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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180546
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】操舵ハンドル保持判定装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/06 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
B62D1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093931
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 公汰
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DA11
3D030DB13
(57)【要約】
【課題】 保持固着状態の発生を抑制する。
【解決手段】 操舵ハンドル保持判定装置は、電極と対象物との間の静電容量を検出静電容量として検出可能な静電容量センサ11と、車両の運転者による操舵ハンドルの操作に基づく入力値である操舵入力値を検出可能な操舵入力値センサ12と、所定の演算時間が経過する毎に基準静電容量を検出静電容量で更新し、検出静電容量が基準静電容量に基づいて演算される保持判定閾値を超えているか否かに基づいて操舵ハンドルが運転者により保持されている保持状態にあるか否かを判定する保持判定を行うように構成された制御ユニット10と、を備える。制御ユニットは、検出静電容量が検出された場合において操舵入力値が所定の操舵入力閾値以上であるときは基準静電容量の更新を停止する。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、
電極と対象物との間の静電容量を検出静電容量として検出可能な静電容量センサと、
前記車両の運転者による操舵ハンドルの操作に基づく入力値である操舵入力値を検出可能な操舵入力値センサと、
所定の演算時間が経過する毎に基準静電容量を前記検出静電容量で更新し、
前記検出静電容量が前記基準静電容量に基づいて演算される保持判定閾値を超えているか否かに基づいて前記操舵ハンドルが前記運転者により保持されている保持状態にあるか否かを判定する保持判定を行うように構成された制御ユニットと、
を備える操舵ハンドル保持判定装置において、
前記制御ユニットは、
前記検出静電容量が検出された場合において前記操舵入力値が所定の操舵入力閾値以上であるときは前記基準静電容量の更新を停止する、
ように構成された、
操舵ハンドル保持判定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵ハンドルが運転者により保持されているか否かを判定する操舵ハンドル保持判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の操舵ハンドルが運転者により保持されている状態(保持状態)にあるか否かを判定する操舵ハンドル保持判定装置(以下、単に「保持判定装置」とも称する。)が知られている。この保持判定装置は、操舵ハンドルに内蔵された静電容量センサを備える。静電容量センサは、電極と対象物(即ち、操舵ハンドル)との間の静電容量を検出する。保持判定装置は、静電容量が検出されている期間中、所定の演算時間が経過する毎に、検出された静電容量(以下、「検出静電容量」とも称する。)に基づいて上記保持判定を行う(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-009470号公報
【発明の概要】
【0004】
具体的には、保持判定装置は、演算時間が経過する毎に基準静電容量を検出静電容量で更新し、当該基準静電容量に基づいて保持判定閾値を演算する(例えば、当該基準静電容量に所定の静電容量を加算することにより保持判定閾値を演算する。)。そして、検出静電容量が保持判定閾値を上回る場合は操舵ハンドルが保持状態にあると判定し、当該検出静電容量が当該保持判定閾値以下の場合は非保持状態(操舵ハンドルが運転者により保持されていない状態)にあると判定することにより保持判定を行う。但し、この保持判定装置は、検出静電容量が基準静電容量に対して大幅に大きい場合又は小さい場合には、所定の期間だけ基準静電容量の更新を停止するように構成されている。この一例として、運転者が操舵ハンドルを保持している場合が挙げられる。即ち、運転者が操舵ハンドルを保持すると、静電容量センサの検出値(検出静電容量)が基準静電容量に対して大幅に増大する。このような場合には、保持判定装置は所定の期間だけ基準静電容量の更新を停止する。この構成によれば、検出静電容量に基づいて保持判定を適切に行うことができる。
【0005】
ところで、静電容量センサは比較的に高価な部品であるため、操舵ハンドルの中には、静電容量センサがその周方向全体に内蔵(設置)されるのではなく、周方向の一部(典型的には、運転者により一般的に保持される左側部分と右側部分)にのみ内蔵されたタイプが存在する。このような操舵ハンドルであっても、運転者がその左側部分及び/又は右側部分を保持している場合には、保持判定装置は上述したようにして保持判定を適切に実行できる。しかしながら、運転者が当該操舵ハンドルのうち静電容量センサが設置されていない部分(以下、「センサ非設置部分」とも称する。)を保持している場合、静電容量センサの検出値が増大しない(別言すれば、非保持状態における検出値と同等の値を検出する)ため、保持判定装置は操舵ハンドルが非保持状態にあると誤判定して基準静電容量の更新を不要に継続してしまい、その結果、保持固着状態に陥る可能性がある。ここで、保持固着状態とは、「運転者が操舵ハンドルを保持しているか否かに関わらず保持判定において保持状態であると連続的に判定される状態(即ち、判定結果が保持状態に固着してしまっている状態)」を意味する。
【0006】
保持固着状態は、以下のようにして発生する。即ち、一般に、静電容量センサの検出値は外的影響により変動し易い。例えば、車両が送電線の直下を通過したり、正に帯電した物体を近づけたりすると検出静電容量は低下する。このため、運転者が操舵ハンドルのセンサ非設置部分を保持して車両を運転している最中に上記外的影響を受けると、検出静電容量は通常の値から漸減していく。すると、基準静電容量が当該検出静電容量に基づいて更新されることにより漸減していくため、保持判定閾値も漸減していく。外的影響を受ける期間が長いほど保持判定閾値は大きく減少する。
【0007】
その後、車両が上記外的影響を受けなくなると、検出静電容量は通常の値に戻る。このとき、保持判定閾値は減少しているため検出静電容量が保持判定閾値を上回り易くなり、その場合、保持判定装置は、運転者が操舵ハンドル(左側部分及び右側部分を含む)を保持しているか否かに関わらず操舵ハンドルが保持状態にあると判定するとともに基準静電容量の更新を所定の期間だけ停止する。当該期間が経過した時点において車両が外的影響を受けていない場合、静電容量センサは通常の値を検出するため、検出静電容量が保持判定閾値を上回る事態が再度発生し、その結果、保持判定装置は、再度、操舵ハンドルが保持状態にあると判定するとともに基準静電容量の更新を停止する。
【0008】
このように、運転者が操舵ハンドルのセンサ非設置部分を保持することにより保持判定において非保持状態であると誤判定されることに起因して基準静電容量の更新が不要に継続されると保持判定閾値が大きく減少する場合があり、そのような場合に検出静電容量が通常の値に戻って「検出静電容量>保持判定閾値」の関係が一旦成立すると、保持判定において保持状態であると連続的に判定される事態が発生する。保持固着状態は、このようにして発生する。
【0009】
本発明は、上述した問題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、保持固着状態の発生を抑制することが可能な操舵ハンドル保持判定装置を提供することにある。
【0010】
本発明による操舵ハンドル保持判定装置(以下、「本発明装置」と称する。)は、
車両に搭載され、
電極と対象物との間の静電容量を検出静電容量として検出可能な静電容量センサ(11)と、
前記車両の運転者による操舵ハンドル(SW)の操作に基づく入力値である操舵入力値(Ts)を検出可能な操舵入力値センサ(12)と、
所定の演算時間が経過する毎に基準静電容量(Cr)を前記検出静電容量(C)で更新し、
前記検出静電容量が前記基準静電容量に基づいて演算される保持判定閾値(Chth)を超えているか否かに基づいて前記操舵ハンドルが前記運転者により保持されている保持状態にあるか否かを判定する保持判定を行うように構成された制御ユニット(10)と、
を備える操舵ハンドル保持判定装置において、
前記制御ユニットは、
前記検出静電容量が検出された場合において前記操舵入力値が所定の操舵入力閾値(Tsth)以上であるときは前記基準静電容量の更新を停止する、
ように構成されている。
【0011】
本発明装置は、操舵入力値を検出可能な操舵入力値センサを備える。操舵入力値センサは、例えば、操舵トルクセンサ、操舵角センサ、及び/又は、操舵角センサである。本発明装置は、検出静電容量が検出された場合において操舵入力値が所定の操舵入力値閾値以上であるときは基準静電容量の更新を停止するように構成されている。ここで、「操舵入力値が操舵入力値閾値以上である」とは、典型的には、運転者により操舵ハンドルの操作(以下、「操舵操作」とも称する。)が行われていることを意味する。この構成によれば、運転者による操舵操作が行われている場合は基準静電容量の更新が停止される。このため、例えば静電容量センサが操舵ハンドルの周方向における一部にしか設置されていない場合であっても、運転者が操舵ハンドルのセンサ非設置部分を保持していることに起因して基準静電容量の更新が不要に継続されることを抑制できる。その結果、外的影響を受けて保持判定閾値が大きく減少する可能性を低減できるため、検出静電容量が保持判定閾値を超え難くなり、保持判定において保持状態であると連続的に判定される事態が発生し難くなり、保持固着状態の発生を抑制することができる。
【0012】
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る操舵ハンドル保持判定装置(本実施装置)の概略構成図である。
図2】操舵ハンドルに静電容量センサが内蔵(設置)されている位置を示す図である。
図3】本実施装置が備えるステアリングECUのCPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
図4】操舵ハンドルのセンサ非設置部分が保持されている場合における保持判定による判定結果を、本実施装置と従来の操舵ハンドル保持判定装置とで比較したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態)
以下、図面を参照して本実施形態に係る操舵ハンドル保持判定装置(以下、「本実施装置」とも称する。)について説明する。図1に示すように、本実施装置は、ステアリングECU10と、これに接続された静電容量センサ11及び操舵トルクセンサ12と、を備える。ステアリングECU10は、マイクロコンピュータを主要部として備える。ECUは、Electronic Control Unitの略である。マイクロコンピュータは、CPUと、ROM及びRAM等の記憶装置と、インターフェース(I/F)と、を含み、CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。以下では、本実施装置が搭載された車両を「自車両」と称する。
【0015】
ステアリングECU10は、センサ11及び12が送信する信号を所定の演算時間が経過する毎に取得し、取得した信号に基づいて保持判定(後述)を行うように構成されている。以下では、ステアリングECU10を、単に「ECU10」とも称する。
【0016】
図2は、自車両の操舵ハンドルSW(以下、単に「ハンドルSW」とも称する。)を示す図である。図2に示すように、静電容量センサ11は、ハンドルSWの周方向の一部にのみ設置(内蔵)されており、より詳細には、ハンドルSWの左側部分と右側部分(一点鎖線参照)に設置されている。別言すれば、静電容量センサ11は、ハンドルSWのうち運転者により一般的に保持される部分にのみ設置されている。
【0017】
静電容量センサ11は、電極と対象物(即ち、ハンドルSW)との間の静電容量を検出静電容量Cとして検出し、当該検出静電容量Cを表す信号をECU10に送信する。検出静電容量Cは、運転者がハンドルSWの左側部分及び/又は右側部分を保持しているときは増大するが、運転者がハンドルSWの上側部分及び/又は下側部分を保持しているときはハンドルSWを保持していないときと同等の値となる。なお、ハンドルSWの上側部分及び下側部分は、典型的には、図2の破線A1及び破線A2でそれぞれ囲まれている部分である。以下では、これらの部分を「センサ非設置部分A1」及び「センサ非設置部分A2」と称する。
【0018】
図1に戻って説明を続ける。操舵トルクセンサ12(操舵入力値センサ)は、ハンドルSWの操舵トルクTsを検出し、その検出信号をECU10に送信する。操舵トルクセンサ12は、ハンドルSWが右方向に操作されている場合は操舵トルクTsを正の値として検出し、ハンドルSWが左方向に操作されている場合は操舵トルクTsを負の値として検出する。操舵トルクTsは、「運転者によるハンドルSWの操作(操舵操作)に基づく入力値」の一例である。
【0019】
ECU10は、静電容量センサ11から検出静電容量Cを取得すると、演算時間が経過する毎にハンドルSWが保持状態にあるか否かを判定する保持判定を行う。具体的には、ECU10は、基準静電容量Crを検出静電容量Cで更新する。これは、直前の周期において取得された検出静電容量Cを現在の周期における基準静電容量Crに設定することにより行われる。続いて、ECU10は、当該基準静電容量Crに基づいて保持判定閾値Chthを演算する。現在の周期における保持判定閾値Chthは、同周期における基準静電容量Crに所定の静電容量C(本実施形態では、正の定数)を加算することにより演算される。この保持判定閾値Chthは、ハンドルSWが保持状態にあるか否かを判定するための閾値であり、上記静電容量Cを実験又はシミュレーションに基づいて適切な値に設定することにより決定され得る。
【0020】
但し、ECU10は、直前の周期における検出静電容量Cが同周期における基準静電容量Crに対して大幅に大きい場合又は小さい場合には、所定の期間だけ基準静電容量Crの更新を停止するように構成されている。例えば、運転者がハンドルSWの左側部分及び/又は右側部分を保持すると検出静電容量Cが基準静電容量Crに対して大幅に大きくなる(典型的には、保持判定閾値Chthを超える)ため、ECU10は、このような場合には所定の期間だけ基準静電容量Crの更新を停止する。なお、検出静電容量Cが基準静電容量Crに対して大幅に小さくなるケースは本実施形態では直接的に関係がないため、その説明は省略する。
【0021】
ECU10は、現在の周期における検出静電容量Cが同周期における保持判定閾値Chthを上回る場合はハンドルSWが保持状態にあると判定し、検出静電容量Cが保持判定閾値Chth以下の場合はハンドルSWが非保持状態にあると判定することにより保持判定を行う。
【0022】
ここで、従来のハンドルSW(静電容量センサがその周方向の一部にしか設置されていないハンドルSW)においては、運転者がハンドルSWのうちセンサ非設置部分A1、A2を保持している場合、検出静電容量Cが保持判定閾値Chth以下であるため、保持判定装置はハンドルSWが非保持状態にあると誤判定して基準静電容量Crの更新を不要に継続してしまう。その間に自車両が送電線の直下を通過したりハンドルSWに正の帯電体が近づけられたりする等の外的影響を受けることにより保持判定閾値Chthが大きく減少すると、その後、外的影響を受けなくなった時点で「検出静電容量C>保持判定閾値Chth」の関係が成立する。この関係が一旦成立すると、保持判定において保持状態であると連続的に判定される事態が発生して保持固着状態に陥る可能性がある。
【0023】
そこで、本実施形態では、ECU10は、操舵トルクセンサ12から取得される操舵トルクTsに基づいて運転者が操舵操作していることが明らかである場合は基準静電容量Crの更新を停止するように構成されており、これにより保持固着状態の発生を抑制するようになっている。更に、ECU10は、運転者がハンドルSWの操作方向を切り替えた可能性がある場合においても所定の時間Tだけ基準静電容量Crの更新を停止するように構成されており、これにより保持固着状態の発生をより確実に抑制するようになっている。以下、図3を参照して具体的に説明する。
【0024】
ECU10のCPUは、イグニッションスイッチがオン状態にある期間中、演算時間が経過する毎に図3にフローチャートにより示したルーチンを繰り返し実行するように構成されている。
【0025】
所定のタイミングになると、CPUは、ステップ300から処理を開始してステップ310に処理を進め、静電容量Cを検出したか否か(即ち、静電容量センサ11から検出静電容量Cを取得したか否か)を判定する。検出静電容量Cを取得していない場合(ステップ310:No)、CPUは、ステップ395に処理を進めて本ルーチンを一旦終了する。一方、検出静電容量Cを取得した場合(ステップ310:Yes)、CPUは、ステップ320に処理を進める。
【0026】
ステップ320では、CPUは、操舵トルクセンサ12から取得される操舵トルクTsの絶対値が所定の操舵トルク閾値Tsth以上であるか否かを判定する。操舵トルク閾値Tsthは、運転者により操舵操作が行われているか否かを判定するための閾値であり、実験又はシミュレーションにより予め設定され得る。操舵トルクTsの絶対値が操舵トルク閾値Tsth以上の場合(ステップ320:Yes)、CPUは、運転者により操舵操作が行われている(操作状態にある)と判定し、ステップ330に処理を進めて操舵操作フラグFsの値を「1」に設定する。
【0027】
続いて、CPUは、ステップ340に処理を進め、基準静電容量Crの更新を停止する。その後、CPUは、ステップ395に処理を進めて本ルーチンを一旦終了する。
【0028】
これに対し、ステップ320にて操舵トルクTsの絶対値が操舵トルク閾値Tsth未満の場合(ステップ320:No)、CPUは、操舵操作は行われていない(無操作状態にある)と判定し、ステップ350に処理を進めて操舵操作フラグFsの値が「1」であるか否か(即ち、過去に操舵操作が行われていたか否か)を判定する。操舵操作フラグFsの値が「1」である場合(ステップ350:Yes)、CPUは、過去に操舵操作が行われていたと判定し、ステップ360に処理を進める。なお、操舵操作フラグFsの値は、イグニッションスイッチがオンされた時点では「0」に設定されている。
【0029】
ステップ360では、CPUは、|操舵トルクTs|<操舵トルク閾値Tsthが成立してから(より詳細には、|Ts|≧Tsthの関係から|Ts|<Tsthの関係に変化してから)所定の時間Tが経過したか否かを判定する。時間Tは、運転者が操舵操作を停止した可能性が高いか否かを判定するための値であり、実験又はシミュレーションにより予め設定され得る。|Ts|<Tsthが成立してからまだ時間Tが経過していない場合(ステップ360:No)、CPUは、運転者が操舵操作を停止している可能性が高いとは言い切れない(即ち、運転者がハンドルSWの操作方向を切り替えた可能性がある)と判定し、ステップ340に処理を進める。ステップ340の処理は上述した通りである。
【0030】
一方、|Ts|<Tsthが成立してから時間Tが経過した場合(ステップ360:Yes)、CPUは、運転者が操舵操作を停止した可能性が高いと判定し、ステップ370に処理を進める。ステップ370では、CPUは、基準静電容量Crの更新を再開するとともに、操舵操作フラグFsの値を「0」に設定する(リセットする)。その後、CPUは、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0031】
これに対し、ステップ350にて操舵操作フラグFsの値が「0」である場合(ステップ350:No)、CPUは、イグニッションスイッチがオンされてから操舵操作が行われていない、或いは、過去に操舵操作が行われていたものの操舵操作が停止されてから時間Tが経過していると判定し、ステップ380に処理を進める。ステップ380では、CPUは、基準静電容量Crを更新する。その後、CPUは、ステップ395に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0032】
この構成によれば、検出静電容量Cが取得された場合において操舵トルクTsの絶対値が操舵トルク閾値Tsth以上であるときは基準静電容量Crの更新が停止される。即ち、運転者がハンドルSWのセンサ非設置部分A1、A2を保持して操舵操作しているときは基準静電容量Crの更新が停止される。このため、運転者がハンドルSWを保持しているにも関わらず基準静電容量Crの更新が不要に継続されることを抑制できる。その結果、外的影響を受けて保持判定閾値Chthが大きく減少する可能性を低減できるため、検出静電容量Cが保持判定閾値Chthを超え難くなり、保持固着状態の発生を抑制することができる。
【0033】
特に、本実施形態では、|Ts|≧Tsthの関係から|Ts|<Tsthの関係に変化してから時間Tがまだ経過していない場合にも基準静電容量Crの更新が停止される。運転者が操舵操作の最中にハンドルSWの操作方向を切り替えた場合、操舵トルクTsの絶対値が一時的に減少するが、時間Tを適切な値に設定することにより、ハンドルSWの操作方向を切り替える際に基準静電容量Crの更新が不要に行われることを抑制できる。その結果、保持固着状態の発生をより確実に抑制することができる。
【0034】
図4は、本実施装置の保持判定による判定結果を、従来の操舵ハンドル保持判定装置(以下、単に「従来装置」とも称する。)と比較したタイムチャートを示す。図4の例では、運転者はハンドルSWのセンサ非設置部分A1、A2を保持しているものとする。図4では、上から順に、操舵トルクTsの絶対値、操舵操作判定(図3のステップ320参照)、検出静電容量C、従来装置の基準静電容量Crp、従来装置の保持判定結果、本実施装置の基準静電容量Cr、及び、本実施装置の保持判定結果を静電容量ベースと操舵トルクベース(何れも後述)のタイムチャートをそれぞれ示している。
【0035】
この例では、運転者は時刻t3まで操舵操作を継続しており、時刻t3にて操舵操作を停止している。このため、1つ目のタイムチャート(|操舵トルクTs|)では、時刻t3にて|Ts|(実線参照)≧Tsthから|Ts|<Tsthに変化している。これにより、2つ目のタイムチャート(操舵操作判定)では、時刻t3にて操舵操作の判定結果が操作状態から無操作状態に転じている。
【0036】
また、この例では、時刻t1から時刻t2にかけて自車両が送電線の直下を通過することにより外的影響を受けている。このため、3つ目のタイムチャート(検出静電容量C)では、検出静電容量Cは時刻t1までは横ばいに推移しており、時刻t1から時刻t2にかけては漸減しており、時刻t2以降は増加している。この例では運転者はハンドルSWのセンサ非設置部分A1、A2を保持しているため、4つ目のタイムチャート(従来装置の基準静電容量Crp)では、外的影響を受けている期間中も基準静電容量Crpが更新されることによりその値は漸減している。これに伴い、従来装置の保持判定閾値Chpth(3つ目のタイムチャート参照)も漸減している。そして、時刻t2にて検出静電容量Cが保持判定閾値Chpthを上回ると、従来装置は基準静電容量Crpの更新を所定の期間(時刻t2から時刻t3までの期間より短い期間)だけ停止する。これにより、保持判定閾値Chpthは所定の期間だけ一定の値を維持する(3つ目のタイムチャート参照)。また、3つ目のタイムチャートによれば、時刻t2においてC≦ChpthからC>Chpthに転じているため、5つ目のタイムチャート(従来装置の保持判定結果)では、時刻t2まではハンドルSWは非保持状態にあると判定し、時刻t2から所定の期間はハンドルSWが保持状態にあると判定する。
【0037】
従来装置においては、時刻t2から所定の期間が経過すると、基準静電容量Crpの更新を再開する。3つ目のタイムチャートによれば、更新を再開した時点では外的影響が特にないため、検出静電容量Cは保持判定閾値Chpthを上回っている。このため、従来装置は、再度、ハンドルSWは保持状態にあると判定する(5つ目のタイムチャート参照)とともに、基準静電容量Crpの更新を所定の期間だけ停止する(4つ目のタイムチャート参照)。その後、この事態が連続的に発生することにより、従来装置では保持固着状態が発生している(5つ目のタイムチャート参照)。
【0038】
これに対し、6つ目のタイムチャート(本実施装置の基準静電容量Cr)では、本実施装置は、操舵操作の判定結果(2つ目のタイムチャート参照)に基づいて、時刻t3までは基準静電容量Crの更新を停止する。これにより、外的影響を受けている期間中に基準静電容量Crの更新が不要に継続されることが抑制される。また、時刻t3において、時間T(時刻t3からタイムチャートの終点までの時間よりも大きい値)だけ基準静電容量Crの更新を停止する。これに伴い、本実施装置の保持判定閾値Chth(3つ目のタイムチャート参照)は、タイムチャートの始点から終点まで一定の値を維持している。その結果、検出静電容量Cは保持判定閾値Chth以下で推移するため、7つ目のタイムチャート(本実施装置の静電容量ベースによる保持判定結果)では、タイムチャートの始点から終点までハンドルSWは非保持状態にあると判定する。これにより、保持固着状態の発生が抑制される。なお、この保持判定は検出静電容量Cに基づく判定であるため、以下では、「静電容量ベースによる保持判定」とも称する。
【0039】
本実施形態では、静電容量ベースによる保持判定に加え、更に、8つ目のタイムチャートに示すように、操舵トルクベースによる保持判定が行われる。この保持判定では、2つ目のタイムチャート(即ち、図3のステップ320の操舵操作判定)に基づいて、ハンドルSWが操舵操作されていると判定された場合はハンドルSWが保持状態にあると判定し、ハンドルSWが操舵操作されていないと判定された場合はハンドルSWが非保持状態にあると判定する。本実施装置は、静電容量ベースによる保持判定と操舵トルクベースによる保持判定のうち少なくとも一方においてハンドルSWが保持状態にあると判定された場合、ハンドルSWは保持状態にあると最終判定する。この構成によれば、保持固着状態の発生を抑制できることに加え、運転者がハンドルSWのセンサ非設置部分A1、A2を保持している場合においてハンドルSWが非保持状態にあると誤判定されることも抑制することができる。
【0040】
以上、実施形態に係る操舵ハンドル保持判定装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【0041】
例えば、|Ts|≧Tsthの関係から|Ts|<Tsthの関係に変化してから時間Tだけ基準静電容量Crの更新を停止する処理(図3のステップ350乃至370の処理)は行われなくてもよい。即ち、ステップ320にて「No」と判定された場合、直接ステップ380の処理が行われてもよい。一般に、ハンドルSWの操作方向を切り替えるのに要する時間は短いため、当該期間中に外的影響を受ける可能性は低く、また、たとえ外的影響を受けたとしても、保持判定閾値Chthが当該期間中に大幅に減少する可能性は低い。従って、この構成によっても、実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0042】
10:ステアリングECU10、11:静電容量センサ、12:操舵トルクセンサ

図1
図2
図3
図4