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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180478
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】切削工具、加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20231214BHJP
   B23B 27/16 20060101ALI20231214BHJP
   B23B 25/00 20060101ALI20231214BHJP
   B23D 77/02 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B23B27/14 C
B23B27/16 A
B23B25/00 A
B23D77/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093829
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 章裕
(72)【発明者】
【氏名】加藤 綾華
(72)【発明者】
【氏名】西村 尚彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲司
(72)【発明者】
【氏名】向田 慎二
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
(72)【発明者】
【氏名】早坂 健宏
【テーマコード(参考)】
3C045
3C046
3C050
【Fターム(参考)】
3C045HA02
3C046CC01
3C046CC06
3C046EE01
3C050EA00
3C050EB06
(57)【要約】
【課題】被削物の仕上げ面の品質低下を抑えつつ、切りくずのカールを抑制可能な切削工具、加工装置を提供する。
【解決手段】切削工具10は、被削物Wに対して所定の加工送り量で相対移動させて被削物Wを加工する工具である。切削工具10は、ホルダ部20と、ホルダ部20に固定されるチップ部30と、を備える。チップ部30は、一面に設けられるすくい面31と、すくい面31に連なる刃稜線部33と、刃稜線部33からすくい面31に流出する切りくずCHを案内する案内溝34、35、36、37と、を含んでいる。各案内溝34、35、36、37は、刃稜線部33のうち被削物Wの仕上げ面を生成する仕上げ部以外の他の部位から刃稜線部33に対して離れる方向に線状に延びるようにすくい面31に対して形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被削物(W)に対して所定の加工送り量で相対移動させて前記被削物を加工する切削工具であって、
ホルダ部(20、DH)と、
前記ホルダ部に固定されるチップ部(30、30A、CP)と、を備え、
前記チップ部は、
一面に設けられるすくい面(31、SP)と、
前記すくい面に連なる刃稜線部(33、Cb、Ca、Cs)と、
前記刃稜線部から前記すくい面に流出する切りくずを案内する案内部(34、35、36、37、38、39、G)と、を含み、
前記案内部は、前記刃稜線部のうち前記被削物の仕上げ面を生成する仕上げ部(331a、Cs)以外の他の部位から前記刃稜線部に対して離れる方向に線状に延びるように前記すくい面に対して形成されている、切削工具。
【請求項2】
前記すくい面には、前記案内部としての案内溝(34、35、36、37)が形成されている、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記すくい面には、前記案内溝が複数形成されている、請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記チップ部は、前記被削物を旋削する剣バイトで構成され、前記仕上げ部として前記刃稜線部のうち最も前記被削物側に位置する頂部(331)を有し、
複数の前記案内溝は、前記刃稜線部のうち前記頂部以外の他の部位から前記刃稜線部に対して離れる方向に線状に延びるように前記すくい面に対して形成されている、請求項3に記載の切削工具。
【請求項5】
前記頂部から前記刃稜線部に対して離れる方向に線状に延ばした仮想線を基準線(IL)としたとき、
複数の前記案内溝には、前記基準線を挟んで隣り合う一対の溝が含まれている、請求項4に記載の切削工具。
【請求項6】
前記一対の溝は、前記基準線との間隔が前記加工送り量以上になっている、請求項5に記載の切削工具。
【請求項7】
前記すくい面は、前記基準線を挟んで隣り合う第1すくい面部(311)および第2すくい面部(312)を有し、前記第1すくい面部および前記第2すくい面部それぞれに複数の前記案内溝が形成されている、請求項5または6に記載の切削工具。
【請求項8】
複数の前記案内溝は、前記基準線に対する距離が小さいものの溝深さに比べて前記基準線に対する距離が大きいものの溝深さの方が大きくなっている、請求項5または6に記載の切削工具。
【請求項9】
前記案内溝のない前記すくい面を有する工具によって前記被削物を加工する際に切りくずの流出方向として予測される方向を基準流出方向としたとき、
前記案内溝は、前記基準流出方向とは異なる方向に延びている、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の切削工具。
【請求項10】
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の切削工具(10)と、
前記切削工具によって前記被削物を加工した際に生ずる切りくずを吸引する吸引機器(5)と、を備える、加工装置。
【請求項11】
前記吸引機器は、切りくずを吸引する吸引ダクト(53)を有し、
前記吸引ダクトは、前記案内溝によって矯正される切りくずの流出方向に吸引口(531)が開口している、請求項10に記載の加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被削物に対して所定の加工送り量で相対移動させて被削物を加工する切削工具、当該切削工具を含む加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切りくずのカールの矯正および切りくずの流出方向の矯正を図った切削工具が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1には、複数の案内溝によって切りくずの流出方向を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-208161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来技術の如く、すくい面に対して刃稜線部の先端から刃稜線部に対して離れる方向に延びる案内溝を設ける場合、案内溝の形状が被削物の仕上げ面に転写されてしまう。このことは、被削物の仕上げ面の品質低下を招く要因となり得るので好ましくない。
【0005】
本開示は、被削物の仕上げ面の品質低下を抑えつつ、切りくずのカールを抑制可能な切削工具、加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、
被削物(W)に対して所定の加工送り量で相対移動させて被削物を加工する切削工具であって、
ホルダ部(20、DH)と、
ホルダ部に固定されるチップ部(30、30A、CP)と、を備え、
チップ部は、
一面に設けられるすくい面(31、SP)と、
すくい面に連なる刃稜線部(33、Cb、Ca、Cs)と、
刃稜線部からすくい面に流出する切りくずを案内する案内部(34、35、36、37、38、39、G)と、を含み、
案内部は、刃稜線部のうち被削物の仕上げ面を生成する仕上げ部(331a、Cs)以外の他の部位から刃稜線部に対して離れる方向に線状に延びるようにすくい面に対して形成されている。
【0007】
これによると、切りくずの一部が案内部によって切りくずのカールが抑制される。加えて、刃稜線部の仕上げ部に案内部がないので、被削物の仕上げ面に案内部が転写されることが抑制される。したがって、被削物の仕上げ面の品質低下を抑えつつ、切りくずのカールを抑制することができる。
【0008】
請求項10に記載の発明は、
加工装置であって、
請求項1ないし8のいずれか1つに記載の切削工具(10)と、
切削工具によって被削物を加工した際に生ずる切りくずを吸引する吸引機器(5)と、を備える。
【0009】
これによれば、案内部に沿って流出する切りくずを吸引機器によって適切に吸引することができる。また、吸引機器によって切りくずを吸引する構成では、一対のローラによって切りくずを引っ張るもの等のように切りくずを一対のローラの間に通す作業が不要であるため、切削加工の作業性を向上させることができる。
【0010】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る加工装置の概略構成図である。
図2】切削工具を説明するための説明図である。
図3】切削工具のチップ部のすくい面側を示す平面図である。
図4図3のIV-IV断面図である。
図5】切削工具による切りくずを説明するための説明図である。
図6】切削工具による切りくずの断面形状を説明するための説明図である。
図7】第2実施形態に係る切削工具のチップ部の断面形状を説明するための説明図である。
図8】切削工具による切りくずの断面形状を説明するための説明図である。
図9】第3実施形態に係る切削工具のチップ部の斜視図である。
図10図9のX部分の拡大図である。
図11】第4実施形態に係る切削工具の平面図である。
図12図11のXII部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態において、先行する実施形態で説明した事項と同一もしくは均等である部分には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、実施形態において、構成要素の一部だけを説明している場合、構成要素の他の部分に関しては、先行する実施形態において説明した構成要素を適用することができる。以下の実施形態は、特に組み合わせに支障が生じない範囲であれば、特に明示していない場合であっても、各実施形態同士を部分的に組み合わせることができる。
【0013】
(第1実施形態)
本実施形態について、図1図6を参照して説明する。図1に示す切削工具10は、被削物Wに対して所定の加工送り量で相対移動させて被削物Wを旋削する工具である。図1では、略円柱形状の物体を被削物Wとし、被削物Wの外周部分を切削工具10によって旋削するものを例示している。なお、被削物Wは、略円柱形状の物体に限定されず、略円柱形状以外のものであってもよい。
【0014】
切削工具10は、加工装置1の工具台2に取り付けられる。加工装置1は、被削物Wを保持した状態で回転する主軸3と、互いに直交する2軸方向に移動可能な工具台2、工具台2を主軸3の軸方向に所定の加工送り量で移動させる送り機構4、吸引機器5等を備える。
【0015】
吸引機器5は、切削工具10による切りくずCHを吸引する機器である。吸引機器5は、切りくずCHを貯めるためのチャンバ51、切りくずCHをチャンバ51に吸引する吸引ポンプ52、切りくずCHをチャンバ51に導く吸引ダクト53を備える。吸引ダクト53は、切りくずCHの吸引口531が開口している。
【0016】
吸引機器5は、切りくずCHが吸引ダクト53に吸引されるように、後述するチップ部30の案内溝34によって矯正される切りくずCHの流出方向に吸引口531が開口している。すなわち、吸引ダクト53は、吸引口531の開口方向が、後述するチップ部30の案内溝34によって矯正される切りくずCHの流出方向(以下、矯正流出方向ともいう)に沿うように配置されている。
【0017】
図2に示すように、切削工具10は、工具台2に固定されるホルダ部20、ホルダ部20に固定されるチップ部30と、を備える。切削工具10は、ホルダ部20とチップ部30とが完成バイトとして一体に構成されていてもよいし、チップ部30を交換可能なように別体で構成されていてもよい。
【0018】
図2に示すように、チップ部30は、一面に設けられるすくい面31、すくい面31に連なる逃げ面32と、すくい面31と逃げ面32との間に位置する刃稜線部33と、刃稜線部33からすくい面31に流出する切りくずCHを案内する案内溝34とを備える。チップ部30は、刃稜線部33に1つの刃先331が設けられている。なお、刃稜線部33には、複数の刃先331が設けられていてもよい。
【0019】
チップ部30は、被削物Wを旋削する剣バイトで構成されている。図3に示すように、チップ部30は、刃稜線部33にある刃先331の全体が丸く湾曲した先丸剣バイトで構成されている。このように構成されるチップ部30では、刃稜線部33のうち最も被削物W側に位置する頂部331aが、被削物Wの仕上げ面を生成する仕上げ部となる。本実施形態では頂部331aから刃稜線部33に対して離れる方向に線状に延ばした仮想線を基準線ILとしている。この基準線ILは、頂部331aの接線に直交する法線である。
【0020】
チップ部30のすくい面31は、平坦面となっている。図3に示すように、すくい面31は、基準線ILを挟んで隣り合う第1すくい面部311および第2すくい面部312を有している。
【0021】
すくい面31には、4つの案内溝34、35、36、37が形成されている。各案内溝34、35、36、37は、刃稜線部33からすくい面31に流出する切りくずCHを案内する案内部である。なお、図3では、図面の理解を助けるため、各案内溝34、35、36、37にドット柄を付している。
【0022】
ここで、すくい面31に案内溝34、35、36、37のない切削工具10を比較例としたとき、比較例の切削工具10による切りくずCHの流出方向は、コルウェルの経験則によれば、加工送り量、切込み量、刃先331の形状によって概ね決まるとされている。本実施形態では、コルウェルの経験則に基づいて理論的に予測される切りくずCHの流出方向を基準流出方向とする。
【0023】
切りくずCHが基準流出方向に流出する場合、被削物Wへの切りくずCHの接触や、周辺設備に切りくずCHが絡んだりしてしまう虞がある。また、切削工具10周囲の機器のレイアウトの自由度が低下してしまう。
【0024】
これらを考慮して、本実施形態の切削工具10は、切りくずCHの流出方向が基準流出方向とは異なる方向へ矯正される構造になっている。具体的には、切削工具10は、各案内溝34、35、36、37が、基準流出方向とは異なる方向に延びている。例えば、各案内溝34、35、36、37は、基準流出方向とのなす角度が40°以下となるように延びている。このようになっていることで、切りくずCHは、図1に示すように、基準流出方向に対して交差する方向(すなわち、矯正流出方向)に流出し易くなる。
【0025】
各案内溝34、35、36、37は、頂部331aに近い側の溝深さGdが略一定となっている。各案内溝34、35、36、37は、頂部331aから所定距離離れた位置から次第に溝深さGdが小さくなってすくい面31に至る形状になっている。すくい面31に対する案内溝34の底面の角度θgは、最大で30°以上になっている。
【0026】
各案内溝34、35、36、37は、頂部331a以外の他の部位から刃稜線部33に対して離れる方向に線状に延びるようにすくい面31に対して形成されている。各案内溝34、35、36、37は、基準線ILとは交わらないように形成されている。本実施形態の各案内溝34、35、36、37は、基準線ILとは交わらないように、基準線ILと略平行に延びている。
【0027】
具体的には、第1すくい面部311には、基準線ILに対する距離が大きい第1外側案内溝34、第1外側案内溝34に比べて基準線ILに対する距離が小さい第1内側案内溝35が設けられている。また、第2すくい面部312には、基準線ILに対する距離が大きい第2外側案内溝36、第2外側案内溝36に比べて基準線ILに対する距離が小さい第2内側案内溝37が設けられている。本実施形態では、第1内側案内溝35と第2内側案内溝37とが基準線ILを挟んで隣り合う“一対の溝”を構成している。
【0028】
図4に示すように、各案内溝34、35、36、37は、断面形状が略円弧状の形状になっている。案内溝34は、研削加工、放電加工、レーザ加工等によって形成される。具体的には、案内溝34の形成方法は、チップ部30が超硬材で構成される場合は研削加工が適しており、チップ部30がダイヤモンド焼結体PCD(Poly-crystalline Diamond)で構成される場合は放電加工やレーザ加工が適している。なお、案内溝34の断面形状は、台形状や楕円形状等であってもよい。また、案内溝34、35、36、37は、チップ部30を製造するための金型に案内溝34、35、36、37とは逆の形状を設け、チップ部30の焼成時に形成されるようになっていてもよい。
【0029】
各案内溝34、35、36、37は、溝深さGdが同程度(例えば、0.1mm)になっている。各案内溝34、35、36、37の溝深さGdは、例えば、被削物Wの切取り厚さの1/4以上とされる。なお、切取り厚さは、切削工具10の刃先331の形状および加工送り量等の加工条件に応じて定まる。
【0030】
また、各案内溝34、35、36、37は、溝幅Gwが同程度(例えば、0.35mm)になっている。各案内溝34、35、36、37の溝幅Gwは、溝深さGdよりも大きくなっている。
【0031】
各内側案内溝35、37は、被削物Wの仕上げ面を生成する頂部331aに隣接して設けられており、各外側案内溝34、36よりも仕上げ面への影響が大きい。このため、各内側案内溝35、37の存在による仕上げ面への影響を抑えるために、各内側案内溝35、37の溝幅Gwは、加工送り量以下となっていることが望ましい。
【0032】
また、第1外側案内溝34と第1内側案内溝35との間隔C1は、溝幅Gwよりも小さくなっている。同様に、第2外側案内溝36と第2内側案内溝37との間隔C2は、溝幅Gwよりも小さくなっている。なお、間隔C1、C2が小さ過ぎると、欠けが生じ易くなることからある程度(例えば、0.1mm)の大きさを確保する必要がある。
【0033】
さらに、各内側案内溝35、37と基準線ILとの間隔C3、C4は、溝幅Gwよりも小さくなっている。間隔C3、C4が小さいと、各内側案内溝35、37の存在が仕上げ面へ影響してしまう虞がある。このため、間隔C3、C4は、加工送り量以上の大きさになっていることが望ましい。
【0034】
次に、被削物Wの加工時の動作について簡単に説明する。被削物Wを保持する主軸3が回転された状態で、工具台2に取り付けられた切削工具10が被削物Wの切削開始位置に移動されると、切削加工が開始される。この切削工程では、被削物Wに対して所定の加工送り量で切削工具10を相対移動させることで、被削物Wが所望の形状に旋削される。
【0035】
具体的には、チップ部30の刃先331が被削物Wの外周部分に接触することで、被削物Wの外周部分が旋削される。この際、被削物Wの切りくずCHの一部が、チップ部30に形成された各案内溝34、35、36、37の一部に入り込むことで、切りくずCHが矯正流出方向に沿って流出する。
【0036】
例えば、切削工具10を主軸3の軸方向の一方側から他方側へ移動させて被削物Wを加工する場合、図5および図6に示すように、第1外側案内溝34および第1内側案内溝35に、切りくずCHの一部が入りこむ。切りくずCHは、その一部が第1外側案内溝34および第1内側案内溝35に入り込むことで、各案内溝34、35、36、37の幅方向への変形(すなわち、横カール)が抑制される。また、切りくずCHには、第1外側案内溝34および第1内側案内溝35それぞれの形状に対応する第1凸部BP1、第2凸部BP2が形成される。これにより、切りくずCHが曲がり難い形状(例えば、波形状)になり、切りくずCHの剛性が向上することによって、切りくずCHのカールが抑制される。
【0037】
また、切削工具10を主軸3の軸方向の他方側から一方側へ移動させて被削物Wを加工する場合、第2外側案内溝36および第2内側案内溝37に、切りくずCHの一部が入りこむ。切りくずCHは、その一部が第2外側案内溝36および第2内側案内溝37に入り込むことで、各案内溝34、35、36、37の幅方向への変形(すなわち、横カール)が抑制される。また、切りくずCHには、第2外側案内溝36および第2内側案内溝37それぞれの形状に対応する凸部が形成されることで、切りくずCHの剛性が向上して、切りくずCHのカールが抑制される。
【0038】
以上説明した切削工具10は、各案内溝34、35、36、37が、刃稜線部33のうち被削物Wの仕上げ面を生成する頂部331a以外の他の部位から刃稜線部33に対して離れる方向に線状に延びるようにすくい面31に対して形成されている。
【0039】
これによると、切りくずCHの一部が各案内溝34、35、36、37の一部に入り込むことによって切りくずCHのカールが抑制される。また、各案内溝34、35、36、37によって切りくずCHの剛性が増すことで、切りくずCHの流出方向を安定させることができ、切りくずCHを適切に回収し易くなる。
【0040】
加えて、刃稜線部33において仕上げ部に各案内溝34、35、36、37がないので、被削物Wの仕上げ面に各案内溝34、35、36、37が転写されることが抑制される。例えば、各案内溝34、35、36、37のエッジ部分には、欠けが生じることがあるが、このような欠けの影響も被削物Wの仕上げ面に大きく影響し難くなる。
【0041】
したがって、本実施形態の切削工具10によれば、被削物Wの仕上げ面の品質低下を抑えつつ、切りくずCHのカールを抑制することができる。
【0042】
また、本実施形態の切削工具10は、以下の特徴を有する。
【0043】
(1)すくい面31には、複数の案内溝34、35、36、37が形成されている。これによれば、切りくずCHの断面に複数の凸部が形成され、切りくずCHの剛性が高まることで、切りくずCHのカールが抑制される。
【0044】
(2)具体的には、チップ部30は、被削物Wを旋削する剣バイトで構成され、仕上げ部として刃稜線部33のうち最も被削物W側に位置する頂部331aを有する。そして、各案内溝34、35、36、37は、刃稜線部33のうち頂部331a以外の他の部位から刃稜線部33に対して離れる方向に線状に延びるようにすくい面31に対して形成されている。これによると、刃稜線部33の頂部331aに各案内溝34、35、36、37がないので、被削物Wの仕上げ面に各案内溝34、35、36、37が転写されることが抑制される。
【0045】
(3)各案内溝34、35、36、37には、基準線ILを挟んで隣り合う一対の溝が含まれている。これによると、切削工具10の送り方向が逆になっても切りくずCHのカールを抑制できる。このような切削工具10は、異なる方向のツールパスが存在する切削加工に好適である。
【0046】
(4)第1内側案内溝35および第2内側案内溝37は、基準線CLとの間隔C3、C4が加工送り量以上になっている。これによると、被削物Wの仕上げ面に各内側案内溝35、37が転写されることが抑制される。
【0047】
(5)すくい面31は、基準線ILを挟んで隣り合う第1すくい面部311および第2すくい面部312を有する。第1すくい面部311には、第1外側案内溝34および第1内側案内溝35が形成されている。また、第2すくい面部312には、第2外側案内溝36よび第2内側案内溝37が形成されている。このように、各すくい面部311、312に2つの溝が形成されていれば、切りくずCHの断面に複数の凹凸が形成されることで、切りくずCHのカールが充分に抑制される。なお、本実施形態では、各すくい面部311、312に2つの溝が形成されているのものを例示したが、これに限らず、各すくい面部311、312に3つ以上の溝が形成されていてもよい。
【0048】
(6)各案内溝34、35、36、37は、基準流出方向とは異なる方向に延びている。これによると、切りくずCHの被削物Wへの接触や切りくずCHが設備内で絡まることを抑制することができる。また、切りくずCHの基準流出方向に対応する位置に切りくずCHの吸引機器5とは別のものを配置可能となり、切削工具10周囲の機器のレイアウトの自由度を向上させることができる。
【0049】
(7)加工装置1は、切削工具10によって被削物Wを加工した際に生ずる切りくずCHを吸引する吸引機器5を備える。これによれば、各案内溝34、35、36、37に沿って流出する切りくずCHを吸引機器5によって適切に吸引することができる。また、吸引機器5によって切りくずCHを吸引する構成では、一対のローラによって切りくずCHを引っ張るもの等のように切りくずCHを一対のローラの間に通す作業が不要であるため、切削加工の作業性を向上させることができる。
【0050】
(8)吸引機器5は、切りくずCHを吸引する吸引ダクト53を有する。吸引ダクト53は、各案内溝34、35、36、37によって矯正される切りくずCHの流出方向に吸引口531が開口している。これによれば、吸引機器5によって切りくずCHを適切に吸引することができる。
【0051】
(第1実施形態の変形例)
第1実施形態では、各すくい面部311、312に2つの溝が形成されているものを例示したが、これに限らず、例えば、各すくい面部311、312に1つの溝が形成されていてもよい。また、各すくい面部311、312のうち一方だけに溝が形成されていてもよい。このことは、以降の実施形態においても同様である。
【0052】
第1実施形態では、各案内溝34、35、36、37が基準線ILに平行になっているものを例示したが、そのようになっていなくてもよい。各案内溝34、35、36、37は、少なくとも一部が基準線ILに交差するようになっていてもよい。
【0053】
第1実施形態の加工装置1は、切りくずCHを吸引する吸引機器5を備えているが、これに限らず、吸引機器5が省略されていてもよいし、一対のローラによって切りくずCHを引っ張るように構成されていてもよい。このことは、以降の実施形態においても同様である。
【0054】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、図7図8を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0055】
切削工程では、被削物Wに対してチップ部30の刃先331が外側から内側へと順次接触する。そして、切りくずCHは、刃先331の外側に対応する部位の厚みが刃先331の内側に対応する部位の厚みよりも大きくなる傾向がある。
【0056】
このことを考慮し、本実施形態のチップ部30は、図7に示すように、第1外側案内溝34および第2外側案内溝36の溝深さGdoが、第1内側案内溝35および第2内側案内溝37の溝深さGdiよりも大きくなっている。また、チップ部30は、第1外側案内溝34および第2外側案内溝36の溝幅Gwoが、第1内側案内溝35および第2内側案内溝37の溝幅Gwiよりも大きくなっている。
【0057】
これにより、切りくずCHには、図8に示すように、第1外側案内溝34または第2外側案内溝36の形状に対応する第1凸部BP1が形成されるとともに、第1内側案内溝35または第2内側案内溝37の形状に対応する第2凸部BP2が形成される。なお、第1凸部BP1は、第2凸部BP2より大きなる。
【0058】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態の切削工具10は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0059】
また、本実施形態の切削工具10は、以下の特徴を有する。
【0060】
(1)各案内溝34、35、36、37は、基準線ILに対する距離が小さい各内側案内溝35、37の溝深さGdiに比べて基準線ILに対する距離が大きい各外側案内溝34、36の溝深さGdoの方が大きくなっている。これによれば、刃稜線部33の頂部331aから離れた位置での切りくずCHの剛性を高めることができるので、被削物Wの仕上げ面の品質を確保しつつ、切りくずCHのカールを充分に抑制することができる。
【0061】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について、図9図10を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0062】
図9に示すように、本実施形態のチップ部30Aは、略菱形の形状となる剣バイトで構成されている。チップ部30Aは、互いに対向する鋭角部分に刃稜線部33が設けられている。
【0063】
図10に示すように、チップ部30Aには、各すくい面部311、312に1つずつ案内溝38、39が形成されている。なお、チップ部30Aには、各すくい面部311、312に2つ以上の溝が形成されていたり、各すくい面部311、312の一方に溝が形成されていたりしてもよい。
【0064】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態の切削工具10Aは、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0065】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について、図11図12を参照して説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0066】
図11に示すように、本実施形態の切削工具10は、旋削用ではなく、穴の仕上げ加工用のドリルリーマDRである。ドリルリーマDRは、棒状のホルダDH、ホルダDHの一端側に設けられたチップ部CPを有する。ドリルリーマDRは、ホルダDHとチップ部CPとが一体に構成されていてもよいし、チップ部CPが交換可能に構成されていてもよい。
【0067】
図12に示すように、チップ部CPは、複数の切刃CEを有する。切刃CEは、すくい面SP、刃稜線部として切削用の底刃部Cb、底刃部Cbに連なる食付き部Ca、仕上げ面を生成する側刃部Csを有する。切刃CEのすくい面SPには、仕上げ部を構成する側刃部Csではなく、食付き部Caに、食付き部Caから離れる方向に案内溝Gが3つ形成されている。なお、案内溝Gは、すくい面SPに対して少なくとも1つ形成されていればよい。
【0068】
以上の如く構成される切削工具10は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0069】
本実施形態の切削工具10によれば、切りくずCHの一部が案内溝Gの一部に入り込むことによって切りくずCHのカールが抑制される。また、案内溝Gによって切りくずCHの剛性が増すことで、切りくずCHの流出方向を安定させることができ、切りくずCHを適切に回収し易くなる。さらに、仕上げ部を構成する側刃部Csに案内溝Gがないので、被削物Wの仕上げ面に案内溝Gが転写されることが抑制される。
【0070】
したがって、本実施形態の切削工具10によっても、被削物Wの仕上げ面の品質低下を抑えつつ、切りくずCHのカールを抑制することができる。
【0071】
(他の実施形態)
以上、本開示の代表的な実施形態について説明したが、本開示は、上述の実施形態に限定されることなく、例えば、以下のように種々変形可能である。
【0072】
上述の実施形態では、すくい面31に対して、案内部として複数の案内溝34、35、36、37が形成されているものを例示したが、チップ部30は、これに限定されない。チップ部30は、例えば、すくい面31に対して、案内部として突起が形成されていてもよい。
【0073】
上述の実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0074】
上述の実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
【0075】
上述の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。
【符号の説明】
【0076】
1 加工装置
10 切削工具
20 ホルダ部
30 チップ部
31 すくい面
33 刃稜線部
331 頂部
34、35、36、37 案内溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12