(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180631
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】ガス充填システム
(51)【国際特許分類】
F17C 5/06 20060101AFI20231214BHJP
F17C 13/02 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
F17C5/06
F17C13/02 301A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094089
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 直貴
(72)【発明者】
【氏名】仲田 好宏
(72)【発明者】
【氏名】金子 智徳
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB05
3E172BB13
3E172BB17
3E172BD03
3E172EA02
3E172EA12
3E172EA13
3E172EA14
3E172EA24
3E172EA30
3E172EA35
3E172JA08
3E172KA22
3E172KA23
(57)【要約】
【課題】ガス充填経路における圧力損失を低減させ、充填率の低下を抑制するガス充填システムを提供する。
【解決手段】ガス充填システムは、温度センサより計測された高圧容器内の温度を通信により受信する受信部と、充填されるガスの流量を調整する流量調整装置と、充填されるガスの圧力を計測する圧力センサと、受信部で受信した温度および圧力センサで計測された圧力を用いて高圧容器中のガスの充填率を算出することと、流量調整装置を制御することにより充填されるガスの昇圧率を制御することと、を実行する制御部と、を備え、制御部は、予め設定されている第1目標充填率まで、予め設定されている第1昇圧率でガスを充填し、第1目標充填率から第1目標充填率よりも高い予め設定されている第2目標充填率まで、第1
昇圧率よりも低い予め設定されている第2昇圧率でガスを充填するように流量調整装置を制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧容器に接続され、前記高圧容器にガスを充填するガス充填システムであって、
温度センサにより計測された前記高圧容器内の温度を通信により受信する受信部と、
充填される前記ガスの流量を調整する流量調整装置と、
充填される前記ガスの圧力を計測する圧力センサと、
前記受信部で受信した温度および前記圧力センサで計測された圧力を用いて前記高圧容器中の前記ガスの充填率を算出することと、前記流量調整装置を制御することにより前記高圧容器に充填される前記ガスの昇圧率を制御することと、を実行する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記高圧容器の充填率が、予め設定されている第1目標充填率に達するまで、予め設定されている第1昇圧率で前記高圧容器に前記ガスを充填し、
前記高圧容器の充填率が、前記第1目標充填率から、前記第1目標充填率よりも高い予め設定されている第2目標充填率に達するまで、前記第1目標充填率よりも低い予め設定されている第2昇圧率で前記高圧容器に前記ガスを充填するように前記流量調整装置を制御する、
ガス充填システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガス充填システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池車両に搭載される水素タンク等の高圧容器に、水素ガスを充填するための技術が種々開示されている。例えば特許文献1では、水素タンク内の初期圧力を正確に計測する技術が開示されている。かかる初期圧力と、外気温と、タンク容量と、から充填される水素ガスの昇圧率が設定され、例えば燃料電池を搭載した乗用車では、3分程度の時間で充填が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池を搭載した大型バスやトラック等の大型車の場合、燃料電池を搭載した乗用車と比較して、搭載される水素タンクの容量が非常に大きい。そのため、例えば10分程度の比較的短時間で燃料を充填しようとすると、乗用車に充填する場合よりも、水素ガスの昇圧率を大きくする必要がある。しかし、昇圧率を大きくすると、水素ステーションから水素タンク間の経路における圧力損失も大きくなる。水素ガスの充填は、水素ステーションと水素タンクとの間の圧力差を利用して行われるため、かかる圧力損失の増大により水素ガスの充填率が低下するおそれがある。具体的には、水素ステーション側で測定した水素ガス圧力と水素タンク内の温度とに基づいて水素タンクの充填率を算出する構成においては、上記圧力損失により圧力が低下する前の圧力を用いて、充填率が算出されてしまう。このため、水素ステーション側は目標充填率に到達したと判定し水素ガスの充填を停止するが、実際の水素タンク内には水素ガスが目標充填率まで充填されておらず、充填率が低下する。このように、容量の比較的大きいタンクに比較的短時間で水素ガスを充填しようとすると充填率が低下するという問題は、水素タンクに水素ガスを充填する構成に限らず、任意の種類の高圧容器に任意の種類のガスを充填する構成において共通する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、高圧容器に接続され、前記高圧容器にガスを充填するガス充填システムが提供される。このガス充填システムは、温度センサにより計測された前記高圧容器内の温度を通信により受信する受信部と、充填される前記ガスの流量を調整する流量調整装置と、充填される前記ガスの圧力を計測する圧力センサと、前記受信部で受信した温度および前記圧力センサで計測された圧力を用いて前記高圧容器中の前記ガスの充填率を算出することと、前記流量調整装置を制御することにより前記高圧容器に充填される前記ガスの昇圧率を制御することと、を実行する制御部と、を備え、前記制御部は、前記高圧容器の充填率が、予め設定されている第1目標充填率に達するまで、予め設定されている第1昇圧率で前記高圧容器に前記ガスを充填し、前記高圧容器の充填率が、前記第1目標充填率から、前記第1目標充填率よりも高い予め設定されている第2目標充填率に達するまで、前記第1目標充填率よりも低い予め設定されている第2昇圧率で前記高圧容器に前記ガスを充填するように前記流量調整装置を制御する。
この形態のガス充填システムによれば、予め設定されている第1目標充填率まで予め設定されている第1昇圧率でガスを充填し、第1目標充填率から第1目標充填率よりも高い予め設定されている第2目標充填率まで第1目標充填率よりも低い予め設定されている第2昇圧率でガスを充填する。第2昇圧率は、第1昇圧率よりも低い昇圧率であるため、ガス充填経路における圧力損失が小さい。第1昇圧率で充填を行った後に圧力損失が小さい第2昇圧率で充填を行うため、圧力損失による充填率の低下を抑制することができる。また、第1目標充填率までは第1昇圧率で充填を行うため、第2昇圧率のみで充填を行った場合と比較して、短時間でガス充填を完了することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一実施形態としてのガス充填システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】ガス充填システムにおいて実行される昇圧率制御の手順を示すフローチャート図である。
【
図3】比較例により水素タンクにガス充填を行った際の時間および圧力の関係の一例を示すグラフである。
【
図4】実施形態に係るガス充填システムにより水素タンクに水素ガス充填を行った際の時間および圧力の関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
A1.装置構成:
図1は、本開示の一実施形態としてのガス充填システム100の概略構成を示すブロック図である。ガス充填システム100は、ガスを高圧容器へ充填するためのシステムである。ガス充填システム100は、例えば水素ステーションに用いられる。ガスの充填は、ガスを貯蔵する蓄圧器102と高圧容器との差圧を利用して行われる。本実施形態において、ガスは、水素ガスであり、高圧容器は、燃料電池車両Vに搭載される水素タンク1である。
【0009】
最初に燃料電池車両Vの構成について説明する。燃料電池車両Vは、水素ガスおよび空気を燃料ガスとして発電する燃料電池システムを備え、かかる燃料電池システムで発電した電力を用いてモータを駆動することで走行する車両である。本実施形態において燃料電池車両Vは、例えば大型バスやトラック等の大型車両である。燃料電池車両Vは、水素タンク1と、車両側配管2と、車両側温度センサ3と、車両側圧力センサ4と、車両側制御部5と、送信部6と、レセプタクル9と、を備える。
【0010】
水素タンク1は、ガス充填システム100から供給される水素を貯蔵するタンクである。本実施形態において、水素タンク1は、乗用車に搭載される水素タンクの容量と比較して、大きい容量(例えば80kg)を有するタンクである。
【0011】
車両側配管2は、供給される水素ガスの流路である。車両側配管2の一端は、水素タンク1と接続している。車両側配管2と水素タンク1との接続部には、逆止弁7が設けられており、水素タンク1内の水素ガスが車両側配管2側に逆流することを防止している。車両側配管2の他端には、レセプタクル9が設けられており、レセプタクル9は後述する充填ノズルが接続可能に構成されている。車両側配管2とレセプタクル9との接続部には逆止弁8が設けられており、充填される水素ガスがレセプタクル9側に逆流することを防止している。
【0012】
車両側温度センサ3は、水素タンク1内の水素ガスの温度を測定する。車両側温度センサ3は、車両側制御部5と通信可能に構成されている。測定された温度は、車両側制御部5に伝達され、後述する水素タンク1内の充填率の算出に用いられる。
【0013】
車両側圧力センサ4は、水素タンク1内の水素ガスの圧力を測定する。車両側圧力センサ4は、車両側制御部5と通信可能に構成されている。測定された圧力値は、車両側制御部5に伝達され、後述する水素タンク1内の水素ガスの状況が正常か否かを判断するプログラムに用いられる。また、測定された圧力値は、水素タンク1内の水素ガスの残量を示す燃料計の表示する値として用いられる。
【0014】
車両側制御部5は、プロセッサおよびメモリを有するコンピュータである。車両側制御部5のメモリには、水素タンク1の容量を含む水素タンク1の情報や、上述の車両側温度センサ3および車両側圧力センサ4の計測値を用いて水素タンク1内の状況が正常か否かを判断するプログラムが記憶されている。かかるプログラムは、車両側温度センサ3の計測値および車両側圧力センサ4の計測値の少なくとも一方が予め設定された閾値を超えた場合、水素タンク1内の状況が正常ではない(異常である)と判断する。車両側制御部5は、送信部6と通信可能に構成されている。車両側制御部5は、車両側温度センサ3の計測値、車両側圧力センサ4の計測値、および水素タンク1内の状況等を、送信部6を介してガス充填システム100に伝達する。
【0015】
送信部6は、後述する受信部101と通信可能に構成されている。送信部6は、燃料電池車両Vのレセプタクル9に設けられる。
【0016】
次に、ガス充填システム100について説明する。ガス充填システム100は、蓄圧器102と、システム側配管103と、流量調整装置104と、流量計105と、冷却器106と、システム側圧力センサ107と、システム側温度センサ108と、外気温度センサ111と、ガス充填ノズル109と、システム側制御部110と、受信部101と、を備える。
【0017】
蓄圧器102は、水素タンク1に供給するための高圧水素ガスを貯蔵する容器である。ガス充填システム100は、蓄圧器102を1つに限らず複数備えてもよい。
【0018】
システム側配管103は、蓄圧器102から供給される水素ガスの流路である。システム側配管103の一端は、蓄圧器102と接続しており、システム側配管103の他端は、後述するガス充填ノズル109と接続している。
【0019】
流量調整装置104は、蓄圧器102から供給される水素ガスの流量を調整する。流量調整装置104は、例えば調圧弁である。調圧弁の開度が調整されることで、供給される水素ガスの流量の調整が行われる。流量調整装置104は、システム側配管103において蓄圧器102の近傍に設けられる。また、流量調整装置104は、後述するシステム側制御部110と接続しており、システム側制御部110により制御される。
【0020】
流量計105は、流量調整装置104よりも下流のシステム側配管103に設けられており、システム側配管103内を流れる水素ガスの量を検出する。したがって、流量計105により計測される水素ガスの量は、流量調整装置104により流量を調整された水素ガスの量である。流量計105は、後述するシステム側制御部110と接続しており、検出した水素ガスの流量をシステム側制御部110に伝達する。
【0021】
冷却器106は、流量計105よりも下流のシステム側配管103に設けられており、システム側配管103内を流れる水素ガスの冷却を行う。水素ガスを水素タンク1内に急速に充填すると、断熱圧縮により水素ガスの温度が上昇する。そこで、水素タンク1内の水素ガスの温度が上昇し過ぎないようにするために、予め水素ガスの冷却を行う。冷却器106は、水素ガスを例えば-40℃まで冷却する。
【0022】
システム側圧力センサ107は、冷却器106よりも下流のシステム側配管103に設けられており、システム側配管103内の水素ガスの圧力を検出する。したがって、システム側圧力センサ107により計測される水素ガスの圧力は、流量調整装置104により流量を調整され、冷却器106により冷却された水素ガスの圧力である。システム側圧力センサ107は、後述するシステム側制御部110と接続しており、検出した水素ガスの圧力をシステム側制御部110に伝達する。
【0023】
システム側温度センサ108は、冷却器106よりも下流のシステム側配管103に設けられており、システム側配管103内の水素ガスの温度を検出する。したがって、システム側温度センサ108により計測される水素ガスの温度は、流量調整装置104により流量を調整され、冷却器106により冷却された水素ガスの温度である。システム側温度センサ108は、後述するシステム側制御部110と接続しており、検出した水素ガスの温度をシステム側制御部110に伝達する。
【0024】
外気温度センサ111は、外気の温度を検出する。検出された外気温度は、システム側制御部110に伝達され、後述する昇圧率の設定に用いられる。
【0025】
ガス充填ノズル109は、燃料電池車両Vのレセプタクル9と接続可能に構成されている。ガス充填ノズル109とレセプタクル9とが接続することで、ガス充填システム100から燃料電池車両Vへの水素ガスの充填が開始される。
【0026】
受信部101は、燃料電池車両Vの送信部6から送信された情報を受信する装置である。受信部101は、ガス充填ノズル109に設けられている。ガス充填ノズル109がレセプタクル9に接続する際に、ガス充填ノズル109に設けられた受信部101と、レセプタクル9に設けられた送信部6と、が対向することで情報の送受信が行われる。かかる情報の送受信は、例えば赤外線通信で行われる。したがって、送信部6および受信部101は、例えば赤外線通信機である。受信部101は、システム側制御部110と通信可能であり、送信部6から受信した情報をシステム側制御部110に伝達する。
【0027】
システム側制御部110は、プロセッサおよびメモリを有するコンピュータである。システム側制御部110は、ガス充填システム100の各部の動作の制御を行う。システム側制御部110のメモリには、システム側圧力センサ107およびシステム側温度センサ108の計測値を用いて、供給される水素ガスの状態が正常か否かを判断するプログラムが記憶されている。かかるプログラムは、システム側圧力センサ107の計測値およびシステム側温度センサ108の計測値の少なくとも一方が予め設定された閾値を超えた場合、供給される水素ガスの状況が正常ではない(異常である)と判断する。システム側制御部110は、水素ガスの状態が正常ではない(異常である)と判断した場合、流量調整装置104を閉じるように制御し、水素ガスの充填を中止する。また、車両側制御部5から、水素タンク1内の水素ガスの状態が正常ではない(異常である)と伝達された場合も、流量調整装置104を閉じるように制御し、水素ガスの充填を中止する。
【0028】
また、システム側制御部110は、充填する水素ガスの昇圧率を、水素タンク1内の初期圧力と、水素タンク1の容量と、外気温度センサ111の計測値と、を用いて設定する。昇圧率とは、単位時間あたりの充填される水素ガスの圧力上昇値のことをいう。昇圧率は、具体的には以下のように設定される。ガス充填ノズル109とレセプタクル9とが接続されると、水素タンク1の容量が、送信部6から受信部101を介してシステム側制御部110に伝達される。次いで、システム側制御部110は、プレショット充填を行うように流量調整装置104を制御する。プレショット充填とは、水素ガス充填開始時に、システム側配管103内の圧力を高め、少量の水素ガスを短時間で充填することで水素タンク1内の初期圧力を取得するために行われる水素ガス充填である。システム側制御部110は、水素タンク1の初期圧力と、水素タンク1の容量と、外気温度センサ111の計測値と、を用いて、充填する水素ガスの昇圧率の設定を行う。システム側制御部110のメモリには、水素タンク1内の初期圧力と、水素タンク1の容量と、外気温度センサ111の計測値と、から規定される理想的な昇圧率のマップが記憶されており、これらパラメータからマップを検索することで、昇圧率が設定される。ここで、理想的な昇圧率とは、水素ガスが水素タンク1内に急速に充填されたときに、断熱圧縮により水素タンク1内の温度上昇が発生しても、水素タンク1内の温度が閾値温度(例えば85℃)を超えないような昇圧率のことをいう。システム側制御部110は、設定された昇圧率に基づいて流量調整装置104の開度を制御する。
【0029】
また、システム側制御部110は、水素タンク1に充填された水素ガスの充填率(State of Charge,SOC)を算出する。充填率とは、ガスの基準密度に対する、充填されたガスの密度の割合のことをいう。ガスの基準密度は、水素ガスの場合、例えば40.2kg/m3である。充填率の算出は、システム側圧力センサ107の計測値と、車両側温度センサ3の計測値と、によって算出される。具体的には、次のように気体の状態方程式(1)を用いて求めることができる。
PV=nRT…(1)
(ここで、Pは気体の圧力、Vは気体の体積、nは気体のモル数、Rは気体定数、Tは気体の温度である。)
上記式(1)において、
n=w/M…(2)
(ここで、wは質量、Mは分子量である。)
を代入すると、
PV=wRT/M…(3)
と表すことができ、両辺をVで除すると、w/Vはガスの密度であるから、
P=ρRT/M…(4)
(ここで、ρはガスの密度である。)
と表すことができる。上記式(4)において、Pはシステム側圧力センサ107の計測値、Tは車両側温度センサ3の計測値、Rは定数、Mは充填されるガスの種類によって規定される値であるから、これらの数値を代入することで、密度ρを求めることができる。そして、求めた密度ρを用いて、
SOC(充填率)=(ρ/ρ0)×100…(5)
(ここで、ρ0はガスの基準密度である。)
式(5)により充填率を求めることができる。なお、圧力Pの値として、車両側圧力センサ4の計測値ではなくシステム側圧力センサ107の計測値を用いる理由は、車両側圧力センサ4が故障していた場合に、不正確な圧力値を用いて充填率が算出され、水素タンク1の容量を超えて水素ガスが充填されてしまうことを防止するためである。
【0030】
A2.昇圧率制御:
図2は、ガス充填システム100において実行される昇圧率制御の手順を示すフローチャート図である。システム側制御部110は、ガス充填ノズル109がレセプタクル9に接続され、プレショット充填による水素タンク1内の初期圧力が計測された後に、昇圧率制御を実行する。
【0031】
システム側制御部110は、水素タンク1の充填率が予め設定されている第1目標充填率に達するまで、予め設定されている第1昇圧率でガスを充填する(ステップS105)。
【0032】
予め設定されている第1目標充填率とは、任意の充填率である。第1目標充填率は、例えば80%以上95%以下の任意の充填率である。
【0033】
予め設定されている第1昇圧率とは、上述したシステム側制御部110のメモリに記憶されているマップ中の昇圧率である。したがって、システム側制御部110は、プレショット充填により測定した水素タンク1内の初期圧力と、受信部101から伝達された水素タンク1の容量と、外気温度センサ111の計測値と、を用いてメモリ中のマップを検索し、第1昇圧率を設定する。システム側制御部110は、設定された第1昇圧率で水素ガスの充填が行われるように流量調整装置104の開度を制御する。
【0034】
システム側制御部110は、水素タンク1の充填率が第1目標充填率に達したか否かを判定する(ステップS110)。充填率の算出は、上述したようにシステム側圧力センサ107の計測値と、車両側温度センサ3の計測値と、によって算出される。システム側制御部110は、算出した充填率が第1目標充填率であると判定するまで、水素タンク1に第1昇圧率で水素ガスの充填を継続して行う。
【0035】
システム側制御部110は、水素タンク1の充填率が第1目標充填率に達したと判定すると(ステップS110:YES)、水素タンク1の充填率が予め設定されている第2目標充填率に達するまで、予め設定されている第2昇圧率で充填を行う(ステップS115)。
【0036】
予め設定されている第2目標充填率とは、第1目標充填率よりも高い充填率である。第2目標充填率は、例えば95%以上100%以下の任意の充填率である。
【0037】
予め設定されている第2昇圧率とは、第1昇圧率よりも低い昇圧率である。そのような昇圧率は、例えばマップで規定されている昇圧率の中で最も小さい昇圧率である。システム側制御部110は、第2昇圧率で水素ガスの充填が行われるように流量調整装置104の開度を制御する。
【0038】
システム側制御部110は、水素タンク1の充填率が第2目標充填率に達したか否かを判定する(ステップS120)。システム側制御部110は、水素タンク1の充填率が第2目標充填率に達したと判定するまで、水素タンク1に第2昇圧率でガス充填を継続して行う。システム側制御部110は、水素タンク1の充填率が第2目標充填率に達したと判定すると(ステップS120:YES)、水素タンク1への水素ガス充填が完了したと判定し、水素ガス充填を終了する。
【0039】
システム側制御部110が、水素タンク1の充填率が予め設定されている第1目標充填率に達するまで予め設定されている第1昇圧率で水素ガスを水素タンク1に充填し、水素タンク1の充填率が第1目標充填率から第1目標充填率よりも高い予め設定されている第2目標充填率に達するまで、第1目標充填率よりも低い予め設定されている第2昇圧率で水素ガスを水素タンク1に充填するように流量調整装置104を制御する理由について、以下に説明する。
【0040】
図3は、比較例により水素タンク1に水素ガス充填を行った際の時間および圧力の関係の一例を示すグラフである。横軸は、ガス充填ノズル109およびレセプタクル9の接続時を0とする経過時間を示し、縦軸は圧力を示す。実線L1は、システム側圧力センサ107の計測値を示し、一点鎖線L2は、車両側圧力センサ4の計測値を示す。なお、水素ガスが充填される水素タンク1は、大型バスやトラック等に搭載される比較的大容量の水素タンク1であり、容量は80kg程度である。比較例では、第1昇圧率(即ちシステム側制御部110のメモリに記憶されている理想的な昇圧率)のみで水素ガス充填を行う。
【0041】
ガス充填ノズル109およびレセプタクル9の接続後、時刻t1においてプレショット充填を行うことで水素タンク1内の初期圧力を計測する。実線L1が示すように、プレショット充填では少量の高圧水素ガスを充填しているため、システム側圧力センサ107の計測値は一時的に高くなっているが、車両側圧力センサ4の計測値は変化していない。
【0042】
システム側制御部110は、プレショット充填により水素タンク1内の初期圧を計測後、目標充填率まで時刻t2から第1昇圧率で水素タンク1に水素ガス充填を開始するように流量調整装置104を制御する。比較例において目標充填率は、98%とする。式(1)~(5)で説明したように、充填率は、圧力および温度から求めることができる。時刻t3において、システム側圧力センサ107の計測値が、目標充填率に対応する圧力値であるP1に到達すると、システム側制御部110は、目標充填率まで充填が完了したと判定し、水素ガスの充填を終了する。しかし、一点鎖線L2が示すように、水素タンク1内の圧力は、システム側圧力センサ107が示す値P1よりも低いP2である。これは、蓄圧器102から水素タンク1までの経路における圧力損失によるものである。かかる圧力損失により、システム側圧力センサ107で計測される圧力値と車両側圧力センサ4で計測される圧力値とに差が生じるため、システム側制御部110が目標充填率まで充填したと判断したにも関わらず、実際の水素タンク1には目標充填率まで充填されていないこととなる。
【0043】
次に実施形態に係るガス充填システム100により、水素タンク1に水素ガスを充填した場合について説明する。
図4は、実施形態に係るガス充填システム100により水素タンク1に水素ガス充填を行った際の時間および圧力の関係の一例を示すグラフである。横軸は、ガス充填ノズル109とレセプタクル9の接続時を0とする経過時間を示し、縦軸は圧力を示す。実線L3は、システム側圧力センサ107の計測値を示し、一点鎖線L4は、車両側圧力センサ4の計測値を示す。比較例と同様に、比較的大容量(80kg程度)の水素タンク1に水素ガスの充填を行う。比較例では第1昇圧率のみで水素タンク1に水素ガス充填を行ったが、実施形態に係るガス充填システム100では、時刻t
5から時刻t
6までは第1昇圧率で水素タンク1に水素ガス充填を行い、時刻t
6から時刻t
7までは第2昇圧率で水素タンク1に水素ガス充填を行う点で、比較例によるガス充填と異なる。
【0044】
比較例と同様に、時刻t4においてプレショット充填を行う。システム側制御部110は、プレショット充填による計測後、第1昇圧率を設定し、時刻t5において水素タンク1の充填率が第1目標充填率に達するまで、第1昇圧率で充填を開始する。第1目標充填率は、93%とする。
【0045】
システム側制御部110は、時刻t6において、システム側圧力センサ107の計測値が第1目標充填率に対応する圧力値P3に到達したことから、水素タンク1の充填率が第1目標充填率に達したと判定し、水素タンク1の充填率が第2目標充填率に達するまで第2昇圧率で水素タンク1に水素ガスを充填するように流量調整装置104を制御する。第2目標充填率は、98%とする。一点鎖線L4が示すように、時刻t6において、車両側圧力センサ4の計測値が急上昇し、実線L3が示すシステム側圧力センサ107の計測値との差が小さくなっている。これは、昇圧率が第1昇圧率よりも低い第2昇圧率に設定されたことで、蓄圧器102から水素タンク1に流れる水素ガスの流速が低下し、蓄圧器102と水素タンク1との間における圧力損失が小さくなったためである。
【0046】
システム側制御部110は、時刻t7においてシステム側圧力センサ107の計測値が第2目標充填率に対応する圧力値P4に到達したことから、水素タンク1の充填率が第2目標充填率に達したと判定し、水素ガスの充填を終了する。このとき、システム側圧力センサ107の計測圧力値P4と車両側圧力センサ4の計測圧力値P5との差圧Δ2は、比較例によるガス充填におけるシステム側圧力センサ107の計測圧力値P1と車両側圧力センサ4の計測圧力値P2との差圧Δ1よりも小さかった。これは、第1目標充填率まで水素タンク1に水素ガスを充填後、第2目標充填率まで第1昇圧率よりも小さい第2昇圧率で水素タンク1に水素ガスの充填を行うことで、蓄圧器102から水素タンク1までの経路における圧力損失が小さくなったためである。このように2段階の昇圧率を設定し、第1昇圧率で水素ガスの充填を行い、次いで第1昇圧率よりも低い第2昇圧率で水素ガスの充填を行うことで、蓄圧器102から水素タンク1までの経路における圧力損失を低減し、充填されるガスの充填率の低下を抑制することができる。また、第1昇圧率で第1目標充填率まで充填を行った後に、第2昇圧率で第2目標充填率まで水素ガスの充填を行うので、第2昇圧率だけで充填を行う場合と比較して、短時間で充填を完了させることができる。
【0047】
以上説明したガス充填システム100によれば、システム側制御部110が、水素タンク1の充填率が予め設定された第1目標充填率まで予め設定された第1昇圧率で水素ガスの充填を行い、第1目標充填率から予め設定された第2目標充填率まで第1昇圧率よりも低い予め設定された第2昇圧率で水素ガスの充填をするように、流量調整装置104を制御する。換言すると、理想的な昇圧率である第1昇圧率で第1目標充填率までガス充填を行った後、圧力損失の小さい第2昇圧率で第2目標充填率までガス充填を行う。このため、比較的大容量の水素タンク1に水素ガスを充填する場合であっても、充填率の低下を抑制しながら比較的短時間でガスの充填を完了させることができる。
【0048】
B.他の実施形態:
(B1)第1実施形態において、高圧容器が燃料電池車両Vに搭載される水素タンク1であり、ガスが水素ガスである構成について説明したが、本開示はこれに限られない。高圧容器は、プラントに設置される燃料電池に用いられる比較的大規模な水素タンクであってもよい。ガスは、酸素、窒素、アルゴン、またはヘリウム等の高圧ガスであってもよい。かかる場合、高圧容器は、酸素、窒素、アルゴン、またはヘリウム等の高圧ガスを貯蔵する容器であってもよい。
【0049】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1…水素タンク、2…車両配管、3…車両側温度センサ、4…車両側圧力センサ、5…車両側制御部、6…送信部、7…逆止弁、8…逆止弁、9…レセプタクル、100…ガス充填システム、101…受信部、102…蓄圧器、103…システム側配管、104…流量調整装置、105…流量計、106…冷却器、107…システム側圧力センサ、108…システム側温度センサ、109…ガス充填ノズル、110…システム側制御部、111…外気温度センサ、V…燃料電池車両
【手続補正書】
【提出日】2023-03-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧容器に接続され、前記高圧容器にガスを充填するガス充填システムであって、
温度センサにより計測された前記高圧容器内の温度を通信により受信する受信部と、
充填される前記ガスの流量を調整する流量調整装置と、
充填される前記ガスの圧力を計測する圧力センサと、
前記受信部で受信した温度および前記圧力センサで計測された圧力を用いて前記高圧容器中の前記ガスの充填率を算出することと、前記流量調整装置を制御することにより前記高圧容器に充填される前記ガスの昇圧率を制御することと、を実行する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記高圧容器の充填率が、予め設定されている第1目標充填率に達するまで、予め設定されている第1昇圧率で前記高圧容器に前記ガスを充填し、
前記高圧容器の充填率が、前記第1目標充填率から、前記第1目標充填率よりも高い予め設定されている第2目標充填率に達するまで、前記第1昇圧率よりも低い予め設定されている第2昇圧率で前記高圧容器に前記ガスを充填するように前記流量調整装置を制御する、
ガス充填システム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、高圧容器に接続され、前記高圧容器にガスを充填するガス充填システムが提供される。このガス充填システムは、温度センサにより計測された前記高圧容器内の温度を通信により受信する受信部と、充填される前記ガスの流量を調整する流量調整装置と、充填される前記ガスの圧力を計測する圧力センサと、前記受信部で受信した温度および前記圧力センサで計測された圧力を用いて前記高圧容器中の前記ガスの充填率を算出することと、前記流量調整装置を制御することにより前記高圧容器に充填される前記ガスの昇圧率を制御することと、を実行する制御部と、を備え、前記制御部は、前記高圧容器の充填率が、予め設定されている第1目標充填率に達するまで、予め設定されている第1昇圧率で前記高圧容器に前記ガスを充填し、前記高圧容器の充填率が、前記第1目標充填率から、前記第1目標充填率よりも高い予め設定されている第2目標充填率に達するまで、前記第1昇圧率よりも低い予め設定されている第2昇圧率で前記高圧容器に前記ガスを充填するように前記流量調整装置を制御する。
この形態のガス充填システムによれば、予め設定されている第1目標充填率まで予め設定されている第1昇圧率でガスを充填し、第1目標充填率から第1目標充填率よりも高い予め設定されている第2目標充填率まで第1昇圧率よりも低い予め設定されている第2昇圧率でガスを充填する。第2昇圧率は、第1昇圧率よりも低い昇圧率であるため、ガス充填経路における圧力損失が小さい。第1昇圧率で充填を行った後に圧力損失が小さい第2昇圧率で充填を行うため、圧力損失による充填率の低下を抑制することができる。また、第1目標充填率までは第1昇圧率で充填を行うため、第2昇圧率のみで充填を行った場合と比較して、短時間でガス充填を完了することができる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
システム側制御部110が、水素タンク1の充填率が予め設定されている第1目標充填率に達するまで予め設定されている第1昇圧率で水素ガスを水素タンク1に充填し、水素タンク1の充填率が第1目標充填率から第1目標充填率よりも高い予め設定されている第2目標充填率に達するまで、第1昇圧率よりも低い予め設定されている第2昇圧率で水素ガスを水素タンク1に充填するように流量調整装置104を制御する理由について、以下に説明する。