(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180637
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】リング状サンプルの引張特性試験治具、リング状サンプルの引張特性試験法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/08 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
G01N3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094100
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高岩 玲生
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃司
(72)【発明者】
【氏名】細川 直史
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB03
2G061BA04
2G061CB04
2G061DA01
2G061DA16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】リング状サンプルに内圧をかけた際の引張特性を測定するための引張試験治具、および本治具を用いた試験法を提供する。
【解決手段】1対のコマ部材を側平面にて向かい合わせてなる略円柱形状の拡張部をその底面に形成された凸部および/または凹部[Afb]と台座のガイドまたはレールを嵌合させた状態で台座に乗せ、拡張部の側周面にリング状サンプルを嵌め、拡張部の側平面に形成された2つの切り欠き部位が向かい合わさって形成される先細りの溝[Am]に、先細りのロッドを、材料万能試験機等を用い、その先端を下向きにして下降させることで、ロッド先端をコマ部材の間に入り込ませ、押圧を付与することにより、ロッドの先細りした面が下降するにつれ拡張部のコマ部材の間を拡げ、ガイドまたはレールに沿って拡張させる方向に力を付与し、リング状サンプルに外向きの力をかけて、破断張力を測定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[A]~[C]の部材を有する、リング状サンプルの力学特性試験治具。
[A]:1対のコマ部材からなる拡張部
[B]:[A]を載置するための台座であって、[A]における部位[Afb]と嵌合する直線状のガイドまたはレールが設けられた台座
[C]:[A]における先細りの溝[Am]に挿入可能な先細りのロッドであって、先細りした面が、溝[Am]における先細りした面と、溝[Am]に挿入したときに面で当接する、ロッド
であって、
[A]の各コマ部材は、半円柱形状をベースとして、上面、底面、側周面および側平面を有し、
さらに、
[Ac]:コマ部材の上面から、側平面における高さ方向の1/4より低位置までにかけて、1対のコマ部材において略同一形状に形成された切り欠き
[Afb]:底面に形成された凸部および/または凹部
[Afs]:該側平面における高さ方向の1/3~2/3の範囲に、各コマ部材あたり計2つ以上形成された凹部および/または凸部であって、凹部は側平面よりコマ部材内部に、凸部は側平面から、いずれも側平面と垂直に延びて形成された、凹部および/または凸部
の部位が形成され、
該1対のコマ部材を互いの側平面にて向かい合わせると、部位[Afs]における一方のコマ部材の凹部は他方のコマ部材の凸部に嵌合し、2つの底面によって形成される円を底面とする略円柱が形成されるものであって、このとき、
両の切り欠き部位[Ac]は、該略円柱の上面から底面に向かうにつれ先細りとなる、略三角柱形状、略ゲーブルトップ形状、略多角錐形状、略多角錐台形状、略円錐形状または略円錐台形状の空間である先細りの溝[Am]を形成し、
該略円柱を、両の側平面が向かい合わさった面を[B]のガイドまたはレールと直交する向きとして[B]に載置した際、部位[Afb]は該ガイドまたはレールに嵌合し、その長手方向に沿って1対のコマ部材が離間する方向に摺動するもの。
【請求項2】
溝[Am]の先端の角度が120°未満である、請求項1に記載のリング状サンプルの力学特性試験治具。
【請求項3】
[A]について形成された前記略円柱の円径が5cm以下である、請求項1に記載のリング状サンプルの力学特性試験治具。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の治具を用いた、リング状サンプルの力学特性評価法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリング状サンプルに内圧をかけた際の引張特性を測定するための引張特性試験治具、および本治具を用いた試験法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維強化複合材料は、航空機構造部材、自動車構造部材をはじめとした輸送機器分野のみならず、圧力容器部材、建築資材といった一般産業分野へ適用が拡大しており、適用される部材の形状も一層多様なものとなってきている。一般産業分野にて、これらの材料は内圧がかかる部材に適用されることも多い。かかる繊維強化複合材料を始めとして、様々な部材において、内圧に対する材料の特性、即ち、リング状の材料に内圧をかけた際の引張特性が重要となる。
【0003】
このようなリング状サンプルに内圧をかけた際の引張特性評価手法としては、ASTM D2290に記載されているような、2分割された半円柱形状の治具を略円柱としたものの側周面に、リング状サンプルを嵌め込み、これら治具を挟持し、外向きに引張ることにより、円周方向に引張り力を与える方法が知られている。
【0004】
また、特許文献1には、液体によって内圧をかけることで円筒体の材料の円周方向の引張力を評価する方法が、特許文献2には、内圧子を別の圧子によって上下から押し広げることで、円筒管に内圧をかけ、円筒管の材料の円周方向の引張力を評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-214060号公報
【特許文献2】特開2016-173289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ASTM D2290に記載の方法では、上記治具に穴を開け、ピンを挿入して、そのピンを挟持して外側に引張る操作方法をとっており、評価対象のリング状サンプルが小径化した時に、治具の強度が不足するという課題があった。
【0007】
特許文献1に記載の試験方法は、円筒体に内圧をかけるために液体を用いており、試験が煩雑であるという課題があった。
【0008】
特許文献2に記載の試験方法は、円筒管に内圧をかけるために、内圧子を上下からの圧子で押し広げるが、上下からの圧力を均質に制御する術がなく、円筒管の高さ方向に均質に内圧をかけることができないという課題があった。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の欠点を改良し、リング状サンプルの引張特性を、簡易、且つ、正確に評価するための試験治具、ならびに本治具を用いた試験法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成からなる試験治具を見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の試験治具は、以下のとおりである。
1.下記[A]~[C]の部材を有する、リング状サンプルの力学特性試験治具。
【0011】
[A]:1対のコマ部材からなる拡張部
[B]:[A]を載置するための台座であって、[A]における部位[Afb]と嵌合する直線状のガイドまたはレールが設けられた台座
[C]:[A]における先細りの溝[Am]に挿入可能な先細りのロッドであって、先細りした面が、溝[Am]における先細りした面と、溝[Am]に挿入したときに面で当接する、ロッド
であって、
[A]の各コマ部材は、半円柱形状をベースとして、上面、底面、側周面および側平面を有し、
さらに、
[Ac]:コマ部材の上面から、側平面における高さ方向の1/4より低位置までにかけて、1対のコマ部材において略同一形状に形成された切り欠き
[Afb]:底面に形成された凸部および/または凹部
[Afs]:該側平面における高さ方向の1/3~2/3の範囲に、各コマ部材あたり計2つ以上形成された凹部および/または凸部であって、凹部は側平面よりコマ部材内部に、凸部は側平面から、いずれも側平面と垂直に延びて形成された、凹部および/または凸部
の部位が形成され、
該1対のコマ部材を互いの側平面にて向かい合わせると、部位[Afs]における一方のコマ部材の凹部は他方のコマ部材の凸部に嵌合し、2つの底面によって形成される円を底面とする略円柱が形成されるものであって、このとき、
両の切り欠き部位[Ac]は、該略円柱の上面から底面に向かうにつれ先細りとなる、略三角柱形状、略ゲーブルトップ形状、略多角錐形状、略多角錐台形状、略円錐形状または略円錐台形状の空間である先細りの溝[Am]を形成し、
該略円柱を、両の側平面が向かい合わさった面を[B]のガイドまたはレールと直交する向きとして[B]に載置した際、部位[Afb]は該ガイドまたはレールに嵌合し、その長手方向に沿って1対のコマ部材が離間する方向に摺動するもの。
2.溝[Am]の先端の角度が120°未満である、上記1に記載のリング状サンプルの力学特性試験治具。
3.[A]について形成された前記略円柱の円径が5cm以下である、上記1または2に記載のリング状サンプルの力学特性試験治具。
4.上記1~3のいずれかに記載の治具を用いた、リング状サンプルの力学特性評価法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リング形状サンプルの引張特性を簡易、且つ、正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の具体的な実施形態に係る拡張部A-1の図であって、1対のコマ部材により形成される略円柱を上面から見た断面図(左上)、コマ部材の側平面を正面から見た図(左下)、略円柱を、側面における、側平面が向かい合わさった面と垂直の方向より見た断面図(右)
【
図2】本発明の要件を満たさない実施形態に係る拡張部A-2の図であって、1対のコマ部材により形成される略円柱を上面から見た断面図(左上)、コマ部材の側平面を正面から見た図(左下)、略円柱を、側面における、側平面が向かい合わさった面と垂直の方向より見た断面図(右)
【
図3】本発明の要件を満たさない実施形態に係る拡張部A-3の図であって、1対のコマ部材により形成される略円柱を上面から見た断面図(左上)、コマ部材の側平面を正面から見た図(左下)、略円柱を、側面における、側平面が向かい合わさった面と垂直の方向より見た断面図(右)
【
図4】本発明の具体的な実施形態に係る台座B-1の図であって、台座を上面から見た図(左上)、台座を、コマ部材の摺動方向正面から見た断面図(左下)、台座を、コマ部材の摺動方向側面から見た断面図(右)
【
図5】本発明の具体的な実施形態に係るロッドC-1の図であって、ロッドを上面から見た図(左上)、ロッドを、溝に挿入する際の、コマ部材の側平面の正面に対応する向きから見た図(左下)、ロッドを、溝に挿入する際の、コマ部材の側平面が向かい合わさった面の垂直方向から見た図(右)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、上記した本発明の試験治具の構成要素および条件について説明する。
【0015】
本発明の治具は、上記した[A]~[C]の部材を有するものである。
【0016】
本発明の治具を用いたリング形状サンプルの引張特性評価は、概略すると、1対のコマ部材を側平面にて向かい合わせてなる略円柱形状の拡張部である[A]の部材を、[A]の底面に形成された凸部および/または凹部[Afb]と台座[B]のガイドまたはレールを嵌合させた状態で[B]に乗せ、[A]の側周面にリング状サンプルを嵌めて行う。
【0017】
より具体的には、1対のコマ部材を側平面にて向かい合わせることにより、[A]の側平面に形成された2つの切り欠き部位[Ac]が向かい合わさって形成される先細りの溝[Am]に、先細りのロッド[C]を、材料万能試験機等を用い、その先端を下向きにして下降させて挿入する。ロッド[C]の先細りした面を[Am]における先細りした面と当接させ、さらにロッド[C]を下降させることで、ロッド先端をコマ部材の間に入り込ませ、押圧を付与することにより、ロッド[C]の先細りした面が下降するにつれ[A]のコマ部材の間を拡げ、ガイドまたはレールに沿って拡張させる方向に力を付与し、リング状サンプルに外向きの力をかけて、破断張力を測定することができる。ここで、ロッド[C]を溝[Am]に挿入した際、先細りした面以外の部位は、溝[Am]と当接していてもよく、ロッドを安定する効果が得られる場合があるが、必ずしも当接している必要はない。
【0018】
なお、1対のコマ部材を側平面にて向かい合わせて略円柱形状の拡張部[A]を形成する際、コマ部材の側平面同士は必ずしも当接する必要はなく、略円柱形状が保たれる範囲で隙間が空いていても良い。ロッド[C]の先端形状にもよるが、上記の隙間があることで、ロッド[C]の先細りした面がコマ部材間の隙間に入り、コマ部材をよりスムーズにガイドまたはレールに沿って拡張させることができる場合がある。
【0019】
また、リング状サンプルの破断張力は、例えば、リング状サンプルが破断した際のロッドの圧縮力として、材料万能試験機から得ることができる。該圧縮力は、例えば、弾性率が既知の金属製の校正リングを用い、ロッド圧縮力と金属リングのひずみの相関から、リング状サンプルの破断張力に換算することができる。
【0020】
本発明において、切り欠き部位[Ac]は、コマ部材のそれぞれに形成されており、上面から、側平面の高さ方向の1/4より低位置までにかけて形成されるものであり、上面から側平面を通して底面にかけて形成されてもよい。好ましくは、上記高さ方向の1/3から2/3にかけて形成される。なお、側平面の高さには、底面の嵌合部位[Afb]の分の高さは含まれない。該切り欠きは1対のコマ部材において略同一形状に形成されており、コマ部材を互いの側平面にて向かい合わせ略円柱を形成した際には、切り欠き[Ac]同士が向い合わさることによって溝[Am]を形成し、該溝は、該略円柱の上面から底面に向かうにつれ先細りとなる形状の空間であり、略三角柱形状、略ゲーブルトップ形状、略多角錐形状、略多角錐台形状、略円錐形状または略円錐台形状から選ばれる空間である。
【0021】
上記のとおり、切り欠き部位[Ac]は、コマ部材を互いの側平面にて合わせて形成した略円柱にて、上面から上記した深さまで形成されるものであるが、切り欠き部が上記範囲に形成されることで、ロッド[C]による押圧を受けコマ部材が拡張する際に、コマ部材が傾き辛くなり、リング状サンプルにかかる内圧が均質になる。
【0022】
溝[Am]が略三角柱形状の空間である場合、溝の最も深い部分は略三角柱の側辺の一つで形成される必要があり、該側辺を含む2側面は、略円柱の側平面に形成された切り欠きにより形成され、溝[Am]における先細りする部分を形成する。また、上面および底面は、略円柱の側平面と垂直の位置関係となる。なお、該側辺は、コマ部材の側平面間に隙間がある場合は、面状に近い形状である。また、略三角柱の上面と底面はいずれも二等辺三角形である必要があり、その二等辺三角形の底辺を含む側面は、コマ部材の上面と同じ高さ位置に平行に形成されたものとなる。
【0023】
溝[Am]が略ゲーブルトップ形状の空間である場合、溝の最も深い部分は略ゲーブルトップの屋根部の頂辺で形成されている必要がある。該頂辺を含む2面は、略円柱の側平面に形成された切り欠きにより形成され、溝[Am]における先細りする部分を形成する。また、略円柱の側面における、側平面と垂直の方向より断面を見たとき、溝[Am]は先細りして見える。なお、該頂辺は、コマ部材の側平面間に隙間がある場合は、面状に近い形状である。また、略ゲーブルトップの底面はコマ部材の上面と同じ高さ位置に平行に形成されたものとなる。
【0024】
先細りの溝[Am]が略多角錐形状や略円錐形状といった略錐形状である場合、該略錐形状の溝の最も深い部分に略錐の頂点が配置される必要がある。さらに、該略錐の底面はコマ部材の上面と同じ高さ位置に平行に形成されたものとなる。
【0025】
溝[Am]が略多角錐台形状や略円錐台形状といった略錐台形状である場合、該略錐台の底面はコマ部材の上面と同じ高さ位置に平行に形成されたものとなる。
【0026】
溝[Am]は、先端の角度が120°未満であることが好ましい。より好ましくは30~100°の範囲である。先端の角度が上記範囲であることで、ロッド[C]による押圧を受けコマ部材が拡張する際の動きが滑らかとなり、リング形状サンプルを均質に拡張することができる。なお、ここでいう溝[Am]の先端の角度とは、該先細りの溝[Am]を、略円柱を形成する1対のコマ部材を側平面にて向い合わせた際、コマ部材の側平面と垂直方向から断面を観察した際の角度を指す。先端が曲面形状の場合は、先端角を形成する2辺を延長してその交点における角度とすればよい。
【0027】
本発明において、部材[A]は底面に嵌合部位[Afb]として凸部又は凹部を、部材[B]は直線状のガイドまたはレールを持ち、これらは、1対のコマ部材が略円柱を構成して、両の側平面が向かい合わさった面が[B]のガイドまたはレールと直交する向きとなるようにして[B]の台座に据えられる際に嵌合する。すなわち、両者が嵌合した際、[A]の側平面同士を向かい合わせた面がガイドまたはレールの長手方向と垂直に屹立する。さらに、部位[Afb]は、ガイドまたはレールの長手方向に沿って1対のコマ部材が離間する方向に摺動可能である。本嵌合によって、ロッド[C]による押圧を受け拡張する際に、コマ部材は、傾くことなくガイドまたはレールに沿って摺動し、リング状サンプルにかかる内圧が均質になる。なお、本発明とは別態様となるが、本嵌合をもたらす部材[A]の凸部又は凹部が部材[A]の底面に存在せず、任意の他の箇所に設定される態様もあり得て、例えば[A]のコマ部材の側平面と側周面の境界辺上に設置され、[A]の側方に設けられたガイドまたはレールと嵌合し、コマ部材が傾くことなくガイドまたはレールの方向に沿って摺動し、上記役割を果たす態様が考えられる。
【0028】
各コマ部材は、側平面嵌合部位[Afs]として、側平面における半円柱の高さ方向の1/3~2/3の範囲の位置に、側平面と垂直に延びる凹部または凸部を2つ以上有する。なお、上記側平面における半円柱の高さには、底面の嵌合部位[Afb]の分の高さは含まれない。1つのコマ部材に設けられた嵌合部位[Afs]の全てが凹部であっても、全てが凸部であっても、凹部と凸部の組み合わせでもよいが、1対のコマ部材を側平面にて向かい合わせ、略円柱を形成させた際、一方のコマ部材の凹部が、他方のコマ部材の凸部に嵌合することが必要である。つまりは、上記した側平面における高さ位置の範囲内で、1対のコマ部材における嵌合部位[Afs]の形成位置は高さ方向にも幅方向にも同一であり、一方のコマ部材において凸部であれば、高さ・幅方向上同一位置にある他方のコマ部材の嵌合部位[Afs]は凹部でなければならない。一方のコマ部材の側平面に、嵌合部位[Afs]として作用しない凹部があってもよいが、凸部が設けられる場合は、他方のコマ部材の同一位置には凹部があって、両のコマ部材を側平面にて向かい合わせた際、2つの底面によって形成される円を底面とする略円柱が形成される必要がある。
【0029】
側平面にて、嵌合部位[Afs]である凹部と凸部とが上記の通り嵌合することで、ロッド[C]による押圧を受けコマ部材が拡張する際に、コマ部材が傾き辛くなり、リング状サンプルにかかる内圧が均質になる。
【0030】
また、嵌合部位[Afs]は、凹部の場合は側平面よりコマ部材内部に設けられ、すなわち、コマ部材の外周面に到ることはない。凹部が外周面にまで延びていると、略円柱を上面から見たとき、凹部が形成された部分は円形状をなさず、リング状サンプルと当接しないこととなる。さらに、凸部は、その凹部に嵌合するよう設けられる必要があり、つまりはコマ部材を互いの側平面にて合わせて形成される略円柱において、凸部が側周面を形成することがあってはならない。また、したがって、凹部は側平面よりコマ部材の内部に設けられる必要があり、側周面に露出するものであってはならない。凹部が側周面に露出して、嵌合される凸部が側周面の一部を形成すると、コマ部材の拡張時に側周部に嵌め込んだリング形状サンプルに当接し、干渉することがある。
【0031】
嵌合部位[Afs]の形成位置について、側平面上において、
図1~3に示すように、コマ部材の中心線を挟む位置に対で存在していた場合、ロッド[C]による押圧を受けコマ部材が拡張する際に、コマ部材の安定度が増し、リング状サンプルにかかる内圧が均質になるため好ましい。1つのコマ部材に設けられる嵌合部位[Afs]の数は、2個でも十分機能を奏する場合が多いが、3個以上でもよく、4個でもよく、2個ずつの嵌合部位[Afs]が上記の通りコマ部材の中心線を挟む位置に対で存在するパターンも考えられる。余り数が多く、例えば10個を超えると、コマ部材の生産性に影響を及ぼす場合があり、また、破損などにより1対のコマ部材を向かい合わせた際、意図通りに略円柱を形成できなくなる可能性もあることから、必ずしも好ましいとは言えない。ただし、コマ部材自体が巨大なものである場合、この限りではないこともある。
【0032】
嵌合部位[Afb]における、該凹部および/または凸部の形状は特に限定されないが、円柱状、楕円柱状、角柱状などを好ましく使用できる。
【0033】
本発明の治具によって評価されるリング状サンプルの直径に制限はないが、本発明の治具は直径が5cm以下のリング状サンプルの評価に好ましく用いることができる。より好ましくは2cm以下であり、好ましい下限としては0.5cm以上のリング状サンプルに適切に用いられる。
【0034】
本発明の試験治具を構成する3つの部材は、試験時の負荷に耐えられれば特に材質は問わないが、取り扱い性と強度の観点からステンレス製とすることが好ましい。また、本発明の試験治具を構成する3つの部材の製造方法は特に限定されないが、鋳造や削り出しなどの方法で製造することができる。寸法精度の観点から、好ましくは削り出しである。
【0035】
本発明の試験治具を用いて破断強度を測定する対象であるリング状サンプルの材質は、特に限定されないが、繊維強化複合材料や、金属のリング状サンプルが好ましい評価対象として挙げられる。特に繊維強化複合材料のリング状サンプルを好ましく評価可能である。該繊維強化複合材料に用いられる繊維と樹脂は特に限定されないが、繊維としては炭素繊維を、樹脂としてはエポキシ樹脂を好ましく用いることができる。
【0036】
本発明の試験治具を用いたリング状サンプルの引張特性評価は、例えば材料万能試験機(インストロン・ジャパン(株)製、“インストロン”(登録商標)5565型P8564)を用いて、上記した手順で評価することができる。
【実施例0037】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
(使用した部材[A]拡張部)
・拡張部Aー1:
図1に示した寸法・形状で、削り出しによってステンレス製のコマ部材を作製した。
図1は、拡張部A-1に係るコマ部材を側平面部で向き合わせ、当接させて略円柱を形成したものの上面および側面からの断面図であり、上面・底面にて形成される円の直径は11mm、部位[Afb]を除いた略円柱の高さは10mmであった。図に示される通り、部位[Afb]は、略円柱の底面に、側平面の正面から見た際の横方向中央部に、直方体形状に形成された。また、各コマ部材の側平面には、部位[Afs]として、円柱状の凸部、凹部が1つずつ側平面と垂直に延びており、凹部・凸部の底面の中心は上記略円柱の高さ方向の1/2の位置(上面から垂直距離で5mmの位置)にあり、凹部はコマ部材の内部に形成されたものであり、略円柱の形成時に、一方のコマ部材の凹部が他方のコマ部材の凸部に嵌合する形状・位置に形成されたものであった。部位Acは、コマ部材の上面から側平面における上記略円柱の高さ方向の3/4まで形成され、略円柱の形成時にゲーブルトップ状の溝[Am]が形成される形状に形成された。溝[Am]の上面からその尾根部に到るまでの垂直距離は5mmであり、
図1の右図に示すように、略円柱の側面から、向かい合わされた側平面と垂直となる方向よりみたときの溝[Am]の先端の角度は90°であった。
・拡張部Aー2:
図2は、拡張部A-2に係るコマ部材を側平面部で向き合わせ略円柱を形成したものの上面および側面からの断面図である。部位Acは、コマ部材の上面から側平面における上記略円柱の高さ方向の1/4まで形成され、略円柱の形成時に三角柱状の溝[Am]が、その側面の1つが略円柱の上面に、残りの側面が下方に形成される形状として形成された。その他の寸法・形状・材料は拡張部A-1と同一としてステンレス製のコマ部材を作製した。
・拡張部Aー3:
図3は、拡張部A-3に係るコマ部材を側平面部で向き合わせ略円柱を形成したものの上面および側面からの断面図である。部位[Afs]は、その縦方向の中心が上記略円柱の高さ方向の1/2の位置(上面から垂直距離で5mmの位置)となる位置に設けられ、1つのコマ部材あたり凹部・凸部が1つずつ、側平面の側周面との境界付近から側平面と垂直に
図3に示す形状に延びており、凸部は側周面の形状に沿ってその一部を形成し、凹部はコマ部材の内部にはなく、側周面にて露出し他方のコマ部材における凸部と嵌合するものであった。その他の寸法・形状・材料は拡張部A-1と同一としてステンレス製のコマ部材を作製した。
(使用した部材[B]台座)
・台座B-1:
図4に示した寸法でステンレス製の台座B-1を作製した。
図4に示すとおり、台座の中央には幅3mmの矩形状のガイドが設けられており、略円柱を、その側平面が向かい合わさった面と直交する向きで台座に据えた時、ガイドと部位[Afb]とが嵌合するものであった。さらに、1対のコマ部材はガイドの幅と垂直の方向に摺動可能なものであった。
(使用した部材[C]ロッド)
・ロッドC-1:
図5は、ロッドC-1の上面および側面からの断面図である。ロッドC-1は、溝[Am]に挿入できるようにその断面の形状・大きさが設計されたものであり、
図5に示すように、先端が先細りしたゲーブルトップ形状を有し、溝[Am]に挿入した際、先細りした面が溝[Am]の先細りした面に当接するものであった。
(使用したリング状サンプル)
・サンプル1:厚み1.0mm、内径11mm、高さ8mmのステンレス製リング
(使用した装置)
・材料万能試験機(インストロン・ジャパン(株)製、“インストロン”(登録商標)5565型P8564)
(実施例1)
拡張部A-1に係る両のコマ部材を、側平面同士向かい合わせ、略円柱を形成し、その底面の凸部と台座B-1のガイドを嵌合させた状態で、向かい合わさった側平面がガイドの長手方向と直交する向きとなるように台座B-1に載せ、拡張部A-1の側周面にサンプル1を嵌めた。治具および評価するリングにグリスを塗布したうえで、拡張部A-1の上方から、ロッドC-1を、材料万能試験機“インストロン”(登録商標)を用い0.5mm/minの速度で下降させ、切り欠きにより形成された溝[Am]内に挿入し、ロッドC-1の先細りの面が溝[Am]の先細りの面に当接した後もなお下降させることでコマ部材をガイドの長手方向に拡張し、サンプル1に内圧をかけて引張試験を行った。
【0038】
試験中、コマ部材は倒れること無く、コマ部材の上面は台座のガイドの長手方向と平行に移動し、サンプル1は高さ方向に均質な内圧を受けたため、試験後にサンプル1の形状を目視で観察したところ、サンプル1は上部と下部で高さ方向の広がりが同一であり、サンプル1は均質に拡張されていた。
【0039】
(比較例1)
拡張部[A]を拡張部A-1から拡張部A-2に変更した以外は実施例1と同じ方法で引張試験を行った。拡張部A-2の切り欠きの上面からの深さは、側平面部の高さ方向における1/4の深さのため、試験中にコマ部材の傾きが生じ、サンプル1は高さ方向に不均質な内圧を受けたため、試験後にサンプル1の形状を目視で観察したところ、サンプル1は下部に対して上部の広がりが大きく、高さ方向の拡張は不均質なものとなった。
【0040】
(比較例2)
拡張部[A]を拡張部A-1から拡張部A-3に変更した以外は実施例1と同じ方法で引張試験を行った。拡張部A-3を構成するコマ部材の側平面に形成された凹部はコマ部材内になく、その凹部に嵌合する凸部は、略円柱を形成させると側周面を形成する一部となるため、試験中に該凸部がサンプル1に干渉し、試験後にサンプル1の形状を目視で観察したところ、サンプル1はコマ部材の側平面から延びる凹部と凸部の近傍に窪みを生じており、拡張は不均質なものとなった。
本発明の引張特性試験治具、および本治具を用いた試験法は、リング状サンプルの引張特性を、簡易、且つ、精度良く測定することが可能であり、一般産業分野における材料評価に好ましく用いることができる。