(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180486
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】圧電膜積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/853 20230101AFI20231214BHJP
H10N 30/076 20230101ALI20231214BHJP
H10N 30/079 20230101ALI20231214BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20231214BHJP
C04B 35/582 20060101ALN20231214BHJP
【FI】
H01L41/187
H01L41/316
H01L41/319
H01L41/047
C04B35/582
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093842
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勅使河原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】阿部 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】木嶋 健治
(72)【発明者】
【氏名】榎本 哲也
(57)【要約】
【課題】異常粒の発生が抑制されたScAlN膜を備える圧電膜積層体を提供する。
【解決手段】圧電膜積層体は、下地表面14aを有するSiN膜14と、下地表面14aに接して配置されるScAlN膜15と、を備える。下地表面14aの表面粗さは、算術平均粗さの値で0.5nm以下である。これによれば、表面粗さが0.5nm以下である下地表面14aに接してScAlN膜15が形成される。これにより、表面粗さが0.5nmよりも大きい下地表面に接してScAlN膜が形成される場合と比較して、ScAlN膜中の異常粒の発生を抑制することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電膜積層体であって、
下地表面(14a、21a、22a、23a、24a、25a、26a)を有する下地材(14、21、22、23、24、25、26)と、
前記下地表面に接して配置されるScAlN膜(15)と、を備え、
前記下地表面の表面粗さは、算術平均粗さの値で0.5nm以下である、圧電膜積層体。
【請求項2】
前記下地材(14)は、アモルファスの絶縁性材料である、請求項1に記載の圧電膜積層体。
【請求項3】
前記下地材(21)は、複数の結晶粒を含む多結晶であって、前記複数の結晶粒のそれぞれが無配向の構造を有する絶縁性材料である、請求項1に記載の圧電膜積層体。
【請求項4】
前記下地材(22)は、六方晶、立方晶のいずれでもない結晶構造を有する絶縁性材料である、請求項1に記載の圧電膜積層体。
【請求項5】
前記下地材(23)は、六方晶または立方晶の結晶構造を有するとともに、複数の結晶粒を有する多結晶または単結晶の構造を有する絶縁性材料であり、
前記複数の結晶粒には、結晶粒の結晶軸が特定方位に配向した結晶粒が含まれ、
前記下地材が六方晶の結晶構造を有する場合、前記下地材は、六方晶のc軸の向きが前記下地表面に対して垂直な向きの構造を除く構造であり、
前記下地材が立方晶の結晶構造を有する場合、前記下地材は、立方晶の〈111〉軸の向きが前記下地表面に対して垂直な向きの構造を除く構造である、請求項1に記載の圧電膜積層体。
【請求項6】
前記下地材は、膜形状であり、
前記下地材の膜厚は、前記ScAlN膜の膜厚の1/10以下である、請求項2ないし5のいずれか1つに記載の圧電膜積層体。
【請求項7】
前記圧電膜積層体は、前記下地材に対して前記ScAlN膜側の反対側に、前記下地材に接して配置される導電性材料(13)を備える、請求項2ないし5のいずれか1つに記載の圧電膜積層体。
【請求項8】
前記導電性材料は、前記下地材に接する表面(13a)を有し、
前記導電性材料の前記表面の表面粗さは、算術平均粗さの値で0.5nm以下である、請求項7に記載の圧電膜積層体。
【請求項9】
前記下地材(25)は、アモルファスの導電性材料である、請求項1に記載の圧電膜積層体。
【請求項10】
前記下地材(24)は、複数の結晶粒を含む多結晶であって、前記複数の結晶粒のそれぞれが無配向の構造を有する導電性材料である、請求項1に記載の圧電膜積層体。
【請求項11】
前記下地材(26)は、六方晶、体心立方晶または面心立方晶の結晶構造を有するとともに、複数の結晶粒を有する多結晶または単結晶の構造である導電性材料であり、
前記複数の結晶粒には、結晶粒の結晶軸が特定方位に配向した結晶粒が含まれ、
前記下地材が六方晶の結晶構造を有する場合、前記下地材は、六方晶のc軸の向きが前記下地表面(26a)に対して垂直な向きの構造を除く構造であり、
前記下地材が体心立方晶の結晶構造を有する場合、体心立方晶の〈101〉軸の向きが前記下地表面に対して垂直な向きの構造を除く構造であり、
前記下地材が面心立方晶の結晶構造を有する場合、面心立方晶の〈111〉軸の向きが前記下地表面に対して垂直な向きの構造を除く構造である、請求項1に記載の圧電膜積層体。
【請求項12】
圧電膜積層体の製造方法であって、
下地表面(14a、21a、22a、23a、24a、25a、26a)を有する下地材(14、21、22、23、24、25、26)を用意すること(S1、S2、S3)と、
前記下地表面を平坦化すること(S4)と、
前記下地表面を平坦化した後、前記下地表面に接してScAlN膜(15)を形成すること(S5)と、を含み、
前記平坦化することにおいては、前記下地表面の表面粗さを、算術平均粗さの値で0.5nm以下とする、圧電膜積層体の製造方法。
【請求項13】
圧電膜積層体の製造方法であって、
表面(13a)を有する導電性材料(13)を用意すること(S1、S2)と、
前記導電性材料の前記表面を平坦化すること(S2―1)と、
前記表面を平坦化した後、下地表面を有する下地材を前記導電性材料に接した状態で形成すること(S3)と、
前記下地表面に接してScAlN膜を形成すること(S5)と、を含み、
前記平坦化することにおいては、前記導電性材料の前記表面の表面粗さを、算術平均粗さの値で0.5nm以下とすることで、前記下地表面の表面粗さを、算術平均粗さの値で0.5nm以下とする、圧電膜積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電膜と下地材とが積層された圧電膜積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、下地材と、圧電膜であるScAlN膜と、を備える圧電膜積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ScAlN膜は、六方晶であって、複数の結晶粒を有する多結晶の結晶構造を有する。複数の結晶粒に、ScAlN膜の膜表面に対して垂直な向きに六方晶のc軸が配向するc軸配向結晶粒が多く含まれるときに、ScAlN膜の圧電性が高くなる。一方、複数の結晶粒に、六方晶のc軸の向きがランダムである異常粒が多く含まれるときに、ScAlN膜の圧電性が低くなる。ScAlN膜に存在する異常粒が少ないほど、ScAlN膜に存在するc軸配向結晶粒が多くなる関係がある。このため、ScAlN膜中の異常粒の発生が抑制されることが望まれる。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、異常粒の発生が抑制されたScAlN膜を備える圧電膜積層体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明によれば、
圧電膜積層体は、
下地表面(14a、21a、22a、23a、24a、25a、26a)を有する下地材(14、21、22、23、24、25、26)と、
下地表面に接して配置されるScAlN膜(15)と、を備え、
下地表面の表面粗さは、算術平均粗さの値で0.5nm以下である。
【0007】
これによれば、表面粗さが0.5nm以下である下地表面に接してScAlN膜が形成される。これにより、表面粗さが0.5nmよりも大きい下地表面に接してScAlN膜が形成される場合と比較して、ScAlN膜中の異常粒の発生を抑制することができる。よって、異常粒の発生が抑制されたScAlN膜を備える圧電膜積層体を提供することができる。
【0008】
また、請求項12に記載の発明によれば、
圧電膜積層体の製造方法は、
下地表面(14a、21a、22a、23a、24a、25a、26a)を有する下地材(14、21、22、23、24、25、26)を用意すること(S1、S2、S3)と、
下地表面を平坦化すること(S4)と、
下地表面を平坦化した後、下地表面に接してScAlN膜(15)を形成すること(S5)と、を含み、
平坦化することにおいては、下地表面の表面粗さを、算術平均粗さの値で0.5nm以下とする。
【0009】
これによれば、表面粗さが0.5nm以下である下地表面に接してScAlN膜が形成される。これにより、表面粗さが0.5nmよりも大きい下地表面に接してScAlN膜が形成される場合と比較して、ScAlN膜中の異常粒の発生を抑制することができる。よって、異常粒の発生が抑制されたScAlN膜を備える圧電膜積層体を製造することができる。
【0010】
また、請求項13に記載の発明によれば、
圧電膜積層体の製造方法は、
表面(13a)を有する導電性材料(13)を用意すること(S1、S2)と、
導電性材料の表面を平坦化すること(S2―1)と、
表面を平坦化した後、下地表面を有する下地材を導電性材料に接した状態で形成すること(S3)と、
下地表面に接してScAlN膜を形成すること(S5)と、を含み、
平坦化することにおいては、導電性材料の表面の表面粗さを、算術平均粗さの値で0.5nm以下とすることで、下地表面の表面粗さを、算術平均粗さの値で0.5nm以下とする。
【0011】
これによれば、表面粗さが0.5nm以下である下地表面に接してScAlN膜が形成される。これにより、表面粗さが0.5nmよりも大きい下地表面に接してScAlN膜が形成される場合と比較して、ScAlN膜中の異常粒の発生を抑制することができる。よって、異常粒の発生が抑制されたScAlN膜を備える圧電膜積層体を製造することができる。
【0012】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態における圧電膜積層体の断面図である。
【
図2】第1実施形態における圧電膜積層体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】実施例1~3および比較例1~3における下地表面の表面粗さRaと結晶性との関係を示す図である。
【
図5A】実施例1のScAlN膜のSEM像である。
【
図5B】実施例2のScAlN膜のSEM像である。
【
図5C】実施例3のScAlN膜のSEM像である。
【
図5D】比較例1のScAlN膜のSEM像である。
【
図5E】比較例2のScAlN膜のSEM像である。
【
図6】実施例1~3および比較例1~3における下地表面の表面粗さRaと圧電性能との関係を示す図である。
【
図7】実施例1~3および比較例1~3における下地表面の表面粗さRaとtanδとの関係を示す図である。
【
図8】実施例1~4および比較例1~3における下地表面の表面粗さRaと結晶性との関係を示す図である。
【
図9】第2実施形態における圧電膜積層体の断面図である。
【
図10】第3実施形態における圧電膜積層体の断面図である。
【
図11】第4実施形態における圧電膜積層体の断面図である。
【
図12】第5実施形態における圧電膜積層体の断面図である。
【
図13】実施例1~3、5および比較例1~4における下地表面の表面粗さRaと結晶性との関係を示す図である。
【
図14】第6実施形態における圧電膜積層体の断面図である。
【
図15】第7実施形態における圧電膜積層体の断面図である。
【
図16】第8実施形態における圧電膜積層体の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0015】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態の圧電膜積層体10は、Si基板11と、AlN膜12と、Mo膜13と、SiN膜14と、ScAlN膜15と、を備える。これらの膜は、積層されている。
【0016】
Si基板11は、半導体材料であるSiで主に構成された基板である。Si以外の半導体材料で構成された基板が用いられてもよい。
【0017】
AlN膜12は、Si基板11の上側にSi基板11の表面に接して配置される。AlN膜12は、AlNで主に構成された膜である。AlN膜12は、Mo膜13の結晶性を向上させるためのMo膜13の下地材として用いられている。
【0018】
Mo膜13は、AlN膜12の上側にAlN膜12の表面に接して配置される。換言すると、Mo膜13は、SiN膜14の下側にSiN膜14に接して配置される。SiN膜14の下側は、SiN膜14に対してScAlN膜15側の反対側である。
【0019】
Mo膜13は、導電性材料であるMoで主に構成された膜である。Mo膜13は、ScAlN膜15の圧電機能を発現させるための下部電極として用いられている。Mo膜13は、SiN膜14に接する表面13aを有する。Mo膜13に替えて、Mo以外の金属材料などの導電性材料で構成された膜が用いられてもよい。
【0020】
SiN膜14は、Mo膜13の上側にMo膜13の表面13aに接して配置される。SiN膜14は、ScAlN膜15の下地材であり、膜形状である。ScAlN膜15の下地材は、ScAlN膜15に接して、ScAlN膜15を支える。SiN膜14は、アモルファスの絶縁性材料であるSiNで主に構成される。
【0021】
アモルファスは、結晶構造を持たない物質の状態のことであり、非晶質とも呼ばれる。膜を構成する材料がアモルファスであることは、膜に対して電子線回折測定を行うことで確認される。その測定結果がハローパターンのとき、膜を構成する材料はアモルファスである。本明細書において、絶縁性とは、電気抵抗率(すなわち、体積抵抗率)が104Ω・m以上であることを意味する。
【0022】
絶縁性であるSiN膜14の膜厚が厚くなりすぎると、ScAlN膜15とSiN膜14とを含む複合膜の総合的な圧電性が損なわれる。このため、この複合膜の圧電性が大きく損なわれないように、SiN膜14の膜厚は、ScAlN膜15の膜厚の1/10以下であることが好ましく、ScAlN膜15の膜厚の1/50以下であることがより好ましい。これによれば、ScAlN膜15とSiN膜14とを含む複合膜の総合的な圧電性の低下を抑制することができる。
【0023】
SiN膜14は、ScAlN膜15に接する表面(すなわち、下地表面)14aを有する。下地表面14aの表面粗さは、算術平均粗さの値で0.5nm以下である。算術平均粗さは、JIS B 0601に定められたものである。原子間力顕微鏡、触針式表面粗さ計などにより、表面を走査して、表面粗さを測定することができる。また、測定したい表面上に別の膜が形成されている場合、透過電子顕微鏡による断面観察を行い、測定したい界面の形状を求めることによって、表面粗さを測定することができる。
【0024】
ScAlN膜15は、SiN膜14の上側にSiN膜14の下地表面14aに接して配置される。ScAlN膜15は、ScAlN(すなわち、スカンジウム含有窒化アルミニウム)で主に構成された圧電膜である。ScAlN膜15は、SiN膜14側の反対側の表面15aを有する。
【0025】
ScAlN膜15のSc濃度は、0原子%よりも大きく、45原子%以下のいずれの濃度でもよい。Sc濃度とは、Scの原子数とAlの原子数との総量100原子%に対してのScの原子数が占める割合である。原子%は、原子数百分率を指している。Sc濃度は、RBSによって測定される。RBSは、Rutherford Backscattering Spectrometry(すなわち、ラザフォード後方散乱分光)の略称である。本明細書に示すSc濃度は、下記の装置を用いて、下記の測定条件で測定された値である。
装置名:National Electrostatics Corporation製 Pelletron 3SDH
測定条件
RBS測定
入射イオン: 4He++
入射エネルギー: 2300keV
入射角: 0deg
散乱角: 160deg
試料電流: 13nA
ビーム径: 2mmφ
面内回転: 無
照射量: 70μC
【0026】
次に、本実施形態の圧電膜積層体10の製造方法について説明する。圧電膜積層体10の製造方法は、
図2に示すように、AlN膜12の形成工程S1と、Mo膜13の形成工程S2と、SiN膜14の形成工程S3と、SiN膜14の平坦化工程S4と、ScAlN膜15の形成工程S5と、を含む。
【0027】
まず、AlN膜12の形成工程S1では、反応性DCスパッタリング法にて、Si基板11の表面上にAlN膜12を形成することが行われる。その後、Mo膜13の形成工程S2が行われる。
【0028】
Mo膜13の形成工程S2では、DCスパッタリング法にて、AlN膜12の表面上にMo膜13を形成することが行われる。その後、SiN膜14の形成工程S3が行われる。
【0029】
SiN膜14の形成工程S3では、プラズマCVD法にて、Mo膜13の上側にMo膜13の表面13aに接してSiN膜14を形成することが行われる。その後、SiN膜14の平坦化工程S4が行われる。
【0030】
SiN膜14の平坦化工程S4では、Arプラズマを用いたエッチングによって、SiN膜14の下地表面14aを平坦化することが行われる。このとき、エッチング時間が長いほど、下地表面14aの表面粗さが低減する。下地表面14aの表面粗さが、算術平均粗さの値で0.5nm以下となるように、エッチング時間が設定される。下地表面14aを平坦化した後、ScAlN膜15の形成工程S5が行われる。
【0031】
ScAlN膜15の形成工程S5では、反応性DCスパッタリング法にて、SiN膜14の上側に下地表面14aに接してScAlN膜15を形成することが行われる。このようにして、
図1に示す構造の圧電膜積層体10が製造される。
【0032】
本実施形態では、AlN膜12の形成工程S1、Mo膜13の形成工程S2およびSiN膜14の形成工程S3が、下地材を用意することに対応する。SiN膜14の平坦化工程S4が、下地表面を平坦化することに対応する。ScAlN膜15の形成工程S5が、下地表面に接してScAlN膜を形成することに対応する。
【0033】
なお、Mo膜13の形成工程S2の後であって、SiN膜14の形成工程S3の前に、Mo膜13の表面を平坦化することが行われてもよい。この場合も、SiN膜14の平坦化工程S4が行われることで、下地表面14aの表面粗さが、最終的に、算術平均粗さの値で0.5nm以下とされる。
【0034】
ScAlN膜15は、
図3に示す六方晶の結晶構造を有するとともに、複数の結晶粒を有する多結晶の構造を有する。複数の結晶粒に、ScAlN膜15の表面15aに対して垂直な向きに六方晶のc軸が配向するc軸配向結晶粒が多く含まれるときに、ScAlN膜の圧電性が高くなる。一方、複数の結晶粒に、六方晶のc軸の向きがランダムである異常粒が多く含まれるときに、ScAlN膜15の圧電性が低くなる。ScAlN膜15に存在する異常粒が少ないほど、ScAlN膜15に存在するc軸配向結晶粒が多くなる関係がある。このため、ScAlN膜15中の異常粒の発生が抑制されることが望まれる。
【0035】
本発明者は、後述の通り、異常粒の発生の要因の一つが、下地表面14aの表面粗さであることを見出した。そして、表面粗さが0.5nm以下である下地表面14aに接してScAlN膜15を形成することで、ScAlN膜15中の異常粒の発生を抑制できることを見出した。
【0036】
そこで、本実施形態の圧電膜積層体10は、下地表面14aを有するSiN膜14と、下地表面14aに接して配置されるScAlN膜15と、を備える。ScAlN膜15に接する下地表面14aの表面粗さは、算術平均粗さの値で0.5nm以下である。
【0037】
本実施形態の圧電膜積層体10の製造方法は、下地表面14aを有するSiN膜14を用意することと、下地表面14aを平坦化することと、下地表面14aに接してScAlN膜15を形成することと、を含む。平坦化することにおいては、下地表面14aの表面粗さは、算術平均粗さの値で0.5nm以下とされる。
【0038】
これらによれば、表面粗さが0.5nm以下である下地表面14aに接してScAlN膜15が形成される。これにより、表面粗さが0.5nmよりも大きい下地表面に接してScAlN膜が形成される場合と比較して、ScAlN膜15中の異常粒の発生を抑制することができる。
【0039】
さらに、本実施形態の圧電膜積層体10によれば、下記の効果を奏する。ScAlN膜15の下地材であるSiN膜14は、アモルファスの絶縁性材料である。
【0040】
本実施形態と異なり、Mo膜13をScAlN膜15の下地材とする場合、すなわち、Mo膜13の表面13aに接してScAlN膜15を形成する場合、ScAlN膜15中に異常粒が発生しやすい。この理由として、次のことが考えられる。
【0041】
一般的に、AlN膜の表面上に形成されたMo膜は、(101)配向しやすい。つまり、AlN膜の表面上に形成されたMo膜の表面に平行な面方向は、(101)面になりやすい。この場合、Mo膜13の表面13aに平行な面方向でのMoの原子配列の対称性は、六方晶のc軸の向きがScAlN膜15の表面15aに対して垂直な向きで、複数の結晶粒が配向するときのScAlN膜15の表面15aに平行な面方向でのScAlNの原子配列の対称性に近似している。これに加えて、Moの格子定数が、ScAlNの格子定数に対して数%程度の範囲内で不一致である。このため、ScAlN膜15の形成時に、ScAlN膜15に望まれない歪、すなわち、応力が発生する。これらが、上記の場合に異常粒が発生する原因であると考えられる。
【0042】
これに対して、本実施形態によれば、SiN膜14の下地表面14aに平行な面方向でのSiNの原子配列は、上記の複数の結晶粒が配向するときのScAlN膜15の表面15aに平行な面方向でのScAlNの原子配列と異なる。このため、下地表面14aに平行な面方向での原子配列の対称性が、ScAlN膜15の表面15aに平行な面方向での原子配列の対称性と同じであって、下地材の格子定数がScAlNの格子定数と不一致であることを原因とする異常粒の発生を回避することができる。このように、下地材がアモルファスの絶縁性材料であることによっても、ScAlN膜15中の異常粒の発生を抑制することができる。
【0043】
ここで、本発明者が行った実験結果について説明する。本発明者は、上記した製造方法によって、実施例1~3の圧電膜積層体10を製造した。また、上記した製造方法に対して、SiN膜14の平坦化工程S4の条件を変更して、比較例1~3の圧電膜積層体10を製造した。そして、本発明者は、実施例1~3および比較例1~3の圧電膜積層体10のそれぞれにおいて、SiN膜14の下地表面の表面粗さRaと、ScAlN膜15の結晶性、圧電性能およびtanδとを測定した。
【0044】
実施例1~3および比較例1~3の圧電膜積層体10の製造条件は、次の通りである。
【0045】
[SiN膜14の形成工程]
装置:平行平板型のRFプラズマ装置
導入ガス:SiH4、NH3、N2
ガス圧力:5Tor、
RF電力:300W
基板温度:330℃
【0046】
[SiN膜14の平坦化工程]
装置:平行平板型のRFプラズマ装置
導入ガス:Ar、
RF電力:50W
エッチング時間:0~200sec
【0047】
[SiN膜14の平坦化工程におけるエッチング時間および表面粗さRa]
実施例1では、エッチング時間は200secであり、表面粗さRaは0.29nmである。実施例2では、エッチング時間は90secであり、表面粗さRaは0.44nmである。実施例3では、エッチング時間は40secであり、表面粗さRaは0.51nmである。比較例1では、エッチング時間は30secであり、表面粗さRaは0.57nmである。比較例2では、エッチング時間は23secであり、表面粗さRaは0.71nmである。比較例3では、エッチング時間は0secであり、表面粗さRaは1.01nmである。
【0048】
[ScAlN膜15の形成工程]
ターゲットの種類:ScAlターゲット、Sc濃度40%
ターゲットサイズ:直径300mm
Si基板とターゲットとの間の距離:60mm
DCパワー:8kW
ガス流量 N2:26sccm、Ar:19sccm
ガス圧力:0.3Pa
Si基板温度:335℃
基板RFバイアスパワー:20W
本発明者がScAlN膜のSc濃度をRBSで測定した結果、実施例1~3および比較例1~3のそれぞれのScAlN膜のSc濃度は、40%であった。
【0049】
[各膜の厚さ]
AlN膜12の膜厚:30nm
Mo膜13の膜厚:25nm
SiN膜14の膜厚:10~30nm
ScAlN膜15の膜厚:500nm
実施例1~3および比較例1~3では、SiN膜14の膜厚が異なる。これは、エッチング時間が異なるためである。
【0050】
図4は、下地表面14aの表面粗さRaとScAlN膜15の結晶性との関係を表すグラフである。
図4の縦軸は、X線回折装置にて測定したScAlN結晶の(0002)面のX線回折ピークについてのロッキングカーブのピーク高さと半値幅である。
図4の横軸は、下地表面14aの表面粗さRaである。
【0051】
図4において、A1~A3のそれぞれが、実施例1~3のそれぞれの結果である。B1~B3のそれぞれが、比較例1~3のそれぞれの結果である。ピーク強度の数値が大きいほど、半値幅の数値が小さいほど、ScAlNの結晶性が良い。「ScAlNの結晶性が良い」とは、ScAlN膜15に含まれる異常粒が少なく、c軸配向結晶粒が多く含まれることを意味する。すなわち、ScAlNの結晶構造が、ScAlN膜15の表面15aに対して垂直な向きに六方晶のc軸が配向する配向性が高い結晶構造であることを意味する。
【0052】
図4より、表面粗さRaが小さくなるにつれて、ピーク強度が高くなるとともに、半値幅が小さくなる傾向、すなわち、結晶性が良くなる傾向があることがわかる。特に、表面粗さRaがB1の0.57からA3の0.51に変わると、結晶性が急激に良くなる。0.51の少数第2位を四捨五入すると0.5であり、0.57の少数第2位を四捨五入すると0.6である。これらのことから、下地表面の表面粗さRaが0.5以下のときに、下地表面の表面粗さRaが0.5よりも大きいときよりも、結晶性が良いScAlN膜15が得られると考えられる。
【0053】
実施例1~3の下地表面14aの表面粗さRaは、0.5nm以下の範囲に含まれる。比較例1~3の下地表面14aの表面粗さRaは、0.5nmよりも大きい範囲に含まれる。
【0054】
図5A~
図5Cのそれぞれは、実施例1~実施例3のScAlN膜15のSEM像である。
図5Dと
図5Eのそれぞれは、比較例1、2のScAlN膜15のSEM像である。SEM像は、走査電子顕微鏡によって取得された画像である。各図中に存在する複数の小片が異常粒である。
図5A~
図5Eより、実施例1~3のScAlN膜15に含まれる異常粒は、比較例1、2のScAlN膜15と比較して少ないことが確認された。
【0055】
図6は、下地表面14aの表面粗さRaとScAlN膜15の圧電性能との関係を表すグラフである。
図6の縦軸は、圧電定数d33である。圧電定数d33の数値が大きいことが望ましい。
図6より、実施例1~3のScAlN膜15の圧電定数d33は、比較例1~3のScAlN膜15の圧電定数d33よりも大きいことが確認された。
【0056】
図7は、下地表面14aの表面粗さRaとScAlN膜15のtanδとの関係を表すグラフである。tanδの数値が小さいことが望ましい。
図7より、実施例1~3のScAlN膜15のtanδは、比較例1~3のScAlN膜15のtanδよりも小さいことが確認された。
【0057】
また、本発明者は、実施例4の圧電膜積層体10を製造した。実施例4では、ScAlN膜15のSc濃度は24%である。SiN膜14の下地表面14aの表面粗さRaは、0.25nmである。圧電膜積層体10の他の製造条件は、実施例1~3と同じである。
【0058】
そして、本発明者は、実施例1~3と同様に、実施例4のScAlN膜15の結晶性を測定した。
図8は、実施例4の表面粗さRaおよび結晶性の測定結果を、実施例1~3および比較例1~3のグラフに追加したものである。
図8中のA4が、実施例4の測定結果である。実施例4の下地表面14aの表面粗さRaは、0.5nm以下である。
図8より、実施例4においても、下地表面のRaが0.5以下のときに結晶性が良いという関係を満たすことが確認された。
【0059】
実施例1~4の結果より、ScAlN膜15のSc濃度が24原子%以上40原子%以下のときに、下地表面14aの表面粗さRaが0.5nm以下であることにより、表面粗さRaが0.5nmよりも大きい場合と比較して、ScAlN膜15中の異常粒の発生を抑制できることが確認された。このときに限らず、Sc濃度が24原子%よりも小さいときにおいても、同様の効果が得られると考えられる。
【0060】
ただし、本実施形態の圧電膜積層体10の製造方法と異なり、下地表面14aの平坦化を行わない場合、特に、Sc濃度が24原子%以上の高いときに、異常粒が発生しやすいことがわかっている。このため、上記の実験結果に示すように、Sc濃度が24原子%以上のときに、表面粗さRaが0.5nm以下であることが、特に有効である。
【0061】
また、本実施形態では、ScAlN膜15の下地材として、SiN膜14が用いられるが、SiN以外のアモルファスの絶縁性材料で構成された膜が用いられてもよい。SiN以外のアモルファスの絶縁性材料としては、SiO2などが挙げられる。アモルファスのSiO2で構成された膜は、Mo膜13等の導電性材料の上に堆積して形成される。
【0062】
(第2実施形態)
図9に示すように、本実施形態の圧電膜積層体10Aでは、ScAlN膜15の下地材として、第1実施形態のSiN膜14の代わりに、AlN膜21が用いられる。このAlN膜21は、AlNで主に構成された膜である。このAlN膜21を構成するAlNは、複数の結晶粒を含む多結晶であって、複数の結晶粒のそれぞれが無配向の構造を有する絶縁性材料である。「無配向」とは、複数の結晶粒のそれぞれの方位分布が均等な状態を意味する。実測上では、「無配向」とは、X線回折において、任意の結晶面に関するロッキングカーブを測定した場合に、ピークを示さない状態を意味する。ロッキングカーブの測定では、横軸が入射X線に対する試料の角度ωとされ、縦軸が回折強度とされる。ピークを示さないとは、ωの変化に対して回折強度がほぼ一定の値であることを意味する。
【0063】
AlN膜21は、ScAlN膜15に接する表面(すなわち、下地表面)21aを有する。下地表面21aの表面粗さは、第1実施形態と同様に、算術平均粗さの値で0.5nm以下である。圧電膜積層体10Aの他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0064】
本実施形態の圧電膜積層体10Aの製造方法は、SiN膜14の代わりに、AlN膜21が用いられる点を除き、第1実施形態の圧電膜積層体10の製造方法と同じである。AlN膜21の形成は、スパッタリング法によって複数の結晶粒が無配向となる条件で行われる。
【0065】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、下地表面21aの表面粗さが算術平均粗さの値で0.5nm以下とされることによって得られる効果を奏する。さらに、本実施形態の圧電膜積層体10Aによれば、下記の効果を奏する。
【0066】
ScAlN膜15の下地材であるAlN膜21は、複数の結晶粒を含む多結晶であって、複数の結晶粒のそれぞれが無配向の構造を有する絶縁性材料の膜である。これによれば、AlN膜21の下地表面21aに平行な面方向での原子配列は、六方晶のc軸の向きがScAlN膜15の表面15aに対して垂直な向きで、複数の結晶粒が配向するときのScAlN膜15の表面15aに平行な面方向でのScAlNの原子配列と異なる。このため、第1実施形態と同様に、原子配列の対称性が同じであって、下地材の格子定数がScAlNの格子定数と不一致であることを原因とする異常粒の発生を回避することができる。
【0067】
なお、本実施形態では、ScAlN膜15の下地材として、AlN膜21が用いられる。しかしながら、ScAlN膜15の下地材として、AlN膜21以外の絶縁性材料であって、複数の結晶粒を含む多結晶であり、複数の結晶粒のそれぞれが無配向の構造を有する絶縁性材料で構成された膜が用いられてもよい。
【0068】
(第3実施形態)
図10に示すように、本実施形態の圧電膜積層体10Bでは、ScAlN膜15の下地材として、第1実施形態のSiN膜14の代わりに、MoO
3膜22が用いられる。MoO
3膜22は、MoO
3(すなわち、酸化モリブデン)で主に構成された膜である。MoO
3膜22を構成するMoO
3は、斜方晶の結晶構造を有する絶縁性材料である。MoO
3膜22は、多結晶と単結晶のどちらであってもよい。
【0069】
MoO3膜22は、ScAlN膜15に接する表面(すなわち、下地表面)22aを有する。下地表面22aの表面粗さは、第1実施形態と同様に、算術平均粗さの値で0.5nm以下である。圧電膜積層体10Bの他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0070】
本実施形態の圧電膜積層体10Bの製造方法は、SiN膜14の代わりに、MoO3膜22が用いられる点を除き、第1実施形態の圧電膜積層体10の製造方法と同じである。
【0071】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、下地表面22aの表面粗さが算術平均粗さの値で0.5nm以下とされることによって得られる効果を奏する。さらに、本実施形態の圧電膜積層体10Bによれば、下記の効果を奏する。
【0072】
六方晶のc軸の向きがScAlN膜15の表面15aに対して垂直な向きで、複数の結晶粒が配向するときのScAlN膜15の表面15aに平行な面方向での結晶面は、(0001)面である。このときのScAlN膜15の表面15aに平行な面方向でのScAlNの原子配列は、6回回転対称である。このため、本実施形態と異なり、ScAlN膜15の下地材が六方晶の結晶構造を有する場合であって、六方晶のc軸の向きがScAlN膜15の表面15aに対して垂直な向きで、複数の結晶粒が配向しているときに、第1実施形態での説明の通り、格子定数の不一致によって異常粒が発生する。
【0073】
また、本実施形態と異なり、下地材が立方晶の結晶構造を有する場合、ScAlN膜15が接する下地材の表面に平行な面方向での結晶面が(111)面であるとき、下地材の表面に平行な面方向での原子配列は、6回回転対称である、もしくは、疑似的に6回回転対称に近い配列である。このため、上記した格子定数の不一致によって異常粒が発生する。
【0074】
これに対して、本実施形態によれば、ScAlN膜15の下地材であるMoO3膜22は、六方晶、立方晶のいずれでもない結晶構造を有する絶縁性材料で構成された膜である。このため、ScAlN膜15の下地材が六方晶または立方晶の結晶構造を有する場合に生じうる格子定数の不一致を原因とする異常粒の発生を回避することができる。
【0075】
なお、本実施形態では、ScAlN膜15の下地材として、MoO3膜22が用いられる。しかしながら、ScAlN膜15の下地材として、MoO3膜22以外の絶縁性材料であって、六方晶、立方晶のいずれでもない結晶構造を有する絶縁性材料で構成された膜が用いられてもよい。
【0076】
(第4実施形態)
図11に示すように、本実施形態の圧電膜積層体10Cでは、ScAlN膜15の下地材として、第1実施形態のSiN膜14の代わりに、BN膜23が用いられる。BN膜23は、BN(すなわち、窒化ホウ素)で主に構成された膜である。BN膜23は、ScAlN膜15に接する表面(すなわち、下地表面)23aを有する。下地表面23aの表面粗さは、第1実施形態と同様に、算術平均粗さの値で0.5nm以下である。
【0077】
BN膜23を構成するBNは、六方晶の結晶構造を有するとともに、複数の結晶粒を有する多結晶の構造を有する絶縁性材料である。複数の結晶粒には、結晶粒の結晶軸が特定方位に配向した結晶粒が含まれる。配向した結晶粒のc軸の向きは、下地表面23aに対して垂直な向きではない。すなわち、BN膜23を構成するBNは、六方晶のc軸の向きが下地表面23aに対して垂直な向きの構造を除く構造である。
【0078】
BN膜23を構成するBNは、単結晶の構造を有していてもよい。この場合も、BN膜23は、六方晶のc軸の向きが下地表面23aに対して垂直な向きの構造を除く構造である。すなわち、BN膜23の下地表面23aに平行な面方向での結晶面は、c面ではない。
【0079】
圧電膜積層体10Cの他の構成は、第1実施形態と同じである。本実施形態の圧電膜積層体10Cの製造方法は、SiN膜14の代わりに、BN膜23が用いられる点を除き、第1実施形態の圧電膜積層体10の製造方法と同じである。
【0080】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、下地表面23aの表面粗さが算術平均粗さの値で0.5nm以下とされることによって得られる効果を奏する。さらに、本実施形態の圧電膜積層体10Cによれば、下記の効果を奏する。
【0081】
ScAlN膜15の下地材が六方晶の結晶構造を有する場合、第1実施形態での説明の通り、六方晶のc軸の向きがScAlN膜15の表面15aに対して垂直な向きの構造であるときに、格子定数の不一致によって異常粒が発生する。
【0082】
これに対して、ScAlN膜15の下地材であるBN膜23は、六方晶の結晶構造を有するとともに、六方晶のc軸の向きが下地表面23aに対して垂直な向きの構造を除く構造を有する絶縁性材料で構成された膜である。このため、ScAlN膜15の下地材が六方晶の結晶構造を有する場合に生じうる格子定数の不一致による異常粒の発生を回避することができる。なお、ScAlN膜15の下地材として、BN膜23以外の絶縁性材料であって、六方晶の結晶構造を有するとともに、六方晶のc軸の向きが下地表面23aに対して垂直な向きの構造を除く構造を有する絶縁性材料で構成された膜が用いられてもよい。
【0083】
また、ScAlN膜15の下地材として、本実施形態のBN膜23の代わりに、SiC膜が用いられてもよい。SiC膜は、SiC(すなわち、炭化珪素)で主に構成された膜である。SiC膜は、ScAlN膜15に接する表面(すなわち、下地表面)を有する。この場合においても、下地表面の表面粗さが、算術平均粗さの値で0.5nm以下であることで、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0084】
この場合、SiC膜を構成するSiCは、立方晶の結晶構造を有するとともに、複数の結晶粒を有する多結晶の構造を有する絶縁性材料である。複数の結晶粒には、結晶粒の結晶軸が特定方位に配向した結晶粒が含まれる。配向した結晶粒の立方晶の〈111〉軸の向きは、下地表面23aに対して垂直な向きではない。すなわち、SiC膜を構成するSiCは、立方晶の〈111〉軸の向きが下地表面に対して垂直な向きの構造を除く構造である。
【0085】
SiC膜を構成するSiCは、単結晶の構造を有していてもよい。この場合も、SiC膜を構成するSiCは、立方晶の〈111〉軸の向きが下地表面に対して垂直な向きの構造を除く構造である。すなわち、SiC膜の下地表面に平行な面方向での結晶面は、(111)面ではない。
【0086】
これによれば、第3実施形態で説明した、下地材が立方晶の結晶構造を有する場合に生じうる格子定数の不一致による異常粒の発生を回避することができる。なお、ScAlN膜15の下地材として、SiC膜以外の絶縁性材料であって、立方晶の結晶構造を有するとともに、立方晶の〈111〉軸の向きが下地表面に対して垂直な向きの構造を除く構造を有する絶縁性材料で構成された膜が用いられてもよい。
【0087】
(第5実施形態)
図12に示すように、本実施形態の圧電膜積層体10Dでは、ScAlN膜15の下地材として、第1実施形態のSiN膜14の代わりに、polySi膜24が用いられる。polySi膜24は、Si基板11の上側にSi基板11の表面に接して配置される。
【0088】
polySi膜24は、導電性材料であるpolySi(すなわち、多結晶シリコン)で主に構成された膜である。polySi膜24は、ScAlN膜15の圧電機能を発現させるための下部電極として用いられている。polySi膜24を構成するpolySiは、複数の結晶粒を含む多結晶の構造を有する。複数の結晶粒のそれぞれは、無配向である。polySi膜24を構成するpolySiにリンやボロンが添加されていてもよい。これらが添加されることで、導電性が高まり、下部電極としての機能が向上する。
【0089】
polySi膜24は、ScAlN膜15に接する表面(すなわち、下地表面)24aを有する。下地表面24aの表面粗さは、算術平均粗さの値で0.5nm以下である。圧電膜積層体10Dの他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0090】
本実施形態の圧電膜積層体10Dの製造方法は、polySi膜24の形成工程と、polySi膜24の平坦化工程と、ScAlN膜15の形成工程と、を含む。まず、polySi膜24の形成工程では、熱CVD装置を用いて、Si基板11の表面上にpolySi膜24を形成することが行われる。その後、polySi膜24の平坦化工程が行われる。polySi膜24の平坦化工程では、polySi膜24の下地表面24aを平坦化することが行われる。このとき、第1実施形態のSiN膜14の平坦化工程S4と同様の方法によって、下地表面24aの表面粗さが、算術平均粗さの値で0.5nm以下とされる。その後、ScAlN膜15の形成工程が行われる。ScAlN膜15の形成工程は、第1実施形態と同じである。
【0091】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、下地表面24aの表面粗さが算術平均粗さの値で0.5nm以下とされることによって得られる効果を奏する。さらに、本実施形態の圧電膜積層体10Dによれば、下記の効果を奏する。
【0092】
ScAlN膜15の下地材であるpolySi膜24は、複数の結晶粒を含む多結晶であって、複数の結晶粒のそれぞれが無配向の構造を有する絶縁性材料の膜である。これによれば、polySi膜24の下地表面24aに平行な面方向での原子配列は、六方晶のc軸の向きがScAlN膜15の表面15aに対して垂直な向きで、複数の結晶粒が配向するときのScAlN膜15の表面15aに平行な面方向でのScAlNの原子配列と異なる。このため、第1実施形態と同様に、原子配列の対称性が同じであって、下地材の格子定数がScAlNの格子定数と不一致であることを原因とする異常粒の発生を回避することができる。
【0093】
本発明者は、上記した製造方法によって、実施例5の圧電膜積層体10Dを製造した。また、上記した製造方法に対して、polySi膜24の平坦化工程の条件を変更して、比較例4の圧電膜積層体を製造した。polySi膜24の下地表面24aの表面粗さRaについては、実施例5が0.45nmであり、比較例4が1.14nmである。ScAlN膜15の形成条件は、実施例1~3と同じである。ScAlN膜15のSc濃度は、実施例5および比較例4のどちらも、40原子%である。形成された各膜の厚さについては、polySi膜24が70nmであり、ScAlN膜15が500nmである。
【0094】
そして、本発明者は、実施例1~3と同様に、実施例5と比較例4のそれぞれについて、polySi膜24の下地表面24aの表面粗さRaと、ScAlN膜15の結晶性とを測定した。
図13は、実施例5および比較例4の表面粗さRaおよび結晶性の測定結果を、
図4に示す実施例1~3および比較例1~3のグラフに追加したものである。
図13中のA5が実施例5の測定結果である。
図13中のB4が比較例4の測定結果である。実施例5の下地表面24aの表面粗さRaは、0.5nm以下である。
図13より、実施例5においても、下地表面の表面粗さRaが0.5nm以下のときに結晶性が良いという関係を満たすことが確認された。
【0095】
なお、本実施形態では、polySi膜24は、Si基板11の上側にSi基板11の表面に接して配置されている。この場合に限られず、Si基板11とpolySi膜24との間に、SiO2などで構成された絶縁膜が介在してもよい。
【0096】
本実施形態では、ScAlN膜15の下地材として、polySi膜24が用いられている。しかし、この場合に限られず、ScAlN膜15の下地材として、polySi膜24以外の導電性材料であって、複数の結晶粒を含む多結晶であり、複数の結晶粒が無配向の構造を有する導電性材料で構成された膜が用いられてもよい。
【0097】
(第6実施形態)
図14に示すように、本実施形態の圧電膜積層体10Eでは、ScAlN膜15の下地材として、第1実施形態のSiN膜14の代わりに、a-Mo膜25が用いられる。a-Mo膜25は、Mo膜13の上側にMo膜13の表面13aに接して配置される。Mo膜13は、Si基板11の上側にSi基板11の表面に接して配置されているが、第1実施形態と同様に、AlN膜12の上側にAlN膜12に接して配置されてもよい。Si基板11、Mo膜13およびScAlN膜15は、第1実施形態と同じである。
【0098】
a-Mo膜25は、導電性材料であるアモルファスのMoで主に構成された膜である。本明細書において、導電性とは、電気抵抗率(すなわち、体積抵抗率)が10-2Ω・m以下であることを意味する。a-Mo膜25は、Mo膜13とともに、下部電極として用いられている。a-Mo膜25は、ScAlN膜15に接する表面(すなわち、下地表面)25aを有する。下地表面25aの表面粗さは、第1実施形態と同様に、算術平均粗さの値で0.5nm以下である。
【0099】
本実施形態の圧電膜積層体10Eの製造方法は、Mo膜13の形成工程と、a-Mo膜25の形成工程と、a-Mo膜25の平坦化工程と、ScAlN膜15の形成工程と、を含む。まず、Mo膜13の形成工程では、Si基板11の表面上に、第1実施形態のMo膜13の形成工程S2と同様に、Mo膜13を形成することが行われる。その後、a-Mo膜25の形成工程が行われる。a-Mo膜25の形成工程では、Mo膜13に対してイオン注入またはプラズマ処理をすることで、a-Mo膜25を形成することが行われる。
【0100】
Mo膜13に対するイオン注入では、イオン注入種として、金属イオン、希ガスイオン等が用いられる。Mo膜13の表層に対して、数10~100keV程度のエネルギーを与えることで、厚さが数10~100nm程度のa-Mo膜25を形成することができる。イオン注入種として、金属イオン、希ガスイオン等を用いることで、イオン注入されるMoの導電性を保持することができる。
【0101】
Mo膜13に対するプラズマ処理は、ドライエッチングに一般的に使用されるチャンバ構成(すなわち、基板と対抗電極が平行配置されているレイアウト)が用いられる。このチャンバ構成において、通常のドライエッチング工程と同様に、高周波放電させてプラズマを発生させる。このとき、材料ガスとしてArガスのみを導入することで、Mo膜13のエッチングを最小限に抑え、Mo膜13の表層のアモルファス化が可能となる。
【0102】
その後、a-Mo膜25の平坦化工程が行われる。a-Mo膜25の平坦化工程では、a-Mo膜25の下地表面25aを平坦化することが行われる。このとき、第1実施形態のSiN膜14の平坦化工程S4と同様の方法によって、下地表面25aの表面粗さが、算術平均粗さの値で0.5nm以下とされる。その後、ScAlN膜15の形成工程が行われる。ScAlN膜15の形成工程は、第1実施形態と同じである。なお、a-Mo膜25の平坦化工程の代わりに、Mo膜13の平坦化工程が行われてもよい。この場合、Mo膜13の形成工程、Mo膜13の平坦化工程、a-Mo膜25の形成工程が、この記載順に行われる。Mo膜13の平坦化工程では、後述する第8実施形態と同様に、Mo膜13の表面の表面粗さを、算術平均粗さの値で0.5nm以下とすることで、その後のa-Mo膜25の形成工程で形成されるa-Mo膜25の表面粗さを、算術平均粗さの値で0.5nm以下とすることが行われる。
【0103】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、下地表面25aの表面粗さが算術平均粗さの値で0.5nm以下とされることによって得られる効果を奏する。さらに、本実施形態の圧電膜積層体10Eによれば、下記の効果を奏する。
【0104】
ScAlN膜15の下地材であるa-Mo膜25は、アモルファスの導電性材料の膜である。これによれば、a-Mo膜25の下地表面25aに平行な面方向での原子配列は、六方晶のc軸の向きがScAlN膜15の表面15aに対して垂直な向きで、複数の結晶粒が配向するときのScAlN膜15の表面15aに平行な面方向でのScAlNの原子配列と異なる。このため、第1実施形態と同様に、原子配列の対称性が同じであって、下地材の格子定数がScAlNの格子定数と不一致であることを原因とする異常粒の発生を回避することができる。
【0105】
本実施形態の圧電膜積層体10Eでは、ScAlN膜15の下地材として、a-Mo膜25が用いられている。しかしながら、ScAlN膜15の下地材として、他のアモルファスの導電性材料が用いられてもよい。他のアモルファスの導電性材料としては、導電性金属酸化物、導電性金属窒化物等が挙げられる。導電性金属酸化物として、Ru酸化物、ITOが挙げられる。ITOは、Indium Tin Oxide(すなわち、インジウムスズ酸化物)の略称である。
【0106】
(第7実施形態)
図15に示すように、本実施形態の圧電膜積層体10Fでは、ScAlN膜15の下地材として、第1実施形態のSiN膜14の代わりに、Ru膜26が用いられる。Ru膜26は、Si基板11の上側にSi基板11の表面に接して配置される。Ru膜26は、ScAlN膜15に接する表面(すなわち、下地表面)26aを有する。下地表面26aの表面粗さは、第1実施形態と同様に、算術平均粗さの値で0.5nm以下である。
【0107】
Ru膜26は、導電性材料であるRu(すなわちルテニウム)で主に構成された膜である。Ru膜26は、ScAlN膜15の圧電機能を発現させるための下部電極として用いられている。Ru膜26を構成するRuは、六方晶の結晶構造を有するとともに、複数の結晶粒を有する多結晶の構造を有する。複数の結晶粒には、結晶粒の結晶軸が特定方位に配向した結晶粒が含まれる。配向した結晶粒のc軸の向きは、下地表面26aに対して垂直な向きではない。すなわち、Ru膜26は、六方晶のc軸の向きが下地表面26aに対して垂直な向きの構造を除く構造である。
【0108】
Ru膜26を構成するRuは、単結晶の構造を有していてもよい。この場合も、Ru膜26は、六方晶のc軸の向きが下地表面26aに対して垂直な向きの構造を除く構造である。すなわち、Ru膜26の下地表面26aに平行な面方向での結晶面は、c面ではない。
【0109】
本実施形態の圧電膜積層体10Fの製造方法は、Ru膜26の形成工程と、Ru膜26の平坦化工程と、ScAlN膜15の形成工程と、を含む。まず、Ru膜26の形成工程では、Si基板11の表面上にRu膜26を形成することが行われる。その後、Ru膜26の平坦化工程が行われる。Ru膜26の平坦化工程では、Ru膜26の下地表面26aを平坦化することが行われる。このとき、第1実施形態のSiN膜14の平坦化工程S4と同様の方法によって、下地表面26aの表面粗さが、算術平均粗さの値で0.5nm以下とされる。その後、ScAlN膜15の形成工程が行われる。ScAlN膜15の形成工程は、第1実施形態と同じである。
【0110】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、下地表面21aの表面粗さが算術平均粗さの値で0.5nm以下とされることによって得られる効果を奏する。さらに、本実施形態の圧電膜積層体10Aによれば、下記の効果を奏する。
【0111】
ScAlN膜15の下地材が六方晶の結晶構造を有する場合、第1実施形態での説明の通り、六方晶のc軸の向きがScAlN膜15の表面15aに対して垂直な向きの構造であるときに、格子定数の不一致によって異常粒が発生する。
【0112】
これに対して、ScAlN膜15の下地材であるRu膜26は、六方晶の結晶構造を有するとともに、六方晶のc軸の向きが下地表面26aに対して垂直な向きの構造を除く構造である。このため、ScAlN膜15の下地材が六方晶の結晶構造を有する場合に生じうる格子定数の不一致による異常粒の発生を回避することができる。なお、ScAlN膜15の下地材として、Ru膜26以外の導電性材料であって、六方晶の結晶構造を有するとともに、六方晶のc軸の向きが下地表面26aに対して垂直な向きの構造を除く構造を有する導電性材料で構成された膜が用いられてもよい。
【0113】
また、ScAlN膜15の下地材として、本実施形態のRu膜26の代わりに、Mo膜が用いられてもよい。Mo膜は、Mo(すなわち、モリブデン)で主に構成された膜である。Mo膜は、ScAlN膜15に接する表面(すなわち、下地表面)を有する。この場合においても、下地表面の表面粗さが、算術平均粗さの値で0.5nm以下であることで、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0114】
この場合、Mo膜を構成するMoは、体心立方晶の結晶構造を有するとともに、複数の結晶粒を有する多結晶の構造を有する導電性材料である。複数の結晶粒には、結晶粒の結晶軸が特定方位に配向した結晶粒が含まれる。配向した結晶粒の〈101〉軸の向きは、下地表面23aに対して垂直な向きではない。すなわち、Mo膜を構成するMoは、体心立方晶の〈101〉軸の向きが下地表面に対して垂直な向きの構造を除く構造である。Mo膜を構成するMoは、単結晶の構造を有していてもよい。この場合も、Mo膜を構成するMoは、体心立方晶の〈101〉軸の向きが下地表面に対して垂直な向きの構造を除く構造である。すなわち、Mo膜の下地表面に平行な面方向での結晶面は、(101)面ではない。
【0115】
下地材が体心立方晶の結晶構造を有する場合、体心立方晶の〈101〉軸の向きが下地表面に対して垂直な向きの構造であるとき、下地材の表面に平行な面方向での原子配列は、6回回転対称である、もしくは、疑似的に6回回転対称に近い配列である。このため、上記した格子定数の不一致によって異常粒が発生する。
【0116】
これに対して、上記のMo膜は、体心立方方晶の結晶構造を有するとともに、体心立方晶の〈101〉軸の向きが下地表面26aに対して垂直な向きの構造を除く構造である。このため、ScAlN膜15の下地材が体心立方晶の結晶構造を有する場合に生じうる格子定数の不一致による異常粒の発生を回避することができる。なお、ScAlN膜15の下地材として、Mo膜以外の導電性材料であって、体心立方方晶の結晶構造を有するとともに、体心立方晶の〈101〉軸の向きが下地表面26aに対して垂直な向きの構造を除く構造を有する導電性材料で構成された膜が用いられてもよい。
【0117】
また、ScAlN膜15の下地材として、本実施形態のRu膜26の代わりに、Pt膜が用いられてもよい。Pt膜は、Pt(すなわち、白金)で主に構成された膜である。Pt膜は、ScAlN膜15に接する表面(すなわち、下地表面)を有する。この場合においても、下地表面の表面粗さが、算術平均粗さの値で0.5nm以下であることで、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0118】
この場合、Pt膜を構成するPtは、面心立方晶の結晶構造を有するとともに、複数の結晶粒を有する多結晶の構造を有する導電性材料である。複数の結晶粒には、結晶粒の結晶軸が特定方位に配向した結晶粒が含まれる。配向した結晶粒の〈111〉軸の向きは、下地表面に対して垂直な向きではない。すなわち、Pt膜を構成するPtは、〈111〉軸の向きが下地表面に対して垂直な向きの構造を除く構造である。
【0119】
Pt膜を構成するPtは、単結晶の構造を有していてもよい。この場合も、Pt膜を構成するPtは、面心立方晶の〈111〉軸の向きが下地表面に対して垂直な向きの構造を除く構造である。すなわち、Pt膜の下地表面に平行な面方向での結晶面は、(111)面ではない。
【0120】
下地材が面心立方晶の結晶構造を有する場合、面心立方晶の〈111〉軸の向きが下地表面に対して垂直な向きの構造であるとき、下地材の表面に平行な面方向での原子配列は、6回回転対称である、もしくは、疑似的に6回回転対称に近い配列である。このため、上記した格子定数の不一致によって異常粒が発生する。
【0121】
これに対して、上記のPt膜は、面心立方方晶の結晶構造を有するとともに、面心立方晶の〈111〉軸の向きが下地表面26aに対して垂直な向きの構造を除く構造である。このため、ScAlN膜15の下地材が面心立方晶の結晶構造を有する場合に生じうる格子定数の不一致による異常粒の発生を回避することができる。なお、ScAlN膜15の下地材として、Pt膜以外の導電性材料であって、面心立方方晶の結晶構造を有するとともに、面心立方晶の〈111〉軸の向きが下地表面26aに対して垂直な向きの構造を除く構造を有する導電性材料で構成された膜が用いられてもよい。
【0122】
(第8実施形態)
本実施形態では、圧電膜積層体10の製造方法は、
図16に示すように、AlN膜12の形成工程S1と、Mo膜13の形成工程S2と、Mo膜13の平坦化工程S2-1と、SiN膜14の形成工程S3と、ScAlN膜15の形成工程S5と、を含む。本実施形態は、SiN膜14の平坦化工程S4の代わりに、Mo膜13の平坦化工程S2-1が行われる点で、第1実施形態と異なる。Mo膜13の平坦化工程S2-1以外の工程は、第1実施形態と同じである。
【0123】
Mo膜13の形成工程S2の後に、Mo膜13の平坦化工程S2-1が行われる。Mo膜13の平坦化工程S2-1では、Arプラズマを用いたエッチングによって、Mo膜13の表面13aを平坦化することが行われる。このとき、Mo膜13の表面13aの表面粗さが、算術平均粗さの値で0.5nm以下となるように、エッチング時間が設定される。これにより、Mo膜13の表面13aの表面粗さは、算術平均粗さの値で0.5nm以下となる。Mo膜13の表面13aを平坦化した後、SiN膜14の形成工程S3が行われる。SiN膜14の形成工程S3では、下地表面を有するSiN膜14を、Mo膜13に接した状態で形成する。その後、ScAlN膜15の形成工程S5が行われる。
【0124】
本実施形態では、AlN膜12の形成工程S1およびMo膜13の形成工程S2が、表面を有する導電性材料を用意することに対応する。Mo膜13の平坦化工程S2-1が、導電性材料の表面を平坦化することに対応する。SiN膜14の形成工程S3が、下地材を導電性材料に接した状態で形成することに対応する。ScAlN膜15の形成工程S5が、下地表面に接してScAlN膜を形成することに対応する。
【0125】
本実施形態によれば、Mo膜13の平坦化工程S2-1にて、Mo膜13の表面の表面粗さを、算術平均粗さの値で0.5nm以下とすることで、その後のSiN膜14の形成工程S3で形成されるSiN膜14の表面粗さを、算術平均粗さの値で0.5nm以下とすることが行われる。このように、導電性材料の表面に接して下地材を形成する際に、導電性材料の表面粗さが下地材の表面粗さに反映される場合がある。このような場合に、導電性材料の表面粗さを0.5nm以下とすることで、下地材の下地表面の表面粗さを算術平均粗さの値で0.5nm以下とすることができる。そして、下地表面の表面粗さが算術平均粗さの値で0.5nm以下とされるので、本実施形態によっても、第1実施形態と同じ効果が得られる。
【0126】
本実施形態では、ScAlN膜15の下地材として、アモルファスの絶縁性材料であるSiN膜14が形成される。しかしながら、ScAlN膜15の下地材として、他の材料が形成されてもよい。他の材料は、第2~第7実施形態のように、絶縁性材料と導電性材料のいずれでもよく、アモルファスと多結晶のどちらの構造でもよい。
【0127】
(他の実施形態)
(1)第1~第7実施形態では、下地表面の平坦化は、Arプラズマを用いたドライエッチングによって行われる。しかしながら、下地表面の平坦化は、他の方法によって行われてもよい。他の方法としては、CMP(すなわち、化学機械研磨)が挙げられる。また、ScAlN膜15の下地材として、B、Pがドープされたシリコン酸化膜等を用いる場合、加熱して流動化させる方法が挙げられる。
【0128】
同様に、第8実施形態では、Mo膜13等の導電性材料の表面の平坦化は、Arプラズマを用いたエッチングによって行われるが、CMP等の他の方法によって行われてもよい。
【0129】
(2)上記の各実施形態では、ScAlN膜15の下地材は、膜形状を有する。しかしながら、下地材は、膜以外の形状を有してもよい。
【0130】
(3)本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能であり、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0131】
(本発明の特徴)
[請求項1]
圧電膜積層体であって、
下地表面(14a、21a、22a、23a、24a、25a、26a)を有する下地材(14、21、22、23、24、25、26)と、
前記下地表面に接して配置されるScAlN膜(15)と、を備え、
前記下地表面の表面粗さは、算術平均粗さの値で0.5nm以下である、圧電膜積層体。
[請求項2]
前記下地材(14)は、アモルファスの絶縁性材料である、請求項1に記載の圧電膜積層体。
[請求項3]
前記下地材(21)は、複数の結晶粒を含む多結晶であって、前記複数の結晶粒のそれぞれが無配向の構造を有する絶縁性材料である、請求項1に記載の圧電膜積層体。
[請求項4]
前記下地材(22)は、六方晶、立方晶のいずれでもない結晶構造を有する絶縁性材料である、請求項1に記載の圧電膜積層体。
[請求項5]
前記下地材(23)は、六方晶または立方晶の結晶構造を有するとともに、複数の結晶粒を有する多結晶または単結晶の構造を有する絶縁性材料であり、
前記複数の結晶粒には、結晶粒の結晶軸が特定方位に配向した結晶粒が含まれ、
前記下地材が六方晶の結晶構造を有する場合、前記下地材は、六方晶のc軸の向きが前記下地表面に対して垂直な向きの構造を除く構造であり、
前記下地材が立方晶の結晶構造を有する場合、前記下地材は、立方晶の〈111〉軸の向きが前記下地表面に対して垂直な向きの構造を除く構造である、請求項1に記載の圧電膜積層体。
[請求項6]
前記下地材は、膜形状であり、
前記下地材の膜厚は、前記ScAlN膜の膜厚の1/10以下である、請求項2ないし5のいずれか1つに記載の圧電膜積層体。
[請求項7]
前記圧電膜積層体は、前記下地材に対して前記ScAlN膜側の反対側に、前記下地材に接して配置される導電性材料(13)を備える、請求項2ないし6のいずれか1つに記載の圧電膜積層体。
[請求項8]
前記導電性材料は、前記下地材に接する表面(13a)を有し、
前記導電性材料の前記表面の表面粗さは、算術平均粗さの値で0.5nm以下である、請求項7に記載の圧電膜積層体。
[請求項9]
前記下地材(25)は、アモルファスの導電性材料である、請求項1に記載の圧電膜積層体。
[請求項10]
前記下地材(24)は、複数の結晶粒を含む多結晶であって、前記複数の結晶粒のそれぞれが無配向の構造を有する導電性材料である、請求項1に記載の圧電膜積層体。
[請求項11]
前記下地材(26)は、六方晶、体心立方晶または面心立方晶の結晶構造を有するとともに、複数の結晶粒を有する多結晶または単結晶の構造である導電性材料であり、
前記複数の結晶粒には、結晶粒の結晶軸が特定方位に配向した結晶粒が含まれ、
前記下地材が六方晶の結晶構造を有する場合、前記下地材は、六方晶のc軸の向きが前記下地表面(26a)に対して垂直な向きの構造を除く構造であり、
前記下地材が体心立方晶の結晶構造を有する場合、体心立方晶の〈101〉軸の向きが前記下地表面に対して垂直な向きの構造を除く構造であり、
前記下地材が面心立方晶の結晶構造を有する場合、面心立方晶の〈111〉軸の向きが前記下地表面に対して垂直な向きの構造を除く構造である、請求項1に記載の圧電膜積層体。
【符号の説明】
【0132】
10 圧電膜積層体
14 SiN膜
14a 下地表面
15 ScAlN膜