(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180536
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】質量分析方法及び質量分析プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20231214BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01N27/62 C
G01N27/62 X
G01N30/72 A
G01N30/72 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093917
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北野 理基
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA09
2G041DA13
2G041DA19
2G041EA04
2G041EA06
2G041GA03
2G041HA01
2G041LA06
2G041LA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】試料分子の分子量を正しく求めることができる質量分析方法を提供する。
【解決手段】所定の反応ガスの分子がイオン化することにより反応ガスイオンが生成され、試料分子と該反応ガスイオンが接触させることで該試料分子に付加イオンが付加されることにより生成されるイオン付加分子のマススペクトルを取得するマススペクトル取得ステップS1、マススペクトルに現れた複数のピークの各々につきm/zの値を取得するイオン付加分子m/z値取得ステップS3、生じ得る複数種の付加イオンのm/zの値が反応ガス毎に記録された付加イオンデータベースから、所定の反応ガスに対応した複数種の付加イオンの各々のm/zの値を取得する付加イオンm/z値取得ステップS5、複数のピークの各々のm/zの値とm/z値取得ステップで取得した複数種の付加イオンの各々のm/zの値に基づいて、試料分子の分子量を特定する試料分子量特定ステップS6を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の反応ガスの分子がイオン化することにより反応ガスイオンが生成され、試料分子と該反応ガスイオンが接触させることで該試料分子に付加イオンが付加されることにより生成されるイオン付加分子のマススペクトルを取得するマススペクトル取得ステップと、
前記マススペクトルに現れた複数のピークの各々につきm/zの値を取得するイオン付加分子m/z値取得ステップと、
生じ得る複数種の付加イオンのm/zの値が反応ガス毎に記録された付加イオンデータベースから、前記所定の反応ガスに対応した複数種の付加イオンの各々のm/zの値を取得する付加イオンm/z値取得ステップと、
前記複数のピークの各々のm/zの値と前記m/z値取得ステップで取得した前記複数種の付加イオンの各々のm/zの値に基づいて、前記試料分子の分子量を特定する試料分子量特定ステップと
を有する質量分析方法。
【請求項2】
さらに、
電子イオン化法により前記試料分子が開裂したマススペクトルであるEIマススペクトルを取得するEIマススペクトル取得ステップと、
前記EIマススペクトルに現れたピークのm/zの値を取得するフラグメントイオンm/z値取得ステップと、
分子毎に該分子を特定する情報、該分子の分子量及び該分子から電子イオン化法により生成されるフラグメントイオンのm/zの値が記録されたフラグメントイオンデータベースから、前記試料分子量特定ステップで特定された前記試料分子の分子量と同じ分子量を有する複数の分子につき、該分子を特定する分子特定情報及び該分子から生成されるフラグメントイオンのm/zの値を取得する試料分子候補データ取得ステップと、
前記複数の分子の各々につき、前記試料分子候補データ取得ステップで取得したフラグメントイオンのm/zの値と、前記フラグメントイオンm/z値取得ステップで取得したm/zの値を対比し、該複数の分子のうちそれら2つのm/zの値が一致した分子の分子特定情報により、前記試料分子を特定する試料分子特定ステップと
を有する、請求項1に記載の質量分析方法。
【請求項3】
前記試料分子が、ガスクロマトグラフ又は液体クロマトグラフのカラムを通過した試料の成分の分子である、請求項1又は2に記載の質量分析方法。
【請求項4】
コンピュータに、
所定の反応ガスの分子がイオン化することにより反応ガスイオンが生成され、試料分子と該反応ガスイオンが接触させることで該試料分子に付加イオンが付加されることにより生成されるイオン付加分子のマススペクトルを取得するマススペクトル取得ステップと、
前記マススペクトルに現れた複数のピークの各々につきm/zの値を取得するイオン付加分子m/z値取得ステップと、
生じ得る複数種の付加イオンのm/zの値が反応ガス毎に記録された付加イオンデータベースから、前記所定の反応ガスに対応した複数種の付加イオンの各々のm/zの値を取得する付加イオンm/z値取得ステップと、
前記複数のピークの各々のm/zの値と前記m/z値取得ステップで取得した前記複数種の付加イオンの各々のm/zの値に基づいて、前記試料分子の分子量を特定する試料分子量特定ステップと
を実行させるプログラムである質量分析プログラム。
【請求項5】
さらに、コンピュータに
電子イオン化法により前記試料分子が開裂したマススペクトルであるEIマススペクトルを取得するEIマススペクトル取得ステップと、
前記EIマススペクトルに現れたピークのm/zの値を取得するフラグメントイオンm/z値取得ステップと、
分子毎に該分子を特定する情報、該分子の分子量及び該分子から電子イオン化法により生成されるフラグメントイオンのm/zの値が記録されたフラグメントイオンデータベースから、前記試料分子量特定ステップで特定された前記試料分子の分子量と同じ分子量を有する複数の分子につき、該分子を特定する分子特定情報及び該分子から生成されるフラグメントイオンのm/zの値を取得する試料分子候補データ取得ステップと、
前記複数の分子の各々につき、前記試料分子候補データ取得ステップで取得したフラグメントイオンのm/zの値と、前記フラグメントイオンm/z値取得ステップで取得したm/zの値を対比し、該複数の分子のうちそれら2つのm/zの値が一致した分子の分子特定情報により、前記試料分子を特定する試料分子特定ステップと
を実行させるプログラムである、請求項4に記載の質量分析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析方法、及び該方法をコンピュータに実行させるプログラムである質量分析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析法では一般に、気体の試料又は液体の試料を気化したものの分子(試料分子)をイオン化したうえで、電気的・磁気的な作用を用いて、イオンをその質量及び電荷により定まる質量電荷比(m/z)の値に応じて分離して検出することにより、m/zと検出強度の関係を示すマススペクトルが得られる。ここで分子をイオン化する方法には、電子イオン化(Electron Ionization:EI)法や、化学イオン化(Chemical Ionization:CI)法等の種々の手法が用いられている。
【0003】
EI法は、熱したフィラメントから放出される熱電子を試料分子に衝突させることにより試料分子をイオン化する方法である。この方法では、試料分子中の電子が叩き出された、該試料分子と略同質量を有するイオンが生成されると共に、多くの場合には開裂(フラグメンテーション)が生じることによって試料分子よりも小さい質量を有するフラグメントイオンも生成される。このように生成されるフラグメントイオンの種類が試料分子の種類に依存することから、検出されたフラグメントイオンは、同じ分子量を有する複数の分子の候補の中から試料分子の種類を特定する際に有用な情報となる。しかし、EI法で得られるマススペクトルには試料分子(が開裂することなくイオン化したもの)によるピークとフラグメントイオンによるピークが混在し、試料分子によるピークを特定し難い。特に、開裂が生じ易い試料分子ではそのほとんどが熱電子の衝突によって開裂してしまうことがあり、そのような場合には、ピークの検出結果から試料分子の分子量を特定することは困難であり、ひいては試料分子の種類を特定することも困難になる。
【0004】
それに対してCI法では、試料分子とは別の反応ガスの分子に熱電子を衝突させることにより反応ガスイオンを生成し、その反応ガスイオンと試料分子を接触させることでイオン分子反応を生じさせ、それによって、試料分子にプロトン(H+)が1個付加されたプロトン付加分子を生成する(例えば特許文献1参照。なお、反応ガスイオンは通常、プロトンとは異なるイオンである。)。プロトン付加分子は、その全体で1価の陽イオンとしての挙動を示す。CI法で得られるマススペクトルには、プロトン付加分子によるピークが生じる一方、CI法では開裂が生じ難いため、フラグメントイオンによるピークはほとんど現れない。そのため、プロトン付加分子のm/zの値を容易に特定することができ、そのm/zから1を減じることによって試料分子の分子量も容易に特定することができる。
【0005】
そこで従来より、同じ試料に対してCI法とEI法の双方を用いてそれぞれマススペクトルを取得したうえで、CI法で得られたマススペクトルから求めた試料分子の分子量と、EI法で得られたマススペクトルから求めたフラグメントイオンのm/zの値に基づいて、試料分子の種類を特定することが行われている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CI法で得られるマススペクトルでは、理想的にはプロトン付加分子以外によるピークはほとんど現れないはずである。しかしながら実際には、反応ガスイオンがそのまま試料分子に付加された、プロトン付加分子以外のイオン付加分子(なお、プロトン付加分子もイオン付加分子の一種である)が発生し、それによってマススペクトルに、プロトン付加分子によるピークよりもm/zの値が大きいピークが生じることがある。そうすると、反応ガスイオンが付加されたイオン付加分子をプロトン付加分子によるピークであると分析者が誤認してしまい、試料分子の分子量を誤った値で求めてしまうおそれがある。求めた試料分子の分子量が誤っていると、EI法でフラグメントイオンのm/zの値を取得しても、試料分子の種類を特定できないか又は誤って特定してしまう。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、試料分子の分子量を正しく求めることができる質量分析方法及び質量分析プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析方法は、
所定の反応ガスの分子がイオン化することにより反応ガスイオンが生成され、試料分子と該反応ガスイオンが接触させることで該試料分子に付加イオンが付加されることにより生成されるイオン付加分子のマススペクトルを取得するマススペクトル取得ステップと、
前記マススペクトルに現れた複数のピークの各々につきm/zの値を取得するイオン付加分子m/z値取得ステップと、
生じ得る複数種の付加イオンのm/zの値が反応ガス毎に記録された付加イオンデータベースから、前記所定の反応ガスに対応した複数種の付加イオンの各々のm/zの値を取得する付加イオンm/z値取得ステップと、
前記複数のピークの各々のm/zの値と前記m/z値取得ステップで取得した前記複数種の付加イオンの各々のm/zの値に基づいて、前記試料分子の分子量を特定する試料分子量特定ステップと
を有する。
【0010】
本発明に係る質量分析プログラムは、コンピュータに、
所定の反応ガスの分子がイオン化することにより反応ガスイオンが生成され、試料分子と該反応ガスイオンが接触させることで該試料分子に付加イオンが付加されることにより生成されるイオン付加分子のマススペクトルを取得するマススペクトル取得ステップと、
前記マススペクトルに現れた複数のピークの各々につきm/zの値を取得するイオン付加分子m/z値取得ステップと、
生じ得る複数種の付加イオンのm/zの値が反応ガス毎に記録された付加イオンデータベースから、前記所定の反応ガスに対応した複数種の付加イオンの各々のm/zの値を取得する付加イオンm/z値取得ステップと、
前記複数のピークの各々のm/zの値と前記m/z値取得ステップで取得した前記複数種の付加イオンの各々のm/zの値に基づいて、前記試料分子の分子量を特定する試料分子量特定ステップと
を実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、まず、従来のCI法と同様に、所定の反応ガスの分子をイオン化することにより生成し、試料分子と反応ガスイオンを接触させることによって試料分子に付加イオン(後述のように反応ガスイオンと同じであるとは限らない)が付加されたイオン付加分子を生成したうえで、マススペクトルを取得する。そして、このマススペクトルに現れた複数のピークの各々につきm/zの値を取得する。こうしてマススペクトルから得られた複数のm/zの各々の値は、反応ガスイオンと試料分子が接触することによって生じる複数種の付加イオンのm/zの値にそれぞれ、試料分子の分子量が加算された値となる。従って、複数種の付加イオンの各々のm/zの値が既知であれば、マススペクトルから得られたm/zの値と付加イオンのm/zの値に基づいて、試料分子の分子量を特定することができる。そこで、予め反応ガス毎に複数種の付加イオンのm/zの値が記録された付加イオンデータベースを作成しておき、この付加イオンデータベースから、分析に使用した反応ガス(前記所定の反応ガス)に対応する複数種の付加イオンの各々のm/zの値を取得すれば、マススペクトルのピークの各々のm/zの値と付加イオンの各々のm/zの値に基づいて、試料分子の分子量を特定する。
【0012】
本発明によれば、プロトン付加分子によるピークよりもm/zの値が大きい付加イオンが付加されたイオン付加分子を、プロトン付加分子によるピークであると分析者が誤認することを防ぐことができるため、試料分子の分子量を正しく求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る質量分析方法を実施する際に用いる質量分析装置の一例を示す概略構成図。
【
図2】本発明に係る質量分析方法の実施形態、及び質量分析プログラムの実施形態の動作を示すフローチャート。
【
図3】本実施形態の質量分析方法及び質量分析プログラムで用いる付加イオンデータベースが有するデータの例を示す図。
【
図4】本実施形態の質量分析方法で得られるCIマススペクトルの一例を示す図。
【
図5】本実施形態の質量分析方法及び質量分析プログラムで用いるフラグメントイオンデータベースが有するデータの例を示す図。
【
図6】本実施形態の質量分析方法で得られるEIマススペクトルの一例を示す図。
【
図7】本実施形態の質量分析方法で得られるCIマススペクトルの別の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1~
図7を用いて、本発明に係る質量分析方法及び質量分析プログラムの実施形態を説明する。
【0015】
(1) 質量分析装置の一例
本実施形態の質量分析方法及び質量分析プログラムを説明する前に、質量分析装置の一例であるガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)1について説明する。このGC-MS1は本実施形態の質量分析方法を実施する際に用いられる装置であって、該装置の動作の一部は本実施形態の質量分析プログラムにより実行される。
【0016】
図1に、GC-MS1の概略構成を示す。GC-MS1は、ガスクロマトグラフ(GC)部10と、質量分析(MS)部20と、データ処理部30と、データベース40とを有する。
【0017】
GC部10は、インジェクタ11と、試料気化室12と、キャピラリカラム13と、カラムオーブン14とを有する。インジェクタ11は液体試料を試料気化室12内に滴下するものである。試料気化室12は液体試料を気化するものであり、キャピラリカラム13の入口端に接続されている。キャピラリカラム13は、試料気化室12から導入された気体の試料が通過する間に成分毎に時間方向に分離させるものである。キャピラリカラム13はカラムオーブン14内に収容されており、該カラムオーブン14によって加熱されている。
【0018】
MS部20は、イオン源21、レンズ電極22、四重極マスフィルタ23、イオン検出器24を有する。これらは真空チャンバ25内に収容されている。
【0019】
イオン源21はCI/EI兼用イオン源であり、分析対象の試料分子を含む試料ガスが導入されるイオン化室211と、熱電子を生成するフィラメント212と、途中にバルブ214が設けられた反応ガス流路213と、フィラメント電源部215とを含む。フィラメント電源部215からフィラメント212に所定の電流が供給されると、該フィラメント212が加熱されて熱電子が生成される。
【0020】
CI法によるイオン化が行われる場合には、バルブ214が開放(オン)された状態でフィラメント212に電流が供給される。これにより、反応ガス流路213を通して反応ガスがイオン化室211内に供給され、該反応ガスの分子に熱電子が衝突することにより反応ガスイオンが生成される。この反応ガスイオンと試料ガス中の試料分子とが反応することにより、試料分子に付加イオンが付加されたイオン付加分子が生成される。一方、EI法によるイオン化が行われる場合には、バルブ214が閉鎖(オフ)された状態でフィラメント212に電流が供給される。熱電子は図示しない電極やイオン化室211、フィラメント212自体などに印加されている直流電圧によって形成される電場によって加速され、イオン化室211内に入射する。すると、イオン化室211内に導入された試料分子にこの熱電子が衝突し、試料分子がイオン化され、さらにイオンの開裂が生じることによりフラグメントイオンが生成される。CI法、EI法いずれの場合も、イオン化室211内で生成されたイオン(イオン付加分子又はフラグメントイオン)は、イオン化室211内に配置されているリペラ電極により形成される電場の作用によりイオン化室211から射出される。
【0021】
レンズ電極22は、それが形成する電場の作用により、イオン化室211から射出されるイオンを収束するものである。四重極マスフィルタ23は4本のロッド状電極を有し、それらロッド状電極にはそれぞれ直流電圧と高周波電圧とを重畳した所定の電圧が印加される。四重極マスフィルタ23は、レンズ電極22で収束されたイオンのうち、この電圧に応じたm/zを持つイオンのみを選択的に通過させるものである。この電圧を所定の範囲で変化させることにより、四重極マスフィルタ23を通過するイオンのm/zは所定の範囲で走査される。イオン検出器24は入射したイオンの量に応じた検出信号を出力するものである。
【0022】
データ処理部30は、マススペクトル取得部31と、m/z値取得部32と、試料分子量特定部33と、試料分子候補データ取得部34と、試料分子特定部35とを有する。データ処理部30の実体はCPUやメモリ等のハードウエア及び本実施形態の質量分析プログラム(ソフトウエア)である。また、データベース40は、付加イオンデータベース(付加イオンDB)41とフラグメントイオンデータベース(フラグメントイオンDB)42とを合わせたものであって、ハードディスク(HD)やソリッドステートドライブ(SSD)等の記憶装置又はCDやDVD等の記憶媒体から構成される。これらデータ処理部30及びデータベース40の詳細は、本実施形態の質量分析方法及び質量分析プログラムの説明と共に後述する。
【0023】
その他、GC-MS1は、GC部10及びMS部20の動作を制御する分析制御部50と、分析結果等を表示するディスプレイである表示部51と、ユーザが入力を行うキーボードやマウス等から成る入力部52とを有する。タッチパネルを用いることで表示部51と入力部52を一体化してもよい。データ処理部30、データベース40、分析制御部50、表示部51及び入力部52を合わせたものが、PC等のコンピュータにより具現化される。
【0024】
(2) 本実施形態の質量分析方法、及び本実施形態の質量分析プログラムの動作
図2のフローチャートを参照しつつ、本実施形態の質量分析方法を説明する。以下の説明においてデータ処理部30が有する各部が実行する動作は、本実施形態の質量分析プログラムによって制御される。
【0025】
まず、分析制御部50による制御により、CI法を用いてGC/MS測定を実行し、マススペクトルを取得する(ステップ1:マススペクトル取得ステップ)。CI法によるGC/MS測定は以下のように実行される。
【0026】
GC部10では、液体試料がインジェクタ11から試料気化室12内に滴下される。液体試料は短時間で気化し、試料ガスとなってキャリアガス源(図示せず)から試料気化室12内に供給されるHeガス等のキャリアガスの流れに乗ってキャピラリカラム13に送り込まれる。キャピラリカラム13に送り込まれた試料ガスに含まれる各種の分子(試料分子)は、キャピラリカラム13を通過する間に時間方向に分離され、MS部20のイオン源21へ順次導入される。
【0027】
イオン源21では前述のように、イオン化室211内に供給された反応ガスの分子に、フィラメント212で生成された熱電子が衝突すること(CI法)により、試料分子に付加イオンが付加したイオン付加分子が生成される。生成されたイオン付加分子はイオン化室211から射出され、レンズ電極22で収束されて四重極マスフィルタ23に入射し、四重極マスフィルタ23のロッド状電極に印加される電圧が該イオンのm/zに対応した所定の値であるときにのみ該四重極マスフィルタ23を通過してイオン検出器24で検出される。ここで四重極マスフィルタ23のロッド状電極に印加される電圧が所定の範囲で時間変化することによってイオン検出器24に入射するイオンの種類がそのm/zの値により変化することから、マススペクトル取得部31は、イオン検出器24が送出する検出信号を受信し、該検出信号の強度の時間変化に基づいてイオンのm/zと検出強度の関係を示すマススペクトルを取得する。
【0028】
以下では、ステップ1のようにCI法によるイオン化が行われた場合に得られたマススペクトルを「CIマススペクトル」と呼び、後述のステップ7のようにEI法によるイオン化が行われた場合に得られたマススペクトルを「EIマススペクトル」と呼ぶ。
【0029】
次に、m/z値取得部32は、マススペクトル取得部31で取得されたCIマススペクトルからピークを検出し(ステップ2)、そのピークにおけるm/zの値を取得する(ステップ3:イオン付加分子m/z値取得ステップ)。これらピークの検出及びm/zの値の取得は、従来より用いられている手法により実行することができる。
【0030】
次に、試料分子量特定部33は、CIマススペクトルを取得する際に用いた反応ガスを特定するための情報(反応ガス特定情報)を取得する(ステップ4)。この情報は、典型的には反応ガスの名称であるが、反応ガスが有する分子の分子式等で特定してもよい。反応ガス特定情報は、操作者が入力部52を用いて反応ガスの名称等を直接入力するようにしてもよいし、反応ガス特定情報の候補を表示部51に表示させたうえで操作者が入力部52を用いて選択するようにしてもよい。
【0031】
そのうえで、試料分子量特定部33は、付加イオンDB41から、反応ガス特定情報に対応する複数種の付加イオンの各々のm/zの値を取得する(ステップ5:付加イオンm/z値取得ステップ)。
図3に、付加イオンDB41に収録されているデータの例を示す。この例では、反応ガスとしてメタン(CH
4)、イソブタン(C
4H
10)、アンモニア(NH
3)、メタノール(CH
4O)及びアセトニトリル(C
2H
3N)が収録されており、これら反応ガスについてそれぞれ3種ずつ付加イオンのm/zの値及びイオン式が収録されている。例えば、反応ガスがメタンである場合には、付加イオンDB41には付加イオンのm/zの値として1(イオン式H
+)、17(同CH
5
+)及び、29(同C
2H
5
+)が収録されている。
【0032】
ここで反応ガスがメタンである場合を例として、イオン付加分子が生成される過程を説明する。メタンの分子は熱電子と衝突し、以下の(1)式
CH4+e-(熱電子)→CH4
+*+2e- …(1)
で反応することにより、CH4
+*(ラジカルカチオン)が生成される。このCH4
+*はさらにメタンの分子と以下の(2)式
CH4
+*+CH4→CH5
++CH3
* …(2)
で反応することにより、CH5
+及びCH3
*(ラジカル)が生成される。これらのうちCH5
+が試料分子Mと反応すると、
M+CH5
+→MH++CH4 …(3)
となる。その結果、付加イオンであるプロトンH+が試料分子Mに付加したイオン付加分子が生成される。一方、(2)式で生成されたCH5
+がそのまま付加イオンとして試料分子Mに付加したイオン付加分子も生成される。
【0033】
さらに、(1)式で生成されたCH4
+*から、以下の(4)式
CH4
+*+CH4→CH3
++CH5
* …(4)
の反応も生じるが、CH3
+はさらにメタンの分子と以下の(5)式
CH3
++CH4→C2H5
++H2
で反応し、C2H5
+が生成される。このC2H5
+がそのまま付加イオンとして試料分子Mに付加することによっても、イオン付加分子が生成される。
【0034】
次に、試料分子量特定部33は、CIマススペクトルに現れた複数のピークの各々におけるm/zの値と、ステップ5で取得した複数種の付加イオンの各々におけるm/zの値に基づいて、試料分子の分子量を特定する(ステップ6:試料分子量特定ステップ)。
【0035】
図4に、反応ガスとしてメタンを用いた場合におけるCIマススペクトルの一例を示す。ステップ3により得られた、このCIマススペクトルに現れたピークのm/zの値は、343, 359及び371である。それに対して、ステップ5で得られた、反応ガスがメタンである場合における付加イオンのm/zの値は1, 17及び29である。これらCIマススペクトルに現れた3つのピークのm/zの値を小さい順に、付加イオンのm/zの値に対応させると、それら3つのいずれも、前者の値と後者の値の差は342となる。このことから、試料分子の分子量は342であると特定することができる(上記ステップ6)。また、該試料分子に付加イオンとしてそれぞれH
+, CH
5
+及びC
2H
5
+が付加したことがわかる(なお、試料分子の種類を特定するためには、CI法で試料分子に付加した付加イオンの種類を特定する必要はない)。但し、この時点では未だ、試料分子の種類(名称、分子式、構造式等)は特定されていない。
【0036】
次に、分析制御部50による制御によってEI法を用いてGC/MS測定を実行し、マススペクトル取得部31はEIマススペクトルを取得する(ステップ7:EIマススペクトル取得ステップ)。EI法では、GC部10はCI法の場合と同様の動作により、MS部20のイオン源21に試料分子を導入する。イオン源21では前述のように、試料分子に熱電子が衝突すること(EI法)により、試料分子がイオン化され、さらにイオンの開裂が生じることによりフラグメントイオンが生成される。生成されたフラグメントイオンがレンズ電極22で収束されて四重極マスフィルタ23に入射し、CI法の場合と同様の原理によりマススペクトルが取得される。
【0037】
次に、m/z値取得部32は、マススペクトル取得部31で取得されたEIマススペクトルからピークを検出し(ステップ8)、そのピークにおけるm/zの値を取得する(ステップ9:フラグメントイオンm/z値取得ステップ)。
【0038】
次に、試料分子候補データ取得部34は、ステップ6で特定された分子量を有する複数の分子につき、フラグメントイオンDB42から、各分子を特定する分子特定情報及び該分子から生成されるフラグメントイオンのm/zの値を取得する(ステップ10:試料分子候補データ取得ステップ)。分子特定情報としては、分子の名称、分子式(組成式)、分子の構造式等が挙げられる。
【0039】
図5に、フラグメントイオンDB42に収録されているデータの例を示す。
図5の上段には、多数の化合物にそれぞれ1つずつシリアル番号を付与したうえで、化合物名、分子量及び分子式が収録されたテーブル421が示されている。なお、
図5中ではテーブル内に8つの化合物が表示されているが、実際には多数の化合物のデータが収録されており、該テーブルの右端に表示されたスクロールバー422をスライドさせることにより、他の化合物のデータを表示することができる。
図5より、ステップ6の説明で示した例である、分子量が342である分子として、複数の種類のものを挙げることができることがわかる。
【0040】
フラグメントイオンDB42はさらに、上記テーブルに収録された各化合物の各々につき、該化合物の分子から生成されるフラグメントイオンを測定したマススペクトルのデータが収録されている。各マススペクトルのデータではピークにおけるm/zの値が特定されている。テーブル421が表示部51に表示されている状態において、入力部52を用いてデータの1つを選択すると、テーブル421上の該データの背後に強調表示423(周囲とは異なる色等)が付されることで該データが選択されたことが表示される。さらに、
図5の下段に、強調表示423が付された化合物の分子から生成されるフラグメントイオンを測定したマススペクトル424が表示される。マススペクトル424には、m/zが69, 103, 115, 131及び229であるところにピークが現れており、それらm/zの値もマススペクトル424内に表示されている。なお、m/zが342であるピークは、開裂することなくイオン検出器24まで到達したイオン付加分子によるピークである。マススペクトル424にはさらに、強調表示423が付された化合物のシリアル番号、分子式、構造式(符号425を付したもの)、分子量が表示される。
【0041】
次に、試料分子特定部35は、ステップ10でフラグメントイオンDB42から取得した各分子から生成されるフラグメントイオンのm/zの値のうち、ステップ9で取得したEIマススペクトルのピークにおけるm/zの値と一致するものを抽出し、それらの値が一致した分子についてステップ10で取得していた分子特定情報により、試料分子を特定する(ステップ11:試料分子特定ステップ)。
【0042】
例えば、
図6に示すように、ステップ7で取得したEIマススペクトルが、m/zが69, 103, 115, 131及び229のところにピークを有する場合には、
図5において強調表示423が付された分子であるC
13H
8F
6O
4から生成されるフラグメントイオンのm/zの値と一致している。この結果より、この例における試料分子はC
13H
8F
6O
4であると特定することができる。
【0043】
なお、測定精度の問題等により、ステップ10でデータを取得したいずれの分子(CI法で特定された分子量を有する分子)においてもフラグメントイオンDB42に記憶されたm/zの値と測定されたEIマススペクトルにおける複数のm/zの値が完全には一致しない場合には、公知の方法を用いて算出した一致度が最も大きい分子を試料分子と特定すればよい。
【0044】
その後、特定された試料分子の情報を表示部51に表示させたり、データ記憶部(図示せず)に記憶させる等の後処理を行う。その際併せて、分析に用いたCIマススペクトル及び/又はEIマススペクトルを表示部51に表示させてもよい。以上により、本実施形態に係る質量分析方法の一連の動作は完了する。
【0045】
本発明は上記実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。
【0046】
例えば、上記実施形態ではGC-MS1を用いてCIマススペクトル及びEIマススペクトルを取得したが、その代わりに、液体クロマトグラフ質量分析装置(LC-MS)を用い、液体の試料が液体クロマトグラフのカラムを通過した後に該試料を質量分析装置のイオン源で気化させるようにしてもよい。あるいは、クロマトグラフを有しない質量分析装置を用いてもよい。
【0047】
上記実施形態の説明では、クロマトグラフを用いることにより、1つの保持時間において得られる1つのCIマススペクトルには1種類の試料分子によるピークのみが現れるものとして説明したが、1つのCIマススペクトルに複数種類の試料分子によるピークが現れる場合にも本発明を適用することができる。
図7に示す例では、3種類の付加イオンが生じるメタンを反応ガスとして用いた場合においてCIマススペクトルに6個のピークが出現していることから、6/3=2種類の試料分子が存在すると推定される。これら6個のピークのうちm/zの値が最も小さいm/z=322のピークを、第1の試料分子にプロトンが付加したイオン付加分子によるものと仮定すると、第1の試料分子の分子量はM=321となる。M=321の試料分子にプロトン以外の2種類の付加イオンが付加したイオン付加分子のm/zはm/z=321+17=338、及びm/z=321+29=350となり、
図7のCIマススペクトル中の左から2番目及び4番目のピークに対応する。さらに、同CIマススペクトル中の残りのピークであるm/z=343, 359及び371のピークは、分子量M=342である第2の試料分子によるものとして説明できる。CIマススペクトルに3種類以上の試料分子によるピークが現れる場合も同様である。
【0048】
上記実施形態では付加イオンDB41に付加イオンのm/zの値と共に各付加イオンのイオン式を収録したが、イオン式を収録することは必須ではない。また、ここ
図3で挙げた5種類以外の反応ガスについても同様に付加イオンのm/zの値(及びイオン式)を付加イオンDB41に収録することができる。さらに、
図3では1種類の反応ガスにつき付加イオンを3種類挙げたが、2種類又は(付加イオンが4種類以上有れば)4種類以上挙げてもよい。
【0049】
上記実施形態ではCIマススペクトルを取得したうえで試料分子の分子量を求めた後にEIマススペクトルを取得するように記載したが、まずCIマススペクトル及びEIマススペクトルを取得した後に、CIマススペクトルに基づく試料分子の分子量の特定及びEIマススペクトルに基づく試料分子の特定を行ってもよい。
【0050】
上記実施形態では本発明に係る質量分析方法によりCIマススペクトルに基づいて試料分子の分子量を特定したうえで、さらに、この分子量とEIマススペクトルに基づいて試料分子の名称等を特定しているが、その代わりに、CIマススペクトルに基づく試料分子の分子量の特定のみを行ってもよい。
【0051】
[態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0052】
(第1項)本発明の一態様に係る質量分析方法は、
所定の反応ガスの分子がイオン化することにより反応ガスイオンが生成され、試料分子と該反応ガスイオンが接触させることで該試料分子に付加イオンが付加されることにより生成されるイオン付加分子のマススペクトルを取得するマススペクトル取得ステップと、
前記マススペクトルに現れた複数のピークの各々につきm/zの値を取得するイオン付加分子m/z値取得ステップと、
生じ得る複数種の付加イオンのm/zの値が反応ガス毎に記録された付加イオンデータベースから、前記所定の反応ガスに対応した複数種の付加イオンの各々のm/zの値を取得する付加イオンm/z値取得ステップと、
前記複数のピークの各々のm/zの値と前記m/z値取得ステップで取得した前記複数種の付加イオンの各々のm/zの値に基づいて、前記試料分子の分子量を特定する試料分子量特定ステップと
を有する。
【0053】
(第4項)本発明の他の一態様に係る質量分析プログラムは、コンピュータに、
所定の反応ガスの分子がイオン化することにより反応ガスイオンが生成され、試料分子と該反応ガスイオンが接触させることで該試料分子に付加イオンが付加されることにより生成されるイオン付加分子のマススペクトルを取得するマススペクトル取得ステップと、
前記マススペクトルに現れた複数のピークの各々につきm/zの値を取得するイオン付加分子m/z値取得ステップと、
生じ得る複数種の付加イオンのm/zの値が反応ガス毎に記録された付加イオンデータベースから、前記所定の反応ガスに対応した複数種の付加イオンの各々のm/zの値を取得する付加イオンm/z値取得ステップと、
前記複数のピークの各々のm/zの値と前記m/z値取得ステップで取得した前記複数種の付加イオンの各々のm/zの値に基づいて、前記試料分子の分子量を特定する試料分子量特定ステップと
を実行させるプログラムである。
【0054】
第1項に係る質量分析方法及び第4項に係る質量分析プログラムでは、まず、従来のCI法と同様に、所定の反応ガスの分子をイオン化することにより生成し、試料分子と反応ガスイオンを接触させることによって試料分子に付加イオン(後述のように反応ガスイオンと同じであるとは限らない)が付加されたイオン付加分子を生成したうえで、マススペクトルを取得する。そして、このマススペクトルに現れた複数のピークの各々につきm/zの値を取得する。こうしてマススペクトルから得られた複数のm/zの各々の値は、反応ガスイオンと試料分子が接触することによって生じる複数種の付加イオンのm/zの値にそれぞれ、試料分子の分子量が加算された値となる。従って、複数種の付加イオンの各々のm/zの値が既知であれば、マススペクトルから得られたm/zの値と付加イオンのm/zの値に基づいて、試料分子の分子量を特定することができる。そこで、予め反応ガス毎に複数種の付加イオンのm/zの値が記録された付加イオンデータベースを作成しておき、この付加イオンデータベースから、分析に使用した反応ガス(前記所定の反応ガス)に対応する複数種の付加イオンの各々のm/zの値を取得すれば、マススペクトルのピークの各々のm/zの値と付加イオンの各々のm/zの値に基づいて、試料分子の分子量を特定する。
【0055】
第1項に係る質量分析方法及び第4項に係る質量分析プログラムによれば、プロトン付加分子によるピークよりもm/zの値が大きい付加イオンが付加されたイオン付加分子を、プロトン付加分子によるピークであると分析者が誤認することを防ぐことができるため、試料分子の分子量を正しく求めることができる
【0056】
前述のように、反応ガスイオンと付加イオンは同じであるとは限らない。例えば反応ガスがメタンガスである場合には、反応ガスイオンはCH5
+及びC2H5
+が生じ、付加イオンはH+(プロトン。反応ガスイオンとは異なる。)、CH5
+及びC2H5
+が生じる。ここで付加イオンH+は、M(試料分子)+CH5
+→[M+H]++CH4との反応により生じる。
【0057】
なお、第1項に係る質量分析方法において、イオン付加分子m/z値取得ステップはマススペクトル取得ステップよりも後に行う必要がある(マススペクトルを用いた処理を行うため)と共に、試料分子量特定ステップは各ステップよりも後に行う必要がある(イオン付加分子及び付加イオンのm/zの値を用いるため)。一方、付加イオンm/z値取得ステップは、試料分子量特定ステップよりも前であれば、実行順は問わない。第4項に係る質量分析プログラムも同様である。
【0058】
(第2項)第2項に係る質量分析方法は、第1項に係る質量分析方法においてさらに、
電子イオン化法により前記試料分子が開裂したマススペクトルであるEIマススペクトルを取得するEIマススペクトル取得ステップと、
前記EIマススペクトルに現れたピークのm/zの値を取得するフラグメントイオンm/z値取得ステップと、
分子毎に該分子を特定する情報、該分子の分子量及び該分子から電子イオン化法により生成されるフラグメントイオンのm/zの値が記録されたフラグメントイオンデータベースから、前記試料分子量特定ステップで特定された前記試料分子の分子量と同じ分子量を有する複数の分子につき、該分子を特定する分子特定情報及び該分子から生成されるフラグメントイオンのm/zの値を取得する試料分子候補データ取得ステップと、
前記複数の分子の各々につき、前記試料分子候補データ取得ステップで取得したフラグメントイオンのm/zの値と、前記フラグメントイオンm/z値取得ステップで取得したm/zの値を対比し、該複数の分子のうちそれら2つのm/zの値が一致した分子の分子特定情報により、前記試料分子を特定する試料分子特定ステップと
を有する。
【0059】
(第5項)第5項に係る質量分析プログラムは、第4項に係る質量分析プログラムにおいてさらに、コンピュータに
電子イオン化法により前記試料分子が開裂したマススペクトルであるEIマススペクトルを取得するEIマススペクトル取得ステップと、
前記EIマススペクトルに現れたピークのm/zの値を取得するフラグメントイオンm/z値取得ステップと、
分子毎に該分子を特定する情報、該分子の分子量及び該分子から電子イオン化法により生成されるフラグメントイオンのm/zの値が記録されたフラグメントイオンデータベースから、前記試料分子量特定ステップで特定された前記試料分子の分子量と同じ分子量を有する複数の分子につき、該分子を特定する分子特定情報及び該分子から生成されるフラグメントイオンのm/zの値を取得する試料分子候補データ取得ステップと、
前記複数の分子の各々につき、前記試料分子候補データ取得ステップで取得したフラグメントイオンのm/zの値と、前記フラグメントイオンm/z値取得ステップで取得したm/zの値を対比し、該複数の分子のうちそれら2つのm/zの値が一致した分子の分子特定情報により、前記試料分子を特定する試料分子特定ステップと
を実行させるプログラムである。
【0060】
ここで分子特定情報には、分子の名称、分子式(組成式)、分子の構造式等が挙げられる。
【0061】
第2項に係る質量分析方法及び第5項に係る質量分析プログラムによれば、試料分子の分子量を正しく求めたうえで、該分子量を有する複数の分子についてそれぞれフラグメントイオンデータベースから取得したフラグメントイオンのm/zの値のうち、電子イオン化法を用いて得られた試料分子のEIマススペクトルから求めたフラグメントイオンのm/zの値が一致したものの分子特定情報によって試料分子を特定することにより、試料分子を正確に特定することができる。
【0062】
なお、第2項に係る質量分析方法において、フラグメントイオンm/z値取得ステップはEIマススペクトル取得ステップの後に行う必要がある(EIマススペクトルを用いた処理を行うため)と共に、試料分子候補データ取得ステップは試料分子量特定ステップの後に行う必要がある(試料の分子量を用いた処理を行うため)。また、試料分子特定ステップは各ステップよりも後に行う必要がある(試料分子候補データ取得ステップ及びフラグメントイオンm/z値取得ステップでそれぞれ取得したm/zの値を用いるため)。一方、試料分子候補データ取得ステップは、試料分子特定ステップよりも前であれば、実行順は問わない。さらには、第1項に記載のCI法を用いた各ステップを実行した後に第2項に記載のEI法を用いた各ステップを実行してもよいし、まず(CI法による)マススペクトル取得ステップ及びEIマススペクトル取得ステップを実行した後にこれら2つのステップ以外の第1項及び第2項に記載の残りのステップを実行してもよい。後者の場合には(CI法による)マススペクトル取得ステップとEIマススペクトル取得ステップのいずれを先に実行してもよい。要するに、第1項及び第2項中の各ステップに記載の先後関係と矛盾しない限り、各ステップの実行順は限定されない。第5項に係る質量分析プログラムも同様である。
【0063】
(第3項)第3項に係る質量分析方法は、第1項又は第2項に係る質量分析方法において、前記試料分子が、ガスクロマトグラフ又は液体クロマトグラフのカラムを通過した試料の成分の分子である。
【0064】
第3項に係る質量分析方法によれば、試料分子がカラムを通過した試料の成分の分子であることから、試料に複数種の成分の分子が含まれている場合であっても該試料分子がカラムを通過することによって試料中の他の成分の分子と分離され、該試料分子単独でCI法によるマススペクトルが取得されるため、分子量の特定がより容易になる。
【符号の説明】
【0065】
1…ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)
10…ガスクロマトグラフ(GC)部
11…インジェクタ
12…試料気化室
13…キャピラリカラム
14…カラムオーブン
20…質量分析(MS)部
21…イオン源
211…イオン化室
212…フィラメント
213…反応ガス流路
214…バルブ
215…フィラメント電源部
22…レンズ電極
23…四重極マスフィルタ
24…イオン検出器
25…真空チャンバ
30…データ処理部
31…マススペクトル取得部
32…m/z値取得部
33…試料分子量特定部
34…試料分子候補データ取得部
35…試料分子特定部
40…データベース
41…付加イオンデータベース(付加イオンDB)
42…フラグメントイオンデータベース(フラグメントイオンDB)
421…テーブル
422…スクロールバー
423…強調表示
424…マススペクトル
425…強調表示が付された化合物の構造式
50…分析制御部
51…表示部
52…入力部