(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180718
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】光導波路素子
(51)【国際特許分類】
G02B 6/122 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
G02B6/122 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094255
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】岡山 秀彰
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147AA02
2H147BC01
2H147BC11
2H147BF03
2H147BF08
2H147BF12
2H147BF17
2H147EA01B
2H147EA13A
2H147EA13C
2H147EA14B
(57)【要約】
【課題】通常の1次元フォトニック結晶素子以上の機能を有し、あるいは、感度の向上を実現させる。
【解決手段】導波路コアが、導波路コアの幅方向の中央に導波路コアの長手方向に引かれた仮想的な線分に平行に、一定の配列周期で、大開口及び小開口を交互に備えて配置された、互いに離間する、下部クラッドを露出する複数の開口である、周期的開口を一列又は複数列備える。第1領域及び第2領域は、仮想線分に直交する直線に対して線対称、又は、点対称であり、対向する、第1領域の開口と第2領域の開口の大きさが等しい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部クラッド上に導波路コアを設けて形成された光導波路素子であって、
導波路コアの長手方向に、直列に、第1領域及び第2領域が設けられ、
前記導波路コアが、
前記導波路コアの幅方向の中央に前記導波路コアの長手方向に引かれた仮想的な線分に平行に、一定の配列周期で、大開口及び小開口を交互に備えて配置された、互いに離間する、前記下部クラッドを露出する複数の開口である、周期的開口を一列又は複数列備え、
前記第1領域及び前記第2領域は、前記仮想線分に直交する直線に対して線対称、又は、点対称であり、
対向する、前記第1領域の開口と前記第2領域の開口の大きさが等しい
ことを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
前記周期的開口を複数列備えるとき、
前記周期的開口が備える開口は、前記仮想的な線分に直交する方向に沿って配置され、
前記仮想的な線分に直交する方向に隣接する開口の大きさが互いに異なる
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項3】
前記開口の平面形状が三角形状である
ことを特徴とする請求項2に記載の光導波路素子。
【請求項4】
前記周期的開口を一列備えるとき、
前記第1領域では、最も前記第2領域に近い位置に配置される開口が、小開口であり、
前記第2領域では、最も前記第1領域と近い位置に配置される開口が、小開口である
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項5】
前記仮想的な線分上に、隣接する1つの小開口と1つの大開口を接続する、前記下部クラッドを露出するスロット
を備え、
前記スロットが、前記第1領域と前記第2領域のそれぞれの、前記第1領域と前記第2領域の境界領域に1又は複数設けられる
ことを特徴とする請求項4に記載の光導波路素子。
【請求項6】
前記仮想的な線分上に、隣接する1つの小開口と1つの大開口を接続する、前記下部クラッドを露出するスロット
を備え、
前記スロットが設けられる領域が、共振が強い範囲を包含する
ことを特徴とする請求項4に記載の光導波路素子。
【請求項7】
前記仮想的な線分上に、全ての周期的開口にわたって設けられ、前記下部クラッドを露出するスロットを備える
ことを特徴とする請求項4に記載の光導波路素子。
【請求項8】
前記スロットに平行に、全ての大開口にわたって設けられ、前記大開口の幅と等しい間隔で配置された2つの外側スロットを備え、
前記外側スロットの一方は、大開口の、幅方向の一端に接続され、
前記外側スロットの他方は、大開口の、幅方向の他端に接続される
ことを特徴とする請求項7に記載の光導波路素子。
【請求項9】
第1領域及び第2領域が設けられた前記導波路上に設けられる上部クラッドが、測定対
象を含む液体である
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の光導波路素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光導波路素子、特に、導波路周囲の屈折率変化を検知する素子として用いることができる光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光導波路デバイスのプラットフォーム技術として、シリコン(Si)フォトニクスが注目を集めている。Siフォトニクスの特徴は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの半導体装置の製造プロセスを利用することによる、光導波路とそれに準ずる変調器や受光器など光デバイスの小型・集積性、及び、既存の半導体製造技術を流用して提供される200mmあるいは300mmウェハプロセスによる生産性の高さである。また、Siを導波路コア、Si酸化膜(SiO2)をクラッドとするSi導波路は比屈折率差が40%に達するので、高い光の閉じ込め効果が得られる。特にSi細線導波路では、曲げ導波路の曲率半径や並走配線ピッチを数ミクロンオーダーまで小さくでき、光回路レイアウトの小型化が可能となる。
【0003】
Si導波路の用途の一例として、導波路コア周囲の屈折率変化を検知する素子への適用が検討されている(例えば、非特許文献1又は非特許文献2参照)。Siを導波路材料として利用するときには、上述のように導波路寸法を小さくすることが可能である。また、導波路壁面付近でのエバネッセント波を用いれば、導波路コア表面へ吸着させた生体物質を検出することができる。生体物質を検出するのに用いられる素子は、いわゆるバイオセンサである。
【0004】
このエバネッセント波を用いて生体物質を検出する素子は、リング共振器型などの光の共振を用いるものと、マッハツェンダ型などの干渉を原理とするものとに分類できる。ここで、生体物質の吸着による屈折率変化を高感度で検出するには、導波路コアに複数の貫通孔を設けるフォトニック結晶が有利であるという報告がある(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】
このフォトニック結晶を備える素子の中でも、導波路コアに貫通孔を線分に沿って配置した1次元フォトニック結晶型の素子には、その構造が簡単であることから、通常の作製プロセスに親和性が高く、また光の入出力が簡単であるという特徴がある。
【0006】
1次元フォトニック結晶型の素子でも、線分に沿って配置した貫通孔の幅を、線分の両端から中央に向けて大きくしていく構造は、センサに必要な強い共振を得ることができる(例えば、非特許文献4参照)。また、スロット構造を設けることで、センサとしての感度を向上することも可能である(例えば、非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Advanced Material Technologies, vol.5, p.1901138, 2020年
【非特許文献2】Sensors, vol.16, p.285, 2016年
【非特許文献3】Optics Express, vol.16, p.11709, 2008年
【非特許文献4】Optics Express, vol.18, p.15859, 2010年
【非特許文献5】IEEE Photonics Technology Letters, vol.28, p.689, 2015年
【非特許文献6】APL Photonics, Vol.6, p.086105, 2021年
【非特許文献7】Optical Materials Express, Vol. 11, No. 2, p. 319/1 February 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、1次元フォトニック結晶によるセンサ素子では、作製上の誤差に弱く、感度も限られていた。これに対し、トポロジカルフォトニクス型の素子は作成誤差に強いという報告がされている(例えば、非特許文献6参照)。
【0009】
この発明は、このような状況に鑑みなされたものである。この発明の目的は、光センサに適用可能な、トポロジカルフォトニクス型の素子を提供することにより、従来の1次元フォトニック結晶素子以上の機能を有し、あるいは、感度の向上を実現させる光導波路素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために、この発明の光導波路素子は、下部クラッド上に導波路コアを設けて形成された光導波路素子であって、導波路コアの長手方向に、直列に、第1領域及び第2領域が設けられている。
【0011】
導波路コアが、導波路コアの幅方向の中央に導波路コアの長手方向に引かれた仮想的な線分に平行に、一定の配列周期で、大開口及び小開口を交互に備えて配置された、互いに離間する、下部クラッドを露出する複数の開口である、周期的開口を一列又は複数列備える。第1領域及び第2領域は、仮想線分に直交する直線に対して線対称、又は、点対称であり、対向する、第1領域の開口と第2領域の開口の大きさが等しい。
【0012】
この発明の光導波路素子の好適実施形態によれば、周期的開口を複数列備えるとき、周期的開口が備える開口は、仮想的な線分に直交する方向に沿って配置され、仮想的な線分に直交する方向に隣接する開口の大きさが互いに異なる。このとき、開口の平面形状が三角形状であるのがよい。
【0013】
また、この発明の光導波路素子の好適実施形態によれば、周期的開口を一列備えるとき、第1領域では、最も第2領域に近い位置に配置される開口が、小開口であり、第2領域では、最も第1領域と近い位置に配置される開口が、小開口である。
【0014】
また、この発明の光導波路素子のさらなる好適実施形態によれば、仮想的な線分上に、隣接する1つの小開口と1つの大開口を接続する、下部クラッドを露出するスロットを備える。スロットが、第1領域と第2領域のそれぞれの、第1領域と第2領域の境界領域に1又は複数設けられる。
【0015】
この発明の光導波路素子のさらなる他の好適実施形態によれば、仮想的な線分上に、隣接する1つの小開口と1つの大開口を接続する、下部クラッドを露出するスロットを備える。スロットが設けられる領域が、共振が強い範囲を包含する。
【0016】
この発明の光導波路素子のさらなる他の好適実施形態によれば、仮想的な線分上に、全ての周期的開口にわたって設けられ、下部クラッドを露出するスロットを備える。
【0017】
さらに、スロットに平行に、全ての大開口にわたって設けられ、大開口の幅と等しい間隔で配置された2つの外側スロットを備え、外側スロットの一方は、大開口の、幅方向の一端に接続され、外側スロットの他方は、大開口の、幅方向の他端に接続されるのが良い。
【発明の効果】
【0018】
この発明の光導波路素子によれば、トポロジカルフォトニック結晶の特性を活かし、従来の1次元フォトニック結晶素子以上の機能を有し、あるいは、感度の向上を実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1光導波路素子を説明するための模式図である。
【
図2】第2光導波路素子を説明するための模式図である。
【
図3】第1光導波路素子及び第2光導波路素子の特性を示す図である。
【
図4】第3光導波路素子を説明するための模式図である。
【
図6】第4光導波路素子を説明するための模式図である。
【
図8】第5光導波路素子を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0021】
(第1光導波路素子)
図1を参照して、この発明の第1実施形態に係る光導波路素子(以下、第1光導波路素子とも称する。)を説明する。
図1は、第1光導波路素子を説明するための模式図である。
図1(A)は、第1光導波路素子の概略的平面図であって、後述する支持基板及び下部クラッドを省略し、導波路コアのみを示している。
図1(B)は、第1光導波路素子の、A-A線に沿って切った切断端面を示す図である。
【0022】
第1光導波路素子は、支持基板10上に下部クラッド20と、下部クラッド20上に導波路コア30を備えて構成される。第1光導波路素子は、例えば、SOI(Silicon On Insulator)基板を利用することによって、簡単に製造することができる。支持基板層、SiO2層、及びSi層が順次積層されて構成されたSOI基板の、支持基板層が支持基板10となる。また、SiO2層が下部クラッド20となる。Si層が例えばドライエッチングなどを用いてパターニングされて導波路コア30が形成される。
【0023】
導波路コア30を伝搬する光が、支持基板10へ逃げるのを防止するため、支持基板10と光導波路子30の間の距離、すなわち、下部クラッド20の厚みは、1μm以上であるのがよい。また、導波路コア30の厚みは、厚さ方向でシングルモード条件を達成できる値である、200~400nmであることが望ましい。
【0024】
導波路コア30の平面形状に応じて、光が伝搬し、第1光導波路素子の所望の機能を実現する。ここでは、導波路コア30の平面形状が長方形状の場合の例を説明する。第1光導波路素子に入力された光は、導波路コア30の長手方向に伝搬する。以下の説明では、長手方向を伝搬方向と称することもある。また、下部クラッド20の上面に直交する方向を厚さ方向と称し、伝搬方向と厚さ方向の両者に直交する方向を幅方向と称することもある。また、幅方向の寸法を幅と称し、長手方向の寸法を長さと称する。
【0025】
第1光導波路素子において、屈折率変化を検出するのに利用される領域を、センシング領域と称する。センシング領域の導波路コア30であるセンシング導波路132には、同じく導波路コア30として入力導波路34と出力導波路36が接続されている。入力導波路34を経てセンシング導波路132に送られた光は、センシング導波路132を経て出力導波路36から出力される。
【0026】
センシング領域は、第1領域151と、第2領域152を、伝搬方向に沿って、直列に備えている。入力導波路34側に、第1領域151が設けられ、出力導波路36側に、第2領域152が設けられる。
【0027】
センシング導波路132には周期的開口144が設けられている。周期的開口144は、センシング導波路132の長手方向に引かれた、仮想的な線分140aに平行に配置された、複数の開口を備えて構成される。周期的開口144は、一定の配列周期で配置され、センシング導波路132の下に設けられている下部クラッド20を露出する貫通孔として形成されている。複数の開口として、大開口144aと、開口の大きさが大開口144aより小さい小開口144bの2種類の大きさの開口がある。
【0028】
センシング領域では、センシング導波路132の周囲、及び、周期的開口144の内部を、測定対象の生体物質を含む液体に曝すなどして、測定対象の物質に起因する屈折率変化が検出される。
【0029】
ここで、センシング領域において、生体物質の吸着による屈折率変化を高感度で検出する場合は、センシング導波路132を覆う上部クラッドを設けないのが良い。このとき、測定対象の生体物質を含む液体が、上部クラッドとして機能する。
【0030】
一方、導波路コア30を伝搬する光の伝搬損失は、導波路コア30の周囲に、下部クラッド20と同じ材料の上部クラッドがあるほうが低い傾向がある。したがって、センシング領域に設けられるセンシング導波路132以外の導波路コア30である、入力導波路34及び出力導波路36が形成されている領域には、導波路コア30を覆う上部クラッドを、下部クラッド20と同じ材料であるSiO2で設けるのが良い。
【0031】
第1領域151には、周期的開口が2列設けられている。2列の周期的開口144は、いずれも、大開口144a及び小開口144bを交互に備えて構成される。また、各開口の平面形状は、例えば、三角形状である。2列の周期的開口の周期は同一であり、仮想的な線分に直交する方向にも、大開口144a及び小開口144bが交互に配置される。この結果、第1領域151では、周期的開口の一方の列では、仮想的な線分140aの一端側、この例では、入力導波路34側には、大開口144aが配置され、仮想的な線分140aの中央付近、すなわち、第2領域152と接する側には、小開口144bが配置される。
【0032】
第2領域152は、仮想的な線分140aに直交する直線に対して第1領域151と線対称の関係にあるように形成される。この結果、第1領域151と第2領域152の境界付近では、長手方向に隣接する開口がともに大開口、又は、ともに小開口になる。それ以外の領域では、大開口144a及び小開口144bが、長手方向に沿って交互に配置されるので、この第1領域151と第2領域152の境界付近155は、周囲と構造が異なる。
【0033】
この第1領域151及び第2領域152の構造は、非特許文献7に開示されている2次元のトポロジカルフォトニック結晶を部分的に切り出して、1次元導波路であるチャネル導波路に配置したものとなる。非特許文献7に開示されている2次元のトポロジカルフォ
トニック結晶では、valley pohotonicsと呼ばれる動作が行われる。
【0034】
一方、第1光導波路素子では、センシング導波路132の側面での反射を利用して、2次元のトポロジカルフォトニック結晶と同様のバンド構造を生成する。従って、周期的開口144の列は、2列に限られず、第1光導波路素子を2列以上の複数列備える構成にすることができる。
【0035】
(第2光導波路素子)
図2を参照して、この発明の第2実施形態に係る光導波路素子(以下、第2光導波路素子とも称する。)を説明する。
図2(A)及び
図2(B)は、第2光導波路素子を説明するための模式図である。
図2(A)及び
図2(B)は、第2光導波路素子の概略的平面図であって、支持基板及び下部クラッドを省略し、導波路コアのみを示している。
図2(A)は、周期的開口が2列の例を示し、
図2(B)は、周期的開口が4列の例を示している。
【0036】
図2(A)に示すように、第2光導波路素子では、周期的開口244の各列について、仮想的な線分240aの中央付近、すなわち、第2領域252と接する側には、小開口144bが配置される点が、第1光導波路素子と異なる。すなわち、第1光導波路素子の第2領域152と接する側に配置されていた大開口144aが設けられていない点が第1光導波路素子と異なる。また、第2光導波路素子は、第2領域252が、仮想的な線分240a上の点に対して第1領域251と点対称の関係にあるように形成される点が、第1光導波路素子と異なる。それ以外の構成は、第1光導波路素子と同様なので、重複する説明を省略する。
【0037】
なお、第1光導波路素子と同様に、周期的開口の列の数は、2に限られない。
図2(B)に示すように、4列又はそれ以上にしてもよい。
【0038】
(第1及び第2光導波路素子の動作)
図3を参照して、3次元FDTD(Finite-Difference Time-Domain)法を用いて行った、第1及び第2光導波路素子の特性を評価するシミュレーションを説明する。
図3(A)及び
図3(B)は、3次元FDTD法によりシミュレーションした、光導波路素子の波長特性を示す図であり、横軸に波長[単位:μm]をとり、縦軸に測定値として、光強度[単位:dB]をとって示している。
図3(A)は、
図1を参照して説明した第1光導波路素子の特性を示す図であり、
図3(B)は、
図2(A)を参照して説明した第2光導波路素子の特性を示す図である。
図3(A)及び
図3(B)では、曲線Iは、入力導波路34に入力される光強度を示し、曲線IIは、入力導波路側に反射する基本モード、曲線IIIは、入力導波路側に反射する1次モード、曲線IVは、出力導波路36側に透過する基本モード、曲線Vは、出力導波路36側に透過する1次モードを示している。
【0039】
ここでは、センシング導波路132及び232の幅を800nm、厚さを220nmとした。また、周期的開口の周期Λを315nmとし、大開口を一辺の長さが237nmの正三角形、小開口を一辺の長さが164nmの正三角形とした。下部クラッド20はSiO2、導波路コアはSi、上部クラッドは水としている。
【0040】
図3(A)に示すように、第1光導波路素子では、センシング導波路132で反射されて入力導波路34方向に出る波長ピーク(
図3(A)中、曲線IIIで示す。)がTE1次モードに変換されている。これは従来どの素子でも見られなかった動作である。
【0041】
また、
図3(B)に示すように、第2光導波路素子では、センシング導波路232を透
過して出力導波路36方向に出る波長ピーク(
図3(B)中、曲線Vで示す。)がモード変換されていて、これも従来どの素子でも見られなかった動作である。
【0042】
このように、第1領域151又は251と第2領域152又は252の境界付近155又は255での構造が異なれば、光導波路素子の動作も異なる。
【0043】
このような特殊なモード変換が生じるのは、トポロジカルフォトニック結晶の界面では、回転するような伝搬モードが固有に存在するためである。逆に言えばこれを利用してモード変換を得ることができる。また、この特有なモードがこの素子中央の境界部に局在することで、共振が生じて、出力に透過波長ピークが生じることになる。
【0044】
このように、この第1光導波路素子及び第2光導波路素子によれば、単峰性の波長特性を持ち、独自のモード変換作用を有した素子を得ることが出来る。また、モード変換が 利用できるので、入力光との分離が容易となる。
【0045】
なお、
図2(B)に示す構成でのシミュレーションの結果によれば、
図2(A)に示す構成と同様であった。なお、消光は列数が多いほど改善する傾向にあった。
【0046】
(第3光導波路素子)
図4を参照して、この発明の第3実施形態に係る光導波路素子(以下、第3光導波路素子とも称する。)を説明する。
図4は、第3光導波路素子を説明するための模式図である。
図4(A)は、第3光導波路素子の概略的平面図であって、後述する支持基板及び下部クラッドを省略し、導波路コアのみを示している。
図4(B)は、第3光導波路素子の、A-A線に沿って切った切断端面を示す図である。
図4(C)は、第3光導波路素子の、
図4(A)のB-B線に沿って切った切断端面を示す図である。
【0047】
第3光導波路素子では、第1領域51が、一列の周期的開口44を備えて構成される。第1領域51では、仮想的な線分40aの一端(入力導波路34側)から、大開口44a、小開口44bを、この順に交互に備える。この例では、仮想的な線分40aの中央付近、すなわち、第2領域52と接する側には、小開口44bが配置される。また、この例では、大開口44aと小開口44bの平面形状は、矩形状である。
【0048】
第2領域52は、仮想線分に直交する直線に対して第1領域51と線対称の関係にあるように形成される。この結果、仮想的な線分40aの中央付近、すなわち、第1領域51と接する側には、小開口44bが配置される。
【0049】
周期的開口の数は、例えば、第1領域51及び第2領域52ともに、10ずつにすることができる。
【0050】
この構成例では、第1領域51と第2領域52の境界付近55で、小開口44bが連続して配置されるが、それ以外の領域は、大開口44aと小開口44bが交互に配置される。このように、境界付近55は、他の領域と構造が異なるため、ここに共振構造が生成される。第1領域51と第2領域52の境界付近55で共振した光が、出力導波路36を経て出力される。
【0051】
図5を参照して、3次元FDTD(Finite-Difference Time-Domain)法を用いて行った、第1光導波路素子の特性を評価するシミュレーションを説明する。
図5は、3次元FDTD法によりシミュレーションした、第1光導波路素子の特性を示す図である。
図2は、横方向に幅方向の位置X[単位:μm]をとり、縦軸に長さ方向の位置Z[単位:μm]をとり、光界分布を示している。なお、
図5(A)は、
第3光導波路素子全体を示し、
図5(B)は、境界付近55を拡大して示している。
【0052】
ここでは、センシング導波路32の幅を500nm、厚さを220nmとした。また、周期的開口44の周期Λを400nmとし、第1領域51及び第2領域52のそれぞれに、10ずつの開口を設けた。大開口44aの幅及び長さを170nm、小開口44bの幅及び長さを90nmとした。
【0053】
なお、下部クラッド20はSiO2、導波路コアはSi、測定対象の物質60としての上部クラッドは屈折率1.44の物質としている。
【0054】
図5(A)に示されるように、境界付近55で光強度が増していて、共振が生じている。また、
図5(B)に示されるように、主に周期的開口44内に、光が存在している。この現象により、周期的開口44での屈折率変化に敏感な動作が得られる。このときの、共振波長の屈折率変化に対するシフト量は、250nm/RIU(Refractive Index Unit)であり、通常の1次元フォトニック結晶素子の約2.5倍の大きな感度が得られる。
【0055】
(第4光導波路素子)
図6及び
図7を参照して、この発明の第4実施形態に係る光導波路素子(以下、第4光導波路素子とも称する。)を説明する。
図6は、第4光導波路素子を説明するための模式図である。
図6(A)は、第4光導波路素子の概略的平面図であって、支持基板及び下部クラッドを省略し、導波路コアのみを示している。
図6(B)は、3次元FDTD法によりシミュレーションした、第4光導波路素子の特性を示す図である。
図7は、第4光導波路素子の波長特性を示す図である。
【0056】
第4光導波路素子は、隣接する大開口44aと小開口44bとを接続するスロット42を設ける点が、第3光導波路素子と異なっている。その他の構成は、第3光導波路素子と同様なので、重複する説明を省略することもある。
【0057】
スロット42は、仮想的な線分40a上に、下部クラッド20を露出する貫通孔として設けられる。スロット42は、少なくとも、第1領域51及び第2領域52の、境界に近い領域(境界領域)55、すなわち、共振が強い領域に設けられるのがよい。
【0058】
なお、共振が強い範囲を十分にカバーできるように、スロット42が設けられるのが良い。このため、スロットは、第1領域51及び第2領域の、境界付近55から、それぞれ、3組の大開口44aと小開口44bに設けることができる。これは、共振が強い範囲を十分にカバーできる、すなわち、包含するようにスロット42が設けられていないと、感度の向上が十分でなく、しかも、スロット42が設けられていない領域との接続部での光の損失が大きくなり、Q値が小さくなる傾向にあるためである。
【0059】
スロット42を設けると、スロット42に光界分布が集中するので、スロット42が設けられている部分で屈折率変化に敏感になり、感度が向上する。
【0060】
図6(B)は、スロット42の幅を80nmとして、3次元FDTDのシミュレーションを行って得られた、光界分布を示している。
図5(B)では、周期的開口44以外の場所にも、光界分布があり、周期的開口44以外の場所の光界分布が、感度に寄与せず無駄になっている。これに対し、
図6(B)では、光界分布が、大開口44a及び小開口44bとスロット42に集中している。
【0061】
この結果、第4光導波路素子では、感度として、320nm/RIUを達成しており、
第3光導波路素子よりも感度が向上している。
【0062】
図7は、3次元FDTD法によりシミュレーションした、光導波路素子の波長特性を示す図であり、横軸に波長[単位:μm]をとり、縦軸に測定値として、光強度[単位:dB]をとって示している。
図7中、曲線Iは、入力導波路34に入力される光強度を示し、曲線IIは、センシング導波路32で反射される光強度を示し、曲線IIIは、出力導波路36から出力される光強度を示している。
図7に示されるように、きれいな波長透過ピークがバンドギャップ内に観測された。なお、ピークがバンドギャップ中央付近に来るように、境界付近55での第1領域51の小開口44bと、第2領域の小開口44bの間隔は、1/4周期だけ広くしてシミュレーションを行った。
【0063】
ここでは、スロット42の幅が小開口44bの幅よりも小さい例を説明したが、これに限定されない。スロット42の幅は、小開口44bの幅と同じであってもよい。この場合、小開口44bが設けられていないように見えるが、スロット42と小開口44bが一体的に設けられているだけであり、スロット42の大開口44aと接続される側とは反対側の端部が、小開口44bに対応する。
【0064】
(第5光導波路素子)
図8を参照して、この発明の第5実施形態に係る光導波路素子(以下、第5光導波路素子とも称する。)を説明する。
図8(A)及び
図8(B)は、第5光導波路素子を説明するための模式図である。
図8(A)は、第5光導波路素子の第1実施例の概略的平面図であって、支持基板及び下部クラッドを省略し、導波路コアのみを示している。また、
図8(B)は、第5光導波路素子の第2実施例の概略的平面図であって、支持基板及び下部クラッドを省略し、導波路コアのみを示している。
【0065】
第5光導波路素子の第1実施例では、スロット43が、全ての周期的開口44にわたって設けられる。スロット43が、第1領域51及び第2領域52の全体にわたって設けられる点が、第3光導波路素子と異なっている。その他の構成は、第3光導波路素子と同様なので、重複する説明を省略することもある。
【0066】
スロット43は、仮想的な線分40a上に設けられる。スロット43は、仮想的な線分の一端(第1領域51の、入力導波路34に接続される)側の大開口44aから、仮想的な線分の他端(第2領域52の、出力導波路36に接続される)側の大開口44aまで、全ての周期的開口44を接続するように設けられる。
【0067】
第5光導波路素子の第2実施例では、第1実施例の構成に加えて、2つの外側スロット46が設けられる。外側スロット46は、仮想的な線分40aに平行に、大開口44aの幅方向の両側に設けられる。外側スロット46は、全ての大開口44aにわたって設けられ、大開口44aの幅と等しい間隔で配置される。外側スロット46の一方は、全ての大開口44aの幅方向の一端に接続され、外側スロット46の他方は、全ての大開口44aの幅方向の他端に接続される。
【0068】
第5光導波路素子の第1実施例では、感度として、360nm/RIUがシミュレーションから得られた。シミュレーションでは、センシング導波路の幅を750nm、スロット幅を80nm、周期的開口44の周期を410nm、大開口44aの幅及び長さをそれぞれ、357nm及び170nm、小開口44bの幅及び長さをそれぞれ190nm及び90nmとした。それ以外の条件は、第3光導波路素子と同様とした。
【0069】
また、シミュレーションの結果として、21~25dBの消光比が得られた。第1光導波路素子の消光比は28~30dBであったので、回折効率が少し低い。
【0070】
第5光導波路素子の第2実施例では、感度として、600nm/RIUがシミュレーションから得られた。外側スロット46の幅は、スロット43と同じとし、その他の条件は、第1実施例と同じとした。この結果、スロット43に加えて、外側スロット46を設けることで、感度に寄与する部分が増えて、その結果、感度が向上することがわかる。
【0071】
以上説明したように、この発明の光導波路素子によれば、トポロジカルフォトニック結晶の特性を活かし、感度の高いセンサとして用いることができる。
【0072】
10 支持基板
20 下部クラッド
30 導波路コア
32、132、232 センシング導波路
34 入力導波路
36 出力導波路
42、43 スロット
44、144、244 周期的開口
44a、144a、244a 大開口
44b、144b、244b 小開口
46 外側スロット
51、151、251 第1領域
52、152、252 第2領域
55、155、255 境界付近