(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180492
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】シランカップリング剤の結合量変化率の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20231214BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20231214BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20231214BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20231214BHJP
C08K 5/548 20060101ALI20231214BHJP
G01N 33/44 20060101ALI20231214BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20231214BHJP
G01N 30/74 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G01N30/88 P
C08J5/00 CEQ
C08L21/00
C08K3/36
C08K5/548
G01N33/44
G01N30/06 G
G01N30/74 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093848
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三俣 友紀
(72)【発明者】
【氏名】山田 宏明
(72)【発明者】
【氏名】北浦 健大
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA12X
4F071AA22X
4F071AA71
4F071AB04A
4F071AB18
4F071AB22
4F071AB22A
4F071AB26
4F071AC09
4F071AC12
4F071AC13A
4F071AC16
4F071AE02A
4F071AE03A
4F071AE05
4F071AE17
4F071AF22
4F071BA09
4F071BB03
4J002AC001
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002BB151
4J002BB181
4J002DJ016
4J002EX087
4J002FD016
4J002FD317
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の変化率を測定する方法を提供すること。
【解決手段】熱劣化前後での未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の変化率を測定する方法であって、前記熱劣化前の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量は、ゴム成分、シリカ、およびシランカップリング剤を含有し、加硫剤および加硫促進剤を含有しない熱劣化前の未加硫ゴム組成物を熱分解することにより生成するチオフェン類縁体を検出し定量することにより算出され、前記熱劣化後の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量は、前記熱劣化前の未加硫ゴム組成物を熱劣化させた後、得られた熱劣化後の未加硫ゴム組成物を熱分解することにより生成するチオフェン類縁体を検出し定量することにより算出される測定方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱劣化前後での未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の変化率を測定する方法であって、
前記熱劣化前の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量は、ゴム成分、シリカ、およびシランカップリング剤を含有し、加硫剤および加硫促進剤を含有しない熱劣化前の未加硫ゴム組成物を熱分解することにより生成するチオフェン類縁体を検出し定量することにより算出され、
前記熱劣化後の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量は、前記熱劣化前の未加硫ゴム組成物を熱劣化させた後、得られた熱劣化後の未加硫ゴム組成物を熱分解することにより生成するチオフェン類縁体を検出し定量することにより算出される測定方法。
【請求項2】
前記チオフェン類縁体の定量が、前記熱劣化前の未加硫ゴム組成物および前記熱劣化後の未加硫ゴム組成物をそれぞれ熱分解ガスクロマトグラフィーにより分析し、得られたクロマトグラムにおけるチオフェン類縁体に由来するピークのピーク面積をそれぞれ算出する工程を含む、請求項1記載の測定方法。
【請求項3】
熱分解を450~700℃の条件下で実施し、かつ、チオフェン類縁体を硫黄検出器により検出する、請求項1または2記載の測定方法。
【請求項4】
前記チオフェン類縁体が、チオフェン、2-メチルチオフェン、および3-メチルチオフェンである、請求項1または2記載の測定方法。
【請求項5】
加硫ゴム組成物の製造方法であって、
ゴム成分、シリカ、およびシランカップリング剤を含有し、加硫剤および加硫促進剤を含有しない未加硫ゴム組成物に加硫促進剤および加硫剤を添加して加硫する工程を含み、
請求項1または2記載の方法により測定された前記未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量に対する熱劣化後の前記未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の比が0.50~1.15であり、
前記未加硫ゴム組成物の熱劣化は、80℃で2週間加熱することにより行われる、加硫ゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法により製造された加硫ゴム組成物を用いたタイヤの製造方法。
【請求項7】
ゴム成分、シリカ、およびシランカップリング剤を含有し、加硫剤および加硫促進剤を含有しない未加硫ゴム組成物であって、
請求項1または2記載の方法により測定された前記未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量に対する熱劣化後の前記未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の比が0.50~1.15であり、
前記未加硫ゴム組成物の熱劣化は、80℃で2週間加熱することにより行われる、未加硫ゴム組成物。
【請求項8】
前記シランカップリング剤がメルカプト系シランカップリング剤である、請求項7記載の
未加硫ゴム組成物。
【請求項9】
さらにカルボジイミド化合物を含有する、請求項7記載の未加硫ゴム組成物。
【請求項10】
請求項7記載の未加硫ゴム組成物を加硫した加硫ゴム組成物。
【請求項11】
請求項1または2記載の方法により測定された熱劣化前後での未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の変化率により、前記未加硫ゴム組成物に加硫促進剤および加硫剤を添加して加硫した加硫ゴム組成物の耐摩耗性能を評価する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱劣化前後でのゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の変化率を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム製品の劣化評価方法としては、硬度変化、トルエン膨潤率変化、引っ張り物性の変化等が知られているが(例えば、特許文献1)、これらは、いずれも化学変化を伴わない物理的な変化や、硫黄による架橋を中心とした化学変化を評価の対象とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリカを含有するゴム組成物は、ゴム成分(ポリマー)間の硫黄による架橋の他に、シランカップリング剤を介したシリカ-シランカップリング剤-ポリマー間の結合も存在する。シリカ-シランカップリング剤間の結合は、化学的に安定であり、劣化による変化は起こりにくいが、シランカップリング剤-ポリマー間の結合は、劣化により変化すると考えられる。しかしながら、熱劣化によるシランカップリング剤-ポリマー間の結合量の変化については、これまで測定する方法は知られていなかった。
【0005】
本発明は、熱劣化によるゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の変化率を選択的に測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、加硫剤および加硫促進剤を添加せずに、ゴム成分、シリカ、および硫黄原子を含むシランカップリング剤を混練して未加硫ゴム組成物を調製し、熱劣化前後の該未加硫ゴム組成物を熱分解することにより生成するチオフェン類縁体をそれぞれ検出し定量することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、
〔1〕熱劣化前後での未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の変化率を測定する方法であって、前記熱劣化前の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量は、ゴム成分、シリカ、およびシランカップリング剤を含有し、加硫剤および加硫促進剤を含有しない熱劣化前の未加硫ゴム組成物を熱分解することにより生成するチオフェン類縁体を検出し定量することにより算出され、前記熱劣化後の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量は、前記熱劣化前の未加硫ゴム組成物を熱劣化させた後、得られた熱劣化後の未加硫ゴム組成物を熱分解することにより生成するチオフェン類縁体を検出し定量することにより算出される測定方法、
〔2〕前記チオフェン類縁体の定量が、前記熱劣化前の未加硫ゴム組成物および前記熱劣化後の未加硫ゴム組成物をそれぞれ熱分解ガスクロマトグラフィーにより分析し、得られたクロマトグラムにおけるチオフェン類縁体に由来するピークのピーク面積をそれぞれ算出する工程を含む、〔1〕記載の測定方法、
〔3〕熱分解を450~700℃の条件下で実施し、かつ、チオフェン類縁体を硫黄検出器により検出する、〔1〕または〔2〕記載の測定方法、
〔4〕前記チオフェン類縁体が、チオフェン、2-メチルチオフェン、および3-メチルチオフェンである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の測定方法、
〔5〕加硫ゴム組成物の製造方法であって、ゴム成分、シリカ、およびシランカップリング剤を含有し、加硫剤および加硫促進剤を含有しない未加硫ゴム組成物に加硫促進剤および加硫剤を添加して加硫する工程を含み、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法により測定された前記未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量に対する熱劣化後の前記未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の比が0.50~1.15であり、前記未加硫ゴム組成物の熱劣化は、80℃で2週間加熱することにより行われる、加硫ゴム組成物の製造方法、
〔6〕〔5〕記載の製造方法により製造された加硫ゴム組成物を用いたタイヤの製造方法、
〔7〕ゴム成分、シリカ、およびシランカップリング剤を含有し、加硫剤および加硫促進剤を含有しない未加硫ゴム組成物であって、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法により測定された前記未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量に対する熱劣化後の前記未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の比が0.50~1.15であり、前記未加硫ゴム組成物の熱劣化は、80℃で2週間加熱することにより行われる、未加硫ゴム組成物、
〔8〕前記シランカップリング剤がメルカプト系シランカップリング剤である、〔7〕記載の未加硫ゴム組成物、
〔9〕さらにカルボジイミド化合物を含有する、〔7〕または〔8〕記載の未加硫ゴム組成物、
〔10〕〔7〕~〔9〕のいずれかに記載の未加硫ゴム組成物を加硫した加硫ゴム組成物、
〔11〕〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法により測定された熱劣化前後での未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の変化率により、前記未加硫ゴム組成物に加硫促進剤および加硫剤を添加して加硫した加硫ゴム組成物の耐摩耗性能を評価する方法、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱劣化によるゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の変化率を選択的に測定することができ、未加硫ゴム組成物の段階で、シリカを含有する加硫ゴム組成物の劣化を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の未加硫ゴム組成物を熱分解することにより得られるクロマトグラムの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の熱劣化前後での未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の変化率を測定する方法において、前記熱劣化前の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量は、ゴム成分、シリカ、およびシランカップリング剤を含有し、加硫剤および加硫促進剤を含有しない熱劣化前の未加硫ゴム組成物を熱分解することにより生成するチオフェン類縁体を検出し定量することにより算出され、前記熱劣化後の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量は、前記熱劣化前の未加硫ゴム組成物を熱劣化させた後、得られた熱劣化後の未加硫ゴム組成物を熱分解することにより生成するチオフェン類縁体を検出し定量することにより算出される。
【0011】
前記チオフェン類縁体の定量は、前記熱劣化前の未加硫ゴム組成物および前記熱劣化後の未加硫ゴム組成物をそれぞれ熱分解ガスクロマトグラフィーにより分析し、得られたクロマトグラムにおけるチオフェン類縁体に由来するピークのピーク面積をそれぞれ算出する工程を含むことが好ましい。
【0012】
熱分解は450~700℃の条件下で実施し、かつ、チオフェン類縁体を硫黄検出器により検出することが好ましい。
【0013】
前記チオフェン類縁体は、チオフェン、2-メチルチオフェン、および3-メチルチオフェンであることが好ましい。
【0014】
本開示の他の実施形態は、加硫ゴム組成物の製造方法であって、ゴム成分、シリカ、およびシランカップリング剤を含有し、加硫剤および加硫促進剤を含有しない未加硫ゴム組成物に加硫促進剤および加硫剤を添加して加硫する工程を含み、前記の方法により測定された前記未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量に対する熱劣化後の前記未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の比が0.50~1.15であり、前記未加硫ゴム組成物の熱劣化は、80℃で2週間加熱することにより行われる、加硫ゴム組成物の製造方法である。
【0015】
本開示の他の実施形態は、前記の製造方法により製造された加硫ゴム組成物を用いたタイヤの製造方法である。
【0016】
本開示の他の態様は、ゴム成分、シリカ、およびシランカップリング剤を含有し、加硫剤および加硫促進剤を含有しない未加硫ゴム組成物であって、前記の方法により測定された前記未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量に対する熱劣化後の前記未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の比が0.50~1.15であり、前記未加硫ゴム組成物の熱劣化は、80℃で2週間加熱することにより行われる、未加硫ゴム組成物である。
【0017】
本開示の他の態様は、前記の未加硫ゴム組成物を加硫した加硫ゴム組成物である。
【0018】
本開示の他の態様は、前記の方法により測定された熱劣化前後での未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の変化率により、前記未加硫ゴム組成物に加硫促進剤および加硫剤を添加して加硫した加硫ゴム組成物の耐摩耗性能を評価する方法である。
【0019】
本開示の一実施形態である、熱劣化前後でのゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の変化率を測定する方法について、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本開示を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0020】
本開示に係るゴム成分としては、ゴム工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等が挙げられる。これらのゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
本開示に係るシリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、補強性の観点から、90m2/g以上が好ましく、120m2/g以上がより好ましく、150m2/g以上がさらに好ましく、170m2/g以上が特に好ましい。また、発熱性および加工性の観点からは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0023】
シリカの平均一次粒子径は、22nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、18nm以下がさらに好ましい。該平均一次粒子径の下限は特に限定されないが、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、5nm以上がさらに好ましい。シリカの平均一次粒子径が前期の範囲であることによって、シリカの分散性をより改善でき、補強性、破壊特性、耐摩耗性等をさらに改善できる。なお、シリカの平均一次粒子径は、透過型または走査型電子顕微鏡により観察し、視野内に観察されたシリカの一次粒子を400個以上測定し、その平均により求めることができる。
【0024】
シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は特に限定されず、配合の目的に応じて、例えば、1~150質量部、5~120質量部、10~100質量部とすることができる。
【0025】
本開示に係るシランカップリング剤としては、硫黄原子を含むものであれば特に限定されず、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができる。そのようなシランカップリング剤としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリメトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等のスルフィド基を有するシランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT-Z100、NXT-Z45、NXT等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエステル基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフィド基を有するシランカップリング剤、およびメルカプト基を有するシランカップリング剤がシリカとの結合力が強く、得られるゴム組成物の耐摩耗性能が良好となるという点から好ましい。
【0026】
シランカップリング剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、1.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の低下を防止する観点からは、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0027】
シランカップリング剤のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、1.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の低下を防止する観点からは、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0028】
本開示に係るゴム組成物は、カルボジイミド化合物を含有することが好ましい。シランカップリング剤-ポリマー間の結合は炭素-硫黄結合より成り、その劣化(化学的切断)は、硫黄の酸化反応(スルホン酸化)を伴うものであると考えられる。かかる酸化反応は水の存在により促進され得るため、カルボジイミド化合物を配合することによりゴム組成物中の水分を除去し、シランカップリング剤-ポリマー間の結合の変化を抑制することができると考えられる。
【0029】
カルボジイミド化合物としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド、エチルジメチルアミノプロビルカルボジイミド等が挙げられる。
【0030】
カルボジイミド化合物を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましい。また、該含有量は、10.0質量部以下が好ましく、7.0質量部以下がより好ましく、5.0質量部以下がさらに好ましい。
【0031】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0032】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。また、劣化防止の観点からは、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下がさらに好ましい。なお、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0033】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等が挙げられる。これらの硫黄以外の加硫剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0034】
加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系加硫促進剤が挙げられる。
【0035】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N-(tert-ブチル)-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(TBBS)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等が挙げられる。チアゾール系加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。グアニジン系加硫促進剤としては、ジフェニルグアニジン(DPG)、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等が挙げられる。これらの加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8.0質量部以下が好ましく、7.0質量部以下がより好ましく、6.0質量部以下がさらに好ましく、5.0質量部以下が特に好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0037】
本開示に係るゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等のシリカ以外の補強用充填剤、樹脂成分、液状ポリマー、オイル、ワックス、加工助剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を適宜含有することができる。
【0038】
<未加硫ゴム組成物の調製>
本開示に係る測定方法は、加硫剤および加硫促進剤を添加せずに、ゴム成分、シリカ、およびシランカップリング剤を混練し、得られた未加硫ゴム組成物を熱分解に付することを特徴とする。未加硫ゴム組成物は、ゴム成分、シリカ、およびシランカップリング剤以外の前記配合剤を含有していてもよい。
【0039】
本開示に係る未加硫ゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。混練条件としては特に限定されないが、通常、排出温度150~170℃で3~10分間混練する。また、得られた未加硫ゴム組成物について、さらに練りを繰り返すリミルを行ってもよい。シリカの分散性を向上させる観点からは、リミルを行なうことが好ましい。
【0040】
<チオフェン類縁体の定量>
本開示に係る測定方法は、未加硫ゴム組成物を熱分解することにより生成するチオフェン類縁体を検出し定量することを特徴とする。ポリマーの有する二重結合とシランカップリング剤が有する硫黄官能基とが反応することによりシランカップリング剤-ポリマー間の結合が形成されるが、未加硫ゴム組成物を熱分解することにより、ジエン結合が硫黄原子を取り込んで閉環するとともに炭素鎖が切断されてチオフェン類縁体が生成する。かかるチオフェン類縁耐を検出し定量することにより、シランカップリング剤-ポリマー間の結合量を選択的に測定することができる。シリカのみと反応しているシランカップリング剤や、ゴム成分およびシリカのいずれとも反応していないシランカップリング剤からは、熱分解によりチオフェン類縁体は生成しないと考えられる。
【0041】
チオフェン類縁体を定量する方法は特に限定されないが、例えば、未加硫ゴム組成物を熱分解ガスクロマトグラフィーにより分析し、得られたクロマトグラムにおけるチオフェン類縁体に由来するピークのピーク面積を算出することにより求めることができる。熱分解ガスクロマトグラフィーで得られたクロマトグラムのピーク面積は、通常の場合、成分の含有量を示す。なお、本開示において「熱分解ガスクロマトグラフィー」とは、試料を熱分解装置により加熱し、この加熱により生成する気相成分に含まれる個々の成分を分離カラムにより分離し、単離された各成分を分析する方法を指す。
【0042】
熱分解装置としては、通常この分野で使用するものをいずれも好適に使用することができ、例えば、フロンティア・ラボ(株)製の縦型マイクロ電気炉型パイロライザー(商品名:PY-2020iD)等が挙げられる。熱分解する際の温度(熱分解温度)は、通常、450~700℃の範囲であり、好ましくは550~650℃の範囲である。この温度範囲内であれば、本開示において検出するチオフェン類縁体を効率よく生成させることができる。
【0043】
分離カラムとしては、フロンティア・ラボ(株)製のキャピラリーカラム「Ultra Alloy+-5(MS/HT)」(5%ジフェニル95%ジメチルポリシロキサン、長さ=30m、内径=0.25mm、フィルム厚さ=0.25μm)等が挙げられる。
【0044】
熱分解により生成するチオフェン類縁体は、硫黄含有成分を検出できる硫黄検出器により検出する。硫黄検出器としては、例えば、炎光光度検出器(FPD:Flame Photometric Detector)、硫黄化学発光検出器(SCD:Sulfur Chemiluminescence Detector)等が挙げられる。なお、本開示において、硫黄検出器は、チオフェン類縁体を定量できる限りその目的を達し得るので、前記の一般的な硫黄検出器の他、質量分析装置等も含み得るものである。
【0045】
定量すべきチオフェン類縁体としては、任意の1以上のチオフェン類縁体であれば特に限定されない。チオフェン類縁体の具体例としては、例えば、チオフェン、2-メチルチオフェン、3-メチルチオフェン等が挙げられる。本開示では、定量精度の観点から、チオフェン、2-メチルチオフェン、および3-メチルチオフェンを含むチオフェン類縁体のピーク面積を合計して定量することが好ましく、チオフェン、2-メチルチオフェン、および3-メチルチオフェンのピーク面積を合計して定量することがより好ましい。
図1に、本開示の未加硫ゴム組成物を熱分解することにより得られるクロマトグラムの一例を示す。
【0046】
未加硫ゴム組成物に標準物質を添加して分析用サンプルを調製し、該分析用サンプルを熱分解ガスクロマトグラフィーにより分析してもよい。得られたクロマトグラムにおける標準試料に由来するピークのピーク面積とチオフェン類縁体に由来するピークのピーク面積との比に基づいて、シランカップリング剤とゴム成分との結合量を定量することもできる。シランカップリング剤とゴム成分との結合量(mmol/g)は、例えば、下記式により求められる。
(シランカップリング剤とゴム成分との結合量(mmol/g))
=(チオフェン類縁体に由来するピークのピーク面積)/(標準物質に由来するピークのピーク面積)×(標準物質について作製された検量線により求められる定数)
【0047】
標準物質としては、揮発しない成分であり、熱分解ガスクロマトグラフィーにより検出可能な成分であれば特に限定されず、ジベンゾチオフェン、アントラセン、フェナントレン、ドデカン、安息香酸ベンジル等が挙げられる。なかでも、熱分解ガスクロマトグラフィーにより検出されるピークが、チオフェン類縁体と重複しないものが好ましい。
【0048】
前記の方法により熱劣化前の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量と、熱劣化後の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量をそれぞれ算出し、結合量の変化率を求めることができる。未加硫ゴム組成物の熱劣化は、例えば、80℃で2週間加熱することにより行われる。
【0049】
熱劣化前後での未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の変化率(CA-P結合量変化率)は、熱劣化前の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量をA、熱劣化後の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量をBとしたとき、下記式により求められる。
(CA-P結合量変化率(%))=(B/A-1)×100
【0050】
熱劣化前の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量Aに対する熱劣化後の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量Bの比(B/A)は、0.50~1.15が好ましく、0.52~1.12が好ましく、0.55~1.10がさらに好ましく、0.60~1.05が特に好ましい。B/Aを前記の範囲とすることにより、熱劣化後のゴム組成物の耐摩耗性能の低下を抑制できる傾向がある。なお、熱劣化前後でのゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の変化率は、リミルの回数、混練温度、ECU(混練中の積算温度)、加硫温度等により適宜制御することができる。
【0051】
測定に付した未加硫ゴム組成物に、加硫剤、加硫促進剤、および必要に応じて他の配合剤を添加し、例えば、70~110℃で1~5分間混練りすることで、加硫剤および加硫促進剤を含有する未加硫ゴム組成物を得ることができる。この未加硫ゴム組成物を、例えば、120~200℃で加熱加圧することにより、加硫ゴム組成物を得ることができる。
【0052】
前記の加硫剤および加硫促進剤を含有する未加硫ゴム組成物を、タイヤの所定の部材の形状に押し出し成形し、これを、タイヤ成形機上で、他の部材と貼り合わせて未加硫タイヤとする。そして、該未加硫タイヤを、加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを得ることができる。
【0053】
本開示に係る加硫ゴム組成物の用途は特に限定されないが、トレッド、サイドウォール、インナーライナー、ウイング等のタイヤ部材として好適に使用される。
【実施例0054】
以下、本開示を実施例に基づいて説明するが、本開示はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0055】
以下、実施例において用いた各種薬品をまとめて示す。
SBR:日本ゼオン(株)製のNipol NS616(未変性S-SBR)
シリカ:エボニックデグサ社製のULTRASIL(登録商標)VN3(N2SA:175m2/g、平均一次粒子径:17nm)
シランカップリング剤1:エボニックデグサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
シランカップリング剤2:モメンティブ社製のNXT-Z45(メルカプト基を有するシランカップリング剤)
DCC:ジシクロヘキシルカルボジイミド
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスNH-70S
ワックス:オゾエース0355(日本精蝋(株)製)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄(5%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS))
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン(DPG))
【0056】
<未加硫ゴム組成物および加硫ゴム組成物の調製>
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度170℃になるまで5分間混練りし、実施例1~5の未加硫ゴム組成物を得た。得られた各未加硫ゴム組成物に、表1に示す配合処方にしたがい硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、170℃で12分間プレス加硫することで、実施例1~5の加硫ゴム組成物を調製した。
【0057】
<シランカップリング剤-ポリマー間の結合量測定>
得られた各未加硫ゴム組成物から、200μg±5μgの試験片を立方体状に切り出し、分析用サンプルを調製した。該サンプルを、熱分解ガスクロマトグラフィーに付し、熱分解生成物のうち、チオフェン、2-メチルチオフェン、および3-メチルチオフェンを検出し、それぞれのピーク面積を求め、各未加硫ゴム組成物のチオフェン、2-メチルチオフェン、および3-メチルチオフェンのピークの合計面積を算出した。次に、各未加硫ゴム組成物を、オーブン中80℃で2週間加熱することにより熱劣化させた後、得られた熱劣化後の未加硫ゴム組成物を熱分解ガスクロマトグラフィーに付し、検出されたチオフェン、2-メチルチオフェン、および3-メチルチオフェンのピークの合計面積を算出した。熱劣化前の各未加硫ゴム組成物のチオフェン、2-メチルチオフェン、および3-メチルチオフェンのピークの合計面積を100として、熱劣化後の各未加硫ゴム組成物のチオフェン、2-メチルチオフェン、および3-メチルチオフェンのピークの合計面積を指数化し、熱劣化後の各未加硫ゴム組成物のシランカップリング剤-ポリマー間の結合量(CA-P結合量)を指数表示した。熱劣化前の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量Aに対する熱劣化後の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量Bの比(B/A)も併せて示す。なお、熱分解ガスクロマトグラフィーの測定条件は以下のとおりである。
【0058】
(熱分解ガスクロマトグラフィーの測定条件)
熱分解装置:フロンティア・ラボ(株)製の縦型マイクロ電気炉型パイロライザー「PY-2020iD」
熱分解温度:550℃
ガスクロマトグラフ:アジレント・テクノロジー(株)製のガスクロマトグラフ「6890」(インターフェイスヒーターの温度及び試料注入口(試料入口端)の温度は340℃に設定し、オーブン温度を40℃で3分保持し、40℃から300℃まで毎分8℃で昇温し、300℃で15分保持する昇温プログラムで測定を行った。なお、定圧モードでヘッド圧83kPaとし、スプリット比は50:1とした。)
検出器:アジレント・テクノロジー(株)製の化学発光硫黄検出器「Agilent 355化学発光硫黄検出器」(測定条件は、バーナー温度800℃、水素流量40mL/分、エアー流量60mL/分とした。)
キャリアガス:ヘリウム
カラム:フロンティア・ラボ(株)製のキャピラリーカラム「Ultra Alloy+-5(MS/HT)」(長さ=30m、内径=0.25mm、フィルム厚さ=0.25μm)
【0059】
<耐摩耗性能>
各加硫ゴム組成物について、ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、負荷荷重1.0kgf、スリップ率30%の条件で摩耗量を測定した。次に、各加硫ゴム組成物を、オーブン中80℃で2週間加熱することにより熱劣化させた後、得られた熱劣化後の加硫ゴム組成物ついて、ランボーン型摩耗試験機を用いて前記と同様の条件で摩耗量を測定した。摩耗量の逆数の値について熱劣化前の各加硫ゴム組成物を100として指数表示した(熱劣化後の耐摩耗性能)。
【0060】
【0061】
表1の結果より、熱劣化前の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量に対する熱劣化後の未加硫ゴム組成物中のシランカップリング剤とゴム成分との結合量の比が所定の範囲内である未加硫ゴム組成物に、加硫促進剤および加硫剤を添加した加硫ゴム組成物は、熱劣化後の耐摩耗性能の低下が抑制されていることがわかる。熱劣化によりシリカを含有するゴム組成物のCA-P結合量が増加すると、ゴムが変形した際にシリカとゴム成分との界面で応力集中が起こり、破壊が生じやすくなると考えられる。
【0062】
このように、本発明のシランカップリング剤の結合量変化率の測定方法によれば、未加硫ゴム組成物の段階で、未加硫ゴム組成物の段階で、シリカを含有する加硫ゴム組成物の劣化を評価することができ、加硫後のゴム組成物について、熱劣化後の耐摩耗性等の物性を予測することができる。したがって、本発明の測定方法は、シリカの性能を充分に引き出す好適な製造条件を見出すために、有用な手法となり得る。