(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180429
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】ボンド磁石用樹脂組成物、ボンド磁石の製造方法、及びボンド磁石
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20231214BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20231214BHJP
C08J 3/215 20060101ALI20231214BHJP
C08L 79/02 20060101ALI20231214BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20231214BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20231214BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C08L77/00
C08J5/00 CFG
C08J3/215
C08L79/02
C08K5/29
C08K3/01
H01F1/057 180
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093743
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】横尾 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】堀 有加里
【テーマコード(参考)】
4F070
4F071
4J002
5E040
【Fターム(参考)】
4F070AA38
4F070AA54
4F070AB11
4F070AC11
4F070AC66
4F070AE04
4F070AE21
4F070FA03
4F070FA17
4F070FB06
4F070FC06
4F071AA37
4F071AA54
4F071AA55
4F071AB11
4F071AB27
4F071AC19
4F071AE09
4F071AE14
4F071AF23Y
4F071AF41Y
4F071BA01
4F071BB05
4J002CL011
4J002CL031
4J002CM012
4J002DE096
4J002DE116
4J002DF016
4J002DK006
4J002ER007
4J002FD016
4J002FD067
4J002FD097
4J002FD206
4J002FD207
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GR02
4J002GT00
5E040AA04
5E040BB04
5E040CA01
5E040NN04
(57)【要約】
【課題】混錬性、成形性及び耐熱性に優れるボンド磁石が得られるボンド磁石用樹脂組成物、並びに、前記ボンド磁石用樹脂組成物を用いたボンド磁石及びその製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂成分と、磁性粉体とを含むボンド磁石用樹脂組成物であって、前記樹脂成分は、90~99.9質量%のポリアミド(A)と、0.1~10質量%のニグロシン(B)を含む、ボンド磁石用樹脂組成物。ボンド磁石用樹脂組成物の射出成形品であるボンド磁石であって、前記ボンド磁石の総質量に対する樹脂成分の含有割合は4質量%以上15質量%以下であり、磁性粉体の含有割合は85質量%以上96質量%以下であり、前記樹脂成分は、90~99.9質量%のポリアミド(A)と、0.1~10質量%のニグロシン(B)を含む、ボンド磁石。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分と、磁性粉体とを含むボンド磁石用樹脂組成物であって、
前記樹脂成分は、90~99.9質量%のポリアミド(A)と、0.1~10質量%のニグロシン(B)を含む、ボンド磁石用樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂成分はポリエチレンイミン(C)を含み、
100質量%の前記樹脂成分中の前記ポリエチレンイミン(C)の含有割合は、0.1~5質量%である、請求項1に記載のボンド磁石用樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド(A)はポリアミド66である、請求項1又は2に記載のボンド磁石用樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂成分と、磁性粉体とを溶融混練し、ボンド磁石用樹脂組成物を得る工程と、
得られたボンド磁石用樹脂組成物を射出成形して、ボンド磁石を得る工程を含む、ボンド磁石の製造方法であって、
前記ボンド磁石用樹脂組成物は、ボンド磁石用樹脂組成物の総質量に対して、4質量%以上15質量%以下の樹脂成分と、85質量%以上96質量%以下の磁性粉体と、を含み、
前記樹脂成分は、90~99.9質量%のポリアミド(A)と、0.1~10質量%のニグロシン(B)を含む、ボンド磁石の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂成分は、ポリエチレンイミン(C)を含み、
100質量%の前記樹脂成分中の前記ポリエチレンイミン(C)の含有割合は、0.1~5質量%である、請求項4に記載のボンド磁石の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のボンド磁石用樹脂組成物の射出成形品であるボンド磁石であって、
前記ボンド磁石の総質量に対する樹脂成分の含有割合は4質量%以上15質量%以下であり、磁性粉体の含有割合は85質量%以上96質量%以下であり、
前記樹脂成分は、90~99.9質量%のポリアミド(A)と、0.1~10質量%のニグロシン(B)を含む、ボンド磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンド磁石用樹脂組成物、ボンド磁石の製造方法、及びボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類磁石は、高い磁気特性を発揮するため、省エネルギー化や軽量化が望まれる電化製品や自動車等の各種機器に利用されている。希土類磁石には、希土類磁石粉末(以下、単に「磁石粉末」という)の焼結体や熱間成形体からなる緻密磁石と、射出成形、圧縮成形、押出成形等により磁石粉末を樹脂(バインダー樹脂)で結着させたボンド磁石がある。最近では、成形自由度が高く軽薄部品等の製造にも適したボンド磁石が多用される傾向にある。
【0003】
ボンド磁石を用いる場合、その磁気特性や耐熱性、靭性の向上を図るのみならず、磁石粉末とバインダー樹脂を加熱混錬して磁石原料を得るコンパウンド等での混錬性や、そのバインダー樹脂を溶融させて射出成形等するときの成形性を確保することも重要となる。バインダー樹脂としては、ポリアミド(PA)やポリフェニレンサルファイド(PPS)が知られている(例えば、特許文献1~4等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-067957号公報
【特許文献2】特開平6-287445号公報
【特許文献3】特許第6862725号公報
【特許文献4】特許第5234207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、バインダー樹脂としてポリアミド66(PA66)を用いてアミノ基とカルボキシ基の末端基量を調整し、混錬性や成形性を保持しつつ耐熱性の改善を試みているが、押出性、成形性、磁性粉体充填量には改善の余地がある。
【0006】
特許文献2では、バインダー樹脂をPA6とし、ゴムとポリエチレンイミンを併用し、成形加工時の流動性、耐収縮割れ性を改良しているが、耐熱性、成形性には、改善の余地がある。
【0007】
特許文献3では、バインダー樹脂をPA6とし、あらかじめ磁性粉体にポリエチレンイミンと長鎖脂肪酸を展着させることで、成形加工時の流動性を改良しているが、耐熱性、製造法には、改善の余地がある。
【0008】
特許文献4では、バインダー樹脂をPPSと少量のPAを併用し、PPSの耐熱性を保持しつつ、混錬性や成形性の向上を試みているが、成形性、磁力、靭性には、改善の余地がある。
【0009】
現状市販されているボンド磁石中のバインダー樹脂としては、PA6、PA12、ポリフェニレンサルファイド(PPS)が使用されている。PA6やPA12は、融点が低く、成形性に優れる一方、耐熱性に課題が残る。PPSは、耐熱性に優れるが、ボンド磁石製造時の成形性やボンド磁石の靭性に劣る。融点が230℃以上である樹脂組成物を用いる場合には、耐熱性を向上させることができる。
【0010】
しかしながら、磁性粉体との樹脂組成物の押出混錬時に、加工温度をより高くする必要があるため、磁性粉体存在下、ポリアミド同士の重縮合や架橋反応により増粘現象が発生する。また、磁性粉体を高充填したボンド磁石を射出磁場成形する際には、射出圧が高くなり、充填不可となる。よって、靭性、耐熱性、磁性粉体との押出混錬性、射出磁場成形性の両立は困難であった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、磁性粉体との押出混錬性、射出磁場成形性、及び耐熱性、靭性に優れるボンド磁石が得られるボンド磁石用樹脂組成物、並びに、前記ボンド磁石用樹脂組成物を用いたボンド磁石及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1]樹脂成分と、磁性粉体とを含むボンド磁石用樹脂組成物であって、前記樹脂成分は、90~99.9質量%のポリアミド(A)と、0.1~10質量%のニグロシン(B)を含む、ボンド磁石用樹脂組成物。
[2]前記樹脂成分はポリエチレンイミン(C)を含み、100質量%の前記樹脂成分中の前記ポリエチレンイミン(C)の含有割合は、0.1~5質量%である、[1]に記載のボンド磁石用樹脂組成物。
[3]前記ポリアミド(A)はポリアミド66である、[1]又は[2]に記載のボンド磁石用樹脂組成物。
[4]樹脂成分と、磁性粉体とを溶融混練し、ボンド磁石用樹脂組成物を得る工程と、得られたボンド磁石用樹脂組成物を射出成形して、ボンド磁石を得る工程を含む、ボンド磁石の製造方法であって、前記ボンド磁石用樹脂組成物は、ボンド磁石用樹脂組成物の総質量に対して、4質量%以上15質量%以下の樹脂成分と、85質量%以上96質量%以下の磁性粉体と、を含み、前記樹脂成分は、90~99.9質量%のポリアミド(A)と、0.1~10質量%のニグロシン(B)を含む、ボンド磁石の製造方法。
[5]前記樹脂成分は、ポリエチレンイミン(C)を含み、100質量%の前記樹脂成分中の前記ポリエチレンイミン(C)の含有割合は、0.1~5質量%である、[4]に記載のボンド磁石の製造方法。
[6][1]~[3]のいずれか1つに記載のボンド磁石用樹脂組成物の射出成形品であるボンド磁石であって、前記ボンド磁石の総質量に対する樹脂成分の含有割合は4質量%以上15質量%以下であり、磁性粉体の含有割合は85質量%以上96質量%以下であり、前記樹脂成分は、90~99.9質量%のポリアミド(A)と、0.1~10質量%のニグロシン(B)を含む、ボンド磁石。
【発明の効果】
【0013】
上記態様のボンド磁石用樹脂組成物によれば、押出時の混錬性、射出成形性、耐熱性に優れるボンド磁石が得られるボンド磁石用樹脂組成物を提供することができる。上記態様のボンド磁石及びボンド磁石の製造方法は、前記ボンド磁石用樹脂組成物を用いるものであって、押出時の混錬性、射出成形性、耐熱性に優れるボンド磁石が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0015】
数値範囲について、例えば「1~10質量%」と記載した場合、1質量%から10質量%までの範囲であって下限値(1質量%)と上限値(10質量%)を含む数値範囲、すなわち「1質量%以上10質量%以下」を意味する。
【0016】
<ボンド磁石用樹脂組成物>
本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物は、樹脂成分と、磁性粉体とを含む。樹脂成分は、90~99.9質量%のポリアミド(A)と、0.1~10質量%のニグロシン(B)を含む。
本実施形態の一態様において、樹脂成分は、90~99.9質量%のポリアミド(A)と、0.1~10質量%のニグロシン(B)からなる。
【0017】
上記構成を有する本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物を用いると、磁性粉体との押出混錬性、磁場成形性、及び耐熱性に優れるボンド磁石が得られる。
【0018】
次いで、本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物の各構成成分について以下に詳細を説明する。
【0019】
樹脂成分は、ポリアミド(A)、ニグロシン(B)及び任意のポリエチレンイミン(C)を含む。
【0020】
≪ポリアミド(A)≫
本実施形態に用いるポリアミド(A)としては、例えば、ジカルボン酸とジアミンとの重縮合物、環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物などが挙げられ、具体的にはポリ(カプロラクタム)(以下ポリアミド6と略す)、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(以下ポリアミド66と略す)、ポリ(テトラメチレンアジパミド)(以下ポリアミド46と略す)、ポリ(ヘキサメチレンセバカミド)(以下ポリアミド610と略す)、ポリ(ヘキサメチレンドデカミド)(以下ポリアミド612と略す)、ポリ(ウンデカメチレンアジパミド)(以下ポリアミド116)、ポリ(ウンデカラクタム)(以下ポリアミド11と略す)、ポリ(ドデカラクタム)(以下ポリアミド12と略す)等の脂肪族ポリアミドやポリ(メタキシリレンアジパミド)(以下ポリアミドMXD6と略す)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)(以下ポリアミド6Tと略す)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)(以下ポリアミド6Iと略す)、ポリ(ノナメチレンテレフタルアミド)(以下ポリアミド9Tと略す)、ポリ(ドデカメチレンテレフタルアミド)(以下ポリアミド12Tと略す)、ポリ(テトラメチレンイソフタルアミド)(以下ポリアミド4Iと略す)等の芳香族成分を含むポリアミド及び上記の脂肪族ポリアミド同士や芳香族成分を含むポリアミド同士や脂肪族ポリアミド同士と芳香族成分を含むポリアミドの共重合体や混合物を挙げることができる。
【0021】
ポリアミド(A)の融点が低いと、成形品におけるHDT(荷重たわみ温度)等の耐熱性が低下してしまう。また、ポリアミド(A)の融点が高すぎると、磁性粉体との混錬の際に熱劣化進行してしまう。そのため、本実施形態に用いられるポリアミド(A)は、融点が220℃以上270℃以下であることが好ましい。
【0022】
このようなポリアミド(A)としては、例えば、ポリアミド66、ポリアミドMXD6、66/6I共重合ポリアミド、66/6共重合ポリアミド、6I/6T共重合ポリアミド、66/6I/6T三元共重合ポリアミド、66/6I/6三元共重合ポリアミド、6/6I/6T三元共重合ポリアミドが挙げられる。ポリアミド(A)には、これらのポリアミドやポリアミド6等の低融点ポリアミドと混合され、融点が240℃以上で且つ270℃以下のポリアミド樹脂も含まれる。
【0023】
さらに好ましくは、ポリアミド(A)は、成形性、物性に優れるポリアミド66、66/6共重合ポリアミド、66/6I共重合ポリアミドであり、また、これらのポリアミドやポリアミド6Iやポリアミド6と混合され、融点が240℃以上で且つ270℃以下のポリアミド樹脂も含まれる。最も好ましくは、靭性と耐熱性の観点から、ポリアミド66である。
【0024】
[ポリアミド末端基濃度]
ポリアミド(A)は、アミノ基末端(NH2基)とカルボキシ基末端(COOH基)が等モルに近く、磁性粉体と混錬する際にNH2基とCOOH基、或いはNH2基同士が反応して、分子量が増大し、増粘する傾向にある。このため、ポリアミドのNH2基とCOOH基のバランスを調整し(等モルから遠ざけ)、アミノ基末端量とカルボキシ基末端量の総量を少なくすることにより、ポリアミド特有の増粘現象が低減することができる。
ポリアミド(A)は、アミノ基末端量とカルボキシ基末端量の総量が140.0mmol/kg以下であることが好ましく、120.0mmol/kg以下であることより好ましい。
【0025】
ボンド磁石用樹脂組成物中のアミノ基末端量とカルボキシ基末端量はそれぞれ、例えば、以下の方法を用いて測定することができる。
ボンド磁石用樹脂組成物のポリマー末端に結合するアミノ基末端量は、中和滴定により以下のとおり測定する。ボンド磁石用樹脂組成物3.0gを90質量%フェノール水溶液100mLに溶解し、得られた溶液を用い、0.025Nの塩酸で滴定を行い、アミノ基末端量(mmol/kg)を求める。終点はpH計の指示値から決定する。
【0026】
ボンド磁石用樹脂組成物のポリマー末端に結合するカルボキシ基末端量は、中和滴定により以下のとおり測定する。
【0027】
ボンド磁石用樹脂組成物4.0gをベンジルアルコール50mLに溶解し、得られた溶液を用い、0.1NのNaOHで滴定を行い、カルボキシ基末端量(mmol/kg)を求める。終点はフェノールフタレイン指示薬の変色から決定する。
【0028】
上記方法で測定されたアミノ基末端量とカルボキシ基末端量を足し合わせることで、ボンド磁石用樹脂組成物中のアミノ基末端量とカルボキシ基末端量の総量を得ることができる。
【0029】
[末端封止剤]
ポリアミドの末端調整は、例えば、ジカルボン酸やジアミンの添加や、公知の末端封止剤による末端封止により実施される。末端封止剤は単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
末端封止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、モノカルボン酸、モノアミン、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類等が挙げられる。酸無水物としては、例えば、無水フタル酸等が挙げられる。
【0031】
中でも、末端封止剤としては、モノカルボン酸又はモノアミンが好ましい。ポリアミドの末端が末端封止剤で封鎖されていることにより、熱安定性により優れるポリアミドとなる傾向にある。
末端封止剤は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
末端封止剤として使用できるモノカルボン酸としては、ポリアミドの末端に存在し得るアミノ基との反応性を有するものであればよく、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソブチル酸等が挙げられる。脂環族モノカルボン酸としては、例えば、シクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。芳香族モノカルボン酸としては、例えば、安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等が挙げられる。
モノカルボン酸は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
末端封止剤として使用できるモノアミンとしては、ポリアミドの末端に存在し得るカルボキシ基との反応性を有するものであればよく、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪族モノアミン、脂環族モノアミン、芳香族モノアミン等が挙げられる。脂肪族モノアミノとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等が挙げられる。脂環族モノアミンとしては、例えば、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。芳香族モノアミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等が挙げられる。
モノアミンは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
[ポリアミド(A)の製造方法]
ポリアミド(A)を製造する際に、ジカルボン酸の添加量とジアミンの添加量とは、同モル量付近であることが好ましい。重合反応中のジアミンの反応系外への逃散分もモル比においては考慮して、ジカルボン酸全体のモル量1に対して、ジアミン全体のモル量は、0.9以上1.2以下が好ましく、0.95以上1.1以下がより好ましく、0.98以上1.05以下がさらに好ましい。
【0035】
ポリアミド(A)の製造方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、以下の(1)又は(2)の重合工程を含む。
【0036】
(1)ラクタム単位を構成するラクタム、及び、アミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上を重合して重合体を得る工程。
【0037】
(2)ジカルボン酸単位を構成するジカルボン酸と、ジアミン単位を構成するジアミンとの組み合わせを重合して重合体を得る工程。
【0038】
また、ポリアミド(A)の製造方法としては、前記(2)の重合工程の後に、ポリアミドの重合度を上昇させる上昇工程を、更に含むことが好ましい。また、必要に応じて、前記(2)の重合工程及び前記上昇工程の後に、得られた重合体の末端を末端封止剤により封止する封止工程を含んでいてもよい。
【0039】
ポリアミド(A)の具体的な製造方法としては、例えば、以下の1)~4)に例示する種々の方法が挙げられる。
【0040】
1)ラクタム、及び、アミノカルボン酸、ジカルボン酸-ジアミン塩、ジカルボン酸とジアミンとの混合物からなる群より選ばれる1種以上の水溶液又は水懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(以下、「熱溶融重合法」と称する場合がある)。
【0041】
2)熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(以下、「熱溶融重合・固相重合法」と称する場合がある)。
【0042】
3)ジカルボン酸-ジアミン塩、ジカルボン酸とジアミンとの混合物、ラクタム、及び/またはアミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上を、固体状態を維持したまま重合させる方法(以下、「固相重合法」と称する場合がある)。
【0043】
4)ジカルボン酸と等価なジカルボン酸ハライド成分と、ジアミン成分とを用いて重合させる方法(以下、「溶液法」と称する場合がある)。
【0044】
中でも、ポリアミド(A)の具体的な製造方法としては、熱溶融重合法を含む製造方法が好ましい。また、熱溶融重合法によりポリアミドを製造する際には、重合が終了するまで、溶融状態を保持することが好ましい。溶融状態を保持するためには、ポリアミド組成物に適した重合条件で製造することが必要となる。重合条件としては、例えば、以下に示す条件等が挙げられる。まず、熱溶融重合法における重合圧力を14kg/cm2以上25kg/cm2以下(ゲージ圧)に制御し、加熱を続ける。次いで、槽内の圧力が大気圧(ゲージ圧は0kg/cm2)になるまで30分以上かけながら降圧する。
【0045】
ポリアミド(A)の製造方法において、重合形態としては、特に限定されず、バッチ式でもよく、連続式でもよい。
【0046】
ポリアミド(A)の製造に用いる重合装置としては、特に限定されるものではなく、公知の装置を用いることができる。重合装置として具体的には、例えば、オートクレーブ型反応器、タンブラー型反応器、押出機型反応器(ニーダー等)等が挙げられる。
【0047】
以下、ポリアミド(A)の製造方法として、バッチ式の熱溶融重合法によりポリアミドを製造する方法を具体的に示すが、ポリアミドの製造方法は、これに限定されない。
【0048】
まず、ポリアミド(A)の原料成分(ラクタム及びアミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上、ジカルボン酸、ジアミン)を、約40質量%以上60質量%以下含有する水溶液を調製する。次いで、当該水溶液を110℃以上180℃以下の温度、及び。約0.035MPa以上0.6MPa以下(ゲージ圧)の圧力で操作される濃縮槽で、約65質量%以上90質量%以下に濃縮して濃縮溶液を得る。
【0049】
次いで、得られた濃縮溶液をオートクレーブに移し、オートクレーブにおける圧力が約1.2MPa以上2.2MPa以下(ゲージ圧)になるまで加熱を続ける。
【0050】
次いで、オートクレーブにおいて、水及びガス成分のうち少なくともいずれかを抜きながら圧力を約1.2MPa以上2.2MPa以下(ゲージ圧)に保つ。次いで、温度が約220℃以上260℃以下に達した時点で、大気圧まで降圧する(ゲージ圧は、0MPa)。オートクレーブ内の圧力を大気圧に降圧後、必要に応じて減圧することにより、副生する水を効果的に除くことができる。
【0051】
次いで、オートクレーブを窒素等の不活性ガスで加圧し、オートクレーブからポリアミド溶融物をストランドとして押し出す。押し出されたストランドを、冷却、カッティングすることにより、ポリアミド(A)のペレットを得る。
【0052】
[ポリアミド(A)の融点Tm、ガラス転移温度Tg]
ポリアミド(A)の融点Tmは、220℃以上300℃以下が好ましく、230℃以上290℃以下がより好ましく、240℃以上280℃以下がさらに好ましく、240℃以上270℃以下が特に好ましい。ポリアミド(A)の融点Tmが上記上限値以下であることにより、押出、成形等の溶融加工におけるポリアミド組成物の熱分解等をより抑制することができる傾向にある。
【0053】
ポリアミドの融点Tm及びガラス転移温度Tgの測定装置としては、例えば、PERKIN-ELMER社製のDiamond-DSC等が挙げられる。
【0054】
≪ニグロシン(B)≫
本発明に用いるニグロシン(B)としては、特に限定されるものではないが、例えばC.I.SOLV ENT BLACK 5、C.I.SOLVENT BLACK 7、C.I.Acid Black2としてCOLORINDEXに記載されている、黒色のトリフェナジンオキサジン、フェナジンアジン等のアジン系縮合混合物が挙げられる。また、その一部が変性されていてもよい。市販されているニグロシンの例としては、ヌビアンブラックPA-9801、ヌビアンブラックPA-9800、ヌビアンブラックPA-0800、ヌビアンブラックTN-870等が挙げられる。
【0055】
ニグロシン(B)の含有量は樹脂成分100質量%中に0.1質量%以上10質量%以下であり、0.3質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上2質量%以下が特に好ましい。
【0056】
ニグロシン(B)の含有量が上記下限値以上であることで、磁性粉体存在下に発生するポリアミドの増粘反応を抑制し、押出時のトルク低減させることができ、高充填させることができる。また、磁場成形時においても、上記の増粘反応の抑制及び、ポリアミドの固化遅延効果により、射出圧を低減することができる。
【0057】
≪ポリエチレンイミン(C)≫
本明細書における「ポリエチレンイミン」とは、UllMannの電子版にキーワード「アジリジン」で記載されている方法、又は国際公開第94/012560号に記載されている方法により得られるホモポリマー及びコポリマーである。
「ポリエチレンイミンのホモポリマー又はコポリマー」を「ポリエチレンイミン(C)」と称する場合がある。
【0058】
一般的に、前記エチレンイミンのホモポリマーは、反応開始剤、酸又はルイス酸の存在下で、水溶液又は有機溶液中でのエチレンイミン(アジリジン)の重合により得られる。
【0059】
このような方法により得られるエチレンイミンのホモポリマーは、一般的に、第一級、第二級、第三級アミノ基を、第一級アミノ基:第二級アミノ基:第三級アミノ基=約30%:40%:30%のモル比で含有する分岐ポリマーである。アミノ基の分布は13C-NMR分光法を用いて測定することができる。
【0060】
前記エチレンイミンのコポリマーを形成するためのコモノマーとしては、上記のように、少なくとも2個のアミノ基を有するアミンが挙げられる。
【0061】
当該コモノマーとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、アルキレン基中に2個以上10個以下のC原子を有するアルキレンジアミンが挙げられる。特に、エチレンジアミン又はプロピレンジアミンが好ましい。
【0062】
前記コモノマーとしては、上記の他に、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、ジヘキサメチレントリアミン、アミノプロピルエチレンジアミン、ビスアミノプロピルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0063】
ポリエチレンイミン(C)としては、上記の他、ポリエチレンイミンと、官能基として少なくとも1つのハロゲンヒドリン-、グリシジル-、アジリジン-、イソシアネート単位、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるものを有する二官能性又は多官能性架橋剤との反応により得られる架橋性ポリエチレンイミンが好適なものとして挙げられる。
【0064】
さらに、ポリエチレンイミン(C)としては、グラフト化ポリエチレンイミンも好適なものとして挙げられる。
【0065】
グラフト剤としては、ポリエチレンイミンのアミノ基又はイミノ基と反応し得る全ての化合物が使用できる。
【0066】
グラフト剤及びグラフト化ポリエチレンイミンの製造方法としては、例えば、欧州特許公開第0675914号明細書に記載されている方法を適用できる。
【0067】
また、ポリエチレンイミン(C)は、カルボン酸、カルボン酸のエステル若しくは無水物、カルボン酸アミド又はカルボン酸ハロゲン化物との反応により得られるアミド化されていてもよい。ポリエチレンイミン鎖中のアミド化窒素原子の割合に応じて、アミド化ポリマーは、所定の架橋剤により後から架橋されうる。
【0068】
この際、前記引き続く架橋反応のために、なお十分に第一級窒素原子及び第二級窒素からなる群より選ばれる少なくともいずれかの原子を供給できるよう、アミノ官能基の30モル%までがアミド化される。すなわち、アミド化ポリマー中において、十分な量の第一級窒素原子及び第二級窒素からなる群より選ばれる少なくともいずれかの原子が存在している状態を確保するために、アミド化ポリマー中のアミノ官能基は、30モル%以下の割合でアミド化されていることが好ましい。
【0069】
なお、カルボン酸類はアミド化により全て消費され、アミド化ポリマーにカルボン酸末端基は無く、有機酸とは明確に区別できる。
【0070】
また、ポリエチレンイミン(C)は、例えば、ポリエチレンイミンとエチレンオキシド及びプロピレンオキシドからなる群より選ばれる少なくともいずれかとの反応より得られるアルコキシ化ポリエチレンイミンであってもよい。このようなアルコキシル化ポリマーはその後、架橋可能である。
【0071】
また、ポリエチレンイミン(C)は、例えば、ポリアミド樹脂との親和性の観点から、ヒドロキシ基含有ポリエチレンイミン及び両性ポリエチレンイミン(アニオン性基の組み込み)、並びに、一般に、長鎖炭化水素基のポリマー鎖中への組み込みにより得られる親油性ポリエチレンイミンであってもよい。このようなポリエチレンイミンポリマーの製造方法は、本技術分野の当業者に公知である。
【0072】
[ポリエチレンイミン(C)の含有量]
本実施形態のボンド磁石用組成物において、押出時のトルク、成形時の流動性の観点から、ポリエチレンイミン(C)の含有量は、ポリアミド(A)100質量%に対して、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.2質量%以上2質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上1.5質量%以下がさらに好ましい。
【0073】
≪磁性粉体≫
磁性粉体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フェライト系磁性粉体、Sm(サマリウム)-Co(コバルト)系磁性粉体、Sm(サマリウム)-Fe(鉄)-N(窒素)系磁性粉体、Nd(ネオジム)-Fe(鉄)-B(ホウ素)系磁性粉体、及びこれらの磁性粉体の混合物等が挙げられる。
【0074】
ボンド磁石用樹脂組成物の総質量に対する、磁性粉体の含有量は、70質量%以上96質量%以下とすることができ、80質量%以上96質量%以下であることが好ましく、90質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。磁性粉体の含有量が上記下限値以上であることで、得られるボンド磁石の残留磁束密度が低下しにくくなり、永久磁石用途としての実用性を担保することができる。一方で、磁性粉体の含有量が上記上限値以下であることで、得られるボンド磁石の単位体積当たりの磁性粉体量が多くなりすぎず、磁場配向性が劣りにくくなる。そして、樹脂成分の含有量を適度に減少させながら、残留磁束密度を向上させることができ、成形性や流動性を良好なものとすることができる。従って、コンパウンド等の混錬工程や、成形工程において充填不良等のトラブルを起こすことを効果的に防ぐことができる。
【0075】
≪ボンド磁石用樹脂組成物の製造方法≫
ボンド磁石用樹脂組成物は、樹脂成分を得る工程と、得られた樹脂成分と磁性粉体とを混合することで得られる。
【0076】
[樹脂成分を得る工程]
ポリアミド(A)とニグロシン(B)と、任意のポリエチレンイミン(C)とを溶融混錬することで、樹脂成分を得ることができる。
以下において、ポリアミド(A)を(A)、ニグロシン(B)を(B)、ポリエチレンイミン(C)を(C)と記載する場合がある。
【0077】
上記(A)~(B)及び任意の(C)の各成分の混合方法としては、例えば、以下の(1)又は(2)の方法等が挙げられる。
【0078】
(1)上記(A)~(B)及び任意の(C)の各成分を、ヘンシェルミキサー等を用いて混合し溶融混練機に供給し混練する方法。
【0079】
(2)単軸又は2軸押出機で、上記(A)~(B)及び任意の(C)の各成分を、予めヘンシェルミキサー等を用いて混合して(A)~(B)及び任意の(C)の各成分を含む混合物を調製し、当該混合物を溶融混練機に供給し混練する方法。
【0080】
樹脂成分を構成する成分を溶融混練機に供給する方法は、すべての構成成分を同一の供給口に一度に供給してもよく、構成成分をそれぞれ異なる供給口から供給してもよい。
【0081】
溶融混練の温度は、ポリアミド(A)の融点より1℃以上100℃以下程度高い温度が好ましく、ポリアミド(A)の融点より10℃以上60℃以下程度高い温度がより好ましい。
【0082】
混練機での剪断速度は100sec-1以上程度が好ましい。また、混練時の平均滞留時間は0.5分間以上5分間以下程度が好ましい。
【0083】
溶融混練を行う装置としては、公知の装置であればよく、例えば、単軸又は2軸押出機、バンバリーミキサー、溶融混練機(ミキシングロール等)等が好ましく用いられる。
【0084】
本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物組成物を製造する際の樹脂成分の上記(A)成分と(B)成分及び任意の(C)の配合量は、上述したボンド磁石用樹脂組成物における樹脂成分の上記(A)成分と(B)成分及び任意の(C)の質量比となる量とすることが好ましい。
【0085】
[樹脂成分と磁性粉体とを混合する工程]
樹脂成分と、磁性粉体と、の溶融混錬方法としては、上記[樹脂成分を得る工程]において例示された方法と同様の方法を採用できる。
【0086】
ボンド磁石用樹脂組成物の総質量に対して、4質量%以上115質量%以下の樹脂成分と、85質量%以上96質量%以下の磁性粉体と、を溶融混練し、ボンド磁石用樹脂組成物が得られる。
【0087】
本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物は、樹脂成分と磁性粉体とを上記配合比で含むことで、製造時の混錬性及び耐熱性に優れる。
【0088】
<ボンド磁石>
本実施形態のボンド磁石は、ボンド磁石用樹脂組成物の射出成形品である。
本実施形態のボンド磁石は、ボンド磁石の総質量に対する樹脂成分の含有割合は4質量%以上15質量%以下であり、磁性粉体の含有割合は85質量%以上96質量%以下である。
樹脂成分は、90~99.9質量%のポリアミド(A)と、0.1~10質量%のニグロシン(B)を含む。
【0089】
≪使用用途≫
本実施形態のボンド磁石は耐熱性に優れるため、常温域で使用される電磁機器は勿論、高温域で使用される電磁機器、使用中に高温となる電磁機器等に好適である。
【0090】
<ボンド磁石の製造方法>
本実施形態のボンド磁石の製造方法は、上述の≪ボンド磁石用樹脂組成物の製造方法≫によりボンド磁石用樹脂組成物を得た後、得られたボンド磁石用樹脂組成物を射出成形する工程を備える。
【0091】
得られたボンド磁石用樹脂組成物を射出成形機の金型に充填し、公知の射出成形方法により、成形することで、ボンド磁石を得ることができる。射出成形の各種条件は、使用する樹脂の種類等に応じて、当業者が適宜設定することができる。
【実施例0092】
以下に、具体的な実施例及び比較例を示して本実施形態をより詳しく説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。
【0093】
≪ボンド磁石用樹脂組成物の評価方法≫
ボンド磁石用樹脂組成物は、シャルピー衝撃強度と荷重たわみ温度(HDT)により評価した。
【0094】
[シャルピー衝撃強度]
【0095】
各樹脂組成物のペレットを、射出成形機[PS-40E:日精樹脂株式会社製]を用いて、射出時間25秒、冷却時間15秒、金型温度Tg+20℃、シリンダー温度Tm+20℃に設定し、ISO 3167、多目的試験片A型の成形片を成形した。次に、多目的試験片A型の成形片を、ISO2818に従ってノッチつき試験片に加工した。得られたノッチつき試験片について、JIS K7111(JISO179)に従って、シャルピー衝撃強度を測定した。値が大きいものほど、靭性により優れるものと評価した。
【0096】
[荷重たわみ温度HDT]
荷重たわみ温度(HDT)(℃) ISO294-1に準拠した多目的試験片(4mm厚)を用いて、ISO-75-2に 準じ、荷重0.45MPaにおける荷重たわみ温度を測定した。成形試験片は、射出成形機[PS-40E:日精樹脂株式会社製]を用いて、ISO多目的試験片(4mm厚)の金型を取り付けて、金型温度=Tg+20℃、シリンダー温度=Tm+20℃で成形を行った。値が大きいものほど、耐熱性により優れるものと評価した。
【0097】
≪ボンド磁石の評価方法≫
ボンド磁石は、以下の[ボンド磁石の製造]に記載の方法により製造したボンド磁石について、混錬性、磁場射出成形および成形性、磁気特性により評価した。
【0098】
[ボンド磁石の製造]
二軸押出機(TEX25αIII-52.5CW、株式会社日本製鋼所製)を用いた。二軸押出機においてL/Dは52.5であり、シリンダ数は14ブロックとした。上流側供給口からダイまでの温度を250℃以上280以下に設定し、スクリュー回転数150rpm、吐出量10°kg/hに設定した。また、押出機上流側から磁性粉体及び樹脂成分を供給して混錬した。こうして得られた混錬物をペレタイザーでカッティングしてボンド磁石用樹脂組成物のペレットを得た。
【0099】
[混錬性]
上記「ボンド磁石の製造」の、樹脂成分と磁性粉体の混錬時において、押出機のトルク値%を測定した。トルクオーバーにより採取不可であったものを「×」とした。
【0100】
[磁場射出成形および成形性]
ボンド磁石用樹脂組成物のペレットを、磁場射出成形機(株式会社日本製鋼所製)を用いて磁場をかけながら、成形し、直径15mm、長さ5mmの円筒状成形体を得た。射出成形は、シリンダー温度290℃、金型温度90℃、磁場電流50Aの条件で行った。このときの射出ピーク圧を測定した。また、充填不可であったものを「×」とした。得られた成形体について下記の磁気特性を評価した。
【0101】
[磁気特性]
磁気特性は、サンプル:「直径15mm、長さ5mmの円筒状成形体」から2.5×2.5×2.5mm立方体切り出して、以下の測定条件にて磁気特性(残留磁束密度:Br、保磁力:iHc)を測定した。
測定機種:振動試料型磁力計 VSM-5-15 (東英工業製)
磁化校正:Ni
磁界校正:Gd2O3
温度 :室温
測定磁界:17 kOe
【0102】
<原料>
[ポリアミド(A)]
A-1:ポリアミド66(PA66)(旭化成製、商品名「レオナTM1200-321」)
A-2:ポリアミド6(PA6)(宇部興産社製、商品名「SF1013B」)
A-3:ポリアミド12(PA12)(宇部興産社製、商品名「P3012U」)
【0103】
[ポリフェニレンサルファイド]
PPS(DIC社製、商品名「FZ-2100」
【0104】
[ニグロシン(B)]
B-1:C.I.SOLVENT BLACK 7ニグロシン系黒色染料(オリヱント化学工業社製、商品名「ヌビアンブラックTN-870」)
【0105】
[ポリエチレンイミン(C)]
C-1:ポリエチレンイミン(ビーエーエスエフ社製、商品名「Lupasol FG」(重量平均分子量800、粘度1680mPa・s)
【0106】
[磁性粉体]
市販のNd-Fe-B系異方性磁石粉末(愛知製鋼社製、商品名「MF18P」)
【0107】
<ボンド磁石用樹脂組成物の製造>
[実施例1~8及び比較例1~5]
【0108】
ポリアミド(A)とニグロシン(B)を、表1に示す種類及び比率となる割合でドライブレンドした後に、二軸押出機の上流側供給口より供給し、ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズして、各樹脂成分を得た。
【0109】
製造装置としては、二軸押出機(ZSK-26MC、コペリオン社製(ドイツ))を用いた。
二軸押出機は、押出機上流側から1番目のバレルに上流側供給口を有し、6番目のバレルに下流側第1供給口を有し、9番目のバレルに下流側第2供給口を有していた。また、二軸押出機において、L/Dは48であり、バレル数は12であった。また、二軸押出機において、L/Dは48であり、バレル数は12であった。二軸押出機において、上流側供給口からダイまでの温度を280℃以上320℃以下に設定し、スクリュー回転数300rpm、吐出量25kg/時間に設定した。
【0110】
得られた各樹脂成分を用いて、物性を測定し、また、上述した方法でボンド磁石を製造し、各種評価を行った。結果を以下の表1及び表2に示す。
【0111】
【0112】
本実施形態によれば、押出混錬性、射出磁場成形性及び、耐熱性、靭性に優れるボンド磁石が得られるボンド磁石用樹脂組成物を提供することができることが確認できた。本実施形態のボンド磁石は、本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物の射出成形品である。本実施形態のボンド磁石は、高温下で使用される電磁機器、又は使用中に高温となる電磁機器に好適に用いられる。