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特開2023-180635胆道がんの検出キット、胆道がんの予後予測キットおよびその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180635
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】胆道がんの検出キット、胆道がんの予後予測キットおよびその利用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20231214BHJP
   C12Q 1/6874 20180101ALI20231214BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20231214BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20231214BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20231214BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z ZNA
C12Q1/6874 Z
C12Q1/686 Z
G01N33/50 P
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094095
(22)【出願日】2022-06-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載者名:日本消化器病学会、掲載物名:第108回日本消化器病学会総会抄録 ウェブサイト (https://kcon.expcp.jp/108jsge/)、(https://kcon.expcp.jp/108jsge/sp/)、掲載年月日:令和4年3月30日 〔刊行物等〕掲載者名:日本消化器病学会、掲載物名:日本消化器病学会雑誌 第119巻 臨時増刊号 第108回総会抄録集、発送年月日:令和4年4月1日 〔刊行物等〕学会名:第108回日本消化器病学会総会、開催年月日:令和4年4月23日(学会開催期間:令和4年4月21日~4月23日)、開催場所:京王プラザホテル(東京都新宿区西新宿2-2-1)、オンライン 〔刊行物等〕学会名:第108回日本消化器病学会総会、オンデマンド配信年月日:令和4年4月28日~5月31日(学会開催期間:令和4年4月21日~4月23日)、開催場所:オンライン
(71)【出願人】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100195062
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 涼子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 道弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 靖人
(72)【発明者】
【氏名】湯川 博
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CB30
2G045DA14
2G045FB02
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】胆道がんの検出精度を向上させることができる技術を提供する。
【解決手段】胆道がんの検出キットは、胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3p、miR-451a、miR-16-5p、miR-23b-3p、miR-23a-3p、miR-4306からなる群より選ばれる少なくとも1つのマイクロRNAに対して、特異的に結合可能なポリヌクレオチドを含み、胆汁を用いて胆道がんを検出する。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胆道がんの検出キットであって、
胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3p、miR-451a、miR-16-5p、miR-23b-3p、miR-23a-3p、miR-4306からなる群より選ばれる少なくとも1つのマイクロRNAに対して、特異的に結合可能なポリヌクレオチドを含み、
胆汁を用いて胆道がんを検出する、
胆道がんの検出キット。
【請求項2】
請求項1に記載の胆道がんの検出キットにおいて、
前記ポリヌクレオチドは、miR-3619-3pに対して特異的に結合可能なポリヌクレオチドと、miR-451aに対して特異的に結合可能なポリヌクレオチドとのうちの少なくとも1つを含む、
胆道がんの検出キット。
【請求項3】
請求項2に記載の胆道がんの検出キットにおいて、
前記ポリヌクレオチドは、miR-3619-3pに対して特異的に結合可能なポリヌクレオチドと、miR-451aに対して特異的に結合可能なポリヌクレオチドとの両方を含む、
胆道がんの検出キット。
【請求項4】
胆道がんの予後予測キットであって、
胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3pに対して、特異的に結合可能なポリヌクレオチドを含み、
胆汁を用いて胆道がんの予後を予測する、
胆道がんの予後予測キット。
【請求項5】
胆道がんを検出するための胆道がん検出バイオマーカーであって、
胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3p、miR-451a、miR-16-5p、miR-23b-3p、miR-23a-3p、miR-4306からなる群より選ばれる少なくとも1つであり、
発現量が多い場合に、発現量が少ない場合と比較して、胆道がんである可能性が高いことを示す、
胆道がんを検出するための胆道がん検出バイオマーカー。
【請求項6】
胆道がんの予後を予測するための胆道がん予後予測バイオマーカーであって、
胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3pであり、
発現量が多い場合に、発現量が少ない場合と比較して、胆道がんの予後が悪い可能性があることを示す、
胆道がんの予後を予測するための胆道がん予後予測バイオマーカー。
【請求項7】
胆道がんの検出を補助するための方法であって、
対象から採取された胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3p、miR-451a、miR-16-5p、miR-23b-3p、miR-23a-3p、miR-4306からなる群より選ばれる少なくとも1つのマイクロRNAの発現量を検出することを含み、
前記発現量が多い場合に、前記発現量が少ない場合と比較して、胆道がんである可能性が高いことが示される、方法。
【請求項8】
胆道がんの予後を予測するための方法であって、
対象から採取された胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3pの発現量を検出することを含み、
前記発現量が多い場合に、前記発現量が少ない場合と比較して、胆道がんの予後が悪い可能性があることが示される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、胆道がんの検出キットおよび胆道がんの予後予測キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、胆道内の病変に対する診断の難しさは、臨床上深刻な問題となっている。胆道は太さ10mmにも満たず、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)における生検やブラシ擦過によって得られる胆道病変の検体は微小であり、病変を正しく採取できていない場合も多い。例えば、非特許文献1の記載によれば、胆管がんでは、病変の内視鏡的ブラシ擦過細胞診の感度は30%~50%であり、胆管生検の感度も60%に過ぎない。このように、胆道がんの診断は、病理学的診断が不確実であることから、現状ではERCPを中心とした画像診断に頼らざるを得ず、確定診断に至らないことも多い。ここで、近年、リキッドバイオプシー研究として、血清に注目した研究や臨床応用が進められつつある。例えば、特許文献1には、血液中のマイクロRNAを用いて、胆道がんを検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6927701号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Navaneethan U. et al., Gastrointest Endosc. 2015; 81(1): 168‐176.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
胆道がんにおいて、血液中エクソソーム内のマイクロRNAを用いたリキッドバイオプシーは、他がん種と比べて十分ではない。このことについて、胆道がんが胆汁に暴露された環境で育つため、他がん種とは異なる微小環境が形成され得ることが一因であると、本願発明者らは考えた。そして、特許文献1の技術によれば、大循環血液中に移行するエクソソーム成分を解析するため、胆汁に暴露された環境で育つ胆道がんのバイオマーカーとして十分ではない可能性があることを、本願発明者らは見出した。このため、胆道がんの検出精度を向上できる技術が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)胆道がんの検出キットであって、胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3p、miR-451a、miR-16-5p、miR-23b-3p、miR-23a-3p、miR-4306からなる群より選ばれる少なくとも1つのマイクロRNAに対して、特異的に結合可能なポリヌクレオチドを含み、胆汁を用いて胆道がんを検出する、胆道がんの検出キット。この形態の胆道がんの検出キットによれば、胆汁を用いて胆道がんを検出できるので、胆道がんの検出精度を向上させることができる。
【0008】
(2)上記(1)に記載の胆道がんの検出キットにおいて、前記ポリヌクレオチドは、miR-3619-3pに対して特異的に結合可能なポリヌクレオチドと、miR-451aに対して特異的に結合可能なポリヌクレオチドとのうちの少なくとも1つを含む、胆道がんの検出キット。この形態の胆道がんの検出キットによれば、胆道がんの検出精度をより向上させることができる。
【0009】
(3)上記(1)または(2)に記載の胆道がんの検出キットにおいて、前記ポリヌクレオチドは、miR-3619-3pに対して特異的に結合可能なポリヌクレオチドと、miR-451aに対して特異的に結合可能なポリヌクレオチドとの両方を含む、胆道がんの検出キット。この形態の胆道がんの検出キットによれば、胆道がんの検出精度をさらに向上させることができる。
【0010】
(4)胆道がんの予後予測キットであって、胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3pに対して、特異的に結合可能なポリヌクレオチドを含み、胆汁を用いて胆道がんの予後を予測する、胆道がんの予後予測キット。この形態の胆道がんの予後予測キットによれば、胆汁を用いて胆道がんの予後を予測できるので、胆道がんの予後予測精度を向上させることができる。
【0011】
(5)胆道がんを検出するための胆道がん検出バイオマーカーであって、胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3p、miR-451a、miR-16-5p、miR-23b-3p、miR-23a-3p、miR-4306からなる群より選ばれる少なくとも1つであり、発現量が多い場合に、発現量が少ない場合と比較して、胆道がんである可能性が高いことを示す、胆道がんを検出するための胆道がん検出バイオマーカー。
【0012】
(6)胆道がんの予後を予測するための胆道がん予後予測バイオマーカーであって、胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3pであり、発現量が多い場合に、発現量が少ない場合と比較して、胆道がんの予後が悪い可能性があることを示す、胆道がんの予後を予測するための胆道がん予後予測バイオマーカー。
【0013】
(7)胆道がんの検出を補助するための方法であって、対象から採取された胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3p、miR-451a、miR-16-5p、miR-23b-3p、miR-23a-3p、miR-4306からなる群より選ばれる少なくとも1つのマイクロRNAの発現量を検出することを含み、前記発現量が多い場合に、前記発現量が少ない場合と比較して、胆道がんである可能性が高いことが示される、方法。
【0014】
(8)胆道がんの予後を予測するための方法であって、対象から採取された胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3pの発現量を検出することを含み、前記発現量が多い場合に、前記発現量が少ない場合と比較して、胆道がんの予後が悪い可能性があることが示される、方法。
【0015】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能である。例えば、胆汁を用いて胆道がんを検出するデバイス、胆汁を用いて胆道がんの予後を予測するデバイス、胆道がんの診断を補助するための方法、胆道がんの診断方法、胆道がんの治療方法、胆道がんの治療効果判定バイオマーカー等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】胆汁と血清とにおいて回収されたRNA量を比較して示す説明図。
図2】miR-451aの発現に関するROC曲線を示す図。
図3】miR-3619-3pの発現に関するROC曲線を示す図。
図4】miR-451aとmiR-3619-3pとの発現に関するROC曲線を示す図。
図5】CEAの発現に関するROC曲線を示す図。
図6】CA19-9の発現に関するROC曲線を示す図。
図7】miR-3619-3pの発現に関する生存曲線解析の結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の一実施形態によれば、胆道がんの検出キットが提供される。この胆道がんの検出キットは、胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3p、miR-451a、miR-16-5p、miR-23b-3p、miR-23a-3p、miR-4306からなる群より選ばれる少なくとも1つのマイクロRNAに対して、特異的に結合可能なポリヌクレオチドを含み、胆汁を用いて胆道がんを検出することを特徴とする。
【0018】
本願発明者は、後述の実施例に示されるように、胆汁のエクソソームに含まれる上記マイクロRNAの発現量が、胆道がん患者と非がん患者とにおいて差があることを見出し、本発明を確立するに至った。
【0019】
胆汁は、対象から採取される。本明細書における「対象」には、哺乳動物が含まれる。この哺乳動物としては、特に限定されないが、例えば、ヒトやサル、チンパンジー等の霊長類、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ等が挙げられる。
【0020】
本明細書において、「胆道がん(Biliary tract cancer:BTC)」とは、胆道において形成される全ての悪性腫瘍を意味し、細胞の制御不能な増殖を特徴とする。より具体的には、例えば、肝門部胆管がん、胆嚢がん、遠位胆管がん、肝外胆管がん、乳頭部がん、十二指腸乳頭部がんおよび肝内胆管がん等が含まれる。
【0021】
マイクロRNA(以下、「miRNA」とも呼ぶ)は、約18~25塩基程度のノンコーディングRNAであり、例えば、標的となるmRNAに結合することで、そのタンパク質への翻訳を阻害する。
【0022】
miR-3619-3pには、配列番号1で示されるhsa-miR-3619-3pが含まれる。miR-451aには、配列番号2で示されるhsa-miR-451aが含まれる。miR-16-5pには、配列番号3で示されるhsa-miR-16-5pが含まれる。miR-23b-3pには、配列番号4で示されるhsa-miR-23b-3pが含まれる。miR-23a-3pには、配列番号5で示されるhsa-miR-23a-3pが含まれる。miR-4306には、配列番号6で示されるhsa-miR-4306が含まれる。
【0023】
標的とするマイクロRNAに特異的に結合可能なポリヌクレオチドには、そのマイクロRNAの塩基配列の相補配列を含むポリヌクレオチド、そのマイクロRNAの塩基配列の相補配列との同一性が90%以上である塩基配列を含むポリヌクレオチド、そのマイクロRNAの塩基配列の相補配列において1~数個の塩基が欠失、置換または付加されている塩基配列を含むポリヌクレオチドが含まれる。また、標的とするマイクロRNAに特異的に結合可能なポリヌクレオチドには、そのマイクロRNAにストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドが含まれる。
【0024】
「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成される一方で、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。ストリンジェントな条件は、ハイブリダイゼーションの条件とその後の洗浄の条件とによって規定される。ハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、3~10×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)および0.1~1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含有する溶液中30~60℃にて1~24時間の条件等が該当する。ハイブリダイゼーション後の洗浄条件としては、例えば、0.5×SSCと0.1%SDSとを含む30℃の溶液、0.2×SSCと0.1%SDSとを含む30℃の溶液、および0.05×SSCを含む30℃の溶液による連続した洗浄等の条件が該当する。
【0025】
標的とするマイクロRNAに特異的に結合可能なポリヌクレオチドは、化学修飾を有していてもよい。また、標的とするマイクロRNAに特異的に結合可能なポリヌクレオチドは、RNA、DNA、およびRNA/DNA(キメラ)のいずれの形態であってもよい。RNAの形態としては、例えば、天然由来のRNAや合成RNA等の形態が挙げられる。DNAの形態としては、例えば、cDNA等の形態が挙げられる。また、標的とするマイクロRNAに特異的に結合可能なポリヌクレオチドは、プローブやプライマーであってもよい。また、標的とするマイクロRNAに特異的に結合可能なポリヌクレオチドは、任意の固相に固定化された態様であってもよい。例えば、プローブを固定したRNAチップ、DNAチップ、cDNAマイクロアレイ、オリゴDNAアレイ、メンブレンフィルター等の態様によって実現されてもよい。
【0026】
標的とするマイクロRNAには、miR-3619-3pとmiR-451aとのうちの少なくとも1つが含まれることが好ましい。このため、胆道がんの検出キットは、miR-3619-3pに対して特異的に結合可能なポリヌクレオチドと、miR-451aに対して特異的に結合可能なポリヌクレオチドとのうちの少なくとも一方を含むことが好ましい。また、標的とするマイクロRNAには、miR-3619-3pとmiR-451aとの両方が含まれることがより好ましい。このため、胆道がんの検出キットは、miR-3619-3pに対して特異的に結合可能なポリヌクレオチドと、miR-451aに対して特異的に結合可能なポリヌクレオチドとの両方を含むことがさらに好ましい。このような構成により、胆道がんの検出精度をより向上させることができる。
【0027】
胆道がんの検出キットには、胆汁からエクソソームを分離するための試薬やデバイス、エクソソームからマイクロRNAを抽出するための試薬やデバイス等が含まれていてもよい。また、胆道がんの検出キットには、標識用蛍光物質、核酸増幅用酵素、緩衝液、使用説明書等が含まれていてもよい。
【0028】
本開示における胆道がんの検出キットを用いることにより、胆汁に含まれるバイオマーカーとしてのマイクロRNAの発現量を指標として、胆道がんを検出することができる。このため、例えば、胆道がんに関する診断を補助することができ、胆道がんの診断精度を高めることができる。したがって、例えば、画像上において胆道狭窄が認められて胆道がんが疑われる対象者や、胆石、慢性胆嚢炎、原発性硬化性胆管炎、膵胆管合流異常症等、胆道がんのリスクがある対象者等への胆道がんのスクリーニングに用いることができる。
【0029】
後述する実施例に示されるように、対象から採取された胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3p、miR-451a、miR-16-5p、miR-23b-3p、miR-23a-3p、miR-4306からなる群より選ばれる少なくとも1つは、胆道がんを検出するための胆道がん検出バイオマーカーとして利用できる。これらのバイオマーカーは、発現量が多い場合に、発現量が少ない場合と比較して、胆道がんである可能性が高いことを示す。発現量は、所定のカットオフ値等の基準値との比較であってもよく、同じ対象において互いに異なる時期に採取した胆汁における値との比較であってもよい。カットオフ値は、例えば、感度、特異度等に基づいて適宜設定してもよく、ROC曲線のYoudenインデックスを用いて決定してもよい。カットオフ値は、例えば、胆道がん症例群における上記マイクロRNA発現量の平均値や中央値、第1四分位値、最小値等であってもよく、非胆道がん症例群における上記マイクロRNA発現量の第3四分位値、最大値等であってもよい。より具体的には、例えば、対象から採取された胆汁のエクソソームに含まれる上記マイクロRNAの発現量がカットオフ値以上である場合に、胆道がんである可能性が高いことを示してもよい。また、例えば、対象から採取された胆汁のエクソソームに含まれる上記マイクロRNAの発現量の相対値が、非胆道がん症例群における上記マイクロRNA発現量の平均値や中央値等を基準として1とした場合に、2以上、3以上、4以上、5以上、10以上等である場合に、胆道がんである可能性が高いことを示してもよい。
【0030】
胆汁のエクソソームに含まれる上記マイクロRNAを胆道がん検出バイオマーカーとして利用することにより、胆道がんの検出能を高めることができる。ここで、がんのマーカーとして一般に知られている血清中CEAは、感度が低いため、陰性の場合であっても、がんの可能性を除外できないという問題がある。また、がんのマーカーとして一般に知られている血清中CA19-9は、がんに限らず結石の場合においても発現量が上昇するため、鑑別診断が困難であるという問題がある。これに対し、本開示によれば、胆汁のエクソソームに含まれる上記マイクロRNAを胆道がん検出バイオマーカーとして利用することにより、胆道がんの検出能を高めることができる。この結果として、胆道がんに関する診断を補助することができ、また、胆道がんに関する診断精度を高めることができる。
【0031】
本開示の他の実施形態によれば、胆道がんの検出を補助するための方法が提供される。この方法は、対象から採取された胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3p、miR-451a、miR-16-5p、miR-23b-3p、miR-23a-3p、miR-4306からなる群より選ばれる少なくとも1つのマイクロRNAの発現量を検出することを含む。そして、そのマイクロRNAの発現量が多い場合に、発現量が少ない場合と比較して、胆道がんである可能性が高いことが示される。本明細書において、「マイクロRNAの発現量を検出する」とは、マイクロRNAを定量することに限らず、マイクロRNAの発現レベルを検出することも含む。
【0032】
この方法は、対象から採取された胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3p、miR-451a、miR-16-5p、miR-23b-3p、miR-23a-3p、miR-4306からなる群より選ばれる少なくとも1つのマイクロRNAの発現量を検出する工程(検出工程)と、マイクロRNAの発現量が多い場合に、発現量が少ない場合と比較して、胆道がんである可能性が高いと判定する工程(判定工程)と、を含んでいてもよい。ただし、判定工程は、ヒトに対する医療行為を除くものであり、胆道がんの検出を補助するためのものである。
【0033】
また、この方法は、上記検出工程の前に、対象から採取された胆汁を準備する工程(準備工程)を含んでいてもよい。準備工程は、例えば、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を実施する際に、カテーテルを用いて胆管内から胆汁を吸引採取する工程であってもよい。また、上記検出工程の前に、胆汁からエクソソームを分離する工程(分離工程)を含んでいてもよい。分離工程では、例えば、ナノ多孔質ガラスデバイス等のエクソソーム分離キットを用いてもよく、超遠心法、密度勾配遠心法、アフィニティーカラム法等の任意の分離方法を用いてもよい。また、上記検出工程の前に、エクソソームからマイクロRNAを抽出する工程(抽出工程)を含んでいてもよい。抽出工程は、例えば、miRNeasy(登録商標)Serum/Plasma Kit(QIAGEN社製)等のキットを用いて行ってもよく、酸性フェノール法(Acid Guanidinium-Phenol-Chloroform(AGPC)法)等を用いて行ってもよい。
【0034】
検出工程は、上述の胆道がん検出キットを用いて行うことができる。検出工程では、例えば、ハイブリダイゼーション技術、定量増幅技術、シークエンサー等を利用して行われてもよい。ハイブリダイゼーション技術としては、例えば、DNAチップ解析、ノーザンブロット法、サザンブロット法、in situ ハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、サザンハイブリダイゼーション法等が挙げられる。定量増幅技術としては、例えば、定量RT-PCR法等が挙げられる。シークエンサーとしては、例えば、サンガー法に基づく第1世代シークエンサーや、次世代シークエンサー等が挙げられる。
【0035】
判定工程における発現量の比較は、所定のカットオフ値等の基準値との比較であってもよく、同じ対象において互いに異なる時期に採取した胆汁における値との比較であってもよい。カットオフ値は、例えば、感度、特異度等に基づいて適宜設定してもよく、ROC曲線のYoudenインデックスを用いて決定してもよい。基準値は、例えば、胆道がん症例群における上記マイクロRNA発現量の平均値や中央値、第1四分位値、最小値等であってもよく、非胆道がん症例群における上記マイクロRNA発現量の第3四分位値、最大値等であってもよい。判定工程では、例えば、マイクロRNAの発現量が所定のカットオフ値以上である場合に、胆道がんである可能性が高いと判定してもよい。また、例えば、マイクロRNAの発現量が所定のカットオフ値未満である場合に、胆道がんである可能性が低いと判定してもよい。
【0036】
判定工程において胆道がんである可能性が高いと判定された場合、医師は、その対象が胆道がんに罹患していると診断して、対象に対して胆道がんの治療薬を有効量投与する等、化学療法等の治療を行うこととしてもよい。このため、本開示の他の実施形態によれば、胆道がんを診断および治療する方法が提供される。この方法は、対象から採取された胆汁を準備する工程(準備工程)と、前記胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3p、miR-451a、miR-16-5p、miR-23b-3p、miR-23a-3p、miR-4306からなる群より選ばれる少なくとも1つのマイクロRNAの発現量を検出する工程(検出工程)と、前記マイクロRNAの発現量が多い場合に、発現量が少ない場合と比較して、胆道がんである可能性が高いと判定する工程(判定工程)と、前記可能性が高いと判定された場合に、前記対象が胆道がんであると診断する工程(診断工程)と、前記診断された患者に対して胆道がんの治療薬投与を決定する工程(決定工程)と、を含む。
【0037】
決定工程では、例えば、GEM(ゲムシタビン)を単独で投与することとしてもよく、GEMとCDDP(シスプラチン)とを併用して投与することとしてもよく、GEMとS-1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤)とを併用して投与することとしてもよく、S-1を単独で投与することとしてもよい。GEMを単独で投与する場合、例えば、投与量1000mg/m、投与時間30分間、4週間1コースとしてDay1、8、15に点滴静注してもよい。GEMとCDDPとを併用して投与する場合、例えば、GEM投与量1000mg/m、GEM投与時間30分間、CDDP投与量25mg/m、CDDP投与時間90分間、3週間1コースとしてDay1、8に点滴静注してもよい。GEMとS-1とを併用して投与する場合、例えば、GEMを、投与量1000mg/m、投与時間30分間で、3週間1コースとしてDay1、8に点滴静注し、S-1を、投与量60mg/m/日を朝夕2回に分けて、3週間1コースとしてDay1~14に経口投与してもよい。S-1を単独で投与する場合、例えば、投与量60mg/m/日を朝夕2回に分けて、6週間1コースとしてDay1~28に経口投与してもよい。
【0038】
本開示の他の実施形態によれば、胆道がんの予後予測キットが提供される。この胆道がんの予後予測キットは、胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3pに対して、特異的に結合可能なポリヌクレオチドを含み、胆汁を用いて胆道がんの予後を予測することを特徴とする。
【0039】
本願発明者は、後述の実施例に示されるように、胆道がん患者の胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3pについて、発現量が高い群では、発現量が低い群と比較して予後が悪い傾向があることを見出し、本発明を確立するに至った。本明細書において「予後」とは、がんの再発率、がんの再発までの期間、または生存率を意味し得る。再発には、原発巣での再発と転移後の再発とが挙げられる。再発率は、治療一定期間後の再発率であり得る。本明細書において「予後が悪い」とは、がんの悪性度が高く、病状が悪化する傾向にあることを意味する。
【0040】
miR-3619-3pに特異的に結合可能なポリヌクレオチドには、miR-3619-3pの塩基配列の相補配列を含むポリヌクレオチド、miR-3619-3pの塩基配列の相補配列との同一性が90%以上である塩基配列を含むポリヌクレオチド、miR-3619-3pの塩基配列の相補配列において1~数個の塩基が欠失、置換または付加されている塩基配列を含むポリヌクレオチドが含まれる。また、miR-3619-3pに特異的に結合可能なポリヌクレオチドには、miR-3619-3pに、上述のようなストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドが含まれる。また、miR-3619-3pに特異的に結合可能なポリヌクレオチドは、上述のように、化学修飾を有していてもよく、RNA、DNA、およびRNA/DNA(キメラ)のいずれの形態であってもよく、プローブやプライマーであってもよく、任意の固相に固定化された態様であってもよい。
【0041】
胆道がんの予後予測キットには、胆汁からエクソソームを分離するための試薬やデバイス、エクソソームからマイクロRNAを抽出するための試薬やデバイス等が含まれていてもよく、標識用蛍光物質、核酸増幅用酵素、緩衝液、使用説明書等が含まれていてもよい。
【0042】
本開示における胆道がんの予後予測キットを用いることにより、胆汁に含まれるバイオマーカーとしてのmiR-3619-3pの発現量を指標として、胆道がんにおける予後を予測することができる。このため、例えば、胆道がんの治療方針の決定を補助することができる。
【0043】
後述する実施例に示されるように、対象から採取された胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3pは、胆道がんの予後を予測するための胆道がん予後予測バイオマーカーとして利用できる。このバイオマーカーは、発現量が多い場合に、発現量が少ない場合と比較して、胆道がんの予後が悪い可能性があることを示す。発現量は、例えば、所定の基準値との比較であってもよい。基準値は、例えば、感度、特異度等に基づいて適宜設定してもよく、ROC曲線のYoudenインデックスを用いて決定してもよい。また、基準値は、例えば、胆道がん症例群におけるmiR-3619-3p発現量の平均値や中央値、第1四分位値、最小値等であってもよく、非胆道がん症例群におけるmiR-3619-3p発現量の第3四分位値、最大値等であってもよい。より具体的には、例えば、対象から採取された胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3pの発現量が基準値以上である場合に、胆道がんの予後が悪い可能性があることを示してもよい。また、例えば、胆道がん症例群におけるmiR-3619-3p発現量の平均値や中央値等を基準として1とした場合に、対象から採取された胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3pの発現量の相対値が、2以上、3以上、4以上、5以上等である場合に、胆道がんの予後が悪い可能性があることを示してもよい。
【0044】
また、基準値は、例えば、胆道がん症例群のうち予後の悪い患者におけるmiR-3619-3p発現量の平均値や中央値、第1四分位値、最小値等であってもよく、胆道がん症例群のうち予後の良い患者におけるmiR-3619-3p発現量の平均値や中央値、第3四分位値、最大値等であってもよい。ここで、基準値の選択に際して胆道がん患者の予後が良いか悪いかに関しては、医師により予め決定することができる。予後が良いか悪いかに関しては、例えば、無再発生存期間の長さや生存期間の長さ等により決定することができる。例えば、その期間の長さが、200日以上、400日以上、600日以上、800日以上、1000日以上である患者を予後の良い患者と決定することができ、それ未満の患者を予後が悪い患者と決定することができる。
【0045】
胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3pを胆道がん予後予測バイオマーカーとして利用することにより、胆道がんの予後を予測することができる。この結果として、胆道がんの治療方針の決定を補助することができる。
【0046】
本開示の他の実施形態によれば、胆道がんの予後を予測するための方法が提供される。この方法は、対象から採取された胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3pの発現量を検出することを含む。そして、miR-3619-3pの発現量が多い場合に、発現量が少ない場合と比較して、胆道がんの予後が悪い可能性があることが示される。
【0047】
この方法は、対象から採取された胆汁のエクソソームに含まれるmiR-3619-3pの発現量を検出する工程(検出工程)と、miR-3619-3pの発現量が多い場合に、発現量が少ない場合と比較して、胆道がんの予後が悪い可能性があると判定する工程(判定工程)と、を含んでいてもよい。ただし、判定工程は、ヒトに対する医療行為を除くものであり、胆道がんの予後を予測するためのものである。
【0048】
また、この方法は、上記検出工程の前に、上述のような、対象から採取された胆汁を準備する工程(準備工程)を含んでいてもよい。また、上記検出工程の前に、上述のような、胆汁からエクソソームを分離する工程(分離工程)を含んでいてもよく、エクソソームからマイクロRNAを抽出する工程(抽出工程)を含んでいてもよい。検出工程は、上述の胆道がん予後予測キットを用いて行うことができる。検出工程では、上述のような、ハイブリダイゼーション技術、定量増幅技術、シークエンサー等を利用してmiR-3619-3pの発現量を検出してもよい。
【0049】
判定工程における発現量の比較は、例えば、所定の基準値との比較であってもよい。基準値は、例えば、感度、特異度等に基づいて適宜設定してもよく、ROC曲線のYoudenインデックスを用いて決定してもよい。また、基準値は、例えば、胆道がん症例群におけるmiR-3619-3p発現量の平均値や中央値、第1四分位値、最小値等であってもよく、非胆道がん症例群におけるmiR-3619-3p発現量の第3四分位値、最大値等であってもよい。判定工程では、例えば、miR-3619-3pの発現量が所定の基準値以上である場合に、予後が悪い可能性が高いと判定してもよい。また、例えば、miR-3619-3pの発現量が所定の基準値未満である場合に、予後が悪い可能性が低いと判定してもよい。
【実施例0050】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
1.検体および方法
胆道がん患者および非胆道がん患者から、それぞれ回収された胆汁および血清を検体として用いた。胆道がん患者の症例(以下、「がん症例(BTC)」とも呼ぶ)には、肝門部胆管がん(pCCA:perihilar cholangiocarcinoma)、胆嚢がん(GBC:gallbladder cancer)および遠位胆管がん(dCCA:distal cholangiocarcinoma)が含まれていた。非胆道がん患者の症例(以下、「非がん症例(Control:CTRL)」とも呼ぶ)には、総胆管結石(CBD stone:common bile duct stone)および乳頭括約筋機能異常症(SOD:sphincter of Oddi dysfunction)が含まれていた。BTCは、45例であり、CTRLは、43例であった。胆汁は、ERCPにおいて、胆管内にカテーテルを挿入して、胆汁を1~5ml吸引回収した。回収した胆汁を、2,000×g、10分間、室温で遠心処理した。その後、胆泥を除去した後、分注して-80℃で保存した。各症例について、ERCP実施同日に採血を行い、1,500×g、5分間、室温で遠心処理することによって、血清を分離回収した。その後、分注して-80℃で保存した。
【0052】
エクソソームの抽出には、AGC株式会社製のナノ多孔質ガラスデバイスを用いた。まず、500μLの液体検体を0.22μmのフィルターで処理した後、そのうちの200μLを、ガラスフィルターを用いて6,000×gで5分間、室温で遠心処理した。ガラスフィルターに捕捉されたエクソソーム中に含まれるTotal RNAを、miRNeasy(登録商標)Serum/Plasma Kit(QIAGEN社製)を用いて回収した。抽出したRNAをバイオアナライザー(2100 Bioanalyzer、Agilent Technologies社製)で測定後、3D-Gene(登録商標)Human miRNA Oligo Chip(東レ株式会社製)を用いて、2,632種類のmiRNAを網羅的に解析した。
【0053】
Discoveryセットとして、がん症例11例および非がん症例9例について、胆汁検体におけるマイクロRNAの解析を行い、がん症例10例および非がん症例8例について、血清検体におけるマイクロRNAの解析を行った。また、Validationセットとして、がん症例34例および非がん症例34例について、胆汁検体におけるマイクロRNAの解析を行った。Discoveryセットにおける症例の内訳を、表1に示し、Validationセットにおける症例の内訳を、表2に示す。なお、表中における「WBC」は白血球数を示し、「CRP」はC反応性タンパク値を示し、「T-Bil」は総ビリルビン値を示す。また、「CEA」および「CA19-9」は、それぞれ腫瘍マーカーの値を示し、「Stage」は、UICC 第8版に準拠した進行度の分類を示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
2.胆汁および血清から回収されたRNA量の確認
Discoveryセットにおける胆汁検体(n=18)と血清検体(n=18)とについて、上記方法によって回収されたRNAを定量した。
【0057】
図1は、胆汁と血清とにおいて回収されたRNA量を比較して示す説明図である。図1において、縦軸は、Total RNA濃度(ng/μL)を示している。この結果、胆汁検体からは、血清検体と比較して極めて高濃度のRNAを回収でき、マン・ホイットニーのU検定において、P<0.001で有意差が認められた。したがって、胆汁のエクソソームに含まれるマイクロRNAの解析は、血清のエクソソームに含まれるマイクロRNAの解析と比較して、得られる情報量が多い可能性が示唆された。
【0058】
3.Discoveryセットにおける抽出miRNA
がん症例および非がん症例の両群間において、発現量がlog2換算で1以上の差を示すmiRNAを抽出した。なお、log2換算は、相対発現レベルを示しており、非がん症例よりもがん症例において発現量が大きい場合に正の値を示し、非がん症例よりもがん症例において発現量が小さい場合には負の値を示す。
【0059】
胆汁検体の解析では、以下の表3に示すように、22種類のmiRNAが抽出された。これに対し、血清検体の解析では、発現量がlog2換算で1以上の差を示すmiRNAは一つも抽出されなかった。例えば、以下の表4に示すように、hsa-miR-451aおよびhsa-miR-3619-3pについて、血清検体では、がん症例と非がん症例とにおいて差が認められなかった。以上の結果から、胆汁由来のmiRNAには、血清由来のmiRNAと比較して、胆道がんに関して有用なバイオマーカーが含まれることが示唆された。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
4.Validationセットにおける抽出miRNA
がん症例および非がん症例の両群間において、発現量がlog2換算で1以上の差を示すmiRNAを抽出した。Validationセットにおける胆汁検体の解析では、表5に示すように、27種類のmiRNAが抽出された。
【0063】
【表5】
【0064】
表5では、Discoveryセットにおいても抽出されたmiRNAを、太字で示している。これらのmiRNAは、再現性の高いmiRNAであるといえる。より具体的には、hsa-miR-451a、has-miR-16-5p、hsa-miR-3619-3p、has-miR-21-5p、hsa-miR-23b-3p、has-miR-23a-3p、has-miR-4306の7種類のmiRNAが、再現性の高いmiRNAとして抽出された。このうち、miR-21-5pは、他の固形がんにおいてoncomiR(oncogenic micro RNA)として知られているものである。このため、胆汁に含まれるmiR-451a、miR-16-5p、miR-3619-3p、miR-21-5p、miR-23b-3p、miR-23a-3p、miR-4306の6種類のmiRNAは、胆道がんを検出するための新規のバイオマーカーとして有用であることが明らかとなった。すなわち、胆汁に含まれるmiR-3619-3p、miR-451a、miR-16-5p、miR-23b-3p、miR-23a-3p、miR-4306は、発現量が多い場合に、発現量が少ない場合と比較して、胆道がんである可能性が高いことを示す、胆道がん検出バイオマーカーとして利用できることがわかった。
【0065】
DiscoveryセットおよびValidationセットにおいて抽出された42種類のmiRNAを、表6に示す。なお、「Accession No.」は、miRBaseのアクセッション番号を示している。
【0066】
【表6】
【0067】
5.ROC解析
Validationセットにおいて、胆道がんのROC解析を行った。より具体的には、miR-451a、miR-3619-3p、miR-451a+miR-3619-3pの発現に関して、ROC解析を行った。比較例として、血清検体における代表的な腫瘍マーカーとして知られるCEAおよびCA19-9の発現に関して、ROC解析を行った。これらの結果を、図2図6にそれぞれ示す。なお、図2図6において、縦軸は感度(陽性率)を示し、横軸は偽陽性率(1-特異度)を示している。また、ROC曲線下面積(AUC:area under the curve)、95%信頼区間(CI)、感度(Sensitivity)および特異度(Specificity)を、表7に示す。
【0068】
【表7】
【0069】
図2図6および表7に示す結果から、胆汁由来のmiR-451aやmiR-3619-3pは、胆道がんを検出するためのバイオマーカーとして優れていることが示された。このため、胆汁に含まれるmiR-451aやmiR-3619-3pの発現量が高い場合には、miR-451aやmiR-3619-3pの発現量が低い場合と比較して、胆道がんに罹患している可能性が高いことが示された。
【0070】
また、胆汁におけるmiR-451aとmiR-3619-3pとの両方の発現量を指標とした場合におけるAUCは、0.819(95%CI:0.692-0.902)であり、特に高い予測能を有することが認められた。このため、胆汁に含まれるmiR-451aとmiR-3619-3pとの両方の発現量を指標とすることにより、胆道がんの検出能をより向上できることがわかった。
【0071】
6.生存曲線解析
胆道がんの45症例について、miR-3619-3pの発現値に関し、発現量の中央値を境として、発現量が高い群(High、n=22)と発現量が低い群(Low、n=23)との2群に分け、生存曲線解析(OS解析)を行った。
【0072】
図7は、miR-3619-3pの発現に関する生存曲線解析の結果を示す説明図である。図7では、miR-3619-3pの発現量が高い群と低い群とについて、それぞれの群の生存率に関するカプランマイヤー曲線が示されている。図7では、発現量高値群を黒色の線で示し、発現量低値群を灰色の線で示している。図7において、縦軸は生存割合を示し、横軸は生存期間(日)を示し、HRはハザード比(hazard ratio)を示し、MSTは生存期間の中央値(Median survival time)を示し、P値(P value)はログランク検定値を示している。
【0073】
図7に示すように、miR-3619-3pの発現量が高い群の方が、miR-3619-3pの発現量が低い群よりも、生存率が低い、すなわち予後が良くないことが示された(HR=2.89、95%CI:1.25-6.86)。このため、miR-3619-3pの発現量が高い場合には、miR-3619-3pの発現量が低い場合と比較して、予後が悪い可能性があることが示された。したがって、胆汁に含まれるmiR-3619-3pは、胆道がんを検出するためのバイオマーカーに加えて、胆道がんの予後を予測するためのバイオマーカーとしても有効であることがわかった。このため、胆汁に含まれるmiR-3619-3pの発現量を指標とすることにより、胆道がんの予後を予測できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本開示によれば、胆汁のエクソソームに含まれるマイクロRNAをバイオマーカーとして利用することにより、胆道がんを検出でき、また、胆道がんの予後を予測することができる。このため、胆道がんに関する診断を補助することができるので、胆道がんの診断精度を向上させることができる。したがって、例えば、画像上において胆道狭窄が認められて胆道がんが疑われる対象者や、胆石、慢性胆嚢炎、原発性硬化性胆管炎、膵胆管合流異常症等、胆道がんのリスクがある対象者への胆道がんのスクリーニングに用いることができる。また、例えば、手術胆道がん患者や切除不能胆道がん患者、抗がん剤治療中の胆道がん患者等に対して、胆道がんの予後を予測するために用いることができる。また、胆管ステント交換時に胆汁を採取して解析することにより、例えば、抗がん剤治療等の効果判定マーカーとして用いることが期待される。
【0075】
この発明は、上記発明の実施の形態および実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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