(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180753
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】セラミック多孔体
(51)【国際特許分類】
C04B 38/00 20060101AFI20231214BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
C04B38/00 303Z
C04B35/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094306
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 和浩
【テーマコード(参考)】
4G019
【Fターム(参考)】
4G019FA11
(57)【要約】
【課題】構造体としての機能だけでなく、触媒体や電極等の構成部材として種々の機能性を発揮できる機能性セラミック多孔体を提供する。
【解決手段】連通気孔が形成された3次元網目構造を有するセラミック多孔体は、主成分が酸化セリウム(CeO
2)である材料によって構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通気孔が形成された3次元網目構造を有するセラミック多孔体であって、
主成分が酸化セリウム(CeO2)である材料によって構成されていることを特徴とする
セラミック多孔体。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミック多孔体であって、さらに、
第2の成分として、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、銅(Cu)のうちの少なくとも1種の酸化物を含み、
前記第2の成分は、前記セラミック多孔体を構成する酸化セリウム(CeO2)の結晶粒子間の結晶粒界に存在することを特徴とする
セラミック多孔体。
【請求項3】
請求項2に記載のセラミック多孔体であって、
前記第2の成分として、アルミニウム(Al)の酸化物を含み、
前記第2の成分の含有量が、1.0質量%以上であることを特徴とする
セラミック多孔体。
【請求項4】
請求項1または2に記載のセラミック多孔体であって、さらに、
第3の成分として、チタン(Ti)および鉄(Fe)のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする
セラミック多孔体。
【請求項5】
請求項1または2に記載のセラミック多孔体であって、
嵩密度が、0.4~3.0g/cm3であることを特徴とする
セラミック多孔体。
【請求項6】
請求項1または2に記載のセラミック多孔体であって、
前記3次元網目構造におけるセル数が、5~50個/25.4mmであることを特徴とする
セラミック多孔体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミック多孔体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、触媒等の担体として多孔体を用いる種々の構成が知られている。多孔体の中でも、特に3次元網目構造を有する多孔体は、圧力損失を小さく抑えることができる担体として知られている。例えば、特許文献1には、3次元網目構造を有するアルミナ基体上に、アルカリ土類金属やアルカリ金属を含む触媒担持層を形成する構成が開示されている。また、引用文献2には、3次元網目構造を有するセラミック多孔体上に高周波吸収層を設けた高周波吸収体に、触媒体を接着させた構造が開示されている。さらに、引用文献3には、ニッケル(Ni)等によって構成される金属多孔体の表面に、酸化アルミニウムや酸化チタン等の金属酸化物の薄膜を形成して親水性を高めた多孔体を、電解用電極等として用いる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-58041号公報
【特許文献2】特開平7-91234号公報
【特許文献3】国際公開第2020/217668号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような多孔体は、単に触媒等を担持する構造体としての機能だけでなく、触媒体や電極等の構成部材として種々の機能性を発揮できることが望まれるが、そのような機能性多孔体、特に機能性セラミック多孔体については、十分な検討がされていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、連通気孔が形成された3次元網目構造を有するセラミック多孔体が提供される。このセラミック多孔体は、主成分が酸化セリウム(CeO2)である材料によって構成されている。
この形態のセラミック多孔体によれば、機能性材料である酸化セリウムを主成分とするため、触媒担体や電極基材などの種々の用途において、従来知られる3次元網目構造を有するセラミック多孔体では得られなかった性能を発揮することができる。
(2)上記形態のセラミック多孔体において、さらに、第2の成分として、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、銅(Cu)のうちの少なくとも1種の酸化物を含み、前記第2の成分は、前記セラミック多孔体を構成する酸化セリウム(CeO2)の結晶粒子間の結晶粒界に存在することとしてもよい。このような構成とすれば、セラミック多孔体の強度を、より高めることができる。
(3)上記形態のセラミック多孔体において、前記第2の成分として、アルミニウム(Al)の酸化物を含み、前記第2の成分の含有量が、1.0質量%以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、セラミック多孔体の強度を、より容易に高めることができる。
(4)上記形態のセラミック多孔体において、さらに、第3の成分として、チタン(Ti)および鉄(Fe)のうちの少なくとも1種を含むこととしてもよい。このような構成とすれば、セラミック多孔体の強度を、より高めることができる。
(5)上記形態のセラミック多孔体において、嵩密度が、0.4~3.0g/cm3であることとしてもよい。このような構成とすれば、セラミック多孔体が強度不足となることを抑えつつ、セラミック多孔体内部における流路抵抗を抑えることができる。
(6)上記形態のセラミック多孔体において、前記3次元網目構造におけるセル数が、5~50個/25.4mmであることとしてもよい。このような構成とすれば、セラミック多孔体が強度不足となることを抑えつつ、セラミック多孔体内部における流路抵抗を抑えることができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、セラミック多孔体の製造方法や、セラミック多孔体を触媒担体とする水熱分解用水素製造装置や、セラミック多孔体を触媒担体とする排ガス浄化装置等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図2】酸化セリウムに第3の成分を加えた効果を示す説明図。
【
図3】酸化チタンの添加によるXRDチャートの変化を示す説明図。
【
図4】セラミック多孔体の製造方法を表すフローチャート。
【
図7】サンプルS1をSEM-EDSで観察した像を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.セラミック多孔体の構成:
図1は、本実施形態のセラミック多孔体10の外観を表す説明図である。セラミック多孔体10は、連通気孔が形成された3次元網目構造を有しており、主成分が酸化セリウム(CeO
2)である材料によって構成されている。本願明細書において、特定成分が「主成分である」とは、当該特定成分の含有量が、50質量%以上であることを意味する。セラミック多孔体10における酸化セリウムの含有量は、例えば、誘導結合プラズマ質量分析法 (Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry:ICP-MS)により測定することができる。
【0008】
セラミック多孔体10は、さらに、主成分とは異なる第2の成分として、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、銅(Cu)のうちの少なくとも1種の酸化物を含むこととしてもよい。このような第2の成分は、セラミック多孔体10を構成する酸化セリウム(CeO2)の結晶粒子間の結晶粒界に存在することができる。酸化セリウムの結晶粒界に第2の成分が存在することを特定するには、セラミック多孔体10の断面に鏡面研磨を施した後にサーマルエッチングを施して、得られた表面を、EDS搭載走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)により観察すればよい。
【0009】
主成分である酸化セリウムの結晶粒子間の結晶粒界に、上記した第2の成分が存在することにより、セラミック多孔体10の焼結時に酸化セリウムの結晶粒界の焼結性が向上し、セラミック多孔体10を構成する3次元網目構造の強度が高まる。第2の成分は、アルミニウム(Al)の酸化物を含むことが望ましい。第2の成分であるマンガン(Mn)やコバルト(Co)や銅(Cu)の酸化物が、酸化セリウムの結晶粒界の焼結性を向上させる焼結促進剤となることは、例えば、X. Zhang et al., J. Power Sources 162, 480-485(2006) においても記載されている。
【0010】
セラミック多孔体10における第2の成分の含有量は、0.1質量%以上とすることが望ましく、0.5質量%以上とすることがより望ましく、1.0質量%以上とすることがさらに望ましい。このようにすることで、第2の成分を添加してセラミック多孔体10の焼結性を高める効果を確保し易くなる。また、セラミック多孔体10における第2の成分の含有量は、20.0質量%以下とすることが望ましく、17.0質量%以下とすることがより望ましく、12.0質量%以下とすることがさらに望ましい。このようにすることで、酸化セリウムを主成分とすることによる効果を確保しつつ、酸化セリウムの結晶粒界に第2の成分を適切に配置することが容易になる。
【0011】
セラミック多孔体10は、第2の成分に加えて、あるいは、第2の成分に替えて、主成分および第2の成分とは異なる第3の成分として、チタン(Ti)および鉄(Fe)のうちの少なくとも1種を含むこととしてもよい。このような第3の成分を添加することにより、セラミック多孔体10の焼結性が向上し、3次元網目構造の強度を高めることができる。
【0012】
図2は、酸化セリウムに第3の成分であるチタン(Ti)あるいは鉄(Fe)を加えたことによる効果を示す説明図である。ここでは、酸化セリウムを主成分とするセラミックに第3の成分を添加することによる影響を、ペレット状に成形したセラミックを作製することにより確認した。すなわち、酸化セリウムの粉末に対して、酸化チタン(TiO
2)、酸化鉄(FeO)、酸化カルシウム(CaO)のうちのいずれかを添加して作製した3種類の原料粉末と、酸化セリウムのみからなる原料粉末と、である4種類の原料粉末を用意して、各々の原料粉末を用いて酸化セリウムを主成分とするセラミックペレットを作製した。原料粉末における各第3の成分の混合量は、1.0質量%とした。各々の原料粉末を、直径10mmの金型を用いてハンドプレス成形した後、1400~1600℃の温度範囲で焼成することにより、セラミックペレットを作製した。各セラミックペレットの密度は、各セラミックペレットについてアルキメデス法に従って測定した比重を用いて、理論密度に対する割合として算出した。
【0013】
図2において、横軸は焼成温度を示し、縦軸は各セラミックペレットの密度を示す。
図2に示すように、酸化セリウムに対して第3の成分であるチタン(Ti)や鉄(Fe)を添加することにより、より低い焼成温度であってもより高い密度が得られ、酸化セリウムが焼結可能となる広い温度範囲にわたって焼結性が向上することが確認された。このように焼結性を向上させる効果を有することから、上記第3の成分を添加することにより、セラミック多孔体の強度を向上させることができると考えられる。
【0014】
図3は、上記した1.0質量%の酸化チタンを酸化セリウムに添加したセラミックペレットと、酸化セリウムのみからなるセラミックペレットとについて、X線回折法(X‐ray diffraction:XRD)による解析を行った結果を示す説明図である。ここでは、上記した各セラミックペレットを粉砕した粉末を用いて、粉末XRDを行った結果を示す。
図3から、酸化セリウムのピークが、酸化チタンの添加によりピークシフトすることが確認された。酸化鉄を添加したセラミックペレットにおいても同様の結果が得られた(データ示さず)。従って第3の成分は、酸化セリウムの結晶粒内に固溶することにより、酸化セリウムを主成分とするセラミックの焼結性を向上させると考えられる。
【0015】
セラミック多孔体10における第3の成分の含有量は、第3の成分の酸化物に換算したときに、0.1質量%以上とすることが望ましく、0.5質量%以上とすることがより望ましく、1.0質量%以上とすることがさらに望ましい。このようにすることで、第3の成分を添加してセラミック多孔体10の焼結性を高める効果を確保し易くなる。また、セラミック多孔体10における第3の成分の含有量は、第3の成分の酸化物に換算したときに、35.0質量%以下とすることが望ましく、30.0質量%以下とすることがより望ましく、25.0質量%以下とすることがさらに望ましい。このようにすることで、酸化セリウムを主成分とすることによる効果を確保しつつ、第3の成分を添加することに起因する望ましくない影響を抑えて、焼結性を高める効果を得ることができる。
【0016】
セラミック多孔体10の嵩密度は、0.4~3.0g/cm3であることが望ましい。セラミック多孔体10の嵩密度が0.4g/cm3未満であると、セラミック多孔体10の気孔率が高くなって強度不足となり、セラミック多孔体10の形状の維持およびセラミック多孔体10の作製が困難になる可能性がある。具体的には、例えばセラミック多孔体10全体を酸化セリウムで形成した場合には、セラミック多孔体10の嵩密度を0.4g/cm3未満にすると、セラミック多孔体10の気孔率が95%を超えることになる。また、セラミック多孔体10の嵩密度が3.0g/cm3を超えると、セラミック多孔体10の気孔率が低くなって、流路抵抗が高くなる影響が大きくなるため、上記範囲とすることが望ましい。
【0017】
セラミック多孔体10において、3次元網目構造におけるセル数は、5~50個/25.4mmであることが望ましい。ここで、セル数とは、単位長さ(25.4mm)の線分をセラミック多孔体10の切断面上で仮想したときに、この線分上に存在する気泡(セル)の数である。セラミック多孔体10におけるセル数が5個/25.4mm未満であると、セラミック多孔体10に形成される個々の気泡が大きくなって強度不足となり、セラミック多孔体10の形状の維持およびセラミック多孔体10の作製が困難になる可能性がある。また、セラミック多孔体10におけるセル数が50個/25.4mmを超えると、セラミック多孔体10に形成される個々の気泡が小さくなって、流路抵抗が高くなる影響が大きくなるため、上記範囲とすることが望ましい。
【0018】
B.セラミック多孔体の製造方法:
図4は、セラミック多孔体10の製造方法を表すフローチャートである。セラミック多孔体10を製造するには、まず、酸化セリウムを含有する原料粉末を用意する(工程T100)。そして、工程T100で用意した原料粉末に無機バインダを添加して、スラリを作製する(工程T110)。
【0019】
既述した第2の成分あるいは第3の成分を含むセラミック多孔体10を作製する場合には、工程T100において、酸化セリウムに加えて第2の成分や第3の成分を含む原料粉末を用意することにより、セラミック多孔体10に第2の成分あるいは第3の成分を添加することができる。具体的には、第2の成分を添加する場合には、第2の成分である金属酸化物の粉末、あるいは、第2の成分となり得る金属粉末や酸化物以外の金属化合物の粉末を、原料粉末に添加することができる。第3の成分を添加する場合には、第3の成分を含む金属化合物、あるいは、第3の成分から成る金属粉末を、原料粉末に添加することができる。また、第2の成分あるいは第3の成分を含むセラミック多孔体10を作製する場合には、セラミック多孔体10に添加する第2の成分や第3の成分の少なくとも一部は、工程T110において、無機バインダとして原料粉末に加えてもよい。
【0020】
無機バインダは、後述する焼成工程における焼成温度下において、バインダとしての機能を維持できる程度の耐熱性を有していればよい。無機バインダとしては、ガラス系バインダを用いることも可能であり、ガラス系バインダを用いることにより、より低い温度での焼成が可能になる。ただし、ガラス系バインダを用いる場合には、得られるセラミック多孔体10の耐熱温度が低下し易いため、セラミック多孔体10を比較的高い温度域で使用する場合には、金属酸化物系の無機バインダを用いることが望ましい。
【0021】
次に、工程T110で作製したスラリを用いて、樹脂製フォームをコーティングする(工程T120)。工程T120で用いる樹脂製フォームは、3次元的に連通した細孔を有する網目構造を有する多孔体であり、焼成の工程で焼失する樹脂材料によって形成されている。樹脂製フォームとしては、例えば、ポリウレタンフォームを用いることができる。セラミック多孔体10の3次元網目構造におけるセル数は、スラリのコーティング対象である樹脂製フォームのセル数によって定まる。そのため、工程T120では、例えば、3次元網目構造におけるセル数が5~50個/25.4mmである樹脂製フォームを用いることが望ましく、製造すべきセラミック多孔体10の気孔径に応じて、所望のセル数を有する樹脂製フォームを適宜選択すればよい。また、セラミック多孔体10の嵩密度は、工程T120において樹脂製フォームをコーティングするスラリ量により、調節することができる。
【0022】
その後、スラリでコーティングした樹脂製フォームを焼成し、樹脂製フォームを焼失させて(工程T130)、セラミック多孔体10を完成する。工程T130における焼成温度は、酸化セリウムが焼結可能な温度であればよく、例えば1400℃以上の温度とすることができる。
【0023】
以上のように構成された本実施形態のセラミック多孔体10によれば、機能性材料である酸化セリウムを主成分とするため、従来知られる3次元網目構造を有するセラミック多孔体では得られなかった性能を発揮するセラミック多孔体を、触媒担体や電極基材などの種々の用途に提供することができる。具体的には、例えば、酸化セリウムの酸化還元電位が1.61Vと非常に低く容易に価数変化するため、種々の反応を促進する用途に用いることができ、また、酸素を吸収・放出する機能を有することにより、触媒担体や電極基材として有用となる。
【0024】
酸化セリウムは、セラミック材料の中では比較的強度が低く、3次元網目構造に成形することが困難であった。本実施形態では、酸化セリウムを主成分とするスラリで樹脂製フォームをコーティングする際に、バインダとして、一般的に用いられる有機バインダよりも耐熱温度が高い無機バインダを用いている。そのため、より高い温度での焼成が可能になり、酸化セリウムを主成分とする材料を、より十分な強度を有する状態で良好に焼結させることができる。
【0025】
また、セラミック多孔体10において、主成分である酸化セリウムに加えて、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、銅(Cu)のうちの少なくとも1種の酸化物を第2の成分として添加することで、セラミック多孔体10の強度をさらに高めることができる。また、セラミック多孔体10において、主成分である酸化セリウムに加えて、チタン(Ti)および鉄(Fe)のうちの少なくとも1種を第3の成分として添加することで、セラミック多孔体10の強度をさらに高めることができる。
【実施例0026】
<3次元網目構造を有するサンプルの作製>
図5は、サンプルS1~S8の組成と、各サンプルについての測定結果を示す説明図である。以下に示すように、3次元網目構造を有すると共に種々の組成を有するセラミック多孔体のサンプルS1~S8を、
図4に示した製造方法に従って作製し、強度を比較した。サンプルS1~S8のセラミック多孔体は、工程T120において、樹脂製フォームとして、同様の気孔率および平均細孔径を有するポリウレタンフォームを用いた。
【0027】
[サンプルS1]
工程T100では、原料粉末として、酸化セリウム(CeO2)の粉末を用意した。工程T110では、無機バインダとしてアルミナ系バインダを用いてスラリを作製することにより、第2の成分である酸化アルミニウムを添加した。このとき、セラミック多孔体全体における酸化アルミニウムの含有量が3.5質量%となるように、アルミナ系バインダを添加した。工程T120における樹脂製フォームのコーティングを容易にするために、スラリに適宜水を追加して、スラリの粘度を調節した。樹脂製フォームをスラリでコーティングした後、60~100℃で乾燥させ、1500℃で焼成し(工程T130)、サンプルS1のセラミック多孔体を得た。
【0028】
[サンプルS2]
工程T110で用いたアルミナ系バインダの量を、セラミック多孔体全体における酸化アルミニウムの含有量が1.0質量%となるように変更したこと以外は、サンプルS1と同様にして、サンプルS2のセラミック多孔体を作製した。
【0029】
[サンプルS3]
工程T110で用いたアルミナ系バインダの量を、セラミック多孔体全体における酸化アルミニウムの含有量が10.0質量%となるように変更したこと以外は、サンプルS1と同様にして、サンプルS3のセラミック多孔体を作製した。
【0030】
[サンプルS4]
工程T100において、酸化セリウムに酸化鉄(FeO)を加えて原料粉末とすることで、第3の成分としての鉄を添加した。酸化鉄の添加量は、セラミック多孔体の構成材料全体における酸化鉄の添加量が0.5質量%になる量とした。また、工程T110で用いたアルミナ系バインダの量は、セラミック多孔体全体における酸化アルミニウムの含有量が3.8質量%となる量とした。上記以外の条件はサンプルS1と同様にして、サンプルS4のセラミック多孔体を作製した。
【0031】
[サンプルS5]
工程T100で原料粉末に加える酸化鉄の量を、セラミック多孔体全体における酸化鉄の含有量が1.0質量%となるように変更したこと以外は、サンプルS4と同様にして、サンプルS5のセラミック多孔体を作製した。
【0032】
[サンプルS6]
工程T100で原料粉末に加える酸化鉄の量を、セラミック多孔体全体における酸化鉄の含有量が20.0質量%となるように変更したこと以外は、サンプルS4と同様にして、サンプルS6のセラミック多孔体を作製した。
【0033】
[サンプルS7]
工程T100において、酸化セリウムに酸化チタン(TiO2)を加えて原料粉末とすることで、第3の成分としてのチタンを添加した。酸化チタンの添加量は、セラミック多孔体の構成材料全体における酸化チタンの含有量が1.0質量%になる量とした。上記以外の条件はサンプルS4と同様にして、サンプルS7のセラミック多孔体を作製した。
【0034】
[サンプルS8]
工程T110において、無機バインダとしてセリア系バインダを用いたこと以外は、サンプルS1と同様にして、サンプルS8のセラミック多孔体を作製した。
【0035】
<作製したサンプルの確認>
図5では、各サンプルの組成を、原料の混合割合に基づいて記載しているが、得られたセラミック多孔体を、誘導結合プラズマ質量分析法 (Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry;ICP-MS)で測定することにより、セラミック多孔体の組成が、材料の混合割合とずれがないことを確認した(データ示さず)。
【0036】
図6は、一例として、サンプルS1の断面の様子を示す説明図である。ここでは、サンプルS1を樹脂に埋め込んだ後に、研磨・琢磨し、サンプルの断面を走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)により撮影した。
図6に示すように、各サンプルにおけるセラミック多孔体の骨格において、アルミニウム(Al)が酸化セリウムの結晶粒界に存在することが確認された。
【0037】
図7は、一例として、サンプルS1について、エネルギ分散形X線分光器を搭載した走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)を用いて元素マッピングを行って得た像を示す説明図である。
図7(A)~
図7(C)は、同じ視野の観察像を示しており、
図7(A)はセリウム元素(Ce)の存在箇所を示し、
図7(B)はアルミニウム元素(Al)の存在箇所を示し、
図7(C)は酸素元素(O)の存在箇所を示す。
図7に示すように、セリウム元素が無いところにアルミニウム元素が存在し、セリウム元素とアルミニウム元素が存在するところには酸素元素が存在することから、セリウムとアルミニウムは、共に酸化物として存在することが確認された。すなわち、第2の成分であるアルミニウムは、酸化セリウムの結晶粒子間の粒界において、酸化アルミニウムとして存在することが確認された。
【0038】
<嵩密度の測定>
各サンプルの嵩密度は、各サンプルの外形の寸法と重量とを測定することにより算出した。
【0039】
<セル数の測定>
各サンプルのセル数は、各サンプルを樹脂に埋め込んだ後の断面の像において、単位長さ(25.4mm)の線分を任意の位置に設定し、この線分上にある気泡(セル)の数を測定した。
【0040】
<圧縮強度の測定>
各サンプルとして、一辺30mmの矩形のサンプルを用意し、上下面から圧縮した際の強度を、オートグラフにて測定した。具体的には、ストローク速度0.5mm/minにて圧縮した際に、破壊時の応力を特定することにより、圧縮強度を算出した。
【0041】
<評価結果>
図5に示すように、無機バインダを用いてスラリを作製することで、3次元網目構造を有するセラミック多孔体として十分な強度が得られることが確認された(サンプルS1~S8)。さらに、第2の成分である酸化アルミニウムを添加することで、圧縮強度をより高めることができた(サンプルS1~S3とサンプルS8との比較)。このとき、第2の成分である酸化アルミニウムの含有量を1.0質量%以上とすることで、圧縮強度を向上する高い効果が得られ、酸化アルミニウムの含有量を10.0質量%とすることで、圧縮強度がさらに向上することが確認された。また、第3成分である鉄(Fe)あるいはチタン(Ti)を添加することで、圧縮強度がさらに向上することが確認された(サンプルS4~S7)。このとき、第3の成分である鉄の含有量を、酸化鉄に換算したときに0.5質量%以上とすることで、圧縮強度を向上する高い効果が得られ、酸化鉄に換算したときに20質量%とすることで、圧縮強度がさらに向上することが確認された。
【0042】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0043】
本開示は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
連通気孔が形成された3次元網目構造を有するセラミック多孔体であって、
主成分が酸化セリウム(CeO2)である材料によって構成されていることを特徴とする
セラミック多孔体。
[適用例2]
適用例1に記載のセラミック多孔体であって、さらに、
第2の成分として、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、銅(Cu)のうちの少なくとも1種の酸化物を含み、
前記第2の成分は、前記セラミック多孔体を構成する酸化セリウム(CeO2)の結晶粒子間の結晶粒界に存在することを特徴とする
セラミック多孔体。
[適用例3]
適用例1または2に記載のセラミック多孔体であって、
前記第2の成分として、アルミニウム(Al)の酸化物を含み、
前記第2の成分の含有量が、1.0質量%以上であることを特徴とする
セラミック多孔体。
[適用例4]
適用例1から3までのいずれか一項に記載のセラミック多孔体であって、さらに、
第3の成分として、チタン(Ti)および鉄(Fe)のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする
セラミック多孔体。
[適用例5]
適用例1から4までのいずれか一項に記載のセラミック多孔体であって、
嵩密度が、0.4~3.0g/cm3であることを特徴とする
セラミック多孔体。
[適用例6]
適用例1から5までのいずれか一項に記載のセラミック多孔体であって、
前記3次元網目構造におけるセル数が、5~50個/25.4mmであることを特徴とする
セラミック多孔体。