(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180800
(43)【公開日】2023-12-21
(54)【発明の名称】銅線材の製造システムおよび製造方法
(51)【国際特許分類】
B21C 23/21 20060101AFI20231214BHJP
B21C 23/00 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B21C23/21 C
B21C23/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094399
(22)【出願日】2022-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002255
【氏名又は名称】SWCC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 一臣
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 雄太
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 暁
【テーマコード(参考)】
4E029
【Fターム(参考)】
4E029AA03
4E029AA07
4E029HC03
4E029HC04
4E029HC06
4E029HC08
4E029YA05
(57)【要約】
【課題】巻線用導体に適した銅線材を製造する。
【解決手段】銅線材の製造システム1では、ディップフォーミング法によるDIP材を供給する元巻きローラ2と、前記DIP材を洗浄する洗浄装置6と、前記DIP材をコンフォーム押出しするコンフォーム押出装置8とを備える。洗浄装置6では、前記DIP材の表面を超音波温水洗浄し、コンフォーム押出装置8では、コイニングロール圧を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディップフォーミング法によるDIP材を供給するサプライ装置と
前記DIP材を洗浄する洗浄装置と、
前記DIP材をコンフォーム押出しするコンフォーム押出装置とを備え、
前記洗浄装置では、前記DIP材の表面を超音波温水洗浄、水蒸気洗浄または水洗浄し、
前記コンフォーム押出装置では、コイニングロール圧を制御することを特徴とする銅線材の製造システム。
【請求項2】
請求項1に記載の銅線材の製造システムにおいて、
前記コンフォーム押出装置では、コイニングロール圧をコイニングロール圧下量で制御することを特徴とする銅線材の製造システム。
【請求項3】
ディップフォーミング法によるDIP材を準備する工程と
前記DIP材を洗浄する工程と、
前記DIP材をコンフォーム押出しする工程とを備え、
前記DIP材を洗浄する工程では、前記DIP材の表面を超音波温水洗浄、水蒸気洗浄または水洗浄し、
前記DIP材をコンフォーム押出しする工程では、コイニングロール圧を制御することを特徴とする銅線材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の銅線材の製造方法において、
前記DIP材をコンフォーム押出しする工程では、コイニングロール圧をコイニングロール圧下量で制御することを特徴とする銅線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅線材の製造システムおよび製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、無酸素銅の銅線材の代表例としてアップキャスト材やDIP材が知られている。「アップキャスト材」とは、溶銅を鋳型内で凝固させ上方に連続的に引き上げるアップキャスト法により製造される銅線材である。「DIP材」とは、溶銅をコアロッドの外周に連続的に凝固させるディップフォーミング法により製造される銅線材である。特許文献1-2では、アップキャスト材にコンフォーム押出しを施し、表面性状に優れかつ微細な結晶粒から構成される加工組織を実現しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-193450号公報
【特許文献2】特許第6233634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アップキャスト材を用いコンフォーム押出しを施しても、当該銅線材は、硬度(0.2%耐力の特性値)がやや高い傾向があり、コンフォーム押出し後の銅線材を巻線用導体として使用する場合、加工特性に影響が出る。
したがって本発明の主な目的は、柔軟で加工特性に優れる巻線用導体に適した銅線材の製造システムおよび製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
ディップフォーミング法によるDIP材を供給するサプライ装置と
前記DIP材を洗浄する洗浄装置と、
前記DIP材をコンフォーム押出しするコンフォーム押出装置とを備え、
前記洗浄装置では、前記DIP材の表面を超音波温水洗浄、水蒸気洗浄または水洗浄し、前記コンフォーム押出装置では、コイニングロール圧を制御することを特徴とする銅線材の製造システムが提供される。
【0006】
本発明の他の態様によれば、
ディップフォーミング法によるDIP材を準備する工程と
前記DIP材を洗浄する工程と、
前記DIP材をコンフォーム押出しする工程とを備え、
前記DIP材を洗浄する工程では、前記DIP材の表面を超音波温水洗浄、水蒸気洗浄または水洗浄し、前記DIP材をコンフォーム押出しする工程では、コイニングロール圧を制御することを特徴とする銅線材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、巻線用導体に適した銅線材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】銅線材の製造システムの概略構成を示す図である。
【
図2】コンフォーム押出装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態にかかる銅線材およびその製造方法について説明する。本明細書では、数値範囲を示す「~」の記載に関し下限値および上限値はその数値範囲に含まれる。
【0010】
[銅線材]
(1)組成
銅線材の構成材料は無酸素銅である。
「無酸素銅」とは、Cuを99.96質量%以上含有し、残部が不可避不純物から構成される銅であって、不可避不純物の合計含有量は好ましくは0.03質量%以下である。無酸素銅中の酸素含有量は少ないほど導電性に優れることから、0.001質量%(10質量ppm)以下、好ましくは0.0005質量%以下(5質量ppm以下)である。
【0011】
(2)形状
銅線材は、コンフォーム押出しにより成形可能な種々の断面形状をとりうる。
たとえば、断面が円形状の丸線では、押出時の加工性に優れて、表面性状や形状精度、寸法精度に優れる銅線材となり易い。その他、断面が矩形状の銅線材、特に長方形などのアスペクト比(長径と短径との比、長径/短径)が10以下の矩形状の銅線材や、正方形などのアスペクト比が1に近い矩形状の銅線材、断面が多角形状、楕円状などの異形の銅線材となりうる。
【0012】
(3)サイズ
銅線材は種々の大きさをとりうる。
たとえば、銅線材の一例として、断面積が4~150mm2程度であるものが挙げられる。銅線材が丸線の場合には、たとえば、線径(直径)が3~13mm程度であるものが挙げられる。銅線材が矩形状である場合には、たとえば、厚さ1~8mm程度、幅5~35mm程度であるものが挙げられる。
本実施形態にかかる銅線材は、伸びが高く加工性に優れるため、たとえば、伸線加工を施すことなく圧延加工を施して平角線などの異形線材を製造可能である。そのため、上記の範囲の断面積を有する銅線材を利用することで、断面積が大きな平角線などの異形線材を製造することができる。本実施形態にかかる銅線材は、断面積が100mm2以下、さらには90mm2といった大きさでも、軟化処理といった熱処理を別途施すことなく高い伸びを有する。
【0013】
(4)導電率
銅線材は無酸素銅で構成され高い導電率を有している。導電率は100%IACS以上であり、好ましくは101%IACS以上である。
【0014】
(5)機械的特性
銅線材はいわゆる膨れ現象が抑制され表面性状に優れる上に、機械的特性にも優れている。特に本実施形態の銅線材は室温における0.2%耐力に優れ、たとえば断面が2mm×5mmの矩形状では0.2%耐力が55~65MPaであり、断面が3mm×12mmの矩形状では0.2%耐力が60~70MPaであり、無酸素銅のアップキャスト材をコンフォーム押出しした場合に比較し、柔らかい傾向を有している。
本実施形態の銅線材はかかる機械的特性を有するが故に厳しい曲げ加工にも適している。
【0015】
[銅線材の製造システム、コンフォーム押出装置および銅線材の製造方法]
(1)銅線材の製造システム
図1は銅線材の製造システム1の概略構成を示す図である。
図1に示すとおり、銅線材の製造システム1は銅線材のいわゆる製造ラインであって、元巻きローラ2、矯正装置4、洗浄装置6、コンフォーム押出装置8および巻取りローラ10を有しており、これらが銅線材の搬送方向に沿ってこの順に配置されている。
元巻きローラ2には押出処理に供される銅線材が巻回されている。当該銅線材はいわゆる母材であって油分が残渣として表面に付着している。元巻きローラ2は矯正装置4以後の各装置に銅線材を供給するためのサプライ装置である。矯正装置4は銅線材の直線性を向上させる装置である。洗浄装置6には超音波洗浄機能が具備され、洗浄装置6は銅線材の表面を洗浄するようになっている。洗浄装置6は超音波洗浄機能に代えて蒸気洗浄または単なる水洗浄機能を具備するものであってもよい。コンフォーム押出装置8はホイール、シューおよびアバットメントによる空間に銅線材を導入しダイスで押し出す装置である。巻取りローラ10は銅線材を巻き取る装置である。
銅線材の製造システム1では、銅線材が、元巻きローラ2から繰り出され、その後は矯正装置4で直線状に矯正され、洗浄装置6で表面洗浄され、コンフォーム押出装置8で強制的に押し出され、巻取りローラ10で巻き取られる。
【0016】
(2)コンフォーム押出装置
図2はコンフォーム押出装置20の概略構成を示す図である。
図2に示すとおり、コンフォーム押出装置20は回転可能に支持された円盤状のホイール22を有しており、ホイール22の周面には円環状の凹溝が形成されている。ホイール22の外側にはホイール22の周方向に沿って凹溝の一部を覆うシュー24が設置されており、凹溝の開口部のうち当該一部を覆う蓋として機能している。シュー24の内部にはアバットメント26およびダイスチャンバ28が設置されている。ホイール22の凹溝のうちシュー24で覆われた領域の所定の位置にはアバットメント26が設置され、ダイスチャンバ28にはダイス30が収納されている。
【0017】
コンフォーム押出装置20では、ホイール22の凹溝、シュー24およびアバットメント26で囲まれる空間に押出素材(鋳造材)を導入し、その空間に溜まった材料を、ダイス30を通して押し出すようになっている。
具体的には回転するホイール22の凹溝に、押出素材を挿入すると、ホイール22と押出素材との間の摩擦力によって、押出素材が上述の空間に順次引き込まれる。ホイール22の回転速度は好ましくは8~10rpmである。上記空間に引き込まれた押出素材は、凹溝とシュー24とアバットメント26とによって実質的に閉塞されるため、押出圧力が発生する。この押出圧力によって、ダイスチャンバ28の材料溜まり箇所(凹溝とアバットメント26とダイス30とに囲まれた箇所)に押出素材の構成材料が流れ込み、流れ込んだ材料をダイス30によって所望の形状に成形して押し出し、押出線材を製造することができる。押出時には、ホイール22の周面とアバットメント26における周面との対向面との間から屑(バリ)32が排出される。
【0018】
なお、アバットメント26は、凹溝の内周形状に概ね対応した外周形状を有する凸部と、凸部に一体に成形された台座部とを備えている(図示略)。
凸部は、上述のようにホイール22の凹溝の周方向の一部を堰き止めるように嵌め込まれる。凸部を凹溝に嵌め込んだ状態で凸部の先端およびその近傍と凹溝の底部およびその近傍との間にU字状の隙間が設けられるように、凸部は、凹溝の一部を堰き止める。この隙間には、押出時、押出素材の一部が常時充填された状態となり、余剰が上述の屑32として排出される。
台座部における一面、具体的には凸部の根元から台座部の側縁まで延びる対向面がホイール22の周面に対向するように、凸部が配置される。
【0019】
押出素材は、押出時の摩擦熱や変形熱により発熱する。従って、別途、加熱手段を使用しなくても自動的に高温状態(たとえば、300℃以上)にできる。高温となることで、押出素材の塑性加工性(押出性)を高められ、連続した押出が可能である。冷却手段や加熱手段を別途用意して、ダイスチャンバ28(ダイス30)の温度を調整すれば、所望の押出状態とすることができる。
【0020】
コンフォーム押出装置20では上記のとおり、ホイール22の凹溝、シュー24およびアバットメント26で囲まれる空間に押出素材(鋳造材)を導入するところ、押出素材の当該空間への導入直前でコイニングロール圧を制御するようになっている。
具体的には
図2に示すとおり、コンフォーム押出装置20のホイール22の凹溝の対向する部分には昇降自在のコイニングロール34が設置され、コイニングロール34の圧下量を制御可能となっている。
【0021】
(3)銅線材の製造方法
銅線材の製造方法では銅線材の製造システム1を利用する。
はじめに、銅線材をディップフォーミング法によるDIP材を準備し、当該DIP材を、元巻き装置2から繰り出しながら以後の装置に供給し、矯正装置4、洗浄装置6およびコンフォーム押出装置8を介して巻取り装置10で巻き取る。
この間、DIP材を矯正装置4で直線状に矯正する。
その後、DIP材の表面を洗浄装置6で洗浄し表面の残渣を除去する。
当該洗浄工程では特にDIP材の表面を好ましくは超音波温水洗浄する。
その後、DIP材をコンフォーム押出装置8でコンフォーム押出しする。
当該コンフォーム押出工程ではコイニングロール圧を制御する。コイニングロール圧の制御は、コイニングロール34を保持する保持部材(図示略)の高さを調整することで実現することができ、当該保持部材の高さを通常設定高さに対し好ましくは+3mm、より好ましくは+1~+3mmに設定する。たとえば、当該保持部材の高さを+3mmに設定するとコイニングロール圧が高く(コイニング圧下量が大きく)、当該保持部材の高さを+5mmに設定するとコイニングロール圧が低い(コイニング圧下量が小さい)。
【0022】
コンフォーム押出工程では、ホイール22とダイスチャンバ28(アバットメント26)との間につくられる隙間(シューギャップg)を特定の範囲とする。
シューギャップgは、ホイール22の周面(凹溝の開口縁からホイール22の周縁まで延びる面)と、アバットメント26における周面との対向面との間の隙間をいい、0.50mm超1.30mm未満とする。
シューギャップgをこの範囲とすることで、後述する実施例に示すように、膨れ現象などの欠陥が少なく、表面性状に優れる押出線材を製造できる。更に当該押出線材に伸線加工及び圧延加工を施して、平角状の巻線用導体(平角線)を製造した場合、この巻線用導体は、膨れ現象などの欠陥が少なく、表面性状に優れる。
シューギャップgを0.50mm超とすることで、押出素材を拘束する押出圧力が緩和されて異物を巻き込み難くなり、異物を屑32として十分に排出できて異物層を形成し難くなる結果、異物に起因した膨れ現象が生じ難くなると考えられる。いわば、異物の排出経路を十分に確保できる。
一方、シューギャップgを1.30mm未満とすることで、押出素材を適切に拘束して押出可能になって異物を巻き込み難くなり、異物層を形成し難くなる結果、膨れ現象が生じ難くなると考えられる。
シューギャップgは0.75mm以上1.25mm以下、更に0.80mm以上1.20mm以下、0.85mm以上1.15mm以下が好ましい。シューギャップgの調整は、例えば、シュー24に設けられてアバットメント26の台座部を収納する収納部と台座部との間に配置する調整部材の厚みを調整することで容易に行える。調整部材は、例えば、板材などであり、板材の枚数を変更することで、調整部材の厚みを調整できる。
【0023】
押出速度やダイスチャンバ28の温度は、押出素材(鋳造材)および押出線材の大きさなどに応じて適宜選択できる。たとえば、押出速度(m/min)は、7m/min以上、9m/min以上、更に11m/min以上が挙げられる。ダイスチャンバ28の温度は、加熱手段や冷却手段を別途備えることで調整でき、例えば、250℃以上450℃以下、更に300℃以上400℃以下が挙げられる。
【0024】
以上の本実施形態によれば、DIP材の表面を超音波温水洗浄し、コンフォーム押出しする工程でコイニングロール圧を一定に制御するため、膨れ現象を抑制しながら巻線用導体に適した銅線材を製造することができる(下記実施例参照)。
【実施例0025】
(1)サンプルの作製
直径11~12mm程度の断面円形の無酸素銅のアップキャスト材とDIP材とをそれぞれ準備し、
図1の製造システムおよび
図2のコンフォーム押出装置を使用し、当該アップキャスト材および当該DIP材を断面矩形で表1に記載のサイズにコンフォーム押出しした。
ここでは併せてコンフォーム押出装置のコイニングロール圧を制御した(コイニングロールの保持部材の高さを+5mmまたは+3mmに設定した)。
【0026】
(2)サンプルの評価
JIS Z 2241に準じて試験片を作製し0.2%耐力を測定した。測定は市販の引張試験機を用いた。ここでは、標点距離GL=250mmとした。
併せてサンプルの外観を観察して膨れ現象の有無を確認した。
測定結果および観察結果を表1に示す。
【0027】
【0028】
(3)まとめ
表1に示すとおり、サンプル1、3とサンプル2、4とを比較すると、アップキャスト材では膨れ現象はないものの0.2%耐力の値が高かった。他方、DIP材は0.2%耐力の値が低く柔らかく、コイニングロール圧を制御すると膨れ現象が改善された。
以上から、巻線用導体に適した銅線材を製造するには、洗浄工程でDIP材の表面を超音波温水洗浄しかつコンフォーム押出工程でコイニングロール圧を一定に制御することが有用であることがわかった。