IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社大林組の特許一覧

<>
  • 特開-部材使用方法 図1
  • 特開-部材使用方法 図2
  • 特開-部材使用方法 図3
  • 特開-部材使用方法 図4
  • 特開-部材使用方法 図5
  • 特開-部材使用方法 図6
  • 特開-部材使用方法 図7
  • 特開-部材使用方法 図8
  • 特開-部材使用方法 図9
  • 特開-部材使用方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180658
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】部材使用方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
E04H9/02 311
E04H9/02 321E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094147
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 耕太
【テーマコード(参考)】
2E139
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB03
2E139AC19
2E139AC33
2E139AC72
2E139AD01
(57)【要約】
【課題】構造性能を迅速に回復させる方法を提供する。
【解決手段】構造物と、前記構造物に取り付けられて前記構造物に作用する荷重の少なくとも一部を負担可能な余力部材と、を備えた構造に対して実行される方法であって、前記構造物に設置された前記余力部材を、前記構造物との間で荷重伝達される稼動状態と、前記構造物との間で荷重伝達されない非稼動状態とのいずれかの状態とする変更工程、を有する部材使用方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物と、前記構造物に取り付けられて前記構造物に作用する荷重の少なくとも一部を負担可能な余力部材と、を備えた構造に対して実行される方法であって、
前記構造物に設置された前記余力部材を、前記構造物との間で荷重伝達される稼動状態と、前記構造物との間で荷重伝達されない非稼動状態とのいずれかの状態とする変更工程、を有する
部材使用方法。
【請求項2】
前記構造物の損傷を評価する評価工程をさらに有し、
前記変更工程において、前記評価工程での評価結果に応じて、前記余力部材を、前記稼動状態と前記非稼動状態とのいずれかの状態とする、
請求項1に記載の部材使用方法。
【請求項3】
前記評価工程において前記構造物の損傷が許容量を超える場合、前記変更工程において、前記変更工程において前記余力部材を前記稼動状態とし、
前記評価工程において前記構造物の損傷が前記許容量以下である場合に、前記余力部材を、前記変更工程において前記非稼動状態とする、
請求項2に記載の部材使用方法。
【請求項4】
前記余力部材は、複数個が前記構造物に設置され、
前記評価工程での評価結果に応じて、どの前記余力部材を前記稼動状態または前記非稼動状態とするかが決定される、
請求項2または3に記載の部材使用方法。
【請求項5】
前記余力部材は複数の部材に分割可能であり、
前記非稼動状態において、前記余力部材は分割されて前記構造物に接合され、
前記稼動状態において、前記余力部材は一体化されて前記構造物に接合される、
請求項1または2に記載の部材使用方法。
【請求項6】
前記構造物は前記余力部材を支持する支持部を備え、
前記支持部は、前記余力部材が前記非稼動状態となる位置と、前記余力部材が前記稼動状態となる位置との間で、前記余力部材を移動可能に支持する、
請求項1または2に記載の部材使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に設置された部材の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物が地震被害を受けた場合、余震や将来の地震に対する安全性を確保するために、補修・補強によって性能を回復・向上させることが一般的である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4066799号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】三浦耕太, 前田美里, 松川和人, 前田匡樹: 架構耐震性能に及ぼす各部位の影響度に基づいたRC造被災建物の残存耐震性能評価法の多層建物への拡張, コンクリート工学年次論文集, Vol.34, No.2,pp.847-852, 2012.7
【非特許文献2】三浦耕太, 前田匡樹: 損傷前後の層間変形分布不変仮定に基づいた建物耐震性能に及ぼす各部材の影響度評価法の提案とRC造梁曲げ降伏型全体崩壊形建物への適用性検討,日本建築学会構造系論文集, Vol.83, No.747, pp.727-737, 2018.5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の構造では、設計や工事の計画・実施に長期間を要するため、当該建物が長期間使用できなくなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一態様として、構造物と、前記構造物に取り付けられて前記構造物に作用する荷重の少なくとも一部を負担可能な余力部材と、を備えた構造に対して実行される方法であって、前記構造物に設置された前記余力部材を、前記構造物との間で荷重伝達される稼動状態と、前記構造物との間で荷重伝達されない非稼動状態とのいずれかの状態とする変更工程、を有する部材使用方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、構造性能を迅速に回復させる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】性能回復型構造を説明する図であり、(a)構造物に損傷が発生する前と、(b)損傷が発生した場合を示す。
図2】第1実施形態の性能回復型構造における(a)余力部材が非稼動状態にある場合の正面図、(b)余力部材が非稼動状態にある場合の正面図、(c)スプライスプレートを省略したIIc部拡大図、及び(d)スプライスプレートが有る状態でのIIc部拡大図である。
図3】第2実施形態の性能回復型構造における(a)余力部材が非稼動状態にある場合の正面図、及び(b)余力部材が稼動状態にある場合の正面図である。
図4】変形例の性能回復型構造における(a)余力部材が非稼動状態にある場合の正面図、(b)余力部材が稼動状態にある場合の正面図である。
図5】変形例の性能回復型構造における(a)余力部材が非稼動状態にある場合の正面図、(b)余力部材が稼動状態にある場合の正面図である。
図6】性能回復型構造における余力部材の状態変更の手順を示すフローチャートである。
図7】解析の手順を説明する図であり、(a)1回目の地震における解析モデル、(b)2回目の地震における解析モデル、及び(c)2回目の地震解析後の解析モデルの状態を示す。
図8】解析モデルに用いた、塑性率と耐震性能低減係数の関係を説明する図である。
図9】解析モデルの(a)1回目の地震における各層の最大応答層間変形角と(b)2回目の地震における各層の最大応答層間変形角を示すグラフである。
図10】解析モデルにおける最大応答層間変形角(全層の中の最大値)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
本発明の一実施形態に係る性能回復型構造1を、各図を用いて説明する。図1図2に示すように、性能回復型構造1は、構造物2と、構造物2に設置された余力部材3とを備える。
【0010】
構造物2はラーメン構造を備え、図1などに示すように、水平に延びる梁21及び垂直に延びる柱22を、矩形状に組んだ上で相互に剛接して構築される。梁21及び柱22の接合部の一部には、余力部材3を固定するためのガセットプレート23が固定される。ガセットプレート23は、梁21及び柱22による矩形骨組みの対角線上で対向するように配置される。
【0011】
ガセットプレート23は平板状の鋼製部材であり、複数のボルト孔23Aが形成される。複数のボルト孔23Aは、梁21及び柱22の形成する矩形状の骨組みの対角方向に整列するように形成される(図2)。また、図2(c)、(d)に示すように、ガセットプレート23には、ボルト孔23Aとは異なるボルト孔23Bが形成される。
【0012】
ボルト孔23Bは、ボルト孔23Aから離れた個所に形成される。具体的には、梁21の下部に固定されたガセットプレート23では、ボルト孔23Bは、ボルト孔23Aの下方に位置する。また、梁21の上部に固定されたガセットプレート23では、ボルト孔23Bは、ボルト孔23Aの上方に位置する。
【0013】
余力部材3は、図1及び図2に示すように、構造物2に対して設置される部材である。余力部材3は、2つの部材31、32、及び、複数のボルト孔が形成されたスプライスプレート33、34、35を備える。
【0014】
部材31、32は、それぞれほぼ同形状の部材であり、例えば、H型鋼や山型鋼などの型鋼で形成される。なお、本実施形態では、H型鋼が用いられている。
【0015】
部材31は端部311、312を有し、部材32は端部321、322を有する。部材31、32は、端部311と端部321とを接合させることで、一体化したブレースとして機能することができる。
【0016】
端部311、321のそれぞれには複数のボルト孔が形成される。端部311、321がスプライスプレート33を介して接合されることで、余力部材3は一体の部材となることができる。
【0017】
端部312、322のそれぞれには、複数個所にボルト孔が形成される。端部312、322は、それぞれ、スプライスプレート34、35を介して、ガセットプレート23に接合される。
【0018】
スプライスプレート33、34、35は、それぞれ、ボルト孔を複数備え、対象の部材に対してボルト接合される平板の鋼材である。スプライスプレート33は、端部311、321にボルト接合されて、端部311、321を接合する機能を有する。なお、図2では、少なくとも3枚のスプライスプレート33によって、端部311、321のフランジ及びウェブが接合されている。
【0019】
スプライスプレート34は、ガセットプレート23及び端部312にボルト接合されることにより、ガセットプレート23及び端部312を接合する機能を有する。また、スプライスプレート34は、ガセットプレート23及び端部322にボルト接合されることにより、ガセットプレート23及び端部322を接合する機能を有する。
【0020】
〔稼動状態と非稼動状態〕
余力部材3は、構造物2に対して、非稼動状態(図1(a)、図2(a))と稼動状態(図1(b)、図2(b))という2つの状態を取ることができる。非稼動状態は構造物2から余力部材3との間で荷重が伝達されない状態を指し、稼動状態は構造物2と余力部材3との間で荷重が伝達される状態を指す。
【0021】
非稼動状態では、図2(a)に示すように、スプライスプレート33が取り外された状態とされる。このため、部材31、32は、分離した状態で構造物2に設置される。非稼動状態において、端部312、322は、それぞれ、スプライスプレート34、35にボルト接合される。また、スプライスプレート34、35は、それぞれ、ボルト孔23Bとボルト孔23Aに1本ずつボルトを通すことによって、ガセットプレート23とボルト接合される(図2(d))。このようにして、部材31と部材32は、それぞれ上下方向に延びるように、構造物2に対して固定される。
【0022】
図1(a)(イ)に示すように、非稼動状態における余力部材3は、構造物2の変形に関わらず、部材荷重を作用させない。
【0023】
稼動状態における余力部材3は、図2(b)に示すように、スプライスプレート33を介して部材31、32が接合され、一体化される。さらに、スプライスプレート34、35は、端部312、322、及びガセットプレート23にボルト接合された状態とされる。
【0024】
また、稼動状態における余力部材3は、ガセットプレート23にスプライスプレート34、35を介して接合されている。詳細に述べると、端部312、322とスプライスプレート34、35のボルト孔にボルトが通されて締結され、さらに、ボルト孔23Aとスプライスプレート34、35のボルト孔にもボルトが通されて締結された状態とされる。このようにして、図2(b)に示すように、端部312、322は、構造物2に接合される。
【0025】
稼動状態では、構造物2に対して余力部材3が接合されているため、余力部材3には、図1(b)(イ)に示すように、構造物2の変形に応じて、部材荷重が作用する。また、これにより性能回復型構造1の性能が回復する。性能回復型構造1の性能回復の程度は状況によって異なるが、地震等の外力発生前の性能とほぼ同じとすることもできるし、外力発生前と発生後の中間程度まで回復させる場合もある。また、外力発生前よりも性能を向上させる場合もある。
【0026】
余力部材3は、構造物2に損傷が発生していない場合や構造物2の損傷があらかじめ設定された許容量以下の場合では、原則として非稼動状態とされる。一方、構造物2に発生した損傷が許容量を超える場合、余力部材3は稼動状態に変更される。
【0027】
<第2実施形態>
第1実施形態における余力部材3は、2本の部材に分離可能に構成されていたが、第2実施形態による余力部材13として以下に示すように、一本の部材として構成されてもよい。
【0028】
なお、以下の説明において、第1実施形態と同様の構成には、同じ参照番号及び名称を用いるとともに、説明を省略する。
【0029】
余力部材13は、図3に示すように1本の型鋼で形成され、構造物2にブレースとして設置可能である。
【0030】
余力部材13の端部131、132には、複数個所にボルト孔が形成される。端部131、132は、それぞれ、ガセットプレート23に対してスプライスプレート34、35を介して接合可能である。
【0031】
余力部材13は、余力部材3と同様、稼動状態と非稼動状態との2種の状態を取ることができる。
【0032】
非稼動状態において、端部131、132の一方は、ガセットプレート23に対してスプライスプレート34、35を介して接合されるが、他方はガセットプレート23に接合されない。なお、図3(a)では、端部132の接合が外された状況が示されている。非稼動状態では、1つの端部が接合されていないため、非稼動状態では構造物2と余力部材13との間での荷重伝達が不能である(図1(a))。
【0033】
稼動状態において、端部131、132は、ガセットプレート23に対してスプライスプレート34、35を介して接合される(図3(b))。そのため、構造物2と余力部材13との間で荷重伝達が可能となる(図1(b))。
【0034】
<変形例>
なお、余力部材3、13は、構造物2に対して、竣工後に設置することも可能である。
【0035】
この場合、図4及び図5に示すように、梁21及び柱22に矩形の鋼製フレーム4を固定することが一例として考えられる。具体的に述べるとフレーム4は、互いの端部が剛接されて矩形に組まれた、4本の型鋼によって形成される。
【0036】
フレーム4の2か所の隅角部には、1つの対角線上で対向するように、2つのガセットプレート23が固定される。ガセットプレート23の構成は、第1実施形態及び第2実施形態における構成と同様である。
【0037】
フレーム4の外周部は、梁21及び柱22に固定されている。そのため、フレーム4は、梁21及び柱22に追従して変形することができる。
【0038】
変形例においても、余力部材3、13は、第1、第2実施形態と同様、スプライスプレート33、34、35の着脱によって、稼動状態と非稼動状態との2種の状態をとることができる(図4図5)。稼動状態における余力部材3、13は、構造物2から荷重伝達を受けるブレースとして機能する。
【0039】
<評価手順>
地震等の外力によって構造物2に損傷が発生した場合、まず、建物に発生した損傷量を評価する工程を経て、その評価結果に応じて余力部材3の全てまたは一部が、非稼動状態から稼動状態へ変更される。図6のフローなどを用いて以下に説明する。
【0040】
外力が発生した場合(S1)、構造物2に対してどの程度の損傷が発生したか評価される(S2)。損傷が許容量以下である場合(S3:YES)、余力部材3、13は非稼動状態のままとされる(S7)。
【0041】
損傷が許容量を超える場合(S3:NO)、ステップS5において、余力部材3、13は非稼動状態から稼動状態に変更される。なお、構造物2において余力部材3、13が複数個設置される場合、損傷の場所や損傷の程度に応じて、適切な余力部材3、13が選定されて稼動状態にされる。したがって、余力部材3、13が1本だけ稼動状態とされる場合や、設置されたすべての余力部材3、13が稼動状態とされる場合がある。
【0042】
ここで、許容量とは、1つの部材において許容できる損傷量、または1つの層において許容できる損傷量を示すものであってもよい。また、構造物2全体における損傷の許容量を示すものであってもよい。また、構造物2における損傷箇所の数を示すものであってもよい。さらには、これらを複合して考慮し、許容量が設定されてもよい。このように、性能回復型構造1または構造物2の構造や性能等に応じて、許容量は適宜設定され得る。
【0043】
<解析>
性能回復型構造1の性能を評価することを目的とし、性能回復型構造1の挙動を解析した。解析方法及び結果を以下に説明する。
【0044】
〔解析条件〕
解析は、以下の(1)~(4)に示すように実行した。
【0045】
(1)建物モデルとして、以下の(a)~(c)に示す3種の建物モデル5F、5B、5Rを設定した。建物モデル5F、5B、5Rは、図7に示すように、いずれも5層3スパンのRC造ラーメン構造である。建物モデル5Fはブレースを備えない構造であり、建物モデル5Bは、建物モデル5Fの各層に鉄骨ブレース(図7において太線で示す)を設置したモデルである。一方、建物モデル5Rは、余力部材3、13に相当する鉄骨ブレースを備えたモデルである。1回目の地震時に建物モデル5Rで発生した損傷に応じて、これらの鉄骨ブレースは稼動状態とされる。
(a)RC造純ラーメン(建物モデル5F)
(b)RC造ラーメン+鉄骨ブレース(建物モデル5B)
(c)性能回復型構造モデル(RC造ラーメン+1回目の地震後に特定層の鉄骨ブレースを稼動;建物モデル5R)
【0046】
(2)1回目の地震を想定して、各々の建物モデル5F、5B、5Rに同一の地震波を入力し、地震応答解析を行った。なお、性能回復型構造の建物モデル5Rにおいて余力部材3は非稼動状態であるため、この解析における建物モデル5Rは、RC造純ラーメンの建物モデル5Fと同一挙動を示す。
【0047】
(3)地震応答解析結果から得られた各モデルに発生した損傷に基づき、以下の(i)~(ii)のように、建物モデル5F、5B、5Rそれぞれにおいて、構成する部材性能を低減させた。
(i)1回目の地震応答解析における各部材の最大塑性率と、予め定めた塑性率μ-耐震性能低減係数η関係から、各建物モデル5F、5B、5Rを構成する各部材の耐震性能低減係数ηを求めた。ここで、耐震性能低減係数ηは、新築時の耐震性能に対する被災後の耐震性能の比率を表した値であり、塑性率μ-耐震性能低減係数η関係は非特許文献1を参考に、図8(1)の様に定めた。
(ii)非特許文献4に基づいて、各部材の剛性と耐力をη倍することで、エネルギー吸収量をη倍に低減したモデルを被災建物モデル5F、5B、5Rとした(図8(2))。なお、非特許文献1、2はRC造建物を対象としたものであるが、本検討においては、鉄骨ブレースにも同様の評価方法を用いた。
【0048】
(4)各々の被災建物モデルに1回目の地震と同一の地震波を入力し、地震応答解析(2回目の地震を想定)を行った。建物モデル5Rでは、1回目の地震に対する解析結果において、応答(損傷)の大きかった層のブレースを稼動状態とした。
【0049】
入力地震波は、1回目の地震、2回目の地震ともに、建設省告示1457号に規定される第2種地盤の応答スペクトルに適合する人工地震波とし、位相はランダム位相とした。入力倍率は0.8倍とした。
【0050】
〔解析結果〕
上記解析結果のうち、1回目の地震における各層の最大応答層間変形角を図9(a)に示す。
【0051】
いずれの建物モデルにおいても、下層の応答が大きくなっている。また、建物モデル5F、5Rでは、建物モデル5Bに比べて全体的に応答が大きくなっている。
【0052】
本検討では、建物モデル5Rにおいて、1回目の地震後に、応答の最も小さかった5層を除いた1~4層のブレースを稼動状態とした(図7(b))。
【0053】
2回目の地震における各層の最大応答層間変形角を図9(b)に示し、建物内の最大応答層間変形角(全層の中の最大値)を図10に示す。
【0054】
建物モデル5F及び建物モデル5Bでは、下層の変形が大きく、2回目の地震では、1回目の地震よりも応答が増大している。一方、建物モデル5Rでは、各層の変形が均一になっている。そのため、2回目の地震に対する建物モデル5Rの最大応答層間変形角は、1回目とほぼ同程度であり、建物モデル5F、5Bよりも応答が小さくなっている。
【0055】
以上の結果から、性能回復型構造を備える建物モデル5Rでは、地震後に鉄骨ブレース(余力部材3、13に相当)の一部を稼動させることで、その後の地震に対する応答を抑制する効果があることが示された。
【0056】
<その他変形例>
本実施形態における構造物2の構造は、一例であり、ラーメン構造以外の構造、形状を備えていてもよい。
【0057】
なお、本発明における余力部材3、13の稼動状態への変更基準は、上記実施形態における方法(応答の最も小さい層以外の全層の余力部材を稼動させる)に限定されない。例えば、損傷が発生した場合には、応答の最も小さい層も含め、全層の余力部材3、13を稼動状態としてもよい。
【0058】
損傷の評価方法に関しても、上記実施形態に限定されない。たとえば、構造物2に加速度、速度等を計測するセンサを取り付け、予め設定された加速度または速度の閾値を超える地震波が確認された場合に構造物2に許容量を超える損傷が発生したものと評価し、余力部材3、13を稼動状態としてもよい。
【0059】
また、梁21、柱22にひずみゲージなどのセンサ類を取付け、計測されたひずみから構造物2の損傷を評価し、余力部材3、13の稼動状態及び非稼動状態の別が決定されてもよい。また、損傷の評価は、目視によって行われてもよい。
【0060】
余力部材3、13は、ブレースでなくともよい。例えば、頬杖や間柱など各種補強部材が余力部材として用いられてもよい。また、1種の余力部材だけでなく、複数種の余力部材が構造物2に設置されてもよい。また、粘性ダンパー、粘弾性ダンパー、摩擦ダンパーなど、制振性能を備えた部材を余力部材としてもよい。
【0061】
ボルト孔23Bは、余力部材13の接合に用いられてもよい。したがって、非稼動状態における余力部材13の端部131、132のいずれかが、ガセットプレート23に対して離隔された状態とされてもよい。
【0062】
上記各実施形態、変形例における余力部材3、13の配置は一例である。構造物2に対して、どの構面に設置するか、どの層に設置するか、または何カ所設置するか等の事項は、構造物2の構造や性能等に応じて適宜判断される。
【0063】
<効果>
上記実施形態、変形例においては以下の態様が示される。
【0064】
(態様1)上記実施形態の性能回復型構造1においては、構造物2に作用する荷重の少なくとも一部を負担可能な余力部材3、13が構造物2に設置されている。構造物2に設置された余力部材3、13を、構造物2との間で荷重伝達される稼動状態と、前記構造物との間で荷重伝達されない非稼動状態とのいずれかの状態とする変更工程(S5、S7)が実行される。
【0065】
上記の構成では、構造物2に発生した損傷の程度に応じて、余力部材3、13を稼動状態とし、速やかに構造物2に対する補強が実行できる。図1(b)(イ)に示すように、余力部材3、13が稼動状態になることにより、性能回復型構造1での荷重-変形性能が回復する。短期間に地震等の外力が連続して発生した場合でも、構造物2の損傷の増大が低減または防止される。また、ブレースを構造物2の竣工時から設置した場合と異なり、外力発生時におけるブレースの損傷が防止される。そのため、性能回復型構造1は、複数回の外力発生時においても高い性能を維持することができる。
【0066】
(態様2)態様1において、構造物2の損傷を評価する評価工程(S2)をさらに有し、変更工程(S5、S7)では、評価工程での評価結果に応じて、余力部材3、13を、構造物2との間で荷重伝達される稼動状態と、前記構造物との間で荷重伝達されない非稼動状態とのいずれかの状態とする。
【0067】
損傷状況に応じて余力部材3、13を稼働状態とすることで、その後の地震等の外力発生時における建物の応答を均一化し、建物全体の損傷を抑制することができる。
【0068】
(態様3)態様2について、評価工程において構造物2の損傷が許容量を超える場合、変更工程において、余力部材3、13を稼動状態とする。また、評価工程において構造物2の損傷が許容量以下である場合に、構造物2に設置された余力部材3、13を、変更工程において非稼動状態とする。
【0069】
上記構成では、構造物2に発生した損傷を許容量と比較して、余力部材3、13の稼動状態と非稼動状態を決定する。適切に、構造物2の損傷の増大が低減または防止される。
【0070】
(態様4)態様2または3について、余力部材3、13は、複数個が構造物2に設置され、評価工程での評価結果に応じて、どの余力部材3、13を稼動状態または非稼動状態とするかが決定される、
【0071】
上記構成では、複数の余力部材3、13に対して適切に稼動状態と非稼動状態との別を決定することができる。適切に、構造物2の損傷の増大が低減または防止される。
【0072】
(態様5)態様1から4のいずれかについて、余力部材3、13は複数の部材に分割可能であり、非稼動状態において、余力部材3、13は分割されて構造物2に接合される。また、稼動状態において、余力部材3、13は一体化されて構造物2に接合される。
【0073】
上記構成では、非稼動状態の余力部材3、13を、コンパクトに収納できる。そのため、構造物2の用途や居住性を妨げないように、余力部材3、13を設置することができる。
【0074】
(態様6)態様1から5のいずれかについて、構造物2は余力部材3、13を支持するガセットプレート23(支持部に相当)を備える。ガセットプレート23は、余力部材3、13が非稼動状態となる位置と、余力部材3、13が稼動状態となる位置との間で、余力部材3、13を移動可能に支持する。
【0075】
上記構成では、構造物2が余力部材3、13を移動可能に支持できるため、余力部材3、13を容易に移動させ、速やかに稼動状態とすることが可能となる。
【符号の説明】
【0076】
1 性能回復型構造
2 構造物
23 ガセットプレート
3、13 余力部材
4 フレーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10