(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180596
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】測位システム及び測位システムにおける測位方法
(51)【国際特許分類】
G01S 19/04 20100101AFI20231214BHJP
G01S 19/43 20100101ALI20231214BHJP
【FI】
G01S19/04
G01S19/43
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094025
(22)【出願日】2022-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕明
(72)【発明者】
【氏名】谷川原 誠
(72)【発明者】
【氏名】柳原 徳久
(72)【発明者】
【氏名】板東 幹雄
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062BB01
5J062BB08
5J062CC07
5J062DD24
(57)【要約】
【課題】
衛星信号を用いる測位システムにおいて、仮想基準局が再度生成された直後の測位精度の低下を防止する。
【解決手段】
測位システムにおいて仮想基準局6が再度生成された場合に、過去に配信サーバ5から受信した補正信号14を用いて、現在時刻あるいは未来において配信サーバ5から受信されるであろう擬似距離と搬送波位相の予測モデルを算出し、補正信号14と補正信号予測値に記載された擬似距離から補正信号14の連続性を検出する。演算制御部27は、擬似距離連続性検出部23から、補正信号14の連続性を示す信号38を受信した場合は、通信部21から受信した補正信号14の基地局識別情報を変更しないようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮想基準局によって取得される位置情報に応じて擬似距離及び搬送波位相、基地局識別情報を含む補正信号を提供する配信サーバと通信を行う通信部と、測位衛星からの衛星信号を受信するアンテナ部と、前記衛星信号と前記補正信号に基づいて位置情報を算出する測位演算部と、前記補正信号を前記測位演算部に出力する演算制御部を有し、前記演算制御部が前記仮想基準局の識別情報の変更を検出した場合に前記測位演算部における測位演算を初期化する測位システムであって、
過去に受信した前記補正信号から現在時刻あるいは未来において前記通信部で受信されるであろう少なくとも擬似距離と搬送波位相の予測モデルを含む補正信号予測情報を算出する補正信号予測部と、
前記補正信号と前記補正信号予測情報に記載された擬似距離から前記補正信号の連続性を検出する擬似距離連続性検出部と、を有し、
前記演算制御部は、前記擬似距離連続性検出部が前記補正信号の連続性を検出した場合に、前記通信部から受信した前記補正信号の基地局識別情報を変更しないことを特徴とする測位システム。
【請求項2】
前記補正信号予測部は、前記補正信号の擬似距離値と搬送波位相値の予測モデルの出力値と、前記配信サーバから受信した前記補正信号にて得られた前記擬似距離と前記搬送波位相との差分から、補正信号予測精度を含む補正信号予測情報を算出することを特徴とする請求項1に記載の測位システム。
【請求項3】
擬似距離連続性検出部は、前記補正信号予測情報から前記補正信号の連続性を検出することを特徴とする請求項2に記載の測位システム。
【請求項4】
前記補正信号予測部に基づいて前記補正信号に記載された搬送波位相の補正量である搬送波位相補正量を算出する搬送波位相補正量算出部を設け、
前記搬送波位相補正量算出部は前記搬送波位相補正量を前記演算制御部に出力することを特徴とする請求項1に記載の測位システム。
【請求項5】
前記演算制御部は、前記擬似距離連続性検出部が前記補正信号の連続性を検出した場合に、前記搬送波位相補正量を用いて前記補正信号を補正することを特徴とする請求項4に記載の測位システム。
【請求項6】
前記測位演算部は、前記測位演算部の処理状態を示した測位状態情報を、前記位置情報と共に前記演算制御部に出力することを特徴とする請求項1に記載の測位システム。
【請求項7】
前記演算制御部は、前記測位演算部及び前記擬似距離連続性検出部からの出力に基づいて前記位置情報に含まれる前記処理状態を変更することを特徴とする請求項6に記載の測位システム。
【請求項8】
前記通信部により受信した前記補正信号を格納する補正信号データベースと、
前記補正信号予測部による前記予測モデルを格納する予測結果データベースを設けたことを特徴とする請求項7に記載の測位システム。
【請求項9】
仮想基準局によって取得される位置情報に応じて擬似距離及び搬送波位相、基地局識別情報を含む補正信号を提供する配信サーバと通信を行う通信部と、測位衛星からの衛星信号を受信するアンテナ部と、前記補正信号に基づいて位置情報を算出する測位演算部と、前記補正信号を前記測位演算部に出力する演算制御部を有し、前記演算制御部が前記仮想基準局の識別情報の変更を検出した場合に前記測位演算部における測位演算を初期化する測位システムにおける測位方法であって、
過去に受信した前記補正信号から現在時刻あるいは未来において前記通信部で受信されるであろう少なくとも擬似距離と搬送波位相の予測モデルを含む補正信号予測情報を算出し、
前記補正信号予測情報から前記補正信号の連続性を検出し、
前記演算制御部は、
前記仮想基準局の識別情報の変更を検出した場合であって、前記擬似距離の連続性検出に基づいて前記補正信号の非連続性を検出した場合に、前記測位演算部における測位演算を初期化し、
前記仮想基準局の識別情報の変更を検出した場合であっても、前記擬似距離の連続性検出に基づいて前記補正信号の連続性を検出した場合には前記測位演算部における測位演算を初期化しないことを特徴とする測位システムにおける測位方法。
【請求項10】
前記測位システムは、前記補正信号の擬似距離値と搬送波位相値の予測モデルの出力値と、前記配信サーバから受信した前記補正信号にて得られた前記擬似距離と前記搬送波位相との差分を求め、
補正信号予測精度を含む補正信号予測情報を算出することを特徴とする請求項9に記載の測位方法。
【請求項11】
前記測位システムは、前記補正信号予測情報から前記補正信号の連続性を検出することを特徴とする請求項10に記載の測位方法。
【請求項12】
前記測位システムは、前記補正信号予測情報に基づいて前記補正信号に記載された搬送波位相の補正量である搬送波位相補正量を算出して前記演算制御部に出力することを特徴とする請求項11に記載の測位方法。
【請求項13】
前記演算制御部は、前記補正信号の連続性を検出した場合に、前記搬送波位相補正量を用いて前記補正信号を補正することを特徴とする請求項12に記載の測位方法。
【請求項14】
前記測位演算部は、前記測位演算部の処理状態を示した測位状態情報を、前記位置情報と共に前記演算制御部に出力することを特徴とする請求項13に記載の測位方法。
【請求項15】
前記演算制御部は、擬似距離の連続性検出結果に基づいて前記位置情報に含まれる前記処理状態を変更することを特徴とする請求項14に記載の測位方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位システム及び測位システムにおける測位方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より地球上空に位置する人工衛星から地球上に送信された衛星信号を受信することで測位を行うGNSS(Global Navigation Satellite System)を用いた測位として干渉測位が存在する。干渉測位では例えば、観測点と他既知点で受信した衛星信号の搬送波位相を用いて、既知点から観測点までの基線長を算出し、観測点の地球上での位置座標を求める。
【0003】
干渉測位では、衛星信号を観測するための基準局を既知点に設置するRRS方式(Real Reference Station)の他に、電子基準点で観測した衛星信号から任意の地点に仮想基準局を生成し、観測点と仮想基準局において干渉測位を行うVRS方式(Virtual Reference Station)が提案されている。VRS方式では、観測点の初期位置近傍に仮想基準局を生成し、仮想基準局で受信されるであろう衛星信号を演算することで、既知点である仮想基準局から観測点までの基線長を算出し、観測点の地球上での位置座標を求める。RRS方式では、設置した基準局と観測点の基線長が増加するほど衛星信号が電離圏や対流圏を通過することによる測位誤差が大きくなるが、VRS方式では、観測点近傍に既知点として仮想基準局を生成可能であるため、基線長増加を起因とする測位誤差を低減し、観測点の地球上での位置座標を高精度に演算することが可能となる。例えば、特許文献1には、「VRS(Virtual Reference Station)方式のネットワーク型RTK(Real Time Kinematic)-GNSS(Global Navigation Satellite System)測量方法において、GNSS測量機を目標測量地点に設置し、同地点で単独測位により求めた同地点の概略座標を仮想基準点の座標としてデータ配信局へ送信する。」といった構成が開示されている。
【0004】
移動する観測点を干渉測位によって演算する測位システムでは、観測点の移動により既知点との基線長が増加することで、観測点での測位精度が低下することが知られている。例えば特許文献2には、基線長が増加し干渉測位での測位精度が低下した際に基準局を変更する測位システムとして、「移動する測位対象の位置測定に用いるサーバであって、互いに異なる複数の既知の位置座標それぞれに配置された複数の基準局から、前記基準局が人工衛星の電波を受信して生成した観測データを受信する基準局通信部と、前記複数の基準局それぞれについて、前記基準局から受信した前記観測データに基づいて、前記測位対象の位置測定に用いる測位補正情報を作成する補正情報作成部と、前記複数の基準局それぞれの前記測位補正情報を記憶する情報記憶部と、定期的に、前記測位対象の概略位置情報を取得し、前記測位対象の概略位置情報に基づいて前記測位対象に近い位置に配置されている一又は複数の基準局を選択する基準局選択部と、前記人工衛星の電波を前記測位対象が受信して生成した観測データを前記測位対象から受信する測位対象通信部と、前記選択した一又は複数の基準局の測位補正情報と、前記測位対象の観測データとに基づいて、前記測位対象の位置情報を計算する位置情報計算部(要約抜粋)」を備えた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許特開2016-128771号公報
【特許文献2】特開2021-47054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2によれば、VRS方式で観測点の初期位置近傍に生成した仮想基準局において、基線長増加によって測位精度が低下した場合、移動後の観測点近傍に仮想基準局を再度生成することで測位精度を改善する測位システムが実現できる。干渉測位では、既知点で受信される衛星信号が連続的であることを仮定し観測点の位置座標を求めるため、VRS方式では仮想基準局が再度生成された場合、既知点で受信される衛星信号が連続的であるという仮定が棄却されるため、測位演算が初期化される。測位演算が初期化された場合、干渉測位では一時的に測位精度が低下する。一方、VRS方式では、基線長が増加していない場合でも観測点と基地局の通信が一定期間途絶した際や仮想基準局の演算に不具合が生じた際、仮想基準局の演算を停止し、仮想基準局が再度生成される場合がある。このような場合、再度生成された仮想基準局の位置変動はわずかであるため、仮想基準局で受信される衛星信号は連続となる。したがって、測位システムは測位演算を初期化せずに干渉測位による測位演算を継続可能であると考え、本発明による測位方法を検討した。
【0007】
本発明の目的は、衛星信号を用いる測位システムにおいて仮想基準局が再度生成された場合に、仮想基準局における衛星信号の連続性に基づいて測位演算の初期化を判断することで、測位精度の低下を防止するとともに演算を継続する測位システム及び測位方法を実現することにある。
本発明の他の目的は、衛星信号を用いる測位システムにおいて、過去に配信サーバから受信した補正信号を用いて、現在時刻あるいは未来において配信サーバから受信されるであろう擬似距離と搬送波位相の予測モデルを算出することにより、仮想基準局が再度生成された直後の測位精度の低下を防止した測位システム及び測位方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の測位システムは、複数の測位衛星と、測位衛星からの取得した位置情報に応じて少なくとも擬似距離及び搬送波位相、基地局識別情報を含む補正信号を出力する基地局と、仮想基準局によって取得されるであろう位置情報に応じて擬似距離及び搬送波位相、基地局識別情報を含む補正信号を提供する配信サーバと、測位衛星からの衛星信号を受信して位置情報を算出する測位装置によって構成される。測位装置は、GNSSアンテナにて受信した衛星信号から算出される概略位置データに加えて、配信サーバから提供される補正信号に基づいて、精密位置データを算出する。ここで、受信装置には過去に受信した補正信号から現在時刻あるいは未来において通信部で受信されるであろう少なくとも擬似距離と搬送波位相の予測モデルを含む補正信号予測情報を算出する補正信号予測部と、補正信号と補正信号予測情報に記載された擬似距離から補正信号の連続性を検出する擬似距離連続性検出部を設け、演算制御部は、擬似距離連続性検出部が補正信号の連続性を検出した場合に、通信部から受信した補正信号の基地局識別情報を変更しないようにして精密位置データを算出する測位演算を継続する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、測位システムにおいて、仮想基準局が再度生成された場合でも、測位演算を初期化せずに干渉測位の演算を継続可能としたので、衛星信号を用いる観測システムにおいて、仮想基準局の変更直後における測位精度の一次的な低下を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の測位システム1のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1の補正信号DB25が記録する補正信号14のデータ構成を示す図である。
【
図3】
図1の補正信号DB25が記録する処理情報106を示す図である。
【
図4】
図1の補正信号予測部22が補正信号予測情報35として算出する擬似距離及び搬送波位相に関する数式モデルと式1~式3を示す図である。
【
図5】補正信号予測部22が補正信号DB25に基づいて、補正信号予測情報35として算出する数式モデルのパラメータを示す図である。
【
図6】
図1の演算制御部27から受信した補正信号14と補正信号予測情報35から予測した予測値との差分である補正信号予測誤差36を示す図である。
【
図7】(a)は
図1の予測結果DB26が補正信号予測誤差36から算出した補正信号予測誤差分布163を示す図であり、(b)は測位衛星数閾値N_MAXの算出式である。
【
図8】
図1の擬似距離連続性検出部23の処理手順を示すフローチャートである。
【
図9】
図1の搬送波位相補正量算出部24の処理手順を示すフローチャートである。
【
図10】本実施例の測位装置20の処理手順を示すフローチャートである(その1)。
【
図11】本実施例の測位装置20の処理手順を示すフローチャートである(その2)。
【
図12】本実施例の測位装置20の処理手順を示すフローチャートである(その3)。
【
図13】
図1の測位演算部29が出力する測位状態情報170のデータ構成を示す図である。
【
図14】
図1の演算制御部27が実行する測位状態情報170を出力する処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明に係る測位システム1の実施例について説明する。図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、本発明はこれらの図面に限定されず、一部の構成要素を用いない場合もあり、以下で説明する各実施例の構成要素は適宜組み合わせることができる。
【実施例0012】
本実施例に係る測位システム1は、例えば固定点測量や農業機械や建設機械といった低速移動体の位置情報の測位に用いられる。
図1は測位システム1の全体ハードウェア構成を示す図である。測位システム1は、測位装置20、複数の測位衛星3、複数の基地局4、配信サーバ5を含んで構成される。本発明の測位システム1の範囲は、
図1に示す構成全体を広義の「測位システム」と称しているが、特許請求の範囲では、測位装置20部分を狭義の“測位システム”として指している。
【0013】
[測位衛星]
測位衛星3は、地球上空の衛星軌道に位置する複数の人工衛星で構成され、地面に向けて衛星信号10を送信することで、全地球航法衛星システム(GNSS)を構築する。GNSSは、複数の測位衛星3からの衛星信号10のうち、いくつかを受信し、受信した複数の衛星信号10を用いることによって、GNSSアンテナ28の地球上の自己位置の取得を可能とする。衛星信号10には、少なくとも測位衛星3の位置情報及び衛星時計誤差が含まれている。測位衛星3は、複数の周波数帯における衛星信号10を送信することで、GNSSの冗長化を図っている。本実施例に係る測位システム1は、単一周波数帯における衛星信号10の利用であるとして記載しているが、本発明を複数周波数帯における衛星信号10を用いた測位システムにも同様に適用できる。
【0014】
[基地局]
基地局4は、地球上の異なる地点に複数設置されており、それぞれの測位衛星3が送信する衛星信号10を受信する。基地局4は、複数の測位衛星3から受信した受信衛星信号11を、配信サーバ5(詳細は後述する)に送信する。全ての基地局4は、測位衛星3から受信した受信衛星信号11を配信サーバ5にそれぞれ送信する。全ての基地局4は、あらかじめ地球上における位置が高精度に測位されており、その位置情報は配信サーバ5に記憶されている。
【0015】
[配信サーバ]
配信サーバ5は、基地局4から受信衛星信号11を受信することで、VRS方式で補正信号14を生成する。VRS方式は、仮想基準局6を任意の位置に生成し、仮想基準局6の付近に設置されている基地局4で受信した衛星信号11から仮想基準局6で受信されるであろう衛星信号12を算出する。配信サーバ5は、測位装置20から取得した生成位置情報108に基づいてその位置近傍に仮想基準局6を生成しその補正信号14を演算することで、測位装置20に補正信号14を送信する。配信サーバ5は、例えば仮想基準局6の演算エラーが発生し、測位装置20に対し高精度な補正信号14を配信できない場合には、仮想基準局6の演算を停止する。配信サーバ5としては、測位装置20の製造会社とは異なる会社、例えば通信キャリアによって提供される有償のサービスを利用することができる。配信サーバ5と測位装置20は、無線通信回線やその他の公知の無線通信回線を用いたネットワーク網によって双方向に通信可能である。
【0016】
配信サーバ5は、仮想基準局6の演算を停止した後に、新たな仮想基準局6′を測位装置20から取得した位置付近に再度生成する。仮想基準局6にはそれぞれを識別するための情報である仮想基準局ID101が定められている。配信サーバ5は、仮想基準局ID101を含む補正信号14を生成する。配信サーバ5は、再度、仮想基準局6を生成するたびに、仮想基準局ID101を変更する。よって、測位装置20は配信サーバ5から受信した補正信号14に記載されている仮想基準局ID101(
図2参照)が変更されたか否かによって仮想基準局6が再生成されたことを検知できる。尚、配信サーバ5は、あらかじめ任意の位置に仮想基準局6を複数生成しておき、測位装置20から取得した生成位置情報108に応じて、測位装置20に新たな補正信号14を送信するようにしてもよい。その場合、配信サーバ5は測位装置20から取得した生成位置情報108に一番近くに生成された仮想基準局6を選択し、その仮想基準局6として演算された新たな補正信号14を測位装置20に送信する。
【0017】
配信サーバ5は、仮想基準局6で受信されるであろう衛星信号10に基づいて、各測位衛星3に対し擬似距離7と搬送波位相8を算出し、擬似距離7と搬送波位相8を含む補正信号14を算出する。擬似距離7は、測位衛星3から送信された衛星信号10がGNSSアンテナ28で受信されるまでの時間を計測することで算出される測位衛星3とGNSSアンテナ28までの距離である。擬似距離7は、受信機時計誤差、衛星時計誤差、電離圏遅延、対流圏遅延、その他雑音が含まれている。
【0018】
搬送波位相8は、同時刻における測位衛星3が送信する衛星信号10の位相とGNSSアンテナ28が受信した衛星信号10の位相差である。搬送波位相8は、整数値バイアス、受信機時計誤差、衛星時計誤差、電離圏遅延、対流圏遅延、その他雑音が含まれている。搬送波位相8は、測位衛星3が送信する衛星信号10の波長を掛け合わせることで、距離成分として記載してもよい。その場合、測位装置20の処理は搬送波位相8に衛星信号10の波長の逆数を乗じて実行される。補正信号14は、少なくとも仮想基準局6における各測位衛星3の擬似距離7、搬送波位相8、仮想基準局ID101及び仮想基準局6の地球上における位置が含まれている。
【0019】
[GNSSアンテナ]
GNSSアンテナ28は、地球上空に位置する複数の測位衛星3からの衛星信号10を受信し、受信した衛星信号31を測位演算部29に送信する。ここで衛星信号10はアナログ信号であり、GNSSアンテナ28は、受信した衛星信号10をA/D変換してデジタル信号による衛星信号31を測位演算部29に送信するように構成する。GNSSアンテナ28は、被測位物体において位置を取得したい個所に設置される。例えば、測位装置20が移動体向けに用いられる場合、GNSSアンテナ28は対象とする移動体の車体に設置すれば良い。
【0020】
[測位装置]
測位装置20は、GNSSアンテナ28を用いて受信した衛星信号10と配信サーバ5から取得した補正信号14に基づいてGNSSアンテナ28の位置を示す位置情報32を算出する。測位装置20は、
図1に示すように、測位演算部29、通信部21、補正信号予測部22、擬似距離連続性検出部23、搬送波位相補正量算出部24、補正信号DB(データベース)25、予測結果DB(データベース)26、及び、演算制御部27を備えている。測位演算部29、通信部21、補正信号予測部22、擬似距離連続性検出部23、及び、搬送波位相補正量算出部24は、演算制御部27の動作指令に応じて定められた処理を実行する。演算制御部27は、測位演算部29の動作周期に応じて位置情報32を出力する。なお測位装置20の各要素は、ハードウェアによって、又は、コンピュータプログラムを実行することによってソフトウェアによりその機能が実現されるように構成しても良い。また、測位装置20の各要素は、必ずしも単体のハードウェア内に構成される必要はなく、それぞれ独立した別の機器、例えば外部機器や外部サーバとして構成されてもよい。その場合、測位装置20の各要素は、それぞれが通信可能に構成すると良い。
【0021】
[測位演算部]
測位演算部29は、GNSSアンテナ28から受信した測位衛星3からの衛星信号31と演算制御部27から受信した補正信号14に基づき、GNSSアンテナ28の地球上の位置を演算し、概略位置データ32aと精密位置データ32bのどちらか一つ以上を演算する。測位演算部29は、演算された概略位置データ32a及び精密位置データ32bのどちらか一つを位置情報32として演算制御部27に出力する。
【0022】
概略位置データ32aは、測位演算部29が単独測位を用いて算出したGNSSアンテナ28の概略位置である。精密位置データ32bは、測位演算部29が干渉測位を用いて算出したGNSSアンテナ28の精密位置である。精密位置データ32bは、概略位置データ32aよりもGNSSアンテナ28の実際の位置に近い高精度な測位結果とする。測位演算部29は、GNSSアンテナ28から受信した衛星信号31に基づいて、各測位衛星3に対し擬似距離7と搬送波位相8を算出することで、概略位置データ32aと精密位置データ32bのどちらか一つ以上を演算する。
【0023】
単独測位では、GNSSアンテナ28で受信した複数の衛星信号10に基づいて、概略位置データ32aを算出する。単独測位では、少なくとも4機以上の測位衛星3と、GNSSアンテナ28との間の擬似距離7から、三角測量の原理を用いて、概略位置データ32aを算出する。上記の擬似距離7は、各測位衛星3の軌道、測位装置20や測位衛星3に使用されている時計の精度、電離層や対流圏を通過する際に生じる搬送波の遅延、などに起因する誤差を含んでいる。また測位演算部29は、概略位置データ32aを算出する際、測位衛星3が送信する衛星信号10の波長をGNSSアンテナ28で受信した衛星信号10から算出した搬送波位相8に掛け合わせ距離成分とすることで、三角測量の原理より概略位置データ32aを算出してもよい。
【0024】
干渉測位では、GNSSアンテナ28で受信した衛星信号10と、演算制御部27から受信した補正信号14の双方に基づいて、精密位置データ32bを算出する。干渉測位では、GNSSアンテナ28で受信した衛星信号10に含まれる少なくとも5機以上の測位衛星3とGNSSアンテナ28との間の擬似距離7及び搬送波位相8、補正信号14に含まれる少なくとも5機以上の測位衛星3と仮想基準局6との間の擬似距離7及び搬送波位相8、から精密位置データ32bを算出する。干渉測位では、測位衛星3とGNSSアンテナ28との間の搬送波位相8、測位衛星3と仮想基準局6との間の搬送波位相8の差分である搬送波位相差を算出する。干渉測位では、搬送波位相差を算出する際、GNSSアンテナ28が衛星信号10を受信したとき、衛星信号10の搬送波位相8においてそれが連続波のどの部分であるか波数の小数部は分かるが、波数小数部を除いた波数整数部は不明である。干渉測位では、この波数整数部を確定した際、仮想基準局6とGNSSアンテナ28との間の基線長を正確に求めることができる。
【0025】
干渉測位では、仮想基準局6の地球上の位置が補正信号14に記載されているため、仮想基準局6の位置とGNSSアンテナ28間の基線長から、GNSSアンテナ28の位置を予測できる。よって測位演算部29は、仮想基準局6の位置とGNSSアンテナ28間の基線長から予測したGNSSアンテナ28の位置を用いて、単独測位結果である概略位置データ32aを補正することで精密位置データ32bを算出する。この際、測位演算部29は、過去時刻における搬送波位相差に含まれる波数整数部と現在時刻における波数整数部が連続的であることを仮定し、カルマンフィルタ等を用いることで、精密位置データ32bを算出する。
【0026】
測位演算部29は、演算制御部27から演算初期化指令33を受信した場合、それまでの波数整数部が連続的であるという仮定を棄却し、再度波数整数部及び基線長の演算を開始する。測位演算部29は、演算初期化指令33を受信した直後、衛星信号10の搬送波位相8においてそれが連続波の波数小数部のみ推定可能であるため、連続波の波数整数部を確定するまで一時的に測位精度が低下する。測位演算部29は、搬送波位相差の波数小数部及び波数整数部を確定できなかった場合、干渉測位の演算に失敗したと判断する。測位演算部29は、精密位置データ32bが算出できた場合、精密位置データ32bを位置情報32として出力し、精密位置データ32bを算出できなかった場合のみ、概略位置データ32aを位置情報32として出力する。測位演算部29は、位置情報32を演算制御部27に出力する。
【0027】
[通信部]
通信部21は、演算制御部27から受信した生成位置情報108(後述する)を配信サーバ5に送信する。配信サーバ5は、通信部21から受信した生成位置情報108に応じて補正信号14を生成し、通信部21に対して出力する。通信部21が配信サーバ5から受信する補正信号14には、少なくとも測位衛星3の識別番号100、仮想基準局6が補正信号14を生成した時刻102、擬似距離7、搬送波位相8及び仮想基準局ID101が含まれている。通信部21は、配信サーバ5から受信した補正信号14を演算制御部27に出力する。通信部21は、例えば電波的な障害や通信部21または配信サーバ5のどちらかに障害が生じている場合、補正信号14の受信に失敗することがある。
【0028】
[補正信号DB]
補正信号DB25は、演算制御部27の指示に従って、補正信号14及び処理情報106(
図3にて後述)を記録する。補正信号DB25は、過去に演算制御部27から受信した補正信号14として少なくとも測位衛星3の識別番号、仮想基準局6が補正信号14を生成した時刻、擬似距離7、搬送波位相8及び仮想基準局ID101が記録されている。補正信号DB25は、演算制御部27が通信部21を介して配信サーバ5から受信した補正信号14を演算制御部27から取得して、補正信号14を記憶する。
【0029】
図2は、補正信号DB25が記録する補正信号14の詳細を示すデータテーブルである。補正信号DB25は、仮想基準局6が補正信号14を生成した時刻102の時系列順で補正信号14を記憶装置に記憶し、かつ同時刻においては少なくとも測位衛星3の識別ID100順に補正信号14を記憶する。演算制御部27から受信した補正信号14と同一時刻及び同一測位衛星の補正信号14が既に記録されていた場合には、補正信号DB25は、記録されている補正信号14の擬似距離7及び搬送波位相8、仮想基準局ID101を更新する。補正信号DB25は、記録されている仮想基準局6が補正信号14を生成した時刻102が最も新しいデータ群103を最新の補正信号14と判断する。
図2では、07:00:00~07:30:00までの補正信号14が格納された例を示しており、時刻102が“07:30:00”のデータ群103が最新の補正信号14に相当する。
【0030】
図3は、補正信号DB25が記録する処理情報106を示している。処理情報106は、少なくとも測位衛星3の識別番号110、各測位衛星3の搬送波位相補正量104、変更後仮想基準局ID107及び変更前仮想基準局ID109が含まれている。搬送波位相補正量104は、演算制御部27が通信部21から受信した補正信号14に含まれる搬送波位相8を補正するための情報であり、搬送波位相補正量算出部24で算出され、演算制御部27を介して補正信号DB25に記録される。変更後仮想基準局ID107は、演算制御部27が通信部21から受信した補正信号14の仮想基準局ID101を変更する際に、その変更後とする値である。変更前仮想基準局ID109は、演算制御部27が通信部21から受信した補正信号14から仮想基準局ID101の変更を検出するために比較値として用いる値である。変更後仮想基準局ID107及び変更前仮想基準局ID109は演算制御部27で決定され、補正信号DB25に記録される。
【0031】
補正信号DB25は、補正信号予測部22及び演算制御部27から常に格納データ40(補正信号14及び処理情報106)を参照可能な状態で構成される。補正信号DB25は、十分な記憶領域を確保できない場合、例えばあらかじめ定められた一定期間のみの補正信号14を記録し、記録時間が一定期間以上となった際、最も古いレコードを削除する処理を実行してもよい。また補正信号DB25は、演算制御部27から初期化指令34を受信した場合、記録された補正信号14及び処理情報106の全てのレコードを削除する。
【0032】
[補正信号予測部]
補正信号予測部22は、補正信号DB25の格納データ40、及び、演算制御部27からの補正信号14に基づいて、補正信号DB25に記録された補正信号14と演算制御部27から受信した補正信号14から補正信号予測情報35を算出する。補正信号予測部22は、補正信号DB25に記録されている格納データ40(過去の補正信号14)に基づいて、演算制御部27から受信した補正信号14に記載された擬似距離7と搬送波位相8を予測するための数式モデルを構築し、補正信号予測情報35として算出する。以降、本明細書では、補正信号予測部22が演算制御部27から受信した補正信号14に記載されている時刻を“t”と称する。
【0033】
図4は、補正信号予測部22が補正信号予測情報35として算出する擬似距離7及び搬送波位相8に関する数式モデルを示している。
図4(a)は、数式モデルをグラフ化したものであり、(b)は式1、(c)は式2、(d)は式3を示している。補正信号予測情報35は、
図4(a)に示すように推定値曲線120は、あらかじめ設定された個数の時刻、例えば補正信号DB25に記録された過去の5つの時刻における擬似距離7及び搬送波位相8の値を用いて算出された数式モデルで表現される。補正信号DB25に記録された過去の5つの時刻をそれぞれ、t
1、t
2、t
3、t
4、t
5、該時刻に対応する擬似距離7あるいは搬送波位相8を、y
1、y
2、y
3、y
4、y
5、とすると、これらは(式1)、(式2)で示すことができ、時刻tにおける擬似距離7あるいは搬送波位相8の推定値は、
図8(d)の(式3)で求めることができる。
【0034】
補正信号予測部22は、補正信号DB25及び演算制御部27に基づいて、演算制御部27から時刻tにおいて受信した補正信号14に記載された全ての測位衛星3に対して数式モデルを構築し、補正信号予測情報35を算出する。
図5は、補正信号予測部22が補正信号DB25に基づいて、補正信号予測情報35として算出する数式モデルのパラメータを示している。補正信号予測部22は、時刻tにおける各測位衛星141の擬似距離142と搬送波位相143を予測する数式モデルのパラメータを補正信号予測情報35として算出する。補正信号予測部22は、例えば補正信号DB25に過去5つ以上の時刻で特定の測位衛星3の擬似距離142と搬送波位相143を記録している場合、該測位衛星3に対応した補正信号予測情報35を算出する。補正信号予測部22は、過去5つ以上の時刻で特定の測位衛星3の擬似距離142と搬送波位相143を記録していない場合、補正信号予測情報35を算出しない。
【0035】
補正信号予測部22は、
図6に示すように演算制御部27から受信した補正信号14と補正信号予測情報35から予測した予測値との差分を補正信号予測誤差36として算出する。補正信号予測部22は、演算制御部27から補正信号14を受信した場合のみ補正信号予測情報35及び補正信号予測誤差36を算出してもよいし、5秒・10秒といった制御周期を設定し、該制御周期において直近で演算制御部27から受信した補正信号14に対し補正信号予測情報35及び補正信号予測誤差36を算出してもよい。補正信号予測部22は、補正信号予測情報35及び補正信号予測誤差36を予測結果DB26に出力する。
【0036】
[予測結果DB]
予測結果DB26は、補正信号予測部22の出力に基づいて、測位衛星3の補正信号予測情報35及び補正信号予測誤差分布163(
図7参照)を記録する。予測結果DB26は、
図5に示す形式で補正信号予測情報35を記録する。予測結果DB26は、補正信号予測部22から補正信号予測誤差36を受信し記録することで、補正信号予測誤差36の確率分布である補正信号予測誤差分布163を算出する。これにより縦軸が発生確率を示し、横軸が補正信号予測誤差36を示すようにすると、補正信号予測誤差分布163を表す
図7(a)のようなグラフが生成できる。
【0037】
予測結果DB26は、補正信号予測情報35を算出した全測位衛星3において補正信号予測誤差分布163を算出し、記録する。予測結果DB26は、擬似距離連続性検出部23及び搬送波位相補正量算出部24から補正信号予測情報35及び補正信号予測誤差分布163を参照可能に構成される。予測結果DB26は、例えばあらかじめ定められた一定期間以上補正信号予測情報35が更新されない測位衛星3が存在する場合、予測結果DB26に記録されている該測位衛星3に紐づいた補正信号予測情報35及び補正信号予測誤差分布163を削除する処理を実行してもよい。また予測結果DB26は、演算制御部27から初期化指令37を受信した場合、記録された全ての測位衛星3の補正信号予測情報35及び補正信号予測誤差分布163を削除する。
【0038】
[擬似距離連続性検出部]
擬似距離連続性検出部23は、演算制御部27から補正信号14を受信した場合のみ動作する。擬似距離連続性検出部23は、予測結果DB26及び演算制御部27に基づいて、補正信号予測情報35及び補正信号予測誤差分布163を用いて、演算制御部27から受信した補正信号14に記載された擬似距離7の連続性を検出する。擬似距離連続性検出部23は、演算制御部27から受信した補正信号14に記載された擬似距離7の連続性情報38を演算制御部27に通知する。演算制御部27は、擬似距離連続性検出部23から受信した補正信号14に記載された擬似距離7の連続性情報38に応じて、測位演算部29の初期化の必要性を判断可能である。
【0039】
図8は、擬似距離連続性検出部23の処理を示すフローチャートである。
図8に示すフローチャートは、擬似距離連続性検出部23が演算制御部27から補正信号14を受信した後の擬似距離連続性検出部23が実施する処理を示している。最初に擬似距離連続性検出部23は、予測結果DB26に補正信号予測情報35が記録されているか確認する(ステップS301)。ここで記録されていない場合はステップS313に進み、記録されている場合、擬似距離連続性検出部23は演算制御部27から受信した補正信号14に記載されている測位衛星3の総数であるS_SUMを算出する(ステップS302)。次に、擬似距離連続性検出部23は、S_SUMが5機以上であり、干渉測位が可能か否かを確認する(ステップS303)。
【0040】
ステップS303にて、S_SUMが5機以上の場合は、補正信号14に記載されている一つ目の測位衛星3をSとして選択し、変数Sを1にセットして、カウント値Nをゼロクリアする(ステップS304)。ステップS303にて、S_SUMが5機以下の場合、ステップS313に進む。次に、擬似距離連続性検出部23は、擬似距離7に関する補正信号予測情報35の数式モデルを用いて、演算制御部27から受信した補正信号14に含まれる、仮想基準局6が補正信号14を生成した時刻tにおける測位衛星Sに関する擬似距離7の値を予測する(ステップS305)。次に、擬似距離連続性検出部23は、
ステップ305で算出した擬似距離7の予測値と演算制御部27から受信した補正信号14に含まれる擬似距離7の実測値の差分である擬似距離予測誤差ε1を算出する(ステップS306)。さらに、擬似距離連続性検出部23は、ステップS305において測位衛星Sに対する擬似距離7が正確に予測されているか判断する閾値である擬似距離予測誤差閾値ε1_MAXを算出する(ステップS307)。擬似距離予測誤差閾値ε1_MAXは、例えば予測結果DB26に記録された補正信号予測誤差分布163の1σ、2σあるいは3σ区間の値を閾値とし、閾値をステップS306で算出した擬似距離予測誤差ε1が越えた際、測位衛星Sに対する擬似距離7が正確に予測されていないと判断する。尚、閾値を1σ~3σの範囲中のどの値を採用するかは任意である。
【0041】
ステップS308で擬似距離連続性検出部23は、擬似距離予測誤差ε1が擬似距離予測誤差閾値ε1_MAX以上か否かを判断する。ε1_MAX以上の場合、擬似距離7の連続性が失われた衛星数Nカウントをインクリメントし、閾値未満の場合、特定の処理は実施せずステップS311に進む(ステップS308、S309)。次に、擬似距離連続性検出部23は、測位衛星Sとして演算制御部27から受信した補正信号14に記載されている全ての測位衛星3を選択したか判断する(ステップS311)。全ての測位衛星3が選択されていない場合は、次の測位衛星3を示す変数Sをインクリメントし(ステップS310)、ステップS305に戻る。全ての測位衛星3が選択された場合、即ち、S=S_SUMの場合は、擬似距離7の連続性が失われた衛星数Nが測位衛星数閾値N_MAX以上か判断する(ステップ312)。
【0042】
ステップS312において、測位衛星数閾値以上の場合は、ステップS313に進み、測位衛星数閾値未満の場合はステップS314に進む。測位衛星数閾値N_MAXの決定方法については、例えば演算制御部27から受信した補正信号14に記載されている測位衛星3内のα%以上において擬似距離7の連続性が失われたかを基準として設定してもよい。その場合、N_MAXの算出式は、
図7(b)で示すS_SUMを変数とした(式4)で与えられる。
【0043】
ステップS313では、演算制御部27から受信した補正信号14の擬似距離7に関して連続性が失われたことを、連続性情報38(
図1参照)として演算制御部27に通知する。ステップS314では、演算制御部27に対して演算制御部27から受信した補正信号14の擬似距離7が連続的であることを連続性情報38として通知する。
【0044】
[搬送波位相補正量算出部]
搬送波位相補正量算出部24は、演算制御部27から補正信号14を受信した場合のみ動作する。配信サーバ5が配信する補正信号14において、仮想基準局6が再度生成された際、搬送波位相8の位相観測が一定期間停止したことに起因して、演算制御部27が受信した補正信号14の搬送波位相8にバイアスが含まれる場合がある。搬送波位相補正量算出部24は、予測結果DB26及び演算制御部27に基づいて、演算制御部27から受信した補正信号14に記載されている搬送波位相8にバイアスが含まれているか判断し、含まれている場合バイアス補正量である搬送波位相補正量104を算出する。
【0045】
図9は、搬送波位相補正量算出部24の処理を示すフローチャートである。最初に、搬送波位相補正量算出部24は、演算制御部27から受信した補正信号14に記載されている測位衛星3の総数であるS_SUMを算出し、補正信号14に記載されている測位衛星3をSとして選択する(ステップS321)。S_SUMは、擬似距離連続性検出部23が
図8のステップS302で算出した値と同一となる。次に、搬送波位相補正量算出部24は測位衛星3を示す変数Sを1にセットする(ステップS322)。次に、搬送波位相補正量算出部24は予測結果DB26に記録された補正信号予測情報35の数式モデルを用いて、演算制御部27から受信した補正信号14に記載されている仮想基準局6が補正信号14を生成した時刻tにおける、測位衛星Sに関する搬送波位相8の値を予測する(ステップS323)。
【0046】
次に、搬送波位相補正量算出部24は、算出された搬送波位相8の予測値と演算制御部27から受信した補正信号14に含まれる搬送波位相8の実測値の差分である搬送波位相予測誤差ε2を算出し(ステップS324)、測位衛星Sに対する搬送波位相8が正確に予測されているか判断する閾値である搬送波位相予測誤差閾値ε2_MAXを算出する(ステップS325)。搬送波位相予測誤差閾値ε2_MAXは、例えば予測結果DB26に記録された補正信号予測誤差分布163の1σ、2σあるいは3σ区間の値を閾値とし、閾値をステップS324で算出した搬送波位相予測誤差ε2が越えた際に、測位衛星Sに対する搬送波位相8が正確に予測されていないと判断できる。
【0047】
次に、搬送波位相補正量算出部24は、搬送波位相予測誤差ε2が搬送波位相予測誤差閾値ε2_MAX以上か判断する(ステップS326)。ここで、搬送波位相予測誤差ε2がε2_MAX以上の場合は、搬送波位相予測誤差ε2の整数値成分を測位衛星Sの搬送波位相補正量104として演算制御部27に出力し(ステップS327)、ε2_MAX未満の場合は閾値未満の場合、特定の処理は実施せずステップS328に進む。ステップS328では、変数Sをインクリメントする。
【0048】
搬送波位相補正量算出部24は、演算制御部27から受信した補正信号14に記載されている全ての測位衛星3を測位衛星Sとして選択したかを判断する(ステップS329)。ここで、測位衛星Sのすべてが選択されていない場合は、次の測位衛星3を選択し、ステップS323に戻り、選択された場合には
図9で示す処理を終了する。
【0049】
[演算制御部]
演算制御部27は、測位演算部29、通信部21、補正信号予測部22、擬似距離連続性検出部23及び搬送波位相補正量算出部24に対し動作指令を行うことで測位演算部29から位置情報32を取得する。そして演算制御部27は、取得した位置情報32を外部装置に送信する。外部装置に関しては、本発明においては特に限定されず、様々な装置に送信できる。例えば本発明が農業機械(農機)用自動運転システムに用いられる場合には、農機の位置情報32を必要とする制御モジュールなどが外部装置に該当する。また、農機の位置情報32を取得して監視や、記録等に利用するような監視装置、サーバ装置、端末装置、など様々な機器も外部装置に該当する。
【0050】
演算制御部27は、補正信号DB25及び予測結果DB26に記録されたデータの参照及び編集を行う。演算制御部27が測位演算部29、通信部21、補正信号予測部22、擬似距離連続性検出部23及び搬送波位相補正量算出部24に対し動作指令を行う順序やその判断手法に関しては後述する。
【0051】
演算制御部27は、通信部21を介し生成位置情報108を配信サーバ5に送信することで、配信サーバ5から仮想基準局6に対する補正信号14を受信する。生成位置情報108は、配信サーバ5が仮想基準局6を生成するための位置を含み、演算制御部27内に記録される。演算制御部27は、通信部21から受信した補正信号14の仮想基準局ID101が変更された場合、配信サーバ5が仮想基準局6の演算を停止し、仮想基準局6を再度生成したと判断する。そして、演算制御部27は、通信部21から受信した補正信号14を擬似距離連続性検出部23に送信することで、通信部21から受信した補正信号14に記載されている擬似距離7の連続性を確認する。
【0052】
演算制御部27は、擬似距離連続性検出部23が通信部21から受信した補正信号14に記載されている擬似距離7の連続性を確認した場合、搬送波位相補正量算出部24に通信部21から受信した補正信号14を送信するとともに搬送波位相補正量104の算出を指令する。そして演算制御部27は、搬送波位相補正量算出部24から取得した搬送波位相補正量104を用いて、通信部21から受信した補正信号14に記載されている搬送波位相8を補正するとともに、仮想基準局ID101を仮想基準局6が再度生成される前の値に変更し、変更後の補正信号14を測位演算部29及び補正信号DB25に出力する。演算制御部27は、変更後仮想基準局ID107及び変更前仮想基準局ID109を決定し、補正信号14に処理情報106として記録する。
【0053】
[測位装置全体]
以下、
図10~
図12を参照して、演算制御部27が動作指令を行う順序及びその判断方法を説明する。
図10~
図12は、測位装置20の測位処理を示すフローチャートでああり、3つの図に分割して示している。最初に、測位装置20が起動して測位動作が開始されると、演算制御部27は生成位置情報108を記録しているか否かを確認する(ステップS201)。ここで、演算制御部27が生成位置情報108を記録していない場合はステップS227に進み、記録している場合は、生成位置情報108を通信部21に送信する(ステップ202)。ステップS203において、通信部21が演算制御部27から受信した生成位置情報108を配信サーバ5に送信することで、通信部21は配信サーバ5から生成位置情報108に対応する補正信号14を受信し、受信した補正信号14を演算制御部27に送信する。
【0054】
次に、演算制御部27は通信部21を介し配信サーバ5から補正信号14を受信できたか否かを確認する(ステップS204)。受信できた場合、ステップS205に進む。受信できなかった場合、ステップS234に進む。ステップS205では、演算制御部27が補正信号DB25に処理情報106として変更前仮想基準局ID109が記録されているか否かを確認する。記録されている場合、ステップS206に進む。記録されていない場合、ステップS212に進む。
【0055】
ステップS206では、演算制御部27がステップS204で通信部21から受信した補正信号14の仮想基準局ID101が変更前仮想基準局ID109と異なるか否かを確認する。異なる場合はステップS207に進み、同一の場合はステップS213に進む。ステップS213では、演算制御部27が補正信号DB25に変更後仮想基準局ID107が処理情報106として記録されているか否かを確認する。記録されている場合はステップS221に進む。記録されていない場合はステップS223に進む。
【0056】
ステップS207では、演算制御部27が擬似距離連続性検出部23に対し、ステップS204で通信部21から受信した補正信号14を出力する。次に、擬似距離連続性検出部23は、
図8で示したステップS301からステップS314までの処理を実行することによって、補正信号14の擬似距離7の連続性を示す連続性情報38(
図1参照)を演算制御部27に出力する(ステップS208)。ステップS208の次は
図11に続き、演算制御部27は、連続性情報38から、通信部21から受信した補正信号14の擬似距離7が連続的であったか否かを確認する(ステップS209)。ここで、擬似距離7が連続的であった場合はステップS210に進み、連続的でない場合はステップS214に進む。
【0057】
ステップS210では、演算制御部27が搬送波位相補正量算出部24に対し、ステップS204で通信部21から受信した補正信号14を出力する。次に、搬送波位相補正量算出部24が
図9で示したステップS321からステップS329までの処理を実行し、搬送波位相補正量算出部24は算出した各測位衛星3の搬送波位相補正量104を演算制御部27に出力する(ステップS211)。次に、演算制御部27は、ステップS204で通信部21から受信した補正信号14に記載された仮想基準局ID101を変更前仮想基準局ID109に設定し、補正信号DB25の処理情報106として記録する(ステップS217)。
【0058】
次に、演算制御部27が補正信号DB25に処理情報106として変更後仮想基準局ID107が記録されているか否かを確認する(ステップS218)。記録されている場合、ステップS220に進み、記録されていない場合は、演算制御部27が変更後仮想基準局ID107を変更前仮想基準局ID109の値に設定し、補正信号DB25の処理情報106として記録する(ステップ219)。次に、演算制御部27が変更前仮想基準局ID109をステップS204で通信部21から受信した補正信号14に記載された仮想基準局ID101の値に変更し、補正信号DB25の処理情報106として記録する(ステップS220)。
【0059】
次に、演算制御部27はステップS204で通信部21から受信した補正信号14に記載された仮想基準局ID101の値を補正信号DB25の処理情報106として記録された変更後仮想基準局ID107の値に変更する(ステップS221)。次に、演算制御部27が補正信号DB25に処理情報106として記録された各測位衛星3の搬送波位相補正量104に基づいて、ステップS204で通信部21から受信した補正信号14に記載された各測位衛星3の搬送波位相8を補正する(ステップS222)。
【0060】
ステップ209においてステップS214に移行した場合は、演算制御部27が補正信号DB25に記録されている補正信号14及び処理情報106を削除することで、補正信号DB25を初期化し(ステップS214)、演算制御部27が予測結果DB26に記録されている補正信号予測情報35及び補正信号予測誤差分布163を削除することで、予測結果DB26を初期化する(ステップS215)。また、演算制御部27が記録していた生成位置情報S216を初期化し(ステップS216)ステップS223に進む。
【0061】
ステップS223では、演算制御部27が通信部21から受信した補正信号14を補正信号予測部22に送信し、補正信号予測部22に対し処理を指令する。
図12に続き、次に演算制御部27は、通信部21から受信した補正信号14を補正信号DB25に記録する(ステップS224)。次に、演算制御部27は、通信部21から受信した補正信号14を測位演算部29に送信し(ステップS225)、測位演算部29に干渉測位を指令する(ステップS226)。
【0062】
ステップS234では、演算制御部27が補正信号DB25に補正信号14が記録されているか確認する。記録されている場合は、演算制御部27が補正信号DB25に記録されている補正信号14を測位演算部29に送信する(ステップS235)。その際、演算制御部27は補正信号DB25に記録されている最新の補正信号14を測位演算部29に送信しても良い。送信後にはステップS226mに進む。ステップ234にて、補正信号14が記録されていない場合は、ステップS227に進む。
【0063】
ステップS227において、演算制御部27が測位演算部29に単独測位を指令する。そして、演算制御部27は測位演算部29が干渉測位に成功したか否かを判断する(ステップS228)。ここで、測位演算部29は、搬送波位相差の波数小数部及び波数整数部のどちらか一つを確定した場合に、干渉測位に成功したと判断する。干渉測位に成功した場合、測位演算部29が単独測位結果を干渉測位結果で補正することで精密位置データ32bを算出し、位置情報32として演算制御部27に出力する(ステップS229)。干渉測位に失敗した場合は、測位演算部29が単独測位結果である概略位置データ32aを算出し、位置情報32として演算制御部27に出力する(ステップS230)。その後、演算制御部27が外部装置に位置情報32を出力する(ステップS231)。
【0064】
最後に、演算制御部27が生成位置情報108を記録しているか判断する(ステップS232)。記録している場合、処理を終了する。記録していない場合、測位演算部29が出力した位置情報32を演算制御部27が生成位置情報108として記録した後に処理を終了する(ステップS233)。
【0065】
以上説明したように、本実施例の測位装置20では、通信部21が配信サーバ5から受信した補正信号14に記載されている仮想基準局ID101が変更された場合、受信した補正信号14に記載されている擬似距離7の連続性を検出する。そして、測位装置20は受信した補正信号14に記載されている擬似距離7の連続性が検出された場合、搬送波位相補正量104を算出する。測位装置20は受信した補正信号14に記載されている仮想基準局ID101を変更前の値に変更し、補正信号14に記載されている搬送波位相8を搬送波位相補正量104に基づいて補正し、測位演算を行う。このように構成したことにより、配信サーバ5によって仮想基準局6が再度生成され、測位装置20の測位演算が初期化される場合でも、仮想基準局6における衛星信号の連続性を検出することで測位演算の継続を判断可能となり、再度生成した仮想基準局6が再度生成前の位置と同一または近傍に生成された場合、測位装置20は測位演算を継続することが可能となるため、測位精度の低下を防止することができる。
このように演算制御部27から、位置情報32と共に測位状態情報170が外部装置(例えば外部端末)に出力されるため、位置情報32を受け取った外部装置は、位置情報32が概略位置データ32a又は精密位置データ32bのどちらであるかを判別でき、さらには測位演算部29が測位演算に用いた補正信号14が演算制御部27によって変更されているかも判別することができる。
第2の実施例ではこのような構成により、測位装置20は測位演算部29の測位状態を外部装置に通知可能となる。また、測位装置20は演算制御部27が補正信号14を変更し、測位演算を継続したことを外部装置に通知可能となる。