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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180700
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】有機化合物及び有機発光素子
(51)【国際特許分類】
   C07D 493/04 20060101AFI20231214BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231214BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20231214BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20231214BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20231214BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C07D493/04 106C
C07D493/04 CSP
H05B33/14 B
H05B33/12 C
H05B33/02
H01L27/32
C09K11/06 660
C09K11/06 690
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094225
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】堀内 貴行
(72)【発明者】
【氏名】大類 博揮
(72)【発明者】
【氏名】岩脇 洋伸
(72)【発明者】
【氏名】西出 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】宮下 広和
(72)【発明者】
【氏名】山田 直樹
【テーマコード(参考)】
3K107
4C071
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107BB04
3K107BB08
3K107CC04
3K107CC09
3K107CC22
3K107DD51
3K107DD53
3K107DD59
3K107DD64
3K107DD67
3K107DD68
3K107EE03
3K107EE28
3K107EE63
3K107EE68
4C071AA01
4C071AA08
4C071BB01
4C071CC12
4C071EE07
4C071FF17
4C071GG01
4C071HH01
4C071HH04
4C071JJ01
4C071LL05
(57)【要約】
【課題】発光効率及び耐久特性が優れる有機化合物を提供する。
【解決手段】一般式[1]で表される有機化合物。
1乃至R10は、水素原子、重水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基からそれぞれ独立に選ばれる。ただし、R2、R3、R8、R9のうちの少なくとも一つは、重水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で表されることを特徴とする有機化合物。
【化1】
一般式[1]において、R1乃至R10は、水素原子、重水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基からそれぞれ独立に選ばれる。ただし、R2、R3、R8、R9のうちの少なくとも一つは、重水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれる。
【請求項2】
前記R2、R3、R8、R9のうちの少なくとも一つは、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の有機化合物。
【請求項3】
前記R2、R3、R8、R9のうちの少なくとも一つは、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれることを特徴とする請求項2に記載の有機化合物。
【請求項4】
前記R2、R3、R8、R9のうちの少なくとも二つは、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれることを特徴とする請求項2に記載の有機化合物。
【請求項5】
前記R2、R3のうちの少なくとも一つと、前記R8、R9のうちの少なくとも一つは、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれることを特徴とする請求項2に記載の有機化合物。
【請求項6】
前記R2及びR8は、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれることを特徴とする請求項5に記載の有機化合物。
【請求項7】
一対の電極と、前記一対の電極の間に配置される発光層と、を有し、
前記発光層は、第一の化合物と第二の化合物を有し、
前記第一の化合物は、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の有機化合物であることを特徴とする有機発光素子。
【請求項8】
前記第二の化合物は、下記一般式[2]に示される有機金属錯体であることを特徴とする請求項7に記載の有機発光素子。
M(L)m(L’)n [2]
一般式[2]において、Mは、イリジウム、白金から選ばれる。
L及びL’は、それぞれ異なる二座配位子を表し、LまたはL’が複数存在する場合はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
mは1以上3以下の整数から選ばれ、nは0以上2以下の整数から選ばれる。ただし、Mがイリジウムの場合、m+n=3であり、Mが白金の場合、m+n=2である。
部分構造M(L)mは、下記一般式[2-1]で示される。
【化2】
一般式[2-1]において、R21乃至R28は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有するか無置換体のアルキル基、置換基を有するか無置換体のアルコキシ基、置換基を有するか無置換体のシリル基、置換基を有するか無置換体のアリール基、置換基を有するか無置換体の複素環基、置換基を有するか無置換体のアミノ基、置換基を有するか無置換体のアリールオキシ基、置換基を有するか無置換体のヘテロアリールオキシ基、シアノ基からそれぞれ独立に選ばれる。隣り合うR21乃至R28は、互いに結合して環を形成してもよい。
部分構造M(L’)nは、下記一般式[2-2]で示される。
【化3】
一般式[2-2]において、R39乃至R41は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有するか無置換体のアルキル基、置換基を有するか無置換体のアルコキシ基、置換基を有するか無置換体のシリル基、置換基を有するか無置換体のアリール基、置換基を有するか無置換体の複素環基、置換基を有するか無置換体のアミノ基、置換基を有するか無置換体のアリールオキシ基、置換基を有するか無置換体のヘテロアリールオキシ基、シアノ基からそれぞれ独立に選ばれる。
【請求項9】
前記Mは、イリジウムであることを特徴とする請求項8に記載の有機発光素子。
【請求項10】
前記部分構造M(L)mは、3環以上の縮合環を有することを特徴とする請求項8に記載の有機発光素子。
【請求項11】
前記3環以上の縮合環は、フェナントレン環、トリフェニレン環、ベンゾフルオレン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ベンゾナフトフラン環、ベンゾナフトチオフェン環、ベンゾイソキノリン環、ナフトイソキノリン環のいずれかであることを特徴とする請求項10に記載の有機発光素子。
【請求項12】
前記一般式[2-1]において、R22、R23、R26、R27のうち少なくとも一つは、置換基を有するか無置換体のアリール基、置換基を有するか無置換体の複素環基から選ばれることを特徴とする請求項8に記載の有機発光素子。
【請求項13】
前記発光層は、さらに第三の化合物を含有することを特徴とする請求項7に記載の有機発光素子。
【請求項14】
前記第三の化合物は、少なくともカルバゾール骨格を有することを特徴とする請求項13に記載の有機発光素子。
【請求項15】
前記第三の化合物は、少なくともトリフェニレン環を骨格に有することを特徴とする請求項13に記載の有機発光素子。
【請求項16】
前記第三の化合物は、少なくともジベンゾチオフェン骨格を有することを特徴とする請求項13に記載の有機発光素子。
【請求項17】
前記発光層と積層して配置される別の発光層を更に有し、前記別の発光層は前記発光層が発する発光色とは異なる色を発光することを特徴とする請求項7に記載の有機発光素子。
【請求項18】
白色を発光することを特徴とする請求項17に記載の有機発光素子。
【請求項19】
複数の画素を有し、前記複数の画素の少なくとも一つが、請求項7に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に接続されたトランジスタと、を有することを特徴とする表示装置。
【請求項20】
複数のレンズを有する光学部と、前記光学部を通過した光を受光する撮像素子と、前記撮像素子が撮像した画像を表示する表示部と、を有し、
前記表示部は請求項7に記載の有機発光素子を有することを特徴とする光電変換装置。
【請求項21】
請求項7に記載の有機発光素子を有する表示部と、前記表示部が設けられた筐体と、前記筐体に設けられ、外部と通信する通信部と、を有することを特徴とする電子機器。
【請求項22】
請求項7に記載の有機発光素子を有する光源と、前記光源が発する光を透過する光拡散部または光学フィルタと、を有することを特徴とする照明装置。
【請求項23】
請求項7に記載の有機発光素子を有する灯具と、前記灯具が設けられた機体と、を有することを特徴とする移動体。
【請求項24】
請求項7に記載の有機発光素子を有することを特徴とする電子写真方式の画像形成装置の露光光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物及び有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子(以下、「有機エレクトロルミネッセンス素子」あるいは「有機EL素子」と称する場合がある。)は、一対の電極とこれら電極間に配置される有機化合物層とを有する電子素子である。これら一対の電極から電子及び正孔を注入することにより、有機化合物層中の発光性有機化合物の励起子を生成し、該励起子が基底状態に戻る際に、有機発光素子は光を放出する。有機発光素子の最近の進歩は著しく、低駆動電圧、多様な発光波長、高速応答性、発光デバイスの薄型化・軽量化が可能であることが挙げられる。
ところで、現在までに有機発光素子に適した化合物の創出が盛んに行われている。高性能の有機発光素子を提供するにあたり、素子寿命特性の優れた化合物の創出が重要であるからである。これまでに創出された化合物として、クロメノ[2,3-a]キサンテン-8,14-ジオン(CXD)が、特許文献1に記載されている。
【0003】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/44159号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、有機発光素子の発光層におけるホストとしてCXDの使用が開示されているが、発光効率、耐久特性のさらなる改善が望まれる。
本発明は、上記課題に鑑みてなされるものであり、その目的は、発光効率及び耐久特性が優れる有機化合物及び有機発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の有機化合物は、下記一般式[1]で表されることを特徴とする。
【0007】
【化2】
一般式[1]において、R1乃至R10は、水素原子、重水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基からそれぞれ独立に選ばれる。ただし、R2、R3、R8、R9のうちの少なくとも一つは、重水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発光効率及び耐久特性が優れる有機化合物を提供することができる。また、本発明の有機化合物を発光層のホスト分子として用いることにより、発光効率及び耐久特性が優れる有機発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)本発明の一実施形態に係る表示装置の画素の一例を表す概略断面図である。(b)本発明の一実施形態に係る有機発光素子を用いた表示装置の一例の概略断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る表示装置の一例を表す模式図である。
図3】(a)本発明の一実施形態に係る撮像装置の一例を表す模式図である。(b)本発明の一実施形態に係る電子機器の一例を表す模式図である。
図4】(a)本発明の一実施形態に係る表示装置の一例を表す模式図である。(b)折り曲げ可能な表示装置の一例を表す模式図である。
図5】(a)本発明の一実施形態に係る照明装置の一例を示す模式図である。(b)本発明の一実施形態に係る車両用灯具を有する移動体の一例を示す模式図である。
図6】(a)本発明の一実施形態に係るウェアラブルデバイスの一例を示す模式図である。(b)本発明の一実施形態に係るウェアラブルデバイスの他の例を示す模式図である。
図7】(a)本発明の一実施形態に係る画像形成装置の一例を表す模式図である。(b)本発明の一実施形態に係る画像形成装置の露光光源の一例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪有機化合物≫
本実施形態の有機化合物は、下記一般式[1]に示される。
【化3】
【0011】
<R1乃至R10
一般式[1]において、R1乃至R10は、水素原子、重水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基からそれぞれ独立に選ばれる。ただし、R2、R3、R8、R9のうちの少なくとも一つは、重水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれる。
【0012】
2、R3、R8、R9のうちの少なくとも一つまたは二つ、好ましくは二つは、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれることが好ましく、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれることがより好ましい。さらに、R2、R3のうちの少なくとも一つと、R8、R9のうちの少なくとも一つは、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれることが好ましく、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれることがより好ましい。最も好ましくは、R2及びR8は、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれることが好ましく、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれることがより好ましい。
【0013】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、オクチル基、ドデシル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのうちでもメチル基、ターシャリーブチル基が好ましい。
【0014】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、インデニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、アントラセニル基、フェナントリル基、フルオランテニル基、ピレニル基、クリセニル基、トリフェニレニル基、ペリレニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのうちでもフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、フェナントリル基が好ましい。
【0015】
複素環基としては、例えば、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、トリアゾリル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、キノリル基、アクリジニル基、フェナントロリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのうちでもピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、フェナントロリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基が好ましい。複素環基は、ヘテロアリール基であることが好ましく、炭素原子で結合する基であることが好ましい。
【0016】
アルキル基、アリール基、複素環基がさらに有してもよい置換基として、例えば、重水素原子;メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、セカンダリーブチル基、オクチル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基等のアルキル基:フェニル基、ナフチル基、インデニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基等のアリール基;ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアジル基、トリアゾリル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、アクリジニル基、フェナントロリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基等の複素環基、シアノ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本実施形態の有機化合物は、CXD骨格における特定の位置に水素原子以外の特定の基を導入した構造を有する。そうすることでCXDより化学的安定性を向上させ、有機発光素子の発光層におけるホスト分子として用いたときに、優れた耐久特性を達成することができる。その作用効果メカニズムについて、以下に詳細を述べる。
【0018】
炭化水素系または複素環系の縮合多環化合物は環平面上の電子密度が高く、化学反応性に富んでいる。特に求電子置換反応に対する反応性が高く、電子が不足した状態の求電子化学種と反応することが知られている。そして有機発光素子の発光層中ではホールキャリアとしてラジカルカチオン状態のホスト分子が存在している。この一電子酸化状態の分子は求電子化学種として振る舞い、他のホスト分子と反応する可能性がある。そこで、サイクリックボルタンメトリー(CV)により化合物の酸化状態における安定性を評価した。CXDでは酸化側において繰り返し挿引を行うことで新たにピークが観測された。これはCXDの酸化によって生じたラジカルカチオンなどの求電子化学種が求電子置換反応などの化学反応を起こして新しい分子が生成したためであると考えられる。一方、一般式[1]のR2及びR8に水素原子以外の基が導入されている例示化合物A-1、A-40、一般式[1]のR3及びR9に水素原子以外の基が導入されている例示化合物C-1、C-19では繰り返し挿引に伴う新たなピークは観測されなかった。この結果を表1にまとめる。
【0019】
サイクリックボルタンメトリー(CV)は、0.1Mテトラブチルアンモニウム過塩素酸塩のアセトニトリル溶液中で行い、参照電極はAg/Ag+、対極はPt、作用電極はグラッシーカーボンを用いて測定した。また、繰り返し挿引時の挿引速度は、1.0V/sで行った。測定装置はALS社製のモデル660C、電気化学アナライザーを用いた。
【0020】
【表1】
【0021】
このようにCXD骨格の特定位置に水素原子以外の基を導入することで、酸化状態における安定性が向上した。この要因として以下のように推定している。CXD骨格はフェノール性酸素原子を有しており、そのパラ位、すなわち一般式[1]におけるR2及びR8が結合する炭素(それぞれC2、C10と呼ぶ)上の電子密度が特に高い。従って、C2、C10は求電子化学種により攻撃されると結合を形成しやすい状態にあるといえる。CXDの場合、C2、C10にそれぞれ隣接する炭素原子には水素原子のみが結合しているので、求電子化学種は何の立体障害も無くC2、C10に攻撃することができる。一方、一般式[1]のR2及びR8に水素原子以外の基が導入されている化合物、一般式[1]のR3及びR9に水素原子以外の基が導入されている化合物では、水素原子以外の基の立体障害のため求電子化学種によるC2、C10への攻撃が低減される。その結果、本実施形態の化合物は酸化状態において化学反応を生じることなく安定であったといえる。
【0022】
ここで、フェノール性酸素原子のパラ位だけでなく、オルト位においても電子密度が高いことが知られている。しかしフェノール性酸素原子自体の立体障害により、オルト位の炭素原子はサイズの大きい求電子化学種による攻撃を受けにくい。実際に、表1の結果からCXD骨格を有する化合物においては、オルト位に水素原子以外の基を導入しなくともCVで新たなピークの出現は観測されない(例示化合物A-1、A-40、C-1、C-19)。従って、求電子化学種による分解という観点からは、少なくともパラ位(C2、C10)またはC2、C10に隣接する炭素原子に水素原子以外の基を導入することが、効果が高く好ましい。
【0023】
C2、C10に隣接する炭素原子として、一般式[1]におけるR3及びR9が結合する炭素原子、及びR1及びR7が結合する炭素原子(それぞれC1、C9と呼ぶ)が挙げられる。C1、C9に水素原子以外の基を導入するとカルボニル基の酸素原子と立体反発を生じて分子全体に歪みが生じ、分子の結合エネルギーが低下する可能性がある。そうすると、有機発光素子の発光層中で高い励起エネルギーを与えられた場合、結合の切断により分子が分解して耐久性能が低下する恐れがある。従って、R3及びR9が結合する炭素原子に水素原子以外の基を導入することが、耐久性能の観点から好ましい。
【0024】
2、R3、R8、R9のうちの少なくとも一つに導入する水素原子以外の基は、結合エネルギーの高い炭素-炭素結合でCXD骨格に結合していることが好ましい。そのような水素原子以外の基としては、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基が挙げられる。この炭素-炭素結合において、CXD骨格の炭素原子はsp2混成軌道であるため、水素原子以外の基の炭素原子がsp3混成軌道であるよりもsp2混成軌道である方が、結合エネルギーがより高いのでより好ましい。そのような水素原子以外の基としては、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基が挙げられる。
【0025】
以上から、本実施形態の有機化合物はCXDよりも酸化状態において化学的に安定であり、有機発光素子の発光層におけるホスト分子として用いた場合に耐久性能が向上する。また、有機発光素子の耐久性能だけでなく発光効率においても向上することが見出された。その詳細なメカニズムは明らかではないが、水素原子以外の基を導入することでCXD骨格の過度な凝集やスタッキングが低減され、励起子失活サイトが生成しにくくなったためだと推定される。
【0026】
以下に、本実施形態の有機化合物の具体的な構造式を例示する。しかし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0027】
【化4】
【0028】
【化5】
【0029】
【化6】
【0030】
【化7】
【0031】
【化8】
【0032】
【化9】
【0033】
【化10】
【0034】
A群に属する化合物は、R2及びR8がアルキル基、アリール基または複素環基である化合物である。A群に属する化合物は、フェノール性酸素原子のパラ位に直接、水素原子以外の基が結合しているため、化学的安定性がより一層高く、好ましい。すなわち、A群は、有機発光素子に用いた場合、より一層高い耐久性能を有する化合物群である。また、A-24乃至A-39、A-52乃至A-54は、複素環基を有する化合物であり、HOMO準位、LUMO準位を調整することができる。
【0035】
B群に属する化合物は、R2及びR9、または、R3及びR8がアルキル基、アリール基または複素環基である化合物である。B群に属する化合物は、フェノール性酸素原子のパラ位の一カ所に水素原子以外の基が結合し、パラ位の隣接炭素原子の一つに水素原子以外の基が結合している。従って、B群は、化学的安定性がA群に次いで高く、有機発光素子に用いた場合、より高い耐久性能を有する化合物群である。また、B-5、B-6、B-10、B-11は、複素環基を有する化合物であり、HOMO準位、LUMO準位を調整することができる。
【0036】
C群に属する化合物は、R3及びR9がアルキル基、アリール基または複素環基である化合物である。C群は、フェノール性酸素原子に対するパラ位の隣接炭素原子に水素原子以外の基が結合しているため、化学的安定性がB群に次いで高く、有機発光素子に用いた場合、より高い耐久性能を有する化合物群である。また、C-15乃至C-18、C-24乃至C-26は、複素環基を有する化合物群であり、HOMO準位、LUMO準位を調整することができる。
【0037】
D群に属する化合物は、R2、R3、R8、R9のうち一つがアルキル基、アリール基または複素環基である化合物である。D群、特にD-2乃至D-7は、水素原子以外の基によって保護されていないフェノール性酸素原子のパラ位が存在するため、A乃至C群ほど化学的安定性は高くないが、昇華性向上やHOMO準位、LUMO準位の調整が容易な化合物群である。
【0038】
≪有機発光素子≫
本実施形態の有機発光素子は、一対の電極と、一対の電極の間に配置される発光層と、を有し、発光層は、第一の化合物、好ましくはホストと、第二の化合物、好ましくはゲストと、を有することが好ましい。
【0039】
本実施形態の有機発光素子の具体的な素子構成としては、基板上に、下記(a)乃至(f)に示される電極層及び有機化合物層を順次積層した多層型の素子構成が挙げられる。尚、いずれの素子構成においても有機化合物層には発光材料を有する発光層が必ず含まれる。
(a)陽極/発光層/陰極
(b)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(c)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(d)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(e)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(f)陽極/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
ただしこれらの素子構成例はあくまでもごく基本的な素子構成であり、素子構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機化合物層との界面に絶縁性層、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくは正孔輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二つの層から構成される、発光層が発光材料の異なる二つの層から構成される等多様な層構成を採ることができる。
【0040】
また、発光層は、単層でも複層でも良い。複層とは発光層と別の発光層とが積層している状態を意味する。例えば、ホスト分子である、一般式[1]で示される本実施形態の有機化合物と、ゲスト分子とを含有する発光層と、この発光層が発する発光色とは異なる色を発光する別の発光層を積層してもよい。この場合、発光色は白色でもよいし、中間色でもよい。
【0041】
上記(a)乃至(f)に示される素子構成において、(f)の構成は、電子阻止層及び正孔阻止層を共に有している構成であるので、好ましい。つまり、電子阻止層及び正孔阻止層を有する(f)では、正孔と電子の両キャリアを発光層内に確実に閉じ込めることができるので、キャリア漏れがなく発光効率が高い有機発光素子となる。
【0042】
発光層から出力される光の取り出し態様(素子形態)としては、基板側の電極から光を取り出すいわゆるボトムエミッション方式でもよいし、基板の反対側から光を取り出すいわゆるトップエミッション方式でもよい。また基板側及び基板の反対側から光を取り出す、両面取り出し方式も採用することができる。
【0043】
本実施形態の有機発光素子において、本実施形態の有機化合物は、有機化合物層のうち、発光層に含まれることが好ましい。このとき、発光層に含まれる化合物は、発光層内の含有濃度によってその用途が異なる。具体的には、発光層内の含有濃度によって、主成分と副成分とに分かれる。
【0044】
主成分となる化合物は、発光層に含まれる化合物群のうち質量比(含有濃度)が最大の化合物であり、ホストとも呼ばれる化合物である。またホストは、発光層内で発光材料の周囲にマトリックスとして存在する化合物であって、主に発光材料へのキャリアの輸送、発光材料への励起エネルギー供与を担う化合物である。
【0045】
また、副成分となる化合物は、主成分以外の化合物であり、その化合物の機能により、ゲスト(ドーパント)、発光アシスト材料又は電荷注入材料と呼ぶことができる。副成分の一種であるゲストは、発光層内で主たる発光を担う化合物(発光材料)である。副成分の一種である発光アシスト材料は、ゲストの発光を助ける化合物であって、発光層内での質量比(含有濃度)がホストよりも小さい化合物である。発光アシスト材料は、その機能から第2ホストとも呼ばれる。
【0046】
ホストの濃度は、発光層の構成材料の全体量を基準として、50質量%以上99質量%以下であることが好ましく、70質量%以上99質量%以下であることがより好ましい。ゲストの濃度は、発光層の構成材料の全体量を基準として、0.01質量%以上50質量%未満であり、好ましくは、0.1質量%以上20質量%以下である。濃度消光を低減する観点から、ゲストの濃度は、10質量%以下であることが特に好ましい。発光アシスト材料の濃度は、発光層の構成材料の全体量を基準として、0.1質量%以上50質量%未満であり、好ましくは、1質量%以上50質量%未満である。
【0047】
ゲストは、ホストがマトリックスとなっている層の全体に均一に含ませてもよいし、濃度勾配を有して含ませてもよい。また層内の特定の領域にゲストを部分的に含ませて、発光層がゲストを含まないホストのみの領域を有する層としてもよい。
【0048】
本実施形態において、本実施形態の有機化合物をホストとして発光層に含ませる態様が好ましい。発光層は第一の化合物及び第二の化合物に加えて、励起子やキャリアの伝達の補助を目的として、さらに第三の化合物(第2ホスト)を含有してもよい。
【0049】
(2)第一の化合物
第一の化合物は、好ましくはホストである。第一の化合物は、一般式[1]で示される本実施形態の有機化合物であることが好ましい。
【0050】
(3)第二の化合物
第二の化合物は、好ましくはゲストである。主に発光機能に関わるゲスト分子としては、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、アントラセン誘導体、ルブレン等)、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、スチルベン誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、イリジウム錯体、白金錯体、レニウム錯体、銅錯体、ユーロピウム錯体、ルテニウム錯体、及びポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられる。以下に、発光材料として用いられる化合物の具体例を示すが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0051】
【化11】
【0052】
【化12】
【0053】
有機発光素子における発光効率の観点から、ゲスト分子は燐光発光性の有機金属錯体であることが好ましい。具体的には、イリジウム錯体、白金錯体、レニウム錯体、銅錯体、ユーロピウム錯体、ルテニウム錯体等が挙げられる。
【0054】
発光量子収率の観点からより好ましくは、ゲスト分子は、下記一般式[2]に示される有機金属錯体である。
M(L)m(L’)n [2]
【0055】
式[2]において、Mは、イリジウム、白金から選ばれる。
L及びL’は、それぞれ異なる二座配位子を表し、LまたはL’が複数存在する場合はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
mは1以上3以下の整数から選ばれ、nは0以上2以下の整数から選ばれる。ただし、Mがイリジウムの場合、m+n=3であり、Mが白金の場合、m+n=2である。
【0056】
部分構造M(L)mは、下記一般式[2-1]で示される。
【化13】
【0057】
式[2-1]において、R21乃至R28は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有するか無置換体のアルキル基、置換基を有するか無置換体のアルコキシ基、置換基を有するか無置換体のシリル基、置換基を有するか無置換体のアリール基、置換基を有するか無置換体の複素環基、置換基を有するか無置換体のアミノ基、置換基を有するか無置換体のアリールオキシ基、置換基を有するか無置換体のヘテロアリールオキシ基、シアノ基からそれぞれ独立に選ばれる。隣り合うR21乃至R28は、互いに結合して環を形成してもよい。
【0058】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのうちでもフッ素原子が好ましい。
【0059】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、セカンダリーブチル基、オクチル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、2-エチル-オクチルオキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、インデニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
複素環基としては、例えば、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、トリアゾリル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントロリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。複素環基は、ヘテロアリール基であることが好ましく、炭素原子で結合する基であることが好ましい。
【0064】
アミノ基としては、例えば、N-メチルアミノ基、N-エチルアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基、N-メチル-N-エチルアミノ基、N-ベンジルアミノ基、N-メチル-N-ベンジルアミノ基、N,N-ジベンジルアミノ基、アニリノ基、N,N-ジフェニルアミノ基、N,N-ジナフチルアミノ基、N,N-ジフルオレニルアミノ基、N-フェニル-N-トリルアミノ基、N,N-ジトリルアミノ基、N-メチル-N-フェニルアミノ基、N,N-ジアニソリルアミノ基、N-メシチル-N-フェニルアミノ基、N,N-ジメシチルアミノ基、N-フェニル-N-(4-ターシャリブチルフェニル)アミノ基、N-フェニル-N-(4-トリフルオロメチルフェニル)アミノ基、N-ピペリジル基、カルバゾリル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、チエニルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
アルキル基、アルコキシ基、シリル基、アリール基、複素環基、アミノ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基がさらに有してもよい置換基としては、例えば、重水素原子;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基等のアミノ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;フェニル基、ビフェニル基等の芳香族炭化水素基;ピリジル基、ピロリル基等の複素環基;シアノ基、ヒドロキシ基、チオール基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
また、隣り合うR21乃至R28、好ましくは、隣り合うR21乃至R24または隣り合うR25乃至R28は、互いに結合して環を形成してもよい。隣り合うR21乃至R28が互いに結合して環を形成するとは、R21とR22、R22とR23、R23とR24が結合して形成される環と、R21乃至R24が結合しているベンゼン環が縮合環を形成すること、またはR25とR26、R26とR27、R27とR28が結合して形成される環と、R25乃至R28が結合しているピリジン環が縮合環を形成することを意味する。隣接するR21乃至R28が結合して形成される環は、芳香族環であってもよい。
【0068】
部分構造M(L’)nは、下記一般式[2-2]で示される。
【化14】
【0069】
式[2-2]において、R39乃至R41は、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、置換基を有するか無置換体のアルキル基、置換基を有するか無置換体のアルコキシ基、置換基を有するか無置換体のシリル基、置換基を有するか無置換体のアリール基、置換基を有するか無置換体の複素環基、置換基を有するか無置換体のアミノ基、置換基を有するか無置換体のアリールオキシ基、置換基を有するか無置換体のヘテロアリールオキシ基、シアノ基からそれぞれ独立に選ばれる。
【0070】
ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、シリル基、アリール基、複素環基、アミノ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基の具体例としては、R21乃至R28で説明したものと同様のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、アルキル基、アルコキシ基、シリル基、アリール基、複素環基、アミノ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基がさらに有してもよい置換基の具体例としては、R21乃至R28で説明したものと同様のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
一般式[2]に示される有機金属錯体の中でも、部分構造M(L)mが3環以上の縮合環を有する有機金属錯体が好ましい。これは、3環以上の縮環骨格により平面性が向上し、ホスト分子からのエネルギー移動が促進され、高効率化、耐久性の向上に繋がるためである。3環以上の縮合環としては、例えば、フェナントレン環、トリフェニレン環、ベンゾフルオレン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ベンゾナフトフラン環、ベンゾナフトチオフェン環、ベンゾイソキノリン環、ナフトイソキノリン環等が挙げられる。
【0072】
また一般式[2-1]においてR22、R23、R26、R27のうち少なくとも一つが置換基を有するか無置換体のアリール基、置換基を有するか無置換体の複素環基であることが好ましい。これは前述のように有機金属錯体の平面性が向上するためである。
【0073】
以下に、ゲストとなる有機金属錯体の部分構造M(L)mの具体例を示すが、これらに限定されるものではない。尚、以下に示す具体例において、配位結合を直線、点線または矢印で示している。
【0074】
【化15】
【0075】
【化16】
【0076】
上記一般式[Ir-5]乃至[Ir-8]、[Ir-15]乃至[Ir-16]において、X’は、酸素原子、硫黄原子、置換もしくは無置換の炭素原子、置換もしくは無置換の窒素原子から選ばれる。
【0077】
一般式[Ir-2]乃至[Ir-8]は、隣り合うR21乃至R24が、互いに結合して環を形成している。一般式[Ir-9]乃至[Ir-16]は、隣り合うR25乃至R28が、互いに結合して環を形成している。また、一般式[Ir-3]乃至[Ir-8]は、R21乃至R24の少なくとも一つがフェニル基またはナフチル基であり、隣接する基と環を形成している。一般式[Ir-11]乃至[Ir-16]は、R25乃至R28の少なくとも一つがフェニル基またはナフチル基であり、隣接する基と環を形成している。そのため、一般式[Ir-3]乃至[Ir-8]、[Ir-11]乃至[Ir-16]は、さらにアリール基または複素環基を有してもよいし、有さなくてもよい。
【0078】
部分構造M(L)mが上記一般式[Ir-1]乃至[Ir-16]で示される金属錯体の中でも、さらに好ましくは3環以上の縮合環を配位子に有する金属錯体である。具体的には、部分構造M(L)mが上記一般式[Ir-3]乃至[Ir-8]、[Ir-11]乃至[Ir-16]で示される金属錯体である。その具体例を以下に示すが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0079】
【化17】
【0080】
【化18】
【0081】
【化19】
【0082】
【化20】
【0083】
【化21】
【0084】
【化22】
【0085】
【化23】
【0086】
【化24】
【0087】
【化25】
【0088】
【化26】
【0089】
【化27】
【0090】
【化28】
【0091】
【化29】
【0092】
【化30】
【0093】
【化31】
【0094】
【化32】
【0095】
AA群乃至BB群に属する例示化合物は、部分構造M(L)mが一般式[Ir-3]で示される金属錯体であり、配位子に少なくともフェナンスレン環を有する化合物である。これらの化合物は、縮合環がSP2混成軌道からなるため、とくに安定性に優れる化合物である。
【0096】
CC群に属する例示化合物は、部分構造M(L)mが一般式[Ir-4]で示される金属錯体であり、配位子に少なくともトリフェニレン環を有する化合物である。これらの化合物は、縮合環がSP2混成軌道からなるため、とくに安定性に優れる化合物である。
【0097】
DD群に属する例示化合物は、部分構造M(L)mが一般式[Ir-5]乃至[Ir-8]で示される金属錯体であり、配位子に少なくともジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ベンゾナフトフラン環またはベンゾナフトチオフェン環を有する化合物である。これらの化合物は、縮合環に、酸素原子、硫黄原子を含み、これらの原子が有する豊富な非共有電子対により電荷輸送性を高めることができるため、とくに、キャリアバランスを調整しやすい化合物である。
【0098】
EE群乃至GG群に属する例示化合物は、部分構造M(L)mが一般式[Ir-6]乃至[Ir-8]で示される金属錯体であり、配位子に少なくともベンゾフルオレン環を有する化合物である。これらの化合物は、フルオレン環の9位に、フルオレン環の面内方向に対して垂直方向に置換基を有するため、縮合環同士が重なり合うことを特に低減することができる。このため、とくに昇華性に優れる化合物である。
【0099】
HH群に属する例示化合物は、部分構造M(L)mが一般式[Ir-11]乃至[Ir-13]で示される金属錯体であり、配位子に少なくともベンゾイソキノリン環を有する化合物である。これらの化合物は、縮合環にN原子を含み、これらの原子が有する非共有電子対と高い電気陰性度により電荷輸送性を高めることができるため、とくに、キャリアバランスを調整しやすい化合物である。
【0100】
II群に属する例示化合物は、部分構造M(L)mが一般式[Ir-14]で示される金属錯体であり、配位子に少なくともナフトイソキノリン環を有する化合物である。これらの化合物は、縮合環にN原子を含み、これらの原子が有する非共有電子対と高い電気陰性度により電荷輸送性を高めることができるため、とくに、キャリアバランスを調整しやすい化合物である。
【0101】
(4)その他の化合物
本実施形態に係る有機発光素子には、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系のホール注入性化合物あるいはホール輸送性化合物、ホストとなる化合物、発光性化合物、電子注入性化合物あるいは電子輸送性化合物等を一緒に使用することができる。以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0102】
ホール注入輸送性材料としては、陽極からのホールの注入を容易にして、かつ注入されたホールを発光層へ輸送できるようにホール移動度が高い材料が好ましい。また有機発光素子中において結晶化等の膜質の劣化を低減するために、ガラス転移点温度が高い材料が好ましい。ホール注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、アリールカルバゾール誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられる。さらに上記のホール注入輸送性材料は、電子ブロッキング層にも好適に使用される。以下に、ホール注入輸送性材料として用いられる化合物の具体例を示すが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0103】
【化33】
【0104】
発光層に含まれる発光層ホストあるいは発光アシスト材料として、本実施形態の有機化合物以外の化合物を第三の化合物として含有してもよい。第三の化合物としては、例えば、芳香族炭化水素化合物もしくはその誘導体の他、カルバゾール誘導体、アジン誘導体、キサントン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体等が挙げられる。
【0105】
とくに、アシスト材料としては、カルバゾール骨格を有する材料、トリフェニレン環を骨格に有する材料、ジベンゾチオフェン骨格を有する材料が好ましい。なぜなら、これらの材料は、電子供与性や、電子求引性が高いためHOMO準位およびLUMO準位の調整を行いやすいからである。本実施形態に係る有機化合物はCXD骨格を有するため、HOMO準位およびLUMO準位が低下する傾向にある。そこで、HOMOやLUMOの準位を調整できる上記骨格を有する材料が、とくにアシスト材料としては好ましい。これらのアシスト材料と、本実施形態の有機化合物とを組み合わせた場合には、良好なキャリアバランスを実現することができる。
【0106】
以下に、発光層に含まれる発光層ホストあるいは発光アシスト材料として用いられる化合物の具体例を示すが、もちろんこれらに限定されるものではない。下記の具体例のうち、アシスト材料として好ましいカルバゾール骨格を有する材料は、EM32乃至EM38である。また、アシスト材料として好ましいトリフェニレン環を骨格に有する材料は、EM10乃至EM14、EM32、EM39である。また、アシスト材料として好ましいジベンゾチオフェン骨格を有する材料は、EM13、EM14、EM28である。
【0107】
【化34】
【0108】
電子輸送性材料としては、陰極から注入された電子を発光層へ輸送することができるものから任意に選ぶことができ、ホール輸送性材料のホール移動度とのバランス等を考慮して選択される。電子輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、クリセン誘導体、アントラセン誘導体等)が挙げられる。さらに上記の電子輸送性材料は、ホールブロッキング層にも好適に使用される。以下に、電子輸送性材料として用いられる化合物の具体例を示すが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0109】
【化35】
【0110】
(5)有機発光素子の構成
有機発光素子は、基板の上に、絶縁層、第一電極、有機化合物層、第二電極を形成して設けられる。第二電極の上には、保護層、カラーフィルタ、マイクロレンズ等を設けてよい。カラーフィルタを設ける場合は、保護層との間に平坦化層を設けてよい。平坦化層はアクリル樹脂等で構成することができる。カラーフィルタとマイクロレンズとの間において、平坦化層を設ける場合も同様である。
【0111】
[基板]
基板は、石英、ガラス、シリコンウエハ、樹脂、金属等が挙げられる。また、基板上には、トランジスタなどのスイッチング素子や配線を備え、その上に絶縁層を備えてもよい。絶縁層としては、第一電極との間に配線が形成可能なように、コンタクトホールを形成可能で、かつ接続しない配線との絶縁を確保できれば、材料は問わない。例えば、ポリイミド等の樹脂、酸化シリコン、窒化シリコンなどを用いることができる。
【0112】
[電極]
電極は、一対の電極を用いることができる。一対の電極は、陽極と陰極であってよい。有機発光素子が発光する方向に電界を印加する場合に、電位が高い電極が陽極であり、他方が陰極である。また、発光層にホールを供給する電極が陽極であり、電子を供給する電極が陰極であるということもできる。
【0113】
陽極の構成材料としては仕事関数がなるべく大きいものが良い。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン、等の金属単体やこれらを含む混合物、あるいはこれらを組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。またポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーも使用できる。
【0114】
これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陽極は一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。
【0115】
反射電極として用いる場合には、例えばクロム、アルミニウム、銀、チタン、タングステン、モリブデン、又はこれらの合金、積層したものなどを用いることができる。上記の材料にて、電極としての役割を有さない、反射膜として機能することも可能である。また、透明電極として用いる場合には、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛などの酸化物透明導電層などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。電極の形成には、フォトリソグラフィ技術を用いることができる。
【0116】
一方、陰極の構成材料としては仕事関数の小さなものがよい。例えばリチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体またはこれらを含む混合物が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えばマグネシウム-銀、アルミニウム-リチウム、アルミニウム-マグネシウム、銀-銅、亜鉛-銀等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。中でも銀を用いることが好ましく、銀の凝集を低減するため、銀合金とすることがさらに好ましい。銀の凝集が低減できれば、合金の比率は問わない。例えば、銀:他の金属が、1:1、3:1等であってよい。
【0117】
陰極は、ITOなどの酸化物導電層を使用してトップエミッション素子としてもよいし、アルミニウム(Al)などの反射電極を使用してボトムエミッション素子としてもよいし、特に限定されない。陰極の形成方法としては、特に限定されないが、直流及び交流スパッタリング法などを用いると、膜のカバレッジがよく、抵抗を下げやすいためより好ましい。
【0118】
[有機化合物層]
有機化合物層は、単層で形成されても、複数層で形成されてもよい。複数層を有する場合には、その機能によって、ホール注入層、ホール輸送層、電子ブロッキング層、発光層、ホールブロッキング層、電子輸送層、電子注入層、と呼ばれてよい。有機化合物層は、主に有機化合物で構成されるが、無機原子、無機化合物を含んでいてもよい。例えば、銅、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、イリジウム、白金、モリブデン、亜鉛等を有してよい。有機化合物層は、第一電極と第二電極との間に配置されてよく、第一電極及び第二電極に接して配されてよい。
【0119】
本発明の一実施形態に係る有機発光素子を構成する有機化合物層(正孔注入層、正孔輸送層、電子阻止層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層等)は、以下に示す方法により形成される。
【0120】
本発明の一実施形態に係る有機発光素子を構成する有機化合物層は、真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマ等のドライプロセスを用いることができる。またドライプロセスに代えて、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により層を形成するウェットプロセスを用いることもできる。
【0121】
ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0122】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0123】
また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0124】
[保護層]
第二電極の上に、保護層を設けてもよい。例えば、第二電極上に吸湿剤を設けたガラスを接着することで、有機化合物層に対する水等の浸入を低減し、表示不良の発生を低減することができる。また、別の実施形態としては、第二電極上に窒化ケイ素等のパッシベーション膜を設け、有機化合物層に対する水等の浸入を低減してもよい。例えば、第二電極を形成後に真空を破らずに別のチャンバーに搬送し、CVD法で厚さ2μmの窒化ケイ素膜を形成することで、保護層としてもよい。CVD法の成膜の後で原子堆積法(ALD法)を用いた保護層を設けてもよい。ALD法による膜の材料は限定されないが、窒化ケイ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等であってよい。ALD法で形成した膜の上に、さらにCVD法で窒化ケイ素を形成してよい。ALD法による膜は、CVD法で形成した膜よりも小さい膜厚であってよい。具体的には、50%以下、さらには、10%以下であってよい。
【0125】
[カラーフィルタ]
保護層の上にカラーフィルタを設けてもよい。例えば、有機発光素子のサイズを考慮したカラーフィルタを別の基板上に設け、それと有機発光素子を設けた基板と貼り合わせてもよいし、上記で示した保護層上にフォトリソグラフィ技術を用いて、カラーフィルタをパターニングしてもよい。カラーフィルタは、高分子で構成されてよい。
【0126】
[平坦化層]
カラーフィルタと保護層との間に平坦化層を有してもよい。平坦化層は、下の層の凹凸を低減する目的で設けられる。目的を制限せずに、材質樹脂層と呼ばれる場合もある。平坦化層は有機化合物で構成されてよく、低分子であっても、高分子であってもよいが、高分子であることが好ましい。
【0127】
平坦化層は、カラーフィルタの上下に設けられてもよく、その構成材料は同じであっても異なってもよい。具体的には、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂等があげられる。
【0128】
[マイクロレンズ]
有機発光素子または有機発光装置は、その光出射側にマイクロレンズ等の光学部材を有してよい。マイクロレンズは、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等で構成されうる。マイクロレンズは、有機発光素子または有機発光装置から取り出す光量の増加、取り出す光の方向の制御を目的としてよい。マイクロレンズは、半球の形状を有してよい。半球の形状を有する場合、当該半球に接する接線のうち、絶縁層と平行になる接線があり、その接線と半球との接点がマイクロレンズの頂点である。マイクロレンズの頂点は、任意の断面図においても同様に決定することができる。つまり、断面図におけるマイクロレンズの半円に接する接線のうち、絶縁層と平行になる接線があり、その接線と半円との接点がマイクロレンズの頂点である。
【0129】
また、マイクロレンズの中点を定義することもできる。マイクロレンズの断面において、円弧の形状が終了する点から別の円弧の形状が終了する点までの線分を仮想し、当該線分の中点がマイクロレンズの中点と呼ぶことができる。頂点、中点を判別する断面は、絶縁層に垂直な断面であってよい。
【0130】
[対向基板]
平坦化層の上には、対向基板を有してよい。対向基板は、前述の基板と対応する位置に設けられるため、対向基板と呼ばれる。対向基板の構成材料は、前述の基板と同じであってよい。対向基板は、前述の基板を第一基板とした場合、第二基板であってよい。
【0131】
[画素回路]
有機発光素子を有する有機発光装置は、有機発光素子に接続されている画素回路を有してよい。画素回路は、第一の発光素子、第二の発光素子をそれぞれ独立に発光制御するアクティブマトリックス型であってよい。アクティブマトリックス型の回路は電圧プログラミングであっても、電流プログラミングであってもよい。駆動回路は、画素毎に画素回路を有する。画素回路は、発光素子、発光素子の発光輝度を制御するトランジスタ、発光タイミングを制御するトランジスタ、発光輝度を制御するトランジスタのゲート電圧を保持する容量、発光素子を介さずにGNDに接続するためのトランジスタを有してよい。
【0132】
発光装置は、表示領域と、表示領域の周囲に配されている周辺領域とを有する。表示領域には画素回路を有し、周辺領域には表示制御回路を有する。画素回路を構成するトランジスタの移動度は、表示制御回路を構成するトランジスタの移動度よりも小さくてよい。画素回路を構成するトランジスタの電流電圧特性の傾きは、表示制御回路を構成するトランジスタの電流電圧特性の傾きよりも小さくてよい。電流電圧特性の傾きは、いわゆるVg-Ig特性により測定できる。画素回路を構成するトランジスタは、第一の発光素子など、発光素子に接続されているトランジスタである。
【0133】
[画素]
有機発光素子を有する有機発光装置は、複数の画素を有してよい。画素は互いに他と異なる色を発光する副画素を有する。副画素は、例えば、それぞれRGBの発光色を有してよい。
【0134】
画素は、画素開口とも呼ばれる領域が発光する。この領域は第一領域と同じである。画素開口は15μm以下であってよく、5μm以上であってよい。より具体的には、11μm、9.5μm、7.4μm、6.4μm等であってよい。副画素間は、10μm以下であってよく、具体的には、8μm、7.4μm、6.4μmであってよい。
【0135】
画素は、平面図において、公知の配置形態をとりうる。例えば、ストライプ配置、デルタ配置、ペンタイル配置、ベイヤー配置であってよい。副画素の平面図における形状は、公知のいずれの形状をとってもよい。例えば、長方形、ひし形等の四角形、六角形、等である。もちろん、正確な図形ではなく、長方形に近い形をしていれば、長方形に含まれる。副画素の形状と、画素配列と、を組み合わせて用いることができる。
【0136】
(6)有機発光素子を用いた装置
本実施形態に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置の構成部材として用いることができる。他にも、電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライト、白色光源にカラーフィルタを有する発光装置等の用途がある。
【0137】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの画像情報を入力する画像入力部を有し、入力された情報を処理する情報処理部を有し、入力された画像を表示部に表示する画像情報処理装置でもよい。表示装置は、複数の画素を有し、複数の画素の少なくとも一つが、本実施形態の有機発光素子と、有機発光素子に接続されたトランジスタと、を有してよい。このとき、基板はシリコンなどの半導体基板であり、トランジスタは基板に形成されたMOSFETであってもよい。
【0138】
また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部は、タッチパネル機能を有していてもよい。このタッチパネル機能の駆動方式は、赤外線方式でも、静電容量方式でも、抵抗膜方式であっても、電磁誘導方式であってもよく、特に限定されない。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0139】
次に、図面を参照しながら本実施形態に係る表示装置について説明する。図1は、有機発光素子とこの有機発光素子に接続されるトランジスタとを有する表示装置の例を示す断面模式図である。トランジスタは、能動素子の一例である。トランジスタは薄膜トランジスタ(TFT)であってもよい。
【0140】
図1(a)は、本実施形態に係る表示装置の構成要素である画素の一例である。画素は、副画素10を有している。副画素はその発光により、10R、10G、10Bに分けられている。発光色は、発光層から発光される波長で区別されても、副画素から出射する光がカラーフィルタ等により、選択的に透過または色変換が行われてもよい。それぞれの副画素10は、層間絶縁層1の上に第一電極2である反射電極、第一電極2の端を覆う絶縁層3、第一電極2と絶縁層3とを覆う有機化合物層4、第二電極5である透明電極、保護層6、カラーフィルタ7を有している。
【0141】
層間絶縁層1は、その下層または内部にトランジスタ、容量素子が配されていてよい。トランジスタと第一電極2は不図示のコンタクトホール等を介して電気的に接続されていてよい。
【0142】
絶縁層3は、バンク、画素分離膜とも呼ばれる。第一電極2の端を覆っており、第一電極2を囲って配されている。絶縁層3の配されていない部分が、有機化合物層4と接し、発光領域となる。
【0143】
有機化合物層4は、正孔注入層41、正孔輸送層42、第一発光層43、第二発光層44、電子輸送層45を有する。
【0144】
第二電極5は、透明電極であっても、反射電極であっても、半透過電極であってもよい。
【0145】
保護層6は、有機化合物層4に水分が浸透することを低減する。保護層6は、一層のように図示されているが、複数層であってよい。層ごとに無機化合物層、有機化合物層があってよい。
【0146】
カラーフィルタ7は、その色により7R、7G、7Bに分けられる。カラーフィルタ7は、不図示の平坦化膜上に形成されてよい。また、カラーフィルタ7上に不図示の樹脂保護層を有してよい。また、カラーフィルタ7は、保護層6上に形成されてよい。またはガラス基板等の対向基板上に設けられた後に、貼り合わせられてよい。
【0147】
図1(b)の表示装置100は、有機発光素子26と、トランジスタの一例であるTFT18と、を有する。ガラス、シリコン等の基板11とその上部に絶縁層12が設けられている。絶縁層12の上には、TFT18等の能動素子が配されており、能動素子のゲート電極13と、ゲート絶縁膜14と、半導体層15と、が設けられている。TFT18は、ドレイン電極16とソース電極17とを有している。TFT18の上部には絶縁膜19が設けられている。コンタクトホール20を介して有機発光素子26を構成する陽極21とソース電極17とが接続されている。
【0148】
なお、有機発光素子26に含まれる電極(陽極21、陰極23)とTFT18に含まれる電極(ソース電極17、ドレイン電極16)との電気接続の方式は、図1(b)に示される態様に限られるものではない。つまり陽極21又は陰極23のうちいずれか一方とTFT18のソース電極17またはドレイン電極16のいずれか一方とが電気接続されていればよい。
【0149】
図1(b)の表示装置100では有機化合物層22を1つの層の如く図示をしているが、有機化合物層22は、複数層であってもよい。陰極23の上には有機発光素子26の劣化を低減するための第一の保護層24や第二の保護層25が設けられている。
【0150】
図1(b)の表示装置100ではスイッチング素子としてトランジスタを使用しているが、これに代えてMIM素子等の他のスイッチング素子を用いてもよい。
【0151】
また図1(b)の表示装置100に使用されるトランジスタは、基板の絶縁性表面上に活性層を有する薄膜トランジスタに限らず、単結晶シリコンウエハを用いたトランジスタでもよい。活性層として、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、微結晶シリコンなどの非単結晶シリコン、インジウム亜鉛酸化物、インジウムガリウム亜鉛酸化物等の非単結晶酸化物半導体が挙げられる。なお、薄膜トランジスタはTFT素子とも呼ばれる。
【0152】
図1(b)の表示装置100に含まれるトランジスタは、Si基板等の基板内に形成されていてもよい。ここで基板内に形成されるとは、Si基板等の基板自体を加工してトランジスタを作製することを意味する。つまり、基板内にトランジスタを有することは、基板とトランジスタとが一体に形成されていると見ることもできる。
【0153】
本実施形態に係る有機発光素子はスイッチング素子の一例であるTFTにより発光輝度が制御され、有機発光素子を複数面内に設けることでそれぞれの発光輝度により画像を表示することができる。なお、本実施形態に係るスイッチング素子は、TFTに限られず、低温ポリシリコンで形成されているトランジスタ、Si基板等の基板上に形成されたアクティブマトリクスドライバーであってもよい。基板上とは、その基板内ということもできる。基板内にトランジスタを設けるか、TFTを用いるかは、表示部の大きさによって選択され、例えば0.5インチ程度の大きさであれば、Si基板上に有機発光素子を設けることが好ましい。
【0154】
図2は、本実施形態に係る表示装置の一例を表す模式図である。表示装置1000は、上部カバー1001と、下部カバー1009と、の間に、タッチパネル1003、表示パネル1005、フレーム1006、回路基板1007、バッテリー1008、を有してよい。タッチパネル1003および表示パネル1005は、フレキシブルプリント回路FPC1002、1004が接続されている。回路基板1007には、トランジスタがプリントされている。バッテリー1008は、表示装置が携帯機器でなければ、設けなくてもよいし、携帯機器であっても、別の位置に設けてもよい。
【0155】
本実施形態に係る表示装置は、赤色、緑色、青色を有するカラーフィルタを有してよい。カラーフィルタは、当該赤色、緑色、青色がデルタ配列で配置されてよい。
【0156】
本実施形態に係る表示装置は、携帯端末の表示部に用いられてもよい。その際には、表示機能と操作機能との双方を有してもよい。携帯端末としては、スマートフォン等の携帯電話、タブレット、ヘッドマウントディスプレイ等が挙げられる。
【0157】
本実施形態に係る表示装置は、複数のレンズを有する光学部と、当該光学部を通過した光を受光する撮像素子とを有する撮像装置の表示部に用いられてよい。撮像装置は、撮像素子が取得した情報を表示する表示部を有してよい。また、表示部は、撮像装置の外部に露出した表示部であっても、ファインダ内に配置された表示部であってもよい。撮像装置は、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラであってよい。
【0158】
図3(a)は、本実施形態に係る撮像装置の一例を表す模式図である。撮像装置1100は、ビューファインダ1101、背面ディスプレイ1102、操作部1103、筐体1104を有してよい。ビューファインダ1101は、本実施形態に係る表示装置を有してよい。その場合、表示装置は、撮像する画像のみならず、環境情報、撮像指示等を表示してよい。環境情報には、外光の強度、外光の向き、被写体の動く速度、被写体が遮蔽物に遮蔽される可能性等であってよい。
【0159】
撮像に好適なタイミングはわずかな時間なので、少しでも早く情報を表示した方がよい。したがって、本実施形態の有機発光素子を用いた表示装置を用いるのが好ましい。有機発光素子は応答速度が速いからである。有機発光素子を用いた表示装置は、表示速度が求められる、これらの装置、液晶表示装置よりも好適に用いることができる。
【0160】
撮像装置1100は、不図示の光学部を有する。光学部は複数のレンズを有し、筐体1104内に収容されている撮像素子に結像する。複数のレンズは、その相対位置を調整することで、焦点を調整することができる。この操作を自動で行うこともできる。撮像装置は光電変換装置と呼ばれてもよい。光電変換装置は逐次撮像するのではなく、前画像からの差分を検出する方法、常に記録されている画像から切り出す方法等を撮像の方法として含むことができる。
【0161】
図3(b)は、本実施形態に係る電子機器の一例を表す模式図である。電子機器1200は、表示部1201と、操作部1202と、筐体1203を有する。筐体1203には、回路、当該回路を有するプリント基板、バッテリー、通信部、を有してよい。操作部1202は、ボタンであってもよいし、タッチパネル方式の反応部であってもよい。操作部1202は、指紋を認識してロックの解除等を行う、生体認識部であってもよい。通信部を有する電子機器は通信機器ということもできる。電子機器1200は、レンズと、撮像素子とを備えることでカメラ機能をさらに有してよい。カメラ機能により撮像された画像が表示部1201に映される。電子機器1200としては、スマートフォン、ノートパソコン等があげられる。
【0162】
図4は、本実施形態に係る表示装置の一例を表す模式図である。図4(a)は、テレビモニタやPCモニタ等の表示装置である。表示装置1300は、額縁1301を有し表示部1302を有する。表示部1302には、本実施形態に係る発光素子が用いられてよい。表示装置1300は、額縁1301と、表示部1302を支える土台1303を有している。土台1303は、図4(a)の形態に限られない。額縁1301の下辺が土台を兼ねてもよい。また、額縁1301および表示部1302は、曲がっていてもよい。その曲率半径は、5000mm以上6000mm以下であってよい。
【0163】
図4(b)は本実施形態に係る表示装置の他の例を表す模式図である。図4(b)の表示装置1310は、折り曲げ可能に構成されており、いわゆるフォルダブルな表示装置である。表示装置1310は、第一表示部1311、第二表示部1312、筐体1313、屈曲点1314を有する。第一表示部1311と第二表示部1312とは、本実施形態に係る発光素子を有してよい。第一表示部1311と第二表示部1312とは、つなぎ目のない1枚の表示装置であってよい。第一表示部1311と第二表示部1312とは、屈曲点で分けることができる。第一表示部1311、第二表示部1312は、それぞれ異なる画像を表示してもよいし、第一および第二表示部とで一つの画像を表示してもよい。
【0164】
図5(a)は、本実施形態に係る照明装置の一例を表す模式図である。照明装置1400は、筐体1401と、光源1402と、回路基板1403と、光源1402が発する光を透過する光学フィルタ1404と光拡散部1405と、を有してよい。光源1402は、本実施形態に係る有機発光素子を有してよい。光学フィルタ1404は光源の演色性を向上させるフィルタであってよい。光拡散部1405は、ライトアップ等、光源の光を効果的に拡散し、広い範囲に光を届けることができる。光学フィルタ1404、光拡散部1405は、照明の光出射側に設けられてよい。必要に応じて、最外部にカバーを設けてもよい。
【0165】
照明装置は例えば室内を照明する装置である。照明装置は白色、昼白色、その他青から赤のいずれの色を発光するものであってよい。それらを調光する調光回路や発光色を調色する調色回路を有してよい。照明装置は本実施形態の有機発光素子とそれに接続される電源回路を有してよい。電源回路は、交流電圧を直流電圧に変換する回路である。また、白とは色温度が4200Kで昼白色とは色温度が5000Kである。照明装置はカラーフィルタを有してもよい。
【0166】
また、本実施形態に係る照明装置は、放熱部を有していてもよい。放熱部は装置内の熱を装置外へ放出するものであり、比熱の高い金属、液体シリコン等が挙げられる。
【0167】
図5(b)は、本実施形態に係る移動体の一例である自動車の模式図である。当該自動車は灯具の一例であるテールランプを有する。自動車1500は、テールランプ1501を有し、ブレーキ操作等を行った際に、テールランプを点灯する形態であってよい。
【0168】
テールランプ1501は、本実施形態に係る有機発光素子を有してよい。テールランプ1501は、有機発光素子を保護する保護部材を有してよい。保護部材はある程度高い強度を有し、透明であれば材料は問わないが、ポリカーボネート等で構成されることが好ましい。ポリカーボネートにフランジカルボン酸誘導体、アクリロニトリル誘導体等を混ぜてよい。
【0169】
自動車1500は、車体1503、それに取り付けられている窓1502を有してよい。窓1502は、自動車の前後を確認するための窓でなければ、透明なディスプレイであってもよい。当該透明なディスプレイは、本実施形態に係る有機発光素子を有してよい。この場合、有機発光素子が有する電極等の構成材料は透明な部材で構成される。
【0170】
本実施形態に係る移動体は、船舶、航空機、ドローン等であってよい。移動体は、機体と当該機体に設けられた灯具を有してよい。灯具は、機体の位置を知らせるための発光をしてよい。灯具は本実施形態に係る有機発光素子を有する。
【0171】
図6を参照して、上述の各実施形態の表示装置の適用例について説明する。表示装置は、例えばスマートグラス、HMD、スマートコンタクトのようなウェアラブルデバイスとして装着可能なシステムに適用できる。このような適用例に使用される撮像表示装置は、可視光を光電変換可能な撮像装置と、可視光を発光可能な表示装置とを有する。
【0172】
図6(a)は、本発明の一実施形態に係るウェアラブルデバイスの一例を示す模式図である。図6(a)を用いて、1つの適用例に係る眼鏡1600(スマートグラス)を説明する。眼鏡1600のレンズ1601の表面側に、CMOSセンサやSPADのような撮像装置1602が設けられている。また、レンズ1601の裏面側には、上述した各実施形態の表示装置が設けられている。
【0173】
眼鏡1600は、制御装置1603をさらに備える。制御装置1603は、撮像装置1602と表示装置に電力を供給する電源として機能する。また、制御装置1603は、撮像装置1602と表示装置の動作を制御する。レンズ1601には、撮像装置1602に光を集光するための光学系が形成されている。
【0174】
図6(b)は、本発明の一実施形態に係るウェアラブルデバイスの他の例を示す模式図である。図6(b)を用いて、1つの適用例に係る眼鏡1610(スマートグラス)を説明する。眼鏡1610は、制御装置1612を有しており、制御装置1612に、図6(a)の撮像装置1602に相当する撮像装置と、表示装置が搭載される。レンズ1611には、制御装置1612内の撮像装置と、表示装置からの発光を投影するための光学系が形成されており、レンズ1611には画像が投影される。制御装置1612は、撮像装置および表示装置に電力を供給する電源として機能するとともに、撮像装置および表示装置の動作を制御する。
【0175】
制御装置1612は、装着者の視線を検知する視線検知部を有してもよい。視線の検知は赤外線を用いてよい。赤外発光部は、表示画像を注視しているユーザーの眼球に対して、赤外光を発する。発せられた赤外光の眼球からの反射光を、受光素子を有する撮像部が検出することで眼球の撮像画像が得られる。平面視における赤外発光部から表示部への光を低減する低減手段を有することで、画像品位の低下を低減する。赤外光の撮像により得られた眼球の撮像画像から表示画像に対するユーザーの視線を検出する。眼球の撮像画像を用いた視線検出には任意の公知の手法が適用できる。一例として、角膜での照射光の反射によるプルキニエ像に基づく視線検出方法を用いることができる。より具体的には、瞳孔角膜反射法に基づく視線検出処理が行われる。瞳孔角膜反射法を用いて、眼球の撮像画像に含まれる瞳孔の像とプルキニエ像とに基づいて、眼球の向き(回転角度)を表す視線ベクトルが算出されることにより、ユーザーの視線が検出される。
【0176】
本発明の一実施形態に係る表示装置は、受光素子を有する撮像装置を有し、撮像装置からのユーザーの視線情報に基づいて表示装置の表示画像を制御してよい。具体的には、表示装置は、視線情報に基づいて、ユーザーが注視する第一の視界領域と、第一の視界領域以外の第二の視界領域とを決定する。第一の視界領域、第二の視界領域は、表示装置の制御装置が決定してもよいし、外部の制御装置が決定したものを受信してもよい。表示装置の表示領域において、第一の視界領域の表示解像度を第二の視界領域の表示解像度よりも高く制御してよい。つまり、第二の視界領域の解像度を第一の視界領域よりも低くしてよい。
【0177】
また、表示領域は、第一の表示領域、第一の表示領域とは異なる第二の表示領域とを有し、視線情報に基づいて、第一の表示領域および第二の表示領域から優先度が高い領域が決定される。第一の視界領域、第二の視界領域は、表示装置の制御装置が決定してもよいし、外部の制御装置が決定したものを受信してもよい。優先度の高い領域の解像度を、優先度が高い領域以外の領域の解像度よりも高く制御してよい。つまり優先度が相対的に低い領域の解像度を低くしてよい。
【0178】
なお、第一の視界領域や優先度が高い領域の決定には、AIを用いてもよい。AIは、眼球の画像と当該画像の眼球が実際に視ていた方向とを教師データとして、眼球の画像から視線の角度、視線の先の目的物までの距離を推定するよう構成されたモデルであってよい。AIプログラムは、表示装置が有しても、撮像装置が有しても、外部装置が有してもよい。外部装置が有する場合は、通信を介して、表示装置に伝えられる。
【0179】
視認検知に基づいて表示制御する場合、外部を撮像する撮像装置を更に有するスマートグラスに好ましく適用できる。スマートグラスは、撮像した外部情報をリアルタイムで表示することができる。
【0180】
図7(a)は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置の一例を示す模式図である。画像形成装置40は電子写真方式の画像形成装置であり、感光体27、露光光源28、帯電部30、現像部31、転写器32、搬送ローラー33、定着器35を有する。露光光源28から光29が照射され、感光体27の表面に静電潜像が形成される。この露光光源28が本実施形態に係る有機発光素子を有する。現像部31はトナー等を有する。帯電部30は感光体27を帯電させる。転写器32は現像された画像を記録媒体34に転写する。搬送ローラー33は記録媒体34を搬送する。記録媒体34は例えば紙である。定着器35は記録媒体34に形成された画像を定着させる。
【0181】
図7(b)および図7(c)は、露光光源28を示す図であり、発光部36が長尺状の基板に複数配置されている様子を示す模式図である。矢印37は、感光体の軸に平行な方向であり、有機発光素子が配列されている列方向を表す。この列方向は、感光体27が回転する軸の方向と同じである。この方向は感光体27の長軸方向と呼ぶこともできる。図7(b)は発光部36を感光体27の長軸方向に沿って配置した形態である。図7(c)は、図7(b)とは異なる形態であり、第一の列と第二の列のそれぞれにおいて発光部36が列方向に交互に配置されている形態である。第一の列と第二の列は行方向に異なる位置に配置されている。第一の列は、複数の発光部36が間隔をあけて配置されている。第二の列は、第一の列の発光部36同士の間隔に対応する位置に発光部36を有する。すなわち、行方向にも、複数の発光部36が間隔をあけて配置されている。図7(c)の配置は、たとえば格子状に配置されている状態、千鳥格子に配置されている状態、あるいは市松模様と言い換えることもできる。
【0182】
以上説明した通り、本実施形態に係る有機発光素子を用いた装置を用いることにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
【0183】
≪含まれる構成≫
本実施形態の開示は、以下の構成を含む。
(構成1)
上記一般式[1]で表されることを特徴とする有機化合物。
(構成2)
前記R2、R3、R8、R9のうちの少なくとも一つは、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれることを特徴とする構成1に記載の有機化合物。
(構成3)
前記R2、R3、R8、R9のうちの少なくとも一つは、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれることを特徴とする構成1または2に記載の有機化合物。
(構成4)
前記R2、R3、R8、R9のうちの少なくとも二つは、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれることを特徴とする構成1または2に記載の有機化合物。
(構成5)
前記R2、R3のうちの少なくとも一つと、前記R8、R9のうちの少なくとも一つは、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれることを特徴とする構成1または2に記載の有機化合物。
(構成6)
前記R2及びR8は、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基から選ばれることを特徴とする構成5に記載の有機化合物。
【0184】
(構成7)
一対の電極と、前記一対の電極の間に配置される発光層と、を有し、
前記発光層は、第一の化合物と第二の化合物を有し、
前記第一の化合物は、構成1乃至6のいずれかに記載の有機化合物であることを特徴とする有機発光素子。
(構成8)
前記第二の化合物は、上記一般式[2]に示される有機金属錯体であることを特徴とする構成7に記載の有機発光素子。
(構成9)
前記Mは、イリジウムであることを特徴とする構成8に記載の有機発光素子。
(構成10)
前記部分構造M(L)mは、3環以上の縮合環を有することを特徴とする構成8または9に記載の有機発光素子。
(構成11)
前記3環以上の縮合環は、フェナントレン環、トリフェニレン環、ベンゾフルオレン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ベンゾナフトフラン環、ベンゾナフトチオフェン環、ベンゾイソキノリン環、ナフトイソキノリン環のいずれかであることを特徴とする構成10に記載の有機発光素子。
(構成12)
前記一般式[2-1]において、R22、R23、R26、R27のうち少なくとも一つは、置換基を有するか無置換体のアリール基、置換基を有するか無置換体の複素環基から選ばれることを特徴とする構成8乃至11のいずれかに記載の有機発光素子。
【0185】
(構成13)
前記発光層は、さらに第三の化合物を含有することを特徴とする構成7乃至12のいずれかに記載の有機発光素子。
(構成14)
前記第三の化合物は、少なくともカルバゾール骨格を有することを特徴とする構成13に記載の有機発光素子。
(構成15)
前記第三の化合物は、少なくともトリフェニレン環を骨格に有することを特徴とする構成13に記載の有機発光素子。
(構成16)
前記第三の化合物は、少なくともジベンゾチオフェン骨格を有することを特徴とする構成13に記載の有機発光素子。
(構成17)
前記発光層と積層して配置される別の発光層を更に有し、前記別の発光層は前記発光層が発する発光色とは異なる色を発光することを特徴とする構成7乃至16のいずれかに記載の有機発光素子。
(構成18)
白色を発光することを特徴とする構成17に記載の有機発光素子。
【0186】
(構成19)
複数の画素を有し、前記複数の画素の少なくとも一つが、構成7乃至18のいずれかに記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に接続されたトランジスタと、を有することを特徴とする表示装置。
(構成20)
複数のレンズを有する光学部と、前記光学部を通過した光を受光する撮像素子と、前記撮像素子が撮像した画像を表示する表示部と、を有し、
前記表示部は構成7乃至18のいずれかに記載の有機発光素子を有することを特徴とする光電変換装置。
(構成21)
構成7乃至18のいずれかに記載の有機発光素子を有する表示部と、前記表示部が設けられた筐体と、前記筐体に設けられ、外部と通信する通信部と、を有することを特徴とする電子機器。
(構成22)
構成7乃至18のいずれかに記載の有機発光素子を有する光源と、前記光源が発する光を透過する光拡散部または光学フィルタと、を有することを特徴とする照明装置。
(構成23)
構成7乃至18のいずれかに記載の有機発光素子を有する灯具と、前記灯具が設けられた機体と、を有することを特徴とする移動体。
(構成24)
構成7乃至18のいずれかに記載の有機発光素子を有することを特徴とする電子写真方式の画像形成装置の露光光源。
【実施例0187】
以下、実施例を説明する。なお本発明はこれらに限定されるものではない。
【0188】
<実施例1(例示化合物A-1の合成)>
【化36】
【0189】
[反応工程1(中間体化合物Int1-1の合成)]
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
レゾルシノール(東京化成工業製):5.00g(45.4mmol)
5-ブロモ-2-フルオロベンゾニトリル(東京化成工業製):19.8g(98.8mmol)
炭酸カリウム:15.0g(108mmol)
ジメチルスルホキシド:62mL
【0190】
この反応溶液を、窒素下、80℃で撹拌しながら12時間加熱した。反応終了後、室温まで冷却してから反応溶液を氷水に注ぎ、1時間撹拌した。析出した固体をろ過によって回収し、イオン交換水で洗浄した後、80℃の真空乾燥機中で12時間乾燥した。得られた粗生成物をジクロロメタン/ヘプタン溶媒で再結晶して、Int1-1を18.1g得た(収率85%)。
【0191】
[反応工程2(中間体化合物Int1-2の合成)]
以下に示す試薬、溶媒を200mLナスフラスコに投入した。
Int1-1:5.00g(10.6mmol)
水酸化ナトリウム:5.32g(133mmol)
イオン交換水:21mL
エタノール:80mL
【0192】
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら6時間加熱還流した。反応終了後、室温まで冷却してから、pH1乃至2になるまで2N塩酸を反応溶液に滴下した。析出した固体をろ過によって回収した後、80℃の真空乾燥機中で12時間乾燥し、Int1-2を5.30g得た(収率98%)。
【0193】
[反応工程3(中間体化合物Int1-3の合成)]
以下に示す試薬、溶媒を100mLナスフラスコに投入した。
Int1-2:5.00g(9.84mmol)
濃硫酸:17mL
【0194】
この反応溶液を、窒素下、80℃で撹拌しながら12時間加熱した。反応終了後、室温まで冷却してから、反応溶液を砕いた氷に注ぎ、1時間撹拌した。析出した固体をろ過によって回収し、イオン交換水で洗浄した後、80℃の真空乾燥機中で12時間乾燥した。得られた粗生成物をジクロロメタン/メタノール溶媒で再結晶して、Int1-3を4.18g得た(収率90%)。
【0195】
[反応工程4(例示化合物A-1の合成)]
【化37】
【0196】
以下に示す試薬、溶媒を50mLナスフラスコに投入した。
Int1-3:0.500g(1.06mmol)
フェニルボロン酸(東京化成工業製):0.284g(2.33mmol)
炭酸ナトリウム:0.617g(5.83mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):0.122g(0.106mmol)
トルエン:10mL
イオン交換水:3mL
【0197】
この反応溶液を、窒素下、撹拌しながら18時間加熱還流した。反応終了後、室温まで冷却してから、有機層を分離して硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過を行った。得られたろ液の溶媒を減圧留去して、析出した固体をシリカゲルカラム(クロロホルム:ヘプタン=3:1)によって精製した。得られた結晶を80℃の真空乾燥機中で12時間乾燥し、例示化合物A-1を0.420g得た(収率85%)。
【0198】
MALDI-TOF MS(マトリックス支援イオン化-飛行時間型質量分析)によりこの化合物のM+である466.1を確認した。
【0199】
<実施例2乃至6(例示化合物の合成)>
実施例1の反応工程4において、フェニルボロン酸を表2に示すボロン酸化合物に変える以外は実施例1と同様にして、表2に示す例示化合物を合成した。
【0200】
【表2】
【0201】
<実施例7(例示化合物C-1の合成)>
[反応工程1乃至3(中間体化合物Int2-1乃至Int2-3の合成)]
【化38】
【0202】
実施例1の反応工程1において、5-ブロモ-2-フルオロベンゾニトリルを4-ブロモ-2-フルオロベンゾニトリルに変える以外は実施例1の反応工程1乃至3と同様にして、中間体化合物Int2-1乃至2-3を合成した。
【0203】
[反応工程4(例示化合物C-1の合成)]
【化39】
【0204】
実施例1の反応工程4において、反応工程中間体化合物Int1-3を中間体化合物Int2-3に変える以外は実施例1の反応工程4と同様にして、例示化合物C-1を合成した。
【0205】
<実施例8乃至12(例示化合物の合成)>
実施例7の反応工程4において、フェニルボロン酸を表3に示すボロン酸化合物に変える以外は実施例7と同様にして、表3に示す例示化合物を合成した。
【0206】
【表3】
【0207】
<実施例13乃至14(例示化合物A-40、C-19の合成)>
実施例1の反応工程1において、5-ブロモ-2-フルオロベンゾニトリルを、5-メチル-2-フルオロベンゾニトリル(東京化成工業製)または4-メチル-2-フルオロベンゾニトリル(東京化成工業製)に変える以外は、実施例1の反応工程1乃至3と同様にして、例示化合物A-40、C-19を合成した。
【化40】
【0208】
<比較例1(CXDの合成)>
実施例1の反応工程1において、5-ブロモ-2-フルオロベンゾニトリルを2-フルオロベンゾニトリル(東京化成工業製)に変える以外は実施例1の反応工程1乃至3と同様にして、CXDを合成した。
【化41】
【0209】
<実施例15>
基板上に、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロッキング層、発光層、正孔ブロッキング層、電子輸送層、電子注入層、陰極が順次形成されたボトムエミッション型構造の有機発光素子を作製した。
【0210】
先ずガラス基板上にITOを成膜し、所望のパターニング加工を施すことによりITO電極(陽極)を形成した。この時、ITO電極の膜厚を100nmとした。このようにITO電極が形成された基板をITO基板として、以下の工程で使用した。次に、1.33×10-4Paの真空チャンバー内における抵抗加熱による真空蒸着を行って、ITO基板上に、表4に示す有機化合物層及び電極層を連続成膜した。尚、この時、対向する電極(金属電極層、陰極)の電極面積が3mm2となるようにした。
【0211】
【表4】
【0212】
得られた素子について、素子の特性を測定・評価した。発光素子の最大発光波長は522nmであり、最大外部量子効率(E.Q.E.)は13%であった。
【0213】
さらに、電流密度100mA/cm2での連続駆動試験を行い、輝度劣化率が5%に達した時の時間を測定した。比較例2の輝度劣化率が5%に達した時の時間を基準(1.0)としたときに、本実施例の5%輝度劣化時間を比で表すと1.4であった。
【0214】
本実施例において、測定装置は、具体的には電流電圧特性をヒューレッドパッカード社製・微小電流計4140Bで測定し、発光輝度は、トプコン社製BM7で測定した。
【0215】
<実施例16乃至24、比較例2>
ホスト及びゲストを表5に示される化合物に適宜変更する以外は、実施例15と同様の方法により有機発光素子を作製した。得られた素子について実施例15と同様に素子の特性を測定・評価した。測定の結果を表5に示す。
【0216】
【表5】
【0217】
<実施例25>
表6に示す有機化合物層および電極層を連続製膜した以外は、実施例15と同様の方法により、有機発光素子を作製した。
【0218】
【表6】
【0219】
得られた素子について、実施例15と同様に素子の特性を測定・評価した。発光素子の最大発光波長は522nmであり、最大外部量子効率(E.Q.E.)は19%であった。さらに、比較例3の輝度劣化率が5%に達した時の時間を基準(1.0)としたときに、本実施例の5%輝度劣化時間を比で表すと1.4であった。
【0220】
<実施例26乃至34、比較例3>
表7に示される化合物に適宜変更する以外は、実施例25と同様の方法により有機発光素子を作製した。得られた素子について実施例25と同様に素子の特性を測定・評価した。測定の結果を表7に示す。
【0221】
【表7】
【0222】
表7に示す様に、本実施形態の有機化合物をホストに用い、さらに本実施形態の有機化合物との組み合わせに相応しい、カルバゾール骨格、トリフェニレン骨格等を有する材料を第2ホスト材料に用いることで、素子の発光効率および寿命特性が向上した。
【符号の説明】
【0223】
1:層間絶縁層、2:第一電極、3:絶縁層、4:有機化合物層、5:第二電極、6:保護層、7:カラーフィルタ、10:副画素、11:基板、12:絶縁層、13:ゲート電極、14:ゲート絶縁膜、15:半導体層、16:ドレイン電極、17:ソース電極、18:TFT、19:絶縁膜、20:コンタクトホール、21:陽極、22:有機化合物層、23:陰極、24:第一の保護層、25:第二の保護層、26:有機発光素子、100:表示装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7