(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180664
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】インクリメンタルシート成形用治具、インクリメンタルシート成形装置及びその成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/18 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
B21D22/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094157
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】麻 寧緒
(72)【発明者】
【氏名】呉 松
(72)【発明者】
【氏名】宮本 健二
(72)【発明者】
【氏名】三輪 紘敬
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA10
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA05
4E137DA13
4E137EA02
4E137EA16
4E137EA23
4E137FA03
4E137FA08
4E137GA02
4E137GA06
4E137GA16
(57)【要約】
【課題】シート材に成形する部品のエッジ部分に対して、加工精度を維持する。
【解決手段】インクリメンタルシート成形装置1は、複数の柱状体を配列して構成される治具30と、円柱形状をなす工具22の押し込みによって塑性加工されるシート材40の裏面側であって、治具30をシート材40の加工形状の周縁に当接し、かつ周縁に治具30の柱状体の配列方向を合わせて位置決めする支持部(241,242)とを備えてなるものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の柱状体を配列して構成される治具と、
工具の押し込みにより塑性加工されるシート材の裏面側であって前記治具を前記シート材の加工形状の周縁に当接し、かつ前記周縁に前記柱状体の配列方向を合わせて位置決めする支持部とを備えたインクリメンタルシート成形装置。
【請求項2】
前記柱状体は同一形状である請求項1に記載のインクリメンタルシート成形装置。
【請求項3】
前記支持部は、前記治具を前記工具の押し込み方向に対して直交する方向に出退させるガイドを有する請求項1に記載のインクリメンタルシート成形装置。
【請求項4】
前記ガイドは、前記工具の押し込み方向に直交する面上で、かつ互いに直交する4方向に向けて配置された請求項3に記載のインクリメンタルシート成形装置。
【請求項5】
前記柱状体は、前記シート材の加工形状の周縁と当接する面に凸凹形状を有する請求項1に記載のインクリメンタルシート成形装置。
【請求項6】
前記支持部は、配列された前記複数の柱状体の任意の間に介設されるスペーサを備えた請求項1に記載のインクリメンタルシート成形装置。
【請求項7】
工具の押し込みにより塑性加工されるシート材の裏面側であって、複数の柱状体が配列された治具を支持部によって前記シート材の加工形状の周縁に当接させ、かつ前記周縁に前記柱状体の配列方向を合わせて位置決めするステップと、
前記位置決め状態で、前記工具を前記シート材に押し当てて塑性加工を行わせるステップとを備えたインクリメンタルシート成形方法。
【請求項8】
前記位置決めするステップは、前記シート材の加工形状の周縁の適所であって、少なくとも一方の面に予め凹部が成形された前記シート材に対して行う請求項7に記載のインクリメンタルシート成形方法。
【請求項9】
複数枚の柱状体を有し、工具の押し込みにより塑性加工されるシート材の裏面側に当接し、かつ加工形状の周縁に沿って前記柱状体を厚み方向に積層して配置するインクリメンタルシート成形用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクリメンタルシートフォーミングのための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、棒状の成形工具を旋回させながら、塑性加工対象である薄板シート材に対して例えば等高線を描くように相対移動させつつ押し当てて目標形状に成形する型レスインクリメントシートフォーミング(Incremental Sheet Forming:ISF)が知られている。ISFは、従来のプレス加工法と比較して金型が不要であるため、金型の開発期間の短縮化と製作費用の節約が図れるという利点がある。
【0003】
特許文献1には、シート材の周囲複数個所を油圧シリンダを介してブランクホルダでクランプし、工具の移動に連動してクランプ力の強弱を個別に調整可能にしたISF装置が記載されている。このISF装置によれば、工具の移動に連動して各クランプ力を個別に制御するため、必要な位置に必要な流入とテンションを与えることができ、その結果、亀裂(割れ)やしわの発生が抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シート材の塑性加工では、中央の加工形状域と加工形状域の周縁との間のエッジ部分についても積極的に成形することが望まれる。しかしながら、特許文献1の装置では、部品形状に倣らした支持台をシート材の下部に配置して、部品形状を高い精度で成形するようにしているものの、エッジ部分に対する対策は施されていない。従って、エッジ部分の加工が不十分であり、また成形部品にねじれが生じ易く、その結果、十分な加工精度が得られないという課題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、加工対象であるシート材の加工形状の周縁の裏面に合わせて治具を当接することで、エッジ部分を加工精度を維持しつつ成形するインクリメンタルシート成形装置、その方法及びインクリメンタルシート成形用治具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクリメンタルシート成形装置は、複数の柱状体を配列して構成される治具と、工具の押し込みにより塑性加工されるシート材の裏面側であって前記治具を前記シート材の加工形状の周縁に当接し、かつ前記周縁に前記柱状体の配列方向を合わせて位置決めする支持部とを備えたものである。
【0008】
また、本発明に係るインクリメンタルシート成形方法は、工具の押し込みにより塑性加工されるシート材の裏面側であって、複数の柱状体が配列された治具を支持部によって前記シート材の加工形状の周縁に当接させ、かつ前記周縁に前記柱状体の配列方向を合わせて位置決めするステップと、前記位置決め状態で、前記工具を前記シート材に押し当てて塑性加工を行わせるステップとを備えたものである。
【0009】
これらの発明によれば、支持部によって、治具をシート材の加工形状の周縁に当接し、かつ加工形状の周縁に複数の柱状体の配列方向を合わせて位置決めしたので、部品エッジの加工を促進し、シート材の剛性が増すと共に、寸法精度が向上する。また、複数枚の柱状体を用いて治具の全体形状を適宜に設定できることから、部品形状に対するテンプレートとして適用でき、型レス成形の特質が活かされる。さらに、加工形状の周縁に対する柱状体の差し込み位置が調整可能となることから、加工時のシート材の流入、引け等の流動状況に応じた対応ができ、割れの発生が抑止され、成形精度の向上が図れる。
【0010】
また、本発明に係るインクリメンタルシート成形方法において、前記位置決めするステップは、前記シート材の加工形状の周縁の適所であって、少なくとも一方の面に予め凹部が成形された前記シート材に対して行うものである。この構成によれば、加工時のシート材の流入、引け等の流動状況に応じた対応ができ、割れの発生が抑止され、成形精度の向上が図れる。
【0011】
また、前記柱状体を同一形状とすることが好ましく、これによれば、配列順などを考慮する必要がなく、操作及び管理が容易となる。
【0012】
また、前記支持部は、前記治具を前記工具の押し込み方向に対して直交する方向に出退させるガイドを有するものである。この構成によれば、治具の差し込み方向の先端部を部品形状の周縁に位置決めする操作が容易となる。
【0013】
また、前記ガイドは、前記工具の押し込み方向に直交する面上で、かつ互いに直交する4方向に向けて配置されたものである。この構成によれば、シート材の平面の4方向のそれぞれに対して治具の配置が可能となり、周囲全体に対する部品エッジの加工を促進し、シート材の高剛性化、寸法精度の向上が図れる。
【0014】
また、前記柱状体は、前記シート材の加工形状の周縁と当接する面に凸凹形状を有するものである。この構成によれば、加工形状の周縁と当接する面に凸凹形状を採用することでエッジの加工を単なる直線から波(なみ)形及び折れ線形等にすることができ、その結果、成形時に発生するねじれが効果的に抑制される。
【0015】
また、前記支持部は、配列された前記複数の柱状体の任意の間に介設されるスペーサを備えたものである。この構成によれば、複数の柱状体を用いる特徴が生かされ、種々のテンプレートとしての汎用性が高まる。
【0016】
また、本発明に係るインクリメンタルシート成形用治具は、複数枚の柱状体を有し、工具の押し込みにより塑性加工されるシート材の裏面側に当接し、かつ加工形状の周縁に沿って前記柱状体を厚み方向に積層して配置するものである。本発明によれば、複数枚の柱状体から治具が構成されるため、構成簡易かつ操作容易な治具が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シート材に成形する部品のエッジ部分に対して加工精度を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係るインクリメンタルシート成形装置の一例を示す全体の構成図である。
【
図2】本発明に係るインクリメンタルシート成形装置の機構部の一例を示す図で、(A)は平面視図、(B)は(A)のA―A’側面断面図、(C)は(A)のB―B’側面断面図である。
【
図3】工具による塑性加工の手順を説明すると共に、主にシート材のエッジ部分の支持状態を示す側面断面図である。
【
図4】試験に採用された比較例となる従来型のシート材支持機構(C-Backing-Plate)の概略斜視図である。
【
図5】試験の結果を示す図表で、(A)、(B)は比較例の結果を示し、(D)、(E)は実施例の結果を示し、(C)、(F)は比較例及び実施例の加工方向(X、Y)に沿った断面プロファイルを示す。
【
図6】他の実施形態を示す図で、(A)は成形部品の周縁が直線でない場合の治具の配列状態を示す平面図、(B)は、下側の図が、成形部品の周縁の裏面と当接する各板状体の上端面形状を平面に代えて凸凹状に、例えば半球形状あるいは半円柱状に形成された形態を示し、上側の図が、作図上天地反転して示しているが、加工後のシート材の成形部品と周縁との境目(Upper edge)が波形に成形されている状態を示している。
【
図7】さらに他の実施形態を示す図で、(A)は治具を上下方向に出退させる構成を示す概略側面図、(B)は水平面における治具の各柱状体の配列状態の一例を示す平面図である。
【
図8】シート材の面の一部に凹部が成形された変形例を示す図で、(A)は治具の隙間部位に対応するように、窪みや溝を含む凹部が成形された概略図、(B)は同様箇所に長孔が成形された概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明に係るインクリメンタルシート成形装置1の一例を示す全体の構成図である。
図2は、インクリメンタルシート成形装置1の機構部の一例を示す図で、(A)は平面視図、(B)は(A)のA―A’側面断面図、(C)は(A)のB―B’側面断面図である。
【0020】
インクリメンタルシート成形装置1は、
図1に示すように、制御部10によって制御される加工部20を備えて構成されている。制御部10は、加工部20による加工動作の制御を行うプロセッサを備えた加工制御部11と、必要なデータ類を記憶する記憶部12とを備える。なお、制御部10には、必要に応じてタッチキーやタッチパネル等を備えた入力操作部、操作内容や動作情報を表示する表示部を備えてもよい。
【0021】
記憶部12は、制御プログラムを記憶する制御プログラム記憶部121と、加工対象のシート材40の属性、成形部品形状等の加工条件等を記憶する加工情報記憶部122とを備える。制御プログラムは、塑性成形加工を行う工具(ツール)22の回転制御及び3軸方向への移動制御を実行する。加工制御部11のプロセッサは、記憶部12から制御プログラムを読み出して実行させることで、後述するように工具22を駆動する制御情報を生成し、駆動部221に出力する。
【0022】
次に、加工部20について説明する。加工部20は、治具30及びシート材40を支持する機構と、シート材40に加工を施す機構とを備える。
【0023】
支持のための機構は、筐体21と、筐体21の内部に設置された基台23と、基台23上に配置され、治具30及びシート材40を上下方向で挟持する支持部として機能する、いずれも金属製の下側テンプレート241、ブランクホルダ242及び押えプレート243とを備えると共に、これらを締結して治具30及びシート材40の位置決めを行う締結具25とを備える。また、支持のための機構は、
図2(C)に示すように、治具30を左右両端で挟む挟持部材261と、挟持部材261を介して治具30を押えプレート243に取り付ける締結具26とを備える。なお、下側テンプレート241、ブランクホルダ242、押えプレート243、及び基台23の頂部フレーム231は、本実施形態では水平面上で正方形の環状フレームからなる枠体として形成することで、後述するようにシート材40のZ軸方向に成形される部品と干渉しないようにされている。
【0024】
加工を施す機構は、工具22と、工具22を左右(X)、前後(Y)方向に移動させる各軸のスライダが組み付けられ、かつ上下(Z)方向(工具22の押し込み方向)には公知の昇降機構を有する移動機構部220と、移動機構部220の駆動源である、例えば各モータに駆動力を伝達するための駆動部221とを備える。
【0025】
筐体21は、必要に応じて設けられるもので、主に加工部20の主要部を内装する。基台23は、例えば、直方体形状を有し、各辺をフレームで組み立てて構成され、頂部に頂部フレーム231を有する。
【0026】
次に、治具30について説明する。治具30は、
図1において左右方向Xでは治具31,32が配置され、前後方向Yでは、
図2(A)のように治具33,34が配置される。以降、単に治具というときは、治具30と表記し、配置位置を限定して指摘するときは、治具31、・・34と表記する。治具30は、本実施形態では同一形状を有する複数枚の柱状体、本実施形態では板状体で構成され、複数の板状体を積層して使用することでエッジ用の治具として機能させる。より詳細には、治具30は、硬質な材料で製造されており、一辺が長尺の直方体形状を有する。治具30の寸法は、例えば長尺寸法が数cm~数十cm、高さ寸法が数cm、厚さ寸法が数mm~数cmが使用可能であり、シート材40のサイズ及び要求精度に応じて好ましい寸法サイズを使い分け、更に用途に応じて前記サイズを超えて使用することが可能である。治具30は、下側テンプレート241とブランクホルダ242との間に差し込まれて使用される。より詳細には、治具30は、長尺寸法方向を下側テンプレート241及びブランクホルダ242のフレームに直交する外側から水平に向けて差し込まれる。
【0027】
締結具25は、
図2に示すように平面視で四隅に設けられ、かつ
図2(B),(C)に示すように、頂部フレーム231から押えプレート243までを貫通する締結用の孔251にボルトを螺着することで頂部フレーム231と押えプレート243との間を締結する。
【0028】
また、
図1では省略されているが、
図2(C)に示すように、治具32を構成する複数枚の板状体は、厚さ方向(
図2(C)の左右方向)に積層された状態で、厚さ方向の両端で挟持部材261によって挟持される。挟持部材261は、所要の厚さ(
図2(C)の紙面奥行き方向)の挟持面を有しており、両方の挟持面が対向し、かつ押えプレート243の上面の対応する長孔2431を介してそれぞれ締結具26で、例えばボルトで螺着することで挟持された状態で位置固定される。
【0029】
図3は、工具による塑性加工の手順を説明すると共に、主にシート材40のエッジ部分の支持状態を示す側面断面図である。
図3には、治具30の差し込み寸法が示されている。
図3では、治具30は、差し込み方向の先端がシート材40の加工形状と周縁40cとの境界である部品エッジ(Upper edge)に対応する位置まで差し込まれている。差し込み寸法は、部品エッジの位置に達してもよいし、加工中の周縁40cの流入分を考慮して境界位置から適宜の寸法λだけ手前となる位置に設定されてもよい。治具30の差し込み操作はマニュアルでもよいし、例えば油圧シリンダ等の機構を適用して自動又は半自動式としてもよい。治具30が差し込まれた状態で、締結具26及び締結具25に対する操作が行われる。
【0030】
これによれば、以下の効果が期待される。すなわち、治具30をシート材40の部品エッジに対応して配置できるので、部品エッジ部の加工を促進し、その結果、高剛性化、寸法精度を向上させ得る。また、治具30の差し込み寸法を部品エッジの形状に合わせて対応できるので、いわゆるテンプレートとして適用でき、型レス成形の特質を活かすことが可能となる。さらに、加工時のシート材40の動きを予見することで、差し込み寸法を調整して対応すれば、割れを防止でき、成形性を向上させることが可能となる。
【0031】
図1に戻って、工具22は移動機構部220によりXYZ方向に移動可能に支持されている。工具22は、Z軸方向に延びる円柱形状を有し、図略のモータによって軸中心に回転可能に取り付けられている。工具22は、非回転型でもよいが、本実施形態では加工動作中にツール回転駆動部223からの回転信号を受けて所定の回転速度で回転する。
【0032】
一方、ツール位置制御部111は、成形する部品形状に合わせて、工具22を所定のパスに沿って、例えば順次等高線に沿って(Tool path:
図3参照)、所定の速度で移動させ、周回する毎に、順次、所定寸法(Step size:
図3参照)ずつZ軸方向に押し込む位置情報に切り替える。位置情報は、加工情報に基づいてツール位置制御部111で算出される。算出された位置情報は、XYZ軸駆動部222で各軸の駆動信号に変換されて移動機構部220に出力されることで、工具22の移動が制御される。
【0033】
以上の構成において、以下、治具を採用した実施例と、治具を採用しない比較例とで加工結果に有意な差があるか否かについて行った試験を説明する。実施例は、
図1、
図2に示すシート材支持構造を採用した。比較例は、
図4の概略斜視図に示す従来型のシート材支持機構(C-Backing-Plate)を採用した。
図5は、試験の結果を示す図表で、(A)、(B)は比較例の結果を示し、(D)、(E)は実施例の結果を示し、(C)、(F)は比較例及び実施例の加工方向(X、Y)に沿った断面プロファイルを示す。試験は、実施例と比較例とでZ方向に対する加工精度について有意な差の有無を検証することを目的とした。
【0034】
図4に示す比較例としてのシート材支持機構は、
図1の基台23と同一サイズの基台23’と、基台23’の頂部バッキングプレート(Bucking plate)241’と、頂部バッキングプレート241’上に積層される枠体のブランクホルダ242’とを備える。頂部バッキングプレート241’とブランクホルダ242’とはフレームの対応する複数位置にボルト孔25’が形成されている。頂部バッキングプレート241’とブランクホルダ242’との間にシート材40を挟んで、ボルトで締結することで、加工準備ができる。シート材40の締結された基台23’を、
図1の筐体21内に配置して、実施例と同一条件で加工処理を行った。
【0035】
比較例及び実施例は、同一形状の成形部品であって、クランプされたL字型の塑性加工とした。両シート材はアルミニウム製で、そのサイズは240mm×240mm、厚さ0.5mmとした。また、加工条件としては、工具は直径10mmの円柱形状で、先端が半球状に形成されている。工具の送り速度は1000mm/分、工具の回転数は0.0rpmとした。また、実施例において、形状部品の周縁に対向させる治具のUpper edgeに対する寸法λは0.0mmとし、一方、比較例は4.0mmとした。
【0036】
比較例及び実施例での加工試験が終了した後、加工された両シート材の加工状態を計測した(KeyenceVR-5000、キーエンス製)。
図5に加工結果を示す。
図5において、(A)、(D)はZ変位の分布を示し、(B)、(E)はZ変位の形状誤差を示す。また、
図5の(C)、(F)はセクションD1―F1およびセクションD2―F2に沿った断面プロファイルを示す。A-Aに沿ったセクションD1―F1はX軸方向を示し、B―Bに沿ったセクションD2―F2はY軸方向を示す。
【0037】
図5の(A)、(D)に示すように、中央のL字型の文字領域は、ゲージを参照すれば、-12.30mm~-14.77mmの押し込み寸法であり、周縁の寸法である-0.03mm~-2.43mmも含めて差が見られなかった。一方、文字領域の外周に沿ったZ方向への傾斜領域の幅は、(A)の方がやや広く、(D)に比して傾斜は緩慢であった。さらに、(A)の比較例では、文字領域の周囲のうち、特にL字に屈曲した内側の領域(A―Aで示す線分とB―Bで示す線分の交点を含む領域)については、(D)に比して、傾斜は、-2.43mm~-12.30mmの範囲でなだらかに変化しており、緩慢であった。
【0038】
次に、
図5の(B)、(E)に示すように、(B)の方のゲージのスケールが1桁程度大きく、さらに(B)の比較例では、特にL字の内側に屈曲した領域(A―Aで示す線分とB―Bで示す線分の交点を含む領域)については、10.00mmのZ変位の形状誤差があり、(E)の0.5mmに比べると、大きな成形誤差と認められ、加工精度がかなり低いことが分かった。
【0039】
図5の(C)、(F)において、実線は目標形状(target)を示し、(1)は比較例で成形された形状を示し、(2)は実施例で成形された形状を示している。(C)、(F)のいずれに対しても、比較例の形状(1)では周縁の傾斜が緩慢であり、特にL字の内側に屈曲した領域(A―Aで示す線分とB―Bで示す線分の交点を含む領域)側となる周縁の傾斜が、実施例の形状(2)と比較して、大きく緩慢であった。このように、実施例では、主に部品エッジ部分のZ方向に対する加工精度が、比較例に対して高いことが分かった。
【0040】
以下、他の実施形態について、
図6~
図8を用いて説明する。
【0041】
図6(A)は、部品形状のUpper edgeが直線状でない場合に、Upper edgeの形状に沿って治具30を構成する各板状体の差し込み寸法を調整して配列した状態を示す平面図である。治具30を所要の厚みの板状体の集合で構成することで、Upper edgeが直線状以外の形状に対しても適用可能となり、テンプレートとしての汎用性が高い。
【0042】
図6(B)は、下側の図が、治具30の差し込み方向から見た側面図で、上側の図が、天地反転させたシート材40の斜視図である。下側の図は、成形部品の周縁と当接する治具30の各板状体の上端面30tの形状が平面に代えて凸凹状、例えば半球形状あるいは半円柱状に形成された場合を示している。上側の図は、加工後のシート材40の成形部品と周縁との境目(Upper edge)が、前記各板状体の上端面30tに対応する波(なみ)形に成形されている場合を示している。Upper edgeを単なる直線から波(なみ)形あるいは折れ線形等にすることで、成形時に発生するねじれをさらに効果的に抑制することができる。
【0043】
図7は、さらに他の実施形態を示す図で、(A)は治具30Aを上下方向に出退(昇降)可能な構成とした概略側面図、(B)は水平面における治具の各柱状体301Aの配列状態の一例を示す平面図である。なお、治具30Aは板状体でもよいが、ここでは柱状体の形状を採用している。また、
図7(A)において、治具30Aはマニュアルで昇降させて位置固定する構成でもよいが、ここでは自動又は半自動の機構を採用してもよい。例えば油圧シリンダ30Bは治具30Aの各柱状体301Aに昇降ロッドが設けられ、油圧コントローラからの駆動信号を受けて柱状体301A毎の昇降を行う態様でもよい。
図7(B)は、治具30Aを環状の長方形のように四方に配置した構成とし、かつそれぞれを複数列分(
図7(B)では3列)配置し、Upper edgeのサイズに合わせてシート材40に当接(上昇)させる列及び柱状体301Aを制御することができる。なお、
図7(B)において、治具30A中の各マス目が1個の柱状体301Aである。また、柱状体301Aの配列を1列とし、Upper edgeの位置、サイズに合わせて水平方向に移動可能な構造又は移動機構を採用してもよい。
【0044】
図8は、シート材の面の一部に凹部が成形された変形例を示す図である。ただし、
図8は、シート材40A,40Bの凹部401,402と治具30の隙間との位置関係を分かり易く示すだけのものであり、必ずしもすべてが正確ではない。隙間は、加工中の材料の流入を確保したり、部品エッジの形状に応じて設けられる。
図8(A)は、治具30の隙間部位に対応するように、Upper edgeに沿った方向に長尺となる窪み、溝を含む凹部401が成形されたものである。なお、凹部401はシート材40Aのおもて面及び裏面の少なくとも一方に成形されてよい。また、スペーサ30sは、治具30の隙間を確保するものである。
図8(B)は、同様箇所に長孔などからなる凹部402が成形されたものである。隙間部分を利用して凹部401,402を使用前に予め設けることで、加工中におけるシート材の流入を助長し、ねじれを防止して、成形精度が維持される。
【0045】
このように、
図8では、加工中のシート材40A,40Bの流入や変形などを調整するための凹部401,402を例えばシート材40A,40Bの板面の周囲に沿って複数個を配列形成したが、加工中のシート材40の流入や変形等を制御する方向で調整するための構成を適宜採用することもできる。例えば、シート材40の板面の周囲に沿って、周囲方向に長尺となる凸部を複数個形成してもよい。凸部はシート材40の表裏面の少なくとも一方面に形成してもよい。
【0046】
なお、前記実施形態では、支持部として、下側テンプレート241、ブランクホルダ242及び押えプレート243を採用した例で示したが、下側テンプレート241とブランクホルダ242とで支持されるものでもよい。また、治具30を4方向のすべてに構成した例で説明したが、用途に応じて1か所、対向する2箇所などでもよく、また四角形に限定されない。また、治具30,30Aを構成する板状体は、先端形状が半球、楕円球、先端フラット(周縁に角Rを持つ)など成形加工を可能にする柱状工具であれば、特に形状は限定されない。さらに工具22のシート材40への押し込み動作は相対的な押し込み動作を含めてもよい。また、部品の形状によっては成形角度が発生する場合があることから、治具30を工具22の押し込み方向に対して略直交する方向も含めて直交する方向として差し込ませるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 インクリメンタルシート成形装置
20 加工部
22 工具
241 下側テンプレート(支持部、ガイド、第1、第2の枠体の一方)
242 ブランクホルダ(支持部、ガイド、第1、第2の枠体の他方)
243 押えプレート(支持部)
25 締結具
26 締結具
30,30A,31,32,33,34 治具
30t 凸凹状の上端面
40,40A,40B シート材
401,402 凹部