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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180473
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】着用エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/018 20060101AFI20231214BHJP
   A62B 99/00 20090101ALI20231214BHJP
   A62B 17/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
A41D13/018
A62B99/00 E
A62B17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093824
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 利仁
(72)【発明者】
【氏名】三浦 渉
(72)【発明者】
【氏名】前田 凌
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰士
【テーマコード(参考)】
2E184
2E185
3B011
3B211
【Fターム(参考)】
2E184LB05
2E185AA02
2E185CC51
3B011AA01
3B011AB16
3B011AC04
3B011AC21
3B211AA01
3B211AB16
3B211AC04
3B211AC21
(57)【要約】
【課題】着用時の着心地を阻害せず、かつ、的確にエネルギー吸収して装着者を保護可能な着用エアバッグ装置を提供すること。
【解決手段】着用時に、装着者Mの保護対象部位Pを保護可能に構成される着用エアバッグ装置S。装着者の上半身MUに装着可能な着衣部20と、着衣部内に収納されるとともに内部に膨張用ガスを流入させて保護対象部位を覆うように膨張可能とされるエアバッグ30と、着衣部内においてエアバッグにおける装着者側若しくは装着者から離れた側の表面と重なる保護対象部位の領域に配置されるエネルギー吸収部材40と、を備える。エネルギー吸収部材が、装着者側に相対的に進入してくる干渉物の衝撃力の作用時に、塑性変形によりエネルギー吸収可能に構成されている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用時に、装着者の保護対象部位を保護可能に構成される着用エアバッグ装置であって、
前記装着者の上半身に装着可能な着衣部と、該着衣部内に収納されるとともに内部に膨張用ガスを流入させて前記保護対象部位を覆うように膨張可能とされるエアバッグと、前記着衣部内において前記エアバッグにおける前記装着者側若しくは前記装着者から離れた側の表面と重なる前記保護対象部位の領域に配置されるエネルギー吸収部材と、を備えて、
該エネルギー吸収部材が、前記装着者側に相対的に進入してくる干渉物の衝撃力の作用時に、塑性変形によりエネルギー吸収可能に構成されていることを特徴とする着用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記エアバッグが、前記着衣部内において前記保護対象部位を覆うように膨張する本体膨張部と、前記着衣部から突出するように膨張する突出膨張部と、を、備えていることを特徴とする請求項1に記載の着用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記エネルギー吸収部材が、縮径するように塑性変形可能で、かつ、軸直交方向に曲げ可能な中空体から、構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の着用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記エネルギー吸収体が、少なくとも、前記保護対象部位としての前記装着者の胸部の正面側を覆う領域に、配設されていることを特徴とする請求項1に記載の着用エアバッグ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用時に、装着者の保護対象部位を保護可能に構成される着用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、着用エアバッグ装置としては、装着者の上半身に装着可能とされる着衣部の内部に、内部に膨張用ガスを流入させて膨張可能なエアバッグと、エアバッグの表裏を挟むように配置される表面側保護板及び裏面側保護板と、を、積層させるようにして、配置させる構成のものがあった(例えば、特許文献1参照)。この従来の着用エアバッグ装置では、表面側保護板と裏面側保護板との間でエアバッグを膨張させることにより、装着者に作用する衝撃力を低減させて、装着者を保護する構成であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-62545公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の着用エアバッグ装置では、エアバッグに積層される保護板が、弾性変形するように柔らかく凹むウレタン製の板状体であることから、仮に、衝撃力の作用時に変形してエネルギー吸収する構成としていても、十分なエネルギー吸収量を確保し難かった。また、従来の着用エアバッグ装置では、エアバッグの表面側と裏面側とにそれぞれ保護板を積層させる構成であることから、着用時に嵩張り、着心地が良好ではなかった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、着用時の着心地を阻害せず、かつ、的確にエネルギー吸収して装着者を保護可能な着用エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る着用エアバッグ装置は、着用時に、装着者の保護対象部位を保護可能に構成される着用エアバッグ装置であって、
装着者の上半身に装着可能な着衣部と、着衣部内に収納されるとともに内部に膨張用ガスを流入させて保護対象部位を覆うように膨張可能とされるエアバッグと、着衣部内においてエアバッグにおける装着者側若しくは装着者から離れた側の表面と重なる保護対象部位の領域に配置されるエネルギー吸収部材と、を備えて、
エネルギー吸収部材が、装着者側に相対的に進入してくる干渉物の衝撃力の作用時に、塑性変形によりエネルギー吸収可能に構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の着用エアバッグ装置では、エアバッグとエネルギー吸収部材とが、相互に重なるようにして、装着者の保護対象部位を覆うように着衣部内に収納される構成であり、エネルギー吸収部材は、干渉物による衝撃力の作用時に、塑性変形によりエネルギー吸収可能な構成とされている。そのため、エアバッグの膨張時には、膨張したエアバッグと、エネルギー吸収部材の塑性変形によるエネルギー吸収と、によって、装着者側に相対的に進入してくる干渉物の衝撃力を低減させることができて、装着者を、干渉物から的確に保護することができる。また、本発明の着用エアバッグ装置では、エアバッグとエネルギー吸収部材とが、重なるようにして着衣部内に収納される構成であるものの、エネルギー吸収部材は、エアバッグにおける装着者側若しくは装着者から離れた側の表面と重なるように配置される構成であることから、必要以上に嵩張らず、着用時の着心地を阻害し難い。
【0008】
したがって、本発明の着用エアバッグ装置では、着用時の着心地を阻害せず、かつ、的確にエネルギー吸収して装着者を保護することができる。
【0009】
また、本発明の着用エアバッグ装置において、エアバッグを、着衣部内において保護対象部位を覆うように膨張する本体膨張部と、着衣部から突出するように膨張する突出膨張部と、を、備える構成とすれば、着衣部に覆われている上半身のみならず、例えば、装着者の腰部や頭部等も、エアバッグによって的確に保護することが可能となって、好ましい。
【0010】
さらに、上記構成の着用エアバッグ装置において、エネルギー吸収部材を、縮径するように塑性変形可能で、かつ、軸直交方向に曲げ可能な中空体から、構成することが好ましい。このような中空体を利用すれば、長尺状の中空体を任意の所定形状に賦形するように曲げて形成したエネルギー吸収部材を、任意の所定箇所に配置させることができることから、エネルギー吸収部材の配置の自由度が高く、また、中空体の配置の密度や、中空体自体の内径寸法や厚み、材質等を、適宜変更することにより、エネルギー吸収部材によるエネルギー吸収量の変更も容易である。
【0011】
さらにまた、上記構成の着用エアバッグ装置において、エネルギー吸収部材を、少なくとも、保護対象部位としての装着者の胸部の正面側を覆う領域に、配設させる構成とすれば、装着者の胸部を、膨張したエアバッグとエネルギー吸収部材とによって保護することができる。そのため、例えば、バイクや電動スクーター、自転車等の乗物を運転している乗員に装着させた場合にも、転倒時等において、装着者の胸部を、膨張したエアバッグとエネルギー吸収部材とによって、乗物自体から保護することも可能となる。また、上記構成の着用エアバッグ装置では、エアバッグにおいて、装着者の胸部の領域を覆う部位の膨張完了形状を、相対的に薄くすることも可能となることから、着用時に胸部を覆う領域の嵩張りも抑制でき、着用時の着心地を一層向上させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態である着用エアバッグ装置を着用している装着者と電動スクーターとを示す概略側面図である。
図2】実施形態の着用エアバッグ装置を、装着者に装着させた状態の概略図である。
図3図2のIII-III部位の概略断面図である。
図4】実施形態の着用エアバッグ装置において、エアバッグを膨張させた状態を示す概略正面図であり、着衣部の一部を切り欠いた状態を示す。
図5】実施形態の着用エアバッグ装置において使用されるチューブ体の概略斜視図と断面図である。
図6】実施形態の着用エアバッグ装置において、エアバッグが膨張を完了させた状態を示す前方からの概略斜視図である。
図7】実施形態の着用エアバッグ装置において、エアバッグが膨張を完了させた状態を示す後方からの概略斜視図である。
図8】実施形態の着用エアバッグ装置におけるエアバッグの膨張完了状態の概略横断面図であり、装着者の腹部の部位を示す。
図9】実施形態の着用エアバッグ装置におけるエアバッグの膨張完了状態の概略横断面図であり、装着者の腰部の部位を示す。
図10】実施形態の着用エアバッグ装置において、エアバッグの膨張完了時におけるエネルギー吸収部材の変形の状態を示す概略断面図である。
図11】実施形態の着用エアバッグ装置において、エアバッグの膨張完了時におけるエネルギー吸収部材の変形の状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。着用エアバッグ装置Sは、着用時に、装着者Mの上半身MUに装着させて、装着者Mの保護対象部位Pを保護するためのものであり、実施形態の場合、図1に示すような乗物としての電動スクーターV(いわゆる電動キックボード)を運転する乗員に装着させるものを、例に採り説明する。実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、保護対象部位Pとして、エアバッグ30が、膨張完了時に、装着者Mの上半身MU略全域(特に胸部CFから腹部Aにかけてと、詳細な図示を省略するが背中Bにおける背骨から腰骨付近にかけて)と、頭部Hと、腰部Wと、を保護するように、構成されている。
【0014】
電動スクーターVは、図1に示すように、立った状態で運転するもので、前端側と後端側とに車輪2F,2Bを配置させたステップ1と、ステップ1の前端側において前側の車輪2Fから上方に延びるように形成されるスタンド3と、スタンド3の上端側に設けられて装着者M(乗員)の操作する操作ハンドル4と、を有する構成とされている。操作ハンドル4は、詳細な図示を省略するが、スタンド3の上端側から左右に延びるように、形成されている。
【0015】
着用エアバッグ装置Sは、図2~4に示すように、装着者Mの上半身MUに装着可能な着衣部20と、着衣部20内に収納されるエアバッグ30と、エアバッグ30に膨張用ガスを供給するインフレーター15と、インフレーター15の作動を制御する作動制御装置10と、着衣部20内においてエアバッグ30と重なるように配置されるエネルギー吸収部材40と、を備える構成とされている。
【0016】
作動制御装置10は、上下前後左右の3軸周りの角速度を検知可能な角速度センサと、3軸方向の加速度を検知可能な加速度センサと、を有するセンサ部12を、備える構成とされるもので、このセンサ部12からの信号によって、装着者Mの急激な体勢変化(すなわち、装着者Mが運転している電動スクーターVの衝突や転倒等)を検知すると、インフレーター15を作動させるように構成されている。作動制御装置10には、センサ部12の作動やインフレーター15の作動用の信号の出力のために、図示しない電池等からなる電源が、内蔵されている。実施形態の場合、作動制御装置10は、インフレーター15の近傍に配置されている(図2のB参照)。
【0017】
着衣部20は、実施形態の場合、装着者Mの上半身MUに装着可能なベストとして構成されるもので、図2のA,Bに示すように、装着者Mの上半身MUの正面を覆う左前部21及び右前部22と、装着者Mの上半身MUの背面を覆う背面部23と、装着者Mの首回りに配置される襟部25と、を備えている。左前部21及び右前部22は、対向する内縁相互を、ファスナー等の締結具26によって結合可能に、構成されている。換言すれば、着衣部20は、背面部23の左部の前方側に左前部21を連ならせるように配設させ、背面部23の右部の前方側に右前部22を連ならせるように配設させて、構成されている。襟部25は、背面部23,左前部21,右前部22の上端側において、装着者Mの首回りで連なるように、配設されている。この着衣部20は、可撓性を有したシート体(織布)から構成されるもので、装着者M側に配置される内側壁部20aと、外側に配置される外側壁部20bと、を有して、折り畳まれたエアバッグ30とエネルギー吸収部材40との外周側を覆っている(図3参照)。実施形態の場合、着衣部20は、エアバッグ30(本体膨張部31)の膨張時に、本体膨張部31の膨張を許容して、干渉物による衝撃力作用前のエネルギー吸収部材40の塑性変形を抑制可能に、伸び可能な素材から、形成されている。着衣部20において、襟部25の領域は、エアバッグ30における後述する頭部保護部34を上方に突出可能に、エアバッグ30の膨張時に所定箇所を開口可能な構成とされている。また、着衣部20において、左前部21,右前部22,背面部23の下端側も、後述する腰部保護部33を下方に突出可能に、エアバッグ30の膨張時に所定箇所を開口可能な構成とされている。
【0018】
エアバッグ30は、可撓性を有したシート体から形成されるもので、実施形態の場合、ポリエステル糸やポリアミド糸等からなる織布から、形成されている。エアバッグ30は、膨張完了時に内側(装着者M側)に配置される内側壁部30aと、膨張完了時に外側に配置される外側壁部30bと、を有して、この内側壁部30aと外側壁部30bとを離隔させるように、内部に膨張用ガスを流入させて膨張する構成である(図3,8,9参照)。エアバッグ30は、図4に示すように、着衣部20内において膨張する本体膨張部31と、着衣部20から突出するように膨張する突出膨張部としての頭部保護部34及び腰部保護部33と、を備えている。エアバッグ30は、詳細な図示は省略するが、本体膨張部31における所定箇所に設けられる図示しない連結タブを、縫製等により着衣部20の内周面側に取り付けることにより、着衣部20に保持されている。
【0019】
本体膨張部31は、内側壁部30aと外側壁部30bとを重ねるようにして平らに展開された状態で着衣部20内に収納されるもので、内部に膨張用ガスを流入させた膨張時に、着衣部20の内部領域を、締結具26の配置領域付近を除いて略全面にわたって覆うように配置される構成である。詳細には、本体膨張部31は、装着者Mの上半身MUを、前中央側(締結具26の周囲)を除いて略全面にわたって連続的に覆うように膨張する構成とされている。実施形態の場合、本体膨張部31は、内部領域に、内側壁部30aと外側壁部30bとを結合するような結合部位32を多数点在させている(図4参照)。そして、本体膨張部31は、この結合部位32により、膨張完了時の内側壁部30aと外側壁部30bとの離隔距離を規制されるとともに、外周側を着衣部20に規制されるようにして、膨張完了時の厚さを、全域にわたって厚さを略一定とするような略板状として、構成されている(図8参照)。具体的には、実施形態の場合、本体膨張部31は、装着者Mの胸部CFから腹部Aにかけてと背中Bとを略全面にわたって(脇腹も含めて)覆うように、構成されている。
【0020】
突出膨張部としての腰部保護部33は、着衣部20内に収納されるもので、実施形態の場合、着衣部20の下端20c側、詳細には、左前部21から背面部23を経て右前部22にかけての下端側に、折り畳まれて収納されている(図2のA,B参照)。腰部保護部33は、エアバッグ30の膨張時に、着衣部20の下端20c側から下方に突出するように膨張して、保護対象部位Pとしての腰部W(具体的には、詳細な図示を省略するが大腿骨転子部の領域)を保護することとなる。腰部保護部33は、左右方向側の幅寸法を、本体膨張部31の左右方向側の幅寸法と略同等として、本体膨張部31の下端31bから連なるように形成されるもので、膨張完了時に、装着者Mの腰回りを、前面側を除いて、左側から背面側を経て右側にかけて広く覆うように配置されることとなる。具体的には、腰部保護部33は、下端側から切れ目を入れるようにして、複数個(実施形態の場合、5個)に分割されて、膨張完了時に、装着者Mの腰回りの湾曲に略沿うように、配置される構成である(図4,8,9参照)。この腰部保護部33は、本体膨張部31よりも厚く膨張するように、構成されている。
【0021】
突出膨張部としての頭部保護部34は、図2のA,Bに示すように、着衣部20における襟部25内に折り畳まれて収納されるもので、エアバッグ30の膨張時に、襟部25から上方に突出するように膨張して、保護対象部位Pとしての頭部Hを保護可能に構成されている。詳細には、実施形態の場合、頭部保護部34は、本体膨張部31の上端31a側から連なるように形成されて、膨張完了形状を、前面側を開口させた袋状(フード状)として、顔面を除いた頭部Hを略全面にわたって覆い可能な構成とされている(図4,6,7参照)。具体的には、頭部保護部34は、図6,7に示すように、膨張完了時に前後方向に略沿うような長尺状の膨張部34aを複数個並設させることによって、装着者Mの頭部Hの周囲を囲むような外形形状として、腰部保護部33と同様に、本体膨張部31よりも厚く膨張するように、構成されている。
【0022】
エアバッグ30に膨張用ガスを供給するインフレーター15は、実施形態の場合、詳細な図示は省略するが、本体膨張部31の内部に配置されている。具体的には、インフレーター15としては、外形形状を略円柱状としたハイブリッドタイプのものを使用しており、軸方向を上下方向に略沿わせるようにして、本体膨張部31の下端31b側における左右の略中央(着用時における装着者Mの尾てい骨近傍となる部位、実施形態の場合、後述する後側エネルギー吸収部材40Bにおける縦棒部40dと横棒部40cとの交差部位付近と重なる位置)に、配置されている(図2のB,7参照)。
【0023】
エネルギー吸収部材40は、着衣部20内においてエアバッグ30と相互に重なるように配置されるもので、実施形態の場合、着衣部20における左前部21,右前部22,背面部23の領域内となる3箇所に、それぞれ、配設されている。実施形態の場合、エネルギー吸収部材40(左側エネルギー吸収部材40L,右側エネルギー吸収部材40R,後側エネルギー吸収部材40B)は、エアバッグ30と装着者Mとの間(すなわち、着衣部20内において本体膨張部31における装着者M側の表面(内側壁部30aの表面)と重なる領域であって、エアバッグ30と内側壁部20aとの間)に、配設されている(図3参照)。詳細には、各左側エネルギー吸収部材40L,右側エネルギー吸収部材40R,後側エネルギー吸収部材40Bは、図5に示すような蛇腹状の長尺状のチューブ体45を、湾曲させつつ所定形状に賦形するようにして、構成されている。
【0024】
実施形態の場合、左側エネルギー吸収部材40Lは、図2のA及び4に示すように、左前部21の領域の略全域にわたるようにして、本体膨張部31と重なって配設されるもので、具体的には、左前部21の左縁側(背面部23側)において上下方向に略沿うように配置される縦棒部40aと、縦棒部40aの右方において左前部21の内部領域を右縁側にかけて広く覆うように略波形状に湾曲させて形成される湾曲部40bと、を有するように、チューブ体45を一筆書き状に配置させて構成されている。右側エネルギー吸収部材40Rは、図2のA及び4に示すように、左側エネルギー吸収部材40Lと略左右対称形として、右前部22の領域内に、配設されている。左側エネルギー吸収部材40Lと右側エネルギー吸収部材40Rとにおいて、各湾曲部40bは、胸部CF(肋骨)を覆う領域である上側部位40baを、腹部Aを覆う領域である下側部位40bbと比較して、ピッチを若干狭くするようにして、形成されている。すなわち、左側エネルギー吸収部材40L,右側エネルギー吸収部材40Rの湾曲部40bにおいて、上側部位40baが、装着者Mの肋骨(胸部CF)を保護する肋骨保護部を構成し、下側部位40bbが、装着者Mの腹部Aを保護する腹部保護部を構成している。そして、肋骨保護部を構成する上側部位40baは、腹部保護部を構成する下側部位40bbよりも、チューブ体45の配置密度を若干大きくすることにより、塑性変形時のエネルギー吸収量も大きく設定されている。このように、実施形態のごとく複数の保護対象部位を保護する場合、エネルギー吸収部材の塑性変形時のエネルギー吸収量は、各保護対象部位に対応させて、適宜設定することができる。
【0025】
後側エネルギー吸収部材40Bは、背面部23の領域内において本体膨張部31と重なるように配置されるもので、外形形状を略逆T字形状とするように、背面部23の下端側において左右に延びる横棒部40cと、横棒部40cの中央から上方に突出するように上下に延びる縦棒部40dと、を有するように、チューブ体45を一筆書き状に配置させて構成されている(図2のB参照)。横棒部40cは、背面部23の左右の略全域にわたって配設される部位であり、詳細な図示は省略するが、着用時に、装着者Mの腰骨の後上面側を覆うこととなる。縦棒部40dは、背面部23の左右の略中央において、上下の略全域にわたって配設される部位であり、詳細な図示は省略するが、着用時に、装着者Mの背骨を覆うこととなる。すなわち、後側エネルギー吸収部材40Bにおいて、横棒部40cが、装着者Mの腰部Wの上側領域を保護する腰部保護部を構成し、縦棒部40dが、装着者Mの背骨を保護する背骨保護部を構成している。
【0026】
これらの各左側エネルギー吸収部材40L,右側エネルギー吸収部材40R,後側エネルギー吸収部材40Bを形成するチューブ体45は、図5に示すように、軸方向に沿って連続的に凹凸を設けられるような蛇腹状として、エアバッグ30の膨張完了時において装着者M側に相対的に進入してくる干渉物(電動スクーター自体や地面等)による衝撃力Fの作用時に、塑性変形によりエネルギー吸収可能とされている。実施形態の場合、チューブ体45は、図10,11に示すように、膨張した本体膨張部31の底付き後に、本体膨張部31を介した干渉物の押圧による衝撃力Fの作用時に、破断されることなく蛇腹45a(周壁に連続的に設けられている凹凸)を伸ばしつつ、縮径されて潰れるように塑性変形することにより、エネルギー吸収する構成である。チューブ体45は、実施形態の場合、ポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性の合成樹脂製とされている。このようなチューブ体45は、形成材料や外形形状(内径寸法や厚み、凹凸の高さや幅寸法)等を適宜変更することにより、塑性変形時のエネルギー吸収量を変化させることができる。具体的には、実施形態の場合、チューブ体45としては、ポリプロピレン製として、内径寸法dを28.0~28.5mm程度、厚さtを0.25~0.35mm程度、凹凸(具体的には凸部45b)の幅寸法Tを2.5mm程度、凹凸(凸部45b)の高さhを2.5mm程度、に設定されたもの(図5参照)を、使用している。各左側エネルギー吸収部材40L,右側エネルギー吸収部材40R,後側エネルギー吸収部材40Bは、詳細な図示を省略するが、縫合糸や接着剤等の連結手段を利用して、所定箇所を、左前部21,右前部22,背面部23における装着者M側の面(着衣部20の内側壁部20a)に連結させることにより、着衣部20に保持されている。
【0027】
実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、着用エアバッグ装置Sを着用した状態で電動スクーターVを運転している際に、作動制御装置10が、装着者Mの急激な体勢変化(すなわち、装着者Mが運転している電動スクーターVの衝突や転倒等)を検知すれば、作動制御装置10からインフレーター15に作動信号が出力されて、エアバッグ30が、インフレーター15から吐出される膨張用ガスを内部に流入させて、図6,7に示すように、膨張を完了させることとなる。
【0028】
そして、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、エアバッグ30とエネルギー吸収部材40とが、相互に重なるようにして、装着者Mの保護対象部位Pを覆うように着衣部20内に収納される構成であり、エネルギー吸収部材40は、電動スクーターVにおける操作ハンドル等や地面等の干渉物による衝撃力Fの作用時に、塑性変形によりエネルギー吸収可能な構成とされている。そのため、エアバッグ30の膨張時には、膨張したエアバッグ30と、エネルギー吸収部材40の塑性変形によるエネルギー吸収と、によって、装着者M側に相対的に進入してくる干渉物によって作用する衝撃力Fを低減させることができて、装着者Mを、干渉物から的確に保護することができる。また実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、エアバッグ30とエネルギー吸収部材40とが、重なるようにして着衣部20内に収納される構成であるものの、エネルギー吸収部材40は、エアバッグ30における装着者M側の表面(内側壁部30a側)と重なるように配置される構成であることから、必要以上に嵩張らず、着用時の着心地を阻害し難い。
【0029】
したがって、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、着用時の着心地を阻害せず、かつ、的確にエネルギー吸収して装着者Mを保護することができる。
【0030】
具体的には、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、装着者M側に相対的に進入してくる干渉物との接触時には、図10に示すように、膨張したエアバッグ30の本体膨張部31が干渉物との接触(干渉物の押圧による衝撃力Fの作用)により底付きした後に、進入する干渉物が、本体膨張部31を介在させて間接的に、エネルギー吸収部材40を押圧することとなり、この押圧力(押圧による衝撃力F)を、エネルギー吸収部材40が塑性変形して、エネルギー吸収することとなる。
【0031】
実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、エネルギー吸収部材40は、エアバッグ30における装着者M側の表面(内側壁部30a)と重なるように(すなわち、エアバッグ30と装着者Mとの間に)配設される構成であるが、エネルギー吸収部材40の配置位置は、実施形態に限定されるものではなく、逆に、エアバッグにおける装着者から離れた側の表面(外側壁部)と重なるように、配設させる構成としてもよい。なお、エアバッグの円滑な膨張を阻害しない観点からは、エネルギー吸収部材を、実施形態のごとく、エアバッグの装着者側の表面と重なるように配設させることが、好ましい。エネルギー吸収部材をエアバッグにおける装着者から離れた側の表面(外側壁部)と重なるように配設させる場合、エネルギー吸収部材は、エアバッグの底付き前に、塑性変形を開始することとなる。
【0032】
また、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、エアバッグ30が、着衣部20内において保護対象部位Pを覆うように膨張する本体膨張部31と、着衣部20から突出するように膨張する突出膨張部としての頭部保護部34及び腰部保護部33と、を、備える構成とされている。そのため、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、着衣部20に覆われている上半身MUのみならず、装着者Mの腰部Wや頭部Hも、エアバッグ30によって的確に保護することができる。
【0033】
さらに、実施形態の着用エアバッグ装置では、エネルギー吸収部材40(40L,40R,40B)が、縮径するように塑性変形可能で、かつ、軸直交方向に曲げ可能な中空体から、構成されており、具体的には、合成樹脂製の蛇腹状のチューブ体45から、構成されている。そのため、長尺状のチューブ体45を任意の所定形状に曲げるように賦形して形成したエネルギー吸収部材40を、任意の所定箇所に配置させることができることから、エネルギー吸収部材40の配置の自由度が高い。またチューブ体45の配置の密度や、チューブ体45(中空体)自体の内径寸法dや厚みt(実施形態の場合、これに加えて、凹凸(具体的には凸部45bの幅寸法Tや高さ寸法h)、材質等を、適宜変更することにより、エネルギー吸収量の変更も容易である。特に、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、チューブ体45は、軸方向に沿って連続的に凹凸を設けられるような蛇腹45aを有した蛇腹状とされていることから、衝撃力Fの作用時に、縮径させるような(潰れるような)変形(図10参照)に加えて、蛇腹45aを伸ばすような(周壁に連続的に設けられている凹凸をなくすような)変形も生じることとなり(図11参照)、蛇腹状としない場合と比較して、エネルギー吸収量を増大させることができる。なお、エネルギー吸収部材の形状は、実施形態に限定されるものではなく、蛇腹を備えないチューブ体や、周壁に部分的に開口を設けるようにしたチューブ体等から形成したり、あるいは、エネルギー吸収部材を、チューブ体(中空体)ではなく、板状体に、中空状として衝撃力の作用時に塑性変形可能な変形用突出部を、衝撃力の作用方向に沿って突出させるようにして、多数配設させるような構成としてもよい。
【0034】
さらにまた、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、左側エネルギー吸収部材40L,右側エネルギー吸収部材40Rが、保護対象部位Pとしての装着者Mの胸部CFの正面側を覆う領域に、配設されていることから、装着者Mの胸部CFを、膨張したエアバッグ30(本体膨張部31)と左側エネルギー吸収部材40L,右側エネルギー吸収部材40Rとによって保護することができる。実施形態では、着用エアバッグ装置Sを、電動スクーターVに乗っている乗員に装着させる場合を例に採り説明しているが、装着者M(乗員)は、ステップ1上に立った状態で前方の操作ハンドル4を操作しつつ電動スクーターVを運転することから、走行中の電動スクーターVが、車両等と前面衝突したり、前方に向かって転倒したりすると、電動スクーターV自体(具体的には、操作ハンドル4)が、装着者Mの胸部CF側に相対的に進入してきて、胸部CFと接触する場合が生ずることとなる。実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、装着者M(乗員)の胸部CFを、膨張したエアバッグ30における本体膨張部31と、干渉物との接触によって塑性変形するエネルギー吸収部材40(左側エネルギー吸収部材40L,右側エネルギー吸収部材40R)と、によって保護できることから、電動スクーターV自体(操作ハンドル4)が干渉物として、装着者Mの胸部CF側に進入するとなっても、操作ハンドル4等の干渉物が、装着者Mの胸部CFを強く押圧することを抑制できる。
【0035】
さらに、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、着衣部20における背面部23の領域内にも、後側エネルギー吸収部材40Bを配置させる構成であり、後側エネルギー吸収部材40Bは、装着者Mにおける背骨と腰骨の後上面とを覆うような構成とされている。そのため、装着者Mが後方に向かって転倒するような場合にも、背骨や腰骨を、エアバッグ30における本体膨張部31と後側エネルギー吸収部材40Bとによって、的確に保護することができる。また、後側エネルギー吸収部材40Bは、実施形態の場合、エアバッグ30に膨張用ガスを供給するインフレーター15と装着者Mとの間に介在されることから、後側エネルギー吸収部材40Bによって、装着者Mを、インフレーター15自体から保護することもできる。
【0036】
実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、着衣部20内において、エアバッグ30とエネルギー吸収部材40とを併設させる構成であり、すなわち、着衣部20に覆われる上半身MUにおいて、重点的に保護したい領域(胸部CFから腹部Aにかけてと、背骨や腰骨の辺り)には、エネルギー吸収部材40を配設させることにより、エアバッグ30において着衣部20内で膨張する本体膨張部31を、相対的に薄くすることもできる。なお、エネルギー吸収部材は、塑性変形する部材に限らず、弾性変形してエネルギー吸収可能なゴム状弾性体等から構成してもよい。実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、本体膨張部31の領域内には、内側壁部30aと外側壁部30bとを結合するような結合部位32を多数点在させることにより、本体膨張部31が、膨張完了形状を薄肉とされていることから、着衣部20全体が厚く嵩張ることを抑制できて、着用時の着心地を向上させることができる。また、実施形態の着用エアバッグ装置Sでは、着衣部20から突出するように膨張する突出膨張部としての頭部保護部34と腰部保護部33とが、本体膨張部31と比較して、厚肉に膨張するように構成されている。そのため、頭部Hと腰部Wとを、厚肉に膨張した頭部保護部34と腰部保護部33とによって、的確に保護することができる。
【0037】
なお、実施形態では、電動スクーターVを運転する乗員に装着させる着用エアバッグ装置Sを例に採り説明したが、本発明は乗物(電動スクーターやバイク、自転車等)を運転している乗員用に限定されるものではなく、歩行者に装着させるような構成としてもよい。装着者として歩行者を想定する場合等、用途に応じて、エアバッグの膨張完了形状(突出膨張部の有無)や、エネルギー吸収部材の配置位置や配置形状は、任意に変更可能である。
【符号の説明】
【0038】
15…インフレーター、20…着衣部、30…エアバッグ、31…本体膨張部、33…腰部保護部(突出膨張部)、34…頭部保護部(突出膨張部)、40(40L,40R,40B)…エネルギー吸収部材、45…チューブ体、M…装着者、P…保護対象部位、MU…上半身、V…電動スクーター、S…着用エアバッグ装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11