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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180620
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】インクジェット用紙
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/50 20060101AFI20231214BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20231214BHJP
   D21H 11/12 20060101ALI20231214BHJP
   D21H 19/38 20060101ALI20231214BHJP
   D21H 19/58 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B41M5/50 120
B41M5/52 110
D21H11/12
D21H19/38
D21H19/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094067
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松本 真一郎
【テーマコード(参考)】
2H186
4L055
【Fターム(参考)】
2H186BB04X
2H186BB07X
2H186BB10X
2H186BB14X
2H186BB28X
2H186BB32X
2H186BB36X
2H186BC24X
2H186BC30X
2H186BC54X
2H186DA07
2H186DA20
4L055AA08
4L055AG08
4L055AG16
4L055AG17
4L055AG63
4L055AG64
4L055AG72
4L055AH02
4L055AH29
4L055AH33
4L055AH37
4L055AJ04
4L055BE08
4L055CF36
4L055CH13
4L055EA04
4L055EA31
4L055FA11
4L055FA12
4L055FA13
4L055FA15
4L055GA09
(57)【要約】
【課題】ファインアートペーパーの風合いを有し、光沢感を有し、特許文献1のように基材の耐黄変性を有し、さらにインクジェット用紙の耐黄変性を有し、さらに画像部の色濃度、耐亀裂発生性及び耐折り割れ性が良好であるインクジェット用紙を提供する。
【解決手段】課題は、基材と、前記基材の少なくとも片面に塗工層とを有するインクジェット用紙において、前記基材が、繊維材料として綿を、基材を構成する繊維材料に対して10質量%以上含有するコットン紙であり、前記基材の塗工層を設ける側の表面pHが5以上6以下であり、前記塗工層が白色顔料、バインダー及びカチオン性樹脂を少なくとも含有するインクジェット用紙によって解決できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも片面に塗工層とを有するインクジェット用紙において、前記基材が、繊維材料として綿を、基材を構成する繊維材料に対して10質量%以上含有するコットン紙であり、前記基材の塗工層を設ける側の表面pHが5以上6以下であり、前記塗工層が白色顔料、バインダー及びカチオン性樹脂を少なくとも含有するインクジェット用紙。
【請求項2】
前記塗工層の表面pHが、6.5以上8.5以下である請求項1に記載のインクジェット用紙。
【請求項3】
前記白色顔料が、アルミナ水和物である請求項1に記載のインクジェット用紙。
【請求項4】
前記カチオン性樹脂が、モノマー単位として、疎水性モノマーと、一部又は全部が塩を形成しているアニオン性モノマーと、ノニオン性N-置換(メタ)アクリルアミドとを含む水溶性共重合体である請求項1に記載のインクジェット用紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画材紙のようなファインアートペーパーの風合いを有するインクジェット用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式に使用できるファインアートペーパーが、インクジェット用紙市場に存在する。ファインアートペーパーとして好適で、かつ耐ファイル黄変性及び耐基材劣化性に優れ、長期保存が可能な記録物を提供し得るインクジェット記録方法に好適な記録媒体として、基材上に少なくとも顔料を含有するインク受容層を設け、前記基材が、コットン紙からなり、且つ少なくとも前記インク受容層が設けられる面の表面pHが5~6.5である記録媒体が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-036714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるコットン紙は、ファインアートペーパーに特有のラフな面質を有する。コットン紙を基材に使用して、基材に対してインクジェット記録のための白色顔料を含有する塗工層を設けて得られたインクジェット用紙は、ファインアートペーパーの風合いを有することができる。しかしながら、この様なインクジェット用紙の塗工層にインクジェット記録方式で印刷を行うと、画像部の色濃度が不足する場合がある。この理由は、基材が空隙に富むためにインクが基材に吸収されて、インクの色材が基材中に埋没するためと考えられる。
また、コットン紙を基材とするインクジェット用紙は、塗工層にインクジェット記録方式で印刷を行うと、塗工層に亀裂を生じる場合がある。この理由は、基材の表面のアウトラインに対して塗工層を均一に設け難く、得られた塗工層が歪みを有するためと考えられる。
また、コットン紙を基材とするインクジェット用紙は、製本加工又はアルバム加工等の後加工のために折り曲げた場合、塗工層に折り割れが発生する場合がある。
また、コットン紙を基材とするインクジェット用紙は、基材がラフな面質のために、光沢感を発現し難い。
【0005】
本発明の目的は、ファインアートペーパーの風合いを有し、基材が耐黄変性を有し、さらに画像部の色濃度、耐亀裂発生性及び耐折り割れ性が良好である、耐黄変性を有するインクジェット用紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意実験を行った。結果、本発明の課題は、以下により解決できる。
【0007】
[1]基材と、前記基材の少なくとも片面に塗工層とを有するインクジェット用紙において、前記基材が、繊維材料として綿を、基材を構成する繊維材料に対して10質量%以上含有するコットン紙であり、前記基材の塗工層を設ける側の表面pHが5以上6以下であり、前記塗工層が白色顔料、バインダー及びカチオン性樹脂を少なくとも含有するインクジェット用紙。
【0008】
いくつかの実施態様としては以下である。
[2]前記塗工層の表面pHが6.5以上8.5以下である上記[1]に記載のインクジェット用紙。
【0009】
いくつかの実施態様としては以下である。
[3]前記白色顔料がアルミナ水和物である上記[1]に記載のインクジェット用紙。
【0010】
いくつかの実施態様としては以下である。
[4]前記カチオン性樹脂が、モノマー単位として、疎水性モノマーと、一部又は全部が塩を形成しているアニオン性モノマーと、ノニオン性N-置換(メタ)アクリルアミドとを含む水溶性共重合体である前記[1]に記載のインクジェット用紙。
【0011】
少なくとも一つの実施態様については以下である。
[5]基材と、前記基材の少なくとも片面に塗工層とを有するインクジェット用紙において、前記基材が、繊維材料として綿を、基材を構成する繊維材料に対して10質量%以上含有するコットン紙であり、前記基材の塗工層を設ける側の表面pHが5以上6以下であり、前記塗工層が白色顔料、バインダー及びカチオン性樹脂を少なくとも含有し、前記白色顔料がアルミナ水和物であり、前記カチオン性樹脂が、モノマー単位として疎水性モノマーと、一部又は全部が塩を形成しているアニオン性モノマーと、ノニオン性N-置換(メタ)アクリルアミドとを含む水溶性共重合体であり、並びに前記塗工層の表面pHが6.5以上8.5以下であるインクジェット用紙。
【発明の効果】
【0012】
本発明のインクジェット用紙は、ファインアートペーパーの風合いを有し、基材が耐黄変性を有し、さらに画像部の色濃度、耐亀裂発生性及び耐折り割れ性が良好であり、並びに耐黄変性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のインクジェット用紙について、詳細に説明する。
【0014】
インクジェット用紙は、基材と、前記基材の少なくとも片面に塗工層とを有する。
基材は、コットン紙からなる。「コットン紙」は、紙を構成する繊維材料として綿(コットン)を、基材を構成する繊維材料に対して10質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは100質量%含有する紙をいう。「綿」とは、ゼニアオイ科ワタ属Gossipiumの植物とその種子に生える繊維とをいい、例えば、シーアイランド綿、エジプト綿、アップランド綿及びアジア綿等を挙げることができる。繊維材料として綿は、これらから成る群から選ばれる一種又は二種以上を、従来公知のパルプと同様に蒸解処理及び漂白処理等がなされて得られるパルプである。綿に含まれるリグニン等のセルロース以外の成分は含有量が少ないために、蒸解処理及び漂白処理等の処理は、従来公知の木材パルプを得るために行われる条件に比べて温和な条件でよい。例えば、処理は、綿を約5%アルカリ中で蒸解処理した後に次亜塩素酸等を用いた一段程度の漂白である。
【0015】
コットン紙には、綿以外の繊維材料として製紙分野で従来公知のパルプを含有することができる。従来公知のパルプの例としては、LBKP(Leaf Bleached Kraft Pulp)、NBKP(Needle Bleached Kraft Pulp)等の化学パルプ、GP(Groundwood Pulp)、PGW(Pressure GroundWood pulp)、RMP(Refiner Mechanical Pulp)、TMP(ThermoMechanical Pulp)、CTMP(ChemiThermoMechanical Pulp)、CMP(ChemiMechanical Pulp)、CGP(ChemiGroundwood Pulp)等の機械パルプ、及びDIP(DeInked Pulp)等の古紙パルプを挙げることができる。
【0016】
基材は、繊維材料として、綿又は綿と従来公知のパルプとを含む繊維材料のスラリーに、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー及びカオリン等の各種填料、さらにサイズ剤、定着剤、歩留まり剤及び紙力剤等の製紙分野で従来公知の各種添加剤を必要に応じて配合した紙料を抄造して得られる抄造紙である。抄造紙には、抄造後に、必要に応じてマシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー及びマルチニップカレンダー等のカレンダー装置を用いてカレンダー処理を施すことができる。
【0017】
抄造は、紙料を酸性、中性又はアルカリ性に調整して、従来公知の抄紙機を用いて行われる。抄紙機の例としては、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、コンビネーション抄紙機、円網抄紙機及びヤンキー抄紙機等を挙げることができる。
【0018】
基材は、少なくとも塗工層を設ける側の表面pHが5以上6以下である。
いくつかの実施態様において、基材は、基材両面の表面pHがそれぞれ5以上6以下である。この場合では、塗工層を設ける側の基材のpH確認作業を軽減でき、又は塗工層を基材の両面に設けるインクジェット用紙に好適となる。表面pHを調整する方法は後記する。
【0019】
基材の表面pHが5未満では、基材の耐黄変性を得ることができない場合がある。この理由は、基材の表面pHが5未満では酸性及び紫外線によって基材の劣化が進み、結果として黄変すると考えられる。基材の表面pHが6超では、インクジェット用紙の耐黄変性を得ることができない場合がある。この理由は、基材の表面pHが6超では基材の表面pHの影響及び紫外線の影響を塗工層が受けることによって塗工層に含まれる後記するカチオン性樹脂の分解が進み、結果として黄変すると考えられる。基材の表面pHは、公知の紙面pH測定器又は化学呈色反応による方法を用いて測定することができる。また、塗工層の表面pHも同様に測定することができる。
【0020】
基材は、塗工層を設ける側の基材の表面pHが上記範囲である。例えば、塗工層を基材の片面に設ける場合、塗工層を設ける側の基材の表面pHが5以上6以下であって、基材の内部pH及び基材の塗工層を設けない側の表面pHは特に限定しない。また例えば、塗工層を基材の両面に設ける場合、基材両面の表面pHが5以上6以下であって、基材の内部pHは特に限定しない。
ここで、「基材の内部pH」は、基材から表層(基材の厚みに対して表面から深さ20%程度までの領域)を剥がし、残った部分(内部層)について冷水抽出法により測定されたpHを指す。
【0021】
塗工層が設けられる側の基材の表面pHを5以上6以下に調整する方法は、基材となるコットン紙の片面又は両面に、エアーナイフコーター、カーテンコーター、スライドリップコーター、ダイコーター、ブレードコーター、ビルブレードコーター、ショートドエルブレードコーター、ゲートロールコーター、フィルムトランスファーコーター、バーコーター、ロッドコーター、ロールコーター、及びサイズプレス等の塗工紙分野で従来公知の塗工装置を用いて、酸性物質又は塩基性物質を塗工する方法を挙げることができる。酸性物質の例としては、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、硼酸、アミド硫酸、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、シュウ酸、クエン酸、及びリンゴ酸等を挙げることができる。いくつかの実施態様において、酸性物質は硫酸アルミニウムである。この理由は、保存性の点で基材への悪影響が小さいからである。塩基性物質の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、ケイ酸ナトリウム等のアルカリ、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、及びアルカロイド等の水溶性塩基性物質を挙げることができる。いくつかの実施態様において、塩基性物質は水酸化ナトリウムである。この理由は、保存性の点で基材への悪影響が小さいからである。
酸性物質又は塩基性物質の塗工量は、表面pHが所定の値になればよく、限定しない。
【0022】
いくつかの実施態様において、基材の坪量は、150g/m以上500g/m以下である。またいくつかの実施態様において、基材の厚みは、215μm以上750μm以下である。これらの理由は、コットン紙を基材とするインクジェット用紙の取り扱い性に優位だからである。
【0023】
基材となるコットン紙は、繊維材料として綿を10質量%以上含有する市販品を用いてよい。通常、コットン紙は中性であるものの、市販のコットン紙において塗工層が設けられる側の表面pHが既に5以上6以下であれば、そのまま基材として使用できる。コットン紙は、例えば、inversk PLC.社等から市販される。
【0024】
基材に塗工層を設ける方法は、塗工層塗工液を塗工及び乾燥する方法である。塗工する方法は、従来公知の塗工装置を用いる方法であって特に限定されない。塗工装置の例としては、エアーナイフコーター、カーテンコーター、スライドリップコーター、ダイコーター、ブレードコーター、ビルブレードコーター、ショートドエルブレードコーター、ゲートロールコーター、フィルムトランスファーコーター、バーコーター、ロッドコーター、ロールコーター及びサイズプレス等を挙げることができる。
乾燥する方法は、従来公知の乾燥装置を用いる方法であって特に限定されない。乾燥装置の例としては、直線トンネル乾燥機、アーチドライヤー、エアーループドライヤー及びサインカーブエアーフロートドライヤー等の熱風乾燥機、赤外線加熱ドライヤー、並びにマイクロ波を利用した乾燥機等を挙げることができる。
【0025】
塗工層を設けた後には、必要に応じてマシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー及びマルチニップカレンダー等のカレンダー装置を用いてカレンダー処理を施すことができる。
【0026】
塗工層は、白色顔料、バインダー及びカチオン性樹脂を少なくとも含有する。
白色顔料は、塗工紙分野で従来公知のものである。白色顔料の例としては、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、ケイ酸アルミニウム、珪藻土、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、アルミナ水和物、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、加水ハロサイト、炭酸マグネシウム及び水酸化マグネシウム等の無機白色顔料を挙げることができる。さらに白色顔料の例としては、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、尿素樹脂及びメラミン樹脂等の有機白色顔料を挙げることができる。白色顔料は、これらから成る群から選ばれる一種又は二種以上である。
【0027】
いくつかの実施態様において、白色顔料はアルミナ水和物である。この理由は、白色顔料がアルミナ水和物であることによって、画像部の色濃度を良化することができる及び後記する光沢感を得ることができるからである。アルミナ水和物は、一般式Al・nHOにより表すことができる。アルミナ水和物は組成及び結晶形態の違いにより、ジプサイト、バイアライト、ノルストランダイト、ベーマイト、ベーマイトゲル(擬ベーマイト)、ジアスポア及び無定形非晶質等に分類される。中でも、上記の式中、nの値が1である場合はベーマイト構造のアルミナ水和物を表し、nが1を越え3未満である場合は擬ベーマイト構造のアルミナ水和物を表し、nが3以上では非晶質構造のアルミナ水和物を表す。いくつかの実施態様において、アルミナ水和物は擬ベーマイト構造のものである。
アルミナ水和物は、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドの加水分解、アルミニウム塩のアルカリによる中和及びアルミン酸塩の加水分解等の公知の方法によって製造することができる。また、アルミナ水和物の粒子径、細孔径、細孔容積、比表面積等の物性は、析出温度、熟成温度、熟成時間、液のpH、液の濃度、共存化合物等の条件によって制御することができる。アルミナ水和物は、例えば、日揮触媒化成社、日産化学社、水澤化学工業社、川研ファインケミカル社及びSasol社等から市販される。
【0028】
いくつかの実施態様において、インクジェット用紙の塗工層を有する面は、ISO8254-1:1999に準拠して求められる75度光沢度が20%以上である。75度光沢度の上限は、基材がラフな面質と塗工層の光沢感とによって生じる塗工層のギラツキ感が発生しない程度であればよい。いくつかの実施態様において、ギラツキ感が発生しない程度として75度光沢度は、50%以下である。少なくとも一つの実施態様において、インクジェット用紙の塗工層を有する面は、75度光沢度が20%以上50%以下である。ファインアートペーパーは、普通、マット調の面質である。この理由は、コットン紙である基材が平滑性に劣るために、コットン紙を基材とするインクジェット用紙が光沢を発現し難いからである。塗工層の白色顔料がアルミナ水和物であると、インクジェット用紙は、コットン紙を基材に使用しながら光沢感を発現することができる。
【0029】
バインダーは、塗工紙分野で従来公知の水分散性バインダー又は水溶性バインダーである。
水分散性バインダーの例としては、スチレン-ブタジエン共重合体及び(メタ)アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体、(メタ)アクリル酸エステルの重合体及び(メタ)アクリル酸エステル-ブタジエン共重合体等の(メタ)アクリル系共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等のビニル系共重合体、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びこれらの各種共重合体のカルボキシ基等の官能基含有モノマーによる官能基変性共重合体、さらにメラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性合成樹脂を挙げることができる。
水溶性バインダーの例としては、澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉及びリン酸エステル化澱粉等の澱粉誘導体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール及びシラノール変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール誘導体、カゼイン及びゼラチン並びにそれらの変性物、大豆蛋白、プルラン、アラビアゴム、カラヤゴム及びアルブミン等の天然高分子樹脂並びにこれらの誘導体、ポリ(メタ)アクリル酸ソーダ、ポリ(メタ)アクリルアミド及びポリビニルピロリドン等のビニルポリマー、アルギン酸ソーダ、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、無水マレイン酸系共重合体等を挙げることができる。
バインダーは、水分散性バインダー及び水溶性バインダーから成る群から選ばれる一種又は二種以上である。いくつかの実施態様において、バインダーは、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール誘導体から成る群から選ばれる一種又は二種以上である。
【0030】
いくつかの実施態様において、塗工層中のバインダーの含有量は、片面あたり、塗工層中の白色顔料100質量部に対して5質量部以上15質量部以下である。この理由は、バインダーの含有量が上記範囲であると、耐亀裂発生性及び耐折り割れ性が良化するからである。
【0031】
カチオン性樹脂は、カチオン性ポリマー又はカチオン性オリゴマーであって、従来公知の樹脂である。カチオン性樹脂は、プロトンが配位し易く、水中において解離してカチオン性を呈する1級~3級アミン又は4級アンモニウム塩を分子中に有するポリマー又はオリゴマーである。カチオン性樹脂の例としては、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、ポリアミンスルホン、ポリジアルキルアミノエチル(メタ)アクリル酸エステル、ポリジアルキルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等のN-置換(メタ)アクリルアミド及び他のモノマーとの共重合体、ポリエポキシアミン、ポリアミドアミン、ジシアンジアミド-ホルマリン縮合物、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等の化合物、並びにこれらの塩酸塩、さらにポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド又はジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミド等との共重合物、ポリジアリルメチルアミン塩酸塩、並びにジメチルアミン-エピクロルヒドリン重縮合物及びジエチレントリアミン-エピクロルヒドリン重縮合物等の脂肪族モノアミン又は脂肪族ポリアミンとエピハロヒドリン化合物との重縮合物を挙げることができる。カチオン性樹脂は、これらから成る群から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましい。
【0032】
いくつかの実施態様において、塗工層中のカチオン性樹脂の含有量は、片面あたり、塗工層中の白色顔料100質量部に対して5質量部以上15質量部以下である。この理由は、カチオン性樹脂の含有量が上記範囲であると、インクジェット用紙の耐黄変性、画像部の色濃度、耐亀裂発生性及び耐折り割れ性が良化するからである。カチオン性樹脂は、インクジェット記録方式に使用するインクの色材がアニオン性であるために、インク定着剤として公知である。しかしながら、本発明のようにカチオン性樹脂が、塗工層の耐亀裂発生性及び耐折り割れ性に効果を有することは、予想されない効果の発見である。
【0033】
いくつかの実施態様において、カチオン性樹脂は、モノマー単位として、疎水性モノマーと、一部又は全部が塩を形成しているアニオン性モノマーと、ノニオン性N-置換(メタ)アクリルアミドとを含む水溶性共重合体である。この理由は、この様な水溶性共重合体は、塗工層の耐亀裂発生性及び耐折り割れ性に対して、カチオン性樹脂の中でも優れた効果を有するためである。
【0034】
上記疎水性モノマーの例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、及びジビニルベンゼン等のスチレン類、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、及び(メタ)アクリル酸デシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、マレイン酸及びフマル酸等の不飽和ジカルボン酸のジアルキルエステル類、並びに酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニル等のビニルエステル類等を挙げることができる。疎水性モノマーはこれらから成る群から選ばれる一種又は二種以上である。
いくつかの実施態様において、疎水性モノマーはスチレン類及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル類である。少なくとも一つの実施態様において、疎水性モノマーは(メタ)アクリル酸アルキルエステル類であって、アルキル基の炭素数1以上6以下である。
【0035】
上記アニオン性モノマーは、カルボキシ基、スルホン酸基、及び燐酸エステル基等のアニオン性基を有するモノマーを挙げることができる。ここで、アニオン性基には、後記する塩基性物質と塩を形成した基を含める。また、アニオン性モノマーには、重合体中でその一部又は全部が塩基物質による塩を形成した場合も含む。
アニオン性モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びシトラコン酸等のα、β-不飽和カルボン酸類、並びにマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノブチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル及びイタコン酸モノブチル等のα、β-不飽和ジカルボン酸半エステル類のカルボキシ基含有モノマー、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びスルホン化スチレン等のスルホン酸基含有モノマー、並びに(メタ)アクリル酸のリン酸エステル等のリン酸エステル基含有モノマー等を挙げることができる。アニオン性モノマーは、これらから成る群から選ばれる一種又は二種以上である。
いくつかの実施態様において、アニオン性モノマーは、α、β-不飽和モノカルボン酸類及びα、β-不飽和ジカルボン酸半エステル類から成る群から選ばれる一種又は二種以上である。
【0036】
上記ノニオン性N-置換(メタ)アクリルアミドは、N-置換基がノニオン性である。上記ノニオン性N-置換(メタ)アクリルアミドの例としては、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ターシャリーブチル(メタ)アクリルアミド、N-ラウリル(メタ)アクリルアミド、N-ターシャリーオクチル(メタ)アクリルアミド及びN-シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド等のN-置換モノアルキル(メタ)アクリルアミド類、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジターシャリーブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジラウリル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジターシャリーオクチル(メタ)アクリルアミド及びN,N-ジシクロヘキシル(メタ)アクリルアミド等のN-置換ジアルキル(メタ)アクリルアミド類、並びにジアセトンアクリルアミド等を挙げることができる。ノニオン性N-置換(メタ)アクリルアミドは、これらから成る群から選ばれる一種又は二種以上である。
いくつかの実施態様において、ノニオン性N-置換(メタ)アクリルアミドは、アルキル基の炭素数が3以上12以下のモノアルキル(メタ)アクリルアミドである。
【0037】
いくつかの実施態様において、カチオン性樹脂である水溶性共重合体は、疎水性モノマー、アニオン性モノマー及びノニオン性N-置換(メタ)アクリルアミドの組成比が、疎水性モノマー35質量%以上75質量%以下、アニオン性モノマー15質量%以上55質量%以下、ノニオン性N-置換(メタ)アクリルアミド5質量%以上20質量%以下である。この理由は、塗工層の耐亀裂発生性及び耐折り割れ性が良化するからである。
【0038】
上記水溶性共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、水溶性共重合体の分子中に上記疎水性モノマー、上記アニオン性モノマー及び上記ノニオン性N-置換(メタ)アクリルアミドと共重合可能なモノマーを、共重合によって含有することができる。この様なモノマーの例としては、ノニオン性N-置換(メタ)アクリルアミドを除く(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸アミノアルキル、(メタ)アクリル酸アミノヒドロキシルアルキル、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール及びジアリルアミン等を挙げることができる。いくつかの実施態様において、前記共重合可能なモノマーは、水溶性共重合体中の組成比が10重量%以下である。この理由は、本発明の効果を損なわないからである。
【0039】
水溶性共重合体は、従来から公知の重合方法によって得ることができる。重合方法の例としては、有機溶剤を使用して重合する溶液重合、溶剤を使用しないで重合するバルク重合、低分子系乳化剤又は高分子系乳化剤を用いて水系で重合を行なう乳化重合等を挙げることができる。
【0040】
例えば、水溶性共重合体の合成は以下の方法を挙げることができる。なお、水溶性共重合体の合成方法は、これに限定されない。
攪拌機、温度計、還流冷却管及び窒素導入管を付けた1リットルの四つ口フラスコに、水507.5質量部、疎水性モノマーとしてスチレン61.4質量部(モノマーとして50質量%)、アニオン性モノマーとしてメタクリル酸80質量%水溶液61.4質量部(モノマーとして40質量%)、ノニオン性N-置換アクリルアミドとしてN-イソプロピルアクリルアミド12.3質量部(モノマーとして10質量%)、n-ドデシルメルカプタン0.65質量部、47質量%のドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.68質量部を配合する。配合した反応系は、約70℃へ昇温する。次に、反応系内の酸素を窒素ガスに置換する。窒素に置換後、過硫酸アンモニウム2.9質量部を反応系に添加する。添加してから約20分後、さらに80℃の温度で約2時間反応させる。その後、反応系に、水286質量部と水酸化カリウム48.5質量%水溶液65質量部とを加え、カチオン性樹脂である水溶性共重合体を得る。
【0041】
また、水溶性重合体は、星光PMC社及びハリマ化成社等から市販される。
【0042】
アニオン性モノマーにおいて塩を形成する塩基性物質としては、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、アンモニア、並びにメチルアミン及びジメチルアミン等のアミン塩基含有化合物を挙げることができる。
【0043】
いくつかの実施態様において、塗工層の表面pHは、6.5以上8.5以下である。インクジェット用紙は、カチオン性樹脂を含有する塗工層においてカチオン性樹脂が分解することによって黄変すると考えられる。塗工層を設ける側の基材の表面pHが所定の範囲であることに加えて、さらに塗工層の表面pHを所定の範囲になるよう設計することによって、インクジェット用紙の耐黄変性が良化する。この理由は不明であるものの、発明者は、前記pHであればカチオン性樹脂の分解が抑えられるためと推定する。
【0044】
塗工層の表面pHを6.5以上8.5以下に調整する方法としては、塗工層に酸性物質若しくは塩基性物質を塗工層塗工液に配合する方法、又は酸性物質若しくは塩基性物質を含む処理液を塗工する方法を挙げることができる。酸性物質と塩基性物質は上記と同じであり、ここでは割愛する。
【0045】
塗工層は、白色顔料、バインダー及びカチオン性樹脂以外に必要に応じて塗工紙分野で従来公知の各種添加剤を含有することができる。添加剤の例としては、耐光性向上剤、耐ガス性向上剤、蛍光増白剤、耐水化剤、防かび剤、防腐剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤、pH調整剤、消泡剤、保水剤等を挙げることができる。
【0046】
いくつかの実施態様において、塗工層の塗工量は、乾燥固形分量で片面あたり10g/m以上40g/m以下である。この理由は、塗工量が10g/m以上であると画像部の色濃度、耐亀裂発生性及び耐折り割れ性が良化する及び40g/m以下であるとファインアートペーパーの風合いが良化するからである。
【0047】
インクジェット用紙は、基材と塗工層との間に一層又は二層以上の下塗り層を設けることができる。下塗り層は、白色顔料の有無及び種類、バインダーの有無及び種類、カチオン性樹脂の有無及び種類、並びに各種添加剤の有無及び種類について特に限定されない。
下塗り層は、塗工層と同じ方法によって、下塗り層塗工液を従来公知の塗工装置を用いて塗工及び従来公知の乾燥装置を用いて乾燥する方法によって設けることができる。製造コストの観点から、下塗り層は設けないことが好ましい。
【実施例0048】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。本発明は、その主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す質量部及び質量%は、乾燥固形分あるいは実質成分の値を示す。塗工量は、乾燥固形分量の値を示す。
【0049】
<基材1~5>
繊維材料として綿を、基材を構成する繊維材料に対して10質量%以上含むコットン紙として、市販の坪量157g/mのコットン紙(inversk PLC.社)を入手した。基材の両面に対して、硫酸アルミニウム2質量%水溶液又は水酸化ナトリウム0.5質量%水溶液をサイズプレス装置を用いて両面に塗工し、最終的に各表面pHを有する基材1~5を得た。各基材の塗工層を設ける側の面の表面pHは、表1に記載する。
【0050】
<基材6>
LBKP(濾水度430mlcsf)80質量部とNBKP(濾水度450mlcsf)20質量部、タルク13質量部、硫酸アルミニウム3質量部、市販ロジンサイズ剤0.2質量部、カチオン澱粉0.3質量部を水に混合してなる濃度1質量%の紙料を調成した。該紙料を、長網抄紙機にて坪量161g/mの抄造紙を得た。抄造後にサイズプレス装置を用いて水酸化ナトリウム0.5質量%水溶液を両面に塗工して、最終的に所定の表面pHを有する基材6を得た。基材6の塗工層を設ける側の面の表面pHは、表1に記載する。
【0051】
<塗工層塗工液>
塗工層塗工液は下記の内容により調製した。
白色顔料 種類と質量部数は表1に記載
分散剤 0.3質量部
バインダー(クラレ社、クラレポバール(登録商標)95-88)
質量部数は表1に記載
カチオン性樹脂 種類と質量部数は表1に記載
界面活性剤(アセチレングリコール系) 0.4質量部
上記の内容で配合し、水で混合分散して、濃度45質量%に調整した。
【0052】
アルミナ水和物には、Sasol社のDISPERAL(登録商標)HP14を用いた。シリカには、水澤化学工業社のミズカシル(登録商標)P-78Dを用いた。炭酸カルシウムには、奥多摩工業社のタマパール(登録商標)TP-123を用いた。
【0053】
カチオン性樹脂には、以下の樹脂を用いた。
樹脂A:スチレン50質量%、メタクリル酸30質量%、
N-イソプロピルアクリルアミド20質量%から成るカチオン性樹脂。
樹脂B:スチレン75質量%、メタクリル酸15質量%、
N-イソプロピルアクリルアミド10質量%から成るカチオン性樹脂。
樹脂C:スチレン50質量%、メタクリル酸30質量%、
N-イソプロピルアクリルアミド20質量%から成るカチオン性樹脂。
樹脂D:スチレン35質量%、メタクリル酸55質量%、
N-t-オクチルアクリルアミド10質量%から成るカチオン性樹脂。
樹脂E:スチレン75質量%、メタクリル酸20質量%、
N-t-オクチルアクリルアミド5質量%から成るカチオン性樹脂。
樹脂F:ポリエチレンイミン
【0054】
<基材の耐黄変性>
基材について、耐黄変性を下記の方法によって評価した。結果を表1に示す。
基材に対して、キセノン光照射試験機(アトラス社製Ci-4000)によって温度40℃/湿度50%RH条件下、放射強度0.5W/mで24時間、塗工層を設ける側の面に照射した。塗工層を設ける側の面の、照射前後のCIE-Lab(L表色系)で規定されるb値の差(Δb)を求めることによって、黄変の度合いを下記の基準で評価した。本発明において、インクジェット用紙は、評価A又はBであれば基材の耐黄変性を有するものとする。
A:Δbが0.5以下。
B:Δb0.5を超えて1.5以下。
C:Δb1.5を超える。
【0055】
<インクジェット用紙>
塗工層塗工液を、基材の片面に対して所定の塗工量になるようにエアーナイフコーターを用いて塗工及び熱風乾燥機を用いて乾燥し、その後にカレンダー処理を施してインクジェット用紙を得た。塗工量は、20g/mとした。
なお、基材6を使用したインクジェット用紙は、ファインアートペーパーの風合いを有さなかった。
【0056】
各実施例及び各比較例のインクジェット用紙について、耐黄変性、画像部の色濃度、耐亀裂発生性、耐折り割れ性を下記の方法によって評価した。結果を表1に示す。
【0057】
<75度光沢度>
インクジェット用紙の塗工層を有する面における光沢感は、ISO8254-1:1999に準拠して求める。本発明において、インクジェット用紙は、75度光沢度が20%以上であれば光沢感を有するものとする。
【0058】
<耐黄変性>
インクジェット用紙について、耐黄変性を下記の方法によって評価した。結果を表1に示す。
インクジェット用紙に対して、キセノン光照射試験機(アトラス社製Ci-4000)によって温度40℃/湿度50%RH条件下、放射強度0.5W/mで24時間、塗工層を有する側へ照射した。インクジェット用紙の塗工層を有する側の、照射前後のCIE-Lab(L表色系)で規定されるのb値の差(Δb)を求めることによって、黄変の度合いを下記の基準で評価した。本発明において、インクジェット用紙は、評価A又はBであれば耐黄変性を有するものとする。
A:Δbが0.5以下。
B:Δb0.5を超えて1.5以下。
C:Δb1.5を超える。
【0059】
<画像部の色濃度>
インクジェット用紙について、顔料インクを使用するセイコーエプソン社製インクジェットプリンター「SC-PX5VII」を用いて、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各色ベタ画像を印刷した。各色の光学色濃度をポータブル分光光度計(エックスライト社、SpectoroEye(登録商標))で測定した。各色の光学色濃度の合計値を算出し、下記の基準で評価した。なお、光学色濃度の合計値が大きいほど画像部の色濃度に優れる。本発明において、インクジェット用紙は、評価A、B又はCであれば画像の色濃度が良好であるものとする。
A:光学色濃度の合計値が5.1以上。
B:光学色濃度の合計値が4.8以上5.1未満。
C:光学色濃度の合計値が4.5以上4.8未満。
D:光学色濃度の合計値が4.5未満。
【0060】
<耐亀裂発生性>
インクジェット用紙の塗工層を、10倍ルーペ及びルーペ無しで観察し、下記の基準で評価した。本発明において、インクジェット用紙は、評価A又はBであれば耐亀裂発生性が良好であるものとする。
A:ルーペの観察で亀裂が認められない。
B:ルーペの観察で亀裂が認められるものの、ルーペ無しでは認められない。
C:ルーペ無しで亀裂が認められる。
【0061】
<耐折り割れ性>
インクジェット用紙を、25℃/20%RHの環境下に1時間放置した。放置後、塗工層を外側になるようにして直径2cmのロールを軸としてインクジェット用紙を折り曲げた。塗工層を目視で観察し、下記の基準で評価した。本発明において、インクジェット用紙は、評価A又はBであれば耐折り割れ性が良好であるものとする。
A:折り割れが認められず、良好。
B:浅い折り割れが極僅かに認められるものの、概ね良好。
C:浅い折り割れが僅かに認められるものの、実際の使用に問題ない。
D:浅い折り割れが認められて上記3より劣る。
E:折り割れが認められる。
【0062】
【表1】
【0063】
表1から、本発明の構成を満足する実施例1~17は、ファインアートペーパーの風合いを有し、基材の耐黄変性を有し、インクジェット用紙の耐黄変性を有し、並びに画像部の色濃度、耐亀裂発生性及び耐折り割れ性が良好である、と分かる。本発明の構成を満足しない比較例1~6は、ファインアートペーパーの風合い、基材の耐黄変性、インクジェット用紙の耐黄変性、画像部の色濃度、耐亀裂発生性及び耐折り割れ性の少なくとも1つを満足できない、と分かる。
【0064】
主に、実施例2、4、5及び6の間の対比から、塗工層の表面pHが6.5以上8.5以下であると、インクジェット用紙の耐黄変性が良化すると分かる。
【0065】
主に、実施例2、7及び8の間の対比から、塗工層の白色顔料がアルミナ水和物であると、インクジェット用紙の光沢感が良化すると分かる。
【0066】
主に、実施例2、11、14、15、16及び17の間の対比から、塗工層のカチオン性樹脂がモノマー単位として、疎水性モノマーと、一部又は全部が塩を形成しているアニオン性モノマーと、ノニオン性N-置換(メタ)アクリルアミドとを含む水溶性共重合体であると、インクジェット用紙の耐亀裂発生性及び耐折り割れ性が良化すると分かる。