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特開2023-180510歩行補助車両、歩行補助車両の制御方法、歩行補助車両の制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180510
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】歩行補助車両、歩行補助車両の制御方法、歩行補助車両の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/04 20060101AFI20231214BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20231214BHJP
   B60L 58/22 20190101ALI20231214BHJP
【FI】
A61H3/04
B60L7/14
B60L58/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093876
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 康永
【テーマコード(参考)】
4C046
5H125
【Fターム(参考)】
4C046AA24
4C046BB07
4C046CC04
4C046DD02
4C046DD27
4C046DD33
4C046DD41
4C046DD42
4C046EE02
4C046EE03
4C046EE04
4C046EE17
4C046FF02
4C046FF25
5H125AA17
5H125AB01
5H125AC14
5H125BA01
5H125BA07
5H125BB03
5H125BC12
5H125BC16
5H125CA01
5H125CB03
5H125EE05
5H125EE23
(57)【要約】
【課題】車両の大型化を抑制しつつ、電動機の回生電力を消費させることが可能な歩行補助車両を提供することを目的とする。
【解決手段】ある態様の歩行補助車両100は、車体に取り付けられた車輪に設けられ、車輪の回転運動に基づいて回生電力を発生する電動機2と、電動機2の磁束方向に対応したd軸電流を電動機に流すようにベクトル制御を実行して、回生電力に基づく回生電流を電動機2の内部で熱として消費させる消費制御を行う制御部3と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に取り付けられた車輪に設けられ、前記車輪の回転運動に基づいて回生電力を発生する電動機と、前記電動機の磁束方向に対応したd軸電流を前記電動機に流すようにベクトル制御を実行して、前記回生電力に基づく回生電流を前記電動機の内部で熱として消費させる消費制御を行う制御部と、を備える、歩行補助車両。
【請求項2】
前記回生電力は、前記車体が動かされているときに発生する、請求項1に記載の歩行補助車両。
【請求項3】
前記制御部は、前記回生電力を蓄電するキャパシタと、前記キャパシタに蓄電された電力で起動して、前記ベクトル制御を実行する情報処理部と、を有する請求項1または2に記載の歩行補助車両。
【請求項4】
前記情報処理部は、前記キャパシタの電圧を所定の範囲内に保つように前記d軸電流の大きさを制御する、請求項3に記載の歩行補助車両。
【請求項5】
前記情報処理部は、前記キャパシタの電圧が第1電圧以下の場合に、前記回生電力を前記キャパシタに蓄電し、前記キャパシタの電圧が、前記第1電圧よりも高い第2電圧を超えた場合に、前記回生電流を前記電動機の内部で熱として消費させる、請求項4に記載の歩行補助車両。
【請求項6】
前記情報処理部は、前記電動機のトルクの大きさを制御するように前記d軸電流に直交するq軸電流の大きさを決定し、前記キャパシタの電圧を所定の範囲内に保つように前記d軸電流の大きさを決定する、請求項4に記載の歩行補助車両。
【請求項7】
前記情報処理部は、前記電動機の温度が所定の温度を超えた場合に、前記d軸電流に直交するq軸電流の大きさを制限する、請求項4に記載の歩行補助車両。
【請求項8】
前記車体に前記車輪が複数設けられ、前記複数の車輪それぞれに対応して前記電動機と前記制御部とのセットを複数備え、
前記複数の制御部は、互いに独立して前記回生電流を前記電動機の内部で熱として消費させる制御を行う、請求項1に記載の歩行補助車両。
【請求項9】
前記車体に前記車輪が複数設けられ、前記複数の車輪それぞれに対応して前記電動機と前記制御部とのセットが設けられ、
前記複数の制御部は、それぞれ前記回生電力を蓄電するキャパシタを有し、
前記複数のキャパシタの電圧差が小さくなるように、前記複数のキャパシタの間で蓄電電力を交換する電力交換部を備える、請求項1に記載の歩行補助車両。
【請求項10】
車体に取り付けられた車輪に設けられ、前記車輪の回転運動に基づいて回生電力を発生する電動機について、前記電動機の磁束方向に対応したd軸電流を前記電動機に流すようにベクトル制御を実行するステップと、
前記回生電力に基づく回生電流を前記電動機の内部で熱として消費させる消費制御を行うステップと、
を含む、歩行補助車両の制御方法。
【請求項11】
車体に取り付けられた車輪に設けられ、前記車輪の回転運動に基づいて回生電力を発生する電動機について、前記電動機の磁束方向に対応したd軸電流を前記電動機に流すようにベクトル制御を実行するステップと、
前記回生電力に基づく回生電流を前記電動機の内部で熱として消費させる消費制御を行うステップと、
をコンピュータに実行させる、歩行補助車両の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行補助車両、歩行補助車両の制御方法および歩行補助車両の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、高齢者など歩行に負担を抱える利用者のための手押し車型の歩行補助車両が記載されている。歩行補助車両は、歩行時に歩行者(ユーザ)と一体となって使用される。一部の歩行補助車両は、電動機のトルクブレーキを利用して車両とユーザが離れすぎないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-079005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の歩行補助車両は、左右の駆動輪を駆動するために、フレームに搭載された左右の電動機を備える。この電動機は、ブレーキ時に回生電力を発生する。回生電力は、電動機に電力供給する電源部の電圧を上昇させる。電源部の過度な電圧上昇を抑えるために回生電力を消費させる抵抗器を設けることが考えられる。しかし、回生電力消費用の抵抗は、大きな消費電力に耐えうるようにサイズが大型化する。このため、回生電力消費用の抵抗を搭載すると車両が大型化するという問題がある。
【0005】
本発明は、こうした課題に鑑みてなされたものであり、車両の大型化を抑制しつつ、電動機の回生電力を消費させることが可能な歩行補助車両を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の歩行補助車両は、車体に取り付けられた車輪に設けられ、車輪の回転運動に基づいて回生電力を発生する電動機と、電動機の磁束方向に対応したd軸電流を電動機に流すようにベクトル制御を実行して、回生電力に基づく回生電流を電動機の内部で熱として消費させる消費制御を行う制御部と、を備える。
【0007】
なお、以上の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記録した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車両の大型化を抑制しつつ、電動機の回生電力を消費させることが可能な歩行補助車両を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態の歩行補助車両を概略的に示す側面図である。
図2図1の歩行補助車両の背面図である。
図3図1の歩行補助車両のブロック図である。
図4図1の歩行補助車両の蓄電電圧制御のプロセスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の物体で構成されているものは、当該複数の物体を一体化してもよく、逆に一つの物体で構成されているものを複数の物体に分けることができる。一体化されているか否かにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【0011】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部または全部を集約して設けても良く、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部または全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【0012】
また、共通点のある別々の構成要素には、名称の冒頭に「第1、第2」等と付して区別し、総称するときはこれらを省略する。また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0013】
ある態様の歩行補助車両は、車体に取り付けられた車輪に設けられ、前記車輪の回転運動に基づいて回生電力を発生する電動機と、前記電動機の磁束方向に対応したd軸電流を前記電動機に流すようにベクトル制御を実行して、前記回生電力に基づく回生電流を前記電動機の内部で熱として消費させる消費制御を行う制御部と、を備える。
【0014】
この構成によれば、回生電力に基づく回生電流が電動機のトルクに殆ど寄与しないd軸電流としてコイルで熱として消費されるため、回生電力を消費するための抵抗器を備えていなくても回生電力を消費できる。この結果、車両の大型化を抑制できる。なお、回生電力の一部を消費するための抵抗器を備えてもよい。なお、本明細書において「熱として消費」は、電力をジュール熱に変換して放散することをいう。
【0015】
一例として、前記回生電力は、前記車体が動かされているときに発生する。この場合、車体が動かされているときに回生電力を電動機の内部で熱として消費させることができる。
【0016】
一例として、前記制御部は、前記回生電力を蓄電するキャパシタと、前記キャパシタに蓄電された電力で起動して、前記ベクトル制御を実行する情報処理部と、を有する。この場合、キャパシタに回生電力を蓄電できるため、任意のタイミングで回生電力を利用できる。
【0017】
一例として、前記情報処理部は、前記キャパシタの電圧を所定の範囲内に保つように前記d軸電流の大きさを制御する。この場合、キャパシタの電圧が過度に上昇することを抑制できる。
【0018】
一例として、前記情報処理部は、前記キャパシタの電圧が第1電圧以下の場合に、前記回生電力を前記キャパシタに蓄電し、前記キャパシタの電圧が、前記第1電圧よりも高い第2電圧を超えた場合に、前記回生電流を前記電動機の内部で熱として消費させる。この場合、キャパシタの電圧が高い場合に蓄電された回生電力を消費するので、キャパシタの電圧の過度な上昇を抑制できる。
【0019】
一例として、前記情報処理部は、前記電動機のトルクの大きさを制御するように前記d軸電流に直交するq軸電流の大きさを決定し、前記キャパシタの電圧を所定の範囲内に保つように前記d軸電流の大きさを決定する。この場合、所望の大きさのトルクを実現しつつ、キャパシタの電圧を所定の範囲内に保つことができる。
【0020】
一例として、前記情報処理部は、前記電動機の温度が所定の温度を超えた場合に、前記d軸電流に直交するq軸電流の大きさを制限する。この場合、q軸電流が制限されることにより電動機の温度上昇を抑制できる。
【0021】
一例として、前記車体に前記車輪が複数設けられ、前記複数の車輪それぞれに対応して前記電動機と前記制御部とのセットを複数備え、前記複数の制御部は、互いに独立して前記回生電流を前記電動機の内部で熱として消費させる制御を行う。この場合、それぞれの車輪の走行抵抗に応じてより適切な消費制御を実現できる。
【0022】
一例として、前記車体に前記車輪が複数設けられ、前記複数の車輪それぞれに対応して前記電動機と前記制御部とのセットが設けられ、前記複数の制御部は、それぞれ前記回生電力を蓄電するキャパシタを有し、前記複数のキャパシタの電圧差が小さくなるように、前記複数のキャパシタの間で蓄電電力を交換する電力交換部を備える。この場合、複数のキャパシタの電圧の過度な上昇を抑制できる。
【0023】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態及び変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0024】
[第1実施形態]
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態に係る歩行補助車両100を説明する。図1は、歩行補助車両100を概略的に示す側面図である。図2は、歩行補助車両100の背面図である。実施形態の歩行補助車両100は、高齢者の歩行を補助する歩行補助車両である。歩行補助車両100は、電力によりブレーキを制御するあらゆる歩行補助車両に適用可能であり、例えば、歩行補助車両の他に車椅子、シルバーカー、ベビーカー、荷を搬送するための台車にも適用できる。
【0025】
本明細書では、歩行補助車両100の通常の使用状態における前進方向を「前」といい、その逆方向を「後」という。また、歩行補助車両100の幅方向において、歩行補助車両100を後ろから視て右側を「右」といい、その逆側を「左」という。また、歩行補助車両100の上下方向で上方を「上」といい、下方を「下」という。このような方向の表記は、歩行補助車両100の使用姿勢を制限するものではなく、歩行補助車両100は任意の姿勢で使用され得る。
【0026】
先に歩行補助車両100の全体構成を説明する。図1及び図2に示すように、歩行補助車両100は、車体12と、車体12に設けられた一対の前輪13および一対の後輪14とを備える。前輪13と後輪14を総称するときは単に車輪という。歩行補助車両100は、老人や脚力の弱い人の歩行を補助する。ユーザは、歩行補助車両100のハンドル115のグリップ116とブレーキレバー117とをつかみながら歩行動作を行う。歩行補助車両100は、使用時にユーザが前腕や肘を載せるための支持パッド(不図示)を備えてもよい。
【0027】
車体12は、複数のフレームによって、ユーザが歩行時に体重をかけることが可能に構成される。車体12は、グリップ116などユーザが掴む部分と、前輪13および後輪14を支持する部分とを備えるものであれば構成に限定はない。実施形態の車体12は、一対の上下フレーム121と、一対の前後フレーム122と、下段フレーム124と、上段フレーム125とを含む。
【0028】
一対の上下フレーム121は、歩行補助車両100の設置面に垂直な方向から所定の角度だけ傾斜するパイプ状部材で、ユーザを挟むように左右に離間して配置される。各上下フレーム121の上端には、後方に延びるハンドル115が溶接等により連結される。ハンドル115は、上下フレーム121と一体に形成されてもよい。ハンドル115の後方側には、ユーザが掴むためのグリップ116が設けられる。
【0029】
ハンドル115には、機械的ブレーキ90を作動させるためのブレーキレバー117が設けられる。ブレーキレバー117は、ユーザがグリップ116を掴んだ手で操作可能な位置に配置される。機械的ブレーキ90は、ブレーキレバー117がグリップ116に接近した状態で作動する。
【0030】
一対の前後フレーム122は、前後方向に延在するパイプ状部材で、ユーザを挟むように左右に離間配置される。各前後フレーム122は、各上下フレーム121の下端に溶接等により連結される。前輪13は、前後フレーム122の前端側に取り付けられ、後輪14は、前後フレーム122の後端側に取り付けられる。下段フレーム124は、左右の前後フレーム122の間に架けわたされるパイプ状部材である。下段フレーム124の左右端は、それぞれ左右の前後フレーム122に溶接等により連結される。
【0031】
上段フレーム125は、下段フレーム124よりも上側の位置で、左右の上下フレーム121の間に架けわたされるパイプ状部材である。上段フレーム125の左右端は、それぞれ左右の上下フレーム121に溶接等により連結される。
【0032】
歩行補助車両100は、シート部113と、背ベルト114と、収容部112をさらに備える。歩行補助車両100は、一対の上下フレーム121の間の空間において、シート部113の上側にユーザの上半身を収容できる。シート部113は、ユーザが着座可能な平面視で略矩形の板状の部材であり、その上面はクッション性を有する。シート部113は、上段フレーム125に支持されるとともに、一対の上下フレーム121に連結される。
【0033】
背ベルト114は、シート部113に着座したユーザの背中を支持する。背ベルト114の左右端は、それぞれ左右の上下フレーム121に取り付けられる。収容部112は、上方が開口した袋状で、樹脂、布等の可撓性を有する素材で荷を収容可能に形成できる。収容部112は、一対の上下フレーム121の間の空間において、例えば、シート部113に吊り下げられる。シート部113は、収容部112の蓋部としても機能する。
【0034】
一対の後輪14の近傍には、機械的に接触可能な一対の機械的ブレーキ90が設けられる。機械的ブレーキ90は、ブレーキワイヤー118を介してブレーキレバー117に接続される。機械的ブレーキ90は、作動時に後輪14に接触するブレーキシュー(不図示)を有する。機械的ブレーキ90は、ブレーキレバー117が操作された状態でブレーキシューが後輪14に接触して制動力を発生させる。つまり、機械的ブレーキ90は、ユーザの意図的操作に基づいて、車輪(この例では、後輪14)の回転速度を抑制し、歩行補助車両100の加速を抑制したり、走行速度を低下させたりする機能を有する。
【0035】
図3を参照して、歩行補助車両100のシステム構成を説明する。図3は、歩行補助車両100のブロック図である。図3に示す各機能ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのプロセッサ、CPU、メモリをはじめとする素子や電子回路、機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0036】
図3に示すように、歩行補助車両100は、ブレーキユニット1A、1B(総称するときは、ブレーキユニット1という)と、制御部3とを備える。制御部3は、歩行補助車両100の状態に応じてブレーキユニット1A、1Bにブレーキ制御信号BK1、BK2(総称するときは、ブレーキ制御信号BKという)を送信する。制御部3については後述する。ブレーキユニット1は、ユーザが歩行時に体重をかける車体12に取り付けられた車輪と一体的に回転する。
【0037】
ブレーキユニット1A、1Bは、左後輪14に設けられる第1ブレーキユニット1Aと、右後輪14に設けられる第2ブレーキユニット1Bを含む。第1ブレーキユニット1Aおよび第2ブレーキユニット1Bは、互いに同じ構成を有しており、ブレーキユニット1の説明は、特に断らない限り、第1ブレーキユニット1Aおよび第2ブレーキユニット1Bに適用できる。
【0038】
ブレーキユニット1は、電気的な制御により車輪の回転で生じる運動エネルギーを回収することにより、歩行補助車両100の加速を抑制したり、走行速度を低下させたりする機能を有する。特に、この例のブレーキユニット1は、ユーザの意図的操作によらず車輪の回転速度を低下させることができる。
【0039】
ブレーキユニット1は、車軸を介して車輪に接続されてもよいが、この例のブレーキユニット1は、後輪14のホイールの内側に配置されたいわゆるホイールイン構造を有する。つまり、ブレーキユニット1は、車体12から左右に延びる車軸128に対して、後輪14と一体的に回転できる。
【0040】
図3に示すように、ブレーキユニット1は、電動機2と、制御部3と、電動機情報検知部5とを含む。これらは、後輪14に取り付けられた円形の筐体内に収容され、後輪14と一体的に設けられる。電動機2は、駆動電流に応じてブレーキトルクを発生する。ブレーキ力は、電動機2のブレーキトルクにより、歩行補助車両100に作用する力である。電動機2は、駆動電流に応じてブレーキトルクを発生可能なものであれば構成に限定はない。この例の電動機2は、供給された駆動電流に応じて回転磁界を発生させる3相のコイル22と、この回転磁界との相互作用によりトルクを発生させるロータ21とを有する。
【0041】
3相のコイル22は、車軸に固定されたステータコア(不図示)に装着される非回転要素である。コイル22は、スター結線されたコイル22U、22V、22Wを含む。コイル22U、22V、22Wは、等価抵抗Rを有する。ロータ21は、後輪14と一体的に回転する回転要素である。したがって、電動機2が車輪14と一体的に回転することは、電動機2のロータ21が車輪14と一体的に回転することを意味する。この例では、ロータ21は、内側に永久磁石(不図示)が埋め込まれた埋込磁石型構造を有するアウターロータタイプである。
【0042】
電動機情報検知部5は、電動機2に関する情報を情報処理部32に提供する。この例の電動機情報検知部5は、蓄電電圧センサ51と、コイル電圧センサ52と、コイル電流センサ53と、ロータ位置センサ54と、回転速度センサ55とを含む。蓄電電圧センサ51は、後述するキャパシタ30の蓄電電圧(以下、単に「電圧Vc」ということがある)を検知し、その検知結果を情報処理部32に送信する。コイル電圧センサ52は、コイル22U、22V、22Wそれぞれのコイル電圧を検知し、その検知結果を情報処理部32に送信する。
【0043】
コイル電流センサ53は、コイル22U、22V、22Wそれぞれに流れるコイル電流を検知し、その検知結果を情報処理部32に送信する。ロータ位置センサ54は、ロータ21の回転位置に関するロータ位置情報を検知し、その検知結果を情報処理部32に送信する。ロータ位置センサ54は、ホール素子等の磁極位置センサであってもよい。回転速度センサ55は、ロータ21の回転速度に関するロータ回転速度情報を検知し、その検知結果を情報処理部32に送信する。ロータ位置センサ54または回転速度センサ55は、ロータ21の回転に応じたパルスを出力するロータリーエンコーダを含んで構成できる。
【0044】
制御部3は、電動機2のコイル22に流れる駆動電流を、互いに直交するq軸電流とd軸電流とによりベクトル制御する。この駆動電流は、電動機2の回生電力に基づく回生電流であってもよい。この例の制御部3は、キャパシタ30と、インバータ31と、情報処理部32とを有する。キャパシタ30は、電動機2の回転に伴い、電動機2のコイル22で発生する回生電力を蓄電する。キャパシタ30は、電力を蓄電および放電可能なものであれば構成に限定はない。この例のキャパシタ30は、例えば、電解コンデンサである。キャパシタ30の正極側は母線L1に接続され、負極側は母線L2に接続されており、キャパシタ30は、母線L1、L2の間に電力を供給できる。
【0045】
インバータ31は、キャパシタ30に蓄電された電力を、ベクトル制御部37によって制御された三相の交流電力に変換して電動機2のコイル22に供給する。インバータ31は、PWM制御されるトランジスタQ1~Q6と、トランジスタQ1~Q6の各ドレイン-ソース間に接続されるダイオードD1~D6を含む。ダイオードD1~D6の各カソードは、トランジスタQ1~Q6の各ドレインに接続され、ダイオードD1~D6の各アノードは、トランジスタQ1~Q6の各ソースに接続される。ダイオードD1~D6は、トランジスタQ1~Q6の寄生ダイオードであってもよいし、これらのトランジスタから独立した素子として接続されてもよい。
【0046】
上側トランジスタQ1、Q3、Q5の各ドレインは、母線L1に接続され、下側トランジスタQ2、Q4、Q6の各ソースは母線L2に接続される。上側トランジスタQ1、Q3、Q5の各ソースと、下側トランジスタQ2、Q4、Q6の各ドレインの各接続点はコイル22U、22V、22Wに接続される。トランジスタQ1~Q6の各ゲートには、インバータ制御部33からPWM制御信号が入力される。
【0047】
情報処理部32は、インバータ制御部33と、ベクトル制御部37と、温度推定部36と、記憶部38と、入力部39とを含む。記憶部38には、制御部3の制御プログラムが格納される。入力部39は、蓄電電圧センサ51、コイル電圧センサ52、コイル電流センサ53、ロータ位置センサ54および回転速度センサ55の検知結果を受信する。インバータ制御部33は、トランジスタQ1~Q6の各ゲートにPWM制御信号を出力し、PWM制御信号のデューティ比を制御してインバータ31から三相の交流電力を出力させる。
【0048】
温度推定部36は、電動機2の温度を推定する。一例として、温度推定部36は、d軸電流の累積と電動機2の放熱能力および蓄熱能力とから電動機2の温度を推定する。例えば、d軸電流によりコイル22に生じるジュール熱(J)を単位時間当たりに変換した結果(W)を電動機2の熱抵抗(℃/W)で除算することにより、温度上昇の大きさを推定できる。
【0049】
ベクトル制御部37は、インバータ31から出力される駆動電流のd軸電流成分およびq軸電流成分を制御するためにd軸電流制御部35とq軸電流制御部34とを有する。d軸電流は、コイル22に流れる電流成分のうち、電動機2のロータ21が有する永久磁石の磁束の方向と同方向の磁束を生み出す電流成分である。d軸電流は、主に、コイル22の磁束を生成することに寄与し、ロータ21のトルク発生に殆ど寄与しない電流成分である。つまり、d軸電流は、電動機2の永久磁石の磁束方向に対応した電流である。q軸電流は、コイル22に流れる電流成分のうち、電動機2のロータ21の永久磁石の磁束の方向に電気角で直交する方向の磁束を生み出す電流成分である。q軸電流は、主に、ロータ21のトルク発生に寄与する電流成分である。つまり、q軸電流は、d軸電流に直交する電流である。
【0050】
d軸電流制御部35およびq軸電流制御部34は、コイル電圧センサ52で検知されたコイル電圧と、コイル電流センサ53で検知されたコイル電流と、ロータ位置センサ54で検知されたロータ位置情報と、回転速度センサ55で検知されたロータ回転速度情報とに基づいて、インバータ31から出力される駆動電流のd軸電流成分およびq軸電流成分を制御する。また、d軸電流制御部35およびq軸電流制御部34は、ブレーキ制御部68から送信されたブレーキ制御信号BKに応じたブレーキトルクを電動機2が発生するように、インバータ制御部33を制御する。
【0051】
車両制御部6を説明する。車両制御部6は、歩行補助車両100の状態に応じて電動機2にブレーキトルクを発生させるためのブレーキ制御信号BK1、BK2を第1ブレーキユニット1A、第2ブレーキユニット1Bに提供する。ブレーキ制御信号BK1、BK2は、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0052】
車両制御部6は、車両状態検知部60と、状態判定部67と、ブレーキ制御部68とを含む。車両状態検知部60は、車両加速度センサ61と、車両速度センサ62と、車両角度センサ63とを含む。車両加速度センサ61は、ピッチ軸、ロール軸、及びヨー軸周りの歩行補助車両100の加速度を検出する。車両速度センサ62は、歩行補助車両100の速度を検知する。車両角度センサ63は、歩行補助車両100のピッチ角度、ロール角度及びヨー角度を検知する。
【0053】
車両状態検知部60は、車両加速度センサ61、車両速度センサ62および車両角度センサ63の検知結果を状態判定部67に提供する。状態判定部67は、車両状態検知部60の検知結果に基づいて歩行補助車両100の走行状態を判定する。ブレーキ制御部68は、状態判定部67の判定結果に基づいて予め設定されたブレーキ力を発生させるためのブレーキ制御信号BKをブレーキユニット1に送信する。
【0054】
状態判定部67は、車両速度センサ62の検知結果を所定の閾値を基準に、歩行補助車両100の走行速度状態を判定できる。例えば、状態判定部67は、1または複数(例えば2つ)の閾値を基準に、速度状態を複数に区分できる。ブレーキ制御部68は、状態判定部67で判定した各速度状態に対応して予め設定されたブレーキ力を発生させるためのブレーキ制御信号BKをブレーキユニット1に送信できる。
【0055】
一例として、状態判定部67は、閾値を基準に、走行速度が閾値以下の場合を低速状態とし、走行速度が閾値を超える場合を高速状態と判定できる。ブレーキ制御部68は、状態判定部67の判定結果が高速状態の場合、高速状態に対応して予め設定された第1ブレーキ力を発生させるためのブレーキ制御信号BKをブレーキユニット1に送信する。ブレーキ制御部68は、状態判定部67の判定結果が低速状態の場合、低速状態に対応して予め設定された第2ブレーキ力を発生させるためのブレーキ制御信号BKをブレーキユニット1に送信する。第2ブレーキ力は、第1ブレーキ力よりも小さく、ブレーキ力=0を含む。
【0056】
路面状態が左右で異なることにより、歩行補助車両100の走行抵抗が左右で異なる場合がある。左右の一方側が他方側よりも走行抵抗が大きい状態では、歩行補助車両100は、ユーザの意図によらず一方側にカーブして進行する。この事象は、歩行補助車両100が、左右方向に傾斜している片傾斜の道を走行する場合にも生じ得る。
【0057】
そこで、実施形態の状態判定部67は、車両加速度センサ61、車両速度センサ62および車両角度センサ63の検知結果に基づいて、走行抵抗の左右差の状態を判定できる。例えば、状態判定部67は、閾値を基準に、走行抵抗の左右差が閾値以下の場合をバランス状態とし、走行抵抗の左右差が閾値を超える場合を非バランス状態と判定できる。
【0058】
状態判定部67でバランス状態と判定された場合、ブレーキ制御部68は、第1ブレーキユニット1Aと、第2ブレーキユニット1Bのブレーキ力が互いに同じになるように設定されたブレーキ制御信号BK1、BK2を送信する。この場合のそれぞれのブレーキ力はブレーキ力=0も含む。
【0059】
状態判定部67で非バランス状態と判定された場合、ブレーキ制御部68は、走行抵抗が大きい側のブレーキユニット1のブレーキ力が、走行抵抗が小さい側のブレーキユニット1のブレーキ力よりも小さくなるように設定されたブレーキ制御信号BK1、BK2を送信する。この場合、走行抵抗が大きい側のブレーキ力はブレーキ力=0も含む。
【0060】
[電圧差制御]
第1ブレーキユニット1Aのキャパシタ30(以下、「第1キャパシタ30A」ということがある)の蓄電電圧(以下、「第1蓄電電圧Vp」ということがある)と、第2ブレーキユニット1Bのキャパシタ30(以下、「第2キャパシタ30B」ということがある)の蓄電電圧(以下、「第2蓄電電圧Vs」ということがある)との電圧差が過大になる場合がある。第1蓄電電圧Vpと第2蓄電電圧Vsの一方が小さすぎると、蓄電電圧が小さい方のブレーキユニット1は所望のブレーキ力を発生できず、左右のブレーキ力の不整合が生じ、歩行補助車両100の直進性が低下する。また、蓄電電圧が大きすぎる場合、キャパシタ30の劣化や故障の原因となり得る。
【0061】
そこで、実施形態の車両制御部6は、第1蓄電電圧Vpと第2蓄電電圧Vsの電圧差を小さくするために電圧差制御を実行する。特に、車両制御部6は、第1蓄電電圧Vpおよび第2蓄電電圧Vsを検知する電圧センサ64と、第1キャパシタ30Aと第2キャパシタ30Bとの間で電力を交換する電力交換部66とを備える。ここで電力を交換することとは、一方から他方に電力を送ることを意味する。状態判定部67は、電圧センサ64の検知結果に基づいて、第1蓄電電圧Vpと第2蓄電電圧Vsの電圧差の状態を判定できる。例えば、状態判定部67は、閾値を基準に、第1蓄電電圧Vpと第2蓄電電圧Vsの電圧差が閾値以下の場合を低電圧差状態とし、第1蓄電電圧Vpと第2蓄電電圧Vsの電圧差が閾値を超える場合を高電圧差状態と判定できる。
【0062】
電力交換部66は、状態判定部67で高電圧差状態と判定された場合、第1キャパシタ30Aと第2キャパシタ30Bのうち蓄電電圧が高い方のキャパシタから蓄電電圧が低い方のキャパシタに送電できる。電力交換部66は、当該送電を開始した後、電圧差が閾値以下になったら送電を停止してもよい。一例として、電力交換部66は、半導体スイッチを組み合わせて構成できる。つまり、電力交換部66は、第1キャパシタ30Aと第2キャパシタ30Bの一方のキャパシタの電圧が、他方のキャパシタの電圧よりも閾値を超えて大きい場合に、一方のキャパシタの蓄電電力を他方のキャパシタに送ることができる。
【0063】
歩行補助車両100が走行すると、後輪14の回転に応じて電動機2のロータ21が回転し、コイル22に3相の逆起電力が発生する。コイル22に生じた逆起電力に基づく回生電力は、トランジスタQ1~Q6がオフのとき、ダイオードD1~D6により全波整流され、母線L1、L2の間に出力される。制御部3は、回生電力を蓄電するキャパシタ30を備える。母線L1、L2に出力された回生電力は、母線L1、L2に接続されたキャパシタ30に蓄電される。キャパシタ30の電圧Vcは、キャパシタ30に蓄電される電荷量の増加に連れて大きくなる。
【0064】
キャパシタ30の蓄電電力は、母線L1、L2を介してインバータ31、ブレーキユニット1および車両制御部6に供給され、これらを動作させるための電力となる。ブレーキユニット1および車両制御部6が動作することによって、電動機2は、ブレーキ制御信号BKに応じたブレーキトルクを発生する。一例として、電動機2のブレーキトルクは、ブレーキ制御信号BKの上昇に応じて大きくなり、ブレーキ制御信号BKの低下に応じて小さくなる。電動機2のブレーキトルクにより、歩行補助車両100にブレーキ力を発生させて走行速度を抑制するように作用する。これらが動作するとき、キャパシタ30から電荷が放電され、この放電に連れて電圧Vcは小さくなる。
【0065】
[消費制御]
キャパシタ30の電圧Vcが大きすぎる場合、キャパシタ30の劣化や故障の原因となり得る。このため、電圧Vcの過度な電圧上昇を抑えるために回生電力を消費させる抵抗器を設けることが考えられる。しかし、回生電力の全てを抵抗器に消費させようとする場合、この抵抗器は、大きな消費電力に耐えうるようにサイズが大型化するという問題がある。そこで、実施形態は、電動機2の磁束方向に対応したd軸電流を電動機に流すようにベクトル制御を実行して、回生電力に基づく回生電流を電動機2の内部で熱として消費させる消費制御を行う制御部3と、を備える。具体的には、コイル22に流れる駆動電流を、互いに直交するq軸電流とd軸電流とによりベクトル制御する制御部3と、を備え、制御部3は、コイル22で発生した回生電力を、d軸電流としてコイル22に供給し、コイル22の等価抵抗Rによってジュール熱として熱として消費させる消費制御を行う。この場合、回生電力を消費させる抵抗器を備えない場合でも、電圧Vcの過度な上昇を抑制できる。
【0066】
一例として、消費制御は、q軸電流とd軸電流の合成電流の位相を最大効率位相から乖離させ、低効率運転させるようにベクトル制御するものであってもよい。
【0067】
実施形態では、第1ブレーキユニット1Aと第2ブレーキユニット1Bとは、互いに独立して消費制御を実行する。これらのブレーキユニットは、互いに連携して制御されてもよい。複数のブレーキユニットが、互いに連携して制御する例としては、ブレーキ制御の開始・停止のタイミングを同時にすること、消費制御の開始・停止のタイミングを同時にすることなどが挙げられる。
【0068】
[蓄電電圧制御]
制御部3は、電圧Vcの過度な電圧上昇を抑えるために、キャパシタ30の電圧Vcを所定の範囲内に保つように制御する(以下、「蓄電電圧制御」という)。一例として、制御部3は、キャパシタ30の電圧Vcを所定の範囲内に保つようにd軸電流を決定してもよい。例えば、制御部3は、蓄電電圧センサ51の検知結果に基づいて、下限値(例えば、第1電圧V1)から上限値(例えば、第2電圧V2)の範囲内に保つように電圧Vcを制御してもよい。例えば、第1電圧V1は、インバータ31、ブレーキユニット1および車両制御部6が動作可能な電圧に設定できる。例えば、第2電圧V2は、キャパシタ30の定格電圧(耐電圧)に対応して、定格電圧よりも低い電圧に設定できる。
【0069】
制御部3の蓄電電圧制御の一例としてプロセスS110を説明する。図4は、制御部3の蓄電電圧制御のプロセスS110を示すフローチャートである。この例では、プロセスS110は、電圧Vcが無い場合に(電圧Vc=0)、ユーザの歩行により歩行補助車両100が走行を開始した状態で開始される。
【0070】
プロセスS110が開始されると、制御部3は、電圧Vcが第1電圧V1を超えたか否かを判定する(ステップS111)。このステップで、制御部3は、蓄電電圧センサ51の検知結果に基づいて電圧Vcを判定できる。
【0071】
電圧Vcが第1電圧V1以下である場合(ステップS111のN)、キャパシタ30に回生電力を蓄電する(ステップS112)。このステップで、コイル22で発生した回生電力がダイオードD1~D6を介してキャパシタ30に供給され、電圧Vcは、キャパシタ30に蓄電される電荷量の増加に連れて徐々に大きくなる。
【0072】
電圧Vcが第1電圧V1を超えた場合(ステップS111のY)、制御部3は、ブレーキ制御を開始する(ステップS113)。ブレーキ制御は、電動機2がブレーキ制御信号BKに応じたブレーキトルクを発生するように、制御部3によってインバータ31を制御する動作である。一例として、ブレーキ制御において、制御部3は、電動機2のトルクを所望の大きさに制御するようにq軸電流を決定してもよい。
【0073】
ステップS113を実行したら、制御部3は、電圧Vcが第1電圧V1よりも高い第2電圧V2を超えたか否かを判定する(ステップS114)。
【0074】
電圧Vcが第2電圧V2以下である場合(ステップS114のN)、制御部3は、キャパシタ30に回生電力を蓄電する(ステップS115)。ブレーキ制御によってキャパシタ30は放電されるが、継続して回生電力が供給されるため、トータルでは電圧Vcは徐々に増加する。
【0075】
電圧Vcが第2電圧V2を超えた場合(ステップS114のY)、制御部3は、消費制御を実行する(ステップS116)。このステップで、制御部3は、キャパシタ30に蓄電された回生電力に基づいて、インバータ31からトルクに寄与しないd軸電流としてコイル22に供給し、コイル22で熱として消費させる。消費制御によって電圧Vcは、徐々に低下する。
【0076】
ステップS116を実行したら、制御部3は、電圧Vcが第2電圧V2以下か否かを判定する(ステップS117)。電圧Vcが第2電圧V2を超えている場合(ステップS117のN)、制御部3は、フローをステップS116に戻す。
【0077】
電圧Vcが第2電圧V2以下になった場合(ステップS117のY)、制御部3は、消費制御を停止する(ステップS118)。このとき、制御部3は、ブレーキ制御を継続する。
【0078】
ステップS118を実行したら、制御部3は、電圧Vcが第1電圧V1以下か否かを判定する(ステップS119)。電圧Vcが第1電圧V1を超えている場合(ステップS119のN)、制御部3は、フローをステップS114に戻す。
【0079】
電圧Vcが第1電圧V1以下になった場合(ステップS119のY)、制御部3は、ブレーキ制御を停止し(ステップS120)、フローをステップS111に戻す。
【0080】
以上が、プロセスS110の説明である。これらの各ステップは例示であり、各種の変形が可能である。歩行補助車両100が走行を停止した場合でも、制御部3は、電圧Vcが所定電圧以下に低下するまで、消費制御を継続してもよい。この場合の所定電圧は、第2電圧V2であってもよいし、第2電圧V2よりも低い電圧であってもよい。
【0081】
ブレーキ制御において、制御部3は、電動機2のトルクを所望の大きさに制御するようにq軸電流を決定してもよい。
【0082】
[温度制御]
消費制御により、コイル22に大きなd軸電流が流れ続けると、電動機2の温度が過度に高くなることがある。そこで、制御部3は、電動機2の温度を所定温度以下に保つための温度制御を実行する。一例として、温度制御において、制御部3は、電動機2の温度が所定の温度を超えた場合にq軸電流を制限してもよい。電動機2の温度として、温度推定部36で推定した電動機2の温度を使用できる。制御部3は、電動機2の温度が所定の温度以下に低下した場合にq軸電流の制限を解除してもよい。
【0083】
以上が第1実施形態の説明である。
【0084】
以下、本発明の第2、第3実施形態を説明する。第2、第3実施形態の図面及び説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0085】
本発明の第2実施形態は、歩行補助車両100の制御方法である。この方法は、車体12に取り付けられた車輪14に設けられ、車輪14の回転運動に基づいて回生電力を発生する電動機2について、電動機2の磁束方向に対応したd軸電流を電動機2に流すようにベクトル制御を実行するステップと、回生電力に基づく回生電流を電動機2の内部で熱として消費させる消費制御を行うステップと、を含む。
【0086】
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0087】
本発明の第3実施形態は、歩行補助車両の制御プログラムである。この制御プログラムは、車体12に取り付けられた車輪14に設けられ、車輪14の回転運動に基づいて回生電力を発生する電動機2について、電動機2の磁束方向に対応したd軸電流を電動機2に流すようにベクトル制御を実行するステップと、回生電力に基づく回生電流を電動機2の内部で熱として消費させる消費制御を行うステップと、をコンピュータに実行させる。
【0088】
第3実施形態の制御プログラムのこれらの機能は、歩行補助車両100の機能ブロックに対応する複数のモジュールが実装されたアプリケーションプログラムとして、制御部3のストレージ(例えば記憶部38)にインストールされてもよい。第3実施形態の制御プログラムは、歩行補助車両100に組み込まれたコンピュータのプロセッサ(例えばCPU)のメインメモリに読み出しされて実行されてもよい。
【0089】
第3実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0090】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。上述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除などの多くの設計変更が可能である。上述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容にも設計変更が許容され得る。
【0091】
[変形例]
以下、変形例を説明する。変形例の図面及び説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0092】
実施形態の説明では、ロータ位置センサ54が磁極位置センサである例を示したが、これに限定されない。例えば、モータ磁石の位置により、コイルのインダクタンス値が変化することを利用したセンサレス制御を適用してもよい。
【0093】
実施形態の説明では、蓄電電圧センサ51と電圧センサ64とが別々に設けられる例を示したが、これに限定されない。例えば、電圧センサ64を設けずに、状態判定部67は、蓄電電圧センサ51の検知結果に基づいて、第1蓄電電圧Vpと第2蓄電電圧Vsの電圧差の状態を判定するように構成できる。
【0094】
実施形態の説明では、ブレーキユニット1が後輪14に設けられる例を示したが、これに限定されない。例えば、ブレーキユニット1は、前輪13に設けられてもよく、前輪13及び後輪14の両方に設けられてもよい。
【0095】
実施形態の説明では、ブレーキユニット1が専らブレーキトルクを発生する例を示したが、これに限定されない。ブレーキユニット1は、主にブレーキトルクを発生し、所定の場合に歩行補助車両100を前向きに加速するための加速トルクを発生可能な構成であってもよい。
【0096】
実施形態の説明では、キャパシタ30が、単一のコンデンサで構成される例を示したが、これに限定されない。例えば、キャパシタ30は、複数の蓄電要素を含んで構成されてもよい。
【0097】
実施形態の説明では、電動機2の温度を間接的に推定する例を示したが、これに限定されない。例えば、温度推定部36は、被測定部に設けた温度センサの検知結果に基づいて電動機2の温度を推定してもよい。また例えば、温度推定部36は、コイル22の抵抗値に基づいて、この抵抗値の温度特性を用いて電動機2の温度を推定してもよい。
【0098】
実施形態の説明では、歩行補助車両100で消費される電力が、専らキャパシタ30から供給される例を示したが、これに限定されない。例えば、歩行補助車両100で消費される電力の一部は、バッテリー等から供給されてもよい。
【0099】
実施形態の説明では、電動機2が埋込磁石型構造を有するアウターロータタイプである例を示したが、これに限定されない。例えば、電動機2は、表面磁石型構造を有してもよいし、インナーロータタイプであってもよい。
【0100】
上述の変形例は、各実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0101】
上述した各実施形態及び変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態及び変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0102】
2 電動機、 3 制御部、 12 車体、 14 後輪、 21 ロータ、 22,30 キャパシタ、 31 インバータ、 66 電力交換部、 100 歩行補助車両。
図1
図2
図3
図4