(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180572
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】X線画像診断装置、及び、X線画像の処理方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
A61B6/00 350A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093971
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松浦 周作
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA01
4C093EC23
4C093FA15
4C093FF20
4C093FF22
4C093FF28
4C093FG05
4C093FG16
(57)【要約】
【課題】射入機能を備えたX線画像診断装置において、射入時の画像の歪を補正し、射入撮影時のX線画像を用いた計測の精度を向上すること。
【解決手段】X線画像診断装置を用いて所定の射入角度で撮影されたX線画像を用いて物理量を算出する際に、X線画像診断装置の射入機構部から射入角度を受け付け、当該射入角度を用いて、被写体へのX線の射入により生じるX線画像の歪を算出する。また出力装置の画面を介して、X線画像における所定の計測操作を受け付け、画像上で物理量を算出する。この際、算出したX線画像の歪を用いて、画像上の物理量を補正し、実際の被検体における物理量を算出する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線検出器を収納し、被写体が載置される天板と、X線を発生するX線管と、当該X線管を、被写体を挟んで前記X線検出器と対向する位置に支持する支持部と、前記X線検出器が検出したX線を用いてX線画像を生成する画像処理部と、を備え、
前記支持部は、前記天板の長軸方向に平行な軸を中心として、前記X線管を回動する機構を有し、
前記画像処理部は、前記X線管の前記軸を中心とする回動角度を用いて、被写体へのX線の射入により生じるX線画像の歪みを算出する歪算出部を備えることを特徴とするX線画像診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線画像診断装置であって、
前記歪算出部は、前記回動角度により決まるX線の射入角度と、射入角度がゼロの時の画像を基準としたときの画像上の各位置のずれ量との関係をテーブルとして保持し、当該テーブルを用いて歪みを算出することを特徴とするX線画像診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載のX線画像診断装置であって、
前記テーブルにおいて、前記ずれ量は、被検体モデルについて複数の射入角度のそれぞれについて実測した値であることを特徴とするX線画像診断装置。
【請求項4】
請求項2に記載のX線画像診断装置であって、
前記テーブルにおいて、前記ずれ量は、画像中心を(0,0)とする二次元平面の4つの象限それぞれの代表位置の実測値であることを特徴とするX線画像診断装置。
【請求項5】
請求項1に記載のX線画像診断装置であって、
前記画像処理部は、表示装置に表示されたX線画像上でユーザが行う計測操作を受け付け、被写体組織の形状に関する物理量を算出する計測部を備え、前記計測部は、前記歪算出部が算出した歪を用いて前記物理量を補正することを特徴とするX線画像診断装置。
【請求項6】
請求項5に記載のX線画像診断装置であって、
前記物理量は、被写体組織の所定位置間の距離、及び所定線分間の角度の少なくとも一つを含むことを特徴とするX線画像診断装置。
【請求項7】
請求項5に記載のX線画像診断装置であって、
前記計測部は、表示装置に表示されたX線画像上の線分の指定を受け付け、受け付けた前記線分の始点位置及び終点位置を前記歪算出部が算出した歪を用いて補正し、前記X線画像上の線分に相当する被写体上の線分の距離を算出することを特徴とするX線画像診断装置。
【請求項8】
請求項5に記載のX線画像診断装置であって、
前記計測部は、表示装置に表示されたX線画像上の2以上の線分の指定を受け付け、受け付けた各線分の始点位置及び終点位置を前記歪算出部が算出した歪量を用いて補正し、前記X線画像上の2以上の線分がなす角度に相当する被写体上の角度を算出することを特徴とするX線画像診断装置。
【請求項9】
X線画像診断装置を用いて所定の射入角度で撮影されたX線画像を処理する方法であって、
前記X線画像診断装置から、射入角度を受け付けるステップ、
当該射入角度を用いて、被写体へのX線の射入により生じるX線画像の歪を算出するステップ、
前記X線画像における所定の計測操作を受け付けるステップ、及び
算出したX線画像の歪を用いて、前記所定の計測操作に対応する物理量を算出するステップを含むX線画像の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線画像診断装置に係り、特に、被写体に対し斜めからX線を照射して撮影したX線画像の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線画像診断装置は、被写体を、X線検出器を収納した透視台に載置した状態で被写体にX線を照射し、X線検出器により透過X線を検出して撮影する装置である。X線画像診断装置では、透視台上の天板に載置された被写体の所望の部位を所望の角度から撮影可能にするために、X線を発生するX線管を支持する機構や天板を支持する機構、X線管の支持機構と天板の支持機構とを連結する機構に、それぞれ、種々のスライド機構や回転機構などが備えられている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されるX線透視撮影装置では、各支持機構を支えるスタンド部に対し、天板を被検体の体軸方向及びそれと直交する方向に移動するスライド機構及び回転させる回転機構、X線管を垂直方向に移動可能にした支持機構、X線管をその支持機構に対しスライド或いは回転する機構などの基本的な機構に加えて、被写体の体軸方向、即ち天板の長手方向の軸を中心としてX線管を回動する機構を備えている。
【0004】
このX線透視撮影装置は、X線管を体軸方向の軸を中心として回動させることにより、被写体に対し斜めにX線を照射する射入(短手方向の射入)を可能にしている。X線を射入して撮影することにより、診断に資する多様なX線画像を得ることが可能となる。
【0005】
一方、X線画像診断では、X線画像を用いて、例えば血管の幅や長さを計測したり、骨や血管の曲がり具合(角度)を計測したいという要請があり、このような計測機能を備えた装置も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-97809号公報
【特許文献2】国際公開2014/034294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
射入撮影によりX線画像では、画像の中心すなわちX線照射範囲の中心を挟む両側で、X線源からの距離が異なるため、画像の拡大と縮小が逆に生じ、画像に歪を生じている。このような射入撮影のX線画像を用いて、距離や角度を計測した場合、画像上の計測値は実際の被検体における距離や角度とずれを生じ、正確な計測を行うことができない。
【0008】
特許文献1では、短手方向の射入撮影において、X線源からの距離が異なることにより生じる画像の濃度ムラについて、X線強度の制御や画像処理による補正等の対処手法が示されているが、画像の歪については課題の提示もされていない。
【0009】
本発明は、射入機能を備えたX線画像診断装置において、射入時の画像の歪を補正すること、射入撮影時のX線画像を用いた計測の精度を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のX線画像診断装置は、射入の角度に応じた画像の歪(位置ずれ量)を算出する画像処理部を備える。画像処理部は算出した画像上の各位置の歪をもとに、画像上で計測される距離や角度を補正し、実際の距離や角度を算出し提示する。
【0011】
即ち本発明のX線画像診断装置は、X線検出器を収納し、被写体が載置される天板と、X線を発生するX線管と、当該X線管を、被写体を挟んで前記X線検出器と対向する位置に支持する支持部と、X線検出器が検出したX線を用いてX線画像を生成する画像処理部と、を備える。支持部は、天板の長軸方向に平行な軸を中心として、X線管を回動する機構を有し、画像処理部は、X線管の軸を中心とする回動角度を用いて、被写体へのX線の射入により生じるX線画像の歪みを算出する歪算出部を備える。
【0012】
また本発明のX線画像の処理方法は、X線画像診断装置を用いて所定の射入角度で撮影されたX線画像を処理する方法であって、X線画像診断装置から、射入角度を受け付けるステップ、当該射入角度を用いて、被写体へのX線の射入により生じるX線画像の歪を算出するステップ、X線画像における所定の計測操作を受け付けるステップ、及び、算出したX線画像の歪を用いて、所定の計測操作に対応する物理量を算出するステップを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、射入角度によって異なるずれ量を算出しておくことで、このずれ量に基づいて、X線画像を用いて計測される物理量、例えば距離や角度を補正して算出することができる。これにより歪を生じた射入時のX線画像を用いた場合にも計測の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明が適用されるX線画像診断装置の全体構成を示す図
【
図2】本発明が適用されるX線画像診断装置の機構を説明する図で、(A)射入撮影を行わない場合、(B)は射入撮影の場合、を示す。
【
図4】射入を説明する図で、(A)は射入していないときの撮影を示し、(B)は射入撮影を示す。
【
図7】実施形態1の計測機能を説明する図で、(A)は計測操作を示す図、(B)は計測結果の表事例を示す図
【
図10】
図8のテーブルを用いた係数の算出を説明する図
【
図11】実施形態2の画像処理部の処理を示すフロー
【
図12】実施形態2の計測機能を説明する図で、(A)は計測操作を示す図、(B)は計測結果の表示例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明のX線画像診断装置の実施形態を説明する。
【0016】
X線画像診断装置1は、通常X線を遮断する撮影室に配置されたX線管やその支持機構などを含む撮影系と、撮影室とは別の操作室等に配置された操作系とからなり、撮影系は、
図1に示すように、X線を発生するX線管60と、絞り装置80、被写体Sを載置する天板40とを含んでいる。天板40には、被写体Sを通過したX線を検出するX線検出器(図ではFPD:Flat Panel Detector)70が収納される。また操作系は、操作卓200、X線管60に高電圧を供給する高電圧発生部300、FPD70が検出したX線信号からX線画像を生成するとともにその処理を行う処理装置500、画像を表示する出力装置600などを含む。
【0017】
図1には示していないが、X線画像診断装置1には、X線管60を支持し且つ移動する機構及び天板を支持し且つ移動する機構などが備えられている。これら機構の具体的な構成は特に限定されず、公知のX線撮像装置に備えられた機構と同様であるが、本実施形態のX線画像診断装置1は、被写体Sが載置される天板40の長手方向に平行な軸を中心として、X線管60を回動させて射入撮影する機能を備えている。この機能による回動角度により射入角度が決まる。なお射入には、長手方向に平行な軸を中心とする射入(体軸射入)と、短手方向に平行な軸を中心とする射入とがあるが、本実施形態では体軸射入の場合を例として説明する。従って、以下の説明において「射入」は「体軸射入」を意味するものとする。
【0018】
一例として、射入撮影機能を備えたX線画像診断装置の例を
図2(A)、(B)に示す。
図2に示すX線画像診断装置1は、特許文献1に開示されたX線透視撮影装置と同様の機構を持つ装置で、スタンド部10に支持腕20を介して支持された天板40と、スタンド部10に支持腕20を介して支持された支柱部30と、支柱部30の上端側に連結された管球支持部50とを備え、X線を発生するX線管60は管球支持部50に支持されている。X線検出器70は天板40内に収納されており、その上方に被写体は載置され、X線管60から照射され、被写体を透過したX線をX線検出器70で検出し、処理装置500に送り、X線画像を得るように構成されている。
【0019】
天板40、支持腕20、支柱部30、及び管球支持部50には、スライド機構や回転機構が備えられている。また、X線管60を支持する管球支持部50には、X線管60を天板40の短手方向(
図2(A):矢印A3)にスライドさせる機構とともに軸Rを中心として首振り運動させる回動機構が備えられている。
【0020】
これらスライド機構や回転機構を動作させることにより、例えば、
図2(B)中、矢印A1~A4で示すように、天板40上の被写体を動かすことなく、X線管60及び天板40に収納されたX線検出器70と被写体との位置関係を、種々に変化させることができる。またX線管60が発生し絞り装置80で照射範囲が画定されたX線を被写体の正面より斜め方向から照射する、即ち射入撮影を行うことができる。
【0021】
上述したX線管60、絞り装置80、及びそれを移動する各機構(その駆動系100)の操作は、操作卓200を介して、技師や医師(以下、ユーザという)により行われる。
【0022】
処理装置500は、メモリ及びCPU或いはGPUを備えた計算機(PC)で構成することができ、その機能は、所定のプログラムをCPU/GPUが読み込むことで実行される。但し、一部の機能をASICやFPGA等のプログラマブルICが行ってもよい。処理装置500には、
図3に示すように、付属装置として、表示装置を含む出力装置600及び処理に必要なデータやユーザの命令などを入力するための入力装置800が備えられている。入力装置800は、マウスやポインティングデバイスなどを含むことができ、表示装置に表示されるカーソルやポインタ等のGUIをこれらデバイスで操作することで入力を行う。なお入力装置800の機能の一部或いは全部を、操作卓200(
図1)が行うことも可能である。
【0023】
処理装置500は、その機能部として、具体的には、
図3に示すように、操作卓200を介して行われるユーザの指令を受けて撮影系を制御する撮影制御部510、X線検出器70からのX線信号を用いてX線画像を生成する画像生成部520及び画像生成部520が生成した画像データに対し種々の画像処理を行う画像処理部530、及び画像データを表示データとして、出力装置600に表示させる表示制御部540を備えている。
【0024】
画像処理部530が行う処理には、例えば、画像の拡大縮小、濃度補正、白黒反転などの一般的な画像処理の他、画像上での計測を行う計測機能が含まれる。計測機能とは、表示された画像をもとに、ユーザが画像上で位置や線分を指定し、距離や角度など物理量の計測を行う機能であり、そのため画像処理部530は、
図3に示すように、例えば、距離計測/角度計測を行う計測部531を備えている。さらに、本実施形態の画像処理部530は、上述した射入撮影を行った場合に、画像に生じた歪を補正する処理を含み、計測機能を実施する際に、歪みを補正した距離や角度を算出する機能(歪算出部533)を備えている。
【0025】
画像処理部530(特に歪算出部533)の具体的な処理については後述することとし、まず射入撮影によりX線画像に生じる歪について、
図4及び
図5を参照して説明する。
図4(A)は、射入を行わない場合、即ち
図2(A)に示すようなX線管60の位置(角度0)で撮影を行った場合、(B)は射入撮影した場合、即ち
図2(B)のようにX線管60を所定の回動角度に回動した状態で撮影を行った場合を示している。
図4(A)に示すように、射入を行わない場合には、それによって得られるX線画像700aでは、X線が垂直に照射される画像中心を中心に、X線が均等に広がって照射されるため、照射方向によるX線の偏りはないが、(B)に示すように、射入撮影した場合のX線画像700bでは、被写体Sの中心は、画像の中心(点線で示す)からずれ、被写体中心を挟んで、図中右側では横幅に狭くなり縦が広がった形になり、左側では横幅が長くなり縦が狭まった形になり、左右で歪み方が異なる。
【0026】
このため、
図5に示すように、画面上の距離Aは、被検体における実際の距離Bとは異なるものとなる。
図4(B)及び
図5は歪を強調して表現しており、実際には、視認できない場合もあるが、距離計測等を行った場合には、正確な数値を求められないことになる。
【0027】
本実施形態の画像処理部530は、計測機能が選択されると、歪算出部533が撮影系(管球支持部50)から射入撮影時のX線管60の回動角度、即ち射入角度の情報(例えば、画像データに付帯する情報として射入角度が記録されている)を受け取り、射入角度と、計測部531が画像上で計測した値とを用いて射入時の歪を補正した計測値を算出する。被検体の各部が、画像上どの位置になるかは、各部とX線源との幾何学的関係(各部とX線源との距離、各部に対するX線照射方向とX線の中心からの角度及び射入角度)を用いて算出することが可能であるが、本実施形態では、予め被検体モデルを用いた実測値を利用して簡便に各部の位置ずれ(歪)を算出し、それを用いて、実際(被検体における)計測値を算出する。その具体的な算出手法は後述する実施形態で説明する。
【0028】
本実施形態によれば、射入撮影したX線画像の歪を補正することができ、特に、被写体組織の形状に関する物理量を算出する際に、歪を用いて物理量を補正することで、物理量の算出精度を高めることができる。
【0029】
以下、画像処理部530の機能を中心として、距離計測を行う場合と角度計測を行う場合の実施形態を説明する。
【0030】
<実施形態1>
本実施形態は、計測部531がユーザ選択を受け付け、距離計測を行う。
図6に、距離計測の手順を示す。
【0031】
まずX線検出器(FPD)70が検出した透過X線を用いて、画像生成部520が作成したX線画像を、画像表示部540が出力装置600に表示する(S1)。次に入力装置800を介してユーザが距離計測機能を選択すると(S2)、計測部531は、画面上での線分の指定を受け付ける(S3)。
【0032】
線分の指定は、例えば
図7(A)に示すように、X線画像700を表示している表示装置(出力装置600)画面上で、線分Lの始点p1の位置を、入力装置800によるカーソル操作やポインタ操作により指定し、マウスのドラッグ動作で所定の距離を移動し、線分p2の終点の位置を指定する。この操作により、出力装置600の画面上には指定した線分が表示される。
【0033】
計測部531は、始点及び終点の座標(画像における座標)と、画像データに付随する射入角度の情報とを用いて、実際の線分の長さ、即ち始点と終点との距離を算出する(S4)。距離の算出は、始点及び終点の画像における座標を、被検体における座標(実際の座標)に変換する処理と、実際の座標をもとに距離を算出処理とを含む。
【0034】
射入の場合の画像における座標と実際の座標とのずれ量は、射入角度、X線源-被写体間距離、X線中心に対する照射角度等を用いて、算出することも可能であるが、本実施形態では、座標ごとに算出するのではなく、予め離散的に実測した値を用いて、簡易的に画像中心から距離に応じて、ずれ量を算出する。
【0035】
具体的には所定のサイズの被検体モデルを使用し、複数の射入角度で撮影を行い、射入角度ゼロを基準としたときの座標のずれ量を計測し、テーブルとして保持する。被検体モデルとして、一般的な成人の体の厚み(平均値)の正方形(直方体)を用いて、実測した値のテーブルの一部を
図8に示す。
図8のテーブルでは、正方形のサイズが25mm×25mmであるモデルを、
図9に示すように、それぞれ画像の中心(照射X線の中心)を原点とする4つの象限に配置し、射入角度を異ならせて撮影し、射入角度毎に、各象限の4隅(P1、P2、P3、P4)の画像上の座標を実測した値を示している。また
図8のテーブルには、サイズ50mm×50mmのモデルについても同様に実測した値が含まれている。
【0036】
なお
図8のテーブルは、一例、或いは大きなテーブルの一部であり、実測値は4象限の四隅(4点)だけでなく、細分化してもよいし、また被検体モデルのサイズも25×25より小さいサイズや50×50より大きいサイズについても実測することでテーブルを拡張できる。また
図8では、射入角度が0°(射入無し)、7.5°、15°の場合の実測値を示しているが、射入角度についても装置の可動範囲内で、小さい刻みで実測し、テーブル化してもよい。
【0037】
さらに本実施形態では、被検体モデルとして直方体モデルを用いたが、より人体に近い楕円体モデルなどを用いてもよい。いずれの場合にもモデルを用いて実測した値を利用することで歪算出の精度を高めることができる。
【0038】
次に、このようなテーブルを用いて実際に撮影した画像の座標を補正する。画像の座標は、
図7(A)に示したように、入力装置800を介して画面上で指定された線分Lの始点の座標(B1x,B1y)と終点の座標(B2x,B2y)である。
【0039】
歪算出部533は、テーブルを参照して、計測部531が計測した始点及び終点の座標が、テーブルのどれに対応するか判定し、座標のずれを補正する補正係数を算出し、実際の画像の座標(A1x,A1y)、(A2x,A2y)を次式(1)により算出する。
A1x=α・B1x、A1y=β・B1y (1)
(式中α、βはそれぞれ補正係数を示す)
【0040】
補正係数は、例えば、射入角度が、7.5°以下(例えば5°)あれば、
図10に四角で囲って示すように、体軸射入0°<θ≦7.5°の欄を参照する。また、始点の座標が画像中心を(0,0)としたとき第一象限にあり、x座標(B1x)が0~+25の範囲であれば、0<x<25の行の値(25.3)を用いて、補正係数αを次式で算出する。
α=25/25.3
【0041】
またy座標(B1y)が+25~+50の範囲であれば、25<x<50の行の値(50.2)を用いて、補正係数βを次式で算出する。
β=50/50.2
【0042】
この係数の値を、座標(B1x,B1y)=(30,70)の場合に、前述の式(1)に当てはめると、
A1x=(25/25.3)×30=29.644
A1y=(50/50.2)×70=69.721
実際の座標は(29.6,69.7)となる。
【0043】
終点の座標(B2x,B2y)についても、同様にして実際の座標(A2x,A2y)を算出することができる。
【0044】
このように、テーブルを用いることで、歪の算出を高速で行うことができる。またずれ量として被検体モデルに基づく実測値を用いることで、歪算出の精度を高めることができる。
【0045】
計測部531は、このように補正された座標を用いて始点から終点までの距離を算出する(S4)。
【0046】
最後に画像表示部540が、計測操作を行っている画面上に算出した距離(実際の距離)を表示する。
図7(B)に表示例を示す。この例では線分の下に距離を示す数値を表示している。但し表示の仕方は、この例に限定されず、X線画像とは別に計測値を表示するブロックなどを設けて、表示するなど任意の手法を取りえる。
【0047】
以上、説明したように本実施形態によれば、歪算出部533が計測操作で得られた画面上の座標を、射入角度を用いて補正した後、距離を算出するので、射入撮影による画像の歪の影響を受けることなく、精度の高い計測を行うことができる。
【0048】
また本実施形態によれば、予め実測した値をテーブル化しておき、テーブルの値を用いて補正係数を算出して補正するので、座標ごとに精密な計算を不要にでき、リアルタイムで計測結果を表示することができる。特に、2次元平面の4象限について代表値を用いた場合には、歪算出をさらに簡素化し、高速化できる。またテーブルの設計の仕方で補正係数の精度を任意に調整することも可能となる。
【0049】
<実施形態2>
本実施形態では、計測部531が角度計測を行う。角度の計測は、例えば、骨の曲がり方や血管の走行状態などを計測する場合に行われる。本実施形態も画像処理部530の構成は実施形態1と同様であり、計測部531及び歪算出部533を備えている。以下、
図11を参照して、本実施形態による角度計測の手順を説明する。
【0050】
本実施形態においても、画像表示部540が出力装置600に表示すること(S10)、入力装置800を介してユーザの計測機能の選択を受け付けると(S20)は実施形態1と同様であるが、ここでは計測機能として角度計測機能を受け付ける。角度計測機能では、計測部531は、画面上で、角度を特定する2以上の線分の指定を受け付ける(S30)。線分の指定は、実施形態1の線分の指定と同様であり、例えばマウスのクリック操作やドラッグ操作により、線分の始点及び終点の座標を確定する。この操作が行われると、画面上に、
図12(A)に示すような線分が表示されるとともに、線分の近くに「L1」等の線を識別する文字が表示される。同様に2本目の線分についても始点と終点が画定し、線分とその名称「L2」が表示される。
【0051】
歪算出部533は、2本の線分が画定すると、実施形態1と同様に、線分L1、L2の始点及び終点の座標を実際(実空間の被写体)の座標に補正するための補正係数を、テーブル(例えば
図8)を参照して、決定し、実際の座標を算出する(S40)。
【0052】
即ち、線分L1、L2の始点及び終点について算出したx方向の補正係数をα1、α2、α3、α4、y方向の補正係数をβ1、β2、β3、β4とすると、これら線分L1、L2の実際の座標(A1x、A1y)~(A4x,A4y)は以下の通りとなり、
A1x=α1×B1x、A1y=β1×B1y
A2x=α2×B2x、A2y=β2×B2y
A3x=α3×B3x、A3y=β3×B3y
A4x=α4×B4x、A4y=β4×B4y
【0053】
計測部531は、歪算出部533が算出した実際の座標を用いて、線分L1、L2間の角度を次のように算出する(S50)。
【0054】
まず線分L1、L2を表す一次式(y=ax+b、y=cx+d)のx、yに補正後の始点と終点の座標を代入して線分を決める係数と切片(a,b,c,d)を算出し、これら係数と切片とを用いて次式により角度φを算出する。
tanφ=|a-c|/|1+(a*c)|
【0055】
画像表示部540は、計測部531が算出した角度を出力装置600に出力する(S50)。
図12(B)に出力装置600の表示画面に表示される角度情報の例を示す。この例では、2本目の線分の近くに「∠L1-L2:(φ)」という角度情報を表示する。
【0056】
さらに計測機能が継続されて、ユーザが3本目の線分L3を引いた場合には(S60)、線分L1とL3との角度、線分L2とL3との角度を算出し、線分L3の近傍に「∠L1-L3:(φ2)」「∠L2-L3:(φ3)」などの角度情報を算出してもよい。或いは、線分L1又はL2の選択をマウス操作等で受け付けるか、4本目の線分L4の指定を受け付けた後に、線分L1とL3との角度及び線分L2とL3との角度の一方を算出、或いは線分L3とL4との角度を算出する構成としてもよい。このように角度情報を追加していく。
【0057】
本実施形態によれば、計測部531は、歪算出部533が算出した歪を用いて線分の座標を補正した後、線分間の角度を算出するので、精度の高い角度情報を提供することができる。また歪の算出においてテーブルを利用することで、角度計測機能を動作させているときに線分選択後に直ちに線分間の角度を表示することができ、計測機能のリアルタイム性を向上できる。
【0058】
以上、本発明のX線画像診断装置において距離計測及び角度計測を行う場合に算出した歪を用いる実施形態を説明してきたが、計測機能は距離計測と角度計測を同時に行うものであってもよいし、さらに拡張して面積の計測などを行うことも可能である。
【0059】
また実施形態で説明した数字やテーブルは、一例であって、本発明はこれらに限定されるものではなく、適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1:X線画像診断装置、10:スタンド部、30:支柱部、40:天板、50:管球支持部、60:X線管、70:X線検出器(FPD)、80:絞り装置、100:透視台、200:操作卓、300:高電圧発生部、500:処理装置、510:撮影制御部、520:画像生成部、530:画像処理部、531:計測部、533:歪算出部、600:出力装置、800:入力装置