁束量よりも多い、ロータによって達成することができる。
【0007】
上記構成のロータは、前記電磁鋼板の積層方向に直交する断面において、前記第2の磁極部の一極当たりの前記磁石の総断面積は、前記第1の磁極部の一極当たりの前記磁石の総断面積よりも大きい態様を採用することができる。
【0008】
また、上記構成のロータは、前記第1の磁極部の一極当たりの前記磁石の数と、前記第2の磁極部の一極当たりの前記磁石の数は同数であり、前記磁石は、いずれも直方体であって、前記磁石は、前記電磁鋼板の積層方向に直交する断面において、それぞれ磁極面に沿う方向に延びる第1辺と磁化容易方向に沿う方向に延びる第2辺とを有し、前記第2の磁極部における前記第1辺は、前記第1の磁極部における前記第1辺よりも長い態様を採用することができる。
【0009】
さらに、上記構成のロータは、前記第1の磁極部は径方向に沿って延びるd軸を挟んで隣り合う磁石装填孔間に形成された第1のセンターブリッジを有し、前記第2の磁極部は径方向に沿って延びるd軸を挟んで隣り合う磁石装填孔間に形成された第2のセンターブリッジを有し、前記第1のセンターブリッジの周方向の幅は、前記第2のセンターブリッジの周方向の幅よりも広い態様を採用することができる。
【0010】
また、上記構成のロータは、前記第2の磁極部に装着された前記磁石の磁束密度は、前記第1の磁極部に装着された磁石の磁束密度よりも高い態様としてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本明細書開示の発明は、電磁鋼板を積層して形成されたロータコアを有するロータにおいてトルクリプルを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1(A)は第1実施形態のロータを電磁鋼板の積層方向に直交する方向で断面とした断面図であり、図1(B)は第1実施形態におけるロータコアの側面図である。
図2図2(A)は第1実施形態のロータコアを形成する打ち抜き電磁鋼板が打ち抜かれる電磁鋼板素板の平面図であり、図2(B)は電磁鋼板素板から打ち抜き電磁鋼板を打ち抜く様子を模式的に示す斜視図である。
図3図3は第1実施形態におけるロータコアを形成する打ち抜き電磁鋼板を1枚ずつ180°回転させて積層する転積の様子を模式的に示す説明図である。
図4図4は第1実施形態のロータの一部を拡大して示す断面図である。
図5図5(A)は第1実施形態のロータが備える第1永久磁石の斜視図であり、図5(B)は第1実施形態のロータが備える第2永久磁石の斜視図である。
図6図6は第1永久磁石の第1辺の長さと第2永久磁石の第1辺の長さを比較して示す説明図である。
図7図7は第2実施形態のロータを電磁鋼板の積層方向に直交する方向で断面とした断面図である。
図8図8は第2実施形態のロータの一部を拡大して示す段面図である。
図9図9は第3実施形態のロータの一部を拡大して示す段面図である。
図10図10は第4実施形態のロータを電磁鋼板の積層方向に直交する方向で断面とした断面図である。
図11図11(A)は第4実施形態のロータが備える第6永久磁石の斜視図であり、図11(B)は第4実施形態のロータが備える第7永久磁石の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。ただし、図面中、各部の寸法、比率等は、実際のものと完全に一致するようには図示されていない場合がある。また、図面によっては細部が省略されて描かれている場合もある。
【0014】
(第1実施形態)
[ロータの構成]
まず、図1(A)及び図1(B)を参照して、第1実施形態のロータ5の概略について説明する。ロータ5は、ロータコア20と、このロータコア20に装着された第1永久磁石22、同じくロータコア20に装着された第2永久磁石23を備えている。ロータコア20は、概ね円筒形を有するステータ10の内側に同心配置され、ステータ10に対して回転可能に設けられる。ロータ5は、ステータ10とともに、IPM(Interior Permanent Magnet)型の回転電機を形成している。回転電機は、例えば、電動モータ、又は発電機、さらには、電動モータ及び発電機の両方の機能を有するモータジェネレータとして使用される。なお、本実施形態におけるステータ10は、U相、V相及びW相の3相からなり、ステータコイルを備えるが、図1(A)において、ステータコイルは省略されている。回転電機は、IPM型だけでなく、SPM(Surface Permanent Magnet)型であってもよい。
【0015】
以下の説明において、「軸方向」、「径方向」、「周方向」は、それぞれ、ロータコア軸方向、ロータコア径方向、ロータコア周方向を意味するものとする。
【0016】
ロータコア20は、図1(A)に示すように中心部に回転軸取付孔21を備えている。回転軸取付孔21には、図1(B)に示すように回転軸部材11が取り付けられる。回転軸取付孔21には、内側に向かって突出したキー突起21aが設けられている。キー突起21aは、180°隔てた2箇所に設けられている。キー突起21aは、図3に示す回転軸部材11が備えるキー溝11aと係合させた状態とされる。
【0017】
ロータコア20は、周方向に沿って4個の磁極部を備えている。具体的に、ロータコア20は、周方向に沿って2個の第1の磁極部5aと、2個の第2の磁極部5bの磁極部とを備えている。2個の第1の磁極部5aは180°隔てた位置に設けられている。また、2個の第2の磁極部5bは180°隔てた位置に設けられている。第1の磁極部5aと第2の磁極部5bは、周方向に交互に配置されている。隣接する第1の磁極部5aと第2の磁極部5bは、それぞれ90°ずつ回転した位置関係とされている。第1の磁極部5aと第2の磁極部5bの極性は、周方向に交互に反転している。例えば、2個の第1の磁極部5aの極性がいずれもS極である場合、2個の第2の磁極部5bの極性はいずれもN極となる。
【0018】
各磁極部は、両側端にq軸が配された扇形状を有している。各磁極部では、d軸が扇形状の中心部を径方向に沿って貫いている。第1の磁極部5aにおいてd軸が延びる方向を第1の方向とし、第2の磁極部5bにおいてd軸が延びる方向を第2の方向とすると、第2の方向は第1の方向に対して90°回転した方向となる。第1の方向と第2の方向は、ロータコア20を形成している電磁鋼板の圧延方向と関連している。電磁鋼板の圧延方向は、後に説明する。このため、第1の方向と第2の方向についても、後に電磁鋼板の圧延方向と併せて詳細に説明する。
【0019】
なお、本実施形態では、4個の磁極部が形成されているが、磁極部の数は、4n個(nは自然数)とすることができる。例えば、磁極部の数は、8個であってもよいし、12個であってもよく、さらに多くの磁極部を備えた態様としてもよい。
【0020】
[圧延方向、L方向及びC方向]
ロータコア20は、図2に示す電磁鋼板素板ESから打ち抜かれた複数枚の電磁鋼板(以下、「打ち抜き電磁鋼板」という)2001を積層することで形成されている。このとき、図1(B)に示すように、軸線AXが延びる軸方向が打ち抜き電磁鋼板2001の積層方向である。なお、図1(B)は、打ち抜き電磁鋼板2001が積層された様子を模式的に描いたものである。従って、図1(B)は実際の積層枚数が描かれているものではない。打ち抜き電磁鋼板2001の積層枚数は、ロータコア20の仕様によって、適宜設定される。
【0021】
打ち抜き電磁鋼板2001は、図2(B)に示すように、電磁鋼板素板ESから1枚ずつ打ち抜かれて形成される。ここで、電磁鋼板素板ESは、その製造工程において、圧延工程を経ている。その際の圧延方向は、図2(A)において矢示1aで示すように、電磁鋼板素板ESの長手方向(図2(A)における左右方向)と一致している。打ち抜き電磁鋼板2001は、このような電磁鋼板素板ESに対しパンチ2を矢示1bのように降下させることで打ち抜かれる。ここで、打ち抜き電磁鋼板2001において圧延方向と一致し、図2(A)において矢示1cで表される方向をL方向と称することとする。また、このL方向から90°回転し矢示1dで表される方向をC方向と称することとする。
【0022】
本実施形態では、このL方向が第1の方向とされている。また、C方向が第2の方向とされている。このため、図1(A)に示すように、第1の磁極部5aにおいてd軸が延びる方向がL方向とされている。また、第2の磁極部5bにおいてd軸が延びる方向がC方向とされている。これにより、第1の磁極部5aは、L方向、つまり、第1の方向を含む領域に形成された状態となっている。また、第2の磁極部5bは、C方向、つまり、第2の方向を含む領域に形成された状態となっている。
【0023】
[電磁鋼板の異方性]
ここで、電磁鋼板の異方性について説明する。電磁鋼板は、その素材や圧延工程によって種々の異方性を示すことが知られている。本実施形態に用いられる電磁鋼板素板ESは、磁気特性と機械的な強度特性とに異方性を示す。磁気特性は、材料における磁路を流れる磁束の流れ易さであり、磁気飽和特性や磁束密度特性と称されることもある。また、機械的な強度特性は、引張強さ、圧縮強さ、せん断強さなど、材料力学や材料強度学の分野において評価される特性である。
【0024】
本実施形態の電磁鋼板素板ESの磁気特性は、C方向の磁気特性<L方向の磁気特性、の序列を示す。つまり、C方向の磁気特性はL方向の磁気特性より低く、C方向はL方向と比較して磁束が流れにくい。
【0025】
一方、本実施形態の電磁鋼板素板ESの機械的な強度特性は、C方向の強度>L方向の強度、の序列を示す。つまり、C方向の強度はL方向の強度よりも高い。
【0026】
[転積構造]
図2(B)に示す要領で電磁鋼板素板ESから打ち抜かれた打ち抜き電磁鋼板2001は、図3に示すように、1枚ずつ180°回転させながら積層される。これにより、打ち抜き電磁鋼板2001が積層されたロータコア20においてL方向が一致した箇所が180°隔てた2箇所に形成される。この2箇所に形成された磁極部がそれぞれ第1の磁極部5aである。また、打ち抜き電磁鋼板2001を、1枚ずつ180°回転させながら積層することで、ロータコア20においてC方向が一致した箇所が180°隔てた2箇所に形成される。この2箇所に形成された磁極部がそれぞれ第2の磁極部5bである。
【0027】
転積自体は、従来のロータコアにおいても行われている。転積は、それぞれの打ち抜き電磁鋼板2001が備える形状上の特徴を打ち消し、安定した状態で打ち抜き電磁鋼板2001を積み上げることができる。打ち抜き電磁鋼板2001は、図2(B)で示すように、打ち抜かれて形成される。その際、周縁部が僅かに丸められたり、僅かに反りが生じたりするなど、打ち抜き電磁鋼板2001には、加工の影響が残る。積層される打ち抜き電磁鋼板2001は、いずれも加工の影響を受ける。このため、打ち抜き電磁鋼板2001を同じ方向で積層すると、例えば、特定の方向に傾斜するなど、安定した積層ができなくなる可能性がある。そこで、安定した状態で打ち抜き電磁鋼板2001を積層するべく、転積を行う。
【0028】
ここで、180°回転させることに対しては、製造上の理由が挙げられる。本実施形態では、180°隔てた位置に設けられたキー突起21a(図1(A)参照)に回転軸部材11が備えるキー溝11aを嵌合させて、回転軸部材11がロータコア20に取り付けられる。このため、本実施形態は、例えば、90°やその他の角度で回転させた状態で打ち抜き電磁鋼板2001を積層する態様を採用することができず、180°回転させた転積を採用している。ここで、キー突起の数を増やすことで回転させる角度を変更することも考えられる。しかしながら、その場合、回転軸部材に形成されるキー溝の数が増す。この結果、回転軸部材に対する加工の工数が増え、製造コストも上がることになる。これらを考慮すると、キー突起の増設は採用し難い。
【0029】
なお、例えば、打ち抜きの工作精度が高い場合や、積層枚数が少ないなど、安定した積層が確保できる場合には、打ち抜き電磁鋼板2001を回転させずに積層することも考えられる。この場合にも、180°転積した場合と同様のロータコア20が得られる。
【0030】
[永久磁石]
第1の磁極部5aには、2個の第1磁石装填孔22aが設けられている。2個の第1磁石装填孔22aは、d軸に対して線対称に設けられている。2個の第1磁石装填孔22aには、それぞれ第1永久磁石22が装填されている。第2の磁極部5bには、2個の第2磁石装填孔23aが設けられている。2個の第2磁石装填孔23aは、d軸に対して線対称に設けられている。2個の第2磁石装填孔23aには、それぞれ第2永久磁石23が装填されている。本実施形態における第1永久磁石22と第2永久磁石23は、同一種類の素材から形成されている。
【0031】
ここで、第1の磁極部5aの一極当たりの総磁束量Φ1と、第2の磁極部5bの一極当たりの総磁束量Φ2とを比較する。第2の磁極部5bの一極当たりの磁石の総磁束量Φ2は、第1の磁極部5aの一極当たりの磁石の総磁束量Φ1よりも多い。総磁束量は、それぞれの磁極に設けられた永久磁石の全体に流れるすべての磁束のことである。磁石は、総磁束量が多いほど、磁力が強くなる。本実施形態では、第1の磁極部5aには、一極当たり2個の第1永久磁石22が設けられている。このため、2個の第1永久磁石22に流れる磁束の合計が第1の磁極部5aの一極当たりの総磁束量Φ1となる。同様に、本実施形態では、第2の磁極部5bには、一極当たり2個の第2永久磁石23が設けられている。このため、2個の第2永久磁石23に流れる磁束の合計が第2の磁極部5bの一極当たりの総磁束量Φ2となる。
【0032】
本実施形態において、第1の磁極部5aの一極当たりの総磁束量Φ1と、第2の磁極部5bの一極当たりの総磁束量Φ2とをこのような関係に設定しているのは、以下の理由による。本実施形態のロータコア20は、上述のように異方性を有する打ち抜き電磁鋼板2001を積層して形成されている。このため、第1永久磁石22や第2永久磁石23が装着されていない状態のロータコア20において、第2の磁極部5bは第1の磁極部5aと比較して磁束が流れにくい。
【0033】
そこで、本実施形態では、打ち抜き電磁鋼板2001が有する磁気特性に関する異方性の影響を打ち消すべく、第2の磁極部5bの一極当たりの磁石の総磁束量Φ2が第1の磁極部5aの一極当たりの磁石の総磁束量Φ1よりも多くされている。
【0034】
本実施形態では、ロータコア20における打ち抜き電磁鋼板2001の積層方向に直交する断面における磁極部の一極当たりの磁石の総断面積の関係によって総磁束量Φ1と総磁束量Φ2との関係が規定されている。具体的に、図4に示す第2の磁極部5bにおいてハッチングを付して示した第2永久磁石23の断面積の合計が、第1の磁極部5aにおいてハッチングを付して示した第1永久磁石22の断面積の合計よりも大きくされている。
【0035】
これにより、各磁極部に永久磁石が装着された状態において、各磁極部の磁気特性が近くなり、磁気特性が平準化される。この結果、トルクリプルが低減され、ロータ5の滑らかな回転が実現される。
【0036】
本実施形態では、本実施形態における第1永久磁石22と第2永久磁石23は、同数であり、同一種類の素材から形成されている。また、第1永久磁石22と第2永久磁石23は、いずれも直方体である。しかしながら、図5(A)及び図5(B)に示すように、両者の寸法は異なっている。このため、第1永久磁石22と第2永久磁石23を比較すると、その断面積が異なっているだけでなく、その体積や、重量も異なっている。このため、第1の磁極部5aに装着された磁石と、第2の磁極部5bに装着された磁石とが同一種類の素材から形成されている場合には、総磁束量の評価をその体積や、重量によって行うようにしてもよい。例えば、第2の磁極部5bに装着された永久磁石の重量を第1の磁極部5aに装着された永久磁石の重量よりも大きくすることで、総磁束量Φ2と総磁束量Φ1との関係を所望の関係としてもよい。
【0037】
磁石の磁束量は、磁石が有する種々の要素の影響を受ける。例えば、永久磁石における磁極面に沿う方向の辺の長さは、磁石の磁束量に影響を与える。図6を参照すると、第1永久磁石22と第2永久磁石23は、打ち抜き電磁鋼板2001の積層方向に直交する断面としたときに、いずれも長方形であり、第1辺と第2辺を備える。第1辺は磁極面に沿う方向に延びる長辺であり、第2辺は磁化容易方向に沿う方向に延びる短辺である。各永久磁石には、短辺方向に沿ってN極とS極が形成されている。各永久磁石内においてN極とS極の間に磁束が流れる方向が磁化容易方向である。また、この磁化容易方向と直交する方向が磁極面に沿う方向である。永久磁石では、この第1辺が長くなると磁束量が多くなる。そこで、本実施形態では、第2永久磁石23の第1辺が、第1永久磁石22の第1辺よりも長くされている。これにより、総磁束量Φ2と総磁束量Φ1との関係が所望の関係となるようにされている。
【0038】
本実施形態では、第1の磁極部5aに装着された第1永久磁石22の数と、第2の磁極部5bに装着された第2永久磁石23の数が同数である。このため、両者の寸法を異ならせることで総磁束量に差を設けている。これに対し、第1の磁極部5aと第2の磁極部5bとで、永久磁石の数を異ならせることで総磁束量に差を設けるようにしてもよい。この場合、第1の磁極部5a及び第2の磁極部5bに装着する磁石として、素材、寸法、形状が同一の永久磁石を採用する。
【0039】
要は、第2の磁極部5bの一極当たりの磁石の総磁束量Φ2が第1の磁極部5aの一極当たりの磁石の総磁束量Φ1よりも多くなっていればよい。
【0040】
[センターブリッジ]
図4を参照すると、ロータ5における第1の磁極部5aは径方向に沿って延びるd軸を挟んで隣り合う第1磁石装填孔22aを備える。隣り合う第1磁石装填孔22a間には、第1のセンターブリッジ24が形成されている。また、ロータ5における第2の磁極部5bは径方向に沿って延びるd軸を挟んで隣り合う第2磁石装填孔23aを備える。隣り合う第2磁石装填孔23a間には、第2のセンターブリッジ25が形成されている。第1のセンターブリッジ24の周方向の幅W1は、第2のセンターブリッジ25の周方向の幅W2よりも広い。ここで、第1のセンターブリッジ24の周方向の幅W1は、d軸を挟んで隣り合う第1磁石装填孔22a間の最短距離である。また、第2のセンターブリッジ25の周方向の幅W2は、d軸を挟んで隣り合う第2磁石装填孔23a間の最短距離である。
【0041】
第1のセンターブリッジ24の径方向はL方向と一致し、第2のセンターブリッジ25の径方向はC方向と一致している。本実施形態のロータコア20において、C方向の機械的な強度特性は、L方向の機械的な強度特性よりも高い。このため、機械的な強度特性が低いL方向に沿って延びている第1のセンターブリッジ24の周方向の幅W1は機械的な強度特性が高いC方向に沿って延びている第2のセンターブリッジ25の周方向の幅W2よりも広く設定されている。これにより、第1のセンターブリッジ24の強度を確保することができる。
【0042】
なお、第1永久磁石22をロータ5の平面視、つまり、軸線AXに沿う方向からみたときに、第1磁石装填孔22aの第1永久磁石22の長手方向両側にはそれぞれ空隙が設けられている。同様に、第2磁石装填孔23aの第2永久磁石23の長手方向両側にはそれぞれ空隙が設けられている。これらの空隙は、それぞれフラックスバリアである。ロータ5は、フラックスバリアを備えない態様とすることもできる。
【0043】
本実施形態のロータ5では、第2の磁極部5bの一極当たりの磁石の総磁束量Φ2が、第1の磁極部5aの一極当たりの磁石の総磁束量Φ1よりも多い。これにより、磁極部間の磁気特性が平準化されてトルクリプルが低減され、ロータ5の滑らかな回転が実現される。
【0044】
(第2実施形態)
次に、図7及び図8を参照して、第2実施形態のロータ105について説明する。第2実施形態は、第1実施形態における第1の磁極部5a及び第2の磁極部5bに代えて、第1の磁極部105a及び第2の磁極部105bを備えている。
【0045】
第1の磁極部105aは、第3磁石装填孔122aと、この第3磁石装填孔122aよりも径方向内側に設けられた第4磁石装填孔122bを備える。第3磁石装填孔122aと第4磁石装填孔122bは、L方向に沿って延びるd軸に対して線対称に設けられている。
【0046】
第3磁石装填孔122aには、1個の第3永久磁石122が装填されている。第4磁石装填孔122bには、2個の第3永久磁石122が装填されている。従って、第1の磁極部105aの一極当たりの第3永久磁石122の数は6個である。
【0047】
第2の磁極部105bは、2個の第5磁石装填孔123aと、これらの第5磁石装填孔123aよりも径方向内側に設けられた2個の第6磁石装填孔123bを備える。2個の第5磁石装填孔123aは、C方向に沿って延びるd軸に対して線対称に設けられている。同様に、2個の第6磁石装填孔123bは、C方向に沿って延びるd軸に対して線対称に設けられている。
【0048】
第5磁石装填孔123aには、1個の第4永久磁石123が装填されている。第6磁石装填孔123bには、2個の第4永久磁石123が装填されている。従って、第2の磁極部105bの一極当たりの第4永久磁石123の数は6個である。
【0049】
本実施形態における第3永久磁石122と第4永久磁石123は、同一種類の素材から形成されている。ただし、打ち抜き電磁鋼板の積層方向に直交するロータ105の断面において、第3永久磁石122と第4永久磁石123は相似形とされており、その断面積は異なっている。
【0050】
第2実施形態におけるロータコア120は、第1実施形態のロータコア20と同様の異方性を有している。つまり、C方向の磁気特性はL方向の磁気特性より低く、C方向はL方向と比較して磁束が流れにくい。
【0051】
そこで、第2実施形態では、図8に示す第2の磁極部105bにおいてハッチングを付して示した第4永久磁石123の断面積の合計が、第1の磁極部105aにおいてハッチングを付して示した第3永久磁石122の断面積の合計よりも大きく設定されている。これにより、第2の磁極部105bの一極当たりの総磁束量Φ2が第1の磁極部105aの一極当たりの総磁束量Φ1よりも多い。
【0052】
このように、各磁極部に設けられた永久磁石の数が増しても、その断面積の大小によって磁石の総磁束量を調節することができる。
【0053】
これにより、各磁極部に永久磁石が装着された状態において、各磁極部の磁気特性が近くなり、磁気特性が平準化される。この結果、トルクリプルが低減され、ロータ105の滑らかな回転が実現される。
【0054】
なお、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、第1の磁極部105aに形成される第1のセンターブリッジの周方向の幅は、第2の磁極部105bに形成される第2のセンターブリッジの周方向の幅よりも広く設定されている。
【0055】
(第3実施形態)
次に、図9を参照して、第3実施形態のロータ205について説明する。第3実施形態は、第2実施形態における第1の磁極部105a及び第2の磁極部105bに代えて、第1の磁極部205a及び第2の磁極部205bを備えている。
【0056】
第1の磁極部205aは、2個の第7磁石装填孔222aを備える。2個の第7磁石装填孔222aは、L方向に沿って延びるd軸に対して線対称に設けられている。
【0057】
第7磁石装填孔222aには、それぞれ2個の第5永久磁石222が装填されている。従って、第1の磁極部205aの一極当たりの第5永久磁石の数は4個である。
【0058】
第2の磁極部205bは、2個の第8磁石装填孔223aと、これらの第8磁石装填孔223aよりも径方向内側に設けられた2個の第9磁石装填孔223bを備える。2個の第8磁石装填孔223aは、C方向に沿って延びるd軸に対して線対称に設けられている。同様に、2個の第9磁石装填孔223bは、C方向に沿って延びるd軸に対して線対称に設けられている。
【0059】
第8磁石装填孔223aには、1個の第5永久磁石222が装填されている。第9磁石装填孔223bには、2個の第5永久磁石222が装填されている。従って、第2の磁極部205bの一極当たりの第5永久磁石222の数は6個である。
【0060】
本実施形態では、各磁極部に装着されている磁石は、いずれも第5永久磁石である。つまり、全ての永久磁石は、同一種類の素材から形成されている。また、打ち抜き電磁鋼板の積層方向に直交するロータ205の断面において、その断面積は一致している。
【0061】
第3実施形態におけるロータコア220は、第1実施形態のロータコア20や第2実施形態のロータコア220と同様の異方性を有している。つまり、C方向の磁気特性はL方向の磁気特性より低く、C方向はL方向と比較して磁束が流れにくい。
【0062】
そこで、第3実施形態では、図9に示す第2の磁極部205bにおいてハッチングを付して示した第5永久磁石222の断面積の合計は、第1の磁極部205aにおいてハッチングを付して示した第5永久磁石222の断面積の合計よりも大きく設定されている。これにより、第2の磁極部205bの一極当たりの総磁束量Φ2が第1の磁極部205aの一極当たりの総磁束量Φ1よりも多くされている。
【0063】
これにより、各磁極部に永久磁石が装着された状態において、各磁極部の磁気特性が近くなり、磁気特性が平準化される。この結果、トルクリプルが低減され、ロータ205の滑らかな回転が実現される。
【0064】
ここで、第3実施形態を第1実施形態や第2実施形態と比較すると、以下の相違点がある。第1、第2実施形態では、磁極部一極当たりの永久磁石の数が同数である。しかしながら、第1の磁極部に設けられた永久磁石の個々の断面積と第2の磁極部に設けられた永久磁石の個々の断面積は、異なっている。これに対し、第3実施形態では、磁極部一極当たりの永久磁石の数が異なっている。これにより、第2の磁極部205bの一極当たりの総断面積が、第1の磁極部205aの一極当たりの総断面積よりも大きく設定されている。
【0065】
磁極部一極当たりの総面積は、個々の永久磁石の断面積や、永久磁石の数の組み合わせによって種々設定することができる。このため、永久磁石の個々の断面積や永久磁石の数は、第2の磁極部の一極当たりの総断面積が第1の磁極部の一極当たりの総断面積よりも大きくなるように、適宜組み合わせることができる。
【0066】
(第4実施形態)
次に、図10及び図11を参照して、第4実施形態もロータ305について説明する。第4実施形態は、第1実施形態における第1の磁極部5a及び第2の磁極部5bに代えて、第1の磁極部305a及び第2の磁極部305bを備えている。
【0067】
第1の磁極部305aは、第10磁石装填孔322aを備える。第10磁石装填孔322aは、L方向に沿って延びるd軸に対して線対称に設けられている。第10磁石装填孔322aには、1個の第6永久磁石322が装填されている。
【0068】
第2の磁極部305bは、第11磁石装填孔323aを備える。第11磁石装填孔323aは、C方向に沿って延びるd軸に対して線対称に設けられている。第11磁石装填孔323aには、1個の第7永久磁石323が装填されている。
【0069】
本実施形態における第6永久磁石322と第7永久磁石323は、同一寸法である。従って、打ち抜き電磁鋼板の積層方向に直交するロータ305の断面において、第6永久磁石322の断面積と第7永久磁石323の断面積は同じである。
【0070】
第4実施形態におけるロータコア320は、第1実施形態のロータコア20と同様の異方性を有している。つまり、C方向の磁気特性はL方向の磁気特性より低く、C方向はL方向と比較して磁束が流れにくい。
【0071】
そこで、第4実施形態では、図11(B)に示す第7永久磁石323の磁束密度B2を、図11(A)に示す第6永久磁石322の磁束密度B1よりも高くしている。これにより、第2の磁極部305bの一極当たりの総磁束量Φ2は第1の磁極部305aの一極当たりの総磁束量Φ1よりも多い。なお、磁束密度は、磁力の強さを示すものであり、単位面積当たりに流れる磁束の量である。本実施形態では、第6永久磁石322と第7永久磁石323は、同一寸法である。このため、磁束密度が高い第7永久磁石323の方が、第6永久磁石322よりも磁力が強い。
【0072】
これにより、各磁極部に永久磁石が装着された状態において、各磁極部の磁気特性が近くなり、磁気特性が平準化される。この結果、トルクリプルが低減され、ロータ305の滑らかな回転が実現される。
【0073】
このように、各磁極部に設けられた永久磁石の数、寸法が同じであっても、磁束密度が異なる永久磁石を選定することで磁極部一極当たりの総磁束量を調節することができる。
【0074】
本実施形態は、同一寸法である第6永久磁石322と第7永久磁石323を備える。第6永久磁石322の数と第7永久磁石323の数は同数である。ここで、永久磁石の寸法や数は、必ずしも同一でなくてもよい。異なる磁束密度を有する永久磁石が選定された場合、永久磁石の寸法や数は、その磁束密度に応じて適宜設定するようにしてもよい。
【0075】
上記実施形態は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、更に本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。
【符号の説明】
【0076】
5、105、205 ロータ 5a、105a 第1の磁極部
5b、105b 第2の磁極部 10 ステータ
20 ロータコア 22a 第1磁石装填孔
22 第1永久磁石 23a 第2磁石装填孔
23 第2永久磁石 24 第1のセンターブリッジ
25 第2のセンターブリッジ 122 第3永久磁石
122a 第3磁石装填孔 122b 第4磁石装填孔
123 第4永久磁石 123a 第5磁石装填孔
123b 第6磁石装填孔 222 第5永久磁石
222a 第7磁石装填孔 223a 第8磁石装填孔
223b 第9磁石装填孔 322 第6永久磁石
322a 第10磁石装填孔 323 第7永久磁石
323a 第11磁石装填孔 2001 打ち抜き電磁鋼板
図1
図2
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図5
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図10
図11