(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180506
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】ジャイロコンパス
(51)【国際特許分類】
G01C 19/18 20060101AFI20231214BHJP
G01C 19/08 20060101ALI20231214BHJP
G01C 19/28 20060101ALI20231214BHJP
G01C 19/38 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G01C19/18
G01C19/08
G01C19/28
G01C19/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093869
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003388
【氏名又は名称】東京計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107928
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正則
(74)【代理人】
【識別番号】110003362
【氏名又は名称】弁理士法人i.PARTNERS特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 拓也
(72)【発明者】
【氏名】小山 貴志
(72)【発明者】
【氏名】西泉 翔太
(57)【要約】
【課題】方位精度を向上させる。
【解決手段】航行体に固定的に設置される盤器24と、ジャイロロータGを内蔵するジャイロケース1と、盤器24に対して、ジャイロロータGのスピン軸方向を向くジンバル軸と、ジンバル軸と直交して水平面と平行する水平軸とに直交する垂直軸周りに回転可能に設けられた垂直環16と、垂直環16によりジンバル軸周りに回転可能に軸支されるとともにジャイロケース1を水平軸周りに回転可能に軸支するか、または、垂直環16により水平軸周りに回転可能に軸支されるとともにジャイロケース1をジンバル軸周りに回転可能に軸支する水平環12と、ジャイロケース1を水平軸周りに回転させる水平サーボモータ10と、垂直環16に設けられ、垂直環16を垂直軸周りに回転させる方位サーボモータ19とを備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
航行体に固定的に設置される盤器と、
ジャイロロータを内蔵するジャイロケースと、
前記盤器に対して、前記ジャイロロータのスピン軸方向を向くジンバル軸と、該ジンバル軸と直交して水平面と平行する水平軸とに直交する垂直軸周りに回転可能に設けられた垂直環と、
前記垂直環により前記ジンバル軸周りに回転可能に軸支されるとともに前記ジャイロケースを前記水平軸周りに回転可能に軸支するか、または、前記垂直環により前記水平軸周りに回転可能に軸支されるとともに前記ジャイロケースを前記ジンバル軸周りに回転可能に軸支する水平環と、
前記ジャイロケースを前記水平軸周りに回転させる水平回転駆動部と、
前記垂直環に設けられ、該垂直環を前記垂直軸周りに回転させる垂直回転駆動部と
を備えるジャイロコンパス。
【請求項2】
前記水平環は、前記垂直環により前記水平軸周りに回転可能に軸支されるとともに前記ジャイロケースを前記ジンバル軸周りに回転可能に軸支し、
前記水平回転駆動部は、前記垂直環に設けられることを特徴とする請求項1に記載のジャイロコンパス。
【請求項3】
前記ジャイロケースの姿勢を保持するように前記水平回転駆動部と前記垂直回転駆動部とを制御する制御部と、
前記盤器を含む固定部と、前記ジャイロケースと前記垂直環と前記水平環とを含む回転部とが、固定子と回転子とを含む回転コネクタとを更に備え、
前記回転コネクタは、前記制御部と前記水平回転駆動部と前記垂直回転駆動部とに電力を供給する第1伝送路と、前記制御部と前記ジャイロコンパスの外部との通信路である第2伝送路とを有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のジャイロコンパス。
【請求項4】
前記回転コネクタは、ロータリートランスであり、
前記第1伝送路は、前記固定子に設けられた第1固定コイルと、前記回転子に設けられた第1回転コイルにより構成され、
前記第2伝送路は、前記固定子に設けられた第2固定コイルと、前記回転子に設けられた第2回転コイルにより構成されることを特徴とする請求項3に記載のジャイロコンパス。
【請求項5】
前記第1固定コイルと前記第2固定コイルは、前記固定子に設けられた1つの溝内に重ねて設けられ、
前記第1回転コイルと前記第2回転コイルは、前記回転子に設けられた1つの溝内に重ねて設けられることを特徴とする請求項4に記載のジャイロコンパス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャイロコンパスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正確な方位を把握するための手段として、ジャイロコンパスが用いられている。このジャイロコンパスは、ジャイロの回転軸方向が空間の一定方向を保持し続ける方向保持性に対して、回転軸方向が常に南北方向を向く、即ち、回転軸一端側が常に北方向を向く指北作用を持たせるように構成したものである。
【0003】
また、ジャイロコンパスは、例えば、船舶などの動揺する乗り物に搭載されるため、静的精度及び動的精度の両面において高い精度が要求される。このうち、静的精度については、ジャイロケースに収容されるジャイロの持つ角運動量と、ジャイロケースに加えられる摩擦などの有害トルクとの比が影響する。そのため、角運動量を大きくすることなく静的精度を高めるために、ジャイロケースを、ボールベアリングなどで支持せず、加えられる摩擦がより小さい方法で支持するジャイロケースや、ジャイロケースの変位を無接触により検出する技術が既知である。
【0004】
このようなジャイロコンパスとしては、例えば、ジャイロを内蔵したジャイロケースと、液体とともにジャイロケースを収容するタンクと、タンクとジャイロケースとを懸吊体で連結することによりジャイロケースをタンク内に支持する第1の支持装置と、3軸の自由度を有するように支持する第2の支持装置と、重力線周りにタンクをジャイロケースに追従させる垂直追従装置とを備えるジャイロコンパス、が知られている(特許文献1参照)。ここで、第2の支持装置における3軸とは、ジャイロのスピン軸方向を向くジンバル軸、これに直交して鉛直方向を向く垂直軸、スピン軸及び垂直軸に直交して東西方向を向く水平軸である。
【0005】
また、一般的に、ジャイロコンパスは、ジャイロケースに対してタンクを垂直軸周り、水平軸周りに追従させる方位追従系、水平追従系を有し、これら方位追従系及び水平追従系において検出されたジャイロケースの変位に基づいて方位信号を演算して出力するように構成される。固定部から垂直軸周り及び水平軸周りに回転可能に支持された回転部への電力の供給、追従制御や方位の演算を行うための固定部と回転部との通信は、固定子と回転子とを有するスリップリングやロータリートランスなどの回転コネクタを介してなされる。回転部には、垂直軸周りに回転可能に固定部としての盤器により支持される垂直環と、水平軸周りに回転可能に垂直環により支持される水平環とが含まれる。
【0006】
このようなジャイロコンパスとして、電源を供給するための電源チャンネルと方位追従系、水平追従系のそれぞれに掛かる信号を送受信するための2つの信号チャンネルを有するロータリートランスを備えるジャイロコンパス、が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第0885730号明細書
【特許文献2】特許第3467633号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
回転コネクタを備えたジャイロコンパスにおいては、方位追従信号に従って方位偏差を低減させるように垂直環を回転させる方位サーボモータが設けられ、回転コネクタを介して回転部から方位追従信号が固定部に設けられた方位サーボモータへ送信される。スリップリングには機械的摩耗などに起因する接点不良が生じやすく、ロータリートランスには無接点通信による通信の遅れや通信エラーなどが生じ得る。よって、回転コネクタを介した方位サーボモータの制御においては、方位誤差が発生して方位精度が低下する、という問題がある。
【0009】
本発明の実施形態は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、方位精度を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本実施形態に係るジャイロコンパスは、航行体に固定的に設置される盤器と、ジャイロロータを内蔵するジャイロケースと、前記盤器に対して、前記ジャイロロータのスピン軸方向を向くジンバル軸と、該ジンバル軸と直交して水平面と平行する水平軸とに直交する垂直軸周りに回転可能に設けられた垂直環と、前記垂直環により前記ジンバル軸周りに回転可能に軸支されるとともに前記ジャイロケースを前記水平軸周りに回転可能に軸支するか、または、前記垂直環により前記水平軸周りに回転可能に軸支されるとともに前記ジャイロケースを前記ジンバル軸周りに回転可能に軸支する水平環と、前記ジャイロケースを前記水平軸周りに回転させる水平回転駆動部と、前記垂直環に設けられ、該垂直環を前記垂直軸周りに回転させる垂直回転駆動部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、方位精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係るジャイロコンパスを示す概略斜視図である。
【
図5】ジャイロロータの指北作用を示す概略図である。
【
図7】第1実施形態に係るロータリートランスの構成を示す縦断面図である。
【
図8】第1実施形態に係る制御系の構成要素の配置を示すブロック図である。
【
図9】第2実施形態に係るジャイロコンパスを示す概略斜視図である。
【
図10】第2実施形態に係る制御系の構成要素の配置を示すブロック図である。
【
図11】第3実施形態に係るロータリートランスの構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
<第1実施形態>
(ジャイロコンパスの構成)
第1実施形態に係るジャイロコンパスの構成について説明する。
図1は、本実施形態に係るジャイロコンパスを示す概略斜視図である。なお、
図1においては、説明上、タンク及び盤器の一部を切断した状態を示している。また、本実施形態においては、航行体としての船舶に搭載されるジャイロコンパスを示す。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係るジャイロコンパス901は、ジャイロケース1と、タンク2と、水平環12と、垂直環16と、内部空間が画成された略円柱状に形成された盤器24と、ジャイロコンパスを制御する制御部(
図1には不図示)とを備える。ジャイロケース1、タンク2、水平環12、及び垂直環16は、盤器24の内部空間に収容される。水平環12は、環状に形成され、タンク2を水平方向に沿って囲繞するように配される。垂直環16は、環状に形成され、タンク2を垂直方向に沿って囲繞するように配される。
【0016】
ジャイロケース1は、内部空間を画成するとともに液密性を有する球体状に形成され、ジャイロケース1の内部空間にはジャイロロータGが内蔵される。タンク2はジャイロケース1を収容する容器であり、ジャイロケース1は、懸吊線3によりタンク2内に吊り下げられて支持される。懸吊線3は、その上端がタンク2に接続され、その下端がジャイロケース1に接続される。タンク2の内部空間には、例えばダンピングオイルなどの高粘性の液体7が充填されている。ジャイロロータGのスピン軸線は、南北方向を向くように構成される。ジャイロケース1とタンク2には、タンク2に対するジャイロケース1の相対的な位置及び姿勢の変位を無接触で検出する検出部6A,6Bが装着される。
【0017】
タンク2の赤道上でジャイロロータGのスピン軸線と直交する直線と交わる、互いに対向する2箇所には水平軸8A,8Bが接続され、水平軸8A,8Bの軸線は、東西方向、即ち、スピン軸線方向及び鉛直方向に直交する方向を向くようになっている。水平軸8A,8Bのそれぞれは、水平環12において互いに対向する2箇所に設けられた水平軸受け13A,13Bに軸支される。水平環12には、水平ピニオン11を回転させる水平サーボモータ10が取り付けられ、水平軸8Aには、水平ピニオン11と噛合する水平歯車9が設けられる。
【0018】
水平環12において、水平軸8A,8Bの軸線と直交する直線と交わる、互いに対向する2箇所にはジンバル軸14A,14Bが接続される。ジンバル軸14A,14Bの軸線はスピン軸線方向を向き、ジンバル軸14A,14Bのそれぞれは、垂直環16において互いに対向する2箇所に設けられたジンバル軸受け15A,15Bに軸支される。
【0019】
垂直環16において、ジンバル軸14A,14Bの軸線と直交する直線と交わる、互いに対向する2箇所には垂直軸17A,17Bが接続される。垂直軸17A,17Bの軸線は鉛直方向を向き、垂直軸17A,17Bのそれぞれは、上下方向に互いに対向する2箇所に設けられた垂直軸受け25A,25Bに軸支される。垂直軸受け25Bは、盤器24の上面に設けられる。垂直軸受け25Aは、方位歯車21の上面、または盤器24の底面に固定されたベース27に設けられる。なお、
図1においては、方位歯車21の上面に設けられる垂直軸受け25Aが示される。
【0020】
垂直環16には、方位ピニオン20を回転させる方位サーボモータ19が取り付けられる。ベース27には方位ピニオン20と噛合する方位歯車21が設けられる。
【0021】
盤器24の上面には垂直軸17Bと一体回転可能に接続されるコンパスカード22が盤器24に対して相対回転可能に設けられる。また、盤器24の上面には、コンパスカード22に対応して、ジャイロコンパス901が搭載される船舶の船首方位を示す基線26が記された基板23が設けられる。ジャイロコンパス901は、基線26が船首方位を向くように船舶に設置される。
【0022】
ジャイロコンパス901は、水平軸8A,8B、ジンバル軸14A,14B、垂直軸17A,17Bの3軸の自由度を有してタンク2が支持されるように構成される。検出部6A,6Bの一部と方位サーボモータ19とが後述する方位追従系を構成し、ジャイロケース1とタンク2との垂直軸17A,17Bの軸線周り(以下、垂直軸周り)の位置関係を保持するように方位サーボモータ19が駆動される。また、検出部6A,6Bの一部と水平サーボモータ10とが後述する水平追従系を構成し、ジャイロケース1とタンク2との水平軸8A,8Bの軸線周り(以下、水平軸周り)の位置関係を保持するように水平サーボモータ10が駆動される。
【0023】
(検出部の構成)
検出部の構成及び検出動作について説明する。
図2は、検出部の構成を示す概略図である。なお、2つの検出部は同様の構成であるため、
図2には、北方側の検出部が代表して示される。
【0024】
図2に示すように、検出部6Aは、1次側コイル4Nと、2次側コイル5Nと、制振コイル40Nとを備える。1次側コイル4Nは、ジャイロケース1の外面においてスピン軸の軸線の北方側に設けられる。2次側コイル5Nは、タンク2の内面において1次側コイル4Nに対応して設けられる。制振コイル40Nは、2次側コイル5Nと同様にタンク2の内面に設けられる。また、検出部6Bは、1次側コイル4Sと、2次側コイル5Sと、制振コイル40Sとを備える。1次側コイル4Sは、ジャイロケース1の外面においてスピン軸の軸線の南方側に設けられる。2次側コイル5Sは、タンク2の内面において1次側コイル4Sに対応して設けられる。制振コイル40Sは、2次側コイル5Sと同様にタンク2の内面に設けられる。
【0025】
2次側コイル5Nは、4個の矩形コイル5NW,5NE,5NU,5NLを有し、同様に、2次側コイル5Sは、4個の矩形コイル5SW,5SE,5SU,5SLを有する。ここで、矩形コイル5NWと5NEとが東西方向に並置されて設けられ、矩形コイル5NUと5NLとが上下方向に並置されて設けられる。同様に、矩形コイル5SWと5SEとが東西方向に並置されて設けられ、矩形コイル5SUと5SLとが上下方向に並置されて設けられる。また、矩形コイル5NWと5NEとが互いに差動的に接続されるとともに、矩形コイル5NUと5NLとが互いに差動的に接続される。同様に、矩形コイル5SWと5SEとが互いに差動的に接続されるとともに、矩形コイル5SUと5SLとが互いに差動的に接続される。
【0026】
ここで、北方側の検出部6を例として、ジャイロケース1に対するタンク2の変位の検出について説明する。
図2に示すように、1次側コイル4Nの巻線はスピン軸線に直交する平面内にあり、通常、ジャイロ電源PSと共用の交流によって励磁され、破線の矢印a1により示される交番磁場を生成する。
【0027】
1次側コイル4Nが2次側コイル5Nの4個の矩形コイル5NW,5NE,5NU,5NLの中央位置に配置されている場合、1次側コイル4Nによる磁束は4個の矩形コイル5NW,5NE,5NU,5NLを貫通するため、4個の矩形コイル5NW,5NE,5NU,5NLには同一の電圧が誘発される。したがって、それぞれ互いに差動的に接続される、矩形コイル5NW,5NEの出力端子2-1及び矩形コイル5NU,5NLの出力端子3-1には出力電圧は生じない。
【0028】
2次側コイル5Nが1次側コイル4Nに対して水平に西方向(
図2における矢印W方向)に変位した場合、1次側コイル4Nによる磁束のうち、東方側の矩形コイル5NEを貫通する磁束は増加してその誘起電圧が増加するが、一方で西方側の矩形コイル5NWを貫通する磁束は減少してその誘起電圧が減少する。したがって、矩形コイル5NW,5NEの出力端子2-1に差動電圧が生じるが、上下方向の矩形コイル5NU,5NLの出力端子3-1には出力電圧が生じない。
【0029】
2次側コイル5Nが1次側コイル4Nに対して水平に東方向(
図2にて矢印E方向)に変位した場合は、西方向に変位した場合と逆の状態となる。即ち、1次側コイル4Nによる磁束のうち、西側の矩形コイル5NWを貫通する磁束が増加してその誘起電圧が増加し、東側の矩形コイル5NEを貫通する磁束が減少してその誘起電圧が減少する。したがって、矩形コイル5NW、5NEの出力端子2-1には、西方向に変位した場合と逆極性の差動電圧が生じるが、上下方向の矩形コイル5NU、5NLの出力端子3-1には出力電圧は生じない。
【0030】
2次側コイル5Nが1次側コイル4Nに対して上下方向(
図2にて矢印EW及び矢印NSに直交する方向)に変位した場合、1次側コイル4Nによる磁束のうち、上方の矩形コイル5NUを貫通する磁束は減少又は増加し、下方の矩形コイル5NLを貫通する磁束は増加又は減少する。この際、上方の矩形コイル5NUの誘起電圧が減少又は増加し、下方の矩形コイル5NLの誘起電圧が増加又は減少して、上下方向の矩形コイル5NU、5NLの出力端子3-1に差動電圧が生じる。
【0031】
このように、1次側コイル4Nが設けられたタンク2の北側端部がジャイロケース1に対して東西方向及び上下方向に変位すると、2次側コイル5Nにおける2対の矩形コイル5NW及び5NE、5NU及び5NLそれぞれの出力端子2-1、3-1に差動電圧が生じる。この差動電圧の極性及び大きさは、タンク2のN端の変位の方向及び大きさを示す。また、2次側コイル5Sにおける2対の矩形コイル5SW及び5SE、5SU及び5SLそれぞれの出力端子についても、2次側コイル5Nと同様に差動電圧が生じるが、矩形コイル5SW、5SEによる電圧、矩形コイル5SU、5SLによる電圧は、出力端子2-1、3-1による電圧とはその極性が逆となっている。
【0032】
(方位追従系の構成)
方位追従系について説明する。
図3は、方位追従系の構成を示す概略図である。
【0033】
ジャイロケース1に対してタンク2が垂直軸周りに回転変位すると、
図3に示すように、矩形コイル5NW,5NEの出力端子2-1及び矩形コイル5SW,5SEの出力端子2-2に差動電圧が生じ、矩形コイル5NW,5NE,5SW,5SEの出力端子である方位出力端子4-1に電圧信号が生じる。この方位出力端子4-1に生じた電圧信号は、後述する方位偏差検出部40(
図8参照)に入力され、方位偏差検出部40は、入力された電圧信号に基づいて、ジャイロケース1に対するタンク2の鉛直軸線周りの偏角を方位偏差として算出し、この方位偏差をゼロとする方位追従信号を出力する。方位偏差検出部40により出力された方位追従信号は、方位サーボ増幅器30を介して方位サーボモータ19に入力される。方位サーボモータ19の回転は、方位ピニオン20、方位歯車21、垂直環16及び水平環12を介して、タンク2に伝達される。それによって、タンク2は垂直軸周りに回転し、タンク2とジャイロケース1の間の相対的回転変位がゼロとなる。
【0034】
このように、方位追従系によって、タンク2の方位は常にジャイロロータGのスピン軸線の方位に追従し、コンパスカード22のN字は常にジャイロロータGのスピン軸線の方位に追従することとなる。したがって、コンパスカード22のN字と基線26の偏差によって船首方位が読み取られる。
【0035】
(水平追従系の構成)
水平追従系について説明する。
図4は、水平追従系の構成を示す概略図である。
【0036】
ジャイロケース1に対してタンク2が水平軸周りに回転変位すると、矩形コイル5NU、5NL、5SU、5SLの出力端子である水平出力端子5-1に電圧信号が生じる。この水平出力端子5-1に生じた電圧信号は、後述する水平偏差検出部41(
図8参照)に入力され、水平偏差検出部41は、入力された電圧信号に基づいて、ジャイロケース1に対するタンク2の水平軸周りの偏角を水平偏差として算出し、この水平偏差をゼロとする水平追従信号を出力する。水平偏差検出部41により出力された水平追従信号は、水平サーボ増幅器31を介して水平サーボモータ10に入力される。水平サーボモータ10の回転は、水平ピニオン11及び水平歯車9を介して、タンク2に伝達される。それによって、タンク2は水平軸周りに回転し、タンク2とジャイロケース1の間の相対的回転変位がゼロとなる。
【0037】
(指北と制振系の構成)
指北と制振系について説明する。
図5は、ジャイロロータの指北作用を示す概略図である。
図6は、制振系の構成を示す概略図である。なお、
図5は、タンク内に配置されたジャイロケースを側方から見た状態で概略的に示したものである。また、
図6は、タンク及びジャイロケースに設けられた検出部を概略的に示したものである。
【0038】
ジャイロコンパス901の制振系は、1次側コイル4N,4Sとの距離を検出することによりタンク2に対するジャイロケース1の移動量ξを検出する、検出部6A,6Bそれぞれにおける制振コイル40N,40Sにより構成される。まず、この移動量ξについてジャイロロータGの指北作用とともに説明する。
【0039】
図5に示すように、タンク2内には高粘性の液体7が充填されており、ジャイロケース1は液体7に漬かる状態で懸吊線3によって懸吊されている。ここで、ジャイロケース1の重心位置をO1、タンク2の中心位置をO2とし、懸吊線3とタンク2の結合点をP、懸吊線3とジャイロケース1の結合点をQとし、タンク2の中心軸線は線PO2を通るものとする。更に、ジャイロロータGのスピン軸線がジャイロケース1と交わる点をA,Bとし、この2点A,Bに対応するタンク2上の2点、即ち、スピン軸線がタンク2と交わる点をA’,B’とし、水平面をH-H’とする。なお、点A,A’をジャイロロータGの指北側とする。
【0040】
ジャイロロータGのスピン軸線が水平な場合(θ=0°)には、タンク2の南北線A’B’はスピン軸線に整合した位置に配置され、ジャイロケース1の重心位置O1はタンク2の中心位置O2と一致する。一方、ジャイロロータGのスピン軸線が水平面H-H’に対して傾斜角θだけ傾斜し、ジャイロケース1の指北側にある点Aが水平面H-H’に対して上昇していると仮定する。この際、タンク2の中心軸線P-O2は鉛直線に対して傾斜角θだけ傾斜する。この傾斜を低減させるように、タンク2は、上述した水平追従系によって、ジャイロロータGの傾斜角θに追従して水平軸周りに回転傾斜する。
【0041】
外力が作用しない場合、懸吊線3は鉛直線に一致し、懸吊線3の張力Tによってジャイロケース1に対して重心位置O1周りのモーメントMが生成される。ジャイロケース1の重心位置O1とジャイロケース1における懸吊線3の接続位置Qの間の距離をrとし、ジャイロケース1の液体7による浮力を除いた残留重量をmgとすれば、ジャイロケース1に作用するモーメントMは、M=Tr sinθ=mgr sinθの式により表される。
【0042】
このモーメントMはジャイロロータGに対するトルクとして重心位置O1を通る水平軸8A,8Bの軸線周りに作用する。このように、スピン軸線の水平面に対する傾斜角に比例したトルクをジャイロの水平軸周りに加えることができるため、指北力が生成される。上述の距離r、重量mg及びジャイロの角運動量を調整することによって、指北運動の周期を数10分~百数10分とすることができる。
【0043】
ジャイロコンパス901の制振系は、スピン軸線の水平面に対する傾斜角に比例したトルクをジャイロコンパス901の垂直軸の周りに加えるように構成されている。ジャイロケース1は、懸吊線3が垂直線と一致するまで、タンク2に対して相対的にタンク2上の点B’方向に距離ξ(O1-O2)だけ移動する。この移動量ξは、ジャイロロータGのスピン軸線の水平面H-H’に対する傾斜角θに比例する。したがって、このジャイロケース1の相対的な移動量ξを制振コイル40N,40Sにより検出し、この検出量に基づいて方位追従系による追従位置を変位させ、懸吊線3を捩じることによって、所望の制振作用が得られる。
【0044】
なお、懸吊線3は僅かに剛性を有するため、ジャイロケース1が水平面H-H’に対して傾斜したとき、実際には懸吊線3’として示すように撓み曲線を描く。したがって、ジャイロケース1の線A’B’方向の移動量ξ(O1-O2)も、僅かに減少する。しかしながら、懸吊線3は十分可撓性を有し、斯かる移動量の変化は僅かであり、実用的な設計では、その影響は小さいため、以下では斯かる移動量の変化を無視して説明する。
【0045】
図6に示すように、制振系は方位追従系に付加的に設けられている。検出部6A,6Bのうち、ジャイロケース1の外面に装着された1次側コイル4N、4Sとタンク2の内面に装着された4対の矩形コイル5NW、5NE及び5SW、5SEと5NU、5NL及び5SU、5SLが示されている。また、検出部6A,6Bは、これら矩形コイルを含む2次側コイル5N,5Sの更に南北側に、上述した移動量ξを検出するための1対の制振コイル40N,40Sを有する。
【0046】
この制振コイル40N,40Sは、2次側コイル5N,5Sにおいて水平方向に並置された矩形コイル5NW,5NE及び5SW,5SEと平行となるように配置され且つ差動的に接続されている。制振コイル40N,40Sの出力端子である制振出力端子6-1は、ジャイロケース1の移動量ξに比例した差動電圧を出力する。
【0047】
制振出力端子6-1は、方位出力端子4-1に加算的に接続され、方位サーボ増幅器30を介して、方位サーボモータ19の制御巻線に接続されている。これにより、方位サーボモータ19の制御巻線に印加される電圧信号は、制振出力端子6-1からの電圧信号だけ過剰な電圧信号となり、タンク2のジャイロケース1に対する方位追従動作を移動量ξに基づいて変位させる。
【0048】
タンク2は垂直軸周りに、制振系によって方位追従系の動作に対して変位されただけ回転変位して懸吊線3に捩じり応力が生じる。これによりジャイロケース1は、タンク2に対するジャイロケース1の移動量ξに比例した捩じりトルクを受け、ジャイロロータGの制振作用が生成される。
【0049】
(ロータリートランスの構成)
第1実施形態に係るロータリートランスの構成について説明する。
図7は、本実施形態に係るロータリートランスの構成を示す縦断面図である。
【0050】
ジャイロコンパス901において、盤器24を含む固定部と、ジャイロケース1とタンク2と水平環12と垂直環16とを含む回転部との伝送は、ロータリートランス60を介してなされる。
図7に示すように、ロータリートランス60は、固定子601と回転子602とを有し、固定子601及び回転子602は、いずれも円環状、具体的には中心に貫通孔が形成された円盤状に形成される。回転子602は、回転子602の底面が固定子601と対向するように固定子601に対して相対回転可能に設けられる。
【0051】
固定子601の上面には、互いに径が異なる2つの円環状の溝が形成される。2つの溝のそれぞれには、いずれも円環状に形成された第1固定コイル601-1、第2固定コイル601-2が嵌合される。第1固定コイル601-1は、第2固定コイル601-2よりも大きな径に形成され、第2固定コイル601-2に対して径外側に位置する。
【0052】
回転子602の底面には、互いに径が異なる2つの円環状の溝が形成される。2つの溝のそれぞれには、いずれも円環状に形成された第1回転コイル602-1、第2回転コイル602-2が嵌合される。第1回転コイル602-1は、第2回転コイル602-2よりも大きな径に形成され、第2回転コイル602-2に対して径外側に位置する。
【0053】
第1固定コイル601-1と第1回転コイル602-1とによれば、無接点の第1伝送路CH1が構成される。同様に、第2固定コイル601-2と第2回転コイル602-2とによれば、無接点の第2伝送路CH2が構成される。後に詳述するように、第1伝送路CH1は、電力を供給するための伝送路として使用され、第2伝送路CH2は、シリアル通信を行うための伝送路として使用される。
【0054】
なお、第2伝送路CH2によりシリアル通信を行うことによって、第2固定コイル601-2と第2回転コイル602-2に誘導される第1伝送路CH1の周波数信号の干渉を低減することができる。また、シリアル通信に用いる周波数を電力供給に用いる周波数の2~100倍とすることによって、第1伝送路CH1と第2伝送路CH2との干渉が更に低減される。
【0055】
(制御系の構成)
第1実施形態に係るジャイロコンパスの制御系の構成について説明する。
図8は、本実施形態に係る制御系の構成要素の配置を示すブロック図である。
【0056】
図8に示すように、盤器24には、インターフェース部70、通信回路71、電源部81が設けられる。また、垂直環16には、方位サーボモータ19、方位サーボ増幅器30、方位偏差検出部40、水平偏差検出部41、コンパス演算部50、通信回路72、整流回路82が設けられる。また、水平環12には、水平サーボモータ10、水平サーボ増幅器31が設けられる。方位偏差検出部40、水平偏差検出部41、コンパス演算部50によって制御部が構成される。
【0057】
インターフェース部70は、ジャイロコンパス901が搭載される船舶の緯度、速度をそれぞれ示す緯度信号λ、速度信号Vをジャイロコンパス901に入力し、ジャイロコンパス901から船舶の船首方位を示す方位信号Φを出力するための入出力部である。通信回路71は、ロータリートランス60における第2伝送路CH2を介して、垂直環16に設けられた通信回路72とシリアル通信を行う。電源部81は、ロータリートランス60における第1伝送路CH1を介して、垂直環16に設けられた整流回路82に交流電力を供給する。
【0058】
通信回路72は、盤器24に設けられた通信回路71とシリアル通信を行う。コンパス演算部50は、方位偏差検出部40により算出された方位偏差と、通信回路71,72によるシリアル通信を介して取得される緯度信号λ、速度信号Vとに基づいて、方位信号Φを算出する。コンパス演算部50により算出された方位信号Φは、シリアル通信を介してインターフェース部70からジャイロコンパス901の外部に出力される。
【0059】
整流回路82は、水平サーボモータ10、水平サーボ増幅器31、方位サーボモータ19、方位サーボ増幅器30に直流電力を供給するジャイロ電源を生成するとともに、方位偏差検出部40、水平偏差検出部41、コンパス演算部50に直流電流を供給する制御電源を生成する。なお、ロータリートランス60により変圧した互いに異なる複数の電圧を整流回路82に供給することによって、ジャイロコンパス901から変圧器を省略することができる。
【0060】
従来のジャイロコンパスにおいては、方位サーボモータと方位サーボ増幅器とが盤器に設けられることによって、方位偏差検出部から方位サーボ増幅器へ方位追従信号をシリアル通信により送信するための更なる伝送路が回転コネクタに設けられていた。これによって、従来のジャイロコンパスにおいては、不安定な伝送路を介して方位追従信号が送信されることに起因して、方位追従系に追従誤差が生じ、方位精度が低下していた。
【0061】
本実施形態に係るジャイロコンパス901によれば、方位サーボモータと方位サーボ増幅器とが垂直環16に設けられることによって、ロータリートランス60における伝送路を経由せずに方位追従信号が送信されるため、方位精度を向上させることができる。
【0062】
なお、本実施形態においては、同種類、即ち互いに同様に構成された2つのサーボモータを水平サーボモータ10、方位サーボモータ19とし、水平サーボモータ10と、方位サーボモータ19とで電源及び駆動回路を共用することによって、電源及び駆動回路の小型化、効率化及び発熱抑制が達成される。また、電源及び駆動回路の効率化によれば、ジャイロコンパス901の動作に悪影響を及ぼす電源ノイズの発生要因、発生箇所の特定が容易となる。
【0063】
<第2実施形態>
第2実施形態に係るジャイロコンパスの構成について説明する。
図9は、本実施形態に係るジャイロコンパスを示す概略斜視図である。
図10は、本実施形態に係る制御系の構成要素の配置を示すブロック図である。
【0064】
図9、
図10に示すように、本実施形態に係るジャイロコンパス902は、水平サーボモータ10、水平サーボ増幅器31が垂直環16に設けられている点において、第1実施形態に係るジャイロコンパス901とは異なる。また、ジャイロコンパス902は、水平サーボモータ10が垂直環16に設けられるため、水平軸8A,8B及びジンバル軸14A,14Bが設けられる構成要素がジャイロコンパス901とは異なる。
【0065】
ジンバル軸14A、14Bは、タンク2においてジャイロロータGのスピン軸線方向に互いに対向する2箇所に接続される。また、ジンバル軸14A、14Bは、水平環12においてスピン軸線方向に互いに対向する2箇所に設けられたジンバル軸受け15A,15Bに軸支される。
【0066】
水平軸8A,8Bは、水平環12においてジンバル軸14A、14Bの軸線と直交する直線と交わる互いに対向する2箇所に接続される。また、水平軸8A,8Bは、垂直環16において水平軸8A,8Bの軸線方向に互いに対向する2箇所に設けられた水平軸受け13A,13Bに軸支される。
【0067】
本実施形態に係るジャイロコンパス902によれば、方位サーボモータ19、方位サーボ増幅器30、水平サーボモータ10、及び水平サーボ増幅器31が垂直環16に設けられることによって、方位追従系、水平追従系に係る基板を共有することができ、ジャイロコンパス902をより小型化、効率化することができる。また、部品点数や配線数も低減することができ、ジャイロコンパス902をより安価に製造することができる。
【0068】
<第3実施形態>
第3実施形態に係るジャイロコンパスについて説明する。
図11は、本実施形態に係るロータリートランスの構成を示す縦断面図である。
【0069】
第3実施形態に係るジャイロコンパス903(不図示)は、ロータリートランス60に代えて、ロータリートランス61を備える点において、第2実施形態に係るジャイロコンパス902とは異なる。ロータリートランス61は、
図11に示すように、固定子601、回転子602のそれぞれに1つの溝のみが形成される点において、ロータリートランス60とは異なる。
【0070】
固定子601の溝には、互いに同一の径を有する円環状に形成された第1固定コイル601-1と第2固定コイル601-2とが嵌合される。この際、第2固定コイル601-2は、第1固定コイル601-1に対して回転子602側に位置する。
【0071】
回転子602の溝には、互いに同一の径を有する円環状に形成された第1回転コイル602-1と第2回転コイル602-2とが嵌合される。この際、第2回転コイル602-2は、第1回転コイル602-1に対して固定子601側に位置する。
【0072】
ロータリートランス60と同様に、第1固定コイル601-1と第1回転コイル602-1とによれば、無接点の第1伝送路CH1が構成される。同様に、第2固定コイル601-2と第2回転コイル602-2とによれば、無接点の第2伝送路CH2が構成される。
【0073】
このようなロータリートランス61によれば、ロータリートランス60よりも径を小さくすることができ、ジャイロコンパス903をより小型化することができる。
【0074】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0075】
なお、第1実施形態、及び第2実施形態において、ジャイロコンパス901,902が回転コネクタとしてロータリートランス60を備えるものとしたが、回転コネクタとしてスリップリングを備えるものとしても良い。
【符号の説明】
【0076】
G ジャイロロータ
1 ジャイロケース
2 タンク
10 水平サーボモータ(水平回転駆動部)
12 水平環
16 垂直環
19 方位サーボモータ(垂直回転駆動部)
24 盤器
27 ベース
60、61 ロータリートランス
901,902,903 ジャイロコンパス