IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤマハ発動機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-小型船舶 図1
  • 特開-小型船舶 図2
  • 特開-小型船舶 図3
  • 特開-小型船舶 図4
  • 特開-小型船舶 図5
  • 特開-小型船舶 図6
  • 特開-小型船舶 図7
  • 特開-小型船舶 図8
  • 特開-小型船舶 図9
  • 特開-小型船舶 図10
  • 特開-小型船舶 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180587
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】小型船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 20/08 20060101AFI20231214BHJP
   B63H 20/02 20060101ALI20231214BHJP
   B63H 20/18 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B63H20/08 100
B63H20/02 100
B63H20/18 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094002
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】安間 寛文
(57)【要約】
【課題】船外機の動きを船舶の操縦性へより積極的に寄与させる。
【解決手段】小型船舶である船舶10は、船体11の船尾12に取り付けられる2つの船外機13を備え、船外機13は、動力源である電動モータ15を内蔵し、各船外機13は、船体11の前後方向に延伸するロール軸20の回りに回転可能な状態で船体11の船尾12に取り付けられる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの船外機を備え、
前記船外機は、船体の前後方向に沿って延伸する第1の軸回りに回動可能、且つ前記船体の上下方向に関して移動可能に前記船体へ取り付けられる、小型船舶。
【請求項2】
少なくとも2つの前記船外機を備え、
各前記船外機は、それぞれに対応する前記第1の軸回りに回動可能であり、
一の前記船外機は、他の前記船外機と独立して前記第1の軸回りに回動可能に構成される、請求項1に記載の小型船舶。
【請求項3】
各前記船外機はそれぞれプロペラを有し、
各前記船外機は、それぞれが有するプロペラが互いに離間するように、それぞれに対応する前記第1の軸回りに回動する、請求項2に記載の小型船舶。
【請求項4】
各前記船外機は、それぞれが有するプロペラが互いに離間するように、それぞれに対応する前記第1の軸回りに回動する際に、前記船体の下方向へ移動する、請求項3に記載の小型船舶。
【請求項5】
各前記船外機はそれぞれプロペラを有し、
各前記船外機は、それぞれが有するプロペラが互いに接近するように、それぞれに対応する前記第1の軸回りに回動する、請求項2に記載の小型船舶。
【請求項6】
各前記船外機は、それぞれが有するプロペラが互いに接近するように、それぞれに対応する前記第1の軸回りに回動する際に、前記船体の下方向へ移動する、請求項5に記載の小型船舶。
【請求項7】
各前記船外機はそれぞれプロペラを有し、
各前記船外機は、それぞれが有するプロペラが前記船体の左右方向に関して同じ方向に移動するように、それぞれに対応する前記第1の軸回りに回動する、請求項2に記載の小型船舶。
【請求項8】
各前記船外機は、それぞれが有するプロペラが前記船体の左右方向に関して同じ方向に移動するように、それぞれに対応する前記第1の軸回りに回動する際に、前記船体の下方向へ移動する、請求項7に記載の小型船舶。
【請求項9】
少なくとも2つの前記船外機を備え、
一の前記船外機は、他の前記船外機と独立して前記船体の上下方向に関して移動可能に構成される、請求項1に記載の小型船舶。
【請求項10】
各前記船外機は、前記船体の上下方向に関して移動する際に、それぞれに対応する前記第1の軸回りに回動する、請求項9に記載の小型船舶。
【請求項11】
各前記船外機のそれぞれに対応して、J字型のガイドレールと、該ガイドレールに沿って移動するガイドとが設けられ、
前記ガイドレールは前記船体に設けられ、前記ガイドは前記船外機に設けられる、請求項10に記載の小型船舶。
【請求項12】
前記船外機は、前記船体の左右方向に沿って延伸する第2の軸回りに回動可能に前記船体へ取り付けられる、請求項1に記載の小型船舶。
【請求項13】
少なくとも2つの前記船外機を備え、
各前記船外機は、前記第2の軸回りに回動可能であり、
一の前記船外機は、他の前記船外機と独立して前記第2の軸回りに回動可能に構成される、請求項12に記載の小型船舶。
【請求項14】
各前記船外機が前記第2の軸回りに回動する際、一の前記船外機の前記第2の軸回りの回動角が、他の前記船外機の前記第2の軸回りの回動角と異なる、請求項13に記載の小型船舶。
【請求項15】
各前記船外機はそれぞれプロペラを有し、
各前記船外機は、それぞれが有するプロペラが互いに離間するように、それぞれに対応する前記第1の軸回りに回動する、請求項14に記載の小型船舶。
【請求項16】
各前記船外機はそれぞれプロペラを有し、
各前記船外機は、それぞれが有するプロペラが互いに接近するように、それぞれに対応する前記第1の軸回りに回動する、請求項14に記載の小型船舶。
【請求項17】
各前記船外機はそれぞれプロペラを有し、
各前記船外機は、それぞれが有するプロペラが前記船体の左右方向に関して同じ方向に移動するように、それぞれに対応する前記第1の軸回りに回動する、請求項14に記載の小型船舶。
【請求項18】
前記船外機は動力源を有し、前記動力源は電動モータ又は内燃機関である、請求項1に記載の小型船舶。
【請求項19】
少なくとも1つの船外機を備え、
前記船外機は動力源として電動モータを有し、
前記船外機は、船体の前後方向に沿って延伸する第1の軸回りに回動可能に前記船体へ取り付けられる、小型船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機を備える小型船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
滑走艇等の比較的小型の船舶は推進機として船外機を備える。この船外機は、船体の左右方向に沿って延伸するチルト軸回りに回動するように船体の船尾に取り付けられる。そして、船外機は、チルト軸回りに船外機の上部が前方且つ下方へ移動するとともに船外機の下部が後方且つ上方へ移動するように回動(チルトアップ)し、又は上部が後方且つ下方へ移動するとともに下部が前方且つ上方へ移動するように回動(トリムイン)する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような船舶では、船外機のチルトアップやトリムインにより、船外機が備えるプロペラが発生する推力の作用角度を変更する。例えば、プレーニングを維持する際、船外機をトリムインさせることにより、船首が下がるように推力の作用角度を変更する。このように、船外機のチルトアップやトリムインにより、船体の姿勢を制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】

【特許文献1】特開平1-317893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、船外機をチルトアップ又はトリムインしても推力の作用位置は船体の左右方向に関して変化しないため、船外機のチルトアップやトリムインは船舶のヨーの変化、すなわち、旋回性の向上には寄与しない。ここで、船外機の動きが主にチルトアップやトリムインに限られるのは、従来、船外機の動力源として内燃機関が用いられ、この内燃機関の潤滑油の循環を成立させるために、船外機をある特定の方向以外に傾けられないことが理由である。
【0006】
ところで、近年提唱されているSDGs(Sustainable Development Goals)を達成するための一手段として移動体のカーボンフリーの実現が推し進められ、船舶の動力源を内燃機関から電動モータへ置き換えることが検討されている。そして、電動モータは潤滑油を必要としないため、動力源として内燃機関を用いる場合と比べ、船外機の動きの制約が少なく、船外機の動きを船舶の操縦性へより積極的に寄与させる余地があると考えられる。
【0007】
本発明は、船外機の動きを船舶の操縦性へより積極的に寄与させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の一態様による小型船舶は、少なくとも1つの船外機を備え、前記船外機は、船体の前後方向に沿って延伸する第1の軸回りに回動可能、且つ前記船体の上下方向に関して移動可能に前記船体へ取り付けられる。
【0009】
また、この発明の一態様による小型船舶は、少なくとも1つの船外機を備え、前記船外機は動力源として電動モータを有し、前記船外機は、船体の前後方向に沿って延伸する第1の軸回りに回動可能に前記船体へ取り付けられる。
【0010】
この構成によれば、船外機を、船体の左右方向に沿って延伸するチルト軸回りに回動させるだけでなく、船体の前後方向に沿って延伸する第1の軸回りにも回動させることができる。これにより、船外機が備えるプロペラが発生する推力の作用位置を船体の左右方向に関して変化させて船舶のヨーを積極的に変化させることができる。すなわち、船外機の動きを船舶の操縦性へより積極的に寄与させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、船外機の動きを船舶の操縦性へより積極的に寄与させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る小型船舶の構成を概略的に示す図である。
図2】各船外機が対応するロール軸回りに回動した場合の事例を説明するための図である。
図3】船舶がその場旋回を行う際の回頭性が向上する理由を説明するための図である。
図4】船舶の旋回性が向上する理由を説明するための図である。
図5】各船外機が対応するロール軸回りに回動した場合の事例の変形例を説明するための図である。
図6】各船外機が対応するロール軸回りに回動した場合に各プロペラが水面へ近付く様子を説明するための図である。
図7】本発明の第2の実施の形態において、各船外機を対応するロール軸回りに回動させるとともに、船体に関して下方向へ移動させた場合の事例を説明するための図である。
図8】船外機の上下方向の移動に伴って船外機を上下方向に対して左右方向へ向けて傾斜させるリンク機構の仕組みを説明するための図である。
図9】各船外機を対応するロール軸回りに回動させるとともに、船体に関して下方向へ移動させた場合の事例の変形例を説明するための図である。
図10】船舶において船外機をチルト軸の回りに回動させたときに生ずる効果を説明するための図である。
図11】本発明の第3の実施の形態において、各船外機を対応するロール軸回りに回動させるとともに、左舷側の船外機をトリムインさせた場合の事例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。まず、本発明の第1の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る小型船舶の構成を概略的に示す図であり、図1(A)は小型船舶を側方から眺めた場合を示し、図1(B)は小型船舶を後方から眺めた場合を示す。
【0015】
図1において、小型船舶である船舶10は、例えば、滑走艇であり、船体11と、船体11の船尾12に取り付けられる推進機としての少なくとも1つ、例えば、2つの船外機13とを備える。また、船体11には操縦席を兼ねる船室14が配置される。図1の船舶10は滑走艇を前提としているが、船舶10は滑走艇に限られず、例えば、比較的小型の排水量型の船舶であってもよい。
【0016】
船外機13は、動力源である電動モータ15を内蔵する。船外機13では電動モータ15が上部13aに配置され、さらに、船外機13は、下部13bに配置されるプロペラ16と、プロペラ16を回転させるためのプロペラシャフト17と、電動モータ15の駆動力をプロペラシャフト17に伝達するドライブシャフト18と、を有し、電動モータ15の駆動力によって回転されるプロペラ16によって船舶10へ推力を付与する。
【0017】
船外機13には操舵機構(図示しない)が設けられ、操舵機構は船外機13を船体11に対して船体11の左右方向(以下、単に「左右方向」という。)に首振りさせることで船外機13のプロペラ16が発生する推力の作用方向を左右に調整する。
【0018】
また、各船外機13は、船体11の前後方向(以下、単に「前後方向」という。)に延伸するロール軸20(第1の軸)の回りに回転可能な状態で船体11の船尾12に取り付けられる。ロール軸20は2つの船外機13の各々に対応して設けられ、一の船外機13は、他の船外機13と独立して対応するロール軸20の回りに回動する。
【0019】
さらに、船外機13は、左右方向に延伸するチルト軸19(第2の軸)の回りに回転可能な状態で船体11の船尾12に取り付けられる。そして、各船外機13は、チルト軸19回りに上部13aが船体11の前方且つ下方へ移動するとともに下部13bが船体11の後方且つ上方へ移動するように、図1(A)において反時計回りに回転し、又は上部13aが後方且つ下方へ移動するとともに下部13bが前方且つ上方へ移動するように、図1(A)において時計回りに回転する。なお、以降、前者の回転を「チルトアップ」と称し、後者の回転を「トリムイン」と称する。
【0020】
図2は、各船外機13が対応するロール軸20回りに回動した場合の事例を説明するための図である。図2では、船舶10を後方から眺めた場合が例示され、各船外機13はチルトアップもトリムインもしていないものとする。
【0021】
例えば、各船外機13は、図2(A)に示すように、それぞれが有するプロペラ16が互いに接近するように、それぞれに対応するロール軸20回りに回動することができる。この場合、各船外機13の発生する推力の発生位置が左右方向に関する中央に寄るため、例えば、一方の船外機13が故障し、他方の船外機13のみで航走する片肺運転時の船舶10の直進性が向上する。
【0022】
また、各船外機13は、図2(B)に示すように、それぞれが有するプロペラ16が互いに離間するように、それぞれに対応するロール軸20回りに回動することができる。この場合、船舶10が前後進することなくヨー方向に回転する運動であるその場旋回を行う際の回頭性が向上する。
【0023】
図3は、船舶10がその場旋回を行う際の回頭性が向上する理由を説明するための図である。図3では、船体11の左右方向に関する中央を通り、且つ前後方向に関して延伸する船を中心線CLと称し、各船外機13の推力Fが船舶10に作用する作用点Pを図中の黒丸で示す。また、図3では、左舷側の作用点Pには船舶10を前進させる推力Fが作用し、右舷側の作用点Pには船舶10を後進させる推力Fが作用するため、船舶10は右舷方向にその場旋回を行う。
【0024】
ここで、各船外機13のプロペラ16が互いに離間する場合(図3(B))、各作用点Pから中心線CLまでの左右方向に関する距離Lは、各船外機13がロール軸20回りに回動していない場合(図3(A))の各作用点Pから中心線CLまでの左右方向に関する距離Lよりも大きくなる。その結果、各推力Fに起因する重心G回りのヨーモーメントについて、各船外機13がロール軸20回りに回動している場合のヨーモーメントMの方が、各船外機13がロール軸20回りに回動していない場合のヨーモーメントMよりも大きくなる。これにより、その場旋回を行う際、各船外機13をそれぞれが有するプロペラ16が互いに離間するようにロール軸20回りに回動させると、船舶10の回頭性が向上する。
【0025】
さらに、各船外機13は、図2(C)に示すように、それぞれが有するプロペラ16が左舷方向(同じ方向)に移動するように、それぞれに対応するロール軸20回りに回動することができる。この場合、船舶10の右舷側への旋回性が向上する。
【0026】
図4は、船舶10の旋回性が向上する理由を説明するための図である。図4では、左舷側の作用点P及び右舷側の作用点Pに船舶10を前進させる同じ大きさの推力Fが作用する。
【0027】
各船外機13がロール軸20回りに回動していない場合(図4(A))、各作用点Pから中心線CLまでの左右方向に関する距離は等しくなるため、左舷側の作用点Pに作用する推力Fに起因して生じる重心G回りのヨーモーメントと、右舷側の作用点Pに作用する推力Fに起因して生じる重心G回りのヨーモーメントとが互いに打ち消し合い、結果として、各推力Fに起因する重心G回りのヨーモーメントは0となる。
【0028】
一方、各船外機13のプロペラ16がいずれも左舷方向に移動する場合(図4(B))、左舷側の作用点Pから中心線CLまでの左右方向に関する距離が、右舷側の作用点Pから中心線CLまでの左右方向に関する距離よりも大きくなる。したがって、左舷側の作用点Pに作用する推力Fに起因して生じる重心G回りのヨーモーメントが、右舷側の作用点Pに作用する推力Fに起因して生じる重心G回りのヨーモーメントよりも大きくなり、結果として、各推力Fに起因する重心G回りのヨーモーメントMは船舶10が右舷側に旋回するのを助長するヨーモーメントとなる。これにより、各船外機13をそれぞれが有するプロペラ16がいずれも左舷方向に移動するようにロール軸20回りに回動させると、船舶10の右舷側への旋回性が向上する。
【0029】
なお、各船外機13は、それぞれが有するプロペラ16が右舷方向に移動するように、それぞれに対応するロール軸20回りに回動してもよい。この場合、船舶10の左舷
側への旋回性が向上する。
【0030】
本実施の形態によれば、各船外機13を、それぞれが対応するロール軸20回りに回動させることができる。これにより、各船外機13が備えるプロペラ16が発生する推力Fの作用点Pを左右方向に関して変化させて船舶10のヨーを積極的に変化させることができる。すなわち、各船外機13の動きを船舶10の操縦性へより積極的に寄与させることができる。
【0031】
また、本実施の形態では、各船外機13の動力源が電動モータ15であるため、船外機13の傾斜による潤滑油の循環への影響を考慮する必要が無く、各船外機13のロール軸20回りの回動量(ロール量)を大きくすることができる。これにより、推力Fの作用点Pを左右方向に関してより大きく変化させることができ、船舶10のヨーをさらに積極的に変化させることができる。
【0032】
さらに、本実施の形態によれば、各船外機13をそれぞれが対応するロール軸20回りに回動させることにより、船舶10のヨーを積極的に変化させることができるため、その場旋回における回頭性を向上させるために、各船外機13の電動モータ15の出力を必要以上に大きくする必要が無く、また、各船外機13を左右方向に関して互いに大きく離して配置する必要を無くすことができ、各船外機13の小型化や各船外機13のレイアウトの自由度の向上を実現することができる。
【0033】
なお、図2で示した各事例では、左右の船外機13のロール軸20回りのロール量の絶対値が同じであるが、図5(A)に示すように、一方の船外機13のみを対応するロール軸20回りに回動させてもよく、また、図5(B)に示すように、左右の船外機13のロール軸20回りのロール量の絶対値を異ならせてもよい。
【0034】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、各船外機13が船体11の上下方向(以下、単に「上下方向」という。)にも移動する点で第1の実施の形態と異なるが、それ以外の構成、作用が上述した第1の実施の形態と基本的に同じであるので、重複した構成、作用については説明を省略し、以下に異なる構成、作用についての説明を行う。
【0035】
滑走艇である船舶10が高速で航走する場合、船底に作用する揚力が発生し、船舶10がプレーニング状態へ移行する。この場合、船体11が浮上するため、喫水が浅くなり、各プロペラ16が水面へ近付く。そして、各船外機13が対応するロール軸20回りに回動する場合(図6(B))、回動によって各プロペラ16が船体11に関して上方へ移動し、各船外機13が対応するロール軸20回りに回動しない場合(図6(A))よりも、各プロペラ16がさらに水面へ近付くため、各プロペラ16においてキャビテーションが発生し、若しくは、水面上の空気をプロペラ16が巻き込むエア噛みが発生する可能性がある。本実施の形態では、これに対応して各船外機13を上下方向に移動可能なように構成する。
【0036】
図7は、各船外機13を対応するロール軸20回りに回動させるとともに、船体11に関して下方向へ移動させた場合の事例を説明するための図である。図7では、船舶10を後方から眺めた場合が例示され、各船外機13はチルトアップもトリムインもしていないものとする。
【0037】
例えば、各船外機13を、図7(A)に示すように、それぞれが有するプロペラ16が互いに接近するように、それぞれに対応するロール軸20回りに回動させた際、ロール軸20回りの回動による各プロペラ16の上方への移動を打ち消すように、各船外機13を下方に移動させることができる。
【0038】
また、各船外機13を、図7(B)に示すように、それぞれが有するプロペラ16が互いに離間するように、それぞれに対応するロール軸20回りに回動させた際、ロール軸20回りの回動による各プロペラ16の上方への移動を打ち消すように、各船外機13を下方に移動させることができる。
【0039】
さらに、各船外機13を、図7(C)に示すように、それぞれが有するプロペラ16が左舷方向に移動するように、それぞれに対応するロール軸20回りに回動させた際、ロール軸20回りの回動による各プロペラ16の上方への移動を打ち消すように、各船外機13を下方に移動させることができる。なお、各船外機13を、それぞれが有するプロペラ16が右舷方向に移動するように、それぞれに対応するロール軸20回りに回動させた際にも、ロール軸20回りの回動による各プロペラ16の上方への移動を打ち消すように、各船外機13を下方に移動させることができる。
【0040】
本実施の形態によれば、各船外機13のロール軸20回りの回動に応じて各船外機13を下方に移動させるため、ロール軸20回りの回動による各プロペラ16の上方への移動が打ち消され、各プロペラ16が水面へ近付くのを抑制することができる。これにより、各プロペラ16におけるキャビテーションの発生やエア噛みの発生を抑制することができる。
【0041】
また、上述した本実施の形態では、船外機13のロール軸20回りの回動と上下方向の移動が独立して行われるが、この場合、回動用と上下方向の移動用に2つのアクチュエータが必要になると考えられる。そこで、アクチュエータの数を削減するために、船外機13の上下方向の移動に伴って船外機13を上下方向に対して左右方向へ向けて傾斜させるリンク機構を船舶10に設けてもよい。
【0042】
図8は、船外機13の上下方向の移動に伴って船外機13を上下方向に対して左右方向へ向けて傾斜させるリンク機構21の仕組みを説明するための図である。図8は、船舶10を後方から眺めた場合を示す。
【0043】
リンク機構21は、J字型のガイドレール22と、該ガイドレール22に遊合し、且つガイドレール22に沿って移動可能に構成される2つの円柱状のガイド23とを有する。ガイドレール22は、上部の直線部が上下方向に沿うように船体11の船尾12に設けられ、下部の曲線部が下方に進むほど左右方向に関してオフセットするように、船体11の船尾12に配置される。また、各ガイド23は、船外機13の船首側において船舶10の前方へ向けて突出するように設けられ、且つ船外機13の上下方向に延伸する中心線CLに沿うように配置される。
【0044】
リンク機構21において、図8(A)に示すように、船外機13が下方に移動する前は、各ガイド23がガイドレール22の上部の直線部において遊合するため、各ガイド23は上下方向に沿うように位置する。その結果、船外機13の中心線CLは上下方向に対して傾斜しないため、船外機13も上下方向に対して傾斜しない。一方、図8(B)に示すように、船外機13が下方に移動する場合、下方のガイド23がガイドレール22の下部の曲線部において遊合するため、下方のガイド23が上方のガイド23よりも左右方向に関して大きくオフセットする。その結果、船外機13の中心線CLは上下方向に対して左右方向に向けて傾斜し、船外機13も上下方向に対して左右方向に向けて傾斜する。
【0045】
リンク機構21では、船外機13の上下方向の移動に伴って船外機13を上下方向に対して左右方向に向けて傾斜させることができるため、プロペラ16が発生する推力Fの作用点Pを左右方向に関して変化させて船舶10のヨーを積極的に変化させることができる。また、リンク機構21では、船外機13を上下方向へ移動させるアクチュエータを設けるだけで、船外機13を上下方向に対して左右方向に向けて傾斜させることができるため、アクチュエータの数を削減することができる。
【0046】
なお、リンク機構21では、船外機13がロール軸20を中心として回動することがないが、船外機13が上下方向に対して左右方向に向けて傾斜する際、中心線CLとロール軸20を通る線分と左右方向がなす角θ(ロール軸20回りの回動角)が0°よりも大きくなるため、船外機13は実質的にロール軸20回りに回動すると言える。
【0047】
また、ガイドレール22は、上部の直線部が上下方向に沿うように船体11の船尾12に設けられたが、上部の直線部は上下方向に対して左右方向に向けて多少傾斜していてもよい。
【0048】
図7で示した各事例では、左右の船外機13の下方向への移動量が同じであるが、一の船外機13は、他の船外機13と独立して上下方向に移動可能に構成されており、一の船外機13の下方向ヘの移動量を他の船外機13の下方向への移動量と異ならせてもよい。例えば、図9(A)に示すように、右舷側の船外機13の下方向への移動量を左舷側の船外機13の下方向への移動量よりも大きくしてもよい。この場合、右舷側のプロペラ16が左舷側のプロペラ16よりも深く沈むため、水圧の差により、右舷側の推力Fが左舷側の推力Fよりも大きくなり、船舶10を左舷側に回頭させるようなヨーモーメントを生じさせることができる。
【0049】
また、船舶10が旋回する際、船体11がロールして片舷の船外機13が結果として持ち上げられてプロペラ16が水面に近付くが、この場合、図9(B)に示すように、持ち上げられた船外機13を下方に移動させることにより、船体11のロールによる各プロペラ16の上方への移動が打ち消され、プロペラ16が水面へ近付くのを抑制することができる。
【0050】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態は、各船外機13をロール軸20の回りに回動させるだけでなく、チルト軸19の回りにも回動させる点で第1の実施の形態と異なるが、それ以外の構成、作用が上述した第1の実施の形態と基本的に同じであるので、重複した構成、作用については説明を省略し、以下に異なる構成、作用についての説明を行う。
【0051】
図10は、船舶10において船外機13をチルト軸19の回りに回動させたときに生ずる効果を説明するための図である。図10では、片舷の船外機13のみ、例えば、左舷側の船外機13のみをトリムインさせ、右舷側の船外機13はチルト軸19の回りに回動させないことを前提とする。なお、図10では、右側の船外機13の図示が省略されている。
【0052】
図10では、左舷側の推力Fが船体11に斜め上向きに作用し、上方向の分力fが生じる(図10(A))。この分力fによって船体11の左舷側が持ち上げられる。すなわち、船体11を右舷側に向けて傾けさせるロールモーメントMが発生する(図10(B))。また、左舷側の船外機13のみをチルトアップさせた場合、左舷側の推力Fは船体11に斜め下向きに作用し、下方向の分力が生じるため、船体11を左舷側に向けて傾けさせるロールモーメントが発生する。
【0053】
なお、図10では、右舷側の船外機13はチルト軸19の回りに回動していないが、右舷側の船外機13もチルト軸19の回りに回動してもよい。但し、この場合、ロールモーメントMを発生させるためには、左舷側の推力Fの分力fと右舷側の推力Fの分力fを異ならせる必要がある。したがって、右舷側の船外機13が左舷側の船外機13と独立してチルト軸19回りに回動可能に構成され、右舷側の船外機13のチルト軸19の回りの回動角を左舷側の船外機13のチルト軸19の回りの回動角と異ならせる必要がある。
【0054】
図11は、各船外機13を対応するロール軸20回りに回動させるとともに、左舷側の船外機13をトリムインさせた場合の事例を説明するための図である。図11では、船舶10を後方から眺めた場合が例示される。
【0055】
例えば、各船外機13を、図11(A)に示すように、それぞれが有するプロペラ16が互いに接近するように、それぞれに対応するロール軸20回りに回動させた際、推力Fの各作用点Pの間隔が狭まり、船体11の左右方向のバランスが取りにくくなり、船体11が片舷へ向けて傾斜する可能性がある。この場合、当該傾斜を打ち消すように、片側の船外機13をトリムインさせてロールモーメントMを発生させる。図では、船体11が左舷側へ向けて傾斜する場合を示すが、この場合、左舷側の船外機13をトリムインさせて船体11を右舷側に向けて傾けさせるロールモーメントMを発生させる。
【0056】
また、各船外機13を、図11(B)に示すように、それぞれが有するプロペラ16が互いに離間するように、それぞれに対応するロール軸20回りに回動させてその場旋回を行う際、船体11の側方に水の抵抗が作用してロールモーメントが発生し、船体11が片舷へ向けて傾斜する可能性がある。この場合、水の抵抗に起因するロールモーメントを打ち消すように、片側の船外機13をトリムインさせてロールモーメントMを発生させる。図では、右舷方向にその場旋回を行う際に船体11の右舷側に水の抵抗が作用して船体11が左舷側へ向けて傾斜する場合を示すが、この場合、左舷側の船外機13をトリムインさせて船体11を右舷側に向けて傾けさせるロールモーメントMを発生させる。
【0057】
さらに、船舶10が右舷側へ旋回する際、右舷側に旋回するのを助長するヨーモーメントを発生させるために、図11(C)に示すように、各船外機13を、それぞれが有するプロペラ16が左舷方向に移動するように、それぞれに対応するロール軸20回りに回動させる。このとき、船舶10が低速で航行していると、船舶10は排水量型の船舶のように振る舞うため、船体11が左舷側へ向けて傾斜する可能性がある。この場合、左舷側の船外機13をトリムインさせて船体11を右舷側に向けて傾けさせるロールモーメントMを発生させる。
【0058】
なお、船舶10が左舷側へ旋回する際、各船外機13を、それぞれが有するプロペラ16が右舷方向に移動するように、それぞれに対応するロール軸20回りに回動させたときは、船舶10が低速で航行していると、船体11が右舷側へ向けて傾斜する可能性がある。この場合は、右舷側の船外機13をトリムインさせて船体11を左舷側に向けて傾けさせるロールモーメントを発生させる。
【0059】
本実施の形態によれば、船体11の片舷へ向けての傾斜に応じて、傾斜する側の船外機13をトリムインさせるため、当該傾斜を打ち消すロールモーメントMを発生させることができ、もって、乗り心地を改善することができる。
【0060】
なお、本実施の形態では、右舷側の船外機13のチルト軸19の回りの回動角を左舷側の船外機13のチルト軸19の回りの回動角と異ならせることを前提とするが、これらの回動角を同じにしてもよい。また、第2の実施の形態と同様に、各船外機13を上下方向に移動させてもよい。この場合、左右の船外機13の下方向への移動量を同じにしてもよく、若しくは、互いに異ならせてもよい。
【0061】
以上、本発明の好ましい各実施の形態について説明したが、本発明は上述した各実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0062】
例えば、船外機13は動力源として、電動モータ15を備えるが、船外機13は、船外機13をロール軸20回りに大きく回動させても潤滑油の循環が成立する内燃機関、例えば、ロータリーエンジンや、大きく傾斜してもオイルパンからストレーナによって潤滑油を吸い上げることができるレシプロエンジンを動力源として備えていてもよい。
【0063】
また、本発明が船外機13を備える船舶10に適用される場合について説明したが、本発明は少なくとも1つの船内外機を備える小型船舶に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 船舶、11 船体、12 船尾、13 船外機、15 電動モータ、16 プロペラ、19 チルト軸、20 ロール軸、21 リンク機構

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11