(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180533
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】車両の減速制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 7/18 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
B60L7/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093910
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】荒井 正太郎
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CB02
5H125DD11
5H125EE42
5H125EE53
(57)【要約】
【課題】車両の惰行時の減速度を自動的に設定する制御から手動操作に基づいて減速度を設定する制御に切り替える際の減速度が違和感とならないように制御する。
【解決手段】車両の走行状態に基づいて惰行時の減速度を自動的に設定する第3減速モードによって所定の減速度が設定されていることを判定する現行モード判定部(ステップS3)と、第3減速モードによって所定の減速度が設定されていることが判定されている状態で運転者の手動操作に基づく減速度切替信号が生じたことを検出する手動減速検出部(ステップS5)と、第3減速モードによって所定の減速度が設定されていることが判定されている状態で運転者の手動操作に基づく信号が生じたことが検出された場合に、運転者の手動操作に基づく信号に応じた減速度を所定の減速度に加減した減速度を設定する減速度遷移指示部(ステップS6,S7)とを備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速要求量がゼロの惰行時の減速度を予め定めた減速度に設定する第1減速モードと、運転者の手動操作に基づく信号によって減速度を増減する第2減速モードと、走行状態を検出するセンサによる検出信号に基づいて、前記第1減速モードによる減速度より大きい所定の減速度を設定する第3減速モードとが可能な車両の減速制御装置であって、
前記第3減速モードによって前記所定の減速度が設定されていることを判定する現行モード判定部と、
前記第3減速モードによって前記所定の減速度が設定されていることが判定されている状態で前記運転者の手動操作に基づく前記信号が生じたことを検出する手動減速検出部と、
前記第3減速モードによって前記所定の減速度が設定されていることが判定されている状態で前記運転者の手動操作に基づく前記信号が生じたことが検出された場合に、前記運転者の手動操作に基づく前記信号に応じた減速度を前記所定の減速度に加減した減速度を設定する減速度遷移指示部と
を備えていることを特徴とする車両の減速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の減速制御装置であって、
前記運転者による手動操作に基づく前記信号が生じた場合に、前記第1減速モードで設定される前記予め定めた減速度から遷移させる複数の第2減速モード用減速度が予め決められており、
前記減速度遷移指示部は、前記第3減速モードによって前記所定の減速度が設定されていることが判定されている状態で前記運転者の手動操作に基づく前記信号が生じたことが検出された場合に、前記第2減速モード用減速度のうち、前記運転者の手動操作に基づく前記信号に応じた減速度の増減方向において、前記所定の減速度に最も近い減速度に遷移することを指示する
ことを特徴とする車両の減速制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両の減速制御装置であって、
前記車両は、駆動力源としてエネルギ回生することにより前記車両を減速させる負のトルクを出力する電動機を備え、
前記第1減速モードないし前記第3減速モードでの減速度を生じさせるように前記電動機を制御するトルク制御部を更に有する
ことを特徴とする車両の減速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両が走行している際の減速度を制御する装置に関し、特にアクセル開度などで代表される要求駆動力がゼロになって車両が惰行する際の減速度を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の加減速は、アクセルペダルで代表される加減速操作部の操作によって行うのが通常である。すなわち、例えばアクセルペダルを踏み込んだ場合には、駆動力源の出力を増大させ、あるいはこれと併せて変速比を大きくすることにより駆動トルクを増大させ、反対にアクセルペダルが踏み戻された場合には、駆動力源の出力を低下させ、あるいは負のトルクとなるように制御し、さらにはこれと併せて変速比を大きくすることにより、駆動輪のトルクを負のトルクすなわち制動力となるようにしている。このようにして制御される駆動力(加速度)や制動力(減速度)は、車両のドライバビリティに大きく影響し、加減速操作量に対する加速度や減速度が小さければ、車両の挙動が緩慢になってしまい、また反対に加減速操作量に対する加速度や減速度が大きければ、車両の挙動が機敏になるが、それらの挙動が運転者が意図したものと乖離していれば、運転しにくい車両になってしまう。
【0003】
アクセルペダルを踏み戻してアクセル開度がゼロになった場合の制動状態あるいは制動力は、エンジンブレーキ(動力源ブレーキ)あるいはエンジンブレーキ力(動力源ブレーキ力と称され、エンジンを駆動力源とした車両では、燃料の供給を停止したエンジンを強制的に回転させる際の抵抗力によってエンジンブレーキ力を発生させている。また、変速機を備えた車両では、変速比を大きくすることによりエンジンブレーキ状態での制動力もしくは減速度を大きくしている。さらに、駆動力源として発電機能のある電動機を備えている車両においては、その電動機によるエネルギ回生に伴う負のトルクによって動力源制動力を発生させている。その場合、エネルギ回生量を制御することにより、制動力(減速度)を制御できる。
【0004】
アクセルペダルを踏み戻してアクセル開度をゼロにしたいわゆる惰行状態でのエンジンブレーキ力などによる減速度は、基本的にはパワートレーンの構成によって決まるが、変速比やエネルギ回生量などによって大小に変化させることもできるので、運転者が走行モードを選択することによって、その走行モードに応じた減速度となるように制御するシステムを搭載することもある。例えば、ノーマルモードとパワーモードを選択できる場合には、パワーモードでの減速度がノーマルモードでの減速度より大きくなるように制御する。また、下り坂を惰行する場合には、重力加速度による車速の増大を抑制するように、平坦路での減速度よりも大きい減速度に制御する。さらに、DMD(Driver’s Mind D-Shift)制御(DMDモード)が可能な車両では、学習された運転者の加速履歴や減速履歴に基づいてアクセル開度に応じた加速度あるいは減速度を生じるように制御している。
【0005】
上述した減速度の制御は、多くの場合、システムとして設計上予め定めた減速度を達成するように構成されているのに対して、特許文献1に記載された制御装置は、走行路の勾配に基づいてフリーラン制御開始時の目標車両減速度を決定している。ここで、フリーランとは、アクセルペダルが戻された惰性走行中に、エンジンと駆動輪との駆動力の伝達を遮断しかつエンジンを停止する走行状態である。特許文献1に記載された制御装置では、フリーラン制御時の制動力(減速度)は、発電機能のある電動機によって発生させている。そして、実際に生じることが推定される減速度が目標車両減速度とは大きく異なる場合には、フリーラン制御を禁止して違和感が生じないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エンジンや電動機などの駆動力源は、車両が走行するための駆動力を発生するが、車両が走行している状態でその駆動力の出力を止めれば、駆動力源は車両の慣性力によって強制的に回転させられることにより、制動力(駆動力源ブレーキ力もしくはエンジンブレーキ力)を発生することになる。その制動力は、駆動力源やこれに連結されている変速機での変速比さらにはブレーキ装置を制御することにより適宜に設定することができる。その一例が上述した特許文献1に記載されている制御装置である。しかしながら、その特許文献1に記載されている制御装置や前述した下り坂での制御やDMD制御などの惰行減速度拡大機能を備えた制御装置を含めて、従来では、予め車両に搭載したシステムとして構成し、車両の走行状態あるいは運転状態に応じて、惰行時の制動力を自動的に設定している。したがって、その制動力は、設計上定めた制動力にならざるを得ず、必ずしも運転者の意図もしくは運転志向を反映したものとはならない。
【0008】
一方、惰行時の制動力は、上述したように自動的に制御できるから、そのためのシステムに入力する信号を、例えばシフトパドルなどを手動操作することにより発生させるとすれば、手動操作に基づいて、惰行時の制動力を発生させあるいは大小に変化させることができる。しかしながら、そのような手動操作に基づいて惰行時の制動力を設定もしくは制御するシステムは、特許文献1に記載されていないなど、従来、特には知られていないだけでなく、その制動力もしくは減速度を自動的に設定もしくは制御するシステムによる制御から、惰行時の制動力もしくは減速度を手動操作に基づいて設定する制御に切り替える場合の制御については従来知られていない。これらの制御の違和感のないスムースな切り替えを行って車両の乗り心地あるいはドライバビリティを良好にするためには、新たな技術が求められているのが実情である。
【0009】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、車両の惰行時の減速度を自動的に設定する制御から手動操作に基づいて減速度を設定する制御に切り替えることが可能であり、かつその切り替えの際の減速度が違和感とならないように制御できる減速制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、この発明は、加速要求量がゼロの惰行時の減速度を予め定めた減速度に設定する第1減速モードと、運転者の手動操作に基づく信号によって減速度を増減する第2減速モードと、走行状態を検出するセンサによる検出信号に基づいて、前記第1減速モードによる減速度より大きい所定の減速度を設定する第3減速モードとが可能な車両の減速制御装置であって、前記第3減速モードによって前記所定の減速度が設定されていることを判定する現行モード判定部と、前記第3減速モードによって前記所定の減速度が設定されていることが判定されている状態で前記運転者の手動操作に基づく前記信号が生じたことを検出する手動減速検出部と、前記第3減速モードによって前記所定の減速度が設定されていることが判定されている状態で前記運転者の手動操作に基づく前記信号が生じたことが検出された場合に、前記運転者の手動操作に基づく前記信号に応じた減速度を前記所定の減速度に加減した減速度を設定する減速度遷移指示部とを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
この発明においては、前記運転者による手動操作に基づく前記信号が生じた場合に、前記第1減速モードで設定される前記予め定めた減速度から遷移させる複数の第2減速モード用減速度が予め決められており、前記減速度遷移指示部は、前記第3減速モードによって前記所定の減速度が設定されていることが判定されている状態で前記運転者の手動操作に基づく前記信号が生じたことが検出された場合に、前記第2減速モード用減速度のうち、前記運転者の手動操作に基づく前記信号に応じた減速度の増減方向において、前記所定の減速度に最も近い減速度に遷移することを指示することとしてもよい。
【0012】
この発明においては、前記車両は、駆動力源としてエネルギ回生することにより前記車両を減速させる負のトルクを出力する電動機を備え、前記第1減速モードないし前記第3減速モードでの減速度を生じさせるように前記電動機を制御するトルク制御部を更に有していてよい。
【発明の効果】
【0013】
この発明では、第3減速モードが設定されていることが現行モード判定部で判定される。その場合、惰行時の減速度として、第1減速モードで設定される減速度より大きく、かつ所定のセンサによる検出信号に基づく減速度が設定される。この状態で、手動減速検出部が、運転者の手動操作に基づく信号が生じたことを検出すると、減速度遷移指示部が、第3減速モードによって現在設定されている減速度に、検出された前記信号に応じた量の減速度を加減した減速度を設定する指示を行う。すなわち、センサによる検出結果に基づいて自動的に減速度が設定される状態で、減速度を増減する手動操作が行われると、現在の減速度を基準にして減速度を増減するので、減速度の変化量が、手動操作に基づく過不足のない量になり、そのため減速度が過度に低下するいわゆる「減速の抜け感」などの違和感を回避できる。
【0014】
また、この発明では、運転者が減速度を変化させる(もしくは選択する)手動操作を行うと、第2減速モードが設定され、複数の第2減速モード用減速度の中から、手動操作に応じた減速度が選択されて設定されている。このような第2減速モードに切り替える手動操作が、第3減速モードによる減速度が設定されている状態で実行されると、第2減速モード用減速度のうち、第3減速モードによる現行の減速度に最も近く、かつ手動操作に基づく信号に応じた減速度の増減方向の減速度が選択されて設定される。すなわち、第2減速モード用減速度は、第1減速モードでの所定の減速度から遷移させる減速度であっても、第3減速モードが設定されている状態で第2減速モードに切り替える場合には、第3減速モードで設定されている現行の減速度に最も近い(前記信号が示している増減方向で最も近い)減速度が指示されて設定されるので、減速度の変化量が、手動操作に基づく過不足のない量、言い換えれば運転者の意図した変化量になり、そのため減速度が過度に低下するいわゆる「減速の抜け感」などの違和感を回避できる。
【0015】
さらに、減速度を電動機によるエネルギ回生トルクで生じさせる構成であれば、応答遅れのない、かつ精度の良い減速度制御を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明の実施形態におけるEVを模式的に示す図である。
【
図2】惰行時の車速と減速度との関係である特性線を示す線図である。
【
図3】この発明の実施形態におけるECUの機能的構成を説明するためのブロック図である。
【
図4】この発明の実施形態で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、この発明の実施形態を説明する。なお、以下に説明する実施形態はこの発明を実施した場合の一例に過ぎないのであって、この発明を限定するものではない。
【0018】
この発明の実施形態における車両は、アクセルペダルなどを運転者が操作することにより加速ならびに減速する車両であり、特にアクセルペダルなどによる加速要求量をゼロにした惰性走行(惰行)状態において、駆動力源による制動力(エンジンブレーキ力もしくは駆動力源ブレーキ力)を大小に制御できる車両である。その一例は、電動機を駆動力源として備えているハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)であり、
図1にEV1を模式的に示してある。
【0019】
EV1は、駆動力源として、発電機能(エネルギ回生機能)のある電動機2を搭載している。この電動機2は、例えば永久磁石式の同期電動機(モータ・ジェネレータ。MG)である。電動機2は、インバータ(INV)3を介してバッテリなどの蓄電装置4に接続されている。すなわち蓄電装置4の直流をインバータ3によって交流に変換して電動機2に供給するとともに電動機2の出力トルクや回転数を制御するようになっている。また、電動機2で発電した電力をインバータ3によって直流に変換して蓄電装置4に充電するようになっている。
【0020】
電動機2の出力軸は直接、もしくは適宜の伝動機構(図示せず)を介して終減速機であるデファレンシャルギヤ5に連結されている。電動機2から出力した駆動トルクをそのデファレンシャルギヤ5から左右の駆動輪6に伝達して走行するようになっている。
【0021】
加減速操作を行う操作部としてアクセルペダル7が設けられている。アクセルペダル7は、従来の車両と同様に、運転者が踏み込んで加速操作し、また踏み戻すことにより減速操作するペダルであり、その踏み込み量(アクセル開度)もしくは踏力を検出するアクセルセンサ8が設けられている。また、アクセルペダル7を完全に踏み戻してアクセル開度(もしくは駆動要求量)をゼロにした惰行時の減速度を手動操作で選択するためのセレクトレバー9が設けられている。セレクトレバー9は、ステアリングコラムやセンターコンソール(それぞれ図示せず)などの適宜の箇所に、運転者が手動操作もしくは指操作するように設けられており、例えば中立位置からの操作方向(増減方向)に応じて、減速度を増大し、あるいは低減させるように構成されている。そのセレクトレバー9の操作方向(増減方向)など、運転者による操作の内容、もしくは減速度の増大・低減の要求を検出するセレクトセンサ10が設けられている。
【0022】
前記電動機2の駆動力やエネルギ回生に伴う制動力を制御する電子制御装置(ECU)11が設けられている。ECU11は、演算素子(CPU)やメモリならびに入出力インターフェースなどからなるマイクロコンピュータを主体として構成されており、インバータ3に制御信号を出力して、電動機2が出力する駆動トルクや制動力(発電量)などを制御するように構成されている。前述したアクセルセンサ8やセレクトセンサ10はこのECU11に接続されている。また、車速センサや加速度センサなどのセンサ類12がECU11に接続されている。すなわちECU11は、センサによる検出信号(情報)や予め記憶しているマップなどのデータを使用して演算を行い、その演算の結果を制御指令信号としてインバータ3などに出力するように構成されている。
【0023】
なお、上記のEV1は、運転者が始動、加速、減速、停止、操舵などの操作を行って走行するように構成され、その点では従来の一般的な車両と異なるところはない。したがってEV1は、特には図示しないが、前後のいずれかの操舵輪を転舵するステアリング機構、ブレーキペダル、ブレーキ、走行レンジ(ポジション)などを選択するシフト機構などを一般的な車両と同様に備えている。
【0024】
この発明の実施形態では、上記のECU11によって実行される駆動力や制動力についての制御のうち、惰行時の制動力(減速度)制御に特徴がある。この発明の実施形態における減速度の制御は、EV1の走行中に、アクセルペダル7が踏み戻されてアクセル開度がゼロになった状態で実行され、第1減速モードと第2減速モードと第3減速モードとの3つの制御が備えられている。
【0025】
第1減速モードは、いわゆる通常モードであって、EV1が、エネルギ効率(電力消費率。電費)が良好な状態で、過不足のない駆動力(加速度)を発生するように制御されて走行している状態で、アクセル開度がゼロになった場合に、違和感を生じさせることなく減速度が生じるように電動機2の回生制動力を制御するモードである。その減速度は、設計上、車速との関係で予め定めてあり、例えばマップとしてECU11に保持させてある。
図2は、その車速ごとの減速度を示しており、符号「L1」を付してある曲線が第1減速モードでの減速度を示している。
【0026】
第2減速モードは、いわゆる手動減速モードであって、例えば、運転者が前述したセレクトレバー9を操作することにより、あるいはシフト機構を操作することにより実行される。具体的には、第2減速モードは、運転者の操作方向や操作量に応じて、減速度を増減する制御であり、減速度を低下させる操作が行われた場合には、上述した第1減速モードで設定される減速度より小さい減速度に制御し、反対に減速度を増大させる操作が行われた場合には、上述した第1減速モードでの減速度より大きい減速度に制御する。こうして設定される減速度は、運転者による操作方向および操作量に応じてリニアに増減するように構成されていて良い。あるいは、第1減速モードで設定される減速度とは異なる減速度である第2減速モード用減速度を予め定めておき、運転者の手動による選択操作に応じてそれらの第2減速モード用減速度を選択して設定するように構成することができる。
【0027】
その例を
図2に併記してあり、符号「L2-1」、「L2-2」、「L2-3」を付した曲線が、第2減速モードでの減速度特性(車速ごとの減速度)を示している。なお、曲線L2-1は、減速度を小さくする操作が行われた場合に設定する減速度であり、上記の第1減速モードでの減速度より小さい減速度を定めている。曲線L2-2は、減速度を大きくする操作が1回行われた場合に設定する減速度であり、上記の第1減速モードでの減速度より大きい減速度を定めている。曲線L2-3は、減速度を大きくする操作が2回行われた場合に設定する減速度であり、上記の曲線L2-2の減速度より大きい減速度を定めている。
【0028】
第3減速モードは、いわゆる惰行減速度拡大モード(機能)と称することのできるモードであって、EV1の走行状態に基づいて自動的に実行される。「背景技術」の項で既に述べたように、下り坂を惰行すると車速を増大させる方向に重力加速度による力が作用するので、惰行減速度拡大モード(機能)では、車速の増大を抑制するように制動力を制御し、また運転者の走行志向を駆動力や制動力に反映させるための惰行減速度拡大モード(機能)としてのDMD制御では第1減速モードとは異なる(一般的には大きい)減速度に制御する。
【0029】
このような惰行減速度拡大機能は、惰行時に運転者に違和感を与えないようにするために実行されるから、その減速度は運転者の手動操作によらずに、自動的に設定される。その減速度は、下り坂を惰行する場合にはその下り坂の勾配やその時点の車速などに応じて、設計上、予め定められている。また、DMD制御では、運転者の過去の加減速操作に基づいて、惰行時の減速度が求められて記憶されており、惰行時にその記憶している減速度に制御する。下り坂を惰行する際の減速度の一例を
図2に曲線L3で示してあり、ここに示す例では、その減速度は、運転者が減速度を増大させる操作を1回行った場合に設定する減速度よりも大きく、かつ運転者が減速度を増大させる操作を2回行った場合に設定する減速度よりも小さい減速度である。これら
図2に示す減速度特性は、ECU11にマップとして予め記憶しており、車速を検出した信号や運転者の手動操作に基づく信号などの入力される信号に基づいて、マップから読み出された減速度となるように、電動機2の回生制動力(エネルギ回生に伴う負のトルク)が制御される。
【0030】
この発明の実施形態では、惰行時の減速度が上述したように自動的に、あるいは手動操作に基づいて設定され、その制御は前記ECU11によって実行される。すなわち、ECU11は、機能的な構成として
図3に示す各制御部を備えている。先ず、ECU11は、EV1が走行している際に設定されている減速モードが上記の第3減速モードであることを判定する現行モード判定部13を備えている。この判定は、惰行している現在の減速度が上述した
図2に示す曲線L3で決まる減速度か否か、あるいは曲線L3に基づいて減速度を設定する制御を実行しているか否かによって判定することができる。
【0031】
また、ECU11は、惰行時の減速度が第3減速モードで制御される状態で、運転者が減速度を増大もしくは低減させる手動操作を行ったことを検出する手動減速検出部14を備えている。この機能は、前述したセレクトセンサ10からの出力信号、あるいは図示しないシフト機構からの出力信号に基づいて、手動操作が行われたこと、ならびにその操作(要求)の内容を検出する機能である。
【0032】
さらに、ECU11は、減速度遷移指示部15を備えている。この減速度遷移指示部15は、手動減速検出部14が手動操作による減速度の変更(増大もしくは低減)を検出した場合に、その時点に既に設定されていた減速度から、手動操作(減速度要求)に応じた減速度に変更することを指示する機能である。例えば、手動操作ごとの減速度の変更量(増大量ならびに低減量)を予め定めてある場合には、減速度を、手動操作によって決まる量だけ変化させる。より具体的には、電動機2による回生制動力を変化させる。また、
図2に示す第2減速モードで使用する曲線L2-1~L2-3を利用する場合には、第3減速モードによって設定されている現在の減速度(曲線L3)に最も近い減速度(曲線L2-1~L2-3のいずれか)に変化させる。そして、この減速度遷移指示部15から指示される減速度を達成するようにインバータ3を介して電動機2を制御するトルク制御部16がECU11に設けられている。
【0033】
つぎにこの発明の実施形態で実行される制御の一例を説明する。
図4はその制御の一例を説明するためのフローチャートであって、その制御はアクセル開度がゼロ(駆動要求量がゼロ)の状態で前述したECU11によって実行される。
図4に示す制御例において、先ず、減速度レベルの切り替え要求の有無が判断される(ステップS1)。これは、前述したセレクトレバー9あるいは図示しないシフト機構を運転者が手動操作してそれに伴う信号が出力されたか否かによって判断することができる。ステップS1で否定的に判断された場合には、特には制御を行うことなく
図4のルーチンを一旦終了する。これとは反対にステップS1で肯定的に判断された場合には、減速度の制御モードを前述した第2減速モードに設定する(ステップS2)。すなわち、減速度を切り替えあるいは選択する手動操作に基づく信号を受信し、その信号に基づいて減速度を制御できる状態に切り替える。
【0034】
ついで、前回実行されていた減速度制御モード(切り替え直前の減速度制御モード)が通常モード(前述した第1減速モード)か否かが判断される(ステップS3)。このステップS3で肯定的に判断された場合には、惰行減速度拡大機能による減速度が反映されているか否か、すなわち前述した第3減速モードによる減速度制御が実行されているか否かが判断される(ステップS4)。このステップS4を実行する機能的手段が、この発明の実施形態における現行モード判定部に相当する。
【0035】
このステップS4で肯定的に判断された場合には、減速度は前述した第1減速モード(通常モード)での減速度より大きくなっている。その場合は、手動による減速度の切り替え(もしくは要求)の操作が減速度レベルを増大させる方向の操作か否かが判断される(ステップS5)。このステップS5を実行する機能的手段が、この発明の実施形態における手動減速度検出部に相当する。
【0036】
ステップS5で肯定的に判断された場合には、現状の減速度を、手動操作に基づく予め定めた量だけ増大させる。その一例として、前述した第2減速モードでのマップとして予め用意してある減速度(プリセット減速度)を利用する場合には、現在の減速度レベルより大きいプリセット減速度のうち、最小の減速度レベルを選択して設定する(ステップS6)。すなわち、現在の減速度レベルより大きい減速度であって、現在の減速度レベルに最も近い減速度レベルを選択する。
【0037】
これとは反対にステップS5で否定的に判断された場合には、すなわち減速度レベルを低減する操作が行われている場合には、手動操作に基づく予め定めた量だけ減速度レベルを低減させる。その一例として、前述した第2減速モードでのマップとして予め用意してある減速度(プリセット減速度)を利用する場合には、現在の減速度レベルより小さいプリセット減速度のうち、最大の減速度レベルを選択して設定する(ステップS7)。すなわち、現在の減速度レベルより小さい減速度であって、現在の減速度レベルに最も近い減速度レベルを選択する。
【0038】
これらステップS6およびステップS7の制御を実行する機能的手段がこの発明の実施形態における減速度遷移指示部に相当する。そして、これらのステップS6およびステップS7のいずれかを実行した後に
図4に示すルーチンを一旦終了する。
【0039】
なお、直前の減速制御のモードが通常モードではないことによりステップS3で否定的に判断された場合、および第3減速モードによる減速度が設定されていないことによりステップS4で否定的に判断された場合のいずれかの場合には、手動による減速度の変更操作が、減速度レベルを増大させる操作か否かが判断される(ステップS8)。これは前述したステップS5の判断と同様の判断である。
【0040】
ステップS3あるいはステップS4で否定的に判断された場合、現在設定されている減速度は、前述した第2減速モードでの減速度であり、
図2に即して言えば、曲線L2-1~L2-3のいずれかで決まる減速度である。したがって、この場合は、第2減速モードでの減速度制御を継続することになる。すなわち、ステップS8で肯定的に判断された場合に、減速度レベルを「1」だけ大きく(減速度レベル+1)する(ステップS9)。その後、
図4に示すルーチンを一旦終了する。これとは反対にステップS8で否定的に判断された場合すなわち減速度を低減させる操作が行われている場合には、減速度レベルを「1」だけ小さく(減速度レベル-1)する(ステップS10)。その後、
図4に示すルーチンを一旦終了する。なお、これらステップS9およびステップS10の制御は、前述したプリセット減速度を使用する場合には、前記曲線L2-1~L2-3のうち現在設定されていた減速度を規定している曲線に隣接する曲線上の減速度に設定する制御となる。
【0041】
なお、手動操作で選択することのできる最大の減速度が設定されている状態で、減速度を増大させる方向の手動操作が行われた場合には、減速度を現在以上に増大させることができないので、手動操作に基づく減速度の増大要求はキャンセルされる。同様に、手動操作で選択することのできる最小の減速度が設定されている状態で、減速度を低減させる方向の手動操作が行われた場合には、減速度を現在以上に低減させることができないので、手動操作に基づく減速度の低減要求はキャンセルされる。
【0042】
上述したように、ここで説明している実施形態では、第1減速モード(通常モード)で減速度を制御している場合、ならびに一旦手動操作に基づく減速度を設定して第2減速モードで減速度を制御している場合、それぞれの減速モードで決まる減速度から、各減速モードで決められている他の減速度に切り替える。これに対して第3減速モードが実行されていることによって、減速度が第1減速モードでの減速度から自動的に変更されて設定されている場合、手動操作に基づく減速度は、現在の減速度から増大もしくは低減して設定する。
【0043】
すなわち、第2減速モードでは、例えば減速度を低減する方向に1回手動操作されると、
図2の曲線L1上の減速度から曲線L2-1上の減速度に切り替えるが、惰行減速度拡大機能によって減速度を設定している状態で同様の手動操作を行った場合、減速度は、曲線L2-2上の減速度に切り替えられる。そのため、第3減速モードで制御している惰行時に、減速度を変化させる手動操作を行っても、減速度が急激に低下するなどの事態を未然に回避し、EV1のドライバビリティを良好に維持でき、また違和感が生じることを回避できる。
【0044】
なお、この発明は上述した実施形態に限定されないのであり、減速度を生じさせ、また変化させるための機構は、上述した駆動力源としての電動機2に限らないのであり、変速機を搭載した車両においてはその変速機での変速比を変化させることとしても良い。また、ハイブリッド車においては、車輪に駆動力を伝達する電動機によって減速度を制御することとしても良い。さらに、減速度を制御するために減速度を予め決めておくマップは、前述した
図2に示す特性になるものに限定されないのであり、更に多数の特性線を備えたマップであってもよい。上述した実施形態では、通常モードでの特性線を1本の曲線で示したが、駆動モードとして通常のノーマルモードと、駆動力(加速性)に優れたパワーモードとを選択できる車両においては、惰行時の減速度を決める特性線は、駆動モードに併せて複数、設けても良い。
【符号の説明】
【0045】
1 電気自動車(EV)
2 電動機
3 インバータ
4 蓄電装置
5 デファレンシャルギヤ
6 駆動輪
7 アクセルペダル
8 アクセルセンサ
9 セレクトレバー
10 セレクトセンサ
11 電子制御装置(ECU)
12 センサ類
13 現行モード判定部
14 手動減速検出部
15 減速度遷移指示部
16 トルク制御部