(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180558
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタ、マルチプレクサ、および弾性波デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20231214BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20231214BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20231214BHJP
H03H 9/70 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H9/54 Z
H03H3/02 B
H03H9/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093949
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】津田 裕太
(72)【発明者】
【氏名】岩城 遼
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA07
5J108BB01
5J108BB08
5J108CC04
5J108DD02
5J108EE03
5J108FF06
5J108KK01
5J108KK02
5J108MM11
5J108MM14
(57)【要約】
【課題】導電層の剥がれを抑制可能な弾性波デバイスを提供すること。
【解決手段】弾性波デバイス100は、圧電層14を貫通する貫通孔24に設けられて下部電極に電気的に接続する端子電極32aが、貫通孔24における圧電層14の側面40に接して設けられて凹形状をした導電層33と導電層33上に導電層33に接して設けられた導電層34とを含み、圧電層14と導電層33の熱膨張係数の差の絶対値が圧電層14と導電層34の熱膨張係数の差の絶対値より小さく、圧電層14の下面15bと貫通孔24における圧電層14の側面42とがなす角度θ2と導電層33の凹形状の底面46に対する側面44の傾斜角度のうち最大角度である角度θ3との差が、角度θ2と圧電層14の下面15bと内部に空隙を有する貫通孔22における圧電層14の側面40とがなす角度θ1との差より大きい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極および上部電極と、
一部の領域が前記下部電極と前記上部電極との間に挟まれ、前記一部の領域である共振領域の側方に前記共振領域に沿って設けられ前記上部電極側の第1面から前記下部電極側の第2面に貫通して内部に空隙を有する第1貫通孔と、前記下部電極上において前記第1面から前記第2面に貫通する第2貫通孔と、を有する圧電層と、
前記第2貫通孔に設けられて前記下部電極に電気的に接続され、前記第2貫通孔における前記圧電層の側面に接して設けられて凹形状をした第1導電層と前記第1導電層上に前記第1導電層に接して設けられた第2導電層とを含み、前記圧電層と前記第1導電層の熱膨張係数の差の絶対値が前記圧電層と前記第2導電層の熱膨張係数の差の絶対値より小さく、前記第2面と前記第2貫通孔における前記圧電層の側面とがなす第1角度と前記第1導電層の前記凹形状の底面に対する前記凹形状の側面の傾斜角度のうち最大角度である第2角度との差が、前記第1角度と前記第2面と前記第1貫通孔における前記圧電層の側面とがなす第3角度との差より大きい積層導電層と、を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記第1導電層の音響インピーダンスは、前記第2導電層の音響インピーダンスより高い、請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記第1導電層の電気抵抗率は、前記第2導電層の電気抵抗率より小さい、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記第1角度および前記第3角度は80°以上100°以下であり、前記第2角度は60°以下である、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記圧電層は単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層である、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記第1導電層は窒化チタン層またはニッケル層であり、
前記第2導電層はチタン層またはクロム層である、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記第1貫通孔は、前記共振領域の両側に設けられ、前記共振領域からの距離が同じである、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記第1貫通孔は、平面視において前記下部電極および前記上部電極がない領域に設けられている、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記積層導電層は、前記第2導電層上に前記第1導電層および前記第2導電層より電気抵抗率が小さい第3導電層を含む、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
下部電極および上部電極と、
一部の領域が前記下部電極と前記上部電極との間に挟まれ、前記一部の領域である共振領域の側方に前記共振領域に沿って設けられて前記上部電極側の第1面から前記下部電極側の第2面に貫通して内部に空隙を有する第1貫通孔と、前記下部電極上において前記第1面から前記第2面に貫通する第2貫通孔と、を有する単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層である圧電層と、
前記第2貫通孔に設けられて前記下部電極に電気的に接続され、前記第2貫通孔における前記圧電層の側面に接して設けられて凹形状をした窒化チタン層またはニッケル層である第1導電層と前記第1導電層上に前記第1導電層に接して設けられたチタン層またはクロム層である第2導電層とを含み、前記第2面と前記第2貫通孔における前記圧電層の側面とがなす第1角度と前記第1導電層の前記凹形状の底面に対する前記凹形状の側面の傾斜角度のうち最大角度である第2角度との差が、前記第1角度と前記第2面と前記第1貫通孔における前記圧電層の側面とがなす第3角度との差より大きい積層導電層と、を備える弾性波デバイス。
【請求項11】
請求項1または10に記載の弾性波デバイスを含むフィルタ。
【請求項12】
請求項11に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【請求項13】
下部電極上に圧電層を形成する工程と、
前記圧電層の一部の領域を前記下部電極との間に挟むように前記圧電層上に上部電極を形成する工程と、
前記圧電層に、前記一部の領域である共振領域の側方に前記共振領域に沿って前記圧電層の前記上部電極側の第1面から前記下部電極側の第2面に貫通する第1貫通孔と、前記下部電極上において前記第1面から前記第2面に貫通する第2貫通孔と、を同時に形成する工程と、
前記第2貫通孔における前記圧電層の側面に接して凹形状をした第1導電層を形成する工程と、
前記第1導電層の前記凹形状の底面に対する前記凹形状の側面の傾斜角度のうち最大角度が、前記圧電層の前記第2面と前記第2貫通孔における前記圧電層の側面とがなす角度より小さくなるように前記第1導電層を加工する工程と、
前記第1導電層を加工した後、前記圧電層と前記第1導電層の熱膨張係数の差よりも前記圧電層の熱膨張係数との差が大きくなる熱膨張係数を有する第2導電層を、前記第1導電層上に前記第1導電層に接して形成する工程と、を備える弾性波デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記第1導電層を加工する工程は、イオンミリング法または逆スパッタリング法を用いて前記第1導電層を加工する、請求項13に記載の弾性波デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタ、マルチプレクサ、および弾性波デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線端末の高周波回路用のフィルタおよびデュプレクサとして、圧電薄膜共振器を用いたフィルタおよびデュプレクサが知られている。圧電薄膜共振器は、圧電層と、圧電層を挟む下部電極および上部電極と、を備える。圧電層を挟み下部電極と上部電極が対向する領域は、弾性波が共振する共振領域である。圧電層に、大きな電気機械結合係数を有するニオブ酸リチウム層またはタンタル酸リチウム層を用いることが知られている(例えば特許文献1)。また、不要なスプリアスを抑制するために、圧電層の共振領域の側方に空隙を設けることが知られている(例えば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ting Wu、外4名、「Application of Free Side Edges to Thickness Shear Bulk Acoustic Resonator On Lithium Niobate for Suppression of Transverse Resonance」、弾性波素子技術コンソーシアム第2回研究会資料、令和3年3月8日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
下部電極にパッド等の導電層を接続させるために、圧電層に貫通孔を形成し、この貫通孔に導電層を形成することで、導電層を下部電極に接続させる場合がある。この場合、導電層を形成するための貫通孔は、製造工程の簡易化の点から、スプリアスを抑制するために共振領域の側方に形成する貫通孔と同時に形成されることが望ましい。しかしながら、この場合では、導電層を形成するための貫通孔の側壁が垂直に近くなり、導電層に剥がれが生じてしまうことがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、導電層の剥がれを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下部電極および上部電極と、一部の領域が前記下部電極と前記上部電極との間に挟まれ、前記一部の領域である共振領域の側方に前記共振領域に沿って設けられ前記上部電極側の第1面から前記下部電極側の第2面に貫通して内部に空隙を有する第1貫通孔と、前記下部電極上において前記第1面から前記第2面に貫通する第2貫通孔と、を有する圧電層と、前記第2貫通孔に設けられて前記下部電極に電気的に接続され、前記第2貫通孔における前記圧電層の側面に接して設けられて凹形状をした第1導電層と前記第1導電層上に前記第1導電層に接して設けられた第2導電層とを含み、前記圧電層と前記第1導電層の熱膨張係数の差の絶対値が前記圧電層と前記第2導電層の熱膨張係数の差の絶対値より小さく、前記第2面と前記第2貫通孔における前記圧電層の側面とがなす第1角度と前記第1導電層の前記凹形状の底面に対する前記凹形状の側面の傾斜角度のうち最大角度である第2角度との差が、前記第1角度と前記第2面と前記第1貫通孔における前記圧電層の側面とがなす第3角度との差より大きい積層導電層と、を備える弾性波デバイスである。
【0008】
上記構成において、前記第1導電層の音響インピーダンスは、前記第2導電層の音響インピーダンスより高い構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記第1導電層の電気抵抗率は、前記第2導電層の電気抵抗率より小さい構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第1角度および前記第3角度は80°以上100°以下であり、前記第2角度は60°以下である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記圧電層は単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第1導電層は窒化チタン層またはニッケル層であり、
前記第2導電層はチタン層またはクロム層である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記第1貫通孔は、前記共振領域の両側に設けられ、前記共振領域からの距離が同じである構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記第1貫通孔は、平面視において前記下部電極および前記上部電極がない領域に設けられている構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記積層導電層は、前記第2導電層上に前記第1導電層および前記第2導電層より電気抵抗率が小さい第3導電層を含む構成とすることができる。
【0016】
本発明は、下部電極および上部電極と、一部の領域が前記下部電極と前記上部電極との間に挟まれ、前記一部の領域である共振領域の側方に前記共振領域に沿って設けられて前記上部電極側の第1面から前記下部電極側の第2面に貫通して内部に空隙を有する第1貫通孔と、前記下部電極上において前記第1面から前記第2面に貫通する第2貫通孔と、を有する単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層である圧電層と、前記第2貫通孔に設けられて前記下部電極に電気的に接続され、前記第2貫通孔における前記圧電層の側面に接して設けられて凹形状をした窒化チタン層またはニッケル層である第1導電層と前記第1導電層上に前記第1導電層に接して設けられたチタン層またはクロム層である第2導電層とを含み、前記第2面と前記第2貫通孔における前記圧電層の側面とがなす第1角度と前記第1導電層の前記凹形状の底面に対する前記凹形状の側面の傾斜角度のうち最大角度である第2角度との差が、前記第1角度と前記第2面と前記第1貫通孔における前記圧電層の側面とがなす第3角度との差より大きい積層導電層と、を備える弾性波デバイスである。
【0017】
本発明は、上記に記載の弾性波デバイスを含むフィルタである。
【0018】
本発明は、請求項11に記載のフィルタを含むマルチプレクサである。
【0019】
本発明は、下部電極上に圧電層を形成する工程と、前記圧電層の一部の領域を前記下部電極との間に挟むように前記圧電層上に上部電極を形成する工程と、前記圧電層に、前記一部の領域である共振領域の側方に前記共振領域に沿って前記圧電層の前記上部電極側の第1面から前記下部電極側の第2面に貫通する第1貫通孔と、前記下部電極上において前記第1面から前記第2面に貫通する第2貫通孔と、を同時に形成する工程と、前記第2貫通孔における前記圧電層の側面に接して凹形状をした第1導電層を形成する工程と、前記第1導電層の前記凹形状の底面に対する前記凹形状の側面の傾斜角度のうち最大角度が、前記圧電層の前記第2面と前記第2貫通孔における前記圧電層の側面とがなす角度より小さくなるように前記第1導電層を加工する工程と、前記第1導電層を加工した後、前記圧電層と前記第1導電層の熱膨張係数の差よりも前記圧電層の熱膨張係数との差が大きくなる熱膨張係数を有する第2導電層を、前記第1導電層上に前記第1導電層に接して形成する工程と、を備える弾性波デバイスの製造方法である。
【0020】
上記構成において、前記第1導電層を加工する工程は、イオンミリング法または逆スパッタリング法を用いて前記第1導電層を加工する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、導電層の剥がれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図である。
【
図3】
図3(a)は、
図2(b)の貫通孔近傍を拡大した断面図、
図3(b)は、
図2(a)の端子電極近傍を拡大した断面図である。
【
図4】
図4(a)および
図4(b)は、実施例1における圧電層の結晶方位を示す図である。
【
図5】
図5(a)から
図5(d)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図6】
図6(a)から
図6(d)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図7】
図7(a)から
図7(d)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図8】
図8(a)から
図8(f)は、貫通孔および端子電極の形成方法を示す断面図(その1)である。
【
図9】
図9(a)から
図9(f)は、貫通孔および端子電極の形成方法を示す断面図(その2)である。
【
図10】
図10(a)は、実施例1の変形例における貫通孔近傍の断面図、
図10(b)は、実施例1の変形例における端子電極近傍の断面図である。
【
図11】
図11(a)から
図11(e)は、実施例1の変形例における端子電極の形成方法を示す断面図である。
【
図14】
図14(a)から
図14(c)は、比較例における端子電極の形成方法を示す断面図である。
【
図17】
図17は、実施例4に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例0024】
図1は、実施例1に係る弾性波デバイス100の平面図である。
図2(a)は、
図1のA-A断面図、
図2(b)は、
図1のB-B断面図である。
図1においては、図の明瞭化のために、共振領域50にハッチングを付し、貫通孔22を他よりも太い線で図示している。圧電層14の法線方向をZ方向、圧電層14の平面方向のうち上部電極16の引き出し方向を+Y方向、下部電極12の引き出し方向を-Y方向、±Y方向に直交する方向をX方向とする。なお、X方向、Y方向、およびZ方向は、圧電層14の結晶方位のX軸、Y軸、およびZ軸とは必ずしも対応しない。
【0025】
図1、
図2(a)、および
図2(b)に示すように、弾性波デバイス100は、下部電極12と圧電層14と上部電極16とを備える圧電薄膜共振器である。基板10上に音響反射膜31が設けられ、音響反射膜31上に圧電層14が設けられている。圧電層14の上面15aおよび下面15bは平坦面である。圧電層14の上下に上部電極16および下部電極12が設けられている。圧電層14の少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16とが平面視において重なる領域が共振領域50である。
【0026】
基板10は、例えばシリコン基板、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板、またはGaAs基板等である。圧電層14は、例えば単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層である。圧電層14の厚さは例えば200nm~1000nm程度である。下部電極12および上部電極16は、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜である。下部電極12および上部電極16の厚さは例えば20nm~150nm程度である。
【0027】
下部電極12上において圧電層14を上面15aから下面15bにかけて貫通する貫通孔24が設けられ、貫通孔24を埋め込むように下部電極12に電気的に接続する端子電極32aが設けられている。電気的に接続とは、直流および交流のいずれか一方で導通があるように接続されていればよい。上部電極16上には、上部電極16に電気的に接続する端子電極32bが設けられている。端子電極32a、32bは、導電層33と導電層34と導電層35の積層導電層である。導電層34は導電層35を密着させるための密着層としての機能を有する。
【0028】
端子電極32aと平面視で重なるように下部電極12下に金属膜20が設けられている。金属膜20は、圧電層14に貫通孔24を形成する際に下部電極12まで除去してしまった場合でも、端子電極32aと下部電極12とが電気的に接続するために設けられている。金属膜20は例えばチタン膜である。
【0029】
端子電極32aと端子電極32bとの間(すなわち下部電極12と上部電極16との間)に高周波電力が印加されると、共振領域50内の圧電層14に弾性波が励振する。弾性波の波長は下部電極12、圧電層14、および上部電極16の厚さの合計のほぼ2倍である。圧電層14が単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層である場合、圧電層14には弾性波の変位がZ方向にほぼ直交する方向(すなわち厚さに対して歪み方向)に振動する弾性波が励振される。この振動を厚みすべり振動という。厚みすべり振動の変位の最も大きい方向(厚みすべり振動の変位方向)を厚みすべり振動の振動方向80とする。ここでは、厚みすべり振動の振動方向80はY方向である。共振領域50の平面形状は矩形である。矩形はほぼ直線の4つの辺を有する。4つの辺のうち一対の辺はY方向(すなわち厚みすべり振動の振動方向80)にほぼ沿って伸び、別の一対の辺はX方向(すなわち厚みすべり振動の振動方向80に直交する方向)にほぼ沿って伸びている。
【0030】
音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜31aと音響インピーダンスの高い膜31bとが交互に設けられている。膜31aおよび31bの膜厚は例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。これにより、音響反射膜31は弾性波を反射する。膜31aと膜31bの積層数は任意に設定できる。音響反射膜31は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜31の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が1層設けられている場合でもよい。平面視において、音響反射膜31は共振領域50に重なり、音響反射膜31は共振領域50と同じ大きさまたは共振領域50より大きい。音響反射膜31の音響インピーダンスの低い膜31aは例えば酸化シリコン膜であり、高い膜31bは例えばタングステン膜である。
【0031】
共振領域50は、中央領域52と、中央領域52に対してY方向の両側に位置するエッジ領域54aおよび54bと、を有する。エッジ領域54a、54bはほぼX方向に沿って伸びている。エッジ領域54a、54bのY方向の幅はX方向においてほぼ一定である。
【0032】
上部電極16上に、エッジ領域54aから共振領域50の外の領域56aにかけて付加膜18aが設けられている。上部電極16および圧電層14上に、エッジ領域54bから共振領域50の外の領域56bにかけて付加膜18bが設けられている。付加膜18a、18bは中央領域52には設けられていない。付加膜18a、18bは、ほぼX方向に沿って形成され、Y方向の幅がX方向においてほぼ一定である。付加膜18a、18bは、下部電極12および上部電極16において例示した金属膜、もしくは、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化タンタル膜、または酸化ニオブ膜等の絶縁膜である。付加膜18a、18bが設けられることで、ピストンモードが実現されるため、スプリアスを抑制できる。
【0033】
圧電層14には、X方向から共振領域50を挟み、Y方向において共振領域50に沿った一対の貫通孔22が形成されている。貫通孔22は、例えば平面視において下部電極12および上部電極16がない領域に設けられている。例えば、平面視において、貫通孔22は、X方向における共振領域50の両側において共振領域50に接している。すなわち、平面視において、貫通孔22は矩形の共振領域50のX方向で対向する辺を規定している。なお、貫通孔22は、共振領域50に接してなく、共振領域50から離れて設けられていてもよい。貫通孔22は、共振領域50の両側に共振領域50から同じ距離となって形成されている場合が好ましい。貫通孔22は、例えば平面視において矩形状をしている。付加膜18a、18bおよび一対の貫通孔22は、平面視において、共振領域50の周りを囲むように設けられている。付加膜18a、18bのY方向の幅は、例えば20μm~100μm程度である。貫通孔22のX方向の幅は、例えば20μm~100μm程度である。貫通孔22が設けられることで、共振領域50に励振された弾性波は共振領域50内に閉じ込められるようになる。なお、このような貫通孔22による弾性波の閉じ込め効果は、櫛型電極を備える弾性波デバイス、ラブ波等の弾性表面波やラム波を用いた弾性波デバイスでも得られる。
【0034】
図3(a)は、
図2(b)の貫通孔22近傍を拡大した断面図、
図3(b)は、
図2(a)の端子電極32a近傍を拡大した断面図である。
図3(a)に示すように、貫通孔22における圧電層14の側面40は、スプリアスを抑制する点から、垂直になっていることが望ましい。圧電層14の下面15bと貫通孔22における圧電層14の側面40とがなす角度θ1は、例えば80°以上100°以下である。
【0035】
図3(b)に示すように、貫通孔24は貫通孔22と同時に形成されることから、圧電層14の下面15bと貫通孔24における圧電層14の側面42とがなす角度θ2は、圧電層14の下面15bと貫通孔22における圧電層14の側面40とがなす角度θ1と同じ角度となっている。つまり、角度θ2は例えば80°以上100°以下である。同じ角度は、製造誤差程度の差を許容する。
【0036】
端子電極32aに含まれる導電層33は、貫通孔24における圧電層の側面42に接して設けられ、凹形状をしている。導電層33の凹形状の底面46に対する凹形状の側面44の傾斜角度のうち最大の角度θ3は、圧電層14の下面15bと貫通孔24における圧電層14の側面42とがなす角度θ2より小さい。角度θ3は例えば20°以上60°以下である。
【0037】
したがって、角度θ2と角度θ3との差(θ2-θ3)は、角度θ2と角度θ1との差(θ2-θ1)より大きい。
【0038】
導電層33の熱膨張係数と導電層34の熱膨張係数とを比べると、導電層33の熱膨張係数は導電層34の熱膨張係数よりも圧電層14の熱膨張係数に近い。例えば、導電層33の熱膨張係数は、圧電層14の熱膨張係数と導電層34の熱膨張係数の間の値である。したがって、圧電層14の熱膨張係数と導電層33の熱膨張係数との差の絶対値は、圧電層14の熱膨張係数と導電層34の熱膨張係数との差の絶対値よりも小さい。また、導電層33の音響インピーダンスは導電層34の音響インピーダンスより高い。一例として、導電層33は窒化チタン層またはニッケル層であり、導電層34はチタン層またはクロム層である。また、導電層35は、導電層33、34より電気抵抗率が小さい。一例として、導電層35は金層またはアルミニウム層である。
【0039】
表1に、窒化チタン、ニッケル、チタン、クロム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、金、およびアルミニウムの熱膨張係数(ppm/K)、電気抵抗率(μΩ・cm)、密度(kg/m
3)、体積弾性率(GPa)、音速(m/s)、音響インピーダンス、およびニオブ酸リチウムに対する弾性波の反射率を示す。反射率は、ニオブ酸リチウムの音響インピーダンスをZa、各材料の音響インピーダンスをZbとした場合に、(Zb-Za)/(Zb+Za)により算出した。
【表1】
【0040】
表1のように、窒化チタンの熱膨張係数は9.4ppm/K、ニッケルの熱膨張係数は15ppm/K、チタンの熱膨張係数は8.4ppm/K、クロムの熱膨張係数は8.4ppm/K、ニオブ酸リチウムの熱膨張係数は14ppm/K、タンタル酸リチウムの熱膨張係数は16ppm/Kである。したがって、圧電層14がニオブ酸リチウム層またはタンタル酸リチウム層、導電層33が窒化チタン層またはニッケル層、導電層34がチタン層またはクロム層である場合、圧電層14の熱膨張係数と導電層33の熱膨張係数との差の絶対値は、圧電層14の熱膨張係数と導電層34の熱膨張係数との差の絶対値よりも小さい。また、窒化チタンの音響インピーダンスは3.62×107、ニッケルの音響インピーダンスは4.00×107、チタンの音響インピーダンスは2.23×107、クロムの音響インピーダンスは3.39×107ある。したがって、導電層33が窒化チタン層またはニッケル層、導電層34がチタン層またはクロム層である場合、導電層33の音響インピーダンスは導電層34の音響インピーダンスより高い。また、窒化チタンの電気抵抗率は25μΩ・cm、ニッケルの電気抵抗率は6.84μΩ・cm、チタンの電気抵抗率は42μΩ・cm、クロムの電気抵抗率は12.9μΩ・cm、金の電気抵抗率は2.35μΩ・cm、アルミニウムの電気抵抗率は2.65μΩ・cmである。したがって、導電層33が窒化チタン層またはニッケル層、導電層34がチタン層、導電層35が金層またはアルミニウム層である場合、導電層35は、導電層33、34より電気抵抗率が小さい。
【0041】
図4(a)および
図4(b)は、実施例1における圧電層14の結晶方位を示す斜視図である。
図4(a)は圧電層14がニオブ酸リチウムの場合を示し、
図4(b)は圧電層14がタンタル酸リチウムの場合を示す。
図4(a)および
図4(b)における左側の破線矢印は
図1、
図2(a)、および
図2(b)のX方向、Y方向、およびZ方向に対応する。右側の図のうち実線は圧電層14の結晶軸の方位を示す図である。ここで、オイラー角(α、β、γ)は以下のように定義される。右手系のXYZ座標系において、圧電層14の上面の法線方向をZ方向とし、Z方向に直交する方向であって圧電層14の上面の面方向で互いに直交する方向をX方向およびY方向とする。まず、X方向、Y方向、およびZ方向をそれぞれ結晶方位のX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向とする。次に、Z軸方向を中心に+X軸方向から+Y軸方向にα回転させる。α回転後のX軸方向を中心に+Y軸方向から+Z軸方向にβ回転させる。β回転後のZ軸方向を中心に+X軸方向から+Y軸方向にγ回転させる。このように結晶方位を回転させた結晶のオイラー角が(α、β、γ)である。なお、本実施例では、α、β、およびγとして0°~180°を用い表現するが、(α、β、γ)を用い表現されるオイラー角は、等価なオイラー角を含む。
【0042】
まず、圧電層14がニオブ酸リチウムの場合について説明する。
図4(a)の上図に示すように、+X方向、+Y方向、および+Z方向をそれぞれ圧電層14の結晶方位の+X軸方向、+Y軸方向、および+Z軸方向とする。この状態から、X軸方向を中心にY軸Z軸平面上において+Y軸方向および+Z軸方向を+Y軸方向から+Z軸方向に105°回転させる。このように回転させると、
図4(a)の下図に示すように、+Z方向は+Z軸方向を+Y軸方向に向かって105°回転させた方向となる。このとき、Y方向が厚みすべり振動の振動方向80となる。オイラー角では(0°、105°、0°)となる。
【0043】
圧電層14の上面の法線方向(Z方向)はY軸Z軸平面内の方向である。これにより、圧電層14の平面方向に厚みすべり振動が生じる。X軸方向は、圧電層14の平面方向から±5°の範囲内とすることが好ましく、±1°の範囲内とすることがより好ましい。圧電層14の上面の法線方向(Z方向)を結晶方位の+Z軸方向から+Y軸方向に105°回転した方向とする。これにより、厚みすべり振動の振動方向80およびその直交方向が圧電層14の平面方向となる。+Z方向は、+Z軸方向から+Y軸方向に105°回転した方向から±5°の範囲内とすることが好ましく、±1°の範囲内とすることがより好ましい。オイラー角では(0°±5°、105°±5°、0°±5)とすることが好ましい。
【0044】
次に、圧電層14がタンタル酸リチウムの場合について説明する。
図4(b)の上図に示すように、+X方向、+Y方向、および+Z方向をそれぞれ圧電層14の結晶方位の+X軸方向、+Y軸方向、および+Z軸方向とする。この状態から、Z軸方向を中心にX軸Y軸平面上において+X軸方向および+Y軸方向を+X軸方向から+Y軸方向に138°回転させる。次に、X軸方向を中心に+Y軸方向および+Z軸方向を+Y軸方向から+Z軸方向に90°回転させ、その後、Z軸方向を中心に+X軸方向および+Y軸方向を+X軸方向から+Y軸方向に90°回転させる。このように回転させると、
図4(b)の下図に示すように、+Z方向は+X軸方向となり、-Y方向は+Y軸方向を-Z軸方向に42°回転させた方向となる。このとき、Y方向が厚みすべり振動の振動方向80となる。オイラー角では(138°、90°、90°)となる。
【0045】
圧電層14の上面の法線方向(Z方向)はX軸方向である。これにより、圧電層14の平面方向では厚みすべり振動が生じる。X軸方向は、圧電層14の法線方向から±5°の範囲内とすることが好ましく、±1°の範囲内とすることがより好ましい。結晶方位の+Y軸方向から-Z軸方向に42°回転させた方向をY方向とする。これにより、圧電層14の平面方向のうち+Y軸方向から-Z軸方向に42°回転させた方向が厚みすべり振動の振動方向80となる。オイラー角では(138°±5°、90°±5°、90°±5)とすることが好ましい。
【0046】
[実施例1の製造方法]
図5(a)から
図8(d)は、実施例1に係る弾性波デバイス100の製造方法を示す断面図である。
図5(a)、
図5(c)、
図6(a)、
図6(c)、
図7(a)、
図7(c)は、
図1のA-A間に相当する箇所の断面図、
図5(b)、
図5(d)、
図6(b)、
図6(d)、
図7(b)、
図7(d)は、
図1のB-B間に相当する箇所の断面図である。
図5(a)および
図5(b)に示すように、圧電層14として圧電基板を準備する。圧電層14上に下部電極12を形成する。下部電極12上に金属膜20を形成する。下部電極12および金属膜20は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて金属膜を成膜し、金属膜を例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて所望の形状にパターニングすることで形成する。下部電極12および金属膜20はリフトオフ法を用いて形成してもよい。
【0047】
図5(c)および
図5(d)に示すように、圧電層14上に下部電極12および金属膜20を覆うように音響反射膜31を形成する。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜31aと高い膜31bを交互に成膜し、音響インピーダンスの高い膜31bに関しては所望の形状にパターニングすることにより形成する。膜31a、31bの成膜は例えばスパッタリング法またはCVD法を用い、パターニングは例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いる。音響反射膜31の上面を例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)を用い平坦化する。
【0048】
図6(a)および
図6(b)に示すように、圧電層14および音響反射膜31の積層体を上下反転させ、音響反射膜31の下面を基板10の上面に接合させる。接合には例えば表面活性化法を用いる。基板10と音響反射膜31との間にシリコン膜等の接合層を設けてもよい。次いで、圧電層14を所望の厚さに薄膜化する。薄膜化には、例えば研削法および/またはCMP法を用いる。例えば研削法を用いて圧電層14をほぼ所望の厚さとし、CMP法を用いて上面を平坦化する。これにより、圧電層14の上面15aは製造誤差程度に平坦面となる。
【0049】
図6(c)および
図6(d)に示すように、圧電層14上に上部電極16を形成する。上部電極16は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用いて金属膜を成膜し、金属膜を例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて所望の形状にパターニングすることで形成する。上部電極16はリフトオフ法を用いて形成してもよい。上部電極16上に付加膜18a、18bを形成する。付加膜18a、18bは、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用いて膜を成膜し、この膜を例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて所望の形状にパターニングすることで形成する。付加膜18a、18bはリフトオフ法を用いて形成してもよい。
【0050】
図7(a)および
図7(b)に示すように、圧電層14に上面15aから下面15bにかけて貫通する貫通孔22、24を形成する。貫通孔22、24の形成は例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いる。貫通孔22、24は、同時に形成されかつ幅が深さよりも10倍以上あることから、側壁が同じような角度となって形成される。
【0051】
図7(c)および
図7(d)に示すように、下部電極12に電気的に接続されるように貫通孔24に端子電極32aを形成し、上部電極16に電気的に接続されるように上部電極16上に端子電極32bを形成する。
【0052】
ここで、
図8(a)から
図9(f)を用いて、貫通孔22、24および端子電極32aの形成方法について詳しく説明する。
図8(a)、
図8(c)、
図8(e)、
図9(a)、
図9(c)、
図9(e)は、貫通孔24および端子電極32aが形成される箇所の断面図、
図8(b)、
図8(d)、
図8(f)、
図9(b)、
図9(d)、
図9(f)は、貫通孔22が形成される箇所の断面図である。
【0053】
図8(a)および
図8(b)に示すように、圧電層14上にレジスト膜60を形成する。レジスト膜60には、貫通孔22、24を形成する箇所に対応した開口が形成されている。レジスト膜60をマスクとして、イオンミリング法を用いて圧電層14をエッチングする。これにより、圧電層14に貫通孔22、24が形成される。貫通孔22、24は同時に形成されかつ幅が深さよりも10倍以上ある(
図8(a)および
図8(b)では図面の制約上この点は図示されていない)ことから、側壁が同じような角度となって形成される。したがって、
図3(a)および
図3(b)で説明したように、圧電層14の下面15bと貫通孔22における圧電層14の側面40とがなす角度θ1と、圧電層14の下面15bと貫通孔24における圧電層14の側面42とがなす角度θ2とは、同じ角度となる。スプリアスを抑制するために、貫通孔22における圧電層14の側面40は垂直に近くなるようにすることから、角度θ1および角度θ2は80°以上100°以下になるようにする。
【0054】
図8(c)および
図8(d)に示すように、レジスト膜60を除去した後、圧電層14上に端子電極32aを形成する箇所に対応した開口を有するレジスト膜62を形成する。
【0055】
図8(e)および
図8(f)に示すように、レジスト膜62をマスクとして、スパッタリング法を用いて導電層33を成膜する。導電層33は、貫通孔24における圧電層14の側面42に接して形成される。
【0056】
図9(a)および
図9(b)に示すように、イオンミリング法を用いて導電層33をエッチングする。この際に、基板10を傾斜させてイオンビームを導電層33に斜め方向から入射させる。これにより、凹形状をした導電層33の底面46は薄くなるとともに、側面44が底面46に対して傾斜するようになる。よって、
図3(b)で説明したように、導電層33の凹形状の底面46に対する凹形状の側面44の傾斜角度のうち最大の角度θ3は、圧電層14の下面15bと貫通孔24における圧電層14の側面42とがなす角度θ2より小さくなり、例えば20°以上60°以下となる。
【0057】
図9(c)および
図9(d)に示すように、導電層33上に真空蒸着法を用いて導電層34を成膜する。導電層34上に真空蒸着法を用いて導電層35を成膜する。例えば、スパッタリング法によって導電層33を形成した後、真空蒸着法によって導電層35を形成する場合、導電層35の密着のために導電層34を形成することとなる。
【0058】
図9(e)および
図9(f)に示すように、レジスト膜62上の導電層33と導電層34と導電層35をフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて除去した後、レジスト膜62を除去する。これにより、導電層33と導電層34と導電層35の積層膜であり、圧電層14に形成された貫通孔24に埋め込まれて下部電極12に電気的にされた端子電極32aが形成される。
【0059】
[変形例]
図10(a)は、実施例1の変形例における貫通孔22近傍の断面図、
図10(b)は、実施例1の変形例における端子電極32a近傍の断面図である。実施例1では、
図3(b)のように、導電層33の底面46は圧電層14の上面15aよりも下に位置している。これに対し、実施例1の変形例では、
図10(b)のように、導電層33の底面46は圧電層14の上面15aより上に位置している。
【0060】
実施例1の変形例でも、実施例1と同じく、圧電層14の下面15bと貫通孔22における圧電層14の側面40とがなす角度θ1と、圧電層14の下面15bと貫通孔24における圧電層14の側面42とがなす角度θ2とは、同じ角度であり、例えば80°以上100°以下である。導電層33の凹形状の底面46に対する凹形状の側面44の傾斜角度のうち最大の角度θ3は、圧電層14の下面15bと貫通孔24における圧電層14の側面42とがなす角度θ2より小さく、例えば20°以上60°以下である。したがって、角度θ2と角度θ3との差(θ2-θ3)は、角度θ2と角度θ1との差(θ2-θ1)より大きい。
【0061】
[実施例1の変形例の製造方法]
図11(a)から
図11(e)は、実施例1の変形例における端子電極32aの形成方法を示す断面図である。
図11(a)に示すように、まず実施例1の
図8(a)および
図8(c)で説明した工程と同じ工程を行い、圧電層14に貫通孔24を形成した後に圧電層14上に端子電極32aを形成する箇所に対応した開口を有するレジスト膜62を形成する。貫通孔24は、実施例1で説明したように、貫通孔22と同時に形成される。
【0062】
図11(b)に示すように、レジスト膜62をマスクとして、スパッタリング法を用いて導電層33を成膜する。導電層33は、貫通孔24における圧電層14の側面42に接して形成される。
【0063】
図11(c)に示すように、逆スパッタリング法を用いて導電層33をエッチングする。逆スパッタリング法によって導電層33をエッチングした場合、エッチングされた原子が再び導電層33に付着することが生じやすい。このため、導電層33の凹形状の側面44がエッチングされて傾斜すると共に、エッチングされた原子が底面46に付着し、底面46が圧電層14の上面15aより上に位置するようになる。これにより、
図10(b)で説明したように、導電層33の凹形状の底面46に対する凹形状の側面44の傾斜角度のうち最大の角度θ3は、圧電層14の下面15bと貫通孔24における圧電層14の側面42とがなす角度θ2より小さくなり、例えば20°以上60°以下となる。
【0064】
図11(d)に示すように、導電層33上に真空蒸着法を用いて導電層34を成膜する。導電層34上に真空蒸着法を用いて導電層35を成膜する。
【0065】
図11(e)に示すように、レジスト膜62上の導電層33と導電層34と導電層35をフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて除去した後、レジスト膜62を除去する。これにより、導電層33と導電層34と導電層35の積層膜であり、圧電層14に形成された貫通孔24に埋め込まれて下部電極12に電気的にされた端子電極32aが形成される。
【0066】
[比較例]
図12(a)および
図12(b)は、比較例に係る弾性波デバイス500の断面図である。
図13(a)は、
図12(b)の貫通孔22近傍を拡大した断面図、
図13(b)は、
図12(a)の端子電極32a近傍を拡大した断面図である。
図12(a)、
図12(b)、
図13(a)、および
図13(b)に示すように、比較例に係る弾性波デバイス500では、端子電極32a、32bは、導電層34と導電層35の積層膜である。端子電極32aにおいて、導電層34は貫通孔24における圧電層14の側面42に接して設けられ、導電層35は導電層34上に設けられている。圧電層14の下面15bと貫通孔22における圧電層14の側面40とがなす角度θ1と、圧電層14の下面15bと貫通孔24における圧電層14の側面42とがなす角度θ2とは、実施例1と同様に、同じ角度となっていて、例えば80°以上100°以下である。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0067】
[比較例の製造方法]
図14(a)から
図14(c)は、比較例における端子電極32aの形成方法を示す断面図である。
図14(a)に示すように、まず実施例1の
図8(a)および
図8(c)で説明した工程と同じ工程を行い、圧電層14に貫通孔24を形成した後に圧電層14上に端子電極32aを形成する箇所に対応した開口を有するレジスト膜62を形成する。貫通孔24は、実施例1で説明したように、貫通孔22と同時に形成される。
【0068】
図14(b)に示すように、レジスト膜62をマスクとして、真空蒸着法を用いて導電層34を成膜する。導電層34は、貫通孔24における圧電層14の側面42に接して形成される。導電層34上に真空蒸着法を用いて導電層35を成膜する。
【0069】
図14(c)に示すように、レジスト膜62上の導電層34と導電層35をフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて除去した後、レジスト膜62を除去する。これにより、導電層34と導電層35の積層膜であり、圧電層14に形成された貫通孔24に埋め込まれて下部電極12に電気的にされた端子電極32aが形成される。
【0070】
比較例に係る弾性波デバイス500では、
図13(b)のように、端子電極32aに含まれる導電層34は貫通孔24における圧電層14の側面42に接して形成されている。圧電層14の下面15bと貫通孔24における圧電層14の側面42とがなす角度θ2は80°以上100°以下とほぼ垂直であることから、圧電層14の側面42と導電層34との間の密着性が良くない。このため、例えば温度変化に伴う圧電層14および導電層34の熱伸縮によって導電層34に熱応力が加わり、領域Aにおいて導電層34が圧電層14の側面42から剥離することがある。この場合、導電層34および/または導電層35に亀裂が生じて、端子電極32aの電気抵抗の増加等が生じてしまうことがある。
【0071】
一方、実施例1およびその変形例によれば、
図3(b)および
図10(b)のように、導電層33が貫通孔24における圧電層14の側面42に接して設けられ、導電層34が凹形状をした導電層33上に導電層33に接して設けられている。導電層33の凹形状の側面44は、貫通孔24における圧電層14の側面42に比べて傾斜している。したがって、圧電層14の下面15bと貫通孔24における圧電層14の側面42とがなす角度θ2と導電層33の凹形状の底面46に対する凹形状の側面44の傾斜角度のうち最大の角度θ3との差は、圧電層14の下面15bと貫通孔24における圧電層14の側面42とがなす角度θ2と圧電層14の下面15bと貫通孔22における圧電層14の側面40とがなす角度θ1との差より大きい。このように、導電層34は貫通孔24における圧電層14の側面42より傾斜した導電層33の凹形状の側面44に接して形成されることから、導電層34と導電層33の間に密着性が良好となり、導電層34が導電層33から剥がれることが抑制される。また、導電層33は、導電層34と比べて、熱膨張係数が圧電層14の熱膨張係数に近い。すなわち、圧電層14の熱膨張係数と導電層33の熱膨張係数との差の絶対値は、圧電層14の熱膨張係数と導電層34の熱膨張係数との差の絶対値より小さい。このため、温度変化に伴って圧電層14と導電層33が熱伸縮したとしても、導電層33は導電層34に比べて熱膨張係数が圧電層14に近いことから、導電層33に加わる熱応力が低減される。よって、導電層33が圧電層14の側面42から剥がれることが抑制される。
【0072】
また、実施例1およびその変形例によれば、
図8(a)および
図8(b)のように、圧電層14に、共振領域50の側方に共振領域50に沿って圧電層14の上面15aから下面15bに貫通する貫通孔22と、下部電極12上において圧電層14の上面15aから下面15bに貫通する貫通孔24と、を同時に形成する。その後、
図8(e)および
図11(b)のように、貫通孔24における圧電層14の側面42に接して凹形状をした導電層33を形成する。
図9(a)および
図11(c)のように、導電層33の凹形状の底面46に対する凹形状の側面44の傾斜角度のうち最大の角度θ3(
図3(b)、
図10(b)参照)が、圧電層14の下面15bと貫通孔24における圧電層14の側面42とがなす角度θ2(
図3(b)、
図10(b)参照)より小さくなるように導電層33を加工する。
図9(c)および
図11(d)のように、導電層33を加工した後、圧電層14と導電層33の熱膨張係数の差よりも圧電層14の熱膨張係数との差が大きい導電層34を、導電層33上に導電層33に接して形成する。これにより、導電層34が導電層33から剥がれることが抑制され、かつ、導電層33が圧電層14の側面42から剥がれることが抑制される。
【0073】
また、実施例1およびその変形例では、イオンミリング法または逆スパッタリング法を用いて、角度θ3が角度θ2より小さくなるように導電層33を加工する。これにより、角度θ3を容易に角度θ2より小さくすることができる。
【0074】
また、実施例1およびその変形例では、導電層33の音響インピーダンスは導電層34の音響インピーダンスより高い。このように、音響インピーダンスの高い導電層33が圧電層14の側面42に接して設けられることで、表1に示すように、弾性波の反射率が大きくなる。よって、弾性波が共振領域50に閉じ込められ易くなり、弾性波が共振領域50から外部に漏れることを抑制できる。
【0075】
また、実施例1およびその変形例では、導電層33の電気抵抗率は導電層34の電気抵抗率より小さい。これにより、導電層33を設けた場合でも、導電層33での発熱を抑制することができる。
【0076】
また、実施例1およびその変形例では、圧電層14の下面15bと貫通孔22における圧電層14の側面40とがなす角度θ1、および、圧電層14の下面15bと貫通孔24における圧電層14の側面42とがなす角度θ2は80°以上100°以下である。貫通孔22における角度θ1が80°以上100°以下であることで、スプリアスを効果的に抑制できる。導電層33の凹形状の底面46に対する凹形状の側面44の傾斜角度のうち最大の角度θ3は60°以下である。これにより、導電層34が導電層33から剥がれることを効果的に抑制できる。スプリアスを抑制する点から、角度θ1は82°以上98°以下が好ましく、85°以上95°以下がより好ましく、88°以上92°以下が更に好ましい。導電層34の剥がれを抑制する点から、角度θ3は55°以下が好ましく、50°以下がより好ましく、45°以下が更に好ましい。デバイスの大型化を抑制する点から、角度θ3は20°以上が好ましく、30°以上がより好ましく、40°以上が更に好ましい。
【0077】
また、実施例1およびその変形例では、圧電層14は単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層であり、導電層33は窒化チタン層またはニッケル層であり、導電層34はチタン層またはクロム層である。このような材料を用いる場合、比較例のように、導電層34を圧電層14の側面42に接して設けると、導電層34の剥がれが生じることがあるが、圧電層14と導電層34の間に導電層33を設けることで、導電層33、34の剥がれを抑制することができる。なお、各層は、上記材料の原子を主成分としていれば、不純物を数原子%程度含むような場合を許容する。
【0078】
また、実施例1およびその変形例では、貫通孔22は、共振領域50の両側に設けられ、共振領域50からの距離が同じである。これにより、スプリアスを効果的に抑制できる。
【0079】
また、実施例1およびその変形例では、導電層34上に導電層33、34より電気抵抗率が小さい導電層35が設けられている。これにより、端子電極32aの電気抵抗を小さくすることができる。
弾性波デバイスは、実施例1およびその変形例のように、下部電極12下に弾性波を反射する音響反射膜31が設けられたSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよいし、実施例2のように、下部電極12下に空隙36が設けられたFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。